【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0039】
<調製例1:小麦たん白分解物粉末および各種画分の調製>
水に分散させた小麦たん白をプロペラミキサーにセットして撹拌しながら、ウォーターバスで加温した。液温が50℃に達したとき、エンド型プロテアーゼ(対小麦たん白0.1%量)を投入し、50℃にて1時間分解した。分解後、遠心分離にて上澄みを回収し、上澄み液をpH5.0にpH調整した。pH調整後、液温を70℃まで昇温し、70℃にて30分間プロペラミキサーで攪拌しながら酵素を失活させた。失活後、液温を50℃まで冷却してから活性炭を投入し、精製した。精製終了後、珪藻土濾過し、水溶性部分を回収した。回収後、80℃で30分間加熱殺菌してから、スプレードライにより粉末化した。得られた粉末を、調製例1の小麦たん白分解物粉末とした。
【0040】
調製例1の小麦たん白分解物粉末について、ゲル濾過担体を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、分子量分布(重量平均分子量(Mw)基準)を測定した。分子量(MW)マーカーとして、ウシ血清アルブミン(BSA)(分子量66,338)、オボアルブミン(分子量45,000)、β−ラクトグロブリン(分子量35,000)、ミオグロビン(分子量17,000)、シトクロームC(分子量12,000)、アプロチニン(分子量6,511)、ビタミンB12(分子量1,355)の7種類を使用した。HPLCの測定条件は、カラム:Superdex75 10/300GL(GEヘルスケア社製)、溶離液:0.05M Na−Pi(pH6.4)(0.15M NaClを含有)、温度:室温、流速:0.5ml/分、検出:UV214nm、注入:100μl、試料:0.1mg/mlとした。
【0041】
クロマトグラムのチャートから、分子量17,000を境界にして高分子量領域(「A」:分子量(Mw)17,000〜66,338)と低分子量領域(「B」:分子量(Mw)1,355〜17,000)とを決定し、ImageJ解析ソフトを用いて各領域の面積を求め、高分子量領域(A)の低分子量領域(B)に対する面積比(A/B)を算出した(小数点第4位以下を四捨五入して小数点第3位までで求めた)。
【0042】
なお、別途入手した小麦たん白分解物1粉末についても、同様に分子量分布(重量平均分子量(Mw)基準)を測定した。
【0043】
調製例1の小麦たん白分解物粉末および小麦たん白分解物1粉末のそれぞれの分子量分布のクロマトグラムのチャートを
図1および2に示す。
【0044】
図1は、調製例1の小麦たん白分解物粉末について、上記HPLCにより得られたクロマトグラム(a)を示す。クロマトグラムのベースラインを、ピークの立ち上がりが最初に観察された時点(変曲点p)と、横軸(保持時間軸)最大値の60分間内に表されるクロマトグラム曲線の極小値のうち最も低い値を示す点(点q)とを通る直線として作成した。
図1(b)に示すように、クロマトグラムにおいて、境界分子量17,000のマーカー位置にて保持時間軸(横軸)に対して付した垂線(境界分子量マーカー垂線)とクロマトグラム曲線またはベースライン(破線にて示す)との各交点10および12、そして最大分子量66,338のマーカー位置にて保持時間軸(横軸)に対して付した垂線(最大分子量マーカー垂線)とクロマトグラム曲線またはベースラインとの各交点20および22を設定し、次いで、交点10と交点12との間の垂線14と、交点12と交点22との間のベースライン50と、交点20と22との間の垂線24と、交点10と20との間のクロマトグラム曲線40とで囲まれた領域(点線部の領域「A」)を「高分子量領域」として決定した。同様に、クロマトグラムにおいて、上記境界分子量マーカー垂線上の交点10および12に加えて、最小分子量1,355のマーカー位置にて保持時間軸(横軸)に対して付した垂線(最小分子量マーカー垂線)とクロマトグラム曲線またはベースラインとの各交点30および32を設定し、次いで、交点10と交点12との間の垂線14と、交点12と交点32との間のベースライン52と、交点30と32との間の垂線34と、交点10と30との間のクロマトグラム曲線42とで囲まれた領域(斜線部の領域「B」)を「低分子量領域」として決定した。
【0045】
図2においても、
図1の場合と同様にしてベースラインを作成した。
図2では、
図1の場合と同様にして高分子量領域(
図2(b)中の点線部の領域「A」)および低分子量領域(
図2(b)中の斜線部の領域「B」)を決定した。
【0046】
図1に示されるように、調製例1の小麦たん白分解物粉末は、1,355〜66,338の分子量範囲の中にピークを有し、面積比(A/B)は0.341であった。
図2に示されるように、小麦たん白分解物1粉末は、1,355〜66,338の分子量範囲の中にピークを有したが、面積比(A/B)は0.226であった。
【0047】
(検討例1:各種分子量画分のペプチドでの水融点の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末を、限外濾過で分画し、以下の分子量の画分のペプチドをそれぞれ得た:分子量10000ダルトン未満;分子量10000〜30000(30000は含まず)ダルトン;分子量30000ダルトン以上(重量平均分子量(Mw)基準)。
【0048】
これらの画分のペプチドについて、水と混合し、混合物全体の重量に対してペプチドの濃度が1重量%となるような水混合物を得た。示差走査熱量計(DSC)にて各水混合物のDSC曲線を測定し、融点を算出した。この結果を以下の表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
この結果、分子量(Mw)30000ダルトン以上の画分のペプチドで高い融点上昇が確認された。
【0051】
(実施例1:分子量分布の異なる小麦たん白分解物での水融点の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末中の全ペプチドに対し、分子量分布における30000ダルトン以上の重量平均分子量(Mw)を有するペプチド画分の割合(%)を限外濾過により決定した。調製例1の小麦たん白分解物粉末においては、分子量分布における30000ダルトン以上の重量平均分子量(Mw)を有するペプチド画分が43%(≧10%)であった。
【0052】
小麦たん白分解物1粉末について、上記と同様に分子量分布における30000ダルトン以上の重量平均分子量(Mw)を有するペプチド画分の割合(%)を決定したところ、その割合は、9%(<10%)であった。
【0053】
調製例1の小麦たん白分解物粉末および小麦たん白分解物1粉末をそれぞれ、水と混合し、混合物全体の重量に対してたん白分解物の濃度が1重量%となるように水混合物を得た。DSCにて各水混合物のDSC曲線を測定し、融点を算出した。この結果を以下の表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
この結果、調製例1の小麦たん白分解物粉末および小麦たん白分解物1粉末ともに、無添加の場合に対する融点の上昇を確認した。Mw30000ダルトン以上のペプチド画分を10%以上にて含む調製例1の小麦たん白分解物粉末を用いた場合、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分が10%未満である小麦たん白分解物1粉末よりも、顕著に高い融点上昇を確認した。
【0056】
(実施例2:各種植物性のたん白分解物での水融点の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末および大豆たん白分解物粉末(ペプチド分子量(Mw)1355〜67000ダルトン)をそれぞれ、水と混合し、混合物全体の重量に対してたん白分解物の濃度が1重量%となるように水混合物を得た。DSCにて各水混合物のDSC曲線を測定し、融点を算出した。この結果を表3および
図3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
(実施例3:各種植物性のたん白分解物での氷菓子融点の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末および大豆たん白分解物粉末(ペプチド分子量(Mw)1355〜67000ダルトン)をそれぞれ、アイスミックス100重量部(原料の組成:牛乳60重量部、生クリーム2重量部、脱脂粉乳10重量部、グラニュー糖13重量部、卵黄5重量部、水8.95重量部、乳化安定剤1重量部、およびバニラ香料0.05重量部を含む(計100重量部):以下の実施例においても同じアイスミックスを用いた)に対し、たん白分解物が0.3重量部となるようにこれらを混合し、氷菓子を製造した。氷菓子の製造は、以下のように行った(温度は製造工程中の氷菓子原料を含む混合物の温度を示す)。小麦たん白分解物とアイスミックスとを混合して45℃に加温し、溶解および混合した。得られた混合物をホモジナイズし、殺菌(68℃にて30分)した。殺菌後の混合物を5℃以下に冷却し、5℃以下で12時間以上置くことによりエージングし、次いで撹拌下で−5℃に急冷してフリージングした後、型に充填し、−15℃に急速冷凍し、氷菓子を得た。この氷菓子を融解させて得られた液状物を用いて、DSCにてそのDSC曲線を測定し、融点を算出した。この結果を表4および
図4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
実施例2および3の結果から、水混合物および氷菓子の両場合とも、植物性のたん白分解物の添加により、無添加の場合に対する融点の上昇を確認した。調製例1の小麦たん白分解物粉末において、他の植物性たん白分解物粉末と比べて高い融点上昇を確認した。
【0061】
(実施例4:調製例1の小麦たん白分解物粉末による氷の融解抑制および温度上昇抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末を、水と混合し、混合物全体の重量に対する当該小麦たん白分解物の濃度が所定の濃度(0.3重量%および1重量%)となるように水溶液(水混合物)を得た。この水溶液を凍結し、5℃環境下に静置した。この静置後から(静置開始時点を0分とした)、この凍結した水溶液の中心温度(「水中心温度」)を経時的に計測した。この結果を以下の表5および
図5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
この結果から、調製例1の小麦たん白分解物粉末を添加すると、氷の融解が抑制され、そして氷または融解で生じた水の温度上昇が緩やかになっていたことが判明した。
【0064】
(実施例5:調製例1の小麦たん白分解物粉末による氷菓子の融解抑制および温度上昇抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末を、アイスミックス100重量部に対して当該小麦たん白分解物が0.1重量部または0.3重量部となるように混合したこと以外は、実施例3と同様にして氷菓子を製造した。得られた氷菓子を5℃環境下に静置し、静置後からの氷菓子の中心温度(「氷菓子中心温度」)を経時的に計測した。この結果を以下の表6および
図6に示す。
【0065】
【表6】
【0066】
この結果から、調製例1の小麦たん白分解物粉末を添加すると、氷菓子の融解が抑制され、そして氷菓子の温度上昇が緩やかになっていたことが判明した。
【0067】
(実施例6:分子量分布の異なる小麦たん白分解物での氷の融解抑制および温度上昇抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末および小麦たん白分解物1粉末のそれぞれについて、
水と混合し、混合物全体の重量に対して小麦たん白分解物の濃度が1重量%となるように水溶液(水混合物)を得た。この水溶液を凍結し、5℃環境下に静置した。この静置後から水中心温度を経時的に計測した。この結果を以下の表7および
図7に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
この結果から、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分を10%以上にて含む調製例1の小麦たん白分解物粉末を用いた場合、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分が10%未満である小麦たん白分解物1粉末よりも氷の融解が抑制され、そして氷または融解で生じた水の温度上昇が緩やかになっていたことが判明した。
【0070】
(実施例7:調製例1の小麦たん白分解物粉末による氷菓子の融解抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末を、アイスミックス100重量部に対して当該小麦たん白分解物が0.1重量部または0.3重量部となるように混合したこと以外は、実施例3と同様にして氷菓子を製造した。この氷菓子50gを室温(23℃)に静置し、この静置後から所定時間経過後の氷菓子の融解量(重量(g))を計測した。この結果を以下の表8および
図8に示す。
【0071】
【表8】
【0072】
示されるように、調製例1の小麦たん白分解物粉末を添加すると、氷菓子の融解が抑制され、そして溶けにくくなった。
【0073】
(実施例8:各種植物性のたん白分解物による氷菓子の融解抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末および大豆たん白分解物粉末のそれぞれを用いて、実施例3と同様にして氷菓子を製造した。この氷菓子10gを室温(23℃)に静置し、この静置後から所定時間経過後の氷菓子の融解量(重量(g))を計測した。この結果を以下の表9および
図9に示す。
【0074】
【表9】
【0075】
この結果、植物性のたん白分解物の添加により、無添加の場合に対する氷菓子の融解が抑制されたことを確認した。調製例1の小麦たん白分解物粉末を用いた場合、他の植物性たん白分解物粉末と比べて、氷菓子の融解抑制の程度が高いことを確認した。
【0076】
(実施例9:分子量分布の異なる小麦たん白分解物による氷菓子の融解抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末、小麦たん白分解物1粉末および調製例1の小麦たん白分解物粉末より限外濾過で分画した分子量(Mw)30000ダルトン以上のペプチド画分(調製例2)のそれぞれを、アイスミックス100重量部に対し0.3重量部にて混合したこと以外は、実施例3と同様にして氷菓子を製造した。この氷菓子10gを室温(23℃)に静置し、この静置後から所定時間経過後の氷菓子の融解量(重量(g))を計測した。この結果を以下の表10および
図10に示す。
【0077】
【表10】
【0078】
この結果、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分を10%以上にて含む調製例1の小麦たん白分解物粉末を用いた場合、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分が10%未満である小麦たん白分解物1粉末よりも、氷菓子の融解抑制の程度が高いことを確認した。Mw30000ダルトン以上のペプチド画分を用いた調製例2の場合、氷菓子融解抑制の程度がより一層高まった。たん白分解物全体におけるMw30000ダルトン以上のペプチド画分の割合が高いほど、氷菓子の融解抑制の程度が高まることを確認した。