【実施例】
【0045】
[評価用試料]
評価用試料として、表3に示す試料1〜4を用いた。
【0046】
【表3】
【0047】
試料1は以下のようにして得た。基板には、表面に酸化膜を有するシリコンウェハ(SiO
2/Si基板、SiO
2厚さ300nm、2cm×1.5cm)を用いた。基板を、アセトンおよびイソプロパノールにより洗浄した。アルミナボートにMoO
3粉末(シグマアルドリッチ製、10mg)を配置し、それを覆うように基板を設置した。このアルミナボートを石英管の風下側に配置した。アルミナボートに硫黄粉末(富士フイルム和光純薬株式会社製、30mg)を配置し、これを石英管の風上側に配置した。
【0048】
次に、Arガス(100sccm)を流し、MoO
3粉末がある場所の石英管を700℃で加熱し、MoO
3を還元し、昇華させた。同時に硫黄粉末がある場所の石英管を200℃で加熱し、硫黄を昇華させ、30分間維持し、MoS
2を合成した。
【0049】
試料2は以下のようにして得た。試料1と同じ基板に上にNa
2MoO
4水溶液(5mg/ml)1mlを3000rmp、60秒でスピンコートし、Na
2MoO
4を担持させた。次に、硫黄粉末(20mg)を石英管に配置し、Arガス(100sccm)を流し、750℃で5分間加熱した。このようにして、100nm以上の膜厚を有し、特に端部は1μm以上の厚さを有する試料2を得た。試料3は、試料1と同様であるが、一部をマスキングした後、再度合成した点が異なる。
【0050】
試料4は、MoS
2バルク単結晶基板に粘着テープを貼り付けて、テープ側に付着した結晶をさらに数回粘着テープで剥離して、十分薄膜化を行った後、これをSiO
2/Si基板に転写して得た。
【0051】
このようにして得られた試料1を原子間力顕微鏡(AFM、日立ハイテクノロージー製、AFM5200S)で観察し、ラマン分光装置(東京インスツルメント製、Nanofinder30)によりラマンスペクトルを測定した。また、また、試料4を、光学顕微鏡(オリンパス製、BX53)およびAFMにより観察し、ラマンスペクトルを測定した。これらの結果を
図4〜
図7に示す。
【0052】
図4は、試料1のAFM像を示す図である。
【0053】
図4によれば、合成した膜は、MoS
2の結晶構造を反映した、三角形状を有し、厚さ4nmのMoS
2からなる膜であることが分かった。
【0054】
図5は、試料1のラマンスペクトルを示す図である
【0055】
図5によれば、E
2gモードおよびA
1gモードのピークが、384.6cm
−1および404.2cm
−1に現れ、その幅が約19.8cm
−1であった。このことから、試料1は、MoS
2からなる単層の原子膜であることが分かった。
【0056】
図6は、試料4の光学顕微鏡写真(A)およびAFM像(B)を示す図である。
【0057】
図6(A)によれば、コントラストが明るく示される領域は、試料4の膜厚が厚いことを示す。
図6(B)によれば、試料4は、数nm〜数十nmの厚さを有することが分かった。特に、試料4は、図の下部から上部に向かって膜厚が厚くなった。
【0058】
図7は、試料4のラマンスペクトルを示す図である。
【0059】
図7には、
図6(B)の4つの領域(A〜D)においてそれぞれ測定したラマンスペクトルが示される。
図7によれば、A〜Dのいずれの領域においてもE
2gモードおよびA
1gモードのピークが、380〜384cm
−1および403〜406cm
−1に現れた。領域A〜Dで得られたスペクトルのピーク幅は、それぞれ、18.6cm
−1、21.3cm
−1,24.85cm
−1および25.85cm
−1であった。このことから、領域AはMoS
2からなる単層の原子膜であり、領域BはMoS
2からなる2層の原子膜であり、領域Cおよび領域DはMoS
2からなるMoS
2からなる多層(8層以上)膜であることが分かった。
【0060】
[例1〜例6]
例1〜例6では、表4に示すように、各試料について、種々の濃度の硝酸銀水溶液に浸漬させ、波長500nmを有する光を所定時間、照射し(
図1のステップS110)、光学顕微鏡により各試料を観察した(
図2のステップS120)。ここで、MoS
2原子膜の伝導帯の底のエネルギーは、銀の還元電位よりも大きく、光の光子エネルギー(2.48eV)は、MoS
2のバンドギャップ(1.3eV)よりも大きかった。ステップS110後の試料は、純粋に10秒含侵させ、窒素ブローを行い、残留する水や汚れを除去した。
【0061】
なお、ステップS110に先立って、各試料は、いずれも、次のようにして前処理された。イソプロパノールと水との混合溶液(イソプロパノール:水=10:1(体積比))に1時間、次いで、イソプロパノール中で5分間含侵させた後、窒素(N
2)ブローを行い、残留するイソプロパノールを除去した。このようにして評価用試料を得た。
【0062】
同じバッチで得られた試料1のいくつかについて、UV−オゾン(O
3)処理またはパルスレーザ処理を行った。詳細には、UV−オゾン処理は、UVの照射によってO
3を発生させ、試料1を5分、10分および30分間、O
3に晒した。パルスレーザ(PL)処理は、YAGレーザ(波長1064nm、照射エリア3μm×3μm)を試料1に照射し、試料1に意図的なダメージを作製した。UV−オゾン処理およびパルスレーザ処理後の試料1についても同様に、ステップS110およびステップS120を行い、評価用試料を得た。
【0063】
例1〜例6で得られた評価用試料について、ステップS120における光学顕微鏡による観察、走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL製、JSM−6010LA)による観察、SEM付属のエネルギー分散型X線分析装置によるEDSスペクトル測定、薄膜X線回折(XRD、RIGAKU製、UltimaIV)を行った。結果を
図8〜
図21に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
図8は、例1の評価用試料(O
3処理なし、PL処理なし)の光学顕微鏡写真を示す図である。
図9は、例1の評価用試料(O
3処理なし、PL処理なし、10分間光照射後)の光学顕微鏡写真(A)およびSEM像(B)を示す図である。
【0066】
図8によれば、金属イオンを含有する水溶液中、1分間以上光を照射すれば、MoS
2原子膜上に粒子の析出が確認された。また、光照射時間の増大に伴い、粒子の析出量が増大する傾向にあるが、特に、5分以上の照射により、粒子の位置を容易に確認できる。粒子の大きさは、光照射時間に関わらず、50nm以上200nm以下の範囲で均一であった。
【0067】
また、MoS
2原子膜上に分散して位置する(点在している)粒子、MoS
2原子膜の端部に連続して位置する粒子、あるいは、MoS
2原子膜を横断する方向に連続して位置する粒子が確認された。これらは、MoS
2原子膜の欠陥に起因することが示唆される。
【0068】
図9によれば、粒子は、光学顕微鏡でもSEMでも確認できることが示された。また、SEMによれば、粒子部分が、チャージによって明るく示されることから、粒子は金属粒子であることが示唆される。
【0069】
図10は、例1の評価用試料(O
3処理なし、PL処理なし、10分間光照射後)の粒子のEDSスペクトルを示す図である。
【0070】
図10によれば、粒子部分からは、Ag、Mo、S、SiおよびOを示すピークが検出された。SiおよびOのピークは、SiO
2/Si基板に基づく。MoおよびSのピークは、MoS
2に基づく。このことから、Agのピークは金属粒子がAgからなることを示す。
【0071】
図11は、例1の評価用試料(O
3処理なし、PL処理なし、30分間光照射後)のXRDパターンを示す図である。
【0072】
図11によれば、Siの明瞭なピークに加えて、MoS
2およびAgのピークが検出された。このことから、SiO
2/Si基板上に、MoS
2からなる原子膜が位置し、その上にAgからなる金属粒子が位置することが示された。
【0073】
以上の結果から、
図1に示す本発明の方法を実施することにより、半導体原子膜上に金属粒子が選択的に析出することが示された。
【0074】
図12は、UV−O
3処理した試料1のAFM像を示す図である。
図13は、UV−O
3処理した試料1の移動度、発光特性およびラマンスペクトルのO
3処理時間の依存性を示す図である。
【0075】
図12によれば、AFM像からは、UV−O
3処理の有無、および、その処理時間の試料1に及ぼす影響は確認できなかった。また、
図13においても、UV−O
3処理時間が長くなるにつれて、若干の移動度の低下を示すものの、UV−O
3処理が発光特性やラマンスペクトルに及ぼす影響は認められなかった。
【0076】
図14は、例1の評価用試料(O
3処理あり)の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0077】
図14において、
図14(A)〜(C)は、それぞれ、所定時間UV−O
3処理した試料1の光学顕微鏡写真であり、
図14(D)〜(F)は、それぞれ、所定時間UV−O
3処理した試料1に
図1のステップS110およびS120を実施した評価用試料の光学顕微鏡写真である。
【0078】
驚くべきことに、UV−O
3処理した試料1には、UV−O
3処理時間に関わらず、
図8と異なり、金属粒子の析出が見られなかった。通常、UV−O
3処理は、膜の表面の欠陥を修復することができるため、UV−O
3処理によってMoS
2からなる原子膜の表面が改質したものと考えられる。このように、
図12のAFM像や
図13の各種特性の変化からはMoS
2原子膜の表面の欠陥の有無を判断できない場合であっても、
図1に示す本発明の方法を実施するだけで、簡便に判断できることが示された。
【0079】
図15は、例1の評価用試料(PL処理あり)の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0080】
図15において、
図15(A)は、パルスレーザ(PL)処理した試料1の光学顕微鏡写真であり、
図15(B)は、パルスレーザ処理した試料1に
図1のステップS110およびS120を実施した評価用試料の光学顕微鏡写真である。
【0081】
図15(A)にはパルスレーザによって意図的に作製されたダメージ領域(矩形の領域)が示される。
図15(B)によれば、パルスレーザによるダメージ領域には金属粒子の析出が見られなかったが、ダメージ領域以外には金属粒子の析出が見られた。
【0082】
図16は、例2の評価用試料の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0083】
図16において、
図16(A)は、試料2の光学顕微鏡写真であり、
図16(B)は、試料2に
図1のステップS110およびS120を実施した評価用試料の光学顕微鏡写真である。
【0084】
図16(A)によれば、試料2は全体に100nm程度の厚さを有し、その端部は特に厚く500nm〜1μm、あるいは、それ以上の厚さを有した。
図16(B)によれば、試料2の内側にはわずかながら金属粒子が析出したが、その端部には金属粒子の析出が見られなかった。これは、試料2がMoS
2からなる膜が原子膜(例えば、0.3nm〜30nmの厚さの膜)ではないため、金属粒子が格子欠陥上に選択的に析出しにくいためである。
【0085】
これらから、
図1に示す本発明の方法を半導体原子膜に適用すれば、金属粒子を、半導体原子膜の欠陥(点欠陥や線欠陥などの格子欠陥であって、意図的な欠陥ではない)上に選択的に析出させることができ、光学顕微鏡などの通常の顕微鏡を用いて半導体原子膜の欠陥の有無を容易に評価できることが示された。
【0086】
図17は、例1の評価用試料(O
3処理なし、PL処理なし、30分間光照射後)の別の部分のAFM像を示す図である。
【0087】
図17(B)および(C)は、
図17(A)に四角で示す領域をそれぞれ拡大して示す。
図17(B)によれば、例えば、
図8(F)と同様に、MoS
2原子膜上に分散して位置する(点在している)粒子が確認された。一方、
図17(C)によれば、MoS
2原子膜上に粒子がマージしていることが確認された。
図17(D)は、
図17(C)をさらに拡大して示すが、マージした粒子は、クラブの形状を有し、全体で三角形をなしていた。
【0088】
このことから、このようなクラブの形状を有するマージした粒子は、MoS
2原子膜上のステップに位置し、MoS
2のさらなる単層膜が形成され得ることを示す。このように、マージした粒子の形状が観察されるだけで、MoS
2原子膜上のステップの有無を判断できる。
【0089】
図18は、例3の評価用試料の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0090】
図18によれば、金属イオンを含有する水溶液中、3分間以上光を照射すれば、MoS
2原子膜上に粒子の析出が確認された。また、照射時間の増大に伴い、粒子の析出量が増大する傾向にあり、粒子の大きさは、光照射時間に関わらず、50nm以上200nm以下の範囲で均一であった。
【0091】
図8と
図18との比較から、金属イオンの水溶液の濃度は、0.005mol/L以上であればよいことが示唆される。また、金属イオンの水溶液の濃度によって、金属粒子の析出量や析出速度が変化するため、当業者であれば、金属イオンの水溶液が上述の濃度範囲を満たし、光照射時間を適宜選択できる。
【0092】
図19は、例4の評価用試料の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0093】
図19によれば、図中のコントラストの暗く示される領域(すなわち、MoS
2単層原子膜)において、1分間以上光を照射すれば、金属粒子が分散して析出した。しかしながら、図中のコントラストの明るく示される領域(すなわち、MoS
22層の原子膜、および、それ以上の原子膜)には、金属粒子の析出は確認されなかった。このことから、半導体原子膜上の一部の領域に分散して位置する金属粒子が観察され、その他の領域に金属粒子が観察されない場合、金属粒子が観察された領域における半導体原子膜は単層であり、金属粒子が観察されないその他の領域における半導体原子膜は2層以上であると評価できることが示された。
【0094】
図20は、例5の評価用試料の光学顕微鏡写真を示す図である。
図21は、例6の評価用試料の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0095】
図20および
図21と
図8および
図18とを比較すれば、例5および例6の評価用試料には、金属イオンの水溶液の濃度に関わらず、金属粒子の析出が実質的に認められなかった。これは、例5および例6で用いた試料4は、MoS
2バルク単結晶基板から機械的に単層剥離されているため、欠陥や粒界がないためである。
【0096】
これらからも、
図1に示す本発明の方法を半導体原子膜に適用すれば、金属粒子を、半導体原子膜の欠陥(点欠陥や線欠陥などの格子欠陥)上に選択的に析出させることができ、光学顕微鏡などの通常の顕微鏡を用いて半導体原子膜の欠陥の有無を容易に評価でき、結晶性やデバイス性能評価プログラムにおける最初のスクリーニング技術として有効であることが示された。