【課題】金属微粒子の原料液を含む液と前記液の還元剤を含む液を混合させて反応液を作り、反応管に流通させ、マイクロ波を照射して反応液を還元に適した温度にして還元反応を進行させると、反応管内壁に金属析出物が付着して、反応液のマイクロ波の吸収を阻害するなど、微粒子の良質な連続合成を阻害するという解決を迫られる課題があった。
【背景技術】
【0002】
近年、粒径が200nm(ナノメートル)以下のナノ粒子の研究・開発が盛んに行われ、多くの提案がなされている。例えば、金属ナノ粒子の原材料としての金属塩を溶解した溶液と前記金属塩の還元剤を含む溶液とを混合させた反応液を反応管の中に流通させ、その反応管の少なくとも一部にマイクロ波を照射して、反応管の中の反応液を還元反応に適した所定の温度まで加熱し、もって、金属塩を還元し、金属ナノ粒子を連続的に製造しようとする試みがその一例である。
【0003】
例えば、金属塩としての硝酸銀とその還元剤を含む反応液をガラスや樹脂製の反応管の中に流通させ、反応液にマイクロ波を照射して加熱し、反応液の温度を還元反応に適した温度まで上昇させて、もって、硝酸銀の還元反応を行わせ、銀ナノ粒子を得ることが提案されている。しかし、前記硝酸銀の還元を続けようとすると、比較的短時間で反応管の内壁に銀が析出して付着してしまう。内壁に付着した銀はマイクロ波を反射するので、反応液にマイクロ波が吸収されず、反応液の温度が急激に低下してしまう。その結果、生成物の中に還元未反応の硝酸銀が多く混入してしまい、銀ナノ粒子の収率が低くなるという問題があった。そのほか、良質の銀ナノ粒子を製造することができなくなるなどの重大な問題があった。ところが、反応管へのマイクロ波照射を利用して金属ナノ粒子の量産を試みる例がまだ多くないためか、前記の問題を論じた特許文献はあまり見当たらない。
【0004】
金属塩の還元反応は、多くの場合、常温ではなく、その金属塩と還元剤の還元適性温度に加熱して超微粒子を合成する。そして、加熱手段としては、マイクロ波照射が均一で素早い加熱手段として用いられることがある。
【0005】
多くの特許文献には、反応液にマイクロ波を照射することにより反応液の均一で立ち上がりの速い温度上昇をもたらす効果が期待され、還元反応を効果的に進めることができると記載されている。そして、製造されるナノ粒子の粒径のバラツキが少なくなること、反応時間が短くなること、製造コストを低減できることなどが期待できると記載されている。
【0006】
発明者らの実験では、金属塩と還元剤と分散剤を含む反応液を反応管に流し、マイクロ波照射による加熱の下で還元反応を促進させ、金属ナノ粒子を製造するときに、金属層が反応管の内壁に付着することが確認されている。特に、銀ナノ粒子の場合、そのレベルは深刻である。金属ナノ粒子の析出が反応管の壁面に生じると、反応管の壁面に生じた析出層がマイクロ波を反射する。その結果、発振器や反応管などに損傷が生じたり、反応液の均一性の高い加熱ができなくなったり、加熱の効果が全く生じなくなるなどの問題を生じることが確認されている。この問題は、銅やニッケルなど、銀以外の場合にも大きな問題になっている。
【0007】
また、本発明者らの実験では、反応管に反応液を流しながら金属ナノ粒子を連続的に製造する場合に、前記のマイクロ波による加熱効果に問題が生じることが確認されている。そのほかに、反応管が目詰まりを起こし、反応液が流れなくなり、これにより、爆発を生じる危険性があったり、金属ナノ粒子の製造品質の著しい悪化を招いたり、反応管を取り替えなければならなくなったり、製造コストの上昇を招いたりするなど、大きな問題が生じることが確認されている。また、マイクロ波照射の利点が大きく損なわれてしまうという問題を生じることが確認されている。
【0008】
しかし、マイクロ波を照射しながらナノ粒子を製造する場合に発生する前記問題の解決を図ろうとする提案がなされているが十分に有効ではない。バッチ処理で反応液にマイクロ波を照射して反応液中の金属塩の還元反応を行わせるときに、容器の内壁に金属析出物が付着し、容器を破損させてしまうなどの問題が生じること、及びそれを解決する方法が特許文献1に記載されている。
【0009】
特許文献1には、金属酸化物や金属水酸化物を有機溶媒で溶解した反応液をガラス容器内で還元し、金属ナノ粒子を生成することが記載されている。また、マイクロ波を用いて反応液の温度を高め、一定時間還元反応を続けると、金属微粒子が容器の内壁面に付着することが記載されている。また、その付着物がマイクロ波を吸収して加熱され、容器が局部的に高温になり、ガラスが破損する危険性が指摘されている。
【0010】
これを解決するため、特許文献1では、1L(1リットル)のセパラブル容器に、マイクロ波を吸収し易い有機溶媒とマイクロ波を吸収し難い有機溶媒の混合溶媒を入れ、この混合溶媒に金属酸化物または金属水酸化物と金属元素に対して等モル量以下の有機修飾剤を添加し、得られた溶液に還元剤を加えて反応液とし、容器の外側からこれにマイクロ波を照射して反応液を加熱して金属ナノ粒子を製造することが記載されている。マイクロ波を吸収し易い有機溶媒とマイクロ波を吸収し難い有機溶媒の混合溶媒を用いることの理由の一つとして、マイクロ波を容器の外側から反応液に照射したときに、容器の壁面に近いところでマイクロ波が吸収されてしまうことに対する緩和策をあげている。金属塩の種類、マイクロ波を吸収しやすい溶媒、マイクロ波を吸収しにくい溶媒、有機修飾剤などには、多くの種類が提案されている。
【0011】
特許文献1では、さらに、反応容器の金属微粒子が析出して付着しない部分にはマイクロ波透過材料を用い、反応容器の金属微粒子が析出して付着する部分にはマイクロ波遮蔽部材を配置することが記載されている。
【0012】
本発明者らの実験によれば、一部がマイクロ波照射場を通るフッ素樹脂製の管状反応管に反応液を流通させ、反応液にマイクロ波を照射し、金属イオンを還元し、もって、金属ナノ粒子を製造しようとする場合、特許文献1も含めた従来の方法では、反応管の内壁に析出物が付着することは避けられないことが判明した。また、極めて深刻な問題があることも判明した。
【0013】
例えば、内径が2mmであり、外径が3mmであり、円筒型のマイクロ波キャビティーに入れる部分の長さが100mmであるフッ素樹脂製反応管に反応液を流通させる。また、この反応管に周波数2.4〜2.5GHzのTM
010モードのマイクロ波を照射し、銅ナノ粒子や銀ナノ粒子などを生成する。このような場合に、特許文献1に開示されている方法を用いることができないことは自明である。
【0014】
マイクロ波キャビティー中を通っている反応管の中に、金属塩と還元剤と合成される金属ナノ粒子の分散剤を含む反応液を流し、マイクロ波を照射して反応液を加熱しながら金属ナノ粒子を連続製造する場合、たとえば金属塩を銀塩にした場合、反応管内壁への銀析出物が生じる。また、それによるマイクロ波の反射が起こる。その結果、マイクロ波が反応液に到達せず、還元の適温になっていた反応液の温度を還元に不適切な温度に低下させてしまい、生成物の中に還元未反応の金属塩が混入してしまい、ナノ粒子の収率が低くなる。
【0015】
前記のように、反応管に、銀塩を溶解させた溶液と銀ナノ粒子の分散剤と前記銀塩の還元剤を含む反応液を流通させ、反応液にマイクロ波を照射して反応液の温度を還元適性温度まで高めて、還元反応を行わせると、銀析出物が反応管内壁に付着しはじめ、種々の問題が発生する。
【0016】
すなわち、反応管内壁に付着した銀析出物により、反応管の外部から反応管に照射しているマイクロ波が反射され、還元の適温になっていた反応液の温度を還元に不適切な温度に低下させてしまう。また、未反応の溶液が所定量以上に混入し、製造予定の銀ナノ粒子の品質を低下させてしまう。金属ナノ粒子の製造に大きな障害が生じる。反応管の温度分布が大きく変わったりするなどの問題が生じる。
【0017】
このような現象は製造しようとする金属の種類によってもかなり異なるが、銀以外の金属でも注意を要する、解決すべき課題である。例えば、銅,ニッケル等でも上記現象が起こることが確認されている。
【0018】
種々の金属ナノ粒子の連続的な合成が公開特許によって提案され始めており、その合成・精製方法については、生産性、簡便さ、低コスト、スケールアップなどの可能性が開示されている。しかし、実際に前記の問題を解決しようとする提案がなされていない。
【0019】
ナノ粒子の合成が提唱されて以来かなり長い年月がたっているが、不明なこと、製品化のために解決しなければならないことはまだ多く残されている。ナノ粒子の粒径と物性の関係がその一例と言える。
【0020】
ニッケルナノ粒子は積層コンデンサの内部電極、接合材、電磁波遮蔽材料などの様々な用途が期待されているものの、粒子径が300nm以下のニッケル超微粒子の合成に関しては未だに確立した合成法がないのが現状である。これは、ニッケルナノ粒子の合成反応の難しさに起因するものである。
【0021】
特許文献2では、微細なニッケル粒子を得ているが、銀イオンを原料に混合して、触媒、種として機能し、粒子化させている。マイクロ波の照射による還元ではあるが、アミンによる還元であるので、200℃以上で反応させて、平均粒子径40〜90nmのニッケル粒子を得ている。
【0022】
特許文献3では、25nmないし30nmの球状に凝集したニッケル粒子を得ているが、危険性かつ有害性の高い有機溶媒である、酢酸エチル又はトルエンを分散媒としている。
【0023】
特許文献4では、28nmのニッケル粒子を得ているが、還元剤のナトリウム塩であるロンガリットを使用している。
【0024】
特許文献5では、50nmのニッケル粒子を得ているが、塩化ニッケルや水酸化ナトリウムを使用している。アルカリ金属や塩素などの不純物を完全に除く事は多大な費用を必要とする。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態例を説明する。なお、説明の重複を避けるため、ナノ粒子の製造装置の説明で製造方法の説明やナノ粒子の説明を兼ねることもあり、その逆の場合もある。また、本発明の実施の形態の説明に用いる各図は、本発明の例の説明の都合上、特に断らずに部分的に拡大率を変えて図示する場合もあり、必ずしも実施例などの実物や記述と相似形でない場合もある。また、各図において、同様な構成成分については同一の符号を付けて示し、説明の重複を避けることもある。
【0048】
図1は、諸要件を考慮して本発明の実施の形態例を説明するために作成したナノ粒子製造装置の模式図である。図中、全ての構成要件が全ての形態例に使用するものではなく、形態例によっては不要なものもあり、具備していない場合もあるが、説明の都合上、具備している場合を説明する。
図1で、符号1はマイクロ波照射口(導波管等)、2はマイクロ波照射場、4は電界モニター、5は温度計、6はマイクロ波発振器・制御器、7,7a,7bは反応管、8は反応液、21は不活性ガス源、22〜25はT字型ジョイント、30は接続部、31は第1液源(例えば、A液、C液など)、32は第2液源(例えば、B液、D液など)、33は第3液源(例えば、E液など)、34は回収タンク、72〜78は各液流路または液とガスの混合体流路、71は不活性ガスの流路である。これらのうちには、全てをナノ粒子製造装置に設ける必要はなく、必要なものだけ用いて装置を構成することができる。符号S−1〜S−14は、反応系制御その他の目的に用いる温度、圧力、流量、流速、電界強度等、反応液に関する情報を測定するセンサーで、液源、液流路、ガス流路、回収タンク、マイクロ波照射場などに配置してある。センサーは、不必要な場合は設けなくてもよい。a−1〜a−9は矢印である。送液ポンプは図示していない。実施の形態例によっては図示のうちの一部だけで構成されるものもある。また、図示していないが、各液源、回収タンクなどに攪拌装置を配置し、各液、反応液等の均一化を図っている。
【0049】
図1で、例えば、少なくとも符号33と24がない場合について説明する。たとえば混合する液が2種類の場合、液源31に1種類目の液を用意し、液源32に2種類目の液を用意し、それぞれの液源にそれぞれ液送出手段としてのたとえばプランジャーポンプを設け、各所定の送液速度に設定する。液源31,32からの各液は、液源31,32から所定の速度でそれぞれ液流路73,74を矢印a−2,a−7の方向に送られ、T字型ジョイント22,23でそれぞれ不活性ガス源21から矢印a−1,a−4方向に送られてくる不活性ガスを導入される。その後、不活性ガスが導入された各液は、流路77,76を通り、T字型ジョイント25に送られ、T字型ジョイント25で混合され、T字型ジョイント25の残りの流路から一端が反応管7に接続されている液流路78に送られる。
【0050】
図1で符号33がある場合は、液原33の液は、所定の速度で液流路72を通り、T字型ジョイント24で不活性ガス源21からの不活性ガスを導入されて後、T字型ジョイント23で第2液源32からの液と混合される。このとき、不活性ガス源21からの不活性ガスは第2液源32からの液にも混合される。なお、液の種類などによって、不活性ガス源21が第2液源32にも直接配置されることもある。
【0051】
液流路78からの液は、マイクロ波照射場としてのキャビティー2を通る反応管7に入り、マイクロ波照射場2でマイクロ波の照射を受ける。
【0052】
マイクロ波照射場2内の反応管7は、300MHz〜300GHzの範囲内におけるマイクロ波の周波数、マイクロ波のモード、液の種類などによって最適形状が異なる場合がある。マイクロ波照射場2内における反応管7の形状を適宜選択することによって、マイクロ波照射の効果をコントロールすることが出来る。
【0053】
反応管7の形状としては、直線状、S字型、コイル状、それらの混合形状等が挙げられる。また、反応管7の一部をマイクロ波照射場2外に配置することによってマイクロ波照射の効果をコントロールすることも出来る。
【0054】
接続部30は反応管7の出力部7aと反応管7bを接続する接続部であり、ナノ粒子の製造目的や装置、部品の状況などによっては設けない場合もある。その場合は、反応管7bは反応管7と同じ仕様の場合もあり、あるいは目的によっては直径を変えることもある。符号30aは反応液取出部であり、必要に応じて設け、反応のコントロールに利用されることもある。なお、反応管の外径、内径は、装置の構成の都合によって、図示していない部分においても変えることができる。
【0055】
反応液取出部には、微粒子の反応状況判断手段、粒径観測手段、粒径分布観測手段、成分観測手段、限外ろ過などの粒径選択や分別手段、分級手段、分流手段、加温や冷却等を含む温度調節手段などの少なくとも1つを必要に応じて設けることが好ましい。例えば、反応液取出部30aに、反応状況判断手段(図示せず)を配置してある場合は、所定レベル以下の反応液を抽出し、本発明の他の実施の形態例に用いたナノ粒子の製造装置の模式図である
図2で後述するように、再度マイクロ波照射場を通過する反応管に流し、マイクロ波を照射する。
【0056】
本発明の実施の形態例を種々検討した結果、マイクロ波照射を受けてナノ粒子原料液の還元反応を含む合成工程で、反応管の内壁に析出物の付着を生じさせないためには、マイクロ波照射の前に反応液に不活性ガスを導入することが好ましいことが判明した。不活性ガスの導入は、反応液を構成する各液の流通のさせ方、不活性ガスの導入の仕方などが重要な要素であることも判明した。前記第1の液と第2の液を混合して反応液を形成してから不活性ガスを反応液に導入しても、反応管壁に鏡現象が生じることを緩和することができる。このほか、第1の液に不活性ガスを導入する方法、第2の液に不活性ガスを導入する方法、あるいは、第2の液に不活性ガスを導入して液流路内を流通させているところへ第1の液を混合する方法、第2の液に不活性ガスを導入して液流路内を流通させているところへ不活性ガスを導入した第1の液を混合する方法など、ナノ粒子の原料とその還元剤の選択の仕方に合わせた適切な方法がある。
【0057】
不活性ガスを導入した反応液を反応管中に流すことにより金属析出物が反応管内壁へ付着するのを効果的に予防することができる。たとえば、金属ナノ粒子を合成する場合、不活性ガスを導入した還元剤を含む第2の液を管内に流通させているところへ、不活性ガスを導入した金属塩を含む第1の液を混合する方法や、不活性ガスを導入した還元剤を含む第2の液を管内に流通させているところへ金属塩を含む第1の液を混合する方法がある。第1の液と第2の液を混合して反応液を形成してから、次の段階で不活性ガスを反応液に導入する方法でも不活性ガス導入の顕著な効果を発揮することができる。
【0058】
たとえば、流路にそれぞれ第1液源からの液と第2液源からの液を流して各液に不活性ガスを混合し、T字型ジョイントで両液を混合して反応液を形成してから、反応液にマイクロ波を照射する方法の実施の形態例を説明する。
【0059】
図1に示してある電界モニター4と温度計5の測定結果は、まず、マイクロ波発振器・制御器6にフィードバックされる。不活性ガスの流量は、
図1のセンサーS−8,S−1で測定される。反応液を構成する各液、ガス、及び混合物の流量、流速、並びに成分;ナノ粒子の粒径・分布などの状況;並びに反応液とガスの混合状態などをセンサーS−1〜S−13で必要に応じて測定し、マイクロ波発振器・制御器、各液の送流装置、図示していない温度制御装置、場合によりナノ粒子合成系を制御している制御系に送り、ナノ粒子の合成品質を管理することができる。
【0060】
反応管内壁への析出付着物の光学的および/または電気的検出手段を反応管や制御回路等へ設けることができる。反応液の反応過程や反応後のナノ粒子の粒径や粒径分布、平均粒径などの電気的および/または光学的測定手段を反応管あるいはその近傍あるいは回収タンクなどに設けることができる。
【0061】
本発明の実施の形態例においては、反応管内壁への金属析出物付着の状況を、反応液の温度とマイクロ波の反射波の電界強度を測定して判断し、その結果をナノ粒子の合成制御に用いた。また、必要に応じて各センサーからの情報もナノ粒子の合成制御に用いる。
【0062】
本発明の実験においては、反応管の一例として、少なくともマイクロ波を照射する部分にマイクロ波を透過するフッ素樹脂製の反応管を基本部分として用いた。ただし、本発明の権利範囲は、この反応管に狭く限定されない。反応液としては、まず、銅や銀のような反応管の内壁に析出物を付着させやすい材料、すなわち管内壁に銅鏡、銀鏡、ニッケル鏡などを形成させやすい成分を含む材料を選び、分散剤や還元剤を含む反応液を作製した。その反応液を反応管の中に流通させた。反応液流路の少なくとも一部で反応管中の反応液にマイクロ波を照射しながら,反応液の還元に適した所定の温度にして還元反応を進行させ、反応管の内壁に付着物が生じるか否かを種々調査した。
【0063】
反応液の加熱に用いるマイクロ波はシングルモード、マルチモードのいずれも用いることができる。また、マイクロ波共振器としては、円筒型、矩形型いずれでもよいが、円筒型がより好ましい。マイクロ波は、一般に、マグネトロンや半導体発振器などから導波路を介して試料を加熱するマイクロ波照射場に送られる。また、マイクロ波のモードによっては、導波路の一端にマイクロ波反射体を設けて反射させ、導波路内の特定位置に電場・磁場を集中させるモードを形成し、試料に発熱させて用いることもできる。
【0064】
マイクロ波の周波数帯としては、装置の入手しやすさの観点から2.4〜2.5GHz帯の周波数を用い、前記以外の周波数でも実験した。マイクロ波のモードは,主としてシングルモードでTM
010モードを用いた。しかし、マイクロ波の周波数、モードともに、これに狭く限定されない。
【0065】
マイクロ波のモードに、TMモードを用いる場合は、mを0以上、nを1以上の整数として、TM
mn0モードを用いるのが特に好ましい。TEモードを用いる場合は、TE
011,TE
101,TE
012,TE
201モードを用いるのが特に好ましい。
【0066】
シングルモードに限らず、マルチモードを用いることができる。マイクロ波照射は円筒型マイクロ波共振器に狭く限定されず、方形導波管を用いるものなど、マイクロ波加熱の長所を用いることができるものならいずれも本発明の効果を発揮することができる。
【0067】
実施の形態例では、共振器として円筒型マイクロ波共振器であって、マイクロ波出力が最大500Wである円筒型マイクロ波共振器を用い、反応管の材質としてPFAを用いた。マイクロ波のモードとしては、精度の面で優れたモードの1つであるシングルモードのTM
010を用いた。なお、本発明の範囲はこれらに狭く限定されない。
【0068】
反応管の基本部分の寸法は、これに狭く限定されないが、外径φ3mm、内径φ2mm、マイクロ波共振器に入る基本部分の長さが41cmのものを用いた。反応管は、前記基本部分の長さ41cmのうちの10cmをマイクロ波のTM
010モードに概ね直交する方向に、マイクロ波キャビティーの中央部に配置し、反応管内を流通する反応液にマイクロ波を照射して反応液を所定の温度に効果的に加熱し、還元反応を進めた。反応液の流通方向に、反応管の基本部分の前後に同じ内径の反応管を接続し、それぞれ、反応液の入力側、出力側とした。
【0069】
不活性ガスの流し方を種々検討したところ、金属ナノ粒子をその還元剤によって還元することによって金属ナノ粒子を合成する場合、金属ナノ粒子前駆体の種類とその還元剤の種類によって、最適な不活性ガスの反応液への導入の仕方や導入のタイミングに違いがあることが判明した。金属ナノ粒子の還元反応において、鏡反応が比較的激しい場合、たとえば、金属元素が銀で還元剤にジメチルアミノエタノールを使う場合には、銀ナノ粒子の還元剤を含む溶液に不活性ガスを導入して流しておき、そこへ金属ナノ粒子の原料液を混合する方が、反応管内壁への金属の析出物の付着をより効果的に防ぐことが出来ることが判明した。また、金属元素が銅で、その還元剤にヒドラジンを使う場合、銅イオンを含む液とヒドラジンを含む液を混合して反応液とし、それを反応管に流しておき、マイクロ波照射場の直前で不活性ガスを反応液に導入するのが好ましいことが判明した。
【0070】
マイクロ波照射場内の温度に関しては、反応液が不活性ガスを挿入された状態で反応管内を還元反応をしながら流動するため、温度制御をしても変動しやすい。しかし、銀ナノ粒子の合成中に調べた結果、突発的な一瞬の温度の低下幅が少なく、その温度低下は最大で15℃であることがわかった。この温度低下を10℃以下に抑えることが、ナノ粒子の連続製造をより安定に進めることができることも判明した。反応液の温度変化の測定は毎秒行った。前記一瞬の温度低下とは、設定温度からパルス的に変動して低下したときのピーク値をいう。すなわち、「突発的な一瞬の温度の低下幅」とは、マイクロ波照射場内の温度を1秒ごとに測定したときに、設定温度からパルス的に低下する低下幅のことをいう。また、本発明においては、「突発的な一瞬の温度の低下幅」が15℃、好ましくは10℃以下であることが好ましい。
【0071】
銀ナノ粒子の合成に関して、
図1に示した構成で、1種類目の液として硝酸銀を含む液を第1の液源に、2種類目の液として硝酸銀の還元剤を含む液を第2の液源に用意し、それぞれプランジャーポンプで各所定の液送速度で、それぞれの液流路を通ってT字型ジョイントに送り、T字型ジョイントで両液を混合すると、還元適性温度に上昇させる前に混合された両液は還元を開始してしまい、T字型ジョイントに接続されている液流路に流通した反応液が透明から黒色に変化する様子が観測された。
【0072】
窒素ガスを早期に挿入するため、この反応液が流れる液流路の長さを約3cmにし、液流路のT字型ジョイントに接続されている端部とは反対側の端部を第2のT字型ジョイントに接続し、第2のT字型ジョイントの一端に接続されている流路から窒素ガスを挿入し、反応液とともに第2のT字型ジョイントの一端に接続されている液流路を通り、マイクロ波照射場を通る反応管へと流入させた。これにより、銀ナノ粒子の合成を、反応管内壁に析出物の付着を生じさせることなく、長時間にわたって行うことができた。
【0073】
また、反応管のマイクロ波照射場を通る部分以外の少なくとも一部を、加熱源または冷却源としてのマイクロ波以外の温度制御手段を用いて温度制御して、金属ナノ粒子の粒径制御を行うことができる。これに狭く限定されないが、例えば上記一部を、ペルチエ素子を配した熱伝導性の比較的よい物体に接しさせたり、そのような容器内を通過させたり、第1・第2の液源の少なくとも一方をペルチエ素子を用いて温度制御して、金属ナノ粒子の粒径制御を行うことができる。
【0074】
ペルチエ素子は電気的に制御して温度を上げることにも下げることにも使い分けることができるため、金属ナノ粒子の粒径制御や反応適性温度や粒径制御温度を適性に制御することができる。
【0075】
また、金属ナノ粒子の製造工程内の、第1の液、第2の液、前記気体、反応液の各流路又はその近傍等の少なくとも一部に、温度、流量、液に関する反応進行情報や粒径に関する情報の少なくとも1つを検出するセンサーを配置し、その出力を所定の制御系にフィードバックして制御を行うことができる。
【0076】
また、金属ナノ粒子の連続製造工程内の反応液の流路もしくは分路における金属ナノ粒子の粒径を測定する手段を設け、金属ナノ粒子のその時点での粒径を測定することができる。
【0077】
反応液の流路もしくは分路にT型やY型等のジョイントを設け、前記ジョイントから反応液を採取して金属ナノ粒子の粒径を測定したり、反応液の流路もしくは分路において金属ナノ粒子の粒径を直接測定する手段、たとえば、レーザ光の位相回転を利用した測定手段を設けることができる。
これらの粒径に関する情報、温度制御情報、流量制御情報は、たとえば、合成する金属ナノ粒子の粒径分布を制御することに役立つ。
【0078】
窒素ガスの流量について検討した結果、わずかな量でも鏡現象の軽減に役立つが、内径2mmで且つマイクロ波照射領域が100mmの前出フッ素樹脂反応管の場合、反応液が銀の場合、0.4L/分以上で反応液に窒素ガスを流入させる効果が大きい。量産に適する合計流量を0.5L/分以上、さらに好ましくは1L/分以上に制御することが安定した効果を示すことがわかった。合計流量は2L/分以下であることがより好ましい。
【0079】
反応液を流す反応管の平均内径を2r(mm)としたときの不活性ガスの反応液への合計挿入量は、0.4×r
2(リットル)/分以上であることが好ましく、0.5×r
2(リットル)/分以上であることがより好ましく、1.0×r
2/分以上であることがさらに好ましい。ただし、経済的には3.0×r
2(リットル)/分を越えないことが望ましい。
【0080】
反応液に挿入した不活性ガスの反応管内における線速度が2m/秒以上であることが好ましく、線速度が5m/秒以上であるようにすると安定した合成を続けることができた。
【0081】
さらに、不活性ガスとしてのガスの種類を種々変えて実験してみた結果、アルゴンなど窒素以外の不活性ガスでも同様の効果があることが判明した。しかし、経済的には窒素ガスが特に好ましい。
【0082】
また、前記第1の液と第2の液を混合して反応液にする前に、前記第1の液と第2の液の少なくとも一方に気体を挿入して混相流にして後、前記第1の液と第2の液を混合して反応液にすることにより、反応系の緻密な制御を可能にする。
【0083】
前記第1の液と第2の液を混合して反応液にする前に、前記第1の液と第2の液に挿入する気体に異なる種類の気体を用いることができる。また、前記第1の液と第2の液を混合して後、気体を挿入する工程をさらに設けることによって、制御の質を金属の種類に適するようにすることができる。
【0084】
また、挿入する気体の圧力または線速度を制御する工程を有するようにすることが好ましい。
【0085】
ナノ粒子の分散剤としてM−1000やPVP、酒石酸誘導体、Diperbyk−2015を用いた例を説明したが、これに狭く限定されないが、分散剤として、親水性のものが好ましく、たとえばポリオキシアルキレンアミン、モノアミン、ジアミン、ポリアクリル酸など多くの分散剤がある。また、反応液を構成する液の調整に攪拌作用を利用するにあたり、マグネティックスターラーを用いたが、本発明はこれに狭く限定されず、超音波を用いることなど、他の方法を用いることが可能である。超音波振動を利用する場合、たとえば、30KHzのような低周波の超音波、200KHzのような中程度の周波数の超音波、500KHz近傍の比較的高い周波数の超音波を、その周波数の特性を利用して、本発明の効果を一層大きくすることができる。
【0086】
反応液にマイクロ波を照射する場合、超音波を伝搬させることができるようにし、これにより、合成されるナノ粒子の粒子径やその分布を制御することができる。
【0087】
金属ナノ粒子コロイドを精製する手段としてはフィルターによるろ過、限外ろ過などを挙げることができる。
【0088】
また、実施例などにおいて、A液とB液の混合や反応液と不活性ガスの混合にT字型ジョイントを用いたが、本発明はこれに狭く限定されず、Y字型ジョイントや、混合する液や不活性ガスの種類や性質等を考慮して多種類の液やガスを混合することができるように設計したジョイントを用いて、還元反応等の効果を緻密に制御し、本発明の効果を一層大ならしめることができる。
【0089】
そして、先に流通させる金属ナノ粒子前駆体の還元剤を含む液とそれに混合させる金属ナノ粒子前駆体を含む液のうちの、少なくとも金属ナノ粒子前駆体の還元剤を含む液に、前記金属ナノ粒子前駆体を含む液を混合する前に、前記気体を挿入することがさらに好ましい。前記気体として不活性ガスを用いると特に大きな効果を発揮することが判明した。
【0090】
また、反応液の反応促進に用いるマイクロ波のモードにTM
010モードを用いる例を実施例として記載したが、本発明はこれに狭く限定されない。たとえば、TM
mn0モード(mは0以上の、nは1以上の整数)のマイクロ波定在波は、円筒の半径方向に電解の集中するところがあり、中心軸に平行な位置では均一な電界強度を有し、同様に利用できる。
【0091】
マイクロ波加熱では、電界による加熱を利用することができるが、磁界による加熱を利用することもできる。
【0092】
ナノ粒子の合成を安定化し、合成可能時間を長時間化し、合成品質を高めるには、反応液の流れをより良く制御することが好ましい。
【0093】
その一つの手段として、前記のように、反応液の反応進行状況などをモニターするための各種測定手段を随所に設置する方法がある。マイクロ波の電界をモニターする電界モニターとマイクロ波照射場内の温度あるいは反応管の温度を検出する温度計の少なくとも一方をマイクロ波照射場内に設け、その測定結果をマイクロ波発振器・制御器にフィードバックして、マイクロ波の発信状況を制御するほか、高いレベルの自動製造システムの構築を実現できるものである。
【0094】
図示していないが、必要に応じて各種測定手段を随所に設けることができる。電界モニターと温度計は少なくともそれらの一部がマイクロ波発振器・制御器にフィードバックされている。このほかに、不活性ガスの流量に関しては、たとえば毎分の流量を測定する手段を流路や不活性ガス源の一部に設けることができ、反応液を構成する各液の流量や成分の測定手段をT字型ジョイントあるいはその手前の液流路等に設けることができ、温度の測定手段も温度計に限られず要所に設けることができ、反応管内壁への析出付着物の光学的および/または電気的等検出手段を反応管や制御回路等へ設けることができ、反応液の反応過程や反応後のナノ粒子の粒径や粒径分布、平均粒径などの電気的および/または光学的等測定手段を反応管あるいはその近傍あるいは回収タンクなどに設けることができる。
【0095】
還元適性温度は金属塩と還元剤、分散剤等添加剤によって異なる。
【0096】
銀の場合の実施の形態例では還元適性温度が70°Cなので、マイクロ波の設定温度を70°Cに設定し、反射電力と温度測定を行った。反応液に不活性ガスを導入しない場合においては、マイクロ波の照射を開始後、反応温度が70°Cに達した54秒から140秒までの86秒における反射電力は75〜308Wであった。また、この間で150W以上を記録したのは46回で、その間300Wを超えたのは2回であった。140秒から停止させる292秒までの152秒の間の反射電力は38〜503Wで、150W以上が78回、300W以上が22回であった。これ以上続けることは危険であったので、マイクロ波照射をやめた。これに対して、反応液に不活性ガスを導入した前記実施の形態例の場合は、マイクロ波の照射を開始後、反応温度が70°Cに達した52秒から実験終了した352秒後の300秒の間での反射電力は0〜219Wであった。また、その間に100W以上を記録したのは12回で、その内で150W以上を記録したのが5回で、その内、200〜230Wを記録したのが2回であった。また、230W以上はなかった。これより、少なくとも、反射電力が150W以上の出現回数が20秒で8回以上になると鏡ができやすいということができる。液の逆流の影響も考慮を要する。
【0097】
これら各種測定手段の測定結果は、製造仕様等によってコントロールすることができる。例えば、測定データをマイクロ波発振器・制御器および/または図示していないシステム制御回路にフィードバックして製造システムを制御することにより、平均粒径、粒径分布などをコントロールすることができる。
【0098】
以下、本発明の他の実施の形態例に用いたナノ粒子の製造装置の模式図である
図2を引用して、本発明をさらに詳細に説明する。
【0099】
発明者らは、製造条件により、マイクロ波照射、熱伝達状況、化学反応などのシミュレーションソフトウェアを導入し、製造条件とその進行具合、製造速度、製造品質などとの対応を調べた。ソフトウェアとしては、マイクロ波のモードや過熱状況等をシミュレーションするソフト、熱の伝達状況、時間的変化などをシミュレーションするソフト、化学反応の状況ををシミュレーションするソフトなどのシミュレーションソフトを用いた。たとえば、COMSOL MULTIPHYSICS のRFモジュール、伝熱モジュール、化学反応工学モジュール、粒子トレーシングモジュール、CFDモジュール、最適化モジュール等を適宜用いてシミュレーションを行う。そして、シミュレーション結果と部分的実験や実際の製造工程などとを対比し、考察を加えた。その結果と実際の実験や製造工程の部分あるいは全体とを合わせて、工程管理データを作成した。それを実際の製造管理に活用した。
【0100】
金属塩や還元剤の他、これに必要に応じて分散剤、界面活性剤、保護材、溶剤などを混合させた反応液を作製する。それにマイクロ波照射場でマイクロ波を照射する。還元反応を推進させた反応液を反応液取出部に送る。後述する
図1や
図2の反応液取出部に反応状況判断手段(図示せず)を配置してある場合は、所定レベル以下の反応液を抽出し、再度マイクロ波照射場を通過する反応管に流し、マイクロ波を照射する。
【0101】
照射するマイクロ波の周波数は反応目的に応じて選択することができる。多くの場合、経済的に入手しやすい2.4〜2.5GHzが好ましいが、反応処理の目的や制御条件等によって、たとえば、加熱速度等の微妙な調整や流速・反応管の条件等に適した周波数を用いた検討も行った。
【0102】
図2において、符号2aはマイクロ波照射場、7a〜7n,7rは反応管、21a〜21cはガス源、30b〜30eは反応液取出部、33a〜33cは液源、34a,34c,xは回収タンク、71a〜71c,78a〜78cは流路、a−10〜a−30は矢印である。
【0103】
本発明のナノ粒子等微粒子製造装置では、反応液取出部など必要箇所に、微粒子の反応状況判断手段、粒径観測手段、粒径分布観測手段、成分観測手段、限外ろ過などの粒径選択や分別手段、分級手段、分流手段、加温や冷却等を含む温度調節手段などの少なくとも1つを設けて、製造する微粒子の製造品質向上を図ることができる。
【0104】
図2を参照して、本発明の実施の形態例における反応液の流れを説明する。
図1の流路78を矢印a−8方向に進み、反応管7に入り、マイクロ波照射を受けた反応液は、反応管7aを矢印a−9方向に進み、接続部30を経て、反応管7aを矢印a−10方向に進んで反応液取出部30aに到達する。反応液取出部30aに到達した反応液は、反応液取出部30aに配置されている反応状況判断手段(図示せず)や分級手段(図示せず)によって、第1の所定の規格と第2の所定に規格に分類される。第1の所定の規格に分類された反応液は反応管7bを矢印a−11方向に進み、回収タンク34に収納される。第2の所定の規格に分類された反応液は反応管7cを矢印a−12方向に進み、反応液取出部30bに到達する。
【0105】
反応液取出部30bに到達した反応液は、反応液取出部30bに配置されている反応状況判断手段(図示せず)や分級手段(図示せず)によって、反応が不十分な第3の所定の規格と粒径が大きい第4の所定
の規格に分類され、第4の所定の規格に分類された反応液は、矢印a−13方向に進み、所定の用途用の回収タンク34aに収納されるか、再度溶解して第3の所定の規格の反応液に入れられる。
【0106】
第3の所定の規格の反応液は、反応管7dを矢印a−14方向に進んで反応液取出部30cに到達する。反応液取出部30cに到達した反応液は、反応管7eを矢印a−17方向に進み、反応管7fに入り、再度マイクロ波照射を受ける。反応液取出部30cでは、必要に応じて、液源33aから流路78aを流れる液に、ガス源から流路71aを矢印a−15方向に流れるガスを導入されて反応液とされる。
【0107】
反応管7fに入り、再度マイクロ波照射を受けた反応液は、反応管7gを矢印a−18方向に進んで反応液取出部30dに到達する。反応液取出部30dでは、第5の所定の規格に分類された反応液は、反応管7nを矢印a−20方向に進み、回収タンク34bに収納される。あるいは、反応液が反応管7aを通る反応液と同様なものの時は反応管7hを矢印a−19方向に流れて接続部30に到達して、反応管7aを矢印a−10方向へ流れる反応液になる。反応液がそれら以外のものの時は、反応管7iを矢印a−21方向に流れて反応液取出部30eに到達する。反応液取出部30eでは、流路78bを矢印a−23方向に流れる液源33bからの液に、流路71bを矢印a−22方向に流れるガス源21bからのガスが混入されたものが、流路78bを矢印a−24方向に流れて、反応管7iからの反応液と混合される。前記混合液は、反応液取出部30eから反応管7jから反応管7kに入り、マイクロ波照射を受け、反応管7lを矢印a−26方向に流れて反応液取出部30fに到達する。このときのマイクロ波照射は反応管7に照射したものと異なる条件でもよく、その場合は、前記のマイクロ波照射場と異なるマイクロ波照射場を使用することもできる。
【0108】
反応液取出部30fでは、流路71cを矢印a−27方向に流れるガス源21cからの
ガスが混入された液源33cの液が、所定の条件で流路78cを矢印a−28方向に流れて、反応管7lからの反応液と混合される。前記混合液は反応管7mを矢印a−29方向に流れて、マイクロ波照射場2aでマイクロ波照射を受ける。
【0109】
マイクロ波照射場2aでマイクロ波照射を受けた反応液は、反応管7rを矢印a−29方向に流れて、回収タンクxに入る。回収タンクxでは、反応液に物理的、化学的、電気的あるいはその他の合成あるいは加工処理等を行うことができる。例えば、合成物質の形成やデバイスの作成なども行うことができる。
【0110】
図2では、図の煩雑さを避けるため、
図1で図示したようなセンサーを図示しなかったが、必要なところに各種センサーを配置してあり、それらの検出結果をシステムや部分の制御に反映させている。
【0111】
粒径の揃ったナノ粒子を製造する方法の一つに、マイクロ波照射条件を弱くして、反応度を低くし、反応進行状況判定手段や分級手段などを駆使して分級し、マイクロ波を選択的に繰り返し照射するなどにより、粒径をコントロールすることを挙げることができる。粒径を選別する手段として、例えば限外濾過を利用することもできる。また、反応性ガスの利用などにより、ナノ粒子の改質が可能である。
【0112】
マイクロ波照射場において、マイクロ波照射場に入射するマイクロ波の進行方向を変える手段(マイクロ波方向変更手段)を設けることにより、反応液に照射するマイクロ波の条件を変えることができる。
【0113】
マイクロ波方向変更手段は、たとえば、所定のセンサーの検出データに基づいて、コンピュータ制御によりマイクロ波の進行方向を変えろことができる。マイクロ波照射場やマイクロ波照射後の反応液のマイクロ波の吸収状況、温度等の反応液の変化状況を検出し、反応液の微妙な変化に対応して、製造条件の適切な制御が可能である。
【0114】
なお、本発明の方法で製造した金属ナノ粒子には、その製造上、反応液に挿入して混相流とした気体、不活性ガス、窒素ガス等が少なくとも微量混入している可能性が大きい。
【0115】
本発明の金属ナノ粒子は、顧客の要望に応じて、前記種々の形態をとって製品になりうるものである。そして、本発明は、前記種々の例に狭く限定されず、本発明の技術思想に従って多くのバリエーションを可能としている。たとえば、
図1や
図2のセンサーからの検出情報を基に、各構成要素の組み合わせ方、使用不使用の選択、ナノ粒子によっては、還元力のある水素や物質改変性のある反応性ガスの利用によるナノ粒子の改善、構成要素の洗浄等々をあげることが出来る。また、
図2を用いて説明した前記の本発明は、反応液にガス源からのガスを混合しない反応液を用いてナノ粒子を製造する製造工程,製造装置、それらを用いて製造したナノ粒子にも適用可能なものであり、粒径の揃ったナノ粒子を安価に提供できるという多大な効果を発揮するものである。
【0116】
本発明の説明においては反応液に気体として不活性ガスを導入して、反応管内壁に析出物の付着を防ぐことを中心に説明してきた。還元性のある水素ガスを不活性ガスの代わりに導入することもでき、半導体分野などで使われている反応性ガスを導入することもでき、鏡を防ぐとともに、物性の付与、改質をすることも可能である。また、マイクロ波照射部分を複数段設けて、制御により多目的に使うこと、すなわち、還元反応その他を高精度に実施することも可能である。マイクロ波として複数種類の波長を用いることも可能である。
微粒子自体の測定器と組み合わせて、種々の測定、加工なども可能である。
【0117】
次に説明する本発明の例は、マイクロ波が急速かつ均一加熱が可能である事を生かして、連続的に、還元剤を含有するニッケル錯体の溶液を、加圧下で170℃以下に加熱する事により、100nm以下のニッケルコロイドの製造方法であって、上記還元は、シングルナノ粒子のニッケルコロイドと、水や親水性のアルコールに可溶な分散剤の存在下で、ポリオールを加えて行なう事を特徴とするニッケルコロイドの製造方法である。
【0118】
上記還元剤を含有するニッケル錯体の溶液とは、還元剤をヒドラジンとし、水に可溶にし、かつ反応を迅速に行なう為に、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン等のpKa13以上のアミンをアルカリとして添加して、ニッケル−ヒドラジン錯体の水酸化物を形成したものである。
【0119】
上記1,1,3,3−テトラメチルグアニジンの酸解離定数は13.6、1,3−ジフェニルグアニジンは14.5であり、ニッケルイオンを還元するには十分である事が分かった。又、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンにより、ニッケルのヒドラジン錯体を水酸化物にする事で、水溶性にする事ができる事が分かった。酸解離定数13以上のアミンを単独で使用しても良く、混合しても良い。
【0120】
更に、pHを上げて反応速度を高くする為に、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンに加えて、アルカノールアミンやアミンを添加する事ができる。限定はしないが、沸点が170℃と高いエタノールアミンが好適である。
【0121】
上記還元剤を含有するニッケル錯体の溶液を作製する為のニッケル前駆体は、酢酸ニッケルが好適で、ギ酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケルでは不十分である。粗大粒子の存在しない、100nm以下のニッケルコロイドを得るには、ニッケル錯体を溶液の状態にして還元させる事が重要である。
【0122】
上記還元剤を含有するニッケル錯体の溶液をろ過する事で余分なヒドラジンを分離して、還元反応をする事ができる。その場合、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンを添加しただけでは、水溶液にはならない場合、アルカノールアミンを添加して水溶液にする事ができる。
【0123】
本発明のニッケルコロイドの製造方法は、加圧下で、マイクロ波照射により加熱して、連続的に還元するものである。
【0124】
上記加圧は、反応温度を高くする事で、反応速度を早くして、100nm以下のニッケル粒子を生成する為のものである。加圧しないで、90℃以下で反応させた場合、200nm以上のニッケル粒子を多数生成しまう事が分かった。
【0125】
上記加圧は、限定されないが、安全性から考えて0.1〜0.5MPaが有効である。
【0126】
上記連続的還元において、反応管に窒素ガス等のガスを流す事ができる。還元されて金属が生成する際に、反応管に金属が析出し、マイクロ波を吸収し加熱ができなくなり、終いてはスパークしてしまう事が良くあるが、反応管にガスを流す事により析出を防止する事ができる。ガスの種類は問わないが、窒素ガスが好適で、その流量は、反応液の流れを一定にする流量を流す事が好ましい。
【0127】
上記連続的還元において、反応管がマイクロ波装置のキャビティーに入る前に、反応管を超音波装置の中を通すことにより、超音波を照射する事ができる。具体的には、
図1において、32の液源にニッケル−ヒドラジン錯体の水酸化物溶液を入れて流した場合は、流路74もしくは流路76に超音波装置を設ける事ができる。
【0128】
マイクロ波照射により加熱する前に液を超音波照射する事で、生成するニッケルの粒子径を微細にする事ができる。
【0129】
上記マイクロ波装置の周波数は、例えば2450MHzで行なう事ができ、周波数を制御しているシングルモードのマイクロ波装置を使用する事が好ましい。
【0130】
本発明のニッケルコロイドの製造方法は、シングルナノ粒子のニッケル粒子を含む液を、マイクロ波加熱する事である。
【0131】
上記シングルナノ粒子のニッケルを加える事により、ニッケル錯体の還元温度を下げる事ができ、小粒径のニッケル粒子を生成する事ができる事が分かった。先行文献では、貴金属のイオンを反応液に添加して、ニッケル粒子を生成しているが、ニッケルナノ粒子でもニッケル粒子を生成できる、シングルナノ粒子の合成方法は問わないが、真空蒸発法によるニッケルナノコロイドが最適である。ニッケル以外の金属を含まないニッケルコロイドである。
【0132】
本発明のニッケルコロイドの製造方法は、水やアルコールに可溶な分散剤の存在下で、ポリオールを加えて行なう事を特徴とするニッケルコロイドの製造方法である。
【0133】
上記分散剤は、水や親水性のアルコールに可溶な分散剤で、凝集して粗大粒子を形成し易いニッケルの凝集を抑制する化合物で、アミンであればM−1000、酸であれば、酒石酸の誘導体、Disperbyk−2015などがあげられる。ノニオンであれば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールが用いられる。これらを単独で使用しても良く、混合しても良い。
【0134】
上記ポリオールは、分散剤を溶解できるものであれば良く、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。
【0135】
還元剤を含有するニッケル錯体の溶液を水で希釈すると、溶液のpHが低下して、還元反応が進行しないが、希釈する水と同量のグリコールで希釈した場合は、還元反応が進行して、ニッケル超微粒子コロイドが生成する事が分かった。
【0136】
(実施例)
以下、本発明について実施例を掲げて詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0137】
(実施例1)
(酢酸ニッケル/ヒドラジン/1,1,3,3−テトラメチルグアニジン/M−1000/PVP/ジベンゾイル−l−酒石酸/蒸発法Ni/EGの系)
【0138】
(A液の調整)
酢酸ニッケル・4H2O 5.10g(0.0205mol)を200ml三角フラスコに分取し、イオン交換水を加えて40.0gにして溶解させた。攪拌しながら、80%ヒドラジン・H2Oを12.3g(0.197mol)滴下し、40分攪拌する事で縣濁状態になり、ニッケルヒドラジン錯体を形成させた。次に、1、1、3、3−テトラメチルグアニジンを12.6g(0.109mol)加え、溶解させた。そこへ、M −1000を60g、別に用意したポリビニルピロリドンK−15(分子量10,000)のエチレングリコール溶液を順次添加した。更に、ジベンゾイル−L−酒石酸0.24g(0.00067mol)のエチレングリコール溶液10.24gを添加した。最後に、蒸発法で作製した0.04wt%ニッケルナノ粒子/エチレングリコール溶液30gを加えた。
【0139】
(B液の調整)
ドデカン210gとBDG(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)70gを混合してB液を調整した。
【0140】
マイクロ波装置のキャビティー出口のチューブを加圧容器に連結し、窒素ガスを流して窒素ガス圧を0.20MPaに加圧した。
【0141】
A液を5ml/分、B液を5ml/分で耐圧性のプランジャーポンプで送液した。
目標温度を130℃に設定した。
【0142】
150nm以下のニッケル粒子であった。
【0143】
マイクロ波照射による反応液の温度変化を縦軸に温度(°C)、横軸に時間(秒)をとって
図3に、マイクロ波強度変化のデータを、縦軸に反射波の強度(W(ワット))、横軸に時間(秒)をとって
図4に示す。
【0144】
図3〜4において、符号101は温度曲線、101aはマイクロ波立ち上がり時の温度曲線、101bはマイクロ波照射が定常状態に達してからの温度曲線、101cは 合成終了によるマイクロ波照射終了時の温度曲線、符号102はマイクロ波の反射波強度曲線、101aはマイクロ波の立ち上がり時の反射波強度曲線、101bはマイクロ波照射が定常状態に達してからの反射波強度曲線、101cは 合成終了によるマイクロ波照射終了時の反射波強度曲線を示す。
【0145】
反応温度は、マイクロ波照射開始から30秒で122℃に達し、定常状態になってからは、121.5℃から137.2℃の範囲であった。反射波強度は60Wを超えた回数は28回あり、その内100Wを超えた回数は10回であった。
【0146】
(比較例1)
実施例1と同じ組成で、マイクロ波照射をせずに、オイルバスを用いて、加熱温度80℃で行なったところ、ニッケル粒子はできたが、200nm以上の粒子を含んでいた。
【0147】
(比較例2)
実施例1と同じ組成で、マイクロ波連続法で、加熱温度80℃で行なったところ、ニッケル粒子はできたが、200nm以上の粒子を含んでいた。
【0148】
(実施例2)
(酢酸ニッケル/ヒドラジン/1,1,3,3,−テトラメチルグアニジン/Disperbyk−2015/ジベンゾイル-L-酒石酸/蒸発法Ni/EGの系)
【0149】
(A液の調整)
酢酸ニッケル・4H2O 5.10g(0.0205mol)を200ml三角フラスコに分取し、イオン交換水を加えて40.0gにして溶解させた。攪拌しながら、80%ヒドラジン・H2Oを12.3g(0.197mol)滴下し、40分攪拌する事で縣濁状態になり、ニッケルヒドラジン錯体を形成させた。次に、1、1、3、3−テトラメチルグアニジンを12.6g(0.109mol)加え、溶解させた。そこへ、10wt%Disperbyk−2015/1,4−ブタンジオール6g加えた。
更に、ジベンゾイル−L−酒石酸0.24g(0.00067mol)の1,4−ブタンジオール溶液10.24gを添加した。最後に、蒸発法で作製した0.04wt%ニッケルナノ粒子/1,4−ブタンジオール溶液30gを加えた。
【0150】
(B液の調整)
ドデカン210gとBDG(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)70gを混合してB液を調整した。
【0151】
マイクロ波装置のキャビティー出口のチューブを加圧容器に連結し、窒素ガスを流して窒素ガス圧を0.20MPaに加圧した。
【0152】
A液を5ml/分、B液を5ml/分で耐圧性のプランジャーポンプで送液した。設定温度を120℃に設定した。
【0153】
150nm以下のニッケル粒子であった。
【0154】
ニッケル超微粒子コロイドを金属濃度が高くし、凡そ、60重量%以上の金属濃度にしたペーストを作成した。
【0155】
上記説明で得られた、分散媒エタノールのニッケル超微粒子コロイドに、高沸点の有機溶媒、例えば沸点230℃のBDG(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)あるいは、沸点219℃のターピネオールを添加し、減圧下、加温してエタノールを留去して、BDGを分散媒とするニッケル超微粒子ペーストを作製した。高沸点の有機溶媒は、ニッケル超微粒子コロイド中の分散剤が溶解するものを選定する。
【0156】
以上、本発明を実施例も含めて説明したが、本発明はこれらの例に狭く限定されず、本発明の技術思想に基づいて多くのバリエーションを可能とするものである。