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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-73926(P2020-73926A)
(43)【公開日】2020年5月14日
(54)【発明の名称】ひげぜんまい
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/22 20060101AFI20200417BHJP
   G04B 17/06 20060101ALI20200417BHJP
【FI】
   G04B17/22 Z
   G04B17/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2020-16952(P2020-16952)
(22)【出願日】2020年2月4日
(62)【分割の表示】特願2016-116664(P2016-116664)の分割
【原出願日】2016年6月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】阿部 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】福田 匡広
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 優作
(72)【発明者】
【氏名】深谷 新平
(57)【要約】
【課題】強度向上と温度補償性能の確保とを両立させたひげぜんまいを提供すること。
【解決手段】ひげぜんまい108が、シリコンによって形成されて渦巻き形状をなす基材部(旋回部201)と、基材部の巻き方向に沿った形状で、当該基材部の外表面から内側に凹む細溝205と、細溝205内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部材204と、を備えている。そして、細溝205は、基材部の表面において、複数の平行線群が交差した格子形状をなすように設けられる。
【選択図】図4G
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンによって形成されて渦巻き形状をなす基材部と、
前記基材部の外表面から内側に凹む細溝と、
前記細溝内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部と、
を備え、
前記細溝は、前記基材部の表面において、複数の平行線群が交差した格子形状をなすことを特徴とするひげぜんまい。
【請求項2】
シリコンによって形成されて渦巻き形状をなす基材部と、
前記基材部の外表面から内側に凹む細溝と、
前記細溝内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部と、
を備え、
前記細溝は、前記基材部の幅方向における内周側の端部から外周側の端部まで連続しており、かつ、前記基材部の巻き方向に沿って断続的に連なっていることを特徴とするひげぜんまい。
【請求項3】
前記細溝は、それぞれが前記基材部の幅方向に平行な直線状をなすことを特徴とする請求項2に記載のひげぜんまい。
【請求項4】
前記細溝は、それぞれが前記基材部の幅方向に対して湾曲あるいは屈曲した波形をなすことを特徴とする請求項2に記載のひげぜんまい。
【請求項5】
シリコンによって形成されて渦巻き形状をなす基材部と、
前記基材部の巻き方向に沿った形状で、当該基材部の外表面から内側に凹む細溝と、
前記細溝内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部と、
を備え、
前記細溝は、前記基材部の幅方向における中央部以外の位置に設けられていることを特徴とするひげぜんまい。
【請求項6】
前記細溝は、前記基材部の幅方向における中央部より内周側および外周側に設けられ、それぞれが前記基材部の巻き方向に沿った形状で連続していることを特徴とする請求項5に記載のひげぜんまい。
【請求項7】
前記細溝は、前記基材部の幅方向における中央部より内周側および外周側に設けられ、当該内周側に設けられた前記細溝および当該外周側に設けられた前記細溝はそれぞれ巻き方向に沿って断続的に連なっていることを特徴とする請求項5に記載のひげぜんまい。
【請求項8】
シリコンによって形成されて渦巻き形状をなす基材部と、
前記基材部の外表面から内側に凹む細溝と、
前記細溝内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部と、
を備え、
前記細溝は、前記基材部の巻き方向に対して湾曲あるいは屈曲した波形で当該巻き方向に沿って連続していることを特徴とするひげぜんまい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、時計における機械部品を構成する時計部品の製造方法および時計部品に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式時計の駆動機構は、ひげぜんまいやてん輪などによって構成される調速機構(てんぷ)や、がんぎ車およびアンクルによって構成される脱進機など、各種の時計部品によって構成されている。このような時計部品のうち、たとえば、ひげぜんまいにおいては、従来、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料をエッチング加工することによって形成されるものがあった。
【0003】
水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料を用いて形成されるひげぜんまいは、金属を加工して形成されるひげぜんまいよりも、加工精度のばらつきや、金属のようにひげぜんまいを形成する材料自体が有する内部応力の影響などが少ない。また、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料を用いて形成されるひげぜんまいは、金属を加工して形成されるひげぜんまいと比較して、環境温度に対して変形が少なく良好な温度特性を示す。
【0004】
関連する技術として、具体的には、従来、たとえば、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品を、シリコン製のコアと当該コアの表面に成膜した二酸化珪素などの非晶質材料とによって形成するようにした技術があった(たとえば、下記特許文献1〜3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5806453号公報
【特許文献2】特表2008−544290号公報
【特許文献3】特表2012−533441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1〜3に記載された従来の技術は、いずれも、時計部品の強度向上と温度補償性能の確保とを両立させるためには、当該時計部品におけるシリコン製のコアの表面に十分な膜厚の非晶質材料を成膜しなければならず、当該十分な膜厚の非晶質材料の成膜に時間を要するという問題があった。このため、時計部品の製造に時間を要し、生産性に劣るという問題があった。
【0007】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、強度向上と温度補償性能の確保とを両立させた時計部品の製造方法および強度向上と温度補償性能の確保とを両立させた時計部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかるひげぜんまいは、シリコンによって形成されて渦巻き形状をなす基材部と、前記基材部の外表面から内側に凹む細溝と、前記細溝内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部と、を備え、前記細溝が、前記基材部の表面において、複数の平行線群が交差した格子形状をなすことを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかるひげぜんまいは、シリコンによって形成されて渦巻き形状をなす基材部と、前記基材部の外表面から内側に凹む細溝と、前記細溝内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部と、を備え、前記細溝が、前記基材部の幅方向における内周側の端部から外周側の端部まで連続しており、かつ、前記基材部の巻き方向に沿って断続的に連なっていることを特徴とする。
また、この発明にかかるひげぜんまいは、上記発明において、前記細溝が、それぞれが前記基材部の幅方向に平行な直線状をなすことを特徴とする。
また、この発明にかかるひげぜんまいは、上記発明において、前記細溝が、それぞれが前記基材部の幅方向に対して湾曲あるいは屈曲した波形をなすことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかるひげぜんまいは、シリコンによって形成されて渦巻き形状をなす基材部と、前記基材部の巻き方向に沿った形状で、当該基材部の外表面から内側に凹む細溝と、前記細溝内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部と、を備え、前記細溝が、前記基材部の幅方向における中央部以外の位置に設けられていることを特徴とする。
また、この発明にかかるひげぜんまいは、上記発明において、前記細溝が、前記基材部の幅方向における中央部より内周側および外周側に設けられ、それぞれが前記基材部の巻き方向に沿った形状で連続していることを特徴とする。
また、この発明にかかるひげぜんまいは、上記発明において、前記細溝が、前記基材部の幅方向における中央部より内周側および外周側に設けられ、当該内周側に設けられた前記細溝および当該外周側に設けられた前記細溝はそれぞれ巻き方向に沿って断続的に連なっていることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるひげぜんまいは、シリコンによって形成されて渦巻き形状をなす基材部と、前記基材部の外表面から内側に凹む細溝と、前記細溝内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部と、を備え、前記細溝が、前記基材部の巻き方向に対して湾曲あるいは屈曲した波形で当該巻き方向に沿って連続していることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、支持層の一面側に少なくとも酸化膜を介して積層された活性層またはシリコン単結晶基板に、当該活性層または当該シリコン単結晶基板を時計の駆動機構を構成する時計部品の形状に成形するエッチング加工に用いるマスクであって当該成形にかかる第1の開口よりも小さい第2の開口が一部に形成されたマスクを形成するマスク形成工程と、前記マスク形成工程において形成されたマスクを用いて、前記活性層または前記シリコン単結晶基板から前記第1の開口に対応する部分を除去するエッチング加工をおこなうエッチング工程と、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償材料を用いて、前記エッチング工程により前記活性層または前記シリコン単結晶基板において前記第2の開口に対応する位置に形成される細溝内に温度補償部材を形成する温度補償部材形成工程と、を含んだことを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記温度補償部材形成工程が、二酸化ケイ素を用いて前記温度補償部材を形成することを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記温度補償部材形成工程が、前記活性層または前記シリコン単結晶基板を熱酸化することにより前記温度補償部材を形成することを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記温度補償部材形成工程が、前記活性層または前記シリコン単結晶基板に対して化学的気相成長により前記温度補償部材を形成することを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる時計部品は、時計の駆動機構を構成する時計部品であって、シリコンによって形成され、外表面から内側に凹む細溝を備えた基材部と、前記細溝内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部材と、を備えたことを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品は、上記の発明において、前記細溝が、前記基材部の表側面および裏側面の少なくとも一方に設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる時計部品は、上記発明において、前記温度補償部材が、二酸化ケイ素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明にかかる時計部品の製造方法および時計部品によれば、強度向上と温度補償性能の確保とを両立させた時計部品を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明にかかる実施の形態の製造方法によって製造される、この発明にかかる実施の形態の時計部品が組み込まれる機械式時計の駆動機構を示す説明図である。
図2A】ひげぜんまいの構造を示す説明図である。
図2B図2Aの一部を拡大して示す説明図である。
図2C図2BにおけるA−A’断面を示す説明図である。
図3A】この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その1)である。
図3B】この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひBぜんまい)の製造方法を示す説明図(その2)である。
図3C】この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その3)である。
図3D】この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その4)である。
図3E】この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その5)である。
図3F】この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その6)である。
図3G】この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その7)である。
図3H】この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その8)である。
図3I】この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その9)である。
図4A】温度補償部材の配置例を示す説明図(その1)である。
図4B】温度補償部材の配置例を示す説明図(その2)である。
図4C】温度補償部材の配置例を示す説明図(その3)である。
図4D】温度補償部材の配置例を示す説明図(その4)である。
図4E】温度補償部材の配置例を示す説明図(その5)である。
図4F】温度補償部材の配置例を示す説明図(その6)である。
図4G】温度補償部材の配置例を示す説明図(その7)である。
図4H】温度補償部材の配置例を示す説明図(その8)である。
図4I】温度補償部材の配置例を示す説明図(その9)である。
図4J】温度補償部材の配置例を示す説明図(その10)である。
図4K】温度補償部材の配置例を示す説明図(その11)である。
図5A】この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その1)である。
図5B】この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その2)である。
図5C】この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その3)である。
図5D】この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その4)である。
図6A】この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その1)である。
図6B】この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひBぜんまい)の製造方法を示す説明図(その2)である。
図6C】この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その3)である。
図6D】この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その4)である。
図6E】この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その5)である。
図6F】この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その6)である。
図6G】この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その7)である。
図6H】この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その8)である。
図6I】この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その9)である。
図7A】この発明にかかる実施の形態4の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その1)である。
図7B】この発明にかかる実施の形態4の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その2)である。
図7C】この発明にかかる実施の形態4の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その3)である。
図7D】この発明にかかる実施の形態4の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その4)である。
図8A】この発明にかかる実施の形態5の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その1)である。
図8B】この発明にかかる実施の形態5の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひBぜんまい)の製造方法を示す説明図(その2)である。
図8C】この発明にかかる実施の形態5の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その3)である。
図8D】この発明にかかる実施の形態5の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その4)である。
図8E】この発明にかかる実施の形態5の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その5)である。
図9A】この発明にかかる実施の形態6の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その1)である。
図9B】この発明にかかる実施の形態6の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる時計部品の製造方法および当該製造方法によって製造される時計部品の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
まず、この発明にかかる実施の形態の製造方法によって製造される、この発明にかかる実施の形態の時計部品が組み込まれる時計の駆動機構として、機械式時計の駆動機構について説明する。図1は、この発明にかかる実施の形態の製造方法によって製造される、この発明にかかる実施の形態の時計部品が組み込まれる機械式時計の駆動機構を示す説明図である。
【0019】
図1において、この発明にかかる実施の形態の製造方法によって製造される時計部品が組み込まれる機械式時計の駆動機構101は、香箱102、脱進機103、調速機構(てんぷ)104、輪列105などを備えている。香箱102は、薄い円筒形状をなす箱の内側に、図示を省略する動力ぜんまいを収容している。香箱102の外周部の香箱車と呼ばれる歯車が設けてあり、輪列105を構成する番車と噛み合っている。
【0020】
動力ぜんまいは、巻回された状態の長尺状の金属薄板であって、香箱102の中に収容されている。動力ぜんまいの中心の端部(巻回された状態において内周側に位置する端部)は、香箱102の中心軸(香箱真)に取り付けられている。動力ぜんまいの外側の端部(巻回された状態において外周側に位置する端部)は、香箱102の内面に取り付けられている。
【0021】
脱進機103は、がんぎ車106およびアンクル107によって構成される。がんぎ車106は、カギ型の歯を備えた歯車であって、がんぎ車106の歯はアンクル107に噛み合う。アンクル107は、がんぎ車106の歯に噛み合うことによってがんぎ車106の回転運動を往復運動に変換する。
【0022】
てんぷ104は、ひげぜんまい108やてん輪109などによって構成される。ひげぜんまい108は、巻回された状態の長尺状の部材であって、渦巻き形状をなしている。ひげぜんまい108は、機械式時計に組み込まれて駆動機構101を構成した状態において、優れた等時性を示すように設計されている。
【0023】
てんぷ104は、ひげぜんまい108のバネ力による伸縮によって、規則正しく往復運動をおこなうことができる。てん輪109は、リング形状をなし、アンクル107からの反復運動を調節・制御して、一定速度の振動を保つ。てん輪109は、てん輪109がなすリング形状の内側に、てん輪109の中心(てん真)109aから放射状に延設するアームを備えている。
【0024】
輪列105は、香箱102からがんぎ車106の間に設けられて、それぞれが噛み合わされた複数の歯車によって構成される。具体的には、輪列105は、二番車110、三番車111、四番車112などによって構成される。香箱102の香箱車は、二番車110と噛み合っている。四番車112には秒針113が装着され、二番車110には分針114が装着されている。図1においては、時針や各歯車を支持する地板などは図示を省略する。
【0025】
駆動機構101においては、動力ぜんまいの中心は逆回転できないように香箱102の中心(香箱真)に固定されており、動力ぜんまいの外側の端部は香箱の内周面に固定されているため、香箱102の中心(香箱真)に巻き付けられた動力ぜんまいが元に戻ろうとすると、巻き上げられた方向と同じ方向にほどけようとする動力ぜんまいの外側の端部に付勢されて、香箱102が巻き上げられたぜんまいがほどける方向と同じ方向に回転する。香箱102の回転は、二番車110、三番車111、四番車112に順次伝達され、四番車112からがんぎ車106に伝達される。
【0026】
がんぎ車106にはアンクル107が噛み合っているため、がんぎ車106が回転すると、がんぎ車106の歯(衝撃面)がアンクル107の入り爪を押し上げ、これによってアンクル107におけるてんぷ104側の先端がてんぷ104を回転させる。てんぷ104が回転すると、アンクル107の出爪が即座にがんぎ車106を停止させる。てんぷ104がひげぜんまい108の力で逆回転すると、アンクル107の入り爪が解除され、がんぎ車106が再び回転する。
【0027】
このように、調速機は、等時性のあるひげぜんまい108の伸縮によっててんぷ104に規則正しい往復回転運動を繰り返させ、脱進機103は、てんぷ104に対して往復運動するための力を与え続けるとともに、てんぷ104からの規則正しい振動によって輪列105における各歯車を一定速度で回転させる。がんぎ車106、アンクル107、てんぷ104は、てんぷ104の往復運動を回転運動に変換する調速機構を構成する。
【0028】
(ひげぜんまい108の構造)
つぎに、ひげぜんまい108の構造について説明する。図2Aは、ひげぜんまい108の構造を示す説明図である。図2Aにおいては、図1における矢印X方向に沿って見たひげぜんまい108の平面図を示している。図2Bは、図2Aの一部を拡大して示す説明図である。図2Bにおいては、図2Aにおいて点線で囲まれた領域Bを拡大して示している。図2Cは、図2BにおけるA−A’断面を示す説明図である。
【0029】
図2Aにおいて、ひげぜんまい108は、中心から外周方向に向かって渦を巻いた、細いコイル形状の旋回部201を備えている。また、ひげぜんまい108は、細いコイル形状の旋回部201における、内周側の端部に設けられたひげ玉202を備えている。旋回部201とひげ玉202とは接続部202aによって接続されている。旋回部201は、接続部202aを介して、ひげ玉202を中心にひげ玉202を巻回するコイル形状をなす。さらに、ひげぜんまい108は、細いコイル形状の旋回部201における、外周側の端部に設けられたひげ持203を備えている。この実施の形態におけるひげぜんまい108は、少なくとも一部が、シリコン酸化物によって形成されている。
【0030】
ひげぜんまい108の厚さ寸法は、後述する積層基板(SOIウエハ)におけるデバイス層の板厚寸法(厚さ方向の寸法)または、シリコン単結晶基板(Siウエハ)の板厚寸法(厚さ方向の寸法)に応じて定められる。ひげぜんまい108の幅寸法(ひげぜんまい108の半径方向の寸法)は、ひげぜんまい108の位置に応じて異ならせてもよい。すなわち、ひげぜんまい108における旋回部201の一部の幅寸法を、別の一部の幅寸法よりも大きい寸法としてもよい。
【0031】
ひげぜんまい108は、図2Bおよび図2Cに示すように、温度補償部材204を備えている。図2Bおよび図2Cにおいて、温度補償部材204は、ひげぜんまい108の巻き方向(旋回部201の長さ方向)に沿って、中心から外周方向に向かって渦を巻く形状に設けられている。
【0032】
温度補償部材204は、ひげぜんまい108の内部に埋め込まれており、ひげぜんまい108の表面側の一部が外部に露出した状態で設けられている。温度補償部材204は、たとえば、ひげぜんまい108の表面から内側に向かって凹んだ細溝205に、SiO2などの温度補償材料を埋め込むことによって形成されている。この実施の形態においては、ひげぜんまい108のうち、温度補償部材204を除く部分、より詳細には、細溝205が形成されたシリコン製の部分によって、この発明にかかる基材部を実現することができる。
【0033】
SiO2のヤング率の温度特性は、Siのヤング率の温度特性とは逆の温度特性を示す。ヤング率(Young's modulus)は、フックの法則が成立する弾性範囲における同軸方向のひずみと応力との比例定数であって、物体に対して当該物体を引っ張る方向に外力を加えた場合における、当該物体の伸びと当該物体に加えられた外力との関係から求められる。ヤング率は、縦弾性係数、曲げ剛性あるいはたわみ剛性などとも称される。具体的に、たとえば、断面積(S)の物体に力(F)が加えられることによって、当該物体の元の長さ(L)が(ΔL)だけ伸びた場合のヤング率(E)は、E=(F/S)/(ΔX/X)であらわされる。
【0034】
一般的に、ヤング率は、温度の変動に応じて変動するという温度特性を示す。このため、水晶やシリコンの結晶構造を有する材料を単体で用いて製造した時計部品は、温度の変動にともなうヤング率の変動に起因して、環境温度に応じて性能が変動してしまう。上記のように、ひげぜんまい108などの時計部品は非常に精密な精度が要求されるため、温度の変化にともなう性能の変動は、計時の精度にばらつきを生じる原因となる。
【0035】
これに対し、この発明にかかる実施の形態のひげぜんまい108は、主としてシリコンからなるひげぜんまい108の一部に、シリコンのヤング率の温度特性とは逆のヤング率の温度特性を示すSiO2からなる温度補償部材204を備えているため、ひげぜんまい108においては、温度補償部材204以外の部分の温度特性と、温度補償部材204の温度特性とが互いに打ち消す方向に作用する。これにより、シリコンのヤング率の温度特性を補償することができ、温度特性に優れ、耐久性に優れたひげぜんまい108を製造することができる。
【0036】
(実施の形態1)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態1においては、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品として、ひげぜんまい108の製造方法について説明する。
【0037】
図3A図3Iは、この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。実施の形態1の製造方法によるひげぜんまい108の製造に際しては、まず、図3Aに示すSOIウエハ314を形成する。
【0038】
図3Aに示すように、SOIウエハ314は、支持層311、中間層(Box層)312およびデバイス層(活性層)313の3つの層を備えている。SOIウエハ314において、支持層311、中間層312およびデバイス層313は、SOIウエハ314の厚さ方向に沿って順次積層されている。SOIウエハ314において、中間層312は、支持層311とデバイス層313との間に挟まれている。
【0039】
SOIウエハ314の形成に際しては、まず、支持層311の一方の面に、中間層312を形成する。支持層311は、シリコン(Si)からなる。中間層312は、二酸化ケイ素(SiO2)からなる。中間層312は、以降の工程において、深掘りRIE(D−RIE)技術によるエッチング加工をおこなう際のストッパとして機能する。中間層312は、公知の各種の成膜技術や公知の各種の酸化技術を用いて形成することができる。中間層312の形成方法については説明を省略する。
【0040】
この実施の形態においては、以降、支持層311における中間層312が形成される側の面を支持層311の「表側面」として説明し、支持層311における表側面とは反対側の面を支持層311の「裏側面」として説明する。また、この実施の形態においては、以降、中間層312における支持層311とは反対側の面を中間層312の「表側面」として説明し、中間層312における支持層311側の面を中間層312の「裏側面」として説明する。
【0041】
SOIウエハ314の形成方法については、図示を省略するが、SOIウエハ314の形成に際しては、まず、支持層311の表側面に中間層312を形成し、その後、当該中間層312の表側面にデバイス層313を形成する。デバイス層313は、支持層311と同様にシリコン(Si)からなる。
【0042】
このように、支持層311の表面側に、当該支持層311の厚さ方向に沿って中間層312およびデバイス層313を順次積層することにより、支持層311とデバイス層313との間に中間層312が挟まれた状態のSOI基板314が形成される。この実施の形態においては、以降、デバイス層313における中間層312とは反対側の面をデバイス層313の「表側面」として説明し、デバイス層313における中間層312側の面をデバイス層313の「裏側面」として説明する。
【0043】
デバイス層313は、公知の各種の成膜技術を用いて形成することができる。デバイス層313の形成方法については説明を省略する。この発明にかかる製造方法により、SOIウエハ314を用いて製造される時計部品は、デバイス層313に形成される。すなわち、この発明にかかる実施の形態のひげぜんまい108は、後述する製造方法によって製造することによりデバイス層313の一部によって実現される。
【0044】
つぎに、図3Bに示すように、デバイス層313の表側面に酸化膜321を成膜する。酸化膜321は、デバイス層313の表側面の全面にわたって成膜する。酸化膜321は、たとえば、上記の中間層312と同様に、二酸化ケイ素(SiO2)によって形成することができる。
【0045】
つぎに、酸化膜321の表側面(すなわち、酸化膜321におけるデバイス層313とは反対側の面)に、レジストパタニングをおこなう。レジストパタニングに際しては、まず、酸化膜321の表側面に、フォトレジストを塗布する。つぎに、酸化膜321を、当該酸化膜321の表側面から、ひげぜんまい108の形状に基づいたパタン状に露光する。そして、露光をおこなった後のSOIウエハ314を現像液によって処理して、不要なフォトレジストを除去する。これによって、図3Cに示すように、デバイス層313の表側面に、ひげぜんまい108の形状に基づいたマスク331を形成することができる。この実施の形態1においては、マスク331によって、この発明にかかる「エッチング加工に用いるマスク」を実現することができる。
【0046】
レジストパタニングに際して用いるフォトレジストは、光(あるいは電子線など)に露光されることによって現像液に対する溶解性などの物性が変化する感光性の物質であって、たとえば、露光されることによって現像液に対して溶解性が増大するポジ型のフォトレジストを用いることができる。あるいは、レジストパタニングに際しては、ポジ型のフォトレジストに代えて、たとえば、露光されることによって現像液に対して溶解性が低下するネガ型のフォトレジストを用いてもよい。
【0047】
露光パタンは、ポジ型のフォトレジストを用いる場合と、ネガ型のフォトレジストを用いる場合と、によって異なる。ポジ型のフォトレジストを用いる場合の露光パタンと、ネガ型のフォトレジストを用いる場合の露光パタンとは、露光位置が反転した関係にある。レジストパタニングにかかる一連の処理については、公知の技術を用いて容易に実現可能であるため説明を省略する。上記のようにフォトリソグラフィ技術を用いることにより、マスク331を高精度に形成することができる。
【0048】
具体的に、マスク331は、部品パタンと、細溝パタンと、によって構成される。部品パタンは、製造対象とする時計部品(この実施の形態においては、ひげぜんまい108)の外形状に応じたパタン形状をなしている。マスク331の形成に際して、たとえば、ポジ型のフォトレジストを用いる場合、マスク331における部品パタンは、デバイス層313のうち、ひげぜんまい108として取り出す部分を覆うように設けられ、残余の部分は第1の開口として開口している。
【0049】
ひげぜんまい108にかかるマスク331の場合、部品パタンは、旋回部201がなすコイル形状に応じて、中心から外周方向に向かって渦を巻いたコイル形状をなす。このため、中心を通り直径方向に沿って切断した場合のマスク331の断面は、当該直径方向に沿って複数の部品パタンが所定の間隔を空けて配置された状態となる。後述するデバイスエッチングに際しては、デバイス層313のうち、部品パタンによって覆われた部分が製造対象とする時計部品(ひげぜんまい108)として残り、部品パタンによって覆われていない部分が除去される。
【0050】
細溝パタンは、部品パタン内に配置され、SOIウエハ314の板厚方向に沿って部品パタンを貫通するスリット331aによって構成される。細溝パタンを構成するスリット331aの幅方向の寸法は、マスク331における部品パタンによって覆われていない部分(デバイスエッチングに際して除去される部分)がなす開口よりも小さい。
【0051】
この実施の形態1においては、細溝パタンがなすスリット331aによって、この発明にかかる第2の開口を実現することができる。また、この実施の形態1においては、酸化膜321の表側面にマスク331を形成するレジストパタニングによって、この発明にかかる時計部品の製造方法におけるマスク形成工程を実現することができる。
【0052】
つぎに、酸化膜エッチングをおこなう。酸化膜エッチングは、マスク331を用いた、酸化膜321に対するエッチング加工によって実現される。この酸化膜エッチングにより、図3Dに示すように、酸化膜321のうちマスク331によって覆われていない部分が除去され、酸化膜321の一部がマスク331の形状に応じた形状に加工される。すなわち、酸化膜321は、部品パタンと細溝パタン(スリット331a)とからなるマスク331と同じ形状に加工される。
【0053】
つぎに、デバイスエッチングをおこなう。デバイスエッチングは、マスク331の形状に応じた形状に加工された酸化膜321および当該酸化膜321に積層されたマスク331を用いた、デバイス層313に対するエッチング加工によって実現される。
【0054】
上記のレジストパタニングおよび酸化膜エッチングにより、デバイス層313の表面側には、部品パタンと細溝パタンとからなるマスク331および当該マスク331と同じ形状に加工された酸化膜321が設けられている。このため、デバイスエッチングをおこなうことにより、デバイス層313のうち酸化膜321およびマスク331によって覆われていない部分が除去される。
【0055】
このデバイスエッチングにより、図3Eに示すように、デバイス層313を、酸化膜321およびマスク331の形状に応じた形状に加工することができる。ひげぜんまい108の旋回部201となる部分は、ひげぜんまい108の直径方向において、溝351によって隣り合う旋回部201と分離されている。
【0056】
デバイスエッチングは、エッチングガスなどの反応性の気体、イオン、ラジカルなどによって材料をエッチングするドライエッチング加工によって実現することができる。上記のように、フォトリソグラフィ技術を用いて高精度に形成されたマスク331および当該マスク331によって加工された酸化膜321を用いてデバイスエッチングをおこなうことにより、デバイス層313を、ひげぜんまい108の形状にしたがって高精度に加工することができる。
【0057】
デバイスエッチングは、ドライエッチング加工の一つである反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)が好ましく、深掘りRIE技術によるドライエッチング加工によって実現することがより好ましい。デバイス層313に対するエッチング加工を、深掘りRIE技術によるドライエッチング加工によって実現することにより、高い精度での微細加工をおこなうことができる。具体的には、この実施の形態の時計部品の製造方法においては、たとえば、SF6(六フッ化硫黄)とC4F8(八フッ化シクロブタン)との混合ガス(SF6+C4F8)を用いて、デバイス層313を深掘りRIE技術でドライエッチングする。
【0058】
反応性イオンエッチングは、ドライエッチングに分類される微細加工技術の一つであり、反応室内でエッチングガスに電磁波などを与えプラズマ化するとともに、試料が載置される陰極に高周波電圧を印加することにより試料とプラズマの間に自己バイアス電位を生じさせ、この自己バイアス電位によってプラズマ中のイオン種やラジカル種を試料方向に加速して衝突させ、イオンによるスパッタリングと、エッチングガスの化学反応とを同時に生じさせることによって試料の加工をおこなう。深掘りRIE(Deep Reactive Ion Etching)は、反応性イオンエッチング(RIE)の一つであり、狭く深い範囲のエッチング加工、すなわち、アスペクト比の高いエッチング加工をおこなうことができる。この実施の形態1においては、マスク331を用いた酸化膜エッチング、および、その後のデバイスエッチングをおこなう工程によって、この発明にかかるエッチング工程を実現することができる。
【0059】
上記のように、マスク331における細溝パタンの幅方向の寸法は、部品パタンによって覆われていない部分(デバイスエッチングに際して除去される部分)がなす開口よりも小さいため、デバイス層313に対するデバイスエッチングは、部品パタンによるエッチングの方が細溝パタンによる部分よりも進行が早い。このため、デバイス層313のうち細溝パタンに対応する部分は、部品パタンによるエッチングがデバイス層313を貫通するまで進行した時点においてもデバイス層313を貫通しない。
【0060】
これにより、デバイス層313のうち、時計部品(ひげぜんまい108)として残る部分には、細溝パタン(スリット331a)の形状に応じた細溝205が形成される。このとき、ひげぜんまい108の旋回部201となる部分は、ひげぜんまい108の直径方向において、溝351によって隣り合う旋回部201と分離される。そして、デバイスエッチングをおこなった後のSOIウエハ314から、マスク331を除去(剥離)する。マスク331は公知の各種の方法によって容易に除去可能であるため、マスク331の除去方法や除去手順などについては説明を省略する。
【0061】
つぎに、図3Fに示すように、細溝205内に温度補償材料を埋め込むことによって温度補償部材204を形成する。温度補償部材204は、具体的には、細溝205にSiO2を埋め込むことによって形成することができる。細溝205へのSiO2の埋め込みは、たとえば、マスク331を除去(剥離)した後のSOIウエハ314(支持層311)を熱酸化することによって実現できる。
【0062】
細溝205へのSiO2の埋め込みを熱酸化によって実現する場合、SiO2は、細溝205内のほか、Siが露出している部分にも形成される。具体的には、デバイスエッチングをおこなった後のSOIウエハ314(支持層311)の熱酸化により、デバイスエッチングにより露出した部分(溝351の側面351aや底面351b)にSiO2からなる酸化膜361が形成されたり、支持層311の裏側面などにSiO2からなる裏面酸化膜362が形成される。
【0063】
つぎに、支持層311の裏側面(裏面酸化膜362の裏側面)に、図3Gに示すように、マスク371を形成する。マスク371の形成は、たとえば、上記のマスク331にかかるレジストパタニングと同様にして、支持層311の裏側面にフォトレジストを塗布し、当該フォトレジストをひげぜんまい108となる部分の裏面側を開放するパタン状に露光した後に不要なフォトレジストおよび裏面酸化膜362を除去することによっておこなうことができる。
【0064】
つぎに、支持層311側からのエッチングをおこなう。支持層311側からのエッチングは、マスク371を用いた、支持層311に対するエッチング加工によって実現される。支持層311側からのエッチングは、支持層311のうちマスク371によって覆われていない部分が板厚方向に貫通し、中間層312が露出するまでおこなう。
【0065】
上記のように、支持層311はデバイス層313と同様にシリコンからなるため、支持層311側からのエッチングは、デバイスエッチングと同様に、SF6(六フッ化硫黄)とC4F8(八フッ化シクロブタン)との混合ガス(SF6+C4F8)を用いた深掘りRIE技術によるドライエッチングによって実現することができる。この支持層311側からのエッチングにより、支持層311は、図3Hに示すように、マスク371の形状に応じた形状に加工される。
【0066】
つぎに、支持層311側からのエッチングをおこなった後のSOIウエハ314から、酸化膜321、酸化膜361および中間層312を除去する。酸化膜321、酸化膜361および中間層312は、ウエットエッチングをおこなうことによって除去することができる。酸化膜321、酸化膜361および中間層312は、具体的には、たとえば、フッ酸を用いたウエットエッチングをおこなうことによって除去することができる。この場合、支持層311やデバイス層313がレジストとして機能する。
【0067】
ウエットエッチングに際しては、支持層311側からのエッチングをおこなった後のSOIウエハ314においてSiO2からなる部分(酸化膜321、酸化膜361および中間層312)のうち、エッチング液に接触している部分から除去される。細溝205内に埋め込まれた温度補償部材204もエッチング液に接触しているため、一部がエッチングされて除去されるが、細溝205の深さに対する開口部分の面積が小さいため、温度補償部材204の厚さ(細溝205の深さ)に対してエッチング液に接触している部分の面積が小さく、細溝205内にエッチング液が回り込むことがない。
【0068】
これにより、酸化膜321、酸化膜361および中間層312を除去するまでエッチングをおこなっても、図3Iに示すように、温度補償部材204を細溝205から除去することなく細溝205内に残すことができる。この実施の形態1においては、熱酸化により細溝205へSiO2を埋め込む工程から、ウエットエッチングにより酸化膜321、酸化膜361および中間層312を除去するまでの一連の工程によって、この発明にかかる温度補償部材形成工程を実現することができる。
【0069】
最後に、SOIウエハ314から、ひげぜんまい108として成形された部分をもぎ取って、ひげぜんまい108を製造する。ひげぜんまい108として成形された部分は、SOIウエハ314に対して、ひげ持203の先端部分で接続しているため、たとえば、ピンセット(図示を省略する)などの器具を用いて、引っ張ることによってSOIウエハ314からもぎ取ることができる。上述したような一連の製造工程を経ることによって、ひげぜんまい108を製造することができる。
【0070】
上述した実施の形態1においては、ひげぜんまい108の巻き方向に沿って連続した渦巻きを形成する温度補償部材204を、旋回部201の幅方向における中央に設けた例について説明したが、温度補償部材204は、上記の配置例にしたがって設けられるものに限らない。以下に、温度補償部材204の別の配置例を示す。
【0071】
(温度補償部材204の配置例)
図4A図4Kは、温度補償部材204の配置例を示す説明図である。図4A図4Kの(a)においては、ひげぜんまい108の旋回部201のうちの一部を図2Bと同様に拡大して示している。図4A図4Kの(b)においては、各図の(a)において点線で囲まれた領域BのA−A’断面を拡大して示している。
【0072】
温度補償部材204は、たとえば、旋回部201の幅方向の中央に設けた図2Bの例に代えて、旋回部201の幅方向における内周側あるいは外周側に片寄せして設けてもよい(図4Aを参照)。すなわち、温度補償部材204は、図4Aに示したように、旋回部201の幅方向における内周側に偏らせる形態に代えて、旋回部201の幅方向における外周側に偏らせる形態としてもよい。あるいは、たとえば、ひげぜんまい108の巻き方向に沿った形状で連続した渦巻きを形成する温度補償部材204を、旋回部201の幅方向に沿って複数設けてもよい(図4Bを参照)。
【0073】
また、温度補償部材204は、ひげぜんまい108の巻き方向に沿った形状で連続した渦巻きを形成する配置パタンに限るものではなく、たとえば、ひげぜんまい108の巻き方向に沿って断続的に連なった列を形成するように複数設けてもよい(図4Cを参照)。あるいは、たとえば、ひげぜんまい108の巻き方向に沿って断続的に連なる複数の温度補償部材204からなる列を、旋回部201の幅方向に沿って複数千鳥状に設けてもよい(図4Dを参照)。
【0074】
また、温度補償部材204は、ひげぜんまい108の巻き方向に沿った形状の略直線ないし曲線形状(略円弧形状)に限るものではない。たとえば、ひげぜんまい108の巻き方向(略円弧形状)に対して湾曲あるいは屈曲した波形をなす温度補償部材204が、ひげぜんまい108の巻き方向に沿って連続するように設けてもよい(図4Eおよび図4Fを参照)。さらに、たとえば、略「コ」の字のような矩形状(あるいは略「U」字形状)の温度補償部材204を、開口部分が対向あるいは斜向かいに対向するように配置し、かつ、対向あるいは斜向かいに対向する温度補償部材204の組が、ひげぜんまい108の長さ方向に沿って連なるように配置してもよい。
【0075】
また、温度補償部材204は、ひげぜんまい108の表面において交差するように複数設けられていてもよい(図4Gおよび図4Hを参照)。さらに、温度補償部材204は、ひげぜんまい108の幅方向を長手方向として、ひげぜんまい108の巻き方向に沿って複数設けられていてもよい。この場合、複数の温度補償部材204は、直線状であってもよく(図4Iを参照)、屈曲あるいは湾曲した形状であってもよい(図4Jを参照)。
【0076】
また、温度補償部材204は、ひげぜんまい108の一面(表側面あるいは裏側面)に設けられているものに限るものではない。ひげぜんまい108の表側面および裏側面に設けられていてもよい。具体的には、たとえば、上述した図4A図4Jに示したパタンの温度補償部材204を、ひげぜんまい108の表側面に加えて、ひげぜんまい108の裏側面にも設けてもよい。
【0077】
温度補償部材204をひげぜんまい108の表側面および裏側面に設ける場合、表側面における温度補償部材204の位置と裏側面における温度補償部材204の位置とは、重複していてもよく(図4Kを参照)、異なる位置に設けられていてもよい。具体的には、たとえば、表側面における温度補償部材204の位置と裏側面における温度補償部材204の位置とが重ならない(たとえば、互い違いになる)ように設けることができる。
【0078】
ひげぜんまい108の表側面に温度補償部材204を設ける場合にも、ひげぜんまい108の裏側面に温度補償部材204を設ける場合にも、温度補償部材204が形成される細溝205の深さ方向は、SOIウエハ314の厚さ方向と平行であってもよく、当該厚さ方向に対して傾斜していてもよい。深さ方向が、SOIウエハ314の厚さ方向に対して傾斜した細溝205は、たとえば、異方性エッチングなど公知の技術を用いて形成することができる。ひげぜんまい108の裏側面に温度補償部材204を設ける場合、SOIウエハ314のデバイス層313の表側面に細溝205を形成する上記の方法と同様に、デバイス層313の裏側面にデバイスエッチングをおこなう。
【0079】
(実施の形態2)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態2においては、上述した実施の形態1と同一部分については同一符号で示し、説明を省略する。図5A図5Dは、この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。
【0080】
実施の形態2の製造方法においては、まず、上述した実施の形態1の製造方法における図3A図3Eと同様の工程をおこなって、デバイス層313を、酸化膜321およびマスク331の形状(ひげぜんまい108の形状)に応じた形状に加工する。そして、デバイスエッチングをおこなった後のSOIウエハ314から、酸化膜321およびマスク331を除去(剥離)する。酸化膜321およびマスク331は公知の各種の方法によって容易に除去可能であるため、マスク321の除去方法や除去手順などについては説明を省略する。
【0081】
つぎに、酸化膜321およびマスク331を除去したSOIウエハ314の表側面に対して、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長法、化学蒸着法)によりSiO2を堆積させる。CVDによるSiO2の堆積は、SOIウエハ314を加熱し、SiO2をガスにした状態で、加熱されたSOIウエハ314の表面において化学反応を生じさせることによっておこなう。
【0082】
ガスの状態にされたSiO2は分子が細かくなるため、細溝205内にも入り込む。これにより、図5Aに示すように、細溝205内を含むSOIウエハ314の表側面の全体にSiO2を堆積させることができ、細溝205内にSiO2を埋め込むことができる。堆積させたSiO2による層511は、SOIウエハ314の表側面の全体、すなわち、デバイスエッチングにより露出した部分(溝351の側面351aや底面351b)を覆うように設けられる。
【0083】
つぎに、支持層311の裏側面に、図5Bに示すように、マスク521を形成する。マスク521の形成は、たとえば、上述した実施の形態1におけるマスク371の形成と同様にして、支持層311の裏側面にフォトレジストを塗布し、当該フォトレジストをひげぜんまい108の裏面側を開放するパタン状に露光した後に不要なフォトレジストを除去することによっておこなうことができる。
【0084】
つぎに、マスク521を用いた支持層311側からのエッチングをおこなう。支持層311側からのエッチングは、支持層311のうちマスク371によって覆われていない部分が板厚方向に貫通し、中間層312が露出するまでおこなう。支持層311側からのエッチングは、上述した実施の形態1における支持層311側からのエッチングと同様に、SF6(六フッ化硫黄)とC4F8(八フッ化シクロブタン)との混合ガス(SF6+C4F8)を用いた深掘りRIE技術によるドライエッチングによって実現することができる。この支持層311側からのエッチングにより、支持層311は、図5Cに示すように、マスク521の形状に応じた形状に加工される。
【0085】
つぎに、支持層311側からのエッチングをおこなった後のSOIウエハ314から、堆積させたSiO2による層511および中間層312を除去する。堆積させたSiO2による層511および中間層312は、上述した実施の形態1における酸化膜321、酸化膜361および中間層312の除去と同様にして、フッ酸を用いたウエットエッチングをおこなうことによって除去することができる。
【0086】
ウエットエッチングに際しては、支持層311側からのエッチングをおこなった後のSOIウエハ314においてSiO2からなる部分(堆積させたSiO2による層511および中間層312)のうち、エッチング液に接触している部分から除去される。このため、エッチング液に浸漬させる時間を調整するなどして、デバイス層313の表側面が露出するタイミングでウエットエッチングを停止することにより、図5Dに示すように、温度補償部材204を細溝205から除去することなく細溝205内に残した状態で、堆積させたSiO2のうち、細溝205内のSiO2(温度補償部材204)以外を除去することができる。
【0087】
さらに、細溝205の深さに対する開口部分の面積が小さいため、デバイス層313の表側面が露出するまでウエットエッチングをおこなった場合にも、温度補償部材204の厚さ(細溝205の深さ)に対してエッチング液に接触している部分の面積が小さく、細溝205内にエッチング液が回り込むことがない。
【0088】
これにより、堆積させたSiO2による層511および中間層312を除去するまでエッチングをおこなっても、温度補償部材204は細溝205から除去されることなく細溝205内に残る。この実施の形態2においては、CVDにより細溝205へSiO2を堆積させる工程から、ウエットエッチングにより堆積させたSiO2による層511および中間層312を除去するまでの一連の工程によって、この発明にかかる温度補償部材形成工程を実現することができる。
【0089】
最後に、SOIウエハ314から、ピンセット(図示を省略する)などの器具を用いてひげぜんまい108として成形された部分をもぎ取って、ひげぜんまい108を製造する。
【0090】
(実施の形態3)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態3においては、上述した各実施の形態と同一部分は同一符号で示し説明を省略する。図6A図6Iは、この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。
【0091】
実施の形態3の製造方法においては、図6Aに示すシリコン製のシリコン単結晶基板(Siウエハ)611を用いて、当該Siウエハ611の表側面に、図6Bに示すように、マスク用の表面酸化膜621を形成する。表面酸化膜621は、たとえば、Siウエハ611の表側面を熱酸化することによって形成することができる。
【0092】
つぎに、表面酸化膜621の表側面に、レジストパタニングをおこなって、図6Cに示すように、マスク631を形成する。マスク631は、上述した各実施の形態と同様にして、表面酸化膜621の表側面に塗布したフォトレジストを、ひげぜんまい108の形状に基づいたパタン状に露光した後、当該露光をおこなった後のSiウエハ611を現像液によって処理して不要なフォトレジストを除去することによって形成することができる。
【0093】
この実施の形態3においては、マスク631によって、この発明にかかる「エッチング加工に用いるマスク」を実現することができる。また、この実施の形態3においては、表面酸化膜621の表側面にマスク631を形成するレジストパタニングによって、この発明にかかる時計部品の製造方法におけるマスク形成工程を実現することができる。
【0094】
つぎに、酸化膜エッチングをおこなう。酸化膜エッチングは、マスク631を用いた、表面酸化膜621に対するエッチング加工によって実現される。この酸化膜エッチングは、上述した各実施の形態における酸化膜エッチングと同様にしておこなう。
【0095】
これにより、図6Dに示すように、表面酸化膜621のうちマスク631によって覆われていない部分が除去され、表面酸化膜621の一部がマスク631の形状に応じた形状に加工される。すなわち、表面酸化膜621は、部品パタンと細溝パタンとからなるマスク631と同じ形状に加工される。
【0096】
つぎに、デバイスエッチングをおこなう。デバイスエッチングは、マスク631の形状に応じた形状に加工された表面酸化膜621および当該表面酸化膜621に積層されたマスク631を用いた、深掘りRIE技術によるSiウエハ611のエッチング加工によって実現することができる。この実施の形態3においては、マスク631を用いた酸化膜エッチング、および、その後の酸化膜エッチングおよびデバイスエッチングをおこなう工程によって、この発明にかかるエッチング工程を実現することができる。
【0097】
マスク631において、細溝パタンがなすスリットの幅方向の寸法は、マスクにおける部品パタンによって覆われていない部分がなす開口よりも小さいため、デバイスエッチングに際しては、マスク631における部品パタンによって覆われていない部分の方が、細溝パタンの部分よりもエッチングが進行し、細溝パタンの部分よりも深くエッチングされる。
【0098】
このデバイスエッチングにより、ひげぜんまい108の旋回部201となる部分は、図6Eに示すように、ひげぜんまい108の直径方向において、溝651によって隣り合う旋回部201と分離される。また、このデバイスエッチングにより、図6Eに示すように、デバイス層313のうち、時計部品(ひげぜんまい108)として残る部分には、細溝パタンの形状に応じた細溝205が形成される。
【0099】
つぎに、デバイスエッチングをおこなった後のSiウエハ611から、上述した各実施の形態と同様にして、マスク631を除去(剥離)する。マスク631は公知の各種の方法によって容易に除去可能であるため、マスク631の除去方法や除去手順などについては説明を省略する。
【0100】
その後、図6Fに示すように、細溝205内に、温度補償部材204となる温度補償材料を埋め込む。これにより、温度補償部材204を形成することができる。温度補償部材204は、具体的には、細溝205にSiO2を埋め込むことによって形成することができる。細溝205へのSiO2の埋め込みは、たとえば、上述した実施の形態1と同様にして、マスク631を除去(剥離)した後のSiウエハ611を熱酸化することによって実現できる。
【0101】
細溝205へのSiO2の埋め込みを熱酸化によって実現する場合、SiO2は、細溝205内のほか、Siが露出している部分にも形成される。具体的には、デバイスエッチングをおこなった後のSiウエハ611の熱酸化により、デバイスエッチングにより露出した部分(溝651の側面651aや底面651b)にSiO2からなる酸化膜661が形成されたり、Siウエハ611の裏側面などにSiO2からなる裏面酸化膜662が形成される。
【0102】
つぎに、Siウエハ611の裏側面(裏面酸化膜662の裏側面)に、図6Gに示すように、マスク671を形成する。マスク671は、上述した実施の形態1と同様にして形成することができる。そして、マスク671を用いてSiウエハ611の裏側面からのエッチングをおこなう。Siウエハ611の裏側面からのエッチングは、マスク671を用いた、Siウエハ611の裏側面に対するエッチング加工によって実現される。
【0103】
具体的に、Siウエハ611の裏側面からのエッチングは、上述した実施の形態1と同様に、SF6(六フッ化硫黄)とC4F8(八フッ化シクロブタン)との混合ガス(SF6+C4F8)を用いた深掘りRIE技術によるドライエッチングによって実現することができる。Siウエハ611の裏側面からのエッチングは、Siウエハ611のうちマスク671によって覆われていない部分が板厚方向に貫通し、酸化膜661が露出するまでおこなう。このSiウエハ611の裏側面からのエッチングにより、Siウエハ611は、図6Hに示すように、マスク671の形状に応じた形状に加工される。
【0104】
つぎに、Siウエハ611の裏側面からのエッチングをおこなった後のSiウエハ611から、表面酸化膜621および酸化膜661を除去する。表面酸化膜621および酸化膜661は、上述した実施の形態1と同様に、フッ酸を用いたウエットエッチングをおこなうことによって除去することができる。
【0105】
ウエットエッチングに際しては、SiO2からなる部分(表面酸化膜621および酸化膜661)のうち、エッチング液に接触している部分から除去される。このため、細溝205内に埋め込まれた温度補償部材204も、エッチング液に接触している部分がエッチングされて一部が除去されるが、細溝205の深さに対する開口部分の面積が小さいため、温度補償部材204の厚さ(細溝205の深さ)に対してエッチング液に接触している部分の面積が小さく、細溝205内にエッチング液が回り込むことがない。
【0106】
これにより、表面酸化膜621および酸化膜661を除去するまでエッチングをおこなっても、図6Iに示すように、温度補償部材204は細溝205から除去されることなく細溝205内に残る。この実施の形態3においては、熱酸化により細溝205へSiO2を埋め込む工程から、ウエットエッチングにより表面酸化膜621および酸化膜661を除去するまでの一連の工程によって、この発明にかかる温度補償部材形成工程を実現することができる。
【0107】
最後に、Siウエハ611から、ピンセット(図示を省略する)などの器具を用いてひげぜんまい108として成形された部分をもぎ取って、ひげぜんまい108を製造する。
【0108】
(実施の形態4)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態4の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態4においては、上述した各実施の形態と同一部分は同一符号で示し説明を省略する。
【0109】
図7A図7Dは、この発明にかかる実施の形態4の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。実施の形態4の製造方法においては、まず、上述した実施の形態3の製造方法における図6A図6Eと同様の工程をおこなって、部分パタンと細溝パタンとに応じた深さにエッチングされるように、Siウエハ611に対してデバイスエッチングをおこなう。
【0110】
デバイスエッチングに際しては、マスク631における部品パタンによって覆われていない部分の方が、細溝パタンの部分よりもエッチングが進行し、細溝パタンの部分よりも深くエッチングされる。ひげぜんまい108の旋回部201となる部分は、ひげぜんまい108の直径方向において、溝651によって隣り合う旋回部201と分離される。
【0111】
また、デバイスエッチングにより、デバイス層313のうち、時計部品(ひげぜんまい108)として残る部分には、細溝パタンの形状に応じた細溝205が形成される。そして、デバイスエッチングをおこなった後のSiウエハ611から、上述した各実施の形態と同様にして、マスク631を除去(剥離)する。
【0112】
つぎに、マスク631を除去したSiウエハ611の表側面に対して、上述した実施の形態2と同様にして、CVDによりSiO2を堆積させる。ガスの状態にされたSiO2は、分子が細かくなるため、細溝205内にも入り込む。これにより、図7Aに示すように、細溝205内を含むSiウエハ611の表側面の全体にSiO2を堆積させることができ、細溝205内に温度補償部材204となるSiO2を埋め込む。これにより、温度補償部材204を形成することができる。堆積させたSiO2による層711は、Siウエハ611の表側面の全体、すなわち、デバイスエッチングにより露出した部分(溝651の側面651aや底面651b)を覆うように設けられる。
【0113】
つぎに、Siウエハ611の裏側面に、図7Bに示すように、マスク721を形成する。マスク721の形成は、たとえば、上述した各実施の形態におけるマスク(マスク371など)の形成と同様にして、Siウエハ611の裏側面にフォトレジストを塗布し、当該フォトレジストをひげぜんまい108の裏面側を開放するパタン状に露光した後に不要なフォトレジストを除去することによっておこなうことができる。
【0114】
つぎに、マスク721を用いたSiウエハ611の裏側面からのエッチングをおこなう。Siウエハ611の裏側面からのエッチングは、Siウエハ611の裏側面のうちマスク721によって覆われていない部分が板厚方向に貫通し、中間層312が露出するまでおこなう。Siウエハ611の裏側面からのエッチングは、上述した実施の形態1における支持層311側からのエッチングと同様に、SF6(六フッ化硫黄)とC4F8(八フッ化シクロブタン)との混合ガス(SF6+C4F8)を用いた深掘りRIE技術によるドライエッチングによって実現することができる。このSiウエハ611の裏側面からのエッチングにより、Siウエハ611は、図7Cに示すように、マスク721の形状に応じた形状に加工される。
【0115】
つぎに、Siウエハ611の裏側面からのエッチングをおこなった後のSiウエハ611から、堆積させたSiO2による層711を除去する。堆積させたSiO2による層711は、上述した実施の形態1における酸化膜321、酸化膜361および中間層312の除去と同様にして、フッ酸を用いたウエットエッチングをおこなうことによって除去することができる。
【0116】
ウエットエッチングに際しては、Siウエハ611の裏側面からのエッチングをおこなった後のSiウエハ611においてSiO2からなる部分(堆積させたSiO2による層711および中間層312)のうち、エッチング液に接触している部分から除去される。このため、エッチング液に浸漬させる時間を調整するなどして、デバイス層313の表側面が露出するタイミングでウエットエッチングを停止することにより、図7Dに示すように、温度補償部材204を細溝205から除去することなく細溝205内に残した状態で、堆積させたSiO2のうち、細溝205内のSiO2(温度補償部材204)以外を除去することができる。
【0117】
この実施の形態4においては、CVDにより細溝205へSiO2を堆積させる工程から、ウエットエッチングにより堆積させたSiO2による層711および中間層312を除去するまでの一連の工程によって、この発明にかかる温度補償部材形成工程を実現することができる。最後に、Siウエハ611から、ピンセット(図示を省略する)などの器具を用いてひげぜんまい108として成形された部分をもぎ取って、ひげぜんまい108を製造する。
【0118】
(実施の形態5)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態5の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態5においては、上述した各実施の形態と同一部分は同一符号で示し説明を省略する。図8A図8Eは、この発明にかかる実施の形態5の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。
【0119】
実施の形態5の製造方法においては、まず、上述した実施の形態3の製造方法における図6A図6Dと同様の工程をおこなって、表面酸化膜621のうちマスク631によって覆われていない部分を除去し、表面酸化膜621の一部をマスク631の形状に応じた形状に加工する。そして、マスク631の形状に応じた形状に加工された表面酸化膜621から、マスク631を除去する。
【0120】
つぎに、図8Aに示すように、マスク631が除去されたSiウエハ611の裏側面のザグリをおこなう。Siウエハ611の裏側面のザグリは、Siウエハ611の裏側面を部分的に研磨することによって実現できる。Siウエハ611の裏側面のザグリに際しては、Siウエハ611のうち、ひげぜんまい108となる部分をSiウエハ611の裏面側から研磨する。
【0121】
Siウエハ611の裏側面のザグリにより、エッチングをおこなった場合と同様に、Siウエハ611を裏側面から任意の形状に加工することができる。Siウエハ611の裏側面のザグリは、ザグリによって残る部分が、製造対象とするひげぜんまい108の厚さと同じになるまでおこなう。
【0122】
つぎに、ザグリによって裏側面から加工されたSiウエハ611に対して、図8Bに示すように、裏側面全体に裏面SiO2層821を形成する。裏面SiO2層821は、Siウエハ611の裏側面に、上述した実施の形態2と同様にして、CVDによりSiO2を堆積させることによって形成することができる。
【0123】
つぎに、マスク631の形状に応じた形状に加工された表面酸化膜621をマスクとして、図8Cに示すように、深掘りRIE技術によるデバイスエッチングをおこない、Siウエハ611を、表面酸化膜621の形状に応じた形状に加工する。そして、図8Dに示すように、細溝205内に温度補償材料を埋め込むことによって温度補償部材204を形成する。温度補償部材204は、具体的には、たとえば、上述した実施の形態1と同様にして、熱酸化により細溝205にSiO2を埋め込むことによって形成することができる。
【0124】
つぎに、細溝205にSiO2を埋め込んだ後のSiウエハ611から、表面酸化膜621および裏面SiO2層821を除去する。表面酸化膜621および裏面SiO2層821は、上述した実施の形態1と同様に、フッ酸を用いたウエットエッチングをおこなうことによって除去することができる。
【0125】
ウエットエッチングに際しては、SiO2からなる部分(表面酸化膜621および裏面SiO2層821)のうち、エッチング液に接触している部分から除去される。このため、細溝205内に埋め込まれた温度補償部材204も、エッチング液に接触している部分がエッチングされて一部が除去されるが、細溝205内に設けられた温度補償部材204については、細溝205の深さに対する開口部分の面積が小さいため、温度補償部材204の厚さ(細溝205の深さ)に対してエッチング液に接触している部分の面積が小さく、細溝205内にエッチング液が回り込むことがない。
【0126】
これにより、表面酸化膜621および裏面SiO2層821を除去するまでエッチングをおこなっても、図8Eに示すように、温度補償部材204を細溝205から除去することなく細溝205内に残すことができる。この実施の形態5においては、熱酸化により細溝205へSiO2を堆積させる工程から、ウエットエッチングにより表面酸化膜621および裏面SiO2層821を除去するまでの一連の工程によって、この発明にかかる温度補償部材形成工程を実現することができる。
【0127】
最後に、Siウエハ611から、ピンセット(図示を省略する)などの器具を用いてひげぜんまい108として成形された部分をもぎ取って、ひげぜんまい108を製造する。
【0128】
(実施の形態6)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態6の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態6においては、上述した各実施の形態と同一部分は同一符号で示し説明を省略する。図9Aおよび図9Bは、この発明にかかる実施の形態6の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。
【0129】
実施の形態5の製造方法においては、まず、上述した実施の形態3の製造方法における図6A図6Dと同様の工程をおこなって、表面酸化膜621のうちマスク631によって覆われていない部分を除去し、表面酸化膜621の一部をマスク631の形状に応じた形状に加工する。
【0130】
つぎに、図8A図8Cと同様の工程をおこなって、Siウエハ611を、表面酸化膜621の形状に応じた形状に加工する。そして、表面酸化膜621の形状に応じた形状に加工されたSiウエハ611の表側面に、図9Aに示すように、CVDによりSiO2を堆積させる。CVDによるSiO2の堆積は、上述した実施の形態2と同様にして、CVDによりSiO2を堆積させることによっておこなうことができる。
【0131】
このとき、Siウエハ611の裏側面には、既に、裏面SiO2層821が形成されているため、表面酸化膜621の形状に応じた形状に加工されたSiウエハ611に対してCVDをおこなうと、当該加工によって形成された溝651の側面651aや底面651bにSiO2が堆積し、堆積させたSiO2による層911が形成される。さらに、細溝205内にもSiO2が入り込み、温度補償部材204を形成することができる。
【0132】
つぎに、上述した各実施の形態と同様に、フッ酸を用いたウエットエッチングをおこない、Siウエハ611においてSiO2からなる部分(堆積させたSiO2による層911および裏面SiO2層821)を除去する。フッ酸を用いたウエットエッチングに際しては、エッチング液に接触している部分が除去されるが、細溝205内に設けられた温度補償部材204については、細溝205の深さに対する開口部分の面積が小さいため、温度補償部材204の厚さ(細溝205の深さ)に対してエッチング液に接触している部分の面積が小さく、細溝205内にエッチング液が回り込むことがない。
【0133】
これにより、堆積させたSiO2による層911および裏面SiO2層821を除去するまでエッチングをおこなっても、図9Bに示すように、温度補償部材204を細溝205から除去することなく細溝205内に残すことができる。この実施の形態6においては、CVDにより細溝205へSiO2を堆積させる工程から、ウエットエッチングにより表面酸化膜621および裏面SiO2層821を除去するまでの一連の工程によって、この発明にかかる温度補償部材形成工程を実現することができる。
【0134】
最後に、Siウエハ611から、ピンセット(図示を省略する)などの器具を用いてひげぜんまい108として成形された部分をもぎ取って、ひげぜんまい108を製造する。
【0135】
以上説明したように、この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法は、SOI基板314におけるデバイス層313またはSiウエハ611にマスク331、631を形成し、当該マスク331、631を用いてデバイス層313またはSiウエハ611に対するエッチング加工をおこない、このエッチング加工によりエッチングされたデバイス層313またはSiウエハ611に形成された細溝205内に、シリコン(Si)の温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償材料を用いて温度補償部材204を形成するようにしたことを特徴としている。
【0136】
この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法によれば、Siの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部材204を設けることにより、強度向上と温度補償性能の確保とを両立させたひげぜんまい108を製造することができる。
【0137】
また、この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法は、二酸化ケイ素(SiO2)を用いて温度補償部材204を形成するようにしたことを特徴としている。
【0138】
この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法によれば、Siのヤング率の温度特性とは逆のヤング率の温度特性を示すSiO2を用いて温度補償部材204を形成することにより、SiO2の温度特性によってSiの温度特性を打ち消し、Siの温度特性を補償することができる。これにより、温度特性に優れ、耐久性に優れたひげぜんまい108を製造することができる。
【0139】
また、この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法は、デバイス層313またはSiウエハ611を熱酸化することにより温度補償部材204を形成するようにしたことを特徴としている。
【0140】
この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法によれば、微細な細溝205内に確実に温度補償部材205を形成することができる。これにより、強度向上と温度補償性能の確保との両立を確実に実現することができる。
【0141】
また、この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法は、デバイス層313またはSiウエハ611に対して化学的気相成長により温度補償部材204を形成するようにしたことを特徴としている。
【0142】
この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法によれば、微細な細溝205内に確実に温度補償部材205を形成することができる。これにより、強度向上と温度補償性能の確保との両立を確実に実現することができる。
【0143】
また、この発明にかかる実施の形態の時計部品は、時計の駆動機構101を構成する時計部品であって、シリコンによって形成され、外表面から内側に凹む細溝205を備えた基材部と、細溝205内に設けられて、シリコンの温度特性とは異なる温度特性を有する温度補償部材204と、を備えたことを特徴としている。
【0144】
この発明にかかる実施の形態の時計部品(ひげぜんまい108)によれば、SiO2の温度特性によってSiの温度特性を打ち消し、Siの温度特性を補償することができる。これにより、ひげぜんまい108の温度特性の向上を図り、耐久性の向上を図ることができる。
【0145】
また、この発明にかかる実施の形態の時計部品は、細溝205が、基材部の表側面および裏側面の少なくとも一方に設けられていることを特徴としている。
【0146】
上述した実施の形態においては、フォトレジストを用いてマスク331やマスク631を形成したが、マスク331、631はフォトレジストに限るものではない。マスク331、631はフォトレジストに代えて、たとえば、メタルマスクを用いてもよい。メタルマスクを用いたエッチング加工については、公知の技術を用いて実現可能であるため説明を省略する。
【0147】
上述した実施の形態においては、支持層311のおもて面側に中間層312およびデバイス層313を順次形成したSOI基板314を用いてひげぜんまい108を製造する例について説明したが、SOIウエハの製造方法はこれに限るものではない。たとえば、2枚のシリコン基板(片方は表面にSiO2膜を形成済)を貼り合わせるウエハ貼り合わせ法(Wafer Bondingやスマートカット法)のように、まずシリコン薄膜を構成した後その表面にSiO2を形成してから、それをシリコン基板に貼り合わせるSeed Method方法などのいずれの製造方法によって製造されたSOIウエハを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0148】
以上のように、この発明にかかる時計部品の製造方法および時計部品は、時計における機械部品を構成する時計部品の製造方法および時計部品に有用であり、特に、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品の製造方法および時計部品に適している。
【符号の説明】
【0149】
108 ひげぜんまい
204 温度補償部材
205 細溝
311 支持層
312 中間層
313 デバイス層
314 SOIウエハ
321 酸化膜
331 マスク
331a スリット
351 溝
611 Siウエハ
621 表面酸化膜
631 マスク
821 裏面SiO2層
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図4I
図4J
図4K
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B