(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-82305(P2020-82305A)
(43)【公開日】2020年6月4日
(54)【発明の名称】バフ及びバフ研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24D 13/14 20060101AFI20200508BHJP
B24B 23/00 20060101ALI20200508BHJP
B24B 19/26 20060101ALN20200508BHJP
【FI】
B24D13/14 B
B24B23/00 A
B24B19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-223260(P2018-223260)
(22)【出願日】2018年11月29日
(71)【出願人】
【識別番号】391059702
【氏名又は名称】ケヰテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068663
【弁理士】
【氏名又は名称】松波 祥文
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸嗣
【テーマコード(参考)】
3C049
3C063
3C158
【Fターム(参考)】
3C049AA06
3C049CB01
3C063AA06
3C063AB05
3C063AB07
3C063BA02
3C063BE03
3C063BE12
3C063FF30
3C158AA06
3C158CB01
(57)【要約】
【課題】 バフ研磨において、仕上げ研磨に先立つ肌調整用バフとして、汎用の繊維素材を用いて、ペーパー目や研磨傷などの欠陥を消去する研削力に優れたバフとバフ研磨方法の提供。
【解決手段】 研磨面側より見た回転方向が反時計回りである研磨具の回転円盤に取付けるバフであって、被研磨面に接触するバフ研磨面が、左綾の織物面110であることを特徴とする綾織物から成るバフ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨面側より見た回転方向が反時計回りである研磨具の回転円盤に取付けるバフであって、被研磨面に接触するバフ研磨面が、左綾の織物面であることを特徴とする綾織物から成るバフ。
【請求項2】
研磨面側より見た回転方向が時計回りである研磨具の回転円盤に取付けるバフであって、被研磨面に接触するバフ研磨面が、右綾の織物面であることを特徴とする綾織物から成るバフ。
【請求項3】
研磨面側より見た回転方向が反時計回りである研磨具の回転円盤に、綾織物から成るバフを、被研磨面に接触するバフ研磨面が左綾の織物面となるように取付けて研磨を行うことを特徴とするバフ研磨方法。
【請求項4】
研磨面側より見た回転方向が時計回りである研磨具の回転円盤に、綾織物から成るバフを、被研磨面に接触するバフ研磨面が右綾の織物面となるように取付けて研磨を行うことを特徴とするバフ研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの塗装表面や樹脂成形品表面などのバフ研磨に用いるバフ及びバフ研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装表面の仕上げとして表面光沢を与えるために、各種の回転型ポリッシャを用いて塗装表面のバフ研磨を行うことが広く行われている。塗装表面の仕上げ研磨は、表面を滑らかな均一の光沢表面に仕上げるために行うもので、一般の金属成形品の鏡面仕上げと異なり、表面は柔軟な樹脂で構成されており、バフ研磨により表面光沢を付与するためには回転型ポリッシャに装着するバフが重要な役割を果たし、各種のバフが使用されている。バフとしては、繊維素材によるバフ及びスポンジ素材によるバフなどが単独又は併用して用いられている。繊維素材によるバフとしては、基布に各種の繊維糸にて有毛としたパイル織布等が用いられ、優れた研磨力と残る傷の均一性を持つので次工程のスポンジバフにて表面光沢が得られるためバフ研磨に広く用いられている。繊維素材としては、ウール(羊毛)、綿、絹などの天然繊維や各種の再生繊維や合成繊維が用いられ、ウールバフ、綿バフなどとして用いられている。
【0003】
塗装表面や樹脂成形品表面の仕上げ工程として行われるバフ研磨は、塗装表面の突起や凹部などの欠陥を修正するペーパー掛け工程に続いて行われ、このペーパー掛けにより生じたペーパー目を消しながら、表面光沢を付与するために行われる。そのため、バフ研磨では表面光沢を得るために、塗装表面に既に存在している研磨傷を研削して消去し、新たに発生する研磨傷はより細かく、より小さくすることで表面光沢を付与する。
【0004】
良好なバフ研磨を実現するために、繊維素材を用いたバフでは種々のパイル織物や編物が提案されている。例えば、特許文献1には、特定の偏平度の偏平断面をもつレーヨン繊維によるマルチフィラメント糸をパイル糸として用いたカットパイル群やループ群を組み合わせて起毛した織物や編物によるバフが提案され、特許文献2には、ウール製のカットパイルを備えたパイル織物とウレタンフォームラバーとを組み合わせた布被覆バフが示されている。
【0005】
工夫された繊維素材によるバフは、研磨作業により発生する研磨傷が細かく均一で、次に続くスポンジバフによって良好な表面光沢を得ることができるため、バフ研磨における初期研磨としての肌調整によく使用される。しかし、噛み込んだ傷を付けないように工夫された通常の繊維素材によるバフは、塗装表面に既に存在しているペーパー目や研磨傷などの欠陥を消去する研削力が小さいため、この研削力を高め、研磨効率を上げることが望まれていた。
【0006】
一方、バフ研磨材用に特別に構成した繊維素材ではなく、ジーンズなどに使用されるデニム生地などの綾織物(斜文織物)は厚手の生地が得られるためバフとして用いることが行われている。しかし、前記した塗装表面に既に存在しているペーパー目や研磨傷などの欠陥を消去する研削力や、研磨効率の点では必ずしも十分ではなく広く用いられるバフではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−235564号公報
【特許文献2】特開平10−15834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、バフ研磨において、仕上げ研磨に先立つ肌調整用バフとして、汎用の繊維素材を用いて、ペーパー目や研磨傷などの欠陥を消去する研削力に優れたバフとバフ研磨方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、研削力の優れたバフを得るために、綾織物を用いて種々検討を行った結果、綾織物の綾目(斜文線)の流れる方向と回転型ポリッシャの回転盤の回転方向を組み合わせることにより、研削力に優れたバフ研磨ができることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
本発明のバフは、綾織物から成り、研磨面側より見た回転方向が反時計回りである研磨具の回転円盤に取付けるバフであって、被研磨面に接触するバフ研磨面が、左綾の織物面であることを特徴とする。また、同様に綾織物から成り、研磨面側より見た回転方向が時計回りである研磨具の回転円盤に取付けるバフにおいては、被研磨面に接触するバフ研磨面が、右綾の織物面であることを特徴とする。
【0011】
そして、バフ研磨方法は、研磨面側より見た回転方向が反時計回りである回転型ポリッシャの回転円盤に、綾織物から成るバフを、被研磨面に接触するバフ研磨面が左綾の織物面となるように取付けて研磨を行うことを特徴とする。また、研磨面側より見た回転方向が時計回りである回転型ポリッシャの回転円盤に、綾織物から成るバフを、被研磨面に接触するバフ研磨面が右綾の織物面となるように取付けて研磨を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明における綾織物は、斜文織物とも称され、織物の経糸(タテ糸)と緯糸(ヨコ糸)が交差する組織点において、経糸が複数の緯糸の上に浮いて交差し構成している織物であり、経糸が2本の緯糸の上に浮き、1本の緯糸の下となり交差させた織物が「三つ綾」、3本の緯糸の上を、1本の緯糸の下の場合を「四つ綾」などと称される。そして、経糸が上に浮いた組織点は、織物表面で斜線状に現れ、この斜線が綾目(斜文線とも称する)であり、経糸を上下方向にした場合、綾目の方向が右下から左上に流れている綾織物を左綾、左下から右上に流れている綾織物を右綾と称する。
【0013】
図1〜3に綾織物の交差構造を模式図で示している。これらの図において、経糸101が2本の緯糸102の上に浮いて綾目組織点103となり、次いで経糸101は1本の緯糸102の下を通り、上になった部分の緯糸102は綾目間隙点104となり、さらに経糸101は2本の緯糸の上に浮いて綾目組織点103となるという交差構造の綾織物を示している。
図1と
図2は夫々左綾と右綾の織物面の平面模式図であり、経糸101を上下方向に、緯糸102を水平方向にして示しており、
図1は経糸101から成る綾目組織点103で構成される綾目の方向が右下から左上に流れ、左綾目105を構成している左綾の織物面110の平面模式図であり、
図2は綾目の方向が左下から右上に流れ、右綾目106を構成している右綾の織物面120の平面模式図である。
【0014】
図3は交差構造の側面模式図であり、経糸101が1本の緯糸102の下を通り、次いで2本の緯糸102の上に浮いた後、再び1本の緯糸102の下を通る交差構造を示している。緯糸102から成る綾目間隙点104は、上に浮いた経糸101から成る綾目組織点103より低い位置となり、綾織物から成るバフでは、バフ研磨に際して被研磨面を研磨するのは、専ら綾目組織点103が担うことになる。
【0015】
本発明者は、綾織物から成るバフについて種々検討の結果、前記したように、研磨面側より見た回転方向が反時計回りである研磨具の回転円盤に取付けるバフは、被研磨表面に接触する研磨面が左綾の織物面であるバフが、塗装面のペーパー目や研磨傷などの欠陥を消去する研削力に優れていることを見出したものである。
【0016】
バフ研磨に用いられる回転型ポリッシャの回転盤は、研磨面側より見た回転方向が反時計回りであることが多いが、時計回りである場合もあり、この場合は前記のようにバフの被研磨表面に接触する研磨面は右綾の綾織物面であるバフが研削力に優れている。
【発明の効果】
【0017】
以上の通り、本発明の綾織物から成るバフは、汎用の繊維素材を用いたバフであって、塗装面のペーパー目や研磨傷などの欠陥を消去する研削力の向上したバフであり、広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】反時計回りの回転盤に取付けられるバフの研磨面となる左綾の織物面の平面模式図。
【
図2】時計回りの回転盤に取付けられるバフの研磨面となる右綾の織物面の平面模式図。
【
図4】バフを取り付けた回転型ポリッシャの側面説明図。
【
図5】研磨作業中の回転型ポリッシャの側面説明図。
【
図6】反時計回りの回転盤に取付けられた左綾の綾織物の綾目組織点が研磨時に受ける力の模式説明図。
【
図7】同上回転盤に取付けられた右綾の綾織物の綾目組織点がバフ研磨時に受ける力の模式説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態につき、以下さらに説明する。
【0020】
本発明のバフは回転型ポリッシャに取付けられて、バフ研磨に供されるが、
図4に綾織物からなるバフ201が取り付けられた回転型ポリッシャ200の側面説明図を示す。バフ201は、回転型ポリッシャ200の本体205に内蔵するモータからの駆動力を出力する駆動軸203に固定された回転円盤202に取付けられている。
図5では、駆動軸203は時計回り(右回り)の回転とすると、研磨面側から見た回転円盤202の回転方向は反時計回りであり、左綾の織物面110を前面にして取り付けている。バフ201は、綾織物単独又は軟質ゴムやスポンジなどで構成されるクッション材との組み合わせから成り、面ファスナーなどから成る取り付け部材により回転円盤202に着脱自在に取付けられるが、被研磨面に接触して研磨作用をする前面は左綾の織物面110で構成されている。そして、
図5に示すように、回転型ポリッシャ200による研磨作業は、作業者がメイングリップ206を掴み、左綾の綾織物面110を被研磨面210に押し付けて行うが、研磨作業は回転円盤202を高速で回転させて行うため、駆動軸203に連結している中心近傍以外は回転円盤全面が研磨に供される。
【0021】
図4、5では、回転型ポリッシャ200としては、回転円盤202を単純な回転運動をさせて研磨を行うシングル回転型ポリッシャを示したが、出力軸203の中心から偏心した位置に回転円盤の回転軸中心を設置し、回転円盤202の回転運動を不規則かつ複雑な運動とするランダムアクションポリッシャでも、回転円盤202の回転方向は同じであり、本発明のバフは適用可能である。
【0022】
綾織物からなるバフにおいて、バフ研磨における研削力が、バフを取り付ける回転円盤の回転方向とバフ研磨面の綾目の方向との組み合わせに依存するのは、次のような作用機構のためと考えられる。
【0023】
先に
図1〜3で説明したように、綾織物から成るバフのバフ研磨面では、綾目を構成している経糸101から成る綾目組織点103は緯糸102の上になっており、左綾の織物面110でも、右綾の織物面120のいずれにおいても、バフ研磨に際して被研磨面を研磨する役割を担っている。そして、綾目組織点103の被研磨面への作用はこの綾目組織点の繊維側面により行われ、被研磨面である塗装面に作用して表面の欠陥を消去する研削が行われる。そのため、バフ研磨面の研削力を効率よく発揮させるためには、綾目組織点103の繊維側面に直交する方向、すなわち経糸の方向と直交する水平方向の力を有効に働かせることが必要である。そのためには、回転円盤の回転トルクにより発生する綾目組織点103の被研磨面に作用する研磨力に対する被研磨面よりの反作用力を、綾目組織点103がしっかりと受け止めて、両方の力を拮抗させて、被研磨面への研磨作用力を有効に働かせる必要がある。被研磨面からの反作用力を綾目組織点103(ないしはその集合である綾目105)が受け止められない場合には、被研磨面に加える研磨力も減少してしまうため、被研磨面である塗装面の研削量が十分ではなく、塗装面の欠陥を充分に消去できない。従って、被研磨面よりの反作用力を繊維側面にてしっかり受け止める構成となっていることがポイントとなる。
【0024】
図6、7により、綾目組織点の繊維側面がバフ研磨時に受ける力を説明する。いずれの図も研磨面側から見た回転円盤の回転方向Lは反時計回りであり、
図6はバフ研磨面が左綾の織物面であり、
図7は右綾の織物面である。いずれの図も綾目組織点は模式的に示しており、拡大して示した綾目組織点により回転円盤上に無数存在する綾目組織点を代表させている。回転円盤に綾織物から成るバフを取り付けた円形研磨面の回転中心点を原点Oとし、直交座標のy軸とx軸とにより第一象限から第四象限に分割している。第一象限と第三象限、第二象限と第四象限は中心点Oを対象の中心とした点対称となるため、第一象限と第二象限について綾目組織点が研磨作業時に受ける力を以下に説明する。
【0025】
図6において、各綾目組織点のうち、第一象限に属するものを綾目組織点113として実線の斜線で塗りつぶして示し、第二象限に属するものを綾目組織点123として点線の斜線で塗りつぶしして示し、x軸上の綾目組織点はベタ黒に塗りつぶしている。そして、バフ研磨面の回転方向Lは、原点Oを回転中心として、反時計回りで回転している。
【0026】
第一象限に属する綾目組織点113の中から、原点Oから組織点中央部までの距離がr1、r2、r3の3個の綾目組織点を選び、各綾目組織点113の中央部において、バフを取り付けた回転円盤の回転トルクにより生じる研磨作用力を矢印f1
、f2、f3として示した。各綾目組織点113は経糸101から構成されており、その繊維方向は図の上下方向となっている。従って、研磨作用力f1、f2、f3はそれぞれの綾目組織点中央部と原点Oとを結ぶ中心線と直交する方向に働くが、各綾目組織点113において上下方向の経糸101から成る繊維側面が、被研磨面に作用する研磨作用力が最も効率よく働く方向は、この繊維側面に直交する方向であり図の右から左への水平方向となり、研磨作用力f1、f2、f3の水平成分は矢印f1h、f2h、f3hで示される。そして、この各水平成分f1h、f2h、f3hに対する被研磨面からの反作用力は点線で示す矢印g1h、g2h、g3hで示され、左から右へ向かう水平方向となる。尚、ベタ黒で塗りつぶしたx軸上の綾目組織点では、繊維側面に直交する方向には回転円盤の回転トルクによる力は働かないため、考慮の対象とはならない。
【0027】
同様に、第二象限に属する綾目組織点123の中から、原点Oから綾目組織点中央部までの距離がr4、r5、r6の3個の綾目組織点を選び、各綾目組織点123の中央部において、バフを取り付けた回転円盤の回転トルクにより生じる研磨作用力を矢印f4、f5、f6として示した。各綾目組織点123も経糸101から構成されており、その繊維方向は図の上下方向となっている。また、研磨作用力f4、f5、f6の働く方向は、研磨作用力f1、f2、f3と同様であり、各綾目組織点123の繊維側面が、被研磨面に作用する研磨作用力f4、f5、f6の水平成分は矢印f4h、f5h、f6hで示され、この各水平成分f4h、f5h、f6hに対する被研磨面からの反作用力も同様に点線で示す矢印g4h、g5h、g6hで示され、左から右へ向かう水平方向となる。
【0028】
上記したように、各綾目組織点の繊維側面がそれぞれ個別に水平方向で受ける被研磨面からの反作用力は、第一象限では反作用力g1h、g2h、g3hなどであり、第二象限では反作用力g4h、g5h、g6hなどであり、いずれも左から右への水平方向に作用する。しかし、バフ研磨面は左綾の織物面であり、各綾目組織点113、123では、個別の綾目組織点の右側側面の下半分は、右側に存在する綾目組織点の左側側面の上半分と接しているが、右側側面の上半分は、
図3に示したように低い位置に存在する綾目間隙点104となっているために、左から右への水平方向に働く反作用力g1h〜g6hを上半分は支えることができず、右側に存在する綾目組織点の左側側面の上半分と接している下半分が支えることになり、右側側面の下半分と左側側面の上半分とが連続して形成する綾目105が受けることになり、
図6に示すように右下がりの力として順次合算され、白抜きの矢印Ga、Gb、Gc、Gd、Ge、Gfなどとして示すように左上から右下の方に向かう合力となり、綾目105はこの合力を受けることになる。
【0029】
第三象限と第四象限は、それぞれ第一象限と第二象限とは中心点Oを対象の中心とした点対称となるため、合力Ga〜Gfの中心点Oを対象の中心として点対称の方向の合力が第三象限と第四象限では存在することになり、
図6に示すように、この合力は左上がりの力として、白抜きの矢印で示すように右下から左上に向かう合力となる。そのため、これらの合力はx軸を境にして、第一象限と第二象限の合力と互いに押し合うことになり、被研磨面からの反作用力を綾目組織点の集合である綾目がしっかりと受け止めることになり、研磨力を充分に発揮できることになる。
【0030】
そのため、研磨面側より見た回転方向が反時計回りである研磨具の回転円盤に、左綾の織物面をバフ研磨面として取り付ける綾織物から成るバフは十分な研削力を発揮することができる。
【0031】
一方、
図7においても
図6と同様に、各綾目組織点のうち、第一象限に属するものを綾目組織点113として実線の斜線で塗りつぶして示し、第二象限に属するものを綾目組織点123として点線の斜線で塗りつぶしして示し、バフ研磨面の回転方向Lは、原点Oを回転中心として、反時計回りで回転しているが、
図7では各綾目組織点で形成される綾目は右綾106であり、綾目の方向は左下から右上に流れている。
【0032】
図7でも
図6と同様にして、原点Oから各綾目組織点中央部までの距離r7〜r12の綾目組織点を選び、それぞれの綾目組織点の繊維側面に垂直に働く被研磨面からの反作用力を点線の矢印g7h〜g12hで示した。各反作用力g7h〜g12hは
図6の場合と同様に左から右へ向かう水平方向となる。しかしながら、
図7では、バフ研磨面は右綾の織物面であり、各綾目組織点113、123では、個別の綾目組織点の右側側面の上半分は、右側に存在する綾目組織点の左側側面の下半分と接しているが、右側側面の下半分は、綾目間隙点104となっているために、左から右への水平方向に働く反作用力g7h〜g12hを下半分は支えることができず、右側に存在する綾目組織点の左側側面の下半分と接している上半分が支えることになり、右側側面の上半分と左側側面の下半分とが連続して形成する綾目106が受けることになり、
図7に示すように右上がりの力として順次合算され、白抜きの矢印Gg、Gh、Gi、Gj、Gk、Glなどとして示すようにx軸から右上の方向に向かう合力になる。
【0033】
そして、第三象限と第四象限は、それぞれ第一象限と第二象限とは中心点Oを対象の中心とした点対称となるため、合力Gg〜Glの中心点Oを対象の中心として点対称の方向の合力が第三象限と第四象限では存在することになり、
図7に示すように左下がりの力として、白抜きの矢印で示すようにx軸から左下に向かう合力となる。そのため、これらの合力はx軸を境にして、第一象限と第二象限の合力と互いにすれ違うことになり、被研磨面からの反作用力を綾目組織点の集合である綾目がしっかりと受け止めることができず、反作用力と拮抗する大きさの研磨力を減少させてしまうことになる。
【0034】
そのため、研磨面側より見た回転方向が反時計回りである研磨具の回転円盤に、右綾の織物面をバフ研磨面として取り付ける綾織物から成るバフは十分な研削力を持つことができない。
【0035】
以上のような作用機構により、綾織物からなるバフにおいて、バフ研磨における研削力が、バフを取り付ける回転円盤の回転方向とバフ研磨面の綾目の方向との組み合わせに依存するため、回転円盤の回転方向が時計回りの場合には、バフ研磨面は右綾の織物面であることが、研削力に優れた綾織物から成るバフであることは、
図6、7についての説明から容易に理解できる。
【0036】
本発明の綾織物に用いられる繊維素材としては、特に限定されないが、ウール(羊毛)、綿、絹などの天然繊維や各種の再生繊維や合成繊維を用いることができる。また、綾織物では表の織物面が左綾であれば、裏の織物面は右綾となるため、右綾の綾織物(表が右綾)でも裏の繊維面をバフ研磨面として使用することにより、左綾の繊維面をバフ研磨面とすることができ、その逆も同様である。
【実施例】
【0037】
回転型ポリッシャの回転円盤の回転方向とバフ研磨面のとする綾織物の綾目を組み合わせて、その研削力を確認するために、バフ研磨作業による塗膜の研削量の測定を行い、次のような結果を得た。
1)試験用ボンネットに、特殊変性ポリエステル樹脂塗料(ロックペイント株式会社製、黒色、商品名プロタッチ)と、クリヤコートとしてクリヤ塗料(ロックペイント株式会社製、商品名エコロックハイパークリヤー )を塗布し、遠赤外線ヒーターにて乾燥した塗装面に対して、回転型ポリッシャに綾織物から成るバフを取り付けて、コンパウンド(粒径10〜20μm)(ケヰテック社製 商品名 0II fineBL)を用いて、ポリッシャの回転盤の回転方向を、研磨面側から見て反時計回り(出力軸の回転は時計回り)として研磨作業を行い、バフ研磨後の塗膜の膜厚の減少量を測定し、次の結果を得た。
綾目の方向 右綾 左綾
減少量 7.39μm 8.12μm
2)コンパウンドを粒径5μm前後(ケヰテック社製 商品名 1st BL)に変更したほかは1)と同様にして膜厚の減少量を測定し、次の結果を得た。
綾目の方向 右綾 左綾
減少量 1.66μm 5.55μm
3)ポリッシャの回転盤の回転方向を、研磨盤側から見て時計回り(出力軸の回転は反時計回り)として研磨作業を行う外は2)と同様にして膜厚の減少量を測定し、次の結果を得た。
綾目の方向 右綾 左綾
減少量 4.62μm 1.84μm
4)試験用ボンネットの塗料を黒色塗料(BASF社製、商品名ダイヤモント)とクリヤコートとしてクロノトップクリヤ(商品名、BASF社製)を用いる他は1)と同様にして膜厚の減少量を測定し、次の結果を得た。
綾目の方向 右綾 左綾
減少量 4.55μm 5.54μm
以上の結果、回転盤の回転方向を反時計回りでバフ研磨を行った場合、バフ研磨面を左綾織物面としたものが、研磨力が良好であることが分かった。条件によって減少量は3倍ほどになることも分かった。
尚、4)の塗装面の塗膜硬度は1)、2)の塗膜面に比べ硬くなっており、減少量の差は小さくなっているが、左綾の織物面の方が優れていることが分かった。
一方、ポリッシャの回転方向を逆回転させ、回転円盤の回転方向を、研磨側から見て時計回りとした場合には、バフ研磨面を右綾織物面としたものが、研磨力が良好であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のバフ及びバフ研磨方法は、自動車の塗装面などのバフ研磨に好ましく利用できるが、合成樹脂成形品の鏡面化研磨にも応用できる。
【符号の説明】
【0039】
101 経糸 102 緯糸
103 綾目組織点 104 綾目間隙点
105 左綾目 106 右綾目
110 左綾の織物面 120 右綾の織物面
113 綾目組織点(第一象限) 123 綾目組織点(第二象限)
200 回転型ポリッシャ 201 バフ
202 回転円盤 203 駆動軸
205 本体 206 メイングリップ
210 被研磨面
r1〜r12 原点Oと組織点中央部との距離
f1〜f12 回転円盤の回転トルクによる研磨作用力
f1h〜f12h 研磨作用力の水平成分
g1h〜g12h 反作用力
Gg〜Gl 反作用力の合力