特開2020-64178(P2020-64178A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-64178(P2020-64178A)
(43)【公開日】2020年4月23日
(54)【発明の名称】サクソフォン
(51)【国際特許分類】
   G10D 9/10 20200101AFI20200331BHJP
   G10D 7/08 20060101ALI20200331BHJP
【FI】
   G10D9/00 111
   G10D7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-195771(P2018-195771)
(22)【出願日】2018年10月17日
(71)【出願人】
【識別番号】591284036
【氏名又は名称】柳沢管楽器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸宏
(57)【要約】
【課題】部品を増やすことなく音色が変わるサクソフォンを提供する。
【解決手段】マウスピース2が上流側端部に取付けられた吹込管3と、吹込管3の下流側端部が上流側端部に嵌入した2番管4と、2番管4の上流側端部の外周部で吹込管3の下流側端部を緊縛する緊縛構造41とを備える。緊縛構造41は、2番管4の材料とは異なる材料によって形成されたねじ部材45を有している。ねじ部材45を締め込むことにより吹込管3の下流側端部が緊縛される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスピースが上流側端部に取付けられた吹込管と、
前記吹込管の下流側端部が上流側端部に嵌入した2番管と、
前記2番管の前記上流側端部の外周部で前記吹込管の前記下流側端部を緊縛する緊縛構造とを備え、
前記緊縛構造は、前記2番管の材料とは異なる材料によって形成されたねじ部材を有し、前記ねじ部材を締め込むことにより前記吹込管の前記下流側端部が緊縛される構成が採られていることを特徴とするサクソフォン。
【請求項2】
請求項1記載のサクソフォンにおいて、
前記ねじ部材は、前記2番管の材料より硬度が高い材料によって形成されていることを特徴とするサクソフォン。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のサクソフォンにおいて、
前記ねじ部材は、雄ねじ部と、前記雄ねじ部の基端に一体に形成された摘み部とからなり、
前記摘み部は、円柱状に形成され、外周部に滑り止めが設けられていることを特徴とするサクソフォン。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一つに記載のサクソフォンにおいて、
前記ねじ部材を形成する材料はステンレス鋼であることを特徴とするサクソフォン。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載のサクソフォンにおいて、
前記摘み部にはねじ孔が形成され、
前記ねじ孔には調整用ねじが螺着されていることを特徴とするサクソフォン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音色を変える部品を備えたサクソフォンに関する。
【背景技術】
【0002】
音色を変える部品を備えた従来のサクソフォンとしては、例えば特許文献1に記載されているものがある。特許文献1の図1に記載されたサクソフォンは、吹込管とサクソフォンの本管との接続部にチューニング部材を備えている。吹込管は、一端にマウスピースが取付けられ、演奏者が息を吹き込むものである。吹込管の他端はサクソフォンの本管に嵌挿されている。この吹込管の本管への固定は、吹込管と本管との嵌合部を緊縛構造によって緊縛することにより行われる。
【0003】
特許文献1の図1に開示されたサクソフォンの緊縛構造は、本管を囲むC字状のホルダー部材と、このホルダー部材の両端どうしの間隔を変えるねじ部材とによって構成されている。この緊縛構造によれば、ねじ部材を締め込むことによりホルダー部材の両端どうしの間隔が狭くなり、ホルダー部材が本管を介して吹込管を緊縛して吹込管が本管の固定される。
チューニング部材は、ホルダー部材の両端どうしの間に挟まれてホルダー部材に取付けられる差し込み部と、この差し込み部に接続されたウェイト部とによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−116067
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたサクソフォンで音色を変えるためには、吹込管を本管に固定するための緊縛構造を利用してチューニング部材を本管に取付けなければならない。このため、サクソフォンの音色を変えるためにチューニング部材の分だけ部品が増えるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、部品を増やすことなく音色を変えることが可能なサクソフォンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明に係るサクソフォンは、マウスピースが上流側端部に取付けられた吹込管と、前記吹込管の下流側端部が上流側端部に嵌入した2番管と、前記2番管の前記上流側端部の外周部で前記吹込管の前記下流側端部を緊縛する緊縛構造とを備え、前記緊縛構造は、前記2番管の材料とは異なる材料によって形成されたねじ部材を有し、前記ねじ部材を締め込むことにより前記吹込管の前記下流側端部が緊縛される構成が採られているものである。
【0008】
本発明は、前記サクソフォンにおいて、前記ねじ部材は、前記2番管の材料より硬度が高い材料によって形成されていてもよい。
【0009】
本発明は、前記サクソフォンにおいて、前記ねじ部材は、雄ねじ部と、前記雄ねじ部の基端に一体に形成された摘み部とからなり、前記摘み部は、円柱状に形成され、外周部に滑り止めが設けられていてもよい。
【0010】
本発明は、前記サクソフォンにおいて、前記ねじ部材を形成する材料はステンレス鋼であってもよい。
【0011】
本発明は、前記サクソフォンにおいて、前記摘み部にはねじ孔が形成され、前記ねじ孔には調整用ねじが螺着されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るサクソフォンにおいては、マウスピースに息を吹き込んだときに演奏者が受ける抵抗感が増加し、音の伝達性能が向上してサクソフォンの全体が良く響くようになる。このサクソフォンから生じる音は、芯があり、かつ明確でシャープな音になる。また、このサクソフォンによれば、切るべき音が明確に切れて音程の変化が明確になり、さらに、息の吹き込み方を変えたときに応答性よく追従するようになる。このように音色や響き方が変わる理由は、ねじ部材の材料が2番管の材料とは異なるために、緊縛構造のねじ部材が2番管と同じように振動することがないからであると考えられる。すなわち、2番管の振動がねじ部材の振動による干渉を受け難くなり、2番管が本来の性能で響くようになるから、上述したように抵抗感が増し、音の響きが向上すると考えられる。
ねじ部材は、吹込管を2番管に取付けるために用いる既存の部品である。したがって、本発明によれば、部品を増やすことなく音色が変わるサクソフォンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るサクソフォンの左側面図である。
図2】要部の左側面図である。
図3】要部の正面図である。
図4図2におけるIV−IV線断面図である。
図5図3におけるV−V線断面図である。
図6】ねじ部材の他の実施の形態を示す断面図である。
図7】複数の調整用ねじを併せて示す緊縛構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係るサクソフォンの一実施の形態を図1図5を参照して詳細に説明する。
図1に示すサクソフォン1は、アルトサクソフォンで、マウスピース2を除く他の管部材が真鍮によって形成されたものである。他の管部材は、マウスピース2が上流側端部に取付けられた吹込管3と、この吹込管3の下流側端部が上流側端部に接続された2番管4と、この2番管4の下流側端部が上流側端部に接続されたU字状の1番管5と、この1番管5の下流側端部に接続されたベル6などである。これらの管部材には#1〜#25番トーンホールと、これらの#1〜#25番トーンホールを開閉するキー11〜35などが設けられている。図1はキー11〜35を操作するための操作機構や操作系の部品を省略して描いてある。
【0015】
吹込管3の下流側端部は、2番管4の上流側端部に設けられた緊縛構造41によって2番管4に着脱可能に取付けられている。吹込管3の下流側端部は、図5に示すように、吹込管3の下流端3aを含む円筒42と、この円筒42より大径に形成されて円筒42の上流端に接続されたリング43とによって構成されている。円筒42とリング43は、吹込管3の他の部位と一体に形成されている。
円筒42は、図4および図5に示すように、後述する緊縛構造41の筒体44の中に着脱自在に嵌合する形状に形成されている。
【0016】
緊縛構造41は、図2図4に示すように、2番管4の上流側端部に一端部が接続された筒体44と、この筒体44の他端部に螺着されたねじ部材45とによって構成されている。
筒体44の一端部は、図5に示すように、2番管4の上流側端部に嵌合し、はんだ付けによって固定されている。このため、筒体44は、実質的に2番管4の上流側端部の一部になる。
【0017】
筒体44の他端部には、筒体44の他の部位より厚みが厚く形成された断面C字状(図4参照)のベルト部46と、第1および第2の締結片47,48とが設けられている。これらの第1の締結片47と第2の締結片48は、筒体44の周方向の一部に設けられ、ベルト部46から径方向の外側に突出している。ベルト部46と第1および第2の締結片47,48とを含めて筒体44は、真鍮によって形成されている。
【0018】
第1の締結片47と第2の締結片48との間には、いわゆるすり割りとなるスリット51が形成されている。スリット51は、筒体44の内外を連通するように筒体44の他端部に形成されている。
第1の締結片47と第2の締結片48とのうち図4において左側に位置する第1の締結片47には、ねじ部材45の雄ねじ部45aが貫通する貫通孔52が穿設されている。第2の締結片48には、ねじ部材45の雄ねじ部45aが螺着するねじ孔53が形成されている。
【0019】
ねじ部材45は、図4に示すように、第1の締結片47を貫通して第2の締結片48に螺着された雄ねじ部45aと、この雄ねじ部45aの基端(図4においては左端)に一体に形成された摘み部45bとによって構成されている。このねじ部材45の材料は、2番管4や筒体44の材料とは異なる材料である。この実施の形態によるねじ部材45は、ステンレス鋼によって形成されている。このねじ部材45をステンレス鋼で形成するにあたっては、加工性に優れるSUS303が用いられている。なお、ねじ部材45を形成する材料は、ステンレス鋼に限定されることはなく、洋白、銀、銅、鉄などでもよい。これらの金属材料は、いずれも2番管4の材料(真鍮)より硬度が高い材料である。
【0020】
摘み部45bは、円柱状に形成され、外周部にローレットからなる滑り止め54が設けられている。
摘み部45bの軸線方向の長さと外径は、材料に応じて変更される。すなわち、摘み部45bの重量が予め定めた所定の重量となるように、摘み部45bの軸線方向の長さと外径が決められる。摘み部45bの重量は、従来の真鍮製のねじ部材の摘み部より重い。従来の真鍮製のねじ部材は、特許文献1の図2に描かれているように、板状の摘み部を有しているものが多い。この板状の摘み部は、重量が軽く、振動し易いものである。
【0021】
このように構成された緊縛構造41を備えたサクソフォン1において、2番管4に吹込管3を取付けるためには、先ず、2番管4の上流側端部に設けられている筒体44に吹込管3の円筒42を挿入する。そして、吹込管3の上流端が所望の位置に位置付けられるように、2番管4の周方向において吹込管3の位置を決める。その後、ねじ部材45を締め込んで吹込管3を2番管4の上流側端部(筒体44)に固定する。
【0022】
この締め込み作業は、演奏者が摘み部45bを指で持って回すことによって行われる。ねじ部材45が締め込まれることにより、第1の締結片47と第2の締結片48との間隔が狭くなり、2番管4の上流側端部で吹込管3の円筒42(下流側端部)が緊縛される。
緊縛構造41のねじ部材45は、2番管4の材料とは異なる材料によって形成されている。このサクソフォン1においては、ねじ部材45の材料が2番管4の材料とは異なっているから、ねじ部材45が2番管4と同じように振動することはないと考えられる。このため、2番管4の振動がねじ部材45の振動による干渉を受け難くなり、2番管4が本来の性能で響くようになると考えられる。
【0023】
このようなねじ部材45を備えたサクソフォン1は、マウスピース2に息を吹き込んだときに演奏者が受ける抵抗感が増加し、音の伝達性能が向上してサクソフォン1の全体が良く響くようになる。このサクソフォン1から生じる音は、芯があり、かつ明確でシャープな音になる。また、このサクソフォン1によれば、切るべき音が明確に切れて音程の変化が明確になり、さらに、息の吹き込み方を変えたときに応答性よく追従するようになる。
【0024】
ねじ部材45は、吹込管3を2番管4に取付けるために使用する既存の部品である。したがって、この実施の形態によれば、部品数を増やすことなく音色が変わるサクソフォンを提供することができる。
【0025】
この実施の形態によるねじ部材45は、2番管4の材料より硬度が高い材料によって形成されている。このため、ねじ部材45が相対的に歪み難くなるために吹込管3が2番管4(筒体44)によって強く緊縛され、2番管4の振動に好影響を及ぼすと考えられる。この実施の形態を採ることにより、このサクソフォン1から出る音の輪郭がより一層明確になる。
【0026】
この実施の形態によるねじ部材45は、雄ねじ部45aと、雄ねじ部45aの基端に一体に形成された摘み部45bとによって構成されている。摘み部45bは、円柱状に形成され、外周部に滑り止め54が設けられている。
このため、ねじ部材45を締め込む際の回転性がよいから、ねじ部材45を正確に締め込むことができる。したがって、ねじ部材45の締め込み量が吹込管3の装着毎に略一定になるから、安定した音が発生するサクソフォンを提供することができる。
ところで、従来の真鍮製のねじ部材は、板状の摘み部を有しているから、小さくて締め難いという問題があった。しかし、この実施の形態によるねじ部材45は、円柱状の摘み部45bを有しているから、従来と較べて締付が容易である。
【0027】
この実施の形態によるねじ部材45を形成する材料はステンレス鋼である。このステンレス鋼製のねじ部材45を使用したサクソフォン1においては、ねじ部材45が真鍮で形成されている場合と較べると、息を吹き込んだときの抵抗感が良好で、音もはっきりとした切れの良い音となることが分かった。
【0028】
(第2の実施の形態)
ねじ部材は図6および図7に示すように構成することができる。図6および図7において、図1図5によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0029】
図6に示すねじ部材45の摘み部45bは、雄ねじ部45aとは反対側の端部にねじ孔61が形成されている。
このねじ孔61には調整用ねじ62が螺着されている。この調整用ねじ62は、ねじ部材45の実質的な重量を変更するためのものである。調整用ねじ62は、ねじ孔62に螺着された雄ねじ部62aと、この雄ねじ部62aの基端に一体に形成された円板状の摘み部62bとによって構成されている。摘み部62bの外周部には、ローレットからなる滑り止め63が設けられている。
【0030】
調整用ねじ62を形成する材料は、ねじ部材45と同様に、2番管4や筒体44の材料とは異なる材料である。この実施の形態による調整用ねじ62は、ねじ部材45と同一のステンレス鋼によって形成されている。なお、調整用ねじ62を形成する材料は、ステンレス鋼に限定されることはなく、洋白、銀、銅、鉄などでもよい。
【0031】
調整用ねじ62を使用してねじ部材45の実質的な重量を変えるためには、重量の異なる複数の調整用ねじ62を予め用意しておき、これらの調整用ねじ62の中から一つを選んでねじ部材45に取付けることにより実施することができる。
調整用ねじ62の重量を変えるためには、摘み部62bの外径と軸線方向の厚みとのうち、少なくともいずれか一方を変えることにより行うことができる。図7には、重量が相対的に軽い調整用ねじ62Aと、重量が相対的に重い調整用ねじ62Bとが図示されている。
【0032】
重量が相対的に軽い調整用ねじ62Aの摘み部62bの外径D1は、重量が相対的に重い調整用ねじ62Bの摘み部62bの外径D2より小さい。また、重量が相対的に軽い調整用ねじ62Aの摘み部62bの厚みT1は、重量が相対的に重い調整用ねじ62Bの摘み部62bの厚みT2より薄い。
【0033】
ねじ部材45の重量と、調整用ねじ62との重量との総和からなる総重量は、サクソフォン1の音響特性に影響を与える。このため、例えば調整用ねじ62をサクソフォン1の機種に応じて変えることにより、サクソフォン1の各機種において最良の音響特性が得られるようになる。詳述すると、全ての機種において共通のねじ部材45を使用しながら、機種毎の音響特性が最良になるような調整用ねじ62を使用する。ここでいうサクソフォン1の機種とは、ソプラノサクソフォン、アルトサクソフォン、テナーサクソフォン、バリトンサクソフォンなどである。
【0034】
これらの全ての機種においてねじ部材45を共通にすることにより、ねじ部材45の種類が少なくなって製造コストを低く抑えることができ、ねじ部材45を安価に提供することが可能になる。調整用ねじ62は、このように機種毎に変える他に、同一機種であっても演奏者の好みの音が生じるように他の調整用ねじ62と変えることもできる。
【符号の説明】
【0035】
1…サクソフォン、2…マウスピース、3…吹込管、4…2番管、41…緊縛構造、45…ねじ部材、45a…雄ねじ部、45b…摘み部、54…滑り止め、61…ねじ孔、62…調整用ねじ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7