【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進委託事業「熱エネルギーを電気エネルギーに変換する新規な磁性半導体材料の基盤技術構築」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【課題】 CrとSeとの二元系化合物を主成分とし、室温から600Kにおいて熱電効果を示し、組成制御によってp型およびn型となる熱電材料、その製造方法および熱電発電素子を提供すること。
前記混合するステップは、前記Crを含有する原料および前記Seを含有する原料を、前記Seに対する前記Crの原子比が、0.633以上0.733以下を満たすように混合する、請求項14に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明の課題は、CrとSeとの二元系化合物を主成分とし、室温から600Kにおいて熱電効果を示し、組成制御によってp型およびn型となる熱電材料、その製造方法および熱電発電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱電材料は、少なくとも、CrとSeとの二元系化合物を含有し、前記二元系化合物は、一般式Cr
2+pSe
3+q(ここで、pは−0.1≦p<0または0<p≦0.2を満たし、qは−0.1≦q≦0.05を満たす)で表され、前記二元系化合物は、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3で表される相であり、これにより上記課題を解決する。
前記二元系化合物において、前記Seに対する前記Crの原子比は、0.623以上0.759以下を満たしてもよい。
前記結晶構造の空間群は、R3−であってもよい。
前記pは、−0.1≦p<0または0<p<0.05を満たし、室温から600K以下の温度範囲においてp型を示してもよい。
前記二元系化合物において、前記Seに対する前記Crの原子比は、0.623以上0.707未満を満たしてもよい。
前記pは、−0.05≦p≦−0.02または0<p≦0.04を満たしてもよい。
前記二元系化合物において、前記Seに対する前記Crの原子比は、0.639以上0.703以下を満たしてもよい。
前記pは、0.05≦p≦0.2を満たし、室温から600K以下の温度範囲においてn型を示してもよい。
前記二元系化合物において、前記Seに対する前記Crの原子比は、0.672以上0.759以下を満たしてもよい。
前記pは、0.06≦p≦0.15を満たしてもよい。
前記二元系化合物において、前記Seに対する前記Crの原子比は、0.675以上0.741以下を満たしてもよい。
前記二元系化合物は、前記Cr
2Se
3で表される相を70重量%以上含有してもよい。
前記二元系化合物は、前記Ceおよび前記Se以外の異種元素を含有しなくてもよい。
本発明の熱電材料を製造する方法は、Crを含有する原料およびSeを含有する原料を、一般式Cr
2+xSe
3(ここで、xは−0.1≦x<0または0<x≦0.2を満たす)を満たすように混合するステップと、前記混合するステップで得られた混合物を焼成するステップとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記混合するステップは、前記Crを含有する原料および前記Seを含有する原料を、前記Seに対する前記Crの原子比が、0.633以上0.733以下を満たすように混合してもよい。
前記焼成するステップは、前記混合物を、不活性雰囲気または真空中、1073K以上1773K以下の温度範囲で焼成してもよい。
前記混合するステップに続いて、前記混合物を成形するステップをさらに包含してもよい。
前記焼成するステップに続いて、前記焼成するステップで得られた焼成体を急冷するステップをさらに包含してもよい。
本発明の熱電発電素子は、交互に直列に接続されたp型熱電材料およびn型熱電材料を備え、前記p型熱電材料およびn型熱電材料の少なくとも一方は、上述の熱電材料であり、これにより上記課題を解決する。
前記p型熱電材料は、上述の熱電材料であり、前記n型熱電材料は、上述の熱電材料であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱電材料は、少なくとも、CrとSeとの二元系化合物を含有する。CrとSeとの二種の元素からなるので、非常にシンプルな熱電材料であり、素子設計に有利である。また、この二元系化合物は、一般式Cr
2+pSe
3+q(ここで、pは−0.1≦p<0または0<p≦0.2を満たし、qは−0.1≦q≦0.05を満たす)で表され、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3で表される相である。また、上述の一般式を満たし、上記の相であれば、室温から600K以下の温度範囲において、優れた熱電特性を発揮できる。特に、パラメータxを制御することにより、n型およびp型を制御できるので、同一元素でn型およびp型の熱電材料を提供できる。同一元素からなるn型およびp型の熱電材料を用いれば、熱膨張係数が同じであるため、熱電発電素子の設計に極めて有利である。
【0010】
本発明の熱電材料の製造方法は、Crを含有する原料およびSeを含有する原料を、一般式Cr
2+xSe
3(ここで、xは−0.1≦x<0または0<x≦0.2を満たす)を満たすように混合するステップと、混合物を焼成するステップとを包含する。原料の調整において、上記一般式を満たすように混合するだけで、上述の熱電材料が得られるため、特別な技術を不要とし、低コストで歩留まりよく熱電材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の熱電材料およびその製造方法について説明する。
【0014】
本願発明者らは、クロム(Cr)とセレン(Se)との二元系化合物に着目し、種々の組成とすることにより、熱電材料となることを見出した。特に、組成を制御するだけで、p型熱電材料にもn型も熱電材料にもなることが分かった。以下に詳細に説明する。
【0015】
本発明の熱電材料は、少なくとも、クロム(Cr)とセレン(Se)との二元系化合物を含有する。このような二元系化合物は、一般式Cr
2+pSe
3+q(ここで、pは−0.1≦p<0または0<p≦0.2を満たし、qは−0.1≦q≦0.05を満たす)で表され、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3で表される相である。二元系化合物が、上述の一般式を満たし、かつ、上述の結晶構造を有する相である場合、室温から600K以下の温度範囲において、優れた熱電特性を発揮できる。
【0016】
本発明の熱電材料において、二元系化合物は、CrおよびSe以外の意図的な異種元素(原料中に含有される不可避不純物を除く)を含有しない。例えば、非特許文献1および2に示すように、異種元素を添加して熱電特性を向上することは知られているが、本発明では異種元素を用いることなく、単に組成を制御するだけで、p型およびn型の熱電特性を発揮できるので、熱膨張係数が変化せず、熱電発電素子の設計に極めて有利である。
【0017】
図1は、Cr
2Se
3結晶を示す模式図である。
【0019】
図1には、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3で表される相としてCr
2Se
3結晶を示すが、分かりやすさのため、Seを省略して示す。本発明の熱電材料においては、二元系化合物が、上述したように所定の組成を有し、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3で表される相からなる。ここで、Cr
2Se
3で表される相(以降では簡単のためCr
2Se
3相と称する)とは、
図1の結晶構造で表され、表1の結晶パラメータおよび原子座標位置を満たす。
【0020】
二元系化合物は、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3相であるが、表1に示すように、三方晶系の結晶構造は、詳細には、空間群R−3(本願明細書において、“3−”とは3のオーバーラインを表す、International Tables for Crystallographyの148番の空間群)の対称性を持ち、格子定数a、bおよびcが、
a=0.625±0.05nm、
b=0.625±0.05nm、および
c=1.738±0.2nm
を満たすものが安定である。この範囲を外れると、結晶が不安定となり得る。
【0021】
本発明の熱電材料において二元系化合物がCr
2Se
3相であることは、X線回折または中性子線回折により同定できる。本発明の二元系化合物は、上述したように、所定の一般式を満たす組成を有するが、構成元素のCrおよびSeが、Cr
2Se
3結晶に対して、リッチまたはプアとなる。この場合、格子定数は変化するが、結晶構造および原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置とによって与えられる原子位置とは、骨格原子間の結合が切れるほどに大きく変わることはない。このため、本発明では、X線回折や中性子線回折の結果をR3−の空間群でリートベルト解析して求めた格子定数および原子座標から計算されたCr−Seの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、表1に示すCr
2Se
3結晶の格子定数と原子座標とから計算された化学結合の長さと比べて±5%以内の場合は同一の結晶構造を有すると定義し、Cr
2Se
3相かどうかの判定を行う。化学結合の長さが±5%を超えて変化すると、化学結合が切れて別の結晶となる場合があるため、このような判定基準とした。
【0022】
簡便には、得られた合成品の粉末X線回折パターンと、Cr
2Se
3結晶の粉末X線回折パターン(例えば、
図4の計算値)とを比較することにより、Cr
2Se
3相かどうかを判定できる。この場合、Cr
2Se
3結晶の粉末X線回折パターンの主要ピークとしては、回折強度の強い10本程度(条件により、少なくても、多くてもよい)で判定するとよい。表1は、その意味でCr
2Se
3相を特定する上において基準となるものである。また、Cr
2Se
3相の結晶構造を三方晶以外の別の晶系を用いて近似的な構造を定義することができる。この場合、異なった空間群、格子定数および面指数を用いた表現となるが、X線回折パターン(
図4の計算値)および結晶構造(
図1)に変わりはない。したがって、他の晶系を用いた同定方法であっても、同定結果は本質的に同一となるため、本願明細書では、三方晶系としてX線回折の解析を行うものとする。
【0023】
本発明の熱電材料は、二元系化合物において、好ましくは、Seに対するCrの原子比(Cr/Se比)が、0.623以上0.759以下を満たす。このように、一般式の組成のみならず、SeとCeとの原子比が所定の範囲を満たすことにより、室温から600K以下の温度範囲において、優れた熱電特性を発揮できる。特に、Cr
2Se
3結晶そのものである二元系化合物は、p型熱電材料として知られているが、本願発明者らは、Seに対するCrの原子比を制御するだけで、Cr
2Se
3結晶固有の熱電特性が向上することを見出した。
【0024】
本願明細書において、本発明の熱電材料は上述の二元系化合物を主相で含有するが、その割合は、重量比で70重量%以上を含有していればよい。主相が70重量%未満の場合、十分な熱電効果が得られない場合がある。主相とする割合は、好ましくは、80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。当然ながら、二元系化合物は主相単相からなることが好ましいため、主相の割合の上限は100重量%であるが、熱電特性を発生させるためには、必ずしも単相である必要はない。なお、このような相の割合を測定する方法は、X線回折測定により、d値(1.54Å−5.80Å)の範囲内で観測される回折パターンをもとに、ピーク位置とピーク強度とから相同定(主相と第二相)を行うことができ、最強ピークの積分強度比から析出割合を算出し、主相を決定することができる(例えば、RIR(Reference Intensity Ratio)法)。また、本発明の熱電材料は、上述の二元系化合物に加えて、第二相として、少量のクロム、酸化クロム等を含有してもよい。
【0025】
さらに、本発明の熱電材料は、上記一般式において、pが−0.1≦p<0または0<p<0.05を満たす場合、室温から600Kの温度範囲において、p型を示すことができる。より好ましくは、Seに対するCrの原子比が、0.623以上0.707未満を満たす。これにより、室温から600Kの温度範囲において、熱電特性に優れたp型熱電材料となる。
【0026】
さらに好ましくは、本発明の熱電材料は、上記一般式において、pは、−0.05≦p≦−0.02または0<p≦0.04を満たす。組成をさらに限定することにより、室温から600Kの温度範囲において、熱電特性にさらに優れたp型熱電材料となる。なおさらに好ましくは、Seに対するCrの原子比が、0.639以上0.703以下を満たす。これにより、室温から600Kの温度範囲において、大きなゼーベック係数(絶対値)を有するp型熱電材料となる。なお、さらに好ましくは、本発明の熱電材料は、上記一般式において、pは、−0.04≦p≦−0.02または0<p≦0.04を満たし、Seに対するCrの原子比が、0.643以上0.703以下を満たす。qは、好ましくは、−0.05≦q≦0.05を満たす。
【0027】
さらに、本発明の熱電材料は、上記一般式において、pが0.05≦p≦0.2を満たす場合、室温から600Kの温度範囲において、n型を示すことができる。より好ましくは、Seに対するCrの原子比が、0.672以上0.759以下を満たす。これにより、室温から600Kの温度範囲において、熱電特性に優れたn型熱電材料となる。
【0028】
さらに好ましくは、本発明の熱電材料は、上記一般式において、pは、0.06≦p≦0.15を満たす。組成をさらに限定することにより、室温から600Kの温度範囲において、熱電特性にさらに優れたn型熱電材料となる。なおさらに好ましくは、Seに対するCrの原子比が、0.675以上0.741以下を満たす。これにより、室温から600Kの温度範囲において、大きなゼーベック係数(絶対値)を有するn型熱電材料となる。なお好ましくは、pは、0.06≦p≦0.12を満たし、Seに対するCrの原子比が、0.675以上0.731以下を満たす。qは、好ましくは、−0.05≦q≦0.05を満たす。
【0029】
このようにCrとSeとを極めて限定した組成となるように制御することにより、同一元素でn型およびp型の熱電材料を提供できる。なお、組成は、蛍光X線分析などによって分析可能である。
【0030】
本発明の熱電材料の形態は、上述の一般式で表される二元系化合物を含有すれば、焼結体、粉体、薄膜等問わない。本発明の熱電材料は上述の二元系化合物を主成分とするが、例えば、焼結体や粉体である場合、上述の二元系化合物に加えて添加物を含有してもよい。このような観点から、本願明細書において、金属間化合物の主成分とする量は、70重量%以上であればよい。70重量%未満の場合、十分な熱電効果が得られない。添加物は、焼結助剤、結着剤等であってもよい。また、本発明の熱電材料は、製造において混入するC(炭素)、金属またはその酸化物等の不可避不純物を含有することも意図する。このような不可避不純物の含有量は、熱電性能を低減させない限り制限はないが、好ましくは、0.15重量%以下であることが望ましい。
【0031】
次に、本発明の熱電材料を製造する例示的な製造方法を説明する。ここでは、熱電材料がバルク体または粉末である場合を説明する。
図2は、本発明の熱電材料を製造する工程を示すフローチャートである。
【0032】
ステップ210:Crを含有する原料およびSeを含有する原料を一般式Cr
2+xSe
3を満たすように混合する。ここで、xは、−0.1≦x<0または0<x≦0.2を満たす。本願発明者らは、CrおよびSeを含有する原料を、上記一般式を満たすように混合するだけで、上述の本発明の二元系化合物を含有する熱電材料が得られることを見出した。
【0033】
Crを含有する原料およびSeを含有する原料は、それぞれ、Cr金属単体およびSe金属単体であってよいが、例えば、Crのケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物または酸フッ化物、Seのケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物または酸フッ化物を用いてもよい。この場合も、各金属元素が、上述の一般式を満たすように混合すればよい。原料は、混合性および取り扱いの観点から粉末、粒、小塊がよい。
【0034】
さらに、本願発明者らは、上記一般式で表される混合組成を調整することによって、上述の同一元素でn型およびp型の伝導型を制御した本発明の熱電材料を製造できることを見出した。
【0035】
上記一般式において、好ましくは、Seに対するCrの原子比(Cr/Se比)が、0.6330以上0.733以下を満たすように、原料を混合する。これにより、室温から600K以下の温度範囲において、優れた熱電特性を有する熱電材料を提供できる。
【0036】
上記一般式において、xが−0.1≦x<0または0<x<0.05を満たすように原料を混合する場合、室温から600Kの温度範囲において、p型を示す熱電材料を提供できる。より好ましくは、Seに対するCrの原子比が、0.633以上0.683未満を満たすように混合する。これにより、室温から600Kの温度範囲において、熱電特性に優れたp型熱電材料を提供できる。
【0037】
さらに好ましくは、上記一般式において、xは、−0.05≦x≦−0.02または0<x<0.05を満たすように原料を混合する。原料の組成をさらに限定することにより、室温から600Kの温度範囲において、熱電特性にさらに優れたp型熱電材料を提供できる。なおさらに好ましくは、Seに対するCrの原子比が、0.650以上0.683未満を満たすように混合する。これにより、室温から600Kの温度範囲において、大きなゼーベック係数(絶対値)を有するp型熱電材料を提供できる。なお、さらに好ましくは、上記一般式において、xは、−0.04≦x≦−0.02または0<x≦0.04を満たし、Seに対するCrの原子比が、0.653以上0.680以下を満たすように混合する。
【0038】
さらに、上記一般式において、xが0.05≦x≦0.2を満たすように原料を混合する場合、室温から600Kの温度範囲において、n型を示す熱電材料を提供できる。より好ましくは、Seに対するCrの原子比が、0.683以上0.733以下を満たすように原料を混合する。これにより、室温から600Kの温度範囲において、熱電特性に優れたn型熱電材料を提供できる。
【0039】
さらに好ましくは、上記一般式において、xは、0.06≦x≦0.15を満たすように原料を混合する。組成をさらに限定することにより、室温から600Kの温度範囲において、熱電特性にさらに優れたn型熱電材料を提供できる。なおさらに好ましくは、Seに対するCrの原子比が、0.687以上0.717以下を満たすように原料を混合する。これにより、室温から600Kの温度範囲において、大きなゼーベック係数(絶対値)を有するn型熱電材料を提供できる。なお好ましくは、xは、0.06≦x≦0.12を満たし、Seに対するCrの原子比が、0.687以上0.707以下を満たす。
【0040】
このように、一般式のパラメータを制御するだけで、n型およびp型を制御できるので、熟練の技術を必要とせず、歩留まりよく本発明の熱電材料を製造できる。
【0041】
ステップ220:ステップS210で得られた混合物を焼成する。焼成は、混合物が反応する温度に加熱すればよく、例示的には、1073K以上1773K以下の温度範囲に加熱する。焼成は、好ましくは、窒素またはアルゴン、ヘリウム等の希ガスである不活性雰囲気、または、真空中で行われる。焼成時間は、焼成温度によって異なるが、例示的には、30分以上48時間以下の範囲である。昇温速度は、特に制限はないが、5K/時間以上20K/時間以下の範囲の昇温速度を採用できる。
【0042】
焼成に先立って、混合するステップで得られた混合物を成形してもよい。これにより、反応が促進するため好ましい。このような成形にはプレス成型が使用され得る。また、焼成後、焼成体を急冷してもよい。これにより、均一な焼成体が得られる。急冷は、223K/秒以上の冷却速度で焼成温度から室温まで冷却すればよい。このようにしえ得られた焼成体は、本発明の熱電材料となる。
【0043】
ステップS220で得られた焼成体を粉砕し、焼結することによって、本発明の熱電材料を焼結体として提供できる。焼結は、例示的には、焼成体を粉砕し、所定の形状に成形した成形体を、10MPa以上100MPa以下の圧力範囲で1073K以上1273K℃以下の温度範囲で行われる。焼結時間は、5分以上12時間以下の時間であればよい。焼結は、通常のホットプレス法、パルス通電焼結法、あるいは、放電プラズマ焼結(SPS)を採用できる。
【0044】
なお、焼結のための焼成体の粉砕は、粒子径(d50)が50μm以下となる粒子となるまで行うことがよい。これにより、後述する焼結を促進できる。好ましくは、焼成体は、粒子径が45μm以下となる粒子となるまで粉砕される。これにより、焼結および熱処理を促進し、処理時間を短縮できる。粉砕は、ボールミル、自動乳鉢、振動ミル等の公知の方法によって行われる。
【0045】
一般に、平均粒子径とは、以下のように定義され得る。粒子径は、沈降法による測定においては沈降速度が等価な球の直径として、レーザ散乱法においては散乱特性が等価な球の直径として定義される。また、粒子径の分布を粒度(粒径)分布という。粒径分布において、ある粒子径より大きい質量の総和が、全粉体のそれの50%を占める場合の粒子径が、平均粒径D50として定義され得る。この定義および用語は、いずれも当業者において周知であり、例えば、JISZ8901「試験用粉体および試験用粒子」、または、粉体工学会編「粉体の基礎物性」(ISBN4−526−05544−1)の第1章等諸文献に記載されている。積算(累積)頻度分布における50%に相当する粒子径を求めて、平均粒径D50とした。平均粒径を求める手段については、上述以外にも多様な手段が開発され、現在も続いている現状にあり、測定値に若干の違いが生じることもあり得るが、平均粒径それ自体の意味、意義は明確であり、必ずしも上記手段に限定されないことを理解されたい。
【0046】
得られた焼結体を高速カッター等により成型(成形)し、熱電発電素子(熱電発電モジュールと呼んでもよい)に採用してもよい。また、得られた焼結体を、物理的気相成長法におけるターゲットに用いれば、本発明の熱電材料を薄膜として提供できる。
【0047】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の熱電材料を用いた熱電発電素子について説明する。
【0048】
図3は、本発明の熱電材料を用いた熱電発電素子を示す模式図である。
【0049】
本発明による発電熱電素子300は、一対のn型熱電材料310およびp型熱電材料320、ならびに、これらのそれぞれの端部に電極330、340を含む。電極330、340により、n型熱電材料310およびp型熱電材料320は、電気的に直列に接続される。
【0050】
ここで、n型熱電材料310およびp型熱電材料320は、実施の形態1で説明した本発明の熱電材料である。熱膨張係数が同じ同一元素からなるn型およびp型の熱電材料を用いるので、本発明の熱電発電素子300の素子化に有利である。電極330、340は、通常の電極材料であり得るが、例示的には、Al、Ni、Cu等である。
【0051】
図3では、低温となる側の電極340に半田等によってn型熱電材料310からなるチップが接合され、n型熱電材料310のチップの反対側の端部と、高温となる側の電極330とが半田等によって接合されている様子が示される。同様に、高温側となる側の電極330に半田等によってp型熱電材料320からなるチップが接合され、p型熱電材料320のチップの反対側の端部と、低温となる側の電極340とが半田等によって接合されている様子が示される。
【0052】
電極330が高温、電極340が、電極330に比べて低温となるような環境に、本発明の熱電発電素子300を設置して、端部の電極を電気回路等に接続すると、ゼーベック効果によって電圧が発生し、
図3の矢印で示すように、電極340、n型熱電材料310、電極330、p型熱電材料320の順で電流が流れる。詳細には、n型熱電材料310内の電子が、高温側の電極330から熱エネルギーを得て、低温側の電極340へ移動し、そこで熱エネルギーを放出し、それに対して、p型熱電材料320の正孔が高温側の電極330から熱エネルギーを得て、低温側の電極340へ移動して、そこで熱エネルギーを放出するという原理によって電流が流れる。
【0053】
本発明では、n型熱電材料310およびp型熱電材料320として実施の形態1で説明した本発明の熱電材料を用いるので、室温〜600Kの広い温度域において発電量の大きな発電熱電素子300を実現できる。室温近傍で同一の構成元素からなる熱電材料を用いるため、良好な熱回収が可能となる。また、熱電材料として薄膜を用いた場合には、IoT電源としてフレキシブル熱電発電モジュールを提供できる。
【0054】
図3では、π型の熱電発電素子を用いて説明したが、本発明の熱電材料は、U字型熱電発電素子(図示せず)に用いてもよい。この場合も同様に、本発明の熱電材料からなるn型熱電材料およびp型熱電材料が、交互に電気的に直列に接続されて構成される。
【0055】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
[例:1〜7]
例1〜例7では、一般式Cr
2+xSe
3(−0.04≦x≦0.12)満たすように原料を混合し、熱電材料を製造した。Cr(粉末、純度99.99%、株式会社高純度化学研究所製)と、Se(粉末、純度99.99%、株式会社高純度化学研究所製)とを、表2に示す設計組成にしたがって混合した(
図2のステップS210)。
【0057】
【表2】
【0058】
各混合物をプレス成型し、ペレット(直径12mm、厚さ1〜2mm)にした。ペレットを石英管に配置し、拡散ポンプで内部を真空にした。その後、表3に示す条件で、室温から1273Kまで100時間かけて昇温(10K/時間)し、1273Kで24時間焼成した(
図2のステップS220)。焼成後、水を使って室温まで急冷却した。
【0059】
【表3】
【0060】
得られた焼成体をメノウ乳鉢でエタノールを用いた湿式粉砕を行った。粉砕後の焼成体の粒子をメッシュ(目開き45μm)により篩分けし、メッシュを通過した粒径45μm以下の粒子のみ取り出した。粒子を、粉末X線回折法(株式会社リガク製、Smartlab3)により同定し、蛍光X線分析(株式会社堀場製作所製、EMAX Evolution EX)により組成分析を行った。結果を
図4、表4および表5に示し、後述する。
【0061】
次いで、粒子を放電プラズマ焼結(SPS)により焼結体した。詳細には、グラファイト製焼結ダイ(内径20mm、高さ40mm)に粒子を充填し、80MPaの一軸応力の下、昇温速度100K/分、焼結温度923K、5分保持した。このようにして、直径10mm厚さ2mm程度のディスク状の焼結体を得た。
【0062】
焼結体を高速カッターにより1.5mm×1.5mm×9mmの直方体に加工し、電気伝導率および熱電物性測定を行った。電気伝導率を、直流四端子法によって測定した。熱電物性としてゼーベック係数および熱伝導率を、定常温度差法により、熱電物性測定評価装置(アドバンス理工株式会社製、ZEM−3)を用いて測定した。測定条件は、いずれも、ヘリウムガス雰囲気下、室温から823Kの温度範囲まで測定した。電気伝導率およびゼーベック係数より得られる熱起電力から電気出力因子を算出し、ゼーベック係数、電気伝導率および熱伝導率から無次元性能指数ZTを算出した。これらの結果を
図5〜
図9および表5に示し、後述する。
【0063】
以上の結果を説明する。
図4は、例1〜例7による試料のX線回折パターンを示す図である。
【0064】
【表4】
【0065】
図4には、計算から算出したCr
2Se
3のX線回折パターンを併せて示す。
図4によれば、例1〜例7のいずれの試料(焼成体)のXRDパターンは、計算したCr
2Se
3のXRDパターンに良好に一致した。例1および例2の試料において、
図4に示すように、一部不明な相が見られたが、最強ピークの積分強度比から析出割合を算出したところ、主相はいずれも三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3相であり、90質量%以上含有された。
【0066】
図4のX線回折パターンからRietveldt解析を行い、結晶構造を求めたところ、表4に示すように、例1〜例7の試料は、いずれも、三方晶系に属し、空間群がR3−および空間群番号148であることを確認した。
【0067】
さらに、蛍光X線分析による組成分析の結果を表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
表5によれば、試料中のCrは、仕込み組成と実質同様となったが、Seは、仕込み時からの変動が見られた。例1で得られた試料の組成は、Cr
1.96Se
3.04であり、例3で得られた試料の組成は、Cr
2Se
3であった。なお、表には示さないが、例2、4〜7の試料は、いずれも、CrとSeとの二元系化合物であり、一般式Cr
2+pSe
3+q(ここで、pは−0.1≦p<0または0<p≦0.2を満たし、qは−0.1≦q≦0.05を満たす)の範囲内であることを確認した。
【0070】
以上から、本発明の方法を実施すれば、少なくとも、CrとSeとの二元系化合物を含有し、二元系化合物は、一般式Cr
2+pSe
3+q(ここで、pは−0.1≦p<0または0<p≦0.2を満たし、qは−0.1≦q≦0.05を満たす)で表され、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3で表される相を主成分とする材料が得られることが示された。
【0071】
図5は、例1〜例7の試料の電気伝導率の温度依存性を示す図である。
【0072】
図5によれば、いずれの試料も、測定温度域において、熱電材料として使用可能な電気伝導率を有し、温度依存性を有することが分かった。また、室温における電気伝導率に着目すれば、組成を制御することによって、電気伝導率を250(Ωcm)
−1〜600(Ωcm)
−1まで変化させることができる。熱電変換素子を構成する際に、使用温度域において求められる電気伝導率を有する材料を適宜選択すればよい。
【0073】
図6は、例1〜例7の試料のゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
【0074】
図6によれば、測定温度域(300K〜823K)において、例1〜例4の試料は、正のゼーベック係数を示し、p型伝導であり、例5〜例7の試料は、負のゼーベック係数を示し、n型伝導であることが確認された。
【0075】
すなわち、一般式Cr
2+pSe
3+q(ここで、pは−0.1≦p<0または0<p≦0.2を満たし、qは−0.1≦q≦0.05を満たす)で表され、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3で表される相であるCrとSeとの二元系化合物は、熱電材料であることが示された。詳細には、一般式Cr
2+pSe
3+q(ここで、pは−0.1≦p<0または0<p<0.05を満たす)で表され、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3で表される相を主相とする二元系化合物はp型熱電材料として機能し、一般式Cr
2+pSe
3+q(ここで、pは0.05≦p≦0.2を満たす)で表され、三方晶系の結晶構造を有するCr
2Se
3で表される相を主相とする二元系化合物はn型熱電材料として機能する。
【0076】
驚くべきことに、例3の試料は、Cr
2Se
3相そのものであるが、Crをわずかにリッチまたはわずかにプアにし、化学量論組成からずらす(例えば、例1、例2、例4)ことにより、室温〜50℃の温度範囲において、90μV/K〜160μV/Kの大きなゼーベック係数(絶対値)を示すp型熱電材料となることが分かった。また、ここで、Seに対するCrの原子比は、0.623以上0.707未満を満たした。
【0077】
Crを化学量論組成からさらにリッチにすると(例えば、例5〜例7)、室温〜50℃の温度範囲において、100μV/K〜250μV/Kの大きなゼーベック係数(絶対値)を示すn型熱電材料となることが分かった。また、ここで、Seに対する前記Crの原子比は、0.672以上0.759以下を満たした。
【0078】
図7は、例1〜例7の試料の電気出力因子の温度依存性を示す図である。
【0079】
図7によれば、組成を選択することによって、測定温度域において、高い電気出力因子を達成できることが分かった。例えば、例4の試料は、300K〜823Kの温度範囲において、高い電気出力因子を示し、とりわけ、600K以下の貧熱を回収するに好適といえ、民生利用の熱電発電素子を提供できる。
【0080】
図8は、例1〜例7の試料の熱伝導率の温度依存性を示す図である。
【0081】
図8によれば、組成を選択しても、測定温度域において、熱伝導率の値はほぼ一定であることが分かった。このことから、本発明の熱電材料の熱伝導率は、組成に依存しないので、素子設計に有利である。
【0082】
図9は、例1〜例7の試料の無次元性能指数ZTの温度依存性を示す図である。
【0083】
図9によれば、組成を選択することによって、測定温度域において、高い無次元性能指数を達成できることが分かった。例えば、例4の試料は、500K〜600Kの範囲では、0.2を超える値となった。
【0084】
以上の結果を簡単のため、表6にまとめる。
【0085】
【表6】