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特開2020-8497窒化ガリウム結晶基板およびその結晶評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-8497(P2020-8497A)
(43)【公開日】2020年1月16日
(54)【発明の名称】窒化ガリウム結晶基板およびその結晶評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/207 20180101AFI20191213BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20191213BHJP
【FI】
   G01N23/207
   C30B29/38 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2018-131735(P2018-131735)
(22)【出願日】2018年7月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516088190
【氏名又は名称】大鉢 忠
(71)【出願人】
【識別番号】517412398
【氏名又は名称】竹本 菊郎
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大鉢 忠
(72)【発明者】
【氏名】竹本 菊郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐喜
(72)【発明者】
【氏名】吉門 進三
(72)【発明者】
【氏名】和田 元
(72)【発明者】
【氏名】羽木 良明
(72)【発明者】
【氏名】善積 祐介
(72)【発明者】
【氏名】長田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史隆
(72)【発明者】
【氏名】美濃部 周吾
(72)【発明者】
【氏名】藪原 良樹
(72)【発明者】
【氏名】中西 文毅
【テーマコード(参考)】
2G001
4G077
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA20
2G001CA01
2G001DA08
2G001EA01
2G001FA03
2G001FA18
2G001GA13
2G001JA02
2G001JA06
2G001JA08
2G001KA08
2G001LA11
2G001MA05
2G001NA03
2G001NA15
2G001NA20
2G001PA12
2G001SA02
2G001SA07
4G077AA03
4G077AB02
4G077AB08
4G077BE15
4G077DB04
4G077DB05
4G077DB08
4G077EA02
4G077EA04
4G077ED06
4G077GA03
4G077GA05
4G077HA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】結晶品質の高い窒化ガリウム結晶基板およびその結晶品質を詳細に評価することができる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法を提供する。
【解決手段】窒化ガリウム結晶基板は、少なくとも1つの主面を有し、主面が(0001)からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、小発散角入射X線を用いたX線回折測定において、<0001>とφ軸とが一致するように調整し、0001対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおけるφ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定において、バックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比が500以上であり、第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比が0.18以上である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの主面を有する窒化ガリウム結晶基板であって、
前記主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、
小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に前記主面が露出するように前記窒化ガリウム結晶基板を配置し、(0001)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、
0001対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおける前記φ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備え、
各前記120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備え、
各前記−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備え、
各前記+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備え、
各前記−L領域、各前記−R領域、各前記+L領域、および各前記+R領域の少なくとも1領域において、バックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比が500以上であり、
前記第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比が0.18以上である、窒化ガリウム結晶基板。
【請求項2】
少なくとも1つの主面を有する窒化ガリウム結晶基板であって、
前記主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、
小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に前記主面が露出するように前記窒化ガリウム結晶基板を配置し、(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、
000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおける前記φ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備え、
各前記120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備え、
各前記−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備え、
各前記+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備え、
各前記−L領域、各前記−R領域、各前記+L領域、および各前記+R領域の少なくとも1領域において、バックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比が750以上であり、
前記第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比が0.18未満である、窒化ガリウム結晶基板。
【請求項3】
2つの主面を有する窒化ガリウム結晶基板であって、
1つの前記主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、他の前記主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、
各前記主面についての小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に各前記主面が露出するように前記窒化ガリウム結晶基板を配置し、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、
前記主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは0001対称禁制ブラッグ反射について、前記主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおける前記φ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備え、
各前記120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備え、
各前記−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備え、
各前記+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備え、
各前記−L領域、各前記−R領域、各前記+L領域、および各前記+R領域の少なくとも1領域において、2つの前記主面における少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比の値は互いに異なり、より大きな前記第2基準ピーク強度比を与える前記主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面である、窒化ガリウム結晶基板。
【請求項4】
少なくとも1つの主面を有し、前記主面が(0001)面および(000−1)面の少なくともいずれかからのオフ角が0°以上2°以下の面である窒化ガリウム結晶基板の結晶を、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定により評価する方法であって、
2軸傾斜試料台上に前記主面が露出するように前記窒化ガリウム結晶基板を配置し、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整する工程と、
前記主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは0001対称禁制ブラッグ反射について、前記主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおいて、前記φ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定を行なう工程と、を含み、
前記φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性の高さおよびバックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比の大きさから、前記窒化ガリウム結晶基板の結晶の品質を評価する、窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法。
【請求項5】
前記主面における前記第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比の大きさから、前記窒化ガリウム結晶基板の結晶の極性を評価する、請求項4に記載の窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法。
【請求項6】
前記主面における前記第2基準ピーク強度比が0.18以上となるときの前記主面を(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面と評価し、前記主面における前記第2基準ピーク強度比が0.18未満となるときの前記主面を(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面と評価する、請求項5に記載の窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法。
【請求項7】
前記窒化ガリウム結晶基板は2つの前記主面を有し、
2つの前記主面における前記第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比の値は互いに異なり、
より大きな前記第2基準ピーク強度比を与える前記主面を(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面と評価する、請求項5に記載の窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム結晶基板およびその結晶評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013−203653号公報(特許文献1)は、反りが小さくクラックが抑えられている高品質なIII族窒化物結晶の製造方法として、III族窒化物結晶からなる単結晶に1000℃以上で熱処理を行なうことによりIII族窒化物種基板を得る工程と、III族窒化物種基板上にIII族窒化物結晶膜を形成してIII族窒化物結晶を得る工程とを含むIII族窒化物結晶の製造方法を開示する。
【0003】
また、特開2006−071354号公報(特許文献2)は、III族窒化物結晶の表面層における結晶品質の評価方法として、X線回折法を用いて、結晶の表面から深さ方向への結晶性の変化を評価することにより、結晶表面層の結晶性を評価する方法であって、上記結晶の一つの結晶格子面に対する回折条件(ブラッグ反射による回折条件)を満たすように、連続的にX線侵入深さを変えて上記結晶にX線を照射して、結晶格子面についての回折プロファイルにおける面間隔および回折ピークの半価幅ならびにロッキングカーブにおける半価幅のうち少なくともいずれかの変化量を評価する結晶表面層の結晶性評価方法を開示する。
【0004】
また、稲葉克彦、「高分解能X線回折法によるGaN材料の評価」、リガクジャーナル、44(2),2013年、7−15頁(非特許文献1)は、サファイア基板上に成長させたGaN薄膜についての高分解能X線回折のω−2θスキャンにおいて、表面に平行でない格子面の多重反射に由来すると思われる禁制反射が観測されることを開示する。さらに、J. Blasing and A. Krost, “X-ray multiple diffraction (Umweganregung) in wurtzite-type GaN and ZnO epitaxial layers”, phys. stat. sol., (a)201, No.4, 2004, pp.R17-R20(非特許文献2)は、シリコン基板上に成長させたGaN薄膜についてのX線回折の禁制(0001)反射のω−2θにおけるφスキャンにおいて、回折ピークが観測されることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−203653号公報
【特許文献2】特開2006−071354号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】稲葉克彦、「高分解能X線回折法によるGaN材料の評価」、リガクジャーナル、44(2),2013年、7−15頁
【非特許文献2】J. Blasing and A. Krost, “X-ray multiple diffraction (Umweganregung) in wurtzite-type GaN and ZnO epitaxial layers”, phys. stat. sol., (a)201, No.4, 2004, pp.R17-R20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2013−203653号公報(特許文献1)に開示されたIII族窒化物結晶の製造方法により得られた窒化ガリウム結晶であっても、窒化ガリウム結晶基板に加工する際に、結晶品質を低下させる問題がある。また、業界では、さらに高特性の半導体デバイスを製造するために、さらに結晶品質の高い窒化ガリウム結晶基板の開発が求められている。
【0008】
また、特開2006−071354号公報(特許文献2)に開示された結晶表面層の結晶性評価方法は、窒化ガリウム結晶の表面層における均一歪み、不均一歪み、および面方位ずれなどの結晶品質を評価する指標として有用なものである。しかしながら、業界では、結晶品質の高い窒化ガリウム結晶基板の結晶品質をさらに詳細に評価するための評価方法の開発が望まれている。
【0009】
また、稲葉克彦、「高分解能X線回折法によるGaN材料の評価」、リガクジャーナル、44(2),2013年、7−15頁(非特許文献1)およびJ. Blasing and A. Krost, “X-ray multiple diffraction (Umweganregung) in wurtzite-type GaN and ZnO epitaxial layers”, phys. stat. sol., (a)201, No.4, 2004, pp.R17-R20(非特許文献2)に開示されたX線回折におけるω―2θスキャンおよびφスキャンに現われる回折ピークは、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の詳細な評価に結び付けられていない。
【0010】
そこで、上記の状況を鑑みて、結晶品質の高い窒化ガリウム結晶基板およびその結晶品質を詳細に評価することができる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板は、少なくとも1つの主面を有する窒化ガリウム結晶基板であって、主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に主面が露出するように窒化ガリウム結晶基板を配置し、(0001)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、0001対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおけるφ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備え、各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備え、各−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備え、各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備え、各−L領域、各−R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域において、バックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比が500以上であり、第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比が0.18以上である。
【0012】
本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板は、少なくとも1つの主面を有する窒化ガリウム結晶基板であって、主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に主面が露出するように窒化ガリウム結晶基板を配置し、(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおけるφ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備え、各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備え、各−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備え、各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備え、各−L領域、各−R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域において、バックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比が750以上であり、第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比が0.18未満である。
【0013】
本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板は、2つの主面を有する窒化ガリウム結晶基板であって、1つの主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、他の主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、各主面についての小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に各主面が露出するように窒化ガリウム結晶基板を配置し、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは0001対称禁制ブラッグ反射について、主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおけるφ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備え、各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備え、各−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備え、各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備え、各−L領域、各−R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域において、2つの主面における少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比の値は互いに異なり、より大きな第2基準ピーク強度比を与える主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面である。
【0014】
本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法は、少なくとも1つの主面を有し、主面が(0001)面および(000−1)面の少なくともいずれかからのオフ角が0°以上2°以下の面である窒化ガリウム結晶基板の結晶を、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定により評価する方法であって、2軸傾斜試料台上に主面が露出するように窒化ガリウム結晶基板を配置し、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整する工程と、主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは0001対称禁制ブラッグ反射について、主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおいて、φ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定を行なう工程と、を含み、φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性の高さおよびバックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比の大きさから、窒化ガリウム結晶基板の結晶の品質を評価する。
【発明の効果】
【0015】
上記によれば、結晶品質の高い窒化ガリウム結晶基板およびその結晶品質を詳細に評価することができる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法に用いられるX線平行ビーム法の一例を示す概略図である。
図2図2は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法に用いられるX線回折装置の入射側設定の一例を示す概略図である。
図3図3は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法に用いられるX線回折装置の受光側設定の一例を示す概略図である。
図4A図4Aは、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法に用いられるX線回折装置の2軸傾斜試料台の一例を示す平面写真である。
図4B図4Bは、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法に用いられるX線回折装置の2軸傾斜試料台の一例を示す側面写真である。
図5図5は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法における0002対称ブラッグ反射の一例を示す概略図である。
図6図6は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法における0001対称禁制ブラッグ反射の一例を示す概略図である。
図7図7は、窒化ガリウム結晶基板の(0001)面および(000−1)面の一例を示す概略図である。
図8図8は、窒化ガリウム結晶基板の(0002)面および(000−2)面の一例を示す概略図である。
図9図9は、窒化ガリウム結晶基板のガリウム原子および窒素原子の配置を示す概略図である。
図10図10は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法における窒化ガリウム結晶の結晶方位と領域を示す概略平面図である。
図11図11は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の0002対称ブラッグ反射および000−2対称ブラッグ反射のそれぞれのφが−180°から180°までの領域におけるφスキャンの一例を示す概略図である。
図12図12は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、主面が略(0001)面のときにφが−180°から180°までの領域における360°X線多重回折パターンの一例を、縦軸を対数目盛で示す概略図である。
図13図13は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、主面が略(0001)面のときにφが−180°から180°までの領域における360°X線多重回折パターンの一例を、縦軸を平方根目盛で示す概略図である。
図14図14は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、主面が略(000−1)面のときにφが−180°から180°までの領域における360°X線多重回折パターンの一例を、縦軸を平方根目盛で示す概略図である。
図15図15は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、主面が略(0001)面および略(000−1)面のそれぞれのときのA-L領域におけるX線多重回折パターンの一例を示す概略図である。
図16図16は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、主面が略(0001)面および略(000−1)面のそれぞれのときのA-R領域におけるX線多重回折パターンの一例を示す概略図である。
図17図17は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、主面が略(0001)面および略(000−1)面のそれぞれのときのA+L領域におけるX線多重回折パターンの一例を示す概略図である。
図18図18は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、主面が略(0001)面および略(000−1)面のそれぞれのときのA+R領域におけるX線多重回折パターンの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0018】
[1]本発明のある実施形態にかかる窒化ガリウム結晶基板は、少なくとも1つの主面を有する窒化ガリウム結晶基板であって、主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に主面が露出するように窒化ガリウム結晶基板を配置し、(0001)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、0001対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおけるφ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備え、各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備え、各−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備え、各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備え、各−L領域、各−R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域において、バックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比が500以上であり、第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比が0.18以上である。本実施形態の窒化ガリウム結晶基板は、(0001)面(Ga面)からのオフ角が0°以上2°以下の面を主面とするX線多重回折パターンにおいて、従来の窒化ガリウム結晶基板に比べて、高い対称性と大きな第1基準ピーク強度比とを有しているため、結晶品質が高い。
【0019】
[2]本発明の一実施形態にかかる窒化ガリウム結晶基板は、少なくとも1つの主面を有する窒化ガリウム結晶基板であって、主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に主面が露出するように窒化ガリウム結晶基板を配置し、主面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおけるφ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備え、各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備え、各−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備え、各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備え、各−L領域、各−R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域において、バックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比が750以上であり、第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比が0.18未満である。本実施形態の窒化ガリウム結晶基板は、(000−1)面(N面)からのオフ角が0°以上2°以下の面を主面とするX線多重回折パターンにおいて、従来の窒化ガリウム結晶基板に比べて、高い対称性と大きな第1基準ピーク強度比とを有しているため、結晶品質が高い。
【0020】
[3]本発明の一実施形態にかかる窒化ガリウム結晶基板は、2つの主面を有する窒化ガリウム結晶基板であって、1つの主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、他の主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面であり、各主面についての小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に各主面が露出するように窒化ガリウム結晶基板を配置し、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは0001対称禁制ブラッグ反射について、主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおける前記φ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備え、各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備え、各−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備え、各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備え、各−L領域、各−R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域において、2つの主面における少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比の値は互いに異なり、より大きな第2基準ピーク強度比を与える主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面である。本実施形態の窒化ガリウム結晶基板は、(0001)面(Ga面)からのオフ角が0°以上2°以下の面を主面とするX線多重回折パターンおよび(000−1)面(N面)からのオフ角が0°以上2°以下の面を主面とするX線多重回折パターンのいずれにおいても、従来の窒化ガリウム結晶基板に比べて、高い対称性を有しているため、結晶品質が高い。また、本実施形態の窒化ガリウム結晶基板は、上記2つの主面についてのX線多重回折パターンからそれぞれ得られる2つの第2基準ピーク強度比の大小から(0001)面(Ga面)からのオフ角が0°以上2°以下の面である主面が判別されるため、当該窒化ガリウム結晶基板を破壊しなくても極性が判別される。
【0021】
[4]本発明の一実施形態にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法は、少なくとも1つの主面を有し、主面が(0001)面および(000−1)面の少なくともいずれかからのオフ角が0°以上2°以下の面である窒化ガリウム結晶基板の結晶を、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定により評価する方法であって、2軸傾斜試料台上に主面が露出するように窒化ガリウム結晶基板を配置し、(0001)面および(000−1)面の法線である[0001]軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整する工程と、主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは0001対称禁制ブラッグ反射について、主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面のときは000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおいて、φ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定を行なう工程と、を含み、φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性の高さおよびバックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比の大きさから、窒化ガリウム結晶基板の結晶の品質を評価する。本実施形態の窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法は、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、上記φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性が高いほど、また上記第1基準ピーク強度比が大きいほど、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質が高く、窒化ガリウム結晶基板の結晶の品質を詳細に評価することができる。
【0022】
[5]上記窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法において、主面における第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比の大きさから、窒化ガリウム結晶基板の結晶の極性を評価できる。かかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法は、上記主面についてのX線多重回折パターンから得られる第2基準ピーク強度比の大きさにより、当該窒化ガリウム結晶基板を破壊しなくてもその極性を判別できる。
【0023】
[6]上記窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法において、主面における第2基準ピーク強度比が0.18以上となるときの主面を(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面と評価し、主面における第2基準ピーク強度比が0.18未満となるときの主面を(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面と評価できる。かかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法は、具体的には、上記主面についてのX線多重回折パターンから得られる第2基準ピーク強度比が0.18以上のときその主面を(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面(極性面)と評価し、上記主面についてのX線多重回折パターンから得られる第2基準ピーク強度比が0.18未満のときその主面を(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面(極性面)と評価することにより、当該窒化ガリウム結晶基板を破壊しなくてもその極性を判別できる。
【0024】
[7]上記窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法において、窒化ガリウム結晶基板は2つの主面を有し、2つの主面における第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比の値は互いに異なり、より大きな第2基準ピーク強度比を与える主面を(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面と評価することができる。かかる窒化ガリウム結晶基板の結晶評価方法は、上記2つの主面についてそれぞれ得られる2つの第2基準ピーク強度比の大小から(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面(極性面)である主面を判別できるため、当該窒化ガリウム結晶基板を破壊しなくても極性が判別できる。
【0025】
[本発明の実施形態の詳細]
図面に基づいて、以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。まず、GaN(窒化ガリウム)結晶基板の結晶評価方法について説明し、次いで、かかる結晶評価方法により評価される結晶品質が高く極性を有するGaN結晶基板について説明する。本願の明細書、特許請求の範囲および図面において、六方晶系結晶であるGaN結晶について、ある特定の結晶面を(hkil)で表し、結晶の対称性から等価な結晶面の組を{hkil}で表す。また、ある特定の方向を[hkil]で表し、結晶の対称性から等価な方向の組を<hkil>で表す。ここで、h、k、i、およびlは、ミラー指数である。ここで、i=−(h+k)の関係が有る。通常、ミラー指数は、0、自然数、および自然数の上にバーを付した数で示すが、本明細書および図面においては、バーを付した自然数は、その自然数の前にマイナス符号をつけて表す。たとえば、(11−20)の表記は、「イチ・イチ・ニ/バー・ゼロ」の結晶面と読み、[1−100]の表記は、「イチ・イチ/バー・ゼロ・ゼロ」の方向と読む。
【0026】
<実施形態1:GaN結晶基板の結晶評価方法>
図1図3を参照して、本実施形態のGaN結晶基板の結晶評価方法は、少なくとも1つの主面を有し、主面が(0001)面および(000−1)面の少なくともいずれかからのオフ角が0°以上2°以下の面(以下、「略(0001)面および略(000−1)面の少なくともいずれかの面」という)であるGaN結晶基板の結晶を、入射側にX線キャピラリーレンズ(発散角0.3°)を使用して0.5mm×0.5mm、0.8mm×0.8mm、1.5mm×0.8mm、および3.0mm×0.8mmのクロススリットにより照射面積を変えることによりX線強度を変化させたCuKα1単色X線の小発散角入射X線平行ビームを用い、受光側に反射率測定用の0.27°スリットを付けた0.27°のコリメータおよびグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定により評価する方法である。X線多重回折ピークの測定には、X線の強度を増すために、受光側の0.27°スリットを除いて行う場合もある。
【0027】
図4図10図12および図13を参照して、2軸傾斜試料台上に主面が露出するようにGaN結晶基板を配置し、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整する工程と、主面が(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面(以下、「略(0001)面」という)のときは0001対称禁制ブラッグ反射について、主面が(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面(以下、「略(000−1)面」という)のときは000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおいて、φ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定を行なう工程と、を含む。さらに、図13図18を参照して、φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性の高さおよびバックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比の大きさから、GaN結晶基板の結晶の品質を評価する。
【0028】
本実施形態のGaN結晶基板の結晶評価方法は、本実施形態のGaN結晶基板の結晶評価方法は、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、上記φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性が高いほど、また上記第1基準ピーク強度比が大きいほど、GaN結晶基板の結晶品質が高く、GaN結晶基板の結晶の品質を詳細に評価することができる。
【0029】
本実施形態のGaN結晶基板の結晶品質の評価方法は、少なくとも1つの主面を有し、主面が略(0001)面および略(000−1)面の少なくともいずれかの面であるGaN結晶基板のX線回折測定において、0002対称ブラッグ反射または000−2対称ブラッグ反射による大きな回折ピーク以外に、消滅則から示される構造因子から定められる0001対称禁制ブラッグ反射および000−1対称禁制ブラッグ反射の少なくともいずれかの反射の位置に観測される回折ピークを利用するものである。かかる回折は、結晶表面に平行でない結晶内部2つ以上の回折強度の強い結晶面における多重回折であり、Umweganregung(遠回り)回折とも呼ばれる。かかる多重回折は、特に、単結晶が完全結晶に近づくほど、よく観察される。また、単結晶材料の結晶構造の原子が理論計算における剛体球モデルでなく、原子結合の方向に延びる形状の原子雲を有していることから、構造因子がゼロではないことが、バックグランドが観測される原因と考えられる。かかるバックグランドの領域は、上記のX線の多重回折が生じていない領域である。かかる多重回折の測定においては、GaN結晶基板の<0001>軸とGaN結晶基板の回転軸であるφ軸とを一致させるために、2軸傾斜試料台を用いたGaN結晶基板の軸立てが必要である。
【0030】
本発明者らは、小発散角入射X線平行ビームを用いた0001対称禁制ブラッグ反射または000−1対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θにおける[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定において、結晶表面近傍内部の結晶の表面に平行でない結晶面におけるX線の多重回折により観察されるX線多重回折ピークを利用して、GaN結晶基板の主面近傍内部の結晶品質を非破壊的に評価する本実施形態のGaN結晶基板の結晶評価方法を完成させた。
【0031】
本実施形態のGaN結晶基板の結晶評価方法は、<0001>軸を回転軸としたφスキャンの回転角φに依存して結晶表面近傍の内部の結晶面でのX線の多重回折が生じるため、結晶基板表面近傍における結晶面内の均一性の評価に適している。
【0032】
従来のGaN結晶基板の結晶品質の評価方法である、ω−2θ測定におけるωロッキングカーブの0002対称ブラッグ反射による回折ピークの半値幅を利用した評価方法においては、主面からの深さ方向の結晶構造に注目した場合、0002対称ブラッグ反射の入射角ωが17.2833°である。これに対し、本実施形態のGaN結晶基板の結晶評価方法においては、0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωは8.5428°であり、0002対称ブラッグ反射の入射角の略半分以下の入射角であることから、主面でのX線の試料透過厚さは略半分となり、主面(すなわち結晶表面)に近い結晶品質の評価が可能となり、電子・光デバイスのエピタキシャル結晶基板の評価として、より好ましいと考えられる。さらに、入射X線がポイントフォーカスの平行ビームで0.5mm×0.5mm、0.8mm×0.8mm、1.5mm×0.8mm、または3.0mm×0.8mmの点状であるため、測定場所を面内で動かすことにより、主面近傍面内の結晶構造の面内の均一性などを非破壊で評価可能である。
【0033】
(X線回折装置の構造設定)
X線回折装置は、モノクロメータにより単色X線を検出することができ、発散角の小さい平行ビームを利用すること以外は特に制限はないが、操作性および作業性が高い観点から、4軸のゴニオメータ方式の採用が好ましい。X線の光軸は固定で、入射角ω、回折角(反射角)2θ、GaN結晶基板位置の座標x、y、z、GaN結晶基板の回転角φ、GaN結晶基板の煽り角χなどが設定される。
【0034】
(小発散角入射X線平行ビームの使用)
本実施形態のGaN結晶基板の結晶評価方法においては、0001対称禁制ブラッグ反射および000−1対称禁制ブラッグ反射の少なくともいずれかの反射の[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定のために、X線回折装置の入射X線の発散角を小さくする必要があることから、図1に示すような平行ビーム法を用いる。
【0035】
(X線回折装置の入射側設定)
図1および図2を参照して、平行ビーム法において、X線の平行ビームを得るために、X線管球に加えて、X線キャピラリーレンズおよびモノキャピラリーの少なくともいずれかを用いる。X線キャピラリーレンズを用いた平行ビーム法では角0.3mm×0.3mmのビーム径が得られ、モノキャピラリーを用いた平行ビーム法では直径0.1mmのビーム径が得られる。X線キャピラリーレンズを用いてもモノキャピラリーを用いてもX線の発散角は同じであり、モノキャピラリーを用いるとX線の強度が低下するため、X線キャピラリーレンズを用いた平行ビーム法が好ましい。本実施形態においては、X線管球として、ポイントフォーカスCuX線管球を電圧45kVおよび電流40mAで作動させる。さらに、X線キャピラリーレンズを使用して0.5mm×0.5mm、0.8mm×0.8mm、1.5mm×0.8mm、および3.0mm×0.8mmのクロススリットにより照射面積を変えることによりX線強度を変化させた小発散角入射X線平行ビームを得る。ここで、クロススリットの開きには幅Wと高さHとが有り、幅Wは試料表面横方向のX線の照射長さに対応し、高さHは試料表面縦方向のX線の広がりを意味しX線の発散角の量に対応し、クロススリットの開き面積W×HはX線の照射面積に対応する。X線キャピラリーレンズは、モノキャピラリーレンズを束ねて構成されているため、照射面積が変化してもX線の平行ビームの発散角が同一であり、多重回折には影響しない。なお、本実施形態においては、受光側にグラファイト平板モノクロメータ(CuKα1単色X線選択用の分光器)を配置してCuKα1単色X線としているが、入射側にCuKα1単色X線選択用の分光器を配置することも可能である。
【0036】
なお、多重回折ピークが生じるφの値は、X線の波長と0001対称禁制ブラッグ反射または000−1対称禁制ブラッグ反射の反射面とに依存するため、X線の線源としては、本実施形態で用いるCuKα1(波長:1.54Å)以外に、Niフィルタを除いた場合のCuKβ(波長:1.39Å)を用いることもできる。
【0037】
(X線回折装置の受光部側設定)
図1および図3を参照して、入射X線の発散角の小さい回折X線を検出するため、受光側においても0.27°コリメータと反射率測定用の0.27°スリットを利用する。GaN結晶基板の軸立てには上記スリットは必要であるが、X線多重回折ピークの測定にはX線強度を強くする目的で上記スリットは取り除いてもよい。また、CuKα1単色X線を選択する必要があることから、CuKα1単色X線選択用の平行板グラファイトモノクロメータを使用する。コリメータの後方に上記スリットを入れて、横方向に広がったX線をカットすることにより、受光部で検出されるX線の強度は小さくなる。上記スリットを入れることにより、検出されるX線は、強度が小さくなるが、散乱X線の混入が防止される。なお、入射側にCuKα1単色X線選択用の分光器を配置する場合は、CuKα1単色X線選択用の平行板グラファイトモノクロメータを省略できる場合がある。
【0038】
なお、X線の線源としてCuKβを用いる場合には、受光側にはモノクロメータを使用しない電荷結合素子(CCD)型の高速半導体アレイ検出器(X’Celerator)が用いられる。
【0039】
(X線回折装置の試料台設定)
試料台として、2軸傾斜試料台を用いる。図4Aおよび図4Bを参照して、2軸傾斜試料台とは、試料台の一部が2層構造になり、上層部下側の中央を支点にしてx軸とy軸方向の傾斜角を調整できるようにx軸およびy軸の各負側にSx、Syなるネジを、x軸およびy軸の各正側下部にバネ付き固定点を取り付けて、試料台の上層部表面の法線方向を調整できるようになっている試料台をいう。GaN結晶基板は、GaN結晶からの切り出しにより、主面((0001)面または(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面)の法線方向と結晶面である(0001)面または(000−1)面の法線方向とは必ずしも一致しておらず、試料台の回転軸であるφ軸と、試料台の上層部に貼り付けられたGaN結晶基板の(0001)面および(000−1)面)の法線である<0001>軸とが必ずしも一致していない。しかし、上記のSxおよびSyのネジを利用してx軸方向とy軸方向の上層部の2軸傾斜を調節すること(GaN結晶基板の軸立てともいう、以下同じ)により、2軸傾斜試料台のφ軸と、2軸傾斜試料台の上層部に貼り付けられたGaN結晶基板の(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸と、を一致させることができる。
【0040】
(2軸傾斜試料台にGaN結晶基板を配置して調整する工程)
まず、2軸傾斜試料台にGaN結晶基板を配置する工程は、2軸傾斜試料台の上層部上に、GaN結晶基板を、その主面が露出するように、配置する。
【0041】
2軸傾斜試料台の上層部上に主面が露出するように配置されたGaN結晶基板を、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整する工程は、特に制限はないが、効率的に調整する観点から、以下の工程が好ましい。
【0042】
まず、少なくとも1つの主面を有し、主面が略(0001)面および略(000−1)面の少なくともいずれかの面であるGaN結晶基板の0002対称ブラッグ反射および000−2対称ブラッグ反射の少なくともいずれかの反射の回折位置(入射角ωが17.2833°、回折角2θが34.5666°、GaN結晶基板の煽り角χが0.0°)に検出器を設置して、z軸の値をあらかじめ定め、x軸方向調整のためにφ=0°において0002対称ブラッグ反射または000−2対称ブラッグ反射の入射角ωを変化させるωロッキングカーブを測定し、その最大ピークの位置ωmax0を記録する。
【0043】
次いで、φ=180°において、上記と同様に0002対称ブラッグ反射または000−2対称ブラッグ反射のωロッキングカーブを測定し、その最大ピークの位置ωmax180を記録する。両者の差Δωx=ωmax0−ωmax180が0.001°以下の値になるようにSxを調整する(x軸の調整)。z軸スキャンを行いピーク位置で正確なz軸の値を決める(z軸の調整)。
【0044】
次いで、y軸方向調整のために、上記と同様に、φ=90°とφ=270°とにおいて、0002対称ブラッグ反射または000−2対称ブラッグ反射のωロッキングカーブを測定し、最大ピークの位置ωmax90とωmax270との差Δωy=ωmax90−ωmax270が0.001°以下の値になるようにSyを調整する(y軸の調整)。z軸スキャンを行いピーク位置で正確なz軸の値を決める(z軸の調整:z値の変更)。
【0045】
上記のように、x軸およびz軸の調整と、y軸およびz軸の調整とを数回切り返して行い、2軸傾斜試料台上層部に貼り付けられたGaN結晶基板の結晶面(たとえば、(0001)面または(000−1)面)の法線方向とφ軸とを一致させる。このときにωの値が0002対称ブラッグ反射または000−2対称ブラッグ反射の2θ角に対応するようにωのオフセット値を求める。この状態で、2軸傾斜試料台の煽り角χ(Chi)の最適化を行うためにχスキャンを行い、χのオフセット値を定める。
【0046】
次いでφ軸の回転角φと<0001>軸の方位角とを一致させるために、10−11非対称ブラッグ反射の回折位置(入射角ωが18.4370°、回折角2θが36.8740、煽り角χが61.96°)に検出器を設置してφスキャンを行い、[1−100]方向のときに生じるピークの位置をφ=0°としてφのオフセット値を定める。
【0047】
上記のようにして調整される<0001>軸とφ軸との一致は、以下のようにして確認できる。すなわち、図11を参照して、GaN結晶基板の0002対称ブラッグ反射の回折角2θのピーク位置で、−180°から180°までの360°に亘ってφスキャンを行う。また、GaN結晶基板の000−2対称ブラッグ反射の回折角2θのピーク位置で、−180°から180°までの360°に亘ってφスキャンを行う。これらのφスキャンの理想の結果は、ピーク強度がφに対して一様であることである。しかし、実際には、<0001>軸とφ軸との一致の調整の精度により脈動が生じる。かかる脈動の幅(最大値に対する最小値の幅)は、GaN結晶基板の上記軸立てを行った後でも、主面近傍の結晶構造により生じるため、この脈動幅が小さいこと(たとえば、最大値に対して、25%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下)は、GaN結晶基板の結晶の一様性を示すものとなる。
【0048】
(禁制ブラッグ反射の測定)
図6を参照して、0001対称禁制ブラッグ反射の<0001>軸を回転軸としたφスキャンパターン測定を行なう工程において、GaN結晶基板の回転角φを−180°から180°までスキャンさせると、対称性の高い回折パターンが現れる(図12および図13を参照)。図5および図6を対比すると、0002対称ブラッグ反射測定における入射角ωが17.2833°であるのに対して、0001対称禁制ブラッグ反射測定における入射角ωは8.5428°と略半分となっているため、結晶表面近傍の結晶品質を詳細に知ることができる。
【0049】
なお、図5は(0002)面における0002対称ブラッグ反射についての入射角ω、回折角2θ、およびφ軸の関係を記述するが、(0002)面の反対側の(000−2)面における000−2対称ブラッグ反射についての入射角ω、回折角2θ、およびφ軸も同様の関係が有る。GaN結晶基板の結晶が一様で均一の場合は、図11に示す様に、000−2対称ブラッグ反射は0002対称ブラッグ反射に比べて大きく、前者の最大強度は37344cpsであり後者の最大強度35714cpsに比べて大きい。
【0050】
図6は(0001)面における0001対称禁制ブラッグ反射についての入射角ω、回折角2θ、およびφ軸の関係を記述するが、(0001)面の反対側の(000−1)面における000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ω、回折角2θ、およびφ軸も同様の関係が有る。
【0051】
(GaN結晶基板の結晶品質の評価)
結晶表面である主面の近傍の結晶品質は、φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性およびバックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1100)に由来する第1基準多重回折ピーク強度の比である第1基準ピーク強度比の大きさから評価する。ここで、結晶品質の高いGaN結晶基板ほど、X線多重回折ピークの対称性が高くかつ第1基準ピーク強度比が高くなることから、X線多重回折ピークの対称性が高くかつ第1基準ピーク強度比が高いほどGaN結晶基板の結晶品質が高いと評価する。
【0052】
(禁制ブラッグ反射の測定とGaN結晶基板の結晶構造との関係)
0001対称禁制ブラッグ反射または000−1対称禁制ブラッグ反射の[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定とGaN結晶基板の結晶構造との関係について、以下に説明する。
【0053】
(1)GaN結晶基板の結晶構造
GaN結晶基板を形成するGaN結晶は、六方晶系のウルツ鉱型の結晶構造を有する。格子定数は、a(a1=a2=a3)が0.31891nm、cが0.51855nmである。結晶面として、図7に示す(0001)面および(000−1)面(両者を合わせて{0001}面(c面)という)、図8に示す(0002)面および(000−2)面(両者を合わせて{0002}面((c/2)面という)などがある。図8は、結晶格子におけるGa原子およびN原子の配置を示す。図6図8を参照して、GaN結晶基板は、その結晶構造とGa原子およびN原子の配置とから、<0001>軸(c軸)方向に極性を有する。(0001)面はGa原子により構成されるGa面であり、(000−1)面はN原子により構成されるN面である。
【0054】
(2)GaN結晶基板におけるX線の入射方位と結晶方位との関係
GaN結晶基板を形成するGaN結晶は、六方晶系のウルツ鉱型の結晶構造を有し、空間群No.186のP63mcの6回回反対称性を有するが、c軸に垂直な平面においては3回回転対称性を有する。そこで、GaN結晶基板は、その[1−100]方向をφ=0°の方向と一致させるとき、図10に示す結晶方位を有し、c軸に垂直な結晶面を、3回回転対称であるA領域(φが−60°から60°までの領域)、B領域(φが60°から180°までの領域)およびC領域(φが−180°から−60°までの領域)の3領域に分ける。
【0055】
A領域は、φ=0°を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有するA-領域(φが−60°から0°までの領域)とA+領域(φが0°から60°までの領域)に分ける。B領域は、φ=120°を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有するB-領域(φが60°から120°までの領域)とB+領域(φが120°から180°までの領域)に分ける。C領域は、φ=−120°を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有するC-領域(φが−180°から−120°までの領域)とC+領域(φが−120°から−60°までの領域)に分ける。
【0056】
-領域は、さらに、φ=−30°を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するA-L領域(φが−60°から−30°までの領域)とA-R領域(φが−30°から0°まで)とに分ける。A+領域は、φ=30°を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するA+L領域(φが0°から30°までの領域)とA+R領域(φが30°から60°まで)とに分ける。B-領域は、さらに、φ=90°を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するB-L領域(φが60°から90°までの領域)とB-R領域(φが90°から120°まで)とに分ける。B+領域は、さらに、φ=150°を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するB+L領域(φが120°から150°までの領域)とB+R領域(φが150°から180°まで)とに分ける。C-領域は、さらに、φ=−150°を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するC-L領域(φが−180°から−150°までの領域)とC-R領域(φが−150°から−120°まで)とに分ける。C+領域は、さらに、φ=−90°を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するC+L領域(φが−120°から−90°までの領域)とC+R領域(φが−90°から−30°まで)とに分ける。このようにして、c軸に垂直な結晶面は、φが−180°から180°まで、C-L領域、C-R領域、C+L領域、C+R領域、A-L領域、A-R領域、A+L領域、A+R領域、B-L領域、B-R領域、B+L領域、およびB+R領域の12の区分領域に分ける。
【0057】
φスキャンパターン測定において、φが−180°から−150°までのC-L領域、−150°から−120°までのC-R領域、−120°から−90°までのC+L領域、−90°から−60°までのC+R領域、−60°から−30°までのA-L領域、−30°から0°までのA-R領域、0°から30°までのA+L領域、30°から60°までのA+R領域、60°から90°までのB-L領域、90°から120°までのB-R領域、120°から150°までのB+L領域、および150°から180°までのB+R領域の30°毎の12の区分領域に分けるとき、各区分領域の少なくとも2つの領域において、任意に特定される所定の複数の結晶面に由来する基準X線多重回折ピーク(たとえば、少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピーク)のピーク強度に対する基準ピーク以外に任意に特定される別の所定の複数の結晶面に由来する対比X線多重回折ピーク(たとえば、第1基準X線多重回折ピーク以外のX線多重回折ピーク)のピーク強度の比である対比ピーク強度比のばらつきの小ささから、GaN結晶基板の結晶品質を評価することが好ましい。ここで、対比ピーク強度比のばらつきとは、各区分領域の少なくとも2つの領域において対応する対比ピーク強度比の分散、標準偏差、および範囲(最大値と最小値との差)のいずれかの統計値とすることができる。かかるGaN結晶基板の結晶評価方法は、対比ピーク強度比のばらつきが小さいほどGaN結晶基板の結晶品質がより高く、GaN結晶基板の結晶品質をより詳細に評価することができる。
【0058】
図12図14を参照して、主面が略(0001)面または略(000−1)面のGaN結晶基板についてX線入射方向のφが−180°から180°までの測定において現われる具体的なX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域(A領域、B領域、およびC領域)を備える。各120°回転対称ピーク領域(A領域、B領域、またはC領域)は、その領域のφの範囲の中央のφの角度(φ=0°、φ=120°、またはφ=−120°)を示す線および[0001]軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域(A-領域、B-領域、またはC-領域)と+領域(A+領域、B+領域、またはC+領域)とを備える。各−領域(A-領域、B-領域、またはC-領域)は、その領域のφの範囲の中央のφの角度(φ=−30°、φ=90°、またはφ=−150°)を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域(A-L領域、B-L領域、またはC-L領域)と−R領域(A-R領域、B-R領域、またはC-R領域)とを備える。各+領域(A+領域、B+領域、またはC+領域)は、その領域のφの範囲の中央のφの角度(φ=30°、φ=150°、またはφ=−90°)を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域(A+L領域、B+L領域、またはC+L領域)と+R領域(A+R領域、B+R領域、またはC+R領域)とを備える。ここで、X線多重回折パターンの対称性および鏡映対称関係における「対称」とは、バックグランド領域(X線の多重回折が生じない領域)およびX線多重回折ピーク領域の位置が対称の位置にあることを意味するものであり、X線多重回折ピーク領域における各X線多重回折ピークの本数および強度が対称であることを意味するものではない。
【0059】
図12および図13は、主面が略(0001)面のGaN結晶基板の0001対称禁制ブラッグ反射についてのφが−180°から180°までのφスキャンにおけるX線多重回折パターンを示す。ここで、図12は、縦軸の強度を対数目盛で表示し、図13は縦軸の強度を平方根目盛で表示したものである。図14は、主面が略(000−1)面のGaN結晶基板の000−1対称禁制ブラッグ反射についてのφが−180°から180°までのφスキャンにおけるX線多重回折パターンを、縦軸の強度を平方根目盛で示す。図12図14を参照して、GaN結晶基板の主面が略(0001)面および略(000−1)面のいずれの場合であっても、φが−180°から180°までのφスキャンにおけるX線多重回折パターンのバックグランドの強度は一様である。このことから、2軸傾斜試料台を用いることにより、GaN結晶基板の<0001>軸とGaN結晶基板の回転軸であるφ軸とを高い精度で一致させることができ、GaN結晶基板の精密な結晶評価が可能となっていることがわかる。
【0060】
図13図18を参照して、図18に示すA+R領域を基本区分領域とすると、図17に示すA+L領域はA+R領域と回反対称の関係にある回反基本区分領域であり、図16に示すA-R領域はA+L領域と鏡映対称の関係にある回反鏡映基本区分領域であり、図15に示すA-L領域はA+R領域と鏡映対称の関係にある鏡映基本区分領域である。このような対称性を考慮して、A+R領域(図18)に存在する2つのX線多重回折ピーク群をmp1およびmp2と表すと、A+L領域(図17)に存在する2つのX線多重回折ピーク群は、mp1およびmp2に回反対称を示す「'」記号を付して、mp1'およびmp2'と表すことができる。A-R領域(図16)に存在する2つの多重ピーク群は、mp1'およびmp2'に鏡映対称を示す「()m」記号を付して、(mp1')mおよび(mp2')mと表すことができる。A-L領域(図15)に存在する2つのX線多重回折ピーク群は、mp1およびmp2に鏡映対称を示す「()m」記号を付して、(mp1)mおよび(mp2)mと表すことができる。
【0061】
図15図18を参照して、主面が略(0001)面のGaN結晶基板および主面が略(000−1)面のGa結晶基板についての上記の各区分領域について、mp1およびそれに上記対称関係において対応するX線多重回折ピーク群に最大6本のX線多重回折ピーク、mp2およびそれに上記対称関係において対応するX線多重回折ピーク群に最大8本のX線多重回折ピーク、合計で最大14つのX線多重回折ピークが見られる。このことから、現実のGaN結晶基板のX線多重回折測定においては、一部のX線多重回折ピークの重なりまたは欠損により、X線多重回折ピークの本数の減少が考えられるが、完全結晶(結晶構造により理論的に導かれる欠陥のない結晶)においては、14本のX線多重回折ピークが存在するものと考えられる。
【0062】
図15図18を参照して、主面が略(0001)面のGaN結晶基板および主面が略(000−1)面のGa結晶基板について、上記の基本区分領域のそれぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致している。ここで、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致するとは、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの本数の差異が2本以下であること、および、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの位置の差異が2°を超えるものが2本以下であることをいう。ここで、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致することは、GaN結晶基板の対称性が高いことを意味する。すなわち、GaN結晶基板の対称性は、GaN結晶基板のそれぞれのX線多重回折ピーク群の位置の一致の程度で評価され、GaN結晶基板のそれぞれのX線多重回折ピーク群の一致の程度が大きい程、GaN結晶基板の対称性が高く結晶品質が高いと評価される。
【0063】
主面が略(0001)面のGaN結晶基板のA+R領域におけるmp1およびmp2のX線多重回折ピークの指数付け、位置、ピーク強度比、および多重回折タイプ(多重回折に関与する少なくとも2つの回折面)を表1に示す。なお、X線多重回折ピークの指数付けおよび多重回折タイプの特定には、J. Blasing and A. Krost, “X-ray multiple diffraction (Umweganregung) in wurtzite-type GaN and ZnO epitaxial layers”, phys. stat. sol., (a)201, No.4, 2004, pp.R17-R20(非特許文献2)を参照した。表1における指数付けピーク欄のP1〜P3およびP5〜P10は、上記文献に示された指数付けピークを示す。上記文献において、指数付けピークには、それぞれX線多重回折に関与する少なくとも2つの回折面を示す多重回折タイプが帰属されている。
【0064】
【表1】
【0065】
なお、上記文献においては、本実施形態のGaN結晶基板において、360°スキャンの範囲において多くの場合に最大ピーク強度を有する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来するピークNo.8のX線多重回折ピークはP6と指数付けされている。また、本実施形態のGaN結晶基板においては現在のところ見い出せていない指数付けピークP4も記載されている。かかる指数付けピークP4は、φが指数付けピークP5とほぼ同じであり(P5に比べてφが0.002°小さく)、多重回折タイプは(02−22)/(0−22−1)とされている。ここで、φが30°の範囲において、上記文献においては10本のX線多重回折ピークが得られているに過ぎないが、本実施形態においては14本のX線多重回折ピークを見い出している。上記文献においては、多重反射が生じる2つの結晶面からのブラッグ反射により計算されたが、実際の多重反射は2つ以上の結晶面により生じる場合が有り、新しいピークは2つ以上の結晶面により生じる場合と考えられる。
【0066】
表1に示す上記の少なくとも(1−100)および(−1101)に由来するピークNo.8のX線多重回折ピークは、多くの場合に最大ピーク強度となるため、GaN結晶基板の結晶品質の評価に最も有効なピークと考えて、第1基準X線多重回折ピーク(S1)と呼ぶ。GaN結晶基板の結晶品質はバックグランド(BG)強度に対する第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度の比である第1基準ピーク強度比(S1/BG比)の大きさによりGaN結晶基板の結晶品質が評価され、第1基準ピーク強度比が大きい程結晶品質が高いと評価される。
【0067】
ここで、X線多重回折ピークの強度は当該ピークの頂点の強度値を読み取る。すなわち、第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度は当該ピークの頂点の強度値であり、後述の第2標準X線多重回折ピーク(S2)の強度は当該ピークの頂点の強度値である。X線多重回折ピークの強度は、φが0.02°のステップ毎の計測時間が1秒から50秒の範囲ではほとんど変わらないため、X線多重回折ピークの測定は測定時間を短縮する目的でたとえば3秒とする。
【0068】
バックグランド強度は、第1基準X線多重回折ピーク(S1)と第2基準X線多重回折ピーク(S2)との間の平坦な部分のステップ毎の計測時間を増して2ケタ以上の精度のある強度の値を読み取る(具体的には、複数の点の平均値をとる)。バックグランド強度の測定の精度を2ケタ以上とするために、第1基準X線多重回折ピーク(S1)と第2基準X線多重回折ピーク(S2)との間の範囲をステップ毎の測定時間を10秒以上(好ましくは15秒から50秒の範囲)として、バックグランド(BG)強度の測定を行うことが好適である。
【0069】
(GaN結晶基板の極性の評価)
図15図18を参照して、各基本区分領域において、GaN結晶基板の略(0001)の主面における14本のX線多重回折ピークの強度と、同じGaN結晶基板の略(000−1)の主面における14本のX線多重回折ピークの強度との差は、対応する対称関係を有するX線多重回折ピークの間で異なる。たとえば、比較的強度の高いX線多重回折ピークのうち、ピークNo.8の第1基準X線多重回折ピーク(S1)では略(0001)面(すなわち略Ga面;Ga面からのオフ角が0°以上2°以下の面、以下同じ)に比べて略(000−1)面(すなわち略N面;N面からのオフ角が0°以上2°以下の面、以下同じ)のピーク強度が極めて高くなるのに対して、ピークNo.7のX線多重回折ピークは略(0001)面におけるピーク強度と略(000−1)面におけるピーク強度とが略同じである。このため、表1に示す少なくとも(02−21)および(0−220)に由来するピークNo.7のX線多重回折ピークを第2基準X線多重回折ピーク(S2)とするとき、GaN結晶基板の極性は、第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度に対する第2基準X線多重回折ピーク(S2)の強度の比である第2基準ピーク強度比(S2/S1比)の大きさにより評価される。具体的には、第2基準ピーク強度比が0.18以上となるとき、好ましくは0.20以上になるとき、そのときの主面は略(0001)面(すなわち略Ga面)と評価される。第2基準ピーク強度比が0.18未満となるとき、好ましくは0.16以下となるとき、そのときの主面は略(000−1)面(すなわち略N面)と評価される。
【0070】
また、略(0001)面の主面と略(000−1)の主面との2つの主面を有するGaN結晶基板について、一方の主面および他方の主面についてのX線多重回折ピークから得られる第2基準ピーク強度比の値が互いに異なるとき、より大きな第2基準ピーク強度比を与える主面が略(0001)(すなわち略Ga面)と評価される。
【0071】
(GaN結晶基板の極性を考慮した結晶品質の評価)
上述のように、GaN結晶基板の結晶品質は、第1基準ピーク強度比(バックグランド強度に対する第1基準X線多重回折ピークの強度比)の大きさにより評価される。また、GaN結晶基板においては、結晶品質が同程度であっても、その極性により、略(0001)面(略Ga面)の主面における第1基準X線多重回折ピークの強度と略(000−1)面(略N面)の主面における第1基準X線多重回折ピークの強度とが異なる。したがって、GaN結晶基板は、その極性を考慮して、主面が略(0001)面(略Ga面)のときの第1基準ピーク強度比が500以上および/または主面が略(000−1)面(略N面)のときの第1基準ピーク強度比が750以上のとき結晶品質が高く、主面が略(0001)面(略Ga面)のときの第1基準ピーク強度比が650以上および/または主面が略(000−1)面(略N面)のときの第1基準ピーク強度比が950以上のとき結晶品質がより高く、主面が略(0001)面(略Ga面)のときの第1基準ピーク強度比が800以上および/または主面が略(000−1)面(略N面)のときの第1基準ピーク強度比が1150以上のとき結晶品質がさらに高い、と評価される。ここで、上記の第1基準ピーク強度比および第2基準ピーク強度比は、入射側にX線キャピラリーレンズ(発散角0.3°)を使用して0.5mm×0.5mmのクロススリットにより得られるCuKα1単色X線の小発散角入射X線平行ビームを用い、受光側に反射率測定用の0.27°のコリメータ(0.27°スリットは設けない)およびグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定において得られたものとする。
【0072】
GaN結晶基板のように極性を有する結晶の場合、X線のブラッグ反射の強度を定める構造因子に関して、一方の極性面(たとえばGa面である(0001)面)に対する構造因子F(h,k,l)と、他方の極性面(たとえばN面である(000−1)面)に対するF(−h,−k,−l)とは等しくない。結晶の品質および極性の評価にあたっては、X線多重回折ピークの強度をバックグラウンド強度で除した比を用いるが、X線多重回折ピークの強度には上記の構造因子の差による強度の差が現れる。GaN結晶基板の場合、(0001)面がGa面(極性面)であり、(000−1)面がN面(極性面)である。かかる極性面に対応したX線多重回折ピークの強度が定まるため、結晶評価は極性面を特定して行う必要がある。すなわち、同じ種類の同じ品質の結晶であっても、評価する極性面が異なれば評価するX線多重回折ピークの強度が異なるため、評価する極性面毎に基準の数値を定める必要がある。
【0073】
結晶品質は、X線回折ピークの強度の大きさが大きいほど、X線回折ピークの半値幅が小さいほど高品質と判定できるため、対称ブラッグ反射におけるX線回折ピーク強度、対称禁制ブラッグ反射におけるX線多重回折ピーク強度などを用いることが可能である。対称ブラッグ反射におけるX線回折ピーク強度の場合にも、2軸傾斜試料台を用いて結晶面(たとえば、(0001)面、(000−1)面)の法線(たとえば、<0001>軸)と結晶の回転軸(φ軸)とを一致をさせた場合には、極性に対応した強度を測定できるために、極性判定に利用できる。しかしながら、対称ブラッグ反射におけるX線回折ピークは、主面の表面状態の影響を受けやすく、一方の主面と他方の主面とにおける結晶状態が異なっているとピークの強度が異なる。
【0074】
X線多重回折ピークの強度を用いる場合には、上記のように、極性に依存しているピークNo.8のピーク(少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピーク(S1))と、極性に依存しないピークNo.7のピーク(少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピーク(S2))とが有り、第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度に対する第2基準多重回折ピーク(S2)の強度の比である第2基準ピーク強度比(S2/S1比)から極性の判別ができる。この場合は、一方の主面と他方の主面とにおける結晶状態が異なっていても、X線多重回折が結晶内部の現象であるために、問題なく極性を判別できる利点がある。したがって、X線多重回折ピークの強度を用いる評価方法は、GaN結晶基板以外の極性結晶についても広く応用できることが期待される。
【0075】
<実施形態2:GaN結晶基板>
[実施形態2−1]
図13および図15図18を参照して、本実施形態のGaN結晶基板は、少なくとも1つの主面を有するGaN結晶基板であって、主面が略(0001)面(すなわち、(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面)である。小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に主面が露出するようにGaN結晶基板を配置し、(0001)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、0001対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおけるφ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備える。各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備える。各−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備える。各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備える。各−L領域、各−R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域において、バックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比が500以上であり、第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比が0.18以上である。本実施形態のGaN結晶基板は、略(0001)面(略Ga面)を主面とするX線多重回折パターンにおいて、従来のGaN結晶基板に比べて、高い対称性と大きな第1基準ピーク強度比とを有しているため、結晶品質が高い。
【0076】
ここで、上記の第1基準ピーク強度比および第2基準ピーク強度比は、入射側にX線キャピラリーレンズ(発散角0.3°)を使用して0.5mm×0.5mmのクロススリットにより得られるCuKα1単色X線の小発散角入射X線平行ビームを用い、受光側に反射率測定用の0.27°のコリメータ(0.27°スリットは設けない)およびグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定において得られたものとする。
【0077】
ここで、X線多重回折パターンの回転対称性および鏡映対称性における「対称」とは、多重ピーク領域の位置が対称の位置にあることを意味するものであり、多重回折ピーク領域における各X線多重回折ピークの位置および強度が対称であることを意味するものではない。すなわち、GaN結晶基板の対称性が高いとは、対称関係にあるX線多重回折ピーク群の位置がよく一致することをいい、具体的には、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの本数の差異が2本以下であること、および、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの位置の差異が2°を超えるものが2本以下であることをいう。
【0078】
本実施形態の主面が略(0001)面(すなわち略Ga面)であるGaN結晶基板において、結晶の品質が高い観点から、第1基準ピーク強度比は、500以上であり、好ましくは650以上であり、より好ましくは800以上である。また、結晶の極性の判別が明確な観点から、第2基準ピーク強度比は、0.18以上であり、好ましくは0.20以上である。
【0079】
本実施形態のGaN結晶基板の結晶評価は、主面が略{0001}面(略Ga面)であり、入射側にX線キャピラリーレンズを使用してW0.5mm×H0.5mmのクロススリットによりポイントフォーカスしたCuKα1単色X線の小発散角入射X線平行ビームを用い、2軸傾斜試料台上に主面が露出するようにGaN結晶基板を配置し、(0001)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、受光側に反射率測定用の0.27°のコリメータ(0.27°スリットは設けない)およびグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定において、0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θ(すなわち入射角ω:8.5428°および回折角2θ:17.0856°)における<0001>軸を回転軸としたφスキャンパターン測定は、詳細で正確なX線多重回折パターンを得る観点から、測定φ角度ステップ0.02°、測定するφの角度範囲に応じて、各ステップでの計測時間が1秒から50秒の範囲の測定条件で行なう。
【0080】
本実施形態の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板は、自立基板であることが好ましい。かかるGaN結晶基板は、結晶品質の高い自立基板であるため、半導体デバイスの製造に好適に用いられる。ここで、GaN結晶基板は、自立基板となるためには、その厚さが250μm以上であることが好ましい。
本実施形態の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板は、その厚さが250μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましく、400μm以上がさらに好ましいる。かかるGaN結晶基板は、結晶品質が高い厚さが250μm以上の基板であるため、半導体デバイスの製造に好適に用いられる。また、本実施形態のGaN結晶基板は、その直径が50mm以上が好ましく、75mm以上がより好ましく、100mm以上がさらに好ましい。かかるGaN結晶基板は、結晶品質が高い直径が50mm以上の基板であるため、半導体デバイスの製造に好適に用いられる。なお、2インチとは正確には50.8mmであるが、当業界においては直径50mmの基板を2インチ基板とよぶ場合もある。
【0081】
(GaN結晶基板の製造方法)
本実施形態の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板の製造方法は、下地基板上にGaN結晶を成長させる工程と、成長させたGaN結晶を窒素ガス雰囲気中900℃以上かつ1800気圧以上の高温高圧条件下で2回以上熱処理する工程と、熱処理したGaN結晶をGaN結晶基板に加工する工程と、を備える。本実施形態のGaN結晶基板の製造方法は、900℃以上かつ1800気圧以上の高温高圧条件下で2回以上熱処理されたGaN結晶を加工することにより結晶品質の高いGaN結晶基板が得られる。
【0082】
成長させたGaN結晶の上記の2回以上の熱処理は、熱処理後のGaN結晶を加工して得られるGaN結晶基板の結晶品質を高める観点から、処理雰囲気が窒素雰囲気で、処理温度が900℃以上であり、好ましくは1000℃以上であり、処理圧力が1800気圧以上であり、好ましくは2000気圧以上である。また、製造装置の仕様から、処理温度は1200℃以下が好ましく、処理圧力は2000気圧以下が好ましい。
【0083】
[実施形態2−2]
図14図18を参照して、本実施形態のGaN結晶基板は、少なくとも1つの主面を有するGaN結晶基板であって、主面が略(000−1)面(すなわち、(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面)である。小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に主面が露出するようにGaN結晶基板を配置し、(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおけるφ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備える。各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備える。各−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備える。各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備える。各−L領域、各−R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域において、バックグランド強度に対する少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度の比である第1基準ピーク強度比が750以上であり、第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比が0.18未満である。本実施形態のGaN結晶基板は、(0001)面(Ga面)を主面とするX線多重回折パターンにおいて、従来のGaN結晶基板に比べて、高い対称性と大きな第1基準ピーク強度比とを有しているため、結晶品質が高い。
【0084】
ここで、上記の第1基準ピーク強度比および第2基準ピーク強度比は、入射側にX線キャピラリーレンズ(発散角0.3°)を使用して0.5mm×0.5mmのクロススリットにより得られるCuKα1単色X線の小発散角入射X線平行ビームを用い、受光側に反射率測定用の0.27°のコリメータ(0.27°スリットは設けない)およびグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定において得られたものとする。
【0085】
ここで、本実施形態の主面が略(000−1)面(すなわち略N面)であるGaN結晶基板におけるX線多重回折パターンの回転対称性および鏡映対称性における「対称」および「GaN結晶基板の対称性が高い」の意味は、実施形態2−1の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板の場合と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0086】
本実施形態の主面が略(000−1)面(略N面)であるGaN結晶基板において、結晶の品質が高い観点から、第1基準ピーク強度比は、750以上であり、好ましくは950以上であり、より好ましくは1100以上である。また、結晶の極性が明確な観点から、第2基準ピーク強度比は、0.18未満であり、好ましくは0.16以下である。
【0087】
本実施形態の主面が略(000−1)面(略N面)であるGaN結晶基板の結晶評価は、実施形態2−1の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板の場合と同様であるため、ここでは繰り返さない。また、本実施形態の主面が略(000−1)面(略N面)であるGaN結晶基板が自立基板であることの利点、その厚さおよびその直径についても、実施形態2−1の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板の場合と同様であるため、ここでは繰り返さない。本実施形態の主面が略(000−1)面(略N面)であるGaN結晶基板の製造方法は、実施形態2−1の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板の場合と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0088】
[実施形態2−3]
図13図18を参照して、本実施形態のGaN結晶基板は、2つの主面を有するGaN結晶基板であって、1つの主面が略(0001)面(すなわち(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面)であり、他の主面が略(000−1)面(すなわち(000−1)面からのオフ角が0°以上2°以下の面)である。各主面についての小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、2軸傾斜試料台上に各主面が露出するようにGaN結晶基板を配置し、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向とするように調整し、主面が略(0001)面のときは0001対称禁制ブラッグ反射について、主面が略(000−1)面のときは000−1対称禁制ブラッグ反射についての入射角ωおよび回折角2θにおけるφ軸を回転軸としたφスキャンパターン測定におけるφが−180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが−180°から−60°まで、−60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備える。各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する−領域と+領域とを備える。各−領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する−L領域と−R領域とを備える。各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および<0001>軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備える。各−L領域、各−R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域において、2つの主面における少なくとも(1−100)および(−1101)に由来する第1基準X線多重回折ピークの強度に対する少なくとも(02−21)および(0−220)に由来する第2基準多重回折ピークの強度の比である第2基準ピーク強度比の値は互いに異なり、より大きな第2基準ピーク強度比を与える主面が略(0001)面である。本実施形態のGaN結晶基板は、略(0001)面を主面とするX線多重回折パターンおよび略(000−1)面を主面とするX線多重回折パターンのいずれにおいても、従来のGaN結晶基板に比べて、高い対称性を有しているため、結晶品質が高い。また、本実施形態のGaN結晶基板は、上記2つの主面についてのX線多重回折パターンからそれぞれ得られる2つの第2基準ピーク強度比の大小から略(0001)面(略Ga面)(極性面)である主面が判別されるため、当該GaN結晶基板を破壊しなくても極性が判別される。
【0089】
本実施形態のGaN結晶基板におけるX線多重回折パターンの回転対称性および鏡映対称性における「対称」および「GaN結晶基板の対称性が高い」の意味、結晶評価に関しては、略(0001)面の主面については実施形態2−1の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板の場合と同様であり、略(000−1)面の主面については実施形態2−2の主面が略(000−1)面(略N面)であるGaN結晶基板の場合と同様であるため、ここでは繰り返さない。また、本実施形態のGaN結晶基板の厚さおよび直径については、実施形態2−1の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板および実施形態2−2の主面が略(000−1)面(略N面)であるGaN結晶基板の場合と同様であるため、ここでは繰り返さない。本実施形態のGaN結晶基板の製造方法は、実施形態2−1の主面が略(0001)面(略Ga面)であるGaN結晶基板の場合と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【実施例】
【0090】
(実施例1)
1.GaN結晶基板の作製
直径76mmのサファイア基板上にMOCVD(有機金属化学気相堆積)法によりGaNを成長した(0001)面からのオフ角が0°以上2°以下の面を主面とするテンプレート基板を準備し、これを下地基板として、直径85mmで厚さ20mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダー上に置いてHVPE(ハイドライド気相成長)装置のリアクター内に配置した。リアクター内を1020℃まで加熱後、HClガスをGaと反応して発生したGaClガスと、NH3ガスと、をリアクター内へ供給した。このような下地基板の上でのGaN層成長工程において、リアクター温度1020℃を29時間保持し、また、成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガスの分圧を6.52×102Paとし、NH3ガスの分圧を7.54×103Paとし、HClガスの分圧を3.55×101Paとした。GaN層成長工程終了後、リアクター内を室温まで降温し、GaN結晶を得た。得られたGaN結晶は、(0001)面を結晶成長面として結晶成長しており、触針式の膜厚計で測定した厚さは3.5mmであった。
【0091】
得られたGaN結晶を、その外周ならびに表(おもて)面(結晶成長面側の面)と裏面(結晶成長面と反対側の面)の両面を加工(具体的には、両面を平行かつ平坦に加工)して、加工変質層(加工歪み層)を除去した後、2回熱処理した。熱処理には神戸製鋼製の熱間静水圧プレス(HIP)装置を用いた。2回の熱処理条件は、いずれも2000気圧の窒素雰囲気中1200℃で20時間とした。上記2回の熱処理後に、HIP装置よりGaN結晶を回収し、表(おもて)面および裏面の両面を研磨して鏡面に仕上げ、両面共に加工変質層(加工歪み層)を除去して、直径2インチ(50.8mm)で厚さ400μmのGaN結晶基板に加工した。
【0092】
2.GaN結晶基板のX線回折
(1)2軸傾斜試料台へのGaN結晶基板の配置と調整
X線回折装置(スペクトリス株式会社製PANalytical X’Pert MRD)の2軸傾斜試料台に、上記GaN結晶基板をその結晶成長面側の主面が露出するように配置した。配置したGaN結晶基板を、x軸、y軸およびz軸を調整して、入射角ωのオフセット値、煽り角χのオフセット値、および回転角φのオフセット値を定めることにより、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向となるように調整した。かかる調整には、小発散角入射X線平行ビーム(入射側:ポイントフォーカスCuX線管球を電圧45kVおよび電流40mAで作動させて発生するCuKα1線について、発散角0.3°のX線キャピラリーレンズおよび幅W0.5mm×高さH0.5mmのクロススリットを用いて得られるX線平行ビーム、受光側:0.27°コリメータ(0.27°スリットは設けない)およびグラファイト平板モノクロメータを通して、Xe比例計数管により検出)を用いた。
【0093】
(2)GaN結晶基板のX線多重回折ピークの測定
上記の小発散角入射X線平行ビームを用いて、測定φ角度ステップ0.02°、測定φの角度範囲に応じて、各ステップでの計測時間が1秒から50秒の範囲の測定条件で、0001対称禁制ブラッグ反射または000−1対称禁制ブラッグ反射の位置(入射角ω:8.5428°、回折角2θ:17.0856°)にてφスキャンを測定した。図13および図15図18と同様のX線多重回折ピークが測定された。A領域(φが−60°から60°までの領域、すなわちA-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの区分領域で構成される領域)の主なX線多重回折ピークについての結果を表2および表3にまとめた。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの区分領域において、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの本数の差異が2本以下であり、かつ、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの位置の差異が2°を超えるものが2本以下であったため、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致しており、GaN結晶基板の対称性が高かった。また、表2および表3を参照して、A-L領域、A-R領域、A+領域LおよびA+R領域の4つの区分領域において、バックグランド(BG)強度に対する第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度の比である第1基準ピーク強度比(S1/BG比)は766〜1161と極めて高く、結晶品質は極めて高いと評価された。さらに、A-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+領域Rの4つの区分領域において、第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度に対する第2基準X線多重回折ピーク(S2)の強度の比である第2基準ピーク強度比(S2/S1比)は0.207〜0.232と0.18以上であり、本実施例の結晶成長面側の主面が略(0001)面(すなわち略Ga面)(極性面)であると評価された。
【0097】
3.GaN結晶基板上のエピタキシャル層の形成とフォトルミネッセンス測定
上記GaN結晶基板の上記主面上に、MOCVD法により、エピタキシャル層として、厚さ3μmのGaN層を成長させた。成長させたエピタキシャル層のフォトルミネッセンスの発光強度を測定し、その結果を表6にまとめた。
【0098】
(実施例2)
実施例1と同様のGaN結晶基板を作製した。得られたGaN結晶基板を、結晶成長面と反対側の面側の主面を露出させて、2軸傾斜試料台に配置したこと以外は、実施例1と同様にして、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向となるように調整し、実施例1と同様の条件でX線多重回折ピークを測定した。図14図18と同様のX線多重回折ピークが測定された。A領域(φが−60°から60°までの領域、すなわちA-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの区分領域で構成される領域)の主なX線多重回折ピークについての結果を表4および表5にまとめた。
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの区分領域において、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの本数の差異が2本以下であり、かつ、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの位置の差異が2°を超えるものが2本以下であったため、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致しており、GaN結晶基板の対称性が高かった。また、表4および表5を参照して、A-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの区分領域において、バックグランド(BG)強度に対する第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度の比である第1基準ピーク強度比(S1/BG比)は1188〜1287と極めて高く、結晶品質は極めて高いと評価された。さらに、A-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの区分領域において、第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度に対する第2基準X線多重回折ピーク(S2)の強度の比である第2基準ピーク強度比(S2/S1比)は0.144〜0.159と0.18未満であり、本実施例の結晶成長面と反対側の側の主面が略(000−1)面(すなわち略N面)であると評価された。
【0102】
(参考例1)
結晶成長後の2回の熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてGaN結晶基板を作製した。得られたGaN結晶基板について、結晶成長面と反対側の面側の主面を露出させて、2軸傾斜試料台に配置したこと以外は、実施例1と同様にして、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向となるように調整し、実施例1と同様の条件でX線多重回折ピークを測定した。A-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの区分領域において、バックグランド(BG)強度に対する第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度の比である第1基準ピーク強度比(S1/BG比)は320〜400と500未満であり、結晶品質は高くないと評価された。さらに、A-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの区分領域において、第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度に対する第2基準X線多重回折ピーク(S2)の強度の比である第2基準ピーク強度比(S2/S1比)は0.34〜0.41と0.18以上であり、本実施例の結晶成長面側の主面が略(0001)面(すなわち略Ga面)であると評価された。
【0103】
さらに、上記GaN結晶基板の上記主面上に、MOCVD法により、エピタキシャル層として、厚さ3μmのGaN層を成長させた。成長させたエピタキシャル層のフォトルミネッセンスの発光強度を測定し、その結果を表6にまとめた。
【0104】
(参考例2)
参考例1と同様のGaN結晶基板を作製した。得られたGaN結晶基板を、結晶成長面と反対側の面側の主面を露出させて、2軸傾斜試料台に配置したこと以外は、実施例1と同様にして、(0001)面および(000−1)面の法線である<0001>軸とφ軸とが一致し、かつ、[1−100]方向をφ=0°の方向となるように調整し、実施例1と同様の条件でX線多重回折ピークを測定した。A-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの区分領域において、バックグランド(BG)強度に対する第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度の比である第1基準ピーク強度比(S1/BG比)は375〜550と750未満であり、結晶品質は高くないと評価された。さらに、A-L領域、A-R領域、A+L領域およびA+R領域の4つの基本区分領域において、第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度に対する第2基準X線多重回折ピーク(S2)の強度の比である第2基準ピーク強度比(S2/S1比)は0.15〜0.16と0.18未満であり、本実施例の結晶成長面と反対側の側の主面が略(000−1)面(すなわち略N面)であると評価された。
【0105】
【表6】
【0106】
表6を参照して、結晶品質が高くないことが確認された参考例1のGaN結晶基板の主面(すなわち略(0001)面(略Ga面))上に成長されたエピタキシャル層は、フォトルミネッセンスの発光強度が低く、結晶品質の低いエピタキシャル層であることが分かった。これに対して、結晶品質が極めて高いことが確認された実施例1のGaN結晶基板の主面(すなわち略(0001)面(略Ga面))上に成長されたエピタキシャル層は、フォトルミネッセンスの発光強度が高く、結晶品質の高いエピタキシャル層であることが分かった。
【0107】
上記のように、0001対称禁制ブラッグ反射または000−1対称禁制ブラッグ反射におけるX線多重回折ピークを用いた結晶評価(すなわち、X線多重回折ピークの対称性、バックグランド(BG)強度に対する第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度の比(S1/BG比)、および第1基準X線多重回折ピーク(S1)の強度に対する第2基準X線多重回折ピーク(S2)の強度の比(S2/S1比)など)により、結晶品質の高いGaN結晶基板について、その結晶品質および極性について詳細に評価することができた。
【0108】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0109】
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14 ピークNo.、S1 第1基準X線多重回折ピーク、S2 第2基準X線多重回折ピーク、A,A-,A+,A-L,A-R,A+L,A+R,B,B-,B+,B-L,B-R,B+L,B+R,C,C-,C+,C-L,C-R,C+L,C+R 領域、ω 入射角、2θ 回折角、χ 煽り角、φ 回転角。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
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図15
図16
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図18