【課題】物性パラメータを含む探索条件が入力される探索システムにおいて、探索する物性の技術分野における専門知識が十分でなく、または、物性パラメータ名を正確に特定することができないユーザーに対しても、探索を可能とする探索支援機能を提供する。
【解決手段】物性探索部とユーザーインターフェースとを備える探索システムであって、以下のように構成される。物性探索部は、探索条件に基づく物性探索を行って、探索結果を出力する。ユーザーインターフェースは、メカニズム推定部と関連因子特定部とを備える。メカニズム推定部は、入力される仕様の意味する機能を発現させるメカニズムの候補を推定し、関連因子特定部は、推定されたメカニズムの候補のうちの少なくとも1つに寄与する物性パラメータを特定する。推定されたメカニズムまたは特定された物性パラメータは、探索条件に反映される。
請求項9から請求項13のうちのいずれか1項において、前記探索方法は、発現する機能と、当該機能発現を決定づけるメカニズムと、当該メカニズムに寄与する拡張パラメータとを関連付ける、機能発現メカニズムデータベースをさらに備え、
前記メカニズム推定ステップは、前記仕様の意味解析を行うことにより、当該仕様に対応する機能を特定し、前記機能発現メカニズムデータベースを参照して、特定された機能の発現を決定づける1または複数のメカニズムを特定する、
探索方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される代表的な実施の形態について概要を説明する。代表的な実施の形態についての概要説明で括弧を付して参照する図面中の参照符号はそれが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【0024】
〔1〕<機能発現を決定づけるメカニズムの推定>
本発明の代表的な実施の形態は、物性探索部(20)とユーザーインターフェース(1)とを備える探索システム(10)であって、以下のように構成される(
図1)。
【0025】
前記ユーザーインターフェースは、前記物性探索部に、少なくとも1個の物性パラメータを含む探索条件を供給し、前記物性探索部は、供給された前記探索条件に基づく物性探索を行って、探索結果を前記ユーザーインターフェースに出力することができるように構成されている。
【0026】
前記ユーザーインターフェースは、メカニズム推定部(2)と関連因子特定部(3)とを備える。
【0027】
前記メカニズム推定部は、入力される仕様から、当該仕様の意味する機能を発現させる1または複数のメカニズムの候補を推定することができるように構成される。ここで、仕様とは、物性探索に関連する文章、句、または、単語であって、必ずしも正確な物性パラメータ名が含まれていなくてもよい。
【0028】
前記関連因子特定部は、前記メカニズム推定部によって推定された前記1または複数のメカニズムの候補のうちの少なくとも1つについて、当該メカニズムに寄与する拡張パラメータの有無及びその拡張パラメータを特定することができるように構成される。ここで、拡張パラメータとは、物性パラメータと影響因子を含む概念であり、影響因子とは、物性パラメータではないが物性に影響を与える因子であって、例えば、温度、圧力などの環境因子、球状、多孔質などの形態因子およびその径や体積などのサイズ因子が含まれる。
【0029】
前記ユーザーインターフェースが前記物性探索部に供給する前記探索条件は、前記メカニズム推定部によって推定された前記1または複数のメカニズム候補または特定された前記拡張パラメータにもとづいて作成される。
【0030】
これにより、物性パラメータを含む探索条件が入力される探索システムにおいて、探索する物性の技術分野における専門知識が十分でなく、または、物性パラメータ名を正確に特定することができないユーザーに対しても、物性探索を助ける探索支援機能を提供することができる。例えば、ユーザーが仕様として入力した機能を発現させる如何なるメカニズムが存在するのか、また、そのメカニズムに如何なる物性が寄与するのかについての知識が乏しい場合にも、ユーザーに対してその探索について適切な選択肢を提供することができる。関連因子特定部によって特定された拡張パラメータの影響は、物性探索部に供給される探索条件に反映することができる。
【0031】
〔2〕<推定されたメカニズム候補と関連情報(コメント)の提示と選択>
〔1〕項に記載される探索システムにおいて、前記ユーザーインターフェースは、メカニズム選択部(4)をさらに備える(
図2)。前記メカニズム選択部は、前記メカニズム推定部が推定した前記1または複数のメカニズム候補に関連する情報をユーザーに提示し、複数の場合に1つのメカニズムを選択させることができるように構成される。前記関連因子特定部は、選択されたメカニズムに寄与する拡張パラメータの有無及びその拡張パラメータを特定する。なお、「提示」の好適な態様は「表示」であるが、特にこれに限定されるものではなく、ユーザーに知らせる如何なる手段であってもよい。
【0032】
これにより、仕様で表現された機能を発現させる、ユーザーが想定していないメカニズムが存在する場合に、そのユーザーに気付きの機会を提供することができ、適切な探索に誘導することができる。ユーザーにはメカニズムについての理解を助けるために、関連情報(コメント)を追加的に提示してもよい。
【0033】
〔3〕<機能発現メカニズムの選択にあたってのユーザー履歴の参照>
〔2〕項に記載される探索システムにおいて、前記ユーザーインターフェースは、過去に実行された探索の履歴を保持する探索履歴保持部(5)をさらに備える(
図3)。前記メカニズム推定部が複数のメカニズムを推定した場合に、前記メカニズム選択部は、前記探索履歴保持部を参照して、過去に探索された履歴に関連するメカニズムを優先的に提示することができるように構成される。
【0034】
これにより、ユーザーが選択する可能性の高いメカニズム候補を優先的に提示することができ、ユーザーの負担を軽減することができる。ここでユーザーとは、個人に限定されるわけではなく、複数人によるユーザーグループであってもよい。
【0035】
〔4〕<機能発現メカニズムの選択にあたってのユーザー自身の履歴の参照>
〔3〕項に記載される探索システムにおいて、前記探索履歴保持部(5)は、ユーザーごとに探索履歴を保持することができるように構成される。前記ユーザーインターフェースは、前記メカニズム推定部が複数のメカニズムを推定した場合に、前記探索履歴保持部を参照して、過去に当該ユーザー自身が探索した履歴に関連するメカニズムを優先的に提示することができるように構成される。
【0036】
これにより、ユーザーが選択する可能性のより高いメカニズム候補を優先的に提示することができ、ユーザーの負担を軽減することができる。ここでユーザー自身とは、個人の当該ユーザーである他、当該ユーザーと同じユーザーグループに属する複数のユーザーであってもよい。当該ユーザー自身に加えて、当該ユーザーが属するユーザーグループの探索履歴に関連するメカニズムが優先的に提示されるように構成してもよい。
【0037】
〔5〕<機能発現メカニズムの選択にあたっての自分以外のユーザーの履歴の参照>
〔4〕項に記載される探索システムにおいて、前記ユーザーインターフェースは、前記メカニズム推定部が複数のメカニズムを推定した場合に、前記探索履歴保持部を参照して、過去に当該ユーザー自身が探索した履歴に関連するメカニズムを優先的に提示し、他のユーザーが探索した履歴に関連するメカニズムを次に優先的に提示することができるように構成される。
【0038】
これにより、ユーザーが選択する可能性の高いメカニズム候補を優先的に提示した上で、当該ユーザーが想定していなかった有力な機能発現メカニズムについての気付きの機会を、当該ユーザーに提供することができる。
【0039】
〔6〕<機能発現メカニズムデータベース>
〔1〕項から〔5〕項のうちのいずれか1項に記載される探索システムにおいて、前記メカニズム推定部は、発現する機能と、当該機能発現を決定づけるメカニズムと、当該メカニズムに寄与する拡張パラメータとを関連付ける、機能発現メカニズムデータベースを備える。前記機能発現メカニズムデータベースには、寄与する拡張パラメータがないメカニズムが含まれてもよい。
【0040】
前記メカニズム推定部は、前記仕様の意味解析を行うことにより、当該仕様に対応する機能を特定し、前記機能発現メカニズムデータベースを参照して、特定された機能の発現を決定づける1または複数のメカニズムを特定することができるように構成される。
【0041】
これにより、機能発現を決定づけるメカニズム候補の推定を、仕様の自然言語処理を実時間で実行するよりも高速に行うことができる。
【0042】
〔7〕<物性パラメータ関係性データベースとグラフ探索部を備える探索システム>
〔1〕項から〔6〕項のうちのいずれか1項に記載される探索システム(10)において、前記物性探索部は、物性パラメータ関係性データベース(21)とグラフ生成部(22)とグラフ探索部(24)とを備える(
図1〜3)。
【0043】
前記物性パラメータ関係性データベースは、関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を記憶する。前記グラフ生成部は、前記パラメータ対に含まれる複数の物性パラメータをノードとし、前記パラメータ対に対応するノード間をエッジとする、グラフ(23)を生成することができるように構成される。前記グラフ探索部は、前記ユーザーインターフェースを介して、与えられる探索条件に基づいて前記グラフを探索し、探索結果を出力することができるように構成される。
【0044】
ここで、機能発現を決定づけるメカニズムに寄与する前記拡張パラメータのうちの物性パラメータは、前記物性パラメータ関係性データベースに記憶された複数の物性パラメータに含まれるように構成される。
【0045】
これにより、グラフ探索を利用することによって、分野横断的な物性探索を可能とした探索システムにおいて、物性パラメータ名を正確に特定することができないユーザーに対しても、探索を可能とする探索支援機能を提供することができる。
【0046】
〔8〕<物性パラメータ関係性データベースとグラフ探索部の拡張>
〔7〕項の探索システム(10)において、前記物性パラメータ関係性データベースは、前記複数のパラメータ対に加えて拡張対をさらに記憶する。ここで、拡張対とは、前記物性パラメータ関係性データベースに記憶された複数の物性パラメータと関係性を有する拡張パラメータと当該物性パラメータとの対である。前記グラフ生成部は、前記拡張対を構成する前記拡張パラメータに対応するノードと、当該対を構成する物性パラメータに対応するノードとの間のエッジとを、前記グラフに追加する。
【0047】
これにより、物性パラメータ以外の影響因子の寄与を含めた物性探索を行うことができる探索システムにおいても、探索する物性の技術分野における専門知識が十分でないユーザーに対する探索支援機能を提供することができる。
【0048】
〔9〕<探索方法;機能発現を決定づけるメカニズムの推定>
本発明の代表的な実施の形態は、記憶装置を備える計算機上で動作するソフトウェアによって実装され、仕様入力ステップ(S1)とメカニズム推定ステップ(S2)と関連因子特定ステップ(S3)と探索条件入力ステップ(S4)と物性探索ステップ(S5)と探索結果出力ステップ(S6)とを備える探索方法であって、下のように構成される(
図4)。
【0049】
前記メカニズム推定ステップは、仕様入力ステップ(S1)で入力される仕様から、当該仕様の意味する機能を発現させる1または複数のメカニズムの候補を推定する。
【0050】
前記関連因子特定ステップは、前記1または複数のメカニズムの候補のうちの少なくとも1つについて、当該メカニズムに寄与する拡張パラメータの有無及びその拡張パラメータを特定する。
【0051】
前記物性探索ステップは、推定された前記1または複数のメカニズム候補または特定された前記拡張パラメータにもとづく探索条件を入力とする物性探索を行って、前記探索結果出力ステップでその探索結果を出力する。
【0052】
これにより、物性パラメータを含む探索条件が入力される探索方法において、探索する物性の技術分野における専門知識が十分でなく、また、物性パラメータ名を正確に特定することができないユーザーに対しても、探索を可能とする探索支援機能を提供することができる。詳しくは〔1〕項と同様の作用効果を奏する。
【0053】
〔10〕<推定されたメカニズム候補と関連情報(コメント)の提示と選択>
〔9〕項に記載される前記探索方法は、メカニズム選択ステップ(S7)をさらに含む(
図5)。
【0054】
前記メカニズム選択ステップは、前記メカニズム推定ステップで推定された前記1または複数のメカニズム候補に関連する情報をユーザーに対して提示し、複数の場合に1つのメカニズムを選択させる。メカニズム選択ステップ(S7)は、前記メカニズム推定ステップの後で、前記関連因子特定ステップの前またはその後に挿入される。
【0055】
これにより、仕様で表現された機能を発現させる、ユーザーが想定していないメカニズムが存在する場合に、そのユーザーに気付きの機会を提供することができ、適切な探索に誘導することができる。ユーザーにはメカニズムについての理解を助けるために、関連情報(コメント)を追加的に提示してもよい。
【0056】
〔11〕<機能発現メカニズムの選択にあたってのユーザー履歴の参照>
〔10〕項に記載される前記探索方法は、過去に実行された探索の履歴を前記記憶装置に保持する探索履歴保持部(5)をさらに備える(
図6)。
【0057】
前記メカニズム選択ステップは、前記メカニズム推定ステップで複数のメカニズムが推定された場合に、前記探索履歴保持部を参照して、過去に探索された履歴に関連するメカニズムを優先的に提示することができるように構成される。
【0058】
これにより、ユーザーが選択する可能性の高いメカニズム候補を優先的に提示することができ、ユーザーの負担を軽減することができる。
【0059】
〔12〕<機能発現メカニズムの選択にあたってのユーザー自身の履歴の参照>
〔11〕項に記載される探索方法おいて、前記探索履歴保持部は、ユーザーごとに探索履歴を保持することができるように構成される。
【0060】
前記メカニズム選択ステップは、前記メカニズム推定ステップで複数のメカニズムが推定された場合に、前記探索履歴保持部を参照して、過去に当該ユーザー自身が探索した履歴に関連するメカニズムを優先的に提示することができるように構成される。
【0061】
これにより、ユーザーが選択する可能性のより高いメカニズム候補を優先的に提示することができ、ユーザーの負担を軽減することができる。
【0062】
〔13〕<機能発現メカニズムの選択にあたっての自分以外のユーザーの履歴の参照>
〔12〕項に記載される探索方法おいて、前記メカニズム選択ステップは、前記メカニズム推定ステップで複数のメカニズムが推定された場合に、前記探索履歴保持部を参照して、過去に当該ユーザー自身が探索した履歴に関連するメカニズムを優先的に提示し、他のユーザーが探索した履歴に関連するメカニズムを次に優先的に提示することができるように構成される。
【0063】
これにより、ユーザーが選択する可能性の高いメカニズム候補を優先的に提示した上で、当該ユーザーが想定していなかった有力な機能発現メカニズムについての気付きの機会を、当該ユーザーに提供することができる。
【0064】
〔14〕<機能発現メカニズムデータベース>
〔9〕項から〔13〕項のうちのいずれか1項に記載される探索方法は、発現する機能と、当該機能発現を決定づけるメカニズムと、当該メカニズムに寄与する拡張パラメータとを関連付ける、機能発現メカニズムデータベース(5)を、前記記憶装置にさらに備える(
図6)。
【0065】
前記メカニズム推定ステップは、前記仕様の意味解析を行うことにより、当該仕様に対応する機能を特定し、前記機能発現メカニズムデータベースを参照して、特定された機能の発現を決定づける1または複数のメカニズムを特定する。
【0066】
これにより、機能発現を決定づけるメカニズム候補の推定を、仕様の自然言語処理を実時間で実行するよりも高速に行うことができる。
【0067】
〔15〕<物性パラメータ関係性データベースとグラフ探索ステップを備える探索方法>
〔9〕項から〔14〕項のうちのいずれか1項に記載される探索方法は、物性パラメータ関係性データベース(S11)を前記記憶装置に備え、前記物性探索ステップは、グラフ生成ステップ(S12)とグラフ探索ステップ(S13)とを備える(
図4〜6)。
【0068】
前記物性パラメータ関係性データベースは、互いに関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を記憶する。前記グラフ生成ステップは、前記パラメータ対に含まれる複数の物性パラメータをノードとし、前記パラメータ対に対応するノード間をエッジとする、グラフを生成することができるように構成され、前記グラフ探索ステップは、与えられる探索条件に基づいて前記グラフを探索し、探索結果を出力する。
【0069】
ここで、機能発現を決定づけるメカニズムに寄与する前記拡張パラメータのうちの物性パラメータは、前記物性パラメータ関係性データベースに記憶された複数の物性パラメータに含まれる。
【0070】
これにより、グラフ探索を利用することによって、分野横断的な物性探索を可能とした探索方法において、物性パラメータ名を正確に特定することができないユーザーに対しても、探索を可能とする探索支援機能を提供することができる。
【0071】
〔16〕<物性パラメータ関係性データベースとグラフ生成・探索ステップの拡張>
〔15〕項の探索方法において、前記物性パラメータ関係性データベースは、前記複数のパラメータ対に加えて拡張対をさらに記憶する。ここで、拡張対とは、前記物性パラメータ関係性データベースに記憶された複数の物性パラメータと関係性を有する拡張パラメータと当該物性パラメータとの対である。前記グラフ生成部は、前記拡張対を構成する前記拡張パラメータに対応するノードと、当該対を構成する物性パラメータに対応するノードとの間のエッジとを、前記グラフに追加する。
【0072】
これにより、物性パラメータ以外の影響因子の寄与を含めた物性探索を行うことができる探索方法においても、探索する物性の技術分野における専門知識が十分でないユーザーに対する探索支援機能を提供することができる。
【0073】
2.実施の形態の詳細
実施の形態について更に詳述する。
【0074】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1に係る探索システムの構成例を示すブロック図である。
【0075】
本実施形態1に係る探索システム10は、物性探索部20とユーザーインターフェース1とを備える。
【0076】
ユーザーインターフェース1は、物性探索部20に少なくとも1個の物性パラメータを含む探索条件を供給し、物性探索部20は、供給された探索条件に基づく物性探索を行って、探索結果をユーザーインターフェース1に出力することができるように構成されている。
【0077】
ユーザーインターフェース1は、メカニズム推定部2と関連因子特定部3とを備える。
【0078】
メカニズム推定部2は、入力される仕様から、当該仕様の意味する機能を発現させる1または複数のメカニズムの候補を推定する。ここで、入力される仕様とは、物性探索に関連する、例えば、質問(query)や要求(request)を表現する文章、句、または、単語であって、必ずしも正確な物性パラメータ名が含まれていなくてもよい。
【0079】
関連因子特定部3は、メカニズム推定部2によって推定された1または複数のメカニズムの候補のうちの少なくとも1つについて、当該メカニズムに寄与する拡張パラメータの有無及びその拡張パラメータを特定することができるように構成される。
【0080】
ユーザーインターフェース1から物性探索部20へ供給される探索条件は、メカニズム推定部2によって推定されたメカニズム候補及び/またはそのメカニズムに寄与する拡張パラメータにもとづいて作成される。ユーザーインターフェース1は、メカニズム候補及び/またはそのメカニズムに寄与する拡張パラメータをユーザーに提示して、ユーザーが探索条件を作成するのを助けてもよいし、推定されたメカニズムに基づいて、自動的に探索条件を作成し、物性探索部20に供給してもよい。
【0081】
これにより、物性パラメータを含む探索条件が入力される探索システムにおいて、物性パラメータ名を正確に特定することができないユーザーに対しても、探索を可能とする探索支援機能を提供することができる。ユーザーが仕様として入力した機能を発現させるメカニズムについて、そのユーザーが当該メカニズムに如何なる物性が寄与するのかについての知識が乏しい場合、或いは、当該機能を発現させるユーザーの想定外のメカニズムが存在する場合にも、ユーザーに対してその探索について適切な選択肢を提供することができる。このように、メカニズム推定部2によって推定されたメカニズム及び/または関連因子特定部3によって特定された拡張パラメータは、物性探索部20に供給される探索条件に反映される。
【0082】
本発明において、拡張パラメータとは、物性パラメータと影響因子を含む概念であり、影響因子とは、物性パラメータではないが物性に影響を与える因子であって、例えば、温度、圧力などの環境因子、球状、多孔質などの形態因子およびその径や体積などのサイズ因子が含まれる。ユーザーが入力する仕様には、ユーザーが所望する機能が記載されているが、その機能を発現させるメカニズムに寄与する因子は、物性パラメータには限られない。また、その物性パラメータが影響因子に依存して変化する場合も少なくない。本発明では、物性パラメータではないが、物性に影響を与える因子を「影響因子」と呼び、物性パラメータに準じて扱うものとし、物性パラメータと影響因子とを合わせて、「拡張パラメータ」と呼んでいる。物性探索を行うユーザーにとっては、所望の仕様を満足するものが見つかればよいので、その仕様に規定されている機能を発現させるメカニズムには関心があるが、そのメカニズムに寄与する因子が物性パラメータか否かには関心はない。そこで、ユーザーインターフェース1では、拡張パラメータとしてまとめて扱うことによって、探索する物性の技術分野における専門知識が十分でなく、または、物性パラメータ名を正確に特定することができないユーザーに対しても、適切な支援を行うことができる機能が提供される。
【0083】
物性探索部20が物性パラメータ以外の因子を探索条件としてサポートしていない場合には、このような影響因子を物性探索に関与させることはできないが、ユーザーにとっては、仕様を満足するために必要な情報であるので、ユーザーに提示する価値がある。或いは、物性探索部20の探索範囲に影響因子が含まれる場合には、メカニズムに関与する拡張パラメータ全体から、物性探索部20に入力する探索条件(探索式)を作成することができる。
【0084】
例えば、「透明で内部が見える、または内部の表示が外部から見える平板でありながら、電極として機能するもの」が探索の対象である場合、上記の文章をそのまま仕様として入力することができる。または、単に「電極として機能する透明な板」、「透明性を有する電極」、「透明電極」などの句や語が仕様として入力されてもよい。
【0085】
「電極」に「透明」という機能を発現させる、或いは「透明」な物質に「電極」という機能を発現させるためには、主に2通りのメカニズムが存在する。
【0086】
1つのメカニズムは、電極材料自体が光を透過することによって、「透明電極」が実現される場合である。もう1つのメカニズムは、絶縁体または電気抵抗の高い透明な材料の中に、透明性に影響しない程度の微細な構造の導電性物質を混在させることによって、「透明電極」が実現される場合である。
【0087】
前者の場合、このメカニズムに寄与する拡張パラメータは、「光の透過率」または「光吸収率」、及び、「電気伝導度」、「導電率」または「電気抵抗」であり、後者の場合は、微細構造を規定する「粒径」、「開口率」、及び、「電気伝導度」、「導電率」または「電気抵抗」である。
【0088】
ここで、「光の透過率」、「光吸収率」、「電気伝導度」、「導電率」及び「電気抵抗」は、物性パラメータである。これに対して「粒径」と「開口率」は物性パラメータではないが、微細構造に透明に見えるという機能を発現させるメカニズムに寄与する因子であることには変わりがないので、影響因子として物性パラメータに準じた扱いとする。
【0089】
ユーザーが上述のような2通りのメカニズムの少なくとも一方を知らない場合であっても、探索システム10が、「電極」に「透明」という機能を発現させる2つのメカニズムをユーザーに提示することができるので、ユーザーは知らなかったメカニズムに基づく解決手段の存在を知ることができる。また、上記のようなメカニズムに関与する拡張パラメータを知ることができるので、それぞれに寄与する物性または物性パラメータ名を予め知らなくても、物性探索部20に入力する探索条件(探索式)を作成することができる。メカニズムに関与する拡張パラメータとして、物性パラメータではない影響因子、この例では「粒径」と「開口率」も、ユーザーに提示されるように構成することができる。
【0090】
別の一例について説明する。「黒く見える」という機能を発現させるメカニズムとして、「材料固有の色が黒である」場合と「構造色が黒である」場合とが存在する。前者に寄与する物性パラメータは「光の透過率」または「光吸収率」である。後者は当該物質の表面が多孔質になっているなど構造的に、入射した光が方向を変えることができずに出射または反射しないために観察者からは黒い色として視認されるというメカニズムである。よって、寄与する因子は、多孔質の「孔径」や「孔の深さ」、「孔の密度」などである。これらは、物性パラメータではなく、影響因子である。
【0091】
なお、探索システム10は、ユーザーインターフェース1に、メカニズム推定部2が推定した1または複数のメカニズムの候補から1つのメカニズムをユーザーに選択させ、及び/または、メカニズム推定部2によって推定されたメカニズムまたは特定された拡張パラメータに基づいて、ユーザーに探索条件(探索式)を作成するインターフェースを備えてもよい。一方、メカニズムの選択や探索条件(探索式)の作成にユーザーを関与させずに、探索システム10が行う機構を備えてもよい。
【0092】
ユーザーがこのような複数のメカニズムの存在を知らない場合にもユーザーに気付きの機会を提供し、また、機能を発現させるメカニズム自体は知っていても、そのメカニズムに寄与する物性パラメータ名を正確に知らない場合にも、正確なまた適切な物性パラメータ名を含む探索条件を入力して、物性探索を実行することができる。
【0093】
このように、本実施形態1の探索システム10によれば、物性パラメータを含む探索条件が入力される探索システムにおいて、探索する物性の技術分野における専門知識が十分でなく、または、物性パラメータ名を正確に特定することができないユーザーに対しても、物性探索を助ける探索支援機能を提供することができる。また、ユーザーが仕様として入力した機能を発現させるメカニズムについても、ユーザーに対してその探索について適切な選択肢を提供することができる探索支援機能を提供することができる。
【0094】
<物性探索部の構成例>
探索システム10における物性探索部20は、探索条件に基づく物性探索を行って、探索結果をユーザーインターフェース1に出力する。物性探索部20には、例えば、上述の特許文献1、2または3に記載される探索システムを適用することができる。
図1には簡単な適用例が示される。
【0095】
物性探索部20は、物性パラメータの関係性を記憶する物性パラメータ関係性データベース21とグラフ生成部22とグラフ探索部24とを備える。
【0096】
物性パラメータ関係性データベース21には、関係性を有する物性パラメータの複数の対が記憶される。このときの関係性を有する物性パラメータの対は、科学的根拠に基づいた関係性、即ち、理論的に説明された関係性に基づくものだけではなく、理論的な説明が未だなされておらず、また、定式化もされていない段階であっても、実験データから明確な相関が認められることによって、関係性の存在が知られている物性パラメータの対を含めることができる。なお、「理論的に説明された関係性」には、定理や公式のように定式化された関係性の他、相関の有無や相関係数の正負(一方が増加するときに他方も増加するか減少するかなど)が説明されている半定量的、あるいは、定性的な関係性までもが広く含まれていてよい。このとき、如何なる分野で知られている関係性であっても特に排除される必要はなく、あらゆる分野で関係性が知られている物性パラメータ対を含めることができる。
【0097】
グラフ生成部22は、物性パラメータ関係性データベース21に記憶された複数の物性パラメータをノードとし、関係性を有する物性パラメータ対に対応するノード間をエッジとする、グラフ23を生成する。グラフ探索部24は、与えられる探索条件に基づいて、グラフ23を探索しその探索結果を出力する。グラフ探索部24には、グラフ理論などの数学的なアルゴリズムに基づく、種々の経路探索手法を適用することができる。
【0098】
これにより、物性探索部20は、複数の物性パラメータの任意の組合せのうち、既に知られている関係性に基づいて、有意な関係性を有する物性パラメータの未知の組合せを探索することができる。例えば、2つの物性パラメータ間の因果関係の有無、因果関係がある場合にその関係性を説明するための経路を探索することができる。2つの物性パラメータの関係性を説明するための経路は、必ずしも1通りではなく、複数の経路が探索結果として抽出される。その中には、単一の技術分野内で知られた因果関係のみでは説明することができない因果関係が含まれ得る。物性パラメータ関係性データベース21には複数の技術分野で知られている物性の関係性が含まれており、グラフ23はその関係性がどのような技術分野で知られているかに関わりなく、網羅的に表現されているため、その経路探索の結果も技術分野に無関係となるからである。
【0099】
物性探索部20には、さらに、特許文献2に記載されるような条件付きエッジを考慮した探索、及び、特許文献3に記載されるような優先度を考慮した経路探索等の機能が適宜追加・強化された探索を適用することができる。
【0100】
探索条件としては、上述のように経路探索の始点、終点、さらには経由点として指定されるノード、即ち物性パラメータ、また逆に経由しないことを条件として指定したノード即ち物性パラメータが含まれる。探索条件として2または3個以上のノードを指定した経路探索に代えて、1個の始点または終点となるノードを指定して、所定の範囲に存在するノードを探索することもできる。ノード間の距離が近い、即ち物性パラメータ間の因果関係が強いものに限らず、一定範囲内の距離にあるもの、一定以上の距離が離れているものなどを探索することも可能である。
【0101】
いずれの探索条件においても、少なくとも1つの物性パラメータを正確に指定する必要がある。一方、物性探索をするユーザーは、学術的な知識を十分に備えているとは限らず、物性パラメータ名を正確に知っているとは限らない。特に、ある機能を有する材料を探索したい場合に、その機能を発現させるメカニズムやその機能発現を決定づける物性を知らないユーザーは少なくないと思われる。
【0102】
本実施形態1の探索システム10においては、関連因子特定部3が特定する拡張パラメータに含まれる物性パラメータを、物性パラメータ関係性データベース21に記憶されている物性パラメータ名の中から、メカニズム推定部2によって推定されたメカニズムに寄与するものを選ぶように構成するとよい。
【0103】
探索システム10は、ユーザーから正確な物性パラメータ名を使わない仕様が入力された場合であっても、その仕様が意図する機能を発現させるメカニズムを推定し、それに寄与する物性パラメータ名を正確に、即ち、物性パラメータ関係性データベース21に記憶されている物性パラメータ名の中から特定するので、グラフ探索部24に入力される探索条件として適切なものとなる。その結果、機能を発現させるメカニズムやその機能発現を決定づける物性を知らないユーザーに対しても、物性探索部20に正確な物性パラメータ名を含む探索条件を入力するための支援機能を提供することができる。
【0104】
物性探索部20は、ここで例示したようなグラフ探索を応用した探索システムに代えて、種々の探索システムを採用することができる。どのような探索システムを採用する場合であっても、その探索システムにおいて、探索条件として正確に物性パラメータ名を入力することが求められる限り、本実施形態1のメカニズム推定部2と関連因子特定部3を含むユーザーインターフェース1を採用することによって同じ作用効果を奏することができる。本発明の他の実施形態についても同様である。
【0105】
物性探索部20の機能を拡張して、物性パラメータだけでなく、影響因子を含めた拡張パラメータについて、探索を可能とするように構成してもよい。
【0106】
そのために、物性パラメータ関係性データベース21は、元々記憶されている複数のパラメータ対に加えて、さらに拡張対を記憶する。ここで拡張対とは、物性パラメータ関係性データベース21に記憶されている複数の物性パラメータと関係性を有する拡張パラメータと、当該物性パラメータとの対である。例えば、物性パラメータAとBが関係性を有するとき、物性パラメータ関係性データベース21は物性パラメータAとBとその関係性を記憶するが、物性パラメータAが影響因子の1つである温度Tに依存する場合には、影響因子であり拡張パラメータの1つである温度Tと物性パラメータAとの対と、その関係性が、拡張対として物性パラメータ関係性データベース21に追加される。
【0107】
グラフ生成部22は、物性パラメータ関係性データベース21に追加的に記憶された、拡張パラメータと物性パラメータによる拡張対に基づいて、生成するグラフ23を拡張する。即ち、拡張パラメータと物性パラメータの拡張対を構成する拡張パラメータに対応するノードと、当該拡張対を構成する物性パラメータに対応するノードとの間のエッジとを、グラフ23に追加する。グラフ探索部24の探索範囲は、この拡張されたグラフ23となるので、物性探索部20は、物性パラメータだけでなく、影響因子を含めた拡張パラメータについての探索が可能となる。
【0108】
これにより、物性パラメータ以外の影響因子の寄与を含めた物性探索を行うことができる探索システムにおいても、探索する物性の技術分野における専門知識が十分でないユーザーに対する探索支援機能を提供することができる。
【0109】
<メカニズム推定部と関連因子特定部の構成例>
探索システム10におけるメカニズム推定部2と関連因子特定部3は、例えば、発現する機能と、当該機能発現を決定づけるメカニズムと、当該メカニズムに寄与する1または複数の物性パラメータとを相互に関連づける、機能発現メカニズムデータベースを備えて構成されると好適である。
【0110】
図7は、本発明の探索システムに適用できる機能発現メカニズムデータベースの一例を示す説明図である。
【0111】
機能発現メカニズムデータベース11では、仕様に使用されるキーワードと、その仕様が意図する機能を発現させるメカニズムとが対応付けられ、必要に応じてコメントが付されている。さらに、それぞれのメカニズムには当該メカニズムに寄与する拡張パラメータが対応づけられている。寄与する拡張パラメータがまったく存在しないメカニズムが、機能発現メカニズムデータベース11に含まれていてもよい。
【0112】
「透明電極」というキーワードには、「透明な電極材料」というメカニズムが対応付けられ、「導電性の電極材料自体が透明」であることを示すコメントが付されている。さらにこのメカニズムに寄与する物性パラメータとして「光透過率」と「電気伝導度」とが対応づけられている。また、同じ「透明電極」というキーワードには、「微細構造電極」という別のメカニズムが対応付けられ、「絶縁体または電気抵抗の高い透明な材料の中に、透明性に影響しない程度の微細な構造の導電性物質を混在」することを示すコメントが付されている。さらにこのメカニズムに寄与する物性パラメータとして「粒径」、「開口率」及び「電気伝導度」が対応づけられている。
【0113】
「黒く見える物質」というキーワードには、「材料固有色」と「構造色」という2つのメカニズムが対応付けられ、それぞれに「材料固有の色が黒」、「入射した光を出射させない構造」というコメントが付されている。さらにこのメカニズムそれぞれに寄与する物性パラメータとして「光吸収率」と、多孔質の「孔径」、「孔の深さ」及び「孔の密度」が対応づけられている。
【0114】
仕様には、例示した1個のキーワード以外に、種々の同義語、類義語などを使った異なる表現が考えられるので、機能発現メカニズムデータベースの「キーワード」の項目にそのような同義語、類義語を追加することができる。
【0115】
一方、メカニズム推定部2に仕様の意味を解釈する手段を設けて、当該仕様が意味するところが機能発現メカニズムデータベースのいずれの「キーワード」に相当するかを推定させてもよい。自然言語の意味を解釈する手段には、種々の公知技術を適用することができる。
【0116】
図7には表形式のデータベースを例示したが、機能発現メカニズムデータベース11としては他の種々の形式のデータベースを採用することができる。また、機能発現メカニズムデータベース11と同等の機能をメカニズム推定部2と関連因子特定部3に組み込むこともできる。
【0117】
<機能発現メカニズムデータベースの作成方法>
機能発現メカニズムデータベース11は、研究者等の専門家が、その知見に基づいて作成することができる。その作成作業の一部または全部は、人工知能によって補完または置き換えることができる。物性探索部20が探索の対象とする範囲が、多数の分野に及ぶ場合には、多くの専門家の知見を集約して作成することとなる。人工知能によれば、入力する学習データを、広範な分野から収集し機械学習することによって、容易に、広範な分野からの知見を集約することができる。
【0118】
例えば、インターネット上のウェッブサイトに掲載された技術Q&A、解説、論文、その他の文書を、学習データとして入力し、単語をクラスタリングする。クラスタリング(clustering)とは、自然言語処理の一種で、学習データとして入力された文書に登場する単語をベクトル化し、その方向と大きさから、同一の概念に近い単語の集団(クラスタ)に分ける処理である。
【0119】
本発明においては、ユーザーによって入力される仕様に使用される可能性のあるキーワードと、その仕様が意図する機能を表現する単語と、当該機能発現を決定づけるメカニズムを表現する単語と、当該メカニズムに寄与する1または複数の拡張パラメータとが、メカニズムごとにクラスタリングされるように、機械学習を設計する。メカニズムに寄与する拡張パラメータに含まれる物性パラメータは、物性パラメータ関係性データベース21に記憶されている物性パラメータ名と共通する。クラスタリングされた複数の単語の中から、
図7に示した機能発現メカニズムデータベース11の「メカニズム」に入力されるべき語句を選択する。また、それらを参考にして「コメント」に入力される語句や文章を作成する。これらの作業は人手によって行ってもよい。同じクラスタ内の単語は、キーワードに登録される。
【0120】
機能発現メカニズムデータベース11を、上記のような人工知能を利用する方法で作成すれば、多数の分野の専門家の知見を集約したのと同等の効果を得ることができる。
【0121】
<ハードウェア/ソフトウェア実装形態>
本発明の探索システム10は、記憶装置と計算機を備えたハードウェアシステム上に、ソフトウェアとして機能構築される。
【0122】
図8は、本発明の探索システム10が実装されるハードウェアシステムの一例を示すブロック図である。
【0123】
サーバー100とユーザー側のワークステーション110,120が、インターネットなどのネットワーク200に接続されている。サーバー100は、計算機101、記憶装置102、ネットワークインターフェース103、入力部104及び表示部105を有する。ユーザー側のワークステーション110,120もそれぞれ、計算機111,121、記憶装置112,122、ネットワークインターフェース113,123、入力部114,124及び表示部115,125を有する。
【0124】
探索システム10は、例えば、物性探索部20がサーバー100に、ユーザーインターフェース1がユーザー側のワークステーション110及び/または120に、それぞれ実装される。ユーザー側のワークステーション110にユーザーインターフェース1が実装される場合について説明すると、機能発現メカニズムデータベース11は記憶装置112に保持され、メカニズム推定部2と関連因子特定部3は、計算機111上で動作するソフトウェアとして実装される。ユーザー側のワークステーション110からは探索条件が、ネットワーク200を経由してサーバー100に実装された物性探索部20に供給され、サーバー100上で実行された物性探索の結果が、ネットワーク200を経由して、仕様を入力したユーザーのワークステーション110に実装されたユーザーインターフェース1に出力される。ユーザーインターフェース1が、別のユーザー側ワークステーション120に実装される場合も同様である。
【0125】
このような態様に代えて、物性探索部20だけでなくユーザーインターフェース1も含めて、サーバー100に実装されてもよい。ユーザー側のワークステーション110,120には、それぞれ、仕様を受け付け、探索結果を出力するなどの、簡単なユーザーインターフェース機能のみが実装されてもよい。
【0126】
さらに、探索システム10全体をサーバー100など、1台の計算機に実装して、ネットワーク200及びユーザー側のワークステーション110,120を省略してもよい。
【0127】
〔実施形態2〕<推定されたメカニズム候補の提示と選択>
探索システム10は、ユーザーインターフェース1に、メカニズム推定部2が推定した複数のメカニズムの候補から1つのメカニズムをユーザーに選択させるインターフェースを備えてもよい。
【0128】
図2は、実施形態2に係る探索システム10の構成例を示すブロック図である。
【0129】
探索システム10は、
図1に示した実施形態1に係る探索システム10と同様に、物性探索部20とユーザーインターフェース1とを備え、ユーザーインターフェース1は、物性探索部20に少なくとも1個の物性パラメータを含む探索条件を供給し、物性探索部20は、供給された探索条件に基づく物性探索を行って、探索結果をユーザーインターフェース1に出力することができるように構成されている。
【0130】
物性探索部20については、実施形態1と同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0131】
ユーザーインターフェース1は、メカニズム推定部2と関連因子特定部3とに加えて、メカニズム選択部4を備える。メカニズム推定部2と関連因子特定部3については、実施形態1において説明したのと同様であるので、詳しい説明を省略する。メカニズム選択部4は、メカニズム推定部2が推定した1または複数のメカニズムに関する情報をユーザーに対して出力し、複数の場合に1つのメカニズムを選択させることができるように構成されている。ここで、メカニズム推定部2が推定したメカニズムに関する情報とは、ユーザーが入力した仕様の意味する機能を発現させるメカニズムの内容を、ユーザーに知らせるための情報であり、例えば、
図7に示した機能発現メカニズムデータベース11に、「メカニズム」として格納されている情報とすることができる。
【0132】
これにより、仕様で表現された機能を発現させるメカニズムが複数で、その中にユーザーの想定外のメカニズムが存在する場合に、そのユーザーに気づきを提供することができ、適切な探索に誘導することができる。
【0133】
メカニズム選択部4を、さらに、当該メカニズムに対応づけられた「コメント」も合わせてユーザーに提示することができるように構成するとより好適である。ユーザーは、提示されたメカニズムの選択肢を、提示されたコメントによってより正確に理解することができ、より適切な探索を行うことができる。
【0134】
関連因子特定部3は、メカニズム選択部4で選択されたメカニズムについて、寄与する拡張パラメータを特定する。特定された拡張パラメータを、探索条件(探索式)を作成するときの参考のために、ユーザーに提示してもよい。メカニズム選択部4で選択されたメカニズムについて、寄与する拡張パラメータが存在しない場合には、その旨をユーザーに提示する。必ずしも物性探索を行う必要はなく、ユーザーは、入力した仕様によって表現した機能が発現するメカニズムを知ることができるので、そのメカニズムを利用して仕様を満足すればよい。
【0135】
特定された拡張パラメータのうちの物性パラメータから探索条件(探索式)を、ユーザーインターフェース1内で作成して、物性探索部20へ供給してもよい。特定された拡張パラメータに含まれる物性パラメータの数が1個の場合は例えば、その1個の物性パラメータに対応するノードから所定範囲にあるノードを含む部分グラフを探索結果として表示させる。特定された拡張パラメータに含まれる物性パラメータの数が2個の場合は例えば、2個の物性パラメータに対応する2個のノード間の経路を探索して表示させる。特定された拡張パラメータに含まれる物性パラメータの数が3個以上の場合は例えば、特定された拡張パラメータに含まれるすべての物性パラメータに対応するノードを包含する部分グラフを探索して表示させる、対応するすべてのノードを通る経路を、始点、終点、経由点の組み合わせを変えながら種々、探索させる、など、種々の探索条件(探索式)を自動作成させることができる。
【0136】
物性探索部20が、物性パラメータだけでなく、影響因子を含めた拡張パラメータについて、探索を可能とするように機能を拡張して構成されている場合には、ユーザーインターフェース部1は、関連因子特定部3によって特定された拡張パラメータについて、上述と同様に検索条件(検索式)を自動作成して物性探索部20へ供給する。
【0137】
メカニズム選択部4は、メカニズム選択部4で選択されたメカニズムに対応づけられたコメントに加えて、または、「コメント」に代えて、寄与する拡張パラメータをそのメカニズムとともに提示するように構成してもよい。
図2では、メカニズム選択部4の後段に関連因子特定部3を配置した例を示したが、これを入れ替えて、メカニズム推定部2によって推定されたメカニズム候補のそれぞれについて、関連する拡張パラメータを特定し、ユーザーに提示して選択できるように構成する。ユーザーは、提示されたメカニズムを参考にして、拡張パラメータに基づく探索条件(探索式)を作成して、物性探索部20に入力し、物性探索を実行させることができる。
【0138】
〔実施形態3〕<機能発現メカニズムの選択にあたってのユーザー履歴の参照>
探索システム10は、メカニズム推定部2が推定した複数のメカニズムの候補から1つのメカニズムをユーザーに選択させるときに、ユーザーの探索履歴を参照して、より適切なメカニズム候補を優先的に提示することができるように構成することができる。
【0139】
図3は、実施形態3に係る探索システム10の構成例を示すブロック図である。
【0140】
探索システム10は、
図1と
図2に示した実施形態1及び2に係る探索システム10と同様に、物性探索部20とユーザーインターフェース1とを備え、ユーザーインターフェース1は、物性探索部20に少なくとも1個の物性パラメータを含む探索条件を供給し、物性探索部20は、供給された探索条件に基づく物性探索を行って、探索結果をユーザーインターフェース1に出力することができるように構成されている。物性探索部20については、実施形態1及び2と同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0141】
ユーザーインターフェース1は、
図2に示したメカニズム推定部2、メカニズム選択部4、及び関連因子特定部3に加えて、探索履歴保持部5を備える。メカニズム推定部2と関連因子特定部3については、実施形態1で説明したのと同様であり、メカニズム選択部4については、実施形態2で説明したのと同様であるので、それぞれの詳しい説明を省略する。
【0142】
探索履歴保持部5は、過去に実行された探索の履歴を保持することができるように構成されている。メカニズム選択部4は、メカニズム推定部2が複数のメカニズムを推定した場合に、探索履歴保持部5を参照して、過去に探索された履歴に関連するメカニズムを優先的に提示することができるように構成される。
【0143】
これにより、ユーザーが選択する可能性のより高いメカニズム候補を優先的に提示することができ、ユーザーの負担を軽減することができる。ここでユーザーとは、個人に限定されるわけではなく、複数人によるユーザーグループであってもよい。
【0144】
探索履歴保持部5は、物性探索部20に供給された探索条件(探索式)を探索履歴として保持する他、メカニズム選択部4からユーザーに提示されユーザーに選択されたメカニズムを探索履歴として保持してもよい。保持される探索履歴は、ユーザーによって閲覧、出力、編集、削除などの操作を可能とされる。
【0145】
<機能発現メカニズムの選択にあたってのユーザー自身の履歴の優先的提示>
本実施形態3に係る探索システム10において、探索履歴保持部5は、ユーザーごとに探索履歴を保持することができるように構成されるとより好適である。ユーザーインターフェース1は、メカニズム推定部2が複数のメカニズムを推定した場合に、探索履歴保持部5を参照して、過去に当該ユーザー自身が探索した履歴に関連するメカニズムを優先的に提示することができるように構成される。
【0146】
これにより、ユーザーが選択する可能性のより高いメカニズム候補を優先的に提示することができ、ユーザーの負担を軽減することができる。ここでユーザー自身とは、個人の当該ユーザーである他、当該ユーザーと同じユーザーグループに属する複数のユーザーであってもよい。
【0147】
さらに、他のユーザーが探索した履歴に関連するメカニズムは、次に優先的に提示することができるように構成されてもよい。その結果、如何なるユーザーによっても探索されたことがないメカニズムが最も低い優先度で提示されることとなり、ユーザーが選択する可能性の高いメカニズム候補を優先的に提示した上で、当該ユーザーが想定していなかった有力な機能発現メカニズムについての気付きの機会を、当該ユーザーに提供することができる。
【0148】
〔実施形態4〕<探索方法>
以上のように実施形態1〜3で説明した本発明の探索システム10は、実施形態1の「ハードウェア/ソフトウェア実装形態」において
図8を引用して説明したとおり、記憶装置と計算機を備えたハードウェアシステム上に、ソフトウェアとして機能構築することができる。したがって、本発明は、記憶装置と計算機を備えたハードウェアシステムを利用する探索方法として位置付けることができる。
【0149】
図4は、本発明の探索方法の構成例を示すフローチャートである。
【0150】
本発明の探索方法は、記憶装置を備える計算機上で動作するソフトウェアによって実装され、仕様入力ステップ(S1)とメカニズム推定ステップ(S2)と関連因子特定ステップ(S3)と探索条件入力ステップ(S4)と物性探索ステップ(S5)と探索結果出力ステップ(S6)とを備える探索方法であって、以下のように構成される。
【0151】
メカニズム推定ステップ(S2)は、仕様入力ステップ(S1)で入力される仕様から、当該仕様の意味する機能を発現させる1または複数のメカニズムの候補を推定する。関連因子特定ステップ(S3)は、メカニズム推定ステップ(S2)で推定された1または複数のメカニズムの候補のうちの少なくとも1つについて、当該メカニズムに寄与する拡張パラメータを特定する。メカニズム推定ステップ(S2)と関連因子特定ステップ(S3)の実装には、例えば
図7に示したような機能発現メカニズムデータベース11を備えて参照するソフトウェアを適用することができる。機能発現メカニズムデータベース11の作成方法、及びそれを参照したメカニズムの推定方法、当該メカニズムに寄与する拡張パラメータの特定方法は、実施形態1で説明した方法と同様とすることができる。
【0152】
探索条件入力ステップ(S4)から入力される探索条件(探索式)、または、関連因子特定ステップ(S3)で特定された拡張パラメータのうちの1または複数の物性パラメータを含んで作成される探索条件(探索式)が、物性探索ステップ(S5)に供給される。物性探索ステップ(S5)は、供給された探索条件(探索式)に基づく物性探索を行って、探索結果を出力する(S6)。
【0153】
物性探索ステップ(S5)は、例えば、物性パラメータ関係性データベースからグラフを生成するグラフ生成ステップ(S12)と、生成されたグラフを対象として、入力される探索条件にしたがった探索を行うグラフ探索ステップ(S13)を含んで構成されることができる。物性パラメータ関係性データベースには、関係性を有する物性パラメータの複数の対が記憶される。物性パラメータ関係性データベースは、物性パラメータ関係性データベース入力ステップ(S11)によって読み込まれてもよい。物性探索ステップ(S5)には、この他、上述の特許文献1、2または3に記載される探索方法を適用することもできる。 これにより、実施形態1に係る探索システム10と同様に、物性パラメータを含む探索条件が入力される探索方法においても、物性パラメータ名を正確に特定することができないユーザーに対しても、探索を可能とする探索支援機能を提供することができる。
【0154】
物性探索ステップ(S5)は、実施形態1の「物性探索部の構成例」で説明したのと同様に構成することができる。また、機能を拡張して、物性パラメータだけでなく、影響因子を含めた拡張パラメータについて、探索を可能とするように構成してもよい。
【0155】
これにより、物性パラメータ以外の影響因子の寄与を含めた物性探索を行うことができる探索システムにおいても、探索する物性の技術分野における専門知識が十分でないユーザーに対する探索支援機能を提供することができる。
【0156】
<推定されたメカニズム候補の提示と選択>
上述の探索方法(
図4)に、メカニズム選択ステップ(S7)を追加することができる。
【0157】
図5は、本発明の探索方法の一変形例を示すフローチャートである。
図4に示したフローチャートにおいて、メカニズム推定ステップ(S2)と関連因子特定ステップ(S3)との間にメカニズム選択ステップ(S7)挿入される。
【0158】
メカニズム選択ステップ(S7)は、メカニズム推定ステップ(S2)で推定された1または複数のメカニズムに関する情報をユーザーに対して出力し、複数の場合に1つのメカニズムを選択させる。関連因子特定ステップ(S3)は、メカニズム選択ステップ(S7)において選択されたメカニズムに寄与する拡張パラメータを特定する。他の各ステップは、
図4を参照して説明した探索方法における各ステップと同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0159】
これにより、仕様で表現された当該機能を発現させる、ユーザーの想定外のメカニズムが存在する場合に、そのユーザーに気づきを提供することができ、適切な探索に誘導することができる。
【0160】
図5には、メカニズム選択ステップ(S7)は、関連因子特定ステップ(S3)の前段に挿入した例を示したが、これに代えて、関連因子特定ステップ(S3)の後段に配置しても良い。関連因子特定ステップ(S3)ではメカニズム候補ごとに寄与する拡張パラメータが特定され、メカニズム選択ステップ(S7)では複数のメカニズム候補とともにそれぞれに寄与する拡張パラメータを、メカニズムを選択するときの参考のために、ユーザーに提示することができる。
【0161】
<機能発現メカニズムの選択にあたってのユーザー履歴の参照>
上述の探索方法(
図5)に、さらに探索履歴保持部(5)を追加することができる。
【0162】
図6は、本発明の探索方法のさらなる変形例を示すフローチャートである。探索履歴保持部(5)は、探索条件入力ステップ(S4)から入力された探索条件(探索式)または、関連因子特定ステップ(S3)において特定された物性パラメータを含む探索条件(探索式)など、物性探索ステップ(S5)に供給された探索条件(探索式)を記憶装置上に保持する。
【0163】
メカニズム選択ステップ(S7)は、前記メカニズム推定ステップで複数のメカニズムが推定された場合に、探索履歴保持部(5)を参照して、過去に探索された履歴に関連するメカニズムを優先的に提示することができるように構成される。
【0164】
これにより、ユーザーが選択する可能性の高いメカニズム候補を優先的に提示することができ、ユーザーの負担を軽減することができる。
【0165】
さらに、探索履歴保持部(5)を、ユーザーごとに探索履歴を保持、管理することができるように構成し、メカニズム選択ステップ(S7)が、過去に当該ユーザー自身またはそのユーザーが属するユーザーグループが探索した履歴に関連するメカニズムを優先的に提示することができるように構成すると、より好適である。これにより、ユーザーが選択する可能性のより高いメカニズム候補を優先的に提示することができる。
【0166】
このとき、他のユーザーが探索した履歴に関連するメカニズムは、当該ユーザーの探索履歴に関連するメカニズムの次に優先的に提示することができるように構成されるとよい。これにより、ユーザーが選択する可能性の高いメカニズム候補を優先的に提示した上で、当該ユーザーが想定していなかった有力な機能発現メカニズムについての気付きの機会を、当該ユーザーに提供することができる。
【0167】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。