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特開2020-68671α−グルコシダーゼ阻害剤及び血糖値上昇抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-68671(P2020-68671A)
(43)【公開日】2020年5月7日
(54)【発明の名称】α−グルコシダーゼ阻害剤及び血糖値上昇抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20200410BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20200410BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200410BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20200410BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20200410BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20200410BHJP
【FI】
   A23L33/105
   A61P3/10
   A61P43/00 111
   A61K36/185
   A61K31/192
   A61K131:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-203201(P2018-203201)
(22)【出願日】2018年10月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 応用薬理 Vol.94,No.5/6 第59〜66頁(平成30年7月2日 応用薬理研究会発行)
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(72)【発明者】
【氏名】永峰 里花
(72)【発明者】
【氏名】高垣 欣也
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018ME01
4B018ME03
4B018ME14
4C088AB12
4C088AC04
4C088BA09
4C088BA19
4C088BA32
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZC20
4C088ZC35
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA18
4C206KA18
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZC20
4C206ZC35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた血糖値上昇抑制作用を有する新たな組成物の提供。
【解決手段】没食子酸又はその塩を含有するターミナリアベリリカ抽出物を有効成分とする、α−グルコシダーゼ阻害剤及び血糖値上昇抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
没食子酸又はその塩を含むターミナリアベリリカの抽出物を含有するα−グルコシダーゼ阻害剤。
【請求項2】
没食子酸又はその塩を含むターミナリアベリリカの抽出物を含有する血糖値上昇抑制剤。
【請求項3】
没食子酸又はその塩の含有量が11質量%以上であるターミナリアベリリカの抽出物を含有する、請求項2に記載の血糖値上昇抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターミナリアベリリカの抽出物を含むα−グルコシダーゼ阻害剤及び血糖値上昇抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は様々な疾病の原因となることが知られており、肥満によって生じる疾病の一つとして糖尿病がある。肥満及び糖尿病の予防には食生活の改善が重要であり、特に、糖尿病の予防に関しては糖の吸収を抑えること、つまり、食後の血糖値上昇を抑制することが効果的である。
【0003】
血糖値上昇抑制作用を有する素材の一つとして、難消化性デキストリンが知られている(特許文献1)。しかしながら、難消化性デキストリンは過剰摂取によって軟便が生じるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−046448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記問題点を鑑み、優れた血糖値上昇抑制作用を有する新たな組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、没食子酸を含むターミナリアベリリカの抽出物が優れたα−グルコシダーゼ阻害作用及び血糖値上昇抑制作用を有することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、没食子酸を含むターミナリアベリリカの抽出物を含むα−グルコシダーゼ阻害剤及び血糖値上昇抑制剤に関する。
【0008】
本発明において、血糖値上昇抑制剤として用いられるターミナリアベリリカの抽出物には、没食子酸が11質量%以上含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、没食子酸を含むターミナリアベリリカの抽出物は、優れたα−グルコシダーゼ阻害作用及び血糖値上昇抑制作用を有し、糖の吸収を穏やかにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ターミナリアベリリカ抽出物のラットにおけるショ糖負荷試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の記載のみに限定されず、特許請求の範囲で当業者が理解し得る程度に種々の変更が可能である。
【0012】
ターミナリアベリリカは、シクンシ科モモタマナ属の広葉樹である。本発明においては、葉、樹皮、根、花、木部、果実、種子など、いずれの部位を用いても良いが、果実又は果実の種子を除く部位(果皮又は果肉部)を用いることが好ましい。
【0013】
本発明においては、ターミナリアベリリカの抽出物又はその乾燥粉末(以下「抽出末」とも言う)を用いることができ、保管時の安定性及び取扱いの容易さの観点から、抽出末を用いることが好ましい。本発明においては、ターミナリアベリリカの抽出物として、市販品を使用することができる。
【0014】
抽出に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、酢酸、酢酸エチル、エーテル、ヘキサン、又はこれらの混合溶媒が挙げられるが、血糖値上昇抑制作用及び安全性の観点から、水を用いることが好ましい。抽出溶媒の温度は、使用する溶媒に応じて室温〜沸点以下で適宜設定することができる。
【0015】
抽出の時間については、抽出溶媒の量又は抽出温度によって変動するが、抽出時間の下限値は、10分以上が好ましく、30分以上がさらに好ましく、1時間以上が特に好ましい。また、抽出時間の上限値は、72時間以下が好ましく、60時間以下がさらに好ましく、48時間以下が特に好ましい。
【0016】
抽出物は、必要に応じて濃縮及び/又は乾燥粉末化することもできる。抽出物を濃縮する方法としては、例えば、減圧濃縮、逆浸透膜(RO膜)濃縮、凍結濃縮など適宜な濃縮手段を採用することができる。抽出物を乾燥粉末化する方法としては、通常用いられる乾燥法を用いてよく、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥などの乾燥法を用いて乾燥粉末化することができる。乾燥粉末化する際は、デキストリン等の賦形剤と共に乾燥することもできる。
【0017】
本発明に用いるターミナリアベリリカ抽出物は、没食子酸又はその塩を含有する。かかる没食子酸の含有量の範囲としては、ターミナリアベリリカ抽出物中に、4質量%以上であり、好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは11質量%以上、特に好ましくは14質量%以上である。また、没食子酸の含有量は、通常知られている没食子酸の分析法のうち測定試料の状況に適した分析法により測定することができる。例えば、液体クロマトグラフィー法で分析することが可能であり、測定の際には装置の分離能に適合させるため試料中の夾雑物を除去する等、必要に応じて適宜処理を施してもよい。
【0018】
本発明で用いるターミナリアベリリカ抽出物は、α−グルコシダーゼ阻害剤及び血糖値上昇抑制剤として使用される。食物から摂取する糖質、例えばデンプンなどは、二糖以上の糖の状態で摂取される。このため、腸管から糖を吸収するためには、糖質を単糖に分解する必要がある。この糖質の吸収過程における分解は、α−グルコシダーゼが関与しており、α−グルコシダーゼ阻害活性を有することで、腸管からの糖の吸収を抑制し得る。本発明のターミナリアベリリカより得られる抽出物は、優れたα−グルコシダーゼ阻害活性を有することから、腸管からの糖の吸収を抑制し、糖の体外排出を促進し得る。また、体内への糖の吸収を抑えることにより、血糖値の上昇が抑制され、食後の糖の吸収を穏やかにする効果を有する。以上より、本発明で用いるターミナリアベリリカ抽出物は肥満及び糖尿病の予防に有効である。
【0019】
ターミナリアベリリカ抽出物は、α−グルコシダーゼ阻害作用及び血糖値上昇抑制作用を有する。これらの効果を得るための摂取量、配合量は特に制限はないが、成人1日あたりの摂取量は、下限値として、乾燥質量換算で5mg以上が好ましく、10mg以上がさらに好ましく、15mg以上が特に好ましい。上限値として、10000mg以下が好ましく、5000mg以下がさらに好ましく、1000mg以下が特に好ましい。また、組成物中への配合量は、その剤形によっても異なるが、下限値として、乾燥質量換算で0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がさらに好ましく、0.01質量%以上が特に好ましい。配合量の上限値として、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましい。
【0020】
ターミナリアベリリカ抽出物を、例えば経口投与可能な剤形にする場合は、必要に応じて、例えば、ローヤルゼリー、プロポリス、ビタミン類(A、B、B、B、B12、ナイアシン、C、D、E、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体等)、ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛等)、セレン、キチン、キトサン、レシチン、ポリフェノール(フラボノイド、これらの誘導体等)、カロテノイド(リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン等)、キサンチン誘導体(カフェイン等)、タンパク質又はペプチド(大豆タンパク、コラーゲン、エラスチン、シルク又はこれらの分解物等)、ムコ多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、ケタラン、これらの誘導体等)、アミノ糖(グルコサミン、アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、アセチルノイラミン酸、ヘキソサミン、それらの塩等)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、環状オリゴ糖等)、食物繊維、リン脂質(フォスファチジルコリン、フォスファチジルセリン等)、スフィンゴ脂質及びその誘導体(スフィンゴミエリン、セラミド等)、含硫化合物(アリイン、セパエン、タウリン、グルタチオン、メチルスルホニルメタン等)、リグナン類(セサミン等)、真珠粉末、α−リポ酸又はその誘導体、コエンザイムQ10、及びこれらを含有する動植物抽出物、根菜類(ショウガ等)、賦形剤、滑沢剤、流動化剤などを適宜添加することができる。
【0021】
本発明の組成物の形態としては、例えば、錠状、カプセル状、粉末状、顆粒状、液状、粒状、棒状、板状、ブロック状、固形状、丸状、ペースト状、クリーム状、カプレット状、ゲル状、チュアブル錠状、スティック状等を挙げることができる。これらの中でも、錠状、カプセル状、粉末状、顆粒状、液状の形態が好ましく、錠状、粉末状、顆粒状の形態が特に好ましい。具体的には、サプリメントや、ペットボトル、缶、瓶等に充填された容器詰飲料や、水(湯)、牛乳、果汁、青汁等に溶解して飲むためのインスタント飲料や、食品添加剤を例示することができる。特にサプリメント、インスタント飲料は食事の際などに手軽に飲用しやすく、また嗜好性を高めることができるという点で好ましい。
【0022】
以下、本願発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0023】
[α−グルコシダーゼ阻害試験]
1.試料の調製
ターミナリアベリリカ抽出末(株式会社東洋新薬製)を用いて、α−グルコシダーゼ阻害試験を行った。具体的には、マルターゼ、スクラーゼ、イソマルターゼについて阻害試験を行った。ラット腸管アセトン粉末(SIGMA製)100mgに56mMマレイン酸緩衝液(pH =6.0)900μLを加え均質化及び遠心分離(3000rpm、10分、4℃)した上清を酵素溶液とした。阻害試験には希釈した酵素溶液を用い、マルターゼの阻害試験には18倍希釈、スクラーゼ及びイソマルターゼの阻害試験には2倍希釈した酵素溶液を用いた。基質は56mMマレイン酸緩衝(pH =6.0)に溶解した5mMのマルトース、スクロース、イソマルトース溶液を用いた。なお、本試験に用いたターミナリアベリリカ抽出末に含まれる没食子酸の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、14.7質量%であった。
【0024】
ターミナリアベリリカ抽出末を0.1%DMSO溶液に所定濃度となるよう溶解した後、2倍ずつ段階希釈して被験物質溶液を調製した。
【0025】
2.活性測定
被験物質溶液15μL、酵素溶液15μLを加え、37℃で5分間プレインキュベートを行った。その後、基質溶液90μLを加え、37℃で30分間インキュベートを行った。反応後、98℃で2分間処理し、酵素反応を停止させた。反応停止後、グルコーステストワコー(和光純薬製)を用いて550nmの吸光度を測定し、グルコース濃度を測定した(測定値Aとする。)。
【0026】
上記被験物質溶液の代わりに、0.1%DMSO溶液を用いたこと以外は、上記活性測定の手順と同様に操作を行い、得られた試験液の吸光度を測定した(測定値Bとする。)。
【0027】
上記酵素溶液の代わりに、98℃で2分間処理し熱失活した酵素溶液を用いた以外は、上記活性測定の手順と同様に操作を行い、得られた試験液の吸光度を測定した(測定値Cとする。)。
【0028】
上記被験物質溶液の代わりに、0.1%DMSO溶液を用い、上記酵素溶液の代わりに、98℃で2分間処理し熱失活した酵素溶液を用いた以外は、上記活性測定の手順と同様に操作を行い、得られた試験液の吸光度を測定した(測定値Dとする。)。
【0029】
ターミナリアベリリカ抽出末のα−グルコシダーゼ阻害率を以下の式1で計算した。
【0030】
[式1]
【0031】
上記の式1より得られたα−グルコシダーゼ阻害率と被験物質溶液の濃度から阻害曲線を作成し、50%阻害効果を示す被験物質の最終濃度(IC50)を算出した。各酵素におけるIC50は、マルターゼで61.1μg/mL、スクラーゼで103.1μg/mL、イソマルターゼで335.1μg/mLであった。
【0032】
以上より、本発明で用いるターミナリアベリリカ抽出物は、優れたα−グルコシダーゼ阻害作用を示すことが示唆された。
【0033】
[ラットにおけるショ糖負荷試験]
ターミナリアベリリカ抽出末(株式会社東洋新薬製)を用いて、ラットにおけるショ糖負荷試験を行った。なお、本試験に用いたターミナリアベリリカ抽出末に含まれる没食子酸の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、14.8質量%であった。
【0034】
7週齢のSD系雄性ラット(日本エスエルシー株式会社)を12時間絶食させ、血糖値及び体重に差が出ないよう試験群とコントロール群の2群に分けた。試験群のラットに対し、ターミナリアベリリカ抽出物を1.0g/5mL/kg体重となるよう調製し、胃内にゾンデを用いて経口投与した。コントロール群のラットには蒸留水を同様に投与した。その後、各群のラットに2.0g/5mL/kg体重のスクロース溶液を経口投与した。投与前、投与後30、60分後に各ラットの尾静脈より採血し、グルテストエースR(株式会社三和化学研究所)を用いて血中グルコース濃度を測定した。結果を図1に示す。
【0035】
図1より、ターミナリアベリリカ抽出物はコントロール群に比べ、ショ糖投与後〜60分において血糖値の上昇を抑制した。以上より、本発明のターミナリアベリリカ抽出物が優れた血糖値上昇抑制作用を有することが示された。
【0036】
(製造例1)
以下の配合割合にて1本当たり500mLの飲料を調整した(単位は質量%)。製造例1の飲料を食前に摂取したところ、食後血糖値上昇抑制効果が確認された。
【0037】
ターミナリアベリリカの抽出末 0.01
(没食子酸11質量%含有)
茶抽出物 0.1
葛花抽出物 0.01
グァバ葉抽出物 0.01
L−カルニチン酒石酸塩 0.02
果糖ブドウ糖 1.0
トレハロース 1.0
ビタミンB1 0.001
水 残部
【0038】
(製造例2)
以下の配合量にて1粒当たり200mgの錠剤を調整した(単位はmg)。製造例2の錠剤2粒を食前に摂取したところ、食後血糖値上昇抑制効果が確認された。
【0039】
ターミナリアベリリカの抽出末 30
(没食子酸11質量%含有)
松樹皮抽出物 30
アスコルビン酸ナトリウム 50
コエンザイムQ10 5
L−カルニチン酒石酸塩 20
ショ糖エステル 5.0
二酸化ケイ素 2.5
還元麦芽糖 57.5
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明で用いられる、没食子酸を含有するターミナリアベリリカ抽出物は、優れたα−グルコシダーゼ阻害作用及び血糖値上昇抑制作用を有し、これらの作用に起因した糖の吸収を穏やかにする効果を有するため、肥満及び糖尿病の予防に有用である。
図1