(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-59902(P2020-59902A)
(43)【公開日】2020年4月16日
(54)【発明の名称】粉末材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/02 20060101AFI20200319BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20200319BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20200319BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20200319BHJP
C22C 14/00 20060101ALN20200319BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20200319BHJP
C22C 27/04 20060101ALN20200319BHJP
【FI】
B22F1/02 F
B22F3/105
B22F3/16
C22C38/00 304
C22C14/00 Z
C22C21/00 N
C22C27/04 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-193298(P2018-193298)
(22)【出願日】2018年10月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】真家 信夫
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BA20
4K018BC33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】粉末状の基材の表面に、積層造形用の粉末材料としての品質が低下しない範囲で酸化皮膜を形成することで、流動性を長期に渡って保つことができる、積層造形用の粉末材料の製造方法を提供する。
【解決手段】鉄系材料である粉末状の基材11を、酸素含有量が基材11と比較して0.0025重量%ポイント以上0.0100重量%ポイント以下の範囲で増加するように、酸素含有雰囲気下で所定の温度範囲で加熱して、基材11の表面に酸化皮膜15を形成する、積層造形用の粉末材料1の製造方法が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系材料である粉末状の基材を、酸素含有量が前記基材と比較して0.0025重量%ポイント以上0.0100重量%ポイント以下の範囲で増加するように、酸素含有雰囲気下で所定の温度範囲で加熱して、前記基材の表面に酸化皮膜を形成する、積層造形用の粉末材料の製造方法。
【請求項2】
前記酸素含有雰囲気は、空気である、請求項1に記載の積層造形用の粉末材料の製造方法。
【請求項3】
前記所定の温度範囲は、190℃以上240℃以下である、請求項1または請求項2に記載の積層造形用の粉末材料の製造方法。
【請求項4】
前記粉末材料の酸素含有量は、200重量ppm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の積層造形用の粉末材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉末材料の製造方法、特に積層造形用の粉末材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の三次元積層造形物を形成するための積層造形方法として、粉末床溶融結合や指向性エネルギー堆積等、金属からなる粉末材料を使用するものが知られている。例えば、粉末床溶融結合の一種である粉末焼結積層造形法によれば、上下方向に移動可能な造形テーブル上に粉末材料からなる粉体層を形成し、この粉体層の所定箇所にレーザ光を照射して照射位置の粉末材料を焼結させることを繰り返すことによって、複数の焼結層を積層して所望の三次元造形物を造形する。
【0003】
これらの積層造形方法に使用される粉末材料の製造方法としては、アトマイズ法、粉砕法、析出法、気相反応法等種々の方法が公知である。特に、安定した品質の球状粉末を量産することができるアトマイズ法(特許文献1)が一般に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5140342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の積層造形用の粉末材料においては、製造後暫く経つと流動性が悪化する傾向がみられた。流動性が悪化する主な原因については、検証によって完全に明らかにされているわけではないが、接触する粉末同士が時間とともに化学的に結合することによって凝集して流動性が悪化していると考えられる。流動性が悪化した粉末材料を積層造形に使用すると、造形物の精度の悪化や、積層造形装置内でのブリッジやラットホール等の排出不良を招く。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、粉末状の基材の表面に積層造形用の粉末材料としての品質が低下しない範囲で酸化皮膜を形成することで、流動性を長期に渡って保つことができる積層造形用の粉末材料の製造方法を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、鉄系材料である粉末状の基材を、酸素含有量が基材と比較して0.0025重量%ポイント以上0.0100重量%ポイント以下の範囲で増加するように、酸素含有雰囲気下で所定の温度範囲で加熱して、基材の表面に酸化皮膜を形成する、積層造形用の粉末材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る積層造形用の粉末材料の製造方法においては、粉末状の基材の表面に酸化皮膜が形成されるので、流動性を長く保持することができる粉末材料を製造することができる。また、必要以上に表面を酸化させることがないので、積層造形用の粉末材料としての品質は十分保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の基材と粉末材料の概略断面図である。
【
図2】基材を製造する造粒装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】基材の表面に酸化皮膜を形成する加熱装置の一例を示す概略構成図である。
【
図4】粉末材料が使用される積層造形装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
本実施形態の粉末材料1は、
図1(a)に示す粉末状の基材11を酸化させ、基材11の表面に酸化皮膜15を形成することで形成される。
図1(b)に概略的に示すように、粉末材料1は、コア部13と、コア部13の表面を覆うよう形成された酸化皮膜15とを備える金属粉末である。例えば、粉末材料1は主として平均粒径30μmの略球状粉末からなるが、その他の形状のものが含まれていてもよい。
【0012】
後述するように、基材11の表面を酸化させて酸化皮膜13を生成する都合上、基材11は酸素と反応する金属である必要がある。具体的に、基材11は鉄系材料である。なお、本明細書において鉄系材料とは、主成分が鉄である金属材料をいう。好ましくは、基材11には、鉄、アルミニウム、チタン、モリブデン等の酸化皮膜13を形成するのに必要な金属元素が、合計で70%以上含まれていることが望ましい。例えば、基材11は、マルエージング鋼またはステンレス鋼である。また、基材11は、一般的なマルエージング鋼の成分からコバルトを実質的に除去したマルエージング鋼相当の鋼材であってもよい。
【0013】
基材11は、例えばガスアトマイズ法によって製造される。
図2には、基材11を製造する造粒装置2が示される。まず、溶解室21に設けられた溶解炉22によって、原料となる金属が溶融され溶湯が生成される。このとき、金属の変質を防止するため、溶解室21には不活性ガスが充満されることが望ましい。溶湯はタンディッシュ23へと流し込まれ、タンディッシュ23の底面に設けられた穴から溶湯が線状に流れ出す。この溶湯に対して粉霧室24内に設けられたノズル25から不活性ガスが吹き付けられ、飛散した溶湯は粉霧室24内で表面張力によって略球状になり凝固して基材11となる。こうして生成された基材11は粉末回収部26へと貯留され回収される。なお、基材11を製造するにあたっては、所望の基材11が得られるものであれば、以上に具体的に示した以外の方法および装置が適用可能である。造粒装置2によって製造された基材11は分級機によって篩分され、所望の粒度分布になるよう混合される。
【0014】
このように製造された基材11に対し、加熱装置3によって加熱処理を行う。
図3に示すように、加熱装置3は、加熱処理の対象となる基材11が収容される加熱室31と、加熱室31を所望の温度に加熱可能なヒータ33を備える。加熱処理にあたり、基材11は薄く容器35に広げられ、加熱室31内に静置される。加熱処理中の加熱室31内の雰囲気は、酸素含有雰囲気である。本実施形態においては、酸素含有雰囲気は、具体的には常圧の空気である。
【0015】
このような加熱装置3を用いて、基材11を、酸素含有量が基材11と比較して0.0025重量%ポイント以上0.0100重量%ポイント以下の範囲で増加するように加熱する。加熱温度は、例えば、190℃以上240℃以下である。こうして、基材11の表面が酸化し、コア部13と、コア部13の表面を覆うよう形成された酸化皮膜15とを備える粉末材料1が得られる。
【0016】
酸化皮膜13は、粉末材料1同士が凝集するのを防止するので、粉末材料1の流動性を長く保つことができる。なお、酸化皮膜13は、主に酸化鉄からなるが、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化モリブデン等、その他の酸化物が含まれていてもよい。
【0017】
積層造形用の材料において、酸素は造形時に物性の低下を招くため、通常は極力含まれないようにされる。そのため、粉末材料1の酸素含有量は、所望の厚みの酸化皮膜13を有する範囲で、なるべく低く抑えられることが望ましい。具体的に、粉末材料1の酸素含有量は、200重量ppm以下であることが望ましい。本実施形態においては、基材11を、酸素含有量が基材11と比較して0.0025重量%ポイント以上0.0100重量%ポイント以下の範囲で増加するように加熱して酸化皮膜13を形成したので、粉末材料1の酸素含有量を、200重量ppm以下に抑えることができる。
【0018】
以上のように製造された粉末材料1は、例えば、
図4に示すような積層造形装置4において使用される。積層造形装置4は、チャンバ41と、リコータヘッド43と、材料供給装置45と、造形テーブル47と、レーザ照射装置49と、を備える。
【0019】
所定濃度の不活性ガスが充満するチャンバ41内に、上下方向に移動可能な造形テーブル47が設けられる。造形テーブル47は、所望の三次元造形物が形成可能な領域である造形領域Rを有する。粉体層の形成にあたっては、造形テーブル47は粉体層の1層の厚み分降下される。リコータヘッド43は、材料供給装置45から供給された粉末材料1を内部に収容し、底面から排出しながら造形領域R上を往復移動する。このとき、リコータヘッド43の両側面にそれぞれ設けられたブレードで排出された粉末材料1は平坦化され、所望の三次元造形物を所定高さで分割してなる複数の分割層毎に粉体層が形成される。レーザ照射装置49は、粉体層の所定の位置にレーザ光Lを照射して、焼結層を形成する。このような粉体層の形成と焼結層の形成が繰り返され、所望の三次元造形物が形成される。なお、造形途中または造形後に、焼結層に対して切削加工を行ってもよい。
【0020】
本実施形態の粉末材料1によれば、表面の酸化皮膜15によって流動性が保たれているので、より平坦な粉体層を形成することができ、ひいてはより高精度な造形が可能となる。また、リコータヘッド43や材料供給装置45における排出不良も抑制できる。一方で、酸素含有量は低く抑えられているので、三次元造形物の物性には殆ど影響はない。
【0021】
本実施形態では、粉末焼結積層造形法を採用した積層造形装置4を例示したが、本実施形態の粉末材料1は、粉末状の材料を使用する積層造形装置の材料として広く適用できる。
【実施例】
【0022】
以下、詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
種々の加熱温度、加熱時間で加熱処理を行った粉末材料を用意し、流動性の経時変化を測定した。なお、加熱雰囲気は常圧の酸素である。測定に用いた粉末材料は、炭素約0.03重量%、アルミニウム約1.0重量%、珪素約0.3重量%、チタン約0.9重量%、マンガン約0.1重量%、ニッケル約10.0重量%を含有し、残部は鉄および酸素を含む不可避不純物からなる鉄系合金であり、平均粒径約30μmの略球状粉末である。
【0024】
具体的に、流動性は所定高さから粉末材料を落下させたときの落下時間および安息角θによって示される。
図5(a)および
図5(b)に示す測定装置5は、漏斗51と、漏斗51を保持する架台53とを備え、計量した粉末材料を平坦な床に落下させる装置である。漏斗51の吐出口から床までの高さhは約103mmに調整される。漏斗51の吐出口を指で押さえ、400gの粉末材料を漏斗51に投入した。そして、漏斗51の吐出口から指を離すと同時にストップウォッチで落下時間の計測を開始した。すべての粉末材料が落下したところでストップウォッチを止め、落下に要した時間を落下時間とした。また、床と粉末材料の稜線の作る角度を、注入法に基づく安息角θとして測定した。1回の測定につき前述の手順を3回繰り返し、その平均値を結果とした。落下時間および安息角θの結果は、表1の通りである。
【0025】
【表1】
【0026】
表1から分かるとおり、加熱処理時の加熱温度および加熱時間と、加熱処理による酸素増加量にはそれぞれ相関がある。また、酸素増加量が低い、ひいては酸化皮膜15の膜圧が薄いときは、加熱処理によって一時的に流動性は向上するが、日数が経つにつれ流動性が悪化することが分かる。本測定では、加熱処理直後から7日経過するまでの間の期間において、落下時間が5秒未満、かつ安息角が28°未満を維持したものについて、流動性が保たれていると判定した。なお、流動性の判定基準はこの限りではなく、他の測定方法を採用してもよい。また、実施例では、所定量の粉末材料を積層造形装置4に使用して流動性に問題がないかを別途検証しているが、このような検証を行わない場合には、例えば1か月以上の期間計測して判定するようにしてもよい。本測定によれば、酸素増加量が約0.0025重量%ポイント以上であるときに、流動性を保つために必要な厚みの酸化皮膜15が形成されていることが分かる。加熱処理を1分行うとき、酸素増加量が約0.0025重量%ポイント以上となる加熱温度は、190℃以上であった。一方で、酸素増加量が約0.0100重量%ポイント以下となるよう加熱処理を行えば、酸素含有量を積層造形用の粉末材料1として望ましい量、例えば200重量ppm以下とすることができる。加熱処理を1分行うとき、酸素増加量が約0.0100重量%ポイント以下となる加熱温度は、240℃以下であった。
【0027】
以上の通り、本発明の実施形態および実施例を説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、実施形態および実施例で示した各技術的特徴は、技術的に矛盾が生じない範囲で互いに組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 粉末材料
15 酸化皮膜