特開2020-84792(P2020-84792A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-84792(P2020-84792A)
(43)【公開日】2020年6月4日
(54)【発明の名称】エンジンの燃焼室構造
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/10 20060101AFI20200508BHJP
   F02B 1/12 20060101ALI20200508BHJP
   F02B 11/00 20060101ALI20200508BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20200508BHJP
   F16J 1/09 20060101ALI20200508BHJP
【FI】
   F02B23/10 G
   F02B23/10 320
   F02B23/10 310A
   F02B23/10 310E
   F02B23/10 V
   F02B1/12
   F02B11/00 A
   F02B11/00 B
   F02F3/26 B
   F02F3/26 C
   F16J1/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-215600(P2018-215600)
(22)【出願日】2018年11月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】今村 悟志
(72)【発明者】
【氏名】福馬 真生
(72)【発明者】
【氏名】中原 康志
(72)【発明者】
【氏名】井上 淳
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩太
(72)【発明者】
【氏名】河野 通治
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】西 風太
【テーマコード(参考)】
3G023
3J044
【Fターム(参考)】
3G023AA01
3G023AB06
3G023AC04
3G023AD02
3G023AD03
3G023AD06
3G023AG05
3J044AA08
3J044AA20
3J044CA03
3J044DA09
(57)【要約】
【課題】SI燃焼とSPCCI燃焼とを併用する同エンジンにおいて、タンブル流及びスワール流の双方を圧縮行程後期まで維持する。
【解決手段】エンジンの燃焼室は、幾何学的圧縮比が15以上に設定され、SPCCI燃焼が可能とされている。ピストン5の冠面50には、椀状に凹設されてなるキャビティ51と、キャビティ51の外周領域において気筒軸方向に突設され、燃焼室天井面のペントルーフ形状に沿った山型形状を有するF側凸部52F及びR側凸部52Rが備えられている。両凸部52F、52Rの間隔をL、ピストン5の直径をBとするとき、B/Lが1.0より大きく1.52以下の範囲に設定されている。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの冠面と、前記ピストンが摺動可能に収容される気筒の内壁面と、ペントルーフ型の天井面とによって区画される燃焼室を有し、当該燃焼室の幾何学的圧縮比が15以上であって、混合気の一部を火花点火によりSI燃焼させると共にその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼を行うエンジンの燃焼室構造であって、
前記冠面には、
椀状に凹設されてなるキャビティと、
前記キャビティと前記ピストンの外縁部との間の外周領域において気筒軸方向に突設され、前記天井面のペントルーフ形状に沿った山型形状を有する一対の隆起部と、が備えられ、
前記一対の隆起部の間隔をL、前記ピストンの直径をBとするとき、前記ピストンの直径Bと前記一対の隆起部の間隔Lとの比であるB/Lが1.0より大きく2.86以下の範囲に設定されていることを特徴とするエンジンの燃焼室構造。
【請求項2】
ピストンの冠面と、前記ピストンが摺動可能に収容される気筒の内壁面と、ペントルーフ型の天井面とによって区画される燃焼室を有し、当該燃焼室の幾何学的圧縮比が15以上であって、混合気を火花点火により燃焼させるSI燃焼と、混合気の一部を火花点火によりSI燃焼させると共にその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼とを併用して行うエンジンの燃焼室構造であって、
前記冠面には、
椀状に凹設されてなるキャビティと、
前記キャビティと前記ピストンの外縁部との間の外周領域において気筒軸方向に突設され、前記天井面のペントルーフ形状に沿った山型形状を有する一対の隆起部と、が備えられ、
前記一対の隆起部の間隔をL、前記ピストンの直径をBとするとき、前記ピストンの直径Bと前記一対の隆起部の前記直線距離Lとの比であるB/Lが1.0より大きく1.52以下の範囲に設定されていることを特徴とするエンジンの燃焼室構造。
【請求項3】
請求項1又2に記載のエンジンの燃焼室構造において、
一対の隆起部の前記間隔Lは、当該一対の隆起部の最上部の間隔であることを特徴とするエンジンの燃焼室構造。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のエンジンの燃焼室構造において、
ペントルーフ型の前記天井面に沿って並ぶ2つの吸気ポートを備え、
前記キャビティは、前記冠面の上面視において、前記2つの吸気ポートの並び方向に幅広の楕円形状を備えることを特徴とするエンジンの燃焼室構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合気の一部を火花点火によりSI燃焼させるとともにその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼が可能なエンジンの燃焼室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンの燃焼態様として、火花点火をきっかけに混合気の一部を火炎伝播により強制的に燃焼(SI燃焼)させ、その他の混合気を自着火により燃焼(CI燃焼)させることを企図した部分圧縮着火燃焼(SPCCI燃焼)が知られている。SPCCI燃焼を行わせる燃焼室は、CI燃焼が発生し易い環境とするため、幾何学的圧縮比が15以上の高圧縮比に設定されることが多い。また、火花点火式エンジンの燃焼室構造として、例えば特許文献1には、燃焼室天井面をペントルーフ形状とし、燃焼室底面となるピストン冠面にキャビティを設ける構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−98391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SPCCI燃焼では、燃焼性の向上のため、スワール流が可及的に圧縮行程後期まで維持されることが望ましい。しかし、幾何学的圧縮比が15以上の高圧縮比エンジンにおいて、スワール流を圧縮行程後期まで維持させることは容易ではない。また、実際のエンジンでは、エンジン回転数や負荷に応じて、例えば一般的なSI燃焼と、SPCCI燃焼とが併用される。SI燃焼では、タンブル流が、可及的に圧縮行程後期まで維持されることが望ましい。しかし、従来の燃焼室構造では、タンブル流とスワール流との双方を圧縮行程後期まで十分に維持できないという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、SPCCI燃焼を行う幾何学的圧縮比が15以上の高圧縮比エンジンにおいて、スワール流を圧縮行程後期まで維持できるエンジンの燃焼室構造を提供すること、並びに、SI燃焼とSPCCI燃焼とを併用する同エンジンにおいて、タンブル流及びスワール流の双方を圧縮行程後期まで維持することができるエンジンの燃焼室構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係るエンジンの燃焼室構造は、ピストンの冠面と、前記ピストンが摺動可能に収容される気筒の内壁面と、ペントルーフ型の天井面とによって区画される燃焼室を有し、当該燃焼室の幾何学的圧縮比が15以上であって、混合気の一部を火花点火によりSI燃焼させると共にその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼を行うエンジンの燃焼室構造であって、前記冠面には、椀状に凹設されてなるキャビティと、前記キャビティと前記ピストンの外縁部との間の外周領域において気筒軸方向に突設され、前記天井面のペントルーフ形状に沿った山型形状を有する一対の隆起部と、が備えられ、前記一対の隆起部の間隔をL、前記ピストンの直径をBとするとき、前記ピストンの直径Bと前記一対の隆起部の間隔Lとの比であるB/Lが1.0より大きく2.86以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0007】
この燃焼室構造によれば、B/Lが上記の範囲に設定されることにより、適当な間隔でもって、一対の隆起部がスワール流をガイドする役目を果たす。このため、スワール流をキャビティ内において維持させ易くなり、燃焼室の容積が狭くなる圧縮行程後期までスワール流を維持させることができる。なお、B/Lが2.86より大きくなると、一対の隆起部の前記間隔Lが比較的小さなものとなり、すなわちキャビティの開口径が小さくなり、スワール流を流動させるための空間が不足してスワール流の維持ができなくなる傾向が顕著となる。また、B/Lが1.0以下となることは、実質的に一対の隆起部が存在しないことを意味し、よってSPCCI燃焼に必要な幾何学的圧縮比=15以上を確保し難くなる。
【0008】
本発明の他の局面に係るエンジンの燃焼室構造は、ピストンの冠面と、前記ピストンが摺動可能に収容される気筒の内壁面と、ペントルーフ型の天井面とによって区画される燃焼室を有し、当該燃焼室の幾何学的圧縮比が15以上であって、混合気を火花点火により燃焼させるSI燃焼と、混合気の一部を火花点火によりSI燃焼させると共にその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼とを併用して行うエンジンの燃焼室構造であって、前記冠面には、椀状に凹設されてなるキャビティと、前記キャビティと前記ピストンの外縁部との間の外周領域において気筒軸方向に突設され、前記天井面のペントルーフ形状に沿った山型形状を有する一対の隆起部と、が備えられ、前記一対の隆起部の間隔をL、前記ピストンの直径をBとするとき、前記ピストンの直径Bと前記一対の隆起部の前記直線距離Lとの比であるB/Lが1.0より大きく1.52以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0009】
この燃焼室構造によれば、B/Lが上記の範囲に設定されることにより、適当な間隔でもって、一対の隆起部がスワール流をガイドする役目を果たす。このため、スワール流をキャビティ内において維持させ易くなる。また、タンブル流も一対の隆起部によってガイドされ、キャビティ内に集まり易くすることができる。以上により、スワール流及びタンブル流をキャビティ内において維持させ易くなる。従って、燃焼室の容積が狭くなる圧縮行程後期までスワール流及びタンブル流を維持することができる。なお、B/Lが1.52より大きくなると、一対の隆起部の前記間隔Lが比較的小さなものとなり、タンブル流のガイド効果が損なわれる傾向が顕著となる。また、B/Lが1.0以下となることは、実質的に一対の隆起部が存在しないことを意味し、よってSPCCI燃焼に必要な幾何学的圧縮比=15以上を確保し難くなる。
【0010】
上記の燃焼室構造において、一対の隆起部の前記間隔Lは、当該一対の隆起部の最上部の間隔である。
【0011】
このように一対の隆起部の最上部の間隔を基準としてB/Lの範囲を規定することにより、スワール流及びタンブル流をキャビティ内において維持させ易くなる燃焼室構造の態様を好適に特定することが可能となる。
【0012】
上記の燃焼室構造においては、ペントルーフ型の前記天井面に沿って並ぶ2つの吸気ポートを備えるものであり、この場合、前記キャビティは、前記冠面の上面視において、前記2つの吸気ポートの並び方向に幅広の楕円形状を備えることが望ましい。
【0013】
この燃焼室構造によれば、タンブル流の流動方向においてキャビティが幅広となる形状を有しているので、当該キャビティにてタンブル流をガイドさせ易くすることができ、タンブル流の安定的な流動に寄与するものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、SPCCI燃焼を行う幾何学的圧縮比が15以上の高圧縮比エンジンにおいて、スワール流を圧縮行程後期まで維持できるエンジンの燃焼室構造、並びに、SI燃焼とSPCCI燃焼とを併用する同エンジンにおいて、タンブル流及びスワール流の双方を圧縮行程後期まで維持することができるエンジンの燃焼室構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る燃焼室構造が適用された部分圧縮着火式エンジンの全体構成を示すシステム図である。
図2図2は、前記エンジンが備える1つの気筒の模式的な斜視図である。
図3図3は、気筒およびその近傍の吸排気系の構造を示す概略平面図である。
図4図4は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。
図5図5は、エンジンの運転領域を燃焼形態の相違により区分けした運転マップである。
図6図6は、エンジンの各運転領域で行われる燃焼制御を概略的に説明するためのタイムチャートである。
図7図7は、SPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)時の熱発生率の波形を示すグラフである。
図8図8は、ピストンの斜視図である。
図9図9は、ピストンの冠面の平面図である。
図10図10は、図9のX−X線断面図である。
図11図11は、図9のXI−XI線断面図である。
図12図12は、キャビティに関連する各種パラメータを付記した、ピストンの斜視図である。
図13図13(A)〜(D)は、吸気行程におけるタンブル流の流動を模式的に示す図である。
図14図14(A)〜(D)は、圧縮行程におけるタンブル流の流動を模式的に示す図である。
図15図15(A)は、図14(D)の状態に相当する、燃焼室の模式的な断面図、図15(B)は、圧縮TDCにおける燃焼室の模式的な断面図である。
図16図16(A)〜(D)は、吸気行程におけるスワール流の流動を模式的に示す図である。
図17図17(A)〜(D)は、圧縮行程におけるスワール流の流動を模式的に示す図である。
図18図18(A)は、図17(D)の状態に相当する、燃焼室内におけるスワール流の発生状態を示す模式図、図18(B)は、圧縮TDCでの燃焼室内におけるスワール流の発生状態を示す模式図である。
図19図19は、本実施形態を採用した場合における、タンブル流及びスワール流の維持効果を示すグラフである。
図20図20(A)は、B/Lを適正範囲に設定した場合におけるタンブル流を示す模式図、図20(B)は、B/Lが適正範囲を上回る場合におけるスワール流を示す模式図、図20(C)は、B/Lが適正範囲を上回る場合におけるタンブル流を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[エンジンの全体構成]
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細に説明する。先ず、図1に示すシステム図を参照して、本発明に係る燃焼室構造が適用された部分圧縮着火式エンジン(以下、単にエンジンという)の全体構成を説明する。図1に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流する外部EGR装置45と、エンジン本体1にガソリンを主成分とする燃料を供給するフューエルシステム150と、を備えている。
【0017】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2内に収容されたピストン5とを有している。エンジン本体1は、典型的には複数の(例えば4つの)気筒を有する多気筒型のものであるが、図1では簡略化のため、1つの気筒2のみを図示している。図2には、1つの気筒2を模式的な斜視図にて示している。ピストン5は、気筒2のボア径Bに応じた外径を有し、所定のストロークSで往復摺動可能に気筒2内に収容されている。ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動に応じて中心軸回りに回転駆動される。
【0018】
ピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。燃焼室6には、後述するインジェクタ15からの噴射によって前記燃料が供給される。供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。燃焼室6を区画する燃焼室壁面は、気筒2の内壁面、ピストン5の上面である冠面50、及び、シリンダヘッド4の底面である燃焼室天井面6U(吸気バルブ11及び排気バルブ12の各バルブ面を含む)からなる。燃焼室天井面6Uは、上向きに凸のペントルーフ型の形状を有している。
【0019】
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、後述するSPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)に好適な値として、15以上30以下、好ましくは15以上18以下の高圧縮比に設定される。幾何学的圧縮比を15以上の高圧縮比に設定することで、燃焼室6内において混合気に圧縮着火が発生し易い環境とすることができる。
【0020】
シリンダブロック3には、クランク角センサSN1及び水温センサSN2が組み付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度(クランク角)及びクランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)を検出する。水温センサSN2は、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度(エンジン水温)を検出する。
【0021】
シリンダヘッド4の燃焼室天井面6Uには、燃焼室6に向けて開口する吸気ポート9及び排気ポート10と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが設けられている。本実施形態のエンジンのバルブ形式は、図2及び図3に示すように、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式である。図3は、気筒2及びその近傍の吸排気系の構造を示す概略平面図である。吸気ポート9は、第1吸気ポート9A及び第2吸気ポート9Bを有し、排気ポート10は、第1排気ポート10A及び第2排気ポート10Bを有している。吸気弁11は、第1吸気ポート9A及び第2吸気ポート9Bに対しそれぞれ1つずつ設けられ、排気弁12は、第1排気ポート10A及び第2排気ポート10Bに対しそれぞれ1つずつ設けられている。
【0022】
図3に示すように、第1、第2吸気ポート9A、9Bのうち、第2吸気ポート9Bには、当該第2吸気ポート9Bを開閉可能なスワール弁17が設けられている。スワール弁17が閉方向に駆動されると、スワール弁17が設けられていない第1吸気ポート9Aから燃焼室6に流入する吸気の割合が増大する。このため、気筒軸AX(燃焼室6の中心軸)の回りを旋回する旋回流、つまりスワール流を強化することができる。逆に、スワール弁17を開方向に駆動すればスワール流を弱めることができる。なお、本実施形態の吸気ポート9は、タンブル流(縦渦)を形成可能なタンブルポートである。このため、スワール弁17の閉時に形成されるスワール流は、タンブル流とミックスされた斜めスワール流となる。
【0023】
吸気弁11及び排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構13、14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。吸気弁11用の動弁機構13には、吸気弁11の開閉時期を変更可能な吸気VVT13aが、排気弁12用の動弁機構14には、排気弁12の開閉時期を変更可能な排気VVT14aが、各々内蔵されている。吸気、排気VVT13a、14aは、いわゆる位相式の可変機構であり、吸気弁11、排気弁12の開時期および閉時期を同時にかつ同量だけ変更する。
【0024】
シリンダヘッド4には、インジェクタ15及び点火プラグ16が組み付けられている。インジェクタ15は、フューエルシステム150から供給される燃料を燃焼室6に噴射する。点火プラグ16は、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と、吸気ポート9(9A、9B)を通して燃焼室6に導入された空気とが混合された混合気に点火する。シリンダヘッド4には、さらに、燃焼室6の圧力(筒内圧力)を検出する筒内圧センサSN3が設けられている。図2に示されているように、インジェクタ15は、燃焼室天井面6Uの径方向中央部であって、ペントルーフの頂部付近に先端部(噴孔)が表出するように配置されている。また、点火プラグ16は、燃焼室天井面6Uにおけるペントルーフの斜面部であって、一対の吸気ポート9A、9B間において先端部(電極部)が表出するように配置されている。
【0025】
インジェクタ15は、その先端部に複数の噴孔を有した多噴孔型のインジェクタであり、当該複数の噴孔から放射状に燃料を噴射することが可能である。図2中の符号Gの領域は、各噴孔から噴射された燃料の噴霧を表している。後記で詳述するが、ピストン5の冠面50には、その径方向中央領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹没させてなるキャビティ51が形成されている。インジェクタ15の先端部はキャビティ51と対向しており、このキャビティ51に向けて前記噴孔から燃料が噴射される。
【0026】
インジェクタ15に燃料を供給するフューエルシステム150は、フューエルタンク151、フューエルポンプ152、フューエルレール153及びパージ通路154を含む。フューエルタンク151は燃料を貯留するタンクである。フューエルポンプ152は、インタンク式のポンプであり、燃料をフューエルタンク151からフューエルレール153へ送り出す。フューエルレール153は、各気筒2に備えられているインジェクタ15に燃料を分配する。パージ通路154は、フューエルタンク151内で気化した燃料を回収し、吸気通路30に導入して燃焼させるための通路である。
【0027】
吸気通路30は、吸気ポート9と連通するように、シリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30及び吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35とが設けられている。
【0028】
吸気通路30の適所には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN4と、吸気の温度を検出する第1・第2吸気温センサSN5、SN7と、吸気の圧力を検出する第1・第2吸気圧センサSN6、SN8とが設けられている。エアフローセンサSN4及び第1吸気温センサSN5は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の流量および温度を検出する。第1吸気圧センサSN6は、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間であって、後述するEGR通路451の接続口よりも下流側の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の圧力を検出する。第2吸気温センサSN7は、吸気通路30における過給機33とインタークーラ35との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の温度を検出する。第2吸気圧センサSN8は、吸気通路30におけるインタークーラ35と吸気ポート9との間の吸気の圧力を検出する。
【0029】
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33の具体的な形式は特に問わないが、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを過給機33として用いることができる。過給機33には、締結と解放を電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が付設されている。電磁クラッチ34が締結されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。一方、電磁クラッチ34が解放されると、上記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による過給が停止される。
【0030】
吸気通路30には、過給機33をバイパスして吸気を流通させるためのバイパス通路36が付設されている。バイパス通路36には、当該バイパス通路36を開閉可能なバイパス弁37が設けられている。バイパス通路36は、過給機33よりも上流側で吸気通路30から分岐し、インタークーラ35の下流側において吸気通路30に合流する合流部38を形成している。この合流部38は、図略のサージタンクの近傍に配置される。なお、バイパス通路36は、後述するEGR通路451と前記サージタンクとを接続する通路でもある。
【0031】
排気通路40は、各気筒2の排気ポート10と排気マニホールド41を介して連通している。各燃焼室6で生成された既燃ガスは、排気ポート10、排気マニホールド41及び排気通路40を通じて外部に排出される。排気通路40には、排気ガスの流通方向における上流側、下流側に、各々上流触媒コンバータ42、下流触媒コンバータ43が設けられている。上流触媒コンバータ42には、三元触媒421及びGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)422が備えられている。三元触媒421は、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を捕集する。GPF422は、排気ガス中に含まれる煤に代表される粒子状物質を捕集する。下流触媒コンバータ43は、三元触媒やNOx触媒等の適宜の触媒を内蔵した触媒コンバータである。
【0032】
排気通路40における上流触媒コンバータ42よりも上流側の部位には、排気ガス中に含まれる酸素の濃度を検出するリニアO2センサSN9が配置されている。リニアO2センサSN9は、酸素濃度の濃淡に応じて出力値がリニアに変化するセンサであり、その出力値に基づいて、混合気の空燃比を推定することが可能である。また、三元触媒421とGPF422との間には、排気中のNOx濃度を計測するNOxセンサSN9が配置されている。
【0033】
外部EGR装置45は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路451と、EGR通路451に設けられたEGRクーラ452及びEGR弁453とを有している。EGR通路451は、排気通路40における上流触媒コンバータ42よりも下流側の部位と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部位とを互いに接続している。EGRクーラ452は、EGR通路451を通して排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGRガス)を、熱交換により冷却する。EGR弁453は、EGRクーラ452よりも下流側のEGR通路451に配置され、当該EGR通路451を流通する排気ガスの流量を調整する。
【0034】
[制御系統]
続いて、上述したエンジンの制御系統について説明する。図4は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。制御系統はECU20を備える。ECU20は、エンジンを統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0035】
ECU20には各種センサによる検出信号が入力される。ECU20は、上述したクランク角センサSN1、水温センサSN2、筒内圧センサSN3、エアフローセンサSN4、第1・第2吸気温センサSN5,SN7、第1・第2吸気圧センサSN6,SN8、リニアOセンサSN9及びNOセンサSN10と電気的に接続されている。これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転速度、エンジン水温、筒内圧力、吸気流量、吸気温、吸気圧、排気ガスの酸素濃度、NOx濃度等)は、ECU20に逐次入力される。また、車両には、図略のアクセルペダルの開度を検出するアクセルセンサSN11が設けられている。このアクセルセンサSN11による検出信号も、ECU20に入力される。
【0036】
ECU20は、上記各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU20は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スワール弁17、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁37、およびEGR弁453等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0037】
ECU20は、所定のプログラムが実行されることによって、演算部21、噴射制御部22、点火制御部23、スワール制御部24、吸気制御部25、EGR制御部26及び全体制御部27を機能的に具備するように動作する。
【0038】
噴射制御部22は、インジェクタ15による燃料の噴射動作を制御する制御モジュールである。点火制御部23は、点火プラグ16による点火動作を制御する制御モジュールである。スワール制御部24は、スワール弁17の開度を制御する制御モジュールである。吸気制御部25は、燃焼室6に導入される吸気の流量や圧力を調整する制御モジュールであり、スロットル弁32及びバイパス弁37の各開度や電磁クラッチ34のON/OFFを制御する。EGR制御部26は、燃焼室6に導入されるEGRガスの量を調整する制御モジュールであり、吸気VVT13aおよび排気VVT14aの各動作やEGR弁453の開度を制御する。
【0039】
演算部21は、上記の各制御部22〜26による制御目標値の決定や、エンジンの運転状態の判定のための各種演算を実行する制御モジュールである。全体制御部27は、エンジンの運転シーン等に応じて演算部21及び各制御部22〜26を統括的に制御し、必要な演算及び制御を実行させる。
【0040】
[運転状態に応じた制御]
図5は、本実施形態のエンジンの温間時に使用される運転マップであり、エンジンの回転速度/負荷に応じた制御の相違を示す図である。なお、以下の説明において、エンジンの負荷が高い(低い)とは、エンジンの要求トルクが高い(低い)ことと等価である。
【0041】
エンジンが温間状態にあるとき、エンジンの運転領域は、燃焼形態の相違によって3つの運転領域A1〜A3に大別される。これら運転領域A1〜A3を、それぞれ第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3と呼ぶ。第3運転領域A3は、回転速度が高い高速領域である。第1運転領域A1は、第3運転領域A3よりも低速側の領域から高負荷側の一部を除いた低・中速/低負荷の領域である。第2運転領域A2は、第1、第3運転領域A1,A3以外の残余の領域、つまり低・中速/高負荷の領域である。以下、各運転領域で選択される燃焼形態等について順に説明する。
【0042】
<第1運転領域>
低・中速/低負荷の第1運転領域A1では、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。SI燃焼とは、点火プラグ16から発生する火花により混合気に点火し、その点火点からその周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態のことである。CI燃焼とは、ピストン5の圧縮により高温・高圧化された環境下で、混合気を自着火により燃焼させる燃焼形態のことである。これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、このSI燃焼の後に(当該SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化によって)、燃焼室6内の他の混合気を自着火によりCI燃焼させる燃焼形態である。なお、「SPCCI」は「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
【0043】
SPCCI燃焼は、SI燃焼時の熱発生よりもCI燃焼時の熱発生の方が急峻になるという性質がある。図7は、SPCCI燃焼時の熱発生率の波形を示すグラフである。当該波形における点X1は、SI燃焼の開始に伴って熱発生率が立ち上がる熱発生点(クランク角θsi)である。熱発生点以降、SI燃焼に対応する燃焼初期の立ち上がりの傾きが、その後のCI燃焼に対応して生じる立ち上がりの傾きよりも小さくなっている。すなわち、SPCCI燃焼時の熱発生率の波形は、SI燃焼に基づく相対的に立ち上がりの傾きが小さい第1熱発生率部R1と、CI燃焼に基づく相対的に立ち上がりの傾きが大きい第2熱発生部R2とが、この順に連続するように形成される。また、このような熱発生率の傾向に対応して、SPCCI燃焼では、SI燃焼時に生じる燃焼室6内の圧力上昇率(dp/dθ)がCI燃焼時のそれよりも小さくなる。
【0044】
SI燃焼によって、燃焼室6内の温度および圧力が高まると、これに伴い未燃混合気が自着火し、CI燃焼が開始される。このCI燃焼が開始するタイミングで、熱発生率の波形の傾きが小から大へと変化する。すなわち、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで現れる変曲点(図7の点X2=クランク角θci)を有している。
【0045】
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも混合気の燃焼速度が速いため、熱発生率は相対的に大きくなる。ただし、CI燃焼は、圧縮上死点の後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが過大になることはない。すなわち、圧縮上死点を過ぎるとピストン5の下降によりモータリング圧力が低下するので、このことが熱発生率の上昇を抑制する結果、CI燃焼時のdp/dθが過大になることが回避される。このように、SPCCI燃焼では、SI燃焼の後にCI燃焼が行われるという性質上、燃焼騒音の指標となるdp/dθが過大になり難く、単純なCI燃焼(全ての燃料をCI燃焼させた場合)に比べて燃焼騒音を抑制することができる。
【0046】
CI燃焼の終了に伴いSPCCI燃焼も終了する。CI燃焼はSI燃焼に比べて燃焼速度が速いので、単純なSI燃焼(全ての燃料をSI燃焼させた場合)に比べて燃焼終了時期を早めることができる。言い換えると、SPCCI燃焼では、燃焼終了時期を膨張行程内において圧縮上死点に近づけることができる。これにより、SPCCI燃焼では、単純なSI燃焼に比べて燃費性能を向上させることができる。第1運転領域A1におけるSPCCI燃焼の実行の際、ECU20の全体制御部27は、各制御部22〜26を次のような制御を実行させる。
【0047】
火花点火に関し全体制御部27は、点火プラグ16から火花を2回発生させ、2回目の火花点火をきっかけにして、混合気をSPCCI燃焼させる制御を実行する。具体的には、点火プラグ16(点火制御部23)は、圧縮上死点から十分に進角された時期に火花を発生させる先行点火と、先行点火よりも圧縮上死点に近い時期に火花を発生させる主点火とを実行する。先行点火は、圧縮行程前期または中期のいずれか(BTDC180〜60°CA)に実行される。主点火は、SI燃焼を開始させる点火であり、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内(BTDC60〜ATDC60°CA)に実行される。なお、燃料噴射後であれば、吸気行程において先行点火を実行させても良い。
【0048】
図6は、エンジンの各運転領域で行われる燃焼制御を概略的に説明するためのタイムチャートである。第1運転領域A1における低負荷側の運転ポイントP1、P2において、点火制御部23は点火プラグ16を制御して、図6のチャート(a)、(b)に各々示すように、圧縮行程前期に先行点火を実行するとともに、圧縮行程後期に主点火を実行する。ただし、高負荷側の運転ポイントP2における先行点火の時期は、低負荷側の運転ポイントP1における先行点火の時期よりも進角側に設定される。これは、後述する第2噴射(1サイクル中の最後の燃料噴射)の時期に連動したものである。すなわち、点火制御部23は、第2噴射の終了時期から先行点火までのクランク角期間が略一定に維持されるように、第2噴射の時期に連動して先行点火の時期が高負荷側ほど進角させる。噴射制御部22は、第2噴射の時期をエンジン負荷(運転状態)に応じて変更し、点火制御部23は、第2噴射の時期変更の前後において、第2噴射の終了時期から先行点火の時期までの期間が略一定に維持されるように、先行点火の時期を変更する。
【0049】
圧縮上死点から十分に進角された時期に実行される先行点火は、混合気の火炎伝播を生じさせない。この先行点火は、火花(アーク)の周囲の混合気を850K以上1140K未満という狙いの温度にまで上昇させることにより、燃料成分(炭化水素)を開裂させてOHラジカルを含む中間生成物を生成することを目的として行われる。また、火炎伝播が生じるのを確実に防止するため、先行点火のエネルギーは、主点火のエネルギーよりも小さくされる。したがって、このような先行点火が行われても、混合気には実質的に火炎が形成されず、SI燃焼は開始されない。
【0050】
一方、圧縮上死点に比較的近い時期に実行されるエネルギーの大きい主点火は、混合気の火炎伝播を生じさせ、SI燃焼を引き起こす。SI燃焼が開始されると、燃焼室6が高温・高圧化し、そのことがCI燃焼を引き起こす。すなわち、主点火をきっかけにSPCCI燃焼が開始され、燃焼室6内の一部の混合気が火炎伝播により燃焼(SI燃焼)し、その他の混合気が自着火により燃焼(CI燃焼)する。
【0051】
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料を2回に分けて、吸気行程中に噴射する。第1運転領域A1において噴射制御部22は、インジェクタ15を制御して、上述した先行点火よりも早い所定の期間内に、第1噴射と第2噴射との2回に分けて燃料を噴射させる。運転ポイントP1、P2において、インジェクタ15は、図6のチャート(a)、(b)に示すように、吸気行程前半に第1噴射を開始するとともに、吸気行程後半に第2噴射を開始する。ただし、高負荷側の運転ポイントP2における第2噴射の開始時期は、低負荷側の運転ポイントP1における第2噴射の開始時期よりも進角側に設定される。
【0052】
第2噴射の時期は、第1運転領域A1内で負荷が増大するほど進角される。分割噴射によりインジェクタ15から噴射される燃料の総量は、要求トルクが高くなる高負荷側ほど多くなるように設定される。また、第1・第2噴射の分割比は、高負荷側ほど第1噴射の割合が小さくなるように設定される(噴射量は第1噴射>第2噴射)。例えば、第1・第2噴射の分割比は、第1運転領域A1内における低負荷側から高負荷側にかけて、概ね9:1から6:4まで変化するように設定される。これにより、燃料が成層化され過ぎてエミッション性能が低下することを回避できる。
【0053】
第1運転領域A1での運転時、スロットル弁32の開度は、理論空燃比相当の空気量よりも多くの空気が吸気通路30を通じて燃焼室6に導入されるような開度に設定される。すなわち、吸気制御部25は、吸気通路30を通じて燃焼室6に導入される空気(新気)と、上記第1・第2噴射によって燃焼室6に噴射される燃料との重量比である空燃比(A/F)が、理論空燃比(14.7)よりも大きくなるように、スロットル弁32の開度を比較的高めに設定する(A/Fリーン)。これにより、理論空燃比相当の空気量よりも多くの空気が、吸気通路30を通じて燃焼室6に導入される。
【0054】
全体制御部27は、過給機33を、図5に示される過給ラインTの内側領域(第1運転領域A1の低速側)ではOFF状態とし、過給ラインTの外側領域(第1運転領域A1の高速側)ではON状態とする。第1運転領域A1の低速側では、電磁クラッチ34が解放されて過給機33とエンジン本体1との連結が解除されると共に、バイパス弁37が全開とされることにより、過給機33による過給が停止される。一方、第1運転領域A1の高速側では、電磁クラッチ34が締結されて過給機33とエンジン本体1とが連結されることにより、過給機33による過給が行われる。このとき、第2吸気圧センサSN8により検出される過給圧が、エンジンの運転条件(回転速度や負荷等の条件)ごとに予め定められた目標圧力に一致するように、吸気制御部25は、バイパス弁37の開度を制御する。
【0055】
EGR制御部26はEGR弁453を、SPCCI燃焼に適した筒内温度が実現されるように、第1運転領域A1内の多くの領域において開弁する。すなわち、EGR通路451を通じて燃焼室6に排気ガスを還流する外部EGRが実現されるように、EGR弁453が開弁される。EGR弁453の開度は、所望のSPCCI燃焼の波形を得るのに適した筒内温度が実現されるように調整される。
【0056】
スワール制御部24は、スワール弁17の開度を、半開(50%)よりも低い低開度に設定する。スワール弁17の開度が低減されることにより、燃焼室6に導入される吸気は、その大部分が第1吸気ポート9A(図3)からの吸気となり、燃焼室6内に強いスワール流が形成される。このスワール流は、吸気行程中に成長して圧縮行程の途中まで残存し、燃料の成層化を促進する。つまり、燃焼室6の径方向中央部の燃料濃度がその外側の領域(外周部)に比べて濃くなるという濃度差が形成される。
【0057】
<第2運転領域>
低・中速/高負荷の第2運転領域A2では、1回の火花点火によって混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。換言すると、第2運転領域A2では、上述した第1運転領域A1における先行点火が省略されて、主点火のみが実行される。このような1回点火によるSPCCI燃焼を実現するため、第2運転領域A2では、ECU20の全体制御部27によってエンジンの各部が次のように制御される。
【0058】
点火プラグ16は、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内に1回の火花点火を実行する。第2運転領域A2に含まれる運転ポイントP3において、点火プラグ16は、図6のチャート(c)に示すように、圧縮行程後期に1回の火花点火を実行する。この火花点火をきっかけにSPCCI燃焼が開始され、燃焼室6内の一部の混合気が火炎伝播により燃焼(SI燃焼)し、その他の混合気が自着火により燃焼(CI燃焼)する。インジェクタ15は、運転ポイントP3において、図6のチャート(c)に示すように、1サイクル中に噴射すべき燃料の全量を供給する1回の燃料噴射を吸気行程中に実行する。
【0059】
スロットル弁32の開度は、理論空燃比相当の空気量が吸気通路30を通じて燃焼室6に導入されるような開度、つまり、燃焼室6内の空気(新気)と燃料との重量比である空燃比(A/F)が理論空燃比(14.7)に略一致するような開度に設定される(λ≒1)。過給機33は、過給ラインTの内側領域と重複する低負荷かつ低速側の一部においてOFF状態とされ、それ以外の領域でON状態とされる。EGR弁453は、第2運転領域A2でのSPCCI燃焼に適した量の外部EGRガスが燃焼室6に導入されるように適宜の開度まで開弁される。スワール弁17の開度は、第1運転領域A1での開度と同程度の値か、もしくはこれよりも大きい所定の中間開度に設定される。
【0060】
<第3運転領域>
上記第1・第2運転領域A1,A2よりも高速側の第3運転領域A3では、SI燃焼が実行される。このSI燃焼の実現のために、第3運転領域A3では、全体制御部27によってエンジンの各部が次のように制御される。
【0061】
点火プラグ16は、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内に、1回の火花点火を実行する。例えば、第3運転領域A3に含まれる運転ポイントP4において、点火プラグ16は、図6のチャート(d)に示すように、圧縮行程後期に1回の火花点火を実行する。そして、この火花点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
【0062】
インジェクタ15は、吸気行程から圧縮行程にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射する。なお、運転ポイントP4は、かなり高速かつ高負荷の条件であるため、1サイクル中に噴射すべき燃料の量がそもそも多い上に、所要量の燃料を噴射するのに要するクランク角期間が長期化する。運転ポイントP4における燃料の噴射期間が既述の他の運転ポイント(P1〜P3)のいずれよりも長いのはこのためである。
【0063】
過給機33はON状態とされ、過給機33による過給が行われる。このときの過給圧は、バイパス弁37によって調整される。スロットル弁32およびEGR弁453は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりもややリッチな値(λ≦1)となるように、それぞれの開度が制御される。スワール弁17は全開とされる。これにより、第1吸気ポート9Aだけでなく第2吸気ポート9Bが完全に開放されて、エンジンの充填効率が高められる。
【0064】
[各燃焼態様における望ましい筒内流動]
本実施形態の燃焼室6内では、筒内流動として、少なくともタンブル流とスワール流とが発生する。すなわち、上記で説明した通り、本実施形態の吸気ポート9(9A、9B)は、タンブル流を形成可能なタンブルポートである。また、スワール弁17の開閉により、スワール流を形成することができる。本実施形態のエンジンは、SI燃焼とSPCCI燃焼とが併用されるが、前者の燃焼態様ではタンブル流が肝要となり、後者の燃焼態様ではスワール流が肝要となる。
【0065】
SI燃焼では、専ら高回転高負荷領域での燃焼であるため、熱効率を向上させることが求められる。熱効率の向上には、タンブル流を吸気行程から圧縮行程後期(圧縮上死点付近)まで維持させ、維持されたタンブル流を圧縮上死点付近で一気に乱流に変換することが望ましい。タンブル流の可及的な維持により、SI燃焼の火炎伝播を高速化することができ、熱効率の向上を実現することができる。
【0066】
一方、SPCCI燃焼では、前段のSI燃焼により発生させた点火プラグ16付近の火炎(火種)を、燃焼室6の周縁の領域へ速く運ぶことが求められる。火種の前記周縁領域への運搬に貢献するのは、専らスワール流である。従って、スワール流を吸気行程から圧縮上死点付近で維持させることが望ましい。スワール流による火種の運搬効果により、筒内温度が高められ、後段のCI燃焼における圧縮着火を促進させることができる。以上の観点より、SI燃焼とSPCCI燃焼とを併用する本実施形態に係るエンジンでは、通常のガソリンエンジンやディーゼルエンジンとは異なり、タンブル流及びスワール流を、吸気行程から圧縮上死点付近まで維持させることが望ましい。
【0067】
[ピストンの詳細構造]
続いて、図8図11を参照して、ピストン5の構造、とりわけ冠面50の構造について詳細に説明する。本実施形態では、冠面50に、上述したタンブル流及びスワール流の双方を圧縮上死点付近まで維持させることを可能とする形状的工夫が施されている。図8は、図1及び図2に示されたピストン5の斜視図、図9は、冠面50の平面図、図10は、図9のX−X線断面図、図11は、図9のXI−XI線断面図である。図8図11では、説明の明確性を担保するため、XYZの方向表示を付している。Z方向は気筒軸AX方向、X方向はクランク軸7の延伸方向であるエンジン本体1の前後方向、Y方向はZ方向及びX方向の双方と直交する方向に各々相当する。各図には、エンジン本体1の設置方向におけるフロント側、リア側という意味においてF側(+X側)、R側(−X側)と、吸気ポート9及び排気ポート10と各々対向する側であるという意味においてIN側(+Y側)、EX側(−Y側)との表記が付されている。
【0068】
ピストン5は、ピストンヘッド5Aと、ピストンヘッド5Aの下方(−Z側)に連設されたスカート部5Sとを含む。ピストンヘッド5Aは円柱体からなり、燃焼室6の壁面の一部(底面)を形成する冠面50を上面に備えると共に、気筒2の内壁面と摺接する側周面5Cとを備える。側周面5Cには、ピストンリングが嵌め込まれるリング溝が複数備えられている。スカート部5Sは、ピストンヘッド5Aの+Y側及び−Y側に配置され、ピストン5の往復運動の際の首振り揺動を抑制する。ピストンヘッド5Aの下方には、X方向に延びるピン孔を区画するピストンボス5Bが設けられている。ピストンボス5Bの前記ピン孔には、コネクティングロッド8との連結のためのピストンピンが挿通される。
【0069】
冠面50は、燃焼室天井面6UとZ方向に対向する面である。冠面50は、その径方向(X方向及びY方向)の概ね中央部分に配置された椀状のキャビティ51を含む。キャビティ51は、インジェクタ15から燃料の噴射を受ける部分であって、冠面50が下方(−Z側)に凹設された部分である。なお、ここでの「凹設」とは、ペントルーフ型の燃焼室天井面6Uに沿う冠面形状を想定した場合において径方向中央部分が凹没している意味合いであって、必ずしも冠面50においてキャビティ51が最も低い部分を構成していなくても良い。
【0070】
+Z側からの平面視において、冠面50におけるキャビティ51を囲む外周部分には、F側凸部52F、R側凸部52R、IN側平面部53、EX側平面部54、IN側斜面部55及びEX側斜面部56が配置されている。F側凸部52Fはキャビティ51の+X側に、R側凸部52Rは−X側に、各々隣接する凸面である。IN側平面部53はキャビティ51の+Y側に、EX側平面部54は−Y側に、各々位置する平面である。IN側斜面部55は、キャビティ51の+Y側端縁とIN側平面部53との間に配置された斜面である。EX側斜面部56は、キャビティ51の−Y側端縁とEX側平面部54との間に配置された斜面である。
【0071】
F側凸部52F及びR側凸部52R(一対の隆起部)は、冠面50におけるキャビティ51とピストン5の側周面5C(外縁部)との間の外周領域において+Z方向(気筒軸方向)に突設されている。F側凸部52F及びR側凸部52Rは、一対の斜面部521と稜線部522とによって各々構成されている。一対の斜面部521は、燃焼室天井面6Uのペントルーフ形状に沿う山型の傾斜面を形成している。稜線部522は、一対の斜面部521の頂部において、X方向に帯状に延びる平面である。図9に示すように、+Z側からの平面視(冠面50の上面視)において、キャビティ51はX方向が長軸である楕円形状を有している。つまり、キャビティ51は稜線部522の延在方向に幅広、換言すると、2つの吸気ポート9A、9Bの並び方向に幅広の楕円形状を備えている。また、F側凸部52F及びR側凸部52Rは、キャビティ51の長軸と交差する略U字型の形状を有している。F側凸部52Fの外周側及びR側凸部52Rの外周側に各々隣接して、円弧形の帯状平面からなるF側平面部523F及びR側平面部523Rが、各々配置されている。
【0072】
IN側平面部53は、冠面50の+Y側外周縁(側周面5C)を弧とし、X方向に延びる直線を弦とする弓形の平面である。IN側平面部53は、ピストン5が圧縮上死点に向かう際、スキッシュ流が形成されるスキッシュエリアである。EX側平面部54は、冠面50の−Y側外周縁を弧とし、X方向に延びる直線を弦とする弓形の平面である。本実施形態では、EX側平面部54よりもIN側平面部53の方が広面積に設定されている。この面積差に応じて、F側、R側凸部52F、52Rの−Y側斜面部521の裾野が、+Y側斜面部521よりも長くなっている。なお、IN側平面部53、EX側平面部54、F側平面部523F及びR側平面部523Rは、ほぼ同じ高さ位置にある平面である。これら平面のうちIN側平面部53は、冠面50の加工時において各部の高さ位置を定める基準面とされる。
【0073】
IN側斜面部55及びEX側斜面部56は、冠面50におけるキャビティ51の外周領域において、稜線部522の延在方向(X方向)と直交する方向(+Y、−Y方向)の位置に突設されている。IN側斜面部55は、IN側平面部53の弦の位置を立ち上がり位置として、冠面50の径方向内側(−Y側)に向かって+Z側にせり上がり、キャビティ51の+Y側端縁に至る傾斜面である。EX側斜面部56は、EX側平面部54の弦の位置を立ち上がり位置として、冠面50の径方向内側(+Y側)に向かって+Z側にせり上がり、キャビティ51の−Y側端縁に至る傾斜面である。
【0074】
各斜面部521の裾野部分に対して、IN側斜面部55及びEX側斜面部56は高い位置に存在しており、両者の境界には段差部524が形成されている。この段差部524の形成によって凹没した部分は、吸気弁11及び排気弁12との干渉を防止するバルブリセスとなる。換言すると、IN側斜面部55は、一対の吸気弁11用のバルブリセス間に形成された隆起部、EX側斜面部56は、一対の排気弁12用のバルブリセス間に形成された隆起部である。
【0075】
図11に示されているように、IN側斜面部55及びEX側斜面部56のせり上がり高さ(最も+Z側に突出した高さ位置)よりも、F側凸部52F及びR側凸部52Rの稜線部522の高さは高い位置にある。また、IN側斜面部55よりもEX側斜面部56の方が、Y方向の長さが長い。両斜面部55、56の傾斜角度は概ね同一であり、Y方向の長さが長い分だけ、EX側斜面部56の方が+Z側への突出高さも高い。
【0076】
キャビティ51は、底部511、F側周壁512F、R側周壁512R、IN側周壁513及びEX側周壁514を備えている。底部511は、椀状に凹設されたキャビティ51の下方領域を構成する部分である。底部511は、−Z方向に緩く凹没した曲面からなり、その外周縁は+Z側からの平面視で円形の形状を有している。底部511の径方向中央に、キャビティ51において−Z側に最も凹没した地点である最深部51Bが位置している。最深部51Bは、ピストン5の径方向の中心に対してややEX側にシフトした位置に存在している。F側周壁512Fは、底部511の+X側周縁からF側凸部52Fに向けて立ち上がる曲面である。R側周壁512Rは、底部511の−X側周縁からR側凸部52Rに向けて立ち上がる曲面である。F側周壁512F及びR側周壁512Rの高さは、各稜線部522の位置において最も高く、斜面部521の裾野に向かうに連れて徐々に低くなっている。また、F側周壁512F及びR側周壁512Rが有する曲面の曲率半径Rf、Rrは、底部511の曲面の曲率半径Rよりも小さい。
【0077】
IN側周壁513は、底部511の+Y側周縁からIN側斜面部55に向けて立ち上がる曲面である。EX側周壁514は、底部511の−Y側周縁からEX側斜面部56に向けて立ち上がる曲面である。IN側周壁513及びEX側周壁514が有する曲面の曲率半径Rin、Rexもまた、底部511の曲面の曲率半径Rよりも小さい。IN側のバルブリセス間の間隔がEX側よりも広いことから、IN側周壁513の方がEX側周壁514よりも周方向幅が長くなっている。
【0078】
[キャビティの各種パラメータ]
図12は、キャビティ51に関連する各種パラメータを示す図である。図中には、FR周壁高さH1(隆起部の高さ)、IN側周壁高さH2、キャビティ径D、FR間周壁長さL(一対の隆起部の間隔)、ボア径B及びストロークSが示されている。FR周壁高さH1は、F側凸部52F又はR側凸部52Rの高さ、換言するとR側周壁512R又はF側周壁512Fの高さである。IN側周壁高さH2は、IN側斜面部55のせり上がり高さ、換言するとIN側周壁513の高さである。これらの高さH1、H2は、キャビティ51の最深部51B(所定の基準高さ位置)からの高さである。
【0079】
キャビティ径Dは、キャビティ51における、最深部51Bを含む一定の曲率を有する領域の外周縁の直径、本実施形態では底部511の直径である。FR間周壁長さLは、F側凸部52FとR側凸部52Rとの間の間隔、換言するとR側周壁512Rの最上部(稜線部522の内側エッジ)とF側周壁512Fの最上部との間の間隔である。ボア径Bは、図2に示した通り気筒2の内径であって、ピストン5の直径に相当する長さである。ストロークSは、TDC(上死点)〜BDC(下死点)間にピストン5がZ方向に移動する長さである。
【0080】
図10及び図11には、キャビティ51の曲面形状に関するパラメータも示されている。これらの図中には、半径R、Rf、Rr、Rin、Rexが示されている。半径Rは、キャビティ51の底部511を形成する曲面の半径である。この半径Rにて凹没する領域の外周縁が、底部511と他の周壁512R、512F、513、514との境界であって、上面視で円形形状(その直径=キャビティ径D)を有している。半径RfはF側周壁512F、半径RrはR側周壁512Rを各々形成する曲面の半径である。キャビティ51のX方向断面においては、半径Rの領域(底部511)の+X側及び−X側端部に、各々半径Rf、Rrの領域(F側周壁512F、R側周壁512R)が連設されている。また、半径RinはIN側周壁513、半径RexはEX側周壁514を各々形成する曲面の半径である。キャビティ51のY方向断面においては、半径Rの領域(底部511)の+Y側及び−Y側端部に、各々半径Rin、Rexの領域(IN側周壁513、REX側周壁514)が連設されている。
【0081】
本実施形態では、ペントルーフ形状に沿った山型形状を有するF側凸部52FとR側凸部52R(一対の隆起部)との間の間隔であるFR間周壁長さLと、ボア径(ピストンの直径)Bとの比であるB/Lが所定の範囲内に設定されている。具体的には、専らSPCCI燃焼においてスワール流を圧縮行程後期まで維持させるという観点からは、
1.0<B/L≦2.86・・・(1)
の関係を満たすように設定される。
【0082】
B/Dが上記(1)式の範囲に設定されることにより、適当な間隔LでもってF側凸部52F及びR側凸部52R(F側周壁512F及びR側周壁512R)がスワール流をガイドする役目を果たす。このため、スワール流をキャビティ51内において維持させ易くなり、燃焼室6の容積が狭くなる圧縮行程後期までスワール流を維持させることができる。なお、B/Lが2.86より大きくなると、F側凸部52FとR側凸部52Rとの前記FR間周壁長さLが比較的小さなものとなり、すなわちキャビティ51の開口径が小さくなり、スワール流を流動させるための空間が不足してスワール流の維持ができなくなる傾向が顕著となる。また、B/Lが1.0以下となることは、実質的にF側凸部52F及びR側凸部52Rが存在しないことを意味し、よってSPCCI燃焼に必要な幾何学的圧縮比=15以上を確保し難くなる。
【0083】
次に、SI燃焼とSPCCI燃焼とを併用し、SPCCI燃焼においてスワール流を圧縮行程後期まで維持させると共に、高回転のSI燃焼においてタンブル流を圧縮行程後期まで維持させるという観点からは、
1.0<B/L≦1.52・・・(2)
の関係を満たすように設定される。
【0084】
ペントルーフ型の燃焼室天井面6Uを備える燃焼室6では、吸気はF側凸部52F及びR側凸部52Rの稜線部522が延在する方向(X方向)と直交する方向(Y方向)に流入し、タンブル流を形成する。B/Lが上記(2)式の範囲に設定されることにより、タンブル流もF側凸部52F及びR側凸部52Rによってガイドされ、キャビティ51内に集まり易くすることができる。スワール流の維持については、上述の通りである。従って、SI燃焼とSPCCI燃焼とを併用する場合において、スワール流及びタンブル流をキャビティ内において維持させ易くなり、燃焼室6の容積が狭くなる圧縮行程後期までスワール流及びタンブル流を維持することができる。なお、B/Lが1.52より大きくなると、キャビティ51の開口径が比較的小さなものとなり、タンブル流のガイド効果が損なわれる傾向が顕著となる。また、B/Lが1.0以下となると、上述の通り、SPCCI燃焼に必要な幾何学的圧縮比=15以上を確保し難くなる。
【0085】
上記のB/Lの他、スワール流及びタンブル流の維持に関して好ましい他の設定は次の通りである。まず、FR周壁高さH1とIN側周壁高さH2とについて、専らSPCCI燃焼におけるスワール流の維持を考慮する場合には、
1.79≦H1/H2≦3.29
の関係を満たすように設定される。上記の関係を満たすことで、F側凸部52F及びR側凸部52RとIN側斜面部55との高さ比が適正化され、スワール流がIN側斜面部55(IN側周壁513)の領域で良好にガイドされるようになり、スワール流をキャビティ51内において維持させ易くなる。また、SI燃焼とSPCCI燃焼との併用においてスワール流及びタンブル流の維持を考慮する場合には、
1.92≦H1/H2≦2.75
の関係を満たすように設定される。上記の関係を満たすことで、IN側斜面部55よりも高いF側凸部52F及びR側凸部52Rによってタンブル流がキャビティ51内へガイドされるので、タンブル流の維持効果を高めることができる。
【0086】
F側凸部52F及びR側凸部52Rの高さH1とキャビティ径Dとについて、専らSPCCI燃焼におけるスワール流の維持を考慮する場合には、
0.05≦H1/D≦0.36
の関係を満たすように設定される。上記の関係を満たすことで、F側凸部52F及びR側凸部52Rの高さ(F側周壁512F及びR側周壁512R)が適度な高さH1を有し、スワール流がキャビティ51の底部511の外周縁領域において良好にガイドされる。このため、スワール流をキャビティ51内において維持させ易くなる。また、SI燃焼とSPCCI燃焼との併用においてスワール流及びタンブル流の維持を考慮する場合には、
0.050≦H1/D≦0.235
の関係を満たすように設定される。上記の関係を満たすことで、タンブル流もF側凸部52F及びR側凸部52Rによってガイドされ易くなり、タンブル流の維持効果を高めることができる。
【0087】
キャビティ径Dとボア径Bとの関係については、専らSPCCI燃焼におけるスワール流の維持を考慮する場合には、
1.19≦D/B≦2.94
の関係を満たすように設定される。また、SI燃焼とSPCCI燃焼との併用においてスワール流及びタンブル流の維持を考慮する場合には、
1.19≦D/B≦2.20
の関係を満たすように設定される。
【0088】
キャビティ51の底部511の半径Rと、ボア径Bとの関係については、専らSPCCI燃焼におけるスワール流の維持を考慮する場合には、
0.0<R/B≦2.42
の関係を満たすように設定される。また、SI燃焼とSPCCI燃焼との併用においてスワール流及びタンブル流の維持を考慮する場合には、
1.06≦R/B≦2.42
の関係を満たすように設定される。
【0089】
キャビティ51の底部511の半径Rと、F側周壁512Fの半径Rf及びR側周壁512Rの半径Rrとの関係については、専らSPCCI燃焼におけるスワール流の維持を考慮する場合には、
1.0<(R/Rf=R/Rr)≦64
の関係を満たすように設定される。また、SI燃焼とSPCCI燃焼との併用においてスワール流及びタンブル流の維持を考慮する場合には、
1.0<(R/Rf=R/Rr)≦12
の関係を満たすように設定される。
【0090】
また、半径Rと、IN側周壁513の半径Rin及びEX側周壁514の半径Rexとの関係については、専らSPCCI燃焼におけるスワール流の維持を考慮する場合には、
1.0<(R/Rin=R/Rex)≦78
の関係を満たすように設定される。また、SI燃焼とSPCCI燃焼との併用においてスワール流及びタンブル流の維持を考慮する場合には、
1.0<(R/Rin=R/Rex)≦14.5
の関係を満たすように設定される。
【0091】
[筒内流動についての説明]
以下、本実施形態に係るキャビティ51を有するピストン5が用いられた場合の筒内流動について、図13図18を参照して説明する。図13図15では、図5の第3運転領域(SI燃焼)において肝要となるタンブル流が維持される状況が示されている。図16図18では、第1、第2運転領域(SPCCI燃焼)において肝要となるスワール流が維持される状況が示されている。図13図14図16図17では、気筒2が簡略的に示されていると共に、ピストン5、インジェクタ15及び点火プラグ16の位置関係が示されている。
【0092】
<タンブル流>
図13(A)〜(D)は、SI燃焼の吸気行程におけるタンブル流の流動を模式的に示す図である。ここでは、タンブル比=2(排気TDC〜圧縮TDCの間にタンブル流が2回転する)である例を示す。図13(A)は、ピストン5が排気TDCの位置にある状態を示している。この状態では、吸気弁11は開いておらず、吸気ポート9から新気は気筒2(燃焼室6)に流入していない。
【0093】
図13(B)は、ピストン5が排気TDCから45deg程度下降した状態を示している。この状態では吸気弁11は開かれ、ピストン5の下降に伴う圧力低下により、新気が吸気ポート9から気筒2(燃焼室6)に流入する。既述の通り吸気ポート9はタンブルポートの形状を有しているので、前記新気の流入によって気筒2内にはタンブル流Ftが発生する。タンブル流Ftは、中央タンブル流Ftcと外縁タンブル流Fteとを含む。中央タンブル流Ftcは、キャビティ51の径方向中央領域に向かう比較的強い流動である。外縁タンブル流Fteは、中央タンブル流Ftcの両サイドに発生する流動であって、キャビティ51の径方向周縁領域に向かう比較的弱い流動である。SI燃焼ではスワール弁17が全開とされるので、新気は2つの吸気ポート9A、9Bから気筒2に流入する。これらの2つの新気流入の干渉により、径方向中央領域では比較的強い中央タンブル流Ftcが発生するものである。
【0094】
図13(C)は、ピストン5が排気TDCから90deg下降した状態である。タンブル流Ftは、キャビティ51内に入り込んでいる。詳しくは、中央タンブル流Ftcはキャビティ51の径方向中央領域に入り込み、外縁タンブル流Fteは径方向周縁領域に入り込んでいる。図13(D)は、ピストン5が排気TDCから135deg程度下降した状態である。中央タンブル流Ftc及び外縁タンブル流Fteの双方共、キャビティ51にガイドされるようにして、流動方向を上方向に反転させている。なお、インジェクタ15は、図6に例示した通り、吸気行程において運転シーンに応じたタイミングで、燃料を噴射する。
【0095】
図14(A)〜(D)は、圧縮行程におけるタンブル流Ftの流動を模式的に示す図である。図14(A)は、ピストン5が吸気BDCの位置にある状態を示している。吸気BDC付近で吸気弁11は閉じられ、燃焼室6内の混合気は圧縮され始める。この段階ではタンブル流Ftは、燃焼室天井面6Uに向かうように流動している。
【0096】
図14(B)は、ピストン5が吸気BDCから45deg程度上昇した状態を示している。タンブル流Ftは、燃焼室天井面6Uにガイドされるようにして、流動方向を下方向に反転させている。再び、中央タンブル流Ftcはキャビティ51の径方向中央領域に、外縁タンブル流Fteは径方向周縁領域に、各々向かっている。
【0097】
図14(C)は、ピストン5が吸気BDCから90deg上昇した状態である。中央タンブル流Ftcはキャビティ51の径方向中央領域に、外縁タンブル流Fteは径方向周縁領域に各々入り込み、キャビティ51でガイドされている。図14(D)は、ピストン5が吸気BDCから135deg程度上昇した状態である。圧縮行程の後期に至っても、キャビティ51が適宜な面積及び容積を具備し、且つ、上記(2)式の1.0<B/L≦1.52の関係を満たすボア径(ピストンの直径)Bと両凸部52F、52R(一対の隆起部)の間隔であるFR間周壁長さLとを少なくとも具備していることから、タンブル流Ftは維持される。但し、燃焼室6の容積が小さくなることに伴い、外縁タンブル流Fteは消失気味となり、専ら中央タンブル流Ftcが残存する。なお、点火プラグ16は、図6に例示した通り、圧縮行程において運転シーンに応じたタイミングで、混合気に点火する。
【0098】
図15(A)は、図14(D)の状態に相当する、燃焼室6の気筒軸方向の模式的な断面図である。図15(B)は、図14(D)の状態からピストン5の上昇がさらに進んだ、圧縮TDCにおける燃焼室6の気筒軸方向の模式的な断面図である。図15(A)に示す圧縮行程の後期の状態では、上述の通り、タンブル流Ftは維持されている。
【0099】
その後、図15(B)に示すように、圧縮TDCに至ると、タンブル流Ftが一気に乱流Tuに変換される。乱流Tuは、タンブル流Ftの形態で層流を為していた混合気が、燃焼室6空間の縮小に伴って行き場を失い、混合気の各ガス成分がランダムな方向に移動することによって生じる。この時点では、ほぼタンブル流Ftは消失している。タンブル流Ftを可及的に維持して圧縮TDC付近で一気に乱流Tuに変換することで、SI燃焼の火炎伝播が高速化され、熱効率が向上する。このようなタンブル流の可及的な維持に、上記(2)式の関係を満たす本実施形態に係るキャビティ51は貢献している。
【0100】
<スワール流>
図16(A)〜(D)は、吸気行程におけるスワール流の流動を模式的に示す図である。図16(A)は、ピストン5が排気TDCの位置にある状態を示している。この状態では、吸気弁11は開いておらず、吸気ポート9から新気は気筒2(燃焼室6)に流入していない。既述の通り、SPCCI燃焼においてスワール流の形成が必要とされる際、スワール弁17の開度が制限され、新気は専ら吸気ポート9Aから導入される(図3)。
【0101】
図16(B)は、ピストン5が排気TDCから45deg程度下降した状態を示している。この状態では吸気弁11は開かれ、ピストン5の下降に伴う圧力低下により、新気が吸気ポート9Aから気筒2に流入する。このため、燃焼室6内でスワール流Fsが生じる。ここで、吸気ポート9はタンブルポートであるので、スワール流Fsはタンブル流の影響を受けて斜め下方向に下降する斜めスワール流となる。
【0102】
図16(C)は、ピストン5が排気TDCから90deg下降した状態である。スワール流Fsは、斜め下向きに大きく旋回しながら、キャビティ51に向かって進行している。図16(D)は、ピストン5が排気TDCから135deg程度下降した状態である。スワール流Fsの一部は、キャビティ51内に入り込み、当該キャビティ51にガイドされながら旋回している。
【0103】
図17(A)〜(D)は、圧縮行程におけるスワール流Fsの流動を模式的に示す図である。図17(A)は、ピストン5が吸気BDCの位置にある状態を示している。吸気BDC付近で吸気弁11は閉じられ、燃焼室6内の混合気は圧縮され始める。この段階ではスワール流Fsは、キャビティ51によるガイド効果も相俟って、旋回しながら燃焼室天井面6Uに向けて斜め上方向に流動している。
【0104】
図17(B)は、ピストン5が吸気BDCから45deg程度上昇した状態を示している。スワール流Fsは、燃焼室天井面6Uにガイドされるようにして、流動方向を斜め下方向に反転させて旋回している。これにより、再びスワール流Fsはキャビティ51に向かうことになる。
【0105】
図17(C)は、ピストン5が吸気BDCから90deg上昇した状態である。この圧縮行程中期まで、スワール流Fsは斜めスワール流の状態を維持している。スワール流Fsの一部は、キャビティ51に入り込み、当該キャビティ51でガイドされている。図17(D)は、ピストン5が吸気BDCから135deg程度上昇した状態である。圧縮行程の後期に至ると、燃焼室6の容積が小さくなることに伴い、スワール流Fsは斜め成分がほぼ消失した横スワール流の状態となる。
【0106】
図18(A)は、図17(D)の状態に相当する、燃焼室6内におけるスワール流Fsの発生状態を示す模式図である。図18(B)は、圧縮TDCでの燃焼室6内におけるスワール流Fsの発生状態を示す模式図である。図18(A)に示す圧縮行程の後期の状態では、キャビティ51内及びキャビティ51の外周側においてスワール流Fsが維持されている。
【0107】
その後、図18(B)に示すように、圧縮TDCに至ると、キャビティ51の外周側のスワール流Fsは消失するものの、キャビティ51内においてはスワール流Fsが維持される。スワール流を圧縮TDC付近まで維持することで、前段のSI燃焼を企図して点火プラグ16付近で生じさせた火種を燃焼室6の周縁領域へ運搬させ、後段のCI燃焼における圧縮着火を促進させることができる。このようなスワール流Fsの維持に、少なくとも上記(1)式の1.0<B/L≦2.86の関係を満たすボア径(ピストンの直径)Bと両凸部52F、52RのFR間周壁長さLとが貢献している。
【0108】
[タンブル流及びスワール流の維持効果]
図19は、本実施形態を採用した場合における、タンブル流及びスワール流の維持効果を示すグラフである。当該グラフの横軸は、B/Lの値を、縦軸はタンブル流及びスワール流の存続度合いを示す評価値であるスワール比及びタンブル比の値を各々示している。ここでは、B/Lの値を、
1.67(圧縮比ε=16.46);B=83.5mm、L=50.08mm
1.52(ε=16.3);B=83.5mm、L=55.1mm
1.18(ε=16.01);B=83.5mm、L=70.77mm
に設定したときの、スワール比及びタンブル比の値がプロットされている。なお、ストロークS=91.2mmである。さらに図19には、各々のプロットに基づいた近似線である、スワール比特性Cs及びタンブル比特性Ctが示されている。スワール比特性Cs及びタンブル比特性Ctは、B/Lとスワール比及びタンブル比との関係を示す直線である。
【0109】
エンジンの低回転領域から高回転領域まで、良好なSPCCI燃焼を実現するためには、スワール比が3.45以上必要である。スワール比が3.45未満であることは、燃焼室6内においてSPCCI燃焼を実現するための水平旋回するスワール流Fsが十分でないことを示す。スワール比=3.45のラインと、スワール比特性Csとの交点が、B/L=2.86であって、上記(1)式の上限値である。
【0110】
また、図5の運転マップに例示するように、低〜中回転領域ではSPCCI燃焼を、高回転領域ではSI燃焼を実行させる場合、良好なSI燃焼を実現するためには、タンブル比が1.79以上必要である。タンブル比が1.79未満であることは、燃焼室6内においてSI燃焼を実現するための縦旋回するタンブル流Ftが十分でないことを示す。タンブル比=1.79のラインと、タンブル比特性Ctとの交点が、B/L=1.52であって、上記(2)式の上限値である。
【0111】
B/Lの値が小さくなるほど、相対的にキャビティ51の開口径が大きくなる。そして、F側凸部52F及びR側凸部52Rの高さH1が一定で、キャビティ51の底部511が一定の曲率半径Rを有することから、B/Lの値が小さくなるほどキャビティ51の容積が増える。図19において、スワール比特性Cs及びタンブル比特性Ctは、B/Lの値が小さくなるほど良好となる傾向を有している。しかし、F側凸部52F及びR側凸部52Rが存在しなくなると、良好なSPCCI燃焼において必須となる圧縮比=15以上の達成が困難となる。このような観点より、上記(1)式及び(2)式の下限値がB/L=1.0に設定されているものである。
【0112】
上記の実証例に加えて、タンブル流及びスワール流の維持効果について、図説する。図20(A)は、B/Lを上記(1)式若しくは(2)式の範囲に設定した場合におけるスワール流及びタンブル流を示す模式図である。ここでは、筒内流動として、図13及び図14で示した中央タンブル流Ftc及び外縁タンブル流Fteと、図16及び図17で示したスワール流Fsとを示している。
【0113】
B/Lが適正化されている場合、タンブル流Ftはキャビティ51の形成領域に集められるようになり、当該キャビティ51の空間を利用して圧縮行程後期に至っても存続する。すなわち、中央タンブル流Ftcは、キャビティ51の底部511にガイドされるように流動し、外縁タンブル流FteはF側凸部52F及びR側凸部52Rの隆起によって形成されるF側周壁512F及びR側周壁512Rでガイドされるように流動する。このため、圧縮行程後期まで、タンブル流Ftを存続させ易くすることができる。また、スワール流Fsは、適度な間隔で設けられたF側周壁512F、R側周壁512R、IN側周壁513及びEX側周壁514にガイドされ、大口径のキャビティ51内で流動を維持する。このため、圧縮行程後期まで、スワール流Fsを存続させ易くすることができる。
【0114】
これに対し、図20(B)は、B/Lが上記(1)式の上限値(2.86)より大きくなる場合のスワール流Fsの挙動を示す模式図である。B/Lの値が大きいということは、F側凸部52FとR側凸部52Rとの前記FR間周壁長さLが相対的に小さなものとなる、すなわちキャビティ51の開口径が小さくなり、スワール流を流動させるための空間が不足する傾向となる。このため、スワール流Fsがキャビティ51の内側で旋回し難くなり、スワール流Fsの存続性が低下する(スワール比が低下する)。
【0115】
図20(c)は、上記(2)式の上限値(1.52)よりも大きくなる場合(同図では図20(B)と同じ値の場合を示している)のタンブル流Ft(Fte)の挙動を破線矢印で併せて示している。上記の通り、B/Lの値が大きくなると、F側凸部52FとR側凸部52Rとの前記FR間周壁長さLが相対的に小さなものとなる。そのため、冠面50におけるキャビティ51の形成領域内に外縁タンブル流Fteが導かれ難くなり、中央タンブル流Ftcと外縁タンブル流Fteとが共にキャビティ51内に収斂されることに伴う強いタンブル流Ftが形成され難くなる。このため、タンブル流Ftの存続性が低下する(タンブル比が低下する)ようになる。
【0116】
[変形例]
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形実施形態を取ることができる。例えば、上記実施形態では、上記(1)式及び(2)式のほか、H1/H2、H1/D、B/D、R/B、R/Rf及びR/Rr、R/Rin及びR/Rexについても数値範囲を示した。これらについては、B/Lの数値範囲が上記(1)式及び(2)式の範囲を満たしている限りにおいて、上記で例示した数値範囲から外れるものであってもよい。
【符号の説明】
【0117】
1 エンジン本体
2 気筒
5 ピストン
5C 側周面(外縁部)
50 冠面
51 キャビティ
51B 最深部
52F F側凸部(隆起部)
52R R側凸部(隆起部)
6 燃焼室
6U 燃焼室天井面(ペントルーフ型の天井面)
Fs スワール流
Ft タンブル流
B ボア径(ピストンの直径)
L FR間周壁長さ(一対の隆起部の間隔)
図1
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