【解決手段】本発明の偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する偏光素子であって、透明基板20と、使用帯域の光の波長より短いピッチp40で主面22に配列され、Y方向に延びる凸部40と、を備える。凸部は誘電層52と導電層54とがZ方向に沿って交互に2組以上積層された積層体50を有する。導電層54は使用帯域の光に対して吸収性を有する第1導電層55と使用帯域の光に対して反射性を有する第2導電層56を含む。光の入射側に最も近い導電層54としては、第1導電層55が設けられている。
【背景技術】
【0002】
偏光素子は、表面に平行な一方向の偏光を吸収し、表面に平行かつ一方向と直交する方向の偏光を透過させる光学素子である。液晶表示装置には、偏光素子が用いられている。特に、透過型液晶プロジェクタのように大きな光量の光源を使用する液晶表示装置では、偏光素子は強い輻射線を受ける。そのため、偏光素子には優れた耐熱性や耐光性が求められる。また、偏光素子には、数cm程度の大きさを確保でき、高い消光比及び反射率特性を制御できることが求められる。これらの要求に応える偏光素子として、ワイヤグリッド型の無機偏光素子が提案されている。
【0003】
ワイヤグリッド型の偏光素子は、基板上に、一方向に延在するワイヤを、使用する光の波長より狭いピッチで多数並べて配置した構造を有する。ワイヤは、導体からなり、使用する光に対して反射層として機能する。ワイヤのピッチは、数十nmから数百nm程度である。ワイヤの延在方向に平行な偏光はTE波又はS波であり、TE波の光がワイヤグリッド型の偏光素子に入射しても透過できない。一方、ワイヤの延在方向に垂直な偏光はTM波又はP波であり、TM波の光がワイヤグリッド型の偏光素子に入射するとそのまま透過する。
【0004】
上述の構造を有するワイヤグリッド型の偏光素子は、耐熱性及び耐光性に優れている。また、既存の成膜技術やエッチング技術を用いて、比較的大きな素子を作製できる。また、ワイヤグリッド型の偏光素子は、高い消光比を有する。さらに、ワイヤを誘電層と金属層との積層構造で構成することによって、ワイヤグリッド型の偏光素子の反射率の特性を制御できる。
【0005】
ワイヤグリッド型の偏光素子の表面で反射された戻り光は、液晶プロジェクタの装置内で再度反射される。このことによって、ゴーストが生じる、前述のように優れた特徴や機能を有するワイヤグリッド型の偏光素子によれば、ゴースト等による画質の劣化を抑えることができる。
【0006】
従来のワイヤグリッド型の偏光素子では、ピッチとグリッド幅との関係からわかるように、波長が短くなる程、光の透過率が低下する。グリッド幅は、基板の表面に平行かつワイヤの延在方向に垂直な方向におけるワイヤの大きさを意味する。例えば、液晶プロジェクタで使用される可視波長帯域のうち青色帯域を600nmから680nmまで、緑色帯域を520nmから590nmまで、赤色帯域を600nmから680nmまでとすると、青色帯域で光の透過率が最も低くなる。
【0007】
ワイヤグリッド型の偏光素子のグリッド幅を狭くすることによって、光の透過率を高められることは知られているが、実際にグリッド幅を狭めたパターンを設計通りに形成することの難易度は高く、製造時のばらつきが生じやすい。また、グリッド幅を狭くすることによって、作製した偏光素子の信頼性を維持することが困難になる。
【0008】
上述の懸念を解消するために、種々の構造を有するワイヤグリッド型の偏光素子が提案されている。例えば、特許文献1から特許文献3には、透明基板上に使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列された格子状凸部を備えた偏光素子が開示されている。特許文献1から特許文献3までの偏光素子の格子状凸部は、透明基板側から順に反射層と、誘電層と、吸収層とを有する。特許文献1の偏光素子の格子状凸部の先端部は、先端に近づくにしたがって細くなるように傾斜している。特許文献2の偏光素子の格子状凸部の幅は、一定である。特許文献2の偏光素子の反射層は、金属層と、金属層の側面を覆う酸化物層とを有する。特許文献3の偏光素子の格子状凸部では、反射層の幅が誘電層の幅よりも小さい。
【0009】
特許文献4には、表面を有する基板と、表面に配置される平行且つ細長いワイヤプリフォームのアレイとを含む偏光素子が開示されている。特許文献4の偏光素子のワイヤプリフォームのそれぞれは、入射光の波長より小さいグリッド周期で配置され、交互にされる細長い金属ワイヤと細長い誘電層とからなるワイヤ内下位構造を含む。ワイヤ内下位構造は、少なくとも2つの細長い金属ワイヤを含む。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
[一実施形態の偏光素子の構成]
図1は、本発明の一実施形態の偏光板(偏光素子)10の平面図である。
図1に示すように、偏光板10は、透明基板20と、複数の凸部40と、を備える。凸部40は、透明基板20の主面(表面)22に沿う第1方向に延びている。以下、複数の凸部40が主面22に沿って配列する方向をX方向とする。凸部40の延びる方向をY方向(第1方向)とする。X方向及びY方向に直交する方向であって、凸部40が主面22から突出する方向をZ方向(第2方向)とする。
【0029】
偏光板10に対して、光は、Z方向に沿って逆向きに、凸部40及び主面22側から入射する。Y方向に平行な電界成分をもつ偏光は、TE波又はS波と呼ばれる。一方、X方向に平行な電界成分をもつ偏光は、TM波又はP波と呼ばれる。偏光板10は、透過、反射、干渉、及び光学異方性による偏光の選択的光吸収の4つの作用によって、入射したTE波を減衰させ、TM波を透過させる。したがって、偏光板10の吸収軸31は、Y方向に向いている。偏光板10の透過軸32は、X方向に向いている。
【0030】
以下、高さとは、主面22からZ方向に沿った寸法を意味する。幅とは、Y方向から見たときのX方向の寸法を意味する。ピッチとは、Y方向から見たときに、X方向において複数繰り返される間隔を意味する。
【0031】
図2は、偏光板10の一部をX方向及びZ方向を含む面で切断した断面図である。
図2に示すように、複数の凸部40は、使用帯域の光の波長より短いピッチp40で主面22に配列されている。
【0032】
透明基板20は、使用帯域の光に対して透光性を示す基板である。透明基板20の高さは、例えば0.3mm以上1mm以下であるが、偏光板10の透過軸32の偏光の透過率及び吸収軸31の偏光の吸収率がそれぞれ良好に維持できれば特に限定されない。
【0033】
凸部40は、Y方向に沿って帯状に延びる誘電層(第1誘電層)52と導電層54とがZ方向に沿って交互に複数組で積層された積層体50を有する。導電層54は、使用帯域の光に対して吸収性を有する第1導電層55と、使用帯域の光に対して反射性を有する第2導電層56を含む。光の入射側に最も近い導電層54として第1導電層55が設けられている。偏光板10の使用帯域は、主に可視波長帯域であり、本明細書において380nm以上810nm以下とする。
【0034】
積層体50では、主面22に近い側からZ方向に沿って逆向きに、誘電層52と導電層54とのペアの層が7つ積層している。光はZ方向に沿って入射するので、積層体50において、複数の導電層54のうち、凸部40の最も先端側の導電層54が第1導電層55になっている。また、積層体50において、誘電層52が主面22に接している。
【0035】
誘電層52及び導電層54は、Y方向から見たとき略矩形である。誘電層52及び導電層54の幅は、互いに略等しい。つまり、積層体50は、Y方向から見たとき略矩形である。略矩形であるとは、Z方向に沿って移動した際にX方向の大きさが略一定であり、Z方向におけるX方向の大きさの変化が数nm〜十数nm程度であることを意味する。
【0036】
積層体50の幅w50、及び誘電層52及び導電層54の幅は、35nm以上45nm以下であることが好ましい。幅w50が前述の範囲内であることによって、Z方向における幅を略一定にしつつ、使用帯域において透過軸32に沿う偏光の透過率を高くすることができる。幅w50は、例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4つの積層体50の幅を測定し、測定した4つの幅の算術平均値を幅w50とすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法という。
【0037】
各々の誘電層52の高さh52は、偏光板10に入射して第1導電層55で反射する偏光の位相に対して第1導電層55を透過して第2導電層56で反射する偏光の位相が半波長分ずれる高さになっている。互いに位相を半波長分ずらすために、高さh52は、例えば1nm以上100nm以下であることが好ましい。各々の第1導電層55の高さh55及び第2導電層56の高さh56は、10nm以上300nm以下であることが好ましい。高さh52,h55,h56は、例えば電子顕微鏡法によって測定可能である。
【0038】
積層体50の高さは、200nm以上400nm以下であることが好ましい。誘電層52及び導電層54の高さが前述の範囲内であることによって、使用帯域において吸収軸31に沿う偏光の透過率を低くでき、(透過軸透過率/吸収軸透過率)で表されるコントラストが高くて高画質な映像を実現できるので好ましい。
【0039】
凸部40は、積層体50の先端面61及び側面62を覆う誘電層(第2誘電層)58を有する。凸部40全体についても、Y方向から見たとき略矩形である。つまり、先端面61を覆う誘電層58の高さは略一定であり、側面62を覆う誘電層58の幅は略一定である。
【0040】
凸部40の幅w40は、40nm以上50nm以下であることが好ましい。幅w40が前述の範囲内であることによって、Z方向における幅を略一定にしつつ、使用帯域において透過軸32に沿う偏光の透過率を高くすることができる。
【0041】
凸部40の高さh40は、210nm以上410nm以下であることが好ましい。高さh40が前述の範囲内であることによって、使用帯域において吸収軸31に沿う偏光の透過率を低くできるので好ましい。
【0042】
ピッチp40は、100nm以上200nm以下であることが好ましい。ピッチp40が上述の範囲内であることによって、凸部40の作製の容易性が高まり、作製する偏光板10の形状が安定し、それによって偏光板10の光学特性が安定する。ピッチp40は、例えば電子顕微鏡法によって測定可能である。
【0043】
以下、偏光板10の各構成要素の好適な材料について説明する。
【0044】
<透明基板>
透明基板20の材質は、少なくとも使用帯域の光に対して透光性を有している。使用帯域における透明基板20の全光透過率は、少なくとも80%以上であり、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。透明基板20の使用帯域の波長における屈折率は、1.1以上2.2以下であることが好ましい。透明基板20の材料としては、ガラスが好ましく、特に、基準波長550nmにおける屈折率1.46を有する石英ガラス、同基準波長における屈折率1.51を有するソーダ石灰が好ましい。また、透明基板20の材料は、光学ガラスとして広く用いられるケイ酸塩ガラス等であってもよい。
【0045】
また、透明基板20の材料として、熱伝導性が高い水晶またはサファイアを用いることが好ましい。透明基板20が上述の屈折率及び高い熱伝導性を有することによって、強い光に対して高い耐光性が得られ、偏光板10を発熱量の多いプロジェクタの光学エンジン用の偏光素子として用いることができる。透明基板20の材料として水晶等の光学活性の結晶からなる透明基板を用いる場合には、結晶の光学軸に対して平行または垂直に凸部40を延ばすことが好ましい。このことによって、偏光に対して光学軸を合わせたときに、複屈折による影響を受けず、偏光が乱れない状態になるので、優れた光学特性が得られる。なお、結晶の光学軸とは、その軸の方向に進む光の常光線の屈折率と異常光線の屈折率との差が最小となる方向の軸である。
【0046】
<誘電層>
誘電層52,58の基準波長の屈折率は、1.0より大きく、2.5以下であることが好ましい。高さh52及び誘電層58の高さや幅、及び誘電層52,58の屈折率を適宜調整することにより、凸部40側から入射して第2導電層56で反射したTE波の一部を、第1導電層55を透過する際に反射させて第1導電層55に戻すことができる。このことによって、第1導電層55を通過した光を干渉によって減衰させることができる。このようにして、凸部40側から入射した光のうち、TE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性を得ることができる。
【0047】
誘電層52,58の材料は、SiO
2等のシリコン(Si)酸化物、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ベリリウム、酸化ビスマス等の金属酸化物、MgF
2等のフッ化マグネシウム、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、またはこれらのうちの二以上を組み合わせたもの等が挙げられる。非常に安定な物質で入手し易いことから、誘電層52,58は、Si酸化物で構成されることが好ましい。なお、誘電層52,58の材料は、上述の材料のうち互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0048】
誘電層52,58の材料である誘電体は、蒸着法やスパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法、あるいは、SOG(Spin On Glass)法を利用することにより、高密度の膜として形成される。
【0049】
<導電層>
導電層54は、ワイヤグリッド型の偏光板10としての機能を発揮し、TE波を減衰させ、TM波を透過する。導電層54の光学特性は、周囲の誘電層52,58の屈折率によっても影響を受ける。そのため、誘電層52,58の材料を適宜選択することで、導電層54に起因する偏光板10の特性を制御できる。
【0050】
第2導電層56の材料は、使用帯域の光に対して反射性を有する材料である。反射性を有するとは、入射した光の少なくとも一部を反射可能であることを意味する。例えば、使用帯域の波長における第2導電層56の材料の全光反射率は、85%以上100%以下であることが好ましく、90%以上100%以下であることがより好ましい。可視波長帯域の光に対して反射性を有する材料としては、例えば、Al,Ag,Cu,Mo,Cr,Ti,Ni,W,Fe,Si,Ge,Te等の元素単体、又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。これらの材料の中でも、第2導電層56は、全光反射率が高く加工性の良いアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されることが好ましい。このことによって、吸収軸透過率は低く、且つ透過軸透過率は高くなるので、優れた光学特性が得られる。なお、第2導電層56の材料は、上述の材料以外に、例えば着色等により表面の反射率が高く形成された無機物又は樹脂であってもよい。
【0051】
第1導電層55の材料は、使用帯域の光に対して吸収性を有する材料である。吸収性を有するとは、消衰定数が零ではないことを意味する。例えば、使用帯域の波長における第1導電層55の材料の消衰係数は、0.1以上5.0以下であることが好ましい。光吸収作用を有する第1導電層55の材料は、使用帯域に応じて金属材料や半導体材料等の導電材料から適宜選択される。可視波長帯域に光吸収作用を有する金属材料としては、Ta,Al,Ag,Cu,Au,Mo,Cr,Ti,W,Ni,Fe,Sn等の元素単体、又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。可視波長帯域に光吸収作用を有する半導体材料としては、Si,Ge,Te,ZnO,シリサイド材料(β−FeSi
2,MgSi
2,NiSi
2,BaSi
2,CrSi
2,CoSi
2,TaSi等)が挙げられる。第1導電層55の材料として前述の金属材料又は半導体材料を用いることによって、偏光板10は、可視波長帯域において高い消光比を実現する。特に、第1導電層55の材料としてFe又はTaと、Siを含んで構成されることによって、偏光板10の可視波長帯域における消光比はより高くなる。
【0052】
第1導電層55の材料として半導体材料を用いる場合は、光吸収作用に半導体材料のバンドギャップエネルギーが関与するため、半導体材料のバンドギャップエネルギーの吸収端波長が使用帯域の波長以下であることが必要である。例えば、第1導電層55の材料として、380nm以上1240nm以下の波長の光を吸収するようにバンドギャップが3.263eV以下の半導体材料を使用する必要がある。
【0053】
第1導電層55及び第2導電層56のそれぞれは、上述の材料のうち互いに異なる材料からなる複数の層で構成されていてもよい。
【0054】
[その他の偏光素子の構成]
図1及び
図2には、本発明の好適な一実施形態の偏光板10を例示し、上述のように説明した。上述の実施形態の他に本発明の作用効果を発揮する構成について、以下説明する。
【0055】
凸部40は、積層体(凸部)50のみを備え、誘電層58を備えていなくてもよい(
図9参照)。その場合、幅w50は、35nm以上45nm以下であることが好ましい。
【0056】
また、凸部40における導電層54の層数は少なくとも2以上であり、7以上であることが好ましい。但し、所望の特性が得られるのであれば、導電層54の層数は7未満であってもよい。
図3から
図5は、導電層54の層数が5,3,2である構成例を示している。
【0057】
また、Z方向における第1導電層55と第2導電層56との間の誘電層52の高さh52−1に比べて、第2導電層56同士又は第2導電層56と透明基板20との間の誘電層52の高さh52−2を高くすることによって、透過、反射、干渉、及び光学異方性による偏光の選択的光吸収の4つの作用効果が高まる。所望の特性が得られるのであれば、高さh55,h56は、互いに同一でなくてもよい。
図3から
図5は、高さh56が高さh55より大きい構成例を示している。
【0058】
また、図示していないが、X方向における凸部40同士の間の主面22、凸部40の先端面47及び側面48は有機系撥水膜によって覆われていてもよい。有機系撥水膜としては、例えばパーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物等で構成された撥水膜が挙げられる。
【0059】
また、図示していないが、偏光板10に対して光が透明基板20の主面22とは反対側の表面側から入射する場合は、複数の導電層54のうち、少なくとも主面22に最も近い導電層54が第1導電層55になり、凸部40の最も先端側の導電層54は第2導電層56である。
【0060】
[偏光素子の製造方法]
次いで、本発明の一実施形態の偏光素子の製造方法を説明する。本実施形態の偏光素子の製造方法は、偏光板10の製造方法であって、次に説明する第1工程から第4工程を備えている。
【0061】
<第1工程>
先ず、
図6に示すように、主面(透明基板上)22に、誘電層52と導電層54が交互に積層された積層体51を形成する。具体的には、主面22に、誘電層52、第2導電層56、誘電層52、第2導電層56、誘電層52、第2導電層56、誘電層52、第2導電層56、誘電層52、第2導電層56、誘電層52、第2導電層56、誘電層52、第1導電層55を順次形成する。これらの各層の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、CVD法やALD法、SOG法等が挙げられる。
【0062】
<第2工程>
次に、積層体51を選択的にエッチングすることによって、ピッチp40で積層体50を形成する。具体的には、フォトリソグラフィ法、ナノインプリント法等を用いて、
図6に示すように、積層体51において主面22側とは反対側の上面にレジスト69を形成する。その後、レジスト69をパターニングし、
図7に示すようにピッチp40で幅w50を有するレジスト70を形成する。レジスト70は、積層体50と同じピッチ、幅、長さで形成する。すなわち、レジスト70は、ピッチp40で設けられ、幅w50を有し、Y方向に延びている。
【0063】
次に、レジスト70をマスクとして、積層体51を選択的にエッチングすると、
図8に示すように、主面22上に積層体50が形成される。このように積層体(凸状積層体)50を形成する方法としては、誘電層52及び導電層54に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。
【0064】
<第3工程>
次に、
図9に示すように、積層体50を誘電層58と同じ材料の誘電体59で埋没させる。積層体50を誘電体59で埋没させる方法としては、スパッタ法や蒸着法、CVD法、ALD法、SOG法等が挙げられる。
【0065】
<第4工程>
次に、誘電体59を選択的にエッチングすることによってピッチp40で凸部40を形成する。具体的には、フォトリソグラフィ法、ナノインプリント法等を用いて、
図10に示すように、誘電体59において主面22側とは反対側の上面にレジスト71を塗布する。その後、レジスト71をパターニングし、
図11に示すようにピッチp40で幅w40のレジスト72を形成する。レジスト72は、凸部40の形状に合わせて形成され、Y方向に延びている。
【0066】
次に、レジスト72をマスクとして、誘電体59を選択的にエッチングすると、主面22上に、
図2に示した凸部40が形成される。このように凸部40を形成する方法としては、誘電体59に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。
【0067】
以上の工程によって、
図1及び
図2に示す偏光板10が製造される。なお、本実施形態の偏光素子の製造方法は、第4工程の後に、X方向における凸部40同士の間の主面22、凸部40の先端面47及び側面48を有機系撥水膜で覆う工程をさらに備えていてもよい。有機系撥水膜は、例えば上述のような真空成膜技術を用いて形成できる。
【0068】
[光学機器]
次いで、本発明の光学機器について説明する。図示していないが、本発明の光学機器は、偏光板10をはじめとする本発明の偏光素子を備えている。本発明の偏光素子は、種々の用途で使用可能である。本発明の偏光素子を適用可能な光学機器としては、例えば、液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。すなわち、本発明の光学機器は、本発明の偏光素子を備えた液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等である。特に、本発明の偏光素子は耐熱性に優れているので、有機材料からなる有機偏光板に比べて高い耐熱性が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等で好適に用いられる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態の偏光板10は、ワイヤグリッド構造を有する偏光素子であって、透明基板20と、ピッチp40で主面22に配列されてY方向に延びる凸部40と、を備えている。凸部40は、誘電層52と導電層54とがZ方向に沿って逆向きに交互に積層された積層体50を有する。導電層54は、偏光板10に入射する光に対して吸収性を有する第1導電層55と偏光板10に入射する光に対して反射性を有する第2導電層56とを含む。また、光の入射側に最も近い導電層54として第1導電層55が設けられている。
上述の構成によれば、凸部40側から偏光板10に入射したTE波の少なくとも一部を第1導電層55で吸収させ、第1導電層55を通過した残部を第2導電層56で反射させて第1導電層55に戻すことができる。導電層54は第1導電層55及び第2導電層56の2種類を有するので、透過、反射、干渉、及び光学異方性による偏光の選択的光吸収の4つの作用を活用し、特に光の干渉効果を強めることができる。このことによって、吸収軸31に沿う偏光が偏光板10に入射した際に、この偏光を良好に減衰させることができる。その結果、ピッチp40、幅w50、高さh40を調節しなくても、透過軸32の偏光の透過率を高く、かつ吸収軸31の偏光の反射率を低くすることができる。
【0070】
また、偏光板10において、凸部40は、積層体50の先端面47及び側面48を覆う誘電層58を有する。凸部40では、誘電層52を含めて側面及び上面が誘電層58で覆われることによって、積層体50が補強されるので、積層体50の高さに対して幅w50が狭くなっても製造時の信頼性を高くすると共に、偏光板10の耐衝撃性を高くすることができる。
【0071】
また、偏光板10において、凸部40における導電層54の層数は7以上である。このことによって、前述の透過、反射、干渉、及び光学異方性による偏光の選択的光吸収の4つの作用効果を高め、吸収軸31に沿う偏光が偏光板10に入射した際に、この偏光をより良好に減衰させることができる。なお、導電層54の層数が多くなる程、透過軸32に沿う偏光の透過率は向上するが、導電層54の積層回数が増えるために製造工程が煩雑になる。そのため、導電層54の層数は、製造装置の性能等を勘案して適宜設定されることが好ましい。
【0072】
また、偏光板10において、凸部40はY方向から見たとき略矩形であり、誘電層52及び導電層54はY方向から見たとき略矩形である。このように幅w40がZ方向において略均一であることによって、凸部40の形成時に複雑なレジストパターンの形成やエッチングガスの制御を必要としない。さらに、グリッド幅の狭い従来の偏光板に比べて幅w40を広く確保しつつ、透過軸32の偏光の透過率を高く、かつ吸収軸31の偏光の反射率を低くすることができる。
【0073】
また、偏光板10において、第2導電層56の材料は金属であってもよく、金属はアルミニウム又はアルミニウム合金であってもよい。このことによって、優れた光学特性を得ることができる。
【0074】
また、偏光板10において、透明基板20の材料はガラス、水晶又はサファイアの何れかであってもよい。このことによって、偏光板10に入射する可視波長帯域の光の透過率を高くすることができる。
【0075】
また、偏光板10において、誘電層52,58の材料はシリコン酸化物であってもよい。このことによって、優れた光学特性を得ることができる。
【0076】
また、偏光板10において、第1導電層55は鉄又はタンタルを含むと共にシリコンを含んでいてもよい。このことによって、優れた光学特性を得ることができる。
【0077】
また、主面22及び先端面47及び側面48は有機系撥水膜によって覆われていてもよい。このことによって、偏光板10の耐湿性等の信頼性を高めることができる。
【0078】
本発明の偏光素子の製造方法は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板10の製造方法であって、透明基板20上に積層体51を形成する第1工程と、積層体51を選択的にエッチングすることによってピッチp40で前記透明基板上に配列される積層体50を形成する第2工程と、積層体50を誘電体59で埋没させる第3工程と、誘電体59を選択的にエッチングすることによってピッチp40で凸部40を形成する第4工程と、を有する。
上述の偏光素子の製造方法によれば、グリッド幅の狭い従来の偏光板に比べて幅w40を広く確保しつつ、透過軸32の偏光の透過率が高く、かつ吸収軸31の偏光の反射率が低い偏光板10を製造できる。
【0079】
本発明の光学機器は、偏光板10をはじめとする本発明の偏光素子を備える。このことによって、透過軸32の偏光を用いた光学機器の高輝度化を図ることができる。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された要旨の範囲内において、種々変更可能である。
【0081】
例えば、透明基板20の形状は、必ずしも平板状でなくてもよく、任意の形状を有し、その表面の一部を主面22として複数の凸部40を備えていてもよい。
【実施例】
【0082】
図2から
図5のそれぞれに示した偏光板10及び変形例を、本発明の偏光素子の実施例1から実施例4のそれぞれとし、各々の光学特性についてシミュレーションを行った。また、比較例として、
図12に示すように、凸部40が積層体50のみを備え、導電層54の層数が2である従来の偏光素子の光学特性についてもシミュレーションを行った。光学特性のシミュレーションには、厳密結合波解析(Rigorous Coupled Wave Analysis;RCWA)法による電磁界シミュレーションに基づくシミュレータGsolver(Grating Solver Development Co.)を用いた。
【0083】
実施例1〜4及び比較例の光学特性についてシミュレーションを行うために、以下の条件を設定した。なお、以下の条件における屈折率は、前述の基準波長550nmにおける屈折率を表している。また、誘電層52,58の材料としては、SiO
2を想定した。第1導電層55の材料としては、FeSiを想定した。第2導電層56の材料としては、単体のアルミニウムを想定した。
*実施例1〜4及び比較例共通
透明基板20の屈折率 :1.5
ピッチp40 :141nm
高さh40 :315nm
幅w50 :35nm
誘電層52の屈折率 :1.46
高さh55 :25nm
第1導電層55の屈折率 :4.03
第2導電層56の屈折率 :0.74
誘電層52の高さh52−1 :5nm
*実施例1〜4共通
誘電層52の高さh52−2 :20nm
先端面61上の誘電層58の高さ :15nm
側面62の側方の誘電層58の幅 :2.5nm
誘電層58の屈折率 :1.46
*実施例1(
図2参照)
高さh56 :25nm
*実施例2(
図3参照)
高さh56 :47.5nm
*実施例3(
図4参照)
高さh56 :115nm
*実施例4(
図5参照)
高さh56 :250nm
*比較例(
図12参照)
高さh56 :285nm
【0084】
図13は、実施例1〜4と比較例の偏光板の可視波長帯域における透過軸32の偏光の透過率(以下、透過軸透過率という)の波長依存性を示すグラフである。
図13の横軸は、波長(nm)を示している。
図13の縦軸は、透過軸透過率(%)を示している。
図13に示すように、460nm付近より長波長側で実施例1〜4の偏光板の透過軸透過率が向上した。また、誘電層52と導電層54の組数を増やすことによって、透過軸透過率が向上した。特に、導電層54の数が7以上になると、透過軸透過率が93%以上になり、好ましい。一方、比較例の偏光板は、2つの導電層54を有していても、誘電層52と導電層54とを交互に複数組で備えていない。そのため、比較例の偏光板では、偏光の選択的光吸収の作用を活用しきれず、光の干渉効果が弱くなり、透過軸透過率が実施例1〜4の透過軸透過率より低減した。なお、実施例1〜4では、高さh52−1に比べて高さh52−2を4倍高くすることによって、偏光の選択的光吸収の4つの作用効果をより高めることができたと考えられる。
【0085】
図14及び
図15は、実施例1〜4と比較例の偏光板について、青色波長帯域(波長;430〜510nm)、緑色波長帯域(波長;520〜590nm)、赤色波長帯域(波長;600〜680nm)の波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフ及び表である。
図14及び
図15に示すように、層数を増やすことによって、可視波長帯域の透過軸透過率が向上することを確認した。特に、緑色波長帯域(波長;520〜590nm)から赤色波長帯域(波長;600〜680nm)にかけて、優れた光学特性が得られることを確認した。