【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行所:公益社団法人日本化学会 発行者:澤本 光男 刊行物名:日本化学会第98春季年会(2018)講演予稿集DVD 発行年月日:平成30年3月6日 集会名:日本化学会第98春季年会(2018) 主催者:公益社団法人日本化学会 開催日:平成30年3月20日
【課題】油吸着剤として好適に利用することが出来るコンポジット粒子、その工業的に有利な製造方法、及び該コンポジット粒子を用いた油吸着剤及び油水分離方法を提供すること。
【解決手段】本発明のコンポジット粒子は、アルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物と磁性酸化鉄粒子とを含む。当該粒子は、アルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーと磁性酸化鉄粒子とを含む反応原料溶液に、アルカリを加えて、加水分解反応を行って製造される。また、本発明のコンポジット粒子を含む油吸着剤も提供する。更に、油吸着剤と、水及び油を含む処理液とを接触させて、該処理液の油を該油吸着剤に吸着させる油水分離方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明に係るコンポジット粒子は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、単に「フルオロアルキル基含有オリゴマー」ということもある。)の縮合物と磁性酸化鉄粒子とを含む。以下の説明では、「L〜M」(L及びMはそれぞれ任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「L以上M以下」を意味する。
【0017】
【化3】
(式中、R
1及びR
2は、−(CF
2)p−Y基、又は−CF(CF
3)−[OCF
2CF(CF
3)]q−OC
3F
7基を示し、R
1及びR
2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R
1及びR
2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqはそれぞれ独立に0〜10の整数である。R
3、R
4及びR
5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R
3、R
4及びR
5は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0018】
前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、本発明のコンポジット粒子に優れた撥水性を付与させるために用いられる。
【0019】
一般式(1)中のR
1及びR
2の−(CF
2)p−Y基、又は−CF(CF
3)−[OCF
2CF(CF
3)]q−OC
3F
7基のp及びqは、それぞれ独立して、0〜10の整数であり、好ましくは0〜3の整数である。R
1及びR
2は、同一の基であっても異なる基であってもよい。特に、撥水性及び親油性を一層優れたものとする観点から、R
1及びR
2はともに、−CF(CF
3)OC
3F
7基であることが好ましい。
【0020】
前記一般式(1)に示すように、フルオロアルキル基含有オリゴマーは、加水分解可能なアルコキシシリル基を有している。前記一般式(1)中のR
3、R
4及びR
5で示される炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びペンチル基等が挙げられる。R
3、R
4及びR
5は、それぞれ同一の基であっても異なる基であってもよい。
【0021】
一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシビニルシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることにより製造される。オリゴマーの製法方法は、例えば、特開2002−338691号公報又は特開2010−77383号公報に記載の方法によって得ることができる。
【0022】
本発明のコンポジット粒子は、磁性酸化鉄粒子を含む。磁性を有する酸化鉄粒子としては、例えばマグネタイト(Fe
3O
4)、マグヘマイト(γ−Fe
2O
3)等の粒子や、FeO・Fe
2O
3、MnO・Fe
2O
3、NiO・Fe
2O
3、CoO・Fe
2O
3等のフェライト粒子が挙げられ、これらは単独で又は複数組み合わせて用いられる。本発明のコンポジット粒子は、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物に加えて、磁性酸化鉄粒子を用いて、これらを複合化させることによって、従来技術と比較して一層優れた撥水性及び親油性が発現している。このような特性を有するコンポジット粒子は、後述する油吸着剤としても好適に使用される。
【0023】
撥水性及び親油性に優れたコンポジット粒子を首尾よく製造する観点から、磁性酸化鉄粒子は、マグネタイト粒子又はマグヘマイト粒子であることが好ましい。磁性酸化鉄粒子は、本発明の効果を損なわない範囲で、例えばα−ヘマイト、水酸化鉄等の他の鉄化合物や、ニッケル、コバルト、マンガン及びアルミニウムなどの他の金属元素を含有していてもよい。
【0024】
磁性酸化鉄粒子の平均粒子径は、撥水性及び親水性に優れたコンポジット粒子を首尾よく得る観点から、平均粒子径が好ましくは5nm〜1000nm、更に好ましくは10nm〜800nmの範囲のものが好適に用いられる。平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50として求めることができ、例えばメタノール又はエタノール等の溶媒に分散させた磁性酸化鉄粒子を、実施例にて詳述する粒度分布測定装置を用いることにより測定できる。
【0025】
本発明のコンポジット粒子は、
図1及び
図2に示すように、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」ともいう。)による観察では、1個又は2個以上の磁性酸化鉄粒子が、フルオロアルキル基オリゴマーの縮合物中に包接されて存在することが好ましい。特に、本発明のコンポジット粒子は、磁性酸化鉄粒子の表面に、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物が分散配置されている構造を有することが更に好ましい。フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物は、芯材である磁性酸化鉄粒子の表面に均一に分散して包接していることが好ましい。「均一に分散」とは、(i)芯材である磁性酸化鉄粒子の表面が露出するように、まばらで且つ均一にフルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物が配置されている場合、及び(ii)芯材である磁性酸化鉄粒子の表面が露出しないように、緻密に且つ均一にフルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物が配置されている場合の双方の分散状態を包含する。本発明のコンポジット粒子が親油性及び撥水性を容易に発現する観点からは、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物は、芯材である磁性酸化鉄粒子の表面に、(i)の状態で分散配置されていることが好ましい。
【0026】
撥水性及び親油性を一層高くし、油に対する吸着能を高める観点から、コンポジット粒子中の磁性酸化鉄粒子の含有量は、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物100mgに対して、好ましくは5mg〜1000mg、更に好ましくは10mg〜700mgである。コンポジット粒子中の磁性酸化鉄粒子の含有量は、例えば、熱重量分析装置を用いた熱重量分析で測定することができる。
【0027】
本発明のコンポジット粒子は、その平均粒子径が、好ましくは10nm〜7000nmであり、更に好ましくは50nm〜5000nmである。平均粒子径がこの範囲内にあると、コンポジット粒子が備える撥水性及び親油性を効果的に発現しつつ、種々の分散溶媒、樹脂材料及び各種基材等への分散性が良好になる。また、油吸着剤として用いたときに、油吸着性が優れたものになる。平均粒子径は、例えばメタノール又はエタノール等の溶媒に分散させたコンポジット粒子を後述する粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50として求めることができる。
【0028】
本発明のコンポジット粒子は、フルオロアルキル基含有オリゴマーと磁性酸化鉄粒子とを含む反応原料溶液に、アルカリを加えて、加水分解反応を行う反応工程を備えた方法によって好適に製造される。
【0029】
反応工程に係るフルオロアルキル基含有オリゴマーは、前記一般式(1)で表されるオリゴマーであり、加水分解可能なアルコキシシリル基を有するものである。磁性酸化鉄粒子は、上述のものを用いることができる。
【0030】
フルオロアルキル基含有オリゴマーと磁性酸化鉄粒子とを含む反応原料溶液は、例えばフルオロアルキル基含有オリゴマーと、磁性酸化鉄粒子と、反応溶媒とを含む分散液とすることができる。反応溶媒としては、フルオルアルキル基含有オリゴマーが溶解できるものが好ましく用いられる。このような反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、及びイソプロパノール等の低級アルコールが挙げられ、これらのうち、メタノール又はエタノールが、製造効率の観点から特に好ましい。
【0031】
反応工程において、反応原料溶液を調製する際に、フルオロアルキル基含有オリゴマー及び磁性酸化鉄粒子を混合する順序は特に制限されない。混合順序としては、例えば、フルオロアルキル基含有オリゴマー及び磁性酸化鉄粒子のうち一方を反応溶媒に添加し、次いで他方を更に添加して反応原料溶液としてもよく、両者を一度に反応溶媒に添加して反応原料溶液としてもよく、フルオロアルキル基含有オリゴマー及び磁性酸化鉄粒子を混合した後に反応溶媒を添加して、反応原料溶液としてもよい。
【0032】
反応原料溶液中の磁性酸化鉄粒子の含有量は、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー100mgに対して、好ましくは5mg〜1000mg、更に好ましくは10mg〜700mgである。反応原料溶液中の前記磁性酸化鉄粒子の含有量がこのような範囲にあることにより、得られるコンポジット粒子は、撥水性及び親油性が首尾よく発現したものとなる。
【0033】
反応原料溶液における反応溶媒の含有量は、フルオロアルキル基含有オリゴマー及び磁性酸化鉄粒子の合計質量部100質量部に対して、好ましくは500質量部〜10000質量部であり、更に好ましくは1000質量部〜8000質量部である。
【0034】
撥水性及び親油性を効果的に発現したコンポジット粒子を得る観点から、磁性酸化鉄粒子として、平均粒子径が、好ましくは5nm〜1000nm、更に好ましくは10nm〜800nmの範囲のものを用いて、反応工程を行うことが好ましい。
【0035】
反応工程において、反応原料溶液に加えるアルカリとしては、フルオロアルキル基含有オリゴマー中のアルコキシシリル基を加水分解することができ、且つフルオロアルキル基含有オリゴマーを縮合可能なものであれば、特に制限されない。このようなアルカリとしては、例えば水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物が挙げられ、反応性を高くして製造効率を高める点で、好ましくは水酸化アンモニウムである。
【0036】
反応原料溶液に加えるアルカリの混合量は、特に制限されず適宜選択される。また、反応原料溶液にアルカリを混合して加水分解を行う際の反応温度は、好ましくは−5℃〜50℃であり、更に好ましくは0℃〜30℃である。反応温度が−5℃以上であれば、アルコキシシリル基の加水分解速度が過度に遅くならず、十分な反応効率を得ることができ、また50℃以下であれば、製造されるコンポジット粒子の分散安定性を高めることができる。また、反応原料溶液にアルカリを混合して加水分解を行う時間は、特に制限されず適宜選択されるが、好ましくは1時間〜72時間、更に好ましくは1時間〜50時間である。反応工程では、必要に応じて反応原料溶液を撹拌して、加水分解反応を行ってもよい。
【0037】
以上の工程を経て、本発明に係るコンポジット粒子を含有する反応後分散液が得られる。この分散液に含まれるコンポジット粒子は、シロキサン結合を主骨格としたフルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物が磁性酸化鉄粒子の表面に形成されたものとなる。反応終了後、常法により減圧下に溶媒を除去するか、或いは濾過等による固液分離や、磁石等による磁気分離によって固形分を回収し、必要に応じて、洗浄、乾燥等の精製を更に行って、目的とするコンポジット粒子を得ることができる。
【0038】
本発明に係るコンポジット粒子は、これを単独で、又は該粒子と、ガラス、フィルム、天然繊維又は合成繊維、シリカ、アルミナ、砂などの他の基材とを組み合わせて、例えば磁気テープ、高密度磁気記録媒体、電磁波遮断用材料、体外診断薬等の磁性材料、或いは油吸着剤等として用いることができる。特に本発明に係るコンポジット粒子は、油吸着剤として好適に用いることができる。
【0039】
本発明の油吸着剤は、上述のコンポジット粒子を含むものである。本発明の油吸着剤は、例えば油としてドデカンを用いた場合、コンポジット粒子1g当たりのドデカンの吸着量が1g以上、好ましくは1.1g〜3gである。特に、本発明の油吸着剤は、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物及び磁性酸化鉄粒子が複合化したコンポジット粒子を含んでいるので、該粒子が有する優れた親油性が発現したものとなる。
【0040】
本明細書における「油」とは、一般に、油溶性基を有する化合物であり、水と油とが互いに分離して混合しない性質、水と油とが均一若しくは不均一な分散液を形成する性質、又はこれらを組み合わせた性質を有するものである。これらの性質は、例えば目視や、水と油とが乳化等によって分散している場合には光学顕微鏡を用いて、上述の性質を確認又は測定できる。このような性質を満たす油の具体例としては、ドデカン、シクロヘキサン等の非環状又は環状炭化水素、植物性油、動物性脂等の油脂、並びに重油、灯油、軽油、ガソリン等の鉱油等が挙げられる。
【0041】
本発明の油吸着剤を用いた油水分離方法は、該油吸着剤と、油水分離の処理対象となる水及び油を含む処理液とを接触させて、処理液中の油を油吸着剤に吸着させる吸着工程を備える。吸着工程の例としては、粉末の油吸着剤を、水及び油を含む処理液に添加して、処理液に含まれる油を選択的に油吸着剤に吸着させて、水と油とを分離する。本発明の油吸着剤は、これを水及び油を含む処理水に静置状態で添加してもよく、必要に応じて、超音波分散等の撹拌下に吸着工程を行ってもよい。
【0042】
油水分離方法における処理対象となる処理液は、水及び油を含むものであれば特に制限はない。詳細には、例えば工場や飲食店等から排水される油を含む産業排水、油を含む生活排水、或いは油を含む海水、河川水、湖沼水等が挙げられる。処理液における水及び油の混合形態は、水及び油が二層以上に分離した形態であってもよく、澄明な溶液の形態であってもよく、W/O型エマルションやO/W型エマルションといったエマルション等の乳濁液の形態であってもよい。簡便且つ効果的な油水分離を実現する観点から、処理液の形態が溶液又はエマルションであるものを処理対象として、油水分離を行うことが好ましい。
【0043】
油吸着剤の処理液への添加量は、処理液に含まれる油の種類や量、並びに水及び油の混合形態等に応じて適宜変更することができる。例えば、油としてドデカンを含む処理水を処理対象とする場合は、ドデカン1gに対して油吸着剤を0.3g〜3g、好ましくは0.6g〜2.5g添加することができる。油水分離を首尾よく行う観点から、油吸着剤の処理液への添加量は、処理対象の処理液を用いて、予め実験により求めておくことが好ましい。
【0044】
油水分離に用いた油吸着剤を処理液から首尾よく回収するとともに、処理液に含まれる油を選択的且つ効果的に回収可能とする観点から、本発明の油水分離方法は、吸着工程を行った後、油が吸着した油吸着剤を磁気分離して、処理液から油吸着剤を回収する回収工程を更に備えることが好ましい。
【0045】
上述のとおり、本発明の油吸着剤は、コンポジット粒子を含んでいるので、処理液に含まれる油に対する親和性が高く、且つ処理液に含まれる水に対する撥水性が高いものとなる。また、コンポジット粒子は芯材に磁性酸化鉄粒子を含んでいるので、外部から付与された磁力によって容易に引き寄せられる。磁力の発生材料として、例えば磁石を用いた場合には、吸着工程後の油吸着剤は、処理液中の油を吸着した状態のまま、磁石の磁力によって、磁石側へ引き寄せられる。このようにして、添加した油吸着剤を回収しつつ、処理液から水と油とを簡便且つ効果的に分離することができる。
【0046】
回収工程における磁気分離に用いることができる磁石としては、特に制限はないが、例えば、永久磁石、超電導バルク磁石、あるいは電磁石等を用いることができる。
【0047】
本発明の油水分離方法は、吸着工程を行った後、回収した油吸着剤を有機溶剤で洗浄して、油吸着材として再使用可能にする洗浄工程を更に備えることが好ましい。吸着した油を油有機材から洗浄除去するための有機溶剤としては、油を溶解でき、且つ該油吸着剤に対して不活性なものであれば特に制限なく用いることができる。このような有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール、アセトン等のケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の非環状又は環状エーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の非環状又は環状アルカン、並びにこれらの混合物を用いることができる。このような工程を経ることによって、新しい油吸着剤を用いることなく、油水分離を効果的に複数回行うことができるので、油水分離のコストを一層低減することができる。
【0048】
洗浄工程における油吸着剤の洗浄方法は特に限定されず、例えば有機溶媒中での撹拌や超音波分散、有機溶媒への浸漬等の方法を行うことができる。洗浄工程後、乾燥等の精製を更に行って、再使用可能な油吸着剤としてもよい。
【0049】
また、本発明の油吸着剤は、粉末で用いてもよく、必要に応じて常法に従い成形加工し、それによって得られた成形体を油吸着材として用いてもよい。
【0050】
前記の成形加工としては、例えば粉末状の油吸着剤を顆粒状に成形するための造粒加工、或いは樹脂芯材の表面に本発明の油吸着剤を添着被覆処理する方法、天然繊維又は合成繊維で形成された不織布の表面及び/又は内部に油吸着剤を付着させて固定化してシート状にする方法などを挙げることができる。造粒加工の方法としては、公知の方法が挙げられ、例えば攪拌混合造粒、転動造粒、押し出し造粒、破砕造粒、流動層造粒、噴霧乾燥造粒(スプレードライ)、圧縮造粒等を挙げることができる。造粒の過程において必要に応じバインダーや溶媒を添加、混合してもよい。バインダーとしては、公知のもの、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、デンプン、コーンスターチ、糖蜜、乳糖、ゼラチン、デキストリン、アラビアゴム、アルギン酸、ポリアクリル酸、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。溶媒としては水性溶媒や有機溶媒等各種のものを用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
<フルオロアルキル基含有オリゴマー>
フルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「VM」という。)として、前記一般式(1)の骨格を有し、以下の表1に示す置換基を有するものを使用した。表1に示す分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
【0053】
【表1】
【0054】
〔実施例1ないし9〕
以下の表2に示す量のVMをメタノール20mLに溶解してVM溶液とし、この溶液に、表2に示す量のマグネタイト粒子(Fe
3O
4:戸田工業社製)を添加し、反応原料溶液をそれぞれ調製した。マグネタイト粒子の平均粒子径D50は表2に示すとおりである。これらの反応原料溶液に25質量%アンモニア水0.3mLを添加し、マグネティックスターラーを用いて室温(25℃)で5時間撹拌を行って、コンポジット粒子を含む反応後分散液を得た。反応後分散液に永久磁石を近づけて目的物を磁気分離して回収し、回収した目的物を乾燥してコンポジット粒子試料を得た。添加したマグネタイト粒子の質量を、得られたコンポジット粒子試料の質量の割合で除すことで、コンポジット粒子試料の収率(%)を算出した。収率は、コンポジット粒子の製造効率を示し、収率が高いほど工業的に有利であることを意味する。
TEM観察の結果、各実施例のコンポジット粒子試料は、マグネタイト粒子がフフルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物中に包接され、複合化されていることが確認された。実施例3で得られたコンポジット粒子試料のTEM写真を
図1に示す。
【0055】
〔比較例1ないし3〕
平均粒子径D50が10nm(比較例1)、40nm(比較例2)、200nm(比較例3)のマグネタイト粒子のみを用いた。つまり、各比較例は、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物を有しない磁性酸化鉄粒子の試料である。
【0056】
【表2】
【0057】
<物性評価>
実施例で得られたコンポジット粒子試料及び比較例の粒子試料について、平均粒子径D50、並びにドデカンとの接触角及び水との接触角を測定した。また、同試料について、溶媒に対する分散性を評価した。
【0058】
(1.平均粒子径D50の評価)
実施例で得られたコンポジット粒子試料をメタノールに分散させて、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD−300V)を用いて測定した。
【0059】
(2.ドデカンとの接触角及び水との接触角の評価)
実施例で得られたコンポジット粒子を含む反応後分散液に、ガラス板を1分間、室温(25℃)で浸した。ガラス板を引き上げた後、自然乾燥させ、その後、20℃で一晩真空乾燥を行った。このようにして得られた改質ガラス板の表面に対するドデカンとの接触角(°)、及び水との接触角(°)を協和界面科学製のDrop Master.300を用いてそれぞれ測定した。接触角が小さいほど、ドデカン又は水との親和性が高いことを示す。結果を以下の表3に示す。表中の「−」は接触角に変化がなかったことを示す。
【0060】
【表3】
【0061】
(3.溶媒に対する分散性の評価)
実施例1、3、4、6、7及び9で得られたコンポジット粒子試料、並びに比較例の粒子試料を用いて、以下の溶媒に対する分散性を以下の基準で評価した。評価は、実施例又は比較例の試料0.01gを溶媒5mLに添加し、その分散状態を目視で観察した。用いた溶媒は、水(H
2O)、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、テトラヒドロフラン(THF)、1,2−ジクロロエタン(DE)、Cl
2CHCF
2CF
3とCClF
2CF
2CHClFとの質量比1:1の混合溶媒(AK−225、AGC社製)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)とした。結果を以下の表4に示す。
【0062】
(分散性の評価基準)
×:粒子試料が溶媒に浮遊又は沈殿し、全く分散しない。
△:粒子試料が溶媒に一部浮遊又は沈殿しているが、分散しているものもある。
○:粒子試料が溶媒に浮遊又は沈殿することなく、略均一に分散している。
【0063】
【表4】
【0064】
表2に示すように、各実施例に示すコンポジット粒子は、いずれも収率が高く、工業的に有利な方法で製造できることが判る。特に、磁性酸化鉄粒子の平均粒子径を大きくしたり、磁性酸化鉄粒子の添加量を多くしたりすることによって、コンポジット粒子の収率が高くなり、工業的に一層有利な方法で製造できることも判る。
【0065】
また表3に示すように、各実施例に示すコンポジット粒子は、ドデカンの接触角が小さく、且つ水との接触角が非常に大きいので、親油性及び撥水性を有するものであることが判る。一方、各比較例に示す粒子は、ドデカンの接触角及び水の接触角がともに小さく、撥水性でないことが判る。
【0066】
更に表4に示すように、各実施例に示すコンポジット粒子は、水には全く分散せず、親油性を有する各溶媒には分散可能であることも判る。
【0067】
〔実施例10〜20〕
以下の表5に示す添加量のVMをメタノール5mLに溶解してVM溶液とし、表5に示す平均粒子径及び添加量の磁性酸化鉄粒子(マグネタイト粒子)を用いた他は、実施例1ないし9と同様にコンポジット粒子試料を製造した。TEM観察の結果、各実施例のコンポジット粒子試料は、マグネタイト粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物中に包接され、複合化されていることが確認された。実施例10で得られたコンポジット粒子試料のTEM写真を
図2に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
<物性評価>
実施例10ないし18で得られたコンポジット粒子試料について、平均粒子径D50、並びにドデカンとの接触角及び水との接触角を上述の方法で測定した。また、実施例19及び20のコンポジット粒子試料について平均粒子径を測定した。結果を以下の表6に示す。
【0070】
【表6】
【0071】
表5に示すように、実施例10ないし20に示すコンポジット粒子は、実施例1ないし9と同様に、いずれも収率が高く、工業的に有利な方法で製造できることが判る。特に、磁性酸化鉄粒子の平均粒子径を大きくしたり、磁性酸化鉄粒子の添加量を多くしたりすることによって、コンポジット粒子の収率が高くなり、工業的に一層有利な方法で製造できることも判る。
【0072】
また表6に示すように、実施例10ないし20に示すコンポジット粒子は、ドデカンとの接触角が小さく、且つ水との接触角が非常に大きいので、親油性及び撥水性を有するものであることが判る。
【0073】
<油水分離性能の評価>
上述の方法によって得られたコンポジット粒子を油吸着剤として用いたときの油水分離性能を、以下の評価1ないし4に記載の方法で評価した。
【0074】
(評価1)
図3に示すように、水2mLを入れたガラス製サンプルビンに、油として、予めpigment green MCにより青に着色されたドデカン20μLを水面に浮遊させるように添加し、水及び油が二層に分離した処理液1とした。この処理液1に、20mgの実施例3で得られたコンポジット粒子試料又は比較例1の粒子試料をそれぞれ静置状態で添加し、吸着工程を行った。次いで、サンプルビンの側面に永久磁石を近づけ、各試料を処理液から磁気分離し、回収工程を行った。回収工程後のサンプルビンの状態を目視で観察し、以下の基準で油水分離性能(油吸着性能)を評価した。結果を
図3及び表7に示す。
【0075】
(評価2)
図4に示すように、水30mLを入れたシャーレに、青色に着色されたドデカン20μLを浮遊させるように添加し、水及び油が二層に分離した処理液2とした。この処理液2に、50mgの実施例12で得られたコンポジット粒子試料又は比較例1の粒子試料をそれぞれ静置状態で添加し、吸着工程を行った。次いで、シャーレの上方に永久磁石を近づけ、各試料を処理液から磁気分離し、回収工程を行った。回収工程後のシャーレの状態を目視で観察し、以下の基準で油水分離性能(油吸着性能)を評価した。結果を
図4及び表8に示す。
【0076】
(油吸着性能の評価)
×:着色されたドデカンが水面に観察され、油吸着性能が不良である。
〇:着色されたドデカンが水面に観察されず、油吸着性能が良好である。
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
図3及び
図4、並びに表7及び表8に示すように、実施例3及び12のコンポジット粒子は、比較例1の粒子と比較して、油吸着性能が高く、水及び油を含む処理液から簡便且つ効果的に油を分離できることが判る。
【0080】
(評価3)
5mLのドデカンと、0.468mLの水と、乳化剤として468mgのSpan80とをサンプルビンに入れ、超音波処理を1時間行った。次いで、これを水で50倍に希釈して、
図5に示すW/O型エマルションを作製し、これを処理液3とした。次いで、3mLの処理液3を入れたサンプルビンに、50mgの実施例16ないし20のコンポジット粒子試料又は比較例3の粒子試料を添加して、吸着工程を行った。このサンプルビンに蓋をして、該サンプルビンを超音波装置(ASU CLEANER ASU−6、アズワン株式会社製)に入れて、内容物を室温で30分間撹拌し、その後、3分間静置した。続いて、サンプルビンの側面に永久磁石を近づけて、各試料を処理液から磁気分離し、回収工程を行った。回収工程の概要を
図5に示す。
【0081】
回収工程後のサンプルビンから上澄み液を採取し、該液の500nmでの光透過率をUVスペクトル装置(島津製作所製、UV−1800)を用いて、ドデカンをブランクとして測定した。光透過率の測定結果は、「Demulsification efficiency」として、
図6に示す。光透過率の値が高いほど、エマルションの破壊が起こり、油と水とを容易に分離可能であることを示す。
【0082】
(評価4)
0.833mLのドデカンと、5mLの水と、乳化剤として625mgのTween80とをサンプルビンに入れ、超音波処理を1時間行った。次いで、これを水で50倍に希釈して、
図7に示すO/W型エマルションを作製し、これを処理液4とした。次いで、3mLの処理液4を入れたサンプルビンに、50mgの実施例16ないし20のコンポジット粒子試料又は比較例3の粒子試料を添加して、評価3と同様の方法で吸着工程及び回収工程を行った。回収工程の概要を
図7に示す。回収工程後のサンプルビンから上澄み液を採取し、光透過率の測定を評価3と同様に行った。結果を
図8に示す。
【0083】
図6及び
図8に示すように、実施例16ないし20のコンポジット粒子によって処理された処理液は、比較例3の粒子と比較して、光透過率が高くなっている。つまり、実施例のコンポジット粒子は、親油性が高いことに起因して、水と油とが微細に分散したエマルション等の処理液を処理対象とした場合であっても、油水分離性能を首尾よく発現できることが判る。
【0084】
<洗浄工程後の油水分離性能の評価>
油を吸着させた油吸着剤を洗浄したときの油水分離性能の変化を、以下の方法で評価した。
【0085】
(評価5)
実施例18のコンポジット粒子試料を油吸着剤として用いて、評価2と同様に吸着工程及び回収工程を行って、ドデカンを吸着させたコンポジット粒子を回収し、該粒子の質量A1(mg)を測定した。次いで、回収したコンポジット粒子を25℃で1時間乾燥し、乾燥後の粒子を5mLのヘキサンで洗浄して、洗浄工程を行った。更に80℃で12時間乾燥して、再使用可能なコンポジット粒子を得た(これらの一連の工程を「1サイクル」とする。)。更に、再使用可能なコンポジット粒子を用いて、前記サイクルを4回繰り返して行い、各サイクルでの粒子の質量A2〜A5(mg)を測定した。
【0086】
対照試料として、ドデカンを含まない液に実施例18のコンポジット粒子試料を添加して、上述の吸着工程及び回収工程を行ってコンポジット粒子を回収し、該粒子の質量B1(mg)を測定した。次いで、上述の洗浄工程を行い、再使用可能なコンポジット粒子を得た。更に再使用可能なコンポジット粒子を用いて、前記サイクルを4回繰り返して行い、各サイクルでの粒子の質量B2〜B5(mg)を測定した。
【0087】
油水分離性能は、吸着したドデカンの質量(Weight gain)として評価した。詳細には、以下の式(a)のように、各サイクルにおける粒子の質量の差を算出した。結果を
図9に示す。
吸着したドデカンの質量(mg)=Ax(mg)-Bx(mg)・・・(a)
(xはサイクルの回数を示し、1〜5の整数である。)
【0088】
図9に示すように、本発明のコンポジット粒子は、複数回洗浄工程を行った後でも、親油性及び撥水性が十分に保持されており、高い油水分離性能を発現し、且つ再使用可能なものであることが判る。