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  • 特開2020055761-経口剤 図000009
  • 特開2020055761-経口剤 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-55761(P2020-55761A)
(43)【公開日】2020年4月9日
(54)【発明の名称】経口剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/44 20170101AFI20200313BHJP
   A61K 9/42 20060101ALI20200313BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20200313BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20200313BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20200313BHJP
【FI】
   A61K47/44
   A61K9/42
   A61K9/36
   A61K47/26
   A61K47/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-185808(P2018-185808)
(22)【出願日】2018年9月28日
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上西 伸卓
(72)【発明者】
【氏名】森川 琢海
(72)【発明者】
【氏名】阪田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 和也
(72)【発明者】
【氏名】高垣 欣也
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA44
4C076BB01
4C076DD37
4C076DD41
4C076DD46
4C076DD67
4C076EE30
4C076EE31
4C076EE38
4C076EE57
4C076FF27
4C076FF28
4C076FF68
4C076GG14
(57)【要約】
【課題】水分と共に飲んだ時に、固形剤を被覆するぬめり素材を含むコーティングが水分を吸収して粘性を発揮することにより、のどに引っかからずスムーズに飲むことができる経口剤を提供すること。
【解決手段】本発明の経口剤は、固形剤と、該固形剤表面を被覆する第一被覆層と、該第一被覆層の外表面を被覆する第二被覆層とを有する経口剤であって、第一被覆層はシェラックを含み、第二被覆層は、粉末状のぬめり素材と、ぬめり素材を固定するバインダーとを有する。前記ぬめり素材は、キサンタンガム及びローカストビーンガムから選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形剤と、
該固形剤の表面を被覆する第一被覆層と、
該第一被覆層の外表面を被覆する第二被覆層とを有する経口剤であって、
第一被覆層はシェラックを含み、
第二被覆層は、粉末状のぬめり素材と、ぬめり素材を固定するバインダーを有する、経口剤。
【請求項2】
前記ぬめり素材が、キサンタンガム及びローカストビーンガムから選ばれる1種以上を含む請求項1記載の経口剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経口剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経口投与の製剤は、錠剤や丸剤等の固形剤(固形製剤)が主流である。このような固形剤は、嚥下機能の少ない子供や老人にとって服用が困難な場合が多い。
固形剤を嚥下しやすいものとするためには、固形剤の滑りやすさ、のどへの引っ掛かりにくさ等が求められる。固形剤を嚥下しやすくするために、固形剤のコーティングを工夫した技術がこれまでに報告されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−132831号公報
【特許文献2】特表2001−521910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された経口剤によりぬめり性は向上したものの、さらに飲みやすい錠剤の開発が求められていた。
本発明の課題は、固形剤と、固形剤表面を被覆するコーティングとを有する経口剤であって、のどに引っ掛かりにくく、嚥下しやすい経口剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は固形剤と、
該固形剤表面を被覆する第一被覆層と、
該第一被覆層の外表面を被覆する第二被覆層とを有する経口剤であって、
第一被覆層はシェラックを含み、
第二被覆層は、粉末状のぬめり素材と、ぬめり素材を固定するバインダーを有する、経口剤を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の経口剤は、シェラックを含む第一被覆層を有することで第二被覆層におけるぬめり素材のぬめり性が効果的に発揮され、のどに引っ掛かりにくく、嚥下容易性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の経口剤の断面の一例を示す模式図である。
図2図2は、本発明の経口剤の断面の別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
【0009】
本発明の経口剤の模式図を図1及び図2に示す。
図1及び図2に示すように、本発明の経口剤1は、固形剤3の表面を被覆する第一被覆層7と、第一被覆層7の外表面を被覆する第二被覆層6とを有している。第一被覆層7はシェラックを含む。第二被覆層6は、粉末状のぬめり素材4がバインダー2により固定された構造を有する。以下では粉末状のぬめり素材4がバインダー2により固定されてなる層をぬめり素材含有層5ともいう。図1及び図2に示すように、第二被覆層6は、単層のぬめり素材含有層5からなる層であってもよく、ぬめり素材含有層5を複数層積層した積層構造であってもよい。図1は、第二被覆層6が単層のぬめり素材含有層5からなる層である状態を示し、図2は、第二被覆層6がぬめり素材含有層5を複数層積層した積層構造である状態を示す。2つの図のその他の点は同様である。第一被覆層7及び第二被覆層6は、固形剤3を被覆するコーティングを構成している。経口剤1は、第二被覆層6が最外層であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る固形剤3は、一定の形状を有する固形製剤である。固形剤3は通常、有効成分を含有している。前記有効成分は、医薬であってもよく、薬剤以外の機能性成分や植物又は動物、微生物由来の処理物等であってもよい。固形剤は、有効成分のほか、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などを含有しうる。固形剤3は、未だコーティングされていない素錠であってもよいし、第一被覆層7及び第二被覆層6とは別のコーティング層を有していてもよい。図1及び2に示す例では、固形剤3と第一被覆層7とは別のコーティング層を介在させずに直接接触している。
【0011】
固形剤3は経口用、つまり内服用である。固形剤3の具体例としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、ペレット剤、顆粒剤、粉末剤等を挙げることができる。固形剤3としては例えば1錠が0.1g以上1g以下、厚みが2mm以上8mm以下、厚み方向から見た最大長が3mm以上15mm以下の範囲のものを挙げることができる。ここでいう厚み方向から見た最大長とは、固形剤3を厚み方向から見た像を横断する線分のうち、最も長い線分の長さであり、固形剤3を厚み方向から見た像が円形である場合はその直径である。
【0012】
固形剤3を被覆する第一被覆層7は、シェラックを含有している。シェラックとは、ラックカイガラムシの分泌物である。シェラックは通常、ラックカイガラムシがマメ科やクワ科の樹木に寄生して樹液を吸い、体外に分泌した樹脂状物質である。樹木から採取する際のシェラックはスティックラックと呼ばれている。スティックラックを粉砕、分級、水洗等して虫殻や木質、水溶性色素等を除去したものをシードラックと呼ぶ。シェラックとしては、シードラックを精製したものが好適に用いられる。精製の方法としては、経口剤分野に用いられるシェラックにおいて従来公知の方法が挙げられる。本発明では、粉末状のぬめり素材4がバインダー2に固定された第二被覆層6の下地層としてシェラックを含む第一被覆層7を設けることで、経口剤1のぬめり性が向上する。
【0013】
本発明の経口剤は、第二被覆層6と第一被覆層7の間に別のコーティング層を含んで良いし、含まなくても良いが、別のコーティング層を含まない方が好ましい。
【0014】
シェラックの量は、シェラックとぬめり素材含有層との組み合わせによるぬめり性の向上効果を高める点やシェラックにて被覆された固形剤に含まれる苦味成分等の溶出に起因する味の悪化を抑制する点等から、ぬめり素材100質量部に対し、1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、6質量部以上70質量部以下であることがより好ましく、7質量部以上60質量部以下であることがさらに好ましく、8質量部以上50質量部以下であることが最も好ましい。
【0015】
第一被覆層7には、シェラック以外の成分を含有することもできる。そのような成分としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤等が挙げられる。第一被覆層7がシェラックに加えて乳化剤を含有する場合、蒸着性が良くなるという利点がある。第一被覆層7におけるシェラックに加えて乳化剤を含有する場合の乳化剤の量としては、シェラック100質量部に対して10質量部以上30質量部以下が好ましく挙げられる。また第一被覆層7の構成成分としては、シェラックが60質量%以上を占めることが好ましい。
【0016】
第一被覆層7を形成する方法としては、シェラックと必要に応じその他の任意成分とを溶媒に溶解させたコーティング液を固形剤3表面に塗工させる方法が挙げられる。溶媒としてはエタノール又はシェラック及びその他成分を可溶なその他の溶媒を適宜使用することができる。
【0017】
シェラックを含む第一被覆層7は、固形剤3表面の一部のみを被覆していてもよく、表面の全域を被覆していてもよい。図1及び2に示す例では、第一被覆層7は、実質的に固形剤3表面全域を被覆している。第一被覆層7が実質的に固形剤3の表面全域を被覆するとは、固形剤3の表面積における85%以上を被覆していることが好ましく、90%以上を被覆していることがより好ましく、95%以上を被覆していることが特に好ましい。
【0018】
第二被覆層6は粉末状のぬめり素材4がバインダー2により固定された構造を有する。従って第二被覆層6は、粉末状のぬめり素材4と、ぬめり素材4を固定するバインダー2とを有する。経口剤の表面を、光学顕微鏡観察における倍率20〜1000倍程度で観察して粒子状のぬめり素材4が固形剤の表面に付着していることを確認することで、ぬめり素材4が粉末状であるか否かを判断できる。具体的には、粉末状のぬめり素材がバインダ―に固定されていることによって、ぬめり素材を溶液としてコーティングした場合には視認できない凹凸が固形剤の表面に観察される。粉末状のぬめり素材をバインダーで固定した構造は、バインダー溶液を第一被覆層7が形成された固形剤3に付着させ、その後、第一被覆層7に付着したバインダー溶液に粉末状のぬめり素材を付着させ、次いでバインダー溶液を乾燥させることにより形成することができる。ぬめり素材を溶液状にして固形剤に付着させ、乾燥させた場合、通常、上記の顕微鏡観察では粒子状のぬめり素材4を視認できない。
【0019】
ぬめり素材4がバインダー2により固定されているとは、例えば、経口剤1を親指と人差し指にて経口剤を軽くつまんだ際に、ぬめり素材が剥離しない程度に結着している状態をいう。
【0020】
バインダー2に固定された粉末状のぬめり素材4は、水分を含ませた時(口に含んで唾液と接触した時や、経口剤を飲み込むために水を飲用した時などを意味する)にぬめり性(「粘性」といわれることもある。)を発揮する。このため、この経口剤1を水分と共に口腔内に入れると、ぬめり素材4が水分を含んでぬめり性を発揮し、これにより経口剤1の表面がのどで滑りやすく、経口剤1がのどに引っかからずに嚥下しやすいものとできる。
【0021】
ぬめり素材としては、粉末状であって、水分と接触した時に粘性を発揮する物質を用いる。ぬめり素材としては、ゼラチン等の蛋白質分解物;ポリグルタミン酸等のポリアミノ酸;デンプン、キサンタンガム;ローカストビーンガム、ジェランガム、マンナン、グルコマンナン、ヒアルロン酸、アルギン酸、タマリンドガム、グアーガム、カラギーナン、アカシアガム、プルラン及びジェランガム等の多糖類;並びにこれらの塩及び誘導体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記の誘導体としては、デンプン誘導体、ヒアルロン酸誘導体、アルギン酸誘導体及びポリグルタミン酸誘導体等が挙げられる。また、前記の塩としては、アルギン酸塩、ヒアルロン酸塩、ポリグルタミン酸塩等が挙げられる。
【0022】
デンプン誘導体としては、デンプン分解物、化工デンプン、酸化デンプン、酵素処理デンプン、α化デンプン、リン酸デンプン、リン酸ジデンプン、酢酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、グリセロールジデンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、橋架デンプン、グラフト化デンプンが挙げられる。ヒアルロン酸誘導体としてはヒアルロン酸エステル、アセチル化ヒアルロン酸等が挙げられる。アルギン酸誘導体としてはアルギン酸エステル等が挙げられる。ポリグルタミン酸誘導体としては、ポリグルタミン酸エステル等が挙げられる。アルギン酸塩としてはアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム及びアルギン酸カルシウム等が挙げられる。ヒアルロン酸塩としてはヒアルロン酸ナトリウム及びヒアルロン酸カリウム等が挙げられる。ポリグルタミン酸塩としては、ポリグルタミン酸ナトリウム及びポリグルタミン酸カリウム等が挙げられる。これらのぬめり素材は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書中、ぬめり素材とはコーティング層に含まれる素材をいい、仮に同様の成分が被覆対象である固形剤中に含まれていても、これはぬめり素材とはみなさない。
【0023】
経口剤のぬめり性が優れる点から、ぬめり素材はデンプン、キサンタンガム、ローカストビーンガム及びジェランガムから選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましく、キサンタンガム又はローカストビーンガムを含むことが特に好ましく、キサンタンガムを含むことが最も好ましい。ぬめり素材がキサンタンガムを含むことにより本発明の経口剤は、液体で飲用する際のぬめり性に特に優れるものとなる。ぬめり素材中、デンプン、キサンタンガム、ローカストビーンガム又はジェランガムの量が80質量%以上を占めることが更に好ましく、90質量%を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることが特に好ましい。ここでいうデンプン、キサンタンガム、ローカストビーンガム又はジェランガムの量とは、ぬめり素材がこれらのうち1種のみを含む場合はその量であり、それら2種以上を含む場合は2種以上の合計量である。
【0024】
外観の均一性や粉立ちのなさといった美粧性を高める観点から、ぬめり素材はキサンタンガムとデンプンとを組み合わせて含むことが最も好ましい。ぬめり素材がキサンタンガムとデンプンの両方を含む場合、両者の組み合わせによる効果を一層高める観点から、キサンタンガム100質量部に対して、デンプンの量は、0.001質量部以上2質量部以下であることがより好ましく、0.005質量部以上1質量部以下であることがさらに好ましく、0.01質量部以上0.5質量部以下であることが一層好ましい。
【0025】
本発明の経口剤において、ぬめり素材の量は、経口剤中、0.01質量%以上10質量%以下であることが、経口剤のぬめり性の点や製造容易性の点から好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上4.5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以上3質量%以下であることが一層好ましい。また同様の観点から、第一被覆層7及び第二被覆層6を含むコーティング中、ぬめり素材の量は、1質量%以上70質量%以下であることが好ましく、10質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以上40質量%以下であることが特に好ましい。
【0026】
デンプン、キサンタンガム、ローカストビーンガム及びジェランガムから選択される1種又は2種以上のぬめり素材は、ぬめり素材含有層が複数層積層している場合、該複数層の中の少なくとも一層に含有されていればよく、より好ましくは、コーティングの最表層に含有されている。最も好ましくは、第二被覆層6を構成する各ぬめり素材含有層それぞれに含有されている。
【0027】
本発明の経口剤において、ぬめり素材の平均粒径は、1μm以上1000μm以下が好ましく、10μm以上600μm以下がより好ましく、15μm以上300μm以下がさらに好ましく、50μm以上250μm以下が更に好ましい。
【0028】
本発明におけるバインダーとは、水性液等の液媒に溶解して結合力を発揮する物質である。バインダーとしては、蛋白質分解物、糖質、ポリアミノ酸、合成高分子、グリセリンやその誘導体が挙げられる。蛋白質分解物としては、ゼラチン等が挙げられる。糖質としては、果糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖又は乳糖等といった糖類(単糖類又は二糖類);デキストリン、ヒアルロン酸、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、グアーガム、寒天、マンナン、グルコマンナン、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸、デンプン、セルロース等の多糖類が挙げられる。ポリアミノ酸としてはポリグルタミン酸が挙げられる。合成高分子としてはカルボキシビニルポリマー;ポリビニルピロリドンが挙げられる。またこれらの塩及び誘導体もバインダーに含まれる。バインダーとして用いることができる前記の塩及び誘導体としては、上記のぬめり素材として用いることができる塩及び誘導体として上記で挙げたものと同様のものが挙げられるほか、セルロース誘導体が挙げられる。当該セルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びその塩類(カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系の半合成高分子が挙げられる。これらのバインダーは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書中、バインダーとは、コーティングに含まれ、粉末状のぬめり素材を固定する物質をいい、仮に同様の成分が被覆対象である固形剤中に含まれていても、これはバインダーとはみなさない。また、仮に同様の成分が固定される対象であるぬめり素材を含有する粉末に含まれていても、これはバインダーとはみなさない。また、仮に同様の成分がシェラックを含む第一被覆層に含まれていても、これはバインダーとはみなさない。
【0029】
本発明において、バインダーと、ぬめり素材とは、同一物質であってもよく、異なる物質であってもよいが、好ましくは異なる物質である。バインダーは、ぬめり性を向上させる観点及び製造した錠剤同士がくっつきにくい観点から、単糖類又は二糖類が好ましく、とりわけ二糖類が好ましく、特にショ糖が好ましく、中でもグラニュー糖が好ましい。バインダーがショ糖に加えて果糖又はブドウ糖を含有すると、経口剤のぬめり性が特に高いものとなるため好ましい。
【0030】
本発明の経口剤において、バインダーの量は、ぬめり素材100質量部に対して、30質量部以上600質量部以下であることが、ぬめり素材の固定性と蛍光剤のぬめり性との両立を図る点で好ましく、50質量部以上400質量部以下であることがより好ましく、70質量部以上300質量部以下であることがさらに好ましく、100質量部以上200質量部以下であることが一層好ましい。
【0031】
バインダーの固形分中、グラニュー糖の含有量は50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。バインダーが果糖を含有する場合、バインダーの固形分中、果糖の含有量はグラニュー糖100質量部に対し0.0001質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.001質量部以上2質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以上1質量部以下であることがさらに好ましく、0.05質量部以上0.5質量部以下であることが一層好ましい。バインダーがブドウ糖を含有する場合、バインダー中の固形分中、ブドウ糖の含有量はグラニュー糖100質量部に対し0.0001質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.001質量部以上2質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以上1質量部以下であることがさらに好ましく、0.05質量部以上0.5質量部以下であることが一層好ましい。また、バインダーが果糖及びブドウ糖を含有する場合、バインダー中の固形分中、ブドウ糖及び果糖の合計量はグラニュー糖100質量部に対し0.0001質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.001質量部以上2質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以上1質量部以下であることがさらに好ましく、0.05質量部以上0.5質量部以下であることが一層好ましい。
【0032】
バインダーを溶解する液媒としては、水、有機溶媒及びそれらの混合物が挙げられる。当該有機溶媒としては、アルコールが好ましい。アルコールとしては、エタノール等が挙げられる。水と有機溶媒の混合物を溶媒として使用する場合には、水と有機溶媒の配合比率は、1:0.01〜30が好ましく、1:0.1〜10がさらに好ましく、1:0.5〜5が特に好ましい。
【0033】
上述した通り、第二被覆層6は、第一被覆層7の外表面を被覆している。外表面とは、第二被覆層6における第一被覆層7とは反対側の表面を指す。図1に示す例の通り、第二被覆層6は第一被覆層7の表面に直接形成されていることが好ましい。第二被覆層6は、第一被覆層7の一部又は全域を被覆している。図1に示す例では、第一被覆層7が実質的に第一被覆層7の表面全域を被覆している。第二被覆層6が実質的に第一被覆層7の表面全域を被覆するとは、第一被覆層7表面における85面積%以上を被覆していることを指すことが好ましく、90面積%被覆していることを指すことがより好ましく、95面積%以上を指すことを指すことが特に好ましい。
【0034】
第二被覆層6は、ぬめり性が一層高まる点から、ぬめり素材含有層5を2層以上積層した構造であることが好ましく、3層以上積層した構造であることがより好ましく、嚥下性と製造しやすさとのバランスがよい点から、3層以上6層以下積層した構造であることが更に好ましく、4層以上5層以下積層した構造であることが最も好ましい。図1ではぬめり素材含有層5を2層として示している。
【0035】
第二被覆層6における各ぬめり素材含有層5中のぬめり素材4の量は同一であってもよく、異なっていても良い。異なっている場合、例えば、固形剤3の表面に近い層(内側の層)ほど、ぬめり素材4が多いように構成してもよいし、逆に経口剤1の表面に近い層(外側の層)ほどぬめり素材4が多いように構成してもよいし、ぬめり素材が多い層と少ない層とを交互に積層しても良い。また、第二被覆層6における各ぬめり素材含有層5それぞれにおけるぬめり素材4の種類は同じであってもよいし、異なっていてもよい。同様に第二被覆層6における各ぬめり素材含有層5それぞれにおけるバインダー2の種類は、同じであっても異なっていても良い。また第二被覆層6は、ぬめり素材含有層5以外に、ぬめり素材4を有しない層を有していてもよく、有していなくてもよいが、第二被覆層6の最表層はぬめり素材含有層5である。
【0036】
コーティングは、シェラック、ぬめり素材及びバインダー以外のその他の成分を含有していても良い。そのようなその他成分としては、上述した乳化剤のほか、糖アルコール、導水剤、調味料、増粘剤、着色剤や着香料、可塑剤、各種の植物エキス等を挙げることができる。コーティング乾燥質量中のその他の成分の割合は本発明の効果を損なわない範囲に調整されるが、合計で、例えばシェラック、ぬめり素材及びバインダーの合計量に対して、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく3質量%以下であることが一層好ましい。
【0037】
次に、本発明の経口剤の好ましい製造方法について説明する。
本製造方法は、第一被覆層形成工程と、第二被覆層形成工程とを有する。第一被覆層形成工程では、シェラックを溶媒に溶解してなる溶液を固形剤にコーティングした後、乾燥させて溶媒を除去する。第二被覆層形成工程は、ぬめり素材含有層を形成する層形成工程を含む。層形成工程は、バインダーを液媒に溶解してなる溶液(以下、バインダー溶液ともいう)を、固形剤に形成された第一被覆層の外表面にコーティングし、該コーティング後のバインダーに粉末状のぬめり素材を付着させる。前記の層形成工程を繰り返すと、ぬめり素材含有層が複数層積層した構造を、第一被覆層表面に形成することができる。
【0038】
第一被覆層形成工程におけるコーティングは、例えば、シェラックを溶媒に溶解してなる溶液を固形剤に噴霧させることにより行うことができる。
【0039】
第二被覆層形成工程において、バインダー溶液中のバインダーの量(固形分の量ともいう)は、5質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。特に、バインダーとして糖類を用いる場合は、バインダーの乾燥時間を短くすることで製造時間を短縮できる観点から、10質量%以上85質量%以下が好ましく、20質量%以上80質量%以下がより好ましい。また、バインダーが蛋白質分解物等の場合はバインダー溶液中のバインダーの量は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
第二被覆層形成工程において、上記のように調製したバインダー溶液を固形剤にコーティングし、乾燥前に、このコーティング中のバインダーに粉末状のぬめり素材を付着させる。バインダー溶液のコーティングとぬめり素材の付着とは同一工程内で行っても良いし、別工程で行っても良い。同一工程で行う場合とは、例えば、バインダー溶液を固形剤に噴霧しながら粉末状のぬめり素材を供給する方法が挙げられる。また、別工程で行う場合には、バインダー溶液による固形剤のコーティングの終了後、ぬめり素材を付着させる方法が挙げられる。ぬめり素材の付着後に、コーティングしたバインダー溶液を乾燥させてぬめり素材含有層5を形成する。以上の層形成工程により固形剤の表面に層構造が形成された本発明の経口剤が得られる。上述したように層構造を積層構造とする場合、この層形成工程を繰り返す。
【0041】
上記のように、本発明の経口剤は、固形剤を、シェラックを含む第一被覆層によって被覆する工程及び、粉末状のぬめり素材をバインダーによって固定して第二被覆層を形成する工程を含む製造方法によって得ることができる。
【0042】
このようにして得られた本発明の経口剤は、シェラックを含む下地層を有することで、ぬめり素材含有層のぬめり性が効果的に発揮され、これを水分と共に内服する際に、喉を滑りやすい。このため、固形剤の嚥下が苦手な人や老人や子供でも、本発明の経口剤をのどに引っかからせずにスムーズに飲むことができる。
【0043】
本発明の経口剤は、食品、医薬品、医薬部外品として用いてもよい。中でも、食品の形態である経口剤は長期間服用することが多く、飲みにくいと日々のストレスになるため、飲みやすい本発明の経口剤は、食品として用いることが好ましく、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等を含むとして用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。しかし本発明の範囲はかかる実施例に限定されない。
【0045】
〔実施例1〕
(固形剤)
還元麦芽糖68質量部、セルロース30質量部、ステアリン酸カルシウム2質量部を混合後、混合物を打錠して円盤状の素錠を作成した。この素錠1錠の重さは280mg、直径8mm、厚さ4.8mmであった。
(第一被覆層)
シェラック21質量部、グリセリン脂肪酸エステル4質量部、及びエタノール75質量部を混合して第一被覆層用コーティング液を調製した。シェラックとしては、岐阜セラツク製造所社製の微黄色透明の精製シェラックを用いた。精製シェラックはシードラックの不純物を除去した樹脂である。固形剤に第一被覆層用コーティング液を噴霧してコーティングした後、乾燥させて固形剤3の表面全域を被覆する第一被覆層7を形成した。コーティングの装置としてはフロイント産業社製ハイコーターFZを用いた。乾燥は同機器に付属の乾燥機能を用いて行った。
(第二被覆層形成工程)
バインダー溶液は、グラニュー糖66.6質量部、果糖・ブドウ糖液糖(固形分75質量%、固形分中の組成は、ブドウ糖37質量%(固形分基準)、果糖55質量%(固形分基準))0.1質量部、水33.3質量部を混合することにより調製した。ぬめり素材を含む粉末として、キサンタンガム40質量部、ローカストビーンガム40質量部、ブドウ糖19.9質量部及びデンプン0.1質量部の混合粉末を用いた。
前記のバインダー溶液と前記のぬめり素材とを用いて、バインダー溶液を固形剤にコーティングし、乾燥前に、このコーティング中のバインダーに粉末状のぬめり素材を付着させ、その後に乾燥させることによる層形成工程を繰り返すことにより、ぬめり素材含有層を4層積層した第二被覆層を、第一被覆層の表面に形成して実施例1の経口剤を得た。コーティング及び乾燥の装置としてはフロイント産業社製のハイコーターFZを用いた。経口剤において第一被覆層7の表面全域を第二被覆層6により被覆していた。経口剤中のぬめり素材の量は0.15質量%であった。経口剤のコーティング中のぬめり素材の量は29.5質量%であった。シェラックの量は、ぬめり素材100質量部に対して、47質量部であった。バインダーの乾燥質量はぬめり素材100質量部に対して、167質量部であった。またぬめり素材の平均粒径は200μmであった。
【0046】
〔実施例2〕
第二被覆層形成工程において、ぬめり素材含有層の積層数を5層に変更した以外は実施例1と同様にした。また経口剤中のぬめり素材の量は0.19質量%であった。経口剤のコーティング中のぬめり素材の量は30.3質量%であった。シェラックの量は、ぬめり素材100質量部に対して、37質量部であった。バインダーの乾燥質量はぬめり素材100質量部に対して、167質量部であった。また上記の方法で測定したぬめり素材の平均粒径は200μmであった。
【0047】
〔比較例1〕
上記の素錠をそのまま経口剤として用いた。
【0048】
〔比較例2〕
第一被覆層の形成後、第二被覆層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、経口剤を得た。
【0049】
〔比較例3〕
第一被覆層を形成せずに第二被覆層を形成した。その点以外は実施例1と同様にして、経口剤を得た。
【0050】
〔比較例4〕
第一被覆層を形成せずに第二被覆層を形成した。その点以外は実施例2と同様にして、経口剤を得た。
【0051】
比較例3の経口剤をA、実施例1の経口剤をBとして、以下の方法で官能評価を行った。
●官能評価(1)
錠剤摂取に関して熟練した被験者5名について、以下の試験を実施した。
被験者5名に、Aの3粒を口の中に20秒間含ませ、その後、水なしで飲み込ませた。次に被験者5名に、Bの3粒を口の中に20秒間含ませ、その後、水なしで飲み込ませた。AとBの飲みやすさについて、以下の表1の基準にて評価した。
【0052】
【表1】
【0053】
上記の試験の結果、5名の平均値は、2.0点であった。このことから、第一被覆層形成後に第二被覆層形成することにより、一定時間錠剤を口に含んだ後においても、飲みやすさが持続することが分かった。
【0054】
●官能評価(2)
被験者5名について、以下の試験を実施した。
被験者5名に、Aの3粒を口の中に入れさせた。20秒間経過した後、水を用いて飲み込ませた。Bについても、3粒を口に入れて20秒間経過した後、水を用いて飲み込ませた。口に入れてから水を用いて飲み込む直前までの味の変化について、以下表2のいずれに該当するかを回答させた。
【0055】
【表2】
【0056】
上記の試験の結果は以下の表3の通りであった。第一被覆層形成後に第二被覆層を形成することにより、錠剤を口に含んだ後において味の変化が抑制されるため、味の観点からも、飲みやすくなることが分かった。
【0057】
【表3】
【0058】
各実施例及び各比較例の経口剤の斜面滑り速度を以下の方法で評価した。結果を表4に示す。
●斜面滑り速度評価
水平面に対して30°に傾斜させた断面U字状のアルミチャンネル(側面視で直線状、チャンネル長さ90cm、幅1.2cm)をスタンドとクランプを用いて固定し、チャンネルの上端部より毎分100mlの水を供給した。この状態で、チャンネルの上端部より10cm下の位置から経口剤1粒を滑らせて流し、下端部までの80cmを滑走するのに要した時間を測定した。試験は5回行った。5回の平均値を下表に示す。なお、80cmを滑走するのに要する時間が50秒を超える場合には、測定不可とした。
【0059】
【表4】
【0060】
上記表4における比較例1と比較例2との比較からわかる通り、シェラック層それ自体は、滑り向上効果をもたらすものではない。しかし比較例3(又は4)と実施例1(又は2)との比較からわかる通り、シェラック層を有し且つぬめり素材含有層を形成する場合には、ぬめり素材含有層のみを形成する場合と比較して、滑り時間を6割程度に短縮できた。従って、ぬめり素材含有層とシェラック層とにより相乗的に経口剤のぬめり性を高める可能性が示された。
【0061】
実施例2、比較例1、2及び4の経口剤について、以下の方法で滑り応力を測定した。結果を表5に示す。
●最大応力の測定手順
経口剤を20℃の水中に1秒間浸した。
長手方向が上下方向と一致するように上下方向に沿って配置され且つ固定された内径2.8mm×9.5mm、外径3.6×10.9mmのシリコンチューブ(クリアシリコーン角チューブ 型番:SKSQ-0828/タイプ:スタンダード)と、該シリコンチューブを左右方向に挟んだ状態で固定された一対のスリットとを用い、該シリコンチューブにおける該スリットの下側に、経口剤を1粒充填した。該シリコンチューブに沿って該スリットを、該経口剤に対して上方に速度0.5mm/秒で60mm移動させた時の最大応力を株式会社 山電製クリープメータ(RE2-33005C)を用いて測定した。測定に用いたシリコンチューブの断面積は、経口剤の断面積の78%であった。応力が20Nを超えた場合にはその時点で測定を終えた。シリコンチューブとしては、株式会社扶桑ゴム産業製クリアシリコーン角チューブを用いた。スリットとしては、株式会社 山電製の特殊円柱押出治具(AT-43446)を用い、これを互いの間隔が4mmとなる位置に固定させた。
最大応力は3連の平均値として求めた。なお、応力が20Nを超えた場合には、応力を測定不能とした。
【0062】
【表5】
【0063】
表5における比較例1と比較例2との対比からわかる通り、ぬめり素材含有層を有しない場合には、シェラック層を有していても応力低減は認められなかった。これに対して、比較例4及び実施例2との対比からわかるとおり、シェラック層を有し且つぬめり素材含有層を形成する場合には、ぬめり素材含有層のみを形成する場合と比較して、応力が2割程度低下した。以上のことから、シェラック層とぬめり素材層とを両方設けることにより、滑り応力が相乗的に低減できることを確認できた。
【0064】
シェラック溶液、ぬめり素材、バインダー溶液の種類及び量、並びにぬめり素材層の層数を下記表6の記載に合わせて変更した点を除き、実施例1と同様の方法によって、経口剤を調製した。
【0065】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の固形剤は、ぬめり素材のぬめり性が効果的に発揮され、のどに引っ掛かりにくく、嚥下容易性に優れることから、健康食品、サプリメント、医薬品等に利用することが可能であり、本発明の産業上の有用性は高い。
【符号の説明】
【0067】
1 経口剤
2 バインダー
3 固形剤
4 ぬめり素材
5 ぬめり素材含有層
6 第二被覆層
7 第一被覆層
図1
図2