【実施例】
【0061】
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。
【0062】
[実施例1]
(1)機能性ペプチドの作製
前記機能性ペプチドとして、ラットS100A8ペプチド(配列番号1の前記rS100A8)およびラットS100A9ペプチド(配列番号2の前記rS100A9)から設計した前記表4のrMIKO−1(配列番号11)を、遺伝子工学的手法により調製した。前記rMIKO−1は、N末端側の領域Xが、rS100A8ペプチド由来のrN1−1ペプチド(配列番号1)であり、C末端側の領域Yが、rS100A9ペプチド由来のrC1−2(配列番号7)のペプチドである。前記rMIKO−1は、その全長が、rS100A9ペプチド(配列番号2)と同じであり、その分子量も、rS100A9と同等である。また、参照用ペプチドとして、rS100A8ペプチド(配列番号1)およびrS100A9ペプチド(配列番号2)も調製した。なお、調製した各ペプチドサンプルのエンドトキシン濃度を、市販キット(ToxinSensorTM、Endotoxin Detection System、GenScript Inc.)を用いて測定した結果、いずれのペプチドサンプルも、エンドトキシン濃度は0.5〜0.7EU/mgタンパク質の範囲であり、後述するマクロファージの活性化に対して影響を及ぼす量のエンドトキシンは含まれていないことが確認できた。
【0063】
(2)PEG化
前記各ペプチドサンプルについて、ラットの血液中、または、ラットの身体中における半減期を延長するために、ポリエチレングリコール(PEG)を用いてPEG化した。具体的には、PEG(粉末30mg、SUNRIGHT ME−050HS、NOF Co. Ltd.)を、5mgのペプチドサンプルを含む50mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0)5mLに加え、4℃の条件下、ローテーターを用いて、24時間、穏やかに混合した。前記混合後、その混合物を、4℃の条件下、50mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0)を用いて透析した。PEG化したペプチドサンプルは、2−メルカプトエタノールの存在下、SDS−PAGEにより、PEG化を確認した。
【0064】
[実施例2]
本発明の機能性ペプチドである前記PEG化rMIKO−1が、潰瘍性大腸炎による出血および組織変化を抑制することを確認した。
【0065】
(1)投与処理
潰瘍性大腸炎のモデルラットとして、10週齢、雄のJapanese Wistar rats(220〜250g/ラット)を使用した(以下、同様)。モデルラットは、潰瘍性大腸炎を誘導するD群(n=5)、潰瘍性大腸炎を誘導し、且つ、前記PEG化rMIKO−1を投与するM群、潰瘍性大腸炎を誘導しないN群(n=5)の3群に分けた。
【0066】
そして、D群には、5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS、MW36000〜5000、和光純薬工業株式会社)を6日間連続で経口投与し、潰瘍性大腸炎を誘導し、且つ、同じ期間中、緩衝液A 1mLを、毎日1回、腹腔内に投与した。前記緩衝液Aは、0.9%NaClを含む10mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.4)を使用した(以下、同様)。M群には、D群と同様にして潰瘍性大腸炎を誘導し、且つ、同じ期間中、前記PEG化rMIKO−1を、毎日1回、ラットに腹腔内投与した。前記PEG化rMIKO−1は、前記緩衝液Aで所定濃度(終濃度0.2、0.4、0.6mg/mL)に調製し、投与前に、フィルターユニット(0.4μm、Millipore Co. Ltd.)を用いて滅菌した上で、1mLを投与した (各濃度n=5)。以下、各濃度の前記PEG化MIKO−1を投与したM群を、それぞれ、M0.2群、M0.4群、M0.6群とする。N群は、潰瘍性大腸炎を誘導せずに、健康状態が正常なラットに、前記緩衝液A 1mLを、毎日1回、腹腔内に投与した。
【0067】
(2)出血確認
前記D群、前記M群、および前記N群の各ラットについて、前記投与期間中、肛門(腸管)からの出血を、毎日、視覚的に観察した。これらの結果を
図1に示す。
図1は、前記6日間の投与が終了した時点における、ラットのケージに敷かれていた床敷きの写真である。
図1において、上図は、前記D群の3匹のラットの床敷きの写真(D1〜D3)であり、下図は、前記M群の3匹のラットの床敷きの写真であり、M0.2、M0.4およびM0.6は、前記PEG化rMIKO−1の投与濃度を示す。
図1の各写真において、明度が低い(黒に近い)領域は、血液の付着を意味する。前記D群では、投与開始5日後に全ラットにおいて軽度の出血が確認され、
図1の上図に示すように、前記投与終了時には、大量出血が確認された。一方、
図1の下図に示すように、潰瘍性大腸炎を誘導し且つ前記PEG化rMIKO−1を投与したM群では、前記投与終了時においても、全ラットについて、肛門からの出血は、ほとんど観察されなかった。なお、前記M0.2群は、投与4日目に肛門からの出血が若干確認されたが、投与終了時には、視覚的に出血は観察されなかった。また、前記M0.6群は、投与期間中、全てのラットについて、肛門から出血が観察されなかった。これらの結果から、本発明の機能性ペプチドが、結腸損傷の発症を抑制できることが確認できた。
【0068】
(3)体重および大腸の長さ
前記各群について、前記投与期間中の体重を測定し、前記投与終了時において、大腸の長さを測定した。体重は、前記投与開始日を0日目とし、6日目まで毎日測定した。前記大腸の長さは、前記投与期間終了時、各ラットから、大腸を摘出し、長さを測定した。統計解析は、Student’s t−testを用い、P<0.05を有意とした。
【0069】
これらの結果を
図2に示す。
図2(A)は、各群における投与期間中の体重のグラフであり、X軸は、投与日数を示し、Y軸は、各群の投与0日目の平均体重を100%とした、投与日数ごとの変化率である。
図2(B)は、投与終了時における大腸の長さのグラフであり、X軸は、各群を示し、Y軸は、大腸の長さ(cm)を示す。
【0070】
図2(A)に示すように、潰瘍性大腸炎を誘導していない前記N群(NC、○)の体重は、投与期間中において、体重はほとんど変化しなかった。潰瘍性大腸炎を誘導した前記D群(PC、■)は、投与期間中、経時的に体重が減少していき、4日目を過ぎると著しく体重が減少した。これに対して、潰瘍性大腸炎を誘導し且つ前記PEG化rMIKO−1を投与したM群(□、△、●)は、2日目〜3日目頃まで体重が減少したが、その後、体重の減少は抑制され、体重が維持できた。中でも、前記M0.6群(●)に関しては、3日目以降は、徐々に体重の増加が観察された。
【0071】
図2(B)に示すように、潰瘍性大腸炎を誘導したD群(PC)は、潰瘍性大腸炎を誘導していないN群(NC)と比較して、著しく大腸の長さが短くなっていた。これに対して、前記M群は、前記PEG化rMIKO−1の投与により、大腸の縮小は、抑制された。
【0072】
これらの結果から、本発明の機能性ペプチドによれば、潰瘍性大腸炎の誘導によって引き起こされる損傷を、抑制し、また、回復できることが確認できた。このことから、本発明の機能性ペプチドは、潰瘍性大腸炎の予防と治癒が可能であるといえる。また、本発明の機能性ペプチドは、前記潰瘍性大腸炎にたいして、濃度依存的に有効であることも確認できた。
【0073】
(4)組織学的評価
前記各群のラットから大腸のうち直腸組織を摘出し、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行った。前記HE染色の結果を
図3に示す。
図3の上段の4つの画像のうち、左の2つの画像は、前記N群の画像であり、右の2つの画像は、前記D群の画像であり、
図3の中段および下段の6つの画像は、左列の2つの画像が、前記M0.2群の結果、中列の2つの画像が、前記M0.4群の結果、右列の2つの画像が、前記M0.6群の結果である。
図3に示すように、潰瘍性大腸炎を誘導した前記D群は、画像(N1、N2)において、直腸組織の細胞質が潰れていることが確認され、さらに、前記組織のはん痕化(繊維化)、つまり、障害組織の治癒過程によって生じた変性部分が確認された。一方、前記PEG化rMIKO−1を投与した前記M群(M1〜M6)は、潰瘍性大腸炎を誘導していない前記N群(P1、P2)と同様であり、前記直腸組織の細胞質は、潰れておらず、はん痕化も確認されなかった。このことから、本発明の機能性ペプチドは、潰瘍性大腸炎における組織変化を抑制することが確認された。
【0074】
[実施例3]
本発明の機能性ペプチドである前記PEG化rMIKO−1が、マクロファージにおける各種mRNAの発現に与える影響を確認した。
【0075】
潰瘍性大腸炎のモデルラットであるJapanese Wistar ratsから、公知の方法(Yoshino T, et al., (2010) Immunosuppressive Effects of Tacrolimus on Macrophages Ameliorate Experimental Colitis. Inflamm. Bowel Dis. 16, 2022-2033)によりマクロファージを単離した。10μg/mLの前記マクロファージを、10前記PEG化rS100A8、前記PEG化rS100A9、または前記PEG化rMIKO−1で1時間刺激した。そして、刺激後のマクロファージについて、rS100A8 mRNAおよびrS100A9 mRNAの発現量を測定した。mRNAの測定は、市販のStepOnePlus Real-Time PCR System (Applied Biosystems)を使用した。そして、内部コントロールであるβアクチンの発現量を100%として、それぞれの発現量の相対値を求めた。
【0076】
これらの結果を、
図4(A)に示す。
図4(A)において、Y軸は、mRNA発現量の相対値であり、X軸は、刺激に使用したペプチドの種類を示す。
図4(A)に示すように、前記PEG化MIKO−1で刺激した結果、rS100A8 mRNAの発現が著しく増加した。この結果から、rS100A8およびrS100A9は、ラットのマクロファージをオートクライン的に活性化し、それぞれが、rS100A8 mRNAおよびrS100A9 mRNAの発現を誘導すると考えられる。さらに、前記PEG化MIKO−1は、rS100A8刺激によるrS100A8 mRNAの発現および誘導を、さらに約8倍高めることができた。すなわち、前記PEG化MIKO−1は、rS100A8の自然免疫機能を著しく高める高次機能を有すると考えられる。
【0077】
つぎに、LPS alone群として、前記マクロファージを、10μg/mLのLPSまたは10μg/mLの前記PEG化rMIKO−1で、所定時間(0.5、1、1.5、2時間)刺激した。また、M>LPS群として、前記マクロファージを、10μg/mLの前記PEG化rMIKO−1で1時間刺激した後、10μg/mLの前記LPSで所定時間(0.5、1、1.5、2時間)刺激した。そして、刺激後のマクロファージについて、炎症性サイトカイン(IL−6β、TNF−α、IL−6)のmRNAの発現量を測定した。そして、内部コントロールであるβアクチンの発現量を100%として、それぞれの発現量の相対値を求めた。
【0078】
これらの結果を、
図4(B)に示す。
図4(B)において、X軸は、mRNA発現量の相対値であり、Y軸は、刺激の条件を示す。
図4(B)に示すように、LPSのみで刺激した場合、炎症性サイトカインの発現量の著しい増加が確認された。それに対して、前記PEG化rMIKO−1で予め刺激すると、その後にLPSで刺激した場合、炎症性サイトカインの発現はほとんど誘導されず、十分に抑制された。なお、前記PEG化rMIKO−1単独で刺激しても、炎症性サイトカインmRNAの発現はほとんど誘導されなかった。すなわち、前記PEG化rMIKO−1は、炎症誘導性因子ではないことを意味している。この結果から、本発明の機能性ペプチドが、炎症性サイトカイニンを負に制御できることを確認できた。
【0079】
つぎに、LPS alone群として、前記マクロファージを、10μg/mLの大腸菌由来のリポ多糖(LPS、Sigma-Aldrich Co)で、所定時間(0.5、1、1.5、2時間)刺激した。また、M>LPS群として、前記マクロファージを、10μg/mLの前記PEG化rMIKO−1で1時間刺激した後、10μg/mLの前記LPSで所定時間(0.5、1、1.5、2時間)刺激した。そして、刺激後のマクロファージについて、rS100A8 mRNAおよびrS100A9 mRNAの発現量を測定した。そして、内部コントロールであるβアクチンの発現量を100%として、それぞれの発現量の相対値を求めた。
【0080】
これらの結果を、
図4(C)に示す。
図4(C)において、X軸は、mRNA発現量の相対値であり、Y軸は、刺激の条件を示す。
図4(C)に示すように、LPSのみで刺激した場合、rS100A8 mRNAおよびrS100A9 mRNAの増加は、10倍以下であった。これに対して、前記PEG化rMIKO−1で予め刺激したマクロファージをLPSで刺激すると、rS100A8 mRNAの発現量が約250倍に著しく増加した。増加のメカニズムは明らかでないが、前記PEG化rMIKO−1が、rS100A8 mRNAの発現に対する活性化補助因子として機能すると推測できる。なお、この推測は、本発明を制限するものではない。
【0081】
[実施例4]
本発明の機能性ペプチドである前記PEG化rMIKO−1が、マクロファージの核内に取り込まれることを確認した。
【0082】
(1)蛍光染色によるrMIKO−1の局在の確認
前記rMIKO−1のマクロファージへの結合を蛍光免疫化学染色(FICS)により確認した。まず、前記実施例3と同様にして、マクロファージを既知の手法により、単離した。6ウェルプレートの各ウェルに、培地Aと前記マクロファージを入れ、滅菌した薄層カバーガラスを置いた。ウェルあたりのマクロファージの数は、約2×10
6とした。前記培地Aは、L−グルタミン酸およびフェノールレッドを含むRPMI−1640(和光純薬社)を使用した。そして、前記ウェルプレートを、5%CO
2および37℃の条件下、2時間インキュベートし、前記カバーガラスに前記マクロファージを接着させた後、前記ウェルを培地Aで2回洗浄した。前記ウェルに、前記PEG化rMIKO−1と蛍光物質FITC(fluorescein 5−isothiocyanate)との結合体rMIKO−1−FITC(10μg/mL)を添加し、5%CO
2および37℃の条件下、前記マクロファージとインキュベートした。また、細胞質の局在を確認するためのコントロールとして、前記ウェルに、ラットアルブミンと蛍光物質テキサスレッド(TR)との結合体アルブミン−TR(10μg/mL)を添加し、同条件下で、前記マクロファージとインキュベートした。インキュベート後のマクロファージを、前記緩衝液Aで3回洗浄した後、室温条件下、10%ホルマリンで20分間処理し、処理室温条件下にて、20分間、前記カバーガラスに前記マクロファージを固定した。前記カバーガラスを前記緩衝液Aで3回洗浄した後、前記カバーガラス上の前記マクロファージを、封入剤(VECTASHIELD)を用いて封入し、前記マクロファージの核をDAPI(Vector Inc.)で対比染色した。そして、前記マクロファージを蛍光顕微鏡(BIOREVO BZ−9000、KEYENCE株式会社、以下同様)を用いて顕微鏡観察した。
【0083】
さらに、GM130−TRを用いて、ゴルジ体のみを染色した。GM130は、抗ゴルジ体モノクローナル抗体である。具体的には、前述と同様にして、マクロファージを10%ホルマリンで前記カバーガラスに固定した後、100%メタノールで20分間処理した。前記カバーガラス上のマクロファージを、前記緩衝液Aで3回洗浄した後、ヤギ血清でブロックした。前記カバーガラスに固定化した前記マクロファージを、湿潤室中、4℃で一晩、抗体GM130(5μg/mL、Cell Signaling Technology Inc.)とインキュベートした。そして、前記カバーガラスに固定化された前記マクロファージ中のゴルジ体と前記抗体との結合体を、さらに、室温で、抗マウスIgG(ウマ)IgG−TRと1時間インキュベートし、前記蛍光顕微鏡を用いて観察した。また、前記カバーガラスを前記緩衝液Aで3回洗浄した後、前記マクロファージを、VECTASHIELD封入剤を用いて封入し、前記マクロファージの核をDAPIで対比染色し、前記蛍光顕微鏡を用いて顕微鏡観察した。
【0084】
これらの結果を、
図5に示す。
図5(A)において、左は、前記マクロファージをフローサイトメトリー(FACS)で解析した結果を示すグラフであり、Y軸は、セル数であり、X軸は、蛍光強度(rfu: relative fluorescence units,相対蛍光単位)である。
図5(A)において、右は、マクロファージのrMIKO−1−FITC染色画像とアルブミン−TRの染色画像とを重ねた画像である。
図5(B)は、マクロファージの染色画像であり、左は、rMIKO−1−FITC染色画像とGM130−TR染色画像を重ねた画像であり、真ん中は、GM130−TR染色画像であり、右は、アルブミン−TR染色画像である。
【0085】
図5(A)において、左のグラフから、前記rMIKO−1がマクロファージに結合することが確認でき、右の画像において、DAPI染色された領域内に、rMIKO−1−FITC染色が確認できたことから、前記rMIKO−1がマクロファージに結合することが確認できた。また、前記rMIKO−1は、核内にも局在する可能性が示唆された。また、
図5(B)の各画像の染色状態の比較から、前記マクロファージにおいて、rMIKO―1―FITC染色の局在と、GM130−TR染色の局在が一致すること、つまり、前記rMIKO−1の局在とゴルジ体の局在とが一致することがわかった。このことから、シグナル配列を有していないrMIKO−1は、ゴルジ体を介して、マクロファージの核内に移行できる可能性が推測された。なお、同様の検討をラットアルブミン−TRを用いて検討しところ、アルブミンはマクロファージに結合せず、さらにマクロファージによる取り込みも観察されなかった。
【0086】
(2)ウェスタンブロッティングによるrMIKO−1の局在の確認
前記モデルラットの腹腔内に、4%チオグリコール(10mL/ラット)を投与し、2日後、腹腔マクロファージ回収した。前記腹腔マクロファージをリン酸緩衝液(50mmol/L、pH7.4)で洗浄し、続いて前記培地A(RPMI−1640)で洗浄した後、前記腹腔マクロファージをシャーレ(直径9cm)に撒き、CO
2インキュベータ内で、5%CO
2および37℃の条件下、2時間培養した。前記シャーレを前記リン酸緩衝液で洗浄し、前記シャーレに接着したマクロファージに対して、前記rMIKO−1を含む前記培地A 約10mLを添加し、さらに、1.5時間、前記CO
2インキュベータ内で同条件で培養した。その後、前記シャーレ内のマクロファージを全て回収し、前記リン酸緩衝液(50mmol/L、pH7.4)で一回洗浄してから、前記rMIKO−1で処理したマクロファージを回収した。
【0087】
前記回収したマクロファージから、市販の抽出キット(PO Box 1016、Mountain View、CA 94042)を用いて、細胞質および核タンパク質を抽出した。そして、抽出した細胞質画分と前記核タンパク質画分とについて、ウエスタンブロッティングによるタンパク質の確認を行った。前記ウエスタンブロッティングには、一次抗体(2μg/mL)として、抗rMIKO―1モノクローナル抗体(MoAbMIKO−1)、抗rS100A8抗体(mAb8A6)および抗rS100A9抗体(mAb1D11)を一次抗体、抗rS100A9抗体を使用し、二次抗体として、抗マウスIgG(ウマ)IgG−HRP結合体を使用した。各抗体は、従来の方法(Ikemoto M. et al., (2003) New ELISA System for Myeloid-Related Protein Complex (MRP8/14) and Its Clinical Significance as a Sensitive Marker for Inflammatory Responses Associated with Transplant Rejection. Clin Chem. 49, 594-600)に基づいて調製した。
【0088】
これらの結果を
図6に示す。
図6において、レーンMは、分子量マーカー、レーンPは、タンパク質染色、レーンA8は、前記rS100A8、レーンA9は、前記rS100A9、MIは、前記rMIKO−1を示す。
図6に示すように、前記細胞質画分において、前記rS100A8、前記rS100A9、前記rMIKO−1が検出されたが、前記核タンパク質画分においては、前記rS100A8、前記rMIKO−1が検出された。この結果から、本発明の機能性ペプチドであるrMIKO−1は、マクロファージの核に導入されていることが確認でき、核への導入に、前記rS100A8のN末端の配列が関与していることが示された。
【0089】
(3)動的可動性
前記(1)と同様にして、前記rMIKO−1−FITC結合体と前記マクロファージとを、5%CO
2且つ37℃の条件下、インキュベートした。そして、前記条件でのインキュベート開始から、5分ごとに1時間、前記カバーガラスに固定化されたマクロファージを、前記蛍光顕微鏡観察した。この結果を、
図7に示す。
図7は、前記カバーガラスに固定化されたマクロファージにおける蛍光を示す経時的な画像である(倍率x1000)。各画像において、左上の数値は、インキュベート時間を示す。また、各画像において、明度が相対的高い(相対的に白に近い)程、蛍光が強いことを意味する。その結果、
図7に示すように、インキュベート時間の経過に伴って、マクロファージでの蛍光が増加した。つまり、インキュベート時間に依存して、前記rMIKO−1−FITC結合体が前記マクロファージに導入されたことがわかった。
【0090】
さらに、マクロファージの核内におけるrMIKO−1の局在を、前記蛍光顕微鏡のZスタックモードにより観察した。この際、前記(1)と同様にして、前記マクロファージの核を、前記DAPIで対比染色した。複数の角度からマクロファージを三次元的に観察した結果を
図8に示す。
図8は、4つの角度(Z1−Z4)から、前記マクロファージを観察した結果を示す画像である(倍率×3000)。
図8において、大きな円(点線)で囲まれた領域は、マクロファージの細胞質領域であり、前記領域内において、rMIKO−1−FITC染色の複数のスポットが確認された。また、矢印は核であり、さらに、小さな円(実線)で囲まれた領域は、マクロファージの核領域であり、前記領域内において、rMIKO−1−FITC染色の複数のスポットが確認された。これらの結果から、マクロファージは、rMIKO−1を外部から細胞質内に取り込み、さらに、核内に取り込んでいることがわかった。
【0091】
[実施例5]
本発明の機能性ペプチドとして、ヒトS100A8およびヒトS100A9に基づくヒトMIKO−1を調製し、潰瘍性大腸炎による出血の抑制および組織変化を抑制することを確認した。
【0092】
前記機能性ペプチドとして、ヒトS100A8ペプチド(配列番号3の前記hS100A8)およびヒトS100A9ペプチド(配列番号4の前記hS100A9という)から設計した前記表4のヒトhMIKO−1(配列番号13の前記hMIKO−1)を、遺伝子工学的手法により調製した。前記hMIKO−1は、N末端側の領域Xが、hS100A8ペプチド由来のhN1−1ペプチド(配列番号3)であり、C末端側の領域Yが、hS100A9ペプチド由来のrC1−2(配列番号9)のペプチドである。前記hMIKO−1は、その全長が、hS100A9ペプチド(配列番号4)と同じであり、その分子量も、hS100A9と同等である。また、参照用ペプチドとして、hS100A8ペプチド(配列番号3)およびhS100A9ペプチド(配列番号6)も調製した。なお、調製した各ペプチドサンプルのエンドトキシン濃度を、市販キット(ToxinSensorTM、Endotoxin Detection System、GenScript Inc.)を用いて測定した結果、いずれのペプチドサンプルも、エンドトキシン濃度は0.5〜0.7EU/mgタンパク質の範囲であり、後述するマクロファージの活性化に対して影響を及ぼす量のエンドトキシンは含まれていないことが確認できた。これらのペプチドを、前記実施例1と同様にしてPEG化して、以下の実験に供した。
【0093】
PEG化ペプチドとして、前記PEG化hMIKO−1、前記PEG化h−S100A8、前記PEG化h−S100A9を使用した以外は、前記実施例2と同様にして、潰瘍性大腸炎のモデルラットへの投与を行い、出血の確認および大腸の長さの測定を行った。
【0094】
出血を確認した結果を
図9に示す。
図9は、6日間の投与が終了した時点における、ラットのケージに敷かれていた床敷きの写真である。
図9において、上図は、D群の2匹のラットの床敷きの写真(PC-A、PC−B)であり、下図は、M群の2匹のラットの床敷きの写真であり、M0.2、M0.5は、前記PEG化hMIKO−1の投与濃度を示す。
図9の各写真において、明度が低い(黒に近い)領域は、血液の付着を意味する。前記D群では、
図9の上図に示すように、前記投与終了時には、大量出血が確認された。一方、
図9の下図に示すように、潰瘍性大腸炎を誘導し且つ前記PEG化hMIKO−1を投与したM群では、前記投与終了時においても、全ラットについて、肛門からの出血は、ほとんど観察されなかった。これらの結果から、本発明の機能性ペプチドが、結腸損傷の発症を抑制できることが確認できた。
【0095】
また、投与終了時の大腸の長さは、潰瘍性大腸炎を誘導した前記D群は、12.5cmであり、潰瘍性大腸炎を誘導し且つ前記PEG化hMIKO−1を投与した前記M群は、潰瘍性大腸炎を誘導していないN群と同様に17.2cmであった。このように、前記D群は、潰瘍性大腸炎によって大腸が縮小したのに対して、前記M群は、前記PEG化hMIKO−1の投与により、大腸の縮小が抑制された。
【0096】
これらの結果から、本発明の機能性ペプチドによれば、潰瘍性大腸炎の誘導によって引き起こされる損傷を、抑制し、また、回復できることが確認できた。このことから、本発明の機能性ペプチドは、潰瘍性大腸炎の予防と治癒が可能であるといえる。
【0097】
[実施例6]
本発明の機能性ペプチドである前記PEG化hMIKO−1を使用した以外は、前記実施例2と同様にして、潰瘍性大腸炎による組織変化を抑制することを確認した。
【0098】
その結果、大腸の長さは、潰瘍性大腸炎を誘導していないN群(ネガティブコントロール;NC)が、20.5cm(n=2)であり、潰瘍性大腸炎を誘導したD群(ポジティブコントロール;PC)は、16.2cm(n=3)であった。これに対して、潰瘍性大腸炎を誘導し且つ前記PEG化hMIKO−1を投与したM群は、大腸の長さが18cm(n=3)であり、前記PEG化hMIKO−1の投与により、大腸の縮小が抑制された。
【0099】
[実施例7]
本発明の機能性ペプチドである前記hMIKO−1を使用した以外は、前記実施例4と同様にして、マクロファージの核内に取り込まれることを確認した。
【0100】
(1)蛍光観察によるhMIKO−1、hS100A8、hS100A9の局在の確認
FITCで標識化した前記hMIKO−1、前記hS100A8、前記hS100A9を使用した以外は、前記実施例4の(1)と同様にして、蛍光観察により局在の確認を行った。その結果、前記hMIKO−1、前記hS100A8、前記hS100A9は、それぞれ、マクロファージに結合することが確認できた。
【0101】
(2)ウェスタンブロッティングによるhMIKO−1の局在の確認
PEG化した前記hMIKO−1、前記hS100A8、前記hS100A9を使用した以外は、前記実施例4の(2)と同様にして、ウエスタンブロッティングにより局在の確認を行った。その結果、前記hMIKO−1、前記hS100A8、および前記hS100A9は、それぞれ、細胞質内と核内とにおいて、存在が確認された。これらの結果は、前記実施例4と同様であり、これらのペプチドは、マクロファージにおいて、細胞質内を経由して、核内に移行すると推測される。
【0102】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。