特開2020-82994(P2020-82994A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-82994(P2020-82994A)
(43)【公開日】2020年6月4日
(54)【発明の名称】動力伝達軸
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/22 20060101AFI20200508BHJP
【FI】
   B60K17/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-219217(P2018-219217)
(22)【出願日】2018年11月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 健一
【テーマコード(参考)】
3D042
【Fターム(参考)】
3D042AA10
3D042AB01
3D042DA02
3D042DA04
3D042DC04
(57)【要約】
【課題】コストの上昇を招くことなく、動力伝達軸に荷重が入力した際、軸受ユニットを脱落させる技術を提供する。
【解決手段】一端側に中空軸である第1推進軸11を備えるとともに、一端側と他端側との間で軸受ユニット14に支承されるスタブシャフト19を備えた推進軸1であって、軸受ユニット14よりも一端側に、軸方向の荷重入力時に軸受ユニット14に衝突可能なデフレクタ2を備え、デフレクタ2がスタブシャフト19に対して機械的な接合手段により接合されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に中空軸を備えるとともに、一端側と他端側との間で軸受ユニットに支承される軸部材を備えた動力伝達軸であって、
前記軸受ユニットよりも一端側に、軸方向の荷重入力時に前記軸受ユニットに衝突可能な環状部材を備え、
前記環状部材が前記軸部材に対して機械的な接合手段により接合されていることを特徴とする動力伝達軸。
【請求項2】
前記接合手段が溶接であることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達軸。
【請求項3】
前記接合手段がねじの螺合によることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達軸。
【請求項4】
前記接合手段がリベット接合であることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達軸。
【請求項5】
前記環状部材は、前記中空軸と前記軸部材との間に配置されてそれぞれに溶接される円筒部を備えることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達軸。
【請求項6】
前記環状部材は、前記軸部材の外周に装着されて前記軸部材に形成された鍔部に溶接されることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達軸。
【請求項7】
前記環状部材は、内周にねじ孔を有し、該ねじ孔が前記軸部材に形成されたねじ部に螺合されることを特徴とする請求項3に記載の動力伝達軸。
【請求項8】
前記環状部材は、前記軸部材の外周に装着されて前記軸部材に形成された鍔部にリベット接合されることを特徴とする請求項4に記載の動力伝達軸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達軸に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のプロペラシャフトは、車両前方の原動機で発生し変速装置で減速された動力を、車両後方に搭載された終減速装置に伝達するものである。変速装置と終減速装置との間は一定の長さではなく、また両者の回転中心は一致していないので、変速装置の直後と、終減速装置の直前には自在継ぎ手が設けられている。一般に、プロペラシャフトは、一定の長さを超えると前後に複数に分割されることが多い。この場合、分割部材の連結部に自在継手を配置するとともに、その近傍において軸受ユニットを介してプロペラシャフトを車体に支持させる構造が用いられている。
【0003】
自動車が前方衝突した際には、衝突による衝撃をエンジンルームも含むボディパネルで吸収するために、原動機および変速機を後退させ、ボディを変形させて衝撃を吸収することが求められる。変速機の後方にはプロペラシャフトが車両前後方向に延在しており、一般的な自動車では、前記したようにプロペラシャフトが前後に分割され、軸受ユニットにおいて軸受がブラケットを介して車体に取り付けられている。そのため、プロペラシャフトに前方から荷重が作用しても軸受ユニットがプロペラシャフトの後退を阻害することにより原動機および変速機の後退を阻害してしまい、これがボディの変形を阻害する要因になりかねない。
【0004】
そこで、原動機が一定の量だけ後退して一定の荷重が軸方向に作用したとき、軸受ユニットのブラケットを破断させて脱落させることによりプロペラシャフトの後退機能を確保する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。同文献に記載の技術は、軸受ユニットの前方に円盤状のデフレクタを設け、プロペラシャフトが後退するとデフレクタが軸受ユニットのブラケットに当接し、車体側に取り付けるためのボルト挿通孔を破断させて車体側から脱落させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−229371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、同技術はデフレクタを軸部材と一体に形成しているため、軸部材の鍛造素材と機械加工にコストが掛かり、生産性も高められない。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために創作されたものであり、その目的は、コストの上昇を招くことなく、動力伝達軸に荷重が入力した際、軸受ユニットを脱落させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、一端側に中空軸を備えるとともに、一端側と他端側との間で軸受ユニットに支承される軸部材を備えた動力伝達軸であって、前記軸受ユニットよりも一端側に、軸方向の荷重入力時に前記軸受ユニットに衝突可能な環状部材を備え、前記環状部材が前記軸部材に対して機械的な接合手段により接合されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、環状部材と軸部材とを一体成型する構造に比して、鍛造素材のコスト、加工コストの低減を図ることができる。
【0010】
前記接合手段は、溶接またはねじの螺合或いはリベット接合であることが好ましい。
【0011】
前記接合手段が溶接である場合、前記環状部材は、前記中空軸と前記軸部材との間に配置されてそれぞれに溶接される円筒部を備えることが好ましい。
また、前記環状部材は、前記軸部材の外周に装着されて前記軸部材に形成された鍔部に溶接されることが好ましい。
【0012】
前記接合手段がねじの螺合である場合、前記環状部材は、内周にねじ孔を有し、該ねじ孔が前記軸部材に形成されたねじ部に螺合されることが好ましい。
【0013】
前記接合手段がリベット接合である場合、前記環状部材は、前記軸部材の外周に装着されて前記軸部材に形成された鍔部にリベット接合されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コストを抑制しつつ、環状部材により軸受ユニットを脱落させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】推進軸の平断面図である。
図2】第1実施形態の環状部材周りの平断面図である。
図3】第2実施形態の環状部材周りの平断面図である。
図4】第3実施形態の環状部材周りの平断面図である。
図5】第4実施形態の環状部材周りの平断面図である。
図6】第4実施形態の環状部材周りの外観斜視図である。
図7】第5実施形態の環状部材周りの平断面図である。
図8】第5実施形態の環状部材周りの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1において、推進軸(プロペラシャフト)1は、車両の前側に配置された変速機(図示せず)が出力する動力を、車両の後側に配置された終減速装置(図示せず)に伝達する動力伝達軸であり、車両前後方向に延びている。推進軸1は、例えば2ピース構造であり、前側(一端側)の中空軸である第1推進軸11と、後側(他端側)の中空軸である第2推進軸12と、第1推進軸11と第2推進軸12とを連結する等速ジョイント13と、推進軸1の前後方向中程で推進軸1を車体に支持する軸受ユニット14と、を備えている。軸受ユニット14は等速ジョイント13よりも前側に配置されている。第1推進軸11は自在継手15で変速機に連結し、第2推進軸12は自在継手16で終減速装置に連結している。
【0017】
等速ジョイント13は、第2推進軸12の前端に溶接で接合された円筒状の外輪部材17と、外輪部材17内を揺動する動力伝達部材18と、動力伝達部材18に連結する中実の軸部材であるスタブシャフト19と、を備えている。
【0018】
軸受ユニット14は、スタブシャフト19に外嵌する軸受20と、内環21と、外環22と、マウント23と、ブラケットリング24と、ブラケット25と、を備えている。内環21は、軸受20の外輪に外嵌する円筒状の部材である。外環22は、内環21よりも大径の円筒状の部材であり、内環21と同軸に配置されている。マウント23は、ゴム材料で一体形成された環状の部材であり、断面視して後方に開口した略U字形を呈している。マウント23は、内環21と外環22の間に設けられて内環21および外環22に加硫接着されている。マウント23が弾性変形することで、内環21の振動がマウント23で吸収・減衰され、車体への振動伝達が低減される。
【0019】
ブラケットリング24は、円筒状の部材であり、外環22に外嵌している。ブラケット25は、ブラケットリング24の下半分を囲うように軸心O方向視で半円弧状を呈する半円弧状部25Aと、半円弧状部25Aの左右の上端からそれぞれ左方、右方に延びる左締結部25B,右締結部25Cと、を備えている。ブラケット25は、左締結部25B,右締結部25Cの各ボルト孔25Dに挿通されるボルト(図示せず)により車体に締結される。
【0020】
「デフレクタ(環状部材)2」
推進軸1は、軸受ユニット14よりも前側に、前方衝突等の軸方向の荷重入力時に軸受ユニット14に衝突可能なデフレクタ2を備えている。デフレクタ2は、車両が前方衝突してスタブシャフト19が後退したときに、後記するフランジ部3の縁部5の後端がブラケット25に衝突することで、ボルト孔25Dを破断させ軸受ユニット14を車体から脱落させる機能を有する。デフレクタ2は、スタブシャフト19に対して機械的な接合手段により接合されている。機械的な接合手段は、溶接、ねじの螺合、リベット留め、ボルト留め等である。以下、接合手段について複数の実施形態を説明する。
【0021】
「第1実施形態」
第1実施形態は、接合手段を溶接とした形態である。図2において、デフレクタ2は、第1推進軸11とスタブシャフト19との間に同軸に配置されてそれぞれに溶接される円筒部4と、円筒部4の軸方向中程の外周から径外方向に延びるフランジ部3と、を備えている。フランジ部3の外端は、若干後方に延びる縁部5として形成されている。フランジ部3と円筒部4と縁部5とは例えば一体成型で形成されている。円筒部4の前端は第1推進軸11の後端に突き当てられて溶接、具体的には摩擦圧接で接合され、円筒部4の後端はスタブシャフト19の前端に突き当てられて摩擦圧接で接合されている。
【0022】
以上のように、デフレクタ2をスタブシャフト19に溶接により接合する構造とすれば、デフレクタとスタブシャフトとを一体成型する構造に比して、鍛造コスト、加工コストの低減を図ることができる。
【0023】
「第2実施形態」
第2実施形態は、接合手段をねじの螺合とした形態である。図3において、第1推進軸11の後端とスタブシャフト19の前端とは互いに突き合わされて摩擦圧接で接合されている。デフレクタ2Aは、内周にねじ孔6を有する円筒部4と、円筒部4の前端から径外方向に延びるフランジ部3と、を備えている。一方、スタブシャフト19の外周には、ねじ部7と、ねじ部7の前側で径外方向に延びる鍔部8が形成されている。デフレクタ2Aは、フランジ部3が鍔部8に後方から略突き当たる位置までねじ孔6がねじ部7に螺合される。円筒部4の後端4aは、径内側に折り曲げられてスタブシャフト19に加締められる。
【0024】
以上のように、デフレクタ2をスタブシャフト19にねじの螺合により接合する構造としても、デフレクタとスタブシャフトとを一体成型する構造に比して、鍛造コスト、加工コストの低減を図ることができる。
【0025】
「第3実施形態」
第3実施形態は、接合手段をリベット接合とした形態である。図4において、第1推進軸11の後端とスタブシャフト19の前端とは互いに突き合わされて摩擦圧接で接合されている。デフレクタ2Bは、径外方向に延びるフランジ部3を備えている。デフレクタ2Bは、フランジ部3が鍔部8に後方から突き当てられリベット9によりスタブシャフト19に接合される。
【0026】
以上のように、デフレクタ2Bをスタブシャフト19にリベット接合により接合する構造としても、デフレクタとスタブシャフトとを一体成型する構造に比して、鍛造コスト、加工コストの低減を図ることができる。
【0027】
「第4実施形態」
第4実施形態は、接合手段を溶接とした形態である。図5図6において、第1推進軸11の後端とスタブシャフト19の前端とは互いに突き合わされて摩擦圧接で接合されている。デフレクタ2Cは、径外方向に延びるフランジ部3を備えている。デフレクタ2Cは、フランジ部3が鍔部8に後方から突き当てられ、溶接によりスタブシャフト19に接合される。溶接法は、アーク溶接、電子ビーム溶接、スポット溶接等が好適である。
【0028】
ここで、スタブシャフト19の鍔部8の外周には、推進軸1の組み付け工程時において、推進軸1の回転を規制するスパナ状の回転規制工具(図示せず)を係止可能な複数の平面部10が形成されている。例えば、推進軸1の組み付け工程の一例としては、先ず、変速装置および終減速装置が組み付けられた車両をハンガー等によりリフトアップさせる。この状態では、変速装置の出力軸や終減速装置の入力軸は空転状態にある。リフトアップ状態の車両の下方において、推進軸1を例えばリフタに載置し、該リフタを上昇させて推進軸1を変速装置の出力軸や終減速装置の入力軸にボルトとナットで連結する。このとき、変速装置の出力軸、終減速装置の入力軸は空転状態であるのでボルトを締め付けようとすると、推進軸1が回ってしまい、作業性が低下するという問題がある。そのため、例えば、作業者の一人が回転規制工具を平面部10に係止させて保持しておくことで、他の作業者は推進軸1の回転を伴うことなくトルクレンチによるボルトの締め付け作業を迅速に行うことができる。
【0029】
このように、鍔部8の外周に回転規制工具を係止させるための平面部10を形成した場合には、平面部10に、径内側にへこむ凹部30を形成する。この凹部30でフランジ部3と鍔部8との溶接を行えば、溶接跡の影響を受けることなく回転規制工具を平面部10にスムーズに係止させることができる。
【0030】
「第5実施形態」
第5実施形態は、接合手段をねじの螺合とした形態である。図7図8において、第1推進軸11の後端とスタブシャフト19の前端とは互いに突き合わされて摩擦圧接で接合されている。デフレクタ2Dは、内周にねじ孔6を有する円筒部4と、円筒部4の前端から径外方向に延びるフランジ部3を備えている。フランジ部3の前面には、環状の薄板からなるロックプレート31がスポット溶接等で予め接合されている。スタブシャフト19の外周には、ねじ部7と、ねじ部7の前側で径外方向に延びる鍔部8が形成されている。鍔部8には、第4実施形態と同様に、回転規制工具を係止させるための平面部10が形成され、平面部10には凹部30が形成されている。デフレクタ2Dは、ロックプレート31が鍔部8に後方から略突き当たる位置までねじ孔6がねじ部7に螺合される。そして、ロックプレート31のロック爪32を前方に折り曲げて凹部30内に係止させることで、デフレクタ2Dを回り止めする。
【0031】
このように、鍔部8の外周に回転規制工具を係止させるための平面部10を形成した場合、平面部10に凹部30を形成し、この凹部30にロック爪32を係止させれば、ロック爪32と干渉することなく回転規制工具を平面部10にスムーズに係止させることができる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施形態を説明した。一般的な接合方法として圧入嵌合が知られているが、塩害や泥水による錆や前記の撒き上げる飛石等を影響を受けやすい推進軸においては、圧入嵌合では接合強度が低下しやすい。これに対して、本発明の機械的な接合手段によれば、接合強度が高くなり、回り止め、抜け止めの信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0033】
1 推進軸(動力伝達軸)
2,2A〜2D デフレクタ(環状部材)
3 フランジ部
4 円筒部
6 ねじ孔
7 ねじ部
8 鍔部
9 リベット
11 第1推進軸(中空軸)
12 第2推進軸
14 軸受ユニット
19 スタブシャフト(軸部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8