(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-84315(P2020-84315A)
(43)【公開日】2020年6月4日
(54)【発明の名称】銅ジルコニウム合金放熱部品、銅ジルコニウム合金ケーシングの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20200508BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20200508BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20200508BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20200508BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20200508BHJP
【FI】
C22C9/00
C22C1/04 A
B22F1/00 A
B22F3/11 A
B22F3/14 D
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-27017(P2019-27017)
(22)【出願日】2019年2月19日
(31)【優先権主張番号】107141058
(32)【優先日】2018年11月19日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】許 嘉政
(72)【発明者】
【氏名】朱 旭山
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA04
4K018BA02
4K018BC12
4K018BC16
4K018DA32
4K018EA01
4K018FA01
4K018FA08
4K018HA04
4K018HA08
4K018KA23
4K018KA32
(57)【要約】
【目的】銅ジルコニウム合金放熱部品、銅ジルコニウム合金ケーシングの製造方法を提供する。
【解決手段】銅ジルコニウム合金ケーシング及び銅ジルコニウム合金ケーシングの内壁に配置された毛細管構造を含み、前記銅ジルコニウム合金ケーシングは15から20原子%のジルコニウムのナノ銅ジルコニウム析出物を含む。本発明はまた、銅粉末とジルコニウム粉末を混合し、ボールミルの後に真空熱間プレスにかけ、次いで圧延処理に付して銅ジルコニウム合金ケーシングを得る、銅ジルコニウム合金放熱部品の製造方法を提供する。銅ジルコニウム合金放熱部品のケーシングは、高い引張強度、高い延性および熱伝導性を有し、放熱部品が小型化されても、素子の損傷、変形または歪みが起こらず、また放熱効果が失われたりすることはない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅ジルコニウム合金ケーシングと、
前記銅ジルコニウム合金ケーシングの内壁に設けられた、毛細管構造層と、を備え、
前記銅ジルコニウム合金ケーシングが、15〜20原子%のジルコニウムを含むナノ銅ジルコニウム析出物を含む、
銅ジルコニウム合金放熱部品。
【請求項2】
前記銅ジルコニウム合金ケーシング中にジルコニウムの添加量が0.5wt%を超え5.0wt%未満である、請求項1に記載の銅ジルコニウム合金放熱部品。
【請求項3】
前記銅ジルコニウム合金放熱部品の厚さが≦0.4mmである、請求項1または2に記載の銅ジルコニウム合金放熱部品。
【請求項4】
前記銅ジルコニウム合金ケーシングの厚さが≦0.1mmである、請求項1から3のいずれか1項に記載の銅ジルコニウム合金放熱部品。
【請求項5】
銅粉末とジルコニウム粉末を混合し、少なくとも20時間ボールミルを行って、合金粉末を形成し、
前記合金粉末を真空熱間プレス成形して、バルク材を形成し、
前記バルク材に対して熱処理および時効処理を行い、
前記バルク材を圧延処理を行うことを特徴とする、
銅ジルコニウム合金ケーシングの製造方法。
【請求項6】
前記ジルコニウム粉末の粒径が、前記銅粉末の粒径よりも小さい、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ボールミルをアルゴン雰囲気下で行う、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ボールミル時間が少なくとも30時間である、請求項5から7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記圧延処理後の前記バルク材の厚さが≦0.1mmである、請求項5から8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ジルコニウム粉末の添加量が、銅粉末とジルコニウム粉末の合計重量に対して0.5wt%を超えかつ5.0wt%未満である、請求項5から9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅ジルコニウム合金放熱部品と銅ジルコニウム合金ケーシングの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
世界的な通信技術の急速な発展に対応して、コンピューティングチップの機能が飛躍的に向上したため、ポータブルオーディオプレーヤーや電子辞書などの多くの機能的な電子製品は、スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器に置き換えられている。消費者の軽く薄く短く小さいという製品需要を満たすために、モバイル機器製品の放熱技術は常に産業界が直面している困難な問題である。例えば、5G高速伝送のマイクロ基地局や高速ハンドヘルド機器の内部の熱は極めて薄い放熱部品が必要であるが、放熱部品の厚さが薄くなると、圧力差の変化によって構造的に弱い場所で割れや変形が生じやすくなる。
【0003】
薄型または超薄型のヒートパイプのような純銅を材料とする放熱部品は、強度が不十分であるために折り曲げ箇所で破損または変形し易く、蒸気通路を妨げることが知られている。ヒートパイプの動作時に、大気圧による圧を受ける、或いは内圧が大きすぎると、パイプの破裂を招く。
【0004】
したがって、超薄型でかつ高い熱伝導率を有すると同時に、機械的強度が高い放熱部品の開発は、現段階での関連分野の重要な課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い機械的強度を有すると同時に高い熱伝導性能を維持する銅ジルコニウム合金放熱部品、特に薄型放熱部品を提供する。
【0006】
本発明はまた、高い機械的強度を有すると同時に、高い熱伝導性能を有する銅ジルコニウム合金ケーシングを製造することができる銅ジルコニウム合金ケーシングの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、銅ジルコニウム合金ケーシングと、銅ジルコニウム合金ケーシングの内壁に設けられた毛細管構造層を含む銅ジルコニウム合金放熱部品を提供する。ここで、銅ジルコニウム合金ケーシングは、15原子パーセント(原子%)〜20原子%のジルコニウムを含有するナノ銅ジルコニウム析出物を含む。
【0008】
本発明の実施形態において、前記銅ジルコニウム合金ケーシングに添加されるジルコニウムの量は、0.5重量%(wt%)を超えかつ5.0重量%未満である。
【0009】
本発明の別の実施形態は、銅粉末とジルコニウム粉末とを混合し、少なくとも20時間ボールミルを行って合金粉末を形成し、合金粉末に対して真空熱間プレスを行ってバルク材を形成した後、前記バルク材に熱処理および時効処理を施してから、前記バルク材に圧延処理を施すことを含む銅ジルコニウム合金ケーシング製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、銅ジルコニウム合金放熱部品の製造方法によって得られる銅ジルコニウム合金は、高い熱伝導率、高い引張強度および高い延性を有し、そして放熱部品としての加工に好ましい。また放熱部品が小型化されても、それでもなお良好な放熱機能を維持しながら部品の損傷、変形または歪みを引き起こさない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる銅ジルコニウム合金放熱部品の概略断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態にかかる銅ジルコニウム合金ケーシングの製造工程のステップ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の実施形態にかかる銅ジルコニウム合金放熱部品の概略断面図である。
図1において、本実施形態は、銅ジルコニウム合金ケーシング102と、銅ジルコニウム合金ケーシング102の内壁102a上に配置された毛細管構造層104とを備える銅ジルコニウム合金放熱部品100を提供する。銅ジルコニウム合金ケーシング102はナノ銅ジルコニウム析出物を含み、前記銅ジルコニウム析出物は15原子%〜20原子%のジルコニウムを含む。言い換えれば、前記銅ジルコニウム析出物は80原子%〜85原子%の銅を含有する。実施形態では、銅ジルコニウム合金ケーシング102中にジルコニウムの添加量は、例えば0.5重量%を超え5.0重量%未満であり、いわゆる「添加量」は銅ジルコニウム合金ケーシング102を製造する時点での添加物の重量パーセントを意味する。
【0013】
本発明の一実施の形態では、銅ジルコニウム合金放熱部品100の厚さT1≦0.4mmである。また、銅ジルコニウム合金放熱部品100が
図1に示すような管状構造の場合、厚さT1は断面の短軸長さを意味する。
【0014】
本発明の実施の形態では、銅ジルコニウム合金ケーシング102の厚さT2≦0.1mmである。
【0015】
図2は、本発明の別の実施形態による銅ジルコニウム合金ケーシングの製造工程のステップ図であり、先の実施形態の銅ジルコニウム合金ケーシング102を製造することができる。
【0016】
図2を参照すると、この実施形態の方法は、最初にステップS200を行い、銅粉末とジルコニウム粉末とを混合し、そして少なくとも20時間ボールミルを行うことを含み、ジルコニウム粉末の粒径は、例えば銅粉末の粒径より小さく、ジルコニウム粉末の添加量は、例えば0.5重量%を超え5.0重量%未満であり、アルゴン雰囲気下でボールミルを行い銅中にジルコニウムを熱拡散させることができるとともに、ジルコニウムと銅で固溶している合金粉末を形成する。
【0017】
その後、ステップS2O2を行い、前記合金粉末を真空熱間プレス成形してバルク材を形成する。本実施形態において、真空熱間プレス成形のプロセスパラメータは、例えば、930℃〜960℃の温度および30MPaの圧力で2〜4時間の真空熱間プレス焼結を行い、合金粉末をバルク材に成形する。
【0018】
その後、さらにステップS2O4を行い、前記バルク材に熱処理および時効処理を施す。熱処理温度は、例えば930℃〜960℃、時間は例えば1〜2時間であり、その後に水冷し、続いて例えば450℃〜550℃の温度で時効処理する。その後、2〜4時間温度を保持してから空冷することも選択できる。
【0019】
その後、ステップS206を行い、前記バルク材に対して圧延処理を施す。圧延処理後、シート材を得ることができ、このシート材はヒートパイプまたはその他の放熱部材を形成するためのケーシング構造として使用することができる。
【0020】
図1に示すような銅ジルコニウム合金放熱部品を製造しようとする場合、ステップS206の後に上記の圧延処理後のシート材を得て、まず例えば管状または他の形状のケーシングを製造し、次いでこのケーシングを基材として毛細管構造層を製造することができる。前記毛細管構造層の製造方法は、以下を含むがこれらに限定されない。1、粉末をケーシング内壁でランダムに焼結する;2、銅メッシュまたは銅線をケーシング内壁で焼結する;3、ケーシング構造の内部を溝加工する;または4、ケーシング構造の内部をエッチングする。
【0021】
本発明の上記及びその他の目的、特長、優れた点を更に明確に理解できるよう、以下においていくつかの実施例及び比較実施例を挙げて以下のように詳細に説明する。
【0022】
<実施例>
<金属粉末ボールミル>
実施例1
粒径100メッシュ、純度99.5%の銅粉末97g、粒径325メッシュ、純度99.9%のジルコニウム粉末3gをグローブボックス内のボールミル缶に入れ、アルゴン雰囲気下で、回転速度350rpmで20分間の正逆交互回転で10時間ボールミルを行った。その結果Cu-3wt%Zrサンプル1が得られ、これをエネルギー分散型X線分析(EDS、電界放出形走査電子顕微鏡JEOL、FE-SEM)により成分分析した結果は表1のとおりである。粒径の変化を電子顕微鏡で観察し、X線回折(XRD)分析を行ったところ、ジルコニウム(Zr)が銅(Cu)の表面に拡散固溶し始めたが、ジルコニウムは銅と反応しなかった。
【0023】
実施例2
ボールミルを行う時間を20時間とした以外は実施例1と同様にしてCu-3wt%Zrサンプル2を得て、EDSによる成分分析を行った。その結果は表1に示すとおりである。粒径の変化を電子顕微鏡で観察し、X線回折(XRD)分析を行ったところ、微量のジルコニウム(Zr)は銅(Cu)に固溶していないことがわかった。
【0024】
実施例3
ボールミルを行う時間を30時間とした以外は実施例1と同様にしてCu-3wt%Zrサンプル3を得て、EDSによる成分分析を行った。その結果は表1に示すとおりである。粒径の変化を電子顕微鏡で観察したところ、X線回折(XRD)分析の結果、ジルコニウム(Zr)と銅(Cu)は固溶しており、残留ジルコニウムはなかった。
【0026】
表1に示すように、銅粉末とジルコニウム粉末はボールミルを経た後、ボールミル時間が長くなるにつれて、ジルコニウムが銅表面へ拡散する含有量も増加する。すなわちジルコニウムの含有量が銅へ拡散する動きは、ボールミルを行う時間の増加に伴って増加する。
【0027】
また、SEM分析の結果のボールミル時間と結晶粒との関係によると、ボールミル時間が長いほど、粒径は小さくなり、均一性が高くなり、例えば、10時間のボールミル後の粒径サイズは、大小が不均一であるが、ボールミル時間が長いほど、粒径が小さくなり、粒径は均一になる傾向があり、少なくとも30時間のボールミルを行うと、粒径は500〜600ミクロンとなる。
【0028】
実施例4
粒径100メッシュ、純度99.5%の銅粉末99.85gおよび粒径325メッシュ、純度99.9%のジルコニウム粉末0.15gをグローブボックス内のボールミル缶に入れ、アルゴン雰囲気下で、回転速度350rpmで20分間の正逆交互回転で30時間ボールミルを行ったところ、Cu-0.15wt%Zrサンプル4が得られ、これを電子顕微鏡で観察し、X線回折(XRD)で分析したところ、ジルコニウムは存在しておらず、ジルコニウムが銅中に固溶していることを示している。
【0030】
粒径100メッシュ、純度99.5%の銅粉末99.5g、粒径325メッシュ、純度99.9%のジルコニウム粉末0.5gをグローブボックス内のボールミル缶に入れ、アルゴン雰囲気下で、回転速度350rpmで20分間の正逆交互回転で30時間ボールミルを行ったところ、Cu-0.5wt%Zrサンプル5が得られ、これを電子顕微鏡で観察し、X線回折(XRD)により分析したところ、ジルコニウムは存在しておらず、ジルコニウムが銅中に固溶していることを示している。
【0031】
実施例6
粒径100メッシュ、純度99.5%の銅粉末95g、粒径325メッシュ、純度99.9%のジルコニウム粉末5gをグローブボックス内のボールミル缶に入れ、アルゴン雰囲気下で、回転速度350rpmで20分間の正逆交互回転で30時間ボールミルを行ったところ、Cu-5wt%Zrサンプル6が得られ、X線回折(XRD)により分析したところ、ジルコニウムが残留しており、これよりジルコニウムの銅へ固溶する含有量には制限があることを示しており、ジルコニウムの添加量を増加させればその固溶含有量も無制限に増加することではないことが分かる。
【0032】
実施例7
粒径100メッシュ、純度99.5%の銅粉末99.2g、粒径325メッシュ、純度99.9%のジルコニウム粉末0.8gをグローブボックス内のボールミル缶に入れ、アルゴン雰囲気下で、回転速度350rpmで20分間の正逆交互回転で30時間ボールミルを行ったところ、Cu-0.8wt%Zrサンプル7が得られた。X線回折(XRD)により分析したところ、ジルコニウム(Zr)と銅(Cu)が固溶していることが観察された。
【0033】
実施例8
粒径100メッシュ、純度99.5%の銅粉末98.3g、粒径325メッシュ、純度99.9%のジルコニウム粉末1.7gをグローブボックス内のボールミル缶に入れ、アルゴン雰囲気下で、回転速度350rpmで20分間の正逆交互回転で30時間ボールミルを行ったところ、Cu-1.7wt%Zrサンプル8が得られた。X線回折(XRD)により分析したところ、ジルコニウム(Zr)と銅(Cu)が固溶していることが観察された。
【0034】
<真空粉末熱間プレスおよび銅ジルコニウム析出物の分析>
実施例9
タングステン鋼製ダイでサンプル1を950℃、30MPaの圧力で4時間真空熱間プレスし、熱処理および時効処理を行ってサンプル9を得た。サンプル9のナノ析出物をEDS成分分析したところ、Cu80.98原子%、Zr19.02原子%であった。
【0035】
実施例10
タングステン鋼製ダイでサンプル2を950℃、30MPaで4時間真空熱間プレスし、熱処理および時効処理を行ってサンプル10を得た。サンプル10のナノ析出物をEDS成分分析したところ、Cu83.37原子%、Zr16.63原子%であった。
【0036】
実施例11
タングステン鋼製ダイでサンプル3を950℃、30MPaで4時間真空熱間プレスし、熱処理および時効処理を行ってサンプル11を得た。サンプル11のナノ析出物をEDS成分分析したところ、Cu82.73原子%、Zr17.27原子%であった。
【0037】
実施例12
タングステン鋼製ダイでサンプル4を950℃、30MPaで4時間真空熱間プレスし、熱処理および時効処理を行ってサンプル12を得た。SEMにより微細構造分析をおこなったところ、ジルコニウムは銅に固溶しているが、ナノ析出物の析出はなかった。
【0038】
実施例13
タングステン鋼製ダイでサンプル5を950℃、30MPaで4時間真空熱間プレスし、熱処理および時効処理を行ってサンプル13を得た。サンプル13のナノ析出物をEDS成分分析したところ、Cu84.02原子%、Zr15.98原子%であった。
【0039】
実施例14
タングステン鋼製ダイでサンプル6を950℃、30MPaで4時間真空熱間プレスし、熱処理および時効処理を行ってサンプル14を得た。電子顕微鏡およびEDS分析の結果より、ナノ粒子を均一に分布させて析出させることは容易ではなく、かつジルコニウムは特定の局所領域に集中しており、成分の均一性は良好でないことが分かる。
【0040】
実施例15
タングステン鋼製ダイでサンプル7を950℃、30MPaで4時間真空熱間プレスし、熱処理および時効処理を行ってサンプル15を得るとともに、銅ジルコニウムナノ析出物が見られた。
【0041】
実施例16
タングステン鋼製ダイでサンプル8を950℃、30MPaで4時間真空熱間プレスし、熱処理および時効処理を行ってサンプル16を得るとともに、銅ジルコニウムナノ析出物が見られた。
【0042】
比較実施例1
粒径100メッシュ、純度99.5%の銅粉末97g、粒径325メッシュ、純度99.9%のジルコニウム粉末3gを混合した後、タングステン鋼製ダイで950℃、30MPaで4時間真空熱間プレスし、熱処理および時効処理を行って、比較サンプル1を得た。比較サンプル1のナノ析出物をEDS成分分析して、Cu80.76原子%、Zr19.24原子%を得た。このボールミルを経ていない比較サンプル1の試料片をEDS成分分析すると、成分分布に極めてムラがある問題があり、かつナノ析出物が局所領域に集中していることが分かった。
【0043】
<成分均一性実験>
成分均一性実験は、直径約3cmの熱間プレス後に、熱処理と時効処理を行ったサンプルの四辺及び中央の各一点でEDS成分分析を行い、異なる位置の銅、ジルコニウム含有量の分布から、サンプル全体での金属含有量の均一性を確認した。
【0044】
実施例17
サンプル9のEDS成分分析による均一性実験の結果は表2のとおりであり、サンプル中の銅ジルコニウム成分の均一性は劣る。
【0045】
【表2】
実施例18
サンプル10のEDS成分分析による均一性実験の結果は表3のとおりであり、サンプル中に銅ジルコニウム成分は均一に分布している。
【0047】
実施例19
サンプル11のEDS成分分析による均一性実験の結果は表4のとおりであり、銅ジルコニウム成分はサンプル中に均一に分布している。
【0048】
【表4】
比較実施例2
比較サンプル1のEDS成分分析による均一性実験の結果は表5のとおりであり、サンプル中の銅ジルコニウム成分の分布にはムラがある。
【0050】
表2〜表5を参照すると、本発明の上記実施形態の結果によれば、ボールミルを行わずに熱間プレスした後熱処理および時効処理を行ったサンプルは、ボールミルを行った後のサンプルより均一性がはるかに劣る。ボールミル時間が20時間未満であると、熱間プレス後に熱処理および時効処理を行っても成分分布が不均一となる問題が存在する
【0051】
<物理的性質および機械的性質の測定>
引張強度は、5トンの静的油圧試験機(インストロン社製)により測定した。
【0052】
実施例20
サンプル9〜11および比較サンプル1について、導電性、硬度、および引張強度を試験した結果を表6に示す。20時間のボールミル後に熱間プレスを経て熱処理および時効処理を行ったサンプルは高い引張強度と高い硬度を得られた。
【0054】
実施例21
サンプル11〜13、15〜16について、熱伝導率、硬度、引張強度を測定した結果を表7に示す。ジルコニウム含有量の添加に伴い、ナノ析出物の析出量が増大し、合金材料の引張強度および硬度も伴って増大するが、熱伝導の機能は低下せず、その熱伝達率は依然として工業的応用範囲内である。
【0056】
<圧延試験>
実施例22
サンプル11を圧延して厚さ0.09mmのシート材を得た。
【0057】
実施例23
サンプル15を圧延して厚さ0.05mmのシート材を得た。
【0058】
圧延試験と表7の結果から、本発明の銅ジルコニウム合金放熱部品は、厚さが極薄であっても良好な放熱効果が得られるだけでなく、引張強度も著しく向上することがわかる。
【0059】
以上のように、本発明によって提案される銅ジルコニウム合金放熱部品の製造方法によって得られる銅ジルコニウム合金は、高い硬度と同時に、高い熱伝導率、高い引張強度および高い延性を有し、そして放熱部品としての加工に好ましい。また放熱部品が小型化されても、それでもなお良好な放熱機能を維持しながら部品の損傷、変形または歪みを引き起こさない。
【0060】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。
【符号の説明】
【0061】
100 銅ジルコニウム合金放熱部品
102 銅ジルコニウム合金ケーシング
102a 内壁
104 毛細管構造層
S200、S202、S204、S206 ステップ
T1 銅ジルコニウム合金放熱部品の厚さ
T2 銅ジルコニウム合金ケーシングの厚さ