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特開2020-82583グリーンタイヤの成型方法及び空気入りタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-82583(P2020-82583A)
(43)【公開日】2020年6月4日
(54)【発明の名称】グリーンタイヤの成型方法及び空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/30 20060101AFI20200508BHJP
【FI】
   B29D30/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-222716(P2018-222716)
(22)【出願日】2018年11月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 真
【テーマコード(参考)】
4F215
【Fターム(参考)】
4F215AH20
4F215AP01
4F215AR07
4F215VA02
4F215VA15
4F215VD01
4F215VK33
4F215VL13
4F215VL14
4F215VP25
4F215VQ04
4F215VQ11
4F215VR01
4F215VR03
(57)【要約】
【課題】トレッドバンドを把持する把持装置の大型化を抑制しつつ、空気入りタイヤのRFV特性を低減させる。
【解決手段】グリーンタイヤ1の成型方法は、ベルト7、トレッドゴム9を含む円筒状のトレッドバンド12を、カーカスプライ4を含む円筒状のグリーンケース11の外径側に保持し、グリーンケース11を径方向外側へ膨出させてトレッドバンド12の内周部に結合させてグリーンタイヤ1を成型する。トレッドバンド12の保持は、トレッドバンド12の径方向外側に環状に配置されており、それぞれ個別に径方向に移動可能に構成された複数の把持部21で、径方向外側から把持することによって実施され、複数の把持部21のうち少なくとも1つの径方向への移動量を残余の把持部21と異ならせる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト、トレッドゴムを含む円筒状のトレッドバンドを、カーカスプライを含む円筒状のグリーンケースの外径側に保持し、
前記グリーンケースを径方向外側へ膨出させて前記トレッドバンドの内周部に結合させてグリーンタイヤを成型し、
前記トレッドバンドの保持は、前記トレッドバンドの径方向外側に環状に配置されており、それぞれ個別に径方向に移動可能に構成された複数の把持部で、径方向外側から把持することによって実施され、前記複数の把持部のうち少なくとも1つの径方向への移動量を残余と異ならせる、グリーンタイヤの成型方法。
【請求項2】
前記複数の把持部の径方向への移動量を同一として成型されたグリーンタイヤにおけるRFV特性を基準波形として予め計測しておき、
前記基準波形においてピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置する把持部の径方向への移動量を前記ピークが打ち消される方向に異ならせる、
請求項1に記載のグリーンタイヤの成型方法。
【請求項3】
前記基準波形のうち凸ピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置する把持部の径方向への移動量を、残余の把持部に比して増大させる、
請求項2に記載のグリーンタイヤの成型方法。
【請求項4】
前記基準波形のうち凹ピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置する把持部の径方向への移動量を、残余の把持部に比して低減させる、
請求項2に記載のグリーンタイヤの成型方法。
【請求項5】
前記径方向への移動量を異ならせる把持部の少なくとも1つは、周方向の中心が、前記基準波形のうちピークが生じる位相に前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置している、
請求項2〜4のいずれか1つに記載のグリーンタイヤの成型方法。
【請求項6】
前記基準波形をフーリエ変換して得られるタイヤ回転当たり1次の波形を対象として、このうち前記1次の波形におけるピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相を中心とした90°の位相範囲に含まれる、前記把持部の径方向への移動量を異ならせる、
請求項2〜5のいずれか1つに記載のグリーンタイヤの成型方法。
【請求項7】
前記基準波形をフーリエ変換して得られるタイヤ回転当たり2次の波形を対象として、このうち前記2次の波形におけるピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相を中心とした45°の位相範囲に含まれる、前記把持部の径方向への移動量を異ならせる、
請求項2〜5のいずれか1つに記載のグリーンタイヤの成型方法。
【請求項8】
前記基準波形をフーリエ変換して得られる、タイヤ回転当たりの複数の次数の波形それぞれを合算したオーバーオールを対象として、このうち最も大きなピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置する、前記把持部の径方向への移動量を異ならせる、
請求項2〜5のいずれか1つに記載のグリーンタイヤの成型方法。
【請求項9】
前記位相範囲に複数の把持部が含まれている場合、周方向の中央に位置する把持部の周方向両側に位置する前記把持部の径方向への移動量を異ならせる量を、前記中央から周方向に離間するにしたがって低減するように設定する、
請求項6又は7に記載のグリーンタイヤの成型方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つのグリーンタイヤの成型方法を含む、空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーンタイヤの成型方法及び空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤを製造するには、カーカスプライを含むタイヤ構成部材を成型ドラムに巻き付けてカーカスバンドを成型する一方で、ベルト、トレッドゴムを含むタイヤ構成部材を他の成型ドラムに巻き付けてトレッドバンドを成型する。次いで、カーカスバンドの両端部にビードを組み付けると共に、ビード周りにカーカスバンドを幅方向内側から外側へ折り返してグリーンケースを成型する。
【0003】
さらに、トレッドバンドを、把持装置によってグリーンケースの径方向外側に位置するグリーンタイヤ成型位置に把持し、グリーンケースを径方向外側に膨出させてトレッドバンドの内周部に結合させることによって、グリーンタイヤを成型する。成型されたグリーンタイヤを加硫成型することによって空気入りタイヤが製造される。
【0004】
製造された空気入りタイヤは、周方向における均一性(ユニフォーミティ特性、例えばRFV特性:Radial Force Variation)が計測される。ユニフォーミティ特性が過大になると、走行時の振動等の発生原因となるため、低減することが求められている。なお、RFV特性とは、空気入りタイヤに一定の荷重をかけて回転させた際の、空気入りタイヤと接地面との間に生じる径方向における反力のバラツキを計測したものである。
【0005】
例えば、特許文献1には、トレッドバンド及びグリーンケースを互いに軸心を半径方向に一致させて成型したサンプルタイヤにおけるRFV特性を予め基準データとして測定しておき、サンプルタイヤのRFV特性における負の最大部分の方向にトレッドバンドを偏心させて互いに結合させる。これによって、トレッドバンドが偏心された方向における位相における負の最大部分を低減させることが企図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−111890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法によれば、トレッドバンド全体をグリーンケースに対して偏心させるものであるため、トレッドバンドを把持する把持装置を上下及び左右方向に移動させる機構を要するので大型化しやすい。
【0008】
本発明は、トレッドバンドを把持する把持装置の大型化を抑制しつつ、空気入りタイヤのRFV特性を低減させることができる、グリーンタイヤの成型方法及び空気入りタイヤの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は空気入りタイヤの形状、サイズ、構成及び製造工程等の変動要因に起因して、空気入りタイヤには特定の傾向を有するユニフォーミティ特性が存在することに着目した。変動要因としては、例えば、カーカスプライに含まれるカーカスコードのビード間経路の不均一性、カーカスコード間の間隔の不均一性、タイヤ構成部材を円筒状に巻き付けた際のジョイント部の大きさの不均一性、各タイヤ構成部材のジョイント位置の周方向における配置の不均一性、各タイヤ構成部材の厚みの不均一性等が考えられる。
【0010】
本発明者は、グリーンタイヤの形状を規制、具体的にはトレッドバンドの形状を規制してグリーンタイヤを成型することによって、該グリーンタイヤを加硫成形して得られる空気入りタイヤにおいて特定の傾向を有するユニフォーミティ特性が打ち消されることを想到して本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、
ベルト、トレッドゴムを含む円筒状のトレッドバンドを、カーカスプライを含む円筒状のグリーンケースの外径側に保持し、
前記グリーンケースを径方向外側へ膨出させて前記トレッドバンドの内周部に結合させてグリーンタイヤを成型し、
前記トレッドバンドの保持は、前記トレッドバンドの径方向外側に環状に配置されており、それぞれ個別に径方向に移動可能に構成された複数の把持部で、径方向外側から把持することによって実施され、前記複数の把持部のうち少なくとも1つの径方向への移動量を残余の把持部と異ならせる、グリーンタイヤの成型方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、トレッドバンドのうち移動量が異なる把持部によって把持される部分は、外径が当該把持部による移動量に応じて残余の部分と異なる。特定の把持部の径方向内側への移動量を増大(又は低減)すると、トレッドバンドは、当該把持部によって残余の把持部に比して強く(又は弱く)把持されるため、当該把持された部分の外径を所望の大きさに規制しやすい。例えば、RFV特性が良化するように、トレッドバンドの形状を規制することによって、成型されるグリーンタイヤを加硫成型して得られる空気入りタイヤのユニフォーミティ特性を向上させることができる。
【0013】
また、複数の把持部は、個別に径方向に移動可能に構成されているので、複数箇所の把持部の径方向への移動量を残余の把持部と異ならせることができ、これによって、トレッドバンドの形状を複数の位相部分において、個別に規制することができる。しかも、トレッドバンドを把持する把持装置全体を移動させる必要がないので、把持装置の大型化が抑制される。
【0014】
好ましくは、前記複数の把持部の径方向への移動量を同一として成型されたグリーンタイヤにおけるRFV特性を基準波形として予め計測しておき、
前記基準波形においてピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置する把持部の径方向への移動量を前記ピークが打ち消される方向に異ならせる。
【0015】
本構成によれば、基準波形に基づいてピークが生じる位相にトレッドバンドにおいて対応する部分の形状が、ピークが打ち消される方向に規制される。これによって、成型されるグリーンタイヤを加硫成型して得られる空気入りタイヤのRFV特性を向上させることができる。
【0016】
好ましくは、前記基準波形のうち凸ピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置する把持部の径方向への移動量を、残余の把持部に比して増大させる。
【0017】
本構成によれば、トレッドバンドのうち、基準波形において凸となる部分に対応する部分が、把持部によって相対的に強く把持されるので、トレッドバンドは当該部分において外径の成長が規制される。この結果、成型されるグリーンタイヤを加硫成型して得られる空気入りタイヤは、上記外径の成長が規制された部分において、RFV特性の凸ピークが低減される。
【0018】
好ましくは、前記基準波形のうち凹ピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置する把持部の径方向への移動量を、残余の把持部に比して低減させる。
【0019】
本構成によれば、トレッドバンドのうち、基準波形において凹となる部分に対応する部分が、把持部によって相対的に弱く把持されるので、トレッドバンドは当該部分において外径の成長が助長される。この結果、成型されるグリーンタイヤを加硫成型して得られる空気入りタイヤは、上記外径の成長が助長された部分において、RFV特性の凹ピークが低減される。
【0020】
好ましくは、前記径方向への移動量を異ならせる把持部の少なくとも1つは、周方向の中心が、前記基準波形のうちピークが生じる位相に前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置している。
【0021】
本構成によれば、移動量が異なる把持部の周方向における中心位置と、基準波形におけるピークの位相とが一致しているので、トレッドバンドのうち基準波形におけるピークに対応する部分の外径を確実に規制することができる。
【0022】
好ましくは、前記基準波形をフーリエ変換して得られるタイヤ回転当たり1次の波形を対象として、このうち前記1次の波形におけるピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相を中心とした90°の位相範囲に含まれる、前記把持部の径方向への移動量を異ならせる。
【0023】
本構成によれば、RFV特性のうちタイヤ回転当たり1次の成分を効果的に低減することができる。
【0024】
好ましくは、前記基準波形をフーリエ変換して得られるタイヤ回転当たり2次の波形を対象として、このうち前記2次の波形におけるピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相を中心とした45°の位相範囲に含まれる、前記把持部の径方向への移動量を異ならせる。
【0025】
本構成によれば、RFV特性のうちタイヤ回転当たり2次の成分を効果的に低減することができる。
【0026】
好ましくは、前記基準波形をフーリエ変換して得られる、タイヤ回転当たりの複数の次数の波形それぞれを合算したオーバーオールを対象として、このうち最も大きなピークが生じる位相に、前記トレッドバンドにおいて対応する位相に位置する、前記把持部の径方向への移動量を異ならせる。
【0027】
本構成によれば、RFV特定のうちオーバーオールのうち最も大きなピークを効果的に低減することができる。
【0028】
好ましくは、前記位相範囲に複数の把持部が含まれている場合、周方向の中央に位置する把持部の周方向両側に位置する前記把持部の径方向への移動量を異ならせる量を、前記中央から周方向に離間するにしたがって低減するように設定する。
【0029】
本構成によれば、位相範囲に含まれる把持部の径方向への移動量を、残余の把持部に対して段階的に異ならせることによって、トレッドバンドの形状が、移動量が異なる把持部によって把持される部分から残余の部分にかけてなだらかに変化させることができる。これによって、成型されるグリーンタイヤを加硫成型して得られる空気入りタイヤのユニフォーミティ特性の悪化を抑制できる。
【0030】
また、本発明の他の態様は、上記いずれかのグリーンタイヤの成型方法を含む、空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るグリーンタイヤの成型方法及び空気入りタイヤの製造方法によれば、トレッドバンドを把持する把持装置の大型化を抑制しつつ、空気入りタイヤのRFV特性を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】グリーンタイヤの成型工程を模式的に示す図。
図2】把持装置の模式図。
図3】空気入りタイヤのRFV特性を示すグラフ。
図4】RFV1次を低減させる、把持装置の作動を示す図。
図5図4の場合のRFV1次の波形の変化を示すグラフ。
図6】RFV2次を低減させる、把持装置の作動を示す図。
図7図6の場合のRFV2次の波形の変化を示すグラフ。
図8】RFV1次を低減させる、他の例に係る把持装置の作動を示す図。
図9図8の場合のRFV1次の波形の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0034】
図1は、グリーンタイヤ1の成型工程を概略的に示す図である。なお、図1において、各成型ドラムD1〜D4の径方向の一方側のみが示されている。まず、図1(a)に示すように、第1成型ドラムD1にインナーライナ5、一対のラバーチェーファ6、カーカスプライ4を順に巻き付けて、円筒状のカーカスバンド10を成型する。
【0035】
次に、図1(b)に示すように、カーカスバンド10を、第2成型ドラムD2に移送して、カーカスバンド10の両側部にビード3を組み付けると共に、ビード3の周りにドラム幅方向内側から外側に折り返して、グリーンケース11を成型する。
【0036】
次に、図1(c)に示すように、第3成型ドラムD3に、第1及び第2ベルト7a,7b、補強ベルト8、トレッドゴム9を順に巻き付けて、円筒状のトレッドバンド12を成型する。
【0037】
次に、図1(d)に示すように、グリーンケース11を、第2成型ドラムD2から取り外して一対の第4成型ドラムD4間にわたってこれらの外周部に保持させる。一方で、トレッドバンド12を、第3成型ドラムD3から移送してグリーンケース11と同軸上且つこの径方向外側に位置するグリーンタイヤ成型位置に保持する。トレッドバンド12の第3成型ドラムD3からの移送及びグリーンタイヤ成型位置での保持は、トレッドバンド12を外周部において径方向に把持する把持装置20により実施される。
【0038】
次に、図1(e)に示すように、一対の第4成型ドラムD4を互いに近接させながら、グリーンケース11の内側に媒体を供給することによって径方向外側へトロイダル状に膨出させて、トレッドバンド12の内周部に結合させて、カーカストレッド結合体13を成型する。
【0039】
最後に、図1(f)に示すように、把持装置20による保持を解除した後、カーカストレッド結合体13の外周部にストリップ状のサイドウォールゴム2を螺旋状に巻き付けて、グリーンタイヤ1が成型される。成型されたグリーンタイヤ1を、タイヤ加硫金型(不図示)において加硫成型することによって、空気入りタイヤが製造される。
【0040】
図2は、把持装置20を、ここに保持されるトレッドバンド12のタイヤ軸線方向に見た概略図である。図2に示すように、把持装置20は、環状に構成されており、トレッドバンド12を外径側から把持する内周部が複数の把持部21に周方向に分割されている。
【0041】
複数の把持部21はそれぞれ、駆動手段22を備えている。駆動手段22によって、各把持部21は、個別に鎖線で示す径方向外側位置から実線で示す径方向内側位置まで把持装置20の径方向に突出後退可能に構成されている。各把持部21は、径方向内側に突出した突出位置において、トレッドバンド12の外周部に対して少し食い込んだ状態で、内周部でトレッドバンド12の外周部を径方向外側から把持している。
【0042】
駆動手段22としては、把持装置20の径方向内側への移動量を調整可能なものであればよく、例えば突出位置が調整可能に構成された空圧シリンダ又は油圧シリンダを採用することができる。また、モータ及びボールネジ等を含み、モータの回転をボールネジを介して径方向移動に変換して把持部21に伝達してもよく、モータの回転量を制御することによって、その移動量を調整するようにしてもよい。この他、任意の駆動手段を採用することができる。
【0043】
本実施形態では、把持装置20は、内周部を周方向に8分割されて構成された第1〜第8把持部21A〜21Hを有している。把持装置20の軸心の真上に位置する第1把持部21Aを基準として、右回りに45°間隔で第2〜第7把持部21B〜21Hが、互いに間隔を空けて環状に配置されている。以降の説明では、第1把持部21Aの周方向位置を、位相0°とし、これを基準として右回りに、第2〜第7把持部21B〜21Hの周方向位置を、位相45°、位相90°、位相135°、位相180°、位相225°、位相270°、位相315°とする。
【0044】
図3は、グリーンタイヤ1を加硫成型して得られる空気入りタイヤ(不図示)のユニフォーミティ特性の1つであるRFV特性を示すグラフである。図3には、基準となるサンプル空気入りタイヤにおいて計測されたRFV特性を、フーリエ変換して得られるタイヤ回転当たり1次及び2次の基準波形が示されている。1次及び2次の基準波形を、それぞれRFV1次及びRFV2次の基準波形と称して以下説明する。なお、図3において、太線でRFV1次の基準波形が示されており、細線でRFV2次の基準波形が示されている。
【0045】
空気入りタイヤは、種々の変動要因に基づいて特定の傾向を示すRFV特性を示すように成型される。種々の変動要因としては、例えば、カーカスプライに含まれるカーカスコードのビード間パスの不均一性、カーカスコード間の間隔の不均一性、タイヤ構成部材を円筒状に巻き付けた際のジョイント部の大きさの不均一性、各タイヤ構成部材のジョイント位置の周方向における配置の不均一性、各タイヤ構成部材の厚みの不均一性等が考えられる。
【0046】
この結果、例えば図3に示すRFV特性によれば、この空気入りタイヤは、RFV1次の波形において90°の位相に凸ピークP1Uが存在し、270°の位相に凹ピークP1Dが存在している。また、RVF2次の波形において、45°及び225°の位相に凸ピークP21U,P22Uが存在し、135°及び315°の位相に凹ピークP21D,P22Dが存在している。
【0047】
なお、図3に示すグラフの横軸に示す位相は、図3における把持部21の位相に対応している。例えば、図3において位相0°に位置する第1把持部22Aによってトレッドバンド12において把持される部分が、図4において0°の位相に対応しており、図3において位相90°に位置する第3把持部22Cによってトレッドバンド12において把持される部分が、図4において90°の位相に対応している。
【0048】
本発明者は、RFV波形における凸ピーク又は凹ピークを、グリーンタイヤ1において対応する部分、より具体的にはトレッドバンド12において対応する部分の、外径を拡大又は縮小するように予め規制して成型しておくことで、該グリーンタイヤ1を加硫成型して得られる空気入りタイヤにおけるRFV特性が打ち消されることを想到した。
【0049】
まず、サンプル空気入りタイヤに基づいて、基準データとしてのRFV特性を予め計測しておく。具体的には、把持装置20において複数の把持部21の移動量を同一として、正規の生産工程において成型されたグリーンタイヤ1を正規のタイヤ加硫金型において加硫成型して得られたサンプル空気入りタイヤに基づいて、RFV特性を計測する。なお、複数のサンプル空気入りタイヤについてRFV特性を計測して、これらの平均から基準データとしてのRFV特性を求めてもよい。基準データとしてのRFV特性を、フーリエ変換して、RFV1次及びRFV2次の基準波形が得られる。同様に、図示は省略するが3次以降の基準波形を求めてもよい。
【0050】
上記予め計測されたRFV1次の基準波形(図3参照)に注目して、凸ピークP1Uを低減させる場合を説明する。図4に示すように、凸ピークP1Uが生じる位相90°に対応する把持部21の径方向への移動量を残余の把持部21に比して大きくする。具体的には、RFV1次の場合、凸ピークP1Uの全体は位相0°から位相180°にわたる180°の位相範囲に存在しているので、凸ピークP1Uが生じる位相90°を中心として180°の位相範囲の半分である90°の位相範囲Xに対応する第2〜第4把持部21B〜21Dの移動量を、残余の把持部21に比して増大させる。
【0051】
図4において白抜き矢印で示すように、移動量を増大させる第2〜第4把持部21B〜21Dによって、トレッドバンド12のうち、位相範囲Xに対応する部分が残余の部分に比して径方向内側に強く把持される。この結果、グリーンケース11を膨出させてトレッドバンド12に結合させるときに、位相範囲Xに対応する部分の外径の成長が抑制される。
【0052】
したがって、図5に示すように、グリーンタイヤ1を加硫成型して得られる空気入りタイヤにおいては、位相範囲Xに対応する部分の外径が小さく規制されるため、位相範囲XにおけるRFV1次が特に低減される。
【0053】
なお、移動量を増大させる把持部21を、凸ピークP1U全体に対する180°の位相範囲に含まれるものではなく、その半分の90°の位相範囲Xに含まれるものを対象とするため、トレッドバンド12の状態で外径がより広い位相範囲において過度に押圧されることが抑制されている。
【0054】
さらに、第2〜第4把持部21B〜21Dの移動量を増大させる量である増大量Zに関して、凸ピークP1Uに対応する位相90°に位置しており、位相範囲Xにおける周方向の中央に位置する、第3把持部21Cの増大量Z1に対して、この周方向の両側に位置する第2及び第4把持部21B,21Dの増大量Z2が相対的に小さく設定されている。本実施形態では、例えば、第3把持部21Cの増大量Z1が2mmに設定される一方で、第2及び第4把持部21B,21Dの増大量Z2が1mmに設定される。換言すれば、位相範囲Xのうち中央に位置する把持部21から周方向両側へ離間するにつれて、増大量Zが低減する。
【0055】
すなわち、複数の第2〜第4把持部21B〜21Dによって、広い位相範囲におけるトレッドバンドの外径を規制しつつも、RFV1次の凸ピークP1Uの波形に合わせて、凸ピークP1Uの中心に位置する位相90°から凸ピークP1Uの裾部分(位相0°及び位相180°)に向けて規制が弱くなるように、増大量Zが段階的に小さくなるように構成されている。これによって、トレッドバンド12の外径が周方向になだらかに規制されるので、成型されるグリーンタイヤ1及びこれを加硫成型して得られる空気入りタイヤにおける外径の急激な変化が抑制される。その結果、RFV特性の悪化が抑制される。
【0056】
次に、予め計測されたRFV2次の基準波形(図3参照)に注目して、凸ピークP21U,P22Uを低減させる場合を説明する。図6に示すように、凸ピークP21U,P22Uが生じる位相45°,225°に対応する把持部21の径方向への移動量を残余の把持部21に比して増大させる。
【0057】
具体的には、RFV2次の場合、凸ピークP21U,P22Uの全体はそれぞれ位相0°から位相90°の間、及び位相180°から位相270°の間の、90°の位相範囲に存在しているので、凸ピークP21U,P22Uが生じる位相45°,225°を中心として90°の位相範囲の半分である45°の位相範囲Yに対応する第2把持部21B及び第6把持部21Fの移動量を、残余の把持部21に比して増大させる。
【0058】
図6において白抜き矢印で示すように、移動量を増大させる第2把持部21B及び第6把持部21Fによって、トレッドバンド12のうち、位相範囲Yに対応する部分が残余の部分に比して径方向内側に強く把持される。この結果、グリーンケース11を膨出させてトレッドバンド12に結合させるときに、位相範囲Yに対応する部分の外径の成長が抑制される。
【0059】
したがって、図7に示すように、グリーンタイヤ1を加硫成型して得られる空気入りタイヤにおいては、位相範囲Yに対応する部分の外径が小さく規制されるため、位相範囲YにおけるRFV2次が特に低減される。
【0060】
なお、本実施形態では、把持部21は、周方向に8分割されたものであるため、位相範囲Yには、第2把持部21B又は第6把持部21Fの1つしか存在しない。把持装置20の内周部がさらに細かく周方向に分割されている場合(例えば16分割等)、複数の把持部21が位相範囲Yに含まれることになる。この場合、位相範囲Yに含まれる複数の把持部21の移動量を残余の把持部21に比して増大させればよい。
【0061】
この他、凹ピークに注目して、トレッドバンド12の外径を規制してもよい。図3に示すRFV1次の基準波形に注目して、凹ピークP1Dを低減させる場合を説明する。図8に示すように、凹ピークP1Dが生じる位相270°に対応する把持部21の径方向への移動量を残余の把持部21に比して低減させる。
【0062】
具体的には、凹ピークP1Dの全体は位相180°から位相360°までの180°の位相範囲に存在しているので、凹ピークP1Dが生じる位相270°を中心として180°の位相範囲の半分である90°の位相範囲Wに対応する第6〜第8把持部21F〜21Hの移動量を、残余の把持部21に比して減少させる。
【0063】
図8において白抜き矢印で示すように、移動量を減少させる第6〜第8把持部21F〜21Hによって、トレッドバンド12のうち、位相範囲Wに対応する部分が残余の部分に比して径方向内側に弱く把持される。この結果、グリーンケース11を膨出させてトレッドバンド12に結合させるときに、位相範囲Wに対応する部分の外径の成長が助長される。
【0064】
したがって、図9に示すように、グリーンタイヤ1を加硫成型して得られる空気入りタイヤにおいては、位相範囲Wに対応する部分の外径が大きく規制されるため、位相範囲WにおけるRFV1次が特に低減される。
【0065】
なお、第6〜第8把持部21F〜21Hの移動量を低減させる量である低減量Tに関して、凹ピークP1Dに対応する270°の位相に位置する第7把持部21Gの低減量T1に対して、この周方向の両側に位置する第6及び第8把持部21F,21Hの低減量T2が相対的に小さく設定されている。本実施形態では、例えば、第7把持部21Gの低減量T1が2mmに設定される一方で、第6及び第8把持部21F,21Hの低減量T2が1mmに設定される。
【0066】
また、把持装置20は、基準波形において凸ピーク又は凹ピークが生じる位相に対して、複数の把持部21のうちいずれ1つが周方向の中心を一致させた状態でトレッドバンド12を径方向に把持するようになっている。すなわち、空気入りタイヤにおいて凸ピーク又は凹ピークが生じる位相を、これに対応するトレッドバンド12における位相が複数の把持部21のいずれか1つの周方向の中心に位置するように、第3成型ドラムD3にトレッドバンド12が成型された状態で、第3成型ドラムD3を所定回転角度だけ回転させるようになっている。
【0067】
上記説明したグリーンタイヤの成型方法及び空気入りタイヤの製造方法によれば、次のような効果が得られる。
【0068】
(1)トレッドバンド12のうち移動量が異なる把持部21によって把持される部分は、外径が当該把持部21による移動量に応じて残余の部分と異なる。特定の把持部21の径方向内側への移動量を増大(又は低減)させると、トレッドバンド12は、当該把持部21によって残余の把持部21に比して強く(又は弱く)把持されるため、当該把持された部分の外径を所望の大きさに規制しやすい。例えば、RFV特性が良化するように、トレッドバンド12の形状を規制することによって、成型されるグリーンタイヤ1を加硫成型して得られる空気入りタイヤのRFV特性を向上させることができる。
【0069】
(2)複数の把持部21は、個別に径方向に移動可能に構成されているので、複数箇所の把持部21の径方向への移動量を残余の把持部と異ならせることができ、これによって、トレッドバンド12の形状を複数の位相部分において、個別に規制することができる。しかも、トレッドバンド12を把持する把持装置20全体を移動させる必要がないので、把持装置20の大型化が抑制される。
【0070】
(3)基準波形に基づいて凸ピーク又は凹ピークが生じる位相にトレッドバンド12において対応する部分の形状が、上記ピークが打ち消される方向に規制される。これによって、成型されるグリーンタイヤ1を加硫成型して得られる空気入りタイヤのRFV特性を向上させることができる。
【0071】
(4)トレッドバンド12のうち、基準波形において凸ピークとなる部分に対応する部分が、把持部21によって相対的に強く把持されるので、トレッドバンド12は当該部分において外径の成長が規制される。この結果、成型されるグリーンタイヤを加硫成型して得られる空気入りタイヤは、上記外径の成長が規制された部分において、RFV特性の凸ピークが低減される。
【0072】
(5)トレッドバンド12のうち、基準波形において凹ピークとなる部分に対応する部分が、把持部21によって相対的に弱く把持されるので、トレッドバンド12は当該部分において外径の成長が助長される。この結果、成型されるグリーンタイヤ1を加硫成型して得られる空気入りタイヤは、上記外径の成長が助長された部分において、RFV特性の凹ピークが低減される。
【0073】
(6)移動量が異なる把持部21の周方向における中心位置と、基準波形における凸ピーク又は凹ピークの位相とが一致しているので、トレッドバンド12のうち基準波形における凸ピーク又は凹ピークに対応する部分の外径を確実に規制することができる。
【0074】
(7)位相範囲に含まれる把持部21の径方向への移動量を、残余の把持部に対して段階的に異ならせることによって、トレッドバンド12の形状が、移動量が異なる把持部21によって把持される部分から残余の部分にかけてなだらかに変化させることができる。これによって、成型されるグリーンタイヤ1を加硫成型して得られる空気入りタイヤのRFV特性の悪化を抑制しやすい。
【0075】
上記実施形態では、予め計測されたRFV特性をフーリエ変換して得られるRFV1次、RFV2次の基準波形を例にとって説明したが、これに限らない。3次以降の基準波形に注目して当該基準波形に含まれる凸ピーク又は凹ピークを低減するように、対応する位相の把持部21の移動量を異ならせてもよい。
【0076】
さらに、上記フーリエ変換して得られる、タイヤ回転当たり複数の次数の波形それぞれを合算して(例えば1次〜15次までを合算する)オーバーオールの基準波形を求めて、該オーバーオールに含まれる最も高い凸ピーク又は凹ピークを低減するように、対応する位相の把持部21の移動量を残余の把持部と異ならせてもよい。この場合、オーバーオールの基準波形における凸ピーク又は凹ピークは、位相範囲が相対的に小さくなるので、該位相範囲に対応する1つの把持部21の移動量を異ならせてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、ユニフォーミティ特性のうちRFV特性を低減する場合を例にとって説明したが、この他、横方向の反力の変動を計測するLFV(Lateral Force Variation)や、周方向の反力の変動を計測するTFV(Tangential Force Variation)を低減するように、複数の把持部21の1つ又は複数の移動量を残余の把持部と異ならせてもよい。
【0078】
なお、本発明は、上記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 グリーンタイヤ
4 カーカスプライ
7 ベルト
9 トレッドゴム
10 カーカスバンド
11 グリーンケース
12 トレッドバンド
20 把持装置
21 把持部
21A〜21H 第1〜第8把持部
22 駆動手段
P1U 凸ピーク
P1D 凹ピーク
X,Y,W 位相範囲
Z,Z1,Z2 把持部の移動量の増大量
T1,T2 把持部の移動量の低減量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9