【課題】関係性を有する物性パラメータの対をエッジによって接続されたノード対に対応付けたグラフを探索する探索システムにおいて、物性ではない因子(影響因子)の影響を探索に反映させる。
【解決手段】グラフ探索部と影響因子データベースと影響判定部と探索結果出力部とを備える探索システムであって、以下のように構成される。影響因子データベースは、グラフを構成する複数の物性パラメータのそれぞれと、当該物性パラメータが依存性を有する影響因子と、その依存性情報とを対応付けて記憶する。影響判定部は、影響因子データベースを参照することによって、探索結果に含まれるノードに対応する物性パラメータが、少なくとも1つの影響因子に依存性を有するか否かを判定し、探索結果出力部は、探索結果とともに、影響判定部が依存性を有すると判定した物性パラメータと影響因子の組み合わせとその依存性情報とを出力する。
記憶装置を備える計算機上で動作するソフトウェアによって実装され、前記記憶装置に記憶される物性パラメータ関係性データベースを参照するグラフ生成ステップと、探索条件入力ステップと、グラフ探索ステップとを含む探索方法であって、
前記物性パラメータ関係性データベースは、関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を記憶し、
前記グラフ生成ステップは、前記複数のパラメータ対に含まれる複数の物性パラメータのそれぞれをノードとし、前記複数のパラメータ対のそれぞれに対応するノード間をエッジとする、グラフを生成し、
前記グラフ探索ステップは、前記探索条件入力ステップから与えられる探索条件に基づいて前記グラフを探索し、前記探索条件を満たす複数のノード及び複数のエッジによって構成される1以上の経路または部分グラフを探索結果として出力し、
前記探索方法は、前記記憶装置または他の記憶装置に記憶される影響因子データベースを参照する影響判定ステップと、探索結果出力ステップとをさらに含み、
前記影響因子データベースでは、前記複数の物性パラメータのうちの少なくとも1個の物性パラメータと、当該物性パラメータが依存性を有する1以上の影響因子と、その依存関係を示す依存性情報とが対応付けられており、
前記影響判定ステップは、前記探索結果に含まれるノードに対応する物性パラメータが、少なくとも1つの影響因子に依存性を有するか否かを判定し、
前記探索結果出力ステップは、前記探索結果とともに、前記影響判定ステップで依存性を有すると判定された物性パラメータと影響因子の組み合わせとその依存性情報とを出力する、
探索方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される代表的な実施の形態について概要を説明する。代表的な実施の形態についての概要説明で括弧を付して参照する図面中の参照符号はそれが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【0024】
〔1〕<物性パラメータ以外の因子の影響を反映することができる物性探索システム>
本発明の代表的な実施の形態は、物性パラメータ関係性データベース(1)とグラフ生成部(2)とグラフ探索部(4)とを備える探索システム(10)であって、以下のように構成される(
図1)。
【0025】
前記物性パラメータ関係性データベースは、関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を記憶する。前記グラフ生成部は、前記複数のパラメータ対に含まれる複数の物性パラメータのそれぞれをノードとし、前記複数のパラメータ対のそれぞれに対応するノード間をエッジとする、グラフを生成する。前記グラフ探索部は、与えられる探索条件に基づいて前記グラフを探索し、探索結果を出力することができるように構成される。ここで、前記探索結果は、前記探索条件を満たす複数のノード及び複数のエッジによって構成される1以上の経路または部分グラフである。
【0026】
本発明の探索システム(10)は、影響因子データベース(5)と、影響判定部(6)と、探索結果出力部(7)とをさらに備える。
【0027】
前記影響因子データベースは、前記複数の物性パラメータのうちの少なくとも1個の物性パラメータと、当該物性パラメータが依存性を有する1以上の影響因子と、その依存関係を示す依存性情報とを対応付けて記憶する。
【0028】
前記影響判定部は、前記影響因子データベースを参照することによって、前記探索結果に含まれるノードに対応する物性パラメータが、少なくとも1つの影響因子に依存性を有するか否かを判定し、前記探索結果出力部は、前記探索結果とともに、前記影響判定部が依存性を有すると判定した物性パラメータと影響因子の組み合わせとその依存性情報とを出力することができるように構成される。
【0029】
これにより、関係性を有する物性パラメータの対をエッジによって接続されたノード対に対応付けたグラフを探索する物性探索システムにおいて、物性ではない因子(影響因子)の影響を探索に反映させることを可能とする探索支援機能を提供することができる。何らかの影響因子に依存する物性パラメータが探索結果に含まれているときには、当該物性パラメータがどの影響因子にどのような依存関係を有するかという依存性情報を、探索結果とともに出力することができるので、ユーザーは探索結果の中から、所望の特性を有する物質・材料またはその製造方法を、より効率的に抽出することができる。ここで、依存性情報とは、依存関係の有無のみであってもよいし、より詳細な情報、例えば、相関の正/負、関係性を表す関数の種類などであってもよい。
【0030】
〔2〕<影響因子データベース(DB:database)=環境記述DB/形態記述DB/サイズ記述DB>
〔1〕項の探索システムにおいて、前記影響因子データベースは、環境記述データベース(11)、形態記述データベース(12)およびサイズ記述データベース(13)のうちの少なくとも1つを含むとより好適である(
図2,
図3)。
【0031】
前記環境記述データベースは、温度、圧力、電界および磁界のうちの少なくとも1つを影響因子として含み、前記複数の物性パラメータのうち当該影響因子に依存する物性パラメータについて、その依存関係を示す依存性情報を対応付けて記憶する。
【0032】
前記形態記述データベースは、球状、柱状、線状、クラスタ、表面積/体積比、配向方向および分散度のうちの少なくとも1つを影響因子として含み、前記複数の物性パラメータのうち当該影響因子に依存する物性パラメータについて、その依存関係を示す依存性情報を対応付けて記憶する。
【0033】
前記サイズ記述データベースは、長さ、径、ナノ、マイクロおよびバルクのうちの少なくとも1つを影響因子として含み、前記複数の物性パラメータのうち当該影響因子に依存する物性パラメータについて、その依存関係を示す依存性情報と対応付けて記憶する。
【0034】
これにより、影響因子データベースが、互いに異なる概念の下位のデータベースに区分され、物性パラメータの影響因子の依存性を、表示または探索結果の絞り込みに利用する際に、ユーザーの利便性を向上することができる。
【0035】
〔3〕<影響因子の依存性情報の表示>
〔1〕項の探索システムにおいて、前記探索結果出力部は、前記探索結果を複数のノード及びエッジを含む1以上の経路または部分グラフを表示し、合わせて、前記影響判定部が依存関係を有すると判定した物性パラメータに対応するノードについて、対応する依存性情報を表示する(
図3,
図4,
図5)。
【0036】
これにより、ユーザーは探索結果の中から探索の目的に合致する物性関係を抽出する際に考慮すべき情報が表示されるため、ユーザーの利便性が向上される。
【0037】
〔4〕<影響因子を追加ノードとした依存性情報の表示>
〔3〕項の探索システムにおいて、前記探索結果出力部は、前記影響判定部が依存関係を有すると判定した影響因子を新たなノードとして追加して表示し、前記新たなノードと当該影響因子に依存する物性パラメータに対応するノードとの間に新たなエッジを追加して表示する(
図3,
図4,
図5)。
【0038】
これにより、影響因子の物性への寄与が可視化され、ユーザーの利便性がより向上する。
【0039】
〔5〕<探索結果に含まれるノード/エッジへの、影響因子の依存性情報の表示>
〔4〕項の探索システムにおいて、前記探索結果出力部は、前記影響判定部が少なくとも1つの影響因子の依存関係を有すると判定した物性パラメータについて、対応するノード及び/またはエッジに、対応する依存性情報を表示する(
図3,
図4,
図5)。
【0040】
これにより、影響因子の物性への寄与が可視化され、ユーザーの利便性がより向上する。
【0041】
〔6〕<影響因子の依存性情報として相関の正/負を表示>
〔4〕項または〔5〕項の探索システムにおいて、前記探索結果出力部は、前記影響判定部が少なくとも1つの影響因子の依存関係を有すると判定した物性パラメータに対応するノードに表示する前記依存性情報として、相関の正/負を表示する(
図6)。
【0042】
これにより、影響因子の物性への寄与が可視化され、ユーザーの利便性がさらに向上する。
【0043】
〔7〕<影響因子の指定>
〔3〕項から〔6〕項のうちのいずれか1項の探索システムにおいて、前記探索結果出力部は、前記影響判定部が依存関係を有すると判定した影響因子のうち、1または複数の影響因子を外部から指定可能に構成され、指定された影響因子についての依存性情報を表示し、指定されなかった影響因子についての依存性情報を表示から除外する(
図4,
図5)。
【0044】
これにより、ユーザーが指定する影響因子の物性への寄与のみが可視化され、ユーザーの利便性がさらに向上する。
【0045】
〔8〕<影響因子の寄与を考慮した探索結果の絞り込み>
〔1〕項の探索システムにおいて、前記探索結果出力部は、前記影響判定部が依存関係を有すると判定した影響因子のうち1または複数の影響因子と当該影響因子に対応する依存性情報とを含む探索限定条件を外部から指定可能に構成され、前記探索結果のうち、指定された前記探索限定条件を満たす経路または部分グラフを優先的に出力する。
【0046】
これにより、ユーザーが指定する影響因子の物性への寄与を考慮した探索経路または部分グラフが優先的に探索結果として出力され、ユーザーの利便性が向上する。
【0047】
〔9〕<物性パラメータ以外の因子の影響を反映することができる物性探索方法>
本発明の代表的な実施の形態は、記憶装置(
図9の102)を備える計算機(
図9の101)上で動作するソフトウェアによって実装され、前記記憶装置に記憶される物性パラメータ関係性データベース(1)を参照するグラフ生成ステップ(S1)と、探索条件入力ステップ(S2)と、グラフ探索ステップ(S3)とを含む探索方法であって、以下のように構成される(
図10,
図11,
図12)。
【0048】
前記物性パラメータ関係性データベースは、関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を記憶する。前記グラフ生成ステップは、前記複数のパラメータ対に含まれる複数の物性パラメータのそれぞれをノードとし、前記複数のパラメータ対のそれぞれに対応するノード間をエッジとする、グラフを生成する。前記グラフ探索ステップは、前記探索条件入力ステップから与えられる探索条件に基づいて前記グラフを探索し、前記探索条件を満たす複数のノード及び複数のエッジによって構成される1以上の経路または部分グラフを探索結果として出力する。
【0049】
前記探索方法は、前記記憶装置または他の記憶装置(
図9の112,122)に記憶される影響因子データベース(5)を参照する影響判定ステップ(S4)と、探索結果出力ステップ(S5)とをさらに含む。
【0050】
前記影響因子データベースでは、前記複数の物性パラメータのうちの少なくとも1個の物性パラメータと、当該物性パラメータが依存性を有する1以上の影響因子と、その依存関係を示す依存性情報とが対応付けられている(
図2,
図3)。
【0051】
前記影響判定ステップは、前記探索結果に含まれるノードに対応する物性パラメータが、少なくとも1つの影響因子に依存性を有するか否かを判定し、前記探索結果出力ステップは、前記探索結果とともに、前記影響判定ステップで依存性を有すると判定された物性パラメータと影響因子の組み合わせとその依存性情報とを出力する。
【0052】
これにより、関係性を有する物性パラメータの対をエッジによって接続されたノード対に対応付けたグラフを探索する物性探索方法においても、〔1〕項と同様に、物性ではない因子(影響因子)の影響を探索に反映させることを可能とする探索支援機能を提供することができる。
【0053】
〔10〕<影響因子データベース(DB:database)=環境記述DB/形態記述DB/サイズ記述DB>
〔9〕項の探索方法において、前記影響因子データベースは、環境記述データベース(11)、形態記述データベース(12)およびサイズ記述データベース(13)のうちの少なくとも1つを含むとより好適である(
図2,
図3)。
【0054】
前記環境記述データベースは、温度、圧力、電界および磁界のうちの少なくとも1つを影響因子として含み、前記複数の物性パラメータのうち当該影響因子に依存する物性パラメータについて、その依存関係を示す依存性情報を対応付けて記憶する。
【0055】
前記形態記述データベースは、球状、柱状、線状、クラスタ、表面積/体積比、配向方向および分散度のうちの少なくとも1つを影響因子として含み、前記複数の物性パラメータのうち当該影響因子に依存する物性パラメータについて、その依存関係を示す依存性情報を対応付けて記憶する。
【0056】
前記サイズ記述データベースは、長さ、径、ナノ、マイクロおよびバルクのうちの少なくとも1つを影響因子として含み、前記複数の物性パラメータのうち当該影響因子に依存する物性パラメータについて、その依存関係を示す依存性情報と対応付けて記憶する。
【0057】
これにより、影響因子データベースが、互いに異なる概念の下位のデータベースに区分され、物性パラメータの影響因子の依存性を、表示または探索結果の絞り込みに利用する際に、ユーザーの利便性を向上することができる。
【0058】
〔11〕<影響因子の依存性情報の表示>
〔9〕項の探索方法において、前記探索結果出力ステップは、前記探索結果を複数のノード及びエッジを含む1以上の経路または部分グラフを表示し、合わせて、前記影響判定ステップで依存関係を有すると判定された物性パラメータに対応するノードについて、対応する依存性情報を表示する(
図3,
図4,
図5)。
【0059】
これにより、ユーザーは探索結果の中から探索の目的に合致する物性関係を抽出する際に考慮すべき情報が表示されるため、ユーザーの利便性が向上される。
【0060】
〔12〕<影響因子を追加ノードとした依存性情報の表示>
〔11〕項の探索方法において、前記探索結果出力ステップは、前記影響判定ステップで依存関係を有すると判定された影響因子を新たなノードとして追加して表示し、前記新たなノードと当該影響因子に依存する物性パラメータに対応するノードとの間に新たなエッジを追加して表示する(
図3,
図4,
図5)。
【0061】
これにより、影響因子の物性への寄与が可視化され、ユーザーの利便性がより向上する。
【0062】
〔13〕<探索結果に含まれるノード/エッジへの、影響因子の依存性情報の表示>
〔12〕項の探索方法において、前記探索結果出力ステップは、前記影響判定ステップで少なくとも1つの影響因子の依存関係を有すると判定された物性パラメータについて、対応するノード及び/またはエッジに、対応する依存性情報を表示する(
図3,
図4,
図5)。
【0063】
これにより、影響因子の物性への寄与が可視化され、ユーザーの利便性がより向上する。
【0064】
〔14〕<影響因子の依存性情報として相関の正/負を表示>
〔12〕項または〔13〕項の探索方法において、前記探索結果出力ステップは、前記影響判定ステップで少なくとも1つの影響因子の依存関係を有すると判定された物性パラメータに対応するノードに表示する前記依存性情報として、相関の正/負を表示する(
図6)。
【0065】
これにより、影響因子の物性への寄与が可視化され、ユーザーの利便性がさらに向上する。
【0066】
〔15〕<影響因子の指定>
〔11〕項から〔14〕項のうちのいずれか1項の探索方法は、影響因子指定ステップ(S6)をさらに含む(
図11)。
【0067】
前記影響因子指定ステップでは、前記影響判定ステップで依存関係を有すると判定された影響因子のうち、1または複数の影響因子が外部から指定される。
【0068】
前記探索結果出力ステップは、前記影響因子指定ステップで指定された影響因子についての依存性情報を表示し、指定されなかった影響因子についての依存性情報を表示から除外する。
【0069】
これにより、ユーザーが指定する影響因子の物性への寄与のみが可視化され、ユーザーの利便性がさらに向上する。
【0070】
〔16〕<影響因子の寄与を考慮した探索結果の絞り込み>
〔9〕項の探索方法は、探索条件限定ステップ(S7)をさらに含む(
図12)。
【0071】
前記探索条件限定ステップでは、前記影響判定ステップで依存関係を有すると判定された影響因子のうち1または複数の影響因子と当該影響因子に対応する依存性情報とを含む探索限定条件を外部から指定され、前記探索結果出力ステップは、前記探索結果のうち、前記探索条件限定ステップで指定された前記探索限定条件を満たす経路または部分グラフを優先的に出力する。
【0072】
これにより、ユーザーが指定する影響因子の物性への寄与を考慮した探索経路または部分グラフが優先的に探索結果として出力され、ユーザーの利便性が向上する。
【0073】
2.実施の形態の詳細
実施の形態について更に詳述する。
【0074】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1に係る探索システムの構成例を示すブロック図である。
【0075】
本実施形態1に係る探索システム10は、物性パラメータ関係性データベース1と、グラフ生成部2、とグラフ探索部4、と影響因子データベース5と、影響判定部6と、探索結果出力部7とを備える。
【0076】
物性パラメータ関係性データベース1は、関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を記憶する。グラフ生成部2はグラフ3を生成する。グラフ3は、物性パラメータ関係性データベース1に記憶される複数のパラメータ対のそれぞれを構成する物性パラメータをノードとし、そのパラメータ対に対応するノード間をエッジとする、グラフである。グラフ探索部4は、与えられる探索条件に基づいてグラフ3を探索し、探索結果を出力することができるように構成されている。
【0077】
ここで、物性パラメータ関係性データベース1とグラフ生成部2とグラフ探索部4とは、例えば、特許文献2または3に開示されるように構成することができる。
【0078】
グラフ探索部4は、探索条件として原因側と結果側の物性パラメータが指定されたとき、グラフ3を対象として、対応するノード間の経路を探索して、1または複数の経路を抽出し、探索結果として出力する。また、グラフ探索部4は、探索条件として原因側または結果側の物性パラメータ及び範囲が指定されたとき、グラフ3を対象として、対応するノードを始点または終点とし、所定の範囲内にある部分グラフを探索結果として出力する。このように、探索結果は、探索条件を満たす複数のノード及び複数のエッジによって構成される1以上の経路または部分グラフである。
【0079】
影響因子データベース5は、物性パラメータ関係性データベース1に記憶される複数の物性パラメータのうちの少なくとも1個の物性パラメータと、当該物性パラメータが依存性を有する1以上の影響因子と、その依存関係を示す依存性情報とを対応付けて記憶する。
【0080】
影響判定部6は、影響因子データベース5を参照することによって、探索結果に含まれるノードに対応する物性パラメータが、少なくとも1つの影響因子に依存性を有するか否かを判定し、探索結果出力部7は、探索結果とともに、影響判定部6が依存性を有すると判定した物性パラメータと影響因子の組み合わせとその依存性情報とを出力することができるように構成される。ここで「出力」にはその一態様に「表示」が含まれるが「表示」に限られるものではない。
【0081】
これにより、関係性を有する物性パラメータの対をエッジによって接続されたノード対に対応付けたグラフを探索する物性探索システムにおいて、物性ではない因子(影響因子)の影響を探索に反映させることを可能とする探索支援機能を提供することができる。何らかの影響因子に依存する物性パラメータが探索結果に含まれているときには、当該物性パラメータがどの影響因子にどのような依存関係を有するかという依存性情報が、探索結果とともに出力されるので、ユーザーは探索結果の中から、所望の特性を有する物質・材料またはその製造方法を、より効率的に抽出することができる。
【0082】
<物性パラメータ関係性データベース及び影響因子データベースの構成例>
物性パラメータ関係性データベース1には、関係性を有する物性パラメータの複数の対が記憶される。このときの関係性を有する物性パラメータの対は、科学的根拠に基づいた関係性、即ち、理論的に説明された関係性に基づくものだけではなく、理論的な説明が未だなされておらず、また、定式化されていない段階であっても、実験データから明確な相関が認められることによって、関係性の存在が知られている物性パラメータの対を含めることができる。なお、「理論的に説明された関係性」には、定理や公式のように定式化された関係性の他、相関の有無や相関係数の正負(一方が増加するときに他方も増加するか減少するかなど)が説明されている半定量的、あるいは、定性的な関係性までもが広く含まれていてよい。このとき、如何なる分野で知られている関係性であっても特に排除される必要はなく、あらゆる分野で関係性が知られている物性パラメータ対を含めることができる。
【0083】
図2は、物性パラメータ関係性データベース1及び影響因子データベース5の構成例を示す説明図である。一例として入力フォーム20を示す。入力フォーム20は、関係性を有する物性パラメータの対を各行とする表である。第1列は原因側物性パラメータ、第2列は結果側物性パラメータ、第3列はその関係性記述である。必ずしも原因側と結果側に分ける必要はないが、因果関係に方向性がある関係性について表現することができるメリットがある。一方、双方向に関係性がある場合には、原因側と結果側の物性パラメータを入れ替えた2行を使って、その関係性が記述される。
【0084】
図2に例示されるように、教科書X1に理論的関係性として、教科書X1に「A=g(B)」が定式化されているとき、gはBを入力としAを出力とする関数であって逆関数が定義できないときには、原因側の物性パラメータがB、結果側物性パラメータがAとなり、関係性記述として「A=g(B)」が入力されている(1行目)。関係性の記述には、例えば、content mathMLなどのコンピュータに読み込むことが可能な記述言語を採用することができる。
【0085】
1つの物性パラメータが複数の物性パラメータに依存するときには、複数行に渡って記述される。例えば、教科書X1に「D=f(A, B, T, d, …)」が定式化されているとき、入力フォーム20では原因側物性パラメータとしてA及びBが、結果側物性パラメータとしてDが入力される(2行目〜3行目)。このとき関係性記述としては、原因側をA、結果側をDとする2行目には、数式「D=f(A, B, T, d, …)」においてBを一定とした関係式「D=fA(A, T, d, …)」が入力され、原因側をB、結果側をDとする3行目には、数式「D=f(A, B, T, d, …)」においてAを一定とした関係式「D=fB(B, T, d, …)」が入力される。
【0086】
ここで、物性パラメータDは、他の物性パラメータA及びBに依存するだけでなく、因子T及びdにも依存性を有する。因子Tは温度であり、因子dは、物性パラメータA,B,Dの関係性が規定される物質が球状で、その直径である。この例は、実在する物質の物性に基づくものではないが、物性パラメータ間の関係性を規定するときに、物性以外の因子、例えば上述するような温度が、影響を与える例は、極めて多数存在する。このような因子を、本明細書では「影響因子」と呼んでいる。
【0087】
論文Y1に物性パラメータDとEが良い相関を持つというデータ(チャート)が示されているとき、その関係性が4行目と5行目に入力され、学会Zにおいて、物性パラメータCとEが良い相関を持つというデータ(チャート)が発表されているとき、その関係性が6行目と7行目に入力される。このとき、関係性記述としては、近似式が入力されるとよい。近似式を求めるためには、例えば最小二乗法による方法など、周知の方法を採用することができる。
図2では、4行目以降の関係性記述の図示を省略する。
【0088】
以下同様に、論文Y2に示された物性パラメータMとCの関係性が8行目と9行目に、教科書X2に示された理論式から導かれる、物性パラメータKとJ、KとL、JとL、LとJの関係性が10行目から14行目に、その他、理論的あるいは経験的に知られている物性パラメータIとK、GとC、GとF、GとI、IとF、LとH、GとHの関係性が15行目から22行目に、それぞれ入力されている。
【0089】
原因側物性パラメータと結果側物性パラメータの対、即ち、第1列と第2列が、物性パラメータ関係性データベース1となる。結果側物性パラメータとそれに対応する関係記述、即ち、第2列と第3列から、影響因子データベース5を構成することができる。
【0090】
結果側物性パラメータとそれに対応する関係記述から、その結果側物性パラメータがいかなる影響因子に依存するか、さらに如何なる関係性を有するかを抽出することができる。抽出する依存性情報としては、依存関係の有無の他、相関の極性(正の相関か負の相関か)、さらに、関係性の種類まで含めて、例えば、線形よりも緩やかに増加/減少、線形で増加/減少、べき乗(2乗、3乗、…)で増加/減少、指数的に増加/減少を抽出して、影響因子データベース5を構成することができる。
図2に例示した入力フォーム20において、関係性記述にcontent mathMLなどを使って、例示したf、gなどではなく具体的な数式そのものが記述されていれば、数式変形によって上述のような関係性の種類を抽出することができる。一方、例示したように、f、gなど関数の内容を記述しない場合であっても、依存関係の有無は抽出することができる。
【0091】
このような処理を、探索システム10とは切り離したシステムで行って、構成された物性パラメータ関係性データベース1と影響因子データベース5とを探索システム10に保持することができる。一方、入力フォーム20に例示したような表そのものを、表形式のデータベースとして探索システム10に保持してもよい。
【0092】
<影響因子データベースの構成例>
影響因子データベース5は、環境記述データベース11、形態記述データベース12およびサイズ記述データベース13のように、下位概念の影響因子ごとに区分して構成すると、より好適である。
【0093】
環境記述データベース11は、温度、圧力、電界および磁界のうちの少なくとも1つを影響因子として含み、複数の物性パラメータのうち当該影響因子に依存する物性パラメータについて、その依存関係を示す依存性情報を対応付けて記憶する。環境記述データベース11に保持される影響因子は、物質が置かれている環境を表す因子であって、当該物質の物性もしくは物性パラメータに影響を与える場合がある。
【0094】
形態記述データベース12は、球状、柱状、線状、クラスタ、表面積/体積比、配向方向および分散度のうちの少なくとも1つを影響因子として含み、複数の物性パラメータのうち当該影響因子に依存する物性パラメータについて、その依存関係を示す依存性情報を対応付けて記憶する。形態記述データベース12に保持される影響因子は、物質の形状や状態を表す影響因子である。その物質の形状や状態が、当該物質の物性もしくは物性パラメータに影響を与える場合があるので、これを影響因子の一種として位置づけることができる。
【0095】
サイズ記述データベース13は、長さ、径、ナノ、マイクロおよびバルクのうちの少なくとも1つを影響因子として含み、前記複数の物性パラメータのうち当該影響因子に依存する物性パラメータについて、その依存関係を示す依存性情報と対応付けて記憶する。形態記述データベース12に保持される影響因子が物質の形状や状態を表すのに対して、サイズ記述データベース13には、その形状や状態の大きさを表す影響因子が保持される。例示した「長さ」「径」は絶対値を与えることができる影響因子であるのに対し、「ナノ」「マイクロ」「バルク」はピンポイントの絶対値ではなく、ある程度の値の範囲を表す影響因子である。前者は、例えば物性パラメータを規定する数式中に変数として含まれて、定量的な関係性を呈する場合があるので、そのような影響因子である。一方、後者は、例えば、バルク状態では発現していなかった性質がナノサイズの微細構造になったときに初めて発現する場合があるので、そのような場合の物質の大きさを表す影響因子である。このようにいずれも物質の形状や状態の大きさを表す影響因子であるので、同じサイズ記述データベース13に保持する実施形態を例示したが、概念的には多少異なるので、2つのデータベースに区分して保持するように構成してもよい。
【0096】
これにより、影響因子データベースが異なる概念の下位のデータベースに区分され、物性パラメータの影響因子の依存性を、表示または探索結果の絞り込みに利用する際に、ユーザーの利便性を向上することができる。
【0097】
<ハードウェア/ソフトウェア実装形態>
本発明の探索システム10は、記憶装置と計算機を備えたハードウェアシステム上に、ソフトウェアとして機能構築される。
【0098】
図9は、本発明の探索システム10が実装されるハードウェアシステムの一例を示すブロック図である。
【0099】
サーバー100とユーザー側のワークステーション110,120が、インターネットなどのネットワーク200に接続されている。サーバー100は、計算機101、記憶装置102、ネットワークインターフェース103、入力部104及び表示部105を有する。ユーザー側のワークステーション110,120もそれぞれ、計算機111,121、記憶装置112,122、ネットワークインターフェース113,123、入力部114,124及び表示部115,125を有する。
【0100】
探索システム10は、例えば、物性パラメータ関係性データベース1がサーバー100側の記憶装置102に保持され、グラフ生成部2とグラフ探索部4が計算機101上で動作するソフトウェアとして実現される。グラフ3は計算機101の主メモリ上に展開されてもよいし、記憶装置102に保持されてもよい。影響因子データベース5もサーバー100側の記憶装置102に保持され、影響判定部6と探索結果出力部7もサーバー側の計算機101上で動作するソフトウェアとして実現される。ユーザーは、探索条件をユーザー側のワークステーション110,120からネットワーク200経由で送信し、探索結果を受信する。サーバー側のワークステーション100をユーザーが直接操作することができるように構成してもよい。その場合、ユーザー側のワークステーション110,120及びネットワーク200は省略してもよい。
【0101】
別の態様として、物性パラメータ関係性データベース1をサーバー100側の記憶装置102に保持し、グラフ生成部2とグラフ探索部4を計算機101上で動作するソフトウェアとして実現し、影響因子データベース5をユーザー側のワークステーション110,120の記憶装置112,122上に保持し、影響判定部6と探索結果出力部7もユーザー側の計算機111,121上で動作するソフトウェアとして実現してもよい。影響因子データベース5はサーバー100側の記憶装置102に保持しておき、利用するユーザーがあるときに、そのユーザー側のワークステーションに転送するようにしてもよい。
【0102】
〔実施形態2〕<影響因子の依存性情報の表示>
探索システム10において、探索結果出力部7は、グラフ探索部4から出力される探索結果を複数のノード及びエッジを含む1以上の経路または部分グラフとして表示し、合わせて、影響判定部6が依存関係を有すると判定した物性パラメータに対応するノードについて、その依存性情報を表示することができる。依存性情報は、依存関係の有無だけでもよいし、上述したような関係性についての情報であってもよい。
【0103】
これにより、ユーザーは探索結果の中から探索の目的に合致する物性関係を抽出する際に考慮すべき情報が表示されるため、ユーザーの利便性が向上される。
【0104】
図3は、実施形態2に係る探索システム10による影響因子の依存性情報の表示についての説明図である。
【0105】
影響因子データベース5は、上述のように、環境記述データベース11、形態記述データベース12およびサイズ記述データベース13に区分された下位概念のデータベースを含んで構成されている。必ずしも区分する必要はない。また、例示した3つの区分以外の区分や、区分に分類されない影響因子が影響因子データベース5に含まれてもよい。
【0106】
グラフ探索部4から出力される探索結果21は、部分グラフとして表示される。物性パラメータがノードに対応し、関係性を有する物性パラメータ対に対応する2個のノードが、エッジによって接続されている。探索結果21が複数の経路である場合も、通常は始点と終点が共通なので、結果的には部分グラフで表示されることとなる。
【0107】
影響因子の依存性情報をこの探索結果と合わせて表示するには、種々の態様を取り得る。以下にいくつかの態様について説明する。
【0108】
<影響因子を追加ノードとした依存性情報の表示>
探索結果出力部7は、影響判定部6が依存関係を有すると判定した影響因子を新たなノードとして追加して表示し、追加した新たなノードと、当該影響因子に依存する物性パラメータに対応するノードとの間に新たなエッジを追加して表示する。追加された新たなエッジが、依存関係があることを示す表示となっている。
図3に示した例では、ノードb、d及びTが追加され、さらに依存関係表示領域22を設けて、依存関係を示すエッジが追加されている。影響因子データベース5の枠線、環境記述データベース11、形態記述データベース12およびサイズ記述データベース13の区分は、必ずしも表示する必要はないが、表示することによって、ユーザーの視認性を向上することができる。ノードA,B,Fに対応する物性パラメータが温度Tに依存することを示すために、ノードTが追加され、ノードT−A間、T−B間、T−F間にそれぞれエッジ(破線)が表示されている。また、ノードA,Nに対応する物性パラメータが、形態として球状のときにサイズとして直径dに依存することが、ノードb、d、及びノードb−A間、b−N間、d−A間、d−N間それぞれのエッジ(1点鎖線)が追加されて表示されている。
【0109】
これにより、影響因子の物性への寄与が可視化され、ユーザーの利便性がより向上する。例えば、ノードAに対応する物性パラメータを制御して、ノードBに対応する物性パラメータを最適化しようとする場合に、経路A−N−Bを原理とした制御を行うと、ノードNに対応する物性パラメータが直径dに依存して変動する可能性があることがわかる。このような変動が好ましくない場合には、他の経路、A−C−F−BやA−K−E−Bをすべきであることがわかる。
【0110】
<影響因子の指定>
探索結果出力部7は、影響判定部6が依存関係を有すると判定した影響因子のうち、1または複数の影響因子を外部から指定することができるように構成することができる。依存関係がある影響因子が多数であるときにエッジが輻輳して視認性が低下する場合に有効である。また、ユーザーが関心のある影響因子についての依存関係に絞って表示することができるので、視認性が向上する。
【0111】
図4及び
図5は、指定された影響因子についての依存関係に絞って表示した表示例を示す説明図である。
図4は形態、形態に属する球状(ノードbに対応)、サイズに属する直径(ノードdに対応)が選択された例である。ノードb、d、及びb−A間、b−N間、d−A間、d−N間の各エッジが残され、T−A間、T−B間、T−F間の各エッジは表示されない。ノードTは例示するように表示されたまま残してもよい。表示されたまま残っているノードTは、指定をノードd、DからノードTに変更するような操作をユーザーに提供する場合のアイコン表示として利用することができる。
図5は環境に属する温度Tが選択された例である。同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0112】
このように、ユーザーが指定する影響因子の物性への寄与のみが可視化され、ユーザーの利便性が向上する。
【0113】
一方、ユーザーに関心のある影響因子を指定する機能を使わずに、探索結果である部分グラフを構成するすべてのノードに対応する物性パラメータのそれぞれに影響するすべての因子からの依存性情報を出力することによって、ユーザーに気付きの機会を提供することができる。例えば、選択しようとする経路の途中の物性パラメータが、意外な影響因子に強い依存性を有していて、実は適切な経路でないこと気付くような場合である。
【0114】
影響因子の指定を可能とする場合と、指定しない場合の、両方の利点を活かすために、存在するすべての関係性を表示した上で、選択した影響因子の依存性情報を強調表示するなど、優先度に差をつけて表示することができる。ユーザーの関心の強い因子の影響を強調表示しながらも、他の因子の影響も合わせて表示されるため、ユーザーが想定していなかった因子の影響にも気付きの機会が与えられる。
【0115】
<探索結果に含まれるノードへの、影響因子の依存性情報の表示>
本実施形態2の探索システム10において、探索結果出力部7は、影響判定部6が1または複数の影響因子の依存関係を有すると判定した物性パラメータについて、対応するノード及び/またはエッジに、対応する依存性情報を表示することができる。
【0116】
依存性情報としては、依存関係の有無の他、相関の極性(正の相関か負の相関か)、さらに、関係性の種類まで含めて、例えば、線形よりも緩やかに増加/減少、線形で増加/減少、べき乗(2乗、3乗、…)で増加/減少、指数的に増加/減少に区分して扱うことができる。例えば、
図4,5に例示した表示において、影響因子に対する依存性を有する側のノードに、依存性情報を表示することができる。これに代えて、対応するエッジに依存性情報を表示することもできる。さらにはノードの表示とエッジの表示の組み合わせによって、多様な依存性情報を表示できるように構成してもよい。
【0117】
図6は、ノードへの影響因子の依存性情報を表示する態様の例を示す説明図である。
【0118】
関係性の種類に応じてノードの表示を変えることにより、関係性の種類を表示することができる。表示方法として2種類を例示した。ノードの色によって関係性の種類を表示する例と、ノードの線種によって関係性の種類を表示する例である。
【0119】
関係性の種類に応じてエッジの表示を変えることにより、関係性の種類を表示することもできる。ある物性パラメータがある影響因子に依存するとき、その物性パラメータに対応するノードが探索結果に含まれており、その影響因子に対応するノードが新たに追加され、この2つのノード間にエッジが追加されたとき、そのエッジの色や線種によって、関係性の種類を表すことができる。図示は省略するが、
図6と同様の色、または線種による表示を採用することができる。
【0120】
ノードについての表示、エッジについての表示、関係性の種類に基づく色と線種の使い分けのすべてまたは一部を組み合わせることによって、関係性の種類を表すように構成してもよい。
【0121】
図7は、探索結果である部分グラフに、影響因子依存性のあるノードに依存性情報を表示した例を示す説明図である。
図5に示した例では、対応する物性パラメータが温度依存性を有するノードA,B,Fそれぞれに、影響因子の1つである温度Tに対応するノードTからのエッジを表示するもので、依存性の有無(依存性があること)がわかるに留まる。これに対して、
図7に示した例では、依存性を有するノードごとにその依存性情報として関係性の種類を表示している。ノードAには「線形よりも緩やかに減少」、ノードBには「線形で増加」、ノードFには「指数的に増加」が、それぞれ示されている。ユーザーが経路A−C−F−Bを選択しようとしているときに、ノードFに対応する物性パラメータが温度の上昇に対して指数関数的に増加する依存性を有していることが、探索結果に追加情報として示されるので、そのような物性が探索で目標としている材料の特性として許容できるかどうかを検証することができる。
【0122】
図7に示した例では、依存性情報をノードに表示できる影響因子の数は1個であるが、
図6にある色による依存性情報の表示を組み合わせれば、1個のノードに表示できる影響因子の数は2個に増やすことができる。このように、表示方法の工夫次第で複数の影響因子の依存性情報を同時に表示することができる。
【0123】
一方、依存性情報として相関の極性、即ち正の相関か、負の相関かだけを表示するようにしてもよい。表示が単純化されるので、視認性が向上する。また、ノードではなく影響因子に対応するノードから物性パラメータに対応するノードへのエッジの表示を変えることによって相関の極性を表示するように構成することもできる。これにより、複数の影響因子の依存性情報を同時に表示しても、表示が必要以上に煩雑になるのを防止することができる。
【0124】
<物性探索例>
具体的な物性探索の例について説明する。
【0125】
図8は、実施形態2に係る物性探索の具体例を示す説明図である。
【0126】
グラフ探索部4から出力される探索結果21には、酸化物と溶融金属との接合における物性パラメータの関係性を示す部分グラフが示されている。また、影響因子として酸素分圧と溶融金属蒸気圧に対応するノードが示され、それぞれと関係性を有する物性パラメータのノードとの間にエッジが表示されている。
【0127】
探索結果21であるこの部分グラフからは、以下の3点を読み取ることができる。
【0128】
酸化物と溶融金属との接合において、接触角が濡れ性の指標であること
接触角は界面エネルギー、吸着エネルギー、生成エンタルピーに順次関係性を有すること
接触角は表面エネルギーとの間で関係性を有すること
影響因子と物性パラメータの関係性としては、酸素分圧と生成エンタルピー、酸素分圧と表面エネルギー、溶融金属蒸気圧と表面エネルギーとがそれぞれ関係性を有することが示されている。
【0129】
通常、生成エンタルピーはハンドブックに値が載っている標準状態のものを使うが、ユーザーは
図8のように表示された結果から、影響因子である酸素分圧により生成エンタルピーが影響を受けることに気付く。ユーザーはさらに、その影響により、吸着エネルギー、界面エネルギー、接触角、濡れ性にも、酸素分圧の影響が及ぶことに気付く。その結果ユーザーは、本来、濡れ性が酸素分圧に依存性を持つことは好ましくないが、生成エンタルピーの酸素分圧依存性は避けられないことを理解する。そこで、ユーザーは、接合させるときのプロセス雰囲気を制御することにより、酸素分圧の影響を補償するという解決手段に想到する。即ち、
図8に表示された結果から、表面エネルギーが酸素分圧だけでなく溶融金属蒸気圧にも依存することがわかる。このことから、ユーザーは、「プロセスに溶融金属の蒸気を充満させることで、接触角に対して酸素分圧による負の影響が有ったとして、その負の影響を溶融金属蒸気圧により接触角とつながる溶融金属の表面エネルギーを制御することにより補償する」という方法で解決することができる。
【0130】
このように、物性パラメータ間の関係性に加えて影響因子の物性への寄与を可視化することによって、ユーザーに気付きの機会を提供し、物性探索システムの利便性を向上することができる。
【0131】
〔実施形態3〕<影響因子の寄与を考慮した探索結果の絞り込み>
実施形態2では上述通り、影響判定部6が依存関係を有すると判定した物性パラメータに対応するノードについて、その依存性情報を表示する。これに対して、本実施形態3の探索システム10において、探索結果出力部7は、グラフ探索部4から出力された探索結果のうち、指定された探索限定条件を満たす経路または部分グラフを優先的に出力する。これを実現するために、探索結果出力部7は、外部から探索限定条件を指定することができるように構成される。ここで、探索限定条件とは、影響判定部6が依存関係を有すると判定した影響因子のうち1または複数の影響因子と当該影響因子に対応する依存性情報について規定される条件である。例えば、正の温度依存係数をもつ物性パラメータのみを経由する経路を抽出したい場合に、影響因子として温度T、依存性情報として正の相関を含んだ、探索限定条件が指定される。
【0132】
探索結果のうち、指定された探索限定条件を満たす経路または部分グラフは、優先的に出力される。探索限定条件を満たす経路または部分グラフのみが出力されるように構成してもよいし、探索結果全体が表示される中で、探索限定条件を満たす経路または部分グラフが強調表示されるように構成してもよい。
【0133】
これにより、ユーザーが指定する影響因子の物性への寄与を考慮した探索経路または部分グラフが優先的に探索結果として出力され、ユーザーの利便性が向上する。
【0134】
〔実施形態4〕<探索方法>
以上のように実施形態1〜3で説明した本発明の探索システム10は、実施形態1の「ハードウェア/ソフトウェア実装形態」において
図9を引用して説明したとおり、記憶装置と計算機を備えたハードウェアシステム上に、ソフトウェアとして機能構築することができる。したがって、本発明は、記憶装置と計算機を備えたハードウェアシステムを利用する探索方法として位置付けることができる。
【0135】
図10は、本発明の探索方法の構成例を示すフローチャートである。
【0136】
本発明の探索方法は、記憶装置を備える計算機上で動作するソフトウェアによって実装され、物性パラメータ関係性データベース1を参照するグラフ生成ステップ(S1)と、探索条件入力ステップ(S2)と、グラフ探索ステップ(S3)と、影響因子データベース5を参照する影響判定ステップ(S4)と、探索結果出力ステップ(S5)とを含む探索方法であって、以下のように構成される。物性パラメータ関係性データベース1と影響因子データベース5とは、同じ記憶装置に保持されていても、異なる記憶装置に保持されてもよい。
【0137】
物性パラメータ関係性データベース1は、関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を、例えば
図9の記憶装置102に保持する。グラフ生成ステップ(S1)は、物性パラメータ関係性データベース1に記憶されるパラメータ対に含まれる複数の物性パラメータをノードとしそのパラメータ対に対応するノード間をエッジとするグラフを生成する。グラフ探索ステップ(S3)は、探索条件入力ステップ(S2)から与えられる探索条件に基づいてグラフを探索し、探索条件を満たす複数のノード及び複数のエッジによって構成される1以上の経路または部分グラフを探索結果として出力する。
【0138】
影響因子データベース5では、物性パラメータ関係性データベース1に記憶される複数の物性パラメータのうちの少なくとも1個の物性パラメータと、当該物性パラメータが依存性を有する1以上の影響因子と、その依存関係を示す依存性情報とが対応付けられている。実施形態1において
図2及び
図3を引用して説明したのと同様である。
【0139】
影響判定ステップ(S4)は、グラフ探索ステップ(S3)から出力される探索結果に含まれるノードに対応する物性パラメータが、少なくとも1つの影響因子に依存性を有するか否かを判定する。探索結果出力ステップ(S5)は、その探索結果とともに、影響判定ステップ(S4)で依存性を有すると判定された物性パラメータと影響因子の組み合わせとその依存性情報とを出力する。
【0140】
これにより、関係性を有する物性パラメータの対をエッジによって接続されたノード対に対応付けたグラフを探索する物性探索方法において、物性ではない因子(影響因子)の影響を探索に反映させることができる。何らかの影響因子に依存する物性パラメータが探索結果に含まれているときには、その物性パラメータがどの影響因子にどのような依存関係を有するかという依存性情報が、探索結果とともに出力されるので、ユーザーは探索結果の中から、所望の特性を有する物質・材料またはその製造方法を、より効率的に抽出することができる。
【0141】
影響因子データベース5は、実施形態1の「影響因子データベースの構成例」で説明したとおり、環境記述データベース11、形態記述データベース12およびサイズ記述データベース13のように、下位概念の影響因子ごとに区分して構成すると、より好適である。詳細な説明は、重複するので省略する。
【0142】
<影響因子の依存性情報の表示>
探索結果出力ステップ(S5)は、グラフ探索ステップ(S3)から出力される探索結果を複数のノード及びエッジを含む1以上の経路または部分グラフを表示し、合わせて、影響判定ステップ(S4)で依存関係を有すると判定された物性パラメータに対応するノードについて、依存性情報を表示することができる。
【0143】
これにより、ユーザーは探索結果の中から探索の目的に合致する物性関係を抽出する際に考慮すべき情報が表示されるため、ユーザーの利便性が向上される。
【0144】
依存性情報の表示方法の一例について説明する。探索結果出力ステップ(S5)は、影響判定ステップ(S4)で依存関係を有すると判定された影響因子を新たなノードとして追加して表示し、追加したノードと当該影響因子に依存する物性パラメータに対応するノードとの間に新たなエッジを追加して表示することができる。
【0145】
これにより、影響因子の物性への寄与が可視化され、ユーザーの利便性がより向上する。
【0146】
その他の作用効果については、実施形態2において、
図3,
図4,
図5を引用して説明したのと同様であるので、詳しい説明は省略する。
【0147】
依存性情報の表示方法の別の例について説明する。探索結果出力ステップ(S5)は、影響判定ステップ(S4)で少なくとも1つの影響因子の依存関係を有すると判定された物性パラメータについて、対応するノードに対応する依存性情報を表示することができる。
【0148】
実施形態2において、
図6を引用して説明したのと同様に、ノードの枠線及び/またはエッジの色や線種によって依存関係を区分して表示してもよい。また、ノードに表示する依存性情報として、相関の正/負をのみを表示するように構成してもよい。
【0149】
これにより、影響因子の物性への寄与が可視化され、ユーザーの利便性がさらに向上する。
【0150】
実施形態2の「影響因子の指定」で説明したのと同様に、探索結果出力ステップ(S5)は、影響判定ステップ(S4)が依存関係を有すると判定した影響因子のうち、1または複数の影響因子を外部から指定することができるように構成することができる。依存関係がある影響因子が多数であるときにエッジが輻輳して視認性が劣化する場合に、表示を簡略化して視認性を回復するのに有効である。また、ユーザーが関心のある影響因子についての依存関係に絞って表示することができるので、視認性が向上する。
【0151】
図11は、本実施形態4の探索方法の一変形例のフローチャートである。
【0152】
図10に示した本実施形態4の探索方法に、影響因子指定ステップ(S6)が追加されることにより、影響判定ステップ(S5)で依存関係を有すると判定された影響因子のうち、1または複数の影響因子が外部から指定され、探索結果出力ステップ(S5)では、影響因子指定ステップ(S6)で指定された影響因子についての依存性情報を表示し、指定されなかった影響因子についての依存性情報を表示から除外する。
【0153】
これにより、ユーザーが指定する影響因子の物性への寄与のみが可視化され、ユーザーの利便性がさらに向上する。
【0154】
実施形態3の「影響因子の寄与を考慮した探索結果の絞り込み」で説明したのと同様に、探索結果出力ステップ(S5)は、グラフ探索ステップ(S3)から出力された探索結果のうち、指定された探索限定条件を満たす経路または部分グラフを優先的に出力することができる。
【0155】
図12は、本実施形態4の探索方法の別の変形例のフローチャートである。
図10に示した本実施形態4の探索方法に、探索条件限定ステップ(S7)が追加される。探索条件限定ステップ(S7)では、影響判定ステップ(S4)で依存関係を有すると判定された影響因子のうち1または複数の影響因子と当該影響因子に対応する依存性情報とを含む探索限定条件が外部から指定され、探索結果出力ステップ(S5)は、グラフ探索ステップ(S3)から出力された探索結果のうち、探索条件限定ステップ(S7)で指定された探索限定条件を満たす経路または部分グラフを優先的に出力する。これにより、ユーザーが指定する影響因子の物性への寄与を考慮した探索経路または部分グラフが優先的に探索結果として出力され、ユーザーの利便性が向上する。実施形態3において、説明したのと同様であるので、以下の詳しい説明は省略する。
【0156】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。