特開2020-67444(P2020-67444A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スミダコーポレーション株式会社の特許一覧

特開2020-67444磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法
<>
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000003
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000004
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000005
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000006
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000007
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000008
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000009
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000010
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000011
  • 特開2020067444-磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-67444(P2020-67444A)
(43)【公開日】2020年4月30日
(54)【発明の名称】磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20200403BHJP
【FI】
   G01R33/02
   G01R33/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-202362(P2018-202362)
(22)【出願日】2018年10月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AD69
2G017BA15
(57)【要約】
【課題】 比較的低コストで、検査対象物体内部の磁場発生源の深さ方向の位置を推定可能である磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法を得る。
【解決手段】 磁気センサ部10は、検査対象物体の表面上または表面上方において被測定磁場の強度および向きを検出する。位置推定部22は、磁気センサ部10によって上述の表面の2次元方向における少なくとも2つの位置で検出された被測定磁場の強度および向きに基づいて、検査対象物体内部の不特定の位置に存在している磁場発生源の深さ方向の位置を推定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物体の表面上または表面上方において被測定磁場の強度および向きを検出する磁気センサ部と、
前記磁気センサ部によって前記表面の2次元方向における少なくとも2つの位置で検出された前記被測定磁場の強度および向きに基づいて、前記検査対象物体内部の不特定の位置に存在している磁場発生源の深さ方向の位置を推定する位置推定部と、
を備えることを特徴とする磁場発生源検出装置。
【請求項2】
測定制御部と、基準磁場発生部とをさらに備え、
前記磁気センサ部は、光検出磁気共鳴部材と、前記光検出磁気共鳴部材にマイクロ波を印加するコイルと、前記光検出磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、前記光検出磁気共鳴部材から発せられる光を検出し、検出した前記光に対応する電気信号を出力する受光装置とを備え、
前記光検出磁気共鳴部材は、複数の特定カラーセンタを有し、
前記特定カラーセンタは、ゼーマン分裂可能なエネルギー準位を有し、かつ、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる複数の向きを取ることが可能であり、
前記基準磁場発生部は、前記複数の特定カラーセンタのエネルギー準位をゼーマン分裂させる基準磁場を印加し、
前記複数の特定カラーセンタは、互いに異なる複数の向きを有し、
前記複数の特定カラーセンタの前記エネルギー準位は、前記基準磁場によって、それぞれ、前記複数の向きに対応した互いに異なる幅でゼーマン分裂し、
前記測定制御部は、所定の複数の位置のそれぞれにおいて、前記マイクロ波の周波数を変化させつつ、前記電気信号に基づいて前記光の強度の周波数特性を特定し、
前記位置推定部は、(a)前記光の強度の周波数特性に基づいて、前記複数の向きのそれぞれについての前記被測定磁場に起因する磁場成分を特定し、(b)前記複数の向きの前記磁場成分に基づいて前記被測定磁場の強度および向きを特定し、(c)前記少なくとも2つの位置について特定された前記被測定磁場の強度および向きに基づいて、前記磁場発生源の深さ方向の位置を推定すること、
を特徴とする請求項1記載の磁場発生源検出装置。
【請求項3】
前記位置推定部は、検出すべき前記磁場発生源の種別に対応する前記被測定磁場の分布特性と、前記少なくとも2つの位置について特定された前記被測定磁場の強度および向きとに基づいて、前記磁場発生源の深さ方向の位置を推定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の磁場発生源検出装置。
【請求項4】
前記検査対象物体は、非磁性材料で構成されており、
前記磁場発生源は、(a)前記検査対象物体内部の不特定の位置、または前記検査対象物体内部に多層的に敷設されている複数の導電路のいずれかを導通する電流、および(b)前記検査対象物体内部の不特定の位置に入り込んでいる磁性物体のいずれかであること、
を特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の磁場発生源検出装置。
【請求項5】
被測定磁場の強度および向きを検出する磁気センサ部を使用して、検査対象物体の表面上または表面上方において、前記表面の2次元方向における少なくとも2つの位置で前記被測定磁場の強度および向きを検出するステップと、
前記少なくとも2つの位置で検出した前記被測定磁場の強度および向きに基づいて、前記検査対象物体内部の不特定の位置に存在している磁場発生源の深さ方向の位置を推定するステップと、
を備えることを特徴とする磁場発生源検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある磁場発生源推定方法では、被検体内部が3次元立体格子網で表現され、被検体外部に配置された検出コイルおよびSQUID(超電導量子干渉計)を使用して、3次元立体格子網のノードにおける電流分布が被検体中の電流分布として推定されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
他方、ある導電率分布導出方法では、検査対象物体の表面上で、磁気センサ(TMRセンサ)を走査して磁場情報が取得され、その磁場情報に基づいて、検査対象物体の2次元内部導電率分布(走査面に対応する2次元方向における導電率分布)が導出されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−220123号公報
【特許文献2】国際公開WO2015/136931号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の磁場発生源推定方法では、検出コイルによって測定される外部の磁場強度分布からSQUIDで内部電流分布を推定することが可能であるものの、SQUIDを使用するため、非常に高コストであり、一般的な産業分野(特に工業分野)では実用的ではない。
【0006】
また、上述の導電率分布導出方法では、2次元の導電率分布を導出することが可能であるものの、検査対象物体の深さ方向の導電率変化を検出することは困難である。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、比較的低コストで、検査対象物体内部の磁場発生源の深さ方向の位置を推定可能である磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る磁場発生源検出装置は、検査対象物体の表面上または表面上方において被測定磁場の強度および向きを検出する磁気センサ部と、磁気センサ部によって上述の表面の2次元方向における少なくとも2つの位置で検出された被測定磁場の強度および向きに基づいて、検査対象物体内部の不特定の位置に存在している磁場発生源の深さ方向の位置を推定する位置推定部とを備える。
【0009】
本発明に係る磁場発生源検出方法は、被測定磁場の強度および向きを検出する磁気センサ部を使用して、検査対象物体の表面上または表面上方において、上述の表面の2次元方向における少なくとも2つの位置で被測定磁場の強度および向きを検出するステップと、上述の少なくとも2つの位置で検出した被測定磁場の強度および向きに基づいて、検査対象物体内部の不特定の位置に存在している磁場発生源の深さ方向の位置を推定するステップとを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的低コストで、検査対象物内部の磁場発生源の深さ方向の位置を推定可能である磁場発生源検出装置および磁場発生源検出方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る磁場発生源検出装置の構成を示す図である。
図2図2は、検査対象物体内の磁場発生源としての電流を示す透過斜視図である。
図3図3は、実施の形態1における磁気センサ部10の走査について説明する斜視図である。
図4図4は、磁場発生源としての電流により誘起する磁場について説明する図である。
図5図5は、実施の形態1における磁場発生源としての電流の深さ方向の位置の推定について説明する図である。
図6図6は、NVセンタの複数の向きについて説明する図である。
図7図7は、NVセンタの複数の向きに対応するNVセンタのゼーマン分裂後の蛍光強度の周波数特性について説明する図である。
図8図8は、検査対象物体内の電極間で発生する磁場発生源としてのリーク電流の一例を示す図である。
図9図9は、検査対象物体内の電極間で発生する磁場発生源としてのリーク電流の別の例を示す図である。
図10図10は、磁場解析の一例における演算式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
実施の形態1.
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る磁場発生源検出装置の構成を示す図である。図2は、検査対象物体内の磁場発生源としての電流を示す透過斜視図である。図1に示す磁場発生源検出装置は、図2に示すように、検査対象物体100内の磁場発生源としての電流Iを検出する。つまり、実施の形態1では、磁場発生源は、(a)検査対象物体100内部の不特定の位置を導通する電流(例えば電極間のリーク電流など)、または(b)検査対象物体100内部に多層的に敷設されている複数の導電路(例えば単層基板の表面と裏面に敷設された配線パターン、多層基板の各層に敷設された配線パターンなど)を導通する電流である。なお、検査対象物体100は、非磁性材料で構成されている。
【0015】
図1に示す磁場発生源検出装置は、磁気センサ部10と、演算処理装置11と、高周波電源12とを備える。
【0016】
磁気センサ部10は、検査対象物体の表面上または表面上方において被測定磁場の強度および向きを検出する。磁気センサ部10は、各位置において、被測定磁場の強度および向きを同時に検出する。
【0017】
この実施の形態では、光検出磁気共鳴部材1、コイル2、基準磁場発生部3、照射装置4、および受光装置5を備える。
【0018】
また、この実施の形態では、光検出磁気共鳴部材1は、複数の特定カラーセンタを有する。この特定カラーセンタは、ゼーマン分裂可能なエネルギー準位を有し、かつ、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる複数の向きを取り得る。
【0019】
ここでは、光検出磁気共鳴部材1は、単一種別の特定カラーセンサとして複数のNV(Nitrogen Vacancy)センタを有するダイヤモンドなどの板材であって、支持板1aに固定されている。NVセンタの場合、基底状態がMs=0,+1,−1の三重項状態であり、Ms=+1の準位およびMs=+1の準位がゼーマン分裂する。また、後述するように、ダイヤモンド結晶格子上での原子(ここでは窒素)および空孔の位置関係によって、NVセンタは、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる4つの向きを取り得る。
【0020】
コイル2は、光検出磁気共鳴部材1にマイクロ波を印加する。マイクロ波の周波数は、光検出磁気共鳴部材1の種類に応じて(つまり、特定カラーセンサの基底状態のサブ準位間のエネルギー差に応じて)設定される。例えば、光検出磁気共鳴部材1が、NVセンタを有するダイヤモンドである場合、ゼーマン分裂なしでのサブ準位(Ms=0とMs=±1)間のエネルギー差に対応する周波数が約2.87GHzであるので、コイル2は、2.87GHzを含む所定の周波数範囲(つまり、ゼーマン分裂によるサブ準位のシフト分に対応する範囲を含む周波数範囲)のマイクロ波を印加する。なお、高周波電源12は、コイル2にマイクロ波の電流(つまり、上述のマイクロ波の磁場を生成するための電流)を導通させる。
【0021】
基準磁場発生部3は、光検出磁気共鳴部材1内の複数の特定カラーセンタ(ここでは、複数のNVセンタ)のエネルギー準位をゼーマン分裂させる基準磁場(直流磁場)を印加する。基準磁場発生部3としては、永久磁石、コイルなどが使用される。基準磁場発生部3としてはコイルが使用される場合、直流電源が設けられ、そのコイルに電気的に接続され、そのコイルに直流電流を供給し、これにより、基準磁場が発生する。上述の複数の特定カラーセンタは、互いに異なる複数の向きを有し、この基準磁場によって、その複数の特定カラーセンタのエネルギー準位は、それぞれ、その複数の向きに対応した互いに異なるシフト幅でゼーマン分裂する。
【0022】
照射装置4は、光検出磁気共鳴部材1に光(所定波長の励起光と所定波長の測定光)を照射する。受光装置5は、測定光の照射時において光検出磁気共鳴部材1から発せられる蛍光を検出する。
【0023】
また、演算処理装置11は、例えばコンピュータを備え、プログラムをコンピュータで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置11は、測定制御部21、および位置推定部22として動作する。
【0024】
測定制御部21は、所定の直流磁場測定シーケンスに従って高周波電源12および照射装置4を制御し、磁気センサ部10の受光装置5により検出された蛍光の検出光量を特定する。例えば、照射装置4は、レーザーダイオードなどを光源として備え、受光装置5は、フォトダイオードなどを受光素子として備え、測定制御部21は、受光素子の出力信号に対して増幅などを行って得られる受光装置5の出力信号に基づいて、上述の検出光量を特定する。
【0025】
この実施の形態では、上述の所定の直流磁場測定シーケンスとして、例えばラムゼイパルスシーケンスが適用される。ただし、これに限定されるものではない。
【0026】
位置推定部22は、磁気センサ部10によって、検査対象物体100の表面の2次元方向における少なくとも2つの位置で検出された被測定磁場の強度および向きに基づいて、検査対象物体内部の不特定の位置に存在している磁場発生源の深さ方向の位置、および上述の2次元方向の位置を推定する。
【0027】
図3は、実施の形態1における磁気センサ部10の走査について説明する斜視図である。測定制御部21は、図示せぬスライダーなどといった駆動装置を制御し、検査対象物体100の表面の2次元方向(X方向およびY方向)において、例えば図3に示すように、平面状の測定領域111内で磁気センサ部10を走査させ、走査経路上の所定の複数の位置において、磁気センサ部10を使用した磁場測定(磁場強度および磁場の向きの測定)を実行する。なお、磁気センサ部10の走査パターンは、図3のものに限定されるものではない。
【0028】
図4は、磁場発生源としての電流Iにより誘起する磁場について説明する図である。図5は、実施の形態1における磁場発生源としての電流の深さ方向の位置の推定について説明する図である。
【0029】
図4に示すように、略直線状の電流Iの場合、アンペールの法則により周回磁場が誘起する。したがって、走査経路上のX方向の位置(またはY方向の位置)に応じて、電流Iにより誘起する磁場の強度および向きが変化する。
【0030】
そのため、(a)走査経路上で、磁場強度がピークとなる位置を挟み、かつ、測定磁場強度が略同一となる2つの位置の対が抽出され、(b)抽出された2つの位置の対のうち、その2つの位置の測定磁場Bm1のベクトルおよび測定磁場Bm2のベクトルが単一平面内に存在するような対を選択し、(c)例えば図5(a)に示すように、選択した対の2つの位置(X1,Y1),(X2,Y2)について、測定磁場Bm1の向きの法線方向と測定磁場Bm2の法線方向との交点が、その測定磁場Bm1,Bm2に対応する電流Iの位置であると推定される。
【0031】
なお、図5(b)に示すように、その単一平面が検査対象物体100の表面の法線方向から角度φだけ傾いている場合(つまり、電流Iが深さ方向において傾いている場合)には、電流Iの深さ方向の位置は、cos(φ)で補正される。一方、電流Iが深さ方向において傾いていない(つまり、電流Iが表面に対して平行に導通している)ことが既知である場合、φ=90であるので、角度φの特定、およびcos(φ)での補正は不要である。
【0032】
つまり、この場合、電流Iの深さ方向(つまり、磁気センサ部10の走査面に対する垂直方向)の推定位置ZIestは、次式で導出される。
【0033】
ZIest=(D/2)×cot(θ)×cos(φ)−Zs
【0034】
ここで、θは、磁気センサ部10の走査面(ここでは平面)と測定磁場Bm1,Bm2との成す角度である。また、Zsは、検査対象物体100の表面から磁気センサ部10の走査面までの高さである。また、Dは、2つの位置(X1,Y1),(X2,Y2)間の距離である。
【0035】
この場合、電流Iの表面の2次元方向(X方向およびY方向)の推定位置XIest,YIestも同様に、2つの位置(X1,Y1),(X2,Y2)および測定磁界Bm1,Bm2から幾何学的演算により導出される。
【0036】
なお、ここでは、2つの位置での磁場測定結果から電流Iの位置を推定しているが、3つ以上の位置(例えば4つの位置)での磁場測定結果から電流Iの位置を推定してもよい。
【0037】
また、位置推定部22は、検出すべき磁場発生源の種別(実施の形態1では電流)に対応する被測定磁場の分布特性と、上述の少なくとも2つの位置について特定された被測定磁場の強度および向きとに基づいて、磁場発生源の深さ方向の位置を推定する。
【0038】
つまり、検出すべき磁場発生源の種別が略直線状の電流であれば、被測定磁場の分布特性は上述のようにアンペールの法則に従うため、略直線状の電流により誘起される既知の分布特性に基づいて、磁場発生源の深さ方向の位置が推定される。このように、検出すべき磁場発生源の種別に応じた演算で、位置推定部22は、被測定磁場の強度および向きから磁場発生源の深さ方向の位置を導出する。
【0039】
なお、検出すべき磁場発生源の種別が未知である場合、位置推定部22は、走査経路上の複数の位置で得られた被測定磁場の強度および向きから磁場発生源の種別を推定し、推定した磁場発生源の種別に対応する被測定磁場の分布特性に基づいて、磁場発生源の深さ方向の位置を推定するようにしてもよい。
【0040】
この実施の形態では、測定制御部21は、上述の走査経路上の所定の複数位置(例えば所定距離ごとの位置)のそれぞれにおいて、高周波電源12を制御して上述のマイクロ波の周波数を変化させつつ、受光装置5からの電気信号に基づいて光の強度の周波数特性を特定し、位置推定部22は、(a)その光の強度の周波数特性に基づいて、上述の複数の向きのそれぞれについての被測定磁場に起因する磁場成分を特定し、(b)複数の向きの磁場成分に基づいて(つまり、複数の向きの磁場成分ベクトルを合成することで)被測定磁場の強度および向きを特定し、(c)上述の少なくとも2つの位置について特定された被測定磁場の強度および向きに基づいて、磁場発生源の深さ方向の位置を推定する。
【0041】
図6は、NVセンタの複数の向きについて説明する図である。図7は、NVセンタの複数の向きに対応するNVセンタのゼーマン分裂後の蛍光強度の周波数特性(マイクロ波周波数に対する蛍光強度の特性)について説明する図である。
【0042】
図6に示すように、ダイヤモンド結晶内の空孔(V)に対して、隣接する窒素(N)の取り得る位置は4種類あり、それらの位置(つまり、空孔と窒素との対の向き)のそれぞれに応じて、ゼーマン分裂によるサブ準位のシフト幅が異なる。したがって、図7に示すように、マイクロ波の周波数に対する基準磁場によるゼーマン分裂後の蛍光強度の特性において、それぞれの向きiに対応して、互いに異なるディップ周波数対(fi+,fi−)が現れる。
【0043】
さらに、被測定磁場の向きについて、上述の4つの向きiに対応する4つのディップ周波数対(fi+,fi−)のシフト量dfi+,dfi−をそれぞれ特定することで、被測定磁場の向きが特定される。具体的には、磁気センサ部10の幾何学的形状における基準の方向と被測定磁場の向きとの角度と、4つのディップ周波数対(fi+,fi−)のシフト量のパターンとの対応関係が予め実験などで特定され、その対応関係に基づいて、その4つのディップ周波数対(fi+,fi−)のシフト量dfi+,dfi−のパターンから被測定磁場の向きが特定される。また、その4つのディップ周波数対(fi+,fi−)のシフト量の大きさから、被測定磁場の強度が特定される。
【0044】
このようにして、この実施の形態では、ダイヤモンドNVセンタを使用した磁気センサ部10で被測定磁場の強度および向きが特定される。
【0045】
なお、他のカラーセンタをNVセンタの代わりに上述の特定カラーセンタとして使用する場合でも、同様にして、被測定磁場の強度および向きを特定することができる。
【0046】
上述の検査対象物体100内の電流Iは、例えば検査対象物体100内部の電極間のリーク電流Ileakでもよい。図8は、検査対象物体内の電極間で発生する磁場発生源としてのリーク電流の一例を示す図である。図9は、検査対象物体内の電極間で発生する磁場発生源としてのリーク電流の別の例を示す図である。
【0047】
例えば図8に示すように、磁気センサ部10の走査面(X−Y平面)に対して垂直であり、かつ走査面に対して平行な方向に配列された2つの電極121間のリーク電流Ileakの位置(つまり、リーク電流の経路)が、上述のようにして推定可能である。
【0048】
また、例えば図9に示すように、磁気センサ部10の走査面(X−Y平面)に対して平行であり、かつ走査面に対して平行な方向に配列された2つの電極121間のリーク電流Ileakの位置(つまり、リーク電流の経路)が、上述のようにして推定可能である。
【0049】
次に、実施の形態1に係る磁場発生源検出装置の動作について説明する。
【0050】
測定制御部21は、所定の走査パターンに沿って磁気センサ部10を移動させ、走査経路上の所定測定位置において、上述のようにして、その測定値での磁場の強度および向きを磁気センサ部10に検出させる。
【0051】
そして、位置推定部22は、上述のように、すべての測定位置から、位置推定に使用する少なくとも2つの測定位置を測定位置群を選択し、選択した測定位置群の測定位置で測定された磁場の強度および向きに基づいて、その測定位置に対応する電流Iの位置(つまり、深さ方向(Z方向)の位置と、その深さ方向の位置に対応する表面上の(X方向およびY方向)の位置)とを推定する。
【0052】
このようにして、位置推定部22は、すべての測定位置から複数の測定位置群を抽出し、各測定位置に対応する電流Iの位置を推定し、電流Iの経路を特定する。
【0053】
以上のように、上記実施の形態1によれば、磁気センサ部10は、検査対象物体100の表面上または表面上方において被測定磁場の強度および向きを検出する。位置推定部22は、磁気センサ部10によって上述の表面の2次元方向における少なくとも2つの位置で検出された被測定磁場の強度および向きに基づいて、検査対象物体100内部の不特定の位置に存在している磁場発生源(ここでは電流I)の深さ方向の位置ZIestを推定する。
【0054】
これにより、比較的低コストで、検査対象物体100の内部の磁場発生源の深さ方向の位置が推定される。
【0055】
特に、実施の形態1では、磁気センサ部10に、上述の特定カラーセンタを使用した磁気センサを使用しており、磁場発生源としてのリーク電流などの微小電流の位置が推定可能となっている。
【0056】
実施の形態2.
【0057】
実施の形態2に係る磁場発生源検出装置では、磁気センサ部10を走査する代わりに、複数の磁気センサ部10を測定領域111に2次元的に配列したセンサアレイを使用し、各位置に固定的に配置された磁気センサ部10によって、その位置の磁場の強度および向きが測定される。そして、実施の形態1と同様にして、それらの位置の磁場の強度および向きから磁場発生源(電流など)の位置が推定される。
【0058】
なお、実施の形態2に係る磁場発生源検出装置のその他の構成および動作については、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0059】
実施の形態3.
【0060】
実施の形態3に係る磁場発生源検出装置では、磁場発生源は、非磁性(つまり、常磁性)の検査対象物体100内部の不特定の位置に入り込んでいる磁性物体(つまり、強磁性の物体)とされ、その磁性物体の位置が推定される。
【0061】
磁性物体が磁化していない場合には、一時的に外部磁場を検査対象物体に印加して磁性物体を磁化させる。そして、磁性物体の形状や被測定磁場の分布特性が既知であれば、実施の形態1,2と同様にして、2次元(X−Y平面)の複数の位置で得られた磁場の強度および分布から、その磁性物体の位置(深さ方向の位置を含む)および向き(姿勢)が推定される。
【0062】
なお、実施の形態3に係る磁場発生源検出装置のその他の構成および動作については、実施の形態1,2と同様であるので、その説明を省略する。
【0063】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0064】
例えば、上記実施の形態1,2において、上述の検出すべき電流は、例えば、上述のような電極間のリーク電流の他、半導体集積回路チップのバーンイン試験時における半導体集積回路の配線パターン上を導通する電流や内部リーク電流などでもよい。
【0065】
また、上記実施の形態3において、上述の検出すべき磁性物体は、例えば、検査対象物体としての食品に混入した金属片、検査対象物体としての衣類に混入した針などの金属片などでもよい。さらに、上記実施の形態3に係る磁場発生源検出装置を、空港などに設置される金属探知機に適用し、検査対象物体としての人が所持している金属製物品(ナイフ、拳銃など)を、検出すべき磁性物体としてもよい。さらに、上記実施の形態3に人、動物、植物などの生体内に導入される金属製の生体用トレーサを、上述の検出すべき磁性物体としてもよい。なお、これらの検査対象物体の形状において平面状の表面がない場合には、平面状の台(非磁性)の下に検査対象物体を配置し、平面状の台の上または上方において磁気センサ部10を走査すればよい。
【0066】
また、上記実施の形態3において、検出すべき磁性物体を磁化させるために印加する外部磁場と上述の基準磁場とを1つの磁場発生部で発生するようにしてもよい。
【0067】
さらに、この実施の形態1〜3では、光検出磁気共鳴部材1は、上述の特定カラーセンタとして、ダイヤモンドNVセンタを有しているが、その代わりに、SiVセンタ、GeVセンタ、SnVセンタなどを使用してもよい。また、特定カラーセンタが含まれる基材としての結晶としては、ダイヤモンドの他、SiCであってもよい。
【0068】
さらに、上記実施の形態1〜3において、磁気センサ部10と同様の別の磁気センサ
部で、被測定磁場の影響を受けない位置で、地磁気などの環境磁場の強度と向きを測定し、その環境磁場の強度と向きの分だけ、磁気センサ部10で得られる被測定磁場の強度と向きを補正するようにしてもよい。
【0069】
さらに、上記実施の形態1〜3において、磁気センサ部11により、測定面で得られた被測定磁場の強度φmに基づき、図10に示す演算式を用いて、検査対象物体内の磁場分布φ(x,y,z)の解析を行い、磁場分布φ(x,y,z)から磁場発生源の位置を推定するようにしてもよい。具体的には、式(1)に示すように、定常磁場内ではZ方向の磁場強度φはラプラス方程式を満たす。そして、式(2)に示すように、磁場強度φをフーリエ変換し、さらに、フーリエ変換された磁場強度に対して逆フーリエ変換を行うと、式(3)が得られる。ここで、測定面で得られた磁場強度φmのフーリエ変換およびそのZでの微分を、式(4)に示すように定義すると、式(5)に示すように、磁場強度φmからフーリエ変換を経て、フーリエ変換後の磁場強度が、得られ、式(6)に示すように、式(5)のフーリエ変換後の磁場強度を逆フーリエ変換することで、目的の磁場分布φ(x,y,z)が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、例えば、磁場発生源の検出に適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 光検出磁気共鳴部材
2 コイル
3 基準磁場発生部
4 照射装置
5 受光装置
10 磁気センサ部
12 高周波電源
21 測定制御部
22 位置推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10