(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-63552(P2020-63552A)
(43)【公開日】2020年4月23日
(54)【発明の名称】岩盤からのコアの採取方法
(51)【国際特許分類】
E21B 25/00 20060101AFI20200331BHJP
【FI】
E21B25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-194190(P2018-194190)
(22)【出願日】2018年10月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 超臨界地熱発電技術研究開発、超臨界地熱資源への調査井掘削に資する革新的技術開発、「二重解放コアを用いた地殻応力測定法の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】512006479
【氏名又は名称】公益財団法人深田地質研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000121844
【氏名又は名称】応用地質株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 高敏
(72)【発明者】
【氏名】船戸 明雄
(72)【発明者】
【氏名】小川 浩司
(57)【要約】
【課題】コア変形法において用いられる膨張前のコア径を精度よく取得する。
【解決手段】岩盤1の掘削によりボーリング孔2を形成する。ついで、ボーリング孔2の底部21に、深さ方向に延長されかつ水平方向に周回された外溝3を形成する。これにより、深さ方向に延長された応力解放部4を岩盤1中に生成する。ついで、外溝3の内側に、深さ方向に延長されかつ水平方向に周回された内溝5を、外溝3よりも深い位置まで延長して形成する。これにより、非膨張領域61と膨張領域63とを含むコア6を生成する。ついで、生成されたコア6をボーリング孔2から採取する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤の掘削によりボーリング孔を形成する工程と、
前記ボーリング孔の底部に、深さ方向に延長されかつ水平方向に周回された外溝を形成することにより、深さ方向に延長された応力解放部を前記岩盤中に生成する工程と、
前記外溝の内側に、深さ方向に延長されかつ水平方向に周回された内溝を、前記外溝よりも深い位置まで延長して形成することにより、非膨張領域と膨張領域とを含むコアを生成する工程と、
生成された前記コアを前記ボーリング孔から採取する工程と
を備えることを特徴とするコア採取方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコア採取方法により採取された前記コアにおける前記非膨張領域の外径を測定することにより、コア変形法において用いられる無応力状態のコア径を取得する工程と、
前記コアにおける前記膨張領域の外径を測定することにより、コア変形法において用いられる膨張後のコア径を取得する工程と
を備えるコア径取得方法。
【請求項3】
請求項2に記載のコア径取得方法により取得された前記コア径を用いてコア変形法により前記地盤内の応力を算出する
応力算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤中の応力状態を算出する手法である二重応力解放コア変形法(通称DCDA、以降単に「コア変形法」と呼ぶ)において利用可能なコアを岩盤から採取するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2には、ボーリングで得られた円柱状のコアを用いて、地殻で作用している応力を測定するための手段として、コア変形法が記載されている。
【0003】
一般に、岩盤中では、様々な要因により応力が作用している。岩盤からボーリングによりコアを採取すると、当該コアへの応力が解放され、コアの形状が変形する。応力解放前のコア径(いわゆる原直径)をd
0、応力解放後のコア径の最大値をd
max、最小値をd
minと呼ぶ。コア変形法によれば、d
maxとd
minの値の差から、方向による応力の差情報を算出することができる。
【0004】
しかしながら、コアの変形は岩盤から切り離された直後に起こるため、応力解放前のコア径d
0を正確に取得することは困難であった。ここで、用いるボーリング用のコアビットの径をd
0と仮定することは一般にできない。コアビット径はボーリングの過程で摩耗により変化するからである。しかも、仮にコアビット径が変化しなくとも、岩盤の種類や温度などの種々の要因によって実際のコア径d
0は変動しうる。
【0005】
応力解放前のコア径d
0を正確に取得することができないため、従来の技術においては、絶対的な応力情報を算出することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−025617号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】船戸 明雄,伊藤 高敏,「岩盤応力評価のためのコア変形法(DCDA)」,Journal of MMIJ,Vol.129,p.577-584,2013.
【非特許文献2】Funato, A., and T. Ito. "A new method of diametrical core deformation analysis for in-situ stress measurements." Int. J. Rock Mech. & Min. Sci. 91: 112-118. 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、コア径(原直径)d
0を精度よく取得することができる技術を提供することである。本願発明の他の目的の一つは、コア変形法により応力の絶対情報を算出できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0010】
(項目1)
岩盤の掘削によりボーリング孔を形成する工程と、
前記ボーリング孔の底部に、深さ方向に延長されかつ水平方向に周回された外溝を形成することにより、深さ方向に延長された応力解放部を前記岩盤中に生成する工程と、
前記外溝の内側に、深さ方向に延長されかつ水平方向に周回された内溝を、前記外溝よりも深い位置まで延長して形成することにより、非膨張領域と膨張領域とを含むコアを生成する工程と、
生成された前記コアを前記ボーリング孔から採取する工程と
を備えることを特徴とするコア採取方法。
【0011】
(項目2)
項目1に記載のコア採取方法により採取された前記コアにおける前記非膨張領域の外径を測定することにより、コア変形法において用いられる無応力状態のコア径を取得する工程と、
前記コアにおける前記膨張領域の外径を測定することにより、コア変形法において用いられる膨張後のコア径を取得する工程と
を備えるコア径取得方法。
【0012】
(項目3)
項目2に記載のコア径取得方法により取得された前記コア径を用いてコア変形法により前記地盤内の応力を算出する
応力算出方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非膨張領域と膨張領域とを含むコアを採取することができるので、応力解放前のコア径d
0を精度よく取得することが可能となる。また、この発明によれば、得られたコア径d
0を用いて、応力の絶対情報を算出することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】コア変形法の基本的概念を説明するための説明図であって、図(a)は掘削前の岩盤に応力が加えられている状態を示し、図(b)は岩盤から取り出したコアの膨張状態を示す。
【
図2】本発明の一実施形態に係るコア採取方法を説明するための説明図であって、掘削部分の岩盤を示す図である。
【
図3】
図2のコア採取方法に使用可能なボーリング装置の一例を説明するための概略的な模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るコア採取方法を、添付の図面を参照しながら説明する。まず、説明の前提として、コア変形法の基本概念を、
図1を参照しながら説明する。
【0016】
(コア変形法の基本概念)
一般的な鉛直ボーリング孔の場合、コアの直径(d
0,d
max,d
min)と、岩盤中の主応力(S
Hmax,S
hmin,S
v)の関係は以下のようになる。
【0018】
ここに、
E:岩石のヤング率、
ν:岩石のポアソン比、
d
0:コア変形法に用いられる、応力解放前のコア直径(原直径)、
d
max:応力解放後のコア直径の最大値、
d
min:応力解放後のコア直径の最小値、
S
Hmax:水平面内の最大応力、
S
hmin:水平面内の最小応力、
S
v:鉛直方向の応力
である。
【0019】
コア変形法では、前記した(1)式と(2)式との差をとることにより得た次式(3)を用いて、コアの直径の差Δd(=d
max−d
min)から差応力ΔS(=S
Hmax−S
hmin)を求めている。
【0021】
しかし、この方法では差応力しか評価することができず、S
HmaxやS
hminの絶対値を求める場合には、他の手法で得た応力情報を援用する必要があった。絶対値を求められない原因は、応力解放される前のコアの原直径d
0が未知なことにある。もしd
0を求めることが可能であり、被り圧などからS
vを別途求めることができれば、例えば(1)式からS
Hmaxの絶対値を求めることができ、さらに、その値から、従来の要領で(3)式を用いて得られる差応力を差し引くことで、S
hminの絶対値を求めることができる。ここで、Δd
max=d
max−d
0とし、ポアソン比の効果は二次的なので無視して(1)式を変形すると、次式(4)を得る。
【0023】
この関係は、(1)式からS
Hmaxの絶対値を求めるためには、右辺の大きさよりも十分高い精度でd
0を測定する必要があることを示している。例えばS
Hmax=10MPa,E=10GPa,d
0=100mmのとき、上式の右辺は0.1mmとなるので、S
Hmaxの測定値に10%の誤差を許容するならば、±0.01mm(=10μm)の精度でd
0を測定する必要があることになる。しかし、この程度の直径の違いは、岩石の削れやすさ・硬さ、ビットの摩耗、あるいは地下と地表の温度差などで容易に生じてしまうと考えられるので、地表において無応力状態にある適当な岩石を掘削して得られたコアの直径をd
0とするようなことはできない。コア変形法自体は従来から知られている(例えば前記した非特許文献1参照)ので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0024】
(本実施形態におけるコア採取方法)
ついで、本実施形態におけるコア採取方法を、主に
図2及び
図3を参照しながら説明する。
【0025】
(ボーリング孔の形成:
図2(a))
まず、岩盤1を掘削することにより、ボーリング孔2を形成する。ボーリング孔2の形成は、通常のボーリング装置により行うことができる。また、ボーリング孔2の深さに特に制約はないが、例えば10
1m〜10
3mのオーダの深さとされる。これ以上の深さのボーリング孔2を形成することも可能である。これにより、ボーリング孔2の先端部(最深部)に、底部21が形成される。
【0026】
(外溝の形成:
図2(b))
ついで、ボーリング孔2の底部21に、深さ方向に延長されかつ水平方向に周回された外溝3を形成する。外溝3の形状は、横断面において円形状となっている。これにより、深さ方向に延長された円柱形状の応力解放部4を岩盤1中に生成することができる。外溝3の形成も、従来のボーリング装置により行うことができる。外溝3を形成することにより、応力解放部4においては、岩盤1に作用していた応力が解放され、実質的にほぼ無応力状態となる。ただし、後述するように、応力解放部4の下端近傍(つまり外溝3の下端近傍)においては、応力が漸次変化する部分(後述の漸移領域62)となる。
【0027】
(内溝の形成:
図2(c))
ついで、外溝3の内側に、深さ方向に延長されかつ水平方向に周回された内溝5を、外溝3よりも深い位置まで延長して形成する。内溝5の形状は、外溝3と同心の横断面円形状となっている。これにより、非膨張領域61と膨張領域63とを含む円柱状のコア6を生成することができる。また、この例では、非膨張領域61と膨張領域63との間の領域が、応力状態(膨張状態)が漸次変化する漸移領域62となっている。
【0028】
ここで、本実施形態では、一つの内溝5を連続的に形成することによってコア6を生成しているので、掘削時のコア6の外径(いわゆるコア径)はほぼ均一であるとみなすことができる。つまり、コア6を生成するコアビットの内径には変化がないものと考えることができる。コア6の長さや径に特に制約はないが、ハンドリングの容易性などから、例えば0.5〜1mくらいとされる。
【0029】
ここで、コア6の生成時(掘削時)の応力解放部4においては、外溝3を形成したことにより、既に応力が解放されている。したがって、応力解放部4に対応する部分のコア6である非膨張領域61においては、コア6の生成によっては膨張しない。すると、取得したコア6の非膨張領域61の外径は、コアビットの内径(膨張前の原直径であるコア径d
0)を正確に表していることになる。
【0030】
一方、コア6における膨張領域63においては、コア6の生成(つまり掘削)直前までは、岩盤1における応力が作用している状態、つまり、いわゆる原位置応力状態にあるので、掘削により応力が解放されてコアが膨張することになる。
【0031】
(コアの採取:
図2(d))
ついで、前記のようにして生成されたコア6をボーリング孔2から採取する。この採取は、従来のボーリング装置により行うことができる。例えば、内溝5の先端からコア6を適宜な手法で切り取ることにより、コア6の採取が可能である。ただし、コア6をボーリング孔2から取り出す手法は特に制約されない。
【0032】
得られたコア6の膨張領域63の外径を測定することにより、膨張後のコア径d
max及びd
minを得ることができる。また、得られたコア6の非膨張領域61の外径を測定することにより、正確なコア径d
0を得ることができる。
【0033】
したがって本実施形態によれば、正確に測定したd
0,d
max及びd
minを用いることにより、従来はできなかった応力の絶対情報の算出を、コア変形法を用いて行うことができるという利点がある。例えば、本実施形態によれば、得られたコア径d
0を用いて、S
HmaxやS
hminの絶対的な値を算出することができる。
【0034】
なお、漸移領域62においては、膨張状態が漸次的に変化しているので、そのような部分は測定の対象から除外する。コアにおける各領域61〜63の特定は、外溝3や内溝5の深さに基づいて、あるいはコア直径の変化状態などに基づいて、作業者が適宜に行うことができる。
【0035】
なお、一般に、コア6の長さは、岩盤1の分布長さ(深さ)に比較して十分に短いので、コア6の掘削範囲においては岩盤1の状態は一様であるとみなすことができる。仮にコア6の掘削範囲において岩盤1の状態が変化するような状況下では、コア変形法の適用は難しい。
【0036】
また、応力解放部4における深さ(つまり外溝3の深さ)と応力解放部4の直径(つまり外溝3の直径)との比は、1:1〜2:1の範囲であることが好ましい。応力解放部4における深さが1:1よりも浅くなると、漸移領域62が占める割合が大きくなり、得られた測定値の信頼性が低下する可能性がある。一方、応力解放部4における深さが2:1よりも深くなると、応力解放部4が長くなるため、内溝5の掘削時に応力解放部4の形状が保持しにくくなる(つまり掘削途中で崩れる)可能性が増大する。そこで、応力解放部4における深さと応力解放部4の直径との比を1:1〜2:1の範囲とすることにより、これらの問題を避けながらコア6を採取できる。
【0037】
(ボーリング装置の具体例)
次に、
図3をさらに参照して、本実施形態のコア採取方法に用いられるボーリング装置の一例を説明する。この例では、内溝5をボーリング装置7により生成する。このボーリング装置7は、回転駆動されるボーリングロッド71と、このボーリングロッド71の先端に取り付けられたコアバーレル72と、このコアバーレル72の先端(下端)に取り付けられたコアビット73とを備えている。このボーリング装置7によれば、ボーリングロッド71を回転させることによりコアビット73を軸回りに回転させ、岩盤1を掘削することができる。また、岩盤1から適宜な手法で切り離されたコア6を、コアバーレル72内のインナーチューブ(図示せず)に収納して回収することができる。
【0038】
このようなボーリング装置7としては、従来と同様の装置を用いることができるので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0039】
外溝3の形成は、大きな径のコアビットを持つ同様のボーリング装置により実施できる。
【0040】
なお、前記実施形態の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【0041】
例えば、前記した実施形態では、岩盤1を鉛直方向に掘削することを前提にしたが、岩盤の掘削方向は、鉛直方向には制約されず、鉛直方向から傾いた方向であってもよい。水平方向への掘削も可能である。このような場合、前記した深さ方向とは、地表面に対する深さ方向ではなく、掘削方向に沿った深さ方向(つまり掘削方向前方の方向)として解釈される。
【符号の説明】
【0042】
1 岩盤
2 ボーリング孔
21 底部
3 外溝
4 応力解放部
5 内溝
6 コア
61 非膨張領域
62 漸移領域
63 膨張領域
7 ボーリング装置
71 ボーリングロッド
72 コアバーレル
73 コアビット