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特開2020-75906ニッケル錯体、ニッケル錯体集積体、ジエチルエーテル吸着剤、ジエチルエーテル吸着方法およびジエチルエーテル脱離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-75906(P2020-75906A)
(43)【公開日】2020年5月21日
(54)【発明の名称】ニッケル錯体、ニッケル錯体集積体、ジエチルエーテル吸着剤、ジエチルエーテル吸着方法およびジエチルエーテル脱離方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 235/20 20060101AFI20200424BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20200424BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20200424BHJP
   C07F 15/04 20060101ALN20200424BHJP
【FI】
   C07D235/20
   B01J20/22 A
   B01J20/22 C
   B01J20/34 H
   B01J20/34 Z
   C07F15/04CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-170451(P2019-170451)
(22)【出願日】2019年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2018-178913(P2018-178913)
(32)【優先日】2018年9月25日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成30年10月23日「第8回CSJ化学フェスタ2018」にて発表、その予稿集を平成30年9月26日「https://festa.csj.jp/program_list.php?enty=2018」を通じて発表、平成30年10月30日「International Congress on Pure & Applied Chemistry Langkawi 2018」にて発表、その予稿集を平成30年10月29日「International Congress on Pure & Applied Chemistry Langkawi 2018、予稿集、第261頁、マレーシア化学会」にて発表、平成30年12月8日「弘前大学農学生命科学部公開シンポジウム「地域未利用資源を考えるIN八戸」」にて発表、平成30年12月14日「第2回小山高専−弘前大−長岡技科大合同研究発表会」にて発表、平成31年2月5日「平成30年度弘前大学戦略1プロジェクト研究成果報告会」にて発表、平成31年2月28日「平成30年度弘前大学理工学部物質創成化学科卒業研究発表会」にて発表、その要旨を平成31年2月26日「平成30年度弘前大学理工学部物質創成化学科卒業研究発表会 要旨」にて発表、平成31年3月8日「平成30年度弘前大学機関研究・異分野連携型若手研究支援事業・青森ブランド価値創造研究・グロウカルファンド研究成果発表会」にて発表、その成果集を平成31年3月8日「平成30年度 研究成果集 弘前大学異分野連携型若手研究支援事業 弘前大学グロウカル(Grow×Local)ファンド 弘前大学機関研究、第10頁、編集・発行 弘前大学研究推進部研究推進課」にて発表、平成31年3月16日「日本化学会第99春季年会」にて発表、その予稿集を平成31年3月1日「http://www.csj.jp/nenkai/99haru/」を通じて発表、平成31年3月17日「日本化学会第99春季年会」にて発表、その予稿集を、平成31年3月1日「http://www.csj.jp/nenkai/99haru/」を通じて発表、令和1年5月30日「第68回高分子学会年次大会」にて発表、その予稿集を、令和1年5月14日「http://main.spsj.or.jp/nenkai.html」を通じて発表、令和1年8月9日「化学系学協会東北大会予稿集
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】太田 俊
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 由理香
【テーマコード(参考)】
4G066
4H050
【Fターム(参考)】
4G066AB10B
4G066AB12B
4G066AB24B
4G066BA32
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA56
4G066DA01
4G066DA07
4G066GA01
4G066GA31
4G066GA32
4G066GA33
4G066GA40
4H050AA01
4H050AB80
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガス吸着に比較的大きな圧力を必要とせず、ジエチルエーテルを捕捉することが可能なジエチルエーテル吸着剤、該ジエチルエーテル吸着剤を用いたジエチルエーテル吸着方法およびジエチルエーテル脱離方法の提供。
【解決手段】ニッケルを中心として、2つの塩素原子が結合し、かつ2つのベンゾイミダゾリル基が配位したニッケル錯体であって、前記2つのベンゾイミダゾリル基が炭素原子を介して連結されたものであり、好ましくは下記化学式(1)で表される。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを中心として、2つの塩素原子が結合し、かつ2つのベンゾイミダゾリル基が配位したニッケル錯体であって、前記2つのベンゾイミダゾリル基が炭素原子を介して連結された、ニッケル錯体。
【請求項2】
下記化学式(1)で表されるニッケル錯体。
【化1】
【請求項3】
請求項1または2に記載のニッケル錯体が複数集積化した、ニッケル錯体集積体。
【請求項4】
ニッケル錯体を構成するベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子と、別のニッケル錯体を構成する塩素原子との水素結合により集積化した、請求項3に記載のニッケル錯体集積体。
【請求項5】
請求項3または4に記載のニッケル錯体集積体から構成される、ジエチルエーテル吸着剤。
【請求項6】
ニッケル錯体を構成するベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子と、ジエチルエーテルを構成する酸素原子との水素結合によりジエチルエーテルの吸着を行う、請求項5に記載のジエチルエーテル吸着剤。
【請求項7】
請求項5または6に記載のジエチルエーテル吸着剤を用いてジエチルエーテルを吸着する、ジエチルエーテル吸着方法。
【請求項8】
請求項5または6に記載のジエチルエーテル吸着剤に吸着されたジエチルエーテルを、加熱することにより脱離する、ジエチルエーテル脱離方法。
【請求項9】
請求項5または6に記載のジエチルエーテル吸着剤に吸着されたジエチルエーテルを、減圧乾燥させることにより脱離する、ジエチルエーテル脱離方法。
【請求項10】
前記減圧乾燥が、圧力が0.1Pa〜10000Pa、温度が55℃〜300℃、時間が35分〜24時間の条件下で行われる、請求項9に記載のジエチルエーテル脱離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル錯体、ニッケル錯体集積体、ジエチルエーテル吸着剤、ジエチルエーテル吸着方法およびジエチルエーテル脱離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排ガス処理等の分野でガスを吸着するガス吸着剤について開発が行われてきた。特にガスの吸着および分離等の機能を持つ多孔性材料、例えば多孔性配位高分子について強い興味が持たれてきた。多孔性配位高分子は金属イオンと有機物との配位結合を利用して、内部に空間(細孔)を持つ結晶性の高分子構造(多孔性構造)を形成する。
【0003】
特許文献1には多孔性配位高分子金属錯体を用いたガス吸着剤について記載されている。同文献の0072段落には、ガスの吸着圧力および吸着温度について「例えば、吸着圧力は0.01〜10MPaが好ましく、0.1〜3.5MPaがより好ましい。また、吸着温度は195K〜343Kが好ましく、273〜313Kがより好ましい。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−74590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来知られている多孔性配位高分子金属錯体の場合、上述したように錯体集積化の駆動力は配位結合である。配位結合も共有結合、静電的相互作用に比べて弱い相互作用ではあり、一定の柔らかさを持つ。しかし、特許文献1には吸着圧力を適宜設定できると記載されているものの、開示されたガス吸着圧力は比較的大きな圧力である。このため、大気圧の空気中に微量に存在するジエチルエーテルを捕捉することは難しいという問題があった。
【0006】
本発明はガス吸着に比較的大きな圧力を必要とせず、ジエチルエーテルを捕捉することが可能なジエチルエーテル吸着剤を提供すること、並びに、該ジエチルエーテル吸着剤を用いたジエチルエーテル吸着方法、およびジエチルエーテル脱離方法を提供することを目的とする。また、前記ジエチルエーテル吸着剤として用いることが可能な、ニッケル錯体集積体および前記集積体を構成するニッケル錯体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のニッケル錯体は、ニッケルを中心として、2つの塩素原子が結合し、かつ2つのベンゾイミダゾリル基が配位したニッケル錯体であって、前記2つのベンゾイミダゾリル基が炭素原子を介して連結されたことを特徴とする。
本発明のニッケル錯体は、下記化学式(1)で表されることが好ましい。
【0008】
【化1】
本発明のニッケル錯体集積体は、ニッケル錯体が複数集積化したことを特徴とする。本発明のニッケル錯体集積体は、ニッケル錯体を構成するベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子と、別のニッケル錯体を構成する塩素原子との水素結合により集積化したものであることが好ましい。
【0009】
本発明のジエチルエーテル吸着剤は、前記ニッケル錯体集積体から構成される。本発明のジエチルエーテル吸着剤は、ニッケル錯体を構成するベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子と、ジエチルエーテルを構成する酸素原子との水素結合によりジエチルエーテルの吸着を行うことが好ましい。
【0010】
本発明のジエチルエーテル吸着方法は、前記ジエチルエーテル吸着剤を用いてジエチルエーテルを吸着することを特徴とする。
本発明のジエチルエーテル脱離方法は、前記ジエチルエーテル吸着剤に吸着されたジエチルエーテルを、加熱することにより脱離する。また、ジエチルエーテル脱離方法は、前記ジエチルエーテル吸着剤に吸着されたジエチルエーテルを、減圧乾燥させることにより脱離してもよい。前記減圧乾燥は、圧力が0.1Pa〜10000Pa、温度が55℃〜300℃、時間が35分〜24時間の条件下で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のニッケル錯体の分子が複数集積化することにより得られるニッケル錯体集積体は、ジエチルエーテル吸着剤として用いることができる。本発明のジエチルエーテル吸着方法は、前記ジエチルエーテル吸着剤を用いることにより、ジエチルエーテルを吸着する際に、大きな圧力を必要とせず、大気圧中に微量にジエチルエーテルが存在する場合でも吸着することが可能である。また、吸着されたジエチルエーテルは、ジエチルエーテル脱離方法により脱離することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析の結果から作成した、三次元構造を示す図である。
図2図2は、実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析の結果から作成した、三次元構造を示す図である。
図3図3は、実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析の結果から作成した、三次元構造を示す図である。
図4図4は、図2、3に示した細孔CHの模式図である。
図5図5は、実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体および実施例2で得られたジエチルエーテルを脱離したニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析の結果から作成した、ジエチルエーテルの脱離および再吸着について説明するための三次元構造を示す図である。
図6図6は、ジエチルエーテルの再吸着実験を説明するための図である。
図7図7は、実施例7の熱重量測定の結果を示す図である。
図8図8は、実施例8のX線回折測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明について具体的に説明する。
[ニッケル錯体、ニッケル錯体集積体]
本発明のニッケル錯体は、ニッケルを中心として、2つの塩素原子が結合し、かつ2つのベンゾイミダゾリル基が配位したニッケル錯体であって、前記2つのベンゾイミダゾリル基が炭素原子を介して連結された、ニッケル錯体であり、好ましくは下記化学式(1)で表されるニッケル錯体である。化学式(1)で表されるニッケル錯体は、C2116Cl24Niで表すこともできる。化学式(1)で表されるニッケル錯体は、後述の化学式(2)で表される化合物の部分と金属部分とを分けて表記するならば、(C21164)NiCl2と表すことができる。
【0014】
【化2】
前記化学式(1)で表されるニッケル錯体は、下記化学式(2)で表される化合物が、配位子としてニッケルに配位する。化学式(2)で表される化合物は、組成式がC21164で表される有機物である。化学式(2)で表される化合物は、ベンゾイミダゾール(C762)の2位の水素が脱離したベンゾイミダゾリル基(C752)を2つ有し、該ベンゾイミダゾリル基は炭素原子を介して連結されている。また、ベンゾイミダゾリル基を連結する炭素原子には、さらに水素原子、フェニル基が結合している。
【0015】
【化3】
本発明のニッケル錯体の製造方法としては、特に限定はないが、例えば以下の方法で製造することが可能である。
【0016】
(I):化学式(2)で表される化合物等の、ニッケル錯体においてニッケル原子に配位する配位子に相当する化合物を用意する。該化合物の用意は、合成により行っても、購入することにより行ってもよい。
(II):塩化ニッケル六水和物(NiCl2・6H2O)と、前記配位子に相当する化合物とを、エタノール等の溶媒中で反応させ、ニッケル錯体を合成する。
(III):(II)で得られたニッケル錯体を、必要に応じて精製する。
【0017】
ニッケル錯体の単結晶(ニッケル錯体集積体)を溶液中より作製する場合には、溶媒分子が、結晶中にとりこまれていてもよい。この溶媒分子を、結晶化溶媒という。結晶化溶媒は、乾燥、減圧乾燥等の方法により除去することが可能であり、例えば結晶化溶媒がジエチルエーテルである場合には、例えば、後述のジエチルエーテル脱離方法に従って除去することが可能である。
【0018】
本発明のニッケル錯体の製造方法の詳細としては、例えば、後述の実施例に記載の方法で行うことが可能である。
化学式(2)で表される化合物の製法に関しては、例えば以下の文献を参照することができる(Antonia Albers, Serhiy Demeshko, Sebastian Dechert, Eckhard Bill, Eberhard Bothe, and Franc Meyer, “The Complete Characterization of a Reduced Biomimetic [2Fe-2S] Cluster", Angewandte Chemie International Edition, 2011年50巻9191-9194ページ, DOI:10.1002/anie.201100727)。
【0019】
前記ニッケル錯体は、その分子が複数集積することにより、集積体を構成することが可能である。すなわち、本発明のニッケル錯体集積体は、前記ニッケル錯体が複数集積化した、ニッケル錯体集積体である。
【0020】
前記ニッケル錯体集積体は、ニッケル錯体を構成するベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子と、別のニッケル錯体を構成する塩素原子との水素結合により集積化したニッケル錯体集積体が好ましい。
【0021】
より具体的には、化学式(3)に示されるように、ニッケル錯体20を構成する2つのベンゾイミダゾリル基の内の一方のベンゾイミダゾリル基BI1におけるベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子H(化学式(3)で点線円内のH)と、他のニッケル錯体20(全体は不図示)の塩素原子Clとが水素結合(化学式(3)で点線内の水素結合Ha)により結合して集積化することにより、本発明のニッケル錯体集積体が合成される。
【0022】
本発明者らは、集積化のための水素結合Haは、ニッケル錯体20が集積化する際に秩序立った配列を作るための駆動力として働いているものと考えている。すなわち、ニッケル錯体集積体の製造方法は、ニッケル錯体を構成するベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子と、別のニッケル錯体を構成する塩素原子とが水素結合により結合して集積化することを特徴とする。
【0023】
【化4】
図1に、実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析の結果から作成した、三次元構造を示す。実施例1で得られたニッケル錯体集積体は、化学式(1)で表されるニッケル錯体から形成されている。図1では、前記化学式(3)に示した集積化のための水素結合Ha(ClとHとの間の点線)と、後述の化学式(4)に示したジエチルエーテルとの水素結合(OとHとの間の点線)とが図示されている。図1に示されるように、ニッケル錯体集積体は、ニッケル錯体がジグザグ型に配列することにより構成される。
【0024】
[ジエチルエーテル吸着剤、ジエチルエーテル吸着方法、ジエチルエーテル脱離方法]
本発明のジエチルエーテル吸着剤は、前記ニッケル錯体集積体から構成され、ジエチルエーテル吸着剤は、ニッケル錯体を構成するベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子と、ジエチルエーテルを構成する酸素原子との水素結合によりジエチルエーテルの吸着を行うことが好ましい。本発明者らの検討によると、ニッケル錯体はその分子中に二つのベンゾイミダゾリル基を有するが、片方のベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子は、別のニッケル錯体を構成する塩素原子と水素結合することにより、ニッケル錯体集積体を構成することに寄与すると考えられ、他方のベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子は、ジエチルエーテルを構成する酸素原子と水素結合をすることにより、ジエチルエーテルの吸着に寄与すると考えられる。
本発明のジエチルエーテル吸着方法は、前記ジエチルエーテル吸着剤を用いてジエチルエーテルを吸着する。
【0025】
具体的には、化学式(4)に示されるようにニッケル錯体20を構成する2つのベンゾイミダゾリル基の内の、一方のベンゾイミダゾリル基BI2におけるベンゾイミダゾリル基の窒素原子に結合する水素原子H(化学式(4)で点線円内のH)と、ジエチルエーテル(C410O)の酸素原子とが、水素結合(化学式(4)で点線内の水素結合Hb)により結合されることによって、本発明のジエチルエーテル吸着剤は、ジエチルエーテルを吸着することができる。即ち、ジエチルエーテル(ガス)吸着のための水素結合Hbはジエチルエーテル分子を捕捉するために使われる。なお、ニッケル錯体20を構成する他方のベンゾイミダゾリル基BI1は、上述のようにニッケル錯体集積体を構成するために使用される。
【0026】
【化5】
【0027】
また、以下に詳述するようにニッケル錯体が、化学式(1)で表されるニッケル錯体である場合には、該錯体を構成する2つのベンゾイミダゾリル基を連結する炭素原子に結合するベンゼン環が、ニッケル錯体集積体が有する細孔(チャネル)の形成に寄与し、該チャネル中に、ジエチルエーテルを保持することにより、ジエチルエーテル吸着剤として好適に作用することができると考えられる。
【0028】
ジエチルエーテル吸着剤として用いられるニッケル錯体集積体の構造について、図2を参照しつつ説明する。なお、図1〜5では、ニッケル錯体が、化学式(1)で表されるニッケル錯体である場合を図示しており、ジエチルエーテル吸着剤、ジエチルエーテル吸着方法、およびジエチルエーテル脱離方法については、ニッケル錯体が、化学式(1)で表されるニッケル錯体である場合を中心に説明する。
【0029】
図2は、実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析の結果から作成した、三次元構造を示す。図2に示されるように、ニッケル錯体集積体は単結晶状態で細孔CH(チャネル。図2では点線円で示す。)を持っている。本発明のジエチルエーテル吸着剤は、この細孔CH内にジエチルエーテルを吸着することにより、吸着剤として作用する。図2右図は、ジエチルエーテルが、細孔CHに保持されている状況を図示している。
【0030】
次にジエチルエーテル吸着剤として用いられるニッケル錯体集積体の構造について、図3を参照しつつ説明する。図3は、実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析の結果から作成した、三次元構造を示す。図3は、ニッケル錯体集積体が既にジエチルエーテルを吸着している状態、すなわち前記細孔CH内にジエチルエーテルが取り込まれている状態を示す。図3左図はニッケル錯体集積体内にジエチルエーテルが取り込まれ、N−H・・・O水素結合(水素結合Hb)によりジエチルエーテルが細孔内に保持されている様子を示す。一例として、図3左図の細孔CH(点線四角で示す。)内を拡大した図を図3右図に示す。図3右図に示されるように、二つのニッケル錯体に由来する二つのベンゼン環Bz(ベンゾイミダゾリル基を構成しないベンゼン環、すなわち、ベンゾイミダゾリル基を連結する炭素原子に直接結合するベンゼン環)が2つのジエチルエーテル分子の間に入り込んでいる様子がわかる。図4は、図2、3に示した細孔CHの模式図を示す。図4で、黒色の長方形は、水素結合により、図面奥に向かって、1次元に配列したニッケル錯体(但し、ニッケル錯体が有するベンゼン環Bzを除く)を示す。黒色の長方形から伸びるベンゼン環は、ニッケル錯体に由来するベンゼン環(ベンゾイミダゾリル基を構成しないベンゼン環、すなわち、ベンゾイミダゾリル基を連結する炭素原子に直接結合するベンゼン環)を示す。黒色の長方形同士を繋ぐ点線は、前記ニッケル錯体がつくる一次元鎖間に働く、ベンゾイミダゾリル基同士のπ−π相互作用を示す。また、点線四角で表される空間は、細孔CHを示す。図2〜4に示されるように、ジエチルエーテル分子は、1次元に配列したニッケル錯体が、ベンゼン環等により形成する細孔CH中に保持されている。ニッケル錯体が形成する細孔CHは、ジエチルエーテルの吸着だけでなく、取り込んだジエチルエーテル分子の効率的な引き抜き(脱離)を促進している可能性が考えられる。つまり、細孔CHにより、ジエチルエーテルが周りのニッケル錯体に完全に覆われてしまうことを防いでいる可能性が考えられる。
【0031】
なお、ニッケル錯体が、化学式(1)で表されるニッケル錯体以外の錯体である場合には、ベンゼン環を、別の置換基に置き換え、ニッケル錯体と、該置換基とが形成する細孔CHによって、ジエチルエーテルを保持することができる。
【0032】
本発明のジエチルエーテル吸着方法は、圧力としては、大気圧(常圧)または加圧下で行われることが好ましい。温度としては、0℃以上の条件下で行うことが好ましく、10℃以上の条件下で行うことがより好ましく、20℃以上の条件下で行うことがさらに好ましい。温度の上限としては特に限定はないが、通常は40℃以下で行われる。本発明のジエチルエーテル吸着方法は、大気圧の空気内に含まれる微量のジエチルエーテルでさえ、吸着することができる。該吸着は、窒素、酸素と共に、ジエチルエーテルが存在する場合でも、選択的にジエチルエーテルを吸着することが可能である。
【0033】
また、本発明のジエチルエーテル吸着方法は、ジエチルエーテルを吸着する前のジエチルエーテル吸着剤1gに対して、1mg〜140mgのジエチルエーテルを吸収することができ、好ましくは80mg〜140mgのジエチルエーテルを吸収することができる。
【0034】
本発明のジエチルエーテル脱離方法は、前記ジエチルエーテル吸着剤に吸着されたジエチルエーテルを、加熱することにより脱離する。また、本発明のジエチルエーテル脱離方法は、前記ジエチルエーテル吸着剤に吸着されたジエチルエーテルを、減圧乾燥させることにより脱離してもよい。
【0035】
前記減圧乾燥は、圧力が0.1Pa〜10000Pa、温度が55℃〜300℃、時間が35分間〜24時間の条件下で行われることが好ましく、圧力が0.1Pa〜5000Pa、温度が60℃〜180℃、時間が35分間〜14時間の条件下で行われることがより好ましく、圧力が1.3Pa〜3000Pa、温度が80℃〜120℃、時間が1時間〜3時間の条件下で行われることが特に好ましい。
【0036】
また、本発明のジエチルエーテル脱離方法は、減圧を行わずに、常圧下で行ってもよい。前記加熱を行う際には、気体流通下で加熱することにより、ジエチルエーテルを脱離してもよい。減圧を行わない場合には、温度が100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、140℃〜300℃の条件下で行われることが特に好ましい。また、時間は、5分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましく、30分〜3時間の条件下で行われることが特に好ましい。気体流通下で加熱することによってジエチルエーテルを脱離する際には、気体として、大気を使用してもよいが、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0037】
ジエチルエーテル吸着剤からの、ジエチルエーテルの脱離について、図5を参照しながら説明する。図5は、実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体および実施例2で得られたジエチルエーテルを脱離したニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析の結果から作成した、ジエチルエーテルの脱離および再吸着について説明するための三次元構造を示す図である。図5左図は、細孔CH内にジエチルエーテルが含まれている状態を示す。図5右図はジエチルエーテルを取り除いた(脱離した)状態を示す。図5右図の状態からジエチルエーテルを再吸着すると図5左図に示される状態となる。
【実施例】
【0038】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔製造例1〕
(化学式(2)で表される化合物の合成)
化学式(2)で表される化合物は、下記スキームに従って合成した。
【0039】
【化6】
上記スキームを参照しつつ化学式(2)で表される化合物の合成手順(1)〜(6)を下記に示す。
【0040】
(1):o−フェニレンジアミン(17.2g、159mmol)に対して1,2,4−トリクロロベンゼン65mLを加え、180℃に加熱することにより、全てのo−フェニレンジアミンを溶解させた。
(2):180℃を保ったまま、(1)で得られた溶液に、ジエチルフェニルマロネート8.6mL(39.8mmol)を15分かけて滴下した。
(3):(2)の滴下終了後、180℃で1時間撹拌を行った。1時間後加熱をやめ自然放冷により、室温まで冷却したところ、褐色固体が析出した。
(4):(3)で得られた褐色固体をクロロホルム300mLで洗浄した後、6M塩酸100mLを加えたところ、固体の一部が溶解した。
(5):(4)で得られた溶解物と、固体との混合物に対して、ろ過操作を行い、ろ液を回収し、そのろ液に対して、5M水酸化ナトリウム水溶液150mLを加えたところ、化学式(2)で表される化合物の白色粉末が析出した。
(6)ろ過操作により、白色粉末を回収し、乾燥させることにより化学式(2)で表される化合物を得た(5.03g、15.5mmol、収率39%)。
【0041】
〔実施例1〕
(化学式(1)で表されるニッケル錯体・ニッケル錯体集積体の合成)
化学式(1)で表されるニッケル錯体は、下記スキームに従って合成した。
【0042】
【化7】
上記スキームを参照しつつ化学式(1)で表されるニッケル錯体の合成手順(1)〜(7)を下記に示す。
【0043】
(スキーム(A)〜(B))
(1)200mLナスフラスコ中に、前記製造例1で得られた化学式(2)で表される化合物を820mg(2.52mmol)はかりとり、エタノール(EtOH)60mLを加えた。
(2)100mLナスフラスコ中に塩化ニッケル六水和物(NiCl2・6H2O)を600mg(2.52mmol)はかりとり、エタノール30mLに溶かした。
(3)(2)を(1)に加えた後、55℃で30分撹拌したところ、紫色粉末が析出した。
(4)20分間静置した後、上澄み液を捨て、残った紫色粉末をエタノール10mLで洗浄した。
(5)エバポレーターを用いて乾燥後、得られた紫色粉末を回収した(780mg、1.71mmol)。
【0044】
(スキーム(B)〜(C))
(6)回収した紫色粉末に対して、アセトニトリル(CH3CN)とジエチルエーテル(Et2O)混合溶媒(アセトニトリル:ジエチルエーテル=67.5mL:40.5mL)を加えた後、ろ過し、ろ液を冷蔵庫(10℃)で静置したところ、紫色単結晶が析出した。
(7)析出した単結晶を回収し、乾燥後、収量を測定したところ、620mg、1.17mmol、収率47%であった。
なお、上記スキーム中の(C)には2つの水素結合HaおよびHb(化学式(3)および(4)参照)も示してある。
【0045】
上記スキームで得られた(C)は、化学式(1)で表されるニッケル錯体の単結晶、すなわち、ニッケル錯体集積体であり、かつ結晶化溶媒であるジエチルエーテルをとりこんだ状態である。
【0046】
ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体が得られたことは、単結晶X線構造解析により確認した。単結晶X線構造解析の結果から、図1〜3および図5右図を作成した。
【0047】
〔実施例2〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例1で得られた紫色単結晶(ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体)の単結晶50mgを真空検体乾燥機に入れ、ULVAC(登録商標)社製真空ポンプG−50DA(到達圧力1.3Pa)を用いて、100℃で14時間、減圧乾燥させた。
【0048】
その結果、ジエチルエーテルを含む単結晶が、ジエチルエーテルを含まない単結晶(ニッケル錯体集積体)へと変換されていることが、単結晶X線構造解析により確認された。単結晶X線構造解析の結果から、図5左図を作成した。
【0049】
即ち、図5右図に示されるジエチルエーテルが含まれている状態から、減圧条件下で、100℃、14時間加熱することにより、ジエチルエーテルを取り除ける(図5左図)ことがわかった。ここで、図5右図に示される結晶の質量は50mg、図5左図に示される結晶の質量は44.7mgであった。減圧乾燥の前後で結晶の質量が減少したことも、ジエチルエーテルが取り除かれた根拠となる。
【0050】
〔実施例3〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力1.3Pa、80℃で2時間」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、実施例2と同様に、ジエチルエーテルを脱離することができた。
【0051】
〔実施例4〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力3,000Pa、120℃で2時間」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、実施例2と同様に、ジエチルエーテルを脱離することができた。
【0052】
〔実施例5〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例1と同様の方法で得られた紫色単結晶(ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体)の単結晶50mgをシュレンク管に入れ、窒素ガスを流しながら、160℃で1時間、加熱した。
【0053】
その結果、4.4mgの質量減少が確認され、ジエチルエーテルを含む単結晶が、ジエチルエーテルを含まない単結晶(ニッケル錯体集積体)へと変換された。またこの変換は、単結晶X線構造解析によっても確認された。
【0054】
〔比較例1〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力1.3Pa、50℃で14時間」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、ジエチルエーテルを脱離することができなかった。
【0055】
〔比較例2〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力1.3Pa、80℃で30分」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、ジエチルエーテルを脱離することができなかった。
【0056】
〔比較例3〕
(ジエチルエーテル脱離方法)
実施例2における減圧乾燥の条件を、「到達圧力1.3Pa、100℃、14時間」から、「到達圧力3,000Pa、50℃で7時間」に変更した以外は、実施例2と同様に行ったところ、ジエチルエーテルを脱離することができなかった。
【0057】
(ジエチルエーテルの脱離に関する検討)
上述したように、実施例2において、減圧乾燥の前後でニッケル錯体集積体(結晶)の質量が50mgから44.7mgへと5.3mgだけ減少した。化学式(1)で表されるニッケル錯体の分子量は453.98、ジエチルエーテル分子の分子量は74.12である。従って、ジエチルエーテルを含む単結晶内において、全ての化学式(1)で表されるニッケル錯体が、1分子あたり、ジエチルエーテルを1分子吸着していた場合には、ジエチルエーテル分子の占める割合は(74.12/(453.98+74.12))×100=14%となる。
【0058】
このため、50mgのジエチルエーテルを含む単結晶において、ジエチルエーテルが占める質量は最大7mgとなる。実施例2の減圧乾燥の条件「到達圧力1.3Pa、100℃で14時間」では、5.3mgの質量減少(最大量の76%(5.3/7×100))が確認できたため、妥当な質量減少であると考えられる。同様に、実施例3の減圧条件「到達圧力1.3Pa、80℃で2時間」では、6.8mg(最大量の97%)、実施例4の減圧条件「到達圧力3,000Pa、120℃で2時間」では、5.4mg(最大量の77%)の質量減少が観測された。実施例2〜4および比較例1〜3の結果をまとめると表1のようになる。ここで「ジエチルエーテルの脱離」項目の可否は、単結晶X線構造解析の結果、ジエチルエーテルを含まない結晶構造が確認された場合を可としている。
【0059】
【表1】
また実施例5記載の通り、減圧することなく、窒素ガス気流下160℃で1時間加熱することによってもジエチルエーテルは取り除くことができることもわかった。
【0060】
〔実施例6〕
(ジエチルエーテル吸着方法(再吸着方法))
図6は、ジエチルエーテルの再吸着実験を説明するための図である。
ジエチルエーテル吸着剤として、実施例2のジエチルエーテル脱離方法が行われたジエチルエーテルを含まない単結晶(ニッケル錯体集積体)を用い、ジエチルエーテルの再吸着実験を行った。
【0061】
図6に示される実験は密閉系かつ、大気圧で行われた。図6のように、ジエチルエーテルを含まない単結晶(ニッケル錯体集積体)の単結晶20mgを用意して(図6の中央、正方形で記載)、そこにジエチルエーテルの蒸気を室温で約一晩拡散させるだけで、ジエチルエーテルが吸着された(3.9mgの質量増加)。この単結晶についてX線構造解析を行ったところ、ジエチルエーテルを含む構造として解析することができた。
即ち、大気圧の空気内に含まれる微量のジエチルエーテルでさえ、選択的に取り込む(吸着する)ことができた。
(ジエチルエーテルの吸着(再吸着)に関する検討)
温度については、室温以上ならば再吸着させることができると考えられる。低温の場合は、ジエチルエーテルが蒸気になりにくいと思われる。
【0062】
〔単結晶X線構造解析〕
ニッケル錯体集積体の単結晶X線構造解析は、以下の条件で実施した。
単結晶X線構造解析の測定条件、解析結果は以下に示す通りである。
装置名:R−AXIS RAPID II
製造会社名:株式会社リガク(登録商標)
X線源:Mo−Kα、波長λ=0.71069Å
検出器:上記装置用の湾曲イメージングプレート
測定温度:−150℃
構造解析ソフトウェア:OlexSys Ltdの “Olex2
解析結果
【0063】
[実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体のデータ]
結晶としての組成:C2526Cl24NiO(C2116Cl24Ni・C410O)
結晶系:単斜晶系(monoclinic system)
空間群:P21/c(#14)
格子定数:
a=10.7785(7)Å
b=14.6846(8)Å
c=15.8321(8)Å
α=90°
β=103.319(7)°
γ=90°
単位格子体積:V=2438.5(3)Å3
R因子:R1(I>2σ(I))=0.0514
[実施例2で得られたジエチルエーテルを含まないニッケル錯体集積体のデータ]
結晶としての組成:C2116Cl24Ni
結晶系:単斜晶系(monoclinic system)
空間群:P21/n(#14)
a = 16.270(6)Å
b = 13.049(5)Å
c = 19.811(8)Å
α = 90°
β = 107.132(8)°
γ = 90°
単位格子体積:V=4019(3)Å3
R因子:R1(I>2σ(I))=0.1966
ジエチルエーテル分子を含まない単結晶のデータについては、R因子(信頼度因子)の値からみてデータの質にやや難点があるものと思われるものの、構造は確認できた。
【0064】
(実施例に基づく検討)
実施例2〜4の検討より、ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体は、減圧・加熱条件下(減圧乾燥下)で、単結晶性を保持したままジエチルエーテルを取り除くことができる。また、実施例5の検討より、ジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体は、常圧・加熱条件下でも、単結晶性を保持したままジエチルエーテルを取り除くことができる。
【0065】
さらに、実施例6の検討より、ニッケル錯体集積体を再びジエチルエーテル蒸気にさらすことにより、単結晶性を保持したままジエチルエーテルを吸着したニッケル錯体集積体を得ることができる。つまり、本発明のジエチルエーテル吸着剤は単結晶状態を維持したまま、ジエチルエーテルの可逆な吸着、脱離を容易に行うことができる(単結晶―単結晶 相転移)。このため、捕捉したジエチルエーテルの再利用も可能である。
【0066】
〔実施例7〕
実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体について、以下の条件で熱重量測定を行った。
熱重量測定は島津製作所製熱重量測定装置 TGA−50を用いて以下のように行った。
【0067】
[昇温速度 20℃/min.の場合]
実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体(5.189mg,9.826μmol)を、アルミニウム製サンプルパンに乗せて試料室に入れ、窒素気流下(50mL/min.)、20℃/min.で昇温し、質量変化を測定した。
【0068】
その結果160℃で12%の質量減少が観測された。サンプル中でジエチルエーテル分子が占める質量の割合は14%であることから、この質量減少はジエチルエーテルの脱離によるものと考えられ、この実験条件では160℃程度、約8分で大部分のジエチルエーテルを脱離できることが分かった。また300℃付近までさらなる質量変化が観測されないことから、ジエチルエーテル吸着剤(ニッケル錯体集積体)は熱的に300℃付近まで安定であることが示唆された。
熱重量分析の結果を図7(点線)に示す。
【0069】
[昇温速度 5℃/min.の場合]
実施例1で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体(6.591mg,12.48μmol)を、アルミニウム製サンプルパンに乗せて試料室に入れ、窒素気流下(50mL/min.)、5℃/min.で昇温し、質量変化を測定した。その結果130℃で12%の質量減少が観測された。この結果より、この実験条件では140℃程度、約25分で大部分のジエチルエーテルを脱離できることが分かった。また昇温速度20℃/min.の場合と同様に、ジエチルエーテル吸着剤(ニッケル錯体集積体)は300℃付近まで熱的に安定であることも示唆された。
熱重量分析の結果を図7(実線)に示す。
【0070】
〔実施例8〕
実施例1と同様の方法で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体および実施例2と同様の方法で得られたジエチルエーテルを含まないニッケル錯体集積体について、以下の条件でX線回折測定を行った。
X線回折測定はリガク製多目的X線回折装置 SmartLab 2080A202を用いて以下のように行った。
【0071】
まず、実施例1と同様の方法で得られたジエチルエーテルを結晶化溶媒としてとりこんだニッケル錯体集積体を、メノウ乳鉢ですりつぶした後、ガラス試料板(20×20×0.5mm3)に入れた。その試料板を試料室に入れ、X線回折測定を行った。その結果を図8(a)に示す。同様の測定を実施例2と同様の方法で得られたジエチルエーテルを含まないニッケル錯体集積体についてもおこなったところ、図8(b)に示す結果を得た。両者を比較すると明らかに回折パターンに違いがあった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の活用例として、大気圧の空気中に微量に存在するジエチルエーテルガスの吸着、脱離に適用することができる。ベンゾイミダゾールと水素結合を作ることが可能なガス分子であれば、ジエチルエーテルガスに替えて本発明の吸着剤、吸着方法または脱離方法等を適用することも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8