【解決手段】本発明の偏光板100は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板10と、透明基板10上において第1方向(y方向)に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチPで互いに離間して周期的に配列された複数の凸部20と、を備え、凸部20はそれぞれ、第1方向(y方向)に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなるベース形状部21と、ベース形状部21から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部22とからなる。
前記略三角形状のベース形状部において、前記略三角形状の高さをa、前記略三角形状の幅をbとしたときに、13/10≧(a/b)≧7/10である、請求項3に記載の偏光板。
前記突起部は、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する、金属、合金及び半導体からなる群から選択された材料からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の偏光板。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
[偏光板(第1実施形態)]
図1は、本発明の第1実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
図1に示す偏光板100は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板10と、透明基板10上において第1方向(y方向)に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチPで互いに離間して周期的に配列された複数の凸部20と、を備え、凸部20はそれぞれ、第1方向(y方向)に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなるベース形状部21と、ベース形状部21から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部22とからなる。
なお、本発明の偏光板は、本発明の効果を奏する限り、透明基板及び凸部以外の層を備えてもよい。
【0026】
以下、
図1に示すように、透明基板10の主面10aが拡がる面をxy平面とし、凸部が延在する方向(第1方向)をy方向、また、y方向に直交し、凸部が配列する方向をx方向とする。またxy平面に直交する方向をz方向とする。
図1では、偏光板に入射する光は、透明基板の凸部が形成されている側(グリッド面側)の、z方向から入射する例を示したが、偏光板に入射する光を透明基板側から入射してもよい。
【0027】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板は、透過、反射、干渉、及び光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、y方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、x方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。従って、
図1においては、y方向が偏光板の吸収軸の方向であり、x方向が偏光板の透過軸の方向である。
【0028】
図1に示した偏光板100の凸部20が形成された側(グリッド面側)から入射した光は、突起部22を通過する際に一部が吸収されて減衰する。突起部22を透過した光のうち、TM波(P波)は高い透過率で、透明基板10を透過する。一方、突起部22を透過した光のうち、TE波(S波)は透明基板10で反射される。透明基板10で反射されたTE波は、突起部22を通過する際に干渉して減衰する。以上のようにTE波の選択的減衰を行うことにより、偏光板100は、所望の偏光特性を得ることができる。
【0029】
<透明基板>
透明基板10は、偏光板100の使用帯域の波長の光に対して透明性を有する基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「透明性を有する」とは、使用帯域の波長の光を100%透過する必要はなく、偏光板としての機能を保持可能な程度に透過できればよい。透明基板10の平均厚みは、0.3mm以上1mm以下であることが好ましい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm〜810nm程度の可視光が挙げられる。
【0030】
透明基板10の構成材料としては、屈折率が1.1〜2.2の材料が好ましく、ガラス、水晶、サファイア等が挙げられる。コスト及び透光率の観点からは、ガラス、特に石英ガラス(屈折率1.46)またはソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いることが好ましい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラス等の安価なガラス材料を用いることができる。
【0031】
また、熱伝導性の観点からは、熱伝導性が高い水晶またはサファイアを用いることが好ましい。これにより、強い光に対して高い耐光性が得られ、発熱量の多いプロジェクタの光学エンジン用の偏光板として好ましく用いられる。
【0032】
なお、水晶等の光学活性の結晶からなる透明基板を用いる場合には、結晶の光学軸に対して平行方向または垂直方向に凸部を配置することが好ましい。これにより、優れた光学特性が得られる。ここで、光学軸とは、その方向に進む光のO(常光線)とE(異常光線)との屈折率の差が最小となる方向軸である。
【0033】
<凸部>
凸部20は、透明基板10上においてy方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチPでx方向に互いに離間して周期的に配列する。
【0034】
凸部20は、y方向に直交するxz断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなるベース形状部21と、ベース形状部21から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部22とからなる。
【0035】
図1において符号Pで示した、凸部20のピッチ(x方向の繰り返し間隔)は、使用帯域の光の波長よりも短ければ特に制限されない。作製の容易性及び安定性の観点から、凸部のピッチは、例えば、100nm〜200nmが好ましい。この凸部のピッチは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所についてピッチを測定し、その算術平均値を凸部のピッチとすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法と称する。
【0036】
(ベース形状部)
ベース形状部21は、y方向に直交するxz断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなる。xz断面の幅が先端側に向かって細くなる態様としては種々とりえる。
【0037】
ベース形状部21は、y方向に直交するxz断面において、略三角形状であってもよい。
略三角形状は略二等辺三角形である(
図1参照)ことが好ましい。
ここで、略三角形状とは厳密な三角形状でなくても、本発明の効果を奏する限りにおいて、ほぼ三角形状であればよい。例えば、先端が欠けた台形状であってもよい。
また、凸部は非常に微細な構造であるため、先細形状は製造上のある程度の丸みを帯びる場合があり、この場合も上記略三角形状に含まれる。
また、凸部の略三角形状の傾斜面(
図1の符号21a)が多少の曲率を有する場合もあり、この場合も上記略三角形状に含まれる。
【0038】
ここで、本明細書におけるベース形状部21の寸法について、
図1を用いて説明する。ベース形状部21の高さとは、ベース形状部21の底面21b(透明基板10の主面10a)から先端21cまでのz方向の寸法であり、
図1において符号aで示した寸法である。また、ベース形状部21の幅とは、xz断面において、ベース形状部21の底面21bのx方向の寸法であり、
図1において符号bで示した寸法である。
【0039】
ベース形状部21の高さaは、数十nm〜数百nmの範囲で適宜設定される。このベース形状部21の高さは、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
ベース形状部21の高さaは、たとえば、50〜130nmの範囲であることが好ましい。
【0040】
ベース形状部21の高さaは幅bとの関係でいうと、透過率の向上の観点から、(a/b)>1/2であることが好ましく、13/10≧(a/b)≧7/10であることがより好ましく、13/10≧(a/b)≧9/10であることがさらに好ましい。
【0041】
ベース形状部21の幅bは、数十nm〜数百nmの範囲で適宜設定される。このベース形状部21の幅は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
ベース形状部21の幅bは、たとえば、80〜120nmの範囲であることが好ましい。
【0042】
ベース形状部21の幅bは高さaとの関係でいうと、透過率の向上の観点から、(a/b)>1/2であることが好ましく、13/10≧(a/b)≧7/10であることがより好ましく、13/10≧(a/b)≧9/10であることがさらに好ましい。
【0043】
ベース形状部21は、透明基板10と同じ材料からなってもよい。
ベース形状部21と透明基板10とは一体に形成されたものとしてもよいし、透明基板10上に透明基板10と同じ材料からなるベース形状部21が形成されたものとしてもよい。前者の場合、ベース形状部21は、透明原板(透明基板10に加工する前の基板を透明原板と称するものとする)の主面を加工(例えば、選択的エッチング)することによって、透明基板10の主面10a上にベース形状部21が形成されたものとなる。
【0044】
ベース形状部21の幅bと、ベース形状部21が形成されていない領域「P−b」との比は、たとえば、6/1≧(b/P−b)≧4/3であることが好ましい。
【0045】
ベース形状部21は、透明基板10と異なる誘電体からなってもよい。
この場合、誘電体の膜厚(ベース形状部21の高さa)は、数十nm〜数百nmの範囲で適宜設定される。この誘電体の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
誘電体の膜厚(ベース形状部21の高さa)は幅bとの関係でいうと、透過率の向上の観点から、(a/b)>1/2であることが好ましく、13/10≧(a/b)≧7/10であることがより好ましく、13/10≧(a/b)≧9/10であることがさらに好ましい。
誘電体を構成する材料としては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、またはこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。中でも、誘電体は、Si酸化物で構成されることが好ましい。
誘電体の屈折率は、1.0より大きく、2.5以下であることが好ましい。突起部の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電体の材料を選択することで、偏光板の特性を制御することができる。
誘電体からなるベース形状部21は、蒸着法やスパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。
【0046】
(突起部)
突起部22は、ベース形状部21から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有するものである。ベース形状部21から突出してなるとは、
図1を用いて説明すると、ベース形状部21の傾斜面21a又は先端(頂点)21cから突き出ているように形成されてなることを意味する。
【0047】
突起部22はxz断面において、微粒子状であってもよい。
【0048】
突起部22は、吸収軸であるy方向に延在して配列されてなるものとすることができる。この場合、突起部22はワイヤグリッド構造を構成してワイヤグリッド型偏光子としての機能を有し、突起部22の長手方向に平行な方向に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、突起部22の長手方向に直交する方向に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0049】
突起部22の構成材料としては、金属材料、半導体材料等の光学定数の消衰定数が零でない、光吸収作用を持つ物質の1種以上が挙げられ、適用される光の波長範囲によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体またはこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β−FeSi
2、MgSi
2、NiSi
2、BaSi
2、CrSi
2、CoSi
2、TaSi等)が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。
【0050】
突起部22の構成材料として半導体材料を用いる場合には、吸収作用に半導体のバンドギャップエネルギーが関与するため、バンドギャップエネルギーが使用帯域以下であることが必要である。例えば、可視光で使用する場合、波長400nm以上での吸収、即ち、バンドギャップとしては3.1eV以下の材料を使用する必要がある。
【0051】
突起部22はxz断面において、略円形状である場合、その半径は、数nm〜数百nmの範囲で適宜設定される。この突起部22の半径は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
略円形状である突起部22である場合の半径は、たとえば、5nm〜100nmの範囲であることが好ましい。
【0052】
突起部22の膜厚(ベース形状部21に対して突き出ている厚み)は、特に制限されず、例えば、5nm〜100nmが好ましい。この突起部22の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0053】
ベース形状部21上の突起部22の位置には特に制限はなく、ベース形状部21の傾斜面でも先端でも可能である。
ベース形状部21上の突起部22の位置は、ベース形状部21の先端から底面までのうち、先端寄りの3/4以内の範囲であることが好ましく、先端寄りの1/2以内の範囲であることがより好ましい。ベース形状部21の底面寄りに配置させる場合、製造工程上、透明基板の主面にも配置してしまうおそれがあるからである。
【0054】
突起部22は、蒸着法やスパッタ法等の公知の乾式の手法により、形成可能である。
この場合において、斜めから蒸着やスパッタを行うことにより、ベース形状部21の一方の傾斜面に突起部22を形成することもできる。ベース形状部21の一方の傾斜面に突起部22を形成した後にさらに、もう一方の傾斜面に突起部22を形成することもできる。前者の場合、突起部22は、z方向から平面視してベース形状部21に対して非対称な位置に形成されたものとなる。後者の場合は、z方向から平面視してベース形状部21に対して対称な位置に形成されたものとすることが可能となる。
【0055】
突起部22は、公知の湿式の手法によって形成してもよい。
【0056】
突起部22は、構成材料の異なる二層以上から構成されていてもよい。
【0057】
<保護膜>
また、本実施形態の偏光板は、光学特性の変化に影響を与えない範囲において、光の入射側の表面が誘電体からなる保護膜により覆われていてもよい。
【0058】
<撥水膜>
さらに、本実施形態の偏光板は、光の入射側の表面が、有機系撥水膜により覆われていてもよい。有機系撥水膜は、例えばパーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物等で構成され、例えば上述のCVD法やALD法を利用することにより形成可能である。これにより、偏光板の耐湿性等の信頼性を向上できる。
【0059】
本発明の偏光板は、例えば、高輝度化の進む液晶プロジェクタにおいて、出射側偏光板の前段に設置されるプリ偏光板として用いることもできる。これにより、出射側偏光板で受け止める光の量を分散することで、出射側偏光板に対する熱負荷を軽減しつつ、高い透過率が得られる。
【0060】
[偏光板(第2実施形態)]
図2は、本発明の第2実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
図2において、符号が
図1と同じものは
図2においても同様なものとして説明を省略する。
図2では、偏光板に入射する光を、透明基板の凸部が形成されている側(グリッド面側)の、z方向から入射する例を示したが、偏光板に入射する光を透明基板側から入射してもよい。
図2に示す偏光板200は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板10と、透明基板10上において第1方向(y方向)に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチPで互いに離間して周期的に配列された複数の凸部30と、を備え、凸部30はそれぞれ、第1方向(y方向)に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなるベース形状部31と、ベース形状部31から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部32とからなる。
図2に示す偏光板200は、
図1に示す偏光板100と比べて、ベース形状部の形状が異なる。具体的には、
図1に示すベース形状部21はxz断面が三角形状であるのに対して、
図2に示すベース形状部31ではxz断面が台形状である。
【0061】
ベース形状部31は、y方向に直交するxz断面において、略台形状であってもよい。
略台形状は、上面31cと下面(底面)31bとの間を結ぶ2つの傾斜面31aが等しい長さを有し、かつ傾斜面31aと下面31bとが形成する角θが等しい形状である(
図2参照)ことが好ましい。この形状はz軸に平行な軸に対して対称な台形である。
ここで、略台形状とは厳密な台形状でなくても、本発明の効果を奏する限りにおいて、ほぼ台形状であればよい。
また、凸部は非常に微細な構造であるため、先細形状は製造上のある程度の丸みを帯びる場合があり、この場合も上記略台形状に含まれる。
また、凸部の略台形状の傾斜面(
図2の符号31a)が多少の曲率を有する場合もあり、この場合も略台形状と言える。
【0062】
本明細書におけるベース形状部31の寸法について、
図2を用いて説明する。ベース形状部31の高さとは、ベース形状部31の底面31b(透明基板10の主面10a)から上面31cまでのz方向の寸法であり、
図2において符号aで示した寸法である。また、ベース形状部31の幅とは、xz断面において、ベース形状部31の底面31bのx方向の寸法であり、
図2において符号bで示した寸法である。
【0063】
ベース形状部31の形状及び材料については、ベース形状部21で説明したものと同様のものとすることができる。
【0064】
[偏光板(第3実施形態)]
図8は、本発明の第3実施形態に係る偏光板の断面模式図である。上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0065】
図8に示す偏光板300は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板110と、透明基板110上において第1方向(y方向)に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチPで互いに離間して周期的に配列された複数の凸部20と、を備え、凸部20はそれぞれ、第1方向(y方向)に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなるベース形状部21と、ベース形状部21から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部22とからなり、透明基板110が、第1の材料からなる第1基板110Aと、第2の材料からなる第2基板110Bとの積層体であり、積層体のうち、1基板110Aがベース形状部21側に配置し、第1の材料がベース形状部21の材料と同じ材料である。
本実施形態の偏光板について、偏光板に入射する光が透明基板110の裏面110b側(−z方向)から入射するものとして用いることができるが、透明基板110のおもて面110a側(+z方向)から入射するものとして用いることもできる。
【0066】
<透明基板>
透明基板110は、第1の材料からなる第1基板110Aと、第2の材料からなる第2基板110Bとの積層体である。
【0067】
第2基板110Bの材料としては、上記透明基板10の材料として記載したものと同じものを用いることができる。
第2基板110Bはサファイア基板又は水晶であることが好ましい。サファイア及び水晶は、熱伝導性(放熱性)が高いためである。従って、高光度な光に対しても放熱することで高耐光性が得られるため、発熱量の多いプロジェクタの光学エンジン用の偏光素子として好ましく用いられる。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm〜810nm程度の可視光が挙げられる。サファイア基板又は水晶基板の平均厚みは、例えば、0.3mm〜1.5mmが好ましい。
【0068】
第1基板110Aの材料としては、第2基板110Bの材料とは異なるものであり、かつ、上記ベース形状部21の材料として記載したものと同じものを用いることができる。
【0069】
<保護膜>
また、本実施形態の偏光板は、光学特性の変化に影響を与えない範囲において、光の出射側の表面が、上記実施形態と同様に誘電体からなる保護膜により覆われていてもよい。
【0070】
<撥水膜>
さらに、本実施形態の偏光板は、光の出射側の表面が、上記実施形態と同様に有機系撥水膜により覆われていてもよい。
【0071】
<位相差補償層>
また、本実施形態の偏光素子は、
図9に示すように、光の入射側の表面に、位相差補償層120が形成されていてもよい。位相差補償層は、例えば光学異方性を持つ無機材料を使った多層膜で構成され、例えば斜方からの蒸着法やスパッタ法を利用することにより形成可能である。これにより、液晶パネルを通った後の偏光の乱れを補正することができる。
【0072】
[偏光板(第1実施形態、第2実施形態)の製造方法]
本発明の第1実施形態又は第2実施形態の偏光板の製造方法の一例を以下に説明する。
透明原板の主面を加工して透明基板及びベース形状部が形成された偏光板を製造する場合、本発明の偏光板を製造する方法は、透明原板の主面を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列される凸部を形成するエッチング工程と、凸部のベース形状部上に使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部を形成する工程とを有し、前記エッチング工程では、凸部は、凸部が延在する方向に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成する。
【0073】
ベース形状部は、公知の手法例えば、フォトリソグラフィ法、ナノインプリント法等により形成することができる。具体的には、透明原板上に形成したレジストにて、一次元格子状のマスクパターンを形成する。マスクパターンが形成されていない、透明基板面を選択的にエッチングして、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列されるベース形状部を形成する。エッチング方法としては、例えば、エッチング対象に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。
【0074】
特に本発明においては、エッチング条件(ガス流量、ガス圧、出力、透明基板の冷却温度)を最適化することにより、ベース形状部を、先端側ほど幅が細くなる方向に側面が傾斜した、先細形状を形成することができる。
【0075】
突起部は、そのベース形状部の先細形状上に、例えば、斜めから蒸着やスパッタすることで形成することができる。
【0076】
以上により、
図1及び
図2に一例を示した偏光板が製造される。
【0077】
透明基板の主面上に透明基板の材料と異なる材料からなるベース形状部が形成された偏光板を製造する場合、本発明の偏光板の製造方法は、上記エッチング工程に替えて、透明基板の主面上に透明基板の材料と異なる材料からなるベース形状部を形成する工程を有する。
【0078】
なお、本発明の偏光板の製造方法は、その表面を誘電体からなる保護膜で被覆する工程を、有していてもよい。また、本発明の偏光板の製造方法は、その表面を有機系撥水膜で被覆する工程を、さらに有していてもよい。
【0079】
[偏光板(第3実施形態)の製造方法]
本発明の第3実施形態の偏光板の製造方法について、上記実施形態の偏光板の製造方法と異なる工程を主に説明する。
第2基板(例えば、サファイア基板)を準備し、その上に第1基板及びベース形状部の材料(例えば、SiO
2)を成膜する。次いで、成膜された材料の面を選択的にエッチングすることにより、第1基板とする部分を残しつつ、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで第1基板上に配列される凸部を形成する。その他の工程は、上記実施形態の偏光板の製造方法と同様に行うことができる。
【0080】
[光学機器]
本発明の光学機器は、本発明に係る偏光板を備える。本発明に係る偏光板を備える本発明の光学機器は、光源が半導体レーザーであってもよい。
本発明に係る偏光板は、種々の用途に利用することが可能である。適用できる光学機器としては、例えば、液晶ディスプレイや液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。
特に、本発明に係る偏光板は耐熱性に優れる無機偏光板であるため、有機材料からなる有機偏光板に比べて、耐熱性が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等の用途に好適に用いることができる。
また、本発明に係る偏光板は、高透過で且つ高放熱であることから、例えば、半導体レーザー(LD)を幾つも用いた高光度な強い光の環境下においても、耐熱性に優れつつ高い透過率で高輝度化が図れる。これにより、液晶プロジェクタ等の用途に好適に用いることができる。本発明に係る偏光板は、半導体レーザーを光源とした、高輝度化した光学機器(プロジェクタ等)に特に好適である。
【0081】
本発明に係る光学機器が複数の偏光板を備える場合、複数の偏光板の少なくとも1つが本発明に係る偏光板であればよい。例えば、本発明に係る光学機器が液晶プロジェクタである場合、液晶パネルの入射側及び出射側に配置される偏光板の少なくとも一方が本発明に係る偏光板であればよい。
本発明に係る光学機器は好適には、例えば
図11に示すように、出射側に配置される偏光板の手前側に本発明に係る偏光板を配置することで、出射側偏光板で受けとめる高光度な光の何割かを負担し高放熱で逃がすことで、出射側偏光板の耐性を向上させることができる。
本発明に係る光学機器は、
図11に示すように、光源と、入射側偏光板と、液晶光学素子と、出射側偏光板(本発明の偏光板)と、出射側偏光板と、を備えたものとすることができる。
【実施例】
【0082】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
本発明に係る偏光板について、シミュレーションを行って効果を検証した。より具体的には、これらの偏光板の光学特性について、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法による電磁界シミュレーションにより検証した。シミュレーションには、Grating Solver Development社のグレーティングシミュレータGsolverを用いた。
【0084】
(実施例1−1〜1−4)
実施例1−1の偏光板の形状は
図1に示した通りであり、実施例1−2〜1−4の偏光板の形状は
図2に示した通りである。
実施例1−1〜1−4の偏光板の材料は、透明基板10とベース形状部21とはいずれも水晶からなるものであり、突起部22はGeからなるものである。
実施例1−1〜1−4のベース形状部21の形状はいずれも、高さaが70nm、幅bが100nm、ピッチPが141nmであり、傾斜角θがそれぞれ、54°、63°、72°、81°である。高さa及び幅bを固定しているので、実施例1−1(θ=54°)はxz断面が三角形状であり、実施例1−2(θ=63°)、実施例1−3(θ=72°)、及び、実施例1−4(θ=81°)はxz断面が台形形状である。また、実施例1−1〜1−4の突起部22の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部21における突起部22の位置については、
図1に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面21aに接触させている。
【0085】
(比較例1)
比較例1の偏光板のxz断面の形状は
図3に示した通りである。
比較例1の偏光板1000の材料は、透明基板10とベース形状部121とはいずれも水晶からなるものであり、突起部22はGeからなるものである点は実施例1−1〜1−4と共通するが、xz断面が矩形である点は実施例1−1〜1−4と異なる。
比較例1のベース形状部121の形状は、高さaが70nm、幅bが100nm、ピッチPが141nmであり、傾斜角θが90°である。また、比較例1の突起部22の形状は断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部21における突起部22の位置については、
図3に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面121aに接触させている。
【0086】
図4は、実施例1−1〜1−4及び比較例1の偏光板における、各波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。ここで、透過軸透過率Tpとは、偏光板に入射する透過軸方向(X方向)の偏光波(TM波)の透過率を意味する。
図4に示すように、比較例1の偏光板よりも本発明に係る偏光板は、傾斜角θを小さくしていくことで、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600〜680nm、緑色帯域:波長λ=520nm〜590nm、青色帯域:λ=430nm〜510nm))のいずれも透過軸透過率が向上している。
高さa及び幅bが同じ場合、ベース形状部121は矩形よりも先細形状の方が光学特性が良いことがわかった。また、高さa及び幅bが同じ場合、xz断面が台形状であるよりも三角形状の方が光学特性が良いことがわかった。また、高さa及び幅bが同じであって、xz断面が台形状である場合、傾斜角θが小さい方が光学特性が良いことがわかった。
【0087】
(実施例2−1〜2−5)
実施例2−1〜2−5の偏光板の形状は
図1に示した通りである。
実施例2−1〜2−5の偏光板の材料は、透明基板10とベース形状部21とはいずれも水晶からなるものであり、突起部22はGeからなるものである。
実施例2−1〜2−5の偏光板の形状はいずれも、幅bが100nm、ピッチPが141nmと共通であるが、高さaは順に、50nm、70nm、90nm、110nm、130nm、である(その結果、傾斜角θは順に、54°、45°、61°、66°、69°である)。また、実施例1−1〜1−4の突起部22の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部21における突起部22の位置については、
図1に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面21aに接触させている。
【0088】
図5は、実施例2−1〜2−5の偏光板における、各波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。
図5に基づくと、幅bに対する高さaの比(a/b)は、1/2を超えていることが好ましく、7/10以上であることがより好ましく、9/10、11/10、及び、13/10である場合は7/10の場合よりも好ましい。
【0089】
(実施例3−1〜3−5)
実施例3−1〜3−5の偏光板の形状は
図1に示した通りである。
実施例3−1〜3−5の偏光板の材料は、透明基板10がベース形状部21とはいずれもサファイアからなるものであり、突起部22はGeからなるものである。
実施例3−1〜3−5の偏光板の形状はいずれも、幅bが100nm、ピッチPが141nmと共通であるが、高さaは順に、50nm、70nm、90nm、110nm、130nm、である(その結果、傾斜角θは順に、54°、45°、61°、66°、69°である)。また、実施例3−1〜3−5の突起部22の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部21における突起部22の位置については、
図1に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面21aに接触させている。
【0090】
図6は、実施例3−1〜3−5の偏光板における、各波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。
図6に基づくと、幅bに対する高さaの比(a/b)は、1/2を超えていることが好ましく、7/10以上であることがより好ましく、9/10、11/10、及び、13/10である場合は7/10の場合よりも好ましい。この点は、実施例2−1〜2−5の偏光板と同様であり、透明基板及びベース形状部の材料を水晶からサファイアに変えても、かかる特徴は変わらないことがわかった。
【0091】
(実施例4−1〜4−5)
実施例4−1〜4−5の偏光板の形状は
図1に示した通りである。
実施例4−1〜4−5の偏光板の材料は、透明基板10はサファイアからなるものであり、ベース形状部21はSiO
2からなるものであり、突起部22はGeからなるものである。
実施例4−1〜4−5の偏光板の形状はいずれも、幅bが100nm、ピッチPが141nmと共通であるが、高さaは順に、50nm、70nm、90nm、110nm、130nm、である(その結果、傾斜角θは順に、54°、45°、61°、66°、69°である)。また、実施例4−1〜4−5の突起部22の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部21における突起部22の位置については、
図1に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面21aに接触させている。
【0092】
図7は、実施例4−1〜4−5の偏光板における、各波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。
図7に基づくと、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600〜680nm、緑色帯域:波長λ=520nm〜590nm、青色帯域:λ=430nm〜510nm))のすべてについて、幅bに対する高さaの比(a/b)を1/2を超えた形状とすることが、透過軸透過率が向上しているから好ましい。
また、可視光領域のすべてについて、a/bを7/10以上の形状とすることが、透過軸透過率が向上しているからより好ましい。
また、可視光領域のすべてについて、a/bを9/10、及び、11/10の形状とする構成は7/10の形状とする構成よりも好ましい。
また、緑色帯域(波長λ=520nm〜590nm)及び青色帯域(λ=430nm〜510nm)については、a/bを13/10の形状とする構成は7/10の形状とする構成よりも好ましい。
【0093】
(実施例5−1〜5−5)
実施例5−1〜5−3の偏光板の形状は
図8に示した通りのものであって、第1基板110A及びベース形状部21はSiO
2からなるものであり、第2基板110Bはサファイアからなるものであり、突起部22はGeからなるものである。また、実施例5−1〜5−3の偏光板はそれぞれ、第1基板の厚さd1は、35nm、70nm、105nmであり、第2基板の厚さd2は、0.7mmである。
また、実施例5−4の偏光板の形状は
図1に示した通りのものであって、透明基板10はサファイアからなるものであり、ベース形状部21はSiO
2からなるものであり、突起部22はGeからなるものである。透明基板10の厚さは0.7mmである。
また、実施例5−5の偏光板の形状は
図1に示した通りのものであって、透明基板10がベース形状部21とはいずれもサファイアからなるものであり、突起部22はGeからなるものである。透明基板10の厚さは0.7mmである。
また、実施例5−1〜5−5の突起部22の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部21における突起部22の位置については、
図8又は
図1に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面21aに接触させている。
シミュレーションにおいては、入射光は
図8で示した向きから入射した場合について行った。
【0094】
図10は、実施例5−1〜5−5の偏光板における、各波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。
図10に基づくと、透明基板が二層の積層体であって、ベース形状部側の第1基板がベース形状部と同じ材料からなる実施例5−1〜5−2の偏光板は、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600〜680nm、緑色帯域:波長λ=520nm〜590nm、青色帯域:λ=430nm〜510nm))のすべて波長域において、透明基板が単層である実施例5−4及び実施例5−5の偏光板よりも、透過軸透過率が向上していた。また、実施例5−3の偏光板についても、緑色帯域及び青色帯域において、透明基板が単層である実施例5−4及び実施例5−5の偏光板よりも、透過軸透過率が向上していた。
従って、透過軸透過率向上の観点からは、透明基板として、二層の積層体であって、ベース形状部側の第1基板がベース形状部と同じ材料からなるものを用いる方が好ましい。