【解決手段】実路面の凹凸を再現した樹脂製の第1模擬路面を作成する工程と、第1模擬路面からミクロな凹凸を除去して第2模擬路面を作成する工程と、ゴム部材と樹脂製の面との間の粘着力の温度依存性を調べる工程と、粘着力試験の結果に基づきゴム部材と樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数を決定する工程と、実路面、第1模擬路面及び第2模擬路面のそれぞれに対するゴム部材の摩擦力を基準温度において測定するとともに、第2模擬路面に対するゴム部材の摩擦力を基準温度以外の温度において測定する工程と、測定された摩擦力及び前記温度依存係数を使用して摩擦力の凝着成分及びヒステリシス成分を求める工程を含む。
模擬路面の表面粗さデータを周波数分析して得られる波のうち0.1mm以上1.0mm以下の範囲内にある所定波長の波の周波数をカットオフ周波数としてローパスフィルタ及びハイパスフィルタを設定し、
測定で得られた前記第1模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタをかけて得られた波からなる波形の表面粗さと、測定で得られた前記第2模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタをかけて得られた波からなる波形の表面粗さとの差が5%以下であり、かつ、測定で得られた前記第2模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してハイパスフィルタをかけて得られた波からなる波形の表面粗さが10μm以下となるように、
前記第1模擬路面からミクロな凹凸を除去して前記第2模擬路面を作成する、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0014】
<全体工程>
図1に示すように、実施形態の摩擦評価方法は、実路面の凹凸を再現した樹脂製の第1模擬路面を作成する第1模擬路面作成工程(S1)と、マクロな凹凸及びミクロな凹凸を有する第1模擬路面からミクロな凹凸を除去して第2模擬路面を作成する第2模擬路面作成工程(S2)と、ゴム部材と樹脂製の面との間の粘着力の温度依存性を調べる試験を行う粘着力試験工程(S3)と、粘着力試験の結果に基づきゴム部材と樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数を決定する温度依存係数決定工程(S4)と、実路面、第1模擬路面及び第2模擬路面のそれぞれに対するゴム部材の摩擦力を基準温度において測定するとともに、第2模擬路面に対するゴム部材の摩擦力を基準温度以外の温度において測定する摩擦力測定工程(S5)と、測定されたそれぞれの摩擦力及び前記温度依存係数を使用して摩擦力の凝着成分及びヒステリシス成分を求める計算工程(S6)とを含む。
【0015】
<第1模擬路面作成工程>
第1模擬路面作成工程では、アスファルト等からなる実路面の凹凸を再現した樹脂製の第1模擬路面が作成される。作成方法の具体例としては、実路面の凹凸がシリコンゴムで型取りされ、そのシリコンゴムの型に樹脂が流し込まれ、その樹脂が硬化して第1模擬路面となる。使用される樹脂としては例えば二液混合型の樹脂が挙げられ、より具体的な例としては二液混合型のウレタン樹脂が挙げられる。
【0016】
ここで、第1模擬路面ひいては後述する第2模擬路面が樹脂で形成される理由は、ゴムと樹脂との間の粘着力が温度に依存して大きく変化するからであり、そのことにより、ゴム部材と樹脂性の第2模擬路面との間の摩擦力の凝着成分が温度に依存して大きく変化するからである。後述するようにこの温度依存性が本実施形態において利用される。すなわち、樹脂性の同じ面において温度を変化させながら摩擦力を測定すると、温度によって摩擦力が変化するが、この摩擦力の変化は凝着成分の温度変化に起因するとみなせる。そのことから、摩擦力の凝着成分とヒステリシス成分とを求めることができる。なお、アスファルト等からなる実路面とゴムとの間の粘着力の温度依存性は小さい。
【0017】
第1模擬路面は、その表面粗さを接針式の表面粗さ計で測定したときに、実路面の表面粗さを1μmオーダーで再現したものであることが好ましい。また、第1模擬路面は、ゴム部材が押し付けられたときに目視上明らかな変形をしない硬度を有することが必要である。具体的には、第1模擬路面のデュロメータタイプD硬さが80以上84以下であることが好ましい。また、第1模擬路面を形成する樹脂の弾性率は、ゴム部材を形成するゴムの弾性率の10倍以上であることが好ましい。また、第1模擬路面を形成する樹脂についてJIS K 7113の方法で測定した引張強さは例えば55MPa以上65MPa以下である。
【0018】
<第2模擬路面作成工程>
第2模擬路面作成工程では、第1模擬路面の表面が研磨されて、マクロな凹凸及びミクロな凹凸を有していた第1模擬路面からミクロな凹凸が除去され、第2模擬路面とされる。研磨には目の細かい研磨布が使用される。
【0019】
ここで、実路面は、小石等の骨材がアスファルト等の素地に埋め込まれて形成されている。そして、マクロな凹凸とは、骨材の大まかな形状等に基づく大きな凹凸のことである。また、ミクロな凹凸とは、素地の表面の微細な凹凸や骨材の表面の微細な凹凸等に基づく小さな凹凸のことである。摩擦力のヒステリシス成分にはミクロな凹凸が効くことがわかっており、第1模擬路面からミクロな凹凸が除去されることにより、第2模擬路面では摩擦力のヒステリシス成分が小さくなる。
【0020】
<第2模擬路面が適正であることの確認方法>
適正な第2模擬路面が作成されたことは
図2に示す方法で確認される。まず、上記の通り第1模擬路面からミクロな凹凸が除去されて第2模擬路面が作成される(S2−1)。
【0021】
次に、第1模擬路面及び第2模擬路面の表面粗さがそれぞれ表面粗さ計で測定される(S2−2)。測定された表面粗さデータは、周波数分析装置に取り込まれて、周波数分析される(S2−3)。
【0022】
ここで、路面の表面粗さデータを周波数分析して得られる波のうち0.1mm以上1.0mm以下の範囲内にある所定波長の波が基準とされ、基準の波の波長より大きな波長の波がマクロな凹凸によるもので、基準の波の波長より小さな波長の波がミクロな凹凸によるものであると考えることとする。この考えに基づき、路面の表面粗さデータを周波数分析して得られる波のうち0.1mm以上1.0mm以下の範囲内にある所定波長の波の周波数が、カットオフ周波数として設定される。カットオフ周波数より低い周波数の成分をほとんど減衰させず、カットオフ周波数より高い周波数の成分を減衰させるフィルタが、ローパスフィルタとして設定される(S2−4)。また、カットオフ周波数より高い周波数の成分をほとんど減衰させず、カットオフ周波数より低い周波数の成分を減衰させるフィルタが、ハイパスフィルタとして設定される(S2−4)。
【0023】
次に、第1模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタがかけられ、波長の大きな波が取得される。このようにして取得された波が合成されて出来た波形は、第1模擬路面のマクロな凹凸を再現しているとみなすことができる。そこで、前記の合成されて出来た波形から表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が計算される(S2−5)。その計算結果は第1模擬路面のマクロな凹凸に基づく表面粗さ(マクロな表面粗さ)であるとみなすことができる。同様に、第2模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタをかけて得られた波から波形が合成され、合成されて出来た波形から表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が計算される(S2−5)。
【0024】
次に、第1模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタをかけて得られた波からなる波形の表面粗さ(すなわちマクロな表面粗さ)と、第2模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタをかけて得られた波からなる波形の表面粗さ(すなわちマクロな表面粗さ)とが比較される。そして、両者の差が5%以下の場合、すなわち両者の差がいずれか一方の値の5%以下の場合(S2−6のYES)、第1模擬路面と第2模擬路面とでマクロな凹凸がほとんど変化していないと判断され、第2模擬路面のマクロな凹凸が適正であると判断される。
【0025】
次に、第2模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してハイパスフィルタがかけられ、波長の小さな波が取得される。このようにして取得された波が合成されて出来た波形は、第2模擬路面のミクロな凹凸を再現しているとみなすことができる。そこで、前記の合成されて出来た波形から表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が計算される(S2−7)。その計算結果は第2模擬路面のミクロな凹凸に基づく表面粗さ(ミクロな表面粗さ)であるとみなすことができる。この表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が10μm以下の場合(S2−8のYES)、第2模擬路面がミクロな凹凸が除去されたものであると判断され、第2模擬路面のミクロな凹凸が適正であると判断される。
【0026】
第2模擬路面のマクロな凹凸又はミクロな凹凸が適正でないと判断された場合(S2−6のNO、S2−8のNO)は、各凹凸が適正になるように第2模擬路面が作成し直される(S2−1)。
【0027】
S2−3からS2−8までの工程は、周波数分析装置又はそれに接続されたコンピュータにより実行される。なお、S2−5からS2−6までの工程と、S2−7からS2−8までの工程とは、順序が入れ替わっても良い。
【0028】
<粘着力試験工程>
一方で、ゴム部材と樹脂製の粘着力試験面との間の粘着力の温度依存性を調べる試験が行われる。
図3に示すように、この試験では、ゴム部材1が樹脂製の粘着力試験面2に対し所定の荷重で押し付けられた後に引き離され、引き離すのに要した力(N)が測定される。この測定には既知の装置が使用できる。
【0029】
この試験におけるゴム部材1として、最終的な摩擦評価対象のゴム部材が使用される。また、粘着力試験面2は、第1模擬路面及び第2模擬路面を形成する樹脂と同じ樹脂で形成される。その理由は、樹脂が同じであればゴム部材と樹脂製の面との間の粘着力(及び摩擦力の凝着成分)の温度依存性が同じなので、粘着力試験結果(すなわち粘着力試験面2における粘着力の温度依存性)を、第2模擬路面における摩擦力の凝着成分の温度依存性に利用することができるからである。粘着力試験面2は、第2模擬路面そのものであることが好ましいが、第1模擬路面でも良く、また第1模擬路面及び第2模擬路面とは別に作製された樹脂製の路面であっても良い。
【0030】
粘着力の温度依存性を調べるための試験温度として、2点以上の温度が選択される必要があり、3点以上の温度が選択されることがより好ましい。その場合に選択される温度として、例えば、常温(例えば20〜25℃)と、常温時に対して摩擦力の凝着成分が約2倍になると予想される低温(例えば0〜10℃)と、常温時に対して摩擦力の凝着成分が約1/2になると予想される高温(例えば35〜40℃)とが含まれる。そして、それぞれの温度において、上記の測定が行われる。測定は、ゴム部材1と粘着力試験面2とが試験温度に達した状態で行われる。本実施形態においては、常温、低温及び高温の3点で試験が行われるものとする。
【0031】
ゴム部材と樹脂製の面との間の粘着力は温度に依存して大きく変化するため、粘着力試験結果として、温度毎に大きく異なる測定結果が得られる。測定結果の例を
図4に棒グラフとして示す。
【0032】
<温度依存係数決定工程>
次に、粘着力試験結果に基づき、ゴム部材と樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数が決定される。
【0033】
具体的には、まず、ゴム部材と粘着力試験面との間の粘着力の温度依存係数として、ある基準温度T
baseにおける係数1に対する別の温度T
iにおけるそれぞれの係数a
iが求められる。
【0034】
その求め方の一例としては、温度毎の粘着力のデータに対して最小二乗法等による線形回帰が行われ、温度変化に対する粘着力の変化を近似する(
図4を例にすれば、棒グラフの複数の棒の頂点を近似する)関数が求められる(その関数の例を
図4に直線で示す)。そして、求まった関数に基づき、ある基準温度T
baseにおける粘着力を1としたときの別の温度T
iにおける粘着力の割合が、その温度T
iにおける係数a
iとして決定される。例えば、常温である基準温度T
baseにおける粘着力が26.0N、低温である温度T
1(すなわちi=1)における粘着力が48.4N、高温である温度T
2(すなわちi=2)における粘着力が8.8Nの場合、温度T
1における係数a
1は48.4/26.0=1.86、温度T
2における係数a
2は8.8/26.0=0.34である。
【0035】
ここで、基準温度T
base及び別の温度T
iとして、後述する摩擦力測定のときの温度が選択される。本実施形態では、後述する摩擦力測定が上記の常温、低温及び高温の3点で行われるものとし、基準温度T
baseとして常温が選択され、別の温度T
iとして低温T
1及び高温T
2が選択されるものとする。
【0036】
ここで、本実施形態において粘着力としている力は上記のように樹脂製の路面に押し付けられたゴム部材を引き離すのに要した力であり、ゴム部材が路面に対し滑るときの摩擦力の凝着成分とは大きさが異なる。しかし、温度依存性に関しては、前記粘着力と前記凝着成分とで同じであるとみなすことができる。そのため、上記のようにして求まったゴム部材と粘着力試験面との間の粘着力の温度依存係数が、そのまま、ゴム部材と粘着力試験面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数とされる。
【0037】
また、粘着力試験面における粘着力(又は摩擦力の凝着成分)の温度依存係数は、粘着力試験面と同じ樹脂で形成された面全般についてそのまま使用することができる。そして、粘着力試験面を形成する樹脂と第2模擬路面を形成する樹脂とは同じである。そのため、ゴム部材と粘着力試験面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数は、ゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存性係数と同じであるとみなすことができる。
【0038】
以上のようにして、ゴム部材と樹脂製の面(具体的には粘着力試験面や第2模擬路面)との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数が決定される。
【0039】
温度依存係数を使用することにより、各温度における摩擦力の凝着成分が求められる。すなわち、基準温度T
baseのときの摩擦力の凝着成分がF3
adhだとすると、別の温度T
iのときの摩擦力の凝着成分はa
i×F3
adhとして求められる。
【0040】
<摩擦力測定工程>
次に、ゴム部材と実路面との間の基準温度T
baseでの摩擦力F1と、ゴム部材と第1模擬路面との間の基準温度T
baseでの摩擦力F2と、ゴム部材と第2模擬路面との間の基準温度T
baseでの摩擦力F3
baseと、ゴム部材と第2模擬路面との間の温度T
i(iは1つ又は2つ以上)でのそれぞれの摩擦力F3
iとが測定される。
【0041】
ここで、本実施形態では温度T
iとして上記のように低温T
1及び高温T
2が選択される。従って、本実施形態では、ゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力として、基準温度T
baseでの摩擦力F3
baseと、低温T
1での摩擦力F3
1と、高温T
2での摩擦力F3
2とが測定される。
【0042】
測定には既知の摩擦力の測定装置が使用できる。測定は、ゴム部材と各路面とがそれぞれの温度に達した状態で行われる。
【0043】
測定された摩擦力は凝着成分とヒステリシス成分とからなるものとする。すなわち、
F1=F1
adh+F1
his・・・(式1)
F2=F2
adh+F2
his・・・(式2)
F3
base=F3
adh+F3
his・・・(式3)
F3
i=a
i×F3
adh+F3
his・・・(式4)
(式1におけるF1
adh、式2におけるF2
adh、式3におけるF3
adh及び式4におけるa
i×F3
adhは各摩擦力における凝着成分、式1におけるF1
his、式2におけるF2
his、式3におけるF3
his及び式4におけるF3
hisは各摩擦力におけるヒステリシス成分)
が成立するものとする。
【0044】
ここで示されているように、式3と式4とでは摩擦力の測定温度が異なるので、摩擦力の凝着成分が異なる。具体的には、基準温度T
baseのときの摩擦力の凝着成分がF3
adh(式3参照)で、別の温度T
iのときの摩擦力の凝着成分はa
i×F3
adh(式4参照)である。a
iは、上記の温度依存係数決定工程で決定された係数である。
【0045】
一方、摩擦力の測定温度が異なっても路面の凹凸が同じであればヒステリシス成分はほぼ同じだという仮定のもと、式3と式4とではヒステリシス成分が同じとなっている。
【0046】
なお、厳密には、摩擦力の測定温度が異なるとヒステリシス成分も僅かに異なると考えられる。しかし、第2模擬路面からはミクロな凹凸が除去されているため、第2模擬路面における摩擦力のヒステリシス成分は小さい(
図5参照)。従って、第2模擬路面における摩擦力のヒステリシス成分の大きさやその変化量は、凝着成分の大きさやその変化量と比べて、非常に小さい。そのため、第2模擬路面における摩擦力に関しては、測定温度の違いによるヒステリシス成分の違いを無視することができる。その点、第1模擬路面にはミクロな凹凸がありヒステリシス成分が大きいため(
図5参照)、第1模擬路面においては測定温度の違いによるヒステリシス成分の違いを無視できない。
【0047】
上記のように本実施形態ではゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力が、基準温度T
baseの他に低温T
1及び高温T
2で測定されるので、式4は
F3
1=a
1×F3
adh+F3
his・・・(式4−1)
F3
2=a
2×F3
adh+F3
his・・・(式4−2)
の2つの式からなる。
【0048】
<計算工程>
上記の式1〜式4に基づき、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1
adh及びヒステリシス成分F1
hisが計算される。この計算は例えばコンピュータが実施する。計算の前提として次のことが仮定される。
【0049】
表1に示すように、実路面と第1模擬路面とでは、材質が異なり、表面粗さが同じである。実路面がアスファルト等からなるのに対して第1模擬路面が樹脂からなるので、実路面における摩擦力の凝着成分が基準値だとすると、第1模擬路面における摩擦力の凝着成分はその基準値より大きい。一方、実路面と第1模擬路面とでは、凹凸状態が同じだと言えるので、摩擦力のヒステリシス成分が同じだと仮定できる。
【0050】
また、表1に示すように、第1模擬路面と第2模擬路面とでは、材質が同じで、表面粗さが異なる。第1模擬路面も第2模擬路面も同じ樹脂からなるので、これらの路面における摩擦力の凝着成分は同じだと仮定できる。一方、第1模擬路面の表面粗さにはミクロな粗さが含まれるのに対して第2模擬路面の表面粗さにはミクロな粗さが含まれないので、第2模擬路面における摩擦力のヒステリシス成分は、実路面や第1模擬路面における摩擦力のヒステリシス成分と比べて、小さいと仮定できる。
【0052】
以上の仮定を図示すると
図5のようになる。
図5の棒グラフにおける格子状の部分は凝着成分を表し、ドット状の部分はヒステリシス成分を表している。以上のことから、式1〜式4において、F3
adh=F2
adhとみなし、F2
his=F1
hisとみなすことができる。このことを利用してゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1
adh及びヒステリシス成分F1
hisを求めることができる。
【0053】
まず、式3と式4とからF3
adhとF3
hisとが求められる。F3
adhとF3
hisとが求められる具体的方法の例としては、式3と、温度毎に成立する複数の式4とから、2つの式の組み合わせが全て抽出され、それぞれの組み合わせから暫定的なF3
adhと暫定的なF3
hisとが求められ、求まった複数の暫定的なF3
adhのうちの中央値と、F3
adhがその中央値のときのF3
hisの値とが、最終的なF3
adhとF3
hisとされる。
【0054】
具体例としては、本実施形態では、第2模擬路面における摩擦力の式として、式3、式4−1及び式4−2が存在する。これら3つの式から、2つの式の組み合わせが3つ出来る。すなわち、
F3
base=F3
adh+F3
his・・・(式3)及び
F3
1=a
1×F3
adh+F3
his・・・(式4−1)
の第1の組み合わせ、
F3
1=a
1×F3
adh+F3
his・・・(式4−1)及び
F3
2=a
2×F3
adh+F3
his・・・(式4−2)
の第2の組み合わせ、及び
F3
base=F3
adh+F3
his・・・(式3)及び
F3
2=a
2×F3
adh+F3
his・・・(式4−2)
の第3の組み合わせである。
【0055】
F3
base、F3
1及びF3
2、が測定で明らかになっており、a
1及びa
2が求まっているので、第1の組み合わせの連立方程式を解いて、暫定的なF3
adh及び暫定的なF3
hisを求めることができる。同様に、第2の組み合わせの連立方程式から暫定的なF3
adh及び暫定的なF3
hisが求まり、第3の組み合わせの連立方程式からも暫定的なF3
adh及び暫定的なF3
hisが求まる。
【0056】
理想的には、第1〜第3の組み合わせのどの連立方程式を解いても、暫定的なF3
adh及び暫定的なF3
hisは同じ値となる。しかし、実際には摩擦力の測定誤差等が原因で、連立方程式毎に、求まる暫定的なF3
adh及び暫定的なF3
hisが異なる。
【0057】
そこで、求まった3つの暫定的なF3
adhのうちの中央値が最終的な(言い換えれば正式な)F3
adhとされる。そして、F3
adhがその値(すなわち上記の中央値)のときのF3
hisが式3(式4−1又は式4−2でも良い)から計算され、最終的なF3
hisとされる。
【0058】
次に、上記のようにF3
adh=F2
adhとみなすことができるので、式2のF2
adhとしてF3
adhの値を入れ、F2−F3
adhを計算してF2
hisを求めることができる。
【0059】
次に、上記のようにF2
his=F1
hisとみなすことができるので、式1のF1
hisとしてF2
hisの値を入れ、F1−F2
hisを計算してF1
adhを求めることができる。
【0060】
以上のようにして、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1
adh及びヒステリシス成分F1
hisが求まる。
【0061】
以上のように、本実施形態の方法によれば、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1
adh及びヒステリシス成分F1
hisを明らかにすることができる。
【0062】
<変更例1>
変更例について説明する。この変更例では、ゴム部材と樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数として、ある基準温度T
baseにおける係数1に対する別の1つの温度T
1における係数a
1が求められる。また、ゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力として、基準温度T
baseでの摩擦力F3
baseと、別の温度低温T
1での摩擦力F3
1とが測定される。
【0063】
従って、
F3
base=F3
adh+F3
his・・・(式3)
F3
1=a
1×F3
adh+F3
his・・・(式4)
の2つの式が出来る。F3
baseとF3
1とが測定されており、係数a
1が求められているので、これら2つの連立方程式を解けばF3
adhとF3
hisとが求まる。F3
adhとF3
hisとが求まれば、上記実施形態の計算工程と同様にして、式1及び式2に基づき、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1
adh及びヒステリシス成分F1
hisが求まる。
【0064】
摩擦力の測定誤差が小さい場合は、上記の2つの式の連立方程式を解くだけでも十分精度の良いF3
adhとF3
hisとが求まり、F1
adhとF1
hisとを明らかにすることができる。
【0065】
<変更例2>
別の変更例について説明する。この変更例では、ゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力として、基準温度T
baseでの摩擦力F3
baseと、別の3点以上の温度T
i(i=1、2、3・・・)でのそれぞれの摩擦力F3
i(i=1、2、3・・・)とが測定される。また、それぞれの温度における、ゴム部材と樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数a
i(i=1、2、3・・・)が求められる。
【0066】
従って、
F3
base=F3
adh+F3
his・・・(式3)
F3
i=a
i×F3
adh+F3
his(i=1、2、3・・・)・・・(式4)
という4つ以上の式が出来る。これらの式から2つの式の組み合わせが全て抽出され、それぞれの組み合わせから暫定的なF3
adhと暫定的なF3
hisとが求められる。そして、求まった複数の暫定的なF3
adhのうちの中央値と、F3
adhがその中央値のときのF3
hisの値とが、最終的なF3
adhとF3
hisとされる。