【実施例】
【0038】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔製造例1〕
(化学式(2)で表される化合物の合成)
化学式(2)で表される化合物は、下記スキームに従って合成した。
【0039】
【化6】
上記スキームを参照しつつ化学式(2)で表される化合物の合成手順(1)〜(6)を下記に示す。
【0040】
(1):o−フェニレンジアミン(17.2g、159mmol)に対して1,2,4−トリクロロベンゼン65mLを加え、180℃に加熱することにより、全てのo−フェニレンジアミンを溶解させた。
(2):180℃を保ったまま、(1)で得られた溶液に、ジエチルフェニルマロネート8.6mL(39.8mmol)を15分かけて滴下した。
(3):(2)の滴下終了後、180℃で1時間撹拌を行った。1時間後加熱をやめ自然放冷により、室温まで冷却したところ、褐色固体が析出した。
(4):(3)で得られた褐色固体をクロロホルム300mLで洗浄した後、6M塩酸100mLを加えたところ、固体の一部が溶解した。
(5):(4)で得られた溶解物と、固体との混合物に対して、ろ過操作を行い、ろ液を回収し、そのろ液に対して、5M水酸化ナトリウム水溶液150mLを加えたところ、化学式(2)で表される化合物の白色粉末が析出した。
(6)ろ過操作により、白色粉末を回収し、乾燥させることにより化学式(2)で表される化合物を得た(5.03g、15.5mmol、収率39%)。
【0041】
〔実施例1〕
(化学式(1)で表されるニッケル錯体・ニッケル錯体集積体の合成)
化学式(1)で表されるニッケル錯体は、下記スキームに従って合成した。
【0042】
【化7】
上記スキームを参照しつつ化学式(1)で表されるニッケル錯体の合成手順(1)〜(7)を下記に示す。
【0043】
(スキーム(A)〜(B))
(1)200mLナスフラスコ中に、前記製造例1で得られた化学式(2)で表される化合物を820mg(2.52mmol)はかりとり、エタノール(EtOH)60mLを加えた。
(2)100mLナスフラスコ中に塩化ニッケル六水和物(NiCl
2・6H
2O)を600mg(2.52mmol)はかりとり、エタノール30mLに溶かした。
(3)(2)を(1)に加えた後、55℃で30分撹拌したところ、紫色粉末が析出した。
(4)20分間静置した後、上澄み液を捨て、残った紫色粉末をエタノール10mLで洗浄した。
(5)エバポレーターを用いて乾燥後、得られた紫色粉末を回収した(780mg、1.71mmol)。
【0044】
(スキーム(B)〜(C))
(6)回収した紫色粉末に対して、アセトニトリル(CH
3CN)とジエチルエーテル(Et
2O)混合溶媒(アセトニトリル:ジエチルエーテル=67.5mL:40.5mL)を加えた後、ろ過し、ろ液を冷蔵庫(10℃)で静置したところ、紫色単結晶が析出した。
(7)析出した単結晶を回収し、乾燥後、収量を測定したところ、620mg、1.17mmol、収率47%であった。
なお、上記スキーム中の(C)には2つの水素結合HaおよびHb(化学式(3)および(4)参照)も示してある。
【0045】
上記スキームで得られた(C)は、化学式(1)で表されるニッケル錯体の単結晶、すなわち、ニッケル錯体集積体であり、かつ結晶化溶媒であるジエチルエーテルをとりこんだ状態である。
【0046】
ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体が得られたことは、単結晶X線構造解析により確認した。単結晶X線構造解析の結果から、
図1〜3および
図5右図を作成した。
【0047】
〔実施例2〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例1で得られた紫色単結晶(ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体)の単結晶50mgを真空検体乾燥機に入れ、ULVAC(登録商標)社製真空ポンプG−50DA(到達圧力1.3Pa)を用いて、100℃で14時間、減圧乾燥させた。
【0048】
その結果、ジエチルエーテルを含む単結晶が、ジエチルエーテルを含まない単結晶(ニッケル錯体集積体)へと変換されていることが、単結晶X線構造解析により確認された。単結晶X線構造解析の結果から、
図5左図を作成した。
【0049】
即ち、
図5右図に示されるジエチルエーテルが含まれている状態から、減圧条件下で、100℃、14時間加熱することにより、ジエチルエーテルを取り除ける(
図5左図)ことがわかった。ここで、
図5右図に示される結晶の質量は50mg、
図5左図に示される結晶の質量は44.7mgであった。減圧乾燥の前後で結晶の質量が減少したことも、ジエチルエーテルが取り除かれた根拠となる。
【0050】
〔実施例3〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力1.3Pa、80℃で2時間」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、実施例2と同様に、ジエチルエーテルを脱離することができた。
【0051】
〔実施例4〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力3,000Pa、120℃で2時間」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、実施例2と同様に、ジエチルエーテルを脱離することができた。
【0052】
〔実施例5〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例1と同様の方法で得られた紫色単結晶(ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体)の単結晶50mgをシュレンク管に入れ、窒素ガスを流しながら、160℃で1時間、加熱した。
【0053】
その結果、4.4mgの質量減少が確認され、ジエチルエーテルを含む単結晶が、ジエチルエーテルを含まない単結晶(ニッケル錯体集積体)へと変換された。またこの変換は、単結晶X線構造解析によっても確認された。
【0054】
〔比較例1〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力1.3Pa、50℃で14時間」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、ジエチルエーテルを脱離することができなかった。
【0055】
〔比較例2〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力1.3Pa、80℃で30分」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、ジエチルエーテルを脱離することができなかった。
【0056】
〔比較例3〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力3,000Pa、50℃で7時間」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、ジエチルエーテルを脱離することができなかった。
【0057】
(ジエチルエーテルの脱離に関する検討)
上述したように、実施例2において、減圧乾燥の前後でニッケル錯体集積体(結晶)の質量が50mgから44.7mgへと5.3mgだけ減少した。化学式(1)で表されるニッケル錯体の分子量は453.98、ジエチルエーテル分子の分子量は74.12である。従って、ジエチルエーテルを含む単結晶内において、全ての化学式(1)で表されるニッケル錯体が、1分子あたり、ジエチルエーテルを1分子吸着していた場合には、ジエチルエーテル分子の占める割合は(74.12/(453.98+74.12))×100=14%となる。
【0058】
このため、50mgのジエチルエーテルを含む単結晶において、ジエチルエーテルが占める質量は最大7mgとなる。実施例2の減圧乾燥の条件「到達圧力1.3Pa、100℃で14時間」では、5.3mgの質量減少(最大量の76%(5.3/7×100))が確認できたため、妥当な質量減少であると考えられる。同様に、実施例3の減圧条件「到達圧力1.3Pa、80℃で2時間」では、6.8mg(最大量の97%)、実施例4の減圧条件「到達圧力3,000Pa、120℃で2時間」では、5.4mg(最大量の77%)の質量減少が観測された。実施例2〜4および比較例1〜3の結果をまとめると表1のようになる。ここで「ジエチルエーテルの脱離」項目の可否は、単結晶X線構造解析の結果、ジエチルエーテルを含まない結晶構造が確認された場合を可としている。
【0059】
【表1】
また実施例5記載の通り、減圧することなく、窒素ガス気流下160℃で1時間加熱することによってもジエチルエーテルは取り除くことができることもわかった。
【0060】
〔実施例6〕
(ジエチルエーテル吸着方法(再吸着方法))
図6は、ジエチルエーテルの再吸着実験を説明するための図である。
ジエチルエーテル吸着剤として、実施例2のジエチルエーテル脱離方法が行われたジエチルエーテルを含まない単結晶(ニッケル錯体集積体)を用い、ジエチルエーテルの再吸着実験を行った。
【0061】
図6に示される実験は密閉系かつ、大気圧で行われた。
図6のように、ジエチルエーテルを含まない単結晶(ニッケル錯体集積体)の単結晶20mgを用意して(
図6の中央、正方形で記載)、そこにジエチルエーテルの蒸気を室温で約一晩拡散させるだけで、ジエチルエーテルが吸着された(3.9mgの質量増加)。この単結晶についてX線構造解析を行ったところ、ジエチルエーテルを含む構造として解析することができた。
即ち、大気圧の空気内に含まれる微量のジエチルエーテルでさえ、選択的に取り込む(吸着する)ことができた。
(ジエチルエーテルの吸着(再吸着)に関する検討)
温度については、室温以上ならば再吸着させることができると考えられる。低温の場合は、ジエチルエーテルが蒸気になりにくいと思われる。
【0062】
〔単結晶X線構造解析〕
ニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析は、以下の条件で実施した。
単結晶X線構造解析の測定条件、解析結果は以下に示す通りである。
装置名:R−AXIS RAPID II
製造会社名:株式会社リガク(登録商標)
X線源:Mo−Kα、波長λ=0.71069Å
検出器:上記装置用の湾曲イメージングプレート
測定温度:−150℃
構造解析ソフトウェア:OlexSys Ltdの “Olex
2”
解析結果
【0063】
[実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体のデータ]
結晶としての組成:C
25H
26Cl
2N
4NiO(C
21H
16Cl
2N
4Ni・C
4H
10O)
結晶系:単斜晶系(monoclinic system)
空間群:P2
1/c(#14)
格子定数:
a=10.7785(7)Å
b=14.6846(8)Å
c=15.8321(8)Å
α=90°
β=103.319(7)°
γ=90°
単位格子体積:V=2438.5(3)Å
3
R因子:R
1(I>2σ(I))=0.0514
[実施例2で得られたジエチルエーテルを含まないニッケル錯体集積体のデータ]
結晶としての組成:C
21H
16Cl
2N
4Ni
結晶系:単斜晶系(monoclinic system)
空間群:P2
1/n(#14)
a = 16.270(6)Å
b = 13.049(5)Å
c = 19.811(8)Å
α = 90°
β = 107.132(8)°
γ = 90°
単位格子体積:V=4019(3)Å
3
R因子:R
1(I>2σ(I))=0.1966
ジエチルエーテル分子を含まない単結晶のデータについては、R因子(信頼度因子)の値からみてデータの質にやや難点があるものと思われるものの、構造は確認できた。
【0064】
(実施例に基づく検討)
実施例2〜4の検討より、ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体は、減圧・加熱条件下(減圧乾燥下)で、単結晶性を保持したままジエチルエーテルを取り除くことができる。また、実施例5の検討より、ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体は、常圧・加熱条件下でも、単結晶性を保持したままジエチルエーテルを取り除くことができる。
【0065】
さらに、実施例6の検討より、ニッケル錯体集積体を再びジエチルエーテル蒸気にさらすことにより、単結晶性を保持したままジエチルエーテルを吸着したニッケル錯体集積体を得ることができる。つまり、本発明のジエチルエーテル吸着剤は単結晶状態を維持したまま、ジエチルエーテルの可逆な吸着、脱離を容易に行うことができる(単結晶―単結晶 相転移)。このため、捕捉したジエチルエーテルの再利用も可能である。
【0066】
〔実施例7〕
実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体について、以下の条件で熱重量測定を行った。
熱重量測定は島津製作所製熱重量測定装置 TGA−50を用いて以下のように行った。
【0067】
[昇温速度 20℃/min.の場合]
実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体(5.189mg,9.826μmol)を、アルミニウム製サンプルパンに乗せて試料室に入れ、窒素気流下(50mL/min.)、20℃/min.で昇温し、質量変化を測定した。
【0068】
その結果160℃で12%の質量減少が観測された。サンプル中でジエチルエーテル分子が占める質量の割合は14%であることから、この質量減少はジエチルエーテルの脱離によるものと考えられ、この実験条件では160℃程度、約8分で大部分のジエチルエーテルを脱離できることが分かった。また300℃付近までさらなる質量変化が観測されないことから、ジエチルエーテル吸着剤(ニッケル錯体集積体)は熱的に300℃付近まで安定であることが示唆された。
熱重量分析の結果を
図7(点線)に示す。
【0069】
[昇温速度 5℃/min.の場合]
実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体(6.591mg,12.48μmol)を、アルミニウム製サンプルパンに乗せて試料室に入れ、窒素気流下(50mL/min.)、5℃/min.で昇温し、質量変化を測定した。その結果130℃で12%の質量減少が観測された。この結果より、この実験条件では140℃程度、約25分で大部分のジエチルエーテルを脱離できることが分かった。また昇温速度20℃/min.の場合と同様に、ジエチルエーテル吸着剤(ニッケル錯体集積体)は300℃付近まで熱的に安定であることも示唆された。
熱重量分析の結果を
図7(実線)に示す。
【0070】
〔実施例8〕
実施例1と同様の方法で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体および実施例2と同様の方法で得られたジエチルエーテルを含まないニッケル錯体集積体について、以下の条件でX線回折測定を行った。
X線回折測定はリガク製多目的X線回折装置 SmartLab 2080A202を用いて以下のように行った。
【0071】
まず、実施例1と同様の方法で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体を、メノウ乳鉢ですりつぶした後、ガラス試料板(20×20×0.5mm
3)に入れた。その試料板を試料室に入れ、X線回折測定を行った。その結果を
図8(a)に示す。同様の測定を実施例2と同様の方法で得られたジエチルエーテルを含まないニッケル錯体集積体についてもおこなったところ、
図8(b)に示す結果を得た。両者を比較すると明らかに回折パターンに違いがあった。