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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-85680(P2020-85680A)
(43)【公開日】2020年6月4日
(54)【発明の名称】X線信号処理装置及びX線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/24 20060101AFI20200508BHJP
   G01T 1/36 20060101ALI20200508BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20200508BHJP
【FI】
   G01T1/24
   G01T1/36 D
   G01N23/223
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-221141(P2018-221141)
(22)【出願日】2018年11月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 勉
【テーマコード(参考)】
2G001
2G188
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001BA04
2G001CA01
2G001DA01
2G001EA03
2G001FA03
2G001FA21
2G001GA01
2G001JA06
2G001JA16
2G001KA01
2G188BB03
2G188BB15
2G188CC28
2G188EE03
2G188EE07
2G188EE08
2G188EE25
2G188FF19
2G188GG09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】X線の測定を行いながら、X線照射によるダメージや電気回路の故障や半導体検出器の冷却不良などさまざまな原因によって起こる半導体検出器の性能劣化の程度を簡便な方法で正確に検出するX線信号処理装置及びX線分析装置を提供する。
【解決手段】X線信号処理装置であって、検出されたX線のエネルギーに応じた電荷を生じる半導体検出器106と、前記生じる電荷に応じたランプ電圧信号を出力する前置増幅器202と、前記ランプ電圧信号に基づいて、前記電荷による電圧変化量毎に計数する計数部212と、前記電圧変化量とその発生頻度との積の総和に応じた第1電圧変化評価値と、前記ランプ電圧信号の上昇量に応じた第2電圧変化評価値と、に基づいて前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する判定部220と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出されたX線のエネルギーに応じた電荷を生じる半導体検出器と、
前記生じる電荷に応じたランプ電圧信号を出力する前置増幅器と、
前記ランプ電圧信号に基づいて、前記電荷による電圧変化量毎に計数する計数部と、
前記電圧変化量とその発生頻度との積の総和に応じた第1電圧変化評価値と、前記ランプ電圧信号の上昇量に応じた第2電圧変化評価値と、に基づいて前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する判定部と、
を有することを特徴とするX線信号処理装置。
【請求項2】
前記第1電圧変化評価値は、前記ランプ電圧信号の振幅を、前記総和と前記半導体検出器の正常時の漏れ電流の値との和で除算した値であることを特徴とする請求項1に記載のX線信号処理装置。
【請求項3】
前記ランプ電圧信号の各出力周期は、前記ランプ電圧信号が上限値に達してから下限値に低減されるリセット期間と、前記リセット期間以外の検出期間と、を含み、
前記第2電圧変化評価値は、前記検出期間における前記ランプ電圧信号の傾きまたは増加量に応じた値である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のX線信号処理装置。
【請求項4】
さらに、前記ランプ電圧信号の周期を計測する周期計測部を有し、
前記第2電圧変化評価値は、前記周期計測部が計測した前記ランプ電圧信号の周期であって、
前記判定部は、前記第1電圧変化評価値と前記第2電圧変化評価値との差分または比率と、予め設定された第1閾値と、に応じて前記半導体検出器が劣化しているか否かを判定する、ことを特徴とする請求項3に記載のX線信号処理装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記総和と、予め設定された第2閾値と、に応じて、前記判定を行うか否かを決定する、ことを特徴とする請求項4に記載のX線信号処理装置。
【請求項6】
さらに、前記第1電圧変化評価値と前記第2電圧変化評価値との差分もしくは比率を継続的に記憶する記憶部と、
記憶された前記差分もしくは比率の推移から前記半導体検出器が劣化する時期を予測する予測部と、
を有することを特徴とする請求項4または5に記載のX線信号処理装置。
【請求項7】
さらに、前記ランプ電圧信号の周期を計測する周期計測部を有し、
前記第1電圧変化評価値は、前記総和であり、
前記第2電圧変化評価値は、前記周期計測部が計測した前記ランプ電圧信号の周期であり、
前記判定部は、前記ランプ電圧信号の振幅を前記第2電圧変化評価値で除算した値から前記第1電圧変化評価値を差し引いた値に基づいて、前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線信号処理装置。
【請求項8】
試料に励起線が照射されることで発生したX線を検出することにより、該X線のエネルギーに応じた電荷を生じる半導体検出器と、
前記生じる電荷に応じたランプ電圧信号を出力する前置増幅器と、
前記ランプ電圧信号に基づいて、前記電荷による電圧変化量毎に計数する計数部と、
前記電圧変化量とその発生頻度との積の総和に応じた第1電圧変化評価値と、前記ランプ電圧信号の上昇量に応じた第2電圧変化評価値と、に基づいて前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する判定部と、
前記計数されたX線に基づいて、前記試料の元素を分析する分析部と、
を有することを特徴とするX線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体検出器を用いたX線信号処理装置及びX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる元素や当該元素の濃度を測定する装置として、1次X線や電子線等を試料に照射した際に発生する2次X線を検出し、当該2次X線のエネルギーと強度から構成元素を分析するX線分析装置が知られている。
【0003】
X線分析装置には、波長分散型のX線分析装置とエネルギー分散型のX線分析装置がある。波長分散型のX線分析装置は、試料から放出される2次X線を分光素子により波長毎に分光し、特定波長の2次X線を弁別して検出する。エネルギー分散型のX線分析装置は、試料から放出される2次X線を半導体検出器等のエネルギー分解能の高い検出器で検出する。
【0004】
エネルギー分散型のX線分析装置は、試料から放出された2次X線を直接検出器で検出する。そのため、波長分散型のX線分析装置のように分光素子や検出器を走査することなく、同時に複数の波長の情報が得られる。従って、エネルギー分散型のX線分析装置は、波長分散型の装置に比べて装置構成が簡単で、より短い時間で多くの元素の分析が行えるという特徴がある(特許文献1参照)。
【0005】
エネルギー分散型のX線分析装置に用いられる検出器は、高いエネルギー分解能を有する必要がある。そのため、エネルギー分散型のX線分析装置に用いられる検出器は、Si(Li)検出器やSDD(Silicon Drift Detector)検出器等の半導体検出器であって、雑音レベルの小さなアクティブリセット型前置増幅器と共に用いられる(非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上記半導体検出器は、長時間にわたるX線の照射によって損傷を受け、性能が劣化する。エネルギー分散型のX線分析装置は、半導体検出器の性能が劣化し、エネルギー分解能が悪化すると、正確な測定が行えなくなる。
【0007】
従って、予め定められた基準を超えて性能劣化が進行する前に半導体検出器を交換する事が望ましい。また、半導体検出器の性能劣化はX線照射によるダメージだけでなく、電気回路の故障や半導体検出器の冷却不良などその他の原因によっても起こる。
【0008】
そこで、従来技術では、半導体検出器に流れる漏れ電流の測定評価が行われていた。半導体検出器を定常状態で動作させている場合、漏れ電流は、一定の定常値であるのが通常である。すなわち、漏れ電流の急激な変化あるいは増大は、半導体検出器の性能が変化したことを示す。
【0009】
非特許文献1は、漏れ電流を検出する為に、半導体検出器に電流計、電流設定器、及び、電流比較器等を接続し、漏れ電流の監視を行う点を開示している。
【0010】
特許文献2は、X線分析装置の起動時に、半導体検出器のリセット回路のリセットの発生の時間間隔(ランプ周期)を、漏れ電流の代わりに検出する点を開示している。具体的には、半導体検出器は、当該半導体検出器に流れる電流の値が増加するとリセット発生の時間間隔が短くなり、逆に電流が減少すると時間間隔が長くなる。そこで、時間間隔が所定時間以上であるかどうかを判定し、分析装置が分析可能かどうかを判断している。
【0011】
特許文献3は、半導体検出素子の故障を防止する点を開示している。具体的には、リセットするためのインヒビット信号の個数がカウントされる。カウント値が設定値よりも大きくなったときに、半導体検出素子に過大なエネルギー量のX線が入射する過酷な状態が生じていると判断される。そして、過酷な状態が生じていると判断された場合に、放射線源に高電圧を供給する高電圧発生回路の動作をオフすることにより、半導体検出素子の故障が防止される。
【0012】
特許文献4は、半導体検出器で検出された波高毎のX線を計数して累積し、その計数結果があらかじめ設定されている条件に到達した時点で、報知手段により半導体検出器の交換時期が到来した旨の報知を行う点を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10-318946号公報
【特許文献2】特開2010-8176号公報
【特許文献3】特開平06-123778号公報
【特許文献4】特開2016-125922号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】:グレン F.ノル著「放射線計測ハンドブック(第3版)」日刊工業新聞社、2001年3月27日、p.435-436(11.5.1 漏れ電流)、P.691-701(17.5.1 前置増幅器)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記非特許文献1では、電流計を含む専用の測定回路は、半導体検出器を流れる電流の監視を行い、当該半導体検出器の良否を判断している。しかし、監視される電流の大きさは、半導体検出器の性能劣化によってだけでなく、X線等の検出時に発生する信号電流によっても変化する。また、当該電流の大きさは、検出されたX線のエネルギーや強度によっても異なる。
【0016】
そのため、半導体検出器を流れる電流が変化した場合、半導体検出器の異常によるものなのか、半導体検出器以外の装置(X線管・測定試料等)に起因するX線の強度及びエネルギーの変動によるものなのか区別することができない。よって、半導体検出器を流れる電流値のみに基づいて半導体検出器の状態を正しく把握することができない。
【0017】
上記特許文献2では、装置起動時に半導体検出器のリセット回路において、リセット信号が発生する時間間隔が検出される。一方、装置起動時には、半導体検出器にX線信号が検出されない。当該方法は、半導体検出器がX線信号を検出しない期間である装置起動時に、リセットの発生の時間間隔を検出することによって、半導体検出器の性能評価を行う方法である。
【0018】
そのため、上記方法は、装置起動後の半導体検出器の性能劣化を検知する事ができない。さらに、半導体検出器がX線信号を検出しない事が条件になっているため、測定中に半導体検出器の性能を評価する事もできない。
【0019】
一方、X線分析装置は、起動後故障等がなければそのまま連続使用する事が一般的である。そのため、上記方法は、X線分析装置の通常の使用方法において半導体検出器の性能劣化を検知し、報知することができない。
【0020】
上記特許文献3では、リセットする為のインヒビット信号の個数をカウントし、インヒビット信号の回数から半導体検出器に入射したX線エネルギーの総和を求めている。当該方法は、半導体検出器に入射したX線エネルギーの総和から半導体検出器のダメージを推定するため、X線エネルギーの総和と半導体検出器の性能劣化に一定の相関関係がある事を前提としている。
【0021】
そのため、どのような相関関係があるのか事前に確認・検証しておく必要がある。また、実際には半導体検出器の性能には個体差があるため、性能劣化の程度は、半導体検出器の個体毎に異なる。しかし、上記方法は、性能の個体差は考慮に入れる事ができない。
【0022】
上記特許文献4では、エネルギー毎のX線強度をパラメーターとして、半導体検出器のダメージの推定が行われている。当該方法は、X線強度と半導体検出器の性能劣化に一定の相関関係がある事を前提としている。
【0023】
そのため、上記特許文献3と同様にどのような相関関係があるのか事前に確認・検証しておく必要があるため、性能の個体差を考慮に入れる事ができない。また、電気回路の故障や半導体検出器の冷却不良など照射損傷以外が原因で性能劣化が発生した場合、上記方法は、性能の劣化を検出する事ができない。
【0024】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、X線の測定を行いながら、X線照射によるダメージや電気回路の故障や半導体検出器の冷却不良などさまざまな原因によって起こる半導体検出器の性能劣化の程度を簡便な方法で正確に検出するX線信号処理装置及びX線分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
請求項1に記載のX線信号処理装置は、検出されたX線のエネルギーに応じた電荷を生じる半導体検出器と、前記生じる電荷に応じたランプ電圧信号を出力する前置増幅器と、前記ランプ電圧信号に基づいて、前記電荷による電圧変化量毎に計数する計数部と、前記電圧変化量とその発生頻度との積の総和に応じた第1電圧変化評価値と、前記ランプ電圧信号の上昇量に応じた第2電圧変化評価値と、に基づいて前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する判定部と、を有することを特徴とする。
【0026】
請求項2に記載のX線信号処理装置は、請求項1に記載のX線信号処理装置において、前記第1電圧変化評価値は、前記ランプ電圧信号の振幅を、前記総和と前記半導体検出器の正常時の漏れ電流の値との和で除算した値であることを特徴とする。
【0027】
請求項3に記載のX線信号処理装置は、請求項1または2に記載のX線信号処理装置において、前記ランプ電圧信号の各出力周期は、前記ランプ電圧信号が上限値に達してから下限値に低減されるリセット期間と、前記リセット期間以外の検出期間と、を含み、前記第2電圧変化評価値は、前記検出期間における前記ランプ電圧信号の傾きまたは増加量に応じた値である、ことを特徴とする。
【0028】
請求項4に記載のX線信号処理装置は、請求項3に記載のX線信号処理装置において、さらに、前記ランプ電圧信号の周期を計測する周期計測部を有し、前記第2電圧変化評価値は、前記周期計測部が計測した前記ランプ電圧信号の周期であって、前記判定部は、前記第1電圧変化評価値と前記第2電圧変化評価値との差分または比率と、予め設定された第1閾値と、に応じて前記半導体検出器が劣化しているか否かを判定する、ことを特徴とする。
【0029】
請求項5に記載のX線信号処理装置は、請求項4に記載のX線信号処理装置において、前記判定部は、前記総和と、予め設定された第2閾値と、に応じて、前記判定を行うか否かを決定する、ことを特徴とする。
【0030】
請求項6に記載のX線信号処理装置は、請求項4または5に記載のX線信号処理装置において、さらに、前記第1電圧変化評価値と前記第2電圧変化評価値との差分もしくは比率を継続的に記憶する記憶部と、記憶された前記差分もしくは比率の推移から前記半導体検出器が劣化する時期を予測する予測部と、を有することを特徴とする。
【0031】
請求項7に記載のX線信号処理装置は、請求項1に記載のX線信号処理装置において、さらに、前記ランプ電圧信号の周期を計測する周期計測部を有し、前記第1電圧変化評価値は、前記総和であり、前記第2電圧変化評価値は、前記周期計測部が計測した前記ランプ電圧信号の周期であり、前記判定部は、前記ランプ電圧信号の振幅を前記第2電圧変化評価値で除算した値から前記第1電圧変化評価値を差し引いた値に基づいて、前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する、ことを特徴とする。
【0032】
請求項8に記載のX線分析装置は、試料に励起線が照射されることで発生したX線を検出することにより、該X線のエネルギーに応じた電荷を生じる半導体検出器と、前記生じる電荷に応じたランプ電圧信号を出力する前置増幅器と、前記ランプ電圧信号に基づいて、前記電荷による電圧変化量毎に計数する計数部と、前記電圧変化量とその発生頻度との積の総和に応じた第1電圧変化評価値と、前記ランプ電圧信号の上昇量に応じた第2電圧変化評価値と、に基づいて前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する判定部と、前記計数されたX線に基づいて、前記試料の元素を分析する分析部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
請求項1乃至5、7及び8に記載の発明によれば、X線の測定を行いながら、半導体検出器が劣化したか否か判断することが可能で、かつ、性能の劣化の程度を正確に評価することができるX線信号処理装置及びX線分析装置を実現できる。半導体検出器が劣化したか否かの判断を測定中に行えるため、測定の停止や分析装置の起動及び遮断等する必要がなくなる。また、半導体検出器に個体ごとのばらつきがあったとしても、個体ごとに性能劣化の程度を正確に把握することができる。さらに、X線分析装置及びX線信号処理装置が故障した場合においても、半導体検出器が原因であるのか、後段の回路に問題があるのかといった問題の切り分けを行い、故障個所を特定することができる。
【0034】
請求項6に記載の発明によれば、半導体検出器の性能劣化の進行の程度を常時把握し、性能劣化に起因する問題の発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の実施形態に係るX線分析装置を概略的に示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るX線信号処理装置を概略的に示す図である。
図3】半導体検出器及び前置増幅器を概略的に示す図である。
図4】ランプ電圧信号の一例を示す図である。
図5】計測周期を説明するための図である。
図6】X線強度及びX線エネルギーと計測周期との関係を説明するための図である。
図7】測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を説明する。図1は、本発明に係るX線分析装置100を概略的に示す図である。また、図2は、本発明に係るX線信号処理装置200を概略的に示す図である。
【0037】
X線分析装置100は、試料台102と、X線源104と、X線信号処理装置200と、を有する。X線信号処理装置200は、半導体検出器106と、処理部108と、演算部110と、を有する。処理部108は、前置増幅器202と、AD変換器206と、波形整形部208と、波高値測定部210と、計数部212と、リセット信号検出部214と、周期計測部216と、を含む。
【0038】
試料台102は、試料112が配置される。試料112は、元素分析を行う対象である。
【0039】
X線源104は、1次X線114を生成し、試料112の表面に1次X線114を照射する。具体的には、例えば、X線源104は、X線管(図示せず)から出射されたX線をコリメータ(図示せず)で絞り、フィルタ(図示せず)によって連続X線成分を除去し、準単色化した1次X線114を試料112の表面に照射する。1次X線114が照射された試料112から、2次X線116が発生する。
【0040】
半導体検出器106は、検出されたX線のエネルギーに応じた電荷を生じる。具体的には、例えば、半導体検出器106は、試料112に励起線(1次X線114)が照射されることで発生したX線(2次X線116)を検出することにより、該X線(2次X線116)のエネルギーに応じた電荷を生じる。半導体検出器106は、例えば、Si(Li)検出器やSDD検出器等の半導体検出器である。
【0041】
前置増幅器202は、当該生じる電荷に応じたランプ電圧信号を出力する。半導体検出器106及び前置増幅器202の具体例について、図3を用いて説明する。
【0042】
図3は、半導体検出器106がSDD検出器であって、前置増幅器202がアクティブリセット型前置増幅器である実施例を示す図である。半導体検出器106はSDD素子302と電圧源304とを有する。SDD素子302は、陽極と、陰極と、陽極及び陰極の間に半導体層を含む。陽極と陰極には、電圧源304によって、所定の電圧が印加される。SDD素子302に2次X線116が入射すると、電離作用により、半導体層に2次X線116のエネルギーに応じた電荷が生じる。
【0043】
なお、陽極と陰極に所定の電圧が印加されることによって、陽極と陰極の間に漏れ電流が流れる。従って、半導体検出器106が生じる電流は、2次X線116によって生じる電荷による電流と、半導体検出器106に定常的に生じる漏れ電流と、を含む。当該漏れ電流の大きさは、半導体検出器106が正常な状態である場合には小さい。しかし、2次X線116の入射やX線管の放電等による過大な電気ノイズ等によって、半導体検出器106が劣化するにつれて、当該漏れ電流は大きくなる。
【0044】
前置増幅器202は、半導体検出器106から出力された電荷を時間積分し、電圧信号として出力する。具体的には、例えば、前置増幅器202は、コンデンサ306と、オペアンプ308と、スイッチ310と、が並列に接続された回路である。前置増幅器202は、半導体検出器106から入力された電荷がコンデンサ306に蓄積されることで、半導体検出器106から入力された電荷を時間積分し、階段状の電圧信号を後段のAD変換器206に出力する。また、前置増幅器202は、AD変換器206の許容(または定格)電圧の範囲内に設定された上限値に電圧信号が達するとリセット信号を発生させる。そして、前置増幅器202は、スイッチ310をON状態にし、電圧信号を下限値に低減する。なお、X線信号処理装置200は、AD変換器206の前に微分回路(図示せず)を有する構成であってもよい。
【0045】
図4は、前置増幅器202が出力するランプ電圧信号の一例を示す図である。ランプ電圧信号の各出力周期は、ランプ電圧信号が上限値に達してから下限値に低減されるリセット期間404と、リセット期間404以外の検出期間402と、を含む。具体的には、検出期間402は、スイッチ310に入力されるリセット信号の電圧がOFF電圧であり、スイッチ310がOFF状態である期間である。また、リセット期間404は、スイッチ310に入力されるリセット信号の電圧がON電圧であり、スイッチ310がON状態である期間である。なお、図4では誇張して記載しているが、リセット期間404は検出期間402に対して非常に短い一定時間である。
【0046】
検出期間402では、ランプ電圧信号は、半導体検出器106により2次X線116が検出されるたびに加算されて階段状に増加する。図4右側の拡大図に示すように、検出期間402は、2次X線検出タイミング406を含む。ランプ電圧信号の電圧は、2次X線検出タイミング406において、2次X線116によって生じた電荷によって、階段状に増加する。すなわち、検出期間402においてランプ電圧信号を拡大すると、ランプ電圧信号は階段波である。当該階段波の各段がX線を検出していることを示し、段差の頻度はX線強度を表している。当該階段波の段差の高さは検出されたX線のエネルギーの大きさと比例する。
【0047】
また、検出期間402の2次X線検出タイミング406以外の期間では、ランプ電圧信号の電圧は、漏れ電流によって、なだらかに増加する。当該ランプ電圧信号の傾きの大きさは、漏れ電流の大きさと比例する。なお、図4は模式的にノイズを含まないランプ電圧信号を示した図であって、実際のランプ電圧信号はノイズを多く含む。
【0048】
リセット期間404では、ランプ電圧信号は、所定の下限値まで低下する。リセット期間404では、スイッチ310がON状態となるため、コンデンサ306の両ノードは短絡する。従って、コンデンサ306に蓄積された電荷がON状態となったスイッチ310を経由して解放されることにより、ランプ電圧信号の電圧は、下限値となる。
【0049】
リセット信号の電圧は、ランプ電圧信号の電圧が上限値に達した時点でON電圧となる。また、リセット信号の電圧は、ランプ電圧信号の電圧が下限値に達した時点でOFF電圧となる。これにより、ランプ電圧信号は、増加と低下を繰り返すことにより、三角波の形状となる。
【0050】
1回のリセット期間404と1回の検出期間402を合わせた1周期の期間は、半導体検出器106の漏れ電流の大きさや2次X線116の入射で生じた電荷による階段状の電圧増加の大きさや頻度によって変化する。すなわち、ランプ電圧信号の周期は、一定ではない。当該1周期の期間は、後述する周期計測部216で計測される。以下、周期計測部216で計測された周期を、計測周期(T)とする。
【0051】
一方、ランプ電圧信号の振幅は一定である。具体的には、ランプ電圧信号の上限値と下限値は、コンデンサ306及びオペアンプ308の定格電圧等に応じて予め設定される。従って、ランプ電圧信号の振幅は、当該上限値と下限値の差分であって、一定の値となる。以下、ランプ電圧信号の振幅を、振幅(a)とする。
【0052】
AD変換器206は、アナログ信号であるランプ電圧信号をデジタル信号であるランプ電圧信号に変換する。具体的には、AD変換器206は、前置増幅器202が出力したアナログ信号であるランプ電圧信号を、後段の波形整形部208及びリセット信号検出部214が処理できるデジタル信号に変換する。
【0053】
波形整形部208は、ランプ電圧信号の整形を行う。具体的には、図4の拡大図に示すように、検出期間402においてランプ電圧信号を拡大すると、ランプ電圧信号は階段波である。例えば、波形整形部208は、階段波に含まれる各段差を、当該段差の高さに対応する波高値を有する台形波、三角波、ガウシアン波などの関数波に整形する。
【0054】
波高値測定部210は、整形された波形の波高値を測定する。具体的には、例えば、波高値測定部210は、マルチチャンネルアナライザーであり、台形波に整形された波形の波高を測定し、波高値として取得する。波高値測定部210は、例えば、波高値を10eV毎のエネルギー値に換算して弁別する。
【0055】
計数部212は、ランプ電圧信号に基づいて、上記電荷による電圧変化量毎に計数する。具体的には、計数部212は、波高値測定部210が測定した波高値に基づいて、2次X線116のエネルギーに対応したチャンネル毎に計数する。また、計数部212は、図2に示すように、取得した2次X線116のエネルギー毎の取得頻度を表すヒストグラム228を生成する。
【0056】
リセット信号検出部214は、スイッチ310がON状態またはOFF状態になったタイミングを検出する。具体的には、例えば、リセット信号検出部214は、ランプ電圧信号の立下りエッジのタイミングを検出する。また、リセット信号検出部214は、前置増幅器202から直接リセット信号を検出してもよい。
【0057】
周期計測部216は、ランプ電圧信号の周期(図4の計測周期)を計測する。具体的には、周期計測部216は、リセット信号検出部214が検出したリセット信号間の時間を計測する。なお、周期計測部216は、1個の試料112を測定する際に、1度だけ計測周期を測定しても良いし、複数回計測した計測周期の平均値を取得してもよい。
【0058】
計測周期は、半導体検出器106が検出したX線のエネルギー・強度が一定、もしくは半導体検出器106がX線を検出していない場合でも、漏れ電流の大きさによって変動する。具体的には、計測周期は、半導体検出器106に定常的に流れる電流が大きいほど短くなる。例えば、計測周期は、半導体検出器106が正常な状態であり漏れ電流が小さい場合は長く(図5(a)参照)、半導体検出器106が劣化し、漏れ電流が大きくなるほど短くなる(図5(b)参照)。半導体検出器106は、X線が長時間照射されること等によって損傷受け、漏れ電流は増加する。従って、計測周期の短さは、X線によって受けた損傷の大きさを表す要素となる。
【0059】
また、計測周期は、半導体検出器106が2次X線116を検出する事により短くなる。具体的には、計測周期は、半導体検出器106が検出した2次X線116の頻度(強度)が高い程、また、半導体検出器106が検出した2次X線116のエネルギーが高い程、短くなる。一方、計測周期は、半導体検出器106が検出した2次X線116の頻度(強度)が低い程、また、半導体検出器106が検出した2次X線116のエネルギーが低い程、長くなる。
【0060】
図6(a)は、同じエネルギーの2次X線116を測定した場合において、2次X線116の頻度による計測周期の変化を示す図である。2次X線116の頻度が高い場合(実線)におけるランプ電圧信号は、2次X線116の頻度が低い場合(鎖線)におけるランプ電圧信号よりも計測周期は短い。なお、2次X線116のエネルギーは同じであるため、計数部212は、同じ横軸(X線エネルギー)の位置に、頻度に応じて高さの異なるヒストグラム228を生成する。
【0061】
また、図6(b)は、同じ頻度の2次X線116を測定した場合において、2次X線116のエネルギーによる計測周期の変化を示す図である。2次X線116のエネルギーが高い場合(実線)におけるランプ電圧信号は、2次X線116のエネルギーが低い場合(鎖線)におけるランプ電圧信号よりも計測周期は短い。なお、2次X線116の頻度は同じであるため、計数部212は、異なる横軸(X線エネルギー)の位置に、高さが同じヒストグラム228を生成する。なお、説明のため、図6(a)及び図6(b)は、ランプ電圧信号に含まれる段差の高さを誇張して記載している。
【0062】
演算部110は、算出部218と、判定部220と、記憶部222と、予測部224と、分析部226と、を有する。
【0063】
算出部218は、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値を算出する。具体的には、例えば、算出部218は、電圧変化量とその発生頻度との積の総和に応じた第1電圧変化評価値を算出する。半導体検出器106がSDD検出器である場合において、ランプ電圧信号の振幅をa、波高値測定部210の各チャンネルのX線強度をbとする。X線エネルギーに対応するチャンネル番号をk、総チャンネル数をnとする。半導体検出器106が正常な状態において、半導体検出器106に生じる漏れ電流に起因するランプ電圧信号の上昇量をc0とする。この場合、第1電圧変化評価値は、ランプ電圧信号の振幅を、上記総和と半導体検出器106の正常時の漏れ電流の値との和で除算した値である。すなわち、第1電圧変化評価値は、数1で表される。数1で表される第1電圧変化評価値は、振幅を電圧の上昇量で除算した値であるため、半導体検出器106が正常な状態におけるランプ電圧信号の周期を表している。ここで、c0は、定数aとX線を検出していない時のランプ電圧信号の周期から、定数として予め算出された値である。
【数1】
【0064】
第2電圧変化評価値は、ランプ電圧信号の上昇量に応じた値である。具体的には、第2電圧変化評価値は、検出期間402におけるランプ電圧信号の傾きまたは増加量に応じた値である。ランプ電圧信号の傾きに応じた値は、例えば、周期計測部216が計測したランプ電圧信号の周期(図4の計測周期)である。すなわち、周期計測部216が計測したランプ電圧信号の周期をTとした場合、第2電圧変化評価値は、数2で表される。
【数2】
【0065】
判定部220は、第1電圧変化評価値と、第2電圧変化評価値と、に基づいて半導体検出器106が劣化しているか否か判定する。具体的には、判定部220は、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値との差分と、予め設定された第1閾値と、に応じて半導体検出器106が劣化しているか否かを判定する。すなわち、判定部220は、数3を満たす場合に半導体検出器106が劣化していないと判定し、数3を満たさない場合に半導体検出器106が劣化していると判定する。
【数3】
【0066】
例えば、判定部220は、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値との差分が1.0より小さければ、半導体検出器106が劣化していないと判定し、差分が1.0以上であれば、半導体検出器106が劣化していると判定する。
【0067】
また、判定部220は、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値との比率と、予め設定された第1閾値と、に応じて半導体検出器106が劣化しているか否かを判定してもよい。例えば、判定部220は、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値との比率が10%より小さければ、半導体検出器106が劣化していないと判定し、比率が10%以上であれば、半導体検出器106が劣化していると判定してもよい。
【0068】
すなわち、半導体検出器106が正常な状態であれば、ランプ電圧信号の実測の周期(第2電圧変化評価値)は、半導体検出器106が正常な状態におけるランプ電圧信号の周期(第1電圧変化評価値)とおよそ同じ値となるはずである。しかし、半導体検出器106が劣化し、半導体検出器106の漏れ電流が大きくなった場合、当該漏れ電流の大きさに応じてランプ電圧信号の実測の周期は短くなる。従って、判定部220は、第1電圧変化評価値と、第2電圧変化評価値と、に基づいて半導体検出器106が劣化しているか否か判定することができる。
【0069】
実際の測定結果に基づいて、判定部220が行う判定について説明する。図7は、測定によって得られたヒストグラム228の一例を示す図である。当該測定結果が得られた測定条件は、以下のとおりである。試料112は、Mn試料、測定時間は10秒である。X線強度はそれぞれ約1.2kcps、約10.1kcpsである。半導体検出器106に含まれるSDD素子302の温度は約−30℃である。当該ヒストグラム228から算出された第1電圧変化評価値及び第2電圧変化評価値は、表1の通りである。
【表1】
【0070】
表1に示すように、いずれの実験条件においても、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値の差分は、1.0より小さい。従って、判定部220は、半導体検出器106が劣化していないと判定する。
【0071】
表2は、SDD素子302の温度が約−10℃である測定条件で算出された第1電圧変化評価値及び第2電圧変化評価値を示す表である。SDD素子302の温度が上昇すると、半導体検出器106の漏れ電流が増加する。すなわち、SDD素子302の温度が高い状態で測定を行うことにより、半導体検出器106が劣化した状態と同等の測定結果を得ることが出来る。なお、上記測定結果との比較を行うため、他の測定条件は、上記と同様である。
【表2】
【0072】
表2に示すように、X線強度が1.2kcpsである実験条件において、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値の差分は、1.0以上である。従って、判定部220は、半導体検出器106が劣化していると判定する。
【0073】
なお、X線強度が10.1kcpsである実験条件において、SDD素子302の温度が高い状態(すなわち半導体検出器106が劣化した状態)であるにも関わらず、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値の差分は、1.0より小さい。半導体検出器106に検出される2次X線116の強度が高くなると、電圧変化量とその発生頻度との積の総和が大きくなる。数1に示すように、当該総和が大きくなると、ランプ電圧信号の周期に対する漏れ電流の寄与が小さくなる。当該総和が大きくなると半導体検出器106が劣化したか否かが正確に判断できないおそれがある。
【0074】
従って、判定部220は、総和と、予め設定された第2閾値と、に応じて、判定を行うか否かを決定してもよい。具体的には、例えば、判定部220は、数4を満たす場合に判定を行い、数4を満たさない場合は判定を行わなくてもよい。数4は、上記総和(2次X線116に起因するランプ電圧信号の変化量)が、c0(半導体検出器106が正常である場合に半導体検出器106に生じる漏れ電流に起因するランプ電圧信号の上昇量)の10倍(第2閾値)よりも小さい場合にのみ、判定が行われることを示す。
【数4】
【0075】
なお、判定部220は、単に、総和が予め設定された第2閾値よりも小さい場合にのみ判定を行ってもよい。
【0076】
記憶部222は、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値との差分もしくは比率を継続的に記憶する。具体的には、記憶部222は、一定期間ごとに、上記差分もしくは比率を記憶する。例えば、半導体検出器106が未使用である時点を0とした場合に、記憶部222は、半導体検出器106を使用した時間と、当該時間が経過した時点で上記差分もしくは比率と、の関係を記憶する。
【0077】
予測部224は、記憶された第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値との差分もしくは比率の推移から半導体検出器106が劣化する時期を予測する。具体的には、例えば、予測部224は、記憶部222が記憶した時間と上記差分もしくは比率との関係に基づいて、上記差分または比率が第1閾値より大きくなる時期を予測する。ここで、半導体検出器106は2次X線116を照射される時間が長いほど劣化するため、半導体検出器106を使用した時間が長くなるほど第2電圧変化評価値は小さくなる。従って、当該差分もしくは比率と時間との関係を関数(例えば1次関数)で近似することで、予測部224は、上記時期を予測することが出来る。
【0078】
なお、上記のように、半導体検出器106に検出される2次X線116の強度が高くなると、ランプ電圧信号の周期に対する漏れ電流の寄与が小さくなる。この場合、上記総和が大きくなり、予測部224は、半導体検出器106が劣化する時期を正確に判断できないおそれがある。従って、予測部224は、数4を満たす場合に予測を行い、数4を満たさない場合は予測を行わなくてもよい。
【0079】
分析部226は、計数された2次X線116に基づいて、試料112の元素を分析する。具体的には、例えば、分析部226は、従来技術を用いて、試料112の元素を定性分析または定量分析する。
【0080】
以上のように、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値を評価する事によって、測定中であっても、半導体検出器106が劣化しているか否かを正確に判断することができる。また、上記実施形態によれば、半導体検出器106や前置増幅器202にノイズ信号が混入した場合や半導体検出器106の冷却不良等が発生した場合であっても、第1電圧変化評価値と第2電圧変化評価値との差分もしくは比率に急激な変化が発生する。この変化を検知することで半導体検出器106の突発的な不良が発生したことを判定することができる。
【0081】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記構成は一例であって、これに限定されるものではない。上記の実施例で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成する構成で置き換えてもよい。
【0082】
例えば、実施例のX線分析装置100は1次X線114を試料112に照射し、試料112より発生した2次X線116を検出する装置であったが、試料112により回折や散乱したX線を検出する装置であってもよい。
【0083】
また、試料を励起する励起線は1次X線114に限らず、電子線や陽子線等の荷電粒子線を励起線として用いてもよい。具体的には、X線分析装置100は、励起線として1次X線114を発生させるX線源104に代えて、励起線として荷電粒子線を発生させる荷電粒子線源(電子銃、加速器、放射線源等)を有してもよい。さらに、使用する半導体検出器106は、SDD検出器、Si(Li)検出器、Si−PIN検出器、CdTe検出器等であり、種類は特に問わない。
【0084】
また、第1電圧変化評価値及び第2電圧変化評価値は、上記に限らない。例えば、第1電圧変化評価値は、電圧変化量とその発生頻度との積の総和(数5)であり、第2電圧変化評価値は、周期計測部216が計測したランプ電圧信号の周期(数2)であってもよい。
【数5】
【0085】
そして、判定部220は、ランプ電圧信号の振幅を第2電圧変化評価値で除算した値から第1電圧変化評価値を差し引いた値に基づいて、半導体検出器106が劣化しているか否か判定してもよい。具体的には、周期計測部216が計測したランプ電圧信号の周期をTとした場合、半導体検出器106に生じる漏れ電流に起因するランプ電圧信号の上昇量cは下記数6で表される。数6の右辺は、ランプ電圧信号の振幅aを第2電圧変化評価値で除算した値から第1電圧変化評価値を差し引いた値である。
【数6】
【0086】
半導体検出器106が正常な状態において、半導体検出器106に生じる漏れ電流に起因するランプ電圧信号の上昇量をc0とした場合に、半導体検出器106の劣化の度合い、すなわち劣化に起因する漏れ電流の変化は、cとc0の差分である。従って、判定部220は、当該差分が予め設定された第1閾値より小さい場合(数7を満たす場合)に、半導体検出器106が劣化していないと判定してもよい。
【数7】
【0087】
半導体検出器106が劣化した場合は、半導体検出器106の漏れ電流が増加する。上記のように、判定部220は、第1電圧変化評価値及び第2電圧変化評価値を用いて、漏れ電流の大きさを算出することによって、半導体検出器106が劣化しているか否かを判定してもよい。
【0088】
この場合においても、判定部220は、総和と、予め設定された第2閾値と、に応じて、判定を行うか否かを決定してもよい。また、記憶部222は、cとc0との差分もしくは比率を継続的に記憶してもよい。そして、予測部224は、記憶された差分もしくは比率の推移から半導体検出器106が劣化する時期を予測してもよい。さらに、予測部224は、数4を満たす場合に予測を行い、数4を満たさない場合は予測を行わなくてもよい。
【0089】
さらに、X線信号処理装置200は、半導体検出器106が劣化した旨をユーザに知らせる報知部を有してもよい。具体的には、例えば、報知部は、判定部220の判定した結果を表示する表示装置である。また、報知部は、判定部220が半導体検出器106が劣化したと判定した場合に、ユーザに警報を発するスピーカであってもよい。さらに、報知部は、上記予測部224が予測した半導体検出器106が劣化する時期をユーザに知らせてもよい。
【符号の説明】
【0090】
100 X線分析装置、102 試料台、104 X線源、106 半導体検出器、108 処理部、110 演算部、112 試料、114 1次X線、116 2次X線、200 X線信号処理装置、202 前置増幅器、、206 AD変換器、208 波形整形部、210 波高値測定部、212 計数部、214 リセット信号検出部、216 周期計測部、218 算出部、220 判定部、222 記憶部、224 予測部、226 分析部、228 ヒストグラム、302 SDD素子、304 電圧源、306 コンデンサ、308 オペアンプ、310 スイッチ、402 検出期間、404 リセット期間、406 2次X線検出タイミング。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2020年1月16日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出されたX線のエネルギーに応じた電荷を生じる半導体検出器と、
前記生じる電荷に応じたランプ電圧信号を出力する前置増幅器と、
記電荷によって前記ランプ電圧信号が変化する回数を、該変化の前後の電圧変化量毎に計数する計数部と、
前記電圧変化量とその発生頻度との積の総和に応じた第1電圧変化評価値と、前記ランプ電圧信号の傾きまたは周期を用いて表される第2電圧変化評価値と、正常時の前記半導体検出器に生じる漏れ電流に起因する前記ランプ電圧信号の上昇量に基づいて予め設定された第1閾値と、に基づいて前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する判定部と、
を有することを特徴とするX線信号処理装置。
【請求項2】
前記第1電圧変化評価値は、前記ランプ電圧信号の振幅を、前記総和と前記半導体検出器の正常時の漏れ電流の値との和で除算した値であることを特徴とする請求項1に記載のX線信号処理装置。
【請求項3】
前記ランプ電圧信号の各出力周期は、前記ランプ電圧信号が上限値に達してから下限値に低減されるリセット期間と、前記リセット期間以外の検出期間と、を含み、
前記第2電圧変化評価値は、前記検出期間における前記ランプ電圧信号の傾き、または、前記ランプ電圧信号の周期である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のX線信号処理装置。
【請求項4】
さらに、前記ランプ電圧信号の周期を計測する周期計測部を有し、
前記第2電圧変化評価値は、前記周期計測部が計測した前記ランプ電圧信号の周期であって、
前記判定部は、前記第1電圧変化評価値と前記第2電圧変化評価値との差分または比率と、前記第1閾値と、に応じて前記半導体検出器が劣化しているか否かを判定する、ことを特徴とする請求項3に記載のX線信号処理装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記総和と、予め設定された第2閾値と、に応じて、前記判定を行うか否かを決定する、ことを特徴とする請求項4に記載のX線信号処理装置。
【請求項6】
さらに、前記第1電圧変化評価値と前記第2電圧変化評価値との差分もしくは比率を継続的に記憶する記憶部と、
記憶された前記差分もしくは比率の推移から前記半導体検出器が劣化する時期を予測する予測部と、
を有することを特徴とする請求項4または5に記載のX線信号処理装置。
【請求項7】
さらに、前記ランプ電圧信号の周期を計測する周期計測部を有し、
前記第1電圧変化評価値は、前記総和であり、
前記第2電圧変化評価値は、前記周期計測部が計測した前記ランプ電圧信号の周期であり、
前記判定部は、前記ランプ電圧信号の振幅を前記第2電圧変化評価値で除算した値から前記第1電圧変化評価値を差し引いた値に基づいて、前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線信号処理装置。
【請求項8】
試料に励起線が照射されることで発生したX線を検出することにより、該X線のエネルギーに応じた電荷を生じる半導体検出器と、
前記生じる電荷に応じたランプ電圧信号を出力する前置増幅器と、
記電荷によって前記ランプ電圧信号が変化する回数を、該変化の前後の電圧変化量毎に計数する計数部と、
前記電圧変化量とその発生頻度との積の総和に応じた第1電圧変化評価値と、前記ランプ電圧信号の傾きまたは周期を用いて表される第2電圧変化評価値と、正常時の前記半導体検出器に生じる漏れ電流に起因する前記ランプ電圧信号の上昇量に基づいて予め設定された第1閾値と、に基づいて前記半導体検出器が劣化しているか否か判定する判定部と、
前記計数されたX線に基づいて、前記試料の元素を分析する分析部と、
を有することを特徴とするX線分析装置。