【解決手段】導波路装置は、導電性表面と第1の貫通孔とを有する第1の導電部材と、各々が前記導電性表面に対向する先端部を持つ複数の導電性ロッド、および前記第1の貫通孔の軸方向に沿って見たときに前記第1の貫通孔と重なる第2の貫通孔を有する第2の導電部材と、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔との間の空間の少なくとも一部を囲む導電性の導波壁であって、前記複数の導電性ロッドに囲まれ、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔との間で電磁波を伝搬させる導波壁と、を備える。前記導波壁は、内側に段差部を備える。
前記第1の導電部材の前記導電性表面に垂直な方向から見たとき、前記第1および第2の貫通孔、ならびに前記導波壁の内壁面で囲まれる領域は、第1の方向に延びる横部分と、前記横部分の両端から前記第1の方向に交差する第2の方向に延びる一対の縦部分とを含むH形状を有し、
前記導波壁の前記内壁面は、前記一対の縦部分に平行な一対の第1の内壁面を含み、
前記段差部または前記傾斜部は、前記一対の第1の内壁面のうち、前記第2の導電部材が位置する側の縁にある、
請求項2に記載の導波路装置。
前記第1の導電部材の前記導電性表面に垂直な方向から見たとき、前記第1および第2の貫通孔、ならびに前記導波壁の内壁面で囲まれる領域は、第1の方向に延びる横部分と、前記横部分の両端から前記第1の方向に交差する第2の方向に延びる一対の縦部分とを含むH形状を有し、
前記導波壁の前記内壁面は、前記一対の縦部分に平行な一対の第1の内壁面を含み、
前記段差部または前記傾斜部は、前記一対の第1の内壁面のうち、前記第1の導電部材が位置する側の縁にある、
請求項3に記載の導波路装置。
正面側の第1の導電性表面、背面側の第2の導電性表面、および前記第1の導電性表面と前記第2の導電性表面との間を貫通する1つ以上のスロットを有する導電部材を備え、
前記第1の導電性表面は、前記1つ以上のスロットをそれぞれ囲む1つ以上のホーン、および前記1つ以上のホーンの両側に位置する2つの凹部を規定する形状を有し、
前記1つ以上のホーン、および前記2つの凹部は、間に導電壁を介して1列に並び、
前記1つ以上のホーン、および前記2つの凹部の間の前記導電壁の各々は、中央部と前記中央部の両側の部位を隔てる2つの溝部を有する、
アンテナ装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態をより具体的に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明においては、同一または類似する構成要素には、同一の参照符号を付している。
【0012】
図1は、本開示の例示的な実施形態にかかる導波路装置100を模式的に示す。導波路装置100は、電磁波の伝搬に用いられる。この導波路装置100は、送信部116および受信部117を有するアンテナ装置として機能する。送信部116および受信部117の各々は、1つ以上のアンテナ素子を有する。
図1の例では、送信部116および受信部117の各々は、複数のアンテナ素子を有する。送信部116における各アンテナ素子は、導波路装置100の内部の導波路を伝搬した電磁波を外部空間に放射する。受信部117における各アンテナ素子は、外部空間から到来する電磁波を受け、導波路装置100の内部の導波路に伝送する。
【0013】
図1および以降の図には、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。以下、このXYZ座標を用いて導波路装置100の構造を説明する。なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0014】
以下の説明において、電磁波が放射される側または電磁波が到来する側を「正面側」と称し、正面側の反対側を「背面側」と称する。本実施形態において、正面側は+Z方向側であり、背面側は−Z方向側である。
【0015】
図2は、導波路装置100を−Y方向側から見た場合の構造を示す側面図である。本実施形態における導波路装置100は、複数の板状の導電部材を積層した構造を備える。導波路装置100は、第1の導電部材110と、第2の導電部材120と、第3の導電部材130とを有する。第1の導電部材110、第2の導電部材120、第3の導電部材130は、この順に間隙を空けて積層されている。各導電部材は、例えば金属板を加工して成型される。あるいは、各導電部材は、成形された樹脂などの誘電体部材にメッキを施すことによっても作製され得る。各導電部材は、正面側および背面側の両方に導電性表面を有し得る。
【0016】
第1の導電部材110は、正面側(+Z方向側)の面に送信部116と受信部117とを備える。第1の導電部材110は、正面側の面および反対側の面に、平坦な導電性表面110a、110bをそれぞれ有する。背面側の導電性表面110bは、第2の導電部材120における+Z方向側の導電性表面120aに対向する。第2の導電部材120は、各々が第1の導電部材110の導電性表面110bに対向する先端部を持つ複数の導電性ロッド124を有する。第2の導電部材120は、−Z方向側の面にも導電性表面120bを有する。この導電性表面120bは、第3の導電部材130の+Z方向側の導電性表面130aに対向する。第3の導電部材130は、第2の導電部材120の−Z方向側の導電性表面120bに対向する先端部を持つ複数の導電性ロッド134を有する。
【0017】
図3は、第1の導電部材110の放射側の構造を示す平面図である。第1の導電部材110は、送信部116において、Y方向に並んで配置された複数のアンテナ素子111Aを備える。本実施形態における各アンテナ素子は、ホーンアンテナ素子である。図示される例では送信部116は3つのアンテナ素子111Aを有するが、送信部116におけるアンテナ素子111Aの数は3つに限定されない。
【0018】
第1の導電部材110は、受信部117において、X方向およびY方向に二次元的に配列された複数のアンテナ素子111Bを有する。図示される例では、受信部117は4行4列に配列された16個のアンテナ素子111Bを有するが、受信部117におけるアンテナ素子111Bの数は16個に限定されない。なお、本実施形態における導波路装置100は送信部116と受信部117の両方を有するが、いずれか一方のみを有していてもよい。
【0019】
図4は、第1の導電部材110の背面側(−Z方向側)の構造を示す。各アンテナ素子は、第1の導電部材110の正面側の導電性表面110aと背面側の導電性表面110bとを貫通する複数の貫通孔を備える。複数の貫通孔は、送信部116における3つの貫通孔113Aと、受信部117における16個の貫通孔113Bとを含む。送信部116における貫通孔113Aを「第1の貫通孔113A」と称する。これらの貫通孔113A、113Bの形状はH形状であるが、H形状に限定されない。本明細書において、第1の導電部材110における貫通孔113A、113Bを「スロット」と称することがある。
【0020】
Y方向に3つ並んだ貫通孔113Aのうち、中央に配置された貫通孔113Aの周囲には、その貫通孔113Aを囲む導波壁160が設けられている。導波壁160は、背面側の導電性表面110bに接続されている。導波壁160は、第1の導電部材110の一部として、第1の導電部材110と一体的に構成されてもよい。導波壁160は、第1の導電部材110とは独立した別部材として作製された後、第1の導電部材110に取り付けられてもよい。
【0021】
図5Aおよび
図5Bは、正面側から見た送信部116の構造を拡大して示す図である。
図6は、送信部116におけるアンテナ素子111Aのホーンの構造を拡大して示す図である。各アンテナ素子111Aは、正面側が開口した開口部114aを有する。各開口部は、導電壁118によって規定され、矩形状の開口形状を有する。各アンテナ素子111Aにおいて、第1の貫通孔113Aと開口部114aとが繋がっている。各アンテナ素子111Aは、導電壁118の内側に、X方向に延びる突出部118dを有し、階段状の構造が形成されている。
【0022】
Y方向において各アンテナ素子111Aの両側に位置しX方向に延びる導電壁118には、中央部分を残してその両側に溝部118cが形成されている。この導電壁118の中央部分は、+Z方向から見たときに、第1の貫通孔113Aの中心から、電界の振動方向(すなわちY方向)にシフトした位置にある。溝部118cは、例えば切削加工によって導電壁118の一部を切り欠くことによって形成され得る。X方向にのびる各導電壁118の頂部は、2つの溝部118cによって導電壁118aと中央部分である導電壁118bとに区画されている。
【0023】
Y方向において各アンテナ素子111Aの両側に位置しX方向に延びる導電壁118に、中央部分を残して溝部118cを設けることで、以下の効果が実現される。まず、3つのアンテナ素子111Aから放射される電磁波のアイソレーションが改善する。言い換えれば、電磁波が所望の方向以外の方向に伝搬または漏出することを抑制できる。さらに、3つのアンテナ素子111Aの周波数特性を安定化させることができる。例えば、周波数を変化させた場合でも安定した指向性を実現できる。
【0024】
本実施形態では、導電壁118aの露出した面(導電壁118bの側面に対向する面)は曲面状である。また、導電壁118bは円柱状である。導電壁118aおよび118bの形状は、図示される形状に限定されない。例えば、導電壁118bは、角柱状、円錐台状、または角錐台状であってもよい。各溝部118cの深さおよび幅は、所望の放射特性が得られる寸法に設定される。
【0025】
図5Aおよび
図5Bに示すように、本実施形態における導波路装置100の第1の導電部材110は、3つのアンテナ素子111Aの両側に、2つの凹部119を有する。これらの凹部と、3つのアンテナ素子111Aとは、一列に並ぶ。各凹部119は、各アンテナ素子111Aの開口部114aと同様の開口形状を有する。ただし、各凹部119の内部に貫通孔は存在しない。各凹部119と、これに隣り合うアンテナ素子111Aとの間には、X方向に延びる導電壁118が存在する。その導電壁118にも、前述の2つの溝部118cが設けられている。このような構造により、Y方向に並ぶ3つのアンテナ素子111Aの放射特性を同等にすることができる。
【0026】
本実施形態では、第1の導電部材110は、送信用の複数のアンテナ素子111Aを備えるが、1つのアンテナ素子111Aを備えていてもよい。その場合でも、アンテナ素子111Aの両側には、当該アンテナ素子111Aの開口と同様の開口形状を有する2つの凹部119が設けられ得る。各凹部119とアンテナ素子111Aとの間には、前述の2つの溝118cを有する導電壁118が配置され得る。そのような構造により、放射される電磁波のアイソレーションを高め、周波数特性を改善することが可能である。
【0027】
図7は、
図6のA−A´線断面図である。第2の導電部材120は、第1の貫通孔113Aの軸方向に沿って見たときに第1の貫通孔113Aと重なる第2の貫通孔123を有する。ここで、第1の貫通孔113Aの軸は、第1の貫通孔113Aの中心を通り、Z方向に平行な直線である。第1の貫通孔113Aおよび第2の貫通孔123は、導波路として機能する。図示される3つのアンテナ素子111Aのうちの中央のアンテナ素子111Aの背面側には、導波壁160が設けられている。導波壁160は、第1の貫通孔113Aと第2の貫通孔123との間の空間の少なくとも一部を囲んでいればよく、必ずしも当該空間の全てを囲んでいる必要はない。そして、このように構成される導波壁160は、第1の貫通孔113Aと第2の貫通孔123との間で電磁波を伝搬させる。なお、
図7の例では、導波壁160に該当する部位には、第1の導電部材110および第2の導電部材120とは異なるハッチングを施して図示されている。これは、第1の導電部材110および第2の導電部材120と導波壁160とが異なる部材であることを示すわけではなく、導波壁160を分り易く表示することを目的とするものである。
【0028】
導波壁160は、第2の導電部材120の導電性表面120aと対向する端面165が導電性の材料で構成されていればよく、必ずしも全体が導電性を有する必要はない。
【0029】
図7の例では、導波壁160の一端は、第1の導電部材110の導電性表面110bに接続されている。導波壁160の端面165と第2の導電部材120の導電性表面120aとの間には、隙間がある。導波壁160の端面165と第2の導電部材120の導電性表面120aとの間に隙間を設けずに、導波壁160の端面165と第2の導電部材120の導電性表面120aとを接触させてもよい。その場合であっても、アンテナとして正常に機能する。
【0030】
図8は、導波壁160を拡大して示す斜視図である。導波壁160は、第1の貫通孔113Aの周りを囲んでいる。
図8に示す導波壁160は、角部が面取りされており、端面165が八角形状となっている。ただし、導波壁160の形状は、図示される形状に限定されるものではない。導波壁160の角部を曲面状に面取りしてもよい。しかし、角部において曲面状の部分が増えると、導波路装置100の設計時に行われるシミュレーションの演算量が増える傾向がある。したがって、角部の交差角度が90度に近い方がシミュレーションの演算量が低減され得る。
【0031】
導波壁160は、その内側に、Y方向(E面方向)に平行な一対の第1の内壁面164AとX方向(H面方向)に平行な一対の第2の内壁面164Bとを有する。一対の第1の内壁面164Aは、Y方向に平行で導波壁160の一部が窪んだ段差部162を備える。段差部162によって第1の貫通孔113Aの背面側(−Z方向側)が広がっている。このように導波壁160の内側に段差部162を設けることにより、インピーダンスの整合度が向上する。
【0032】
ここで「E面」は、第1の貫通孔113A(スロット)の中央部に形成される電界ベクトルを含む平面であり、第1の貫通孔113Aの中心を通り、第1の導電部材110の導電性表面110bにほぼ垂直である。「H面」は、第1の貫通孔113Aの中央部に形成される磁界ベクトルを含む平面である。本実施形態では、E面はYZ面に平行であり、H面はXZ面に平行である。
【0033】
本実施形態の段差部162は、1段の段差を含むが、2段以上の段差を含んでいてもよい。また、段差部162は、図示される形状に限られない。インピーダンスの整合がとれる限り、段差部162の形状は適宜変更してもよい。導波壁160の内側の形状は、階段状に限らず、例えば傾斜した平面状であってもよい。
図8に示す段差部162に代えて、一対の傾斜部によって−Z方向に沿って開口が徐々に広がる構造を採用した場合も、同様の効果が得られる。
【0034】
一対の第2の内壁面164Bの正面側(+Z方向側)には、一対の第2の内壁面164Bに繋がる第1の貫通孔113Aの内壁面から突出しX方向に延びる一対の突出部118dが設けられている。
図8には、一対の突出部118dのうちの一方のみが示されている。+Y方向側にも同様の突出部118dが存在する。これらの突出部118dは、
図6に示すように、アンテナ素子111Aの導電壁118の基部に位置する。導波壁160は、一対の第2の内壁面164Bの中央部分から突出しZ方向に延びる一対のリッジ部161を有する。リッジ部161の+Z方向側の端面と突出部118dの−Z方向側の側面とは繋がっており、
図5Aから
図6に示す階段構造が形成されている。
【0035】
図9は、第1の導電部材110の背面側の構造を示す図である。
図9に示すように、導波壁160が配置されない第1の貫通孔113Aも、内側に突出部118dを備えていてもよい。突出部118dは、階段状の構造に限らず、傾斜した構造を形成してもよい。突出部118dは、各アンテナ素子における一対のリッジ部161から、開口部の正面側(+Z方向側)の縁に向かうにつれて、間隙の大きさを徐々に拡大させる。このような突出部118dを設けることにより、インピーダンスの整合度をさらに向上させることができる。
【0036】
なお、導波壁160の構造および変形例についての詳細は、特許文献5に開示されている。特許文献5の開示内容の全体を本明細書に援用する。
【0037】
以上のように、本実施形態における導波壁160は、E面に平行な一対の第1の内壁面164Aと、H面に平行な一対の第2の内壁面164Bとを有する。導波壁160は、内側に段差部または傾斜部を備える。段差部または傾斜部は、一対の第1の内壁面164Aにある。第1の導電部材110の導電性表面110bに垂直な方向から見たとき、第1の貫通孔113Aおよび第2の貫通孔123、ならびに導波壁160の内壁面で囲まれる領域は、第1の方向に延びる横部分と、当該横部分の両端から第1の方向に交差する第2の方向に延びる一対の縦部分とを含むH形状を有する。導波壁160の内壁面は、一対の縦部分に平行な一対の第1の内壁面164Aを含む。段差部または傾斜部は、一対の第1の内壁面164Aのうち、第2の導電部材120が位置する側の縁にある。
【0038】
本実施形態におけるアンテナ装置は、正面側の第1の導電性表面110a、背面側の第2の導電性表面110b、および第1の導電性表面110aと第2の導電性表面110bとの間を貫通する1つ以上のスロット113Aを有する第1の導電部材110を備える。第1の導電性表面110aは、1つ以上のスロット113Aをそれぞれ囲む1つ以上のホーンを規定する形状を有する。ホーンは、スロットのE面に垂直な第1の方向に延びる一対の内壁面118を有する。一対の内壁面118の各々の基部は、第1の方向に延びる突出部118dを有する。
【0039】
図5Aおよび
図5Bに示すように、第1の導電性表面110aは、さらに、1つ以上のホーンに加えて、1つ以上のホーンの両側に位置する2つの凹部119を規定する形状を有する。1つ以上のホーン、および2つの凹部119は、1列に並ぶ。1つ以上のホーン、および2つの凹部119の間の導電壁118の各々は、中央部118bと中央部118bの両側の部位118aを隔てる2つの溝部118cを有する。
【0040】
導波路装置100は、第2の導電性表面110bに対向する第3の導電性表面120aを有する第2の導電部材120をさらに備える。第2の導電部材120は、スロットとの間で電磁波を相互に伝搬させる貫通孔、またはスロットとの間で電磁波を相互に伝搬させるリッジ導波路を規定する導波部材を有する。
【0041】
図10は、第2の導電部材120を+Z方向側からみた平面図である。第2の導電部材120上の、送信部116に対応する部分には、導波部材である第1リッジ122Aおよび第2リッジ122Bが配置されている。図示されている例における第1リッジ122Aは、2つの屈曲部122dを有する。第2リッジ122Bは、直線状に構造を有する。
【0042】
第1リッジ122Aおよび第2リッジ122Bは、第1の導電部材110の導電性表面110bに対向する上面(以下、「導波面」と称する。)を有する。各リッジの導波面は、複数の凹部を有する。第1リッジ122Aおよび第2リッジ122Bの一端には、ポート125(すなわち貫通孔)が設けられている。ポート125の形状は、図示される例ではH形状であるが、これに限定されない。
【0043】
第2の導電部材120の上には、複数の導電性のロッド124が配列されている。複数のロッド124は、第1リッジ122A、第2リッジ122B、第2の貫通孔123およびポート125を囲んでいる。
図11は、
図10の部分拡大図である。
図11に示すように、複数のロッド124は、第1リッジ122Aおよび第2リッジの122Bの側面に沿ってリッジに近接した位置に配置されたリッジ側ロッド(第1ロッド)124Aと、第2の貫通孔123およびポート125に近接した位置に配置された貫通孔側ロッド(第2ロッド)124Bと、それ以外のロッド(以下では、「第3ロッド」と称する)124Cとを含む。これらのロッド124は、第2の導電部材120の導電性表面120a上に、XY方向に沿って2次元的に配列されている。
【0044】
第3ロッド124Cは、角部が大きく面取りされている。第3ロッド124CはXY面に平行な断面が先細り形状となっている。第3ロッド124Cの軸方向に対して垂直な断面の外形の寸法は、第3ロッド124Cの基部から先端部に向かって減少している。ここでロッドの軸は、そのロッドの重心を通り、導電性表面120aに垂直な直線を指す。
【0045】
第3ロッド124Cの基部には、下方に向かうにしたがって、第3ロッド124Cの軸の中心側から外側へと傾斜する傾斜面が設けられている。
【0046】
リッジ側ロッド124Aは、四角柱に近い形状を有し、第3ロッド124Cの角部と比べて角部が曲面状に小さく面取りされている。なお、面取りは任意であり、なくてもよい。
【0047】
リッジ側ロッド124Aの側面のうち、少なくともリッジ122A、122Bの側面に対向する側面124dは、第2の導電部材120の導電性表面120aに対して直角または直角に近い角度を有する。リッジ122A、122Bの側面に対向していないリッジ側ロッド124Aの側面の基部には、下方に向かうにしたがって、リッジ側ロッド124Aの軸の中心側から外側へと傾斜する傾斜面が設けられている。直角に近い角度とは、少なくともリッジ側ロッド124Aに隣接して配列されたロッド124Cの側面と導電性表面120aとの角度に比べて、より直角に近い角度を意味する。
【0048】
通常、ロッド124には傾斜面がない方が、アンテナ設計はしやすい。一方、ロッド124に傾斜面を設けた方が、インピーダンス整合を実現しやすい。そのため、インピーダンス整合を実現しつつ、アンテナを迅速に設計するために、本実施形態では、各ロッド124の側面のうち、リッジ122A、122Bの側面に面しない側面に傾斜が設けられている。さらに、リッジ122A、122Bに凹部を設けることにより、インピーダンスの整合を補っている。
【0049】
なお、ロッド124に傾斜面を設けることによってインピーダンス整合度が向上することは、特許文献4に開示されている。特許文献4の開示内容の全体を本明細書に援用する。
【0050】
第2の貫通孔123のまわりを複数のロッドが囲んでいる。また、ポート125のまわりにも複数のロッドが囲んでいる。かかるロッドは、貫通孔側ロッド124Bである。
【0051】
貫通孔側ロッド124Bは、四角柱に近い形状を有し、第3ロッド124Cの角部と比べて角部がより曲面状になるように面取りされている。なお、角部の面取りは任意であり、なくてもよい。
【0052】
貫通孔側ロッド124Bは、貫通孔側ロッド124Bの側面のうち、少なくとも貫通孔に面する側面124dが、第2の導電部材120の導電性表面120aに対して直角または直に近い角度を有し、貫通孔に面していない貫通孔側ロッド124Bの側面の基部には、下方に向かうにしたがって、貫通孔側ロッド124Bの軸の中心側から外側へと傾斜する傾斜面が設けられている。
【0053】
図12は、第3の導電部材130を正面側からみた平面図である。第3の導電部材130の上には、複数のリッジ132、およびこれらのリッジ132を囲む複数の導電性のロッド134が配置されている。第3の導電部材130の複数のロッド134についても、リッジ132の側面に沿ってリッジに近接した位置に配置されたリッジ側ロッド(第1ロッド)と、その他のロッド(第3ロッド)とを含む。これらのロッドは、第3の導電部材130の導電性表面130a上に、XY方向に沿って2次元的に配列されている。
【0054】
次に、本実施形態の変形例を説明する。
【0055】
図13は、
図7の変形例を示す図である。この例では、段差部162を有する導波壁160が、第2の導電部材120側に位置する。すなわち、導波壁160は、第2の貫通孔123の周囲を囲んでおり、第1の導電部材110の導電性表面110bに対向する第2の導電部材120の導電性表面120aに接続されている。導波壁160は、第2の導電部材120と一体として構成されてもよいし、第2の導電部材120とは独立した別部材でもよい。導波壁160の構成は、上記の導波壁160の構成と同様である。段差部162は、導電壁118におけるE面(YZ面)に平行な内壁面のうち、第1の導電部材110が位置する側の縁に設けられている。段差部162に代えて傾斜部を設けてもよい。
【0056】
導波壁160は、第1の貫通孔113Aと第2の貫通孔123との間の空間の少なくとも一部を囲んでいればよく、必ずしも当該空間の全てを囲んでいる必要はない。そして、このように構成される導波壁160は、第1の貫通孔113Aと第2の貫通孔123との間で電磁波を伝搬させる。なお、
図13の導波壁160に該当する部位には、第1の導電部材110および第2の導電部材120と異なるハッチングを施して図示されている。これは、第1の導電部材110および第2の導電部材120と導波壁160とが異なる部材であることを示すわけではなく、導波壁160を分り易く表示することを目的とするものである。
【0057】
図13の例では、導波壁160の端面165と第1の導電部材110の導電性表面110bとの間には、隙間がある。導波壁160の端面165と第1の導電部材110の導電性表面110bとの間に隙間を設けずに、導波壁160の端面165と第1の導電部材110の導電性表面110bとを接触させてもよい。その場合であっても、アンテナとして正常に機能する。
【0058】
(WRG導波路の構成例)
次に、本開示の実施形態において用いられるワッフルアイアンリッジ導波路(WRG)の基本的な構成を説明する。
【0059】
前述の特許文献1から5に開示されているリッジ導波路は、人工磁気導体として機能するワッフルアイアン構造中に設けられている。このような人工磁気導体を、本開示に基づき利用するリッジ導波路は、マイクロ波またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。また、このようなリッジ導波路を利用することにより、アンテナ素子を高密度に配置することが可能である。このようなリッジ導波路を、本明細書において、ワッフルアイアンリッジ導波路(WRG)と称することがある。以下、ワッフルアイアンリッジ導波路の基本的な構成および動作の例を説明する。
【0060】
人工磁気導体は、自然界には存在しない完全磁気導体(PMC: Perfect Magnetic Conductor)の性質を人工的に実現した構造体である。完全磁気導体は、「表面における磁界の接線成分がゼロになる」という性質を有している。これは、完全導体(PEC: Perfect Electric Conductor)の性質、すなわち、「表面における電界の接線成分がゼロになる」という性質とは反対の性質である。完全磁気導体は、自然界には存在しないが、例えば複数の導電性ロッドの配列のような人工的な構造によって実現され得る。人工磁気導体は、その構造によって定まる特定の周波数帯域において、完全磁気導体として機能する。人工磁気導体は、特定の周波数帯域(伝搬阻止帯域)に含まれる周波数を有する電磁波が人工磁気導体の表面に沿って伝搬することを抑制または阻止する。このため、人工磁気導体の表面は、高インピーダンス面と呼ばれることがある。
【0061】
図14は、このような導波路装置が備える基本構成の例を模式的に示す斜視図である。
図14には、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。図示されている導波路装置100は、対向して平行に配置されたプレート状(板形状)の第1の導電部材110および第2の導電部材120を備えている。第2の導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。
【0062】
図15Aは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の構成を模式的に示す図である。
図15Aに示されるように、第1の導電部材110は、第2の導電部材120に対向する側に導電性表面110bを有している。導電性表面110bは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110bは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110bは平面である必要はない。
【0063】
図16は、わかりやすさのため、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波路装置100を模式的に示す斜視図である。現実の導波路装置100では、
図14および
図15Aに示したように、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔は狭く、第1の導電部材110は、第2の導電部材120の全ての導電性ロッド124を覆うように配置されている。
【0064】
図14から
図16は、導波路装置100の一部分のみを示している。導電部材110、120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、実際には、図示されている部分の外側にも拡がって存在する。導波部材122の端部には、電磁波が外部空間に漏洩することを防止するチョーク構造が設けられる。チョーク構造は、例えば、導波部材122の端部に隣接して配置された導電性ロッドの列を含む。
【0065】
再び
図15Aを参照する。第2の導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110bに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面126を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも表面(上面および側面)が導電性を有していればよい。また、第2の導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。第2の導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面が導体で接続されていればよい。言い換えると、第2の導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、第1の導電部材110の導電性表面110bに対向する凹凸状の導電性表面を有していればよい。
【0066】
第2の導電部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側に人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。
図16からわかるように、この例における導波部材122は、第2の導電部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅と同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、それぞれ、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なっていてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電性表面110bに沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、全体が導電性を有している必要はなく、第1の導電部材110の導電性表面110bに対向する導電性の導波面122aを有していればよい。第2の導電部材120、複数の導電性ロッド124、および導波部材122は、連続した単一構造体の一部であってもよい。さらに、第1の導電部材110も、この単一構造体の一部であってもよい。
【0067】
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面126と第1の導電部材110の導電性表面110bとの間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。導波路装置100内を伝搬する信号波の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように人工磁気導体は設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の径、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110bとの間の間隙の大きさによって調整され得る。
【0068】
次に、
図17を参照しながら、各部材の寸法、形状、配置などの例を説明する。
【0069】
図17は、
図15Aに示す構造における各部材の寸法の範囲の例を示す図である。導波路装置は、所定の帯域(「動作周波数帯域」と称する。)の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。本明細書において、第1の導電部材110の導電性表面110bと導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(例えば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。各導電性ロッド124のうち、第2の導電部材120に接している方の端の部分を「基部」と称する。
図17に示すように、各導電性ロッド124は、先端部124aと基部124bとを有する。各部材の寸法、形状、配置などの例は、以下のとおりである。
【0070】
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
【0071】
(2)導電性ロッドの基部から第1の導電部材110の導電性表面までの距離
導電性ロッド124の基部124bから第1の導電部材110の導電性表面110bまでの距離は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110bとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
【0072】
導電性ロッド124の基部124bから第1の導電部材110の導電性表面110bまでの距離は、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔に相当する。例えば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は、3.8934mmから3.9446mmの範囲内である。したがって、この場合、λmは3.8934mmとなるので、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔は、3.8934mmの半分よりも小さく設定される。第1の導電部材110と第2の導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、第1の導電部材110と第2の導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔がλm/2未満であれば、第1の導電部材110および/または第2の導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していてもよい。他方、第1および第2の導電部材110、120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。
【0073】
図15Aに示される例において、導電性表面120aは平面であるが、例えば、
図15Bに示すように、導電性表面120aは断面がU字またはV字に近い形状である面の底部であってもよい。導電性ロッド124または導波部材122が、基部に向かって幅が拡大する形状を持つ場合に、導電性表面120aはこのような構造になる。この例において、導波部材122および複数の導電性ロッド124の各々は、傾斜した側面を基部に有する。導波部材122および各導電性ロッド124の側面の頂部における傾斜角度は、基部における傾斜角度よりも小さい。このような構造であっても、導電性表面110bと導電性表面120aとの間の距離が波長λmの半分よりも短ければ、
図15Bに示す装置は、導波路装置として機能し得る。
【0074】
(3)導電性ロッドの先端部から導電性表面までの距離L2
導電性ロッド124の先端部124aから導電性表面110bまでの距離L2は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110bとの間を電磁波が往復する伝搬モードが生じ、電磁波を閉じ込められなくなるからである。なお、複数の導電性ロッド124のうち、少なくとも導波部材122と隣り合うものについては、先端が導電性表面110bとは電気的には接触していない状態にある。ここで、導電性ロッドの先端が導電性表面に電気的に接触していない状態とは、先端と導電性表面との間に空隙がある状態、あるいは、導電性ロッドの先端と導電性表面とのいずれかに絶縁層が存在し、導電性ロッドの先端と導電性表面が絶縁層を間に介して接触している状態、のいずれかを指す。
【0075】
(4)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、例えばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110bとの間の空隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
【0076】
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要はなく、行および列は90度以外の角度で交差していてもよい。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要はなく、単純な規則性を示さずに分散して配置されていてもよい。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、第2の導電部材120上の位置に応じて変化していてよい。
【0077】
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面126は、厳密に平面である必要はなく、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0078】
導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気導体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波路装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
【0079】
導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さ、すなわち、基部124bから先端部124aまでの長さは、導電性表面110bと導電性表面120aとの間の距離(λm/2未満)よりも短い値、例えば、λo/4に設定され得る。
【0080】
(5)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(例えばλo/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
【0081】
(6)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(図示される例ではZ方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110bとの距離がλm/2以上となるからである。同様に、導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さについても、λm/2未満に設定される。
【0082】
(7)導波面と導電性表面との間の距離L1
導波部材122の導波面122aと導電性表面110bとの間の距離L1については、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導波面122aと導電性表面110bとの間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上とすることが好ましい。
【0083】
導電性表面110bと導波面122aとの距離L1の下限、および導電性表面110bとロッド124の先端部124aとの距離L2の下限は、機械工作の精度と、上下の2つの導電部材110、120を一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)を用いて例えばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2〜3μm程度である。
【0084】
次に、導波部材122、導電部材110、120、および複数の導電性ロッド124を有する導波路構造の変形例を説明する。以下の変形例は、本開示の実施形態におけるいずれの箇所のWRG構造にも適用され得る。
【0085】
図18Aは、導波部材122の上面である導波面122aのみが導電性を有し、導波部材122の導波面122a以外の部分は導電性を有していない構造の例を示す断面図である。導電部材110、120も同様に、導波部材122が位置する側の表面(導電性表面110b、120a)のみが導電性を有し、他の部分は導電性を有していない。このように、導波部材122、導電部材110、120の各々は、全体が導電性を有していなくてもよい。
【0086】
図18Bは、導波部材122が導電部材120上に形成されていない変形例を示す図である。この例では、導波部材122は、導電部材110、120を支持する支持部材(例えば、筐体の内壁等)に固定されている。導波部材122と導電部材120との間には間隙が存在する。このように、導波部材122は導電部材120に接続されていなくてもよい。
【0087】
図18Cは、導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124の各々が、誘電体の表面に金属などの導電性材料がコーティングされた構造の例を示す図である。導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、相互に導電体で接続されている。一方、導電部材110は、金属などの導電性材料で構成されている。
【0088】
図18Dおよび
図18Eは、導電部材110、120、導波部材122、および導電性ロッド124の各々の最表面に、誘電体の層110c、120cを有する構造の例を示す図である。
図18Dは、導体である金属製の導電部材の表面を誘電体の層で覆った構造の例を示す。
図18Eは、導電部材120が、樹脂などの誘電体製の部材の表面を、金属などの導体で覆い、さらにその金属の層を誘電体の層で覆った構造を有する例を示す。金属表面を覆う誘電体の層は樹脂などの塗膜であってもよいし、当該金属が酸化する事で生成された不動態皮膜などの酸化皮膜であってもよい。
【0089】
最表面の誘電体層は、WRG導波路によって伝播される電磁波の損失を増やす。しかし、導電性を有する導電性表面110b、120aを腐食から守ることができる。また、直流電圧や、WRG導波路によっては伝播されない程度に周波数の低い交流電圧の影響を遮断することができる。
【0090】
図18Fは、導波部材122の高さが導電性ロッド124の高さよりも低く、導電部材110の導電性表面110bのうち、導波面122aに対向する部分が、導波部材122の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図17に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の構成と同様に動作する。
【0091】
図18Gは、
図18Fの構造において、さらに、導電性表面110bのうち導電性ロッド124に対向する部分が、導電性ロッド124の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図17に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の例と同様に動作する。なお、導電性表面110bの一部が突出する構造に代えて、一部が窪む構造であってもよい。
【0092】
図19Aは、導電部材110の導電性表面110bが曲面形状を有する例を示す図である。
図19Bは、さらに、導電部材120の導電性表面120aも曲面形状を有する例を示す図である。これらの例のように、導電性表面110b、120aは、平面形状に限らず、曲面形状を有していてもよい。曲面状の導電性表面を有する導電部材も、「板形状」の導電部材に該当する。
【0093】
上記の構成を有する導波路装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面126と導電部材110の導電性表面110bとの間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110bとの間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき電磁波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、導電部材110と導電部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって電気的に接続する必要もない。
【0094】
図20Aは、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110bとの間隙における幅の狭い空間を伝搬する電磁波を模式的に示している。
図20Aにおける3本の矢印は、伝搬する電磁波の電界の向きを模式的に示している。伝搬する電磁波の電界は、導電部材110の導電性表面110bおよび導波面122aに対して垂直である。
【0095】
導波部材122の両側には、それぞれ、複数の導電性ロッド124によって形成された人工磁気導体が配置されている。電磁波は導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110bとの間隙を伝搬する。
図20Aは、模式的であり、電磁波が現実に作る電磁界の大きさを正確には示していない。導波面122a上の空間を伝搬する電磁波(電磁界)の一部は、導波面122aの幅によって区画される空間から外側(人工磁気導体が存在する側)に横方向に拡がっていてもよい。この例では、電磁波は、
図20Aの紙面に垂直な方向(Y方向)に伝搬する。このような導波部材122は、Y方向に直線的に延びている必要は無く、不図示の屈曲部および/または分岐部を有し得る。電磁波は導波部材122の導波面122aに沿って伝搬するため、屈曲部では伝搬方向が変わり、分岐部では伝搬方向が複数の方向に分岐する。
【0096】
図20Aの導波路構造では、伝搬する電磁波の両側に、中空導波管では不可欠の金属壁(電気壁)が存在していない。このため、この例における導波路構造では、伝搬する電磁波が作る電磁界モードの境界条件に「金属壁(電気壁)による拘束条件」が含まれず、導波面122aの幅(X方向のサイズ)は、電磁波の波長の半分未満である。
【0097】
図20Bは、参考のため、中空導波管330の断面を模式的に示している。
図20Bには、中空導波管330の内部空間332に形成される電磁界モード(TE10)の電界の向きが矢印によって模式的に表されている。矢印の長さは電界の強さに対応している。中空導波管330の内部空間332の幅は、波長の半分よりも広く設定されなければならない。すなわち、中空導波管330の内部空間332の幅は、伝搬する電磁波の波長の半分よりも小さく設定され得ない。
【0098】
図20Cは、導電部材120上に2個の導波部材122が設けられている形態を示す断面図である。このように隣接する2個の導波部材122の間には、複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置されている。より正確には、各導波部材122の両側に複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置され、各導波部材122が独立した電磁波の伝搬を実現することが可能である。
【0099】
図20Dは、参考のため、2つの中空導波管330を並べて配置した導波路装置の断面を模式的に示している。2つの中空導波管330は、相互に電気的に絶縁されている。電磁波が伝搬する空間の周囲が、中空導波管330を構成する金属壁で覆われている必要がある。このため、電磁波が伝搬する内部空間332の間隔を、金属壁の2枚の厚さの合計よりも短縮することはできない。金属壁の2枚の厚さの合計は、通常、伝搬する電磁波の波長の半分よりも長い。したがって、中空導波管330の配列間隔(中心間隔)を、伝搬する電磁波の波長よりも短くすることは困難である。特に、電磁波の波長が10mm以下となるミリ波帯、あるいはそれ以下の波長の電磁波を扱う場合は、波長に比して十分に薄い金属壁を形成することが難しくなる。このため、商業的に現実的なコストで実現することが困難になる。
【0100】
これに対して、人工磁気導体を備える導波路装置100は、導波部材122を近接させた構造を容易に実現することができる。このため、複数のアンテナ素子が近接して配置されたアレイアンテナへの給電に好適に用いられ得る。
【0101】
次に、上記のような導波路構造を利用したスロットアンテナの構成例を説明する。「スロットアンテナ」とは、アンテナ素子として1つまたは複数のスロット(「貫通孔」とも称する。)を備えたアンテナ装置を意味する。特に、複数のスロットをアンテナ素子として備えたスロットアンテナを、「スロットアレイアンテナ」または「スロットアンテナアレイ」と称する。
【0102】
図21Aは、上記のような導波路構造を利用したアンテナ装置200の構成の一部を模式的に示す斜視図である。
図21Bは、このアンテナ装置200におけるX方向に並ぶ2つのスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。このアンテナ装置200においては、第1の導電部材110が、X方向およびY方向に配列された複数のスロット112を有している。この例では、複数のスロット112は2つのスロット列を含み、各スロット列は、Y方向に等間隔に並ぶ6個のスロット112を含んでいる。第2の導電部材120には、Y方向に延びる2つの導波部材122が設けられている。各導波部材122は、1つのスロット列に対向する導電性の導波面122aを有する。2つの導波部材122の間の領域、および2つの導波部材122の外側の領域には、複数の導電性ロッド124が配置されている。これらの導電性ロッド124は、人工磁気導体を形成している。
【0103】
各導波部材122の導波面122aと、導電部材110の導電性表面110bとの間の導波路には、不図示の送信回路から電磁波が供給される。Y方向に並ぶ複数のスロット112のうちの隣接する2つのスロット112の中心間の距離は、例えば、導波路を伝搬する電磁波の波長と同じ値に設計される。これにより、Y方向に並ぶ6個のスロット112から、位相の揃った電磁波が放射される。
【0104】
図21Aおよび
図21Bに示すアンテナ装置200は、複数のスロット112の各々をアンテナ素子(放射素子)とするアンテナアレイ装置である。このような構成によれば、放射素子間の中心間隔を、例えば導波路を伝搬する電磁波の自由空間における波長λoよりも短くすることができる。複数のスロット112には、ホーンを設けてもよい。ホーンを設けることで、放射特性または受信特性を向上させることができる。ホーンとして、例えば
図1から
図13を参照して説明したアンテナ素子111Aにおけるホーンを用いることができる。
【0105】
続いて、導波路装置と、当該導波路装置における導波壁の内部導波路に接続された少なくとも1つのアンテナ素子(放射素子)とを備えた他のアンテナ装置の実施形態を説明する。「導波壁の内部の導波路に接続される」とは、導波壁の内部の導波路に直接的に、または前述したWRG等の他の導波路を介して間接的に接続されることを意味する。少なくとも1つのアンテナ素子は、導波壁の内部の導波路を伝搬した電磁波を空間に向けて放射する機能、および空間を伝搬してきた電磁波を導波壁の内部の導波路に導入する機能の少なくとも一方を有する。すなわち、本実施形態におけるアンテナ装置は、信号の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。
【0106】
図22Aは、複数のスロット(開口部)が配列されたアンテナ装置(アンテナアレイ)の例を示す図である。
図22Aはアンテナ装置を+Z方向から見た上面図である。
図22Bは、
図22AのB−B線断面図である。図示されるアンテナ装置においては、放射素子として機能する複数のスロット112に直接的に結合する複数の導波部材122Uを含む第1の導波層10aと、複数の導電性ロッド124Mおよび不図示の導波壁を含む第2の導波層10bと、第1の導波層10aの導波部材122Uに導波壁を介して結合する他の導波部材122Lを含む第3の導波層10cとが積層されている。第1の導波層10aにおける複数の導波部材122U、および複数の導電性ロッド124Uは、第1の導電部材210上に配置されている。第2の導波層10bにおける複数の導電性ロッド124Mおよび不図示の導波壁は、第2の導電部材220上に配置されている。第3の導波層10cにおける導波部材122Lおよび複数の導電性ロッド124Lは、第3の導電部材230上に配置されている。
【0107】
このアンテナ装置は、第1の導波層10aにおける導波部材122Uおよび導電性ロッド124Uを覆う導電部材110をさらに備えている。導電部材110は、4行4列に配列された16個のスロット(開口部)112を有する。導電部材110には、各スロット112を囲む側壁114が設けられている。側壁114は、スロット112の指向性を調整するホーンを形成している。この例におけるスロット112の個数および配列は、例示的なものに過ぎない。スロット112の向きおよび形状も、図示される例に限定されない。例えば、H型形状のスロットを用いてもよい。ホーンの側壁114の傾斜の有無および角度、ならびにホーンの形状も、図示されている例に限定されない。図示されるホーンに代えて、例えば実施形態1におけるホーンの構造を採用してもよい。
【0108】
図23Aは、第1の導電部材210における導波部材122Uおよび導電性ロッド124Uの平面レイアウトを示す図である。
図23Bは、第2の導電部材220における導電性ロッド124M、導波壁203および貫通孔221の平面レイアウトを示す図である。
図23Cは、第3の導電部材230における導波部材122Lおよび導電性ロッド124Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図から明らかなように、第1の導電部材210における導波部材122Uは直線状(ストライプ状)に延びており、分岐部も屈曲部も有していない。一方、第3の導電部材230における導波部材122Lは延びる方向が2つに分かれる分岐部および延びる方向が変化する屈曲部の両方を有している。第1の導電部材210における貫通孔211と第2の導電部材220における貫通孔221との間には、
図23Bに示すように、導波壁203が配置されている。この例における導波壁203は、XY面断面が矩形の構造を有するが、例えば
図8を参照して説明した導波壁160の構造を採用してもよい。
【0109】
図23Bに示す例では、第2の導電部材220上に4個の貫通孔221があり、それらの各々の中央部を間に挟んで位置する4対の導波壁203が存在する。第1の導電部材210における導波部材122Uは、貫通孔211、導波壁203、および貫通孔221を通じて第3の導電部材230における導波部材122Lに結合する。言い換えると、第3の導電部材230上の導波部材122Lに沿って伝搬してきた電磁波は、貫通孔221、導波壁203、および貫通孔211を通って第1の導電部材210上の導波部材122Uに達し、導波部材122Uに沿って伝搬することができる。このとき、各スロット112は、導波路を伝搬してきた電磁波を空間に向けて放射するアンテナ素子として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット112に入射すると、その電磁波はスロット112の直下に位置する導波部材122Uに結合し、導波部材122Uに沿って伝搬する。導波部材122Uを伝搬してきた電磁波は、貫通孔211、導波壁203、および貫通孔221を通って第3の導電部材230上の導波部材122Lに達し、導波部材122Lに沿って伝搬することも可能である。
【0110】
導波部材122Lは、第3の導電部材230が有するポート145Lを介して、外部にある導波路装置または高周波回路(電子回路)に結合され得る。
図23Cには、一例として、ポート145Lに接続された電子回路290が示されている。電子回路290は、特定の位置に限定されず、任意の位置に配置されていてよい。電子回路290は、例えば、第3の導電部材230の背面側(
図22Bにおける下側)の回路基板に配置され得る。このような電子回路は、マイクロ波集積回路であり、例えば、ミリ波を生成または受信するMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)などのマイクロ波集積回路を含み得る。電子回路290は、マイクロ波集積回路に加えて、他の回路、例えば、信号処理回路をさらに含んでいてもよい。そのような信号処理回路は、例えばアンテナ装置を備えたレーダシステムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。電子回路290は、通信回路を含んでいてもよい。通信回路は、アンテナ装置を備えた通信システムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。
【0111】
なお、電子回路と導波路とを接続する構造は、例えば、米国特許出願公開第2018/0351261、米国特許出願公開第2019/0006743、米国特許出願公開第2019/0139914、米国特許出願公開第2019/0067780、米国特許出願公開第2019/0140344、および国際特許出願公開第2018/105513に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0112】
図23Aに示される導電部材110を「放射層」と呼ぶことができる。また、
図23Aに示される第1の導電部材210上の導波部材122Uおよび導電性ロッド124Uの全体を含む層を「励振層」と呼び、
図23Bに示される第2の導電部材220上の導電性ロッド124Mおよび導波壁203の全体を含む層を「中間層」と呼び、
図23Cに示される第3の導電部材230上の導波部材122Lおよび導電性ロッド124Lの全体を含む層を「分配層」と呼んでも良い。また、「励振層」、「中間層」、および「分配層」をまとめて「給電層」と呼んでも良い。「放射層」、「励振層」、「中間層」、および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。放射層、励振層、分配層、および分配層の背面側に設けられる電子回路は、モジュール化された1つの製品として製造され得る。
【0113】
この例におけるアンテナアレイでは、
図22Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されているため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現している。例えば、
図22Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を20mm以下にすることができる。
【0114】
図23Cに示される導波部材122Lによれば、第3の導電部材230のポート145Lから第1の導電部材210の各貫通孔211(
図23A参照)までの、導波部材122Lに沿って測った距離がすべて等しい。このため、第3の導電部材230のポート145Lから導波部材122Lに入力された信号波は、第1の導電部材210の4つの貫通孔211のそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、第1の導電部材210上に配置された4個の導波部材122Uは、同位相で励振され得る。
【0115】
なお、アンテナ素子として機能する全てのスロット112が同位相で電磁波を放射する必要はない。励振層および分配層における導波部材122のネットワークパターンは任意であり、各導波部材122が互いに異なる信号を独立して伝搬するように構成されていても良い。
【0116】
本実施形態における第1の導電部材210上の導波部材122Uは分岐部も屈曲部も有していないが、励振層として機能する部分が分岐部および屈曲部の少なくとも一方を有する導波部材を備えていても良い。前述したように、導波路装置内の全ての導電性ロッドが同様の形状を有している必要はない。
【0117】
本実施形態によれば、第1の導電部材210における貫通孔211と第2の導電部材220における貫通孔221との間で、導電性の導波壁203を介して直接的に電磁波を伝搬させることができる。第2の導電部材220上で不要な伝搬が生じないため、第2の導電部材220上に他の導波路、回路基板、またはカメラ等の構造物を配置することができる。このため、装置の設計の自由度を向上させることができる。なお、本実施形態では第1の導電部材210と第2の導電部材220との間に導波壁を配置しているが、導波壁は他の位置に配置してもよい。
【0118】
励振層、分配層を構成するに当たっては、導波路における様々の回路要素を利用する事ができる。それらの例は、例えば米国特許第10042045、米国特許第10090600、米国特許第10158158、国際特許出願公開第2018/207796、国際特許出願公開第2018/207838、米国特許出願公開第2019/0074569に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0119】
図24Aは、更に別の変形例に係るスロットアンテナ装置における1つの放射素子を示す斜視図である。この例におけるスロットアンテナ装置は、導電部材110の正面側の導電性表面110aに対向する導電性表面を有する他の導電部材150をさらに備える。他の導電部材150は、この例では、4つの他のスロット111を有している。
図24Bは、
図24Aの放射素子において、導電部材110と他の導電部材150との間隔を離して示した図である。
【0120】
図22Aにおける各スロット112は、ホーン114に連通しているが、
図24Aの例ではスロット112はキャビティ180に連通している。キャビティ180は、導電性表面110a、導電部材110の正面側に配置された複数の導電性ロッド170、および他の導電部材150の背面側の導電性表面によって囲まれた平坦な空洞である。
図24A、
図24Bの例において、複数の導電性ロッド170の先端と他の導電部材150の背面側の導電性表面との間には間隙がある。複数の導電性ロッド170の基部は導電部材110における導電性表面110aに接続している。複数の導電性ロッド170が、他の導電部材150に接続する構成を採用しても良い。ただし、その場合、複数の導電性ロッド170の先端と導電性表面110aとの間には、間隙が確保される。
【0121】
他の導電部材150は、4つの他のスロット111を有しており、何れのスロット111もキャビティ180に連通する。スロット112からキャビティ180内に放射された信号波は、4つの他のスロット111を介して他の導電部材150の正面側に放射される。なお、他の導電部材150の正面側にホーンを設置し、他のスロット111がそのホーンの底部に開口する構造を採用しても良い。この場合、スロット112から放射された信号波は、キャビティ180、他のスロット111、およびホーンを介して放射される。
【0122】
次に、本開示の実施形態における各貫通孔(スロットまたはポート)の形状の変形例を説明する。貫通孔の軸に垂直な断面は、例えば以下に説明する形状を有していてもよい。以下の変形例は、本開示のいずれの実施形態においても同様に適用できる。
【0123】
図25における(a)は、楕円形状の導波管の例を示している。図中において矢印で示す導波管の長半径Laは、高次の共振が起こらず、かつ、インピーダンスが小さくなり過ぎないように設定される。より具体的には、Laは、動作周波数帯域の中心周波数に対応する自由空間中での波長をλoとして、λo/4<La<λo/2に設定され得る。
【0124】
図25における(b)は、一対の縦部分217Lおよび一対の縦部分217Lを繋ぐ横部分217Tを有するH型形状を有する導波管の例を示している。横部分217Tは、一対の縦部分217Lにほぼ垂直であり、一対の縦部分217Lのほぼ中央部同士を繋いでいる。このようなH型形状の導波管でも、高次の共振が起こらず、かつ、インピーダンスが小さくなり過ぎないように、その形状およびサイズが決定される。横部分217Tの中心線g2と横部分217Tに垂直なH型形状全体の中心線h2との交点と、中心線g2と縦部分217Lの中心線k2との交点との間の距離をLbとする。中心線g2と中心線k2との交点と、縦部分217Lの端部との距離をWbとする。LbとWbとの和は、λo/4<Lb+Wb<λo/2を満たすように設定される。距離Wbを相対的に長くすることにより、距離Lbを相対的に短くすることができる。これによりH型形状のX方向の幅を例えばλo/2未満にでき、横部分217Tの長さ方向の間隔を短縮することができる。
【0125】
図25における(c)は、横部分217Tおよび横部分217Tの両端から延びる一対の縦部分217Lを有する導波管の例を示している。一対の縦部分217Lの横部分217Tから延びる方向は横部分217Tにほぼ垂直であり、互いに逆である。横部分217Tの中心線g3と横部分217Tに垂直な全体形状の中心線h3との交点と、中心線g3と縦部分217Lの中心線k3との交点との間の距離をLcとする。中心線g3と中心線k3との交点と、縦部分217Lの端部との距離をWcとする。LcとWcとの和は、λo/4<Lc+Wc<λo/2を満たすように設定される。距離Wcを相対的に長くすることにより、距離Lcを相対的に短くすることができる。これにより、
図25における(c)の全体形状のX方向の幅を、例えばλo/2未満にでき、横部分217Tの長さ方向の間隔を短縮することができる。
【0126】
図25における(d)は、横部分217Tおよび横部分217Tの両端から横部分217Tに垂直な同じ方向に延びる一対の縦部分217Lを有する導波管の例を示している。このような形状を、本明細書では「U字形状」と称することがある。なお、
図25における(d)に示す形状は、H字形状の上半分の形状と考えることもできる。横部分217Tの中心線g4と横部分217Tに垂直なU字形状全体の中心線h4との交点と、中心線g4と縦部分217Lの中心線k4との交点との間の距離をLdとする。中心線g4と中心線k4との交点と、縦部分217Lの端部との距離をWdとする。LdとWdとの和は、λo/4<Ld+Wd<λo/2を満たすように設定される。距離Wdを相対的に長くすることにより、距離Ldを相対的に短くすることができる。これにより、U形状のX方向の幅を、例えばλo/2未満にでき、横部分217Tの長さ方向の間隔を短縮することができる。
【0127】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、例えば車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載されるレーダ装置またはレーダシステムに好適に用いられ得る。レーダ装置は、上述したいずれかの実施形態におけるアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続されたMMICなどのマイクロ波集積回路とを備える。レーダシステムは、当該レーダ装置と、当該レーダ装置のマイクロ波集積回路に接続された信号処理回路とを備える。信号処理回路は、例えば、マイクロ波集積回路によって受信された信号に基づき、到来波の方位を推定する処理等を行う。信号処理回路は、例えば、MUSIC法、ESPRIT法、およびSAGE法などのアルゴリズムを実行して、到来波の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成され得る。信号処理回路は、さらに、公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成されていてもよい。
【0128】
本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に1つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されてもよい。例えば、信号処理回路の一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD)であるFPGA(Field−Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路は、複数の演算素子(例えば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(例えばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であってもよい。信号処理回路は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは信号処理回路として機能し得る。
【0129】
本開示の実施形態のアンテナ装置は、小型化が可能な多層のWRG構造を備えているため、従来の中空導波管を用いた構成と比較して、アンテナ素子が配列される面の面積を著しく小さくすることができる。このため、当該アンテナ装置を搭載したレーダシステムを、例えば車両のリアビューミラーの鏡面の反対側の面のような狭小な場所、またはUAV(Unmanned Aerial Vehicle、所謂ドローン)のような小型の移動体にも容易に搭載することができる。なお、レーダシステムは、車両に搭載される形態の例に限定されず、例えば道路または建物に固定されて使用され得る。
【0130】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、無線通信システムにも利用できる。そのような無線通信システムは、上述したいずれかの実施形態におけるアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続された通信回路(送信回路または受信回路)とを備える。送信回路は、例えば、送信すべき信号を表す信号波をアンテナ装置内の導波路に供給するように構成され得る。受信回路は、アンテナ装置を介して受信された信号波を復調してアナログまたはデジタルの信号として出力するように構成され得る。
【0131】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、さらに、屋内測位システム(IPS:Indoor Positioning System)におけるアンテナとしても利用することができる。屋内測位システムでは、建物内にいる人、または無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)などの移動体の位置を特定することができる。アンテナ装置はまた、店舗または施設に来場した人が有する情報端末(スマートフォン等)に情報を提供するシステムにおいて用いられる電波発信機(ビーコン)に用いることもできる。そのようなシステムでは、ビーコンは、例えば数秒に1回、IDなどの情報を重畳した電磁波を発する。その電磁波を情報端末が受信すると、情報端末は、通信回線を介して遠隔地のサーバコンピュータに、受け取った情報を送信する。サーバコンピュータは、情報端末から得た情報から、その情報端末の位置を特定し、その位置に応じた情報(例えば、商品案内またはクーポン)を、当該情報端末に提供する。
【0132】
WRG構造を有するスロットアレイアンテナを備えたレーダシステム、通信システム、および各種監視システムの応用例が、例えば米国特許第9786995号明細書および米国特許第10027032号に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。本開示のスロットアレイアンテナは、これらの文献に開示された各応用例に適用することができる。