【解決手段】培養槽2に貯留された培養液100の一部を貯留する溶解槽10と、二酸化炭素ボンベBに連結されて溶解槽10に差し込まれた他端52から二酸化炭素を放出する気体供給パイプ50と、気体供給パイプ50の他端52に設けられて二酸化炭素を微小泡にする気体放出部53と、気体供給パイプ50を流れる二酸化炭素の流量を制御するマスフローコントローラ60と、を備え、気体放出部53から溶解槽10に貯留された培養液100の液面10aまでの水深H2を、培養槽2に貯留された培養液100の水深H1よりも深く設定している構成とした。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の気体溶解装置及び藻類培養装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0011】
(実施例1)
実施例1の藻類培養装置1は、微細藻類を人工的に培養する装置であり、
図1に示すように、培養槽2と、気体溶解装置3と、を備えている。
【0012】
ここで、藻類とは、酸素を発生する光合成を行う生物の中からコケ植物、シダ植物、及び種子植物を除いたものであり、水中生活をする同化色素を有する植物を一括して称したものである。この藻類は、面積あたりの増殖性・収穫量に優れ、油脂をはじめとする有用物質を多量に蓄積し、健康食品やサプリメント、化学原料、バイオ燃料等の原料になり得て利用価値が高い。なお、藻類培養装置1によって培養される微細藻類は、体長が数μm〜数百μmの単細胞性の藻類であり、人の肉眼では個々の存在が識別できないような大きさの藻類である。微細藻類としては、例えば、スピルリナ、ユーグレナ、クロレラ、ドナリエラ、ボツリオコッカス等の緑藻類が挙げられる。
【0013】
培養槽2(メイン槽)は、微細藻類が懸濁された培養液100(液体)を貯留する水槽である。
図1に示す培養槽2は、長楕円形の循環水路を有するレースウェイ型である。この培養槽2は、上方に開放した開口部2aを有し、貯留した培養液100が外気に接する。また、この培養槽2に貯留された培養液100は、液量が150L、水深(深さ)H1が130〜135mmに設定されている。そして、この培養槽2には水車4が設置され、この水車4の回転により撹拌速度11cm/secにて培養液100が撹拌されている。ここで、「水深H1」は、培養槽2の底面から培養槽2に貯留された培養液100の液面までの距離である。なお、この培養槽2の容積や形状に限定はなく、培養対象の藻類の種類や、培養方法等に応じて適宜選択される。
【0014】
気体溶解装置3は、培養槽2内の培養液100の二酸化炭素濃度を適切な濃度に制御するため、培養槽2から取り出した一部の培養液100に二酸化炭素(気体)を溶解させた後、この二酸化炭素が溶解した培養液100を培養槽2に戻す装置である。ここで、培養液100に対する過剰な二酸化炭素の投入は微細藻類の培養を阻害しかねないが、培養液100の二酸化炭素濃度を適切な濃度に制御することで、微細藻類の迅速且つ有用物質に富んだ培養が可能になる。
【0015】
気体溶解装置3は、図示しない車輪付きの台車上に設置され、
図2に示すように、溶解槽10と、第1循環パイプ20と、第2循環パイプ30と、循環機構40と、気体供給パイプ50と、マスフローコントローラ60(気体制御部)と、pH監視部70と、を備えている。
【0016】
溶解槽10は、培養槽2から取り出された培養液100の一部を貯留し、貯留した培養液100に二酸化炭素を溶解させる水槽である。この溶解槽10は、底面11及び側面12を有する縦長の管形状であり、上部が上面13によって塞がれている。ここでは、底面11を湾曲面とし、上面13には非密閉の蓋を被せている。
【0017】
溶解槽10の側面12は、後述する気体放出部53からこの溶解槽10に貯留した培養液100の液面10aまでの水深(深さ)H2を、培養槽2における水深H1よりも深く設定することが可能な高さを有している。また、この溶解槽10に貯留されている培養液100の液量は、培養槽2に貯留されている培養液100の液量の二十分の一以下、ここでは5Lに設定されている。溶解槽10の上面13には液面センサ14が設置され、培養液100の貯留量を監視している。液面センサ14の検出値は、循環機構40のポンプコントローラ43に入力される。
【0018】
第1循環パイプ20は、培養槽2と溶解槽10との間を連通し、培養槽2から溶解槽10へ注入される培養液100が流れるパイプである。この第1循環パイプ20の一端21は、
図1に示すように、培養槽2に貯留されている培養液100に差し込まれている。一方、第1循環パイプ20の他端22は、溶解槽10の上面13を貫通し、溶解槽10の内部に差し込まれている。そして、この第1循環パイプ20の他端22に形成された液体吐出口23は、気体放出部53よりも上方の位置に設けられ、培養槽2の底面11に向けられている。
【0019】
さらに、第1循環パイプ20の途中には、第1流量計24と、循環機構40の第1ポンプ41が設けられている。ここで、第1流量計24は、第1ポンプ41の下流に設けられている。この第1流量計24により、第1ポンプ41から吐出されて溶解槽10に流れ込む培養液100の流量が検出される。この第1流量計24の検出値は、循環機構40のポンプコントローラ43に入力される。
【0020】
第2循環パイプ30は、培養槽2と溶解槽10との間を連通し、溶解槽10から培養槽2へ返送される培養液100が流れるパイプである。この第2循環パイプ30の一端31は、
図1に示すように、培養槽2に貯留された培養液100に差し込まれている。一方、第2循環パイプ30の他端32は、溶解槽10の側面12に接続され、この他端32に形成された液体取込口33が、側面12に開放している。そして、この液体取込口33は、気体放出部53よりも下方の位置に設けられている。
【0021】
さらに、第2循環パイプ30の途中には、pH監視部70のモニタリング槽71と、第2流量計34と、循環機構40の第2ポンプ42が設けられている。ここで、モニタリング槽71が最上流に設けられ、モニタリング槽71の下流に第2ポンプ42、第2流量計34がこれらの順に設けられている。第2流量計34により、第2ポンプ42から吐出されて培養槽2に返送される培養液100の流量が検出される。この第2流量計34の検出値は、循環機構40のポンプコントローラ43に入力される。
【0022】
また、この第2循環パイプ30のうち、モニタリング槽71と第2ポンプ42との間の領域に、排出パイプ35の一端35aが接続されている。排出パイプ35は、溶解槽10から排出された培養液100を、モニタリング槽71を迂回して培養槽2へと返送するためのパイプである。排出パイプ35の他端35bは、溶解槽10の底面11(底部)に形成された液体排出開口36に接続されている。すなわち、溶解槽10内の培養液100は、液体排出開口36を介して排出パイプ35へと流れていく。また、この排出パイプ35の途中には、開閉弁37が設けられている。この開閉弁37は通常閉鎖しており、開閉弁37を開くことで、排出パイプ35に流れ込んだ培養液100が第2循環パイプ30に直接流れる。なお、この開閉弁37は、手動によって開閉制御が行われる。
【0023】
循環機構40は、第1循環パイプ20を介して培養槽2に貯留されている培養液100の一部を溶解槽10に注入し、第2循環パイプ30を介して溶解槽10に貯留されている培養液100を培養槽2に返送する機構である。ここでは、循環機構40により、培養槽2と溶解槽10との間で培養液100が常時循環されている。この循環機構40は、第1ポンプ41と、第2ポンプ42と、ポンプコントローラ43と、を有している。
【0024】
第1ポンプ41は、第1循環パイプ20の途中位置に設けられ、培養槽2内の培養液100を吸い込んで吐出し、培養液100を培養槽2から溶解槽10へと移送するマグネットポンプである。第2ポンプ42は、第2循環パイプ30の途中位置に設けられ、溶解槽10内の培養液を吸い込んで吐出し、培養液100を溶解槽10から培養槽2へと移送するマグネットポンプである。ここでは、第1ポンプ41のポンプ性能の方を、第2ポンプ42のポンプ性能よりも高く設定する。
【0025】
なお、第1、第2ポンプ41、42のポンプ性能は、同等に設定してもよく、この場合、出力調整する機構を付属することで、ポンプ性能を同等に調整してもよい。また、第1、第2ポンプ41、42は、マグネットポンプに限らず、ダイヤフラムポンプや遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプ等のターボ式ポンプのいずれかを適宜用いてもよい。
【0026】
ポンプコントローラ43は、第1ポンプ41及び第2ポンプ42の動作を制御し、毎分、培養槽2に貯留されている培養液100の液量の二十分の一以下の流量(ここでは、1〜2L)を循環させる。このポンプコントローラ43は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を有し、液面センサ14の検出値と、第1流量計24の検出値と、第2流量計34の検出値が入力される。そして、ポンプコントローラ43は、液面センサ14の検出値に基づいて、溶解槽10に貯留されている培養液100の液量が一定値を維持するように、第1、第2ポンプ41、42の動作を制御する。また、このポンプコントローラ43では、第1流量計24及び第2流量計34の検出値に基づいて、第1ポンプ41から吐出されて第1循環パイプ20を流れる培養液100の流量と、第2ポンプ42から吐出されて第2循環パイプ30を流れる培養液100の流量とが同等になるように第1ポンプ41及び第2ポンプ42の動作を制御する。
【0027】
気体供給パイプ50は、二酸化炭素ボンベB(気体供給源、二酸化炭素供給源)から溶解槽10へ投入される二酸化炭素(気体)が流れるパイプであり、一端51が二酸化炭素ボンベBに連結され、他端52(先端)が溶解槽10の側面12を貫通し、この溶解槽10に貯留された培養液100の内部に差し込まれている。そして、溶解槽10に差し込まれた気体供給パイプ50の他端52には、気体放出部53が固定されている。
【0028】
気体放出部53は、気体供給パイプ50から放出される二酸化炭素を、溶解槽10に貯留された培養液100の内部で微小な気泡(マイクロバブルやナノバブル、以下「気泡」という)にするものであり、ここでは円柱形状を呈している。この気体放出部53は、多孔質のセラミック材、焼結合金、高分子化合物等により形成されている。ここでは、気体放出部53は、孔径が1〜100μmを選定している。
【0029】
また、この気体放出部53は、球相当直径が2.5mm以下、より好ましくは1.0mm以下の気泡を生成するものとする。さらに、この気体放出部53は、気体放出部53を介して放出される気泡を、単位時間当たりの単位断面積通過個数が35個/min/cm
2以上生成するものとする。
【0030】
そして、気体放出部53は、溶解槽10に貯留した培養液100の液面10aまでの水深(気体放出部53から液面10aまでの深さ)H2が、培養槽2における水深H1よりも深くなる位置に配置されている。ここでは、水深H2が450mm以上になる位置に気体放出部53を配置する。なお、気体放出部53により、球相当直径が1.4mm以下の気泡が生成される場合には、水深H2が350mm以上に設定されればよい。
【0031】
さらに、この気体溶解装置3では、気体放出部53の孔径と、水深H2の深さと、溶解槽10内の液量との各設定値を調節し、溶解槽10に貯留されている培養液100における二酸化炭素の溶存量を、溶存無機炭素重量換算で200mg/L以下に設定している。なお、溶解槽10内の培養液100の二酸化炭素溶存量が溶存無機炭素重量換算で200mg/L以下になるときの気体放出部53の孔径と、水深H2の深さと、溶解槽10内の液量との設定値は、例えば
図8に示す。
【0032】
マスフローコントローラ60は、気体供給パイプ50を流れる二酸化炭素の流量を計測し、この二酸化炭素の流量を制御する。このマスフローコントローラ60には、pH監視部70のpHコントローラ72からの制御指令が入力される。そして、マスフローコントローラ60は、pHコントローラ72からの制御指令に基づいて気体供給パイプ50を流れる二酸化炭素の流量を制御する。
【0033】
pH監視部70は、溶解槽10に貯留されている培養液100のpH値を監視する。このpH監視部70は、モニタリング槽71と、pHコントローラ72と、pHセンサ73と、を有している。
【0034】
モニタリング槽71は、第2循環パイプ30の途中に設けられ、この第2循環パイプ30を介して溶解槽10に連通し、溶解槽10から流出した培養液100の一部を貯留する水槽である。このモニタリング槽71は、底面71a及び側面71bを有する縦長の管形状であり、上部が上面71cによって塞がれており、ここでは、底面71aを湾曲面とし、上面71cには非密閉の蓋を被せている。また、モニタリング槽71に貯留される培養液100の液量は任意に設定することができ、ここでは1Lに設定されている。
【0035】
そして、第2循環パイプ30が接続されて培養液100がモニタリング槽71に流れ込む流入口74aは、底面71aに形成されている。また、第2循環パイプ30が接続されて培養液100がモニタリング槽71から流れ出る流出口74bは、側面71bに形成されている。さらに、このモニタリング槽71は、このモニタリング槽71に貯留された培養液100の液面71dの高さ位置が、溶解槽10に貯留された培養液100の液面10aの高さ位置と一致する位置に設置されている。
【0036】
pHコントローラ72は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を有し、pHセンサ73の検出値が入力される。そして、pHコントローラ72は、pHセンサ73の検出値に基づいて、溶解槽10から流出した培養液100のpH値が藻類培養における二酸化炭素の要求溶存量に応じた適切な範囲に収まるように、マスフローコントローラ60に制御指令を出力する。なお、このpHコントローラ72では、pH値が一定値以下になった場合、溶解槽10への二酸化炭素の流入を停止する制御指令を出力する。
【0037】
pHセンサ73は、モニタリング槽71の上面71cに設置され、センサ部分がモニタリング槽71に貯留した培養液100に差し込まれている。そして、このpHセンサ73により、モニタリング槽71に貯留された培養液100のpH値が測定される。
【0038】
以下、気体溶解装置における課題を説明する。
【0039】
藻類培養において、培養液の二酸化炭素濃度を適切な濃度に制御する必要性については上述の通りであるが、培養液への二酸化炭素の溶解は、散気管(ディフューザー)を培養槽に直接入れるものが一般的である。しかしながら、散気管を培養槽に直接入れた場合では、二酸化炭素の溶解量は培養槽の水深や散気する気泡のサイズに大きな影響を受ける。また、散気する気体は、1〜5%の二酸化炭素を含む混合空気を用いることが多く、二酸化炭素を効率よく溶解することは難しい。
【0040】
一般に、培養のメインストリームである20〜30cm程度の水深の浅い培養槽は、二酸化炭素を十分溶解されるまで培養液中に留めることが難しく、主要な溶解方法の一つである「培養槽に散気管を直接投入する方法」では、投入した二酸化炭素の100分の一以下の溶解効率になるケースも存在する。また、環境配慮の観点から未溶解二酸化炭素を大量に大気に放出することは望ましくないが、二酸化炭素の溶解効率が低いと、大気に放出される未溶解二酸化炭素が増加してしまう。さらに、二酸化炭素の溶解効率が低いことで、二酸化炭素不足に伴う培養期間の長期化や、それによって諸コストが増大するといった課題も生じる。
【0041】
これに対し、培養槽の全体もしくは一部の水深を深くすることで、二酸化炭素を培養液中に留める時間を延長することが考えられている。この場合では、培養槽の底面に近いほど光量不足に由来する培養効率の低下が生じたり、水深を深くすることで培養槽設置時の足かせになることもあり、実施することが難しい。
【0042】
一方、二酸化炭素の高効率溶解方法として、ナノバブルやマイクロバブルを利用する方法も考えられている。しかし、マイクロバブル化した二酸化炭素を培養液に通気することで、培養液における見かけの吸光率が減少する。そのため、藻類培養には不向きになる可能性が想定される。
【0043】
さらに、藻類に対する物理的な負荷は、藻類細胞にダメージを与える懸念があり、最小限に抑える必要がある。そのため、高圧・高流量ポンプを用いた培養液の循環や、そのようなポンプを利用した旋回流や、ベンチェリー管によるバブル発生方式も避けることが望ましい。すなわち、藻類培養では、培養液への二酸化炭素溶解の重要性が認識される一方で、その溶解方法に関する改良はいまだ不十分である。
【0044】
以下、実施例1の気体溶解装置3における二酸化炭素の投入条件と、二酸化炭素の溶解効率について説明する。
【0045】
図3A及び
図3Bには、実施例1の気体溶解装置3における、気体放出部53の孔径と、当該孔径によって発生する気泡の球相当直径の階級値(以下「気泡サイズ」という)と、気泡の平均発生個数との相互の関係を示す。この
図3A及び
図3Bに現れる関係から、気体放出部53の孔径が大きい方が発生する気泡サイズが大きくなることがわかる。また、孔径が40μmを超えると、気泡サイズは、孔径の変化に拘らず2.5mm程度に維持されることがわかる。また、
図3Cには、気体放出部53の孔径と、気泡の平均発生個数との関係を示すが、気泡の発生平均個数も、孔径が40μmを超えると横ばいになることがわかる。そこで、実施例1では、気体放出部53の孔径を1〜100μmに選定した。これにより、孔径を不要に大きくすることなく、適切な大きさや数の気泡を得ることができる。
【0046】
また、
図4Aには、実施例1の気体溶解装置3における、気体放出部53による気泡サイズと、二酸化炭素の溶解効率との関係を示し、
図4Bには、実施例1の気体溶解装置3における、気体放出部53から溶解槽10に貯留した培養液100の液面10aまでの水深H2(以下「水深H2」という)と、二酸化炭素の溶解効率との関係を示す。なお、溶解効率は、下記式(1)に基づいて算出する。この溶解効率は、高い方が好ましいとする。
溶解効率(%)= 溶存量 / 投入量 ×100 ・・・(1)
この
図4A及び
図4Bに現れる関係から、気泡サイズは、小さい方が溶解効率が高くなり、好ましいことがわかる。さらに、水深H2は450mm以上であれば、気体溶解装置3として好ましい性能(溶解効率50%以上)を発揮することがわかる。そこで、実施例1では、溶解槽10に貯留した培養液100の液面10aまでの水深H2を450mm以上に設定した。これにより、気体溶解装置3として必要な二酸化炭素の溶解効率を確保することができる。
【0047】
さらに、
図5に示すように、気泡サイズが1.4mmのときは、水深H2が300mmから350mmの間で溶解効率が50%以上に達することが分かる。そのため、気泡サイズが1.4mmの場合では、水深H2は350mm以上であってもよいと判断できる。そこで、実施例1では、気泡サイズが1.4mm以下の気泡を生成するときには、水深H2を350mm以上に設定すればよいとした。これにより、水深H2を浅くしても、気体溶解装置3として必要な二酸化炭素の溶解効率を確保することができる。
【0048】
さらに、溶解効率が最も高い気体放出部53の孔径は、
図3A〜
図4Bから2μmであることがわかるが、
図6に示すように、孔径が2μmの気体放出部53によって生成される気泡は、確認できた最小クラスの気泡サイズが1.0mm以下であることがわかる。そこで、実施例1の気体溶解装置3では、気体放出部53を、球相当直径(気泡サイズ)が2.5mm以下、より好ましくは1.0mm以下の二酸化炭素の気泡を生成するものに設定した。これにより、水深H2が450mm以上であれば、必要な溶解効率を確保することができ、気泡サイズが1.0mm以下の気泡を生成するものであれば、溶解効率をさらに向上させることができる。
【0049】
また、気泡放出部53における気泡の平均発生個数と、溶解槽10の断面積の関係から、気泡の単位時間当たりの断面積通過個数を算出することができる。この気泡の単位時間当たりの単位断面積通過個数は、気体放出部53の孔径の大きさによって異なるが、
図7に示すように、孔径が大きいほど数が少なくなるものの、35個/min/cm
2以上であることがわかる。そこで、実施例1では、気体放出部53を、単位時間当たりの気泡の単位断面積通過個数が35個/min/cm
2以上にするものに設定した。これにより、必要な二酸化炭素の溶解効率を確保することができる気泡の平均発生個数を確保することができる。よって、必要な溶解効率を確保することができる。
【0050】
そして、
図8には、同一時間、同量の二酸化炭素を投入したときの気体放出部53の孔径と、水深H2と、溶解槽10内の液量と、二酸化炭素の実溶存量(炭素重量換算)と、二酸化炭素の溶解効率との相互の関係を示す。この
図8に現れる関係から、二酸化炭素の実溶存量が高いときには溶解効率が低下することがわかる。また、理論上、培養液100における二酸化炭素の溶存量が増すほど、この培養液100からの二酸化炭素の再放出速度が増すことが分かっている。従って、培養液100に溶存する二酸化炭素の溶存量が常に一定の値に留まるように二酸化炭素を投入することが好ましい。さらに、必要な二酸化炭素の溶解効率が50%以上であることを考えると、
図8に示す結果から、少なくとも二酸化炭素の溶存量(炭素重量換算)を200mg/L以下の濃度にすべきと判断できる。そこで、実施例1では、気体放出部53の孔径と、水深H2と、溶解槽10に貯留される液量との各設定値を調節し、溶解槽10における二酸化炭素の溶存量を200mg/L(溶存無機炭素重量換算)以下に設定する。これにより、不要な二酸化炭素の投入を抑制し、投入した二酸化炭素を効率よく溶解させることができる。
【0051】
以下、実施例1の気体溶解装置3及び第1、第2比較例の気体溶解装置における二酸化炭素の溶解実験結果を説明する。
【0052】
この実験では、
図1に示すレースウェイ型の培養槽2を使用し、この培養槽2における液量を150L、水深H1を130〜135mm、液体の撹拌速度を11cm/secに設定する。そして、この培養槽2に貯留している液体(水道水)に散気管を直接投入する。ここで、100%の二酸化炭素を60mL/min(1気圧)にて散気したものを第1比較例の気体溶解条件とし、1%の二酸化炭素を混合した空気を6000mL/min(1気圧)にて散気したものを第2比較例の気体溶解条件とする。
【0053】
一方、実施例1の気体溶解装置3では、
図1に示すレースウェイ型の培養槽2(液量150L)から一定量(1〜2L/min)の液体(水道水)を溶解槽10(液量5L)へ注入する。そして、この溶解槽10に注入された水道水に対して、気体放出部53を介して100%の二酸化炭素を60mL/min(1気圧)にて投入する。さらに、溶解槽10にて二酸化炭素を溶解した水道水は、モニタリング槽71(液量1L)を経て、一定量ずつ(1〜2L/min)培養槽2に返送する。
【0054】
なお、ここでは、二酸化炭素の溶存量は、いずれも培養槽2における溶存無機炭素重量換算として測定した。また、実施例1の気体溶解装置3において、モニタリング槽71にて検出したpH値が一定値以下になった場合には、二酸化炭素の注入を停止した。
【0055】
図9A及び
図9Bに、実験結果のまとめと、経過時間に対する溶解効率の低下を示す。この
図9Aに現れるように、第1比較例の気体溶解装置では最大溶解効率が37%を示し、第2比較例の気体溶解装置では最大溶解効率が14%を示したのに対し、実施例1の気体溶解装置3では、最大溶解効率が64%となった。すなわち、実施例1の気体溶解装置3では、培養槽2に貯留した液体を溶解槽10に注入し、この溶解槽10にて二酸化炭素を溶解させてから培養槽2に返送するが、ここで、気体放出部53から溶解槽10に貯留された液体の液面10aまでの水深H2を、培養槽2に貯留された液体の水深H1よりも深く設定している。そのため、散気管を培養槽2に直接入れる一般的な培養液への二酸化炭素の溶解方法と比べて、二酸化炭素の溶解効率を簡易な構造で向上することができる。
【0056】
また、
図9Bに現れるように、二酸化炭素の溶解実験を開始してから時間が経過すると、いずれの投入条件においても二酸化炭素の溶解効率は低下していく。しかしながら、実施例1の気体溶解装置3では、第1比較例及び第2比較例の気体溶解装置と比べて溶解効率の低下を抑制することができることが分かる。よって、実施例1の気体溶解装置3では、二酸化炭素の溶解効率を向上し、二酸化炭素の投入量を抑えることができる。さらに、培養液100内の二酸化炭素不足を防止して、藻類培養に必要な培養期間を短縮し、培養に必要な諸コストの低減を図ることができる。
【0057】
また、実施例1の気体溶解装置3では、培養槽2に貯留されている培養液100を溶解槽10に注入する第1循環パイプ20を備えている。そして、この第1循環パイプ20の液体吐出口23は、気体供給パイプ50の他端52に固定された気体放出部53よりも上方の位置に設けられている。そのため、この第1循環パイプ20から吐出された培養液100は、培養槽2の底面11に向かって下方へと流れていく。これに対し、気体放出部53を介して放出された二酸化炭素は、溶解槽10の上方へと上昇していく。
【0058】
これにより、溶解槽10に注入された培養液100の流れ方向と、溶解槽10に投入された二酸化炭素の移動方向とが逆向きになり、さらに二酸化炭素の溶解効率を高めることができる。
【0059】
また、実施例1の気体溶解装置3では、溶解槽10に貯留されている培養液100を培養槽2に返送する第2循環パイプ30を備えている。そして、この第2循環パイプ30の液体取込口33は、溶解槽10の側面12に開放し、気体放出部53よりも下方の位置に設けられている。一方、気体放出部53を介して放出された二酸化炭素は、上述のように、溶解槽10の上方へ上昇していく。そのため、気体放出部53を介して放出された二酸化炭素が第2循環パイプ30に流れ込みにくくでき、溶解槽10内に投入した二酸化炭素を留めて十分に溶解させることが可能になる。よって、二酸化炭素の溶解効率をさらに高めることができる。
【0060】
また、実施例1の気体溶解装置3は、溶解槽10に貯留されている培養液100のpH値を監視するpH監視部70を備えている。そして、溶解槽10へ投入される二酸化炭素の流量を制御するマスフローコントローラ60は、pH監視部70による監視結果に基づいて気体供給パイプ50を流れる二酸化炭素の流量を制御する。
【0061】
これにより、二酸化炭素の流量を変動させたことで生じるpH値の変化を速やかに検出することができる。そのため、例えば培養槽2に貯留されている培養液100のpH値に基づいて溶解槽10に投入する二酸化炭素の流量を制御する場合と比較して、二酸化炭素の投入量を適切に制御することができる。
【0062】
さらに、ここでは、pH監視部70が、溶解槽10に連通したモニタリング槽71と、モニタリング槽71に貯留された培養液100のpH値を測定するpHセンサ73と、を有している。これにより、溶解槽10の外部でこの溶解槽10に貯留されている培養液100のpH値の測定を行うことができ、pHセンサ73に二酸化炭素の気泡が付着することを低減できる。そのため、pH測定に誤差が生じることを抑え、pH値の測定精度を向上することができる。さらに、モニタリング槽71に流れ込んだ培養液100は、二酸化炭素を溶解させた後の液体であるため、二酸化炭素濃度にムラがない。これにより、さらにpH測定の誤差を抑えてpH値の測定精度を向上することができる。
【0063】
実施例1では、モニタリング槽71に貯留された培養液100の液面71dの高さ位置が、溶解槽10に貯留された培養液100の液面10aの高さ位置に一致しており、モニタリング槽71が、溶解槽10に対して互いの液面71d、10aの高さ位置を揃えることが可能な位置に設置されている。そのため、各槽10、71から培養液100が溢れることなく、それぞれの上面13、71cの近傍まで培養液100を貯留することができる。よって、溶解槽10やモニタリング槽71を不要に大きくする必要がなく、装置全体のコンパクト化を図ることができる。
【0064】
また、実施例1の気体溶解装置3では、溶解槽10の底面11(底部)に液体排出開口36が形成され、この液体排出開口36には、開閉弁37を有する排出パイプ35が接続されている。そして、開閉弁37を開くと、溶解槽10内の培養液100が液体排出開口36から排出パイプ35へと流れ込み、モニタリング槽71を迂回して培養槽2へと培養液100を返送することができる。これにより、溶解槽10の底面11の近傍に沈殿した藻類等の沈殿物を溶解槽10内から培養液100と共に排出することができる。
【0065】
そして、実施例1の藻類培養装置1では、実施例1の気体溶解装置3を用いて培養液100に二酸化炭素を溶解することで、藻類培養に必要な二酸化炭素を培養槽2へ効率良く投入することができる。また、この実施例1では、溶解槽10に貯留した培養液100に二酸化炭素を溶解してから、この二酸化炭素が溶解した培養液100を培養槽2へと返送する。そのため、培養槽2に貯留した培養液100のpH値が急激に変動することを抑えたり、二酸化炭素の気泡が藻類細胞に接触することで培養液100に含まれる藻類細胞が受けるダメージを抑えたりすることができる。
【0066】
以上、本発明の気体溶解装置及び藻類培養装置を実施例1に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加などは許容される。
【0067】
実施例1では、気体溶解装置3を車輪付きの台車上に設置した例を示した。この場合では、第1循環パイプ20の一端21と第2循環パイプ30の一端31をそれぞれ培養槽2に貯留された培養液100から引き抜けば、気体溶解装置3を適宜移動することが可能である。また、培養槽2に対して気体溶解装置3を後付けすることも可能になる。しかしながら、これに限らず、第1、第2循環パイプ20、30を培養槽2に対して固定し、気体溶解装置3と培養槽2とを一体化してもよい。
【0068】
また、実施例1では、培養槽2と溶解槽10を第1、第2循環パイプ20、30を介して接続し、溶解槽10内の培養液100に二酸化炭素を投入しつつ、循環機構40によって培養槽2と溶解槽10との間で培養液100を常時循環させる例を示した。しかしながら、これに限らない。例えば、培養槽2と溶解槽10とを独立して設置する。そして、培養槽2から一定量の培養液100を汲み出して溶解槽10に貯留し、二酸化炭素を溶解させた後、溶解槽10内の二酸化炭素を溶解した培養液100を汲み出して培養槽2に戻すようにしてもよい。
【0069】
また、実施例1では、溶解槽10の底面11に接続された排出パイプ35の一端35aを、第2循環パイプ30のうちのモニタリング槽71と第2ポンプ42との間の領域に接続する。そして、この排出パイプ35に流れ出た培養槽2の下部に沈殿した培養液100を、モニタリング槽71を迂回して培養槽2へと返送する例を示した。しかしながら、これに限らない。例えば、排出パイプ35の一端35aをバケツ等の容器に差し込み、培養槽2の下部に沈殿した沈殿物を培養槽2に返送しないようにしてもよい。また、排出パイプ35の一端35aを培養槽2に直接差し込み、第2ポンプ42も迂回させて培養槽2に返送するようにしてもよい。この場合には、排出パイプ35に流れ出た培養液100に含まれる沈殿物による第2ポンプ42の目詰まりの発生を防止することができる。
【0070】
また、実施例1では、気体放出部53から溶解槽10に貯留された培養液100の液面10aまでの水深H2を450mm以上に設定する例を示した。しかしながら、これに限らない。藻類培養では、一般的に培養槽2での水深H1が200〜300mm程度の比較的浅い環境であることが多く、実施例1の培養槽2では水深H1を130〜135mmに設定している。そのため、例えば、水深H2は、培養槽2に貯留された培養液100の水深H1の二倍以上に設定してもよい。
【0071】
また、実施例1では、培養槽2や溶解槽10に貯留する液体を微細藻類が懸濁された培養液100とし、培養液100に溶解する気体を二酸化炭素とする例を示した。しかしながら、これに限らない。例えば、水に酸素やオゾン、水素、窒素等を溶解するものであってもよいし、産業排水に酸素やその他のガスを溶解するものであってもよい。また、メイン槽である培養槽2に対し、複数の気体溶解装置3を設置してもよい。