【解決手段】本発明の近視治療用の装置は、視力矯正具、眼保護具、顔保護具、日除け具、表示装置、窓、壁、光源の覆い、及びコーティング材からなる群から選択される、光透過部を有する装置において、前記装置が有する光透過部は、360nm以上400nm以下の範囲内の波長のバイオレットライトを透過して近視を治療するものである。又は、照明器具、表示装置、及び光照射装置からなる群から選択される、発光部を有する装置において、前記装置が有する発光部は、360nm以上400nm以下の範囲内の波長のバイオレットライトを発して近視を治療するものである。
前記近視の治療は、眼軸長を短くすること、屈折値(絶対値)を下げること、及び、裸眼視力を向上させること、から選ばれる1又は2以上の効果が得られることである、請求項1に記載の近視治療用の装置。
360nm以上400nm以下の範囲内の波長の励起光を発光する励起光発光部と、前記励起光発光部を覆うように設けられた赤、緑及び青の各蛍光体とを有する発光素子を備えた、請求項7に記載の近視治療用の装置。
視力矯正具、眼保護具、顔保護具、日除け具、表示装置、窓、壁、光源の覆い、及びコーティング材からなる群から選択される、光透過部を有する第1の装置において、前記装置が有する光透過部は、360nm以上400nm以下の範囲内の波長のバイオレットライトを透過して近視を治療する近視治療用の第1の装置と、
照明器具、表示装置、及び光照射装置からなる群から選択される、発光部を有する第2の装置において、前記装置が有する発光部は、360nm以上400nm以下の範囲内の波長のバイオレットライトを発して近視を治療する近視治療用の第2の装置と、
のセットであって、
前記光透過部を透過した前記360nm以上400nm以下の範囲内の波長のバイオレットライトが眼に届く放射照度が、1.0mW/cm2以下であり、
前記発光部から発する前記360nm以上400nm以下の範囲内の波長のバイオレットライトが眼に届く放射照度が、1.0mW/cm2以下である、近視治療用の装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(関連文献とのクロスリファレンス)
この出願は、2014年6月3日に出願された日本特許出願番号2014−115286及び2015年6月3日に出願された国際出願番号PCT/JP2015/065997に基づく優先権を主張する、米国特許出願第15/366,558号の継続出願です。これらのすべての内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれます。
【0015】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0016】
本発明は、米国出願第15/366558号の近視予防用の装置が、その後の研究により「近視治療」を実現できることを実証したものである。そのため、下記の近視予防用の装置及びその実施形態についての「近視予防」の語は「近視治療」の語に言い換えることができ、近視予防用の装置及びその実施形態は近視治療用の装置及びその実施形態と言い換えることができる。
【0017】
本明細書において、「近視を予防する」とは、近視の発生を予防すること、及び近視の進行を抑制することを意味する。したがって、「近視予防用の装置」とは、近視の発生を予防するための装置、及び近視の進行を抑制するための装置を意味する。さらに、本明細書において、「近視治療」とは、眼軸長を短くすること、屈折値(絶対値)を下げること、及び、裸眼視力を向上させること、から選ばれる1又は2以上の効果が得られることを意味する。
【0018】
本発明は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を眼が受けられるようにすることで、近視を予防(治療に言い換えることができる。以下同じ。)するものである。
【0019】
本発明において、「350nm以上400nm以下」とは、その範囲(350〜400nm)内の全波長からなる光でもよいし、この範囲内の一部の範囲の波長からなる光でもよい。その範囲内の一部の範囲の波長としては、例えば
図11に示す360nm以上400nm以下であってもよく、この360nm以上400nm以下の範囲の光(バイオレットライトという。)を透過又は発光する装置であればよい。
【0020】
(1)光透過部を有する近視予防用の装置
本発明に係る近視予防用の装置は、自然光及び人工光等の光の波長のうち、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を透過する光透過部を有している。その光透過部は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を透過して近視の発生と進行を抑制するように作用する。
【0021】
光透過部は、眼に障害を与えるおそれのある315nm以下の波長の光を透過しない材料で構成されていることが好ましく、近視予防に効果的な波長(350nm以上400nm以下の範囲内)の光だけを透過して波長350nm未満の波長の光を透過しない材料で構成されていることがより好ましい。なお、波長350nm未満の波長の光であっても、眼に影響しない程度の弱い光(スペクトルの裾の光やノイズ的な光)は含まれていてもよいが、その場合であっても315nm以下の光は含まれないことが望ましい。この光透過部は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を透過し、且つ315nm以下(好ましくは350nm未満)の波長の光を透過しない一つの部品でもよいし、あるいは、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を透過する部品と、315nm以下(好ましくは350nm未満)の波長の光を透過しない部品とを組み合わせたものでもよい。
【0022】
具体例として、次のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。視力矯正具(眼鏡レンズ、コンタクトレンズや眼内レンズ等)、眼保護具(サングラス、保護眼鏡やゴーグル等)、顔保護具(ヘルメットのシールド等)、日除け具(日傘やサンバイザー等)、表示装置の表示画面(テレビ、パソコン用モニタ、ゲーム機、ポータブルメディアプレーヤー、携帯電話、タブレット端末、ウェアラブルデバイス、3D眼鏡、仮想眼鏡、携帯型ブックリーダー、カーナビ、デジタルカメラ等の撮像装置、車内モニタ、航空機内モニタ等)、カーテン(布カーテンやビニールカーテン等)、窓(建物、航空機の窓や、車両のフロント、リア、サイドの各ウィンドウ等)、壁(ガラスカーテンウォール等)、光源の覆い(照明のカバー等)、コーティング材(シールや塗布液等)等。
【0023】
ここで眼内レンズとは、水晶体を摘出したときに挿入する人工水晶体及び近視矯正目的の有水晶体で挿入する眼内レンズ(有水晶体眼内レンズ)を指す。
【0024】
光透過部の材料は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を透過し、315nm以下の波長の光(好ましくは350nm未満の波長の光)を透過しないように加工できれば特に限定されず、ガラス、プラスチックなどが例示できる。また、315nm以下の波長の光(好ましくは350nm未満の波長の光)を実質的に吸収する光吸収剤や光散乱剤等を使用してもよい。
【0025】
上記の「光を透過しない」という場合、光透過率が、好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下である。光透過率の測定方法は当業者にはよく知られるところであり、任意の公知の測定装置と方法で測定することができる。
【0026】
350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光の透過率は、周囲の光量によって適正な透過率を選択すればよいが、好ましくは21%以上、更に好ましくは30%以上である。
【0027】
透過した350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光が眼に届く放射照度は、5.0mW/cm
2以下であればよい。好ましい放射照度は、順次、3.0mW/cm
2以下、1.0mW/cm
2以下、0.5mW/cm
2以下、0.25mW/cm
2以下である。一方、放射照度は、人の眼や皮膚に対する影響を考慮して設定されることが望ましい。近視予防の目的で人が長時間光を受ける場合においては、受ける時間とも関係し、時間が短ければ放射照度は大きくてもよいが、時間が長ければ放射照度は小さいことが望ましい。その放射照度は、1.0mW/cm
2以下であることが好ましく、時間が長くなるに従って、0.5mW/cm
2以下、0.1mW/cm
2以下、0.05mW/cm
2以下のように下げていくことが好ましい。放射照度は、公知の方法で測定することができる。
【0028】
本発明に係る光透過部を有する近視予防用の装置は、400nm超の波長の光を透過してもよい。その透過率は、特に限定されない。
【0029】
(2)発光部を有する近視予防用の装置
本発明に係る近視予防用の装置は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を発光する発光部を有している。その発光部は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を発光して近視の発生と進行を抑制するように作用する。発光部を有する近視予防用の装置の具体例としては、次のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。照明器具(室内灯、車内灯、機内灯、街灯、電気スタンド、スポットライト等)、各種表示装置(たとえば、テレビ、パソコン用モニタ、ゲーム機、ポータブルメディアプレーヤー、携帯電話、タブレット端末、ウェアラブルデバイス、3D眼鏡、仮想眼鏡、携帯型ブックリーダー、カーナビ、デジタルカメラ、車内モニタ、航空機内モニタ等)に備えられる表示画面、近視予防のために使用される光照射装置等。
【0030】
発光部は、更に400nm超の波長の光を発生してもよい。例えば、
図11に示すように、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光とともに、400nmを超える波長の光を併せて発光してもよい。400nm超の波長の光は、350nm以上400nm以下の波長の光を発する発光部とは別の発光部から発していてもよいし、350nm以上400nm以下の波長の光とともに同じ発光部から発光していてもよい。400nm超の波長の光は、その光の波長範囲によって、1又は2以上の発光部から発する光全体の色味を調整することができるので、所望する色味に応じた特定の波長範囲の光を発光させることが好ましい。
【0031】
そうした発光部として、
図18に示す発光素子を例示することができる。
図18に示す発光素子は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の励起光を発光する発光部(LED)を備えている。この発光素子は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の励起光を発光する励起光発光部(LED)と、その励起光発光部を覆うように設けられた赤(Red)、緑(Green)及び青(Blue)の各蛍光体とで構成された例である。こうした構成により、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の励起光が蛍光体に照射されると蛍光体は白色光を発する。また、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光(励起光)の一部は図示するように蛍光体を透過する。こうした発光素子は、白色光源として利用できるとともに、近視予防効果を生じさせるものとして利用できる。
【0032】
また、
図19に示す発光素子も例示することができる。
図19に示す発光素子は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を発光する発光部(LED)を備えたRGB発光素子である。この発光素子は、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を発光する発光部と、R(赤)、G(緑)及びB(青)の各発光部(LED)とで構成された例である。こうした構成により、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を発光して近視予防効果を生じさせるとともに、RGB発光素子により白色光を発して室内等の白色光源として利用できるという利点がある。なお、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光は、必要に応じてON/OFFでき、必要なときに必要な時間発光させて、近視予防効果を生じさせることができる。
【0033】
一般的なRGB発光素子は、太陽光に近い擬似的な白色光を作り出すことはできても、その白色光中には350nm以上400nm以下の範囲内の光はほとんど含まれていない。しかしながら、
図18及び
図19に示す発光素子は、350nm以上400nm以下の範囲内の光を発光させることができ、さらにスペクトル幅の広い太陽光に近い非擬似的な白色光(自然光)ということができ、特に近視予防効果を有する350nm以上400nm以下の範囲内の光を選択的に発光するという格別の効果を生じさせる発光素子である。なお、白色光は、
図18及び
図19に示す手段で発光させてもよいし、それ以外の手段で発光させてもよい。それ以外の手段の一例としては、発光波長をコントロールしたR(赤色)とG(緑色)とからなる発光素子(Bは含まない)を挙げることができる。
【0034】
また、350nm以上400nm以下の波長の光を発する発光部を有する場合においては、350nm未満の波長の光は発生しないことが好ましい(
図4及び
図11参照)。なお、350nm未満の光がノイズ的に少し発光する場合であっても、眼に障害を与えるおそれのある315nm以下の波長の光は発光しないことがより好ましい。
【0035】
発光部の発する350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光が眼に届く放射照度は特に限定されないが、5.0mW/cm
2以下であればよい。好ましい放射照度は3.0mW/cm
2以下である。一方、放射照度は、人の眼や皮膚に対する影響を考慮して設定されることが望ましい。近視予防の目的で人に向けて長時間光を発光させる場合においては、発光時間とも関係し、時間が短ければ放射照度は大きくてもよいが、時間が長ければ放射照度は小さいことが望ましい。その放射照度としては、1.0mW/cm
2以下であることが好ましく、時間が長くなるに従って、0.5mW/cm
2以下、0.1mW/cm
2以下、0.05mW/cm
2以下のように下げていくことが好ましい。放射照度は、公知の方法で測定することができる。なお、放射照度は、眼に入る又は届く光の強度のことを意味する。
【0036】
なお、本発明に係る発光部を有する近視予防用の装置は、上記の光透過部を有する近視予防用の装置と併用して近視予防セットとしてもよい。それによって、より安全に、よりすぐれた近視予防効果が発揮される。併用する場合においては、光透過部を有する近視予防用の装置の光透過特性に応じて、発光部から発する光の放射照度を調整してもよい。例えば、光透過部が、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光の透過性を抑えている場合には、発光部から発光させる放射照度は、上記した放射照度の値よりも高くしてもよい。一方、光透過部が、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光の透過性を抑えていない場合には、発光部から発光させる放射照度は、上記した放射照度の値の範囲内で調整すればよい。
【0037】
(3)近視予防方法
本発明の第一の近視予防方法は、上記光透過部を有する近視予防用の装置を装着することである。装着方法は特に限定されず、近視予防用の装置の種類に従い、適切に装着すればよい。
【0038】
本発明の第二の近視予防方法は、上記発光部を有する近視予防用の装置を使用することである。使用方法は特に限定されず、近視予防用の装置の種類に従い、適切に装着すればよい。近視予防用の装置が、室内灯などの日用品であれば、特別な使用方法はなく、日常生活の中で室内灯を使用するだけでよい。また、近視予防のために使用される光照射装置であれば、一日のうち一定時間、その照射装置から照射される光が目に入るように使用すればよい。
【0039】
本発明の第三の近視予防方法は、上記発光部を有する近視予防用の装置を使用しながら上記光透過部を有する近視予防用の装置を装着することである。それによって、より安全に、よりすぐれた近視予防効果が発揮される。
【0040】
なお、これらの方法は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物であれば適用できる。
【0041】
(4)近視予防に適した光の調査方法
近視予防に適した光の特定方法は、350nm以上400nm以下の範囲内のうち所定の波長の光が近視を予防できるかを調べる方法であって、その波長の光をヒト又はヒト以外の脊椎動物に照射することを含み、さらにそのヒト又はヒト以外の脊椎動物から採取された細胞や遺伝子に照射することを含む。そして、その波長が、実際に近視を予防できるかどうか、例えば、実施例2に記載の方法で調べる。これによって、350nm以上400nm以下の範囲内のうち、どの波長あるいはどの範囲の波長が特に効果が高いかを特定することができる。また、ヒト又はヒト以外の脊椎動物から採取された細胞や遺伝子に対して照射する場合としては、ヒト由来の網膜視細胞株661Wを用い、近視抑制遺伝子EGR1の発現増加を確認したこと等を挙げることができる。
【実施例】
【0042】
<実施例1>
350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を透過し又は実質的に透過し、350nm未満の波長の光を透過しない又は実質的に透過しない光透過部を有する近視予防用の装置として、有水晶体眼内レンズを例に、その近視予防効果を下記の試験によって検証した。
【0043】
まず、眼の眼軸長を測定し、測定した眼に、約400nm以下の波長の光をほぼ完全に透過しない有水晶体眼内レンズであるArtisan(商品名) Model204(Ophtec B.V.製)、又は350〜400nmの範囲の波長の光を透過する有水晶体眼内レンズであるArtiflex(商品名) Model401(Ophtec B.V.製)を、手術によって挿入した。その後、挿入術5年経過時の眼軸長伸長を測定した。眼軸長の測定は、IOLマスター(Carl Zeiss Meditec社製)を使用し、標準的方法で行った。
【0044】
Artisan(商品名)の分光透過曲線を
図1に示し、Artiflex(商品名)の分光透過曲線を
図2に示す。
【0045】
一方で、コントロール眼として、屈折矯正手術を受けていない強度近視眼185眼の眼軸長の2年間の伸長の度合いを測定し、平均値を求めた。コントロール眼の眼軸長伸長は、平均で0.065mm/年であった(詳細は、Saka N et al., Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol., Vol.251, pp.495−499,2013を参照)。眼軸長は、上記と同様IOLマスターを使用して測定した。
【0046】
Artisan(商品名)を使用した7例14眼(平均年齢35.7歳)、Artiflex(商品名)を使用した9例17眼(平均年齢36.1歳)、及びコントロール眼(185眼、平均年齢48.4歳)の5年間の眼軸長の伸長の度合いを、
図3に示す。Artisan(商品名)を使用した眼及びArtiflex(商品名)を使用した眼は、挿入術後と挿入術前の眼軸長の差分を5年間の眼軸長の伸長度合いとし、コントロール眼は、上記で求めた1年の平均眼軸長伸長を5倍して得た値を5年間の眼軸長の伸長度合いとした。
【0047】
図3に示すように、350〜400nmの範囲の波長の光を受けた眼の眼軸長の伸長の度合いが、約400nm以下の波長の光をほぼ完全に受けなかった眼に比べて、有意に小さくなった。
【0048】
<実施例2>
350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を発する発光部を有する近視進行予防装置として、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を照射する照射装置を例に、その近視予防効果を下記の実験により検証した。
【0049】
ヒヨコは、片目を透明半球で覆うとその眼(遮蔽眼)が近視化することが知られている(たとえば、Seko et al.,Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.,May,1995,vol.36,no.6,p.1183−1187参照)。そこで、生後6日のホワイトレグホン種のヒヨコ30羽の片目を透明半球で覆い、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を照射しない非照射群15羽と、350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光を照射する照射群15羽とに分け、それぞれ縦450mm、横800mm、高さ250mmの寸法のゲージに入れ、1日を明暗12時間ずつとして1週間飼育し、遮蔽眼の近視化の度合いを調べた。
【0050】
350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光(ピーク波長365nm)の照射は、UVランプPL−S TL/08(Philips社製)を使用し、出力1.7Wで行った。なお、このランプは、非破壊検査、捕虫、紙幣鑑別、医療、ディスプレイ等の用途として使用されているものである。
【0051】
照射装置の分光エネルギー分布を
図4に、照射した光の放射照度(mW/cm
2)とランプとの距離h(mm)との関係を
図5に示す。なお、光源は、ヒヨコまでの距離が約80mmとなるように設置した。ヒヨコは、飛び跳ねる等するので、光源からヒヨコまでの距離は、最も近づいたときで50mm程度になる。
【0052】
非照射群のうち14羽及び照射群のうち13羽について、生後13日目(遮蔽開始1週間後)の遮蔽眼の屈折値及び硝子体腔長及び眼軸長を測定した。屈折値はオートレフラクトメーターを使用し標準的な方法で測定した。硝子体腔長及び眼軸長の測定は、US−4000(株式会社ニデック製)を使用しBモードで行った。
【0053】
屈折値測定の結果を
図6に、眼軸長測定の結果を
図7に示す。有意差検定には、マン・ホイットニーのU検定を用いた。図中、「UVA(−)」の表記は非照射の意味であり、「UVA(+)」の表記は照射の意味である。
【0054】
図6に示すように、照射群の遮蔽眼の平均屈折値は、非照射群の遮蔽眼の平均屈折値に比べ有意に大きな値となった(350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光の照射により近視予防効果があった)。また、
図7に示すように、照射群の遮蔽眼の平均眼軸長は、非照射群の遮蔽眼の平均眼軸長に比べ有意に小さかった。従って、照射群の近視の度合いの方が、非照射群に比べ有意に小さくなることが明らかになった。また、
図4と
図5に示す強度の値から、比較的弱い強度で近視予防効果が達成された。
【0055】
<実施例3>
305nmにピークを有する光(
図8)を、生後5日目のヒヨコに、2日間照射したところ、ヒヨコ角膜に上皮びらんが形成された。315nm以下の波長の光は組織障害性が強く、近視予防のために照射する光は、315nm以下の波長の光を含まない光であることが望ましく、340nm以上の波長の光であることが好ましく、350nm以上の波長の光であることがより好ましい。
【0056】
<実施例4>
350nm以上400nm以下の範囲内の波長の光による近視抑制効果の実施のためには、当該波長の光を発する電灯とそれを通すレンズを有するメガネを合わせて使うことが有効である。
【0057】
既に市場に出ている電灯とメガネは、本発明の効果を示さない。一例として、
図9は、400nm以下の波長の光を発さず若しくは実質的に発さず、又は、400nm以下の波長域にピークを有する光を発さず、近視抑制効果の無いLED電灯の分光スペクトラムである。
図10は、400nm以下の波長の光を通さず若しくは実質的に通さず、近視抑制効果の無いメガネレンズの透過光スペクトラムである。なお、「実質的に発さず」及び「実質的に通さず」とは、他の領域の光に比べて発光や透過が著しく小さいことを意味する。
【0058】
一方、本発明の近視予防用の装置の一例として、電灯の分光スペクトラムを
図11に、その電灯の写真を
図12に示す。
図12の電灯は、近視予防に有効な波長の光を発する特殊LEDが光っている。また、
図12の電灯は、
図11に示すようにピーク波長である380nmの強度を強くしたり(a)、弱くしたり(b)して変化させることができる。こうしたピーク強度を可変できる電灯は、照射強度を任意にコントロールすることができるので、近視予防を効果的に行える点でより好ましい。
【0059】
図4に示すランプと
図11に示す電灯はいずれも近視予防用の装置として効果があると認められることから、本発明の近視予防用装置としては、ピーク波長が365nm(
図4)〜380nm(
図11)の範囲内にあって、350nm以上400nm以下の波長の光を発する発光部を含むものが好ましいといえる。このとき、350nm未満の波長の光、特に315nm以下の波長の光は、発しない又は実質的に発しないことが望ましい。なお、
図4及び
図11に示す電灯から発する光は、350nm未満にピーク波長のある光ではなく、400nm超にピーク波長のある光でもない。したがって、「ピーク波長が365nm(
図4)〜380nm(
図11)の範囲内にあって、350nm以上400nm以下の波長の光を発する発光部」は、350nm未満の波長及び400nm超の波長にピークを有する光を発しないということができる。
【0060】
図13は、近視予防に有効な波長の光を通すメガネのレンズの透過スペクトラムである。
図13のメガネを
図11で示した電灯と組み合わせて使用することによって、近視抑制効果を効率よく発揮させることができる。
【0061】
<実施例5>
350〜400nm(ピーク波長:365nm)の波長の光を、放射照度が0.048mW/cm
2と0.428mW/cm
2にそれぞれ変更して、実施例2と同様の実験を行った。実験は、実施例2と同様、約8匹のヒヨコをそれぞれ縦450mm、横800mm、高さ250mmの寸法のゲージに入れ、1日を明暗12時間ずつとして1週間飼育し、遮蔽眼の近視化の度合いを調べた。
図14は、0.048mW/cm
2の放射照度で照射した光の分光スペクトラムであり、
図15は、
図14に示す光を照射したときの眼軸長を測定した結果である。また、
図16は、0.428mW/cm
2の放射照度で照射した光の分光スペクトラムであり、
図17は、
図16に示す光を照射したときの眼軸長を測定した結果である。眼軸長の測定は、実施例2と同様、US−4000(株式会社ニデック製)を使用しBモードで行った。
【0062】
<結論>
このように、350nm以上、400nm以下の範囲内の波長の光を眼が受けられるようにすると、その眼の近視の発生と進行を抑制することができる。
【0063】
<実施例6>
図20は、実施例6で使用した近視治療用のめがね型装置の写真である。
図21は、実施例6で使用した近視治療用のめがね型装置の発光状態示した写真である。光源は、360nm以上400nm以下の範囲内の波長のバイオレットライトを照射するために、日亜化学株式会社製のLED(「NSSU123T」、ピーク波長の測定値:373nm)を使用し、
図21に示すように、左右のトップリム(フレーム上側)の中間位置に設けている。
図23は、その光源の光スペクトラムであり、ファイバーマルチチャンネル分光器(StellarNet社、米国製、Blue Wave)で測定した結果である。
【0064】
このめがね型装置を用い、2016年1月又は2月から2名の治験者に1日6時間〜8時間装着させた。そのときの照射条件として、眼球表面での放射照度を310μW/cm
2に調整した。放射照度の測定は、眼球面に上記分光器のプローブを設置して行った。フレームに設けた光源(
図21参照)から眼球までの距離は、約2cmであった。
【0065】
図22は、一の治験者による2016年2月24日の試験開始時点での左右の眼の眼軸長の結果と、それ以後、放射照度310μW/cm
2で1日6時間〜8時間装着したときの経時的な結果である。左右とも眼軸長が短くなっていることが確認された。また、裸眼視力も測定した。表1は裸眼視力の結果であり、左右とも裸眼視力が向上していることが確認された。
【0066】
【表1】
【0067】
表2は、他の治験者による2016年1月6日の試験開始時点での左右の眼の眼軸長及び屈折値の結果と、それ以後、放射照度310μW/cm
2で1日6時間〜8時間装着したときの経時的な結果である。左右とも眼軸長が短くなっていることが確認された。また、屈折値も測定し、屈折値(絶対値)が小さくなっていることが確認された。なお、屈折値は、非調節麻痺下での等価球面値である。なお、この測定は、オートレフラクトメーター(NIDEK CO.,LTD.製、ARK−1s)により行った。
【0068】
【表2】
【0069】
<結論>
このように、360nm以上400nm以下の範囲内の波長のバイオレットライトを眼が受けられるようにすると、眼軸長を短くすること、屈折値(絶対値)を下げること、及び、裸眼視力を向上させること、から選ばれる1又は2以上の効果を実現でき、近視を治療することができる。