【解決手段】高所作業車の安全装置は、複数のローラジャッキ10のうちのいずれかの張出量が所定量未満である場合、後側作業範囲S2内においてブーム20の先端部を移動させ得る高さの限界値を基準高さよりも低く設定された規制高さに制限し、ブーム20の先端部が後側作業範囲S2内で規制高さを越えて上方に移動するブーム20の作動を規制するように構成されている。
車輪を有して走行可能な車体と、前記車体上に起伏および旋回作動自在に設けられたブームと、前記ブームの作動を操作する操作装置と、前記車体側方へ張出可能なアウトリガビームおよび前記アウトリガビームの先端部に配設され前記車体下方に伸縮自在なジャッキを有してなる複数のローラジャッキ装置とを有し、前記ジャッキのそれぞれの下端に前記車体の走行方向に回転可能なローラが配設され、前記車輪を接地させたまま前記ローラを接地させて前記複数のローラジャッキ装置により前記車体を支持した状態において前記車体が走行可能に構成された高所作業車の安全装置において、
前記ブームの先端部の位置を検出する位置検出手段と、
前記アウトリガビームの前記車体側方への張出量を検出する張出量検出手段と、
前記車体の外方において前記ブームの先端部の移動が許容される許容作業範囲として、前記車体の前方および後方に前側作業範囲および後側作業範囲を設定するとともに、前記車体の左側方および右側方に左側作業範囲および右側作業範囲を設定する作業範囲設定手段と、
前記操作装置からの操作信号に基づき前記ブームの作動を制御する作動制御手段とを備え、
前記許容作業範囲には、前記ブームの先端部を移動させ得る高さの限界値として所定の基準高さが設定されており、
前記作業範囲設定手段は、複数のローラジャッキ装置のうちのいずれかのアウトリガビームの張出量が所定量未満である場合、前記後側作業範囲内において前記ブームの先端部を移動させ得る高さの限界値を前記基準高さよりも低く設定された規制高さに制限し、
前記作動制御手段は、複数のジャッキ装置のうちのいずれかのアウトリガビームの張出量が所定量未満である場合、前記ブームの先端部が前記後側作業範囲内で前記規制高さを越えて上方に移動する前記ブームの作動を規制することを特徴とする高所作業車の安全装置。
前記作業範囲設定手段は、前記左側作業範囲と前記後側作業範囲との間に第1中間作業範囲を設定するとともに、前記右側作業範囲と前記後側作業範囲との間に第2中間作業範囲を設定し、
前記作業範囲設定手段は、複数のジャッキ装置のうちの左側のジャッキ装置のアウトリガビームの張出量が所定量未満である場合、前記後側作業範囲と前記第1中間作業範囲とに跨って前記ブームの先端部を移動させ得る高さを前記規制高さに制限するとともに、複数のジャッキ装置のうちの右側のジャッキ装置のアウトリガビームの張出量が所定量未満である場合、前記後側作業範囲と前記第2中間作業範囲とに跨って前記ブームの先端部を移動させ得る高さを前記規制高さに制限することを特徴とする請求項1に記載の高所作業車の安全装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記高所作業車は、アウトリガの張出量が大きいほど、作業中の車体の安定性は向上するが、その作業現場によっては道路幅(幅員)などの走行スペースの制約上、アウトリガの張出量が制限される場合がある。ここで、高所作業車をアウトリガの張出量を所定量未満(格納状態)にして作業している状態で、その車体の後方側においてブームの先端部を許容作業範囲(許容作業半径)の外延の近傍であって所定の高さ以上に上昇させて高所作業を行うと(特に、車体の前方側よりも後方側の方が許容作業範囲を広く設定している関係上)、例えば路面に傾斜などがあった場合には、作業台の移動位置に応じた転倒モーメントが作用するばかりでなく、路面傾斜によって当該モーメントが増大されて作用するため、作業中の車体が左右側方(格納状態のアウトリガ側)に傾くおそれがあり、作業の安全性が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、ローラジャッキ装置の車体側方への張出量によらず作業中の車体を安定支持して、作業の安全性を向上させることのできる高所作業車の安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る高所作業車の安全装置は、車輪を有して走行可能な車体と、前記車体上に起伏および旋回作動自在に設けられたブームと、前記ブームの作動を操作する操作装置と、前記車体側方へ張出可能なアウトリガビームおよび前記アウトリガビームの先端部に配設され前記車体下方に伸縮自在なジャッキを有してなる複数のローラジャッキ装置とを有し、前記ジャッキのそれぞれの下端に前記車体の走行方向に回
転可能なローラが配設され、前記車輪を接地させたまま前記ローラを接地させて前記複数のローラジャッキ装置により前記車体を支持した状態において前記車体が走行可能に構成された高所作業車の安全装置において、前記ブームの先端部の位置を検出する位置検出手段と、前記アウトリガビームの前記車体側方への張出量を検出する張出量検出手段と、前記車体の外方において前記ブームの先端部の移動が許容される許容作業範囲として、前記車体の前方および後方に前側作業範囲および後側作業範囲を設定するとともに、前記車体の左側方および右側方に左側作業範囲および右側作業範囲を設定する作業範囲設定手段と、前記操作装置からの操作信号に基づき前記ブームの作動を制御する作動制御手段とを備え、前記許容作業範囲には、前記ブームの先端部を移動させ得る高さの限界値として所定の基準高さが設定されており、前記作業範囲設定手段は、複数のローラジャッキ装置のうちのいずれかのアウトリガビームの張出量が所定量未満である場合、前記後側作業範囲内において前記ブームの先端部を移動させ得る高さの限界値を前記基準高さよりも低く設定された規制高さに制限し、前記作動制御手段は、複数のジャッキ装置のうちのいずれかのアウトリガビームの張出量が所定量未満である場合、前記ブームの先端部が前記後側作業範囲内で前記規制高さを越えて上方に移動する前記ブームの作動を規制することを特徴とする。
【0007】
なお、上記構成の高所作業車の安全装置において、前記作業範囲設定手段は、前記左側作業範囲と前記後側作業範囲との間に第1中間作業範囲を設定するとともに、前記右側作業範囲と前記後側作業範囲との間に第2中間作業範囲を設定し、前記作業範囲設定手段は、複数のジャッキ装置のうちの左側のジャッキ装置のアウトリガビームの張出量が所定量未満である場合、前記後側作業範囲と前記第1中間作業範囲とに跨って前記ブームの先端部を移動させ得る高さを前記規制高さに制限するとともに、複数のジャッキ装置のうちの右側のジャッキ装置のアウトリガビームの張出量が所定量未満である場合、前記後側作業範囲と前記第2中間作業範囲とに跨って前記ブームの先端部を移動させ得る高さを前記規制高さに制限することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る高所作業車の安全装置によれば、車両の走行中において、複数のローラジャッキ装置のうちのいずれかの張出量が所定量未満である場合、車体の周囲に設定される許容作業範囲全体を縮小せず(作業半径および揚程を両方同時に縮小せず)に、その許容作業範囲のうち、前側作業範囲および側方側作業範囲(左側作業範囲、右側作業範囲)においてはブームの先端部を移動させ得る高さの限界値を基準高さに維持する一方、後側作業範囲においてはブームの先端部を移動させ得る高さの限界値を規制高さに制限することで、許容作業範囲全体を高さ規制の対象とすることなく、且つ高さ規制を行う前と同等の広い作業半径を確保することができるため、作業者の使い勝手を良好としつつ、路面傾斜に関わらず車体を安定支持して作業の安全性を向上させることが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る高所作業車の安全装置では、車両の走行中において、複数のローラジャッキ装置のうち左側のローラジャッキ装置の張出量が所定量未満である場合は、後側作業範囲および第1中間作業範囲に跨ってブームの先端部を移動させ得る高さの限界値を規制高さに制限するとともに、右側のローラジャッキ装置の張出量が所定量未満である場合は、後側作業範囲および第2中間作業範囲に跨ってブームの先端部を移動させ得る高さの限界値を規制高さに制限することで、張出量が所定量未満となるローラジャッキ装置の配置に応じて、揚程の高さを制限する作業範囲を拡張して、ローラジャッキ装置の張出量によらず車体を安定支持することができるため、作業の安全性を一層向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本実施形態に係る安全装置を備えた高所作業車1を
図1および
図2に示しており、まず、これらの図を参照して高所作業車1の全体構成について説明する。
【0012】
高所作業車1は、車体2の前部に運転キャブ2aを有し、車体2の前後左右にそれぞれ配設された車輪3により走行可能なトラック式車両をベースに構成されている。
【0013】
車体2の前後左右には、高所作業時に車体2を持ち上げ支持するローラジャッキ10が設けられている。ローラジャッキ10は、車体2の左右方向(車幅方向)に伸縮可能なアウトリガ(アウトリガビーム)11と、アウトリガ11の先端部に設けられて上下方向に伸縮可能なジャッキ12と、ジャッキ12の下端部に取り付けられて車両走行方向に回転自在なローラ13と、ジャッキ12の下端部に取り付けられて上下に揺動自在なジャッキベース(接地板)14とを備えて構成される。アウトリガ11は、該アウトリガ11内に設けられたアウトリガシリンダ15(
図3を参照)により左右方向(車幅方向)に伸縮作動可能に構成されている。ジャッキ12は、該ジャッキ12内に設けられたジャッキシリンダ16(
図3を参照)により上下方向に伸縮作動可能に構成されている。ジャッキベース14は、ローラ13の回転軸に軸支されており、この回転軸を中心として、ローラ13の真下に位置してローラ13の下面を覆う接地位置と、ローラ13の側方に位置してローラ13の下面を露出させる退避位置との間で揺動自在になっている。このジャッキベース14は、所定の係止手段により係止されることで、上記の接地位置又は退避位置に保持される。ここで、ローラジャッキ10による車体2の支持姿勢(高所作業車1の作業姿勢)には、ジャッキベース14を下方の接地位置に揺動させてジャッキベース(接地板)14を接地させ、且つ車輪3を完全に浮き上がらせた状態で車体2を支持する定置作業姿勢と、ジャッキベース14を上方の退避位置に揺動させてローラ13を接地させ、且つ車輪3も接地させた状態(すなわち車輪3による走行可能な姿勢)で支持する走行作業姿勢とを有する。なお、車体2には、各ローラジャッキ10の作動操作を行うためのジャッキ操作装置18(
図3を参照)が設けられている。
【0014】
車体2における運転キャブ2a後方の架装領域には、ブーム旋回モータ6により駆動されて上下軸回りに水平旋回動自在に構成された旋回台5が設けられている。この旋回台5の上部には、ブーム20の基端部がフートピン7を介して上下方向に揺動自在(起伏自在)に取り付けられている。
【0015】
ブーム20は、旋回台5側から順に、基端ブーム21、中間ブーム22及び先端ブーム23が入れ子式に組み合わされた構成を有しており、その内部に設けられたブーム伸縮シリンダ26の伸縮駆動により、ブーム20を軸方向(長手方向)に伸縮動させることができる。また、基端ブーム21と旋回台5との間にはブーム起伏シリンダ25が跨設されており、このブーム起伏シリンダ25を伸縮駆動させることにより、ブーム20全体を上下面(垂直面)内で起伏動させることができる。
【0016】
先端ブーム23の先端部には、作業台ブラケット30が上下方向に揺動自在に枢支されており、この作業台ブラケット30上に作業台40が配設されている。また、先端ブーム23の先端部には、この先端ブーム23と略平行に延びて形成されたシリンダブラケット31が設けられている。このシリンダブラケット31と作業台ブラケット30との間には、レベリングシリンダ35が跨設されている。このレベリングシリンダ35は、作業台40に設置された作業台傾斜検出器(図示せず)からの検出情報に基づき伸縮作動して、作業台ブラケット30を先端ブーム23に対して上下に揺動させることで、ブーム20の起伏角度に依らず作業台40の床面を常時水平な状態に保持する構成となっている。また、作業台ブラケット30には作業台旋回モータ36(
図3を参照)が設けられており、この作業台旋回モータ36を回転駆動させることにより、作業台40全体を水平旋回作動させることができる。
【0017】
作業台40は、作業者が搭乗可能な略矩形状の作業床41と、この作業床41の周囲に設けられた手摺り42とを有して構成される。この作業台40には、これに搭乗した作業者が操作する操作レバーや操作スイッチ、操作ダイヤル等の各操作手段を備えた作業操作装置70が設けられている。そのため、作業台40に搭乗した作業者は、作業操作装置70を操作することにより、旋回台5およびブーム20の旋回作動(ブーム旋回モータ6の回転作動)、ブーム20の起伏作動(ブーム起伏シリンダ25の伸縮作動)、ブーム20の伸縮作動(ブーム伸縮シリンダ26の伸縮作動)、作業台40の旋回作動(作業台旋回モータ36の回転作動)などの各作動操作を行うことができる。なお、図示省略するが、車体2にも作業操作装置(下部操作装置)が設けられており、地上もしくは車体2上に居る作業者が上記の作動操作を行うことができるようになっている。
【0018】
車体2に設けられたローラジャッキ10及び高所作業装置(上述の旋回台5、ブーム20、作業台40など)の作動機構は、
図3に示すように、ジャッキ操作装置18及び作業操作装置70からの操作信号が入力されるコントロールユニット50と、アウトリガシリンダ15、ジャッキシリンダ16、ブーム旋回モータ6、ブーム起伏シリンダ25、ブーム伸縮シリンダ26、作業台旋回モータ36(以下、まとめて「油圧アクチュエータ」とも総称する)を作動させるための作動油を供給する油圧ユニット80とを備えて構成されている。
【0019】
油圧ユニット80は、作動油を貯留する油圧タンク81と、エンジン又は電動モータにより駆動されて作動油を吐出する油圧ポンプ82と、油圧アクチュエータのそれぞれに対応して設けられて油圧ポンプ82からの作動油を供給制御する制御バルブ83とを備えている。制御バルブ83は、第1制御バルブV1〜第6制御バルブV6を有して構成されており、ブーム旋回モータ6には第1制御バルブV1経由で、ブーム起伏シリンダ25には
第2制御バルブV2経由で、ブーム伸縮シリンダ26には第3制御バルブV3経由で、作業台旋回モータ36には第4制御バルブV4経由で、アウトリガシリンダ15には第5制御バルブV5経由で、ジャッキシリンダ16には第6制御バルブV6経由で、油圧ポンプ82により吐出された作動油(圧油)が供給されるようになっている。この制御バルブ83は、コントロールユニット50からの制御信号(ジャッキ操作装置18及び作業操作装置70からの操作信号に応じた制御信号)に応じて油圧ポンプ82から各油圧アクチュエータに供給される作動油の供給方向及び供給量を制御し、各油圧アクチュエータの作動方向及び作動速度を制御する(ローラジャッキ装置10及び高所作業装置の作動方向及び作動速度を制御する)。
【0020】
コントロールユニット50には、位置検出装置60、ジャッキ張出量検出器65、ジャッキベース切替検出器66などからの検出情報(検出信号)が入力される。
【0021】
位置検出装置60は、車体2対するブーム20(旋回台5)の旋回角度を検出するブー
ム旋回角度検出器61と、車体2に対するブーム20の起伏角度を検出するブーム起伏角度検出器62と、ブーム20の伸長量(長さ)を検出するブーム長さ検出器63と、ブーム20(作業台ブラケット30)に対する作業台40の旋回角度を検出する作業台旋回角度検出器64とを有している。
【0022】
ジャッキ張出量検出器65は、ローラジャッキ10(アウトリガ11)の車幅方向の張出量(つまり、車体2に対する左右側方への張出量)を4段階で検出する。本実施形態では、上記4段階の張出量として、「最小張出量(MIN)」、「中間1張出量(MID1)」、「中間2張出量(MID2)」、「最大張出量(MAX)」が設定されている。なお、最小張出量はアウトリガ11の格納状態に対応し、最大張出量はアウトリガ11の最大張出状態に対応する。つまり、アウトリガ11の張出量は、最小張出量<中間1張出量<中間2張出量<最大張出量という順に1段階ずつ増加する。なお、ジャッキ張出量検出器65として、アウトリガ11の張出量を段階的に検出する構成に代えて、アウトリガ11の張出量を連続的に検出する構成を適用してもよい。
【0023】
ジャッキベース切替検出器66は、ジャッキベース14の揺動位置が、接地位置(下方位置)および退避位置(上方位置)のいずれにあるのかを検出する。
【0024】
コントロールユニット50は、位置演算部51と、作業姿勢判定部52と、作業範囲設定部53と、作動制御部54とを有して構成される。
【0025】
位置演算部51は、位置検出装置60から入力される検出情報に基づき、車体2を基準とするブーム20の先端部(作業台40を含むものでもよい)の位置を算出し、その結果得られたブーム20の先端部の位置情報を作動制御部54などに出力する。
【0026】
作業姿勢判定部52は、ジャッキベース切替検出器66から入力される検出情報に基づき、ローラジャッキ10による車体2の支持姿勢(高所作業車1の作業姿勢)が、定置作業姿勢および走行作業姿勢のいずれにあるのかを判定し、その結果得られた作業姿勢情報を作業範囲設定部53などに出力する。
【0027】
作業範囲設定部53には、車体2を転倒させることなくブーム20の先端部(作業台40)を移動させることのできる領域として定められた許容作業範囲Sのデータが記憶されている。この許容作業範囲Sのデータには、現在の作業姿勢が定置作業姿勢であるときに設定される許容作業範囲Sのデータと、現在の作業姿勢が走行作業姿勢であるときに設定される許容作業範囲Sのデータとを含む。以下では、本実施形態の特徴部分となる走行作業姿勢時にて設定される許容作業範囲Sについて説明する。
【0028】
作業範囲設定部53には、走行作業姿勢時の許容作業範囲Sのデータとして、ローラジャッキ10(アウトリガ11)の4段階の張出量のそれぞれに対応する許容作業範囲Sのデータが記憶されている。それにより、作業範囲設定部53は、現在の作業姿勢が走行作業姿勢である場合は、許容作業範囲Sのデータ群の中から現在のアウトリガ11の張出量に応じた許容作業範囲Sのデータを読み出す。そして、作業範囲設定部53は、許容作業範囲Sのデータ群の中からアウトリガ11の張出量に応じて読み出された許容作業範囲Sのデータを、現在の高所作業車1の作業姿勢(走行作業姿勢)とアウトリガ11の張出量とにより許容できるブーム20の先端部の移動可能領域として設定する。この許容作業範囲S(移動可能領域)の外縁は、ブーム20の長さが取り得る範囲とブーム20の起伏角度が取り得る範囲との関係により構造上設定される外縁(作動限界線)と、構造上はブーム20の先端部を移動させ得るが、転倒モーメントが過大となるのを未然に防止する観点からブーム20の先端部の移動を禁止せざる得ない限界線として設定される外縁(規制限界線)とからなる。なお、以下では、許容作業範囲Sの外縁として、作動限界線と規制限
界線とを区別せずに、「限界線」と呼称する。
【0029】
まず、ブーム20の旋回作動面内(水平面内)における許容作業範囲Sについて説明する。
図4は、或るブームの起伏姿勢およびアウトリガ11の張出量に対応して車体2の周囲に設定される許容作業範囲Sの一例を示す模式図である。図中に示す限界線L1〜L8は、ブーム20の許容作業半径を全旋回位置(360度)に亘って示した包絡線であり、限界線L1〜L8で囲まれる領域が許容作業範囲Sを示している。なお、図中には、ブーム20の先端部の位置を符号Pで表し、旋回台5の旋回中心を符号Cで表している。
【0030】
許容作業範囲Sは、車体2の前方に設定される前側作業範囲S1と、車体2の後方に設定される後側作業範囲S2と、車体2の左側方に設定される左側作業範囲S3と、車体2の右側方に設定される右側作業範囲S4と、車体2の左斜め前方に設定される前左側作業範囲S5と、車体2の右斜め前方に設定される前右側作業範囲S6と、車体2の左斜め後方に設定される後左側作業範囲S7と、車体2の右斜め後方に設定される後右側作業範囲S8とを有して構成される。
【0031】
前側作業範囲S1は、旋回中心Cを中心とする円弧状の限界線L1により囲まれる領域である。後側作業範囲S2は、旋回中心Cを中心とする円弧状の限界線L5により囲まれる領域である。左側作業範囲S3は、旋回中心Cを中心とする円弧状の限界線L7により囲まれる領域である。右側作業範囲S4は、旋回中心Cを中心とする円弧状の限界線L3により囲まれる領域である。前左側作業範囲S5は、前側作業範囲S1と左側作業範囲S3との間に設けられ、限界線L1と限界線L7との間を連続的に繋ぎ補間する限界線L8により囲まれる領域である。前右側作業範囲S6は、前側作業範囲S1と右側作業範囲S4との間に設けられ、限界線L1と限界線L3との間を連続的に繋ぎ補間する限界線L2により囲まれる領域である。後左側作業範囲S7は、後側作業範囲S2と左側作業範囲S3との間に設けられ、限界線L5と限界線L7との間を連続的に繋ぎ補間する限界線L6により囲まれる領域である。後右側作業範囲S8は、後側作業範囲S2と右側作業範囲S4との間に設けられ、限界線L3と限界線L5との間を連続的に繋ぎ補間する限界線L4により囲まれる領域である。なお、以下では、左側作業範囲S3、右側作業範囲S4を総称して「側方側作業範囲」とも呼称する。
【0032】
続いて、ブーム20の起伏作動面(垂直面内)における許容作業範囲Sについて説明する。
図5は、或るブーム20の旋回姿勢およびアウトリガ11の張出量に対応して車体2の側方に設定される許容作業範囲Sの一例を示す模式図である。図中に示す限界線L11〜L17によって囲まれた領域が許容作業範囲Sに該当する。なお、図中には、ブーム20の先端部の位置を符号Pで表し、旋回台5の旋回中心を符号Cで表している。また、図中に示す作業半径とは、旋回中心Cを通る仮想の鉛直線からブーム20の先端部までの水平距離を意味する。
【0033】
この許容作業範囲Sにおいて、限界線L17は、該許容作業範囲Sの外縁のうち、ブーム20の先端部を移動させ得る高さの限界値(揚程の限界値)を規定するものであり、以降では「揚程限界線L17」とも呼称する。なお、本実施形態では、ブーム20の先端部の地上からの高さを「ブーム先端部の揚程(地上揚程)」とも呼称する。
【0034】
ここで、本実施形態では、許容作業範囲Sのうち、前側作業範囲S1、左側作業範囲S3、右側作業範囲S4、前左側作業範囲S5、前右側作業範囲S6については、アウトリガ11の張出量に関わらず、揚程限界線L17の高さ(揚程の限界値)は、機械(構造上)の最大揚程(メカエンド)として設定される基準高さHaとする。本実施形態において、基準高さHaは、例えば最大揚程が「12m」の場合には、前側作業範囲S1、左側作業範囲S3、右側作業範囲S4、前左側作業範囲S5、前右側作業範囲S6においては、
常に、揚程の限界値として「12m」となる。
【0035】
一方、許容作業範囲Sのうち、後側作業範囲S2、後左側作業範囲S7、後右側作業範囲S8については、アウトリガの張出量に応じて、揚程限界線L17の高さ(揚程の限界値)が切り替えられる。すなわち、後側作業範囲S2、後左側作業範囲S7、後右側作業範囲S8については、アウトリガ11の張出量が中間1張出量,中間2張出量2,最大張出量のいずれかである場合(最小張出量以外である場合)は、揚程限界線L17の高さが基準高さHaとなるが、アウトリガ11の張出量が最小張出量である場合には、そのアウトリガ11の配置(左右位置)に応じた所定の作業範囲で、揚程限界線L17の高さが規制高さHbに制限される。本実施形態において、規制高さHbは、例えば「9m」に設定されている。そのため、後側作業範囲S2、後左側作業範囲S7、後右側作業範囲S8においては、アウトリガ11の張出量に応じて、揚程の限界値が「12m」となる高さ規制面となる場合と、揚程の限界値が「9m」となる高さ規制面となる場合とがある。
【0036】
ここで、
図6は、ローラジャッキ10(アウトリガ11)の張出量と、許容作業範囲Sのうち揚程の限界値として規制高さHbが設定される範囲との関係を示す模式図である。
【0037】
まず、
図6(A)に示すように、4本全てのアウトリガ11の張出量が最小張出量である場合は、後側作業範囲S2と後左側作業範囲S7と後右側作業範囲S8とに跨って、揚程限界線L17の高さが規制高さHbに制限される。
【0038】
続いて、
図6(B)に示すように、4本のアウトリガ11のうち、左側のアウトリガ11(左側前方および左側後方のアウトリガ11)の張出量が最大張出量であり、右側のアウトリガ11(右側前方および右側後方のアウトリガ11)の張出量が最小張出量である場合は、後側許容範囲S2および後右側許容範囲S8に跨って、揚程限界線L17の高さが規制高さHbに制限される。なお、右側のアウトリガ11(右側前方および右側後方のアウトリガ11)のうち、何れか一方のアウトリガ11のみが最小張出量である場合にも、後側許容範囲S2および後右側許容範囲S8に跨って、揚程限界線L17の高さが規制高さHbに制限されることになる。
【0039】
続いて、
図6(C)に示すように、4本のアウトリガ11のうち、左側のアウトリガ11(左側前方および左側後方のアウトリガ11)の張出量が最小張出量であり、右側のアウトリガ11(右側前方および右側後方のアウトリガ11)の張出量が最大張出量である場合は、後側許容範囲S2および後左側許容範囲S7に跨って、揚程限界線L17の高さが規制高さHbに制限される。なお、左側のアウトリガ11(左側前方および左側後方のアウトリガ11)のうち、何れか一方のアウトリガ11のみが最小張出量である場合にも、後側許容範囲S2および後左側許容範囲S7に跨って、揚程限界線L17の高さが規制高さHbに制限されることになる。
【0040】
このように、車体前方側よりも作業半径(作業範囲)が相対的に広く設定された車体後方側について、その作業半径を維持しつつ揚程の高さを制限することで、その車体後方側の広い作業半径を阻害することなく該作業半径を十分に使用して高所作業を行うことができるようになっている。
【0041】
作動制御部54は、作業台40に搭乗した作業者により作業操作装置70が操作されると、その操作指令信号に応じて制御バルブ83を電磁駆動して、ブーム旋回モータ6、ブーム起伏シリンダ25、ブーム伸縮シリンダ26、作業台旋回モータ36に油圧ポンプ82からの作動油を供給する制御を行い、ブーム20等の作動を制御する。
【0042】
ここで、作動制御部54は、作業操作装置70の操作信号と、位置演算部51において
算出されたブーム20の先端部の位置情報と、作業範囲設定部53に記憶された許容作業範囲Sの情報とを比較して、ブーム20の先端部が許容作業範囲Sの外縁(限界線)に到達していると判断した場合には、ブーム20の先端部を許容作業範囲Sの外側に移動させるような油圧アクチュエータの作動を規制する(そのような操作信号を無視する)。
【0043】
また、作動制御部54は、許容作業範囲Sのうち一部の作業範囲(後側作業範囲S2、後左側作業範囲S7、後右側作業範囲S8)において、揚程限界線L17の高さが規制高さHbに制限されている場合は、その作業範囲ではブーム20の先端部の高さが基準高さHaに到達していなくとも、規制高さHbに到達しようとした時点で、ブーム20の先端部が規制高さHbを越えて上昇するような油圧アクチュエータの作動を規制する(そのような操作信号を無視する)。具体的には、ブーム20の先端部が規制高さHbに到達した場合には、ブーム20の先端部を上昇させる作動として、ブーム20の起仰作動および伸長作動を規制する。但し、ブーム20の先端部が規制高さHbに達していても、ブーム20の旋回作動は規制されず、ブーム20の先端部を水平旋回移動することは許容されている。これは、ブーム20を旋回作動させたとしても、規制高さHbを越えることはなく、作業の安全性は確保されているからである。
【0044】
以上、本実施形態によれば、走行作業姿勢において、複数のローラジャッキ10のうちのいずれかの張出量が最小張出量である場合、車体2の周囲に設定される許容作業範囲S全体を縮小せず(作業半径および揚程を両方同時に縮小せず)に、その許容作業範囲Sのうち、前側作業範囲S1および側方側作業範囲S3,S4,S5,S6においてはブーム20の先端部を移動させ得る高さの限界値を基準高さHaに維持する一方、後側作業範囲S2においてはブーム20の先端部を移動させ得る高さの限界値を規制高さHbに制限することで、許容作業範囲S全体を高さ規制の対象とすることなく、且つ高さ規制を行う前と同等の広い作業半径を確保することができるため、作業者の使い勝手を良好としつつ、路面傾斜に関わらず車体2を安定支持して作業の安全性を向上させることが可能となる。
【0045】
また、本実施形態では、走行作業姿勢において、複数のローラジャッキ10のうち左側のローラジャッキ10の張出量が最小張出量である場合は、後側作業範囲S2および後左側作業範囲S7に跨ってブーム20の先端部を移動させ得る高さの限界値を規制高さHbに制限するとともに、右側のローラジャッキ10の張出量が最小張出量である場合は、後側作業範囲S2および後右側作業範囲S8に跨ってブーム20の先端部を移動させ得る高さの限界値を規制高さHbに制限することで、最小張出量となるローラジャッキ10の配置に応じて、揚程の高さを制限する作業範囲を拡張して、ローラジャッキ10の張出量によらず車体2を安定支持することができるため、作業の安全性を一層向上させることが可能となる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば適宜改良可能である。
【0047】
上記実施形態では、ローラジャッキ10(アウトリガ11)の張出量が最小張出量である場合に、後側作業範囲S2および後左側作業範囲S7(又は後右側作業範囲S8)の揚程の限界値を規制高さHbに制限したが、この構成に限定されるものではなく、ローラジャッキ10(アウトリガ11)の張出量が中間張出量(中間1張出量又は中間2張出量)である場合にも、後側作業範囲S2および後左側作業範囲S7(又は後右側作業範囲S8)の揚程の限界値を規制高さHbに制限するように構成してもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、ローラジャッキ10(アウトリガ11)の張出量が最小張出量である場合に、そのローラジャッキ10の配置(左右位置)に応じて、揚程の限界値を制限する作業範囲として、後側作業範囲S2に加えて、後左側作業範囲S7又は後右側作
業範囲S8を選択的に付加したが、この構成に限定されるものではなく、ローラジャッキ10の配置(左右位置)に関わらず、常に後側作業範囲S2のみを揚程の限界値を制限する作業範囲としたり、常に後側作業範囲S2と後左側作業範囲S7と後右側作業範囲S8とを揚程の限界値を制限する作業範囲としたりしてもよい。また、前側作業範囲S1についても、上記実施形態と同様に、揚程の限界値を制限するように構成してもよい。なお、ブームを車体の前方側に倒伏作動して格納する前方格納式の高所作業車においては、前後が反転するため、前側作業範囲S1だけを高さ規制するように構成してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、後側作業範囲S2の揚程と、後左側作業範囲S7又は後右側作業範囲S8の揚程とを同一の規制高さHbで制限しているが、この構成に限定されるものではなく、後側作業範囲S2の揚程を規制高さHb1で制限し、後左側作業範囲S7又は後右側作業範囲S8の揚程を規制高さHb2(Hb2>Hb1が好適)で制限するように構成してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、本発明に係る高所作業車として、伸縮ブーム式の高所作業車を例示して説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、屈伸ブーム式の高所作業車等であってもよく、少なくとも起伏動および旋回動自在なブーム式の高所作業車であれば、本発明を適用可能である。また、本発明に係る高所作業車としては、電気駆動型(バッテリ駆動型)の高所作業車や、エンジンの動力をPTO機構(パワーテイクオフ機構)によって取り出して油圧ポンプを駆動するPTO駆動型の高所作業車、その両者を具備して動力源を選択的に切り替えるハイブリッド型の高所作業車のいずれであってもよい。加えて、上記実施形態では、ブームを車体の後方側に倒伏作動して格納する後方格納式の高所作業車を例示したが、ブームを車体の前方側に倒伏作動して格納する前方格納式の高所作業車を適用してもよい。