前記混合工程において、タングステン換算したパラタングステン酸アンモニウム100モルに対して、セシウム換算した炭酸セシウムを1〜40モル使用する、請求項1の調製方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.赤外線遮蔽材(セシウムイオンドープ酸化タングステン)
本発明によるセシウムイオンドープ酸化タングステンの調製方法は、炭酸セシウム (Cs
2CO
3)、パラタングステン酸アンモニウム ((NH
4)
10(H
2W
12O
42)・4H
2O)、水を混合する工程;および上記工程で得られた混合物を、加熱還元処理を行う工程を含む。
本発明による調製方法は、セシウム源として炭酸セシウムを用い、タングステン源としてパラタングステン酸アンモニウム ((NH
4)
10(H
2W
12O
42)・4H
2O)を用いることを特徴とする。パラタングステン酸アンモニウムは、従来の調製方法において採用されるタングステン酸よりも水(または熱水)に対する溶解性が高く、セシウム源とタングステン源とが均質な混合した混合物を得やすく、得られたセシウムイオンドープ酸化タングステン微粒子中のセシウムの分散性が高くなるか、微粒子の表面を修飾する官能基が変化すると考えられる。
【0010】
本発明による調製方法は、
炭酸セシウム (Cs
2CO
3)、パラタングステン酸アンモニウム ((NH
4)
10(H
2W
12O
42)・4H
2O)、水を混合する混合工程;
上記工程で得られた混合物を、加熱還元処理して、セシウムイオンドープ酸化タングステンを調製する調製工程;
を含む。
【0011】
前記混合工程において、タングステン換算したパラタングステン酸アンモニウム100モルに対して、セシウム換算した炭酸セシウムを1〜40モル使用する。Cs以外に、本発明の効果を阻害しない限り、Li, Na, K, Rb, Tiなど他の一価金属イオンを含有させてもよい。
【0012】
前記調製工程における加熱還元処理は、還元剤として、3〜8%H
2/N
2混合ガスを用い、500〜1000℃にて1〜5時間行う。
【0013】
2.赤外線遮蔽材を含有するインクジェット用水性インク
本発明の水性インク組成物は、少なくとも、上記の方法により調製された赤外線遮蔽材(セシウムイオンドープ酸化タングステン);水;および浸透剤を含む。
【0014】
インク組成物全量中の赤外線遮蔽材(セシウムイオンドープ酸化タングステン)の含有量は、通常、5%、好ましくは、0.1〜30%の範囲である。
【0015】
本発明に用いる「水」は、主たる水性媒体であり、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等から選択される。
【0016】
本発明に用いる「浸透剤」は、インクを適用する紙媒体などにインクを定着させるために、媒体表面に対するインクの濡れ性および媒体内部への浸透性を向上させるための物質である。浸透剤としては、インクの表面張力を低下させる界面活性剤、エタノールやイソプロパノールなどの低沸点の水溶性有機溶剤などが挙げられる。
これらの浸透剤は、単独で、または、それらのうち2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
本発明の水性インク組成物には、上記以外にも、その使用目的に応じて、さらなる成分を配合することができる。
【0018】
本発明の水性インク組成物には、赤外線遮蔽材の使用目的を阻害しない限り、着色剤を添加することができる。本発明に用いる「着色剤」は、染料または顔料である。染料として水溶性染料が適しており、直接染料、酸性染料、塩基性染料のいずれも用いることができる。直接染料としては、例えば、C.I. Direct Black 17, 19, 22, 32, 38, 51, 71; C.I. Direct Yellow 4, 26, 44, 50; C.I. Direct Red 1, 4, 23, 31, 37, 39, 75, 80, 81, 83, 225, 226, 227; C.I. Direct Blue 1, 15, 71, 86, 106, 119などが挙げられる。酸性染料としては、例えば、C.I. Acid Black 1, 2, 24, 26, 31, 52, 107, 109, 110, 119, 154; C.I. Acid Yellow 7, 17, 19, 23, 25, 29, 38, 42, 49, 61, 72, 78, 110, 127, 135, 141, 142; C.I. Acid Red Direct 8, 9, 14, 18, 26, 27, 35, 37, 51, 52, 57, 82, 87, 92, 94, 115, 129, 131, 186, 249, 254, 265, 276; C.I. Acid Violet 18, 17; C.I. Acid Blue 1, 7, 9, 22, 23, 25, 40, 41, 43, 62, 78, 83, 90, 93, 103, 112, 113, 158; C.I. Acid Green 3, 9, 16, 25, 27などが挙げられる。塩基性染料としては、例えば、C.I. Basic Yellow 1, 2, 21; C.I. Basic Orange 2, 14, 32; C.I. Basic Red 1, 2, 9, 14; C.I. Basic Brown 12; C.I. Basic Black 2, 8; などが挙げられる。
【0019】
顔料は、無機系顔料と有機系顔料に分類される。無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、アルミニウム等の金属微粉末等が挙げられる。また、有機系顔料としては、例えば、アゾ系顔料、アントラキノン系顔料、インジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ニトロ系顔料、ニトロソ系顔料、ペリレンおよびペリノン系顔料、フタロシアニン系顔料等が挙げられる。スチレン系樹脂やアクリル系樹脂等の微小樹脂球を塩基性染料で染色した加工顔料を用いることもできる。
安全性の観点から、直接染料および酸性染料が好ましい。直接染料は耐水性に優れ、酸性染料は発色性に優れる。
これらの着色剤は、単独で、または、それらのうち2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
インクジェット用インク組成物、特に、サーマル式インクジェットプリンターにおいては、加熱によりインクタンク内で気泡を発生させて、細孔から微小な液滴を吐出する観点から、その初期粘度は、1〜10cps程度が一般的であり、粘度が高くなるにつれ、吐出速度が遅くなり、1滴あたりの体積が小さくなる。粘度が低くなると、対象物の表面上でインクが広がり、にじみが生じる。また、初期粘度が低い分、少しの粘度増加でも細孔に目詰まりを起こすため、高い粘度安定性が求められる。例えば、50℃にて2週間の高温保存下、増粘率が0〜10%であることが好ましい。
また、吐出する際の流動性および、対象物の表面上に付着した際の形状安定性の観点から、チクソ性を有する必要がある。
【0021】
赤外線遮蔽材や着色剤を定着させるためやインク組成物の粘度を調整する樹脂成分として、ポリエチレン(PE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン(PP)などのポリアルキレン系樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルホルマール(PVF)、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などのビニル系樹脂;ポリスチレン(PS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)などのポリスチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート(PMMA)、MMA−スチレン共重合体などのアクリル系樹脂;ポリカーボネート(PC);ポリビニルピロリドン;エチルセルロース(EC)、酢酸セルロース(CA)、プロピルセルロース(CP)、酢酸・酪酸セルロース(CAB)、硝酸セルロース(CN)などのセルロース系樹脂;ポリクロロフルオロエチレン(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体(FEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)などのフッ素系樹脂;ウレタン系樹脂(PU);ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11などのナイロン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)などのポリエステル系樹脂が挙げられる。
【0022】
インクにチクソトロピー性を付与するゲル化剤として、ローカストビーンガム、グアーガムおよびその誘導体、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム、グルコマンナンなどの天然ガム組成物;寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する増粘多糖類;カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などのセルロース誘導体;ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルエーテル・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのポリエーテル;ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリカルボン酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0023】
本発明のインクジェット用水性インク組成物には、インクの乾燥による固化を防止するために乾燥防止剤を添加することができる。乾燥防止剤としては、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類;2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;糖類や糖アルコール類;ヒアルロン酸類、炭素数1〜4のアルキルアルコール類;N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
これらの乾燥防止剤は、単独で、または、それらのうち2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
その他、本発明の水性インク組成物には、アルコールアミン類、アンモニウム塩類、金属水酸化物などのpH調整剤;キレート化剤;水溶性顔料分散剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤;酸化防止剤;抗菌剤;防カビ剤などを適宜添加することができる。
【実施例】
【0025】
1.赤外線遮蔽材(セシウムイオンドープ酸化タングステン)
[製造例1]
炭酸セシウム (Cs
2CO
3) 2.6 g、パラタングステン酸アンモニウム ((NH
4)
10(H
2W
12O
42)・4H
2O) 62.6 gを水 1000 gに添加し、加熱して溶解させる。その後、90℃で乾燥させて、析出した混合物を、還元雰囲気(N
2中5%H
2)中600℃にて1時間、加熱還元処理して、CsWO
3 (赤外線遮蔽材A)を調製した。
【0026】
[製造例2]
炭酸セシウム (Cs
2CO
3) 6.5 g、タングステン酸 (H
2WO
4) 25.0 gを水 1000 gに添加し、溶解させる。溶解混合物を、還元雰囲気(N
2中5%H
2)中600℃にて1時間、加熱還元処理して、CsWO
3 (赤外線遮蔽材B)を調製した。
【0027】
2.赤外線遮蔽材を含有するインクジェット用水性インクの調製
[実施例]
表1に示す配合で、赤外線遮蔽材Aを含有するインクジェット用の水性インクAを調製した。
【0028】
【表1】
【0029】
得られた水性インクAの初期粘度は4cpsであった。50℃にて2週間保存後の粘度は4.2cpsであり、高温で保存してもほぼ増粘することがなかった。
【0030】
[比較例]
実施例において、赤外線遮蔽材Aを赤外線遮蔽材Bに変更する以外は、同様にして、インクジェット用の水性インクBを調製した。
得られた水性インクBの初期粘度は4cpsであった。50℃にて2週間保存後の粘度は112cpsとなり、極度に増粘した。