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特開2020-79628高圧水素の膨張タービン式充填システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-79628(P2020-79628A)
(43)【公開日】2020年5月28日
(54)【発明の名称】高圧水素の膨張タービン式充填システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 5/06 20060101AFI20200501BHJP
【FI】
   F17C5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-213567(P2018-213567)
(22)【出願日】2018年11月14日
(71)【出願人】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 純
(72)【発明者】
【氏名】高橋 強
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB12
3E172BB13
3E172DA90
3E172EA02
3E172EA13
3E172EA22
3E172EA23
3E172EA48
3E172EB02
3E172EB17
3E172EB18
3E172FA01
3E172KA22
3E172KA23
(57)【要約】
【課題】構成が簡易で、保守管理役務の負担が少なく、消費電力のコストを含む運転コストを低廉にでき、水素ガス供給ユニットの構成部材に汎用の部材を用いることができ、さらに、スムースで効率的な充填(充填時間の短縮)や、設備のエネルギの利用効率の向上を図ることができる高圧水素の膨張タービン式充填システムを提供すること。
【解決手段】高圧に蓄圧された水素ガスをタンク6へ加圧充填する際に、膨張タービン11を用いて水素ガスのエンタルピ降下を行う充填システムにおいて、膨張タービン11の出口に水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14と、蓄冷器14の内部を加熱する加熱熱源とを設ける。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧に蓄圧された水素ガスをタンクへ加圧充填する際に、膨張タービンを用いて水素ガスのエンタルピ降下を行う充填システムにおいて、膨張タービンの出口に水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器と、該蓄冷器の内部を加熱する加熱熱源とを設けたことを特徴とする高圧水素の膨張タービン式充填システム。
【請求項2】
前記膨張タービンに、タービン・コンプレッサを用いたことを特徴とする請求項1に記載の高圧水素の膨張タービン式充填システム。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金の水素ガスの放出の際に、タービン・コンプレッサのアフタークーラへの排熱側から抽気した高温流体を水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器へ導き、熱交換後にアフタークーラに戻す回路を設けたことを特徴とする請求項2に記載の高圧水素の膨張タービン式充填システム。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金の水素ガスの放出の際に、水素充填設備の排熱側から抽気した高温流体を水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器へ導き、熱交換後に排熱側に戻す回路を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の高圧水素の膨張タービン式充填システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池自動車等の水素自動車(以下、単に、「水素自動車」という場合がある。)の燃料となる水素ガスを、水素ガス供給源から水素自動車の燃料タンクに充填するための水素充填設備(以下、「水素ステーション」という場合がある。)の最終充填部におけるプレクーラ機能等の温度降下システム技術に適用される高圧水素の膨張タービン式充填システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素自動車の燃料として用いられる水素ガスは、水素ガスを充填する経路に設けられている膨張弁等の部分で高圧から断熱膨張(等エンタルピ膨張)すると、その性状から逆転温度(−58℃)よりも高い領域での膨張になるため、ジュールトムソン効果によって膨張後の温度が上昇するという性質を有している。
したがって、水素ステーションにおいて、水素自動車の燃料となる水素ガスを、水素ガス供給源から水素自動車の燃料タンクに充填する際に、水素ガスを充填する経路に設けられている膨張弁等の部分で水素ガスの温度が上昇する。
【0003】
この水素ガスの温度の上昇は、水素ガスの膨張比が大きくなるほど顕著になることから、水素ステーションでの水素ガス供給源からの供給ガスの高圧力化、例えば、供給ガスの圧力(供給源のタンク圧)が、45→70MPa(G)、さらに、82MPa(G)と高圧力化するのに伴って、さらに自己温度上昇量が大きくなってくる。
一例として、水素ガスを、供給源のタンク圧である70MPa(G)、30℃から一段で膨張させたときの、各2次圧における自己温度変化の一例を図1に示す。
【0004】
一方、現状で普及が開始された燃料電池車では、燃料タンクの材質による温度制限と、燃料電池本体セルの運用温度の制限から、水素充填時の最高温度上限は85℃とされている。
【0005】
そして、上記水素の性質から、何の手段も施さずにそのまま水素ガスを充填すると、水素充填時の温度が、最高温度上限の85℃を越えてしまい、燃料タンクの材質による温度制限や燃料電池本体セルの運用温度の制限、さらに、充填後の冷却に伴う圧力降下等の問題が発生するため、水素ガスを充填する経路に熱交換器等の冷却手段を配置し、この冷却手段で水素ガスを冷却しながら水素自動車に充填する方法が提案され、実用化されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
ここで、図2及び図3に、現状の一般的な70MPa(G)の水素ステーションの構成図を示す。
この水素ステーションは、水素ガスを受け入れる圧縮機ユニットからなる圧縮機設備1と、圧縮機設備1から送られてきた水素ガスを蓄圧する蓄圧器ユニットからなる水素蓄圧設備2と、水素蓄圧設備2からの水素ガスを水素自動車の燃料タンク6に充填するための経路に設けられた膨張弁3及び水素ガスプレクーラ4と、この水素ガスプレクーラ4を介して水素ガスの冷却を行う水素プレクールシステム5とを備え、さらに、水素プレクールシステム5には、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器、アキュムレータ等からなる冷凍機設備7と、ブラインタンク、1次ブラインポンプ、2次ポンプ等からなるブライン回路8を備えるようにしている。
そして、この水素ステーションは、オンサイト型、オフサイト型の水素ステーションの両者とも、受け入れた水素は圧縮機設備1で中間圧(図例では40MPa(G))や高圧(図例では82MPa(G))まで圧縮され、それぞれの圧力で水素蓄圧設備2の蓄圧ユニット内にて圧縮ガスの形で保持される。
これらの水素ガスを、需要側である車載の燃料タンク6へ充填するには、膨張弁3を介しての膨張により行われるが、その際に水素ガス自身の温度上昇を伴うため、外部設備である水素プレクールシステム5により−40℃まで冷却される。
現状の技術では、この水素プレクールシステム5は、フロン冷媒等の通常の冷凍機設備7と、−40℃近辺で動作するブライン回路8とを組み合わせて構成されているため、構成が複雑であり、また、冷凍機用冷媒圧縮機、1次ブラインポンプ、2次ブラインポンプ等の多くの回転機器も必要になる。
【0007】
このため、従来の水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムにおいては、以下の課題があった。
1)外部で独立した水素プレクールシステムはそれ自体が外部電力で稼働するシステムである。一般的な水素ステーション(300Nm/h)で約40kWとなっており、水素プレクールシステムの運用自体が運転コストを上昇させる。
2)冷凍機の冷媒にフロン(代替えフロン)を使用するため法的な扱いを受け、このプレクーラ設備自体が高圧ガス保安法の冷凍保安則にかかり、設備や運用において制約を受ける。
3)フロンやブラインをステーション内に保有することは、フロンやブラインの外部漏洩に対する環境事故の予防対策が必要になる。
4)水素プレクールシステムが、冷凍回路とブライン回路の2段構成で複雑であることや、冷媒圧縮機やブラインポンプ等の回転機が複数存在するため、多くの保守管理役務が生じる。
5)ブラインを介したシステムのため、運転起動から定常状態になるまで時間を要する。このため、充填作業のかなり前から水素プレクールシステムを事前起動、系内を定常状態にしておく必要がある。
6)水素ステーション自体の設置スペースを小型化する際に、水素プレクールシステムの専有スペースがその制約となる。
7)現状の−40℃という温度では、さらに水素の急速充填に制限が出てくる。将来において、さらに充填時間を短くするためには、現状の−40℃よりも低い温度に予冷が必要となる可能性もある。
【0008】
ところで、上記従来の水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムの有する問題点に鑑み、本件出願人は、先に、構成が簡易で、保守管理役務の負担が少なく、消費電力のコストを含む運転コストを低廉にできる、水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムを提案した(特許文献2参照。)。
【0009】
この水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムは、水素ガスを膨張減圧する過程で膨張機(膨張タービン)により水素ガスの温度降下を行い、その冷熱エネルギを利用して水素ガスの予冷を行うものであり、上記従来の水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムの有する問題点を解消することができるものであった。
【0010】
より具体的には、この水素プレクールシステムは、図4に示すように、水素ガス源ライン9を、膨張タービン11の回路に接続し、膨張タービン11にて最終的に水素ガスを膨張させて、エンタルピ降下(温度降下)させた水素ガスを、水素ガス供給ユニット13を介して、水素自動車の燃料タンク6に充填するようにした、高圧水素の膨張タービン式充填システム10として構成されている。
なお、図4に示す例は、膨張タービン11に、タービン11aとコンプレッサ11bとを同軸に配したタービン・コンプレッサを用いたものであるが、膨張タービンのみで構成することもできる。
【0011】
ここで、図5に、水素ガスの膨張弁を用いた膨張(弁膨張)(従来方式)と高圧水素の膨張タービン式充填システム(新方式)による充填流量及び圧力並びに温度の変化を示す。
【0012】
ところで、この高圧水素の膨張タービン式充填システム10において、膨張タービン11の出口の温度は、刻々と変化する膨張タービン11の膨張比により決まるため一定ではない。
すなわち、図5の典型的なタービン出口(=充填タンク入口)温度の計算事例に示すように(「Tin[新方式]」は、高圧水素の膨張タービン式充填システム10における膨張タービン11の出口温度(=充填タンク入口温度)の挙動例を示す。)、充填の初期段階においては、膨張タービン11の膨張比が高いために、短時間ではあるものの−70℃近くまで水素ガスの温度が降下する領域が生じる。
このように、水素ガスの温度が−40℃よりも降下する時間帯があるため、水素ガス供給ユニット13の構成部材、例えば、充填ホースのシール材を−70℃対応のものにする必要があり、設備コストの上昇につながるという問題があった(課題8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−116619号公報
【特許文献2】特開2017−150660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来の水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムの有する問題点に鑑み、構成が簡易で、保守管理役務の負担が少なく、消費電力のコストを含む運転コストを低廉にでき、水素ガス供給ユニットの構成部材に汎用の部材を用いることができ、さらに、スムースで効率的な充填(充填時間の短縮)や、設備のエネルギの利用効率の向上を図ることができる高圧水素の膨張タービン式充填システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムは、高圧に蓄圧された水素ガスをタンクへ加圧充填する際に、膨張タービンを用いて水素ガスのエンタルピ降下を行う充填システムにおいて、膨張タービンの出口に水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器と、該蓄冷器の内部を加熱する加熱熱源とを設けたことを特徴とする。
【0016】
この場合において、前記膨張タービンに、タービン・コンプレッサを用いることができる。
【0017】
また、前記水素吸蔵合金の水素ガスの放出の際に、タービン・コンプレッサのアフタークーラへの排熱側から抽気した高温流体を水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器へ導き、熱交換後にアフタークーラに戻す回路を設けることができる。
【0018】
また、前記水素吸蔵合金の水素ガスの放出の際に、水素充填設備の排熱側から抽気した高温流体を水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器へ導き、熱交換後に排熱側に戻す回路を設けることができる。
ここで、水素充填設備の排熱側とは、水素充填設備において、排熱が放出される機器、具体的には、水素圧縮機の各クーラー、プレクール・チラー設備のクーラー等をいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムによれば、高圧に蓄圧された水素ガスをタンクへ加圧充填する際に、膨張タービンにて最終的に水素を膨張させて、エンタルピ降下(温度降下)させた水素ガスを調節タンク側へ充填するようにすることにより、構成が簡易で、保守管理役務の負担が少なく、消費電力のコストを含む運転コストを低廉にできる、例えば、水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムを提供することができる。
そして、膨張タービンの出口に水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器を設けることにより、膨張タービンの膨張比が高い充填の初期段階における水素ガスの温度降下の度合いを緩和、平滑化して、水素ガス供給ユニットの構成部材に汎用の部材を用いることを可能にし、設備コストが上昇することを防止することができるとともに、スムースで効率的な充填(充填時間の短縮)や、設備のエネルギの利用効率の向上を図ることができる。
【0020】
また、前記膨張タービンに、タービン・コンプレッサを用いること、すなわち、回転軸の一方側に膨張用インペラ、他方側に圧縮用インペラを有するタービン・コンプレッサを用いることにより、膨張機において発生するエネルギを取り出し、有効利用する手段を別途設ける必要がなく、さらに、タービン側にて得られた回転エネルギを利用してコンプレッサ側にて水素ガスの圧力を上昇させて、タービン入口へ導かれるようにすることによって、コンプレッサで昇圧された分、タービンの膨張比が大きくなり、より多くの熱落差(=寒冷発生量)を得るようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】水素ガスの膨張弁を用いた膨張(弁膨張)による充填流量及び圧力並びに温度の変化を示すグラフである。
図2】従来の水素プレクールシステムを用いた水素ステーションの説明図である。
図3】従来の水素プレクールシステムを用いた水素ステーションの説明図である。
図4】新方式の高圧水素の膨張タービン式充填システムの一例を示す説明図である。
図5】水素ガスの膨張弁を用いた膨張(弁膨張)(従来方式)と高圧水素の膨張タービン式充填システム(新方式)による充填流量及び圧力の変化並びに温度の変化を示すグラフである。
図6】本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムの一実施例を示す説明図である。
図7】本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムの一実施例を示す説明図である。
図8】本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムの一実施例を示す説明図である。
図9】本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムの一実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムの実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0023】
この高圧水素の膨張タービン式充填システムは、図6に示すように、本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムを、水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムに適用したものであって、高圧に蓄圧された水素ガスをタンク6へ加圧充填する際に、膨張タービン11を用いて水素ガスのエンタルピ降下を行う充填システムにおいて、膨張タービン11の出口に水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14と、この蓄冷器14の内部を加熱する加熱熱源(図示省略。)とを設けるようにしたものである。
【0024】
ここで、膨張タービン11は、膨張タービンのみで構成することもできるが、本実施例においては、タービン・コンプレッサ、すなわち、従来、例えば、冷媒の圧縮と膨張を行うために汎用されている回転軸の一方側に膨張用インペラ、他方側に圧縮用インペラを有するタービン・コンプレッサを用いるようにしている。
【0025】
具体的には、図6に示す、水素ステーションの水素ガスの最終膨張機構のように、この高圧水素の膨張タービン式充填システム10は、水素ガス源ライン9を、膨張タービン11の回路に接続して構成され、膨張タービン11にて最終的に水素ガスを膨張させて、エンタルピ降下(温度降下)させた水素ガスを、水素ガス供給ユニット13を介して、水素自動車の燃料タンク6に充填するようにしている。
【0026】
ここで、膨張タービン11は、回転軸の一方側に膨張用インペラを有するタービン11aを、他方側に圧縮用インペラを有するコンプレッサ11bを備えるようにし、タービン11a側にて得られた回転エネルギを利用してコンプレッサ11b側にて水素ガスの圧力を上昇させて、タービン11aの入口へ導かれるようにする(水素ガスは、コンプレッサ11bに供給され、その後、タービン11aに供給される。)ことによって、コンプレッサ11bで昇圧された分、タービン11aの膨張比が大きくなり、より多くの熱落差(=寒冷発生量)を得るようにすることができるものとなる。
【0027】
また、膨張タービン11のタービン11a側の入口部に冷却器12を設けることができる。
冷却器12の冷熱源12aには、水冷方式のものやチラーユニット方式のものを好適に用いることができる。
これにより、水素ガスの温度降下を補助することができる。
【0028】
図5に、水素ガスの膨張弁を用いた膨張(弁膨張)(従来方式)と高圧水素の膨張タービン式充填システム(新方式)による充填流量及び圧力の変化並びに温度の変化を示す。
【0029】
高圧水素の膨張タービン式充填システム10を、水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムに適用することによって、水素ガス源ライン9の高圧(82MPa)(元圧)の水素ガスから水素自動車の燃料タンク6に対して、圧力差を利用して膨張タービン11を駆動して、膨張した水素ガスを直接的に充填することができる。
この場合、充填初期においては、元圧と燃料タンク6の内圧の差が大きいことから、タービン11aでの膨張比及びコンプレッサ11bによる膨張比が比較的大きく取れるため、より多くの寒冷を発生することができる。
充填が進むにつれて燃料タンク6の内圧は上昇していき、膨張タービン11による発生寒冷は小さくなっていくが、最終的に85℃以下で充填を終えることができる。
【0030】
ところで、高圧水素の膨張タービン式充填システム10は、何の対処もしないと、図5に示すように、充填の初期段階においては、膨張タービン11の膨張比が高いために、短時間ではあるものの−70℃近くまで水素ガスの温度が降下する領域が生じる。
【0031】
そこで、本実施例の高圧水素の膨張タービン式充填システム10においては、膨張タービン11の出口に水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14を設けるようにしている。
ここで、水素吸蔵合金には、AB2型(チタン、マンガン、ジルコニウム、ニッケルなどの遷移元素の合金をベースとしたもの)、AB5型(希土類元素、ニオブ、ジルコニウム1に対して触媒効果を持つ遷移元素(ニッケル、コバルト、アルミニウム等)5を含む合金をベースとしたもの(LaNi、ReNi等表))、Ti(チタン)−Fe(鉄)系、V(バナジウム)系、Mg(マグネシウム)合金系、Pd(パラジウム)系、Ca(カルシウム)と遷移元素(ニッケル等)の合金系等の水素吸蔵合金として従来汎用されているものを適宜用いることができる。
また、蓄冷器14は、膨張タービン11の出口に接続された配管に対して接続継手を介して、着脱可能に組み込むようにすることが好ましい。
【0032】
この水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14は、膨張タービン11の膨張比が高い充填の初期段階における水素ガスの温度降下の度合いを緩和、平滑化して、具体的には、−40℃〜−45℃で動作するようにして、水素ガス供給ユニット13の構成部材、例えば、充填ホースのシール材に、−70℃対応のものではなく、汎用の部材を用いることを可能にするためのもので、特に、低温に対して対応可能な蓄冷器を用いることができる。
【0033】
ここで、蓄冷器14は、耐圧容器で構成した槽構造をし、外部からの入熱/放熱を抑制したり、制御することができるように、耐圧容器には断熱構造を施こし、内部に水素吸蔵合金を内蔵するようにしている。
蓄冷器14は、水素吸蔵合金を内蔵したものからなる単一の槽構成とし、水素ガスの全量を水素吸蔵合金に導くことができるようにするほか、水素吸蔵合金を内蔵したものに加え、水素吸蔵合金以外の蓄冷体を内蔵したものからなる複数の槽を並設した構成とし、水素ガスの一部を水素吸蔵合金に導くことができるようにすることもできる。
なお、蓄冷体には、特に限定されるものではないが、銅、ステンレススチール等のハニカム構造の金属を用いた金属ハニカム式蓄冷体、銅、ステンレススチール等のリボンたわし状の金属を用いた金属(リボンたわし状)充填式蓄冷体、イソプロピルアルコールのビーズやジェル(所定の目的温度で固化熱の形で熱を出し入れするビーズやジェルで構成された低温蓄冷体をいう。例えば、「PlusICE」(商品名)(Phase Change Material Products Limited製。)を用いたアルコールビーズ(ジェル)内臓式蓄冷体等を好適に用いることができる。
【0034】
水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14は、水素ガスが低温の場合は、水素ガスが水素吸蔵合金に取り込まれ、水素ガスが高温の場合には、水素吸蔵合金から水素ガスが放出される。
この高圧水素の膨張タービン式充填システムにおいて、膨張+充填運転の初期(前半)はタービン出口温度が低い(−40℃以下)であるため、蓄冷器14に内蔵された水素吸蔵合金は、水素ガスを吸蔵する動作をする。
一方、膨張+充填運転の後半は、タービン出口温度は常温近くになるため、蓄冷器14に内蔵された水素吸蔵合金は、吸蔵した水素ガスを放出する動作をする。
この動作は、実際には、水素吸蔵合金の平衡点前後において、圧力と温度の条件でそれに見合う水素ガスの出し入れ動作となる。
これにより、低温時には、−40℃以下の水素ガスの温度と流量(供給量)を抑制する効果(より一層の蓄冷効果)を発揮し、常温近くになると、水素ガスの流量(供給量)を増加させる効果を発揮する。
結果として、水素ガスの温度と流量(供給量)の両方から蓄冷効果と流量配分において、スムースで効率的な充填(充填時間の短縮)を実現することができる。
【0035】
そして、このように、膨張タービン11の出口に蓄冷器14を設けるようにすることによって、膨張タービン11の膨張比が高い、充填の初期段階において、膨張タービン11の出口で−70℃近くまで温度が降下した水素ガスを、水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14を通過させることによって、寒冷を吸収し、−40℃前後にして供給するようにする。そして、水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14に蓄冷された寒冷エネルギは、充填プロセスの後半、すなわち、膨張タービン11の出口の温度が上昇していくにつれて、寒冷を放出し、全体の温度挙動を平滑化することができる。
【0036】
ところで、蓄冷器14の内部を加熱する加熱熱源は、水素吸蔵合金による水素吸蔵の平衡状態点を、水素を放出しやすい状態へ移行させるためのもので、蓄冷器14にヒータ等の加熱熱源(内部加熱熱源。図示省略。)を内蔵するようにしたり、図7図9に示すように、水素充填設備の排熱側を加熱熱源(外部加熱熱源)15とすることができる。
【0037】
ここで、水素充填設備の排熱側を加熱熱源(外部加熱熱源)15とする場合、図7図9に示すように、水素吸蔵合金の水素ガスの放出の際に、水素充填設備の排熱側から抽気した高温流体を水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14へ導き、熱交換後に排熱側に戻す回路を設けるようにしている。
ここで、水素充填設備の排熱側とは、水素充填設備において、排熱が放出される機器、具体的には、水素圧縮機の各クーラー、プレクール・チラー設備のクーラー等をいう。
これにより、外部熱源の利用が可能となり、水素ステーション全体の排熱利用分に相当するエネルギ効率の向上を図ることができる。
【0038】
そして、図7(a)及び図8(a)に示すように、水素充填設備の排熱側を加熱熱源(外部加熱熱源)15とすることに加えて、図7(b)及び図8(b)に示すように、タービン・コンプレッサのアフタークーラ(膨張タービン11のタービン11a側の入口部に設けた冷却器12)への排熱を一部利用することで、さらに全体システムとしての省エネルギ効果が得られる。
具体的には、図7(b)及び図8(b)に示すように、水素吸蔵合金の水素ガスの放出の際に、タービン・コンプレッサのアフタークーラ(膨張タービン11のタービン11a側の入口部に設けた冷却器12)への排熱側から必要量だけ抽気した高温流体を水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14へ導き、熱交換後にアフタークーラ出口側に戻す回路を設けることができる。
【0039】
ここで、加熱熱源は、高圧水素の膨張タービン式充填システムの実際の運用状況等に応じて、内部加熱熱源、外部加熱熱源、タービン・コンプレッサのアフタークーラ(膨張タービン11のタービン11a側の入口部に設けた冷却器12)への排熱を、適宜取捨選択することができる。
【0040】
ところで、膨張タービンで水素充填操作を行うような本システムにおいては、水素の充填量(流量)は、充填の後半(系の圧力が比較的高い場合)に低下していく。この充填の後半において、水素吸蔵合金に既に蓄えられた水素ガスを放出させ、充填に寄与させることで充填システムのより合理的な運用が可能になる。
水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器14に求められる効果は、一度水素吸蔵合金内に吸蔵した水素を高圧状態において、再度放出することを主に利用してプロセス上の優位性を目的としている。
この場合、水素吸蔵合金に吸蔵された水素を、プロセス側へ放出させるには、水素吸蔵の平衡状態点を、より水素を放出しやすい状態へ移行させる必要があり、それには圧力を降下させるか、温度を上げる必要がある。ところが、充填の後半は系内の圧力は比較的高いため、吸蔵合金をほぼ同じ温度を保ちながら効果的に放出させるには、内部加熱熱源や外部加熱熱源で加熱する必要がある。この熱量を適切に与えることで、その圧力、温度における水素の充填量(流量)を、水素吸蔵合金から放出した水素の分だけ増加させ、充填速度を高めることができる。
【0041】
蓄冷器14は、図7(a)及び(b)に示すように、すべて水素吸蔵合金を内蔵させて構成するようにするほか、図8(a)及び(b)に示すように、これに、上述の他の蓄冷体を内蔵させた従来型の蓄冷器16を組み合わせて、大半は通常型の蓄冷器16で機能させ、水素が過剰又は不足する場合に、水素吸蔵合金を内蔵させた蓄冷器14を使用し、水素供給バランスを最適にするようにすることもできる。
また、図9に示すように、水素吸蔵合金を内蔵させた蓄冷器14を2基組み合わせた回路構成とすることで、さらに広い運転条件に対応できるようにすることもできる。この場合、例えば、片方の蓄冷器14で水素吸蔵運転しながら、片方の蓄冷器14で水素放出(加圧運転)が可能であり、充填プロセスにおいてそれぞれの最適な水素の充填量(流量)を供給可能とするものである。
【0042】
本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムを、水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムに適用することによって、従来の水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムの課題を、以下のとおり解決することができる。
課題1)については、膨張タービン自体の稼働には外部電力を必要としないため、従来の水素プレクールシステムの運転コスト(電気代)に対して、ほとんど電力は必要としない。
課題2)については、冷媒が存在しないので、別個には冷凍則にかからないシステムとなる。水素ステーション全体の高圧ガス保安法のなかで対処することができる。
課題3)については、フロン冷媒やブライン自体が存在しないので、環境事故に対するリスクはなくなる。
課題4)については、かなりシンプルなシステム構成となるため、運転コストのみならず保守コストも大幅に低減できる。
課題5)については、膨張タービンの起動と同時に温度降下状態が作れるため、系内の時定数が非常に小さい。事前起動の時間はわずかになる。
課題6)については、膨張タービンのコールドボックスのみでよいので大幅な省スペース化が図れる。従来のものに対して体積比率で10%程度になる。
課題7)については、膨張タービンを複数台組み合わせたり、最適な流量の膨張タービンを用いることにより、容易に設備流量を増加させることができ、大きなプレクール冷却器なしに、大型の燃料電池バスやトラックの充填設備を構成することが可能である。
課題8)については、膨張タービンの出口に水素吸蔵合金を内蔵した蓄冷器を設けることにより、膨張タービンの膨張比が高い充填の初期段階における水素ガスの温度降下の度合いを緩和、平滑化して、水素ガス供給ユニットの構成部材に汎用の部材を用いることを可能にし、設備コストが上昇することを防止することが可能になり、さらに、スムースで効率的な充填(充填時間の短縮)や、設備のエネルギの利用効率の向上を図ることができる。
さらに、膨張タービンにタービン・コンプレッサを用いることにより、膨張機において発生するエネルギを取り出し、有効利用する手段を別途設ける必要がなく、さらに、膨張タービン側にて得られた回転エネルギを利用してコンプレッサ側にて水素ガスの圧力を上昇させて、タービン入口へ導かれるようにすることによって、コンプレッサで昇圧された分、タービンの膨張比が大きくなり、より多くの熱落差(=寒冷発生量)を得るようにすることができる。
【0043】
以上、本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムについて、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムは、構成が簡易で、保守管理役務の負担が少なく、消費電力のコストを含む運転コストを低廉にでき、水素ガス供給ユニットの構成部材に汎用の部材を用いることができ、さらに、スムースで効率的な充填(充填時間の短縮)や、設備のエネルギの利用効率の向上を図ることができるという特性を有していることから、水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムの用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 圧縮機設備
2 水素蓄圧設備
3 膨張弁
4 水素ガスプレクーラ
5 水素プレクールシステム
6 燃料タンク(タンク)
7 冷凍機設備
8 ブライン回路
9 水素ガス源ライン
10 高圧水素の膨張タービン式充填システム
11 膨張タービン(タービン・コンプレッサ)
11a タービン
11b コンプレッサ
12 冷却器(アフタークーラ)
12a 冷熱源
13 水素ガス供給ユニット
14 蓄冷器
15 加熱熱源(外部加熱熱源)
16 蓄冷器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9