【解決手段】本発明の処理対象物(13)の表面をプラズマで処理する表面処理装置(10)は、処理対象物(13)を収容し、処理対象物(13)の表面をプラズマで処理する処理室(14)と、処理室(14)に設けられ、処理室(14)内の気体を排出する排気口(19a)と、処理対象物(13)の表面を処理するために用いられるプラズマ中(高密度プラズマ(25)中)の第1イオンの排気口(19a)からの排気をローレンツ力で抑制する排気抑制手段(30)と、を備える。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。
なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0014】
図1は本発明に係る実施形態の表面処理装置10の斜視図であり、
図2は本発明に係る実施形態の表面処理装置10の断面図である。
なお、以下では、処理対象物13が金属材料(例えば、銅や鉄等)の板材で、その板材に塗装をする前に表面の処理として、表面に付着している有機物をクリーニングするクリーニング処理又は表面の錆を還元する還元処理を前提に説明を行う。
【0015】
ただし、表面の処理として、処理対象物13が半導体ウェハ等であって、その半導体ウェハの表面のフォトレジストのような有機物をアッシング(除去するクリーニング)するクリーニング処理、半導体ウェハの表面をエッチングするエッチング処理、半導体ウェハの表面に新たな別の材料の層を形成するデポジション処理、又は、半導体ウェハの表面にドーパント等の材料を注入するイオン注入処理等であってもよい。
【0016】
図1に示すように、表面処理装置10は、処理室本体11と、処理室本体11の前側に設けられ、開閉操作時に掴む把手12aを有する扉12と、処理室本体11の開放口縁に設けられたパッキン材15と、を備え、扉12を閉じることで機密空間となる、処理対象物13を収容し、処理対象物13の表面をプラズマで処理する処理室14が形成されるものになっている。
【0017】
また、表面処理装置10は、前側の処理室本体11の左右一方側(図では右側)に設けられた処理開始ボタン21と、前側の処理室本体11の左右一方側(図では右側)に設けられた処理時間を設定するタイマー設定ダイヤル22と、前側の処理室本体11の左右一方側(図では右側)に設けられた処理時間を表示する処理時間表示部23と、を備えている。
【0018】
さらに、
図2に示すように、表面処理装置10は、処理室14の上側に設けられたマイクロ波発生手段17と、マイクロ波発生手段17に対応する処理室14の壁面(本例では上壁面)に設けられ、マイクロ波発生手段17の発生させるマイクロ波を処理室14に入射させる誘電体材料(例えば、石英ガラスやセラミック等)の窓20と、を備えている。
【0019】
本実施形態では、マイクロ波発生手段17に周波数が2.45GHzのマイクロ波を発生させるマグネトロンを用いているが、発生させるマイクロ波の周波数は、これに限定される必要はなく、例えば、通信目的以外で使用できるISMバンドの5GHz、24.1GHz、915MHz、40.6MHz、27.1MHz及び13.56MHz等であってもよい。
【0020】
また、本実施形態では、マイクロ波発生手段17が、パルス的なマイクロ波を発生させるものとして、マイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値を高めつつ、平均的なマイクロ波電力(マイクロ波強度)を下げるようにしている。
【0021】
ただし、パルス的なマイクロ波とは、周期的なマイクロ波電力(マイクロ波強度)の強弱を伴うものを意味し、必ずしも、周期的にマイクロ波電力(マイクロ波強度)がゼロになるものに限定されるものではない。
【0022】
具体的には、マイクロ波発生手段17は、パルス的なマイクロ波のマイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値が現れる周期が150マイクロ秒以下(望ましくは、100マイクロ秒以下、更に望ましくは50マイクロ秒以下)であるマイクロ波を発生させ、プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)が大幅に減衰する前に、処理室14内にピーク値のマイクロ波電力を有するマイクロ波を供給することで、ほぼそのマイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値に対応する密度のマイクロ波表面波プラズマを維持しつつ、マイクロ波発生手段17で使用される平均電力を抑制するようにしている。
【0023】
また、表面処理装置10は、処理室14の壁面(本例では右壁面)に開口するように設けられ、プラズマ化する気体を受け入れる受入口18aと、受入口18aから処理室14内に供給される気体を供給するための気体供給手段18(本例では、水素ガス供給手段)と、処理室14の壁面(本例では右壁面)に開口するように設けられ、処理室14内の気体を排出する排気口19aと、排気口19aから気体を排出するための気体排出手段19(本例では、真空ポンプ)と、を備えている。
【0024】
なお、真空ポンプには、吸引力が高く、処理室14内を速やかに真空(例えば、10Pa程度)にできるようにメカニカルブースターポンプを用いることが好ましい。
また、気体の貯蔵部であるボンベ又はタンクが表面処理装置10とは別体に設けられ、気体の貯蔵部から表面処理装置10まで気体供給配管で繋げる場合もあることから、気体供給手段18は、供給する気体の流量等を制御する流量制御装置までを意味し、気体の貯蔵部を含まない場合がある。
【0025】
さらに、表面処理装置10は、処理室14の壁面(本例では下壁面)に開口する通気孔16aと、通気孔16aを通じて外気を処理室14内に取り込むか否かを制御するバルブ16と、を備えている。
なお、表面処理装置10は、処理対象物13を配置するために処理室14内に設置され、複数の貫通孔の形成された載置台24も備えている。
【0026】
そして、扉12(
図1参照)を閉めると、扉12が処理室本体11にロックされ、そのロックに連動してバルブ16が閉じて、処理室14が密閉空間になるとともに、マイクロ波発生手段17、気体供給手段18、及び、気体排出手段19の稼働が許可された動作可能モードになる。
【0027】
なお、扉12を開く場合には、把手12aを引くことになり、その引き操作に連動して扉12のロックが解除されるとともに、マイクロ波発生手段17、気体供給手段18、及び、気体排出手段19の稼働が許可されない動作不能モードになるとともに、バルブ16が開き処理室14が常圧になって扉12を開けることができる。
【0028】
そして、扉12を開けて、載置台24に処理対象物13を配置して扉12を閉じて、処理時間表示部23を見ながらタイマー設定ダイヤル22を操作して処理時間を設定した後、処理開始ボタン21を押すと、処理対象物13の表面をプラズマで処理する表面処理が開示される。
【0029】
具体的には、気体排出手段19が駆動して処理室14内の圧力が所定の圧力まで減圧されると、マイクロ波発生手段17、及び、気体供給手段18が駆動し、気体(本例では、水素ガス)及び、マイクロ波の処理室14への供給が開始される。
【0030】
なお、高密度なプラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)を安定して生成させるためには、処理室14内の圧力が低い方が有利であり、少なくとも処理室14内は10分の1気圧以下が好ましく、100分の1気圧以下がより好ましく、1000分の1気圧以下が更に好ましく、本実施形態では、所定の圧力を10000分の1気圧程度である約10Paにしている。
【0031】
このように、マイクロ波が窓20を通じて処理室14内に供給されると、窓20の処理室14内に露出した表面に表面波が形成され、この表面波のカットオフ角周波数で決まる密度以上の高密度プラズマ25(本例では、高密度なマイクロ波表面波水素プラズマ)が生成される。
なお、高密度プラズマ25として点線で示す範囲は、プラズマの発光状態が目視できるほどプラズマの密度が高い範囲を模式的に示したものであり、密度は低いもののそれよりも外側にもプラズマが存在する。
【0032】
なお、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)は、電子密度が高いので照射されたマイクロ波はマイクロ波表面波プラズマの表面で反射されて内部には入らないがマイクロ波表面波プラズマの表面に沿う形で伝搬される。
【0033】
そして、設定された処理時間の間、高密度プラズマ25(本例では、高密度なマイクロ波表面波水素プラズマ)によって、処理対象物13の表面のクリーニング処理又は還元処理が行われ、設定された処理時間が経過すると、マイクロ波発生手段17、及び、気体供給手段18の駆動が停止し、クリーニング処理又は還元処理が完了する。
【0034】
なお、本実施形態では、プラズマがマイクロ波表面波プラズマである例を示しているが、これに限定される必要はなく、他のプラズマであってもよいが、マイクロ波表面波プラズマは、他のプラズマ(例えば、高周波プラズマや直流放電プラズマ等)と比較すれば、電子温度が低く(例えば、電子温度が1eV程度)、他のプラズマのように、高い電子温度(例えば、電子温度が10eV以上)とするためにエネルギーが消費されるプラズマと異なり、エネルギーロスが少ないという利点がある。
【0035】
また、マイクロ波表面波プラズマは、プラズマ中のイオンや分子の温度が熱プラズマと呼ばれるものに比べ大幅に低い(ほぼ常温)ため、高温処理したくない処理対象物13の表面の処理が可能であるとともに、高密度なプラズマを均一に、例えば、0.5m
2以上の大面積の範囲に生成することができることから大きな処理対象物13に対しても表面処理が可能である。
【0036】
そして、本実施形態の場合、プラズマ化する気体に水素ガスを用いているため、処理対象物13の表面を処理するために用いられるプラズマ中の第1イオンは水素イオン(陽イオン)になっており、この水素イオンが排気口19aから排出されると、プラズマ密度が低下し、表面の処理効率が悪くなる。
【0037】
なお、本実施形態では、先に述べたように銅や鉄等といった金属材料の板材の表面を処理する場合を事例にしているため、水素ガスを用いて表面を処理する雰囲気を還元雰囲気として、金属材料の板材の表面をクリーニングするクリーニング処理、又は、表面の錆を還元する還元処理を行うものとしている。
しかし、このような処理に用いる気体は、水素ガスに限定される必要はなく、メタンやプロパン等といった還元雰囲気を形成できる反応性ガスであってもよい。
【0038】
また、処理対象物13の表面の処理に寄与せずに、排気口19aから排出される水素イオンがあると、処理対象物13の表面の処理に必要な水素ガスよりも多い水素ガスを処理室14に供給することになる。
【0039】
そこで、本実施形態では、表面処理装置10が、処理対象物13の表面を処理するために用いられるプラズマ中の第1イオン(本例では、水素イオンである陽イオン)の排気口19aからの排気をローレンツ力で抑制する排気抑制手段30を備えるものとしており、以下、
図3及び
図4を参照しながら排気抑制手段30について説明する。
【0040】
図3はローレンツ力を発生させるための基礎的な内容を説明するための図であり、
図4は排気抑制手段30を説明するための図であり、
図3を参照してローレンツ力を発生させるための基礎的な内容を説明した後に、
図4を参照して排気抑制手段30についての説明を行う。
なお、
図3では左側にローレンツ力を発生させるための構成の概略図を示し、右側にその構成で発生するローレンツ力の状態を示している。
【0041】
図3に示すように、左右一対の磁石をS極とN極が向かい合うように配置する。
図3の配置の場合、左右一対の磁石間の向かい合う極を見ると、左側にS極が位置(左側に左側の磁石のS極が位置)し、右側にN極が位置(右側に右側の磁石のN極が位置)しているため、磁界の方向(磁束密度)は右から左に向かう方向となる。
【0042】
一方、この磁界の方向(磁束密度)と直交する方向に一対の電極を配置し、電圧を印加することで、一方を陽極(+極)とし、他方を陰極(−極)とする。
【0043】
図3では、手前側(下側)が陽極(+極)とされ、奥側(上側)が陰極(−極)とされており、プラズマ中(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ中)では電流Iが流れる状態にあるため、
図3に示すように、手前側(下側)から奥側(上側)に向かって電流Iが流れることになる。
【0044】
そして、上記の状態を図示すれば、
図3の右側に示すようになり、
図3の右側に示す磁界の向きに左手の人差し指を合わせ、電流Iの流れに左手の中指を合わせるようにすれば、左手の親指が上側を向き、フレミングの左手の法則から力(ローレンツ力)が上向きに発生する構成になっていることが理解できる。
【0045】
ただし、フレミングの左手の法則は、電荷が正である場合に働く力(ローレンツ力)を示すものになっており、電荷が負である場合に働く力(ローレンツ力)は逆方向になる。
【0046】
したがって、
図3の構成の場合、正の電荷を有するもの(例えば、本例の第1イオン(水素イオンのような陽イオン))には上側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
【0047】
なお、
図3の構成において、向かい合うS極とN極を逆転、つまり、左側にN極が位置し、右側にS極が位置するようにすれば、磁界の方向(磁束密度)が逆転することになるので、ローレンツ力の関係も逆転、つまり、正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
【0048】
同様に、
図3の構成において、一対の電極の配置を逆転、つまり、手前側(下側)を陰極(−極)とし、奥側(上側)を陽極(+極)とすれば、電流Iの向きが逆転するので、ローレンツ力の関係も逆転、つまり、正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
【0049】
このような原理を利用して、排気抑制手段30は実現され、以下、具体的に、
図4を参照しながら排気抑制手段30の構成について説明する。
【0050】
図4の左側に示すように、排気抑制手段30は、導電性の材料で形成された円筒部材CMと、導電性の材料で形成され、円筒部材CMの中央に配置される電極部としての棒状部材SMと、を備えている。
なお、電極部としての棒状部材SMは、円筒部材CMと短絡しないように、円筒部材CMの中央に円筒部材CMと離間して配置されている。
【0051】
本実施形態では、円筒部材CMはステンレス(SUS)で形成され、棒状部材SMはタングステン等の高温に耐えられるものを用いるようにしている。
ただし、棒状部材SMの断面積が大きく、あまり発熱しない場合には、円筒部材CMと同様にステンレス(SUS)等を用いるようにしてもよく、形状についても本実施形態では、棒状部材SMの断面形状が直径5mmから10mm程度の円形の円柱形状にしているが、棒状部材SMは断面形状が六角形等の多角形であってもよく、星型等であってもよい。
また、円筒部材CMの内径は、大きい方が、圧損が出ないため、例えば、5.0cm以上であることが好ましい。
【0052】
また、排気抑制手段30は、円筒部材CMに電流Iを流すための第1電源と、円筒部材CMと棒状部材SMを一対の電極として機能させるための電圧を印加する第2電源と、を備えている。
例えば、第1電源は、0.5Vから1.0V程度で円筒部材CMに30Aから300Aの電流Iが流れるようにしている。
また、第2電源は、20Vから80V程度の電圧を印加するものとしている。
【0053】
図4で示す構成では、第1電源が、円筒部材CMの一方側(例えば、
図4の上側)から他方側(例えば、
図4の下側)に向けて電流Iを流すように設けられ、第2電源が円筒部材CMを陰極(−極)とし、棒状部材SMを陽極(+極)とするように、円筒部材CMと棒状部材SMの間に電圧を印加するように設けられている。
【0054】
図4の右側の図は、左側の図を上側から見た模式図になっており、上述のようにすると、まず、円筒部材CMの一方側(例えば、
図4の上側)から他方側(例えば、
図4の下側)に向けて流れる電流Iによって、
図4の右側に点線で示すように、円筒部材CMの内部空間に反時計回りの磁界が形成される。
【0055】
なお、物理のテキスト等においては、円筒部材CMの一方側から他方側に電流Iを流しても、円筒部材CMの内部空間には磁界が形成されないという説明になっているが、例えば、排気を取る程度に内径の大きな円筒部材CM(例えば、内径が3.0cm以上)の場合、棒状部材SMが位置するような中心には磁界が形成されないものの、それ以外のところでは磁界が形成されていることをガウスメーターで確認している。
ただし、中心ほど磁界が弱くなる傾向はある。
【0056】
また、プラズマ中(本例では、マイクロ波表面波プラズマ中)は電流Iが流れる状態にあるため、
図4の右側の図に示すように、棒状部材SMから円筒部材CMに向かって放射状に電流Iが流れる状態となる。
例えば、本実施形態では、1.0A程度の電流Iが流れるようになっている。
【0057】
そして、棒状部材SMから円筒部材CMに向かって放射状に流れる電流Iと反時計回りの磁界との接点においては、その接点で磁界に対して接線を引いて反時計回り方向に向きを取った磁界が発生していることになる。
【0058】
このため、
図4に示す構成の場合、正の電荷を有するもの(本例の第1イオンである水素イオン(陽イオン))には上側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
【0059】
なお、円筒部材CM中を流れる電流Iの向きが逆になるように第1電源を設ければ、時計回りの磁界が形成されるため、ローレンツ力の関係は逆転、つまり、正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
【0060】
同様に、円筒部材CMを陽極(+極)とし、棒状部材SMを陰極(−極)とするように第2電源を設ければ、棒状部材SMと円筒部材CMの間を流れる電流Iの向きが逆転するため、ローレンツ力の関係は逆転、つまり、正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
【0061】
したがって、円筒部材CMに対してどちら側に正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)に働く力(ローレンツ力)を発生させ、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)に働く力(ローレンツ力)を発生させるかは、第1電源又は第2電源の設け方によって選択される。
【0062】
このことから、例えば、半導体ウェハの表面のフォトレジストのような有機物をクリーニングするクリーニング処理では、プラズマ化する気体に酸素ガスが用いられることがあり、この場合、処理対象物13の表面を処理するために用いられるプラズマ中の第1イオンは酸素イオン(陰イオン)になるが、そのような別の例の場合であっても、基本的な構成は同じままで第1電源又は第2電源の設け方によって対応させることができる。
【0063】
そして、
図2に示す排気抑制手段30は、処理室14側に向かって正の電荷を有するもの(本例の第1イオンである水素イオン(陽イオン))に働く力(ローレンツ力)を発生させるようにしている。
【0064】
なお、上述の説明でわかるように、処理対象物13の表面を処理するために用いられるプラズマ中の第1イオンが陰イオンとなる場合には、
図2に示す排気抑制手段30は、第1電源又は第2電源の設け方によって、処理室14側に向かって負の電荷を有するもの(陰イオン)に働く力(ローレンツ力)を発生させることになる。
【0065】
このように、本実施形態では、排気抑制手段30が、排気口19a(
図2参照)に設けられた導電性の円筒部材CM(
図4参照)と、円筒部材CMに一方側(一端側)から他方側(他端側)に向けて電流Iを流す第1電源と、円筒部材CMの中央に円筒部材CMと離間して配置された導電性の電極部(
図4の棒状部材SM)と、円筒部材CMと電極部(
図4の棒状部材SM)の間に電圧を印加する第2電源と、を備え、その第1電源又は第2電源の設け方によって、排気抑制手段30は、処理室14側に向かって正の電荷を有するもの(本例の第1イオンである水素イオン(陽イオン))に働く力(ローレンツ力)を発生させるようになっているため、第1イオンが排気口19aから排気されるのが抑制される。
【0066】
なお、本実施形態では、排気抑制手段30が、排気口19a(
図2参照)内に収まる構成としているが、排気口19aの近くの処理室14内に、
図3を参照して説明した構成をそのまま設けるようにした排気抑制手段30としてもよい。
つまり、排気抑制手段30は、左右一対の磁石と、一対の磁石によって形成される磁界の方向(磁束密度)と直交する方向に設けられた一対の電極と、一対の電極に電圧を印加する電源と、を備えるものであってもよい。
【0067】
以上、具体的な実施形態に基づいて、本発明について説明してきたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではない。
【0068】
例えば、プラズマを発生させる構成自体は、上記実施形態に限定される必要はなく、例えば、半導体ウェハ等(単に基材ともいう。)の表面を処理する場合、基材に直接RF(Radio Frequency)と高電圧を与え、プロセスガス及び層形成材料の存在する雰囲気下で、基材自身で層を形成する材料のイオンを含むプラズマを生成しプラズマを引き付けるPBII&D(Plasma Based Ion Implantation & Deposition)法等も知られており、このような新たな層を形成する材料のイオン(第1イオン)を含むプラズマで基材の表面を処理し、新たな層を形成するデポジション処理の場合であっても、その表面処理を行う表面処理装置に排気抑制手段30を設けるようにすることで無駄な材料の排気を抑制することが可能となる。
【0069】
また、PBII&D法の装置では、基材の表面に材料(ドーパントともいう。)を注入するイオン注入処理も行えるが、この場合であっても、排気抑制手段30を設けるようにすることで、プラズマ中のドーパントのイオン(第1イオン)が無駄に排気されるのを抑制することができる。
【0070】
さらに、半導体ウェハ等(単に基材ともいう。)の表面をプラズマでエッチングするための装置においても、排気抑制手段30を設けるようにすることで、そのエッチングに寄与するプラズマ中のイオン(第1イオン)が無駄に排気されるのを抑制することができる。
【0071】
プラズマで表面を処理する表面処理装置によっては、プラズマ中の中性のラジカルだけを表面の処理に利用する構成になっているものもあるが、そのような極性を有しないもので表面の処理を行う装置でなければ、つまり、希ガスや反応性ガス(金属の蒸気含む)等の気体をプラズマ化して、そのプラズマ中のイオン(第1イオン)で表面を処理する表面処理装置であれば、排気抑制手段30を設けるようにすることで、第1イオンが無駄に排気されるのを抑制することができる。
【0072】
なお、上述の第1電源又は第2電源のいずれか1つを繋ぎ込みの方向を、例えば、スイッチング操作で簡単に逆転できる構成を持たせるようにしておけば、第1イオンが陽イオンの場合でも、陰イオンの場合でも、スイッチング操作で対応させることができるので好ましい。
【0073】
また、同様に、排気抑制手段30に
図3の構成をそのまま用いた場合でも、一対の電極に電圧を印加する電源がスイッチング操作で繋ぎ込みの方向を逆転できる構成を有することが好ましい。
【0074】
このように、本発明は具体的な実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。