【解決手段】伝導帯の下端電位が+0.10V未満であり、かつ、価電子帯の上端電位が+1.50Vを超える化合物を含有し、炭化水素、及び、酸素とを含有する原料気体と接触させ、光照射することによって、炭化水素を部分酸化して含酸素有機化合物を生成するために使用される、光触媒材料。反応容器11内に配置された光触媒材料12に、炭化水素、及び、酸素を含有する原料気体を接触させる工程Aと、原料気体と接触した光触媒材料12に光照射し、炭化水素を部分酸化して含酸素有機化合物を得る工程Bと、を有する、含酸素有機化合物の製造方法。
工程A、又は、工程Bの前に、更に、前記反応容器内に水を導入し、前記反応容器内に導入した前記水の量により、前記工程Bにおいて得られる前記含酸素有機化合物の種類を制御する工程Cを有する、請求項4に記載の含酸素有機化合物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0023】
[光触媒材料]
本発明の実施形態に係る光触媒材料は、伝導帯の下端電位が+0.10V未満であり、かつ、価電子帯の上端電位が+1.50Vを超える化合物を含有し、炭化水素、及び、酸素とを含有する原料気体と接触させ、光照射することによって、上記炭化水素を部分酸化して含酸素有機化合物を生成するために使用される、光触媒材料である。
【0024】
上記光触媒材料により本発明の効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下に説明する機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の課題が解決される場合であっても本発明の範囲に含まれるものとする。
【0025】
本発明者らは、光照射することで、炭化水素が活性化すること、及び、一部の金属酸化物表面の格子酸素原子がより脱離しやすくなり、炭化水素の吸着特性、及び、反応特性が増すことを知見し、光触媒材料の酸化力の強さ、及び、生成電子の酸素還元能力に着目して鋭意研究を行ってきた。
【0026】
一般に、光触媒反応は、光触媒作用を有する物質のバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光が照射されることによって起こる。すなわち、光照射により、光触媒作用を有する物質の価電子帯の電子が伝導帯へ励起され、伝導帯、及び、価電子帯にそれぞれ電子とホールとが生成される。この電子とホールが酸素や水と反応し、及び/又は、直接、化学物質と反応し、光触媒反応が進む。
【0027】
炭化水素を部分酸化して、含酸素有機化合物を生成させるためには、酸化反応は起こるものの、強すぎない(完全酸化に至らない)ことが必要である。
具体的には、水が酸化されて生成するOHラジカル、酸素が還元されて生成するOOHラジカル、及び、スーパーオキサイドラジカル・O
2−からなる群より選択される少なくとも1種の酸化力が、炭化水素を二酸化炭素にまで完全酸化することなく、部分酸化に留まるほどの適度な酸化力であることが必要である。
このようなラジカルを生成するためには、光触媒の伝導帯の下端電位が酸素1電子還元ポテンシャルと同等、又は、それよりもネガチブなポテンシャル、すなわち、+0.10V未満であればよい。
【0028】
一方、上端電位が+1.50Vを超えると、水からの酸素生成準位よりも価電子帯の上端電位がより大きくなり、オーバーポテンシャルを考慮しても、光触媒材料が優れた安定性を有する。
以下では、上記光触媒材料が含有する各成分について詳述する。
【0029】
〔特定化合物〕
本発明の実施形態に係る光触媒材料は、伝導帯の下端電位が+0.10V未満であり、かつ、価電子帯の上端電位が+1.50Vを超える化合物(以下、「特定化合物」ともいう。)を含有する。
光触媒材料における特定化合物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する光触媒材料が得られる点で、一般に光触媒材料の全質量に対して、0.001〜99.9質量%が好ましい。なお、光触媒材料は、特定化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。光触媒材料が、2種以上の特定化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0030】
本明細書において、特定化合物の伝導帯の下端電位、及び、価電子帯の上端電位は、以下の文献(Y. Xu et al., American Mineralogist, 85 (2000) 543-556.)に記載されている方法に基づいて算出することができる。
具体的には、以下の式;
(伝導帯の下端電位(V))=(特定化合物の電気陰性度)−0.5Eg−Eo
から算出できる。なお、Egは光触媒のバンドギャップ、Eoは真空準位と標準水素生成準位との差で、本明細書においては4.50と定義する。
また、特定化合物の電気陰性度は、特定化合物の組成元素の組成比に準じた相乗平均から計算することができる。仮に特定化合物の組成がMOxという金属酸化物ならその電気陰性度は各元素のMulliken電気陰性度χを利用して、以下の式;
【0032】
と計算できる。各元素のMulliken電気陰性度は第一イオン化エネルギーと電子親和力の平均の値であり、第一イオン化エネルギーと電子親和力の値はヒューイ著、無機化学(上)、東京化学同人(1984)の値を利用するものとする。
【0033】
また、価電子帯の上端の電位は、以下の式;
(価電子帯の上端電位(V))=(バンドギャップに相当する電位)+(伝導帯の下端電位)
から計算できる。
なお、本明細書において、伝導帯の下端電位、及び、価電子帯の上端電位は、上記の方法によって小数第3位を四捨五入し、小数第2位までの数値として定義される。また、単位は上記のとおり「V」である。
【0034】
特定化合物としては、伝導帯の下端電位、及び、価電子帯の上端電位が上記の数値範囲内であれば特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する光触媒材料が得られる点で、半導体であることが好ましく、酸化亜鉛、酸化チタン、亜鉛複合金属酸化物、及び、チタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、酸化亜鉛、及び、酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0035】
特定化合物としては、特に制限されないが、結晶性がよいことが好ましい。
特定化合物の結晶性がよい場合、光触媒材料の欠陥もより少なくなり、電子とホールとの再結合をより抑制し、結果としてより効率よく触媒反応が進みやすい。
【0036】
〔その他の成分〕
本発明の実施形態に係る光触媒材料は、本発明の効果を奏する範囲内において、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては特に制限されないが、助触媒、担体、及び、バインダ等が挙げられる。
【0037】
<助触媒>
本発明の実施形態に係る光触媒材料は、助触媒を含有していてもよい。助触媒は、部分酸化反応を促進する効果を有し、結果としてより優れた本発明の効果を有する光触媒材料が得られる。
【0038】
本発明の実施形態に係る光触媒材料が助触媒を含有する場合、光触媒材料中における助触媒の含有量としては特に制限されないが、光触媒材料中に含有される特定化合物の含有量に対する、助触媒の含有量の含有質量比(百分率)が、0.001〜10質量%であることが好ましく、0.01〜5質量%であることがより好ましい。
なお、光触媒材料は、助触媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。光触媒材料が、2種以上の助触媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0039】
助触媒としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する光触媒材料が得られる点で、Au、Pt、Rh、Cu、Ag、及び、Pdからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、より多くの含酸素有機化合物が得られる点では、Pt、Au、及び、Pdからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、Pt、及び、Pdからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
また、助触媒を用いない場合よりもより多くの含酸素有機化合物が得られ、かつ、生成物中における含酸素有機化合物の含有量(後述する方法により計算される選択率)がより高くなる点からは、Ag、Au、及び、Pdからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、Ag、及び、Auからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0040】
本発明の実施形態に係る光触媒材料が助触媒を含有する場合、すでに説明した特定化合物と助触媒とが接触していることが好ましく、上記特定化合物に助触媒が固定されている(担持されている)ことがより好ましい。
助触媒が特定化合物に担持されていると、特定化合物表面に生成した電子又はホールが助触媒表面に拡散し、助触媒を担持しない(含有しない)場合に比べて、電子とホールとの物理的な距離(位置)関係が遠くなり、より再結合されにくくなるため、結果としてより優れた本発明の効果を有する光触媒材料が得られるものと推測される。
また、助触媒を含有する光触媒材料によれば、吸着した炭化水素の炭素―炭素間、又は、炭素―水素間の結合を弱めたりすることが推測され、結果として、炭化水素からの水素引き抜き、及び、炭化水素ラジカルの生成が促進され、より効率的に炭化水素の部分酸化反応を進めることができるものと推測される。
【0041】
また、助触媒がAu、Pt、Rh、Cu、Ag、及び、Pdからなる群より選択される少なくとも1種であると、上記の再結合の抑制に加え、助触媒自身が炭化水素(飽和炭化水素、及び、不飽和炭化水素)、並びに、酸素に対してより優れた吸着特性を有するため、結果として、より効率よく含酸素有機化合物を生成可能である。
【0042】
<担体>
本発明の実施形態に係る光触媒材料は、担体を含有していてもよい。光触媒材料が担体を含有する形態としては特に制限されないが、特定化合物が、上記担体に担持された、特定化合物担持担体が挙げられる。
【0043】
担体としては特に制限されず、公知の担体が使用可能である。担体としては、大きな比表面積を有していることが好ましく、より具体的には、珪藻土、ゼオライト、シリカ、ガラス、及び、活性炭等が挙げられる。
【0044】
光触媒材料中における担体の含有量としては特に制限されず、用途に応じて適宜選択すればよいが、光触媒材料の全質量に対して、5〜95質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%が更に好ましい。
【0045】
<バインダ>
本発明の実施形態に係る光触媒材料は、バインダを含有してもよい。バインダは、光触媒材料を被着体(基材)に固定する機能を有する。特に、本発明の光触媒材料は、室温、又は、室温近傍にて光触媒作用を有する特定化合物を含有するため、光触媒反応を高温下で実施する必要はない。
上記の点で、バインダとしては、有機化合物を用いることもできる。
【0046】
〔光触媒材料の形態〕
本発明の実施形態に係る光触媒材料の形態としては特に制限されず粉末(粒子)状であってもよいし、ペレット状(典型的には粉末を成形して得られる)であってもよいし、平板状であってもよいし、曲面を有する3次元形状であってもよい。また、すでに説明したとおり、担体と、担体に担持された特定化合物(更に、特定化合物に助触媒が担持されていてもよい)とを有する特定化合物担持担体粒子であってもよい。
また、スパッタリング、及び/又は、パルスレーザーディポジション等によって基材(例えば、ハニカム構造体等)上に薄膜として形成されたものであってもよい。
基材の大きさ(及び、薄膜である場合は厚み)としては特に制限されず、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0047】
〔光触媒材料の製造方法〕
本発明の実施形態に係る光触媒材料の製造方法としては特に制限されず、公知の方法が適用できる。例えば、金属アルコキシド、及び、金属塩等の前駆体化合物(助触媒の前駆体化合物を含有してもよい)を加熱して加水分解させ、特定化合物(及び、助触媒)を合成する方法が挙げられる。
また、得られた光触媒材料は、ボールミル等の公知の方法により粉砕し、必要に応じて分級して用いてもよい。
【0048】
〔光触媒材料の用途〕
上記光触媒材料は、室温で、太陽光を照射した場合でも、炭化水素を部分酸化して含酸素有機化合物を生成できる。すなわち、より低温条件で、かつ、太陽光を用いて、炭化水素を原料としてより付加価値の高い含酸素有機化合物を生成するために使用できる。
また、光触媒材料と他の材料と組み合わせ、Z−スキーム反応を利用して含酸素有機化合物を作製してもよい。更に、短時間で含酸素有機化合物を合成できるため、反応容器は流通式の反応容器であっても、静置型の反応容器であっても十分に反応を行うことができる。反応を行う際には、光触媒は粉末のまま利用してもよいし、基板などの一面に塗布し、塗布膜としても利用できる。
【0049】
[含酸素有機化合物の製造方法]
本発明の実施形態に係る含酸素有機化合物の製造方法は、反応容器内に配置された光触媒材料に、炭化水素、及び、酸素を含有する原料気体を接触させる工程Aと、
上記原料気体と接触した上記光触媒材料に、光照射し、上記炭化水素を部分酸化して含酸素有機化合物を得る工程Bと、を有する、含酸素有機化合物の製造方法である。
【0050】
また、本発明の実施形態に係る含有機化合物の製造方法は、更に、工程A、又は、工程Bの前に、反応容器内に水を導入し、反応容器内に導入した水の量により、工程Bにおいて得られる含酸素有機化合物の種類を制御する工程Cを有していてもよい。
【0051】
図1は、上記製造方法により含酸素有機化合物を製造するための製造装置の模式図である。以下では
図1を用いて各工程について詳述する。
【0052】
図1において、製造装置10は、反応容器11と、反応容器内に収納された光触媒材料12、及び、水13とを有する。
なお、製造装置10は反応容器11中に、後述する工程Cにおいて導入された水13を有しているが、工程Cを有さない場合には、反応容器11内に、水13を有していなくてもよい。
【0053】
(工程A)
工程Aは、触媒材料を、炭化水素、及び、酸素を含有する原料気体と接触させる工程である。
図1の製造装置10においては、原料気体を例えば、反応容器11の入り口から、反応容器内に加圧又は無加圧で導入(
図1中、「A」でフローを示した)、反応容器内の光触媒材料12と接触させればよい。
【0054】
この時、原料気体を加圧して導入すると、原料気体が触媒12とより接触しやすく、及び/又は、水13により溶解しやすく、より高効率で含酸素有機化合物を製造可能である。
なお、本明細書において、「加圧」とは、反応容器11内における、炭化水素(2種以上の炭化水素を含有する場合には、その分圧の合計)、及び、酸素の分圧の合計が、0.1MPa以上であることをいい、0.1MPaを超えることが好ましい。
すなわち、本発明の実施形態に係る光触媒材料は、加圧状態にある原料気体と接触させて使用されることが好ましい。
【0055】
また、反応容器内を加圧することで炭化水素、及び、酸素が水中に溶け込みやすくなり、それに加えて光照射することで、炭化水素が活性化し、更に、一部の光触媒材料中の特定化合物が酸素原子を有する場合、表面の格子酸素原子がより脱離しやすくなり、炭化水素の吸着特性、及び、反応特性が増すと推測される。
【0056】
炭化水素、及び、酸素の反応容器内における分圧としては特に制限されないが、一般に、0.001MPa以上が好ましく、0.01MPa以上がより好ましく、0.1MPaを超えるのが更に好ましい。なお、上限としては特に制限されないが。10MPa以下が好ましい。
【0057】
また、反応容器内の圧力としては、特に制限されないが、一般に、0.1MPa以上が好ましく、0.1MPaを超えることがより好ましく、0.2MPa以上が更に好ましい。上限としては特に制限されないが、10MPa以下が好ましく、3MPa以下がより好ましい。
【0058】
原料気体としては、炭化水素、及び、酸素を含有していれば特に制限されないが、本発明の効果を奏する範囲内において他の気体を含有していてもよい。他の気体としては、例えば、窒素、二酸化炭素、水蒸気、及び、空気等が挙げられる。
【0059】
反応容器内に原料気体を導入する際、原料気体の温度としては特に制限されないが、0〜500℃が好ましく、15〜300℃がより好ましく、20〜150℃が更に好ましい。
【0060】
(工程B)
工程Bは、上記原料気体と接触した上記光触媒材料に、光照射し、上記炭化水素を部分酸化して含酸素有機化合物を得る工程Bである。
照射される光(
図1中、「hν」と示した。)としては特に制限されず、波長250〜1100nmの光が好ましく、300〜800nmがより好ましく、300〜500nmが更に好ましい。
図1の製造装置10においては、反応容器11の外側から光照射しており、反応容器11は上記波長範囲の光を透過するよう構成されている。なお、本明細書において、所定の波長範囲の光を透過するとは、所定の波長範囲における透過率の平均が60%以上であることを意味し、80%以上が好ましい。
【0061】
反応容器11の材質としては特に制限されないが、上記波長範囲の光を透過するような材質であることが好ましく、反応容器11の全部又は一部がガラス、及び、透明樹脂からなる群より選択される少なくとも一方であることが好ましい。反応容器11の一部がガラス、及び、透明樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である形態としては、典型的には、反応容器11が蓋つき反応容器である場合に蓋部が上記材質である形態が挙げられる。
【0062】
炭化水素を部分酸化して得られる含酸素有機化合物としては特に制限されないが、例えば、分子内に少なくとも1つのヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、及び、アシル基からなる群より選択される少なくとも1種を有している有機化合物が挙げられる。
【0063】
上記の様な有機化合物としては、例えば、アルコール類、カルボン酸類、及び、アルデヒド類、ケトン類等が挙げられる。
【0064】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ペンタノール、及び、エチレングリコール等が挙げられる。
カルボン酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アクリル酸、及び、安息香酸等が挙げられる。
アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、アクロレイン、及び、ベンズアルデヒド等が挙げられる。
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、及び、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0065】
炭化水素を部分酸化して含酸素有機化合物を得る際の反応容器内の温度としては特に制限されないが、0〜500℃であることが好ましく、15〜300℃がより好ましく、20〜150℃が更に好ましい。
【0066】
工程Bにおいて発生した含酸素有機化合物は、気相(B
1)、及び/又は、液相(B
2)から回収される。
【0067】
(工程C)
工程Cは、工程A、又は、工程Bの前に、反応容器内に水を導入し、反応容器内に導入した水の量により、工程Bにおいて得られる含酸素有機化合物の種類を制御する工程である。
【0068】
反応容器中における水の含有量としては特に制限されないが、一般に、用いる触媒の含有量に対して、質量基準で100〜100000倍が好ましい。反応容器中における上記水の量を制御することにより、生成物中における含酸素有機化合物の種類を制御できる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0070】
(実施例1)
炭化水素の部分酸化の実験を次の通りに行った。
10mgの酸化チタン(TiO
2)粉末(光触媒材料1)を100mLの純水に懸濁させ、その懸濁液をバッチ型反応容器に入れ、上記反応容器を密閉した後、1気圧の酸素と10気圧のメタンガスを上記反応容器に導入した。
次に、300Wのキセノンランプとガラスフィルターとを利用して、300〜500nmの波長の光を上記反応容器に照射した。実験は、
図1に模式的に示した製造装置を用いて実施した。
照射される光量は100mWcm
−2に調整し、反応容器を水冷することで反応容器内の温度は約25℃に保った。反応で生成した気体は熱伝導度型検出器(TCD)と水素炎イオン化型検出器(FID)が付属したガスクロマトグラフで測定し、液体は核磁気共鳴装置(NMR)及び高速液体クロマトグラフで分析した。
【0071】
光照射1時間後、反応容器の気相中には原料のメタン、及び、酸素以外に二酸化炭素の生成が確認された。結果を表1に示した。
メタンが酸化されてできた二酸化炭素は分子内に酸素原子を含むが、無機物であるため本明細書における含酸素有機化合物には該当しない。
一方、液相には含酸素有機化合物であるホルムアルデヒドのみが合成されていることがわかった。原料以外に液相にはホルムアルデヒドしか存在しないので、ホルムアルデヒドをより単離しやすい反応であるともいえる。
【0072】
(実施例2)
酸化チタン粉末に代えて、酸化亜鉛(ZnO)粉末(光触媒材料2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、活性を評価した。光照射1時間後、気相中には二酸化炭素のみが生成し、液相には15.6μmolのホルムアルデヒドの生成していることが確認された。結果を表1に示した。
この反応での生成物は二酸化炭素とホルムアルデヒドとであり、生成物中の生成したホルムアルデヒドの割合、ホルムアルデヒド選択率は98.7%と非常に高いこともわかった。
【0073】
なお、ホルムアルデヒド選択率は、
(ホルムアルデヒド選択率)=(ホルムアルデヒド生成量)/(反応によって生成した全生成物の全生成量)×100(%)と定義した。
【0074】
(比較例1)
光触媒材料1に代えて0.2gの酸化タングステン(WO
3)粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして活性を評価した。光照射1時間後、気相中にわずかな量の二酸化炭素(含酸素有機化合物に該当しない)が検出されたが、液相中には生成物が確認されなかった。結果を表1に示した。
【0075】
(比較例2)
光触媒材料1に代えてカーボンナイトライド(C
3N
4)粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして活性を評価した。しかし、気相中にも液相中にも生成物が検出されなかった。結果を表1に示した。
【0076】
一般に、光照射することで水から酸素を生成したり、アルコール等の有機物を酸化分解できるたりする特性を持つことが知られている酸化タングステン、及び、水を還元して水素を生成できることが知られているカーボンナイトライドを含有する材料用いても、本願所望の効果は得られなかった。
上記の結果は、水から酸素を生成する反応、有機物を酸化する反応を触媒する化合物であっても、本願所望の効果を有するとは限らないことを示している。
一方で、光触媒材料1、及び、光触媒材料2は、いずれも本願所望の効果を有していた。
【0077】
(実施例3:助触媒Pt担持)
酸化亜鉛に対して0.1質量%のPtを担持した光触媒材料3(0.1%Pt/ZnO)を準備した。光触媒材料2に代えて、光触媒材料3を用いたこと以外は実施例2と同様にして、活性を評価した。
光照射1時間後、気相中には二酸化炭素が生成していた。一方、液相にはホルムアルデヒドが生成していた。
このとき、ホルムアルデヒドの生成量は63.6μmolであり、実施例2のPtを担持していない酸化亜鉛に比べて増大した(表1)。これは、Ptを担持したことで、酸化亜鉛表面に生成した電子がPt側に遷移し、電荷分離が向上した、及び、Ptの吸着特性により活性が向上した結果だと推測される。
このように、Pt助触媒の担持は活性を向上させるのに有力な方法であることが明らかとなった。結果を表1に示した。
【0078】
(実施例4:助触媒Pd担持)
酸化亜鉛に対して0.1質量%のPdを担持した光触媒材料4(0.1%Pd/ZnO)を準備した。光触媒材料2に代えて、光触媒材料4を用いたこと以外は実施例2と同様にして、活性を評価した。
光照射1時間後、液相にはホルムアルデヒドが51.6μmol生成しており、パラジウムも助触媒として有効に作用することがわかった。結果を表1に示した。
【0079】
(実施例5)
酸化亜鉛に対して0.1質量%のAuを担持した光触媒材料5(0.1%Au/ZnO)を準備した。光触媒材料2に代えて、光触媒材料5を用いたこと以外は実施例2と同様にして、活性を評価した。
光照射1時間後、液相にはホルムアルデヒドが45.2μmol生成していた。
ホルムアルデヒドの生成量は実施例3や4の光触媒材料3、及び、光触媒材料4と比べて幾分低下したが、生成物中のホルムアルデヒドの選択率が97.4%と大いに向上した。結果を表1に示した。
【0080】
(実施例6)
酸化亜鉛に対して0.1質量%のAgを担持した光触媒材料6(0.1%Ag/ZnO)を準備した。光触媒材料2に代えて、光触媒材料6を用いたこと以外は実施例2と同様にして、活性を評価した。
光照射1時間後、液相にはホルムアルデヒドが41.2μmol生成していた。
このとき、ホルムアルデヒドの選択率は97%を超え、光触媒材料5と同等の値を示した。結果を表1に示した。
【0081】
(実施例7)
光触媒材料6に対して、Agの担持量を0.5質量%に変更した光触媒材料7(0.5%Ag/ZnO)を準備した。上記以外は、実施例6と同様の方法により活性を評価した。
光照射1時間後、液相にはホルムアルデヒドが60.5μmol生成していた。
実施例6との比較によれば、助触媒の担持量を増やすことで、ホルムアルデヒドの生成特性が向上することがわかった。結果を表1に示した。
【0082】
(実施例8)
酸化亜鉛に対して0.5質量%のRhを担持した光触媒材料8(0.5%Rh/ZnO)を準備した。光触媒材料2に代えて光触媒材料8を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法により活性を評価した。
光照射1時間後、液相には、ホルムアルデヒドが23.6μmol生成していた。生成物中のホルムアルデヒド選択率は99.2%と光触媒材料2、及び、光触媒材料5よりも高い選択率を示した。結果を表1に示した。
【0083】
(実施例9)
酸化チタンに対して0.1質量%のAuを担持した光触媒材料9(0.1%Au/TiO
2)を準備した。光触媒材料1に代えて、光触媒材料9を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により活性を評価した。
光照射1時間後、液相には、ホルムアルデヒドが30.0μmol生成していた。光触媒材料9は、助触媒を担持していない光触媒材料1よりも高い活性を示すことがわかった。結果を表1に示した。
【0084】
(実施例10)
反応容器中の酸素の分圧を0.1MPaから0.05MPaに変更したことを除いては、実施例7と同様の方法により活性を評価した。
光照射1時間後、液相には、ホルムアルデヒドが46.0μmol生成していた。結果を表1に示した。
上記の結果から、酸素の分圧が0.1MPa未満でも、所望の効果が得られることがわかった。
【0085】
(実施例11)
反応容器中の酸素の分圧を0.1MPaから0.3MPaに変更したことを除いては、実施例7と同様の方法により活性を評価した。
光照射1時間後、液相には、ホルムアルデヒドが60.9μmol生成していた。結果を表1に示した。
上記の結果から、酸素の分圧が0.1MPaを超えても、所望の効果が得られることがわかった。
【0086】
(実施例12)
反応容器中のメタンの分圧を2MPaに変更したことを除いては、実施例7と同様の方法により活性を評価した。
光照射1時間後、液相には、ホルムアルデヒドが81.0μmol生成していた。結果を表1に示した。
上記の結果から、実施例7と比較して、より多くのホルムアルデヒドが発生したことがわかった。
【0087】
(実施例13)
光源をキセノンランプから模擬太陽光照射装置(AM1.5G)に変更したことを除いては、実施例7と同様の方法により活性を評価した。
光照射1時間後、液相には、ホルムアルデヒドが25.8μmol生成していた。結果を表1に示した。
上記の結果から、太陽光照射下でも十分にメタンから含酸素有機化合物を合成できることがわかった。
【0088】
【表1】
【0089】
(実施例14)
反応容器に投入する水の量を10mLに、照射光の波長を300〜420nmに変更したことを除いては、実施例1と同様の方法により活性を評価した。
光照射1時間後、気相中に二酸化炭素の生成が確認され、一方、液相には、ホルムアルデヒドの生成が確認された。結果を表2に示した。
【0090】
(実施例15)
反応容器に投入する水の量を10mLに、照射光の波長を300〜420nmに変更したことを除いては、実施例2と同様の方法により活性を評価した。
光照射1時間後、気相中に二酸化炭素の生成が確認され、一方、液相にはヒドロペルオキシメタン(CH
3OOH)、メタノール(CH
3OH)、ホルムアルデヒドの生成が確認された。結果を表2に示した。
【0091】
【表2】