導波路装置は、第1導電部材と、第2導電部材と、導波部材と、複数の導電性ロッドと、芯線とを備える。前記第1導電部材は、第1導電性表面を有する。前記第2導電部材は、前記第1導電性表面に対向する第2導電性表面、および貫通孔を有する。前記導波部材は、前記第2導電性表面から突出し第1の方向に沿って延びるリッジ状の構造を有する。前記導波部材は、前記貫通孔の位置において間隙を介して第1リッジと、前記第1リッジよりも前記第1の方向における寸法が小さい第2リッジとに分断されている。前記複数の導電性ロッドは前記導波部材の周囲に位置し、各ロッドは、前記第2導電性表面に接続された基部、および前記第1導電性表面に対向する先端部を有する。前記芯線は、前記貫通孔に一部が収容され、前記第1リッジまたは前記第2リッジの端面に接続される。
前記凸部は、前記第1リッジの前記端面、または前記第2リッジの前記端面のうち、前記導波面側の端部に位置し、前記導波面に連続する面を有する、請求項4に記載の導波路装置。
前記凸部は、前記第1リッジの前記端面、または前記第2リッジの前記端面のうち、前記導波面および前記第2導電性表面の両方から離れた位置にある、請求項4に記載の導波路装置。
前記第1リッジの前記端面、および前記第2リッジの前記端面のうち、前記芯線に接続されていない方の端面は、段差部または傾斜部を有する、請求項1から6のいずれかに記載の導波路装置。
前記複数の導電性ロッドのうち、前記第1の方向において前記第2リッジに隣接する1つ以上の導電性ロッドの列、および前記第2リッジは、チョーク構造を構成する、請求項1から8のいずれかに記載の導波路装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一実施形態における導波路装置は、第1導電部材と、第2導電部材と、導波部材と、複数の導電性ロッドと、芯線とを備える。前記第1導電部材は、第1の方向、および前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って拡がる第1導電性表面を有する。前記第2導電部材は、前記第1導電性表面に対向する第2導電性表面、および貫通孔を有する。前記導波部材は、前記第2導電性表面から突出し前記第1の方向に沿って延びるリッジ状の構造を有する。前記導波部材は、前記第1導電性表面に対向する導電性の導波面を有し、前記導波面に垂直な方向から見た場合に前記貫通孔に重なる間隙を介して第1リッジと、前記第1リッジよりも前記第1の方向における寸法が小さい第2リッジとに分断されている。前記複数の導電性ロッドは、前記導波部材の周囲に位置し、各々が前記第2導電性表面に接続された基部、および前記第1導電性表面に対向する先端部を有する。前記芯線は、前記貫通孔に一部が収容され、前記間隙を介して前記第2リッジの端面に対向する第1リッジの端面、または前記第2リッジの前記端面に接続されている。
【0012】
上記の構成において、「芯線」は、例えば同軸ケーブルの芯線、または、同軸ケーブルが接続されるコネクタの芯線であり得る。第1リッジまたは第2リッジの端面と芯線との接続は、例えばはんだ付け等の任意の方法で行われ得る。複数の導電性ロッドは、第1リッジ、第2リッジ、および芯線の周囲に配置され得る。
【0013】
第1リッジと第1導電部材との間には導波路が規定される。この導波路を、本明細書においては「ワッフルアイアンリッジ導波路」(WRG)または単に「リッジ導波路」と称する。本開示の実施形態によれば、芯線とリッジ導波路との接続部における伝送特性を安定化させることができる。
【0014】
前記導波路装置は、少なくとも先端部が前記貫通孔に収容されたコネクタをさらに備えていてもよい。前記芯線は、前記コネクタを介して前記第2導電部材に固定されていてもよい。
【0015】
前記芯線の先端は、前記第1リッジの前記端面、または前記第2リッジの前記端面に接していてもよい。あるいは、前記芯線の先端以外の部分が、前記第1リッジの前記端面、または前記第2リッジの前記端面に接していてもよい。
【0016】
前記第1リッジの前記端面、または前記第2リッジの前記端面は、凸部を有していてもよい。前記導波部材の高さ方向において、前記凸部は前記導波面と前記導波部材の基部との間に位置する。前記芯線は、前記凸部に接続されていてもよい。
【0017】
前記凸部は、前記第1リッジの前記端面、または前記第2リッジの前記端面のうち、前記導波面側の端部に位置し、前記導波面に連続する面を有していてもよい。あるいは、前記凸部は、前記第1リッジの前記端面、または前記第2リッジの前記端面のうち、前記導波面および前記第2導電性表面の両方から離れた位置に設けられていてもよい。
【0018】
前記第1リッジの前記端面、および前記第2リッジの前記端面のうち、前記芯線に接続されていない方の端面は、段差部または傾斜部を有していてもよい。
【0019】
前記第2導電部材は、前記貫通孔を囲む凹部を、前記第2導電性表面の側に有していてもよい。前記貫通孔は、前記凹部の底部に開口していてもよい。
【0020】
前記複数の導電性ロッドのうち、前記第1の方向において前記第2リッジに隣接する1つ以上の導電性ロッドの列、および前記第2リッジは、チョーク構造を構成していてもよい。
【0021】
前記導波路装置の動作周波数帯域における中心周波数の電磁波の自由空間における波長をλoとするとき、前記第1の方向における前記第2リッジの寸法は、λo/16よりも大きく、λo/2よりも小さい値に設定され得る。
【0022】
本開示の他の実施形態における導波路装置は、第1導電部材と、第2導電部材と、導波部材と、複数の導電性ロッドと、同軸ケーブルとを備える。前記第1導電部材は、第1の方向、および前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って拡がる第1導電性表面、および前記第1導電性表面に開口する有底の穴を有する。前記第2導電部材は、前記第1導電性表面に対向する第2導電性表面、および前記第2導電性表面に垂直な方向から見た場合に前記穴に重なる貫通孔を有する。前記導波部材は、前記第2導電性表面から突出し前記第1の方向に沿って延びるリッジ状の構造を有する。前記導波部材は、前記第1導電性表面に対向する導電性の導波面を有する。前記導波部材は、前記第2導電性表面に垂直な方向から見た場合に前記穴および前記貫通孔に重なる間隙を介して第1リッジと、前記第1リッジよりも前記第1の方向における寸法が小さい第2リッジとに分断されている。前記複数の導電性ロッドは、前記導波部材の周囲に位置し、各々が前記第2導電性表面に接続された基部、および前記第1導電性表面に対向する先端部を有する。前記同軸ケーブルは、前記貫通孔に一部が収容されている。前記同軸ケーブルは、前記間隙および前記穴の内部に位置する芯線を有する。前記芯線と前記穴の内周面との間には電気絶縁体または間隙が存在する。
【0023】
本開示の他の実施形態における導波路装置は、第1導電部材と、第2導電部材と、導波部材と、複数の導電性ロッドと、同軸ケーブルとを備える。前記第1導電部材は、第1の方向、および前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って拡がる第1導電性表面、および前記第1導電性表面に開口する有底の穴を有する。前記第2導電部材は、前記第1導電性表面に対向する第2導電性表面、および前記第2導電性表面に垂直な方向から見た場合に前記穴に重なる第1貫通孔を有する。前記導波部材は、前記第2導電性表面から突出し前記第1の方向に沿って延びるリッジ状の構造を有する。前記導波部材は、前記第1導電性表面に対向する導電性の導波面を有する。前記導波部材は、前記第2導電性表面に垂直な方向から見た場合に前記穴および前記第1貫通孔に重なる第2貫通孔を有する。前記複数の導電性ロッドは、前記導波部材の周囲に位置し、各々が前記第2導電性表面に接続された基部、および前記第1導電性表面に対向する先端部を有する。前記同軸ケーブルは、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔に一部が収容されている。前記同軸ケーブルは、前記第1貫通孔、前記第2貫通孔、および前記穴の内部に位置する芯線を有する。前記芯線と前記穴の内周面との間には電気絶縁体または間隙が存在する。
【0024】
以下、本開示の実施形態をより具体的に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明においては、同一または類似する構成要素には、同一の参照符号を付している。
【0025】
<第1の実施形態>
本開示の例示的な第1の実施形態を、
図1Aおよび
図1Bを参照しながら説明する。
図1Aおよび
図1Bには、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。以下、この座標系を用いて本開示の実施形態の構成を説明する。なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかり易さを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0026】
図1Aに示すように、本実施形態の導波路装置は、第1導電部材110と、第2導電部材120と、第2導電部材120上に配置された導波部材122および複数の導電性のロッド124とを備える。第1導電部材110および第2導電部材120の各々は、板形状またはブロック形状を有する。第1導電部材110は、第2導電部材120が位置する側に、第1の方向、および第1の方向に交差する第2の方向に沿って拡がる導電性表面110aを有する。第2導電部材120は、第1導電部材110の導電性表面110aに対向する導電性表面120aを有する。以下、第1導電部材110の導電性表面110aを「第1導電性表面110a」、第2導電部材120の導電性表面120aを「第2導電性表面120a」と称することがある。本実施形態では、
図1Aに示す座標系におけるY方向が「第1の方向」に該当し、X方向が「第2の方向」に該当する。
【0027】
本実施形態の導波路装置は、コネクタ260および同軸ケーブル270をさらに備える。同軸ケーブル270は、コネクタ260を介して、導波路装置に接続される。第2導電部材120は、コネクタ260を取り付けるための貫通孔212を有する。コネクタ260は、導電性表面120aとは反対側の表面において第2導電部材120に取り付けられる。コネクタ260は、少なくとも先端部が貫通孔212に収容される。
【0028】
導波部材122は、第2導電部材120の導電性表面120aから突出するリッジ状の構造を有する。導波部材122は、第1の方向(本実施形態ではY方向)に延びた構造を有する。導波部材122は、第1導電性表面110aに対向する導電性の導波面122a(頂面とも称する。)を有する。導波面122aは、Y方向に延びるストライプ形状を有する。導波部材122は、直線状に延びる構造に限らず、曲線状に延びる構造であってもよい。導波部材122は、1つ以上の屈曲部または分岐部を有していてもよい。導波部材122の導波面122aと、第1導電性表面110aとの間隙は、導波路を規定する。この導波路が、前述のワッフルアイアンリッジ導波路(WRG)に該当する。導波面122aには、1つ以上の凹部および/または1つ以上の凸部が設けられていてもよい。そのような凹部および凸部は、導波面122aに沿って伝搬する電磁波の位相を調整する目的で設けられ得る。
【0029】
導波部材122は、導波面122aに垂直な方向から見た場合に貫通孔212に重なる間隙129を介して、第1リッジ122wと第2リッジ122xとに分断されている。Y方向について、第2リッジ122xは、第1リッジ122wよりも小さい寸法を有する。
【0030】
図1Bに示すように、複数の導電性ロッド124は、導波部材122の周囲に並んでいる。各導電性ロッド124は、第2導電性表面120aに接続された基部124bと、第1導電性表面110aに対向する先端部124aとを有する。本実施形態では複数の導電性ロッド124は周期的に配列されている。しかし、複数の導電性ロッド124は非周期的に配列されていてもよい。複数の導電性ロッド124は、後述するように人工磁気導体として機能する。すなわち、複数の導電性ロッド124は、導波部材122の導波面122aと第1導電性表面110aとの間隙に形成される導波路を伝搬する電磁波の漏洩を抑制する。この機能が果たせる限り、複数の導電性ロッド124は任意の態様で配列されていてよい。本実施形態では各導電性ロッド124は、直方体の形状を有するが、他の形状を有していてもよい。各ロッド124は、例えば、角柱形状、円柱形状、円錐台形状、または角錐台形状などの形状を有し得る。各ロッド124は、先端部124aから基部124bに向かうにつれてX方向またはY方向における幅が拡がる形状を有していてもよい。
【0031】
ここで、導波路装置の動作周波数帯域における中心周波数の電磁波の自由空間における波長をλoとする。導波部材122は、その先端122eからおよそλo/4の位置で、2つの部分に分断されている。そのうち、先端側の部分、すなわち相対的に短い部分が、第2リッジ122xである。第2リッジ122xは、チョーク構造150の一部として機能するため、第2リッジ122xを、「チョークリッジ122x」とも称する。チョークリッジ122xは、先端122eの先に位置する1つ以上のロッド124とともに、チョーク構造150を形成する。すなわち、チョーク構造150は、Y方向においてチョークリッジ122xに隣接する1つ以上の導電性ロッド124の列、およびチョークリッジ122xを含む。チョーク構造150は、長さがおよそλo/4の付加的な伝送路と、その付加的な伝送路の端部に配置される深さがおよそλo/4である複数の溝、または高さがおよそλo/4である導電性のロッドの列から構成され得る。チョーク構造150は、入射波と反射波との間に約180°(π)の位相差を与える。これにより、導波部材122の一端から電磁波が漏洩することを抑制できる。
【0032】
なお、チョークリッジ(第2リッジ)122xのY方向に沿って測った寸法は、λo/4に限定されず、導波路装置の構造に依存する。ある例において、第1の方向における第2リッジの寸法は、λo/16よりも大きく、λo/2よりも小さい。
【0033】
同軸ケーブルの芯線271の先端は、導波部材122の第1リッジ122wの端面とチョークリッジ122xの端面との間の間隙129内に位置する。
図1Aの例では、芯線271の先端は、導波面122aと同じ高さに位置する。芯線271の先端は、導波面122aを超えて+Z方向に延びていてもよい。
【0034】
導波部材122の第1リッジ122wの端面には凸部122dがある。凸部122dは、導波部材122の高さ方向(この例ではZ方向)において、導波面122aと導波部材122の基部との間に位置する。
図1Aに示す例では、凸部122dは、第1リッジ122wの端面のうち、導波面122a側の端部に位置し、導波面122aに連続する面を有する。芯線271の先端は、第1リッジ122wの端面にある凸部122dに接している。芯線271の先端は、例えばはんだ付け等の方法で、凸部122dに固定され得る。芯線271の先端は、貫通孔212の内部ではなく、第2導電部材120の導電性表面120aよりも上側に位置している。このため、芯線271の先端を凸部122dに固定する作業は容易である。また、固定状態を目視や通常の光学式カメラで確認できるため、固定不良を確認する事が容易である。
【0035】
間隙129は、第2導電部材120の貫通孔212上に位置する。この構造は、一つの導波部材122すなわちリッジが、貫通孔212とそれに連なる間隙129によって分断された構造と見なす事が出来る。
【0036】
芯線271の先端、および凸部122dの周囲には、金属壁は存在していない。しかし、
図1Bに示すように、芯線271の先端および凸部122dは、導電性ロッド124の複数の列によって囲まれている。
【0037】
チョーク構造150と導電性ロッド124の列によって、電磁波の漏洩が防止され、WRGに電磁波が導かれる。ここで、WRGは、第1導電部材110の導電性表面110a、導波面122a、および導波面122aを囲む導電性ロッド124の列によって構成(規定)される。
【0038】
以上のように、本実施形態では、導波部材122の第1リッジ122wは、端面に凸部122dを備える。凸部122dに芯線271が接続される。このような構造により、同軸ケーブル270とWRGとを容易に接続し、安定した電気的特性を維持することが可能である。
【0039】
<第2の実施形態>
図2Aおよび
図2Bは、第2の実施形態による導波路装置を示す。
【0040】
同軸ケーブルの芯線271の先端は、チョークリッジ122xの端面と、第1リッジ122wの端面との間の間隙129(以下、「導波部材122の間隙129」と称する。)内に位置する。本実施形態における凸部122dは、第1リッジ122wの端面のうち、導波面122aおよび第2導電性表面120aの両方から離れた位置にある。図示される例では、凸部122dは、導波面122aと第2導電部材120の導電性表面120aの中間の高さに位置する。芯線217の先端は、凸部122dに接している。
【0041】
第2導電部材120は、貫通孔212を囲む凹部128を、第2導電性表面120aの側に有する。この凹部128は、平面視した場合にアルファベットのHに類似するH形状を有する。言い換えれば、凹部128は、平面視した場合に、X方向に延びる横部分と、横部分の両端からY方向に延びる一対の縦部分とを有する。
図2Bに示すように、平面視した場合、H形状の凹部128の横部分が導波部材122の間隙129と重なる。
【0042】
凹部128には底面128bがあり、底面128bから芯線271の先端までの寸法は、この例ではλo/4である。但し、この寸法には、λo/4との間に±λo/8程度の幅が有ってもよい。
【0043】
凹部128を設けることによって、同軸ケーブル270とWRGとの間での電磁波の受け渡しに伴う反射が抑制される。
【0044】
導波部材122は、凸部122dに隣接する部分において、段差部122sを含む構造を有する。また、チョークリッジ122xも、間隙129に面する側に、段差部122tを含む構造を伴う。これらの段差構造によって、同軸ケーブル270とWRGの間での、電磁波の受け渡しに伴う反射が更に抑制される。
【0045】
次に、第2の実施形態の変形例を説明する。
【0046】
図2Cに示すように、第2導電部材120の凹部128の平面形状は長方形または楕円に類似する形状であっても良い。
【0047】
図2Dに示すように、導波部材122は、段差構造に代えて、傾斜面を有していても良い。
図2Dに示す例では、第1リッジ122wは傾斜部122uを有し、第2リッジ122xは傾斜部122vを有する。このような構造により、段差部を設けた構成と同様、同軸ケーブル270とWRGとの間での電磁波の受け渡しに伴う反射を抑制することができる。
【0048】
図3は、第2の実施形態の更に他の変形例を示す断面図である。この例においては、導波部材122のチョークリッジ122xの端面に凸部122dがある。凸部122dは、第2導電部材120の導電性表面120aに近い位置にある。この凸部122dは、第2導電部材120の導電性表面120aよりも僅かに上(+Z方向側)に位置する。芯線271の先端部は、チョークリッジ122xの凸部122dに接触している。
【0049】
この例における凹部128は、
図2Aの例における凹部128よりも深い。凹部128の底面から芯線271の先端までのZ方向に沿った寸法は、およそλo/4である。ただしこの寸法に限定されない。この寸法の最適値は、他の様々の要素に影響され、構造毎に決定される。
【0050】
<第3の実施形態>
図4は、第3の実施形態による導波路装置を示す断面図である。
【0051】
本実施形態では、同軸ケーブル270の端部がコネクタ260の端部を超えて露出している。
図4では、この露出した部分のみ、断面が示されている。同軸ケーブル270は、その内部に、芯線271と、芯線271を覆う絶縁体272と、絶縁体272を覆う外部導体273とを備える。本実施形態では、同軸ケーブル270の絶縁体272および外部導体273の各々が、第2導電部材120の貫通孔212の内部に位置している。このような構造であっても、前述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0052】
<第4の実施形態>
図5は、第4の実施形態による導波路装置を示す断面図である。
【0053】
本実施形態では、第1導電部材110側から、同軸ケーブル270がWRGに接続される。第2導電部材120ではなく、第1導電部材110が貫通孔111を有する。この貫通孔111に、コネクタ260および同軸ケーブル270の芯線271が収容される。第1導電部材110の貫通孔111の内壁面には凸部110dがある。芯線271の先端は、この凸部110dに接する。導波部材122は、2つの部分に分断されていない。このような構造でも、同軸ケーブル270とWRGとの間で電磁波を伝搬させることができる。
【0054】
<第5の実施形態>
図6Aから
図6Cを参照しながら、本開示の第5の実施形態による導波路装置を説明する。
図6Aは、本実施形態の導波路装置の構造の一部を示す断面図である。
図6Bは、導波路装置における同軸ケーブル270の構造を示す断面図である。
図6Cは、導波路装置から同軸ケーブル270を除いた構造の一部を示す断面図である。
【0055】
本実施形態の導波路装置は、間隙を空けて積層された第1導電部材110と、第2導電部材120と、第3導電部材130とを備える。第1導電部材110は、第2導電部材120と第3導電部材130との間に位置する。第1導電部材110の導電性表面110aと、第2導電部材120上の導波部材122の導波面122aとの間に、WRG導波路が形成される。同様に、第1導電部材110上の導波部材122の導波面122aと、第3導電部材130の導電性表面130aとの間にもWRG導波路が形成される。これらの2つのWRG導波路は、第1導電部材110が有する不図示の貫通孔(ポート)を介して、互いに接続され得る。各導波部材122の周囲には、複数の導電性ロッド124が配置されている。なお、導波路装置は、第3導電部材130、並びに第1導電部材110上の導波部材122および複数の導電性ロッド124を備えていなくてもよい。
【0056】
各導波部材122の両側には、図示されていない複数の導電性ロッドが配列されている。第2導電部材120上の導波部材122のチョークリッジ122xの先にも複数の導電性ロッド124が配列されている。それらの導電性ロッド124およびチョークリッジ122xは、チョーク構造150を構成する。
【0057】
第2導電部材120は、貫通孔212を有する。貫通孔212の下部にはコネクタ260が固定される。コネクタ260には同軸ケーブル270が接続される。同軸ケーブル270の端部は、コネクタ260の上側に位置する。
図6Aおよび
図6Bの例では、同軸ケーブル270の端部がコネクタ260の上端260aを超えて露出している。
図6Aでは、この露出した部分のみ断面が示されている。同軸ケーブル270の絶縁体272と外部導体273は、導波部材122の基部まで延びているが、その先の部分では除去されている。
【0058】
第1導電部材110は、第1導電性表面110aに開口する有底の穴222を有する。
第1導電性表面110aまたは第2導電性表面120aに垂直な方向から見た場合、穴222と貫通孔212とは、互いに重なる。同軸ケーブル270の芯線271は、有底の穴222の内側に達する。芯線271は、第1リッジ122wとチョークリッジ122xとの間の間隙の内周面、および有底の穴222の内周面のいずれにも接していない。言い換えれば、芯線271の表面と、第1リッジ122wとチョークリッジ122xとの間隙の内周面および有底の穴222の内周面との間には、空気、または絶縁体が介在している。場合によっては、この間の部分は、真空状態であってもよい。
【0059】
有底の穴222の深さは、同軸ケーブル270を伝搬した信号波が全反射を起こす深さに設定される。その深さは、典型的には自由空間における信号波の波長λoの4分の1であるが、これに限られない。最適な深さは、他の様々の要素に影響され、構造毎に最適値が選択される。
【0060】
図7Aは、
図6Aに示す導波面122aに垂直な方向に沿って、上側から芯線271の周辺の構造を見た場合の平面図である。この例において、導波部材122および導波面122aは貫通孔212によって分断されている。導波部材122の、分断された右側の部分は第1リッジ122wであり、左側の部分は、第2リッジ(チョークリッジ)122xである。チョークリッジ122xの、導波面122aに沿った方向の長さは、典型的にはWRGに沿って伝搬する信号波の波長λgの4分の1であるが、これに限られない。この長さは、種々の要素によって影響を受け、λgの8分の1程度の長さとなることもある。その場合、チョークリッジ122xは、外見上導電性ロッド124と同一の構造を持ち得る。
【0061】
上述した構造により、同軸ケーブル270を伝搬してきた信号波は、第1導電性表面110aと導波面122aとの間のWRG導波路に導かれる。
図6Aに示すように、貫通孔212の左側には、チョーク構造150が存在する。このため、貫通孔212から+Y方向に向かう信号波は、チョーク構造150で反射され、−Y方向に伝搬する。
【0062】
図6Aから
図6Cに示す例において、コネクタ260の上端260aは、第2導電部材120の導電性表面120aよりも低い位置までしか達していない。しかし、本開示の実施形態は、このような構造に限定されない。コネクタ260の上端260aは、第2導電部材120の導電性表面120aに達していても良い。しかし、コネクタ260が、導波面122aを越えてさらに上方に延びることは好ましくない。
【0063】
以上のように、本実施形態における導波路装置は、第1導電部材110と、第2導電部材120と、導波部材122と、複数の導電性ロッド124と、同軸ケーブル270とを備える。第1導電部材110は、第1の方向、および前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って拡がる第1導電性表面110a、および第1導電性表面110aに開口する有底の穴222を有する。第2導電部材120は、第1導電性表面110aに対向する第2導電性表面120a、および第2導電性表面120aに垂直な方向から見た場合に穴222に重なる貫通孔212を有する。導波部材122は、第2導電性表面120aから突出し第1の方向(Y方向)に沿って延びるリッジ状の構造を有する。導波部材122は、第1導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを有する。導波部材122は、第2導電性表面120aに垂直な方向から見た場合に穴222および貫通孔212に重なる間隙を介して、第1リッジ122wと、第1リッジ122wよりも第1の方向における寸法が小さい第2リッジ122xとに分断されている。複数の導電性ロッド124は、導波部材122の周囲に位置する。複数の導電性ロッド124の各々は、第2導電性表面120aに接続された基部、および第1導電性表面110aに対向する先端部を有する。同軸ケーブル270は、貫通孔212に一部が収容されている。同軸ケーブル270は、間隙および穴222の内部に位置する芯線271を有する。芯線271と穴222の内周面との間には電気絶縁体が介在する。
【0064】
本実施形態の構造によっても、同軸ケーブル270とWRGとの間で電磁波を好適に伝送することができる。
【0065】
図7Bは、第5の実施形態の変形例を示す図である。
図7Bは、導波面122aに垂直な方向から芯線271の周辺の構造を見た場合の平面図である。この例において、導波部材122は、導波面122aに垂直な方向から見た場合に第2導電部材120の貫通孔212(第1貫通孔)に重なる貫通孔122h(第2の貫通孔)を有する。この貫通孔122hの直径は、少なくとも導波面122aの部分においては、導波面122aの幅よりも小さい。この例では、導波面122aは貫通孔212、122hによって分断されない。しかし、この場合でも、貫通孔212よりも左側の部分は、チョークリッジ122xとして機能する。この例において、第2導電部材120の貫通孔212と、導波部材122の貫通孔122hは、繋がった単一の貫通孔として形成され得る。
【0066】
<第6の実施形態>
図8Aは、本開示の例示的な第6の実施形態を示す断面図である。この例においては、第1導電部材110の有底の穴222の内側において、芯線271の表面の一部と、有底の穴222の表面の一部との間に絶縁体272が介在する。このような構造をとることにより、芯線271の表面と有底の穴222の表面との間の間隔を一定に保つことが容易になる。このことは、同軸ケーブル270とWRGとの間の信号波の受け渡しが安定することを意味する。この例における同軸ケーブル270は、セミリジッドタイプであり、銅製の筒である外部導体273と、その内部の絶縁体272および芯線271とを有する。外部導体273と導波部材122は、直接に電気的に接触し、導通状態が保たれる。
【0067】
絶縁体272は、有底の穴222の内側の一部に存在するだけでもよい。その場合でも、上述の効果を得ることができる。しかし、
図8Aに示す様に、芯線271の基部から先端まで絶縁体272で覆われた構成の方が、製造が容易である。有底の穴222の開口部の内周面は、下側に向けて開口径が緩やかに拡大する傾斜面222bを有している。絶縁体272の先端を穴222に挿入する場合、この傾斜面によって先端がガイドされるため、組み立てが容易になる。外部導体273は、導波面122aの位置まで延びている。すなわち、外部導体273の先端の高さ方向における位置は、導波面122aの位置と一致する。
【0068】
図8Bは、第6の実施形態において、導波面122aに垂直な方向から芯線271の周辺の構造を見た場合の平面図である。導波部材122は一部分で幅が広がっており、その部分に貫通孔122hが空けられている。導波面122aは、この貫通孔122hの部分では二つに分かれ、幅の狭い円弧形状の面122bとなっている。外部導体273の上端面273aは、導波面122aおよび122bと同じ高さとなっており、これらは実質的に連続した面を構成している。貫通孔212および112hの内径は、組み立て前の状態において、同軸ケーブル270の外径よりもわずかに小さい。この状態で貫通孔212に押し込まれることで、同軸ケーブル270は導波部材122に圧入固定される。言い換えれば、組み立て前の状態において、貫通孔212および112hの内径は、圧入固定の締め代の分だけ同軸ケーブル270の外径よりも小さい。
【0069】
図8Cは、第6の実施形態の変形例を示す断面図である。第6の実施形態との違いは、同軸ケーブル270の、導波部材122または第2導電部材120への固定方法にある。この変形例では、はんだ付けが利用されている。他の部分は第6の実施形態と同様である。
【0070】
図8Cの左側の円内は、右側の円内を拡大して表示した図である。貫通孔212の開口部には、段差が設けられている。段差が設けられた部分は、はんだだまり281として機能する。はんだだまり281の内部には、はんだ280が設けられる。はんだ280は外部導体273の外周表面と導波部材122とを繋ぎ、双方の間の電気的な導通を確保している。
【0071】
図8Dは、本変形例における導波面122aに垂直な方向から芯線271の周辺の構造を見た場合の平面図である。はんだ溜まり281は、同軸ケーブル270の両側に配置されている。はんだ溜まり281は、導波面122aの縁には達していない。このため、はんだ付けする際に、はんだが導波部材122の側面に流れ出すことを防ぐことができる。
【0072】
図8Eは、
図8Cにおいて円Aで囲まれた部分を拡大して表示する図である。導波面122aと外部導体の上端面273aの高さ方向の位置が一致している状態が理想的である。しかし、高さ方向の位置が一致していない場合でも、その差が外部導体273の厚さ未満の大きさであれば、その差は許容される。はんだ溜まり281の内側のはんだ280の上面も、導波面122aの高さと一致した状態が理想的である。実際にはそのように仕上げるのは難しく、上面は凸か凹の何れかの形状となることが多い。その中では、凹となっている形状の方が好ましい。
【0073】
図8Fは、第6の実施形態の他の変形例を示す。
図8Fは、導波面122aに垂直な方向から芯線271の周辺の構造を見た場合の平面図である。他の部分は第6の実施形態と同様である。
【0074】
この例では、同軸ケーブル270の外径は導波面122aの幅よりも小さい。そして、はんだ溜まり281は、外部導体273の周りの全周を囲んでいる。はんだ280で接続される領域が外部導体273の端部の全周に広がるため、導波部材122と外部導体273との電気的接続が、より確実になる。
【0075】
図8Cから
図8Eに示す変形例、および
図8Fに示す他の変形例では、はんだ280によって同軸ケーブル270が導波部材122に固定されているが、他の固定方法を併用することもできる。例えば、圧入固定とはんだ固定とを併用しても良い。
【0076】
<第7の実施形態>
図9Aおよび
図9Bを参照して、本開示の例示的な第7の実施形態を説明する。
【0077】
図9Aは、本実施形態の導波路装置の構造の一部を示す断面図である。この導波路装置は、第1導電部材として回路基板290を備える。回路基板290は、第2導電部材120の上方に配置され、導波部材122およびその周囲の複数の導電性ロッド124を覆う。回路基板290の少なくとも下面は、導体箔110a1で覆われている。この下面は、WRGを構成する第1導電部材の導電性表面として機能する。導体箔110a1で覆われた回路基板290の表面は、第2導電部材120の導電性表面120a、導波部材122の導波面、および各導電性ロッド124の先端部に対向する。
【0078】
回路基板290を貫通する導体ピン271aが、回路基板290に固定されている。導体ピン271aは、第2導電部材120の貫通孔に向かって延びている。導通を確実にするために、導体ピン271aは導体箔110a1にはんだ付けされ得る。
【0079】
この例において、コネクタ260は、外部導体273および絶縁体272に囲まれたカプラー271bを有している。導体ピン271aの先端はこのカプラー271bと結合され、電気的導通が維持される。
【0080】
図9Bは、
図9Aからコネクタ260を外した状態を示す。導体ピン271aはコネクタ260を外した場合でも導波路装置に残存する。
【0081】
本実施形態の構成によっても、前述した実施形態と同様、同軸ケーブル270とWRGとの良好な接続を実現できる。
【0082】
ここまで説明した各実施形態においては、何れも、コネクタ260は導波路装置に対して着脱可能である。但し、同軸ケーブルの外部導体273と第2導電部材120との間の電気的導通の信頼性を高める必要がある場合には、はんだ付け等を用いて、コネクタ260が導波路装置に固定され得る。
【0083】
<第8の実施形態>
図10は、本開示の例示的な第8の実施形態を示す断面図である。この例において、コネクタ260は、長く延びた芯線271cを有し、その先端は回路基板290に固定される。電気的導通を確実にするために、はんだ280によって回路基板290の導体箔110a1と芯線271cとが接続され得る。この例においては、コネクタ260は導波路装置に固定され、外すことはできない。しかし、取り外す必要のない場合は、このような構成を選択することもできる。
【0084】
上述した各実施形態において用いられる同軸ケーブルとしては、種々のものが利用可能である。但し、特性を安定させるためには、例えば第7実施形態で用いた、セミリジッドタイプの同軸ケーブルを用いることが望ましい。セミリジッドタイプの同軸ケーブルは、外部導体として金属製の筒が用いられており、特性を安定させやすい。
【0085】
本明細書において同軸ケーブルとは、芯線と、芯線を囲む外側導体(シールド)と、芯線とシールドとの間に介在する絶縁体とを含むケーブルまたはそれに類する構造体を指す。よって、市販されている同軸ケーブルそのものだけでなく、上記の構成要素を備える構造体は、本明細書においては同軸ケーブルと見なされる。また、同軸ケーブルの外側導体は、第2導電部材の貫通孔の導電性の内壁面で代替する事が出来る。また、絶縁体としては、フッ素樹脂等が用いられるが、空気であっても良い。但し、絶縁体として空気を使用する場合は、芯線とシールドとの間の間隙を保つための工夫が別途必要である。
【0086】
<WRGの構成例>
次に、上記の各実施形態において用いられるWRGの構成例をより詳細に説明する。WRGは、人工磁気導体として機能するワッフルアイアン構造中に設けられ得るリッジ導波路である。このようなリッジ導波路は、マイクロ波またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。また、このようなリッジ導波路を利用することにより、アンテナ素子を高密度に配置することが可能である。以下、そのような導波路構造の基本的な構成および動作の例を説明する。
【0087】
人工磁気導体は、自然界には存在しない完全磁気導体(PMC: Perfect Magnetic Conductor)の性質を人工的に実現した構造体である。完全磁気導体は、「表面における磁界の接線成分がゼロになる」という性質を有している。これは、完全導体(PEC: Perfect Electric Conductor)の性質、すなわち、「表面における電界の接線成分がゼロになる」という性質とは反対の性質である。完全磁気導体は、自然界には存在しないが、例えば複数の導電性ロッドの配列のような人工的な構造によって実現され得る。人工磁気導体は、その構造によって定まる特定の周波数帯域において、完全磁気導体として機能する。人工磁気導体は、特定の周波数帯域(伝搬阻止帯域)に含まれる周波数を有する電磁波が人工磁気導体の表面に沿って伝搬することを抑制または阻止する。このため、人工磁気導体の表面は、高インピーダンス面と呼ばれることがある。
【0088】
例えば、行および列方向に配列された複数の導電性ロッドによって人工磁気導体が実現され得る。このようなロッドは、ポストまたはピンと呼ばれることもある。これらの導波路装置のそれぞれは、全体として、対向する一対の導電プレートを備えている。一方の導電プレートは、他方の導電プレートの側に突出するリッジと、リッジの両側に位置する人工磁気導体とを有している。リッジの上面(導電性を有する面)は、ギャップを介して、他方の導電プレートの導電性表面に対向している。人工磁気導体の伝搬阻止帯域に含まれる波長を有する電磁波(信号波)は、この導電性表面とリッジの上面との間の空間(ギャップ)をリッジに沿って伝搬する。
【0089】
図11は、このような導波路装置が備える基本構成の限定的ではない例を模式的に示す斜視図である。図示されている導波路装置100は、対向して平行に配置された板形状(プレート状)の導電部材110および120を備えている。導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。
【0090】
図12Aは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の構成を模式的に示す図である。
図12Aに示されるように、導電部材110は、導電部材120に対向する側に導電性表面110aを有している。導電性表面110aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110aは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110aは平面である必要は無い。
【0091】
図13は、わかり易さのため、導電部材110と導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波路装置100を模式的に示す斜視図である。現実の導波路装置100では、
図11および
図12Aに示したように、導電部材110と導電部材120との間隔は狭く、導電部材110は、導電部材120の全ての導電性ロッド124を覆うように配置されている。
【0092】
図11から
図13は、導波路装置100の一部分のみを示している。導電部材110、120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、実際には、図示されている部分の外側にも拡がって存在する。導波部材122の端部には、電磁波が外部空間に漏洩することを防止するチョーク構造が設けられる。チョーク構造は、例えば、導波部材122の端部に隣接して配置された導電性ロッドの列を含む。
【0093】
再び
図12Aを参照する。導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110aに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一または実質的に同一の平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも上面および側面に沿って拡がる導電層があればよい。この導電層はロッド状構造物の表層に位置してもよいが、表層が絶縁塗装または樹脂層からなり、ロッド状構造物の表面には導電層が存在していなくてもよい。また、導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面が導電体によって電気的に接続されていればよい。導電部材120の導電性を有する層は、絶縁塗装や樹脂層で覆われていてもよい。言い換えると、導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、導電部材110の導電性表面110aに対向する凹凸状の導電層を有していればよい。
【0094】
導電部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側にそれぞれ人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。
図13からわかるように、この例における導波部材122は、導電部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅と同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なる値を有していてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電性表面110aに沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、全体が導電性を有している必要は無く、導電部材110の導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを有していればよい。導電部材120、複数の導電性ロッド124、および導波部材122は、連続した単一構造体の一部であってもよい。さらに、導電部材110も、この単一構造体の一部であってもよい。
【0095】
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。導波路装置100内を伝搬する電磁波(信号波)の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように人工磁気導体は設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の幅、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間隙の大きさによって調整され得る。
【0096】
次に、
図14を参照しながら、各部材の寸法、形状、配置等の例を説明する。
【0097】
図14は、
図12Aに示す構造における各部材の寸法の範囲の例を示す図である。導波路装置は、所定の帯域(「動作周波数帯域」と称する。)の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。本明細書において、導電部材110の導電性表面110aと導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(例えば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。各導電性ロッド124のうち、導電部材120に接している方の端の部分を「基部」と称する。
図14に示すように、各導電性ロッド124は、先端部124aと基部124bとを有する。各部材の寸法、形状、配置等の例は、以下のとおりである。
【0098】
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
【0099】
(2)導電性ロッドの基部から導電部材110の導電性表面までの距離
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
【0100】
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電部材110と導電部材120との間隔に相当する。例えば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は、3.8934mmから3.9446mmの範囲内である。したがって、この場合、λmは3.8934mmとなるので、導電部材110と導電部材120との間隔は、3.8934mmの半分よりも小さく設計される。導電部材110と導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、導電部材110と導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、導電部材110と導電部材120との間隔がλm/2未満であれば、導電部材110および/または導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していてもよい。他方、導電部材110、120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。
【0101】
図12Aに示される例において、導電性表面120aは平面であるが、本開示の実施形態はこれに限られない。例えば、
図12Bに示すように、導電性表面120aは断面がU字またはV字に近い形状である面の底部であってもよい。導電性ロッド124または導波部材122が、基部に向かって幅が拡大する形状をもつ場合に、導電性表面120aはこのような構造になる。このような構造であっても、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離が波長λmの半分よりも短ければ、
図12Bに示す装置は、本開示の実施形態における導波路装置として機能し得る。
【0102】
(3)導電性ロッドの先端部から導電性表面までの距離L2
導電性ロッド124の先端部124aから導電性表面110aまでの距離L2は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間を電磁波が往復する伝搬モードが生じ、電磁波を閉じ込められなくなるからである。なお、複数の導電性ロッド124のうち、少なくとも導波部材122と隣り合うものについては、先端が導電性表面110aとは電気的には接触していない状態にある。ここで、導電性ロッドの先端が導電性表面に電気的に接触していない状態とは、先端と導電性表面との間に空隙がある状態、あるいは、導電性ロッドの先端と導電性表面とのいずれかに絶縁層が存在し、導電性ロッドの先端と導電性表面が絶縁層を間に介して接触している状態、のいずれかを指す。
【0103】
(4)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、例えばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の空隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
【0104】
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要は無く、行および列は90度以外の角度で交差していてもよい。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要は無く、単純な規則性を示さずに分散して配置されていてもよい。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、導電部材120上の位置に応じて変化していてよい。
【0105】
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面125は、厳密に平面である必要は無く、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0106】
各導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、各導電性ロッド124は、単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気導体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波路装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
【0107】
導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さ、すなわち、基部124bから先端部124aまでの長さは、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離(λm/2未満)よりも短い値、例えば、λo/4に設定され得る。
【0108】
(5)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(例えばλo/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
【0109】
(6)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(図示される例ではZ方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの距離がλm/2以上となるからである。
【0110】
(7)導波面と導電性表面との間の距離L1
導波部材122の導波面122aと導電性表面110aとの間の距離L1については、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導波面122aと導電性表面110aとの間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離L1はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、距離L1を、例えばλm/16以上とすることが好ましい。
【0111】
導電性表面110aと導波面122aとの距離L1の下限、および導電性表面110aと導電性ロッド124の先端部124aとの距離L2の下限は、機械工作の精度と、上下の2つの導電部材110、120を一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)技術を用いて例えばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2〜3μm程度である。
【0112】
次に、導波部材122、導電部材110、120、および複数の導電性ロッド124を有する導波路構造の変形例を説明する。以下の変形例は、本開示の各実施形態におけるいずれの箇所のWRG構造にも適用され得る。
【0113】
図15Aは、導波部材122の上面である導波面122aのみが導電性を有し、導波部材122の導波面122a以外の部分は導電性を有していない構造の例を示す断面図である。導電部材110および導電部材120も同様に、導波部材122が位置する側の表面(導電性表面110a、120a)のみが導電性を有し、他の部分は導電性を有していない。このように、導波部材122、導電部材110、120の各々は、全体が導電性を有していなくてもよい。
【0114】
図15Bは、導波部材122が導電部材120上に形成されていない変形例を示す図である。この例では、導波部材122は、導電部材110と導電部材とを支持する支持部材(例えば、筐体の内壁等)に固定されている。導波部材122と導電部材120との間には間隙が存在する。このように、導波部材122は導電部材120に接続されていなくてもよい。
【0115】
図15Cは、導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124の各々が、誘電体の表面に金属などの導電性材料がコーティングされた構造の例を示す図である。導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、相互に導電体で接続されている。一方、導電部材110は、金属などの導電性材料で構成されている。
【0116】
図15Dおよび
図15Eは、導電部材110、120、導波部材122、および導電性ロッド124の各々の最表面に、誘電体の層110b、120bを有する構造の例を示す図である。
図15Dは、導体である金属製の導電部材の表面を誘電体の層で覆った構造の例を示す。
図15Eは、導電部材120が、樹脂などの誘電体製の部材の表面を、金属などの導体で覆い、さらにその金属の層を誘電体の層で覆った構造を有する例を示す。金属表面を覆う誘電体の層は樹脂などの塗膜であってもよいし、当該金属が酸化する事で生成された不動態皮膜などの酸化皮膜であってもよい。
【0117】
最表面の誘電体層は、WRG導波路によって伝播される電磁波の損失を増やす。しかし、導電性を有する導電性表面110a、120aを腐食から守ることができる。また、直流電圧や、WRG導波路によっては伝播されない程度に周波数の低い交流電圧の影響を遮断することができる。
【0118】
図15Fは、導波部材122の高さが導電性ロッド124の高さよりも低く、導電部材110の導電性表面110aのうち、導波面122aに対向する部分が、導波部材122の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図14に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。
【0119】
図15Gは、
図15Fの構造において、さらに、導電性表面110aのうち導電性ロッド124に対向する部分が、導電性ロッド124の側に突出している例を示す図である。
このような構造であっても、
図14に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。なお、導電性表面110aの一部が突出する構造に代えて、一部が窪む構造であってもよい。
【0120】
図16Aは、導電部材110の導電性表面110aが曲面形状を有する例を示す図である。
図16Bは、さらに、導電部材120の導電性表面120aも曲面形状を有する例を示す図である。これらの例のように、導電性表面110a、120aは、平面形状に限らず、曲面形状を有していてもよい。曲面状の導電性表面を有する導電部材も、「板形状」の導電部材に該当する。
【0121】
上記の構成を有する導波路装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき電磁波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、導電部材110と導電部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって電気的に接続する必要もない。
【0122】
図17Aは、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙における幅の狭い空間を伝搬する電磁波を模式的に示している。
図17Aにおける3本の矢印は、伝搬する電磁波の電界の向きを模式的に示している。伝搬する電磁波の電界は、導電部材110の導電性表面110aおよび導波面122aに対して垂直である。
【0123】
導波部材122の両側には、それぞれ、複数の導電性ロッド124によって形成された人工磁気導体が配置されている。電磁波は導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙を伝搬する。
図17Aは、模式的であり、電磁波が現実に作る電磁界の大きさを正確には示していない。導波面122a上の空間を伝搬する電磁波(電磁界)の一部は、導波面122aの幅によって区画される空間から外側(人工磁気導体が存在する側)に横方向に拡がっていてもよい。この例では、電磁波は、
図17Aの紙面に垂直な方向(Y方向)に伝搬する。このような導波部材122は、Y方向に直線的に延びている必要は無く、不図示の屈曲部および/または分岐部を有し得る。電磁波は導波部材122の導波面122aに沿って伝搬するため、屈曲部では伝搬方向が変わり、分岐部では伝搬方向が複数の方向に分岐する。
【0124】
図17Aの導波路構造では、伝搬する電磁波の両側に、中空導波管では不可欠の金属壁(電気壁)が存在していない。このため、この例における導波路構造では、伝搬する電磁波が作る電磁界モードの境界条件に「金属壁(電気壁)による拘束条件」が含まれず、導波面122aの幅(X方向のサイズ)は、電磁波の波長の半分未満である。
【0125】
図17Bは、参考のため、中空導波管330の断面を模式的に示している。
図17Bには、中空導波管330の内部空間323に形成される電磁界モード(TE10)の電界の向きが矢印によって模式的に表されている。矢印の長さは電界の強さに対応している。中空導波管330の内部空間323の幅は、波長の半分よりも広く設定されなければならない。すなわち、中空導波管330の内部空間323の幅は、伝搬する電磁波の波長の半分よりも小さく設定され得ない。
【0126】
図17Cは、導電部材120上に2個の導波部材122が設けられている形態を示す断面図である。このように隣接する2個の導波部材122の間には、複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置されている。より正確には、各導波部材122の両側に複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置され、各導波部材122が独立した電磁波の伝搬を実現することが可能である。
【0127】
図17Dは、参考のため、2つの中空導波管330を並べて配置した導波路装置の断面を模式的に示している。2つの中空導波管330は、相互に電気的に絶縁されている。電磁波が伝搬する空間の周囲が、中空導波管330を構成する金属壁で覆われている必要がある。このため、電磁波が伝搬する内部空間323の間隔を、金属壁の2枚の厚さの合計よりも短縮することはできない。金属壁の2枚の厚さの合計は、通常、伝搬する電磁波の波長の半分よりも長い。したがって、中空導波管330の配列間隔(中心間隔)を、伝搬する電磁波の波長よりも短くすることは困難である。特に、電磁波の波長が10mm以下となるミリ波帯、あるいはそれ以下の波長の電磁波を扱う場合は、波長に比して十分に薄い金属壁を形成することが難しくなる。このため、商業的に現実的なコストで実現することが困難になる。
【0128】
これに対して、人工磁気導体を備える導波路装置100は、導波部材122を近接させた構造を容易に実現することができる。このため、複数のアンテナ素子が近接して配置されたアンテナアレイへの給電に好適に用いられ得る。
【0129】
<アンテナ装置>
次に、本開示のアンテナ装置の実施形態を説明する。アンテナ装置は、前述のいずれかの実施形態における導波路装置と、導波路装置に接続された少なくとも1つのアンテナ素子を備える。導波路装置は、前述のように同軸ケーブルとリッジ導波路とを接続する構造を有する。導波路装置におけるリッジ導波路は、少なくとも1つのアンテナ素子に接続される。少なくとも1つのアンテナ素子は、導波路装置内の導波路を伝搬した電磁波を空間に向けて放射する機能、および空間を伝搬してきた電磁波を導波路装置内の導波路に導入する機能の少なくとも一方を有する。すなわち、本実施形態におけるアンテナ装置は、信号の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。
【0130】
図18Aは、上記のような導波路構造を利用したアンテナ装置の一例であるスロットアンテナアレイ200の構成の一部を模式的に示す斜視図である。
図18Bは、このスロットアンテナアレイ200におけるX方向に並ぶ2つのスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。このスロットアンテナアレイ200においては、導電部材110が、X方向およびY方向に配列された複数のスロット112を有している。この例では、複数のスロット112は2つのスロット列を含み、各スロット列は、Y方向に等間隔に並ぶ6個のスロット112を含んでいる。第2導電部材120には、Y方向に延びる2つの導波部材122が設けられている。各導波部材122は、1つのスロット列に対向する導電性の導波面122aを有する。2つの導波部材122の間の領域、および2つの導波部材122の外側の領域には、複数の導電性ロッド124が配置されている。これらの導電性ロッド124は、人工磁気導体を形成している。
【0131】
各導波部材122の導波面122aと、導電部材110の導電性表面110aとの間の導波路には、不図示の送信回路から電磁波が供給される。Y方向に並ぶ複数のスロット112のうちの隣接する2つのスロット112の中心間の距離は、例えば、導波路を伝搬する電磁波の波長と同じ値に設計される。これにより、Y方向に並ぶ6個のスロット112から、位相の揃った電磁波が放射される。
【0132】
図18Aおよび
図18Bに示すスロットアンテナアレイ200は、複数のスロット112の各々をアンテナ素子(放射素子とも称する。)とするアンテナアレイである。このようなスロットアンテナアレイ200の構成によれば、アンテナ素子間の中心間隔を、例えば導波路を伝搬する電磁波の自由空間における波長λoよりも短くすることができる。複数のスロット112には、ホーンが設けられ得る。ホーンを設けることで、放射特性または受信特性を向上させることができる。
【0133】
図19は、スロット112毎にホーン114を有するスロットアンテナアレイ300の構造の一部を模式的に示す斜視図である。このスロットアンテナアレイ300は、二次元的に配列された複数のスロット112および複数のホーン114を有する導電部材110と、複数の導波部材122Uおよび複数の導電性ロッド124Uが配列された導電部材120とを備える。
図19は、導電部材110、120の相互の間隔を極端に離した状態を示している。導電部材110における複数のスロット112は、導電部材110の導電性表面110aに沿った第1の方向(Y方向)および第1の方向に交差(この例では直交)する第2の方向(X方向)に配列されている。
図19には、導波部材122Uの各々の中央に配置されたポート(貫通孔)145Uも示されている。導波部材122Uの両端部に配置され得るチョーク構造の図示は省略されている。本実施形態では、導波部材122Uの数は4個であるが、導波部材122Uの数は任意である。本実施形態では、各導波部材122Uは、中央のポート145Uの位置で2つの部分に分断されている。
【0134】
図20Aは、
図19に示す16個のスロットが4行4列に配列されたアンテナアレイ300をZ方向からみた上面図である。
図20Bは、
図20AのC−C線断面図である。このアンテナアレイ300における導電部材110は、複数のスロット112にそれぞれ対応して配置された複数のホーン114を備えている。複数のホーン114の各々は、スロット112を囲む4つの導電壁を有している。このようなホーン114により、指向性を向上させることができる。
【0135】
図示されるアンテナアレイ300においては、スロット112に直接的に結合する第1の導波部材122Uを備える第1の導波路装置100aと、第1の導波路装置100aの導波部材122Uに結合する第2の導波部材122Lを備える第2の導波路装置100bとが積層されている。第2の導波路装置100bの導波部材122Lおよび導電性ロッド124Lは、導電部材140上に配置されている。第2の導波路装置100bは、基本的には、第1の導波路装置100aの構成と同様の構成を備えている。
【0136】
図20Aに示すように、導電部材110は、第1の方向(Y方向)および第1の方向に直交する第2の方向(X方向)に配列された複数のスロット112を備える。複数の導波部材122Uの導波面122aは、Y方向に延びており、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ4つのスロットに対向している。この例では導電部材110は、4行4列に配列された16個のスロット112を有しているが、スロット112の数および配列はこの例に限定されない。各導波部材122Uは、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ全てのスロットに対向している例に限らず、Y方向に隣接する少なくとも2つのスロットに対向していればよい。X方向に隣接する2つの導波面122aの中心間隔は、例えば波長λoよりも短く設定され、より好ましくは、波長λo/2よりも短く設定される。
【0137】
図20Cは、第1の導波路装置100aにおける導波部材122Uの平面レイアウトを示す図である。
図20Dは、第2の導波路装置100bにおける導波部材122Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図に示すように、第1の導波路装置100aにおける導波部材122Uは直線状に延びており、分岐部も屈曲部も有していない。一方、第2の導波路装置100bにおける導波部材122Lは、分岐部および屈曲部の両方を有している。
【0138】
第1の導波路装置100aにおける導波部材122Uは、導電部材120が有するポート(開口部)145Uを通じて第2の導波路装置100bにおける導波部材122Lに結合する。言い換えると、第2の導波路装置100bの導波部材122Lを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第1の導波路装置100aの導波部材122Uに達し、第1の導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬することができる。このとき、各スロット112は、導波路を伝搬してきた電磁波を空間に向けて放射するアンテナ素子として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット112に入射すると、その電磁波はスロット112の直下に位置する第1の導波路装置100aの導波部材122Uに結合し、第1の導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬する。第1の導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第2の導波路装置100bの導波部材122Lに達し、第2の導波路装置100bの導波部材122Lに沿って伝搬することも可能である。
【0139】
図20Dに示すように、第2の導波路装置100bの導波部材122Lは、1本の幹状部分と、幹状部分から分岐した4つの枝状部分を有する。導波部材122Lの幹状部分は、Y方向に延びており、第1リッジ122wと第2リッジ122xとに分割されている。導電部材140は、第1リッジ122wと第2リッジ122xとの間の間隙の位置に、貫通孔212を有する。貫通孔212には、同軸ケーブル270または同軸ケーブル270に接続されたコネクタが挿入される。同軸ケーブル270またはコネクタの芯線271は、第1リッジ122wまたは第2リッジ122xの端面に接続される。この芯線271と導波部材122Lとの接続構造は、
図2Aおよび
図2Bを参照して説明した第2の実施形態における接続構造と同様である。この接続構造に代えて、前述の他のいずれかの実施形態における接続構造を採用してもよい。同軸ケーブル270は、高周波信号を生成または受信する電子回路310に接続される。
【0140】
電子回路310は、特定の位置に限定されず、任意の位置に配置されていてよい。電子回路310は、例えば、導電部材140の背面側(
図20Bにおける下側)の回路基板に配置され得る。そのような電子回路は、例えば、ミリ波を生成または受信するMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)などのマイクロ波集積回路を含み得る。電子回路310は、マイクロ波集積回路に加えて、他の回路、例えば、信号処理回路をさらに含んでいてもよい。そのような信号処理回路は、例えばアンテナ装置を備えたシステムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。電子回路310は、通信回路を含んでいてもよい。通信回路は、アンテナ装置を備えた通信システムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。
【0141】
なお、電子回路と導波路とを接続する構造は、例えば、米国特許出願公開第2018/0351261、米国特許出願公開第2019/0006743、米国特許出願公開第2019/0139914、米国特許出願公開第2019/0067780、米国特許出願公開第2019/0140344、および国際特許出願公開第2018/105513に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0142】
図20Aに示される導電部材110を「放射層」と呼ぶことができる。また、
図20Cに示される導電部材120、導波部材122U、および導電性ロッド124Uの全体を含む層を「励振層」と呼び、
図20Dに示される導電部材140、導波部材122L、および導電性ロッド124Lの全体を含む層を「分配層」と呼んでもよい。また「励振層」と「分配層」とをまとめて「給電層」と呼んでもよい。「放射層」、「励振層」および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。放射層、励振層、分配層、および分配層の背面側に設けられる電子回路は、モジュール化された1つの製品として製造され得る。
【0143】
この例におけるアンテナアレイでは、
図20Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されているため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現されている。例えば、
図20Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を10mm以下にすることができる。
【0144】
図20Dに示される導波部材122Lは、芯線271に接続される1本の幹状部分と、幹状部分から分岐した4つの枝状部分を有する。4つの枝状部分の先端部の上面に対向して、4つのポート145Uがそれぞれ位置している。貫通孔212から導電部材120の4つのポート145Uまでの、導波部材122Lに沿って測った距離は、全て等しい。このため、導電部材140の貫通孔212から、導波部材122Lに入力された信号波は、導波部材122UのY方向における中央に配置された4つのポート145Uのそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、導電部材120上に配置された4個の導波部材122Uは、同位相で励振され得る。
【0145】
なお、用途によっては、アンテナ素子として機能する全てのスロット112が同位相で電磁波を放射する必要はない。励振層および分配層における導波部材122Uおよび122Lのネットワークパターンは任意であり、図示される形態に限定されない。
【0146】
励振層、分配層を構成するに当たっては、導波路における様々の回路要素を利用する事ができる。それらの例は、例えば米国特許第10042045、米国特許第10090600、米国特許第10158158、国際特許出願公開第2018/207796、国際特許出願公開第2018/207838、米国特許出願公開第2019/0074569に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0147】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、例えば車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載されるレーダ装置またはレーダシステムに好適に用いられ得る。レーダ装置は、上述したいずれかの実施形態における導波路装置を備えたアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続されたMMICなどのマイクロ波集積回路とを備える。レーダシステムは、当該レーダ装置と、当該レーダ装置のマイクロ波集積回路に接続された信号処理回路とを備える。本開示の実施形態におけるアンテナ装置と、小型化が可能なWRG構造とを組み合わせた場合、従来の中空導波管を用いた構成と比較して、アンテナ素子が配列される面の面積を小さくすることができる。このため、当該アンテナ装置を搭載したレーダシステムを、狭小な場所にも容易に搭載することができる。レーダシステムは、例えば道路または建物に固定されて使用され得る。信号処理回路は、例えば、マイクロ波集積回路によって受信された信号に基づき、到来波の方位を推定する処理等を行う。信号処理回路は、例えば、MUSIC法、ESPRIT法、およびSAGE法などのアルゴリズムを実行して、到来波の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成され得る。信号処理回路は、さらに、公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成されていてもよい。
【0148】
本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に1つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されてもよい。例えば、信号処理回路の一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD)であるFPGA(Field−Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路は、複数の演算素子(例えば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(例えばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であってもよい。信号処理回路は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは信号処理回路として機能し得る。
【0149】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、無線通信システムにも利用され得る。そのような無線通信システムは、上述したいずれかの実施形態における導波路装置を含むアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続された通信回路(送信回路または受信回路)とを備える。送信回路は、例えば、送信すべき信号を表す信号波をアンテナ装置内の導波路に供給するように構成され得る。受信回路は、アンテナ装置を介して受信された信号波を復調してアナログまたはデジタルの信号として出力するように構成され得る。
【0150】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、さらに、屋内測位システム(IPS:Indoor Positioning System)におけるアンテナとしても利用することができる。屋内測位システムでは、建物内にいる人、または無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)などの移動体の位置を特定することができる。アンテナ装置はまた、店舗または施設に来場した人が有する情報端末(スマートフォン等)に情報を提供するシステムにおいて用いられる電波発信機(ビーコン)に用いることもできる。そのようなシステムでは、ビーコンは、例えば数秒に1回、IDなどの情報を重畳した電磁波を発する。その電磁波を情報端末が受信すると、情報端末は、通信回線を介して遠隔地のサーバコンピュータに、受け取った情報を送信する。サーバコンピュータは、情報端末から得た情報から、その情報端末の位置を特定し、その位置に応じた情報(例えば、商品案内またはクーポン)を、当該情報端末に提供する。
【0151】
WRG構造を有するスロットアレイアンテナを備えたレーダシステム、通信システム、および各種監視システムの応用例が、例えば米国特許第9786995号明細書および米国特許第10027032号に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。本開示のスロットアレイアンテナは、これらの文献に開示された各応用例に適用することができる。