【解決手段】通信端末1は、車両の外部と無線通信を行う車外通信部30と、車両内の装置と車内通信を行う車内通信部40と、バッテリの状態を取得するバッテリ状態取得部13と、通信端末1の通信環境を取得する通信環境取得部14と、無線通信および車内通信を用いたサービスの提供に関するサービス処理を実行可能なサービス処理実行部17と、サービスの優先度を設定する優先度設定部15と、サービス処理決定部16とを備える。サービス処理決定部16は、バッテリ状態取得部13が取得したバッテリの状態と、通信環境取得部14が取得した通信環境と、優先度設定部15が設定したサービスの優先度とを用いて、サービス処理実行部17が実行するサービス処理を決定する。
車両に搭載された通信端末と前記車両の外部との間で行われる無線通信と、前記通信端末と前記車両内の装置との間で行われる車内通信とを用いたサービスを提供するサービス提供方法であって、
前記通信端末および前記車両内の装置に電源を供給するバッテリの状態を取得し、
前記通信端末の通信環境を取得し、
前記サービスの優先度を設定し、
取得した前記バッテリの状態および前記通信環境と、設定した前記サービスの優先度とを用いて、前記サービスの提供に関するサービス処理を決定し、
決定した前記サービス処理を前記通信端末により実行する、サービス提供方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係る通信端末の構成を示す図である。
図1に示す通信端末1は、車両に搭載されて使用されるものであり、制御部10、記録部20、車外通信部30、車内通信部40および電源部50を備える。
【0010】
制御部10は、不図示のCPU、ROM、RAM等により構成されており、通信端末1を動作させるための様々な処理や演算を行う。制御部10は、その機能として、通信制御部11、停車検出部12、バッテリ状態取得部13、通信環境取得部14、優先度設定部15、サービス処理決定部16、サービス処理実行部17およびモード変更部18の各機能ブロックを有する。制御部10は、たとえばROMに記憶されているプログラムをRAMに展開してCPUが実行することで、これらの機能ブロックを実現することができる。なお、制御部10が有するこれらの機能ブロックの詳細については、後で説明する。
【0011】
記録部20は、不揮発性の記録媒体であり、たとえばフラッシュメモリを用いて構成される。記録部20には、たとえばサービス処理決定部16が行う後述のサービス決定処理において用いられる情報などの様々な情報が記録されており、制御部10の制御によって情報の読み出しや書き込みが行われる。なお、制御部10においてCPUが実行するプログラムの一部または全部を記録部20に格納してもよい。
【0012】
車外通信部30は、通信制御部11の制御に応じて、車両外に設置されたサーバ等との間で無線通信を行い、各種の情報を送受信する。車外通信部30が行う無線通信には、たとえば3G(3rd Generation)やLTE(Long Term Evolution)等の通信規格による携帯電話網や、WiFi等の無線LANが利用される。
【0013】
車内通信部40は、通信制御部11の制御に応じて、車両内に設置されたナビゲーション装置や各種ECU(Electronic Control Unit)等の様々な装置との間で車内通信を行い、各種の情報を送受信する。通信端末1は、たとえば車両内に設けられた通信ネットワークであるCAN(Controller Area Network)と接続されており、車内通信部40は、このCANを介して、車両内の各装置との間で車内通信を行う。なお、車内通信部40は、CANの代わりに車両内の他の通信ネットワーク、たとえばEthernet(登録商標)、無線LAN、FlexRay等を介して車内通信を行ってもよい。また、たとえばUSBやブルートゥース(登録商標)等により、車両内に持ち込まれたスマートフォン等の装置との間で車内通信を行ってもよい。
【0014】
電源部50は、通信端末1を含む車両内の様々な装置に対して電源を供給する不図示の電装品用のバッテリと接続されている。電源部50は、このバッテリから供給される電源をもとに、通信端末1内の各部分に対して動作電源を供給する。なお、周知のようにバッテリは、車両のキースイッチの操作状態に応じて、+B電源、ACC電源およびIGN電源という3種類の電源を出力する。+B電源は、キースイッチの操作位置に関わらず常に出力される電源であり、通信端末1はこの+B電源を用いて動作する。ACC電源は、キースイッチの操作位置がACCおよびONの位置で出力される電源であり、IGN電源は、キースイッチの操作位置がONの位置で出力される電源である。電源部50には、これら3種類の電源が全て入力されるようになっている。
【0015】
通信端末1は、以上説明したような構成により、車両外部のサーバ等から無線通信を介して様々な情報を取得し、車両内の各装置に供給する。車両内の各装置では、通信端末1から供給される情報を用いて、様々なサービスを提供することができる。たとえば、地図データをダウンロードしてナビゲーション装置が利用する地図データを更新するサービスや、FOTA(Firmware Over The Air)と呼ばれるECUのソフトウェア更新サービスなどを提供可能である。また、ユーザの好みに応じて映像や音楽等の任意のコンテンツを通信端末1によりダウンロードし、不図示のディスプレイやスピーカを介して、または車内通信部40を介して接続されたスマートフォン等の装置を用いて、ユーザに提供してもよい。以下では、こうしたサービスを提供する際に通信端末1が実行する無線通信や車内通信等を含んだ一連の処理を、「サービス処理」と総称する。すなわち、以下の説明においてサービス処理とは、無線通信および車内通信を用いたサービスの提供に関して通信端末1が実行する処理のことである。このサービス処理は、制御部10においてサービス処理実行部17の制御により実行される。
【0016】
車両が停車してACC電源がオフされると、通信端末1は上記のサービス処理を実行した後にスリープモード(省電力モード)に移行する。このとき通信端末1は、以下で説明する処理を実行することにより、バッテリの容量やサービスの優先度を考慮して、サービス処理の実行対象とするサービスを決定する。なお、スリープモードでは、たとえば緊急通報や盗難防止に関する部分など、停車中に動作する必要がある部分を除いて、通信端末1はその動作を停止し、バッテリの電力消費を低減する。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態に係る通信端末1において停車時に実行される処理を示すフローチャートである。本実施形態において、通信端末1の制御部10は、CPUにおいて所定のプログラムを実行することにより、
図2のフローチャートに従って処理を行う。
【0018】
ステップS10において、制御部10は、停車検出部12によって車両の停車が検出されたか否かを判定する。車両の停車が検出されるまではステップS10に留まり、車両の停車が検出されると次のステップS20へ進む。停車検出部12は、たとえば電源部50に入力されるACC電源およびIGN電源がともにオフされたことを検知すると、車両が停車したとみなして停車を検出する。なお、停車検出部12が停車を検出する方法はこれに限定されず、他の様々な方法を用いることができる。
【0019】
ステップS20において、制御部10は、通信制御部11により車外通信部30を用いて、車両外のサーバからサービス候補リストを受信する。このサービス候補リストは、車両が停車した後に提供されるサービスの候補をリスト化したものであり、通信端末1からの要求に応じてサーバから送信される。通信制御部11は、たとえば当該車両の車種を表す情報や、当該車両に搭載されているナビゲーション装置の地図バージョンや各ECUのソフトウェアバージョンを表す情報などとともに、サービス候補リストの要求を車外通信部30からサーバへ送信する。この要求を受信したサーバは、当該車両において適用可能なサービスの候補を特定し、そのサービス候補をリスト化したサービス候補リストを通信端末1へ送信する。これにより、通信端末1において、当該車両に対応するサービス候補リストが受信される。なお、サービス候補リストに含まれるサービス候補には、たとえば、配信側からの要請による地図データの更新、各ECUのリモート診断やソフトウェア更新、車両走行中に取得したプローブ情報のアップロードなど、ユーザからの要求がなくても実施される各種サービスが該当する。
【0020】
なお、ステップS20でサービス候補リストの要求をサーバへ送信した後、サービス候補リストが受信できなかった場合は、再度サービス候補リストの要求を送信することでリトライを実施してもよい。ただし、リトライ回数が所定回数を上回った場合は、これ以上サービス候補リストの要求を続けても不要なバッテリ消費を招くと判断し、エラー処理として
図2のフローチャートを終了することが好ましい。あるいは、エラー処理とせずにステップS20を強制終了し、次のステップS30に進むようにしてもよい。また、サービス候補リストの要求をサーバへ送信してから所定時間が経過してもサービス候補リストが受信できない場合は、リトライを実施せずに、
図2のフローチャートを終了または次のステップS30に進むようにしてもよい。
【0021】
ステップS30において、制御部10は、ユーザからの要求による未提供サービスの有無を確認する。車両に搭乗しているユーザは、たとえば不図示のタッチパネルへの操作入力や、マイクを用いた音声入力などにより、外部のサーバ等に対して任意のサービスの提供を要求することができる。このサービスには、たとえば、インターネットを介した音楽や映像等の各種コンテンツの配信、ユーザ側の要請による地図データの更新、現在地の周辺情報の配信などが該当する。ステップS30において制御部10は、こうしたサービスのうち、ユーザからの直近の要求に応じて未提供または提供途中のものがあるか否かを確認する。その結果、該当するサービスが存在する場合は、そのサービスをサービス候補に加えてサービス候補リストを更新する。
【0022】
図3は、サービス候補リストの例を示している。
図3(a)は、ステップS20で受信される更新前のサービス候補リストの例である。このサービス候補リストには、サービス候補として、配信側からの要請による地図データのダウンロードと、3種類のECU(ECUα、ECUβ、ECUγ)のそれぞれに対するソフトウェアのアップグレードとがリスト化されている。また、各サービス候補の提供に要する無線通信の通信量と、各サービス候補の優先度とが示されている。これらの値は、サーバにおいて予め指定されている。ここで、優先度の値が小さいほど、そのサービス候補が優先的に実施すべきサービスであることを表している。
【0023】
図3(b)は、ステップS30で更新されたサービス候補リストの例である。この更新後のサービス候補リストでは、
図3(a)に対して、ユーザからの要求に応じたコンテンツAのダウンロードがサービス候補として追加されている。なお、追加されたサービス候補に対する優先度は、この時点ではまだ設定されない。
【0024】
ステップS40において、制御部10は、ステップS20で受信したサービス候補リストと、ステップS30の確認結果とに基づき、停車後に提供すべきサービス候補があるか否かを判定する。具体的には、受信したサービス候補リストに少なくとも一つのサービスが記載されているか、またはステップS30で少なくとも一つのサービスが未提供サービスと判断された場合は、サービス候補ありと判断してステップS50へ進む。一方、これらの条件をいずれも満たさない場合は、サービス候補なしと判断してステップS140へ進む。
【0025】
ステップS50において、制御部10は、バッテリ状態取得部13により、電源部50を介してバッテリの状態を取得する。ここではバッテリの状態として、たとえばバッテリの電圧、温度、使用期間等の情報を取得する。なお、バッテリの電圧は、電源部50に入力される+B電源の電圧を測定することにより取得でき、バッテリの温度は、たとえばバッテリに取り付けられた温度センサからの情報により取得できる。また、バッテリの使用期間は、たとえば通信端末1が車両に組み付けられて最初に電源が投入された日付を初回起動日として記録部20に予め記憶しておき、これと現在の日付との差分を算出することにより取得できる。この場合、初回起動日や現在の日付は、たとえば携帯電話網を介して取得したり、不図示のGNSS(Global Navigation Satellite System)を利用して取得したりすることが可能である。さらに、これ以外の情報をバッテリの状態として取得してもよい。
【0026】
ステップS60において、制御部10は、通信環境取得部14により、通信端末1の通信環境を取得する。ここでは、サービス処理において車外通信部30が無線通信を行う際の通信環境と、車内通信部40が車内通信を行う際の通信環境とを取得する。具体的には、無線通信の通信環境として、たとえば無線通信で用いられる携帯電話網や無線LANの電界強度、ネットワーク状態等の情報を取得する。また、車内通信の通信環境として、車内通信の種類(CAN、USB、Ethernet等)を取得する。これらの情報は、全てのサービスで共通であってもよいし、サービスごとに異なっていてもよい。
【0027】
ステップS70において、制御部10は、優先度設定部15により、ステップS40で判定した各サービス候補に対するサービス優先度を設定する。ここでは、ステップS20で受信したサービス候補リスト(ユーザからの要求による未提供サービスが無い場合)、またはステップS30で更新したサービス候補リスト(ユーザからの要求による未提供サービスがある場合)に含まれる各サービス候補に対して、それぞれの優先度合いに応じたサービス優先度を設定する。このとき、ユーザからの要求によるサービス候補に対しては、他のサービス候補よりも高い優先度を設定することが好ましい。
【0028】
たとえば、
図3(b)で説明した更新後のサービス候補リストで表される各サービス候補のうち、ユーザからの要求に応じたサービス候補として追加されたコンテンツAのダウンロードについては、最も高い優先度である「1」を設定する。一方、残りの各サービス候補については、サーバから送信されたサービス候補リストで指定された優先度の順に、「2」〜「5」の優先度をそれぞれ設定する。すなわち、
図3(a)の更新前のサービス候補リストよりも1ずつ大きい優先度の値をそれぞれ設定する。
【0029】
ステップS80において、制御部10は、サービス処理決定部16により、サービス決定処理を実行する。このサービス決定処理では、ステップS50で取得したバッテリの状態と、ステップS60で取得した通信環境と、ステップS70で設定したサービス優先度とを用いて、サービス処理実行部17が実行するサービス処理を決定する。そして、決定したサービス処理の内容をリスト化したサービス実行リストを作成する。なお、サービス決定処理の具体的な内容は、後で
図4のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0030】
ステップS90において、制御部10は、通信制御部11により車外通信部30を用いて、ステップS80のサービス決定処理で作成したサービス実行リストを車両外のサーバへ送信する。これにより、決定したサービス処理を実行するためのデータを送信するようサーバに要求する。
【0031】
ステップS100において、制御部10は、ステップS90で送信したサービス実行リストに応じて、サーバからサービス処理用のデータが送信されたか否かを判定する。サービス処理用のデータが送信された場合は、車外通信部30によりそのデータを受信し、ステップS110に進む。一方、サービス処理用のデータが送信されていない場合は、ステップS130に進む。
【0032】
ステップS110において、制御部10は、サービス処理実行部17により、ステップS100でサーバから受信したサービス処理用のデータを用いて、ステップS80で決定したサービス処理を実行する。これにより、サービス実行リストで表された各サービスの提供を行う。
【0033】
ステップS120において、制御部10は、ステップS80で決定した全てのサービス処理を実行済みであるか否かを判定する。まだ実行していないサービス処理がある場合はステップS100に戻り、ステップS100、S110により、サービス処理用データの受信およびサービス処理の実行を継続する。全てのサービス処理を実行済みである場合はステップS140に進む。
【0034】
ステップS130において、制御部10は、サービス処理用データの受信に対するタイムアウト判定を行う。ここでは、ステップS90でサービス実行リストを送信してからの経過時間を測定し、経過時間が所定時間未満であれば、ステップS100に戻って受信待ち状態を継続する。このとき、サービス実行リストをサーバに再送信することでリトライを実施してもよい。一方、経過時間が所定時間以上となってもサービス処理用データが送信されない場合は、タイムアウトと判定してステップS140に進む。なお、経過時間ではなく、リトライ回数によりタイムアウト判定を行ってもよい。
【0035】
ステップS140において、制御部10は、モード変更部18により、通信端末1を前述のスリープモードに移行させる。ステップS140を実行したら、
図2のフローチャートに示す処理を終了する。
【0036】
次に、ステップS80で実行されるサービス決定処理の詳細について説明する。
図4は、ステップS80においてサービス処理決定部16が実行するサービス決定処理のフローチャートである。
【0037】
ステップS81において、サービス処理決定部16は、ステップS50で取得したバッテリの状態に基づいて、使用可能なバッテリの充電容量を算出する。ここではまず、取得したバッテリ状態に含まれるバッテリの電圧から、バッテリの充電容量の基準値を求める。なお、バッテリが充電中である場合とそうでない場合とでは、充電容量が同じであっても電圧が異なる。そのため、バッテリの充電状態に応じて充電容量の基準値を変化させるようにする。
【0038】
図5は、バッテリの電圧と充電容量の基準値との関係の一例を示す表である。
図5の表では、バッテリが非充電の場合と充電中の場合のそれぞれについて、電圧値ごとに使用可能な充電容量の基準値D1〜D7を示している。なお、非充電時に電圧値が10V以下である場合、バッテリは使用不可であるとして、バッテリの充電容量の基準値が0になっている。
【0039】
通信端末1では、予め測定されたバッテリの特性に基づき、たとえば
図5のような情報が記録部20に記憶されている。ステップS81の処理では、この情報を記録部20から読み出して参照することにより、現在のバッテリ状態で使用可能なバッテリの充電容量の基準値として、D1〜D7のいずれかが取得される。
【0040】
こうしてバッテリの電圧から充電容量の基準値を求めたら、次にサービス処理決定部16は、求められた基準値からバッテリの充電容量を算出する。たとえば以下の式(1)を用いて、バッテリの充電容量を算出する。式(1)において、Dxは充電容量の基準値、δyは温度係数、εzは経年劣化係数をそれぞれ表している。温度係数δyおよび経年劣化係数εzは、取得したバッテリ状態に含まれるバッテリの温度と使用期間からそれぞれ求められる。
D’=Dx×δy×εz ・・・(1)
【0041】
図6は、バッテリの温度と温度係数δyとの関係の一例を示す表である。
図7は、バッテリの使用期間と経年劣化係数εzとの関係の一例を示す表である。通信端末1では、予め測定されたバッテリの特性に基づき、たとえば
図6や
図7のような情報が記録部20に記憶されている。ステップS81の処理では、これらの情報を記録部20から読み出して参照することにより、現在のバッテリ温度と使用期間に応じて、温度係数δyの値としてδ1〜δ7のいずれかが取得されるとともに、経年劣化係数εzの値としてε1〜ε6のいずれかが取得される。そして、これらの値をバッテリの電圧から求めた充電容量の基準値Dx(
図5のD1〜D7のいずれか、または0)とともに式(1)に代入することで、バッテリの充電容量D’が算出される。
【0042】
ステップS82において、サービス処理決定部16は、ステップS60で取得した通信環境に基づいて、サービス候補リストに記載されている各サービス候補の実行時間を算出する。ここでは、たとえば以下の式(2)を用いて、各サービス候補の実行時間を算出する。式(2)において、Aiは各サービス候補の提供に必要な無線通信の通信量、MAX(Bj,Ck)は携帯通信網の通信速度Bjおよび無線LANの通信速度Ckの最高値、αiは各サービス候補のサービス処理で用いられる車内通信の種類に応じた係数をそれぞれ表している。通信量Aiはサービス候補リストから取得され、携帯通信網の通信速度Bjおよび無線LANの通信速度Ckは、ステップS60で取得した通信環境からそれぞれ求められる。また、係数αiは無線通信と車内通信の間でのデータ変換に要する時間や、これらの通信速度差に応じて、車内通信の種類ごとに予め設定されている。
Ti={Ai/MAX(Bj,Ck)}×αi ・・・(2)
【0043】
図8は、携帯通信網の電界強度およびネットワーク状態と通信速度Bjとの関係の一例を示す表である。
図9は、無線LANの電界強度と通信速度Ckとの関係の一例を示す表である。通信端末1では、たとえば
図8や
図9のような情報が予め記録部20に記憶されている。ステップS82の処理では、これらの情報を記録部20から読み出して参照することにより、現在の無線通信の通信環境に応じて、携帯通信網の通信速度Bjの値としてB1〜B6のいずれか、または0が取得されるとともに、無線LANの通信速度Ckの値としてC1〜C3のいずれか、または0が取得される。そして、これらの値をサービス候補リストに記載された各サービス候補の通信量Ai(
図3(a)のA1〜A4、または
図3(b)のA1〜A5)とともに式(2)に代入することで、各サービス候補について実行時間Tiがそれぞれ算出される。
【0044】
なお、MAX(Bj,Ck)=0の場合、すなわち携帯通信網の通信速度Bjおよび無線LANの通信速度Ckがともに0の場合は、式(2)の値が計算できない。そのため、この場合は実行時間Tiとして、予め定めた最大実行時間を設定することが好ましい。この最大実行時間の値は、通常の通信環境では算出されないような大きな値とすることが好ましい。あるいは、実行時間Tiの算出が不可能であることを示す所定のフラグ値などを設定してもよい。
【0045】
ステップS83において、サービス処理決定部16は、ステップS82で算出した各サービス候補の実行時間から、各サービス候補の提供に必要な電力量を算出する。ここでは、たとえば以下の式(3)を用いて、各サービス候補の提供に必要な電力量を算出する。式(3)において、Tiは式(2)で計算される各サービス候補の通信時間を表し、βiは各サービス候補の提供時に消費される単位時間当たりの電力量を表している。この単位時間当たりの電力量βiは、サービス提供時に動作する車両内の装置(ナビゲーション装置、ECU等)に応じて、サービスごとに予め設定されている。
Pi=Ti×βi ・・・(3)
【0046】
ステップS84において、サービス処理決定部16は、サービス候補リストに記載されているサービス候補の中で優先度が最も高いサービス候補を選択する。ここでは、優先度の値が最も小さいサービス候補を、優先度が最も高いサービス候補として選択する。
【0047】
ステップS85において、サービス処理決定部16は、ステップS84で選択したサービス候補の必要電力量を加算して、サービス提供に必要な電力量の合計を算出する。ここでは、ステップS83で算出した各サービス候補の必要電力量のうち、今回のステップS84で選択したサービス候補の必要電力量を、これまでに計算された必要電力量の合計に加算する。なお、最初にステップS85の処理を実行する際には、ステップS84で選択したサービス候補の必要電力量が、そのままサービス提供に必要な電力量の合計として扱われる。
【0048】
ステップS86において、サービス処理決定部16は、ステップS85で算出した必要電力量の合計と、ステップS81で算出した使用可能なバッテリの充電容量とを比較し、必要電力量の合計が使用可能なバッテリの充電容量以下であるか否かを判定する。この判定条件を満たす場合はステップS84に戻り、未選択のサービス候補の中で優先度が最も高いサービス候補をステップS84で選択した後、そのサービス候補の必要電力量を加算して、ステップS85で必要電力量の合計を算出する。こうした処理を繰り返すことで、必要電力量の合計が使用可能なバッテリの充電容量を上回るまで、優先度の高い順にサービス候補を選択する。ステップS86で必要電力量の合計が使用可能なバッテリの充電容量を上回ったと判定したら、ステップS87に進む。
【0049】
ステップS87において、サービス処理決定部16は、これまでにステップS84で選択したサービス候補のうち、最後に選択したサービス候補を除外する。これにより、必要電力量の合計が使用可能なバッテリの充電容量以下となるようにサービス候補の選択結果を調整し、最終的な選択結果として確定する。なお、使用可能なバッテリの充電容量以下であれば、未選択のサービス候補をさらに加えて、最終的な選択結果としてもよい。この場合でも、なるべく優先度の高いサービス候補を優先的に加えることが好ましい。
【0050】
ステップS88において、サービス処理決定部16は、ステップS87で確定したサービス候補の選択結果において選択された各サービス候補を、サービス実行リストに登録する。ステップS88を実行したら
図4のフローチャートを終了し、
図2のステップS90の処理に進む。これにより、サービス実行リストに登録された各サービス候補が、停車後に実行するサービスとしてサーバに通知され、そのサービスに対応するサービス処理が、サービス処理実行部17が実行するサービス処理として決定される。
【0051】
図10は、サービス実行リストの例を示す図である。
図10のサービス実行リストでは、
図3(b)に示したサービス候補リストにおいて記載された各サービスについて、ステップS82で算出された実行時間T1〜T5と、ステップS83で算出された必要電力量P1〜P5とが記載されている。また、ステップS88の処理結果として、各サービスの実行可否が記載されている。ここで、実行可否が「〇」であるサービスは、ステップS88でサービス実行リストに登録されたサービスに該当し、実行可否が「×」であるサービスは、サービス実行リストには登録されていないサービスに該当する。すなわち、
図10の例では、配信側からの要請による地図データのダウンロードと、ECUαのソフトウェアのアップグレードとは、提供対象外のサービスであることを表している。
【0052】
なお、
図10のサービス実行リストでは、バッテリの充電容量D’と各サービスの必要電力量P1〜P5との間に、以下の式(4)の関係が成り立つ。
D’≧P5+P4+P3 かつ D’<P5+P4+P3+P2 ・・・(4)
【0053】
サービス処理決定部16では、以上説明したようなサービス決定処理が実行される。これにより、サービス候補とされた各サービスについて、そのサービスの提供に必要な電力量が算出され、電力量の合計が使用可能なバッテリの充電容量以下となるように、サービス処理実行部17がサービス処理を実行するサービスが決定される。すなわち、サービスの提供に必要な電力量がバッテリの充電容量以下となるように、サービス処理実行部17が実行するサービス処理が決定される。したがって、バッテリの充電状態や無線通信の通信環境などの状況に適合したユーザビリティの高いサービスを提供できる。
【0054】
図11は、本発明の一実施形態に係る通信端末1とサーバおよび車載装置間での処理シーケンスの一例を示す図である。
図11では、サービスAおよびサービスBの提供中に、ユーザがサービスZの提供を要求してから車両が停車した場合の処理シーケンス例を示している。
【0055】
図11において、通信端末1は、サーバからサービスAに関するデータを10回に分けてダウンロードし、車載装置へ送信する。また、サーバからサービスBに関するデータを5回に分けてダウンロードし、車載装置へ送信する。このとき、ユーザがナビゲーション装置等の車載装置からサービスZの要求を行うと、その要求は車載装置から通信端末1を介してサーバへと送信される。
【0056】
サービスZの要求が通信端末1からサーバへ送信された直後に、車両が停車してACC電源およびIGN電源がともにオフされると、通信端末1はこれを検知し、
図2のフローチャートで説明した処理を開始する。そして、ステップS20において、サービス候補リストをサーバに要求し、これに応じてサーバから配信されるサービス候補リストを受信する。このサービス候補リストには、サービスA,B,Zのデータがそれぞれどこまで送信されたかを示す情報が含まれている。
【0057】
サーバからサービス候補リストを受信すると、通信端末1はステップS30〜S70の各処理を実行した後、ステップS80のサービス決定処理を実行する。このサービス決定処理では、ユーザからの要求によるサービスZが優先的に提供対象として選択され、サービス実行リストが作成される。その結果、たとえばサービス実行リストでは、サービスZとサービスBの残りのデータがそれぞれダウンロード対象として指定される。一方、サービス実行リストに登録されなかったサービスAの残りのデータは、次回起動時にダウンロードされる。
【0058】
サービス決定処理を実行したら、通信端末1は作成したサービス実行リストをサーバに送信し、最も優先度の高いサービスZのデータをサーバに要求する。この要求に応じてサービスZのデータがサーバから配信されると、通信端末1はこれを受信し、車内通信によって対応する車載装置へと送信する。これにより、サービスZの提供が行われる。なお、サービスZの提供が終了した後は、次に優先度の高いサービスBの残りのデータがサーバから配信され、通信端末1がこれを受信することにより、サービスBの提供の続きが行われる。
【0059】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0060】
(1)車両に搭載される通信端末1は、車両の外部と無線通信を行う車外通信部30と、車両内の装置と車内通信を行う車内通信部40と、通信端末1および車両内の装置に電源を供給するバッテリの状態を取得するバッテリ状態取得部13と、通信端末1の通信環境を取得する通信環境取得部14と、無線通信および車内通信を用いたサービスの提供に関するサービス処理を実行可能なサービス処理実行部17と、サービスの優先度を設定する優先度設定部15と、サービス処理決定部16とを備える。サービス処理決定部16は、バッテリ状態取得部13が取得したバッテリの状態と、通信環境取得部14が取得した通信環境と、優先度設定部15が設定したサービスの優先度とを用いて、サービス処理実行部17が実行するサービス処理を決定する(ステップS80)。このようにしたので、ユーザビリティの高いサービスを提供できる。
【0061】
(2)サービス処理決定部16は、バッテリの状態に基づいて使用可能なバッテリの充電容量を算出し(ステップS81)、サービスの提供に必要な電力量が充電容量以下となるように、サービス処理実行部17が実行するサービス処理を決定する(ステップS82〜S88)。具体的には、サービス処理実行部17は、複数のサービスについてサービス処理をそれぞれ実行可能である。サービス処理決定部16は、複数のサービスの各々について電力量を算出し(ステップS82,S83)、電力量の合計がバッテリの充電容量以下となるように、複数のサービスの中からサービス処理実行部17がサービス処理を実行するサービスを選択する(ステップS84〜S88)。このようにしたので、バッテリの状態を考慮して、サービス処理実行部17が実行するサービス処理を適切に決定することができる。
【0062】
(3)ステップS84において、サービス処理決定部16は、優先度が高いサービスを優先して、サービス処理実行部17によりサービス処理を実行するサービスを選択する。このようにしたので、サービスごとの優先度を考慮して、サービス処理実行部17が実行するサービス処理を適切に決定することができる。
【0063】
(4)ステップS82、S83において、サービス処理決定部16は、サービスの提供に必要な無線通信の通信量と、通信環境とに基づいて、電力量を算出する。このようにしたので、サービスの提供に必要な電力量を正確に算出することができる。
【0064】
(5)バッテリ状態取得部13は、バッテリの状態として、バッテリの電圧、温度および使用期間の少なくとも一つを取得する(ステップS50)。但し、これら全ての情報を取得すると、バッテリ状態をより正確に把握することができる。このようにしたので、サービス処理決定部16がサービス処理実行部17の実行対象とするサービス処理を決定するのに必要なバッテリ状態の情報を取得できる。
【0065】
(6)通信環境取得部14は、無線通信の通信環境として、無線通信の電界強度およびネットワーク状態の少なくとも一つと、車内通信の種類とを取得する(ステップS60)。このようにしたので、サービス処理決定部16がサービス処理実行部17の実行対象とするサービス処理を決定するのに必要な通信環境の情報を取得できる。
【0066】
(7)優先度設定部15は、サービスに対するユーザ要求の有無を判断し、ユーザ要求ありと判断したサービスの優先度を他のサービスよりも高く設定する(ステップS70)。このようにしたので、ユーザが要求したサービスを優先的に提供できるため、より一層ユーザビリティの高いサービスを提供できる。
【0067】
(8)通信端末1は、サービスの提供が終了した後、車外通信部30および車内通信部40の動作を停止して通信端末1を省電力状態に移行させるモード変更部18をさらに備える。このようにしたので、バッテリの無駄な電力消費をより一層抑えることができる。
【0068】
なお、以上説明した実施形態は、次のように変形してもよい。
【0069】
(第1変形例)
上記実施形態では、サービス実行リストに登録された各サービスの優先度に応じた順序でサーバから通信端末1にデータをダウンロードし、通信端末1から車載装置にデータを送信する例を説明したが、サーバから通信端末1にデータを一括してダウンロードし、各サービスの優先度に応じた順序で通信端末1から車載装置にデータを送信してもよい。以下では、この場合の処理シーケンスを変形例として説明する。
【0070】
図12は、本発明の変形例に係る通信端末1とサーバおよび車載装置間での処理シーケンスの一例を示す図である。
図12では、前述の
図11と同様に、サービスAおよびサービスBの提供中に、ユーザがサービスZの提供を要求してから車両が停車した場合の処理シーケンス例を示している。通信端末1がサービス決定処理を実行するまでの流れは、
図11と同様である。
【0071】
サービス決定処理を実行したら、通信端末1は作成したサービス実行リストをサーバに送信せずに、サーバからのデータ配信を待つ。サービスA,Bの残りのデータおよびサービスZのデータがサーバから配信されると、通信端末1はこれらを受信し、各サービスの優先順位に従って、車内通信により対応する車載装置へと順次送信する。これにより、最初は最も優先度の高いサービスZのデータが通信端末1から対応する車載装置へと送信され、サービスZの提供が行われる。その後、次に優先度の高いサービスBの残りのデータが通信端末1から対応する車載装置へと送信され、サービスBの提供の続きが行われる。なお、サーバから配信されたサービスAの残りのデータは、通信端末1に記録され、次回起動時に通信端末1から対応する車載装置へと送信される。
【0072】
(第2変形例)
通信端末1は、停車時にサービス処理を実行してサービスの提供を行う前に、どのようなサービスが提供されるかをユーザに通知してもよい。この通知は、たとえば車両のシフトレバーがPレンジに入れられたときなど、ユーザの運転を妨げないタイミングで、画像や音声により行うことができる。
【0073】
図13は、停車時に提供されるサービスをユーザに通知する画面の例を示す図である。この画面において、ユーザが「はい」を選択し、ACC電源およびIGN電源がともにオフされると、通信端末1は
図2のフローチャートで説明した処理により、通知したサービスに関するサービス処理を実行する。一方、ユーザが「いいえ」を選択した場合、ACC電源およびIGN電源がともにオフされても、通信端末1はサービス処理を実行しない。そのため、通知したサービスの提供は行われない。
【0074】
以上説明した変形例によれば、停車時に提供されるサービスを事前にユーザに通知することができるため、ユーザの利便性をさらに向上させることができる。
【0075】
以上説明した各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。