【実施例】
【0035】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
[リードフレームの作製]
基材(Cu基材)を準備した。基材の電解めっき処理を行い、表面上に銅めっき膜(厚み:0.1μm)を形成した。その後、アルカリ液中で基材の陽極酸化を行った。アルカリ液としては、亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、アミノ化合物、リン酸三ナトリウム、及びイオン交換水を含有するものを用いた。
図3に示すような処理装置を用い、60〜80℃のアルカリ液中、基材を所定の速度で走行させて、0.8〜1.1A/dm
2の電流密度で表面処理を行った。アルカリ液中の基材の滞留時間は5〜20秒間とした。
【0037】
上述の表面処理によって、基材の銅めっき膜の表面に針状酸化物が形成された。このようにして実施例1のリードフレームを得た。得られたリードフレームの針状酸化物の組成を以下の手順で分析した。
【0038】
[リードフレームの分析]
<STEM画像観察、TEM画像観察、及びEDX分析>
リードフレームの表面に炭素膜及びタングステン膜を順次形成した。炭素膜は高真空蒸着装置を、タングステン膜はFIB装置を用いてそれぞれ形成した。FIBマイクロサンプリング法にてリードフレームを加工し、FIB加工によって薄片化を行って測定試料を得た。測定試料のSTEM画像及びTEM画像の観察、並びにEDX分析を行った。
【0039】
図5は、BF−STEM像の写真(倍率:2.5万倍)を示している。
図5に示されるとおり、実施例1のリードフレームは、針状酸化物と、針状酸化物に付着する酸化膜と、を含む表面層を備えることが確認された。
【0040】
図6は、針状酸化物の拡大画像のTEM写真(倍率:35万倍)である。
図6の点1,点2,点3においてEDX分析を行った。点3は、針状酸化物の先端部に位置し、点1,2は点3よりも基端部側に位置する。EDX分析には、日本電子製のEDX分析装置(装置名:JED−2300T)を用いた。加速電圧は200kV、ビーム径は約1nmとした。
【0041】
図7は点3におけるEDXの分析結果を示すチャートである。
図7中、Cは保護膜に由来するピークであり、Moのピークは試料保持用メッシュに由来するピークである。
図7に示すようにとおり、針状酸化物からはCuとOのみが検出された。点1,2においても、
図7と同様にCuとOのみが検出された。EDXの分析結果に基づく、点1,2,3におけるCuとOの半定量結果を表1に示す。表1の結果によれば、針状酸化物の先端部の方が、当該先端部以外の部分よりもCu/Oの値が小さくなっていた。
【0042】
【表1】
【0043】
図8は、
図6及び
図7とは別の部分における針状酸化物の拡大画像のTEM写真(倍率:35万倍)である。
図9は、
図8のうち、針状酸化物による被覆部分の拡大画像のTEM写真(倍率:100万倍)である。
図10は、
図9の写真に含まれる針状酸化物をさらに拡大して示す画像のTEM写真(倍率:300万倍)である。
図8〜
図10に示すとおり、リードフレームの表面層は、針状酸化物とその周囲に酸化膜とを含んでいた。
図10の点4,5,6においてEDX分析を行った。点4は、点5よりも針状酸化物の先端部側に位置する。
【0044】
点4,5,6においても、
図7と同様にCuとOが検出された。これらの分析結果に基づく、点4,5,6におけるCuとOの半定量結果を表2に示す。表2の点4,5の結果によれば、針状酸化物の先端部側の方が基端部側よりもCu/Oの値が小さくなっていた。酸化膜の組成を示す点6でも
図7と同様にCuとOのピークのみが検出され、CuOを主成分とすることが確認された。
【0045】
【表2】
【0046】
図11(A)は、
図9に対応する部位のHAADF−STEM像である。
図11(B)及び
図11(C)は、同じ部位におけるCu(K)及びO(K)のEDXマッピングの結果を示す。
図11(A)に示すとおり、表面層は針状酸化物と針状酸化物に付着する酸化膜とを有する。EDXマッピングの結果によれば、針状酸化物と酸化膜は、殆どがCuOの組成に近い比較的均一な組成であった。このように、針状酸化物と酸化膜は主成分としてCuOを含有していた。
【0047】
図12は、針状酸化物のさらに別の部分における拡大画像のTEM写真(倍率:35万倍)である。
図13は、
図12に示される針状酸化物の一部をさらに拡大して示す画像のTEM写真(倍率:100万倍)である。
図14及び
図15は、
図13の写真に示される針状酸化物の一部をさらに拡大して示す画像のTEM写真(倍率:300万倍)である。
図12〜
図15に示すとおり、リードフレームの表面層は、針状酸化物とその周囲に酸化膜とを含んでいた。
図14の点7、及び
図15の点8,9においてEDX分析を行った。点7,8,9のうち、点7が最も基端部側に位置し、点8が最も先端部側に位置する。
【0048】
点7,8,9においても、
図7と同様にCuとOのみが検出された。これらの分析結果に基づく、点7,8,9におけるCuとOの半定量結果を表3に示す。表3でも、針状酸化物の先端部の方が当該先端部以外の部分よりもCu/Oの値が小さくなっていた。
【0049】
【表3】
【0050】
図16は、針状酸化物のさらに別の部分における拡大画像のTEM写真(倍率:35万倍)である。
図17は、
図16に示される針状酸化物の一部をさらに拡大して示す画像のTEM写真(倍率:100万倍)である。
図18は、
図17の写真に示される針状酸化物の一部をさらに拡大して示す画像のTEM写真(倍率:300万倍)である。
図16〜
図18に示すとおり、リードフレームの表面層は、針状酸化物とその周囲に酸化膜とを含んでいた。
図18の点10,11,12においてEDX分析を行った。点10,11,12のうち、点10は先端部に位置し、点11,12は当該先端部以外の部分に位置する。
【0051】
EDX分析の結果、点10,11,12においても、
図7と同様にCuとOのみが検出された。これらの分析結果に基づく、点10,11,12におけるCuとOの半定量結果を表4に示す。表4に示すとおり、針状酸化物の先端部の方が当該先端部以外の部分よりもCu/Oの値が小さくなっていた。
【0052】
【表4】
【0053】
<電子回折解析>
図8に示される「制限視野解析1」及び「制限視野解析2」、並びに、
図12に示される「制限視野解析3」及び「制限視野解析4」の領域において、制限視野電子回折を行った。
図19(A)〜(D)に、それぞれの制限視野における回折パターンを示す。得られたデバイリングから面間隔を測定した。測定結果を表5に纏めて示す。表5に示すとおり、いずれの面間隔も、CuO及びCu
2Oの面間隔の理論値とほぼ整合した。これらの結果から、針状酸化物は、CuO及びCu
2Oを含有することが確認された。一方、Cu(OH)
2のミラー指数<020>、<021>に対応する回折スポットは確認されなかった。
【0054】
【表5】
【0055】
<ナノ電子回折>
図12に示される「ナノ回折1」及び「ナノ回折2」の位置において、制限視野ナノ電子回折を行った。
図20(A)及び
図20(B)に、それぞれの制限視野におけるナノ電子回折パターンを示す。得られたナノ電子回折パターンから面間隔を測定した。測定結果を表6に纏めて示す。表6に示すとおり、いずれの面間隔も、CuO及びCu
2Oの面間隔の理論値とほぼ整合した。これらの結果から、針状酸化物は、CuO及びCu
2Oを含有することが確認された。
【0056】
【表6】
【0057】
<表面層の厚みとシア強度の測定>
ポテンショスタット(商品名:HSV−100(北斗電工製))を用いて、実施例1のリードフレームの表面層の厚みを測定した。その結果、表面層の厚みは63nmであった。リードフレームのパッドの上に接着剤を介してシリコンチップをマウントした。その後、大気中で260℃に加熱しながらパッドからシリコンチップを剥がす際のシア強度を、4000Plusボンドテスター(Nordson DAGE社製)を用いて測定した。シア速度は100μm/s、シア高さは100μmとした。n=12で測定を行ったところ、シア強度の平均値は5.81MPaであった。
【0058】
(比較例1)
実施例1で用いたものと同じ基材(Cu基材)を準備した。実施例1と同様にして基材の電解めっき処理を行い、表面上に銅めっき膜(厚み:0.1μm)を形成した。これを比較例1のリードフレームとした。
【0059】
実施例1と同様に、ポテンショスタットを用いて、比較例1のリードフレームの表面層(銅めっき膜)の厚みを測定した。その結果、表面層の厚みは1.9nmであった。リードフレームのパッドの上に接着剤を介してシリコンチップをマウントした。その後、大気中で260℃に加熱しながらシリコンチップを剥がす際のシア強度を実施例1と同じ方法で測定した。n=12で測定を行ったところ、シア強度の平均値は1.73MPaであった。実施例1の方が比較例1よりもシア強度が大幅に高いことが確認された。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で、表面層の厚みが異なる複数種類のリードフレームを作製した。表面層の厚みは、表面処理の電流密度を調節することによって変更した。表面層の厚みは、ポテンショスタットを用いて測定した。それぞれのリードフレームのシア強度を、実施例1と同様にして測定した。
図21に、表面層の厚みとシア強度の関係を示す。
図21には比較例1及び実施例1のシア強度もプロットした。この結果から、表面層の厚みを大きくすることで、シア強度を十分に大きくできることが確認された。