【解決手段】同軸−導波管変換器アレイの製造方法は、導電部材における複数の貫通孔の内周面にはんだペーストを塗布する工程と、複数の同軸コネクタを導電部材の第1の表面側から複数の貫通孔にそれぞれ差し込んで複数の貫通孔の内周面に複数の貫通孔の芯線をそれぞれ位置づける工程と、平坦面を有する1つ以上の治具を導電部材の第1の表面の反対側の第2の表面側から複数の貫通孔に挿入し、治具の平坦面を複数の同軸コネクタの芯線に接触させ、複数の貫通孔の内周面に複数の同軸コネクタの芯線をそれぞれ押し付ける工程と、はんだペーストを溶融させることによって複数の同軸コネクタの芯線を、複数の貫通孔の内周面にそれぞれ接続する工程と、治具を複数の貫通孔の内周面から外す工程とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一実施形態における製造方法は、2次元的に配列された複数の同軸−導波管変換器を含む同軸−導波管変換器アレイの製造方法である。前記同軸−導波管変換器アレイは、第1の表面と、前記第1の表面の反対側の第2の表面と、前記第1の表面から前記第2の表面まで貫通し、各々が芯線を有する複数の同軸コネクタが接続される複数の貫通孔と、前記第2の表面から突出し、前記複数の貫通孔の各々の周囲に配置された複数の導電性ロッドとを有する導電部材を備える。前記製造方法は、前記複数の貫通孔の各々の内周面にはんだペーストを塗布する工程と、前記複数の同軸コネクタを前記導電部材の前記第1の表面側から前記複数の貫通孔にそれぞれ差し込んで前記複数の貫通孔の前記内周面に前記複数の同軸コネクタの前記芯線をそれぞれ位置づける工程と、平坦面を有する1つ以上の治具を前記導電部材の前記第2の表面側から前記複数の貫通孔にそれぞれ挿入し、前記1つ以上の治具の前記平坦面を前記複数の同軸コネクタの前記芯線に接触させ、前記複数の貫通孔の内周面に前記複数の同軸コネクタの前記芯線をそれぞれ押し付ける工程と、前記複数の貫通孔の前記内周面に塗布された前記はんだペーストを溶融させることによって前記複数の同軸コネクタの前記芯線を、前記複数の貫通孔の前記内周面にそれぞれ接続する工程と、前記接続する工程を実施した後、前記1つ以上の治具を前記複数の貫通孔の前記内周面から外して前記同軸−導波管変換器アレイを得る工程と、を含む。
【0012】
上記の製造方法によれば、治具を用いることにより、各同軸コネクタの芯線を貫通孔の内表面に接続する工程を容易に行うことができる。また、各同軸コネクタの芯線と貫通孔の内表面との接続状態を安定化することができる。このため、より好ましい特性の同軸−導波管変換器アレイを容易に製造することが可能になる。
【0013】
前記1つ以上の治具の少なくとも1つは、複数の第1の部分と、前記複数の第1の部分に連接され一方向に延びる第2の部分とを備えていてもよい。前記1つ以上の治具を挿入する工程において、前記複数の第1の部分の各々は、前記複数の貫通孔のうちの対応する1つに挿入され得る。
【0014】
ある実施形態において、前記塗布する工程は、前記複数の同軸コネクタを前記複数の貫通孔にそれぞれ差し込む工程の前に実施される。前記塗布する工程は、前記複数の同軸コネクタを前記複数の貫通孔にそれぞれ差し込む工程よりも後に実施することも可能である。しかし、はんだペーストを塗布する工程を、各同軸コネクタを貫通孔に差し込む工程の前に行うことにより、製造をさらに容易にすることができる。
【0015】
上記の同軸−導波管変換器アレイは、例えば複数のホーンをアンテナ素子として備えるアンテナアレイの構成要素として用いられ得る。そのようなアンテナアレイは、上記の製造方法によって製造された同軸−導波管変換器アレイと、複数のホーンを備える他の導電部材とを接続することによって製造され得る。ここで、複数のホーンは、複数の同軸−導波管変換器の位置と整合するように配置される。
【0016】
本開示の他の実施形態による製造方法は、導波装置の製造方法である。前記導波装置は、第1の導電部材と、第2の導電部材と、複数の同軸コネクタとを備える。前記第2の導電部材は、第1の表面と、前記第1の表面の反対側の第2の表面と、前記第1の表面から前記第2の表面まで貫通する複数の貫通孔と、前記第2の表面から突出する複数の導波部材と、前記第2の表面から突出し、前記複数の貫通孔および前記複数の導波部材の各々の周囲に配置された複数の導電性ロッドと、を備える。前記第2の導電部材の前記第2の表面は、前記第1の導電部材の表面に対向する。前記複数の同軸コネクタは、前記第2の導電部材における前記複数の貫通孔にそれぞれ接続される。前記複数の同軸コネクタの各々は芯線を含む。前記複数の導波部材の端部は、前記複数の貫通孔の内周面にそれぞれ繋がっている。前記製造方法は、前記複数の導波部材の前記端部にはんだペーストを塗布する工程と、前記同軸コネクタを前記第2の導電部材の前記第1の表面側から前記複数の貫通孔にそれぞれ差し込んで前記複数の導波部材の前記端部に前記複数の貫通孔の前記芯線をそれぞれ位置づける工程と、平坦面を有する1つ以上の治具を前記第2の導電部材の前記第2の表面側から前記複数の貫通孔に挿入し、前記1つ以上の治具の前記平坦面を前記複数の同軸コネクタの前記芯線に接触させ、前記複数の導波部材の前記端部に前記複数の同軸コネクタの前記芯線をそれぞれ押し付ける工程と、前記複数の導波部材の前記端部に塗布された前記はんだペーストを溶融させることによって前記複数の同軸コネクタの前記芯線を、前記複数の導波部材の前記端部にそれぞれ接続する工程と、前記接続する工程を実施した後、前記1つ以上の治具を前記複数の導波部材の前記端部から外して前記第2の導電部材を得る工程と、を含む。
【0017】
上記の製造方法によれば、治具を用いることにより、各同軸コネクタの芯線を導波部材の端部に接続する工程を容易に行うことができる。また、各同軸コネクタの芯線と導波部材の端部との接続状態を安定化することができる。このため、より好ましい特性の導波装置を容易に製造することが可能になる。
【0018】
ある実施形態において、前記塗布する工程は、前記複数の同軸コネクタを前記複数の貫通孔にそれぞれ差し込む工程の前に実施される。前記塗布する工程は、前記複数の同軸コネクタを前記複数の貫通孔にそれぞれ差し込む工程よりも後に実施することも可能である。しかし、はんだペーストを塗布する工程を、各同軸コネクタを貫通孔に差し込む工程の前に行うことにより、製造をさらに容易にすることができる。
【0019】
前記第1の導電部材は、電磁波の送信および受信の少なくとも一方を行うための複数のアンテナ素子を備えていてもよい。例えば、前記第1の導電部材は、各々がアンテナ素子として機能する複数のスロットを備えていてもよい。第1の導電部材の正面側の表面は、複数のスロットをそれぞれ囲む複数のホーンを規定する形状を有していてもよい。
【0020】
以下、本開示の実施形態の具体的な構成例を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明においては、同一または類似する構成要素には、同一の参照符号を付している。
【0021】
<第1の実施形態:同軸−導波管変換器アレイの製造方法>
図1Aは、本開示の例示的な第1の実施形態による製造方法によって製造される同軸−導波管変換器アレイの一例を示している。
図1Bは、
図1Aに示す同軸−導波管変換器アレイから同軸コネクタ350を取り除いた構造を示している。
図1Aおよび
図1Bには、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。以下、この座標系を用いて装置の構成を説明する。+Z方向側を「正面側」と称し、−Z方向側を「背面側」と称する。「正面側」は、電磁波が放射される側、または電磁波が到来する側を指し、「背面側」は、正面側の反対側である。なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0022】
図1Aに示す同軸−導波管変換器アレイは、後述するように、複数のホーンアンテナ素子を備えるホーンアレイと組み合わせて利用され得る。同軸−導波管変換器アレイは、板形状の導電部材320を備える。導電部材320は、複数の貫通孔325と、各貫通孔325の周囲に配置された複数の導電性ロッド334とを有する。複数の貫通孔325は、X方向およびY方向に沿って2次元的に配列されている。
【0023】
同軸−導波管変換器アレイにおける複数の貫通孔325の各々の内周面には、同軸コネクタ350の芯線352が接続される。各貫通孔325は、芯線352から生じた電磁波を、貫通孔325に対向する不図示のホーンアンテナ素子における導波管に伝達する同軸−導波管変換器として機能する。
【0024】
導電部材320は、平坦な導電性表面320aを正面側に有する。複数の導電性ロッド334は、導電性表面320aから突出する。複数の導電性ロッド334は、貫通孔325の周囲に配置されている。本実施形態における各貫通孔325の開口の周囲は平坦な面であるが、当該開口を囲む導電性の壁が配置されていてもよい。導電部材320は、背面側にも平坦な導電性表面320bを有する。同軸コネクタ350は、導電部材320の背面側の導電性表面320bから差し込まれる。本実施形態では、導電部材320の背面側の導電性表面320bが前述の「第1の表面」に該当し、正面側の導電性表面320aが前述の「第2の表面」に該当する。
【0025】
複数のロッド334には、Z方向から見通した場合に、複数の貫通孔325の1つの中心部からY方向に離れて位置するロッド334が含まれる。それらのロッド334の一部は、Y方向において隣り合う2つの貫通孔325の間に位置している。複数の貫通孔325の間のロッド334は、八角柱状の形状を有する。他方、複数の貫通孔325の周囲のロッド334は、四角柱状の形状を有する。各ロッド334は、他の形状、例えば円柱形状を有していてもよい。また、複数の貫通孔325の周囲にロッド334が設けられていなくてもよい。
【0026】
導電性表面320a上に配列された複数のロッド334によってワッフルアイアン(Waffle Iron)構造が構成される。ワッフルアイアン構造は、後に詳しく説明するように、電磁波の漏洩を抑制する機能を果たす。適切な形状および寸法を有する導電性ロッド334を貫通孔325の周囲に適切な間隔で配置することにより、各同軸−導波管変換器からの電磁波の漏洩を抑制することができる。
【0027】
図1Cは、貫通孔325を拡大して示す斜視図である。本実施形態における各貫通孔325は、背面側から正面側に向かうにつれてXY面に平行な断面の面積が拡大する形状を有する。各貫通孔325の背面側の基部は、円形に近い形状を有する。各貫通孔325の正面側の部分は、XY面に平行な断面の形状(以下、「開口形状」と称する。)が、アルファベットの「H」に近い形状を有する。このような形状を、本明細書において「H形状」と称する。
【0028】
図1Dは、貫通孔325の開口形状を示す平面図である。この例における各貫通孔325は、X方向に延びる横部分325aと、横部分の両端に接続され、Y方向に延びる一対の縦部分325bとを含む。各貫通孔325の横部分325aは、一対の縦部分325bの中央部同士を接続している。
【0029】
本実施形態における各貫通孔325の内表面は、内側に向けて突出する一対の凸部分327および329を有する。このうち、凸部分329は、貫通孔325の中心に向けてさらに突出する受け部326を有する。受け部326は、横部分325aの中央に位置している。受け部326の上面は、芯線352の形状に整合するように、湾曲したU字形状の溝326gを有する。このような構造により、芯線352を受け部326に容易に取り付けることができる。溝326gは、U字形状に限らず、V字形状等の他の形状でもよい。受け部326の溝326gに同軸コネクタ350の芯線352がはんだ付けによって接続される。
【0030】
図1Cに示すように、本実施形態における導電部材320は、各貫通孔325の縦部分325bの位置で、かつ、中央の孔に隣接した位置に、底部(底面)328を有する段差構造を備える。この段差構造により、XY面に平行な断面が、基部から開口に向かうにつれて単調に拡大する。
【0031】
[第1の実施形態における治具]
図2Aは、上記の同軸−導波管変換器アレイを製造するときに使用される治具400の例を示す斜視図である。
図2Bは、
図2Aに示す治具400の反対側の構造を示す斜視図である。
図2Aおよび
図2Bに示す治具400は、同軸コネクタ350の芯線352を受け部326に密着させた状態で、はんだ付けを行うために、芯線352を受け部326に向けて押さえつけるために用いられる。
【0032】
治具400は、
図1Aに示す導電部材320の貫通孔325毎に1つ用いられる。治具400は、板状の本体410を備える。
図2Aに示す本体410の一方側の面は、平坦面421であり、芯線325に接触する。この平坦面421は、芯線352を受け部326に押さえつけることができる。
【0033】
本体410は、導電部材320の貫通孔325に挿入される第1の部分411と、第1の部分411に連接され第1の部分411よりも幅広の第2の部分412とを備える。第1の部分411の下端面423および第2の部分412の下端面424は、平坦である。
【0034】
治具400は、
図2Bに示すように、本体410における平坦面421の反対側に、本体410の上端面422から下端面423に延びる直線状の溝413を備える。図示される例では、溝413の端が本体410の上端面422および下端面423にまで達している。このため、本体410の上端面422および下端面423のうち、溝413の端が位置する部分が開口している。溝413には、H型の貫通孔325の横部分の位置にある凸部分327が配置される。凸部分327の大きさに応じて、溝413の幅および深さを適宜変更することができる。
【0035】
本実施形態では、治具400は、本体410の上端面422から下端面423にまで延びる溝413を備えるが、他の構造を備えていてもよい。例えば、治具400は、本体410の下端面423から上端面422に至らない途中の部分まで溝413を備えてもよい。また、本体410は溝413を備えなくてもよい。本体410が溝413を備えない場合、治具400を取り付けた後で、位置のずれが起きやすくなる。しかし、治具400の取り付け作業が容易になるという利点もある。
【0036】
図2Aに示す第1の部分411の平坦面421のうち、下端面423側の部分は、受け部326の溝326gに接した状態の芯線352に対して平行でもよいし、下端面423側から上端面422側に近付くに従って芯線352に近づくように傾斜していてもよい。第1の部分411の厚さを、下端面423側に近付くに従って薄くなるテーパ形状とする事は、そのような状態を実現するための方法の一つである。このような形状としておくことで、貫通孔325への治具400の装着作業が容易になる。
【0037】
図2Bに示す第2の部分412の高さHは、治具400を貫通孔325に取り付けたときの導電部材320の表面320aの位置よりも第2の部分412の上端が高くなるように決定され得る。
【0038】
治具400は、リフロー(reflow soldering)時の環境に耐え得る耐熱性を有する材料で構成され得る。例えば、エポキシ樹脂、PTFE(polytetrafluoroethylene)などのフッ素樹脂、または液晶ポリマー樹脂などの材料が用いられ得る。
【0039】
治具400は、単一の部材を切削することにより、所望の形状に成形され得る。
【0040】
[同軸−導波管変換器アレイの製造方法]
図3は、本実施形態における同軸−導波管変換器アレイの製造方法を示すフローチャートである。本製造方法は、塗布工程(ステップS110)、差し込み工程(ステップS120)、押し付け工程(ステップS130)、接続工程(ステップS140)、および取り外し工程(ステップS150)を含む。以下、各工程を説明する。
【0041】
(ステップS110:塗布工程)
導電部材320の各貫通孔325の内周面にはんだペーストを塗布する。本実施形態では、各貫通孔325の横部分の中央部にある受け部326にはんだペーストを塗布する。すべての受け部326にはんだペーストを塗布する。
【0042】
(ステップS120:差し込み工程)
図1Aに示す複数の同軸コネクタ350を導電部材320の背面側(
図1Aにおける奥側)から複数の貫通孔325にそれぞれ差し込み、各芯線352の先端を受け部326に位置づける。これにより、芯線352と受け部326の溝326gとの間にはんだペーストが介在する。
【0043】
(ステップS130:押し付け工程)
次に、導電部材320の正面側(
図1Aにおける手前側)から治具400の第1の部分411をH型の貫通孔325に挿入していき、第2の部分412が導電部材320の表面320aに突き当たるまで押し下げる。この際、治具400の平坦面421が芯線352に接触し、芯線352が受け部326に押し付けられる。このとき、圧力を受けた芯線352は受け部326の中心に位置決めされる。
図4は、治具400が貫通孔325に挿入された状態を示す平面図である。
図4に示すように、すべての貫通孔325に治具400を挿入し、平坦面421を芯線352に接触させて受け部326に向けて芯線352を押し付ける。
【0044】
(ステップS140:接続工程)
次に、はんだペーストを溶融させることにより、芯線352を貫通孔325の内表面に接続する。本実施形態では、リフロー炉に導電部材320を投入する。導電部材320をリフロー炉内の高温エリアに移動すると、導電部材320のはんだペーストが溶融する。続いて、導電部材320が冷却エリアに移動して、はんだペーストが固化し、芯線352を受け部326に接続させる。リフロー中は、治具400が芯線352の動きを制限する。このため、芯線352が受け部326から浮き上がることを防ぐことができる。リフローを実施した後、リフロー炉から導電部材320が取り出される。
【0045】
(ステップS150:取り外し工程)
接続工程が完了したら、すべての貫通孔325から治具400を取り外して、同軸−導波管変換器アレイを取得する。このようにすることで、すべての貫通孔325において、芯線352が受け部326に均一に接続された状態となる。なお、治具400は、繰り返し利用することが可能である。
【0046】
以上のように、本実施形態によれば、治具400を用いることにより、各貫通孔325の内周面に同軸コネクタ350の芯線352を均一に接続することが容易になる。治具400を用いずに芯線352を貫通孔325の内周面にはんだ付けする場合と比較して、複数の同軸−導波管変換器の特性を揃えることが容易になる。このため、同軸−導波管変換器アレイを備えるアンテナアレイに、所望の特性を発揮させることが容易になる。
【0047】
[第1の実施形態における治具の変形例]
図5は、第1の実施形態の変形例において用いられる治具400が導電部材320の貫通孔325に挿入された状態を示す平面図である。
図6は、本変形例において用いられる治具400を示す斜視図である。
図5および
図6に示す治具400は、横方向(X方向)に本体410の第2の部分412が延びた構成を備える。横一列に並んだ3つのH型の貫通孔325の各位置に第1の部分411が設けられている。治具400の本体410の第2の部分412の横方向における長さは、図示される長さに限られず、芯線352が接続される貫通孔325の数に応じて適宜変更可能である。本変形例の治具400によれば、1つの治具400で複数の貫通孔325における各受け部326に芯線352を効率よく接続することができる。治具400は、縦方向に本体410の第2の部分412が延びた構成であってもよい。その場合は、本体410の第2の部分412が導電性ロッド334を迂回するように構成され得る。このように、1つの治具400が複数の貫通孔325に挿入される構成であってもよい。
【0048】
[工程の順序の変形例]
上記の第1の実施形態では、塗布工程(ステップS110)および差し込み工程(ステップS120)を経てから押し付け工程(ステップS130)を実施しているが、この順序に限られない。塗布工程は、差し込み工程および押し付け工程の後に実施してもよい。あるいは、塗布工程は、差し込み工程実施後、押し付け工程の前に実施してもよい。つまり、塗布工程は、接続工程の実施前までの適切な段階で実施され得る。
【0049】
<アンテナアレイの製造方法>
第1の実施形態の製造方法によって製造された同軸−導波管変換器アレイと、導電部材とを、後に詳述するワッフルアイアン(Waffle Iron)構造を介して接続することによってアンテナアレイを構成してもよい。導電部材は、例えばアンテナ素子として機能する複数のホーンを備えるホーンアレイであってもよい。
【0050】
図7Aは、アンテナアレイ300の一例を示す斜視図である。
図7Bは、このアンテナアレイ300を別の角度から見た斜視図である。アンテナアレイ300は、第1の導電部材310と、第2の導電部材320とを備える。第1の導電部材310は、各々がアンテナ素子として機能する複数のホーン313のアレイを備える。第2の導電部材320は、
図1Aに示すように、複数の同軸−導波管変換器のアレイを備える。複数の同軸−導波管変換器は、複数のホーン313にそれぞれ対応して配置される。複数のホーン313および複数の同軸−導波管変換器は、第1の方向(この例ではX方向)および第2の方向(この例ではY方向)に沿って2次元的に配列されている。本実施形態では、第2の方向は第1の方向に直交するが、第2の方向は、90度とは異なる角度で第1の方向と交差していてもよい。
【0051】
本実施形態におけるアンテナアレイ300は、3行3列に配列された9個のホーン313をアンテナ素子として備える。ホーン313の個数は9個とは異なっていてもよい。例えば、16行16列に配列された256個のホーン313によってアンテナアレイ300を構成してもよい。複数のホーン313の個数および配列は、用途および目的に応じて決定される。複数のホーン313の配列は、単純な行列状の配列でなくてもよい。
【0052】
第1の導電部材310は、比較的薄い導電プレート311と、導電プレート311の正面側に配置されたホーンアレイ部312とを含む。ホーンアレイ部312は、導電プレート311よりも厚い外周壁を有し、その内部に、複数のホーン313をそれぞれ規定する複数の空洞が設けられている。ホーン313を規定する各空洞は、背面側から正面側に向かうにつれて内部空間が拡大する構造を有する。各ホーン313は、その内表面に、互いに対向する一対のリッジ314を備える。一対のリッジ314は、内周面から、第1の方向(この例ではX方向)と交差する方向(この例ではY方向)に突出し、Y方向およびZ方向に平行な平面に沿って延びる。一対のリッジ314の間の間隙は、背面側から正面側に向かうにつれて単調に増加する。一対のリッジ314は階段状の構造を有し、それらの間隔は、正面側に向かうにつれて拡大する。各リッジ314は、階段状の構造に限らず、滑らかにリッジ間隔が拡がる構造を有していてもよい。各ホーン313の内部の空洞は、導波管として機能する。送信時において、一対のリッジ314は、同軸コネクタ350の芯線352から生じた高周波の電磁波を案内し、外部空間に放射する。
【0053】
図7Bに示すように、第1の導電部材310は、正面側の第1の導電性表面310aと、背面側の第2の導電性表面310bとを有する。第2の導電部材320は、正面側に第3導電性表面320aを有する。第3導電性表面320aは、第2の導電性表面310bに対向する。ホーン313を規定する複数の空洞の各々は、第1の導電部材310を貫通し、第1の導電性表面310aおよび第2の導電性表面310bに開口する。第2の導電性表面310bと第3導電性表面320aとの間に複数の導電性ロッド334および複数の導波壁335が配置されている。各導電性ロッド334は、第3導電性表面320aに接続された基部と、第2の導電性表面310bに対向する先端部とを有する。これらの導電性ロッド334は、同軸コネクタ350からホーン313に伝送される電磁波が外部に漏洩することを抑制する。各導電性ロッド334は、第2の導電性表面310bの側に設けられていてもよい。複数の導波壁335は、第2の導電性表面310bに接続されている。
【0054】
第1の導電部材310、第2の導電部材320、複数の導電性ロッド334、および複数の導波壁335の各々は、例えば金属板を加工して成型され得る。ダイキャスト法等の鋳造によって各部材を成形してもよい。あるいは、各部材は、樹脂などの絶縁材料の表面にメッキ層を形成することによって作製されてもよい。導電部材310、320、ロッド334、導波壁335の各々を構成する導電性材料として、例えばマグネシウムなどの金属を用いることができる。メッキ層に代えて、蒸着等により導電体の層が形成されていてもよい。本実施形態において、第1の導電部材310および複数の導波壁335の各々は、単一構造体の一部であり、第2の導電部材320および複数のロッド334の各々は、他の単一構造体の一部である。これらの単一構造体の各々は、一体的に製造されてもよい。
【0055】
図8Aは、第1の導電部材310を示す斜視図である。
図8Bは、第1の導電部材310を示す正面図である。第1の導電部材310は、X方向およびY方向に2次元的に配列された複数の貫通孔315を有する。各貫通孔315は、ホーン313を規定する空洞の基部に開口する。各貫通孔315は、ホーン313の正面側の開口に繋がる。各貫通孔315のXY面に平行な断面の形状は、H形状である。
【0056】
図8Cは、1つのホーン313を拡大して示す斜視図である。この例における各ホーン313の一対のリッジ314は、3段の階段構造を有する。一対のリッジ314は、互いに対向する頂面を有し、それらの頂面の間に、主にY方向に振動する電界が形成される。送信時において、電磁波は、リッジ314に沿って背面側から正面側に伝搬し、外部空間に放射される。
【0057】
図8Dは、各ホーン313の貫通孔315の開口形状を示す図である。この例における貫通孔315は、X方向に延びる横部分315aと、横部分315aの両端に接続され、Y方向に延びる一対の縦部315bとを含む。貫通孔315の形状は、他の形状であってもよい。いずれの形状においても、各貫通孔315は、少なくとも中央部がX方向に延びる開口形状を有する。同軸コネクタ350の芯線352から生じた電磁波は、貫通孔315の横部分315aの中央部を通ってリッジ314に伝送される。
【0058】
図1Aに示すように、第2の導電部材320は、複数の貫通孔325を有する板形状の部材である。複数の貫通孔325は、第1および第2の方向に垂直な第3の方向(本実施形態ではZ方向)から見通した場合に、第1の導電部材310における複数の空洞にそれぞれ重なる位置に配置される。各貫通孔325は、同軸コネクタ350の芯線352から生じた電磁波をホーン313内の導波管に伝達する同軸−導波管変換器として機能する。
【0059】
図8Eは、第1の導電部材310の背面側の構造を示す斜視図である。第1の導電部材310は、背面側に複数の導波壁335を備える。複数の導波壁335は、複数の貫通孔315をそれぞれ囲む。各導波壁335の内表面は、貫通孔315の断面と同様、H型の構造を有する。各導波壁335の内表面は、一対のリッジ314を規定する形状を有する。各導波壁335の頂面は、第2の導電部材320の導電性表面320aに対向する。各導波壁335の頂面は、一対のリッジ314の第2の導電部材320側の端面314aを含む。一対のリッジ314の一方の端面314aは、
図1Cに示す貫通孔325の受け部326の正面側の面に対向する。各導波壁335は、Y方向において隣接する他の導波壁335に面する外周面に凹部336を有する。Y方向において隣接する2つの導波壁335が有する外周面の凹部336は、互いに対向しており、それらの導波壁335の間に間隙拡大部337Aが形成されている。また、X方向において隣接する2つの導波壁335の間に、Y方向に沿って延びる溝339Aが存在する。同様に、X方向において隣接する2つの導波壁335の間に、X方向に沿って延びる溝339Bが存在する。これらの溝339A、339Bが交わる領域にも間隙拡大部337Bが存在する。これらの間隙拡大部337A、337Bに、第2の導電部材320上の導電性ロッド334が配置される。本実施形態では、各導波壁335の外周面の凹部336に隣接する位置に導電性ロッド334が配置される。このような配置により、Y方向に隣接する複数のホーン313の間の高周波信号のアイソレーションが向上するため、ホーン313間の距離を短縮することができる。
【0060】
図9は、アンテナアレイ300の側面図である。第2の導電部材320上の複数の導電性ロッド334は、第1の導電部材310上の複数の導波壁335の間および周囲に位置する。このような構造により、同軸ケーブルとホーン313との間を伝搬する電磁波の漏洩が効果的に抑制される。
【0061】
図10は、
図9におけるA−A´線に沿ったアンテナアレイ300の断面図である。
図10には、導波壁335の断面と導電性ロッド334の断面の両方が示されている。図示されるように、導波壁335の間に位置する導電性ロッド334は、導波壁335間の間隙の拡大部に収容される。
【0062】
図11は、
図10におけるB−B´線に沿ったアンテナアレイ300の断面図である。
図11には、ホーン313の内壁面の断面と、導波壁335の断面と、導電性ロッド334および同軸コネクタ350の軸方向を含む断面とが示されている。同軸コネクタ350の芯線352の端部は、第2の導電部材320の導電性表面320aの近傍に達しており、そこで貫通孔325の内表面に接続されている。このような構造により、同軸−導波管変換器アレイとして機能する第2の導電部材320を製造した後、芯線352と導電部材320との間の接続が確実になされているかを個々に確認することが容易になる。
【0063】
導波壁335と第2の導電部材320の導電性表面320aとの間には僅かに間隙がある。導波壁335と導電性表面320aとの間の間隙d1は、導電性ロッド334の先端部と第1の導電部材310の背面側の導電性表面310bとの間の間隙d2よりも小さい。各導波壁335の内部に、第2の導電部材320の貫通孔325から第1の導電部材310のホーン313に連続する貫通孔315が形成されている。d1はゼロであってもよい。すなわち導波壁335と第2の導電部材320の導電性表面320aとが接触していてもよい。
【0064】
本実施形態では、第1の導電部材310の背面側には、複数の貫通孔315をそれぞれ囲む複数の導波壁335が設けられている。また、第2の導電部材320の正面側には、複数の導波壁335を囲む複数の導電性ロッド334が設けられている。このような構造により、隣接する複数の同軸−導波管変換器の間での信号の分離度が向上し、複数の同軸−導波管変換器、および複数のホーンを近接して配置することが可能になる。
【0065】
以上のように、アンテナアレイ300は、ホーンアンテナ素子の2次元アレイを構成する第1の導電部材310(「ホーンアレイ」とも称する。)と、同軸導波管変換器の2次元アレイを構成する第2の導電部材320(「変換器アレイ」とも称する。)とを備える。変換器アレイとホーンアレイとは、例えばネジなどの部品を用いて互いに固定され得る。このような構造により、製造し易く、かつメンテナンス性に優れたアンテナアレイを実現できる。例えば、アンテナアレイの使用開始後、不具合が生じたときに、変換器アレイとホーンアレイとを分離し、同軸コネクタ350の芯線352と変換器アレイの貫通孔325との接続状態を容易に確認することができる。また、変換器アレイとホーンアレイとがワッフルアイアン構造を介して接続されるため、両者の間を伝搬する電磁波の漏洩を抑制することができる。
【0066】
近年、マッシブMIMOと呼ばれる通信技術が知られている。マッシブMIMOは、場合によっては100個以上のアンテナ素子を用いることによって通信容量の飛躍的な拡大を実現する技術である。マッシブMIMOによれば、同一の周波数帯を用いて多数のユーザーの同時接続が可能になる。マッシブMIMOは、20GHz帯などの、比較的高い周波数を利用する際に有用であり、第5世代移動通信システム(5G)などの通信に利用され得る。本開示の実施形態によるアンテナアレイは、このようなマッシブMIMOを用いる通信システムにおいて利用され得る。このアンテナアレイは、通信システムに限らず、レーダシステムにも利用され得る。
【0067】
図12は、第2の導電部材320の背面側の構造の例を示す模式図である。第2の導電部材320の背面側には、複数のコネクタ350が並ぶ。これらのコネクタ350の配置間隔は、ホーンアンテナ素子の配置間隔に等しい。各コネクタ350には、同軸ケーブルが接続される。
【0068】
図13は、アンテナアレイ300と、通信装置600とを備える通信システムの構成例を模式的に示す図である。このシステムは、例えばマッシブMIMOシステムであり得る。通信装置600は、複数のコネクタ360を備える。アンテナアレイ300と通信装置600は、複数の同軸ケーブル340を介して接続される。通信装置600は、内部に複数の送信器を収容し、各同軸ケーブル340に独立の位相の信号を送信できる。同軸ケーブル340の本数は、アンテナアレイ300におけるホーンアンテナ素子の数に等しい。アンテナアレイ300におけるコネクタ350の間隔は、通信装置600におけるコネクタ360の間隔よりも小さい。
【0069】
<第2の実施形態:導波装置の製造方法>
次に、導波装置の製造方法の実施形態を説明する。
【0070】
図14Aは、導波装置500の構成例を示す斜視図である。この導波装置500は、板状の第1の導電部材510と、第1の導電部材510に対向する板状の第2の導電部材520とを備える。第1の導電部材510および第2の導電部材520の各々は、導電性表面を有する。第1の導電部材510の導電性表面は、第2の導電部材520の導電性表面に、間隙を介して対向する。第1の導電部材510は、各々がアンテナ素子として機能する複数のスロット512すなわち貫通孔を有する。本実施形態におけるスロット512はH形状を有するが、他の形状であってもよい。
【0071】
図14Bは、
図14Aに示す導波装置500から第1の導電部材510を除去した構造を示す斜視図である。第2の導電部材520は、複数のリッジ状の導波部材522(以下、「リッジ522」と称することがある。)と、複数の貫通孔525と、複数の貫通孔525の各々の周囲に配置された複数の導電性ロッド524とを備える。
図14Bには、導波装置500の製造時に使用される複数の治具400も示されている。これらの治具400は、製造後は取り外される。
【0072】
図14Cは、
図14Bに示す第2の導電部材520の反対側の構造を示す斜視図である。導波装置500は、第2の導電部材520に接続される複数の同軸コネクタ350を備える。各同軸コネクタ350は、芯線を有する。
【0073】
図14Bおよび
図14Cに示す第2の導電部材520は、第1の導電部材510における複数のスロット512に給電する給電層として機能する。第2の導電部材520は、第1の導電部材510の導電性表面に対向する導電性表面520aを有する。第2の導電部材520の当該導電性表面520aに、複数のリッジ522および複数の導電性ロッド524が配置されている。この第2の導電部材520の上に、間隙を空けて第1の導電部材510が積層される。第1の導電部材510の導電性表面と、複数のリッジ522の上面(本明細書において、「導波面」と称する。)との間に複数の導波路が規定される。これらの導波路は、第1の導電部材510における複数のスロット512に接続される。このような構造により、導波装置500は、アンテナアレイとして機能し得る。このように、1つ以上のアンテナ素子が、第1の導電部材510に設けられた1つ以上のスロットによって実現されていてもよい。そのようなスロットは、複数のリッジ522の少なくとも1つの導波面に対向する位置に設けられ得る。
【0074】
図14Dは、第2の導電部材520の導電性表面520a上の構造を拡大して示す図である。第2の導電部材520は、複数のリッジ522と、各リッジ522の周囲を囲む複数の導電性ロッド524と、複数のリッジ522の端部に位置するH型の複数の凹部525aと、各凹部525aの中心に位置する貫通孔525とを備える。各リッジ522の端部は、芯線352がはんだ付けされる受け部526を備える。受け部526は、U字形状の溝を有する。溝は、V字形状などの他の形状でもよい。複数の導波部材522の端部は、複数の貫通孔525の内周面にそれぞれ繋がっている。第2の導電部材520の導電性表面520aに垂直な方向から見たとき、各リッジ522の端部は、貫通孔525に重なる。
【0075】
[第2の実施形態における治具]
図15Aは、上記の導波装置500を製造するときに使用される治具400を示す斜視図である。
図15Bは、
図15Aに示す治具400の反対側の構造を示す図である。
図15Aに示すように、治具400は、板状の本体410を備える。本体410の一方側の面は、第1の実施形態と同様に、平坦面421である。本体410は、第2の導電部材520の貫通孔525に挿入される第1の部分411と、第1の部分411に連接され第1の部分411よりも幅広の第2の部分412とを備える。
【0076】
図15Bに示す本体410の反対側には、本体410の上端から下端に延びる直線状の溝413が設けられている。第2の実施形態における治具400は、第1の実施形態における治具400とは異なり、本体410の上端中央部が窪んでおり、大きく開口している。第2の実施形態における治具400の第2の部分412は、第1の実施形態における治具400の第2の部材よりも短い。
【0077】
[導波装置の製造方法]
本実施形態における導波装置の製造方法は、
図3に示す製造方法と同様、塗布工程、差し込み工程、押し付け工程、接続工程、および取り外し工程を含む。以下、各工程を説明する。
【0078】
(塗布工程)
図14Dに示すリッジ522の先端の受け部526にはんだペーストを塗布する。すべての受け部526にはんだペーストを塗布する。
【0079】
(差し込み工程)
図14Cに示す複数の同軸コネクタ350を第2の導電部材520の背面側から複数の貫通孔525にそれぞれ差し込み、
図14Dに示す芯線352の先端を受け部526の溝に位置づける。これにより、芯線352と受け部526の溝との間にはんだペーストが介在する。
【0080】
(押し付け工程)
次に、
図16に示すように、治具400の第1の部分411を、第2の導電部材520の正面側から貫通孔525の凹部525aに挿入し、第2の部分412が第2の導電部材520の表面520aから突出した導電性ロッド524に突き当たるまで押し下げる。この際、治具400の平坦面421が芯線352に接触し、芯線352が受け部526に押し付けられる。このとき、圧力を受けた芯線352は受け部526の中心の溝に位置決めされる。治具400の溝413には、リッジ522の一部であるチョークリッジ522Cが嵌る。なお、チョークリッジ522Cは、リッジ522の他の部分から分離した部分であり、リッジ522が延びる方向において隣接する1つ以上の導電性ロッド524とともに、チョーク構造を構成する。チョーク構造は、リッジ522の端部から電磁波が漏出することを抑制する。すべてのH型の凹部525aに治具400を入れて、平坦面421を芯線352に接触させて受け部526に向けて押し付ける。
【0081】
図17は、同軸コネクタ350、治具400、貫通孔525、およびリッジ522の端部の切断面を示す図である。
図17に示すように、H型の凹部525aに挿入された状態において、治具400の第2の部分412の上面の高さは、リッジ522の導波面の高さよりも高い。
【0082】
(接続工程)
第1の実施形態と同様の接続工程を実施する。
【0083】
(取り外し工程)
接続工程が完了したら、すべてのH型の凹部525aから治具400を取り外して、第2の導電部材520を取得する。このようにすることにより、すべてのH型の凹部525aにおいて、芯線352が受け部526に均一に接続された状態となる。なお、治具400は、第1の実施形態と同様に、繰り返し利用することが可能である。
【0084】
上記の方法で第2の導電部材520を製造した後、第1の導電部材510と第2の導電部材520とが、互いに対向した状態で接続される。接続は、例えば不図示のネジなどの部品を用いて行われ得る。
【0085】
以上のように、本実施形態によれば、治具400を用いることにより、リッジ522の端部に同軸コネクタ350の芯線352を均一に接続することが容易になる。治具400を用いずに芯線352をリッジ522の端部にはんだ付けする場合と比較して、複数のアンテナ素子の特性を揃えることが容易になる。このため、アンテナアレイに、所望の特性を発揮させることが容易になる。
【0086】
[第2の実施形態における治具の変形例]
図18は、第2の実施形態における治具400の変形例を示す図である。
図18に示すように、治具400は、板状の本体410を備える。本体410は、第2の導電部材520の貫通孔525に挿入される第1の部分411と、第1の部分411に連接される第2の部分412とを備える。第2の部分412は、第1の部分411よりも幅広で、かつ、外側に段差を有し、第1の部分411よりも薄い。本変形例における治具400を用いて接続工程を実施する場合、第2の部分412における平坦な面が導電性ロッド524の側面に接触する。
【0087】
[工程の順序の変形例]
第2の実施形態についても、第1の実施形態と同様、塗布工程および差し込み工程を経てから押し付け工程が実施されるが、この順序に限られない。塗布工程は、差し込み工程および押し付け工程の後に実施してもよい。あるいは、塗布工程は、差し込み工程が実施された後、押し付け工程の前に実施してもよい。つまり、塗布工程は、接続工程の実施前までの適切な段階で実施され得る。
【0088】
以上の実施形態およびその変形例における構造は例示的なものに過ぎず、適宜変形可能である。例えば、各導電部材における貫通孔、導電性ロッド、導波部材のそれぞれの個数、形状、位置および寸法は、用途および要求される特性に応じて変更してもよい。同軸−導波管変換器アレイ、導波装置、またはアンテナ装置の製造に使用される治具400の構造についても同様に、種々の変形が可能である。
【0089】
また、上記の各実施形態では、複数の貫通孔に複数の同軸コネクタの芯線をそれぞれ接続するための方法を説明したが、同様の方法を、単一の貫通孔に単一の同軸コネクタの芯線を接続する目的で用いてもよい。
【0090】
[WRGの構成例]
次に、同軸−導波管変換器アレイ、導波装置、またはアンテナ装置が備えるワッフルアイアンリッジ導波路(WRG)の構成例をより詳細に説明する。WRGは、人工磁気導体として機能するワッフルアイアン構造中に設けられ得るリッジ導波路である。このようなリッジ導波路は、マイクロ波またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。また、このようなリッジ導波路を利用することにより、アンテナ素子を高密度に配置することが可能である。以下、そのような導波路構造の基本的な構成および動作の例を説明する。
【0091】
人工磁気導体は、自然界には存在しない完全磁気導体(PMC: Perfect Magnetic Conductor)の性質を人工的に実現した構造体である。完全磁気導体は、「表面における磁界の接線成分がゼロになる」という性質を有している。これは、完全導体(PEC: Perfect Electric Conductor)の性質、すなわち、「表面における電界の接線成分がゼロになる」という性質とは反対の性質である。完全磁気導体は、自然界には存在しないが、例えば複数の導電性ロッドの配列のような人工的な構造によって実現され得る。人工磁気導体は、その構造によって定まる特定の周波数帯域において、完全磁気導体として機能する。人工磁気導体は、特定の周波数帯域(伝搬阻止帯域)に含まれる周波数を有する電磁波が人工磁気導体の表面に沿って伝搬することを抑制または阻止する。このため、人工磁気導体の表面は、高インピーダンス面と呼ばれることがある。
【0092】
例えば、行および列方向に配列された複数の導電性ロッドによって人工磁気導体が実現され得る。このようなロッドは、ポストまたはピンと呼ばれることもある。これらの導波装置のそれぞれは、全体として、対向する一対の導電プレートを備えている。一方の導電プレートは、他方の導電プレートの側に突出するリッジと、リッジの両側に位置する人工磁気導体とを有している。リッジの上面(導電性を有する面)は、ギャップを介して、他方の導電プレートの導電性表面に対向している。人工磁気導体の伝搬阻止帯域に含まれる波長を有する電磁波(信号波)は、この導電性表面とリッジの上面との間の空間(ギャップ)をリッジに沿って伝搬する。
【0093】
図19は、このような導波装置が備える基本構成の限定的ではない例を模式的に示す斜視図である。図示されている導波装置100は、対向して平行に配置された板形状(プレート状)の導電部材110および120を備えている。導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。
【0094】
図20Aは、導波装置100のXZ面に平行な断面の構成を模式的に示す図である。
図20Aに示されるように、導電部材110は、導電部材120に対向する側に導電性表面110aを有している。導電性表面110aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110aは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110aは平面である必要は無い。
【0095】
図21は、わかり易さのため、導電部材110と導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波装置100を模式的に示す斜視図である。現実の導波装置100では、
図19および
図20Aに示したように、導電部材110と導電部材120との間隔は狭く、導電部材110は、導電部材120の全ての導電性ロッド124を覆うように配置されている。
【0096】
図19から
図21は、導波装置100の一部分のみを示している。導電部材110、120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、実際には、図示されている部分の外側にも拡がって存在する。導波部材122の端部には、前述のように、電磁波が外部空間に漏洩することを防止するチョーク構造が設けられる。チョーク構造は、例えば、導波部材122の端部に隣接して配置された導電性ロッドの列を含む。
【0097】
再び
図20Aを参照する。導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110aに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一または実質的に同一の平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも上面および側面に沿って拡がる導電層があればよい。この導電層はロッド状構造物の表層に位置してもよいが、表層が絶縁塗装または樹脂層からなり、ロッド状構造物の表面には導電層が存在していなくてもよい。また、導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面が導電体によって電気的に接続されていればよい。導電部材120の導電性を有する層は、絶縁塗装や樹脂層で覆われていてもよい。言い換えると、導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、導電部材110の導電性表面110aに対向する凹凸状の導電層を有していればよい。
【0098】
導電部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側にそれぞれ人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。
図21からわかるように、この例における導波部材122は、導電部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅と同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なる値を有していてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電性表面110aに沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、全体が導電性を有している必要は無く、導電部材110の導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを有していればよい。導電部材120、複数の導電性ロッド124、および導波部材122は、連続した単一構造体の一部であってもよい。さらに、導電部材110も、この単一構造体の一部であってもよい。
【0099】
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。導波装置100内を伝搬する電磁波(信号波)の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように人工磁気導体は設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の幅、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間隙の大きさによって調整され得る。
【0100】
次に、
図22を参照しながら、各部材の寸法、形状、配置等の例を説明する。
【0101】
図22は、
図20Aに示す構造における各部材の寸法の範囲の例を示す図である。導波装置は、所定の帯域(「動作周波数帯域」と称する。)の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。本明細書において、導電部材110の導電性表面110aと導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(例えば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。各導電性ロッド124のうち、導電部材120に接している方の端の部分を「基部」と称する。
図22に示すように、各導電性ロッド124は、先端部124aと基部124bとを有する。各部材の寸法、形状、配置等の例は、以下のとおりである。
【0102】
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
【0103】
(2)導電性ロッドの基部から導電部材110の導電性表面までの距離
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
【0104】
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電部材110と導電部材120との間隔に相当する。例えば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は、3.8934mmから3.9446mmの範囲内である。したがって、この場合、λmは3.8934mmとなるので、導電部材110と導電部材120との間隔は、3.8934mmの半分よりも小さく設計される。導電部材110と導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、導電部材110と導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、導電部材110と導電部材120との間隔がλm/2未満であれば、導電部材110および/または導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していてもよい。他方、導電部材110、120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。
【0105】
図20Aに示される例において、導電性表面120aは平面であるが、本開示の実施形態はこれに限られない。例えば、
図20Bに示すように、導電性表面120aは断面がU字またはV字に近い形状である面の底部であってもよい。導電性ロッド124または導波部材122が、基部に向かって幅が拡大する形状をもつ場合に、導電性表面120aはこのような構造になる。このような構造であっても、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離が波長λmの半分よりも短ければ、
図20Bに示す装置は、本開示の実施形態における導波装置として機能し得る。
【0106】
(3)導電性ロッドの先端部から導電性表面までの距離L2
導電性ロッド124の先端部124aから導電性表面110aまでの距離L2は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間を電磁波が往復する伝搬モードが生じ、電磁波を閉じ込められなくなるからである。なお、複数の導電性ロッド124のうち、少なくとも導波部材122と隣り合うものについては、先端が導電性表面110aとは電気的には接触していない状態にある。ここで、導電性ロッドの先端が導電性表面に電気的に接触していない状態とは、先端と導電性表面との間に空隙がある状態、あるいは、導電性ロッドの先端と導電性表面とのいずれかに絶縁層が存在し、導電性ロッドの先端と導電性表面が絶縁層を間に介して接触している状態、のいずれかを指す。
【0107】
(4)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、例えばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の空隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
【0108】
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要は無く、行および列は90度以外の角度で交差していてもよい。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要は無く、単純な規則性を示さずに分散して配置されていてもよい。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、導電部材120上の位置に応じて変化していてよい。
【0109】
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面125は、厳密に平面である必要は無く、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0110】
各導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、各導電性ロッド124は、単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気導体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
【0111】
導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さ、すなわち、基部124bから先端部124aまでの長さは、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離(λm/2未満)よりも短い値、例えば、λo/4に設定され得る。
【0112】
(5)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(例えばλo/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
【0113】
(6)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(図示される例ではZ方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの距離がλm/2以上となるからである。
【0114】
(7)導波面と導電性表面との間の距離L1
導波部材122の導波面122aと導電性表面110aとの間の距離L1については、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導波面122aと導電性表面110aとの間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離L1はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、距離L1を、例えばλm/16以上とすることが好ましい。
【0115】
導電性表面110aと導波面122aとの距離L1の下限、および導電性表面110aと導電性ロッド124の先端部124aとの距離L2の下限は、機械工作の精度と、上下の2つの導電部材110、120を一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)技術を用いて例えばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2〜3μm程度である。
【0116】
次に、導波部材122、導電部材110、120、および複数の導電性ロッド124を有する導波路構造の変形例を説明する。以下の変形例は、本開示の各実施形態におけるいずれの箇所のWRG構造にも適用され得る。
【0117】
図23Aは、導波部材122の上面である導波面122aのみが導電性を有し、導波部材122の導波面122a以外の部分は導電性を有していない構造の例を示す断面図である。導電部材110および導電部材120も同様に、導波部材122が位置する側の表面(導電性表面110a、120a)のみが導電性を有し、他の部分は導電性を有していない。このように、導波部材122、導電部材110、120の各々は、全体が導電性を有していなくてもよい。
【0118】
図23Bは、導波部材122が導電部材120上に形成されていない変形例を示す図である。この例では、導波部材122は、導電部材110と導電部材とを支持する支持部材(例えば、筐体の内壁等)に固定されている。導波部材122と導電部材120との間には間隙が存在する。このように、導波部材122は導電部材120に接続されていなくてもよい。
【0119】
図23Cは、導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124の各々が、誘電体の表面に金属などの導電性材料がコーティングされた構造の例を示す図である。導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、相互に導電体で接続されている。一方、導電部材110は、金属などの導電性材料で構成されている。
【0120】
図23Dおよび
図23Eは、導電部材110、120、導波部材122、および導電性ロッド124の各々の最表面に、誘電体の層110b、120bを有する構造の例を示す図である。
図23Dは、導体である金属製の導電部材の表面を誘電体の層で覆った構造の例を示す。
図23Eは、導電部材120が、樹脂などの誘電体製の部材の表面を、金属などの導体で覆い、さらにその金属の層を誘電体の層で覆った構造を有する例を示す。金属表面を覆う誘電体の層は樹脂などの塗膜であってもよいし、当該金属が酸化する事で生成された不動態皮膜などの酸化皮膜であってもよい。
【0121】
最表面の誘電体層は、WRG導波路によって伝播される電磁波の損失を増やす。しかし、導電性を有する導電性表面110a、120aを腐食から守ることができる。また、直流電圧や、WRG導波路によっては伝播されない程度に周波数の低い交流電圧の影響を遮断することができる。
【0122】
図23Fは、導波部材122の高さが導電性ロッド124の高さよりも低く、導電部材110の導電性表面110aのうち、導波面122aに対向する部分が、導波部材122の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図22に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。
【0123】
図23Gは、
図23Fの構造において、さらに、導電性表面110aのうち導電性ロッド124に対向する部分が、導電性ロッド124の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図22に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。なお、導電性表面110aの一部が突出する構造に代えて、一部が窪む構造であってもよい。
【0124】
図24Aは、導電部材110の導電性表面110aが曲面形状を有する例を示す図である。
図24Bは、さらに、導電部材120の導電性表面120aも曲面形状を有する例を示す図である。これらの例のように、導電性表面110a、120aは、平面形状に限らず、曲面形状を有していてもよい。曲面状の導電性表面を有する導電部材も、「板形状」の導電部材に該当する。
【0125】
上記の構成を有する導波装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき電磁波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、導電部材110と導電部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって電気的に接続する必要もない。
【0126】
図25Aは、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙における幅の狭い空間を伝搬する電磁波を模式的に示している。
図25Aにおける3本の矢印は、伝搬する電磁波の電界の向きを模式的に示している。伝搬する電磁波の電界は、導電部材110の導電性表面110aおよび導波面122aに対して垂直である。
【0127】
導波部材122の両側には、それぞれ、複数の導電性ロッド124によって形成された人工磁気導体が配置されている。電磁波は導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙を伝搬する。
図25Aは、模式的であり、電磁波が現実に作る電磁界の大きさを正確には示していない。導波面122a上の空間を伝搬する電磁波(電磁界)の一部は、導波面122aの幅によって区画される空間から外側(人工磁気導体が存在する側)に横方向に拡がっていてもよい。この例では、電磁波は、
図25Aの紙面に垂直な方向(Y方向)に伝搬する。このような導波部材122は、Y方向に直線的に延びている必要は無く、不図示の屈曲部および/または分岐部を有し得る。電磁波は導波部材122の導波面122aに沿って伝搬するため、屈曲部では伝搬方向が変わり、分岐部では伝搬方向が複数の方向に分岐する。
【0128】
図25Aの導波路構造では、伝搬する電磁波の両側に、中空導波管では不可欠の金属壁(電気壁)が存在していない。このため、この例における導波路構造では、伝搬する電磁波が作る電磁界モードの境界条件に「金属壁(電気壁)による拘束条件」が含まれず、導波面122aの幅(X方向のサイズ)は、電磁波の波長の半分未満である。
【0129】
図25Bは、参考のため、中空導波管730の断面を模式的に示している。
図25Bには、中空導波管730の内部空間723に形成される電磁界モード(TE
10)の電界の向きが矢印によって模式的に表されている。矢印の長さは電界の強さに対応している。中空導波管730の内部空間723の幅は、波長の半分よりも広く設定されなければならない。すなわち、中空導波管730の内部空間723の幅は、伝搬する電磁波の波長の半分よりも小さく設定され得ない。
【0130】
図25Cは、導電部材120上に2個の導波部材122が設けられている形態を示す断面図である。このように隣接する2個の導波部材122の間には、複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置されている。より正確には、各導波部材122の両側に複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置され、各導波部材122が独立した電磁波の伝搬を実現することが可能である。
【0131】
図25Dは、参考のため、2つの中空導波管730を並べて配置した導波装置の断面を模式的に示している。2つの中空導波管730は、相互に電気的に絶縁されている。電磁波が伝搬する空間の周囲が、中空導波管730を構成する金属壁で覆われている必要がある。このため、電磁波が伝搬する内部空間723の間隔を、金属壁の2枚の厚さの合計よりも短縮することはできない。金属壁の2枚の厚さの合計は、通常、伝搬する電磁波の波長の半分よりも長い。したがって、中空導波管730の配列間隔(中心間隔)を、伝搬する電磁波の波長よりも短くすることは困難である。特に、電磁波の波長が10mm以下となるミリ波帯、あるいはそれ以下の波長の電磁波を扱う場合は、波長に比して十分に薄い金属壁を形成することが難しくなる。このため、商業的に現実的なコストで実現することが困難になる。
【0132】
これに対して、人工磁気導体を備える導波装置100は、導波部材122を近接させた構造を容易に実現することができる。このため、複数のアンテナ素子が近接して配置されたアンテナアレイへの給電に好適に用いられ得る。
【0133】
図26Aは、上記のような導波路構造を利用したスロットアンテナアレイ200の構成の一部を模式的に示す斜視図である。
図26Bは、このスロットアンテナアレイ200におけるX方向に並ぶ2つのスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。このスロットアンテナアレイ200においては、第1の導電部材110が、X方向およびY方向に配列された複数のスロット112を有している。この例では、複数のスロット112は2つのスロット列を含み、各スロット列は、Y方向に等間隔に並ぶ6個のスロット112を含んでいる。第2の導電部材120には、Y方向に延びる2つの導波部材122が設けられている。各導波部材122は、1つのスロット列に対向する導電性の導波面122aを有する。2つの導波部材122の間の領域、および2つの導波部材122の外側の領域には、複数の導電性ロッド124が配置されている。これらの導電性ロッド124は、人工磁気導体を形成している。
【0134】
各導波部材122の導波面122aと、導電部材110の導電性表面110aとの間の導波路には、不図示の送信回路から電磁波が供給される。Y方向に並ぶ複数のスロット112のうちの隣接する2つのスロット112の中心間の距離は、例えば、導波路を伝搬する電磁波の波長と同じ値に設計される。これにより、Y方向に並ぶ6個のスロット112から、位相の揃った電磁波が放射される。
【0135】
図26Aおよび
図26Bに示すスロットアンテナアレイ200は、複数のスロット112の各々をアンテナ素子(放射素子とも称する。)とするアンテナアレイである。このようなスロットアンテナアレイ200の構成によれば、アンテナ素子間の中心間隔を、例えば導波路を伝搬する電磁波の自由空間における波長λoよりも短くすることができる。複数のスロット112には、ホーンが設けられ得る。ホーンを設けることで、放射特性または受信特性を向上させることができる。
【0136】
図27は、スロット112毎にホーン114を有するスロットアンテナアレイ200の構造の一部を模式的に示す斜視図である。このスロットアンテナアレイ200は、二次元的に配列された複数のスロット112および複数のホーン114を有する導電部材110と、複数の導波部材122Uおよび複数の導電性ロッド124Uが配列された導電部材120とを備える。
図27は、導電部材110、120の相互の間隔を極端に離した状態を示している。導電部材110における複数のスロット112は、導電部材110の導電性表面110aに沿った第1の方向(Y方向)および第1の方向に交差(この例では直交)する第2の方向(X方向)に配列されている。
図27には、導波部材122Uの各々の中央に配置されたポート(貫通孔)145Uも示されている。導波部材122Uの両端部に配置され得るチョーク構造の図示は省略されている。本実施形態では、導波部材122Uの数は4個であるが、導波部材122Uの数は任意である。本実施形態では、各導波部材122Uは、中央のポート145Uの位置で2つの部分に分断されている。
【0137】
図28Aは、
図27に示す16個のスロットが4行4列に配列されたアンテナアレイ200をZ方向からみた上面図である。
図28Bは、
図28AのC−C線断面図である。このアンテナアレイ200における導電部材110は、複数のスロット112にそれぞれ対応して配置された複数のホーン114を備えている。複数のホーン114の各々は、スロット112を囲む4つの導電壁を有している。このようなホーン114により、指向性を向上させることができる。
【0138】
図示されるアンテナアレイ200においては、スロット112に直接的に結合する第1の導波部材122Uを備える第1の導波装置100aと、第1の導波装置100aの導波部材122Uに結合する第2の導波部材122Lを備える第2の導波装置100bとが積層されている。第2の導波装置100bの導波部材122Lおよび導電性ロッド124Lは、導電部材140上に配置されている。第2の導波装置100bは、基本的には、第1の導波装置100aの構成と同様の構成を備えている。
【0139】
図28Aに示すように、導電部材110は、第1の方向(Y方向)および第1の方向に直交する第2の方向(X方向)に配列された複数のスロット112を備える。複数の導波部材122Uの導波面122aは、Y方向に延びており、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ4つのスロットに対向している。この例では導電部材110は、4行4列に配列された16個のスロット112を有しているが、スロット112の数および配列はこの例に限定されない。各導波部材122Uは、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ全てのスロットに対向している例に限らず、Y方向に隣接する少なくとも2つのスロットに対向していればよい。X方向に隣接する2つの導波面122aの中心間隔は、例えば波長λoよりも短く設定され、より好ましくは、波長λo/2よりも短く設定される。
【0140】
図28Cは、第1の導波装置100aにおける導波部材122Uの平面レイアウトを示す図である。
図28Dは、第2の導波装置100bにおける導波部材122Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図に示すように、第1の導波装置100aにおける導波部材122Uは直線状に延びており、分岐部も屈曲部も有していない。一方、第2の導波装置100bにおける導波部材122Lは、分岐部および屈曲部の両方を有している。
【0141】
第1の導波装置100aにおける導波部材122Uは、導電部材120が有するポート(開口部)145Uを通じて第2の導波装置100bにおける導波部材122Lに結合する。言い換えると、第2の導波装置100bの導波部材122Lを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第1の導波装置100aの導波部材122Uに達し、第1の導波装置100aの導波部材122Uを伝搬することができる。このとき、各スロット112は、導波路を伝搬してきた電磁波を空間に向けて放射するアンテナ素子として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット112に入射すると、その電磁波はスロット112の直下に位置する第1の導波装置100aの導波部材122Uに結合し、第1の導波装置100aの導波部材122Uを伝搬する。第1の導波装置100aの導波部材122Uを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第2の導波装置100bの導波部材122Lに達し、第2の導波装置100bの導波部材122Lに沿って伝搬することも可能である。
【0142】
図28Dに示すように、第2の導波装置100bの導波部材122Lは、1本の幹状部分と、幹状部分から分岐した4つの枝状部分を有する。導波部材122Lの幹状部分は、Y方向に延びており、第1リッジ122wと第2リッジ122xとに分割されている。導電部材140は、第1リッジ122wと第2リッジ122xとの間の間隙の位置に、貫通孔212を有する。貫通孔212には、同軸ケーブル270または同軸ケーブル270に接続されたコネクタが挿入される。同軸ケーブル270またはコネクタの芯線271は、第1リッジ122wまたは第2リッジ122xの端面に接続される。この芯線271と導波部材122Lとの接続構造は、
図1Aおよび
図1Bを参照して説明した接続構造と同様である。同軸ケーブル270は、高周波信号を生成または受信する電子回路290に接続される。
【0143】
電子回路290は、特定の位置に限定されず、任意の位置に配置されていてよい。電子回路290は、例えば、導電部材140の背面側(
図28Bにおける下側)の回路基板に配置され得る。そのような電子回路は、例えば、ミリ波を生成または受信するMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)などのマイクロ波集積回路を含み得る。電子回路290は、マイクロ波集積回路に加えて、他の回路、例えば、信号処理回路をさらに含んでいてもよい。そのような信号処理回路は、例えばアンテナ装置を備えたシステムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。電子回路290は、通信回路を含んでいてもよい。通信回路は、アンテナ装置を備えた通信システムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。
【0144】
なお、電子回路と導波路とを接続する構造は、例えば、米国特許出願公開第2018/0351261、米国特許出願公開第2019/0006743、米国特許出願公開第2019/0139914、米国特許出願公開第2019/0067780、米国特許出願公開第2019/0140344、および国際特許出願公開第2018/105513に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0145】
図28Aに示される導電部材110を「放射層」と呼ぶことができる。また、
図28Cに示される導電部材120、導波部材122U、および導電性ロッド124Uの全体を含む層を「励振層」と呼び、
図28Dに示される導電部材140、導波部材122L、および導電性ロッド124Lの全体を含む層を「分配層」と呼んでもよい。また「励振層」と「分配層」とをまとめて「給電層」と呼んでもよい。「放射層」、「励振層」および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。放射層、励振層、分配層、および分配層の背面側に設けられる電子回路は、モジュール化された1つの製品として製造され得る。
【0146】
この例におけるアンテナアレイでは、
図28Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されているため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現されている。例えば、
図28Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を10mm以下にすることができる。
【0147】
図28Dに示される導波部材122Lは、芯線271に接続される1本の幹状部分と、幹状部分から分岐した4つの枝状部分を有する。4つの枝状部分の先端部の上面に対向して、4つのポート145Uがそれぞれ位置している。貫通孔212から導電部材120の4つのポート145Uまでの、導波部材122Lに沿って測った距離は、全て等しい。このため、導電部材140の貫通孔212から、導波部材122Lに入力された信号波は、導波部材122UのY方向における中央に配置された4つのポート145Uのそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、導電部材120上に配置された4個の導波部材122Uは、同位相で励振され得る。
【0148】
なお、用途によっては、アンテナ素子として機能する全てのスロット112が同位相で電磁波を放射する必要はない。励振層および分配層における導波部材122Uおよび122Lのネットワークパターンは任意であり、図示される形態に限定されない。
【0149】
励振層、分配層を構成するに当たっては、導波路における様々の回路要素を利用する事ができる。それらの例は、例えば米国特許第10042045、米国特許第10090600、米国特許第10158158、国際特許出願公開第2018/207796、国際特許出願公開第2018/207838、米国特許出願公開第2019/0074569に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0150】
本開示におけるアンテナ装置は、例えば車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載されるレーダ装置またはレーダシステムに好適に用いられ得る。レーダ装置は、上述したいずれかの実施形態における導波装置を備えたアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続されたMMICなどのマイクロ波集積回路とを備える。レーダシステムは、当該レーダ装置と、当該レーダ装置のマイクロ波集積回路に接続された信号処理回路とを備える。本開示の実施形態におけるアンテナ装置と、小型化が可能なWRG構造とを組み合わせた場合、従来の中空導波管を用いた構成と比較して、アンテナ素子が配列される面の面積を小さくすることができる。このため、当該アンテナ装置を搭載したレーダシステムを、狭小な場所にも容易に搭載することができる。レーダシステムは、例えば道路または建物に固定されて使用され得る。信号処理回路は、例えば、マイクロ波集積回路によって受信された信号に基づき、到来波の方位を推定する処理等を行う。信号処理回路は、例えば、MUSIC法、ESPRIT法、およびSAGE法などのアルゴリズムを実行して、到来波の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成され得る。信号処理回路は、さらに、公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成されていてもよい。
【0151】
本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に1つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されてもよい。例えば、信号処理回路の一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD)であるFPGA(Field−Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路は、複数の演算素子(例えば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(例えばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であってもよい。信号処理回路は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは信号処理回路として機能し得る。
【0152】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、無線通信システムにも利用され得る。そのような無線通信システムは、上述したいずれかの実施形態における導波装置を含むアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続された通信回路(送信回路または受信回路)とを備える。送信回路は、例えば、送信すべき信号を表す信号波をアンテナ装置内の導波路に供給するように構成され得る。受信回路は、アンテナ装置を介して受信された信号波を復調してアナログまたはデジタルの信号として出力するように構成され得る。
【0153】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、さらに、屋内測位システム(IPS:Indoor Positioning System)におけるアンテナとしても利用することができる。屋内測位システムでは、建物内にいる人、または無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)などの移動体の位置を特定することができる。アンテナ装置はまた、店舗または施設に来場した人が有する情報端末(スマートフォン等)に情報を提供するシステムにおいて用いられる電波発信機(ビーコン)に用いることもできる。そのようなシステムでは、ビーコンは、例えば数秒に1回、IDなどの情報を重畳した電磁波を発する。その電磁波を情報端末が受信すると、情報端末は、通信回線を介して遠隔地のサーバコンピュータに、受け取った情報を送信する。サーバコンピュータは、情報端末から得た情報から、その情報端末の位置を特定し、その位置に応じた情報(例えば、商品案内またはクーポン)を、当該情報端末に提供する。
【0154】
WRG構造を有するスロットアレイアンテナを備えたレーダシステム、通信システム、および各種監視システムの応用例が、例えば米国特許第9786995号明細書および米国特許第10027032号に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。本開示のスロットアレイアンテナは、これらの文献に開示された各応用例に適用することができる。