特開2020-83907(P2020-83907A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-83907(P2020-83907A)
(43)【公開日】2020年6月4日
(54)【発明の名称】洗浄剤
(51)【国際特許分類】
   C11D 3/20 20060101AFI20200508BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20200508BHJP
【FI】
   C11D3/20
   C11D17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-214560(P2018-214560)
(22)【出願日】2018年11月15日
(71)【出願人】
【識別番号】516094858
【氏名又は名称】マサキ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】服部 勉
(72)【発明者】
【氏名】服部 直美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幹彦
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003BA12
4H003DA09
4H003DB01
4H003DB02
4H003EB04
4H003EB09
4H003ED02
4H003ED28
4H003FA01
4H003FA04
(57)【要約】
【課題】建築用シーリング材の洗浄性に優れた洗浄剤を提供する。
【解決手段】(a)建築用シーリング材に対して良溶媒である水溶性成分と、(b)建築用シーリング材と分解反応性を有する水溶性成分とを含有する洗浄剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)建築用シーリング材に対して良溶媒である水溶性成分と、(b)前記建築用シーリング材と分解反応性を有する水溶性成分とを含有することを特徴とする洗浄剤。
【請求項2】
(a)成分が、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、乳酸メチル、乳酸エチルのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
(b)成分が、乳酸またはメチルアルコールであることを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄剤。
【請求項4】
(a)成分の含有量が、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して、50質量部以上95質量部以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項5】
(b)成分の含有量が、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項6】
(a)成分がエチルアルコールと乳酸エチルの少なくとも一方であり、(b)成分が乳酸であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項7】
(a)成分がイソプロピルアルコールであり、(b)成分が乳酸であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項8】
さらに、(c)水を含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項9】
(c)成分の含有量が、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して、50質量部以上400質量部以下であることを特徴とする請求項8に記載の洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤、特に建築用シーリング材の洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂類、建築用シーリング材等の有機物汚れ、特に金属面に付着した有機物汚れを洗浄除去するためには、有機物の溶解性を有する有機溶剤を用いた溶剤系洗浄剤や、界面活性剤を含有する水系洗浄剤が使用されて来た。しかしながら、溶剤系洗浄剤には引火性や有毒性などの固有の欠点が有るため、使用に際して各種の制限が有った。
【0003】
例えば、食用油脂を主とする、一般家庭やレストランの厨房汚れの洗浄には、食品衛生上と火災の危険性から溶剤系洗浄剤は使用し難いため、主として水系洗浄剤が使用されている。しかし、水系洗浄剤は、溶剤系洗浄剤に比べ油脂類の洗浄性が劣る傾向にあり、洗浄性向上のために界面活性剤を増量するとすすぎに大量の水を要し、非残留性が低下するという問題がある。
【0004】
また、工業用油脂を主とする、加工後の金属部品汚れの生産現場での脱脂・洗浄には、洗浄機を用いるのが一般的である。そのため、洗浄剤には防爆性(非燃焼性)が求められ、溶剤系洗浄剤のうちでもハロゲン系溶剤を用いたものが用いられる。しかしながら、ハロゲン系溶剤はオゾン層破壊等の環境汚染上の観点から好ましくないという問題がある。
【0005】
更に、建築現場において、シーリング材の色替え時や塗布作業終了時に、シーリング材攪拌機、シリンダーガン等の金属製治具の洗浄が行われる。この際に用いる洗浄剤には、治具に残留して次材に影響を与えないために、非残留性が求められ、揮発性の高いトルエン・キシレン等の炭化水素系溶剤を用いた溶剤系洗浄剤が使用されている。しかし、揮発性が高い炭化水素系溶剤は、作業者や工事現場周辺住民への健康への影響が懸念されるという問題がある。
【0006】
一方、溶剤系洗浄剤、水系洗浄剤の欠点を補った準水系洗浄剤として、特許文献1には、テルペンと界面活性剤と水を用いた家庭用の洗浄剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−75926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1には、建築用シーリング材の洗浄性については何ら記載されていないし、すすぎに大量の水を必要とするため非残留性に劣るという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、建築用シーリング材の洗浄性に優れ、好ましくは非残留性、安全性に優れた洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の洗浄剤は、(a)建築用シーリング材に対して良溶媒である水溶性成分と、(b)前記建築用シーリング材と分解反応性を有する水溶性成分とを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の洗浄剤は、建築用シーリング材、特に金属面に付着した建築用シーリング材の洗浄除去性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の洗浄剤は、(a)建築用シーリング材に対して良溶媒である水溶性成分と、(b)前記建築用シーリング材と分解反応性を有する水溶性成分と、好ましくはさらに(c)水を含有する。
【0014】
<(a)建築用シーリング材に対して良溶媒である水溶性成分>
(a)成分は、建築用シーリング材に対して良溶媒である水溶性成分である。ここで、水溶性成分は、界面活性剤やホモジナイザーなどの手段を用いなくとも、通常の攪拌のみで水と完全混合体を形成して、かつ静置しても再分離しない成分であることが好ましい。
【0015】
(a)成分としては、建築用シーリング材を常温下においてほぼ完全に溶解する成分であることが好ましく、建築用シーリング材を常温下において完全に溶解する成分であることがより好ましい。具体的には、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数2以上のアルコール、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸ペンチル、乳酸ヘキシル、乳酸エチルヘキシル等の乳酸アルキル等が挙げられる。これらのうちでもエチルアルコール、イソプロピルアルコール、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸ペンチル等の炭素数5以下のアルキル基を有する乳酸エステルが好ましく、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、乳酸メチル、乳酸エチルがより好ましく、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、乳酸エチルがさらに好ましい。乳酸エステルが有する乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸のいずれでもよい。乳酸エステルが有するアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。
【0016】
(a)成分は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、(a)成分は、天然由来のものでも工業的に合成される人工合成物でもよいが、環境面から天然由来のものが好ましい。
【0017】
(a)成分の含有量は、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して、好ましくは50質量部以上95質量部以下、より好ましくは60質量部以上90質量部以下である。(a)成分の含有量が95質量部以下であれば、洗浄性、非残留性が十分であり、また、危険性(引火性)や毒性の問題が顕在化せず、好ましい。また、(a)成分の含有量が50質量部以上であれば、洗浄性、非残留性が十分であり、被洗浄物への腐蝕性が発現せず、好ましい。
【0018】
<(b)建築用シーリング材と分解反応性を有する水溶性成分>
(b)成分は、建築用シーリング材と分解反応性を有する水溶性成分である。尚、水溶性成分については、前述の通りである。
【0019】
(b)成分としては、シーリング材と接触した時にガス成分を発生させながらシーリング材の粘性を失わせる成分であることが好ましい。具体的には、例えば、乳酸、メチルアルコール等が挙げられる。これらのうちでも乳酸が好ましい。乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸のいずれでもよい。
【0020】
(b)成分は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、(b)成分は、天然由来のものでも工業的に合成される人工合成物でもよいが、環境面から天然由来のものが好ましい。
【0021】
(b)成分の含有量は、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上50質量部以下、より好ましくは10質量部以上40質量部以下である。(b)成分の含有量が50質量部以下であれば、洗浄性、非残留性が十分であり、また、被洗浄物への腐蝕性が発現せず、好ましい。また、(b)成分の含有量が5質量部以上であれば、洗浄性、非残留性が十分であり、また、危険性(引火性)や毒性の問題が顕在化せず、好ましい。
【0022】
<(c)水>
(c)成分を含有する場合、(c)成分の含有量は、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して、好ましくは50質量部以上400質量部以下、より好ましくは100質量部以上300質量部以下である。(c)成分の含有量が400質量部以下であれば、十分な洗浄力を得ることができ、好ましい。また、(c)成分の含有量が50質量部以上であれば、非残留性が十分であり、また、危険性(引火性)、毒性の問題が顕在化せず、好ましい。
【0023】
<(d)他の成分>
本発明の洗浄剤は、本発明の効果を損なわない限り、(a)〜(b)成分または(a)〜(c)成分に加えて、(d)成分を含有してもよい。
【0024】
(d)成分としては、例えば、重曹等のPH調整剤、スクラブ材、PEG等の洗浄補助材等が挙げられる。
【0025】
(d)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上7質量部以下、より好ましくは2質量部以上5質量部以下である。(d)成分の含有量がこの範囲内であれば、(d)成分添加の弊害を起こすことなく(d)成分添加の効果を十分に得ることができる。
【0026】
<洗浄剤>
本発明の洗浄剤は、建築用シーリング材、特に金属面に融着した半固化状の建築用シーリング材等の金属面に付着した建築用シーリング材の洗浄に有効である。建築用シーリング材としては、特に限定されなないが、例えば、ポリウレタン系シーリング材、シリコーン系シーリング材、ポリサルファイド系シーリング材等が挙げられる。金属面とは、例えば、シーリング材攪拌機、シリンダーガン等のシーリング材施工用金属製治具の表面等が挙げられる。
【0027】
本発明の洗浄剤は、(a)成分、(b)成分、(c)成分共に水溶性成分であるため、特に、(c)成分を含有する場合は少量の水で簡単にすすぐことができ、非残留性に優れる傾向にある。また、各成分が分離することなく長期保存性に優れるとともに、水で希釈して用いることが出来る。
【0028】
本発明の洗浄剤のうち、(a)成分がエチルアルコールと乳酸エチルの少なくとも一方であり(b)成分が乳酸である洗浄剤、(a)成分がイソプロピルアルコールであり(b)成分が乳酸である洗浄剤、(a)成分がエチルアルコールと乳酸エチルの少なくとも一方であり(b)成分が乳酸であり(c)成分を含む洗浄剤、(a)成分がイソプロピルアルコールであり(b)成分が乳酸であり(c)成分を含む洗浄剤が、洗浄性の点から、特に好ましい。
【0029】
本発明の洗浄剤は弱酸性、例えばpH2以上5以下であると、シーリング材施工用金属製治具の一部がアルミニウム系金属部品からなる場合にも好適に使用でき、好ましい。
【0030】
本発明の洗浄剤は、(a)〜(b)成分または(a)〜(c)成分、さらに要すれば(d)成分を、室温で数分間攪拌・混合することにより製造することができる。また、水と乳酸アルキルの混合物を、例えば70±5℃で5〜6時間加熱し、水と乳酸アルキルと、乳酸アルキルの加水分解により生じた乳酸とアルコールを含有する洗浄剤を製造することもできる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例で用いた化合物は以下の通りである。
【0032】
(1)(a)成分
エタノール:エタノール(日本アルコール販売(株)製特定アルコール 99度合成)
イソプロピルアルコール(IPA):イソプロピルアルコール(日東化学産業(株))
乳酸エチル:L−乳酸エチル(コービオンジャパン(株)製「PURASOLV EL」)
乳酸メチル:乳酸メチル(東京化成工業(株)製)
【0033】
(2)(b)成分
乳酸:L−乳酸(コービオンジャパン(株)製「PURAC HS−88」)
【0034】
(3)建築用シーリング材
シーリング材a:変性シリコーン系シーリング材(横浜ゴム(株)製「ハマタイトSC−MS2NB」)
シーリング材b:ポリウレタン系シーリング材(横浜ゴム(株)製「ハマタイトPU2NB」)
シーリング材c:ポリサルファイド系シーリング材(横浜ゴム(株)製「ハマタイトSC−PS2」
【0035】
<実施例1>
IPA90質量部と、乳酸10質量部を、3分間攪拌・混合して、洗浄剤を製造した。この洗浄剤を用いて、洗浄性、非残留性、危険性(消防)及び毒性(労働安全)を以下に示す方法で評価した。その結果を表2に示す。
【0036】
(1)洗浄性
建築現場におけるシーリング材塗布作業後の金属製治具の洗浄を想定し、建築用シーリング材a〜cの基材、硬化剤およびカラーマスターバッチを表1に示す配合組成で混和後、各々0.2gをステンレス製チップ(20mm×50mm×2mm)上に2hr放置した。
【0037】
【表1】
【0038】
透明なPET容器に、洗浄剤10gと、上記放置後のチップを入れ、5分間振盪した後、溶融状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
〇:シーリング材が完全に溶解して、均一の液体となった。
△:シーリング材は溶解しなかったが、チップ上または洗浄剤中に微分散した。
×:シーリング材がチップ上または洗浄剤中に塊として残留していた。
【0039】
(2)非残留性
50gの水を入れた容器に洗浄試験後のチップを浸漬し、5分間振盪後の水をサンプリングしてガス・クロマトグラフィ(ガスクロ工業(株)製「GS320」)に掛けると共に光学顕微鏡で表面状態を観察し、以下の基準で評価した。
〇:ガスクロで水以外のピークは全く検出されず、顕微鏡観察でも清浄。
△:ガスクロで水以外のピークが微量見られるか、顕微鏡観察で異物が観察された。
×:ガスクロで水以外のピークが明らかに見られるか、顕微鏡観察で明らかに異物が観察された。
【0040】
(3)危険性(消防)
工事現場作業環境を想定し、以下の基準で評価した。
〇:常温下で、火点を近づけても着火しない。
△:常温下で、火点を近づけると着火の可能性が有る。
×:常温下で、火点を近づけると着火する。
【0041】
(4)毒性(労働安全)
工事現場作業上での保護具の必要性を想定し、以下の基準で評価した。
〇:特に保護具を必要としない。
△:簡易ガス・マスクだけで作業可能。
×:ガスマスク・保護メガネ・ビニール手袋が必要。
【0042】
<実施例2〜6、比較例1〜4>
(a)成分、(b)成分、(c)成分の組成を表2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして洗浄剤を作成し、実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0043】
【表2】