【課題】小型軽量で極めて高い品質因子を有し、かつ高温化でも性能低下が少ない温度センサー、磁気センサー、振動センサー、加速度センサーなどに適用可能な電子素子(トランスデューサ)を提供する。
【解決手段】ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極および圧抵抗電極を有し、圧抵抗電極はソース電極およびドレイン電極と電気的に接続され、かつ剛性を有する基板上に支持部を介して形成された単結晶ダイヤモンドからなる梁上に形成された圧抵抗効果をもつ材料からなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
<構造>
最初に、本発明の電子素子の構造と構成を、
図1および
図2を参照しながら説明する。なお、
図1は鳥瞰図で、
図2(a)は
図1に示した構造体の平面図であり、
図2(b)は
図2(a)のAとA′を結んだ面で断面をとったときの断面図、そして
図2(c)は
図2(a)のBとB′を結んだ面で断面をとったときの断面図を示す。
【0015】
ダイヤモンド、特に単結晶ダイヤモンド(SCD:Single Crystal Diamond)は、高いヤング率、物質の中で最高の硬度、高い熱伝導率、疎水性の表面、高い腐食耐性など共振子(振動子)として好適な特性をイントリンシックに有している。このため、共振子の梁をダイヤモンドで作ることにより、高い品質因子(Q値)の共振子を供給することが可能になる。この例としては、発明者による特許文献1を挙げることができる。
【0016】
このことから、SCDを梁に用いた共振子を有し、電子回路も集積化されたオンチップ状のMEMS/NEMSトランスデューサが望まれるが、発明者の多大な検討により、SCD自体から直接電気信号を得ることは難しく、またSCD上にPZTのような圧電材料を直接形成して共振子を形成しても十分な品質因子を得ることは難しいという結論を得た。
さらに、様々な検討を加えた結果、下記の構造、構成の電子素子101により上記課題が解決され、上記効果が得られることを見出した。すなわち、本構造、構成の電子素子101は、小型軽量で極めて高い品質因子を有し、高温化でも性能低下が少なくて適用温度範囲の広い、検知精度の高い、温度センサー、磁気センサー、振動センサー、加速度センサーなどに適用可能な電子素子(トランスデューサ)になることを見出した。
【0017】
本発明の電子装置101は、基体11上に、支持部13を介した単結晶ダイヤモンド層21を有する。
【0018】
ここで、基体11は、十分な剛性を有する剛体であれば特に限定はないが、剛性、熱伝導性、耐熱性および製法を鑑みると、単結晶ダイヤモンドであることが好ましい。
支持部13は、基体11上の単結晶ダイヤモンド層21を必要な剛性をもって支えることが可能な材料からなれば特に限定はないが、剛性、熱伝導性、耐熱性、この電子素子の製法を鑑みると、グラファイト改質層であることが好ましい。
【0019】
単結晶ダイヤモンド層21は、単結晶ダイヤモンド12とその上に形成されたダイヤモンド・エピタキシャル層14からなる2層膜の構造をとり、支持部13上に形成された基部23と梁部22を有する。
ダイヤモンド・エピタキシャル層14は、所望の膜厚に制御して形成することが容易であり、単結晶ダイヤモンド層21からなる梁部22の固有振動数(共振周波数)を精度よく自由に設定する上で有用である。
但し、単結晶ダイヤモンド層21を単結晶ダイヤモンド12のみからなる単層膜とすることも可能である。この場合は、梁部22が所望の共振周波数を有する膜厚になるように形成されていることが必要になる。
【0020】
梁部22の大きさ(幅W、長さL、厚さT)は、梁部22の共振の周波数(振動数)を決めるので、所望の共振周波数に合わせて適宜設定される。
【0021】
基部23のダイヤモンド・エピタキシャル層14上にはソース電極15とドレイン電極16が形成され、梁部22を挟んだ両脇の基体11上にはゲート電極18が形成される。
梁部22のダイヤモンド・エピタキシャル層14上には圧抵抗効果をもつ材料からなる圧抵抗電極17が形成され、圧抵抗電極17は少なくとも電気的にソース電極15およびドレイン電極16と繋がれている構造を有する。
【0022】
ソース電極15およびドレイン電極16は、導電性が高い材料であれば使用することができるが、圧抵抗電極17とオーミック接合されるものが好ましい。また、加工性に優れるものが好ましく、耐環境性が高いとさらに好ましい。
ソース電極15およびドレイン電極16は、圧抵抗電極17と異なる材料とすることができるが、同じ材料で形成することも可能である。同じ材料の場合は、ソース電極15、ドレイン電極16および圧抵抗電極17を同時に形成することが可能であり、製造上のメリットがある。一方、異なる材料の場合は、ソース電極15およびドレイン電極16には高い導電率の材料を、また圧抵抗電極17には圧抵抗効果の高い材料を選ぶことが容易になり、電子素子101の出力などの性能を高めやすいというメリットがある。
【0023】
ソース電極15およびドレイン電極16としては、具体的には、金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などの金属、これらの金属を含む合金および化合物を挙げることができる。ここで、代表的な化合物としては、窒化クロム(CrN)、窒化タングステン(WN)、窒化チタン(TiN)、炭化タングステン(WC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化チタン(TiC)、炭化クロム(CrC)を挙げることができる。また、ソース電極15およびドレイン電極16として、多結晶シリコン(PolySi)、鉄ガリウム(FeGa)、NbFeBなどのネオジウム磁石を挙げることもできる。
【0024】
ゲート電極18は、導電性が高い材料であれば使用することができるが、ソース電極15およびドレイン電極16と同じ材料にすると、ゲート電極18をソース電極15およびドレイン電極16と同時に形成することが可能になるので製造上好ましい。また、ゲート電極18は、加工性に優れるものが好ましく、耐環境性が高いとさらに好ましい。
ゲート電極18としては、具体的には、金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などの金属、これらの金属を含む合金および化合物を挙げることができる。ここで、代表的な化合物としては、窒化クロム(CrN)、窒化タングステン(WN)、窒化チタン(TiN)、炭化タングステン(WC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化チタン(TiC)、炭化クロム(CrC)を挙げることができる。また、ゲート電極18として、多結晶シリコン(PolySi)を挙げることもできる。
【0025】
圧抵抗電極17は、圧抵抗効果をもつ材料からなり、圧抵抗効果が大きいほど電子素子101の出力信号を大きくすることができる。そして、相対的にノイズレベルを下げることができるので好ましい。
この観点から、圧抵抗電極17の材料は、NiおよびPt合金が好ましい。NiおよびPt合金は極めて大きな圧抵抗効果を発現する。
【0026】
また、圧抵抗電極17は、環境腐食性の低い材料、すなわち大気(中の酸素)や硫化物、NOx(窒素酸化物)等の汚染ガス環境に置かれたときに腐食、変質しにくい材料であることが好ましい。圧抵抗電極17が環境腐食性の低い材料であると、電子素子101の動作が安定し、長期使用による特性変化が少なくなる。
この観点から、圧抵抗電極17の材料は、Au、Pt、Pd,Rhの群から選ばれる少なくとも1以上の金属あるいはAu、Pt、Pd,Rhの群から選ばれる少なくとも1以上の金属を含む合金が好ましく、この中でも特にAu、PtおよびPt合金がより好ましい。
【0027】
また、圧抵抗電極17の材料としては、W,Hf,Tiの群から選ばれる少なくとも1以上の金属の炭化物も好ましい。これらの材料は、環境腐食耐性に優れるとともに、ヤング率が比較的高く、単結晶ダイヤモンド層21が主体となっている梁部22を共振させたときの品質因子Qを高く保つ上で有用である。
【0028】
また、電子素子101を磁気センサーとして使用するときは、圧抵抗電極17は、圧抵抗効果をもつとともに、強磁性、常磁性などの磁場に応じて力が発生する磁場応答性の材料とする。具体例としては、鉄化合物、ニオブ磁性体を挙げることができ、特にFeGa、NbFeBが好ましい。
【0029】
圧抵抗電極17の材料は、梁部22上のダイヤモンド・エピタキシャル層14と密着性が高いことが好ましい。
密着性が不足すると、梁部22の共振振動の際に圧抵抗電極17が剥がれるという問題を起こしやすくなる。また、梁部22が共振するときの品質因子Qの低下を招きやすいという問題が生じる。
【0030】
圧抵抗電極17の材料とダイヤモンド・エピタキシャル層14の密着性が不足するときは、ダイヤモンド・エピタキシャル層14と圧抵抗電極17の間に密着層を形成しておくことが好ましい。密着層としては、Tiを好んで用いることができる。
ここで、密着層の膜厚は、十分な密着力を得るとともに、梁部22の共振の際の品質因子Qへの影響を小さくする観点から、10nm以上100nm以下が好ましい。
【0031】
図1および
図2では、梁部22が片持ち梁の場合を示したが、梁部22は片持ち梁に限らない。
例えば、平面図である
図3に示される電子装置102および103に見られるような両持ち梁(ブリッジ梁)でもよいし、同じく平面図である
図4に示される電子装置104に見られるような四方吊り梁(ぺデスタル梁)でもよい。この場合、ソース電極15およびドレイン電極16は、電子装置102に見られるように別の基部23にそれぞれ分かれて配置されていてもよいし、電子装置103に見られるように1つの基部23に同居して配置されていてもよい。
ここで、片持ち梁の場合は、梁の振動の振幅を大きくとりやすく、その結果大きな出力信号を得やすいという特徴がある。
一方、両持ち梁の構造体は、強度が優れ、耐久性に富むという特長がある。
四方吊り梁の場合は、さらに強度が優れ、耐久性に富む。
【0032】
<製法>
次に、本発明の電子素子101の製造方法を、工程を示すフロー図である
図5、および各工程での構造を示す
図6および
図7を参照しながら説明する。
【0033】
本発明の電子素子101の製造工程は、
図5に示すように、大きく分けて母体形成工程C1、形状形成工程C2および電極形成工程C3からなる。そして、母体形成工程C1は、基板準備工程S1、グラファイトライクカーボン損傷層を形成するイオン注入工程S2、ダイヤモンド・エピタキシャル層形成とグラファイト層を形成する工程S3、および結晶高品質化を行う熱処理工程S4からなる。形状形成工程C2は、エッチングマスク形成工程S5、ドライエッチング工程S6、およびウェットエッチング工程S7からなる。そして、電極工程C3は、電極形成工程S8とクリーニング工程S9からなり、クリーニング工程S9を終えるとダイヤモンド構造体が提供されて終了(S10)となる。
【0034】
以下、各工程につきその詳細を説明する。
【0035】
1.基板準備工程(S1)
基板準備工程S1では、少なくとも表面の一部に単結晶ダイヤモンド層が形成された基板を準備する。
この基板としては、単結晶ダイヤモンド基板、単結晶ダイヤモンド基板上に単結晶ダイヤモンド層がエピタキシャル形成された基板、Si基板、ポリカーボネート基板などのプラスチック基板、アルミニウム基板などの金属基板、合成石英基板などのガラス基板、SiC基板などのセラミック基板など、剛性を有する基体上に劈開などで切り出された単結晶ダイヤモンド膜が貼り合わされた基板などを挙げることができる。
単結晶ダイヤモンド層としては、ノンドープの単結晶ダイヤモンドに加え、窒素、ホウ素、リンなどを添加したドープド単結晶ダイヤモンドを使用することもできる。単結晶ダイヤモンドの型としては、例えば、Ib型、IIa型を挙げることができる。また、単結晶ダイヤモンド層の面方位としては、(100)面のほか、(111)面や(110)面などの任意の面を用いることができる。
【0036】
2.イオン注入工程(S2)
上記の単結晶ダイヤモンド基板の表面に選択的に高エネルギーイオン注入41を行い、グラファイトライクカーボン損傷層11bをダイヤモンド層中に形成する(
図6(a))。より詳しく述べると、高エネルギーイオン注入41を行って、ダイヤモンド層中にグラファイトライクカーボン損傷層13aを形成する。
この際、グラファイトライクカーボン損傷層13aの上の単結晶ダイヤモンド層11bは、高エネルギーのイオンが打ち込まれるが、エネルギー的に大部分は通過するだけで大きな損傷は受けない。また、グラファイトライクカーボン損傷層13aより下の単結晶ダイヤモンド層11aは、高エネルギーイオン注入41の影響を殆ど受けない。
【0037】
イオン注入のイオン種としては、ホウ素イオン(B
+)、炭素イオン(C
+)、水素イオン(He
+)などを挙げることができる。イオンエネルギーとしては180keV以上1MeV以下、ビーム電流としては180nA/cm
2以上500nA/cm
2以下、注入角度としては0°以上7°以下、注入量としては1×10
16個/cm
2以上5×10
16個/cm
2以下を挙げることができる。
イオン注入後は、洗浄を行って表面をクリーニングする。この洗浄には、例えば、硝酸とフッ化水素酸からなる混酸溶液を用いることができる。
【0038】
3.ダイヤモンド・エピタキシャル層形成工程(S3)
この工程では、単結晶ダイヤモンド層上にダイヤモンド・エピタキシャル層14aを成長させる(
図6(b))。ここで、このダイヤモンド・エピタキシャル層14aを形成するときに加わる熱の影響で、単結晶ダイヤモンド層11bは、高エネルギーのイオンが打ち込みの際に受けた損傷が回復され、品質の高い(単結晶性に優れた)単結晶ダイヤモンド層13bになる。
ダイヤモンド・エピタキシャル層14aの形成方法としては、マイクロ波プラズマ気相成長(MPCVD)法を挙げることができる。
ダイヤモンド・エピタキシャル層14aの膜厚は適宜決定すればよいが、例えば0.2μm以上5μm以下を挙げることができる。
【0039】
MPCVDの原料ガスとしてはメタン(CH
4)、キャリア(希釈)ガスとしては水素(H
2)を挙げることができる。成膜条件の一例を挙げると、CH
4の流量0.4sccm、水素ガスの流量500sccm、成長中の圧力10KPa、マイクロ波パワーの400W、基板温度960℃、成長時間8時間を挙げることができる。ここで、この条件でのダイヤモンド・エピタキシャル層14aの厚さは約0.3μmである。
ここで、成長終了後にメタンガスの供給を止め、その後、水素雰囲気下で基板温度に保持して、ダイヤモンド・エピタキシャル層14aの表面を水素終端された状態にすることが好ましい。
【0040】
その後、混酸溶液処理を行って表面に形成された伝導層を除去し、ダイヤモンド・エピタキシャル層14aの表面を酸素終端層とする。混酸溶液としては、硫酸と硝酸からなる混酸溶液を挙げることができ、例えば、体積比が硫酸:硝酸=1:1の混酸溶液中で300℃60分間の処理を行う。
【0041】
なお、このダイヤモンド・エピタキシャル層形成工程S3の熱処理により、イオン注入41によって単結晶ダイヤモンド層中に形成されたグラファイトライクカーボン損傷層13aは、グラファイト改質層13bに変化する。
【0042】
4.熱処理工程(S4)
ダイヤモンド・エピタキシャル層14aおよび単結晶ダイヤモンド層12aの欠陥をさらに減少させるために、試料を高真空下でアニーリングする。
アニーリングの温度は500℃以上1500℃以下が好ましい。500℃を下回るとアニーリングが不足してダイヤモンド・エピタキシャル層14aおよび単結晶ダイヤモンド層12aの欠陥を十分に低減することができず、その結果、作製された試料の品質因子Qを十分高いものとすることはできない。1500℃を上回ると、ダイヤモンド・エピタキシャル層14aおよび単結晶ダイヤモンド層12aに割れが入りやすくなるなどの問題が生じやすくなる。代表的な処理温度としては、1100℃を挙げることができる。
アニーリングの時間としては、1時間以上10時間以下が好ましい。1時間を下回ると欠陥を十分に低減することが難しくなる。10時間を超えたアニーリングは、時間の浪費で、製造スループットを低下させる。代表的なアニーリング時間は6時間である。
真空度は100Pa以下が好ましい。特に、活性な物質などが環境下にあるのは好ましくない。例えば、酸素が環境下にあると、ダイヤモンドが酸化エッチングされる。
【0043】
5.エッチングマスク形成工程(S5)
エッチングマスク形成工程(S5)では、ダイヤモンド・エピタキシャル層14a上にダイヤモンドを加工するときのエッチングマスク51を形成する(
図6(c))。
ダイヤモンドは酸素系のガスでドライエッチングするので、エッチングマスク51は酸素系ガスのドライエッチングに対してドライエッチング耐性を有し、かつダイヤモンドをエッチングすることなくウェットエッチング除去できるものが好ましい。
このことから、エッチングマスク51としてはアルミニウム(Al)、金(Au)、チタン(Ti)、クロム(Cr)などの金属を好んで用いることができる。ここで、Auを用いる場合は、底側にTiなどのウェットエッチングで容易に除去可能な金属を形成した積層構造とすることが好ましい。また、炭化タングステン(WC)、炭化ハフニウム(HfC)などの化合物、アルミナ(Al
2O
3)、酸化ケイ素(SiO
X)などの酸化物を用いることもできる。
【0044】
エッチングマスク51は、ダイヤモンド・エピタキシャル層14a上にエッチングマスクとなる加工用膜を形成し、その上にリソグラフィによってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをエッチングマスクとしてその加工用膜をドライエッチングして形成することもできるし、リフトオフ法により形成することもできる。
例えば、リフトオフ法で形成する場合は、ダイヤモンド・エピタキシャル層14a上にレジストパターンを形成し、真空蒸着法やスパッタリング法でAl(アルミニウム)膜を堆積させた後、リフトオフを行って、Alからなるエッチングマスク51を形成することができる。
エッチングマスク51の膜厚としては、例えば、300nmを挙げることができる。
【0045】
6.ドライエッチング工程(S6)
しかる後、ドライエッチング工程(S6)として、酸素ガスを用いた反応性イオンエッチングを行ってダイヤモンド層の加工を行う。このドライエッチングでは、少なくともグラファイト改質層13bの底部が除去される深さまでエッチングを行う(
図7(a))。ここで、反応性イオンエッチングに代えて、収束イオンビームエッチング、レーザービームによるエッチングとしてもよい。
酸素ガスを用いた反応性イオンエッチングのエッチング条件としては、例えば、O
2ガス流量90sccm、高周波電力800W、バイアス電力20W、作動圧力0.5Paを挙げることができる。この条件でのダイヤモンドのエッチングレートは60nm/minである。
【0046】
7.ウェットエッチング工程(S7)
その後、ウェットエッチングを行ってグラファイト改質層13cをエッチングし、単結晶ダイヤモンド・オン・ダイヤモンド基板の共振器を形成する(
図7(b))。このウェットエッチングで残ったグラファイト改質層13は梁の支持部の構成物となる。
ウェットエッチング液としては、硫酸を含む酸、例えば、硫酸と硝酸からなる混酸を挙げることができる。ここで、エッチングレートを上げるために、ウェットエッチング液の温度を上げておくことが好ましい。
【0047】
8.電極形成工程(S8)
次に、ダイヤモンド・エピタキシャル層14上にソース電極15、ドレイン電極16および圧抵抗電極17を、単結晶ダイヤモンド層11上にゲート電極18を形成する。ここで、ソース電極15およびドレイン電極16は基部23上に形成する。圧抵抗電極17は、梁部22上を中心に、ソース電極15およびドレイン電極16と電気的導通をとるために一部が基部23上に配置されるように形成する。
【0048】
これらの電極の形成方法は、被形成部材(ダイヤモンド・エピタキシャル層14や単結晶ダイヤモンド層11)上に電極用の導電膜をスパッタリング法や蒸着法などにより形成し、その上にリソグラフィによってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをエッチングマスクとしてその導電膜をドライエッチングして形成することもできるし、リフトオフ法により形成することもできる。
【0049】
ここで、エッチング法による場合のエッチングマスクとしては、シリコン酸化膜やポリシリコン膜などのハードマスクを用いてもよい。すなわち、導電膜上にハードマスク層をCVD(Chemical Vapour Deposition)法やスパッタリング法などを用いて形成するハードマスク層形成工程と、そのハードマスク層をレジストパターンをマスクにしてエッチングして、パターニングされたハードマスクを形成するハードマスク形成工程と、そのハードマスクをエッチングマスクとして導電膜をドライエッチングするエッチング工程からなる方法でもよい。ハードマスクを用いる方法は、加工精度を出しやすいという特徴があり、レジストを導電膜のエッチングマスクとする方法は、工程が短くコストを下げやすいという特徴がある。
【0050】
リフトオフ法で形成する場合は、被形成部材上にレジストパターンを形成し、真空蒸着法やスパッタリング法で導電膜を堆積させた後、リフトオフを行って、電極を形成する。リフトオフ法はダイヤモンド・エピタキシャル層14aへのダメージが少ないという特徴がある。
【0051】
ここで、ゲート電極18は、梁部22が形成された後に形成するので、自動的に梁部22の脇に形成され、梁部22の直下には形成されない。
動作のところで述べるように、ゲート電極18が梁部22の脇に形成されることにより、圧抵抗電極17とゲート電極18間に形成される電気力線は密なものとなり、梁部22を効率的に駆動(振動)させることが可能になる。
なお、梁部22をマスクにしてゲート電極18を形成すると、梁部22のエッジ部とゲート電極18の梁部22側のエッジ部を自己整合的に合わせることができるので、ゲート電極18の配置精度を高めることができる。
【0052】
ソース電極15、ドレイン電極16、圧抵抗電極17およびゲート電極18の材料(上記導電膜の材料)は、構造のところで述べた材料とする。
ソース電極15およびドレイン電極16の膜厚は、十分な導電性を得るために、10nm以上100nm以下が好ましい。
圧抵抗電極17の膜厚は、10nm以上100nm以下が好ましい。10nmを下回ると抵抗値が不安定になり、経時変化も起こしやすくなる。100nmを上回ると圧抵抗電極17により梁部22の共振子としての振動因子Qが低下しやすくなるという問題が生じる。
ゲート電極18の膜厚は、十分な導電性を得るために、10nm以上100nm以下が好ましい。
【0053】
9.クリーニング工程(S9)
最後に、有機物などによる汚染を除去する目的で、クリーニングを行う。
クリーニング法としては、水素プラズマ法、オゾン照射法、酸素プラズマ法などを好んで用いることができる。ここで、水素プラズマ法や酸素プラズマ法などのプラズマ法では、マイクロ波プラズマ法、ラジオ周波数プラズマ法、直流プラズマ法などを用いることができる。
例えば、マイクロ波プラズマを用いた水素プラズマ処理の条件としては、水素ガス(H
2)の流量500sccm、圧力10KPa、マイクロ波パワー800W、基板温度800℃を挙げることができる。
なお、これらのドライクリーニングに代えて、あるいは併用して、ウェットクリーニングを行ってもよい。
電子素子101は、以上の工程により製造される。
【0054】
<動作>
ソース電極15とゲート電極18の間に交流電圧を印加すると、圧抵抗電極17とゲート電極18の間の電気力線が変化して梁部22が振動する。
圧抵抗電極17とゲート電極18の間の電気力線31をシミュレーションした結果を
図8に断面図で示す。電気力線31が、単結晶ダイヤモンド層21の外側の圧抵抗電極17とゲート電極18の境界部付近を密にして形成されていることがわかる。これは、単結晶ダイヤモンド層21の誘電率の効果と、ゲート電極18が梁部22の両脇部に形成されている効果による。
圧抵抗電極17は小さい方が梁部22の共振の品質因子Qの低下が少ない。このため、圧抵抗電極17は、梁部22上のエッジ部のみに形成されていることが好ましく、そのために、梁部22上で2本以上の電極配線をもつ構造が好ましい。
ここで、梁部22は単結晶ダイヤモンド層21を主体にその上に圧抵抗電極17の薄膜層が密着して設けられたものであるから、実施例のところで示すように、梁部22の共振は、ほぼ単結晶ダイヤモンド梁と同等の高い品質因子Qを有する。
【0055】
梁部22上に密着形成された圧抵抗電極17は、梁部22の振動にともなって撓み振動を起こす。圧抵抗効果をもつ材料を有する圧抵抗電極17は、この撓み振動による体積変化により、電気抵抗が変化する。そして、この電気抵抗の変化を、例えば、ソース電極15とドレイン電極16の間に流れる電流変化、あるいはそれによる電圧変化としてモニターして、電気信号として出力する。
【0056】
梁部22が共振を起こすと梁部22の振動の振幅が最大になり、それとともに圧抵抗電極17の電気抵抗の変化も最大になる。抵抗変化最大値となる梁部22の振動周波数をモニターしてトランスデューサ(変換器)とする。
【0057】
圧抵抗電極17の電気抵抗の変化の大きさは、梁部22の振動周波数によって変わり、共振周波数で極大になる。そして、その共振周波数は、環境の温度、外部から加えられる振動および加速度によって変化する。このため、それぞれ、温度センサー、振動センサーおよび加速度センサーとして使用することが可能になる。
圧抵抗電極17が磁場により力が発生する材料、すなわち強磁性や常磁性をもつ材料でできている場合は、外部から加えられる磁場によって梁部22の共振周波数が変わるため、磁力センサーとして使用することが可能になる。
【0058】
梁部22の共振周波数変化のモニター方法は、最大となる出力信号の周波数の変化を直接モニターする方法のほか、梁部22の温度を変化させて、その温度やその温度にするために与える物理量をモニターする方法もある。
ここで、その温度にするための物理量としては、例えばソース電極15とドレイン電極16の間に電流を流してジュール熱を発生させたときの電流やジュール熱を挙げることができる。また、梁部22に赤外線を照射して梁部22の温度を制御する場合は、赤外線の量やその赤外線を照射するときに使う電力などを物理量とすることもできる。
【0059】
本発明の電子素子は、上述のように、単結晶ダイヤモンド梁を交流電圧場により振動させ、その梁の固有振動(共振)を圧抵抗変化として検知するものである。
共振周波数は、ジュール熱などにより制御された熱量を梁に印加することにより制御可能である。環境の温度、加速度、振動によっても共舜周波数が変わる。したがって、共振周波数のモニター、あるいは共振周波数の制御によって、温度、加速度、振動などの多様なセンサーになる。また、圧抵抗電極17を常磁性あるいは強磁性をもつ材料で構成すれば磁場センサーにもなる。
【0060】
本発明の電子素子は、梁が耐熱性および熱伝導性の高いダイヤモンド単結晶であることと、シンプルな構造であることから、mK(ミリケルビン)オーダの極低温から800℃というような高温まで幅広い温度領域で使用できる。
梁にダイヤモンド単結晶を用いていることからその固有振振動は高い品質因子をもち、それを反映して出力信号(電気信号)の品質因子も高い。
また、振動や衝撃などにも強い構造をもち、原理的に強い放射線環境でも使用に耐える構造をもつ。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
<電子素子の作製>
電子素子101を実施の形態1で示した工程にしたがって作製した。以下、その製造工程の詳細を、
図5から
図7を参照しながら説明する。
1.基板準備工程(S1)
単結晶ダイヤモンド層からなる基板として、Ib型絶縁性(100)面方位のダイヤモンド基板を準備した。この基板は高温高圧製で、その大きさは3mm×3mm×0.5mmである。
【0062】
2.イオン注入工程(S2)
上記の単結晶ダイヤモンド基板11aの(100)面表面に選択的に高エネルギーイオン注入を行った。その条件を以下に示す。
イオン種:C
+
イオンネルギー:180keV
ビーム電流:180nA/cm
2
注入角度:7°
注入量:1×10
16個/cm
2
このイオン注入により、基板表面から0.5−1μm深さの領域にグラファイトライクのカーボン層からなるグラファイトライクカーボン損傷層13aを形成した(
図6(a))。
ここで、イオン注入後に、硝酸とフッ化水素酸からなる混酸溶液(その体積比率は硝酸:フッ化水素酸=1:1)中で表面洗浄を行った。この混酸溶液に浸している時間は3時間とし、ヒーターによる沸騰下で処理を行った。この洗浄後には、イオン交換水による純水下でリンスを行った。
【0063】
3.ダイヤモンド・エピタキシャル層形成工程(S3)
単結晶ダイヤモンド層上にマイクロ波プラズマ気相成長(MPCVD)法によりダイヤモンド・エピタキシャル層14aを成長させた(
図6(b))。成長条件は以下の通りである。
【0064】
原料ガス:メタン(CH
4)、流量0.4sccm
キャリア(希釈)ガス:水素(H
2)、流量500sccm
CH
4/H
2流量比:0.08%
成長中圧力:10KPa
マイクロ波パワー:400W
基板温度:960℃
成長時間:8時間
ダイヤモンド・エピタキシャル層14aの厚さ:0.3μm
ここで、成長終了後にメタンガスの供給を止め、その後、ダイヤモンド・エピタキシャル層14aを30分間水素雰囲気下で基板温度に保持した。このため、ダイヤモンド・エピタキシャル層14aの表面は水素終端された状態である。
【0065】
その後、硫酸と硝酸からなる混酸溶液(その体積比率は硫酸:硝酸=1:1)中で300℃60分間の処理を行って表面伝導層を除去し、ダイヤモンド・エピタキシャル層14aの表面を酸素終端層とした。
【0066】
なお、このダイヤモンド・エピタキシャル層形成工程の熱処理により、イオン注入によって単結晶ダイヤモンド層中に形成されたグラファイトライクカーボン損傷層13aは、グラファイト改質層13bに変化する。
【0067】
4.熱処理工程(S4)
ダイヤモンド・エピタキシャル層14aおよび単結晶ダイヤモンド層12aの欠陥を減少させるために、試料を超高真空チャンバ内でアニーリングした。そのアニール条件は以下の通りである。
ベース圧力:1x10
-8Pa
基板温度:1100℃
アニーリング時間:6時間
【0068】
5.エッチングマスク形成工程(S5)
次に、ダイヤモンド・エピタキシャル層14a上にレジストパターンを形成し、真空蒸着法でAl(アルミニウム)膜を堆積させた後、リフトオフを行って、厚さ300nmのAlからなるエッチング用の金属マスク51を形成した(
図6(c))。
【0069】
6.ドライエッチング工程(S6)
しかる後、ドライエッチング工程(S6)として、酸素ガスを用いた反応性イオンエッチングを行って単結晶ダイヤモンド層21の加工を行った。このドライエッチングでは、グラファイト改質層13bの底部が除去される深さまでエッチングを行った。この結果、パターニングされたグラファイト改質層13cとなる(
図7(a))。
そのドライエッチング条件は下記の通りである。
O
2ガス流量:90sccm
高周波電力:800W
バイアス電力:20W
作動圧力:0.5Pa
エッチング時間:60分
なお、このときの単結晶ダイヤモンドのエッチングレートは60nm/minであった。
【0070】
7.ウェットエッチング工程(S7)
その後、ヒーターによる沸騰した硫酸と硝酸からなる混酸溶液(その体積比率は硫酸:硝酸=1:1)中でウェットエッチングを行ってグラファイト改質層13cをエッチングし、単結晶ダイヤモンド・オン・ダイヤモンド基板構造をもつ共振子を形成した(
図7(b))。このウェットエッチングで残ったグラファイト改質層13はカンチレバーの支持部の構成物となる。
【0071】
8.電極形成工程(S8)
次に、
図7(c)に示すような配置で、ソース電極15、ドレイン電極16、圧抵抗電極17およびゲート電極18をリフトオフ法により形成した。
ここで、全ての電極(導電膜)は、下層を2nmの厚さのチタン(Ti)、上層を10nmの厚さの金(Au)とした2層膜とした。したがって、ソース電極15、ドレイン電極16および圧抵抗電極17は同じ材料と同じ構成の電極が繋がった構成になっている。
これらの金属は真空蒸着法により堆積させた。なお、Tiはダイヤモンド・エピタキシャル層14との密着性を向上させる目的で形成した。
なお、金の圧抵抗は約100ohmである。
【0072】
9.クリーニング工程(S9)
最後に、有機物などによる汚染を除去する目的で、マイクロ波プラズマ気相成長(MPCVD)法により水素プラズマ処理を行った。その処理条件は以下の通りである。
ガス:水素(H
2),流量500sccm
圧力:10KPa
マイクロ波パワー:800W
基板温度:800℃
成長時間:30分
ここで、マイクロ波をパワーオフした後、試料を60分間の間水素ガス雰囲気下に置いて冷却した。
【0073】
以上の工程により、電子素子101を作製した。梁部22の土台を形成する単結晶ダイヤモンド層21は、単結晶ダイヤモンド層12とダイヤモンド・エピタキシャル層14から構成されているが、ダイヤモンド・エピタキシャル層14は十分な熱処理を施されているため、梁部22は、単結晶ダイヤモンド上に圧抵抗電極17が形成されているといってよい状態になった。なお、支持部13はグラファイト改質層でできている。
参考までに作製した電子素子101の共振子の光学顕微鏡写真を
図9に示す。
【0074】
<特性評価方法>
作製した電子素子101は下記に示す回路を使って測定評価を行った。その回路を
図10に示す。
ゲート電極18には周波数ωの交流電圧(ゲート電圧)V
gac、ドレイン電極16には周波数ω+Δωの交流電圧(ドレイン電圧)V
dacが印加される。ソース電極15は、接地されるとともに、ローパスフィルタ(LPF)を介してロックインアンプ(Lock−in)(Zurich製)の入力に繋がっている。ゲート電圧V
gacとドレイン電圧V
dacはミキサーによりミキシングされ、ロックインアンプにリファレンスとして入力される。ソース電極15からの入力とリファレンス信号にロックインをかけて出力とし、それをモニターした。
なお、梁部22は、ソース電極15およびドレイン電極16と電気的に繋がった圧抵抗電極17と、ゲート電極18との間に印加された交流電圧を受けて振動する。
【0075】
<電気特性評価>
作製した電子素子101に対して、ゲート電極18に交流電圧を印加して出力スペクトルを測定した。すなわち、ゲート電極18に交流電圧を印加して、ソース電極15およびドレイン電極16と電気的に繋がった圧抵抗電極17とゲート電極18との電気力によって梁部22を振動させ、ソース電極15とドレイン電極16間の出力電圧振幅(交流出力電圧の振幅としての変化量)の交流周波数依存性を測定した。その結果を
図11および
図12に示す。ここで、
図11は、梁部22が長さ60μm、幅12μm、厚さ2.8μmで、ゲート電圧V
gacが2V、ドレイン電圧V
dacが2V(MEMS)の場合で、
図12は、梁部22が長さ100μm、幅12μm、厚さ0.53μmで、ゲート電圧V
gacが0.05,0.1,0.2V、ドレイン電圧V
dacが5Vの場合である。両者とも、急峻な共振スペクトルと、高い信号対雑音比(S/N)が得られている。
【0076】
(実施例2)
実施例2では、ドレイン電圧V
dacによるジュール熱による梁部22の共振周波数特性(共振周波数可変効果)について測定した例を示す。
具体的には、梁部22が長さ60μm、幅12μm、厚さ2.8μmの電子素子101に印加するドレイン電圧(ソース―ドレイン電圧)V
dacの大きさを変化させて、梁部22に加わるジュール熱を変化させたときの出力信号の共振周波数特性を評価した。
図13は、ゲート電圧V
gacを1Vに固定し、ドレイン電圧V
dacの大きさを2Vから10Vまで変化させたときの出力電圧振幅の周波数依存性を示す。ドレイン電圧V
dacを増大させるとともに、出力電圧振幅は単調に増加するとともに、ジュール熱の影響を受けて共振周波数が短波長側にシフトすることがわかる。
図14は、
図13の結果をドレイン電圧V
dacと共振周波数の関係にプロットし直したものである。ドレイン電圧V
dacの増加に伴い共振周波数が単調に減少する様子が読み取れる。
図15は、ゲート電圧V
gacを1Vと2Vの二水準に設定して、ゲート電圧V
gacがドレイン電圧V
dacと出力電圧振幅の関係に与える影響を測定した結果である。ゲート電圧V
gacを上げることにより、出力電圧振幅は大きくなる。これは、梁部22の振動の振幅が増大して圧抵抗電極17の抵抗の変化が大きくなるためである。なお、共振周波数はゲート電圧V
gacには依存しない。
以上から、ドレイン電圧V
dacにより、共振周波数と出力電圧振幅を制御できることが確認された。
【0077】
(実施例3)
実施例3では、環境温度依存性について測定した例を示す。
具体的には、梁部22が長さ60μm、幅12μm、厚さ2.8μmの電子素子101を様々な温度の環境において出力信号の共振周波数特性を評価した。
図16、
図17および
図18は、それぞれ300K、323Kから50K刻みで673Kまで、および773Kから50K刻みで873Kまでの温度環境のときの共振周波数特性を示す。ここで、
図16、
図17および
図18のゲート電圧V
gacはそれぞれ2V、2V、2Vであり、ドレイン電圧V
dacはそれぞれ3V、3V、10Vである。
図16と
図17のデータを使って、環境温度と共振周波数の関係をプロットし直した結果を
図19に示す。共振周波数は環境温度が上がるとともに単調に減少することがわかる。このことから、共振周波数から環境温度を知ることができ、温度モニターとして使用できることが確認された。
また、電子素子101は、
図18の結果から、873Kという高温でも温度センサーとして使用できる共振特性を有することが確認された。
【0078】
(実施例4)
実施例4では、10mVという微小なゲート電圧V
gacでも十分な出力信号が得られることを確認した。
具体的には、梁部22が長さ120μm、幅12μm、厚さ2.1μmの電子素子101の出力信号のゲート電圧V
gac依存性を評価した。その結果を
図20に示す。
図20からわかるように、ゲート電圧V
gacを70mVから10mVまで下げていくと出力電圧振幅は下がっていくものの、共振周波数の変化なく10mVでも十分なS/N比をもった出力信号が得られた。なお、この測定では、ドレイン電圧V
dacは6Vとした。
【0079】
(実施例5)
実施例5では、圧抵抗電極17が梁部22上に形成されていることによる共振特性の変化について調べた。
具体的には、梁部22が長さ60μm、幅12μm、厚さ2.8μmの電子素子101の共振振動をレーザードップラー法で測定した。ここで、圧抵抗電極17は、下層が3nmの厚さのTi、上層が15nmの厚さの2層金属膜とし、圧抵抗電極17形成前と形成後で比較評価した。その結果を
図21に示す。
圧抵抗電極17が形成されているときと形成されていないときでは、共振周波数が約0.024MHz変化している。これは、圧抵抗電極17の形成により梁部22のヤング率および質量密度に少し差が生じるためであり、実際、梁部22のヤング率および質量密度の計算値による共振周波数の変化と一致した。
また、共振の振幅と半値幅は、圧抵抗電極17の形成の有無で大きな差はないことがわかる。したがって、梁部22の共振は、圧抵抗電極17を形成してもほぼ単結晶ダイヤモンド層21によって決まる。このため、電子素子101の共振子には極めて高い品質因子Qをもたせることができる。
【0080】
(実施例6)
実施例6では、品質因子Qの印加電圧依存性について調べた。
具体的には、梁部22が長さ60μm、幅12μm、厚さ2.8μmの電子素子101の品質因子Qのゲート電圧V
gacおよびドレイン電圧V
dac依存性を評価した。ここで、全ての電極、すなわちソース電極15、ドレイン電極16、圧抵抗電極17およびゲート電極18は、下層が3nmの厚さのTi、上層が30nmの厚さの2層金属膜とした。
図22は、ゲート電圧V
gacを2Vに固定したときの、品質因子Qに与えるドレイン電圧V
dac依存性を調べた結果である。その結果、品質因子Qはドレイン電圧V
dacにほぼ依存しないことがわかる。
図23は、ドレイン電圧V
dacを10Vに固定したときの、品質因子Qに与えるゲート電圧V
gac依存性を調べた結果である。品質因子Qは、ゲート電圧V
gacが0.4Vに至るまでは直線的に減少し、ゲート電圧V
gacが0.4Vを超えると一定になる。その値は約12×10
3であり、電子素子101は、印加電圧に拘わらず高い品質因子Qを有することが確認された。