【課題】車両の衝突時等におけるバッテリの過度の損傷を防止しながら、車室や荷物の積載スペースを過剰に狭くすることなく、バッテリを搭載することができる車両駆動装置を提供する。
【解決手段】本発明は、バッテリを搭載した車両の駆動装置(10)であって、車両(1)の前部に配置された原動機(12, 16)と、この原動機の出力を車両の後輪(2a)に伝達する動力伝達軸(14a)と、この動力伝達軸を内部に収容した筒状のトルクチューブ(14c)と、車両を駆動するための電気エネルギーを蓄積したバッテリ(18)と、を有し、トルクチューブは、車両の前後方向に延びるように、車両の下部に設けられたトンネル部(15)の中に配置され、バッテリは、トンネル部内に、トルクチューブに隣接するように配置されていることを特徴としている。
上記トンネル部の底面は着脱可能に取り付けられたカバー部材によって覆われており、上記バッテリは、上記トンネル部内において上記トルクチューブの下方に配置されると共に、上記カバー部材を取り外すことにより交換することができる請求項1記載の車両駆動装置。
さらに、上記バッテリから出力される直流電圧を交流電圧に変換するインバータを有し、このインバータは、上記トンネル部内の、上記トルクチューブの上方に配置されている請求項2記載の車両駆動装置。
さらに、上記バッテリから出力される直流電圧を昇圧又は降圧するDC/DCコンバータを有し、このDC/DCコンバータは、上記トンネル部内の、上記トルクチューブの上方に配置されている請求項2又は3に記載の車両駆動装置。
さらに、上記車両の左右後輪の間に配置された変速機を有し、上記トルクチューブの車両後方側の端部は、上記変速機のハウジングに取り付けられている請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両駆動装置。
上記原動機は、内燃機関と、この内燃機関の後方側に配置されたモータから構成され、上記トルクチューブの車両前方側の端部は、上記モータのハウジングに取り付けられている請求項6記載の車両駆動装置。
さらに、上記車両の車輪に設けられたインホイールモータと、このインホイールモータに供給する電気エネルギーを蓄積するためのキャパシタと、を有し、上記インホイールモータには、直列に接続された上記バッテリと上記キャパシタから電力が供給される請求項1乃至7の何れか1項に記載の車両駆動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている内燃機関及びモータを搭載した所謂ハイブリッド車や、モータのみによって車両を駆動する電気自動車において、モータ駆動時の走行性能を向上させたり、車両減速時の運動エネルギーの回生性能を向上させたりするためには、大容量のバッテリを車両に搭載する必要がある。しかしながら、バッテリの単位体積当たりに蓄積可能な電気エネルギーには限界があり、蓄積可能な電気容量を大きくすると、バッテリが大型化してしまうという問題がある。
【0005】
また、大型の大容量バッテリを車両に搭載すると、乗員が乗車する車室スペースが狭くなったり、荷物を積載するスペースが狭くなったりするという問題が発生する。さらに、バッテリには、車両の衝突時等における過度な損傷を避ける必要がある。このため、損傷を防止するための保護部材をバッテリの周囲に設けると、バッテリの搭載に必要なスペースは益々大きくなり、車室や荷物の積載スペースが狭くなるという問題がある。
【0006】
従って、本発明は、車両の衝突時等におけるバッテリの過度の損傷を防止しながら、車室や荷物の積載スペースを過剰に狭くすることなく、バッテリを搭載することができる車両駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、バッテリを搭載した車両の駆動装置であって、車両の前部に配置された原動機と、この原動機の出力を車両の後輪に伝達する動力伝達軸と、この動力伝達軸を内部に収容した筒状のトルクチューブと、車両を駆動するための電気エネルギーを蓄積したバッテリと、を有し、トルクチューブは、車両の前後方向に延びるように、車両の下部に設けられたトンネル部の中に配置され、バッテリは、トンネル部内に、トルクチューブに隣接するように配置されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の車両駆動装置においては、車両の前部に配置された原動機の出力が、動力伝達軸を介して車両の後輪に伝達される。動力伝達軸は、筒状のトルクチューブの内部に収容され、トルクチューブは、車両の前後方向に延びるように、車両の下部に設けられたトンネル部の中に配置される。車両を駆動するための電気エネルギーを蓄積したバッテリは、トンネル部内に、トルクチューブに隣接するように配置される。
【0009】
このように構成された本発明によれば、バッテリは、車両下部のトンネル部の中に配置されている。ここで、トンネル部は、車両が前方、側方、及び後方の何れの方向から衝突した場合においても比較的変形されにくい。このため、トンネル部の中にバッテリを配置することにより、車両が衝突した場合においても、バッテリの損傷を効果的に回避することができる。また、バッテリをトンネル部の中に配置することにより、バッテリの損傷を防止するための特別な保護部材を設けることなく、トンネル部の外部からの衝撃によりバッテリが損傷されるリスクを効果的に抑制することができる。これにより、大型化を抑制しながらバッテリを保護することができる。
【0010】
一方、トンネル部の中には、原動機の出力を車両の後輪に伝達する動力伝達軸が延びている。この動力伝達軸は、車両の走行中において回転しているため、走行中の車両が衝突して動力伝達軸が変形した場合には、回転中の動力伝達軸がトンネル部内に配置されたバッテリと干渉して、バッテリを損傷することが考えられる。しかしながら、本発明の車両駆動装置においては、動力伝達軸は、筒状のトルクチューブの内部に収容されているため、回転中の動力伝達軸が変形された場合でも、これがバッテリと直接干渉して、バッテリが損傷されるのを防止することができる。加えて、動力伝達軸がトルクチューブに収容されているので、十分な安全性を確保しながら、バッテリをトルクチューブに隣接して配置することができ、トンネル部内部のスペースをバッテリの収容に有効に活用することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、トンネル部の底面は着脱可能に取り付けられたカバー部材によって覆われており、バッテリは、トンネル部内においてトルクチューブの下方に配置されると共に、カバー部材を取り外すことにより交換することができる。
【0012】
一般に、バッテリには寿命があり、長期間使用された後には交換する必要がある。上記のように構成された本発明によれば、トンネル部の底面が着脱可能なカバー部材によって覆われており、トンネル部内のバッテリは、トルクチューブの下方に配置されている。このため、整備ピットにおいて、車両底部のカバー部材を取り外すだけで、トルクチューブや動力伝達軸を取り外すことなく、車両の下側から容易にバッテリの交換作業を行うことができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、さらに、バッテリから出力される直流電圧を交流電圧に変換するインバータを有し、このインバータは、トンネル部内の、トルクチューブの上方に配置されている。
【0014】
一般に、インバータはバッテリと比べて耐用年数が長いため、修理や交換が必要になることは非常に少ない。上記のように構成された本発明によれば、アクセスが困難なトンネル部内のトルクチューブの上方にインバータを配置することにより、トンネル部内のスペースを有効に活用することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、さらに、バッテリから出力される直流電圧を昇圧又は降圧するDC/DCコンバータを有し、このDC/DCコンバータは、トンネル部内の、トルクチューブの上方に配置されている。
【0016】
一般に、DC/DCコンバータはバッテリと比べて耐用年数が長いため、修理や交換が必要になることは非常に少ない。上記のように構成された本発明によれば、アクセスが困難なトンネル部内のトルクチューブの上方にDC/DCコンバータを配置することにより、トンネル部内のスペースを有効に活用することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、さらに、車両の左右後輪の間に配置された変速機を有し、トルクチューブの車両後方側の端部は、変速機のハウジングに取り付けられている。
【0018】
このように構成された本発明によれば、トルクチューブの車両後方側の端部が変速機のハウジングに取り付けられているので、重量の増加を抑制しながら、車両駆動系の剛性を高くすることができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、トルクチューブの車両前方側の端部は、原動機のハウジングに取り付けられている。
【0020】
このように構成された本発明によれば、トルクチューブの車両前方側の端部が原動機のハウジングに取り付けられているので、重量の増加を抑制しながら、車両駆動系の剛性を高くすることができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、原動機は、内燃機関と、この内燃機関の後方側に配置されたモータから構成され、トルクチューブの車両前方側の端部は、モータのハウジングに取り付けられている。
【0022】
本発明において、好ましくは、さらに、車両の車輪に設けられたインホイールモータと、このインホイールモータに供給する電気エネルギーを蓄積するためのキャパシタと、を有し、インホイールモータには、直列に接続されたバッテリとキャパシタから電力が供給される。
【0023】
このように構成された本発明によれば、直列に接続されたバッテリとキャパシタからインホイールモータに電力が供給されるので、比較的低電圧のバッテリを採用しても、インホイールモータに高電圧を供給することができ、比較的低電流でインホイールモータを駆動することができる。
【0024】
本発明において、好ましくは、キャパシタの最大の端子間電圧は、バッテリの端子間電圧よりも高く構成されている。
【0025】
このように構成された本発明によれば、キャパシタの最大の端子間電圧がバッテリの端子間電圧よりも高くされているので、インホイールモータに供給する電圧をバッテリの端子間電圧よりも大幅に嵩上げすることができ、低電流でインホイールモータを駆動することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の車両駆動装置によれば、車両の衝突時等におけるバッテリの過度の損傷を防止しながら、車室や荷物の積載スペースを過剰に狭くすることなく、バッテリを搭載することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両駆動装置を搭載した車両のレイアウト図である。
図2は本実施形態の車両駆動装置を搭載した車両の前部を上方から見た透視図である。
【0029】
図1に示すように、本発明の実施形態による車両駆動装置を搭載した車両1は、運転席よりも前方の、車両の前部に内燃機関であるエンジン12が搭載され、主駆動輪である左右1対の後輪2aを駆動する所謂FR(Front engine, Rear drive)車である。また、後述するように、後輪2aはモータである主駆動モータによっても駆動され、副駆動輪である左右1対の前輪2bは、副駆動モータによって駆動される。
【0030】
車両1に搭載された本発明の実施形態による車両駆動装置10は、後輪2aを駆動するエンジン12と、後輪2aに駆動力を伝達する動力伝達機構14と、後輪2aを駆動する主駆動モータ16と、バッテリ18と、前輪2bを駆動する副駆動モータ20と、キャパシタ22と、制御器である制御装置24と、を有する。
【0031】
エンジン12は、車両1の主駆動輪である後輪2aに対する駆動力を発生するための内燃機関である。
図2に示すように、本実施形態においては、エンジン12として直列4気筒エンジンが採用されており、車両1の前部に配置されたエンジン12が動力伝達機構14を介して後輪2aを駆動するようになっている。
【0032】
動力伝達機構14は、エンジン12及び主駆動モータ16が発生した駆動力を主駆動輪である後輪2aに伝達するように構成されている。
図1に示すように、動力伝達機構14は、エンジン12及び主駆動モータ16に接続された動力伝達軸であるプロペラシャフト14a、及び変速機であるトランスミッション14bを備えている。動力伝達機構14の詳細な構成については後述する。
【0033】
主駆動モータ16は、主駆動輪に対する駆動力を発生するための電動機であって、車両1の車体上に設けられ、エンジン12の後ろ側に、エンジン12に隣接して配置されており、車体側モータとして機能する。また、主駆動モータ16に隣接してインバータ16aが配置されており、このインバータ16aにより、バッテリ18の直流電圧が交流電圧に変換されて主駆動モータ16に供給される。さらに、
図1に示すように、主駆動モータ16はエンジン12と直列に接続されており、主駆動モータ16が発生した駆動力も動力伝達機構14を介して後輪2aに伝達される。或いは、主駆動モータ16を動力伝達機構14の途中に接続し、動力伝達機構14の一部を介して駆動力が後輪2aに伝達されるように本発明を構成することもできる。また、本実施形態においては、主駆動モータ16として、48Vで駆動される25kWの永久磁石電動機(永久磁石同期電動機)が採用されている。
【0034】
バッテリ18は、主として主駆動モータ16を作動させる電気エネルギーを蓄積するための蓄電器である。さらに、本実施形態においては、バッテリ18として、48V、3.5kWhのリチウムイオンバッテリ(LIB)が使用されている。
【0035】
次に、
図2に示すように、副駆動モータ20は、副駆動輪である前輪2bに対する駆動力を発生するように、車両1のバネ下に、前輪2b各輪に設けられている。また、副駆動モータ20はインホイールモータであり、前輪2b各輪のホイール内に夫々収容されている。また、キャパシタ22の直流電圧は、トンネル部15内に配置されたインバータ20a(
図1)により交流電圧に変換されて、各副駆動モータ20に供給される。さらに、本実施形態においては、副駆動モータ20には減速機構である減速機が設けられておらず、副駆動モータ20の駆動力は前輪2bに直接伝えられ、車輪が直接駆動される。また、本実施形態においては、各副駆動モータ20として、17kWの誘導電動機が夫々採用されている。
【0036】
キャパシタ22は、副駆動モータ20によって回生された電力を蓄積するように設けられている。
図1及び
図2に示すように、キャパシタ22はエンジン12の側部に配置されると共に、車両1の前輪2b各輪に設けられた副駆動モータ20に電力を供給する。さらに、キャパシタ22は、バッテリ18よりも高い電圧で電荷を蓄積するように構成されると共に、副駆動輪である左右の前輪2bの間の領域内に配置される。主としてキャパシタ22に蓄積された電力により駆動される副駆動モータ20は、主駆動モータ16よりも高い電圧で駆動される。
【0037】
図1に示すように、制御装置24は、エンジン12、主駆動モータ16、及び副駆動モータ20を制御して、電動機走行モード及び内燃機関走行モードを実行するように構成されている。具体的には、制御装置24は、マイクロプロセッサ、メモリ、インタフェイス回路、及びこれらを作動させるプログラム(以上、図示せず)等によって構成することができる。
【0038】
次に、
図3乃至
図6を参照して、本発明の実施形態による車両駆動装置10の電源構成、及び各モータによる車両1の駆動を説明する。
図3は、本発明の実施形態による車両駆動装置10の電源構成を示すブロック図である。
図4は、本実施形態の車両駆動装置10において、キャパシタ22に電力が回生された場合における電圧の変化の一例を模式的に示す図である。
図5は、本実施形態の車両駆動装置10において使用されている各モータの出力と車速の関係を示す図である。
【0039】
図3に示すように、車両駆動装置10に備えられているバッテリ18とキャパシタ22は直列に接続されている。主駆動モータ16にはバッテリ18の電力が供給され、副駆動モータ20には直列に接続されたバッテリ18とキャパシタ22から電力が供給される。即ち、主駆動モータ16はバッテリ18の基準出力電圧である約48Vで駆動され、副駆動モータ20はバッテリ18の出力電圧とキャパシタ22の端子間電圧を合算した48Vよりも高い電圧で、最大120Vの電圧で駆動される。このように、キャパシタ22には副駆動モータ20に供給する電気エネルギーが蓄積され、副駆動モータ20は、常にキャパシタ22を介して供給された電力によって駆動される。このように、キャパシタ22の最大の端子間電圧はバッテリ18の端子間電圧よりも高く設定されている。
【0040】
また、主駆動モータ16にはインバータ16aが取り付けられており、バッテリ18の出力を交流に変換した上で永久磁石電動機である主駆動モータ16が駆動される。同様に、各副駆動モータ20にはインバータ20aが夫々接続されており、バッテリ18及びキャパシタ22の出力を交流に変換した上で誘導電動機である副駆動モータ20が駆動される。
【0041】
さらに、車両1の減速時等には、主駆動モータ16及び各副駆動モータ20は発電機として機能し、車両1の運動エネルギーを回生して電力を生成する。主駆動モータ16によって回生された電力はバッテリ18に蓄積され、各副駆動モータ20によって回生された電力は主としてキャパシタ22に蓄積される。
【0042】
また、バッテリ18とキャパシタ22の間には電圧変換器である高圧DC/DCコンバータ26aが接続されており、この高圧DC/DCコンバータ26aはキャパシタ22に蓄積された電荷が不足しているとき(キャパシタ22の端子間電圧が低下したとき)、バッテリ18の電圧を昇圧してキャパシタ22に充電する。一方、各副駆動モータ20によるエネルギーの回生により、キャパシタ22の端子間電圧が所定電圧以上に上昇した場合には、キャパシタ22に蓄積された電荷を降圧してバッテリ18に印加し、バッテリ18の充電を行う。即ち、副駆動モータ20によって回生された電力はキャパシタ22に蓄積された後、蓄積された電荷の一部が、高圧DC/DCコンバータ26aを介してバッテリ18に充電される。
【0043】
さらに、バッテリ18と車両1の12V電装品25の間には、低圧DC/DCコンバータ26bが接続されている。車両駆動装置10の制御装置24や、車両1の電装品25の多くは12Vの電圧で作動するので、バッテリ18に蓄積された電荷を低圧DC/DCコンバータ26bにより12Vに降圧して、これらの機器に供給する。
【0044】
次に、
図4を参照して、キャパシタ22に対する充電及び放電を説明する。
図4に示すように、キャパシタ22の電圧は、バッテリ18によるベース電圧と、キャパシタ22自体の端子間電圧の合計となる。車両1の減速時等には、各副駆動モータ20により電力の回生が行われ、回生された電力はキャパシタ22に充電される。キャパシタ22への充電が行われると比較的急激に端子間電圧が上昇する。充電によりキャパシタ22の電圧が所定電圧以上に上昇すると、高圧DC/DCコンバータ26aによりキャパシタ22の電圧が降圧され、バッテリ18への充電が行われる。
図4に示すように、このキャパシタ22からバッテリ18への充電は、キャパシタ22への充電よりも比較的緩やかに行われ、キャパシタ22の電圧は適正電圧まで比較的緩やかに低下される。
【0045】
即ち、各副駆動モータ20により回生された電力は一時的にキャパシタ22に蓄積され、その後、バッテリ18へ緩やかに充電される。なお、回生が行われる期間によっては、各副駆動モータ20による電力の回生と、キャパシタ22からバッテリ18への充電がオーバーラップして行われる場合もある。
一方、主駆動モータ16によって回生された電力は、バッテリ18に直接充電される。
【0046】
次に、
図5を参照して、本発明の実施形態による車両駆動装置10における車速と各モータの出力の関係を説明する。
図5は、本実施形態の車両駆動装置10において、車両1の速度と、各速度における各モータの出力の関係を示すグラフである。
図5において、主駆動モータ16の出力を破線で示し、1つの副駆動モータ20の出力を一点鎖線で、2つの副駆動モータ20の出力の合計を二点鎖線で、全てのモータの出力の合計を実線で示している。なお、
図5は、車両1の速度を横軸とし、各モータの出力を縦軸として示しているが、車両1の速度とモータの回転数には一定の関係が存在するので、横軸をモータ回転数とした場合でも、各モータの出力は
図5と同様の曲線を描く。
【0047】
本実施形態においては主駆動モータ16には永久磁石電動機が採用されているため、
図5に破線で示すように、モータ回転数が低い低車速域で主駆動モータ16の出力が大きく、車速が速くなるにつれて出力可能なモータ出力が減少する。即ち、本実施形態において、主駆動モータ16は、約48Vで駆動され、1000rpm程度まで最大トルクである約200Nmのトルクを出力し、約1000rpm以上で回転数の増加と共にトルクが低下する。また、本実施形態において、主駆動モータ16は、最低速域において約20kW程度の連続出力が得られ、最大出力約25kWが得られるように構成されている。
【0048】
これに対して、副駆動モータ20には誘導電動機が採用されているため、
図5に一点鎖線及び二点鎖線で示すように、低車速域では副駆動モータ20の出力は極めて小さく、車速が速くなるにつれて出力が増大し、車速約130km/h付近で最大出力が得られた後、モータ出力は減少する。本実施形態において、副駆動モータ20は、約120Vで駆動され、車速約130km/h付近で1台当たり約17kW、2台合計で約34kWの出力が得られるように構成されている。即ち、本実施形態において、副駆動モータ20は、約600乃至800rpmでトルクカーブがピークをもち、最大トルク約200Nmが得られる。
【0049】
図5の実線には、これら主駆動モータ16及び2台の副駆動モータ20の出力の合計が示されている。このグラフから明らかなように、本実施形態においては、車速約130km/h付近で最大出力約53kWが得られており、この車速における、この最大出力でWLTP試験において要求される走行条件を満足することができる。なお、
図5の実線では、低車速域においても2台の副駆動モータ20の出力値が合算されているが、実際には低車速域では各副駆動モータ20が駆動されることはない。即ち、発進時及び低車速域においては主駆動モータ16のみで車両が駆動され、高車速域で大出力が必要とされたとき(高車速域で車両1を加速させるとき等)のみ2台の副駆動モータ20が出力を発生する。このように、高回転領域で大きな出力を発生することができる誘導電動機(副駆動モータ20)を、高速域のみで使用することにより、車両重量の増加を低く抑えながら必要なとき(所定速度以上での加速時等)に十分な出力を得ることができる。
【0050】
次に、
図6を参照して、本発明の実施形態の車両駆動装置10に採用されている副駆動モータ20の構成を説明する。
図6は、副駆動モータ20の構造を模式的に示す断面図である。
図6に示すように、副駆動モータ20は、ステータ28と、このステータの周囲で回転するロータ30から構成されたアウターロータタイプの誘導電動機である。
【0051】
ステータ28は、概ね円板状のステータベース28aと、このステータベース28aの中心から延びるステータシャフト28bと、このステータシャフト28bの周囲に取り付けられたステータコイル28cと、を有する。また、ステータコイル28cは電気絶縁液室32に収納されており、この中に満たされた電気絶縁液32aに浸漬され、これにより沸騰冷却される。
【0052】
ロータ30は、ステータ28の周囲を取り囲むように概ね円筒状に構成されており、一端が閉塞された概ね円筒形に構成されたロータ本体30aと、ロータ本体30aの内周壁面に配置されたロータコイル30bと、を有する。ロータコイル30bは、ステータコイル28cが生成する回転磁界により誘導電流が発生するように、ステータコイル28cに対向するように配置されている。また、ロータ30は、ステータ28の周囲で円滑に回転するように、ステータシャフト28bの先端に取り付けられたベアリング34によって支持されている。
【0053】
ステータベース28aは、車両1の前輪を懸架する懸架機構(図示せず)によって支持されている。一方、ロータ本体30aは、前輪2bのホイール(図示せず)に直接固定されている。ステータコイル28cには、インバータ20aによって交流に変換された交流電流が流され、回転磁界が生成される。この回転磁界によりロータコイル30bに誘導電流が流れ、ロータ本体30aを回転させる駆動力が発生する。このように、各副駆動モータ20により生成された駆動力は、直接、各前輪2bのホイール(図示せず)を回転駆動する。
【0054】
次に、
図7乃至
図10を参照して、本発明の実施形態による車両駆動装置に備えられた動力伝達機構の構成を詳細に説明する。
図7は、車両駆動装置における動力の伝達系統を取り出して示した側面図である。
図8は、動力伝達機構の一部及びそれを収容したトンネル部を取り出して示す斜視図である。
図9は、
図7におけるIX−IX線に沿って切断した断面図である。
図10は、動力伝達機構の一部を示す斜視図である。
【0055】
図7に示すように、動力伝達機構14は、車両1の前部に配置された原動機であるエンジン12及び主駆動モータ16によって生成された動力を、後輪2aに伝達するように構成されている。エンジン12及び主駆動モータ16の出力軸は直結され、この出力軸40がプロペラシャフト14aに連結されている。このプロペラシャフト14aは車両1の後方へ向けて延び、その後端は、トランスミッション14bの入力軸42に接続されている。なお、本実施形態においては、トランスミッション14bのハウジング44内には、クラッチ及びディファレンシャルギヤ(図示せず)も収容されている。このため、トランスミッション14bの入力軸42に入力された動力は、クラッチ、変速ギヤ、ディファレンシャルギヤ(以上、図示せず)を介して出力される。さらに、本実施形態においては、トランスミッション14bは、左右の後輪2aの間に配置され、その出力軸46は後輪2aの車軸に接続され、後輪2aを駆動する。
【0056】
また、エンジン12及び主駆動モータ16の出力軸40と、トランスミッション14bの入力軸42を接続しているプロペラシャフト14aは、円形断面の筒状に形成されたトルクチューブ14cの中に収容されている。このトルクチューブ14cの車両前方側の端部は、エンジン12及び主駆動モータ16からなる原動機のハウジング48に取り付けられている。また、トルクチューブ14cの車両後方側の端部は、トランスミッション14bのハウジング44に取り付けられている。このように、トルクチューブ14cの両端を各ハウジングに夫々固定することにより、車両駆動系全体の剛性を高くしている。
【0057】
さらに、
図8及び
図9に示すように、プロペラシャフト14a及びそれを収容したトルクチューブ14cは、車両1の下部に設けられたトンネル部15(フロアトンネル)の中に配置されている。このトンネル部15は、車両1の底面の上に、車両1の幅方向中央を前後方向に延びるように設けられている。また、
図9に示すように、トンネル部15は、金属板を概ね逆U字形断面に折り曲げ、その両側の下端を車体のフレーム50に固定することにより形成されている。さらに、トンネル部15の底面には、平板状のカバー部材52が、フレーム50に着脱可能に固定されている。このカバー部材52を取り外すことにより、車両1の下側からトンネル部15の内部にアクセスすることが可能になる。
【0058】
次に、
図10を新たに参照して、トンネル部内における配置構造を説明する。
図10は、動力伝達機構の一部を示す斜視図であり、トンネル部15を構成する部材を取り外した状態を示している。
【0059】
図9に示すように、トンネル部15内には、プロペラシャフト14a及びこれをカバーするトルクチューブ14cが通っており、その下方にはトルクチューブ14cに隣接して、バッテリ18が配置されている。このため、トンネル部15の底面に取り付けられたカバー部材52を取り外すだけで、トンネル部15内に収容されたバッテリ18が露出される。これにより、トルクチューブ14cやプロペラシャフト14aを取り外すことなく、トンネル部15内のバッテリ18にアクセスすることができ、バッテリ18の交換作業を容易に実施することができる。
【0060】
また、トンネル部15は、車両1の幅方向のほぼ中央、前後方向においても中間部に位置するので、車両1が前方又は後方から衝突した場合や、側方から衝突した場合にも、損傷を受けにくい。さらに、トンネル部15は、折り曲げた金属板を車両1のフレーム50に固定することにより形成されているため、その内部に配置されたバッテリ18はトンネル部15の壁面によって保護され、損傷を受けにくい。また、トンネル部15内のバッテリ18の上方には、走行中に回転するプロペラシャフト14aが通っているが、このプロペラシャフト14aはトルクチューブ14c内に収容されている。このため、走行中の車両が衝突した場合には、回転中のプロペラシャフト14aが変形して湾曲する可能性があるものの、バッテリ18が損傷されるリスクは小さい。即ち、プロペラシャフト14aはトルクチューブ14cの中に収容されているため、回転中のプロペラシャフト14aが湾曲した場合にも、近傍に収容されているバッテリ18に直接当たって損傷するリスクは極めて小さい。
【0061】
なお、本実施形態において、トランスミッション14bは、所謂トランスアクスル配置である。これにより、エンジン12(及び主駆動モータ16)の直後の位置に外径の大きな変速機の本体が存在しなくなるので、トンネル部15の幅を小さくすることができ、乗員の中央側足元空間を確保して乗員に真正面に正対した左右対称な下半身姿勢をとらせることが可能となる。更に、この乗員の姿勢を確保しつつ主駆動モータ16の外径や、長さを出力に応じた十分な大きさにすることが容易になる。また、本実施形態においてはトランスアクスル配置が採用されているため、これにより生じたトンネル部15前方の空間に向けて、バッテリ18を収容する容積を拡大することができる。これにより、フロアトンネルの幅を大きくして乗員の中央側空間を狭めることなく、バッテリ18容量の確保、拡大が可能になる。
【0062】
また、
図10に示すように、主駆動モータ16のハウジング48の上側には、主駆動モータ16用のインバータ16aが配置され、トンネル部15内に収容されている。さらに、トルクチューブ14cの上側には、車両1の前側から順に、副駆動モータ20用のインバータ20a、高圧DC/DCコンバータ26a、及び低圧DC/DCコンバータ26bが夫々配置され、トンネル部15内に収容されている。これらのインバータ16a、インバータ20a、高圧DC/DCコンバータ26a、及び低圧DC/DCコンバータ26bは、トルクチューブ14cの上側に配置されているため、トンネル部15底面のカバー部材52を取り外しただけではアクセスしにくい。しかしながら、各インバータ、及び各DC/DCコンバータは耐用年数が比較的長く、交換や修理が必要になることは少ない。このため、メンテンナス性を大きく損なうことなく、トンネル部15内の上方のスペースも有効に活用することができる。
【0063】
本発明の実施形態の車両駆動装置10によれば、バッテリ18は、車両1下部のトンネル部15の中に配置されている(
図9)。ここで、トンネル部15は、車両1が前方、側方、及び後方の何れの方向から衝突した場合においても比較的変形されにくい。このため、トンネル部15の中にバッテリ18を配置することにより、車両1が衝突した場合においても、バッテリ18の損傷を効果的に回避することができる。また、バッテリ18をトンネル部15の中に配置することにより、バッテリ18の損傷を防止するための特別な保護部材を設けることなく、トンネル部15の外部からの衝撃によりバッテリ18が損傷されるリスクを効果的に抑制することができる。これにより、大型化を抑制しながらバッテリ18を保護することができる。
【0064】
また、トンネル部15の中には、原動機(エンジン12及び主駆動モータ16)の出力を車両1の後輪2aに伝達する動力伝達軸であるプロペラシャフト14aが延びている。このプロペラシャフト14aは、車両1の走行中において回転しているため、走行中の車両1が衝突してプロペラシャフト14aが変形した場合には、回転中のプロペラシャフト14aがトンネル部15内に配置されたバッテリ18と干渉して、バッテリ18を損傷することが考えられる。しかしながら、本実施形態の車両駆動装置10においては、プロペラシャフト14aは、筒状のトルクチューブ14cの内部に収容されているため、回転中のプロペラシャフト14aが変形された場合でも、これがバッテリ18と直接干渉して、バッテリ18が損傷されるのを防止することができる。加えて、プロペラシャフト14aがトルクチューブ14cに収容されているので、十分な安全性を確保しながら、バッテリ18をトルクチューブ14cに隣接して配置することができ、トンネル部15の内部のスペースをバッテリ18の収容に有効に活用することができる。
【0065】
さらに、本実施形態の車両駆動装置10によれば、トンネル部15の底面が着脱可能なカバー部材52によって覆われており、トンネル部15内のバッテリ18は、トルクチューブ14cの下方に配置されている。このため、整備ピットにおいて、車両1底部のカバー部材52を取り外すだけで、トルクチューブ14cやプロペラシャフト14aを取り外すことなく、車両1の下側から容易にバッテリ18の交換作業を行うことができる。
【0066】
また、本実施形態の車両駆動装置10によれば、アクセスが困難なトンネル部15内のトルクチューブ14cの上方にインバータ16a、インバータ20a、高圧DC/DCコンバータ26a、及び低圧DC/DCコンバータ26bを配置することにより(
図10)、トンネル部15内のスペースを有効に活用することができる。
【0067】
さらに、本実施形態の車両駆動装置10によれば、トルクチューブ14cの車両1後方側の端部がトランスミッション14bのハウジング44に取り付けられているので(
図7)、重量の増加を抑制しながら、車両駆動系の剛性を高くすることができる。
【0068】
また、本実施形態の車両駆動装置10によれば、トルクチューブ14cの車両1前方側の端部が原動機である主駆動モータ16のハウジングに取り付けられているので(
図7)、重量の増加を抑制しながら、車両駆動系の剛性を高くすることができる。
【0069】
さらに、本実施形態の車両駆動装置10によれば、直列に接続されたバッテリ18とキャパシタ22からインホイールモータである副駆動モータ20に電力が供給されるので(
図3)、比較的低電圧のバッテリ18を採用しても、副駆動モータ20に高電圧を供給することができ、比較的低電流で副駆動モータ20を駆動することができる。
【0070】
また、本実施形態の車両駆動装置10によれば、キャパシタ22の最大の端子間電圧がバッテリ18の端子間電圧よりも高くされているので(
図4)、副駆動モータ20に供給する電圧をバッテリ18の端子間電圧よりも大幅に嵩上げすることができ、低電流で副駆動モータ20を駆動することができる。
【0071】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、車両を駆動するためのエンジン及びモータを備えた所謂ハイブリッド式の車両駆動装置に本発明を適用していたが、モータのみの動力、又はエンジンのみの動力によって車両が駆動される車両駆動装置に本発明を適用することもできる。また、上述した実施形態においては、エンジン及び/又は主駆動モータの動力が、動力伝達軸であるプロペラシャフトによって伝達されていたが、動力伝達軸がエンジンの動力のみ、又はモータの動力のみを伝達する車両駆動装置に本発明を適用することもできる。
【0072】
さらに、上述した実施形態においては、原動機がエンジン及び主駆動モータによって構成され、主駆動モータの出力軸がプロペラシャフトに連結されていた。しかしながら、モータの後方側にエンジンが配置されている場合や、エンジンの動力のみがプロペラシャフトによって伝達される場合には、エンジンの出力軸をプロペラシャフトに連結することもできる。また、上述した実施形態においては、トルクチューブの車両前方側の端部が主駆動モータのハウジングに取り付けられていた。しかしながら、モータの後方側にエンジンが配置されている場合や、エンジンの動力のみがプロペラシャフトによって伝達される場合には、エンジンのハウジングにトルクチューブを取り付けることもできる。
【0073】
さらに、上述した実施形態においては、原動機の出力軸がプロペラシャフトに連結されていたが、原動機の直後にトランスミッション等を配置し、トランスミッション等の出力軸がプロペラシャフトに連結されるように、本発明を構成することもできる。