【課題】高純度の硫化水素ガスを充填し、一定期間保管した場合にも充填された高純度硫化水素ガスの純度が低下しにくい容器を簡便に製造できる容器の製造方法ならびに、硫化水素収容体の製造方法、及び、硫化水素の充填方法を提供する。
【解決手段】容器前駆体を準備する工程Aと、液化硫化水素を含有する液化ガスを上記容器前駆体に導入し、上記容器前駆体の接液部と接触させて、接触後の上記液化ガスを上記容器前駆体から排出する処理を行い、容器を得る工程Bと、を有し、上記容器前駆体が、被覆層付き基材からなり、上記接液部の少なくとも一部が上記被覆層からなり、上記被覆層が、金属の水和物を含有し、上記容器は、上記基材と、上記基材上の少なくとも一部に配置された上記金属の硫化物を含有する不動態層とを有する不動態層付き基材からなる、容器の製造方法。
前記工程Bが、前記接触後の液化ガス中における水の含有量が予め定めた基準値以下となるまで、前記処理を繰り返す工程である、請求項1又は2に記載の容器の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
[容器の製造方法]
本発明の実施形態に係る容器の製造方法は、硫化水素を収容するための容器を製造するための、容器の製造方法であって、容器前駆体を準備する工程Aと、液化硫化水素を含有する液化ガスを上記容器前駆体に導入し、上記容器前駆体の接液部と接触させて、接触後の上記液化ガスを上記容器前駆体から排出する処理を行い、容器を得る工程Bと、を有し、上記容器前駆体が、基材と、上記基材上の少なくとも一部に配置された被覆層とを有する被覆層付き基材からなり、上記接液部の少なくとも一部が上記被覆層からなり、上記被覆層が、金属の水和物を含有し、上記容器は、上記基材と、上記基材上の少なくとも一部に配置された上記金属の硫化物を含有する不動態層とを有する不動態層付き基材からなる、容器の製造方法である。
【0011】
上記容器の製造方法により本発明の効果が得られる機序としては必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であり、以下の機序によらず本発明の効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれる。
【0012】
本発明者らは、高純度の硫化水素を容器に充填した場合、収容した硫化水素の純度が経時的に低下する場合があることを知見し、その原因を鋭意検討してきた。硫化水素は腐食性を有することが知られ、一般的な金属製の容器に加圧又は無加圧で充填した場合、容器を構成する金属成分と反応して接液部に不動態被膜を形成し、この不動態被膜により、容器の腐食が抑制され、結果として収容物たる硫化水素を安定的に保管できると考えられてきた。
【0013】
しかし、本発明者の検討によれば、接液部に形成された不動態被膜が経時的に剥離して収容物(硫化水素)に混入したり、収容物と接液部との反応が徐々に進行して反応生成物が収容物に混入したりして、収容物の純度が低下する場合があることを突き止めた。上記傾向は、収容される硫化水素の純度がより高いほど顕著であるものと推測された。
【0014】
本発明者は、上記純度低下のメカニズムを更に詳細に検討するため、容器の接液部の材料、不動態の形成反応、及び、形成される不動態の形態について詳細に検討してきた。その結果、驚くべきことに、金属の水和物を含有する被覆層を有する被覆層付き基材からなる容器前駆体を用い、所定の処理を行えば上記課題を解決できることを見出した。
【0015】
本発明の実施形態に係る容器の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)は、(a)液化硫化水素を含有する液化ガスを容器前駆体に導入して、容器前駆体の接液部と接触させること、(b)接触後の上記液化ガスを容器前駆体から排出すること、(c)容器前駆体は、基材と基材上に形成された金属の水和物を含有する被覆層とを有する被覆層基材からなること、(d)容器前駆体の接液部の少なくとも一部が上記被覆層からなること、及び、(e)得られる容器は、基材と、基材上の少なくとも一部に配置された金属の硫化物を含有する不動態層とを有する不動態層付き基材からなること、に特徴点のひとつがある。
【0016】
まず、本製造方法は、(a)を有するため、接液部に不動態層が形成され、結果として、(e)の容器が得られる。このとき、容器前駆体に導入するのが、液化硫化水素を含有する液化ガスであるため、加圧下にて硫化水素と容器前駆体の接液部とが接触する。これにより、形成される不動態層がより緻密となり、結果として、優れた安定性を有する容器が得られる(不動態層が剥離して、収容物に混入しにくい)ものと推測される。
【0017】
また、本製造方法は、(b)を有する。本製造方法で使用される容器前駆体は、基材と、基材上に形成された金属の水和物を含有する被覆層とを有する。典型的にはこの被覆層が容器前駆体における接液部を構成している。本発明者は、金属の水和物と液化硫化水素とが接触すると、金属の硫化物が生成すると同時に、水が生成する場合があることを知見している。上記の反応により水が生成した場合、水は、液化ガスに混入することとなる。
本製造方法においては、(b)において、接触後の液化ガスを容器前駆体から排出するため、このとき併せて上記水等の反応生成物(不純物)が容器前駆体から除去されることとなる。
これにより、得られた容器に硫化水素を保管した場合であっても、すでに不動態層が形成されている状態であるため、経時的に反応が進行して水等が収容物に混入するのを抑制できる。
【0018】
また、本製造方法において使用される容器前駆体は、金属の水和物を含有する被覆層を有する。本発明者の検討によれば、被覆層は、その一部が(b)により反応し、不動態層となるものの、基材と不動態層との間に、一部が残存するものと推測される。そのため、基材と、不動態層とが剥離を起こしにくく、結果として、得られる容器に硫化水素を保管した場合であっても、経時的に不動態層が剥離しにくく、純度が低下しにくい。
【0019】
本製造方法は、上記各構成の相乗的な作用により、所望の効果がはじめて得られたものである。以下では、本製造方法の各工程についてその形態を詳述する。
【0020】
〔工程A〕
工程Aは、容器前駆体を準備する工程である。本明細書において、準備とは、購入すること、又は、製造すること等によって、容器前駆体を容器の製造に供することを意味し、その形態は特に制限されない。
【0021】
<容器前駆体>
容器前駆体とは、所定の工程を経て容器となる部材を意味し、典型的には市販の「高圧ガス容器(例えば、ガスシリンダー)」、及び、使用済みのいわゆる「戻り容器」等が挙げられる。
容器前駆体の形状としては特に制限されないが、一端が閉鎖されるとともに他端が開口し、かつ、開口端部が縮径されて口部が設けられた筒状体と、上記筒状体の口部に取りつけられたバルブとからなる形態が挙げられる。
【0022】
図1には、本発明の実施形態に係る容器の製造方法に適用可能な容器前駆体の断面模式図を表す。容器前駆体10は、筒状体である本体11と、本体11の口部に取り付けられたバルブ12とを有している。本体11とバルブ12で画される空間Cは、形成される容器において、気体又は液体を収容するための空間に対応する。
本明細書において、容器前駆体の接液部とは、本体11、及び、バルブ12における空間C側の表面を意味し、形成される容器において、充填される硫化水素と接触する可能性のある領域を意味する。
【0023】
なお、容器前駆体としては上記に制限されず、容器内の気相と液相とをそれぞれ取り出し可能に構成され、内部にサイフォン管等を有する形態であってもよい。
【0024】
(被覆層付き基材)
容器前駆体10の本体11、及び、バルブ12は、基材と上記基材上の少なくとも一部に配置された被覆層とを有する被覆層付き基材からなる。
図2は、容器前駆体における被覆層付き基材の断面模式図を示している。被覆層付き基材は、基材21と、基材21上に形成された被覆層22とを有する積層体である。なお、
図2において、被覆層は、基材の一方の主面上の全体にわたって配置されているが、本発明の実施形態に係る容器の製造方法に適用可能な被覆層付き基材としては上記に制限されず、基材上の少なくとも一部に被覆層が配置されていればよく、基材の表面積の50%以上の領域に被覆層が配置されていることが好ましく、70%以上の領域に配置されているのがより好ましく、90%以上の領域に配置されているのが更に好ましい。なかでも、収容される硫化水素の純度がより低下しにくい観点で、基材の表面の全体に被覆層が配置されていることが好ましい。
【0025】
容器前駆体において、被覆層付き基材における被覆層が、容器前駆体においてどの部分に配置されているかについては、特に制限されないが、容器前駆体の接液部の少なくとも一部が被覆層からなる形態が好ましく、容器前駆体の接液部の表面積の50%以上の領域が被覆層で形成されていることが好ましく、70%以上の領域が被覆層で形成されていることがより好ましく、90%以上の領域が被覆層で形成されていることが更に好ましく、容器前駆体の接液部の表面の全体が、被覆層で形成されていることが特に好ましい。
【0026】
・基材
基材の材料としては特に制限されず、容器用として公知の材料を特に制限なく使用可能である。なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、基材の材料成分としては金属(原子)を含有することが好ましく、水和物を形成可能な金属を含有することがより好ましい。なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、基材としては、金属を全質量の50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することが更に好ましい。なお、本明細書において、全質量の50質量%以上の金属を含有する基材を「金属基材」ともいう。
【0027】
基材は、金属の1種を単独で含有してもよく、2種以上を併せて含有してもよい。基材が2種以上の金属を含有する場合、合金、化合物、及び、混合物等のいずれであってもよく、また、非金属元素を含有してもよい。基材が合金である場合には、その組織としては特に制限されず、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、及び、これらの混合物のいずれであってもよい。
なお、基材が2種以上の金属を含有する場合、2種以上の金属の合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0028】
金属としては特に制限されないが、鉄、ニッケル、クロム、マンガン、モリブデン、及び、アルミニウム等が挙げられる。
金属基材としては特に制限されないが、例えば、炭素鋼、マンガン鋼、ステンレス鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケル鋼、及び、アルミニウム鋼等が挙げられる。
また、基材は表面処理がされた表面処理済み基材であってもよい。表面処理済み基材としては特に制限されないが、例えば、無電解ニッケルめっき済みの金属基材等が挙げられる。また、表面処理としては、バレル研磨、及び、電解研磨等であってもよい。
【0029】
・被覆層
被覆層は、金属の水和物を含有することが好ましい。金属の水和物としては特に制限されないが、水酸化物、及び、水和酸化物(含水酸化物)等が挙げられる。
被覆層が金属の水和物を含有することにより、高純度の硫化水素を充填し、一定期間保管した場合であっても、高純度の硫化水素の純度が低下しにくい容器が得られる。
上記の理由としては必ずしも明らかではないが、以下のような機序と推測される。まず、被覆層は金属の水和物を含有するため、後述する工程2において、液化硫化水素を含有する液化ガスと接触すると、上記金属と液化硫化水素とが反応し、金属の硫化物を含有する不動態層を生成するものと推測される。この時、被覆層の少なくとも一部が不動態層に変化するものの、被覆層の一部が基材と不動態層との間に残存しているものと推測される。このように基材と不動態層との間に、被覆層の少なくとも一部が残存していると、基材と不動態層とがより優れた接着性を有し、結果として、得られる容器に硫化水素を保管した際、不動態層が経時的に剥離しにくく、収容物(硫化水素)の純度がより低下しにくいものと推測される。
【0030】
なお、上記金属としては特に制限されないが、基材中に含有される金属と同種の金属であることが好ましい。すなわち、被覆層付き基材としては、水和物を形成可能な金属を含有する金属基材と、上記金属基材上の少なくとも一部に配置された、金属と同種の金属の水和物を含有する被覆層とを有することが好ましい。
【0031】
(容器前駆体を準備する方法)
容器前駆体を準備する方法としては特に制限されないが、例えば、市販の金属製「容器」を購入し、所定の処理をする方法が挙げられる。
上記処理としては特に制限されないが、市販の金属「容器」の少なくとも接液部に紫外線(真空紫外線が好ましい)を照射し、基材上の夾雑分子(例えば低分子有機化合物)を除去した後、照射後の基材を水蒸気を含有する雰囲気に暴露する方法、市販の金属「容器」の少なくとも接液部を研磨した後、水蒸気を含有する雰囲気に暴露する方法、及び、市販の研磨済み金属「容器」を一定期間、水蒸気を含有する雰囲気に暴露する方法等が挙げられる。
研磨の方法としては特に制限されず、ブラスト研磨、ブラシ研磨、ベルト研磨、バフ研磨、電解研磨、及び、バレル研磨のいずれであってもよく、これらを組み合わせたものでもよい。
上記の方法により、金属基材上に、金属の水和物を含有する被覆層を有する被覆層付き基材からなる容器前駆体が準備できる。
【0032】
〔工程B〕
工程Bは、液化硫化水素を含有する液化ガスを上記容器前駆体に導入し、上記容器前駆体の接液部と接触させ、接触後の上記液化ガスを上記容器前駆体から排出する処理を行い、容器を得る工程である。
【0033】
本工程においては、液化硫化水素を含有する液化ガスを容器前駆体に導入し、言い換えれば、加圧下で硫化水素と接液部とを接触させるため、より緻密な不動態層が形成されやすい。そのため、得られる容器に硫化水素を収容した場合に、容器の接液部と収容した硫化水素との反応が起こりにくく、結果として、収容した硫化水素の純度がより低下しにくい。
【0034】
液化硫化水素を含有する液化ガスを容器前駆体に導入する場合、容器前駆体を加熱しながら実施してもよい。このとき、容器前駆体の内部温度としては30〜50℃が好ましい。内部温度を調整する方法としては特に制限されないが、容器前駆体の外側表面に接するように温度調節器を配置する方法等が挙げられる。
【0035】
なお、加圧下で硫化水素と接液部とを接触させる方法としては特に制限されず、例えば、特開2002−54799号公報の
図1に記載された装置を用いることができ、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0036】
液化ガスとしては、液化硫化水素を含有していれば特に制限されず、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、水分等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、液化ガスにおける液化硫化水素の含有量としては、99vol%以上が好ましく、99.9vol%以上がより好ましい。なお、本明細書において、液化硫化水素とは、硫化水素が液体状態にあるものを意味し、典型的には、沸点(−60℃)以上で、1MPa以上の状態にあるものを意味する。
容器前駆体に液化ガスを導入した場合、容器前駆体中には、液相部分と気相部分が生じていてもよく、また、容器前駆体に配管を連結して、管路全体を加圧することにより結果として容器前駆体の全体が液相の液化ガスと接触していてもよい。
【0037】
液化ガスの製造方法としては特に制限されないが、硫化水素含有ガス流を圧縮し、必要に応じて精製する方法が挙げられる。硫化水素含有ガス流を製造する方法としては特に制限されず、精油工程に由来するもの、及び、硫黄及び水素からの合成に由来する物が挙げられる。硫化水素含有ガス流を圧縮して液化ガスを得る方法としては特に制限されないが、特表2012−513367号公報に記載された方法を用いることができ上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0038】
次に、容器前駆体の接液部と液化ガスとを接触させて、接触後の液化ガスを容器前駆体から排出する。
接液部と液化ガスとが接触すると、金属の水和物と、硫化水素とが反応し、不動態が形成される。また、その過程で反応生成物(不純物)が生じることがある。
本工程においては、接液部に不動態層を形成するとともに、その反応で生じる不純物を含有する接触後の液化ガスを容器前駆体から排出することにより、得られる容器に新たな硫化水素を収容した場合に、上記硫化水素中に水分がより混入しにくく、結果として硫化水素の純度が経時的に低下しにくいという効果が得られる。
【0039】
液化ガスを容器前駆体に導入してから、接触後の液化ガスを容器前駆体から排出するまでの時間(言い換えれば、容器前駆体の接液部と硫化水素との反応時間)は特に制限されないが、例えば、1時間〜1週間程度であればよい。
不動態層が形成されたのち、液化ガスを排出する方法としては特に制限されないが、圧力を下げて、ガス化させた後、吸引除去する方法等が挙げられる。
【0040】
不純物としては特に制限されないが、被覆層が有する金属の水和物が含有するのと同種の金属、及び、水からなる群より選択される少なくとも一方を含有することが好ましい。上記金属は、単体であってもよく、化合物であってもよいが、金属の水和物、又は、金属の硫化物であることが好ましく、典型的には、上記物質を含有する粒子である形態が挙げられる。また、上記金属はイオンであってもよい。また、水は、金属の水和物と硫化水素が反応して金属の硫化物が形成される際に、併せて生成されることが多い。
【0041】
本工程においては、上記の処理を行うことにより、基材と、基材上の少なくとも一部に配置された金属の硫化物を含有する不動態層とを有する不動態層付き基材からなる容器が得られる。この時、上記不動態層は、典型的には、被覆層に対応する位置に配置されている。すなわち、典型的には、上記容器は、その接液部の少なくとも一部に不動態層が配置されてなる。
なお、本明細書において、金属の硫化物とは、金属硫化物、及び、金属水硫化物からなる群より選択される少なくとも1種を意味し、金属硫化物であることが好ましい。
【0042】
本工程において、上記処理の回数としては特に制限されず、1回であってもよく、複数であってもよい。また、液化ガスの導入と、排出とを順次実施してもよいし、導入と排出とを同時に実施してもよい。液化ガスの充填と排出とを同時に実施する方法としては特に制限されないが、液化ガスを流通可能な流路を横切るように容器前駆体を配置し、上記流路に液化ガスを流通させる方法が挙げられる。すなわち、流路に沿って容器前駆体へ液化ガスが流入し、容器前駆体から、液化ガスが排出される形態が挙げられる。このとき、流路は循環していてもよい。
【0043】
・本発明の実施形態に係る容器の製造方法の好適形態
図3には、本発明の実施形態に係る容器の製造方法の好適形態を示すフローチャートである。以下では、本実施形態に係る製造方法の各工程について説明するが、以下に説明のない項目については、すでに説明したのと同様である。
【0044】
本実施形態に係る容器の製造方法においては、まず、容器前駆体を準備する(ステップS01)。次に、液化硫化水素を含有する液化ガスを容器前駆体に導入し、容器前駆体の接液部と接触させる(ステップS02)。この時、液化ガスは、容器前駆体の被覆層に含有される金属の水和物と同種の金属(単体であってもよく、化合物であってもよい。また、粒子状であっても、イオンであってもよい)、及び、水からなる群より選択される少なくとも一方を含有することが好ましく、水を含有することが好ましい。
【0045】
次に、容器前駆体から、接触後の液化ガスを排出する(ステップS03)。
次に、上記液化ガス中の水の含有量を測定し(ステップS04)、予め定めた基準値と比較する(ステップS05)。
なお、基準値としては特に制限されず、適宜定めることができる。例えば、得られた容器に硫化水素を収容し、所定の期間保管した後、保管後の硫化水素中に含有される水の含有量として許容される値(例えば、品質保証値)のような値に基づき定めればよい。
なお、組成物中における水の含有量の測定方法としては特に制限されないが、より簡便に測定可能である点で、気相中の水分を露点測定法で想定することが好ましい。
【0046】
基準値は収容物が所望の純度を維持できるよう、その純度に応じた数値を設定すればよく、特に制限されないが、具体的には、気相中の水分として2mg/L以下が好ましい。
【0047】
上記ステップS05において、測定値が予め定めた基準値以下である場合、容器の製造は終了し、基材と、基材上の少なくとも一部に配置された金属の硫化物を含有する不動態層とを有する不動態層付き基材からなる、容器が得られる。
一方、上記ステップS05において、測定値が予め定めた基準値を超えている場合、再度、ステップS02〜ステップS05までの処理を繰り返す。
上記の各ステップを有する本実施形態に係る容器の製造方法によれば、液化ガス中における水の含有量が所定の値(基準値)以下であることを確認したうえで、各工程を終了するため、所望の品質を有する容器が得られやすい。
【0048】
[硫化水素収容体の製造方法]
本発明の実施形態に係る硫化水素収容体の製造方法は、すでに説明した容器の製造方法により容器を製造する工程と、上記容器に新たな硫化水素を充填し、上記容器と、上記容器に収容された硫化水素と、を有する硫化水素収容体を得る工程と、を有する。
【0049】
容器に新たな硫化水素を充填する工程としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。なお、上記新たな硫化水素とは、容器の製造方法における液化ガスとは異なることを意味し、容器の製造で使用した液化ガスを精製して取り出した硫化水素であってもよい。
【0050】
本実施形態に係る硫化水素収容体の製造方法により得られる硫化水素収容体は、長期にわたって保管した場合であっても、収容された硫化水素に対して容器からの不純物の溶出がより抑制され、結果として、収容された硫化水素の純度が低下しにくい。
【0051】
[硫化水素の充填方法]
本実施形態に係る硫化水素の充填方法は、すでに説明した容器の製造方法により容器を製造する工程と、上記容器に新たな硫化水素を充填する工程とを有する。
容器に新たな硫化水素を充填する場合、上記容器から液化ガスを排出したあと、容器内を大気解放せずに、新たな硫化水素を充填することが好ましい。
【0052】
[製造例]
軟鋼製の板を準備し、例えばバレル研磨し、研磨済み軟鋼板が得られる。次に、研磨済み軟鋼板を恒温環境下に数日間維持して、軟鋼板上に、鉄の水和酸化物を含有する被覆層を形成すると、被覆層付き基材が得られる。次に、上記被覆層付き基材を密閉容器中で液化硫化水素に暴露し、数日間維持する。次に、上記密閉容器の気相中の水分含有量を測定すると、一定の量の水分が検出される。
次に、上記処理を終了した被覆層付き基材を同様に液化硫化水素に暴露し、同期間維持し、同様に水分含有量を測定すると、水分はほとんど検出されない。
上記のように、本発明に実施形態に係る容器の製造方法によれば、高純度の硫化水素ガスを充填し、一定期間保管した場合にも充填された高純度硫化水素ガスの純度が低下しにくい容器を簡便に製造できる。