以下である。アパタイト多結晶体は、結晶方位がランダムであってもよい。また、アパタイト多結晶体は、直線透過率が理論透過率の90%以上であってもよい。さらに、アパタイト多結晶体は、励起光を照射すると蛍光を発する蛍光体であってもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のFAP多結晶体は、成形時に高強度磁場を生成する必要があるため、大型化が比較的困難である。また、非特許文献1のFAP多結晶体は、損失係数が1.5cm
−1にとどまり、非特許文献2のFAP多結晶体は、散乱源となる他相を含んでいる。非特許文献3のFAP多結晶体は、Yb:SFAPの多結晶体であるが、波長1000nmにおける損失係数が約2.5cm
−1にとどまり、レーザ発振が可能かどうか不明である。したがって、十分な光学品質を有したままFAP多結晶体を大型化する点でさらなる改善の余地がある。そして、このような問題は、FAP多結晶体に限られず、FAP多結晶体以外の他のアパタイト多結晶体にも存在している。
【0006】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、十分な光学品質を有すると共に大型化が可能なアパタイト多結晶体、生体材料、レーザ発振器、レーザ増幅器及びアパタイト多結晶体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るアパタイト多結晶体は、
希土類元素が添加されたアパタイトの結晶粒で構成され、前記結晶粒の平均粒径が500nm以下であり、散乱係数が1cm
−1以下である。
【0008】
直径が約1mm以上の領域において散乱係数が1cm
−1以下であってもよい。
【0009】
結晶方位がランダムであってもよい。
【0010】
直線透過率が理論透過率の90%以上であってもよい。
【0011】
励起光を照射すると蛍光を発する蛍光体であってもよい。
【0012】
励起光を照射するとレーザ発振可能なレーザ媒質であってもよい。
【0013】
前記アパタイト多結晶体は、フルオロアパタイト多結晶体であってもよい。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る生体材料は、
前記アパタイト多結晶体を含む。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の第3の観点に係るレーザ発振器は、
前記アパタイト多結晶体と、
前記アパタイト多結晶体を励起させるように前記アパタイト多結晶体に励起光を放射する励起用光源と、
前記アパタイト多結晶体を挟み込んで配置され、前記アパタイト多結晶体で励起された光を共振させる共振器と、
を備える。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の第4の観点に係るレーザ増幅器は、
前記アパタイト多結晶体と、
前記アパタイト多結晶体を励起させるように前記アパタイト多結晶体に励起光を放射する励起用光源と、
前記アパタイト多結晶体で増幅されるように前記アパタイト多結晶体に光を導入する被増幅光源と、
を備える。
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の第5の観点に係るアパタイト多結晶体の製造方法は、
粒子径が約200nm以下であるアパタイト微粉体を容器に収容する工程と、
前記容器に収容されたアパタイト微粉体を所定圧力で加圧する工程と、
前記所定圧力で加圧された状態のアパタイト微粉体を収容した容器にパルス電流を供給することで、前記アパタイト微粉体を所定温度まで加熱する工程と、
を含む。
【0018】
前記所定圧力は、約40MPa〜約600MPaの範囲内であってもよい。
【0019】
前記所定温度は、約800℃〜約1000℃の範囲内であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、十分な光学品質を有すると共に大型化が可能なアパタイト多結晶体、生体材料、レーザ発振器、レーザ増幅器及びアパタイト多結晶体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るアパタイト多結晶体、生体材料、レーザ発振器、レーザ増幅器及びアパタイト多結晶体の製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0023】
(実施の形態1)
実施の形態1に係るアパタイト多結晶体は、アパタイトに希土類元素が添加された結晶粒で構成される。アパタイト(燐灰石)は、リン酸塩の一種であり、例えば、Ca
5(PO
4)
3Rの組成を有する。アパタイトは、例えば、R=OHの場合、ハイドロキシアパタイト(Hydroxyapatite:HAP)であり、R=Fの場合、フルオロアパタイト(Fluoroapatite:FAP)であり、R=Clの場合、塩素アパタイトである。また、アパタイトは、CaがSrやBa等に置き換えられたアパタイトであってもよく、例えば、Sr
5(PO
4)
3F(S−FAP)や、Ba
5(PO
4)
3Fであってもよい。さらに、アパタイトは、PがV等に置き換えられたアパタイトであってもよい。
【0024】
アパタイトに添加される希土類元素は、例えば、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等を含む。母材であるアパタイトに複数の希土類イオンが共添加されてもよい。希土類元素は、その種類に応じて適宜の量、例えば、アパタイトに対して原子百分率で約20%以下の量で添加される。例えば、希土類元素がYbやErである場合、アパタイトに対して原子百分率約0.1%〜約20%の範囲内の量で添加されてもよい。また、希土類元素がNdである場合、アパタイトに対して原子百分率約2%以下の量で添加されてもよい。レーザ媒質を構成するためにアパタイト多結晶体を用いる場合、希土類元素としてはNd、Yb又はErを選択することが好ましい。
【0025】
アパタイト多結晶体は、透光性を有する材料である。アパタイト多結晶体は、あらゆる波長の光を透過可能に構成してもよく、ある一定範囲の波長の光を透過可能に構成してもよい。
【0026】
アパタイトは、六方晶系の結晶構造を有する複屈折性の材料であるため、結晶方位に依存して屈折率が異なる。結晶方位は、結晶を構成する単位格子における複数の原子でなる面(結晶面)が並んでいる方向、言い換えると結晶面に垂直な方向である。アパタイト多結晶体は、結晶方位が配向していてもよく、ランダムであってもよい。アパタイト多結晶体の結晶方位を配向させるには、例えば、結晶方位が特定の方向を向くように、アパタイト多結晶体の成形時に材料に対して高強度磁場を印加すればよい。
【0027】
アパタイト多結晶体を構成する結晶粒の平均粒径は、例えば、500nm以下であり、250nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがさらに好ましい。結晶粒の平均粒径が透過光の波長よりも十分に小さい場合、結晶粒界における散乱、特に、ミー散乱を低減させることができる。ミー散乱は、透過光の波長程度以上の大きさの球形の粒子によって発生する光の散乱である。
【0028】
このため、結晶粒の平均粒径が透過光の波長よりも十分に小さい場合、結晶方位がランダムな場合であっても、光が散乱することを抑制でき、結果として良好な透光性を得ることができる。「結晶粒の平均粒径が透過光の波長よりも十分に小さい」とは、例えば、透過光の波長(λ)を結晶粒の平均粒径(D)で割ることで算出される比(λ/D)が約1.1よりも大きいことを意味する。
【0029】
アパタイト多結晶体の直線透過率は、少なくとも理論透過率の約85%以上であり、理論透過率の約90%以上であることが好ましく、理論透過率の約95%以上であることがさらに好ましい。直線透過率は、特定の波長の入射光が直線的に試料を通過する割合を示す指標であり、試料の厚さに応じて変化する。
【0030】
アパタイト多結晶体の散乱係数(光損失係数)は、直径が約1mm以上の大きさの領域において、例えば、1cm
−1以下であり、0.5cm
−1以下であることが好ましく、0.2cm
−1以下であることがさらに好ましい。散乱係数は、結晶粒界で光が散乱する程度を示す指標である。アパタイト多結晶体の散乱係数は、アパタイト多結晶体の密度と相関関係にあり、結晶粒界での光の散乱を抑制するためには、アパタイト多結晶体がある程度の緻密さを有することが好ましい。
【0031】
アパタイト多結晶体は、励起光を照射することで蛍光を発する蛍光体であってもよい。アパタイト多結晶体が蛍光体である場合、レーザ発振器のレーザ媒質として用いられてもよい。レーザ媒質は、特定の波長の光を吸収し、当該特定の波長に基づいた他の波長で発光する蛍光体であり、励起光を吸収して誘導放出を起こすことで光を増幅させる。
【0032】
アパタイト多結晶体は、生体の一部に装着され、又は埋め込まれる生体適合性を有する生体材料であってもよい。アパタイト多結晶体は、例えば、透光性を利用してコンタクトレンズ、眼内レンズ等として用いられてもよく、骨補綴材料、人工関節等として用いられてもよい。アパタイト多結晶体は、骨補綴材料、人工関節等の一部又は全体に用いられてもよい。骨補綴材料としては、特に限定されないが、例えば、頭蓋骨、頸椎、胸椎、腰椎、上腕骨、腸骨、腓骨等を固定するための骨プレートや骨ネジ、骨釘などが挙げられる。
【0033】
アパタイト多結晶体は、生体内のインプラント、人工臓器等との間で、赤外線通信等の方法で情報のやり取りを行うために体表の一部に埋め込まれてもよい。また、プレート状のアパタイト多結晶体を頭蓋骨の一部に埋め込むことで、脳にレーザ光等を照射するための光学窓とし、光学窓を介して外部のレーザ発振器から照射されたレーザ光等により脳の活動を観察したり脳に刺激を加えたりしてもよい。
【0034】
次に、
図1を参照して、実施の形態1に係るアパタイト多結晶体の製造装置100を説明する。
図1は、アパタイト多結晶体を製造する製造装置100の構成を示す図である。
【0035】
製造装置100は、真空中又はアルゴン、窒素等の不活性ガス中に設置され、パルス通電加圧焼結法(Pulsed Electric Current Sintering:PECS)を用いて、アパタイト微粉体からアパタイト多結晶体を製造する装置である。PECSは、微粉体を加圧すると共に微粉体を加熱することで、微粉体間の原子の拡散を引き起こして微粉体を焼結させる方法である。PECSでは、微粉体を収容する容器にパルス電流を供給してジュール熱を発生させて、容器内の微粉体を加熱するため、電気炉等を用いる場合よりも迅速な加熱が可能である。このため、長時間、高温環境下に材料を晒すことで発生する粒成長等の組織変化を抑制できる。
【0036】
図1に示すように、製造装置100は、上下方向に並べて配置した一対のスペーサ110と、一対のスペーサ110の間に配置され、アパタイト微粉体(材料)を上下方向から挟み込んで加圧する一対のパンチ120と、パンチ120の一部とアパタイト微粉体とを内部に収容するダイス130と、一対のスペーサ110を上下から挟み込むように配置される一対の電極140と、一対の電極140に電気的に接続され、パルス電流を供給するパルス電源150と、を備える。また、製造装置100は、スペーサ110、パンチ120、ダイス130及び電極140を内部に収容する容器と、当該容器内から空気を吸引する真空排気系又は当該容器内に不活性ガスを導入するガス導入機構と、をさらに備える。
【0037】
スペーサ110は、パンチ120に接触し、パンチ120を介してアパタイト微粉体を上下から押圧する部材である。下部のスペーサ110は、下部の電極140の上面部に設置されている。上部のスペーサ110は、下部のスペーサ110に対して上下方向に移動可能に構成されている。一対のスペーサ110は、それぞれ電極140を介してパルス電源150に電気的に接続されており、パルス電源150からのパルス電流をパンチ120に供給する。
【0038】
パンチ120は、アパタイト微粉体を押圧すると共に、スペーサ110からのパルス電流によるジュール熱をアパタイト微粉体に供給する部材である。パンチ120は、例えば円柱形状の部材であって、例えば、グラファイトのような導電性材料、炭化ケイ素(SiC)焼結体、炭化タングステン(WC)等で形成されている。パンチ120の直径は、アパタイト多結晶体の直径に対応しており、例えば、約0.5mm〜約300mmであり、好ましくは約10mm〜約100mmである。
【0039】
ダイス130は、内部にアパタイト微粉体を収容すると共に、パンチ120から供給されるジュール熱をアパタイト微粉体に供給する容器である。ダイス130は、アパタイト微粉体を収容可能であって、パンチ120の一部を挿通可能な貫通孔を備える円筒形状の部材である。ダイス130は、例えば、グラファイトのような導電性材料、炭化ケイ素(SiC)焼結体、炭化タングステン(WC)等で形成されている。ダイス130の内径は、パンチ120の外面がダイス130の内面に接触するように設定されている。
【0040】
電極140は、スペーサ110及びパンチ120を介してアパタイト微粉体を上下方向から押圧すると共に、スペーサ110を介してパンチ120にパルス電源150からのパルス電流を供給する。上部の電極140は、製造装置100の移動機構(図示せず)に固定され、上下方向に移動可能に構成されている。移動機構は、上部の電極140を移動させるためのサーボモータを備える。また、一対の電極140は、それぞれ直流電源であるパルス電源150と電線を介して電気的に接続されている。
【0041】
次に、
図2を参照して、アパタイト多結晶体の製造工程の流れを説明する。
図2は、製造装置100を用いたアパタイト多結晶体の製造工程の流れを示すフローチャートである。
【0042】
まず、円筒形状のダイス130の貫通孔にアパタイト微粉体を充填する(ステップS1)。ステップS1では、ダイス130の貫通孔にアパタイト微粉体を充填し、アパタイト微粉体が充填されたダイス130の貫通孔に2つのパンチ120を相対する方向から押し込むことで、2つのパンチ120及びダイス130とで囲まれる空間にアパタイト微粉末の成型体を形成する。アパタイト微粉末の粒子径は、例えば、200nm以下であり、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
次に、ステップS1でアパタイト微粉体の成型体が充填された2つのパンチ120及びダイス130を製造装置100に装着する(ステップS2)。より詳細に説明すると、アパタイト微粉体の成型体が形成された2つのパンチ120及びダイス130をスペーサ110の間に設置することで、2つのパンチ120及びダイス130を製造装置100に装着する。
【0044】
次に、上側のスペーサ110を下方に移動させることで、アパタイト微粉体の成型体を所定圧力で加圧する(ステップS3)。所定圧力は、例えば、約40MPa〜約600MPaの範囲内であり、好ましくは、約50MPa〜約200MPaの範囲内であり、さらに好ましくは、約70MPa〜約150MPaの範囲内である。
【0045】
次に、パンチ120にパルス電流を供給してジュール熱を発生させることで、成型体を所定温度まで加熱する(ステップS4)。より詳細に説明すると、ステップS4では、パルス電源150を作動させてパンチ120にパルス電流を供給することで、パンチ120でジュール熱を発生させる。すると、ジュール熱がパンチ120及びダイス130から成型体に伝導し、成型体が急速に発熱する。アパタイト微粉体の温度が急激に上昇することで、アパタイト微粉体の粒子間で原子の拡散が発生して焼結が進行する。
【0046】
所定温度及び昇温速度は、アパタイト微粉体の種類、粒子径等を考慮して適宜設定される。所定温度は、例えば、約800℃〜約1000℃の範囲内であり、好ましくは約850℃〜約980℃の範囲内である。昇温速度は、例えば、5℃/min又は10℃/minである。
【0047】
アパタイト微粉体の成型体が所定温度まで加熱された後、成型体が所定圧力で加圧されると共に所定温度で加熱された状態を所定時間だけ継続させる。例えば、パルス電流を成型体に周期的に供給することで、成型体を所定温度に維持する。所定時間は、アパタイト微粉体の種類、粒子径等を考慮して適宜設定される。所定時間は、例えば、約1分〜約2時間の範囲内であり、約5分〜約1時間の範囲内であることが好ましい。
【0048】
次に、アパタイト微粉体の成型体が所定温度に到達した時点から所定時間が経過したかどうかを判定する(ステップS5)。成型体が所定温度に到達した時点から所定時間が経過した場合(ステップS5;Yes)、成型体への圧力を徐々に減圧させると共に成型体の温度を徐々に降温させる(ステップS6)。ステップS6では、所定の降温速度及び所定の減圧速度で、成型体を徐々に冷却すると共に、徐々に減圧することが好ましい。降温速度及び減圧速度は、アパタイト微粉体の種類、粒子径等を考慮して設定される。
【0049】
他方、成型体が所定温度に到達した時点から所定時間が経過していない場合(ステップS5;No)、所定期間が経過するまで、成型体への所定圧力での加圧及び所定温度での加熱を継続する。
【0050】
次に、ステップS6で冷却されたアパタイト微粉体の成型体を製造装置100から取り外し(ステップS7)、成型体の反射面への光学研磨を行うことで(ステップS8)、アパタイト多結晶体の製造が終了する。以上が、製造装置100を用いたアパタイト多結晶体の製造工程の流れである。
【0051】
実施の形態1に係るアパタイト多結晶体は、結晶粒の平均粒子径が500nm以下であり、散乱係数が1cm
−1以下である。したがって、結晶粒の平均粒子径が光の波長よりも十分に小さく、しかも結晶粒が緻密に分布しているため、たとえ結晶方位がランダムになるように構成されていたとしても、十分な光学品質を得ることができる。
【0052】
また、実施の形態1に係るアパタイト多結晶体は、磁場配向制御多結晶体とは異なり、直径約300mm程度の大型化を実現でき、結晶方位の配向に必要な10テスラ程度の高強度磁場の生成が不要であるため、製造コストも抑制できる。さらに、実施の形態1に係るアパタイト多結晶体は、単結晶体に比べて製造コストが低く、大型化が容易である。加えて、希土類元素の高濃度添加や複合化を実現できる。
【0053】
実施の形態1に係るアパタイト多結晶体の製造方法は、PECSにより短時間でアパタイト微粉体に加圧・加熱処理を施すことができるため、結晶粒の成長を抑制した焼結体を製造できる。また、実施の形態1に係るアパタイト多結晶体の製造方法では、材料の加圧のためにサーボモータを用いているため、高温時でも材料に印加される圧力を正確に制御でき、結果として光学品質の良好な透光性材料を得ることができる。
【0054】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2に係るレーザ発振器1の構成を示す図である。レーザ発振器1は、アパタイト多結晶体で形成されたレーザ媒質10と、レーザ媒質10を挟み込むように配置される共振器20と、レーザ媒質10に励起光を照射し、共振器20内でレーザ光を共振させる励起用光源30と、を備える。レーザ媒質10は、例えば、Nd:FAP、Yb:FAP等である。
【0055】
共振器20は、光を全て反射する反射鏡21と、光の一部を外部に取り出すことができる出力鏡22と、を備える。反射鏡21と出力鏡22とは、レーザ媒質10を挟んで互いに対向するように配置されている。また、励起用光源30は、レーザ媒質10を挟んで、レーザ媒質10の径方向に対向して配置されている。レーザ発振器1は、反射鏡21と出力鏡22との間でレーザ光を繰り返し反射させることで、誘導放出によりレーザ光を増幅させ、出力鏡22を通じてレーザ光の一部を外部に放出する。なお、レーザ発振器1は、共振器20内に可飽和吸収体を含めることで、パルス発振するように構成してもよい。
【0056】
レーザ発振器1は、例えば、産業加工用レーザ装置、生体適合レーザ装置等に用いられてもよい。産業加工用レーザ装置は、加工対象の切断、溶接等を行うレーザ装置である。生体適合レーザ装置は、生体の測定、診断、手術、治療のためのレーザ装置である。生体適合レーザ装置は、生体内に埋め込まれてもよく、体表の一部に装着されてもよい。
【0057】
(実施の形態3)
図4を参照して、本発明の実施の形態3に係るレーザ増幅器2の構成を説明する。レーザ増幅器2は、外部から入射したレーザ光をレーザ媒質10で増幅して外部に放射する装置である。レーザ増幅器2は、実施の形態1に係るレーザ発振器1とは異なり共振器20を備えていない。
【0058】
レーザ増幅器2は、レーザ媒質10と、励起用光源30と、被増幅光源40と、を備える。励起用光源30は、レーザ媒質10を励起させるようにレーザ媒質10に励起光を照射する。被増幅光源40は、レーザ媒質10で増幅されるようにレーザ媒質10に光を導入する。被増幅光源40から放射された光は、励起用光源30により励起されたレーザ媒質10で増幅され、外部に放射される。
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
次に、
図5を参照して、アパタイト多結晶体からなる試料の透過スペクトルを測定する実験とその結果について説明する。本検証では、まず、粒子径100nm以下の原子百分率1%のNdを添加したFAP微粉体を用い、PECSによって平均粒子径200nm以下の結晶粒で構成される1%Nd:FAP多結晶体の試料を作製した。なお、上記実施の形態の製造方法を用いることで、最良の試料として、平均粒径140nm、散乱係数0.2cm
−1(波長1000nmの光を照射した場合)の1%Nd:FAP多結晶体を得ることができた。
【0061】
透過スペクトルは、試料に入射される入射光の波長毎における試料の直線透過率を示し、直線透過率は、特定の波長の入射光が試料を透過する割合である。試料に入射した入射光は、その一部が試料の表面や結晶粒界等で反射するため、最終的に試料を透過する透過光は、試料に入射する入射光よりも強度が低下する。本検証では、入射光の波長毎に、試料を透過した透過光の放射発散度を測定し、透過光及び入射光の放射発散度の比を算出することで、透過スペクトルを作成した。なお、放射発散度は、放射源から放射された単位面積あたりの放射束である。
【0062】
図5は、1mm厚のFAP多結晶体の透過スペクトルを示すグラフである。
図5の縦軸は、直線透過率(%)であり、横軸は、入射光の波長(nm)である。また、
図5の実線は、実際に測定された透過率の実験値を示し、
図5の上部に描かれた点線は、理論透過率を示す。実線に沿うように描かれた点線は、実験値のフィッティング曲線である。
図5に示すように、入射光の波長が増加するにつれて透過率が増加し、徐々に理論透過率に近づいていった。波長1000nmでは、直線透過率が87%(理論透過率は89%)であった。
【0063】
以上から、PECSにより作成されたアパタイト多結晶体は、透過率が高く、光学品質が良好であることを確認できた。
【0064】
(実施例2)
次に、
図6及び
図7を参照して、アパタイト多結晶体における蛍光スペクトル及び蛍光寿命を評価する実験とその結果について説明する。本検証でも、実施例1と同様の1%Nd:FAP多結晶体を試料として用いた。
【0065】
図6は、アパタイト多結晶体の蛍光強度を示すグラフである。
図6の縦軸は、蛍光強度(任意単位)であり、横軸は、波長(nm)である。1%Nd:FAP多結晶体に励起光を照射すると蛍光が発生することを確認できた。蛍光強度のピークは、波長1063nm付近に出現した。
【0066】
図7は、アパタイト多結晶体の蛍光寿命を示すグラフである。
図7の左側の縦軸は、規格化された励起光の強度(任意単位)であり、右側の縦軸は、規格化された蛍光強度(任意単位)であり、横軸は、時間(sec)である。蛍光寿命は、蛍光強度の減衰波形から得られる時定数である。
図7に示すように、アパタイト多結晶体を十分励起した後、励起光の照射を中止すると蛍光強度が減衰した。蛍光寿命を表す時定数τは、158μsであった。
【0067】
以上から、PECSにより作製されたアパタイト多結晶体は、励起光を照射すると蛍光を発生させる蛍光体であることを確認できた。
【0068】
(実施例3)
次に、
図8及び
図9を参照して、アパタイト多結晶体の内部組織を観察した結果について説明する。本検証では、実施例1と同一の1%Nd:FAPのアパタイト多結晶体の試料を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で撮影することで、SEM画像を取得した。
【0069】
図8は、PECS前のFAP微粉体を撮影したSEM画像を示す図である。一つ一つの丸い物体がアパタイト微粒子であり、アパタイト微粒子が互いに接触している様子を見て取ることができる。
図8の右下のスケールから、粒子径が約100nm以下であることが理解できる。
【0070】
図9は、PECS後の焼結体を撮影したSEM画像を示す図である。アパタイトの結晶粒がほとんど成長しておらず、結晶粒の平均粒子径は、約200nm以下であった。また、結晶粒界に全く隙間が見られず、微粉体がミクロレベルでも良好に結合していることが理解できる。
【0071】
以上から、PECSにより作製されたアパタイト多結晶体は、結晶粒がほとんど成長しておらず、平均粒径が光の波長と比べて十分に小さいことを確認できた。
【0072】
(実施例4)
次に、
図10を参照して、アパタイト多結晶体を用いて実施したレーザ発振実験とその結果について説明する。本検証では、1%Nd:FAPのアパタイト多結晶体の試料をレーザ発振の実験系に組み込み、試料を励起させた場合のレーザ出力を測定した。
【0073】
図10は、レーザ発振の実験系の入出力特性を示すグラフである。
図10の縦軸は、ピーク波長が1063nm付近にある出力レーザ光の出力ピークパワー(mW)であり、横軸は、レーザ媒質に吸収される励起光の吸収ピークパワー(W)である。
図10の記号○は、吸収ピークパワー毎の出力ピークパワーの測定値を示す。ピークパワーは、パルス毎のエネルギーをパルス時間(パルス幅)で除算した値である。吸収ピークパワーが2.2Wに到達した時点でレーザ発振が開始され、吸収ピークパワーが増加するにつれて出力ピークパワーも比例して増加することを理解できる。
【0074】
以上より、アパタイト多結晶体をレーザ発振器に組み込むことで、レーザ発振を実現できることを確認できた。
【0075】
(実施例5)
次に、
図11を参照して、アパタイト多結晶体の構造解析とその結果について説明する。本検証では、X線回折装置を用いて1%Nd:FAPのアパタイト多結晶体の試料にX線を照射し、得られたX線回折を解析することで、その構造を解析した。
【0076】
図11は、アパタイト多結晶体の構造解析の結果を示すグラフである。
図11の縦軸は、X線回折強度(任意単位)であり、横軸は、回折角である。
図11に示すように、アパタイト多結晶体の結晶方位はランダムである。このような結晶方位がランダムな多結晶体であっても、透光性材料として用いることができることを確認できた。アパタイト多結晶体の結晶粒の粒径が透過光の波長よりも十分に小さいため、結晶粒界における散乱が抑制されているものと考えられる。
【0077】
(実施例6)
次に、
図12を参照して、異なる焼結温度で作製された試料の散乱係数を測定した結果について説明する。本検証では、アパタイト微粉体の焼結時における焼結温度を次々に変化させて1%Nd:FAPのアパタイト多結晶体の各試料を作製し、それぞれの試料の散乱係数を測定した。
【0078】
図12は、散乱係数と焼結温度との関係を示すグラフである。
図12の縦軸は、波長1000nmの光を照射した場合の散乱係数(cm
−1)であり、横軸は、焼結温度(℃)である。また、
図12の記号○は、実験値を示し、点線は、実験値のアイガイドである。
図12の四角の枠で囲まれた領域から理解できるように、焼結温度が約850℃〜約980℃の場合、散乱係数0.5cm
−1未満の高品質な透明材料を得ることができた。
【0079】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0080】
(変形例)
上記実施の形態では、アパタイト多結晶体が円柱形状であったが、本発明はこれに限られない。アパタイト多結晶体は、いかなる形状であってもよく、例えば、矩形状又は多角形の板状部材であってもよい。また、端面がブリュースター角になるように切断加工されていてもよい。
【0081】
上記実施の形態では、レーザ発振器1の共振器20が反射鏡21及び出力鏡22を備え、レーザ発振器1及びレーザ増幅器2の励起用光源30が側面励起を引き起こすように構成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、レーザ発振器1のアパタイト多結晶体の両端面にAR(Anti-Reflection)コート又はHR(High-Reflection)コートを施し、アパタイト多結晶体内で共振器を構成してもよい。また、レーザ発振器1及びレーザ増幅器2の励起用光源30が端面励起を引き起こすように配置されてもよい。
【0082】
上記実施の形態では、所定時間経過後に、アパタイト微粉体の成型体を徐々に減圧及び降温させていたが、本発明はこれに限られない。例えば、所定時間経過後に、成型体への加圧及び加熱を停止させてもよい。この場合において、自然空冷によって冷却してもよく、ガスを吹き付けることで冷却してもよい。
【0083】
上記実施の形態では、アパタイト多結晶体はレーザ媒質であったが、本発明はこれに限られない。例えば、アパタイト多結晶体は磁気光学材料であってもよい。磁気光学材料は、例えば、光アイソレータやファラデー回転子に利用するために、ファラデー効果により偏光面を回転させるものであってもよい。また、磁気光学材料は、偏極子ガラス等に利用するために、磁気光学カー効果により反射光を楕円偏光させるものであってもよい。
【0084】
また、アパタイト多結晶体は、レーザ発振器から放射されたレーザ光の色調を変化させる蛍光体であってもよい。蛍光体は、外部からの光のエネルギーを吸収して励起状態となった後、基底状態に戻る過程でエネルギーの異なる光を放出する。蛍光体は、活性元素をドープしたものであってもよい。蛍光体は、LED(Light Emitting Diode)ランプの色調を調整するために用いられてもよい。
【0085】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。