特開2020-67338(P2020-67338A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2020-67338油圧装置の制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルの作成方法、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルおよび圧力推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-67338(P2020-67338A)
(43)【公開日】2020年4月30日
(54)【発明の名称】油圧装置の制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルの作成方法、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルおよび圧力推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/00 20060101AFI20200403BHJP
【FI】
   G01F1/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-199323(P2018-199323)
(22)【出願日】2018年10月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:公益社団法人計測自動制御学会制御部門 刊行物名:第5回計測自動制御学会制御部門 マルチシンポジウム カタログ番号18SY0003 発行年月日:平成30年3月8日
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 悟
(72)【発明者】
【氏名】那花 優将
【テーマコード(参考)】
2F030
【Fターム(参考)】
2F030CA04
2F030CC03
2F030CE02
2F030CE04
(57)【要約】
【課題】油圧装置における油圧制御弁から油圧シリンダへの制御流量を精度良く推定でき、実機への搭載も簡単に行える油圧装置の制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルを提案すること。
【解決手段】制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルは、油圧装置1において油圧制御弁3のスプール変位uおよび油圧シリンダのキャップ側圧力pから、油圧シリンダ2のキャップ側油圧室に流入する非定常流量要素である作動油のキャップ側流量Qを推定するために用いる。油圧装置を定義する非線形公称モデルを設定し、油圧装置の流量を含まない入出力の計測値をオフライン処理することで、非線形公称モデルからキャップ側流量を推定するためのキャップ側流量行列を求める。次に、ヒルベルトの射影定理を適用して、求めたキャップ側流量行列を低次元化して、ルックアップテーブルとして用いるキャップ側最適流量行列を求める。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複動ピストン形の油圧シリンダに対する油圧の供給を制御するスプール形式の油圧制御弁を備えた油圧装置において、前記油圧制御弁のスプール変位および前記油圧シリンダのキャップ側圧力およびロッド側圧力から、前記油圧シリンダのキャップ側油圧室およびロッド側油圧室にそれぞれ流入する作動油のキャップ側流量およびロッド側流量を推定するために用いる制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルの作成方法であって、
ステップ1において、前記油圧装置を定義する非線形公称モデルを設定し、前記油圧装置の流量を含まない入出力の計測値をオフライン処理することで、前記非線形公称モデルから、前記キャップ側流量を推定するためのキャップ側流量行列および前記ロッド側流量を推定するためのロッド側流量行列を求め、
ステップ2において、前記ステップ1で求めた前記キャップ側流量行列および前記ロッド側流量行列のそれぞれを低次元化して、前記制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルとして用いるキャップ側最適流量行列およびロッド側最適流量行列を求め、
前記ステップ1においては、
前記油圧装置を表す前記非線形公称モデルを、次の(式1)で表される入力状態方程式により定義し、
前記油圧装置を駆動して、一定のサンプリング周期で、前記油圧制御弁の前記スプール変位に対する前記油圧シリンダのピストン変位と、前記キャップ側圧力および前記ロッド側圧力を測定し、得られた測定値を用いて、オフライン処理により、前記ピストン変位、前記キャップ側圧力および前記ロッド側圧力のそれぞれの時間微分を算出し、
前記非線形公称モデルに基づき、前記キャップ側流量および前記ロッド側流量を、次の(式3−1)、(式3−2)で定義される流量行列で表し、
前記測定によって得られた各測定値と、前記オフライン処理により算出した前記時間微分と、予め同定したキャップ側体積弾性率およびロッド側体積弾性率の値とを用いて、前記キャップ側流量行列および前記ロッド側流量行列を同定し、
前記ステップ2においては、
行列空間におけるヒルベルトの射影定理に基づき、前記キャップ側流量行列および前記ロッド側流量行列の次数を低減して得られる前記キャップ側最適流量行列および前記ロッド側最適流量行列として用いる低次元化行列を、ウォルッシュ関数を用いて、次の(式4−1)、(式4−2)で定め、
前記キャップ側最適流量行列および前記ロッド側最適流量行列のそれぞれにおける非線形流量要素の前記キャップ側流量およびロッド側流量は、次の(式5−1)および(式5−2)
により定義されることを特徴とする油圧装置の制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルの作成方法。
【請求項2】
複動ピストン形の油圧シリンダに対する油圧の供給を制御するスプール形式の油圧制御弁を備えた油圧装置において、前記油圧制御弁のスプール変位と、前記油圧シリンダのキャップ側圧力およびロッド側圧力のうちの少なくとも一方のシリンダ圧力から、当該シリンダ圧力が作用する前記油圧シリンダのキャップ側油圧室あるいはロッド側油圧室に流入する作動油の制御流量を推定するために用いる制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルであって、
請求項1に記載の方法により作成された前記キャップ側流量を推定するための前記キャップ側最適流量行列、および、前記ロッド側流量を推定するための前記ロッド側最適流量行列のうちの一方の最適流量行列、または、双方の最適流量行列を備えていることを特徴とする油圧装置の制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブル。
【請求項3】
請求項2に記載の制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルとして、前記キャップ側最適流量行列を備えたものを用いて、複動ピストン形の油圧シリンダに対する油圧の供給を制御するスプール形式の油圧制御弁を備えた油圧装置における、前記油圧シリンダのキャップ側圧力を推定する油圧装置の圧力推定方法であって、
前記油圧制御弁のスプール変位および前記油圧シリンダのキャップ側圧力を用いて、前記制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルから、前記キャップ側流量を検索出力する流量推定ステップと、
検索出力された前記キャップ側流量から、前記油圧シリンダのピストン変位および当該ピストン変位の時間微分と、事前に同定したキャップ側体積弾性率を用いて、キャップ側圧力変化率を算出して出力する圧力変化率算出ステップと、
算出された前記キャップ側圧力変化率をそれぞれ積分して、推定キャップ側圧力を算出して出力する推定圧力算出ステップと
を有しており、
前記流量推定ステップでは、
前記スプール変位の値として位置センサによる測定値を用い、
初回の前記キャップ側流量および前記ロッド側流量の検索出力のために用いる前記キャップ側圧力の値として、予め定めた任意の初期値を用い、
初回以後の前記キャップ側流量の検索出力のために用いる前記キャップ側圧力の値として、前記推定圧力算出ステップで得られる前回の前記推定キャップ側圧力を使用する
油圧装置の圧力推定方法。
【請求項4】
請求項2に記載の制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルとして、前記キャップ側最適流量行列および前記ロッド側最適流量行列の双方を備えたものを用いて、
複動ピストン形の油圧シリンダに対する油圧の供給を制御するスプール形式の油圧制御弁を備えた油圧装置における、前記油圧シリンダのキャップ側圧力および前記ロッド側圧力を推定する油圧装置の圧力推定方法であって、
前記油圧制御弁のスプール変位と、前記油圧シリンダのキャップ側圧力およびロッド側圧力とを用いて、前記制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルから、前記キャップ側流量および前記ロッド側流量を検索出力する流量推定ステップと、
検索出力された前記キャップ側流量および前記ロッド側流量から、前記油圧シリンダのピストン変位および当該ピストン変位の時間微分と、事前に同定したキャップ側体積弾性率およびロッド側体積弾性率とを用いて、キャップ側圧力変化率およびロッド側圧力変化率を算出して出力する圧力変化率算出ステップと、
算出された前記キャップ側圧力変化率および前記ロッド側圧力変化率をそれぞれ積分して、推定キャップ側圧力および推定ロッド側圧力を算出して出力する推定圧力算出ステップと
を有しており、
前記流量推定ステップでは、
前記スプール変位の値として位置センサによる測定値を用い、
初回の前記キャップ側流量および前記ロッド側流量の検索出力のために用いる前記キャップ側圧力および前記ロッド側圧力の値として、予め定めた任意の初期値を用い、
初回以後の前記キャップ側流量および前記ロッド側流量の検索出力のために用いる前記キャップ側圧力および前記ロッド側圧力の値として、前記推定圧力算出ステップで得られる前回の前記推定キャップ側圧力および前記推定ロッド側圧力を使用する
油圧装置の圧力推定方法。
【請求項5】
複動ピストン形の油圧シリンダに対する油圧の供給を制御するスプール形式の油圧制御弁を備えた油圧装置における、前記油圧シリンダのキャップ側圧力およびロッド側圧力を推定する油圧装置の圧力推定方法であって、
前記油圧制御弁のスプール変位と、前記油圧シリンダのキャップ側圧力およびロッド側圧力とを用いて、事前に作成した制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルから、前記油圧シリンダのキャップ側油圧室およびロッド側油圧室にそれぞれ流入する作動油のキャップ側流量およびロッド側流量を検索出力する流量推定ステップと、
検索出力された前記キャップ側流量および前記ロッド側流量から、前記油圧シリンダのピストン変位および当該ピストン変位の時間微分と、事前に同定したキャップ側体積弾性率およびロッド側体積弾性率とを用いて、キャップ側圧力変化率およびロッド側圧力変化率を算出して出力する圧力変化率算出ステップと、
算出された前記キャップ側圧力変化率および前記ロッド側圧力変化率をそれぞれ積分して、推定キャップ側圧力および推定ロッド側圧力を算出して出力する推定圧力算出ステップと
を有しており、
前記油圧装置を表す非線形公称モデルを、次の(式1)で表される入力状態方程式により定義し、
前記油圧装置を駆動して、一定のサンプリング周期で、前記油圧制御弁の前記スプール変位に対する前記油圧シリンダのピストン変位と、前記キャップ側圧力および前記ロッド側圧力を測定し、得られた測定値を用いて、オフライン処理により、前記ピストン変位、前記キャップ側圧力および前記ロッド側圧力のそれぞれの時間微分を算出し、
前記非線形公称モデルに基づき、前記キャップ側流量および前記ロッド側流量を、次の(式3−1)、(式3−2)で定義される流量行列で表し、
前記測定によって得られた各測定値と、前記オフライン処理により算出した前記時間微分と、予め同定したキャップ側体積弾性率およびロッド側体積弾性率の値とを用いて、前記キャップ側流量行列および前記ロッド側流量行列を同定し、
同定された前記キャップ側流量行列および前記ロッド側流量行列により、前記制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルが定義されており、
前記流量推定ステップでは、
前記スプール変位の値として位置センサによる測定値を用い、
初回の前記キャップ側流量および前記ロッド側流量の検索出力のために用いる前記キャップ側圧力および前記ロッド側圧力の値として、予め定めた任意の初期値を用い、
初回以後の前記キャップ側流量および前記ロッド側流量の検索出力のために用いる前記キャップ側圧力および前記ロッド側圧力の値として、前記推定圧力算出ステップで得られる前回の前記推定キャップ側圧力および前記推定ロッド側圧力を使用する
油圧装置の圧力推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業機械等に用いられる油圧装置に関する。更に詳しくは、複動ピストン形の油圧シリンダに対する油圧の供給を制御するスプール形式の油圧制御弁を備えた油圧装置における、油圧制御弁のスプール変位および油圧シリンダのキャップ側圧力から、油圧シリンダのキャップ側およびロッド側に流入する作動油の制御流量の推定方法、並びに、キャップ側圧力およびロッド側圧力の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業機械、BigDog(非特許文献1)、無人建設機械、振動装置等の駆動制御に用いられる油圧装置は、電動装置と比較すると、出力荷重比が高いだけでなく、エネルギを消費せずに鉛直静止の姿勢維持が可能である。このため、油圧装置は建設、レスキュー、地雷除去、農業などの分野における作業機として普及しており、さらなる高度自動化が強く望まれている。しかしながら、油圧装置は、運動方程式だけでなく連続式にも支配される複雑な非線形系である。特に流量要素は多入力非線形系として知られており、電動アームに比べてモデル化が困難である。
【0003】
従来における油圧装置のモデル化は、基本的にベルヌーイの式に基づいている。すなわち、油圧装置において、多くの流量要素は通常のベルヌーイの式を用いて圧力について平方関数、スプール変位について線形関数としてモデリングされる(非特許文献2、3、4)。ベルヌーイの式は定常流を仮定しており、油圧装置における作動油の供給・排出が定常流であるとの前提に立っており、油圧装置に実在する非定常流要素をモデリングできない。
【0004】
例えば、本発明の対象である図1に示す油圧装置において、図12(a)、(b)に示すようなサイン波形状の入力(スプール変位u)に対するキャップ側圧力pを、実際に圧力センサにより測定した場合(図12(e)、(f)の「Sensor」として示す曲線)と、ベルヌーイの式によりキャップ側流量からキャップ側圧力を算出した場合(図12(e)、(f)の「Bernoulli」として示す曲線)とを比較すると分かるように、実際の圧力変動とは大きく乖離する運転領域が生じる。このため、油圧装置の制御系においては、圧力センサの測定値を用いて圧力制御を精度良く行う必要があるが、農業機械等においてはコスト低減の要求が強く、圧力センサが搭載されない場合が多い。
【0005】
そこで、物理モデル(連続式を含む)を使用せず、入出力の計測値(流量センサ値を含む)のみから定義されるルックアップテーブルを用いて、非定常流要素を表現することも多い。ルックアップテーブルでは定常流の仮定が不要であり、さらに多次元区分的アフィン系などでの(if文、switch文を含む)関数ではなく配列として実装されるので、油圧シリンダの圧力をオンライン推定するための計算機の負荷が相対的に低くなる。ところが、非定常流量要素の出力である流量の計測精度と計測レンジのトレードオフが強く、単数の流量計ではルックアップテーブルの定義が困難な場合が深刻な問題となり、複数の流量計では計測コストが不十分な場合が深刻な問題となる。さらに、現状では、計算機の負荷を下げるためのルックアップテーブルの最適な低次元化手法についても不明である。
【0006】
なお、以下に、本明細書において参照している先行技術文献を列記する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Marc Raibert, Kevin Blankespoor, Gabriel Nelson, Rob Playter and the BigDog Team: BigDog, the Rough-Terrain Quadruped Robot, Proc. IFAC World Congress, pp.10822-10825 (2008)
【非特許文献2】H. Merrit: Hydraulic control systems, Jhon Willey & Sons (1967)
【非特許文献3】前島祐三, 酒井悟, 中西稔, 大須賀公一:油圧アームの基底パラメータ同定法とモデル検証, 日本フルードパワーシステム学会論文集, Vol.43, No.1, pp.16-21 (2012)
【非特許文献4】前島祐三,酒井悟:鉛直多関節油圧マニピュレータのパラメータ同定法とモデル検証,計測自動制御学会論文集,Vol.50, No.1, pp.91-100 (2014)
【非特許文献5】D. Luenberger: Optimization by vector space method, Wiley interscience (1968)
【非特許文献6】A. Kugi and W. kemmetmuller. Newenergy-based nonlinear controller for hydraulic piston actuators. European Journal of Control, 10(2), pages 163-173, 2004.
【非特許文献7】J. L. Walsh: A closed set of normal orthogonal functions. American Journal of Mathmatics, 45(1), pages 5-524, 1923.
【非特許文献8】藤本悠介, 丸田一郎, 杉江俊治, ノンパラメトリック区分的アフィンモデルのl1 最適化に基づく単純化, システム制御情報学会論文誌, 27(4), pages 141-149, 2014.
【非特許文献9】Ichiro Maruta, Henrik: Compression Based Identification of PWA Systems, Proc. of IFAC 2014, pages 4985-4992, 2014.
【非特許文献10】Satoru Sakai, Yusuke Nabana: Optimal Non-Bernoulli modelling method for experimental hydraulic robots, In Proc. of IROS 2016, pages 2954-2959, 2016.
【非特許文献11】Lars E. Bengtsson: Lookup Table Optimization for Sensor Linearization in Small Embedded System, Journal of Sensor Technology, 2, pages 177-184, 2012.
【非特許文献12】S. Sakai and S. Stramigioli: Passivity force control of hydraulic robots. In Proc. of IFAC symposium on Robot Control, pages 20-25, 2009.
【非特許文献13】西海孝雄: 絵とき「油圧」基礎のきそ, 日刊工業新聞社, 2012.
【非特許文献14】L. Ljung, System Identification: Theory for the User. Prentice-Hall, second edition, 1999.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
建設、農業等の分野で使用される作業機は廉価であることの要求が高い。このためには、作業機の油圧装置の駆動制御系を、なるべく少ないセンサを用いて実現でき、また、実用上の観点からは計算機のCPU負荷が少なく簡単に実装可能な制御系を構築できることが望まれる。
【0009】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、油圧装置における油圧制御弁から油圧シリンダに供給される制御流量を精度良く推定でき、実機への搭載も簡単に行える油圧装置の制御流量推定用のルックアップテーブルを提案することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、この新しい制御流量推定用のルックアップテーブルを用いて油圧装置の油圧シリンダに作用する圧力を、精度良く推定可能な油圧装置の圧力推定方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の制御流量推定用のルックアップテーブルの作成方法は、
複動ピストン形の油圧シリンダに対する油圧の供給を制御するスプール形式の油圧制御弁を備えた油圧装置において、油圧制御弁のスプール変位および油圧シリンダのキャップ側圧力およびロッド側圧力から、油圧シリンダのキャップ側油圧室およびロッド側油圧室にそれぞれ流入する作動油のキャップ側流量およびロッド側流量を推定するために用いられ、
ステップ1において、油圧装置を定義する非線形公称モデルを設定し、油圧装置の流量を含まない入出力の計測値をオフライン処理して、非線形公称モデルによる推定値に基づいて、キャップ側流量を推定するためのキャップ側流量行列およびロッド側流量を推定するためのロッド側流量行列を求め、
ステップ2において、ステップ1で求めたキャップ側流量行列およびロッド側流量行列のそれぞれを、ヒルベルトの射影定理に基づき低次元化して、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルとして用いるキャップ側最適流量行列およびロッド側最適流量行列を求めている。
【0012】
このように、本発明の方法により作成されるルックアップテーブルは、通常のルックアップテーブルとは異なり、モデルベーストになっていることが特徴である。すなわち、従来におけるベルヌーイの式と連続式によるモデリング・同定をホワイトボックスモデリング、従来のルックアップテーブルをブラックボックスモデリングとすれば、本発明の方法は、連続式とルックアップテーブルを用いたグレーボックスモデリングと表現可能である。このような観点から、以下においては、本発明の方法により作成されるルックアップテーブルを、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルと呼ぶ。
【0013】
本発明者等によるベルヌーイの式を用いる従来の方法との比較を含む検証実験によれば、本発明の制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルを用いて同定される非定常流量要素(キャップ側制御流量、ロッド側制御流量)の有効性が確認された。
【0014】
また、本発明の油圧装置の圧力推定方法は、上記のキャップ側最適流量行列およびロッド側最適流量行列を備えた制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルを用いて、油圧シリンダのキャップ側圧力およびロッド側圧力を推定しており、
油圧制御弁のスプール変位と、油圧シリンダのキャップ側圧力およびロッド側圧力とを用いて、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルから、キャップ側流量およびロッド側流量を検索出力する流量推定ステップと、
検索出力されたキャップ側流量およびロッド側流量から、油圧シリンダのピストン変位および当該ピストン変位の時間微分と、事前に同定したキャップ側体積弾性率およびロッド側体積弾性率とを用いて、キャップ側圧力変化率およびロッド側圧力変化率を算出して出力する圧力変化率算出ステップと、
算出されたキャップ側圧力変化率およびロッド側圧力変化率をそれぞれ積分して、推定キャップ側圧力および推定ロッド側圧力を算出して出力する推定圧力算出ステップとを有しており、
上記の流量推定ステップでは、スプール変位の値として位置センサによる測定値を用い、初回のキャップ側流量およびロッド側流量の検索出力のために用いるキャップ側圧力およびロッド側圧力の値として、予め定めた任意の初期値を用い、初回以後のキャップ側流量およびロッド側流量の検索出力のために用いるキャップ側圧力およびロッド側圧力の値として、推定圧力算出ステップで得られる前回の推定キャップ側圧力および推定ロッド側圧力を使用している。
【0015】
本発明者等による制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルを用いたオンライン推定を介した検証実験によれば、油圧装置の入力値であるスプール変位に基づき、精度良く、キャップ側圧力およびロッド側圧力を推定でき、圧力センサを用いることなく、精度良く油圧装置を駆動制御可能な制御機構を構築可能なことが確認された。
【0016】
なお、計算機負荷に支障が無い場合などにおいては、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルとして、キャップ側最適流量行列およびロッド側最適流量行列を用いる代わりに、これらを低次元化する前の段階で得られるキャップ側流量行列およびロッド側流量行列を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明を適用した1自由度の油圧装置を示す構成図、および圧力推定用オブザーバ機能を示す概略ブロック図である。
図2A】最適流量行列同定法のSTEP1を示す説明図である。
図2B】最適流量行列同定法のSTEP2を示す説明図である。
図3】最適流量行列の同定実験に用いた実験機を示す説明図である。
図4】実験機の信号の流れを示すブロック図である。
図5】CaseAの実験結果の一例を示すグラフである。
図6】同定されたキャップ側流量行列の非定常流量要素の一例を示す説明図である。
図7】同定されたロッド側流量行列の非定常流量要素の一例を示す説明図である。
図8】ベルヌーイの式を用いる従来法から計算されるキャップ側流量行列の非定常流量要素を示す説明図である。
図9】ベルヌーイの式を用いる従来法から計算されるロッド側流量行列の非定常流量要素を示す説明図である。
図10】入力Aon=2.0V、f={0.5,5.0}Hzにおけるキャップ側圧力およびロッド側圧力を示すグラフである。
図11】提案法と従来法による流量の推定値をそれぞれ示すグラフである。
図12】同定に使用された低周波数0.5Hzの検証結果を示すグラフである。
図13】同定に使用されなかった高周波数5.0Hzの検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明を適用した油圧装置の制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルの作成方法および圧力推定方法について説明する。
【0019】
<油圧装置の構成例>
図1(a)は実施の形態に係る1自由度の油圧装置を示す構成図であり、図1(b)はその圧力推定用オブザーバ機能を示す概略ブロック図である。油圧装置1は、複動ピストン形の油圧シリンダ2と、油圧シリンダ2を駆動するスプール形式の油圧制御弁3と、コンピュータを中心に構成される制御装置4とを備えている。不図示の油圧源から供給される油圧あるいは電磁ソレノイドによる駆動力によって、指令入力に基づき、油圧制御弁3のスプール5の位置(スプール位置u)を制御して(弁開度を制御して)、油圧シリンダ2のキャップ側油圧室6、ロッド側油圧室7に対する油圧の供給・排出を制御して、負荷側に連結されるピストン8を移動させる。スプール変位uは制御用の入力として与えられ、ピストン変位は、ピストンに取り付けた位置センサ9によって検出される。
【0020】
本発明を適用した制御装置4には、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルLUTが実装された圧力推定用オブザーバ機能10が備わっている。圧力推定用オブザーバ機能10は、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルLUTから検索出力される推定制御流量(キャップ側流量、ロッド側流量)と、位置センサ9によって測定されるピストン変位に基づき、油圧制御弁3のキャップ側圧力、ロッド側圧力を推定する。制御装置4は推定されたキャップ側圧力、ロッド側圧力に基づき、油圧制御弁3のスプール変位(弁開度)を制御して、油圧シリンダ2の駆動を制御する。
【0021】
図1において、下付き符号の+と−は、それぞれ、キャップ側とロッド側を意味している。ピストン変位sはストローク中点を原点とし、スプール変位uはノーマル位置を原点とし、圧力p±と供給圧力Pは大気圧を原点とする。以下に、本明細書で扱う記号と添え字を示す。
【0022】
【0023】
<油圧装置の非線形公称モデル>
油圧装置1の油圧シリンダ2および油圧制御弁3から構成される油圧機構の非線形公称モデルを、次の(式1)で表すものとする(非特許文献9、10参照)。
【0024】
【0025】
キャップ側シリンダ体積、ロッド側シリンダ体積は、次式で定義される。
【0026】
なお、従来においては、入力流量であるキャップ側流量Q(p,u)およびロッド側流量Q(p,u)は、スプール開口部を通過する流量であり、ベルヌーイの式を用いて次の式により近似されている。
【0027】
【0028】
<最適行列同定法:制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルの作成>
制御装置4に実装される制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルLUTは、非定常流量要素(キャップ側流量、ロッド側流量)を行列空間上の1点とする最適行列によって規定される。本発明による最適行列を求めるための最適同定法は、二段階のステップ(STEP1とSTEP2)からなる。
【0029】
図2Aおよび図2Bは、STEP1、STEP2における処理内容を示す概念図である。ステップ1(STEP1)では、油圧装置1を駆動して、制御流量(キャップ側流量、ロッド側流量)を含まない入出力を計測し、得られた計測値をオフライン処理することで、非線形公称モデルによる推定値から流量行列(キャップ側流量行列、ロッド側流量行列)を同定する。ステップ2(STEP2)では、ヒルベルトの射影定理(非特許文献9参照)を適用して、試行錯誤を必要としない合理的な流量行列の最適な低次元化を行い、最適流量行列を求める。算出された最適流量行列(キャップ側最適流量行列、ロッド側最適流量行列)により制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルLUTを規定する。
【0030】
(STEP1)
油圧機構(2、3)の非線形公称モデルである(式1)の第二式(1−1)と第三式(1−2)を、流量要素Q(p,u)、Q(p,u)について整理すると、次の(式2−1)、(式2−2)が導き出される。
【0031】
【0032】
(式2−1)、(式2−2)の右辺を用いると、キャップ圧力の時間微分、ロッド圧力の時間微分、およびピストン速度から、左辺の流量を計算できる。(式2−1)と(式2−2)は連続の式であり、ベルヌーイの式と異なって定常流を仮定しない。(式2−1)、(式2−2)に基づき、非線形公称モデルによる推定値から流量行列を、次の(式3−1)、(式3−2)により定義する。
【0033】
【0034】
キャップ側圧力pの時間微分とロッド側圧力pの時間微分とピストン速度は計測不可能であるが、オフライン処理により十分に推定可能である。また、一般に未知とされている配管弾性の影響を含む体積弾性係数b、bについては、例えば、非特許文献2において提案されているパラメータ同定法によって同定可能である。これに基づき、入出力の計測値をオフライン処理して、キャップ側圧力pの時間微分とロッド側圧力pの時間微分とピストン速度を推定した。また、体積弾性率を公知のパラメータ同定法により同定した。そして、非線形公称モデルから、上記の(式3−1)、(式3−2)によって定義されるm×nの流量行列を求めた。流量行列は、色相、明度、彩度の異なる画素(非線形流量要素)のパターンとしてイメージできる。なお、図2A、2Bにおいては、4(=m)×4(=n)の流量行列を示してある。また、図2A、2Bおよび後述の図6図9においては、便宜的に、各非線形流量要素を表すカラー画素をグレースケールで表示してある。
【0035】
(STEP2)
STEP2では、算出したm×nの流量行列の最適な低次元化を図り、実機に搭載するのに適した実用的なサイズの最適流量行列を求めた。流量行列の低次元化行列は、ヒルベルトの射影定理から、次の(式4−1)、(式4−2)で示され、一意に存在する。
【0036】
【0037】
ここでは、正規直交基底として、空間解像度の昇順に並べ替えたウォルシュ基底(非特許文献11参照)を用いる。流量行列の低次元化行列は、行列空間上の距離である低次元化誤差を最小化する最適行列である。低次元化誤差は次式で表される。
【0038】
【0039】
最終的に、最適流量行列の非定常流量要素は、次の(式5−1)、(式5−2)により定義される。ここで、[x]はxの床関数である。
【0040】
【0041】
<同定実験>
上記のようにして作成した最適流量行列(制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブル)の同定実験を次のように行った。
【0042】
(1)実験方法
図3に実験機の外観を示し、図4に実験機の信号の流れを示す。実験機は以下の構成からなる。
油圧ユニット:ダイキン工業,NDR−81−071H−30,
吐出流量0.195×10−3/s
ポンプ供給圧力P=7.0×10(Pa)
油圧配管:横浜ゴム,NWP70−6,内径1/4inch
ベースプレート:油研工業,MMC−03−T−2−21
マニホールド:油研工業,DSGM−03−4009
制御弁:油研工業,LSVG−01EH−20−WC−A1−10,ゼロラップ型,
定格流量1/3×10−3/s,
最大ストローク1.0×10−3(m)
流量計:日本フローコントロール,VS01GPO,
計測レンジ1/6×10−6−1/6×10−3/s)
油圧シリンダ:JPN,KW−1CA30×75,
最大ストロークL=7.5×10−3(m)
作動油:ISO VG32,密度860(kg/m)(15℃)
オイルフィルタ:大生工業,UM−03−20U−1V
【0043】
十分な推定値を得るため、ロッド配管体積の異なる2条件、すなわち、ロッド流量計を取り付けた条件(以下CaseA)と取り外した条件(以下CaseB)のもとで同定した。入力は指令電圧であり、計算機(EPSON,LX7700,オンライン化Linux(登録商標),2.53GHz,計測周期1ms,物理メモリ240MB)より、DA変換器(Interface,PCI−3325,12bit)を介して制御弁に印加した。
【0044】
CaseAの入力、CaseBの入力は次のようにした。
【0045】
出力uは制御弁内部の差動トランス(0.5×10−3m/10V)、出力p±は圧力センサ(キーエンス,AP−15S),出力sはポテンショメータ(緑測器,LP−100F−C)で計測され,AD変換器(Interface,PCI−3155,16bit)を介して計算機に保存される。
【0046】
また、直接計測されないピストン速度と圧力の時間微分値はそれぞれピストン変位圧力から五点近似公式と51次の中央移動平均フィルタを介してオフライン推定される。油温(30±2℃)は熱電対(日本電測,TN1−3.2−10−EXA4M)によって計測される。
【0047】
Table1にSTEP1に用いるパラメータを示す。ただし、体積弾性係数は、非特許文献2、3に記載のパラメータ同定法によって同定される。流量行列の次数n×m=128×128=16384とした。STEP2における正規直交基底の打ち切り数はl=64×64=4096とした。
【0048】
(Table1)
【0049】
(2)結果と考察
図5に、Aon=2.0V,f=0.5+(4.0−0.5)/35・tHzにおけるCaseAの実験結果を一例として示す。圧力波形の歪みとピストン変位の非対称性が観察された。油圧アームは運動方程式だけでなく連続式にも支配される複雑な非線形系であることが確認される。
【0050】
Table2に実験結果から計算される(オフライン処理により得られる)キャップ圧力、ロッド圧力、スプール変位のそれぞれの最小値とレンジを示す。圧力波形とピストン変位はともに上下限値に達しておらず飽和要素は無視できると考えられる。
【0051】
(Table2)
【0052】
図6図7に、上記のようにして同定されたキャップ側流量行列およびロッド側流量行列の非定常流量要素を示す。比較のため、図8図9にベルヌーイの式を用いる従来法から計算されるキャップ側流量行列およびロッド側流量行列の非定常流量要素を示す。非特許文献2のパラメータ同定法によって同定された(非特許文献3)ベルヌーイの式における流量ゲインC,Cは無次元数の流量係数α、αにそれぞれ変換すると、
α=0.62
α=0.58
となり、常の流量係数0.6〜0.8(非特許文献2)との差が十分小さかった。
【0053】
図6図8の比較、図7図9の比較から、本発明による提案法から同定された非定常流量要素は、推定領域(非零流量の領域)において、従来法から計算される非定常流量要素と巨視的傾向が十分一致した(両者の最大差は、1.4×10−5/s、平均差は1.5×10−6/s)。図6図7は十分な推定値に基づく同定実験結果と考えられる。
【0054】
図11には、提案法と従来法による流量の推定値をそれぞれ示す。図11の各グラフにおいて、「Proposed」として示す曲線が提案法による推定値であり、「Bernoulli」として示す曲線が従来法による推定値である。高周波数3.0Hzの場合、0.4s時点にて提案法の出力に外れ値が確認された。外れ値は図10の(p,u)=(3.0×10,0.075×10−3)付近または、図11の(p,u)=(3.3×10,0.075×10−3)付近であり、図6の零流量の領域の付近であった。外れ値は、計測困難な領域(そもそも使用頻度の小さい領域)に達したために発生したと考えられる。
【0055】
以上、従来のベルヌーイの式とは異なって、非定常流を再現する流量要素と行列空間上の同定法を提案した。本発明による提案モデルを従来のベルヌーイを用いたモデル、および流量計と比較し、オンラインモデル検証により提案モデルの有効性とオンライン実装の可否を実験により検証した。提案モデルの特徴は、ルックアップテーブルを行列空間の一要素とし、行列として扱うことで機能的に一意に低次元モデルを与える事である。提案モデルの出力は、ベルヌーイに基づく従来表現とは異なり、過渡状態の流量を表現できると考えられる。また、非線形圧力が再現できる点から、以下に述べる非線形圧力推定に応用可能だと考えられる。
【0056】
<オンライン推定:圧力推定用オブザーバの構築>
次に、提案法によって同定された非定常流量要素の推定圧力と計測圧力を比較して、上記のように同定される非定常流量要素を用いたキャップ側圧力およびロッド側圧力のオンライン推定について検討する。
【0057】
一般に、計測装置には解像度とレンジのトレードオフが存在する。特に油圧装置の流量計のトレードオフは強く、単一の流量計では解像度とレンジの双方を満足できることが少ない。実際、ベルヌーイの式が普及していることの一因は流量計ではなく圧力計を使用できる点だと考えられる。
【0058】
そこで、流量Q(p,u)、Q(p,u)ではなく、(式1)の第二式(1−1)と第三式(1−2)に基づいて、圧力p、pを検証する。同時に、これら第二式(1−1)と第三式(1−2)を計算機に実装して、オンライン推定が可能であるかどうかを評価する。離散化を必要とするベルヌーイの式と異なって、提案モデルは離散化を必要とせずif文・switch文などの関数を使用することなくして配列として直接実装される。
【0059】
(1)実験方法
実験機はCaseAと同一とする。図6に示される提案法によって同定された非定常流量要素(最適流量行列からなる制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブル)に対して、図10に示される入力Aon=2.0V、f={0.5,5.0}Hzにおけるスプール変位uと圧力p±を入力することによって、流量の推定値を計算する。さらに、流量の推定値とピストン変位s、ピストン速度を第二式(1−1)と第三式(1−2)に代入して、圧力p、pをオンライン推定する。
【0060】
ここで、ピストン速度はピストン変位sから後退一次差分とローパスフィルタ(1次、10Hz)を介して、オンライン推定される。(式1)の第二式(1−1)と第三式(1−2)は双一次変換されて実装される。非定常流量要素に入力される圧力p、pは、オンライン推定値であり、初期値を除いて圧力計測値は原則的に使用されない。
【0061】
同様に、Table2のパラメータとベルヌーイの式を用いる従来法から計算される非定常流量要素に対して同一のスプール変位uと圧力p±の計測値を入力することによって、流量の推定値を計算する。さらに、流量の推定値とピストン変位s、ピストン速度を(式1)の第二式(1−1)と第三式(1−2)に代入して、圧力p、pをオンライン推定する。
【0062】
(2)結果と考察
図12に同定に使用された低周波数0.5Hzの検証結果、図13に同定に使用されなかった高周波数5.0Hzの検証結果を示す。図12(a)、図13(a)はスプール変位、図12(b)、図13(b)はピストン変位、図12(c)、図13(c)はキャップ側流量、図12(d)、図13(d)はロッド側流量、図12(e)、図13(e)はキャップ側圧力、図12(f)、図13(f)はロッド側圧力を、それぞれ示す。これらの図において、「Proposed」として示す曲線が提案法による推定値であり、「Bernoulli」として示す曲線が従来法による推定値であり、「Sensor」として示す曲線が計測値である。これらの図において、図10のキャップ側圧力p、ロッド側圧力pの計測値と、図12および図13のキャップ側圧力p、ロッド側圧力pのオンライン推定値の比較から、実行周期を遅らせることなくオンライン推定が実現された。提案法による非定常流量要素による計算機の負荷は十分に小さいと考えられる。なお、図11のレイノルズ数は350程度以下であった。層流ではレイノルズ数は100以下で流量係数が急激に小さくなる(非特許文献2参照)。したがって、流量の符号変化の前後、零流量の領域の付近では油圧アームに実在する非定常流要素のレイノルズ数は小さく、流量差が大きいと考えられる。
【0063】
図12および図13において、流量の符号変化の前後、従来法は油圧装置に実在する非定常流要素をモデリングしないため、流量差が大きくなったと考えられる。流量振幅ピークの前後、低周波数0.5Hzの場合、流量の定常特性が強くなって、従来法の定常流の仮定から流量差が小さくなったと考えられる。流量振幅ピークの前後、高周波数3.0Hzの場合、流量の定常特性と比較して流量の符号変化の前後の影響が消失していないため、流量差が大きいと考えられる。
【0064】
図12および図13において、従来法の圧力推定値と比較すると、提案法の圧力推定値は圧力計測値に振幅と位相の点で十分に近かった。特に1.0s付近では従来法の圧力推定値と圧力計測値は大きく異なった。流量の符号変化の前後、定常流を仮定するベルヌーイの式のために従来法は油圧装置に実在する非定常流要素をモデリングできず圧力推定が困難と考えられる。
【0065】
Table3に、各周波数におけるFit率の評価結果を示す。
【0066】
【0067】
(Table3)
【0068】
Table3において、キャップ側圧力のFit率と比較して、ロッド側圧力のFit率は高くなった。ロッド側流量の振幅がキャップ側流量の振幅よりも小さく、流量の符号変化の前後の影響が消失しやすいためと考えられる。同定に使用されなかった高周波数においても提案法によって高いFit率が得られたが、従来法ではキャップ側圧力は負のFit率となった。従来法ではベルヌーイの式が非定常流をモデリングできないためと考えられる。また、キャップ側圧力のFit率と比較して、ロッド側圧力のFit率は高くなった。ロッド側流量の振幅がキャップ側流量の振幅よりも小さいためと考えられる。
【0069】
(圧力推定方法)
以上より、提案法がオンライン実装可能であり、モデル検証の結果、有効であることが確認された。この結果に基づき、油圧装置の制御機構に実装される圧力推定用オブザーバ機能(キャップ側圧力、ロッド側圧力の推定機能)を次のように構築できる。
【0070】
図1を参照して説明すると、計算機から構成される制御装置4に実装される圧力推定用オブザーバ機能10は、次のステップを経て、キャップ側圧力、ロッド側圧力をオンライン推定する。
油圧制御弁のスプール変位sと、油圧シリンダのキャップ側圧力pおよびロッド側圧力pとを用いて、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルLUTから、キャップ側流量Q(p,u)およびロッド側流量Q(p,u)を検索出力する流量推定ステップ
検索出力されたキャップ側流量Q(p、u)およびロッド側流量Q(p,u)から、油圧制御弁3のピストン変位sおよび当該ピストン変位sの時間微分と、事前に同定したキャップ側体積弾性率bおよびロッド側体積弾性率bとを用いて、キャップ側圧力変化率およびロッド側圧力変化率を算出して出力する圧力変化率算出ステップ
算出されたキャップ側圧力変化率およびロッド側圧力変化率をそれぞれ積分して、推定キャップ側圧力および推定ロッド側圧力を算出して出力する推定圧力算出ステップ(以下に、(式1)の第二式(1−1)から得られるキャップ側圧力の算出式を示す。ロッド側圧力の算出も同様である。)
【0071】
【0072】
ここで、流量推定ステップでは、スプール変位sの値として、位置センサ9による測定値を用いる。しかし、初回のキャップ側流量Q(p,u)およびロッド側流量Q(p,u)の検索出力においては、キャップ側圧力pおよびロッド側圧力pの値が不明である。そこで、これらの値として、予め定めた任意の初期値を用いる。初回以後のキャップ側流量およびロッド側流量の検索出力のために用いるキャップ側圧力およびロッド側圧力の値は、推定圧力算出ステップにおいて算出された前回の推定キャップ側圧力および推定ロッド側圧力を使用する。先に述べた図12(e)、(f)に示すオンライン推定の実験結果(推定圧力)は、初期の圧力として圧力センサにおける圧力計測値を用いているが、本発明者等の実験によれば、初期値として任意の値を与えた場合においても短時間で推定圧力が実際の圧力に向かって収束することが確認された。
【0073】
なお、上記の説明においては、制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルLUTは、キャップ側最適流量行列およびロッド側最適流量行列の双方を備えている。また、この制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルLUTを用いたオンライン推定法においては、キャップ側圧力およびロッド側圧力の双方を推定している。本発明は、これら双方の流量行列の推定、双方の圧力推定に限定されるものではない。制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブルLUTとして、キャップ側最適流量行列およびロッド側最適流量行列のうちの一方を備えたものを用意し、これを用いたオンライン推定によって、キャップ側圧力およびロッド側圧力のうちの一方の圧力を推定することも勿論可能であり、このような場合も本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0074】
1 油圧装置
2 油圧シリンダ
3 油圧制御弁
4 制御装置
5 スプール
6 キャップ側油圧室
7 ロッド側油圧室
8 ピストン
9 位置センサ
10 圧力推定用オブザーバ機能
LUT 制御流量推定用のモデルベーストルックアップテーブル
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13