【解決手段】有機無機複合体100は、炭素材料10と無機酸化物20を含む有機無機複合体であって、C1sXPS分析による、C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合の合計量に対する、C−O結合とC=O結合の合計量の割合が、10%以上であって、C−O結合とC=O結合の合計量に対する、エーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合が、65%以上である。
空気雰囲気下、10℃/分の昇温条件によってTG−DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が200℃以上である、請求項1から3までのいずれかに記載の有機無機複合体。
前記無機酸化物粒子が、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ポリ酸粒子、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の有機無機複合体。
前記ポリ酸粒子を構成する金属元素が、モリブデン、バナジウム、タングステン、ニオブ、チタン、タンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の有機無機複合体。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪≪1.有機無機複合体≫≫
本発明の有機無機複合体は、炭素材料と無機酸化物を含む。炭素材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。無機酸化物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
本発明の有機無機複合体中の炭素材料の含有割合は、質量割合として、好ましくは0.01質量%〜99.99質量%であり、特に好ましくは0.1質量%〜99.9質量%である。本発明の有機無機複合体中の炭素材料の含有割合が上記範囲内にあれば、本発明の有機無機複合体は温和な条件で工業的に製造可能であり、また、本発明の有機無機複合体を材料として中空炭素微粒子等を工業的に製造することができる。これらの炭素材料の含有割合は、目的とする物性に応じて、後述する各種除去工程等により容易に任意の割合にすることが可能である。
【0019】
本発明の有機無機複合体中の無機酸化物の含有割合は、質量割合として、好ましくは0.01質量%〜99.99質量%であり、特に好ましくは0.1質量%〜99.9質量%である。本発明の有機無機複合体中の無機酸化物の含有割合が上記範囲内にあれば、本発明の有機無機複合体は温和な条件で工業的に製造可能であり、また、本発明の有機無機複合体を材料として中空炭素微粒子等を工業的に製造することができる。これらの無機酸化物の含有割合は、目的とする物性に応じて、後述する各種除去工程等により容易に任意の割合にすることが可能である。
【0020】
本発明の有機無機複合体は、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、全炭素酸素結合、すなわち、C−O結合とC=O結合の合計量の割合が、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上である。上記割合の上限は、好ましくは35%以下である。本発明の有機無機複合体において、C1sXPS分析による、C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合の合計量に対する、C−O結合とC=O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあれば、本発明の有機無機複合体は、従来知られている単純な炭素材料と異なり、溶解性等の様々な物性をもつ新規な炭素材料含有材料となり得る。
【0021】
本発明の有機無機複合体は、C1sXPS分析による、全炭素酸素結合、すなわち、C−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC−O結合(すなわち、C−O−C結合)とアルコール由来のC−O結合(すなわち、C−OH結合)の合計量の割合が、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上であり、特に好ましくは70%以上であり、最も好ましくは75%以上である。上記割合の上限は、好ましくは90%以下である。本発明の有機無機複合体において、C1sXPS分析による、C−O結合とC=O結合の合計量に対する、エーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあれば、本発明の有機無機複合体は、炭素材料部分の構造制御率を高め得るとともに、構造がより精密に制御され得る。なお、構造制御率とは、全結合数に対して、所望とする反応に由来する結合の割合を示す。本発明においては、全結合数がC−O結合とC=O結合の合計量に対応し、所望とする反応に由来する結合が、エーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量に対応する。構造制御率が高いということは、言い換えると、所望とする反応に由来する結合が多く、所望としない反応に由来する結合が少ないということである。本発明では、所望としない反応に由来する結合が分解反応に由来するC=O結合であり、構造制御率が少ないほど分解反応が抑制されており、このような有機無機複合体は、構造がより精密に制御されていると言える。
【0022】
本発明の有機無機複合体は、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC−O結合(すなわち、C−O−C結合)とアルコール由来のC−O結合(すなわち、C−OH結合)の合計量の割合が、好ましくは15%以上であり、より好ましくは17%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。上記割合の上限は、好ましくは30%以下である。本発明の有機無機複合体において、C1sXPS分析による、全結合の合計量に対する、エーテル由来のC−O結合(すなわち、C−O−C結合)とアルコール由来のC−O結合(すなわち、C−OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にあれば、本発明の有機無機複合体は、構造がより精密に制御された有機無機複合体であると言える。
【0023】
本発明の有機無機複合体は、特に好ましくは、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、全炭素酸素結合、すなわち、C−O結合とC=O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあって、且つ、C1sXPS分析による、全炭素酸素結合、すなわち、C−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC−O結合(すなわち、C−O−C結合)とアルコール由来のC−O結合(すなわち、C−OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にある態様である。このような態様であれば、本発明の有機無機複合体は、炭素材料部分の構造制御率をより高め得るとともに、構造がより一層精密に制御され得る。
【0024】
本発明の有機無機複合体は、特に好ましくは、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、全炭素酸素結合、すなわち、C−O結合とC=O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあって、且つ、C1sXPS分析による、全結合、すなわちC−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC−O結合(すなわち、C−O−C結合)とアルコール由来のC−O結合(すなわち、C−OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にある態様である。このような態様であれば、本発明の有機無機複合体は、炭素材料部分の溶解性をより高め得るとともに、炭素材料部分の構造制御率をより高め得る。また、このような態様であれば、本発明の有機無機複合体は、構造がより一層精密に制御され得る。
【0025】
本発明の有機無機複合体は、最も好ましくは、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、全炭素酸素結合、すなわち、C−O結合とC=O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあって、且つ、C1sXPS分析による、全炭素酸素結合、すなわち、C−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC−O結合(すなわち、C−O−C結合)とアルコール由来のC−O結合(すなわち、C−OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にあって、且つ、C1sXPS分析による、全結合、すなわちC−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合(アルコール由来のC−O結合、エーテル由来のC−O結合、エポキシ由来のC−O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC−O結合(すなわち、C−O−C結合)とアルコール由来のC−O結合(すなわち、C−OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にある態様である。このような態様であれば、本発明の有機無機複合体は、炭素材料部分の溶解性をより高め得るとともに、炭素材料部分の構造制御率をさらにより高め得る。また、このような態様であれば、本発明の有機無機複合体は、構造がさらにより一層精密に制御され得る。
【0026】
本発明の有機無機複合体は、好ましくは、IR分析において1660cm
−1〜1800cm
−1の間にC=O伸縮振動に起因するピークが見られない。本発明の有機無機複合体のIR分析において1660cm
−1〜1800cm
−1の間にC=O伸縮振動に起因するピークが見られない場合、本発明の有機無機複合体は、構造がより精密に制御され得る。
【0027】
有機無機複合体のIR分析において1660cm
−1〜1800cm
−1の間にC=O伸縮振動に起因するピークが見られない場合に該有機無機複合体の構造がより精密に制御され得るという理由は次のように考えられる。すなわち、後述するような化合物および製法を用いて有機無機複合体を形成した場合、縮合反応により、反応後の生成物には骨格である芳香族と酸素官能基が残ることになる。このとき、芳香族の構造を保ったまま(言い換えれば、構造が制御された場合)では、エーテル架橋のC−O結合もしくはアルコール由来のC−O結合、さらに酸素官能基も脱離縮合し、骨格の芳香族同士が結合したC−C結合が生成すると考えられる。一方で、望まない分解反応が起こり、骨格の芳香族構造が開裂した場合は、分解反応に由来するC=O結合が生じてしまう。したがって、IR分析において1660cm
−1〜1800cm
−1の間にC=O伸縮振動に起因するピークが見られないことは、分解反応が抑制されていることを意味し、このような有機無機複合体は、構造がより精密に制御された有機無機複合体であると言える。上記範囲は、特に好ましくは1700cm
−1〜1800cm
−1の範囲である。
【0028】
本発明の有機無機複合体は、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG−DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、最も好ましくは300℃以上である。本発明の有機無機複合体において、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG−DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が、上記範囲内にあれば、本発明の有機無機複合体は、酸化安定性が高く、すなわち構造が制御され、骨格構造が保たれているために耐酸化性(耐分解性)が高くなる。仮に、C=O結合が生成するような骨格の開裂が生じていると、骨格の安定性が下がり、耐酸化性(耐分解性)が低くなってしまうというおそれがある。
【0029】
本発明の有機無機複合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法によって製造し得る。このような製造方法は、代表的には、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機酸化物を含む組成物を加熱する加熱工程(I)を含む。この加熱工程(I)によって、化合物(A)と無機酸化物を含む組成物中の該化合物(A)が加熱されて炭素材料となり得る。
【0030】
加熱工程(I)における加熱温度は、化合物(A)の縮合反応温度がT℃であるときに、好ましくは、(T−150)℃以上である。ただし、本明細書における縮合反応温度Tは、無触媒(担体)下における縮合反応温度を意味する。
【0031】
加熱工程(I)においては、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機酸化物を含む組成物を加熱する。化合物(A)と無機酸化物との配合割合は、無機酸化物100質量%に対して、化合物(A)が、好ましくは0.01質量%〜1000000質量%であり、より好ましくは0.1質量%〜100000質量%であり、特に好ましくは1質量%〜1000質量%である。化合物(A)と無機酸化物との配合割合が上記範囲内にあれば、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。これらの無機酸化物と化合物(A)の配合割合は、目的とする複合体の物性に応じて、任意に調整することができる。例えば、無機酸化物と化合物(A)の配合割合を調整することにより、得られる有機無機複合体の物性、形態(例えば、溶媒への溶解性や、炭素成分または無機成分の形状(粒子状や非粒子状)、炭素成分または無機成分のサイズなど)を制御することができる。
【0032】
加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機酸化物を含む組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、溶媒、触媒、母材、担体などが挙げられる。
【0033】
加熱工程(I)で加熱する組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法で調製すればよい。このような方法としては、例えば、化合物(A)と無機酸化物とを、任意の適切な方法(例えば、破砕、粉砕など)で固体状態のまま混合する方法が挙げられる。また、化合物(A)と無機酸化物と溶剤と、必要に応じて溶剤以外の他の成分とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合し、任意の適切な方法(例えば、真空乾燥)によって溶剤を除去する方法などが挙げられる。また、必要に応じて、解砕を行ってもよい。
【0034】
加熱工程(I)における加熱温度は、化合物(A)の縮合反応温度がT℃であるときに、好ましくは(T−150)℃以上であり、より好ましくは(T−150〜T+50)℃であり、さらに好ましくは(T−130〜T+45)℃であり、さらに好ましくは(T−100〜T+40)℃であり、特に好ましくは(T−80〜T+35)℃であり、最も好ましくは(T−50〜T+30)℃である。本発明の有機無機複合体を製造する際においては、無機酸化物の触媒能や、無機酸化物上の官能基と炭素材料の反応性が高いことから、上記のように化合物(A)の縮合反応温度と比べて比較的低温から反応が進行して炭素化が進み得る。加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性を有する有機無機複合体や、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0035】
化合物(A)の縮合反応温度は、TG−DTA分析によって決定できる。具体的には、下記の通りである。
(1)化合物(A)として1種の化合物を用いる場合には、化合物(A)のTG−DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(2)化合物(A)として2種以上の化合物の混合物を用いる場合には、該混合物のTG−DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)(2種以上の化合物の混合物)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
【0036】
加熱工程(I)における加熱温度は、具体的な加熱温度として、好ましくは200℃〜500℃であり、より好ましくは220℃〜400℃であり、さらに好ましくは230℃〜350℃であり、最も好ましくは250℃〜300℃である。加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性を有する有機無機複合体や、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。特に、加熱工程(I)における加熱温度がこのように低いため、有機無機複合体をより温和な条件で工業的に製造可能である。
【0037】
加熱工程(I)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間〜120時間であり、より好ましくは0.5時間〜100時間であり、さらに好ましくは1時間〜50時間であり、最も好ましくは2時間〜24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性を有する有機無機複合体や、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0038】
≪1−1.炭素材料≫
本明細書で記載する「炭素材料」は、有機無機複合体に含まれる炭素材料部分を意味する。
【0039】
炭素材料は、C1sXPS分析により容易に炭素成分の存在が確認できる。また、炭素材料は、好ましくは、その構造内にベンゼン環由来のハニカム構造(グラフェン構造)を有する。グラフェン構造は、ラマン分光分析によってその有無の確認ができる(非特許文献4)。
【0040】
炭素材料は、不純物となる金属成分の含有量が合計で、通常、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。これらは、炭素材料を蛍光X線元素分析法(XRF)により分析することによって確認することができる。また、有機無機複合体を蛍光X線元素分析法(XRF)により分析した場合、有機無機複合体を構成する無機酸化物に含まれる金属成分以外の金属成分の含有量が、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。例えば、無機酸化物にアルミナを使用した有機無機複合体を蛍光X線元素分析法(XRF)にて分析した場合、アルミナに含まれる金属成分がアルミニウムのみの場合、アルミニウム以外の金属成分の含有量が、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。
【0041】
炭素材料は、その構成する元素として、炭素を必須とし、炭素以外の元素を含んでいてもよい。このような炭素以外の元素としては、好ましくは、酸素、水素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、より好ましくは、酸素、水素、窒素、硫黄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、さらに好ましくは、酸素、水素、窒素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、特に好ましくは、酸素、水素から選ばれる少なくとも1種の元素である。炭素材料を構成する元素のうち水素以外の元素の総量を100原子%としたとき、炭素は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上であり、さらに好ましくは75原子%以上である。また、炭素以外の元素は、好ましくは10原子%以上である。各元素の割合がこの範囲に入ることで、炭素材料でありながら良好な溶解性を発現することが可能となる。これらは、炭素材料をX線光電子分光法(C1sXPS)により定量することによって確認することができる。また、有機無機複合体をX線光電子分光法(C1sXPS)により定量した場合、有機無機複合体を構成する無機酸化物に含まれる元素以外の元素の総量を100原子%としたとき、炭素は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上であり、さらに好ましくは75原子%以上である。また、炭素以外の元素は、好ましくは10原子%以上である。例えば、無機酸化物にリンタングステン酸を使用した有機無機複合体をX線光電子分光法(C1sXPS)にて分析した場合、リンおよびタングステンが検出されるが、リン、タングステン、および、リンとタングステンの含有量から計算されるリンタングステン酸を構成する酸素量以外の元素の総量(水素を除く)に対しての炭素の量の割合、炭素以外の元素の割合が上記範囲内に入ることが好ましい。
【0042】
炭素材料は、好ましくは、溶媒に可溶である。ここで、炭素材料が溶媒に可溶である場合とは、従来の炭素材料に比べて溶媒への溶解性に優れ、良好な取り扱い性を実現し得る場合である。
【0043】
炭素材料が溶媒に可溶という態様としては、好ましくは、下記の実施態様を採りうる。
(実施態様1)炭素材料の全てが溶媒に溶解する実施態様。すなわち、炭素材料が、溶媒に溶解する成分(成分A)のみからなる実施態様。
(実施態様2)炭素材料の一部が溶媒に溶解する態様。すなわち、炭素材料が、溶媒に溶解する成分(成分A)と溶媒に溶解しない成分(成分B)からなる実施態様。この場合、成分Bとしては、例えば、後述する無機酸化物と相互作用し溶解しない部分が挙げられる。
【0044】
本発明において「溶媒に可溶」とは、任意の溶媒に溶解する成分がある態様を意味し、該溶媒としては、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。すなわち、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様が好ましい。より好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルムからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、さらに好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、特に好ましくは、N−メチルピロリドンに溶解する成分がある態様である。
【0045】
炭素材料が溶媒に可溶である一つの実施形態は、例えば、炭素材料が、溶媒に可溶である炭素系化合物を含む実施形態である。
【0046】
溶媒に可溶であるか否かの判定方法としては、例えば、有機無機複合体を上記溶媒に対して0.001質量%となるように混合したのち、超音波処理を1時間行い、得られた液をPTFE製濾紙(孔径0.45μm)に通したとき、濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれるか否かで判定することができる。濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれる場合、炭素材料が溶媒に可溶である炭素系化合物を含むと判定される。上記PTFE製濾紙としては、例えば、ジーエルサイエンス株式会社製のGLクロマトディスク(型式13P)を用いることができる。
【0047】
炭素材料は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm
−1〜1650cm
−1の範囲内)およびDバンド(一般的に1300cm
−1〜1400cm
−1の範囲内)にピークを有し、(ii)さらに溶媒に可溶である炭素系化合物を含む。
【0048】
炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Gバンド(一般的に1550cm
−1〜1650cm
−1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm
−1〜1650cm
−1の範囲内)にピークを有することは、炭素材料がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。Gバンドは、強度が高く、シャープであれば、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。
【0049】
炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Dバンド(一般的に1300cm
−1〜1400cm
−1の範囲内)にピークを有する。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Dバンド(一般的に1300cm
−1〜1400cm
−1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおけるDバンド(一般的に1300cm
−1〜1400cm
−1の範囲内)にピークを有することは、その炭素材料がグラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。Dバンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。また、Dバンドが確認できるということは、炭素材料が官能基を有することを意味しており、これにより、溶媒に対する溶解性を高め得る。
【0050】
炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、G′バンド(一般的に2650cm
−1〜2750cm
−1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm
−1〜2750cm
−1の範囲内)にピークを有することは、炭素材料がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。G′バンドの強度は、グラフェン構造が1層のときに最も強く、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に小さくなる。しかしながら、G′バンドは、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に強度が小さくなっても、ピークは観察することができる。したがって、G′バンドにピークを有することは、炭素材料がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。G′バンドは、2Dバンドとも呼ばれることがある。
【0051】
炭素材料は、好ましくは、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm
−1〜3000cm
−1の範囲内)にピークを有する。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、D+D′バンド(一般的に2800cm
−1〜3000cm
−1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm
−1〜3000cm
−1の範囲内)にピークを有することは、その炭素材料がグラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。D+D′バンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。D+D′バンドは、D+Gバンドとも呼ばれることがある。また、D+D′バンドが確認できるということもまた、炭素材料が官能基を有することを意味しており、これにより、溶媒に対する溶解性を高め得る。
【0052】
炭素材料において、官能基を含むことと共に、グラフェン構造の一部に欠陥を有している場合、この欠陥が、炭素材料の溶媒への溶解性の発現に寄与し得る。
【0053】
炭素材料は、上記のように、従来公知の炭素材料とは異なり、グラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有し、炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料の成分がより多くなったり、炭素材料が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0054】
炭素材料に含まれる炭素系化合物の分子量は、好ましくは1000〜1300000であり、より好ましくは5000〜1000000であり、さらに好ましくは10000〜700000であり、特に好ましくは15000〜500000であり、最も好ましくは20000〜300000である。炭素材料に含まれる炭素系化合物の分子量が上記範囲内にあれば、上記(i)の特徴と相まって、炭素材料の溶媒への溶解性が向上し得る(例えば、溶媒に溶解する炭素材料の成分がより多くなったり、炭素材料が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。炭素材料に含まれる炭素系化合物の分子量が1300000を超えると、炭素材料の溶媒への溶解性が悪くなるおそれがある。炭素材料に含まれる炭素系化合物の分子量が1000未満であると、炭素材料としての特徴が薄れるおそれがある。これらの分子量は、後述する手法により分析できる。
【0055】
炭素材料中の炭素系化合物の含有割合は、好ましくは50質量%〜100質量%であり、より好ましくは70質量%〜100質量%であり、さらに好ましくは90質量%〜100質量%であり、特に好ましくは95質量%〜100質量%であり、最も好ましくは実質的に100質量%である。炭素材料中の炭素系化合物の含有割合が上記範囲内にあれば、上記(i)、(ii)の特徴と相まって、炭素材料の溶媒への溶解性が向上し得る(例えば、溶媒に溶解する炭素材料の成分がより多くなったり、炭素材料が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0056】
炭素材料は、好ましくは、XRD分析によって得られるXRDスペクトルチャートにおいて、20°〜30°の範囲内にピークを示す。すなわち炭素材料は、グラフェン構造が積層した構造(グラフェン積層構造)を有することも、好ましい実施形態の一つである。積層構造を有することで、炭素材料はより強固になり得るとともに、より安定なものとなり得る。
【0057】
炭素材料は、代表的には、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機酸化物を含む組成物を加熱する加熱工程(I)によって、該組成物中の該化合物(A)が加熱されて得られる。
【0058】
<化合物(A)>
化合物(A)は、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きるので、化合物(A)と無機酸化物を含む組成物を加熱する加熱工程(I)によって、代表的には、化合物(A)は炭素材料となり得る。
【0059】
化合物(A)は、好ましくは、23℃環境下で固体であって融点を有する。融点を有することで、焼成の過程で融解し、分子間での反応が良好に進行する。仮に融点を有さない場合、焼成の過程で融解しないので、分子の位置が固定され、分子間での反応が促進されにくく、炭素材料化しにくい。このような化合物(A)を採用することにより、縮合反応を促進し、分解反応を抑制したり、炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料の成分がより多くなったり、炭素材料が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0060】
化合物(A)は、縮合に寄与しない骨格が芳香族構造であることが好ましい。骨格が芳香族であることによって、得られる炭素材料の炭素成分がより安定になり得る。このような芳香族構造としては、例えば、ベンゼン、ナフタレンのような炭素原子からなる芳香族構造;ピリジン、ピリミジン、フラン、チオフェンのような炭素原子およびヘテロ原子(窒素や酸素など)からなるヘテロ芳香族構造;などが好ましく、これらの中でも、ベンゼン、ピリジンのような六員環構造をもつ芳香族構造およびヘテロ芳香族構造がより好ましい。
【0061】
化合物(A)の分子量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な分子量を採用し得る。このような分子量としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは500以下であり、より好ましくは75〜450であり、さらに好ましくは80〜400であり、最も好ましくは100〜350である。
【0062】
化合物(A)の縮合反応温度は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応温度を採用し得る。このような縮合反応温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは400℃以下であり、より好ましくは200℃〜370℃であり、最も好ましくは250℃〜350℃である。
【0063】
化合物(A)の、窒素ガス雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG−DTA分析を行ったときの、温度50℃における初期重量M50に対する温度500℃における重量M500の重量比(M500/M50)は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.2〜0.9であり、最も好ましくは0.3〜0.8である。上記の重量比(M500/M50)が上記範囲内に収まる化合物(A)を用いることで、加熱後の有機無機複合体中に炭素材料が十分に残り得る。
【0064】
[化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態1)]
化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態1)は、加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物である。芳香族環上にラジカルが発生した芳香族化合物が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料となり得る。
【0065】
加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物としては、好ましくは、加熱によって気体(常温常圧において気体状態である気体)を発生する芳香族化合物である。
【0066】
加熱によって気体を発生する芳香族化合物としては、芳香族化合物であって、加熱を行うことによって気体が発生するものであれば、任意の適切な芳香族化合物を採用し得る。このような常温常圧において気体状態である気体としては、好ましくは、CO、CO
2、O
2から選ばれる少なくとも1種である。
【0067】
加熱によってCOおよび/またはCO
2を発生する芳香族化合物としては、例えば、「−C(=O)−」および/または「−O−C(=O)−」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族ケトン誘導体、芳香族エステル誘導体、酸無水物など)などが挙げられる。
【0068】
加熱によってCOおよび/またはCO
2を発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0070】
加熱によってO
2を発生する芳香族化合物としては、例えば、「−O−O−」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族炭素酸化物、芳香族過酸化物など)などが挙げられる。
【0071】
加熱によってO
2を発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。なお、下記の化合物において、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【0073】
加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物は、加熱による分解性を有し、骨格の少なくとも一部がかい離・分解することによって気体分子(好ましくは、CO、CO
2、O
2から選ばれる少なくとも1種)が生成し、残った芳香族環上にラジカルが生成する化合物である。このような芳香族化合物を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の分解のみによる反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような芳香族化合物を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、炭素材料を得ることができる。また、このような芳香族化合物は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0074】
[化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態2)]
化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態2)は、縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。この実施形態2においては、1つの化合物が2種以上の基を有している場合であってもよいし、2つ以上の化合物のそれぞれの有する基を組み合わせて2種以上の基となる場合であってもよい。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料となり得る。
【0075】
縮合反応としては、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離することによる縮合反応であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応を採用し得る。このような縮合反応とすることにより、比較的低温で反応を行うことが可能となり得る。このような縮合反応としては、例えば、
(a)−H基と−OH基とからH
2Oが形成されて脱離することによる縮合反応、
(b)−H基と−OR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(c)−H基と−OOCR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRCOOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
などが挙げられる。特に、脱離した中性成分が該脱離温度(焼成温度)で気体成分であると、炭素材料に取り込まれることなく、気相部にあるため、不純物となりにくい。
【0076】
縮合反応として、−H基と−OH基とからH
2Oが形成されて脱離することによる縮合反応(上記(a))を代表例として説明する。
【0077】
実施形態2における化合物(A)の一つの実施形態(実施形態(X)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が−OH基であり、もう半数が−H基である。
【0078】
実施形態(X)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)である場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)である場合、
の2つの場合のいずれかを採り得る。
【0079】
実施形態(X)において、「骨格の構造形成に寄与していない置換基」とは、上記(i)の場合の「1個の炭素6員環構造からなる骨格」または上記(ii)の場合の「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基を意味する。例えば、上記(i)の場合として、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1−1)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の−OH基と6個の−H基であり、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1−2)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は3個の−OH基と3個の−H基である。また、例えば、上記(ii)の場合として、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)が後に示す化学式(a2−1)で表される場合、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の−OH基と6個の−H基である。
【0080】
実施形態(X)においては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が−OH基であり、もう半数が−H基であり、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が−OH基であり、もう半数が−H基である。このような置換基の構成を有することにより、化合物(A)は、加熱により、同一分子同士および/または異なる分子間で効果的に脱水反応が起き得る。
【0081】
実施形態(X)において採用し得る化合物(A)としては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が−OH基であり、もう半数が−H基である化合物であれば、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な化合物を採用し得る。このような化合物(A)としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0083】
実施形態(X)において採用し得る化合物(A)の中でも、−H基と−OH基とからH
2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、低温で反応が進行しやすいと推察される点で、フロログルシノール(化合物(a1−2))、ヘキサヒドロキシトリフェニレン(HHTP)(化合物(a2−1))が好ましい。
【0084】
実施形態2における化合物(A)の別の一つの実施形態(実施形態(Y)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)および/または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上であり、該化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および該化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計の半数が−OH基であり、もう半数が−H基である。
【0085】
実施形態(Y)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる2種以上からなる場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上からなる場合、
(iii)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる1種以上と2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる1種以上とからなる場合、
の3つの場合のいずれかを採り得る。
【0086】
実施形態(Y)において、「化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計」とは、下記のような意味である。すなわち、上記(i)の場合、2種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(ii)の場合、2種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(iii)の場合、1種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数と、1種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数とを、全て合計した数を意味する。
【0087】
実施形態(Y)において、例えば、上記(i)の場合として、2種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1−5)および化学式(a1−6)で表される場合、化学式(a1−5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の−OH基と4個の−H基であり、化学式(a1−6)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は4個の−OH基と2個の−H基であり、それらの合計は、6個の−OH基と6個の−H基である。また、例えば、上記(iii)の場合として、1種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1−5)および化学式(a1−7)で表され、1種以上の化合物(a2)が下記の化学式(a2−3)で表される場合、化学式(a1−5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の−OH基と4個の−H基であり、化学式(a1−7)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の−OH基であり、化学式(a2−3)で表される化合物の2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の−OH基と6個の−H基である。
【0090】
このような化合物(A)を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0091】
[化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態3)]
化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態3)は、実施形態1と実施形態2の双方を同時に採用する形態である。すなわち、実施形態3は、加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物であり、かつ縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料となり得る。
【0092】
実施形態3の具体的な構造としては、例えば、化合物(a3−1)が挙げられる。化合物(a3−1)は、加熱により二酸化炭素分子が脱離し、芳香族環上にラジカル(反応活性点)が生じるとともに、ヒドロキシル基と水素基が分子間で脱水し縮合反応が起こる。
【0094】
このような化合物(A)を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0095】
≪1−2.無機酸化物≫
無機酸化物は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な無機酸化物を採用し得る。このような無機酸化物としては、例えば、粒子状の無機酸化物(無機酸化物粒子)、非粒子状の無機酸化物(例えば、繊維状の無機酸化物、薄膜状の無機酸化物など)などを採用し得る。
【0096】
本発明にいう「無機酸化物」の例としては、その一部が酸化された金属、好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化された金属も含まれる。後述するように、金属は、一般に、その一部、好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化されているからである。
【0097】
本発明にいう「無機酸化物」としては、具体的には、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ポリ酸、その一部が酸化された金属(好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化された金属)などが挙げられる。
【0098】
本発明にいう「無機酸化物」は、その形状を問わず(すなわち、例えば、無機酸化物粒子であっても、非粒子状の無機酸化物であっても)、全体が無機酸化物である実施形態であってもよいし、一部が無機酸化物である実施形態であってもよい。一部が無機酸化物である実施形態としては、好ましくは、表面に無機酸化物を有する実施形態である。
【0099】
一部が無機酸化物である実施形態(好ましくは、表面に無機酸化物を有する実施形態)としては、その形状を問わず、例えば、その一部が酸化された金属(好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化された金属)が挙げられる。金属は、酸素の存在下によってその一部(好ましくは、その表面の少なくとも一部)が酸化され得る。したがって、本発明でいう無機酸化物の一形態である「表面に無機酸化物を有する実施形態」には、その形状を問わず、その表面の少なくとも一部が酸化された金属が含まれる。
【0100】
無機酸化物として無機酸化物粒子を用いる場合、化合物(A)と無機酸化物を含む組成物を加熱する加熱工程(I)によって、代表的には、無機酸化物粒子を多数含む塊状の有機無機複合体が得られ得る(この場合、解砕などによって粒子状の有機無機複合体を得ることができ得る)。しかしながら、化合物(A)と無機酸化物の配合割合を調整することにより、化合物(A)と無機酸化物を含む組成物を加熱する加熱工程(I)によって、粒子状の有機無機複合体が得られる場合もある。
【0101】
無機酸化物として繊維状の無機酸化物を用いる場合は、例えば、後述するコアシェル粒子の代わりに繊維状のコアシェル繊維が得られ得る。また、繊維状の無機酸化物を用いる場合は、例えば、後述する中空炭素微粒子の代わりにチューブ状の中空炭素材料が得られ得る。
【0102】
無機酸化物として薄膜状の無機酸化物を用いる場合は、化合物(A)と無機酸化物を含む組成物を加熱する加熱工程(I)によって、例えば、積層状の有機無機複合体が得られ得る。また、このような積層状の有機無機複合体に対して、さらに、後述する加熱工程(II)や炭素材料除去工程や無機酸化物除去工程などを施すことにより、例えば、薄膜状の各種炭素材料が得られ得る。
【0103】
無機酸化物の分解温度は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは800℃以上であり、より好ましくは850℃以上であり、さらに好ましくは900℃以上であり、特に好ましくは950℃以上である。
【0104】
本発明において、本発明の効果をより発現させ得る点で、無機酸化物としては無機酸化物粒子が好ましい。
【0105】
本明細書にいう「無機酸化物粒子」としては、好ましくは、粒子全体が無機酸化物である粒子、または、粒子の一部が無機酸化物である粒子である。粒子の一部が無機酸化物である粒子としては、表面に無機酸化物を有する粒子が好ましい。本明細書にいう「無機酸化物粒子」としては、より好ましくは、粒子全体が無機酸化物である粒子である。
【0106】
粒子の一部が無機酸化物である粒子(好ましくは、表面に無機酸化物を有する粒子)の例としては、例えば、その一部が酸化された金属粒子(好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子)が挙げられる。金属粒子は、酸素の存在下によってその一部(好ましくは、その表面の少なくとも一部)が酸化され得る。したがって、本発明でいう無機酸化物粒子の一形態である「表面に無機酸化物を有する粒子」には、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子が含まれる。
【0107】
金属粒子以外の無機酸化物粒子(例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子など)は、粒子全体が無機酸化物である粒子である場合だけでなく、粒子の一部が無機酸化物である粒子(好ましくは、表面に無機酸化物を有する粒子)である場合もあり得る。すなわち、例えば、シリカ粒子を例に挙げると、シリカ粒子は、粒子全体がシリカである場合だけでなく、粒子の一部がシリカである粒子(好ましくは、表面にシリカを有する粒子)である場合もあり得る。
【0108】
無機酸化物粒子の平均粒子径は、目的によって適宜設定され得る。本発明の効果をより発現させ得る点で、無機酸化物粒子の平均粒子径は、好ましくは0.01μm〜100μmであり、特に好ましくは0.1μm〜10μmである。
【0109】
無機酸化物粒子の平均粒子径は、体積基準の粒度分布における平均粒子径であり、レーザー回折散乱法で測定することが好ましい。
【0110】
本発明の効果をより発現させ得る点で、無機酸化物粒子は、好ましくは、表面に官能基を有する無機酸化物粒子である。このような官能基としては、例えば、M−OHのようなヒドロキシル性官能基;M−O−Mのようなエーテル性官能基を含む酸素官能基;M−NHX(Xは0〜3)、M−NHX−Mのようなアミン性官能基を含む窒素官能基;M−SH、M−S−Mのようなチオール性官能基を含む硫黄官能基;その他、ケイ素官能基、ホウ素官能基、リン官能基など;等が挙げられる(Mは、官能基が結合する対象を概念的に示したものであり、無機酸化物そのものや有機基など、官能基が結合できる任意の適切な対象を示す)。これらの官能基は、無機酸化物に各種化合物を表面処理する等で容易に形成できる。これらの中でも、無機酸化物粒子としては、好ましくは、表面に酸素官能基を有する無機酸化物粒子である。
【0111】
無機酸化物として表面に官能基を有する無機酸化物粒子を採用すれば、本発明の有機無機複合体において、無機酸化物粒子の表面に存在する官能基が、炭素材料と結合を形成し得る。このような結合に寄与している炭素材料の領域(炭素材料結合領域)は、炭素材料そのものではない。すなわち、
図1に示すように、本発明の有機無機複合体の一つの好ましい実施形態において、有機無機複合体100は、マトリックスとしての炭素材料10中に複数の無機酸化物粒子20が分散したものであり、炭素材料10と無機酸化物粒子20との界面には、炭素材料が無機酸化物粒子20の表面に存在する官能基と結合を形成して生じた炭素材料の領域(炭素材料結合領域)30が存在している。そうすると、例えば、炭素材料が溶媒に可溶である場合には、有機無機複合体100を、炭素材料を溶解する溶媒によって処理すると、
図2に示すように、無機酸化物粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機酸化物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200が得られ得る。こうして得られるコアシェル粒子200からコア部分としての無機酸化物粒子20を除去すると、炭素材料を有する中空炭素微粒子が得られ得る。
【0112】
表面に官能基を有する無機酸化物粒子としては、好ましくは、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ポリ酸粒子、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種である。表面に官能基を有する無機酸化物粒子として、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ポリ酸粒子、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を採用すれば、無機酸化物粒子の表面に存在する官能基が、炭素材料と結合をより形成し得る。
【0113】
表面に官能基を有する無機酸化物粒子としては、より好ましくは、ポリ酸粒子である。ポリ酸粒子を構成するポリ酸としては、イソポリ酸、ヘテロポリ酸が挙げられる。前述の通り、化合物(A)を用いると触媒効果を利用することなく炭素材料含有材料を得ることができるが、特に、表面に官能基を有する無機酸化物粒子としてポリ酸粒子を採用すると、強酸性の触媒効果と表面官能基の存在が相まって、本発明の有機無機複合体とした場合に、脱水縮合反応が促進されC−O結合の総量に対する、−OH基と−O−基の合計量の割合が高くなり、高い構造制御率を有し得る。
【0114】
イソポリ酸としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なイソポリ酸を採用し得る。このようなイソポリ酸としては、例えば、モリブテン、バナジウム、タングステン、ニオブ、チタン、タンタル、クロム、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、スズ、チタン、ジルコニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、亜鉛等の無機元素を主体とする無機酸およびそれらの塩が挙げられ、代表的には、モリブデン酸、バナジウム酸、タングステン酸、ニオブ酸、チタン酸、タンタル酸などが挙げられる。
【0115】
ヘテロポリ酸としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なヘテロポリ酸を採用し得る。このようなヘテロポリ酸としては、例えば、イソポリ酸またはその金属塩にヘテロ原子を導入したものが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素、硫黄、リン、アンモニウム、カリウム、ナトリウム、ケイ素などが挙げられる。ヘテロポリ酸は水和物であってよい。
【0116】
ヘテロポリ酸としては、具体的には、例えば、タングステンを含むイソポリ酸にヘテロ原子を導入してなるタングステン系ヘテロポリ酸や、モリブデンを含むイソポリ酸にヘテロ原子を導入してなるモリブデン系ヘテロポリ酸などが挙げられる。
【0117】
タングステン系ヘテロポリ酸としては、例えば、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、コバルトタングステン酸、ゲルマノタングステン酸、ホウタングステン酸、リンバナドタングステン酸、リンタングストモリブデン酸などが挙げられる。
【0118】
モリブデン系ヘテロポリ酸としては、例えば、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸などが挙げられる。
【0119】
≪≪2.有機無機複合体の応用≫≫
本発明の有機無機複合体は、様々な応用展開が可能である。このような応用展開によって得られる代表的なものは、炭素材料含有粒子である。炭素材料含有粒子としては、代表的には、コアシェル粒子、高炭素化コアシェル粒子、中空炭素微粒子、高炭素化中空炭素微粒子などが挙げられる。
【0120】
≪2−1.コアシェル粒子≫
コアシェル粒子は、本発明の有機無機複合体を製造する際において、加熱工程(I)の後、化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料の少なくとも一部を除去する炭素材料除去工程に付すことによって製造し得る。すなわち、加熱工程(I)を経て本発明の有機無機複合体を製造した後、本発明の有機無機複合体に含まれる炭素材料の少なくとも一部を除去する炭素材料除去工程に付すことによって製造し得る。炭素材料除去工程においては、本発明の有機無機複合体に含まれる炭素材料を溶解する溶媒によって処理する。これにより、
図2に示すように、無機酸化物粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機酸化物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200が得られ得る。
【0121】
溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられ、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルムであり、より好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンであり、特に好ましくはN−メチルピロリドンである。
【0122】
≪2−2.高炭素化コアシェル粒子≫
高炭素化コアシェル粒子は、本発明の有機無機複合体を製造する際において、加熱工程(I)の後、炭素材料除去工程を続いて行った後、さらに加熱する加熱工程(II)に付すことによって製造し得る。すなわち、炭素材料除去工程によって得られるコアシェル粒子(コア部分:無機酸化物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)をさらに加熱する。この加熱工程(II)により、シェル部分を高炭素化させ得る。これにより、高炭素化コアシェル粒子(コア部分:無機酸化物粒子、シェル部分:高炭素化物)が得られ得る。高炭素化することで、得られた高炭素化コアシェル粒子の強度や耐熱性を向上することができる。
【0123】
加熱工程(II)における加熱温度は、コアの無機成分が耐えられる温度内であればよいが、具体的な加熱温度として、好ましくは500℃〜3000℃であり、より好ましくは600℃〜2500℃であり、最も好ましくは700℃〜2000℃である。加熱工程(II)における加熱温度を上記範囲に調整することにより、シェル部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0124】
加熱工程(II)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間〜120時間であり、より好ましくは0.5時間〜100時間であり、さらに好ましくは1時間〜50時間であり、最も好ましくは2時間〜24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、シェル部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0125】
≪2−3.中空炭素微粒子≫
中空炭素微粒子は、本発明の有機無機複合体を製造する際において、加熱工程(I)の後、無機酸化物を除去する無機酸化物除去工程を含むことによって製造し得る(製造形態1)。すなわち、加熱工程(I)を経て有機無機複合体を製造した後、該有機無機複合体に含まれる無機酸化物を除去する無機酸化物除去工程に付すことによって製造し得る。
【0126】
中空炭素微粒子は、また、本発明の有機無機複合体を製造する際において、加熱工程(I)の後、炭素材料除去工程を続いて行った後、無機酸化物を除去する無機酸化物除去工程を含むことによっても製造し得る(製造形態2)。すなわち、加熱工程(I)、およびそれに続く炭素材料除去工程を経てコアシェル粒子を製造した後、該コアシェル粒子に含まれる無機酸化物を除去する無機酸化物除去工程に付すことによって製造し得る。
【0127】
無機酸化物除去工程における無機酸化物の除去の方法は、例えば、炭素材料が溶解されずに無機酸化物を溶解できる溶剤で除去する方法が挙げられる。上記のような溶解特性をもつ溶剤としては、特に限定はされないが、水系溶剤が好ましい。このように水系溶剤が好ましい理由としては、本発明の製造方法で製造される有機無機複合体に含まれる炭素材料は水に溶けにくく、一方、無機酸化物は水(特に酸性水や塩基性水)に溶けるものが多いためである。水系溶剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の酸性水溶液;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性水溶液;などが挙げられる。また、除去工程において、温度は、特に限定はされないが、水系溶剤の溶解特性を効果的に発現させ得る点で、好ましくは0℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜100℃である。さらに、除去工程の物理的な処理としては、特に限定はされないが、除去性を効果的に発現させ得る点で、好ましくは、静置、撹拌、超音波処理、せん断操作であり、より好ましくは、撹拌、超音波処理、せん断操作である。
【0128】
≪2−4.高炭素化中空炭素微粒子≫
高炭素化中空炭素微粒子は、本発明の有機無機複合体を製造する際において、加熱工程(I)の後、無機酸化物除去工程を続いて行った後、さらに加熱する加熱工程(II)を含むことによって製造し得る。すなわち、上述の製造形態1で得られる中空炭素微粒子をさらに加熱する。この加熱工程(II)により、炭素材料部分を高炭素化させ得る。これにより、高炭素化中空炭素微粒子が得られ得る。高炭素化することで、得られた炭素材料または炭素材料複合体の強度や耐熱性を向上することができる。
【0129】
高炭素化中空炭素微粒子は、また、本発明の有機無機複合体を製造する際において、加熱工程(I)の後、炭素材料除去工程を続いて行った後、さらに無機酸化物除去工程を続いて行った後、さらに加熱する加熱工程(II)を含むことによって製造し得る。すなわち、上述の製造形態2で得られる中空炭素微粒子をさらに加熱する。この加熱工程(II)により、炭素材料部分を高炭素化させ得る。
【実施例】
【0130】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。また、本明細書において、「質量」は「重量」と読み替えても良い。ただし、本明細書中のC1sXPSに係る部分の%は原子%を意味する。
【0131】
<ラマン分光分析>
ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS−3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算64回(分解能=4cm−1)
なおラマン分析においてG’バンド、D+D’バンドは重なって現れることがあり、D+D’バンドが特にショルダーを持つブロードなピークとして分析されることがある。この場合はショルダーピークの変曲点をG’バンドのピークとみなす。
【0132】
<XRD分析>
XRD測定は、全自動水平型X線回折装置(リガク社製、SMART LAB)を用いて、以下の条件により行った。
CuKα1線:0.15406nm
走査範囲:10°−90°
X線出力設定:45kV−200mA
ステップサイズ:0.020°
スキャン速度:0.5°min
−1−4°min
−1
なお、XRD測定は、試料をグローブボックス中にて気密試料台に装填することにより、不活性雰囲気を保った状態で行った。
【0133】
<C1sXPS分析>
C1sXPS測定は、光電子分光装置(AXIS−ULTRA、島津製作所製)を用いて、以下の条件により行った。
ソース:Mg(デュアルノード)
エミッション:10mA
アノード:10kV
アナライザー:Pass Energy:40
測定範囲:C1s:296〜270eV
積算回数:10回
解析条件:C1s軌道に由来するピークを官能基ごとに、下記に記載のエネルギーでピーク分離し、各面積から割合を算出した。官能基の種類は(1)−COO−、ラクトン、および一部のケトン@288.3eV、(2)C=Oおよびエポキシ基@286.2eV、(3)C−OHおよびC−O−C@285.6eV、(4)6員環性C=C@284.3eV、(5)C−C、C−Hおよび5員環性C=C@283.6eVの5ピークで分離した。ただし、割合算出上(4)と(5)はまとめて計算した。なおC1sXPSに係る部分の%は原子%を意味する。なお、表には、(1)、(2)、(3)のそれぞれに対応するピークの割合を(A)、(B)、(C)で示し、(4)および(5)に対応するピークの合計割合を(D)で示した。
【0134】
<TG−DTA分析>
TG−DTA分析は、以下の装置、条件により行った。
測定装置:示唆熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6200)
化合物(A)の縮合反応温度は、下記のように行った。
(1)化合物(A)として1種の化合物を用いる場合には、化合物(A)のTG−DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)の縮合反応温度(T℃)と決定した。
(2)化合物(A)として2種以上の化合物の混合物を用いる場合には、該混合物のTG−DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)(2種以上の化合物の混合物)の縮合反応温度(T℃)と決定した。
有機無機複合体の酸化開始温度は、空気雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で行い、DTAの立ち上がり温度のうち、最も低温側のDTAの立ち上がり温度より推定した。
【0135】
<IR分析>
FT−IR分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光製FT/IR−4200)
測定条件:拡散反射(DRIFT)法、MCT検出器、分解能4cm−1、積算回数128回
サンプル条件:試料とKBrを重量比=1:50で混合したものを使用した。
【0136】
<分子量の測定>
分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製HLC−8220GPC)を用いて、各炭素材料が0.02質量%となるようN,N−ジメチルホルムアミド(0.1%LiBr含有)に混合し、1時間超音波処理後、PTFE製濾紙(0.45μm)に通して前処理したのち、濾液をN,N−ジメチルホルムアミド(0.1%LiBr含有)を展開溶媒に使用し、ポリスチレン換算で分子量を算出した。炭素材料中の最大分子量はピークの立ち上がり点から算出した。
【0137】
〔実施例1〕:フロログルシノール+シリカ粒子+250℃×1時間
フロログルシノール(東京化成工業株式会社製、融点:220℃、縮合反応温度:330℃):理論比表面積750m
2/gがシリカ粒子に対して1.5層分となるようにシリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製、商品名「Q−10HT60315」、比表面積259m
2/g)と十分に混合した。
得られた混合物を石英アンプル管に真空封入した後、あらかじめ250℃に加熱していた電気炉にて1時間加熱した。
これにより、炭素材料(1A)と無機酸化物(1B)を含む有機無機複合体(1)を得た。
有機無機複合体(1)をNMP(N−メチルピロリドン)に分散させ、前述の手法により炭素成分の溶解性を確認したところ、溶媒に可溶であった。
得られた有機無機複合体(1)のC1sXPS分析の結果を
図3(XPSスペクトル(C1s))、表1に示す。表1から、有機無機複合体(1)が炭素材料と無機酸化物を含む有機無機複合体であることがわかり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対する全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量の割合は26%であり、全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は62%であり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は16%であった。このことから、構造制御率が高いことがわかる。
フロログルシノールの、窒素ガス雰囲気下、10℃/分の昇温条件によってTG−DTA分析を行ったときの、温度50℃における初期重量M50に対する温度500℃における重量M500の重量比(M500/M50)が0.49であった。このことから、フロログルシノールは炭素化後も十分に無機酸化物上に存在し得ることがわかる。
得られた有機無機複合体(1)のTG−DTA分析におけるDTA分析の結果を
図4に示す。
図4によれば、有機無機複合体(1)は、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG−DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が200℃であった。このことから、耐酸化性が高いことがわかる。
さらに、得られた有機無機複合体(1)のIR分析を行った結果を
図5に示す。
図5によれば、有機無機複合体(1)のIRスペクトルにおいては、C=O構造に由来する1660cm
−1〜1800cm
−1にピークが無く、高く構造が制御できている。
さらに、得られた有機無機複合体(1)のラマンスペクトルを
図6に示す。ラマンスペクトルにおいて1365cm
−1、1590cm
−1、2650cm
−1、2835cm
−1にピークを有することから、炭素材料(1A)はグラフェン構造を有し且つグラフェン構造が積層した構造の炭素系化合物を含む炭素材料であることがわかった。
以上のように、本発明によれば、溶媒に可溶であり、構造が精密に制御された、温和な条件で工業的に製造可能な有機無機複合体を提供することができる。
【0138】
〔実施例2〕フロログルシノール+アルミナ粒子+250℃×1時間
シリカ粒子をアルミナ粒子(一般社団法人触媒学会無償配布試料「JRC−ALO7」、比表面積180m
2/g)に変更した以外は、実施例1と同様に行い、炭素材料(2A)と無機酸化物(2B)を含む有機無機複合体(2)を得た。
有機無機複合体(2)をNMP(N−メチルピロリドン)に分散させ、前述の手法により炭素成分の溶解性を確認したところ、溶媒に可溶であった。
得られた有機無機複合体(2)のC1sXPS分析の結果を
図3(XPSスペクトル(C1s))、表1に示す。表1から、有機無機複合体(2)が炭素材料と無機酸化物を含む有機無機複合体であることがわかり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対する全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量の割合は29%であり、全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は59%であり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は17%であった。このことから、構造制御率が高いことがわかる。
得られた有機無機複合体(2)のTG−DTA分析におけるDTA分析の結果を
図4に示す。
図4によれば、有機無機複合体(2)は、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG−DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が230℃であった。このことから、耐酸化性が高いことがわかる。
さらに、得られた有機無機複合体(2)のIR分析を行った結果を
図5に示す。
図5によれば、有機無機複合体(2)のIRスペクトルにおいては、C=O構造に由来する1660cm
−1〜1800cm
−1にピークが存在しており、C1sXPSによる構造制御率は高いが、FT−IR分析による構造制御率はやや低い。
さらに、得られた有機無機複合体(2)のラマンスペクトルを
図6に示す。ラマンスペクトルにおいて1340cm
−1、1585cm
−1、2650cm
−1、2835cm
−1にピークを有することから、炭素材料(2A)はグラフェン構造を有し且つグラフェン構造が積層した構造の炭素系化合物を含む炭素材料であることがわかった。
以上のように、本発明によれば、溶媒に可溶であり、構造が精密に制御された、温和な条件で工業的に製造可能な有機無機複合体を提供することができる。
【0139】
〔実施例3〕フロログルシノール+チタニア粒子+250℃×1時間
シリカ粒子をチタニア粒子(一般社団法人触媒学会無償配布試料「JRC−TIO−4(2)」、比表面積50m
2/g)に変更した以外は、実施例1と同様に行い、炭素材料(3A)と無機酸化物(3B)を含む有機無機複合体(3)を得た。
有機無機複合体(3)をNMP(N−メチルピロリドン)に分散させ、前述の手法により炭素成分の溶解性を確認したところ、溶媒に可溶であった。
得られた有機無機複合体(3)のC1sXPS分析の結果を
図3(XPSスペクトル(C1s))、表1に示す。表1から、有機無機複合体(3)が炭素材料と無機酸化物を含む有機無機複合体であることがわかり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対する全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量の割合は27%であり、全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は56%であり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は15%であった。このことから、構造制御率が高いことがわかる。
得られた有機無機複合体(3)のTG−DTA分析におけるDTA分析の結果を
図4に示す。
図4によれば、有機無機複合体(3)は、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG−DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が200℃であった。このことから、耐酸化性が高いことがわかる。
さらに、得られた有機無機複合体(3)のIR分析を行った結果を
図5に示す。
図5によれば、有機無機複合体(3)のIRスペクトルにおいては、C=O構造に由来する1660cm
−1〜1800cm
−1にピークが存在しており、C1sXPSによる構造制御率は高いが、FT−IR分析による構造制御率はやや低い。
さらに、得られた有機無機複合体(3)のラマンスペクトルを
図6に示す。ラマンスペクトルにおいて1340cm
−1、1580cm
−1、2650cm
−1、2820cm
−1にピークを有することから、炭素材料(3A)はグラフェン構造を有し且つグラフェン構造が積層した構造の炭素系化合物を含む炭素材料であることがわかった。
以上のように、本発明によれば、溶媒に可溶であり、構造が精密に制御された、温和な条件で工業的に製造可能な有機無機複合体を提供することができる。
【0140】
〔実施例4〕フロログルシノール+ヘテロポリ酸粒子(HPW)+250℃×1時間
シリカ粒子をヘテロポリ酸粒子としてHPW(富士フイルム和光純薬株式会社製、12−タングスト(VI)リン酸n水和物、比表面積278m
2/g)に変更した以外は、実施例1と同様に行い、炭素材料(4A)と無機酸化物(4B)を含む有機無機複合体(4)を得た。
有機無機複合体(4)をNMP(N−メチルピロリドン)に分散させ、前述の手法により炭素成分の溶解性を確認したところ、溶媒に可溶であった。
得られた有機無機複合体(4)のC1sXPS分析の結果を
図3(XPSスペクトル(C1s))、表1に示す。表1から、有機無機複合体(4)が炭素材料と無機酸化物を含む有機無機複合体であることがわかり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対する全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量の割合は29%であり、全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は76%であり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は22%であった。このことから、構造制御率が高いことがわかる。
得られた有機無機複合体(4)のTG−DTA分析におけるDTA分析の結果を
図4に示す。
図4によれば、有機無機複合体(4)は、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG−DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が300℃であった。このことから、耐酸化性が高いことがわかる。
さらに、得られた有機無機複合体(4)のIR分析を行った結果を
図5に示す。
図5によれば、有機無機複合体(4)のIRスペクトルにおいては、C=O構造に由来する1660cm
−1〜1800cm
−1にピークが無く、高く構造が制御できている。
さらに、得られた有機無機複合体(4)のラマンスペクトルを
図6に示す。ラマンスペクトルにおいて1350cm
−1、1585cm
−1、2650cm
−1、2810cm
−1にピークを有することから、炭素材料(4A)はグラフェン構造を有し且つグラフェン構造が積層した構造の炭素系化合物を含む炭素材料であることがわかった。また、炭素材料(4A)部分の分子量を測定したところ、重量平均分子量は8000、最大分子量は50000であった。
以上のように、本発明によれば、溶媒に可溶であり、構造が精密に制御された、温和な条件で工業的に製造可能な有機無機複合体を提供することができる。
【0141】
〔実施例5〕フロログルシノール+ヘテロポリ酸粒子(HPMo)+250℃×1時間
シリカ粒子をヘテロポリ酸粒子としてHPMo(富士フイルム和光純薬株式会社製、12−モリブド(VI)リン酸n水和物)に変更した以外は、実施例1と同様に行い、炭素材料(5A)と無機酸化物(5B)を含む有機無機複合体(5)を得た。
有機無機複合体(5)をNMP(N−メチルピロリドン)に分散させ、前述の手法により炭素成分の溶解性を確認したところ、溶媒に可溶であった。
得られた有機無機複合体(5)のC1sXPS分析の結果を
図7(XPSスペクトル(C1s))、表1に示す。表1から、有機無機複合体(5)が炭素材料と無機酸化物を含む有機無機複合体であることがわかり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対する全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量の割合は27%であり、全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は63%であり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は17%であった。このことから、構造制御率が高いことがわかる。
以上のように、本発明によれば、溶媒に可溶であり、構造が精密に制御された、温和な条件で工業的に製造可能な有機無機複合体を提供することができる。
【0142】
〔実施例6〕フロログルシノール+ヘテロポリ酸粒子(HSiW)+250℃×1時間
シリカ粒子をヘテロポリ酸粒子としてHSiW(日本新金属株式会社製、ケイタングステン酸)に変更した以外は、実施例1と同様に行い、炭素材料(6A)と無機酸化物(6B)を含む有機無機複合体(6)を得た。
有機無機複合体(6)をNMP(N−メチルピロリドン)に分散させ、前述の手法により炭素成分の溶解性を確認したところ、溶媒に可溶であった。
得られた有機無機複合体(6)のC1sXPS分析の結果を
図7(XPSスペクトル(C1s))、表1に示す。表1から、有機無機複合体(5)が炭素材料と無機酸化物を含む有機無機複合体であることがわかり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対する全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量の割合は29%であり、全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は72%であり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は21%であった。このことから、構造制御率が高いことがわかる。
以上のように、本発明によれば、溶媒に可溶であり、構造が精密に制御された、温和な条件で工業的に製造可能な有機無機複合体を提供することができる。
【0143】
〔実施例7〕フロログルシノール+ヘテロポリ酸粒子(HPVMo)+250℃×1時間
シリカ粒子をヘテロポリ酸粒子としてHPVMo(日本新金属株式会社製、リンバナドモリブデン酸)に変更した以外は、実施例1と同様に行い、炭素材料(7A)と無機酸化物(7B)を含む有機無機複合体(7)を得た。
有機無機複合体(7)をNMP(N−メチルピロリドン)に分散させ、前述の手法により炭素成分の溶解性を確認したところ、溶媒に可溶であった。
得られた有機無機複合体(7)のC1sXPS分析の結果を
図7(XPSスペクトル(C1s))、表1に示す。表1から、有機無機複合体(7)が炭素材料と無機酸化物を含む有機無機複合体であることがわかり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対する全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量の割合は29%であり、全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は55%であり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は16%であった。このことから、構造制御率が高いことがわかる。
以上のように、本発明によれば、溶媒に可溶であり、構造が精密に制御された、温和な条件で工業的に製造可能な有機無機複合体を提供することができる。
【0144】
〔実施例8〕フロログルシノール+ヘテロポリ酸粒子(HPWMo)+250℃×1時間
シリカ粒子をヘテロポリ酸粒子としてHPWMo(日本新金属株式会社製、リンタングストモリブデン酸)に変更した以外は、実施例1と同様に行い、炭素材料(8A)と無機酸化物(8B)を含む有機無機複合体(8)を得た。
有機無機複合体(8)をNMP(N−メチルピロリドン)に分散させ、前述の手法により炭素成分の溶解性を確認したところ、溶媒に可溶であった。
得られた有機無機複合体(8)のC1sXPS分析の結果を
図7(XPSスペクトル(C1s))、表1に示す。表1から、有機無機複合体(8)が炭素材料と無機酸化物を含む有機無機複合体であることがわかり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対する全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量の割合は27%であり、全炭素−酸素結合(C−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は70%であり、全炭素結合(C−C結合とC=C結合とC−H結合とC−O結合とC=O結合)の合計量に対するエーテル由来のC−O結合とアルコール由来のC−O結合の合計量の割合は19%であった。このことから、構造制御率が高いことがわかる。
以上のように、本発明によれば、溶媒に可溶であり、構造が精密に制御された、温和な条件で工業的に製造可能な有機無機複合体を提供することができる。
【0145】
〔参考例1〕:フロログルシノール+銅粒子+300℃×2時間、高炭素化コアシェル粒子
フロログルシノール(東京化成工業株式会社製、融点:220℃、縮合反応温度:330℃):1gを200gのアセトンに溶解し、そこに銅粒子(ECKA Granules Germany GmbH製、粒子径:95vol%以上が36μm以下):20gを加え、超音波処理によって十分に混合した。
得られた混合物から常温真空乾燥によってアセトンを除去し、残った塊状物を解砕した後、300℃にて2時間加熱した。
これにより、炭素材料(9A)と無機酸化物(9B)を含む有機無機複合体(10)を得た。
得られた有機無機複合体(9)をDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)にて処理した。これにより、炭素材料(9A)が除去され、無機酸化物(9B)の表面に炭素材料結合領域がコーティングされたコアシェル粒子(9)(コア部分:無機酸化物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)が得られた。
コアシェル粒子(9)をさらに700℃で1時間焼成した。これにより、シェル部分の炭素材料が高炭素化され、高炭素化コアシェル粒子(9)が得られた。高炭素化コアシェル粒子(9)の表面のラマンスペクトルを
図8に示した。
図8により、高炭素化コアシェル粒子(9)の表面(シェル部分)が形状を損なうことなく高炭素化された炭素材料で構成されていることがわかる。
【0146】
【表1】