【課題】セメント系化粧材におけるセメント系基材と化粧部材とが露出した化粧面に塗布されることで、化粧面のうち、化粧部材の外観を維持しつつ、セメント系基材を着色して色むらを抑制することが可能な塗材組成物を提供する。
【解決手段】セメント系基材12と化粧部材とが露出した化粧面を有するセメント系化粧材110に用いられて、化粧面におけるセメント系基材を着色する塗材組成物である。この塗材組成物は、色材、樹脂エマルション、及びアルカリ金属珪酸塩を含み、アルカリ金属珪酸塩の含有量が、樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、5質量部以上である。
前記化粧面が、前記化粧部材として美麗骨材を含む化粧骨材層の仕上げ面、又は前記化粧部材としてタイルを含むタイル張り仕上げ面である請求項1〜8のいずれか1項に記載の塗材組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
<塗材組成物>
本発明の一実施形態の塗材組成物(以下、単に「塗材組成物」と記載することがある。)は、セメント系基材と化粧部材とが露出した化粧面を有するセメント系化粧材に用いられて、化粧面におけるセメント系基材を着色するものである。この塗材組成物は、色材、樹脂エマルション、及びアルカリ金属珪酸塩を含む。そして、この塗材組成物におけるアルカリ金属珪酸塩の含有量は、樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、5質量部以上である。
【0013】
塗材組成物は、アルカリ金属珪酸塩を特定範囲の量で含有するため、セメント系化粧材の化粧面に塗布されると、化粧面における化粧部材に比べて、化粧面におけるセメント系基材の方に、固着し易い(しっかりとくっつき易い)。これは、塗材組成物に特定範囲の量で含まれているアルカリ金属珪酸塩が、化粧面におけるセメント系基材に含まれているカルシウム成分と反応することによるものと考えられる。塗材組成物がセメント系化粧材の化粧面に塗布されてから所定時間後、化粧面におけるセメント系基材の表面を着色できるとともに、化粧面を水洗いや拭き取り等することにより、化粧面における化粧部材の表面上の塗材組成物を容易に洗い落とすことができる。そのため、塗材組成物によって、化粧面における露出した化粧部材の外観を維持しつつ、化粧面における露出したセメント系基材を着色することができ、そのセメント系基材の白華、劣化、及び汚れ等による色むら及び色変わりを抑制することが可能である。
【0014】
塗材組成物が化粧面に塗布され、化粧面における露出したセメント系基材の表面を着色する際、塗材組成物は、セメント系基材に浸み込んでもよく、また、化粧面における露出したセメント系基材に塗膜を形成してもよい。化粧面における露出したセメント系基材に塗材組成物による塗膜が形成されることは、化粧面における露出したセメント系基材の劣化の抑制、耐摩耗性の向上、及び耐候性の向上にも寄与することができるため、好ましい。
【0015】
まず、塗材組成物が用いられる対象、すなわち、塗材組成物が塗布される対象である化粧面を有するセメント系化粧材について説明する。セメント系化粧材は、セメント系基材、及び化粧部材を備える。そして、このセメント系化粧材は、セメント系基材及び化粧部材が表面側に露出した化粧面を有する。この化粧面に塗材組成物が塗布される。
【0016】
セメント系基材は、原料としてセメントが用いられた基材のことであり、例えばセメントペースト、モルタル、及び生コンクリート等のセメント組成物で形成された硬化物のことである。セメント系基材としては、セメントに水を練り混ぜたセメントペースト、及びセメントペーストの原料にさらに細骨材(砂)を加えたモルタル、並びにモルタルの原料にさらに粗骨材(砂利)を加えた生コンクリートのいずれの硬化物でもよい。
【0017】
化粧部材は、セメント系化粧材が設けられる基体に対して、単なるセメント系基材の表面よりも綺麗な外観を付与し得る部材である。化粧部材としては、セメント以外の材質のものを用いることが好ましく、塗材組成物に含有されるアルカリ金属珪酸塩と反応を生じない材質のものを用いることがより好ましい。好適な化粧部材としては、例えば、玉石、天然石、人工石、人造石、大理石、及び種石等の美麗骨材;磁器製、陶器製、陶磁器製、木製、及びプラスチック製のタイル等;木製品;ガラス製品;ガラスブロック;並びに廃ガラス材を砕いて骨材にしたもの;等を挙げることができる。これらの化粧部材の1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
セメント系化粧材におけるセメント系基材と化粧部材とが表面側に露出した化粧面としては、例えば、いわゆる洗い出し仕上げ面、テラゾー仕上げ面、及び研ぎ出し仕上げ面等のような、化粧部材として美麗骨材を含む化粧骨材層の仕上げ面、並びに化粧部材としてタイルを含むタイル張り仕上げ面等が好適である。
【0019】
化粧骨材層の仕上げ面とは、基体に対して設けられた、セメント系化粧材である化粧骨材層の表面をいう。この化粧骨材層は、セメント系基材と、そのセメント系基材で固定された多数の美麗骨材とが表面に露出した状態で形成された層である。化粧骨材層は、例えば、基体にセメント系基材を形成するセメント組成物を塗布し、塗布されたセメント組成物に多数の美麗骨材をその表面が露出するように一部埋めて敷設し、セメント結合材を硬化させることで形成され得る。また、化粧骨材層は、例えば、基体にセメント組成物及び美麗骨材を含む混合物を塗布し、その上に硬化遅延剤を塗布した後、表層以外のセメント組成物を硬化させ、未硬化の表層部分のセメント組成物を水で洗い出して除去することでも形成され得る。このような方法は、水洗いによる洗い出し工法と称されている。さらに、化粧骨材層は、例えば、基体に美麗骨材及び樹脂結合剤を含む混合物を塗り付けた後、美麗骨材の間をセメント組成物で埋め、そのセメント組成物が初期凝結になったときに美麗骨材の表面が露出するように、その表面を覆うセメント組成物を除去することでも形成され得る。このような方法も、洗い出し工法と称されている。また、化粧骨材層は、テラゾー仕上げ及び研ぎ出し仕上げ等のように、例えば、基体に設けられたセメントモルタル等の下塗り層に、美麗骨材とセメント組成物とを混練したものを塗り付け、セメント組成物の硬化後に、表面を研磨及び艶出しすることでも形成され得る。
【0020】
タイル張り仕上げ面とは、基体に対して、セメント系基材を介して、目地が形成されるように張り付けられた複数のタイルと、目地部分(セメント系基材の露出部分)とを含めた表面をいう。このタイル張り仕上げ面は、例えば、基体に、セメント系基材を形成するセメント組成物(セメントペースト、モルタル、生コンクリート等)を塗布し、そこに複数のタイルを目地が形成されるように並べて張り付ける工程等を含んで形成され得る。タイル張り仕上げ面において、目地部分である露出したセメント系基材は、基体にタイルを張り付けるための接着剤として使用されたセメント組成物の硬化物であってもよく、目地に目地詰め材として使用されたセメント組成物の硬化物であってもよい。
【0021】
なお、セメント系化粧材が設けられる上記基体としては、モルタル、コンクリート、アスファルト、及びスレート等を挙げることができるが、セメント系化粧材を形成可能であれば、特に限定されない。
【0022】
上述したセメント系化粧材に塗材組成物が用いられる。塗材組成物は、色材、樹脂エマルション、及びアルカリ金属珪酸塩を含む。これらの成分の形態としては、樹脂エマルションは液状であり、色材及びアルカリ金属珪酸塩は、液状でも固体状でもよい。それらの成分を含有する塗材組成物の形態は、使用(塗布)時において、液状(のり状、及びペースト状等を含む)であるが、塗布時の直前に、各成分を混合してもよい。それゆえ、塗布前においては、塗材組成物は、固体状組成物(例えば粉粒体状の成分を含有する粉状組成物)と、樹脂エマルションを含有する液状組成物とを含む形態としてもよい。例えば、固体状組成物(粉状組成物)と液状組成物とをそれぞれ別々の容器に備える塗材組成物としてもよい。以下、塗材組成物の各成分等について、説明する。
【0023】
塗材組成物は色材を含む。塗材組成物が色材を含有することで、セメント系化粧材の化粧面における露出したセメント系基材に、塗材組成物(塗材組成物中の色材)で着色することができる。色材による色としては、例えば、白色系、灰色系、黒色系、赤色系、黄色系、緑色系、青色系、紫色系、黄赤色系、黄緑色系、青緑色系、青紫色系、赤紫色系、及び茶色系等の各色を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0024】
色材としては、特に限定されず、無機顔料及び有機顔料等の顔料、並びに天然染料及び合成染料等の染料等を用いることができる。これらの1種又は2種以上の色材を塗材組成物に含有させることができる。色材としては、顔料(着色顔料)を用いることが好ましい。無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、亜鉛華、リトポン、酸化鉄、鉛丹、クロムバーミリオン、黄鉛、亜鉛黄、酸化クロム、群青、紺青、及びカーボンブラック等を挙げることができる。有機顔料としては、例えば、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、及びピラゾロン顔料等のアゾ顔料;並びにフタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キサンテン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、及びキノフタロン顔料等の多環顔料等を挙げることができる。
【0025】
塗材組成物中の色材の含有量は、塗材組成物の全固形分の質量を基準として、0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、2〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
また、塗材組成物は樹脂エマルションを含む。塗材組成物が樹脂エマルションを含有することで、セメント系化粧材の化粧面における露出したセメント系基材の表面に、塗材組成物中の色材を固着させることができ、また、塗膜を形成し易くなる。
【0027】
樹脂エマルションは、エマルション状の樹脂であれば、特に限定されない。樹脂エマルションとしては、例えば、アクリル系樹脂エマルション、ウレタン系樹脂エマルション、スチレン系樹脂エマルション、酢酸ビニル系樹脂エマルション、塩化ビニル系樹脂エマルション、フッ素系樹脂エマルション、シリコーン系樹脂エマルション、塩化ビニル−アクリル系樹脂エマルション、スチレン−アクリル系樹脂エマルション、酢酸ビニル−アクリル系樹脂エマルション、エチレン−酢酸ビニル系樹脂エマルション、エチレン−塩化ビニル系樹脂エマルション、エチレン−酢酸ビニル−アクリル系樹脂エマルション、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル系樹脂エマルション、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂エマルション、シリコーン−アクリル系樹脂エマルション、及びシリコーン−ウレタン系樹脂エマルション等を挙げることができる。これらのうちの1種又は2種以上の樹脂エマルションを用いることができる。
【0028】
樹脂エマルションとしては、アクリル系樹脂エマルションが好ましい。本明細書において、アクリル系樹脂とは、アクリル系樹脂を構成するモノマー由来の全構成単位に対して、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有するモノマーに由来する構成単位を50モル%以上(好ましくは60モル%以上)含む樹脂をいう。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。本明細書において、「(メタ)アクリル」の文言には、アクリル及びメタクリルの両方が含まれることを意味し、「(メタ)アクリレート」の文言には、アクリレート及びメタクリレートの両方が含まれることを意味する。
【0029】
アクリル系樹脂エマルションにおけるアクリル系樹脂を構成するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、及び2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;フェニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アリールエステル等を挙げることができる。これらのうちの1種を単独で用いてもよく、好ましくは2種以上を用いることができる。
【0030】
樹脂エマルションに含有される水性媒体としては、水が好適であり、水のみを使用してもよいし、水と有機溶剤との混合媒体を使用してもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、及びN−メチルピロリドン等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、有機溶剤の1種又は2種以上を使用してもよい。
【0031】
樹脂エマルションの固形分(蒸発残分)は、塗材組成物に含有させる際に、5〜60質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましく、8〜40質量%であることがさらに好ましい。塗材組成物中の樹脂エマルション固形分の含有量は、塗材組成物の全固形分の質量を基準として、5〜50質量%であることが好ましく、7〜40質量%であることがより好ましく、9〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
さらに、塗材組成物はアルカリ金属珪酸塩を含む。塗材組成物がアルカリ金属珪酸塩を含有することで、そのアルカリ金属珪酸塩がセメント系化粧材の化粧面におけるセメント系基材に含まれているカルシウム成分と反応すると考えられる。これにより、セメント系化粧材の化粧面における露出したセメント系基材を着色し易く、かつ、化粧面における露出した化粧部材の外観を維持し易い。
【0033】
アルカリ金属珪酸塩は、一般式(1):M
2O・nSiO
2で表すことができる。一般式(1)中、Mはアルカリ金属を表し、nはSiO
2/M
2Oのモル比を表す。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、及びカリウム等を挙げることができ、ナトリウム及びカリウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。モル比nは、{(SiO
2質量%/SiO
2式量)/(M
2O質量%/M
2O式量)}で求められる。モル比nは、0.4〜4.0が好ましく、0.5〜4.0がより好ましく、0.5〜3.5がさらに好ましい。アルカリ金属珪酸塩としては、珪酸ナトリウム(Na
2O・nSiO
2)及び珪酸カリウム(K
2O・nSiO
2)のいずれか一方又は双方を用いることが好ましい。なお、本明細書において、珪酸ナトリウムを珪酸ソーダと記載することもある。
【0034】
アルカリ金属珪酸塩の形態は、結晶状、粉末状、及び粒状等の固体状、並びに溶液状のいずれでもよい。固体状のアルカリ金属珪酸塩としては、例えば、モル比nが0.4〜0.6の範囲にあるオルソ珪酸ナトリウム(モル比n≒0.5)、及びモル比nが0.9〜1.1の範囲にあるメタ珪酸ナトリウム(モル比n≒1.0)等の結晶性珪酸ナトリウム;モル比nが0.9〜1.1の範囲にあるメタ珪酸カリウム(モル比n≒1.0);並びに珪酸ナトリウム溶液を脱水して得られる粉末珪酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0035】
溶液状のアルカリ金属珪酸塩としては、例えば、珪酸ナトリウム溶液(珪酸ナトリウム水溶液)、及び珪酸カリウム溶液(珪酸カリウム水溶液)等を挙げることができる。珪酸ナトリウム溶液としては、例えば、モル比nが2.0〜2.3の範囲にある珪酸ナトリウム溶液、モル比nが2.4〜2.7の範囲にある珪酸ナトリウム溶液、モル比nが3.0〜3.3の範囲にある珪酸ナトリウム溶液、モル比nが3.3〜3.5の範囲にある珪酸ナトリウム溶液、及びモル比nが3.6〜3.9の範囲にある珪酸ナトリウム溶液等を挙げることができる。
【0036】
珪酸カリウム溶液としては、例えば、モル比nが1.8〜2.2の範囲にある珪酸カリウム溶液、モル比nが2.5〜2.7の範囲にある珪酸カリウム溶液、モル比nが2.7〜3.0の範囲にある珪酸カリウム溶液、モル比nが2.9〜3.2の範囲にある珪酸カリウム溶液、及びモル比nが3.4〜3.7の範囲にある珪酸カリウム溶液等を挙げることができる。アルカリ金属珪酸塩として珪酸カリウムを用いる場合、モル比nが1.8〜3.2の範囲内にある珪酸カリウム溶液が好ましい。
【0037】
上述した固体状及び溶液状のアルカリ金属珪酸塩の各具体例のうちの1種又は2種以上を用いることができる。それらのなかでも、固体状の珪酸ナトリウムが好ましく、上述したメタ珪酸ナトリウム、及び粉末珪酸ナトリウムがより好ましい。メタ珪酸ナトリウムは、水塩及び無水塩のいずれも用いることができる。また、粉末珪酸ナトリウムのモル比nは、2.0〜3.5の範囲内であることが好ましく、2.0〜3.3の範囲内であることがより好ましく、2.0〜2.3の範囲内であることがさらに好ましい。
【0038】
塗材組成物におけるアルカリ金属珪酸塩の含有量(使用量)は、樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、5質量部以上である。塗材組成物は、上記特定量にてアルカリ金属珪酸塩を含むことで、セメント系化粧材の化粧面のうち、化粧部材の外観を維持しつつ、セメント系基材を良好に着色することができ、セメント系基材の色むらを抑制することが可能となる。このような効果が高まる観点から、上記アルカリ金属珪酸塩の含有量(使用量)は、7質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、25質量部以上であることがさらに好ましい。上記アルカリ金属珪酸塩の含有量の上限は、特に限定されないが、樹脂エマルションに含まれる水性媒体に溶解し易いように、950質量部以下であることが好ましく、550質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下であることがさらに好ましい。なお、上記アルカリ金属珪酸塩の含有量は、M
2O・nSiO
2としての含有量であり、アルカリ金属珪酸塩における酸化アルカリ金属の割合(M
2O%)及び二酸化珪素の割合(SiO
2%)の合計値に基づいて、求めることができる。
【0039】
アルカリ金属珪酸塩として、メタ珪酸ナトリウムを用いる場合、塗材組成物におけるメタ珪酸ナトリウムの含有量は、樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、5〜250質量部であることが好ましく、7〜250質量部であることがより好ましく、15〜150質量部であることがさらに好ましい。
【0040】
アルカリ金属珪酸塩として、粉末珪酸ナトリウムを用いる場合、塗材組成物における粉末珪酸ナトリウムの含有量は、樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、25〜950質量部であることが好ましく、25〜550質量部であることがより好ましく、30〜550質量部であることがさらに好ましい。
【0041】
アルカリ金属珪酸塩として珪酸カリウムを用いる場合、塗材組成物における珪酸カリウムの含有量は、樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、50〜540質量部であることが好ましく、52〜540質量部であることがより好ましく、52〜290質量部であることがさらに好ましい。
【0042】
塗材組成物中のアルカリ金属珪酸塩におけるM
2O・nSiO
2としての含有量は、塗材組成物の全固形分の質量を基準として、1〜80質量%であることが好ましく、2〜70質量%であることがより好ましく、5〜50質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
塗材組成物は、色材、樹脂エマルション、及びアルカリ金属珪酸塩のほか、珪砂を含むことが好ましい。さらに、塗材組成物は、必要に応じて、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、及びタルク等の体質顔料を1種又は2種以上含んでもよい。塗材組成物が珪砂、又は珪砂及び体質顔料を含有することにより、セメント系化粧材の化粧面におけるセメント系基材に、艶消し調の外観を与えて見栄えが良好となる。また、その塗材組成物によって塗膜が形成される場合には、その塗膜にノンスリップ(すべり止め)性能、ひび割れ防止性能、及び下地の隠蔽性能等を付与し得る。
【0044】
塗材組成物の成分として珪砂を用いる場合、塗材組成物は、少なくとも珪砂を含有する粉状組成物と、少なくとも前述の樹脂エマルションを含有する液状組成物とを含むことが好ましい。この場合、アルカリ金属珪酸塩は、粉状組成物及び液状組成物の少なくとも一方に含有されていることが好ましく、それらのいずれか一方のみに含有されていてもよいし、それらの両方に含有されていてもよい。粉粒体状のアルカリ金属珪酸塩を用いる場合には、その粉粒体状のアルカリ金属珪酸塩は粉状組成物に含有されていることが好ましく、溶液状のアルカリ金属珪酸塩を用いる場合には、その溶液状のアルカリ金属珪酸塩は液状組成物に含有されていることが好ましい。また、色材も、粉状組成物及び液状組成物のいずれか一方のみに含有されていてもよいし、それらの両方に含有されていてもよく、色材として好適な顔料を用いる場合、顔料は粉状組成物に含有されていることが好ましい。
【0045】
塗材組成物中の珪砂の含有量は、塗材組成物の全固形分の質量を基準として、10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
塗材組成物は、必要に応じて、上述した各成分以外に、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、増粘剤、分散剤、たれ防止剤、沈降防止剤、チキソ剤、保水剤、艶消し剤、防カビ剤、及び防腐剤等を挙げることができる。
【0047】
<着色セメント系化粧材の製造方法>
本発明の一実施形態の着色セメント系化粧材の製造方法は、セメント系基材と化粧部材とが露出した化粧面を有するセメント系化粧材の化粧面に、塗材組成物を塗布する工程を含む。また、この製造方法は、塗材組成物が塗布された化粧面における化粧部材の表面に付着している(接触してくっついている)塗材組成物を洗い落とし、化粧面におけるセメント系基材を着色する工程を含む。この製造方法で使用する塗材組成物は、色材、樹脂エマルション、及びアルカリ金属珪酸塩を含み、アルカリ金属珪酸塩の含有量が、樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、5質量部以上のものである。この製造方法には、前述の実施形態に係る塗材組成物を好適に用いることができる。
【0048】
本明細書において、塗材組成物が設けられる対象であるセメント系化粧材を、本発明の一実施形態の製造方法で得られる着色セメント系化粧材と区別するため、「化粧材本体」と記載することがある。また、本明細書において、本発明の一実施形態の製造方法で得られるセメント系化粧材を、塗材組成物が設けられる対象であるセメント系化粧材と区別するため、「着色」の文言を付けて、「着色セメント系化粧材」と記載することがある。以下、図面を参照しながら、着色セメント系化粧材の製造方法を説明する。
【0049】
図1A〜C及び
図2A〜Cは、本発明の一実施形態の着色セメント系化粧材110、210の製造方法を説明するための図である。
図1A〜Cは、塗材組成物10が塗布される対象として、セメント系基材12と美麗骨材14とが露出した化粧面(前述の化粧骨材層の仕上げ面)11aを有する化粧材本体11を用いた場合の図である。また、
図2A〜Cは、塗材組成物10が塗布される対象として、セメント系基材22(目地22a)とタイル24とが露出した化粧面(前述のタイル張り仕上げ面)21aを有する化粧材本体21を用いた場合の図である。具体的には、
図1A及び
図2Aは、基体1に設けられている化粧材本体11、21を模式的に表す断面図である。
図1B及び
図2Bは、化粧材本体11、21の化粧面11a、21aに、塗材組成物10が塗布された状態を模式的に表す断面図である。
図1C及び
図2Cは、塗材組成物10が塗布された化粧面11a、21aにおける化粧部材(美麗骨材14又はタイル24)の表面に付着している塗材組成物10が洗い落とされた状態を模式的に表す断面図である。なお、
図1C及び
図2Cにおいては、着色セメント系化粧材110、210の製造方法の説明の容易化のため、化粧面11a、21aにおける露出していたセメント系基材12、22aに、塗材組成物10によって塗膜100が形成される場合を例示する。
【0050】
化粧材本体11、21の化粧面11a、21aに塗材組成物10を塗布する工程では、
図1B及び
図2Bに示すように、化粧面11a、21aにおけるセメント系基材12、22a及び化粧部材14、24の区別なく、化粧面11a、21aに塗材組成物10を塗布することができる。すなわち、化粧面11a、21aにおいて、塗材組成物10によって着色する部位はセメント系基材12、22aの部分であるが(
図1C及び
図2C参照)、本工程では、塗材組成物10によって着色するセメント系基材12、22aを含む領域における化粧面11a、21a全体に、塗材組成物10を塗布することができる(
図1B及び
図2B参照)。そのため、本工程は、化粧面11a、21aにおける露出したセメント系基材12、22a及び化粧部材14、24のうち、セメント系基材12、22(22a)の部分に、セメント組成物をすり込んだり、詰めたりすることにより行われる補修作業に比べて、容易に行うことができる。
【0051】
化粧面11a、21aに塗材組成物10を塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、刷毛塗り、ローラー塗り、及びスプレー塗布等の方式を採ることができる。化粧材本体11、21の化粧面11a、21aは、その化粧面11a、21aにおけるセメント系基材12、22(22a)の表面よりも、化粧部材14、24の表面の方が表面側に高く出ていることがある(
図1A及び
図2A参照)。このような場合にも、セメント系基材12、22(22a)の表面に塗材組成物10を良好に塗布し得るように、刷毛塗りで塗材組成物10を塗布することが好ましい。
【0052】
化粧面11a、21aへの塗材組成物10の塗布量は、化粧面11a、21aの単位面積当たりの塗材組成物10の質量で、100〜1000g(wet)/m
2であることが好ましく、150〜800g(wet)/m
2であることがより好ましく、200〜500g(wet)/m
2であることがさらに好ましい。
【0053】
化粧材本体11、21の化粧面11a、21aに塗材組成物10を塗布した後、塗材組成物10中のアルカリ金属珪酸塩がセメント系基材12、22に含まれているカルシウム成分と十分反応するように、あるいは、塗材組成物10がセメント系基材12、22に十分固着するように、所定時間置くことが好ましい。その時間としては、例えば、常温(20℃±15℃)の環境下において、15分〜24時間であることが好ましく、0.5〜6時間であることがより好ましく、0.5〜3時間であることがさらに好ましい。
【0054】
化粧材本体11、21の化粧面11a、21aに塗材組成物10を塗布する工程を行った後、
図1C及び
図2Cに示すように、塗材組成物10が塗布された化粧面11a、21aにおける化粧部材14、24の表面に付着している塗材組成物10を洗い落とし、化粧面11a、21aにおけるセメント系基材12、22aを着色する工程を行う。この工程では、化粧材本体11、21の化粧面11a、21aに塗布された塗材組成物10は、化粧面11a、21aにおけるセメント系基材12、22aに固着するため、化粧面11a、21aにおけるセメント系基材12、22及び化粧部材14、24の区別なく、化粧面11a、21aに塗布された塗材組成物10の洗い落とし作業を実行することができる。この洗い落とし作業は、例えば、水を含ませたスポンジや布等でこすったり、拭き取ったり、あるいは水を流しながらタワシ及びブラシ等で軽くこすったりすることにより、行うことができる。このような作業により、化粧面11a、21aにおける化粧部材14、24の表面に付着している塗材組成物10を除去することができる。
【0055】
本発明の一実施形態の着色セメント系化粧材110、210の製造方法では、化粧材本体11、21の化粧面11a、21aに塗材組成物10を塗布する工程の前に、塗材組成物10が塗布される対象である化粧面11、21aを有する化粧材本体(セメント系化粧材)11、21を作製する工程を含んでいてもよい。化粧材本体11、21を作製する工程は、公知の方法を採ることができる。この工程では、例えば、前述の化粧骨材層の仕上げ面11aを有する化粧材本体11や、前述のタイル張り仕上げ面21aを有する化粧材本体21を得ることが好ましい。
【0056】
化粧材本体21を得る工程としては、例えば、基体1に、セメント系基材22を形成するセメント組成物を鏝等で塗布してセメント組成物の層を形成し、その層に目地22aが形成されるように複数のタイル24を張り付ける工程を挙げることができる。このような工程により、複数のタイル24と、セメント系基材22の目地22a部分とを含むタイル張り仕上げ面21aを有する化粧材本体21を得ることができる。この工程では、タイル24の裏面に、セメント組成物の層を設けてもよい。
【0057】
また、化粧材本体11を得る工程としては、例えば、基体1に、セメント系基材12を形成するセメント組成物、又はそのセメント組成物と多数の美麗骨材14を含む混合物を鏝等で塗布し、塗布されたセメント組成物に多数の美麗骨材14をその表面が露出し、かつ一部が埋まった状態で、セメント組成物を硬化させる工程を挙げることもできる。さらに、化粧材本体11を得る工程としては、例えば、基体1にセメント組成物及び美麗骨材14を含む混合物を鏝等で塗布し、その上に硬化遅延剤を散布した後、表層以外のセメント組成物を硬化させ、未硬化の表層部分のセメント組成物を水で洗い出して除去する工程を挙げることもできる。また、化粧材本体11を得る工程としては、例えば、基体1に美麗骨材14及び樹脂結合剤を含む混合物を鏝等で塗布し、養生させた後、ゴム製鏝やレーキ等でセメント組成物(目詰め材)を塗布して美麗骨材14の間を埋め、そのセメント組成物が初期凝結になったときに美麗骨材14の表面が露出するように、その表面を覆うセメント組成物をゴム製鏝等で掻き出したり、水を含ませたスポンジや布等で拭き取ったりすることにより除去する工程を挙げることもできる。
【0058】
さらには、化粧材本体11、21を作製する工程の前に、化粧材本体11、21を設ける対象となる基体1に対して、洗浄、乾燥、及びプライマー塗布等の前処理工程を行ってもよい。また、モルタル、及びコンクリート等の基体(躯体)1を得る工程を行ってもよい。
【0059】
本発明の一実施形態の着色セメント系化粧材110、210の製造方法によれば、容易な作業にて、化粧材本体11、21の化粧面11a、21aにおける露出した化粧部材14、24の外観を維持しつつ、化粧面11a、21aにおける露出したセメント系基材12、22(22a)を着色することができる。そのため、化粧材本体11、21の化粧面11a、21aにおける露出したセメント系基材12、22の白華、劣化、及び汚れ等による色むら及び色変わりが抑制されたセメント系化粧材(着色セメント系化粧材110、210)を得ることができる。
【0060】
以上詳述したように、本発明の一実施形態の塗材組成物を使用することによって、化粧材本体の化粧面における露出したセメント系基材の白華、劣化、及び汚れ等による色むら及び色変わり等をリニューアルすることができる。また、セメント系化粧材の製造当初から、化粧面における露出したセメント系基材にセメント系の色とは異なる着色を施したデザインのセメント系化粧材を得ることもできる。
【0061】
なお、本発明の一実施形態の塗材組成物は、以下の[1]〜[9]の構成を採ることが可能であり、本発明の一実施形態の着色セメント系化粧材の製造方法は、以下の[10]〜[12]の構成を採ることが可能である。
[1]セメント系基材と化粧部材とが露出した化粧面を有するセメント系化粧材に用いられて、前記化粧面における前記セメント系基材を着色する塗材組成物であり、色材、樹脂エマルション、及びアルカリ金属珪酸塩を含み、前記アルカリ金属珪酸塩の含有量が、前記樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、5質量部以上である塗材組成物。
[2]少なくとも珪砂を含有する粉状組成物と、少なくとも前記樹脂エマルションを含有する液状組成物と、を含み、前記粉状組成物及び前記液状組成物の少なくとも一方に前記アルカリ金属珪酸塩が含有されている上記[1]に記載の塗材組成物。
[3]前記アルカリ金属珪酸塩の含有量が、前記樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、5〜950質量部である上記[1]又は[2]に記載の塗材組成物。
[4]前記アルカリ金属珪酸塩は、珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムの少なくとも一方を含む上記[1]〜[3]のいずれかに記載の塗材組成物。
[5]前記アルカリ金属珪酸塩は、メタ珪酸ナトリウムを含み、前記メタ珪酸ナトリウムの含有量が、前記樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、5〜250質量部である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗材組成物。
[6]前記アルカリ金属珪酸塩は、粉末珪酸ナトリウムを含み、前記粉末珪酸ナトリウムの含有量が、前記樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、25〜950質量部である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗材組成物。
[7]前記アルカリ金属珪酸塩は、珪酸カリウムを含み、前記珪酸カリウムの含有量が、前記樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、50〜540質量部である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗材組成物。
[8]前記樹脂エマルションは、アクリル系樹脂エマルションを含む上記[1]〜[7]のいずれかに記載の塗材組成物。
[9]前記化粧面が、前記化粧部材として美麗骨材を含む化粧骨材層の仕上げ面、又は前記化粧部材としてタイルを含むタイル張り仕上げ面である上記[1]〜[8]のいずれかに記載の塗材組成物。
[10]セメント系基材と化粧部材とが露出した化粧面を有するセメント系化粧材の前記化粧面に、塗材組成物を塗布する工程と、前記塗材組成物が塗布された前記化粧面における前記化粧部材の表面に付着している前記塗材組成物を洗い落とし、前記化粧面における前記セメント系基材を着色する工程と、を含み、前記塗材組成物は、色材、樹脂エマルション、及びアルカリ金属珪酸塩を含み、前記アルカリ金属珪酸塩の含有量が、前記樹脂エマルションの固形分100質量部当たり、5質量部以上である、着色セメント系化粧材の製造方法。
[11]前記塗材組成物を塗布する工程の前に、前記化粧面を有する前記セメント系化粧材を作製する工程を含む上記[10]に記載の着色セメント系化粧材の製造方法。
[12]前記塗材組成物が、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の塗材組成物である上記[10]又は[11]に記載の着色セメント系化粧材の製造方法。
【実施例】
【0062】
以下、試験例を挙げて、前述の実施形態に係る塗材組成物及びそれを用いたセメント系化粧材の製造方法をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験例によって限定されるものではない。なお、以下の文中の「%」及び「部」は、特に断りのない限り質量基準(それぞれ「質量%」及び「質量部」)である。
【0063】
[試験例A]
(セメント系化粧材の準備)
基体として市販のコンクリート平板(300mm×300mm×厚さ60mm)を用いた。この基体に、幅10mm及び高さ8mmのバックアップ材により枠(28cm×28cm=784cm
2)を作り、その枠内に「彩洗い出しTX−604」(ヤブ原産業社製)を施工要領書に則って施工した。施行完了後、20℃で7日以上養生し、セメント系基材としてのモルタル層と、化粧部材としての美麗骨材とが露出した化粧面(化粧骨材層の仕上げ面)を有するセメント系化粧材(化粧骨材層)を得た。
【0064】
(塗材組成物の調製)
後記表1(表1−1〜1−5)の上段に示す組成(単位:g)で各成分を配合し、塗材組成物を調製した。なお、同表中段には、セメント系化粧材の化粧面への塗材組成物の塗布量(g/m
2)、塗材組成物中のエマルション固形分量(g)及びNa
2O・nSiO
2量(g)、並びにエマルション固形分100部当たりのNa
2O・nSiO
2の含有量(部)を示した。また、塗材組成物には、以下の材料を使用した。
・珪砂:竹折珪砂9号(粒径:100μm以下、竹折砿業所社製)
・無水メタ珪酸ソーダ(外観:白色粉末、モル比:0.9〜1.1、Na
2O・nSiO
2含有量:97.1%、日本化学工業社製)
・粉末珪酸ソーダ1号(外観:白色粉末、モル比:2.05〜2.25、Na
2O・nSiO
2含有量:77.0%、日本化学工業社製)
・粉末珪酸ソーダ2号(外観:白色粉末、モル比:2.35〜2.65、Na
2O・nSiO
2含有量:77.2%、日本化学工業社製)
・粉末珪酸ソーダ3号(外観:白色粉末、モル比:3.00〜3.30、Na
2O・nSiO
2含有量:80.6%、日本化学工業社製)
・顔料(色:茶色、商品名「マインバイエル茶(610)」、ヤブ原社販売)
・消泡剤(シリコーン消泡剤、商品名「KM−70」、信越化学工業社製)
・エマルションA:n−ブチルアクリレート及びメチルメタクリレートの共重合体エマルション(蒸発残分:41.0〜43.0%、粘度:500〜1500mPa・s/25℃、pH8.6〜9.2、Tg:17℃(計算値)、最低造膜温度:0℃以下、粒子径:0.10μm以下)を同表中段に示す「エマルション中の固形分」となるように水で希釈したもの
・エマルションB:2−エチルヘキシルアクリレート及びメチルメタクリレートの共重合体エマルション(蒸発残分:48.0〜50.0%、粘度:2500〜5500mPa・s/25℃、pH8.0〜9.0、Tg:−9℃(計算値)、最低造膜温度:2℃、粒子径:0.11μm)を同表中段に示す「エマルション中の固形分」となるように水で希釈したもの
【0065】
(着色セメント系化粧材の作製)
上記セメント系化粧材の化粧面(化粧骨材層の仕上げ面)に、マスキングテープで140mm×140mmの枠を作った。その枠内に、調製した塗材組成物を、表1の中段に示す塗布量にて刷毛(毛丈32mm、玉厚5mm、幅24mm、以下同じ。)で塗り付け、20℃の室内で3時間放置した。その後、塗材組成物を塗布した化粧面の上から、水及びフィルタースポンジ(商品名「モルトフィルター MF−13」、イノアックコーポレーション社製、以下同じ。)を使用して、軽くこすり洗いし、着色セメント系化粧材を得た。
【0066】
このようにして着色セメント系化粧材を得る過程における塗材組成物の「塗布具合」及び「拭き取り具合」、並びに得られた着色セメント系化粧材の「仕上り具合」について、以下の手法により評価した。評価において、「塗布具合」は添加剤等により改善可能であることを考慮し、「拭き取り具合」及び「仕上り具合」がともに、「A」又は「B」である場合を合格とした。試験例Aの評価結果を表1の下段に示す。
【0067】
(塗布具合)
化粧骨材層の仕上げ面に塗材組成物を塗り付けたときの塗布具合を、以下の評価基準にしたがって評価した。
A:適度な粘性を持ち、化粧骨材層への被りや塗り延べ性が良く、均一に塗れた。
B:粘性は低いが、化粧骨材層への被りや塗り延べ性は良く、均一に塗れた。
C:粘性が高すぎて、塗り延べ性が劣り、均一に塗れなかった。
D:粘性が低すぎて成分が分離してしまい、化粧骨材層へ均一に塗れなかった。
【0068】
(拭き取り具合)
フィルタースポンジを一定の力で縦横にスライドして、化粧骨材層の仕上げ面に塗布された塗材組成物の抜き取り作業を行った際の抜き取り具合を、以下の評価基準にしたがって評価した。
A:化粧骨材層の仕上げ面を楽に拭き取ることができた。
B:フィルタースポンジのスライド動作に抵抗があり、拭き取り作業に時間を要した。
C:フィルタースポンジのスライド動作に抵抗が強く、拭き取りが難儀であった。
D:美麗骨材からの塗材組成物の斑な拭き取りとなったか、又はほとんど拭き取れなかった。
【0069】
(仕上り具合)
得られた着色セメント系化粧材の仕上り具合を、目視で確認することにより、以下の評価基準にしたがって評価した。
A:美麗骨材の露出に斑がなく、綺麗な仕上りと、モルタル層に着色が得られた。
B:美麗骨材の露出に僅かに斑があったが、まずまず綺麗な仕上りと、モルタル層に着色が得られた。
C:美麗骨材の露出に斑が生じ、綺麗な仕上りが得られなかった。
D:美麗骨材をほとんど露出させることができなかったか、又は美麗骨材層とモルタル層とも着色できなかった。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
試験例Aの結果から、アルカリ金属珪酸塩を、樹脂エマルションの固形分100部当たり、5部以上含有する塗材組成物によって、拭き取り具合及び仕上り具合がともに良好な着色セメント系化粧材が得られた。したがって、上記塗材組成物によって、セメント系化粧材(化粧骨材層)の化粧面(化粧骨材層の仕上げ面)のうち、化粧部材(美麗骨材)の外観を維持しつつ、セメント系基材(モルタル層)を着色して色むらを抑制することが可能であることが認められた。
【0076】
[試験例B]
試験例Aで使用した塗材組成物18、19、及び20について、それら塗材組成物による塗膜の耐摩耗性を確認する試験を行った。
【0077】
基体として市販の厚さ3mmのスレート板を、幅110mm及び長さ110mmの寸法にカットして用いた。この基体に幅5mm及び高さ3mmのバックアップ材を貼り、10cm×10cm=100cm
2の枠内に、特開2008−38383号公報の実施例に開示された方法で得られた強化剤(特殊水性プライマー)を1.5g(150g/m
2)刷毛で塗った。セメント結合材、及び水を混錬して調整した混錬物を鏝で伏せ込み均して塗厚3mmのモルタル層を形成し、刷毛引きで仕上げた。また、セメント結合材には、普通ポルトランドセメント灰色33部、川砂(細)67部、水溶性セルロースエーテル(商品名「メトローズ 90SH−4000」、信越化学工業社製)0.03部、及び水22部からなるセメント組成物を53g(5.3kg/m
2)使用した。モルタル層を作製してから、20℃で14日以上静置養生したものを使用した。作製したモルタル層に、上記塗材組成物を、4.2g(420g/m
2)刷毛塗りして、塗膜を形成し、20℃の室内に7日間静置養生した後、摩耗試験を行った。また、比較の参考例Bとして、塗材組成物を塗布せずに、上記モルタル層についての摩耗試験も行った。摩耗試験には、テーバー摩耗試験機(東洋精機製作所社製)を使用した。摩耗条件は、摩耗輪:CS−17、速度:60rpm、回転数:100回転、及び負荷:4.9N/輪(500gf/輪)とした。試験例B(摩耗試験)の結果を表2に示す。
【0078】
【0079】
試験例Bの結果から、塗材組成物18、19、及び20による塗膜はいずれも、参考例Bのモルタル層に比べて、摩耗減量が非常に少なかった。したがって、セメント系化粧材の化粧面における露出したセメント系基材に上記塗材組成物による塗膜が形成されることによって、化粧面における露出したセメント系基材の耐摩耗性の向上、及び劣化の抑制に寄与できることが確認された。
【0080】
[試験例C]
次に試験例Aで使用したセメント系化粧材とは異なるセメント系化粧材を使用して、試験例Aと同様にして試験及び評価を行った。
【0081】
(セメント系化粧材の準備)
基体として市販のコンクリート平板(300mm×300mm×厚さ60mm)を用いた。この基体に、幅10mm及び高さ10mmの枠(28cm×28cm=784cm
2)の枠を作り、その枠内に、特開2008−38383号公報の実施例に開示された方法で得られた強化剤(特殊水性プライマー)を11.8g(150g/m
2)刷毛で塗った。セメント結合材、及び水を混錬して調整した混錬物を鏝で伏せ込み均して784cm
2で塗厚7mmのモルタル層を形成し、その上に複数の美麗骨材を並べ、鏝で均して埋め込んだ。2時間後、左官刷毛で表層のモルタル層を取り除き、美麗骨材を露出させて、セメント系基材としてのモルタル層と、化粧部材としての美麗骨材とが露出した化粧面(化粧骨材層の仕上げ面)を有するセメント系化粧材(化粧骨材層)を得た。この際、美麗骨材には大磯単粒の長径8〜10mm(3分石)を870g(11.1kg/m
2)用いた。また、セメント結合材には、普通ポルトランドセメント灰色33部、川砂(細)67部、水溶性セルロースエーテル(商品名「メトローズ 90SH−4000」、信越化学工業社製)0.03部、及び水22部からなるセメント組成物を990g(12.7kg/m
2)使用した。化粧骨材層を作製して、20℃で7日以上養生したものを使用した。
【0082】
(塗材組成物の調製)
後記表3の上段に示す組成(単位:g)で各成分を配合し、塗材組成物を調製した。なお、同表中段には、前述の表1と同様の事項を示した。また、試験例Cで使用した塗材組成物の成分も、試験例Aで使用した塗材組成物の成分と同じ材料を用いた。
【0083】
(着色セメント系化粧材の作製)
上記セメント系化粧材の化粧面に、マスキングテープで9.3cm×28cm≒260cm
2の枠を作った。その枠内に、調製した塗材組成物を刷毛で7.8g(300g/m
2)塗り付け、20℃の室内で3時間放置した。その後、塗材組成物を塗布した化粧面の上から、水及びフィルタースポンジを使用して、軽くこすり洗いし、着色セメント系化粧材を得た。
【0084】
このようにして着色セメント系化粧材を得る過程における塗材組成物の「塗布具合」及び「拭き取り具合」、並びに得られた着色セメント系化粧材の「仕上り具合」について、前述した手法により評価した。試験例Cの評価結果を表3の下段に示す。
【0085】
【0086】
試験例Cの結果から、試験例Cで作製したセメント系化粧材についても、アルカリ金属珪酸塩を、樹脂エマルションの固形分100部当たり、5部以上含有する塗材組成物によって、拭き取り具合及び仕上り具合がともに良好な着色セメント系化粧材が得られた。したがって、上記塗材組成物によって、試験例Cで作製したセメント系化粧材についても、化粧部材(美麗骨材)の外観を維持しつつ、セメント系基材(モルタル層)を着色して色むらを抑制することが可能であることが認められた。
【0087】
[試験例D]
試験例C6で使用した塗材組成物41について、その塗材組成物による塗膜の耐候性を確認する試験(促進耐候性試験)を行った。
【0088】
セメント系基材として、45mm×150mm×厚さ12mmの型枠に、セメント結合材、及び水を混錬して調整した混錬物を鏝で伏せ込み、20℃の室内に14日以上静置したものを使用した。セメント結合材には、普通ポルトランドセメント灰色28.5部、川砂(細)71.5部、水溶性セルロースエーテル(商品名「メトローズ 90SH−4000)0.03部、及び水11.1部からなるセメント組成物を使用した。セメント系基材に、塗材組成物41を2g(約300g/m
2)刷毛塗り、20℃の室内に24時間静置した後、水及びフィルタースポンジを使用して軽くこすり洗いした。その後、20℃の室内に14日静置したものを評価に使用した。また、同様にして、上記養生温度の各「20℃」を「5℃」として作製したものも評価に使用した。さらに、比較のための参考例Dとして、塗材組成物の代わりに、市販品塗材(商品名「ペイントクリート」、アシュフォードジャパン社製)を用いたこと以外は同様にして試験を行った。促進耐候性試験には、超促進耐候性試験機(商品名「アイスーパーUVテスター SUV−W261」、岩崎電気社製)を使用した。耐候性試験の条件は、照射照度:UV強度150mW/cm
2(照度計:UVP−365−03)、(1)照射:63℃/湿度50%で6時間、(2)休止:35℃/湿度90%で2時間、(2)の前後に10秒間の純水シャワーを行い、(1)及び(2)を1サイクルとして、20サイクル行う条件とした。
【0089】
上記の促進耐候性試験による劣化度合いを目視にて確認することにより、耐候性を以下の評価基準にしたがって1〜5点の5段階点数で評価した。試験例Dの結果を表4に示す。
5:試験前と変わらず均一で綺麗な仕上りと、モルタル層に着色が残っていた。
4:まずまず綺麗な仕上りが残っていて、モルタル層に着色が残っていた。
3:モルタル層の着色が斑になくなり、着色が薄く見えた。
2:モルタル層の着色が全体的に薄くなっていた。
1:モルタル層の着色がほとんどなくなっていた。
【0090】
【0091】
試験例Dの結果から、上記塗材組成物によって、耐候性も良好な塗膜が得られることが確認された。
【0092】
[試験例E]
基体としてスレート平板(300mm×300mm×厚さ6mm)に97mm×97mm×厚さ5mmの釉薬付き磁器タイルを、目地幅7mmとなるように、下地調整塗材(商品名「カチオンタイトF」、ヤブ原産業社製)を使用して貼り付けた。上記の下地調整塗材(カチオンタイトF)には、主材(粉末)100部、及び硬化液22部の割合で混錬したものを用い、これを磁器タイルの裏面に2mmの厚さに鏝塗りした。磁器タイルの隙間の目地部分には、セメント系タイル目地材(商品名「太平洋目地用タイロン(一般用)」、太平洋マテリアル社製)を使用して、目地を仕上げた。20℃の室内に7日以上静置し、セメント系基材としての目地材と、化粧部材としての磁器タイルが露出した化粧面(タイル張り仕上げ面)を有するセメント系化粧材を得た。
【0093】
(塗材組成物の調製)
後記表5(表5−1及び表5−2)の上段に示す組成(単位:g)で各成分を配合し、塗材組成物を調製した。なお、同表中段には、セメント系化粧材の化粧面への塗材組成物の塗布量(g/m
2)、塗材組成物中のエマルション固形分量(g)及びK
2O・nSiO
2量(g)、並びにエマルション固形分100部当たりのK
2O・nSiO
2の含有量(部)を示した。また、塗材組成物には、以下の珪酸カリウム溶液を使用した。それ以外の材料(珪砂、顔料、消泡剤、及びエマルションA)は、試験例Aで使用したものと同じものを使用した。
・1K珪酸カリウム(外観:無色ないしわずかに着色した液体、モル比:1.8〜2.2、K
2O・nSiO
2含有量:50.0%、日本化学工業社製)
・A珪酸カリウム(外観:無色ないしわずかに着色した液体、モル比:2.9〜3.2、K
2O・nSiO
2含有量:40.3%、日本化学工業社製)
【0094】
(着色セメント系化粧材の作製)
上記セメント化粧材の化粧面(タイル張り仕上げ面)の目地部分を含む領域に、調製した塗材組成物を、表5の中段に示す塗布量にて刷毛で塗り付けた。このとき、磁器タイルにおける目地側の縁部分にも、塗材組成物が約10mm幅程度付着した。そのまま、20℃の室内で3時間放置した。その後、塗材組成物を塗布したタイル張り仕上げ面の目地部分を含む領域の上から、水及びフィルタースポンジを使用して、軽くこすり洗いし、着色セメント系化粧材を得た。
【0095】
このようにして着色セメント系化粧材を得る過程における塗材組成物の「塗布具合」及び「拭き取り具合」、並びに得られた着色セメント系化粧材の「仕上り具合」について、前述した手法により評価した。試験例Eの評価結果を表5の下段に示す。
【0096】
【0097】
【0098】
試験例Eの結果から、セメント系化粧材の化粧面としてタイル張り仕上げ面を使用し、アルカリ金属珪酸塩として珪酸カリウムを含有する塗材組成物を使用した場合にも、拭き取り具合及び仕上り具合がともに良好な着色セメント系化粧材が得られた。したがって、上記塗材組成物によって、化粧部材(磁器タイル)の外観を維持しつつ、セメント系基材(目地部分)を着色して色むらを抑制することが可能であることが認められた。