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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-83692(P2020-83692A)
(43)【公開日】2020年6月4日
(54)【発明の名称】炭素材料膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/00 20170101AFI20200508BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20200508BHJP
【FI】
   C01B32/00
   C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-219200(P2018-219200)
(22)【出願日】2018年11月22日
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】ノルアマリナ ディアナ ビンティ ナサルッディン
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AD30
4G146BA12
4G146BB07
4G146BC02
4G146BC32A
4G146BC33A
4G146BC33B
(57)【要約】
【課題】 炭素材料の構造を制御する方法を提供する。
【解決手段】 炭素材料からなる膜であって、該炭素材料は、ラマンスペクトルにおいて、1580〜1620cm−1にGバンドのピークを有し、かつ1440〜1480cm−1に5員環の骨格部分に由来するピークを有することを特徴とする炭素材料膜。または炭素材料からなる膜であって、該炭素材料は、FT−IRスペクトルにおいて、1580〜1620cm−1にC=C伸縮振動に由来するピークを有し、かつ1400〜1460cm−1に5員環の骨格部分に由来するピークを有することを特徴とする炭素材料膜。
炭素材料からなる膜を製造する方法であって、該製造方法は、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を加熱する工程を含むことを特徴とする炭素材料膜の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料からなる膜であって、
該炭素材料は、ラマンスペクトルにおいて、1580〜1620cm−1にGバンドのピークを有し、かつ1440〜1480cm−1に5員環の骨格部分に由来するピークを有することを特徴とする炭素材料膜。
【請求項2】
前記炭素材料は、ラマンスペクトルにおいて、更に1260〜1300cm−1にピークを有することを特徴とする請求項1に記載の炭素材料膜。
【請求項3】
炭素材料からなる膜であって、
該炭素材料は、FT−IRスペクトルにおいて、1580〜1620cm−1にC=C伸縮振動に由来するピークを有し、かつ1400〜1460cm−1に5員環の骨格部分に由来するピークを有することを特徴とする炭素材料膜。
【請求項4】
炭素材料からなる膜を製造する方法であって、
該製造方法は、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を加熱する工程を含むことを特徴とする炭素材料膜の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程は、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を400〜900℃で加熱する工程であることを特徴とする請求項4に記載の炭素材料膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料膜及びその製造方法に関する。より詳しくは、半導体材料、電極材料、水素貯蔵材料、触媒等として好適に用いることができる炭素材料膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンやカーボンナノチューブ(CNT)等の炭素材料は、その優れた機械的、電気的、化学的特性から近年注目を集める材料であり、様々な分野への応用が期待されている。例えば、放熱フィルム、耐熱シール、ガスケット、発熱体等として使用するフィルム状グラファイトの製造方法(特許文献1参照)や、ポリトリアジン芳香族アミド樹脂組成物の炭素化物の水素貯蔵タンク材料としての利用(特許文献2参照)等が報告されている。
【0003】
また1層からなるグラフェンは、そのままでは半導体として利用することが困難なゼロギャップ半導体であるが、ヘテロ原子をドープしたり、欠陥構造を導入したりして、バンドギャップを形成することで半導体として利用することが報告されている(特許文献3及び非特許文献1参照)。
【0004】
ところで、炭素材料の合成は有機物を炭素化させることにより行われるが、炭素化後の構造の同定、制御が困難であるため、構造と機能との関連性について充分に解明されていないのが現状である。近年は、炭素材料の構造の解明や構造制御についての研究も徐々に進んできており、その成果が報告されている(非特許文献2〜7参照)。
【0005】
なお、5員環化合物であるコラニュレンを重合させた場合のバンドギャップを計算した報告がある(非特許文献8)。これによれば5員環構造を含む炭素材料は半導体として好適に利用でき得ることがわかる。また、5員環化合物であるコラニュレンを重合させた例として、臭素化されたコラニュレンを重合することも報告されているが、本質的に臭素原子が炭素材料中に残るため、不純物として働いてしまうものであった(非特許文献9)。半導体として安定に利用する観点からは、不純物となる元素は存在しない方がよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/023713号
【特許文献2】国際公開第2016/063859号
【特許文献3】国際公開第2014/017592号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ナノ レターズ(Nano Letters)」、2009年、第9巻、p1752
【非特許文献2】「ネイチャー(Nature)」、2010年、第466巻、p470−473
【非特許文献3】「ケミカル コミュニケーションズ(Chemical Communications)」、2011年、第47巻、p10239−10241
【非特許文献4】「ケミカル コミュニケーションズ(Chemical Communications)」、2014年、第50巻、p4172−4174
【非特許文献5】「ネイチャー コミュニケーションズ(Nature Communications)」、2015年、第6巻、p6486
【非特許文献6】「ネイチャー コミュニケーションズ(Nature Communications)」、2017年、第8巻、p109
【非特許文献7】「カーボン(Carbon)」、2017年、第122巻、p694
【非特許文献8】「ケミカル フィジックス レターズ(Chemical Physics Letters)」、2016年、第650巻、p76
【非特許文献9】「フィジカル ケミストリー ケミカル フィジックス(Physical Chemistry Chemical Physics)」、2018年、第20号、p26161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、炭素化後の構造が制御された炭素材料についていくつかの報告例があるが、上述したように、制御された構造を有する炭素材料を製造する方法が充分に確立されているとはいえないのが現状である。グラフェンにヘテロ原子をドープしたり、欠陥構造を導入したりした構造の炭素材料を製造する場合は、更に、大掛かりな装置や操作が必要なものであった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、炭素材料の構造を制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、炭素材料の構造を制御する方法について種々検討したところ、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を加熱する工程を含む製造方法とすると、ラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピーク及び5員環の骨格部分に由来するピークを有する、炭素化後の構造が制御された炭素材料、又は、FT−IR(フーリエ変換型赤外分光)スペクトルにおいて、C=C伸縮振動及び5員環の骨格部分に由来するピークを有する、炭素化後の構造が制御された炭素材料を簡便に製造できることを見出した。また、本発明者は、このようにして製造した炭素材料は、膜状となり、特に半導体として非常に好適に使用できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち本発明は、炭素材料からなる膜であって、該炭素材料は、ラマンスペクトルにおいて、1580〜1620cm−1にGバンドのピークを有し、かつ1440〜1480cm−1に5員環の骨格部分に由来するピークを有することを特徴とする炭素材料膜である。また本発明は、炭素材料からなる膜であって、該炭素材料は、FT−IRスペクトルにおいて、1580〜1620cm−1にC=C伸縮振動に由来するピークを有し、かつ1400〜1460cm−1に5員環の骨格部分に由来するピークを有することを特徴とする炭素材料膜である。
本発明はまた、炭素材料からなる膜を製造する方法であって、該製造方法は、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を加熱する工程を含むことを特徴とする炭素材料膜の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0012】
(炭素材料膜)
本発明の炭素材料膜は、炭素材料が、ラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピーク及び5員環の骨格部分に由来するピークを有する。
Gバンドは、炭素原子で構成される連続した6員環構造に由来するスペクトルであり、ラマンシフト1580〜1620cm−1のピークである。
5員環の骨格部分に由来するピークは、ラマンシフト1440〜1480cm−1のピークである。なお、本発明に係る炭素材料は、ラマンスペクトルにおいてこのピークを有することから、5員環を含む規則的な骨格部分を有すると考えられる。
また本発明の炭素材料膜は、炭素材料が、FT−IRスペクトルにおいて、C=C伸縮振動に由来するピーク及び5員環の骨格部分に由来するピークを有するものであってもよい。
C=C伸縮振動は、芳香族化合物等のC=C結合の伸縮振動に由来するスペクトルであり、1580〜1620cm−1のピークである。
FT−IRスペクトルにおいて5員環の骨格部分に由来するピークは、1400〜1460cm−1のピークである。本発明に係る炭素材料は、FT−IRスペクトルにおいてこのピークを有することから、5員環を含む規則的な骨格部分を有すると考えられる。
このような炭素材料は、炭素化されながらも5員環を含む規則的な骨格部分を有しており、炭素化後の構造が制御されたものである。また、5員環構造という欠陥構造が導入されていてバンドギャップが形成されていること、膜状であることから、半導体として用いた場合に非常に好適に使用できる。
なお、本明細書中、ラマンスペクトル及びFT−IRスペクトルは、実施例に記載の方法で測定されるものである。また、ピークを有するとは、ベースラインに対してピークが明確に観測されるものであればよい。例えば、Gバンドであれば1580〜1620cm−1の範囲内に明確なピークトップが存在するということである。言い換えれば、ピークトップは1580〜1620cm−1の範囲内に無いがピークのショルダーがその範囲内にかかっているというだけでは、ピークを有するとは言わない。
【0013】
上記炭素材料は、ラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度に対する5員環の骨格部分に由来するピーク強度の比が0.01以上であることが好ましい。これにより、半導体として用いた場合にその効果が顕著なものとなる。
本明細書中、5員環の骨格部分に由来するピーク強度とは、ラマンシフト1440〜1480cm−1のピーク強度を意味する。
該ピーク強度の比は、0.05以上であることがより好ましく、0.1以上であることが更に好ましい。また、該ピーク強度の比は、1以下であることがより好ましい。
本明細書中、ピーク強度の比は、後述する実施例の方法を行うことにより測定することができる。
【0014】
上記炭素材料は、ラマンスペクトルにおいて、更に1260〜1300cm−1にピークを有することも好ましい形態である。このピークは化合物同士が結合した場合に生成する、炭素材料のエッジ由来のピークであり、エッジ近傍の6員環のブリージングによるC−C振動や、生成したアームチェア様のエッジに存在するC−H振動に由来する。このピークが存在することにより、半導体として用いた場合にその効果が顕著なものとなる。
【0015】
上記炭素材料は、FT−IRスペクトルにおけるC=C伸縮振動のピーク強度に対する5員環の骨格部分に由来するピーク強度の比が1以上であることが好ましい。これにより、半導体として用いた場合にその効果が顕著なものとなる。
本明細書中、5員環の骨格部分に由来するピーク強度とは、1400〜1460cm−1のピーク強度を意味する。
上記ピーク強度の比は、2以上であることがより好ましく、3以上であることが更に好ましい。また、該ピーク強度の比は、10以下であることがより好ましい。
本明細書中、ピーク強度の比は、後述する実施例の方法を行うことにより測定することができる。
【0016】
本発明の炭素材料膜は、原料の仕込み量と膜面積を調整することにより任意の膜厚をとることが可能であるが、前述のような膜形状のメリットをより充分に発揮させるためには平均膜厚が、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましい。また、該平均膜厚は、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。
上記平均膜厚は、厚みに応じて、ノギス、光学顕微鏡や電子顕微鏡等の顕微鏡観察、触針式段差計等により測定することができる。また、本発明の炭素材料膜は膜の形状は特に限定されない。平滑な基板に製膜したような平板状であってもよく、粒子のような丸みを帯びた担体の表面に製膜したような曲面状であってもよく、多孔質担体の表面に製膜したような凹凸を有するような形状であってもよい。本発明の炭素材料膜の製造方法により様々な形状の膜を作製し得る。
【0017】
本発明の炭素材料膜は、表面に沿って同質の部分が連続したものであればどのようなサイズ・形状の膜でもよいが、膜のサイズ(任意の一辺の長さ)は、例えばナノ半導体として電極間に挟めうるサイズ、例えば10nm以上であることが好ましい。ただし、サイズの上限は本質的に無限である。ナノ半導体としてはマスクを使用することで、ナノサイズやミクロンサイズまで制御可能であるし、例えばロールトゥロールのような製法をとれば、連続的な基板上に本発明の膜を製造し、随時巻き取っていけば長さは任意のものをとることが出来る。すなわち、サイズや形状に関してはマスクや基板等の担体に依存し、本発明の製造方法及び炭素材料膜を使用すれば任意のものが製造可能である。なお、いずれか一辺の長さが上記範囲内であればよいが、すべての辺が上記範囲内であることがより好ましい。この場合も仕込み量や膜面積を調整することや大きく製膜した後にカットすることでサイズを調整することが出来るし、適当なマスクを用意し、様々な形、サイズの膜を作製することも可能である。更に本発明の炭素材料膜の製造方法を利用すればナノサイズだけでなく、上述したように視認可能なサイズの膜も作製可能である。この場合も仕込み量や膜面積を調整することで任意に調整可能である。すなわち、本発明の炭素材料膜の製造方法を利用すれば様々なサイズ・形状の膜を製造し得る。上記膜サイズは、サイズに応じて、目視、光学顕微鏡や電子顕微鏡等の顕微鏡観察等により測定することができる。
【0018】
本発明の炭素材料膜は原料に芳香族炭化水素化合物のみを用い、また反応触媒等の成分も用いないことが好ましい。これにより、得られた炭素材料膜は実質的に炭素原子、水素原子(後述する製造上のガス雰囲気によっては酸素原子、窒素原子等)から構成されるが、金属元素等の無機元素は本質的に含まれない。またハロゲン基のような脱離基を利用した縮合反応も利用しないことが好ましい。これにより、得られた炭素材料膜にはハロゲン元素も本質的に含まれない。すなわち、本発明の炭素材料膜は金属元素(特に、遷移金属元素)及びハロゲン元素を含まないことが好ましい。なお元素が含まれないとはXPSによる分析で、ピークが検出されないこと(ベースラインと判別できないこと)を言う。
【0019】
本発明の炭素材料膜は、その製造方法は特に限定されないが、例えば、後述する炭素材料膜の製造方法により簡便に得ることができる。
【0020】
(炭素材料膜の製造方法)
本発明の炭素材料膜の製造方法は、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を加熱する工程を含むことを特徴とする。このように、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を加熱すると、5員環部分等の構造が充分に維持されたまま、芳香族炭化水素が重合反応して結合を形成しつつ炭素化されやすくなるため、本質的に不純物となるような反応触媒を用いずとも、5員環を含む規則的な骨格部分を有する、構造が制御された炭素材料が得られる。
5員環部分等の構造が充分に維持される理由としては、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素は、5員環構造が分解しないような、低い温度で重合(炭素化)できることが考えられる。
また本発明の製造方法により、膜状の炭素材料が得られる。膜状となる理由は明らかではないが、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素はアームチェアエッジ、ジグザグエッジ等の反応性エッジを有すること等から低い温度で重合でき、また融点を有しており、融けたうえで重合(炭素化)するためであると推定される。または5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素が気化し、化合物同士が重合(脱水素反応)することで膜状に炭素化が進行すると考えられる。
【0021】
本発明の炭素材料膜の製造方法における上記加熱工程は、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を400〜900℃で加熱する工程であることが好ましい。該加熱温度は、450℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがより好ましい。
また構造制御された構造の割合をより多くする点から、該加熱温度は、900℃以下であることが好ましい。より好ましくは、800℃以下であり、更に好ましくは、700℃以下である。
【0022】
上記加熱工程における加熱温度での保持時間(単に加熱時間ともいう)は、構造が制御された炭素材料膜が得られる限り特に制限されないが、1秒〜10時間であることが好ましい。このような加熱時間で加熱を行うことで、原料である5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を充分に反応させ、より多くの原料を生成物である炭素材料にすることができる。加熱時間は、より好ましくは、1分〜5時間であり、更に好ましくは、10分〜1時間である。加熱時間を一定時間以上とすることで、充分に炭素化させることが可能となる。
【0023】
上記加熱工程においては、加熱方法は特に制限されないが、室温から目的加熱温度まで昇温させることや、あらかじめ加熱しておいた炉中にサンプルを投入することでも本発明の炭素材料膜が製造できる。
【0024】
上記加熱工程においては、原料化合物をあらかじめ、塗布や蒸着により基板等の担体に製膜した後、加熱してもよい。また原料化合物を加熱しながら気化を利用し、基板等の担体上に加熱しながら製膜してもよい。後者の場合は、原料化合物を気化させる工程、原料化合物を加熱(炭素化)する工程について、それぞれ同一場所で行ってもよいし、異なる場所で行ってもよい。また、原料化合物の気化温度、原料化合物の加熱温度、その際の製膜のための基板等の担体部分の温度について、それぞれ同一温度であってもよいし、異なる温度であってもよい。
【0025】
本発明の炭素材料膜の製造方法では、原料である芳香族炭化水素が酸化されることを抑制するため、上記加熱工程を真空下、又は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
なお、本発明における真空下とは、気圧が1kPa以下の状態を意味する。
【0026】
本発明の炭素材料膜の製造方法に用いる5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素は、芳香族炭化水素であって、5員環の骨格部分を有するものであれば特に制限されない。なお、芳香族炭化水素は、通常、炭素原子と水素原子のみから構成されるものである。
また芳香族炭化水素は、通常、5員環構造を含む環構造を複数有するものであり、好ましくは、5員環を含む複数の芳香環から構成される縮環構造を有するものである。複数の芳香環が縮環した構造の芳香族炭化水素を用いることで、より構造が制御された炭素材料を製造することができる。その中でも特に5員環構造を囲むように6員環(ベンゼン環)構造を配置されたものがより好ましい。5員環を安定な6員環で囲むことにより、更に5員環の分解を抑制し、より多くの5員環をより高温でも維持することが可能となる。また、5員環構造であるシクロペンタジエン環(共鳴構造式の書き方によってはシクロペンタン環及びシクロペンテン環も含む)のうち、sp炭素部分が露出しない化合物が好ましい。言い換えると5員環のすべての辺(炭素−炭素結合)が他の環構造の辺(炭素−炭素結合)の一部(共有)となっていることが好ましい。露出する化合物の例として、フルオレンが挙げられる。
【0027】
上記複数の芳香環から構成される縮環構造としては、アセナフテン等の5員環に6員環構造が2つ以上縮環したものが好ましい。更にはフルオランテン等の3つ以上縮環したものが好ましく、より好ましくはベンゾフルオランテン(構造異性体含む)等の4つ以上縮環したものが好ましく、最も好ましくはコラニュレン等の5つ以上縮環したものが好ましい。
特に、3つ以上の環構造が5員環に対し縮環することで、上記の通り5員環(特にsp炭素部分)を安定な6員環で囲むことが出来る、すなわちsp炭素部分が露出しないので5員環の保護に寄与できる。なお、上記芳香族炭化水素は、ビニル基、エチニル基等の炭化水素からなる置換基を有していてもよいが、置換基を有さないことが好ましい。
【0028】
本発明において用いる芳香族炭化水素の具体例としては、コラニュレン、フルオランテン、ベンゾフルオランテン等が挙げられる。中でも、構造をより制御されたものとする観点から、コラニュレンが好ましい。更に芳香族炭化水素の具体例としては、上記のような化合物中に5員環構造を1つ含むもののほか、ペンタレン、ベンゾペンタレン、ジベンゾペンタレン、インダセン、ベンゾインタセン等の化合物中に5員環構造を2つ以上含むものもまた好ましい。
本発明において用いる芳香族炭化水素は、公知の方法により合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
なお、本発明の炭素材料の製造方法においては、5員環の骨格部分を有する芳香族炭化水素を1種用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0029】
上記加熱工程で得られる炭素材料膜は、炭素材料膜が単独で存在する形態であってもよく、担体に担持された形態であってもよい。更に例えば、製造時は担体に担持された状態であって、その後好適なサイズ、形状に単独膜として取り出してもよい。さらに前述の通り、基板上にマスクを利用し好適なサイズ、形状に製膜した後、取り出してもよい。
【0030】
本発明の炭素材料膜の製造方法は、上記加熱工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。
その他の工程としては、炭素材料の洗浄、ろ過、遠心分離等の精製工程、加熱前後の真空下又は送風下での乾燥工程、エッチング工程、担体からの剥離工程等が挙げられる。
【0031】
本発明の炭素材料膜の製造方法で得られる炭素材料膜は、半導体材料、電極材料(例えば、燃料電池用電極材料)、水素貯蔵材料、水素化・脱水素化反応等の触媒、ガスセンサー、酸素、二酸化炭素、水素等の吸着材料、電気二重層キャパシタ等の用途に好適に用いることができる。中でも、半導体材料の用途に特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の炭素材料膜は、半導体材料、電極材料、水素貯蔵材料、触媒等の用途に好適に用いることができる構造が制御されたものであり、特に半導体材料として好適な物理的特性・形状を有する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例1〜3、比較例1で得られた加熱物についてそれぞれ測定したラマンスペクトルを示した図である。
図2】実施例1〜3、比較例1で得られた加熱物についてそれぞれ測定したFT−IRスペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0035】
<ラマンスペクトルの測定方法>
顕微レーザーラマン分光計(NSR−4500、日本分光株式会社製)を用いて、532nmの波長のレーザーを、露光時間5秒、積算回数10回の条件で試料に照射して測定する。
【0036】
<FT−IRスペクトルの測定方法>
FT−IR分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT/IR−4200)
測定条件:拡散反射(DRIFT)法、MCT検出器、分解能4cm−1、積算回数128回
サンプル条件:試料とKBrを重量比=1:50で混合したものを使用した。
【0037】
(実施例1、2)
コラニュレン(東京化成工業株式会社製)をアンプル管中に20mgとり、あらかじめ60℃で1時間真空乾燥させたのち、アンプルを封じ、550℃と600℃で1時間加熱した。加熱後の形態はアンプル管壁面にシート状(膜状)になり、図1に示すように、Gバンド、5員環由来のピーク、及び1260〜1300cm−1付近のピークが見えた。またラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度に対する5員環の骨格部分に由来するピーク強度の比はそれぞれ0.72と0.13であった。また、図2に示すように、5員環由来のピーク、及び、C=C伸縮振動に由来するピークが見えた。FT−IRスペクトルにおけるC=C伸縮振動のピーク強度に対する5員環の骨格部分に由来するピーク強度の比はそれぞれ1.93と1.33であった。
【0038】
(実施例3)
コラニュレンの代わりにフルオランテン(東京化成工業株式会社製)を用い、加熱温度を650℃とした以外は実施例1と同様の方法で行ったところ、加熱後の形態はアンプル管壁面にシート状(膜状)になり、図1に示すように、Gバンド、5員環由来のピーク、及び1260〜1300cm−1付近のピークが見えた。ラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度に対する5員環の骨格部分に由来するピーク強度の比は0.44であった。また、図2に示すように、5員環由来のピーク、及び、C=C伸縮振動に由来するピークが見えた。FT−IRスペクトルにおけるC=C伸縮振動のピーク強度に対する5員環の骨格部分に由来するピーク強度の比は1.43であった。
【0039】
(比較例1)
コラニュレンの代わりにフラーレン(C60、東京化成工業株式会社製)を用い、加熱温度を800℃とした以外は実施例1と同様の方法で行ったところ、加熱後の形態は粉末状のままであり、図1に示すように、Gバンド及び5員環由来のピークが見え、1260〜1300cm−1付近のピークは確認できなかった。また、図2に示すように、5員環由来のピークが見え、C=C伸縮振動に由来するピークは確認できなかった。
図1
図2