【解決手段】第一態様に係る空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを加硫して、トレッド部を備える本加硫後タイヤを作製する第一工程と、トレッド部における少なくとも加硫最遅部の温度低下が小さくなるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を断熱した状態で後加硫をおこなう第二工程とを含む。第二態様に係る空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを加硫して、トレッド部を備える本加硫後タイヤを作製する第一工程と、トレッド部における少なくとも加硫最遅部が加温されるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を加温した状態で後加硫をおこなう第二工程とを含む。
前記第二工程の後加硫によって前記加硫最遅部が得る熱量の、前記第一工程の加硫によって前記加硫最遅部が得る熱量に対する比が0.70以上である、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
前記第二工程の後加硫によって前記加硫最遅部が得る熱量の、前記第一工程の加硫によって前記加硫最遅部が得る熱量に対する比が0.70以上である、請求項3に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本開示における第一態様に係る空気入りタイヤの製造方法について説明する。第一態様の空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを加硫して、トレッド部を備える本加硫後タイヤを作製する第一工程と、トレッド部における少なくとも加硫最遅部の温度低下が小さくなるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を断熱した状態で後加硫をおこなう第二工程とを含む。加えて、第一工程の加硫によってトレッド部の表面が得る熱量(以下、「熱量Q
s1」という。)の、第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量(以下、「熱量Q
m1」という。)に対する比(すなわち、熱量Q
s1/熱量Q
m1)が1.60未満である。
【0013】
第一態様の空気入りタイヤの製造方法は、加硫後のタイヤが持つ熱を、後加硫に有効に利用することができる。なぜなら、少なくとも加硫最遅部の温度低下が小さくなるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を断熱した状態で後加硫をおこなうためである。
【0014】
よって、第一態様の空気入りタイヤの製造方法は、断熱なしの場合にくらべて、加硫機占有時間を短縮することができる。
【0015】
さらに、第一態様の空気入りタイヤの製造方法は、空気入りタイヤ(最終的に得られる空気入りタイヤ)において、トレッド部の表面が、加硫最遅部にくらべて加硫が過度に進んだ状態になることを抑制することができる。なぜなら、少なくとも加硫最遅部の温度低下が小さくなるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を断熱した状態で後加硫をおこなうので、加硫最遅部に、熱量を効果的に与えることができるためである。
【0016】
加えて、熱量Q
s1(第一工程の加硫によってトレッド部の表面が得る熱量)の熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)に対する比が1.60未満であるため、トレッド部の表面が、加硫最遅部にくらべて加硫が過度に進んだ状態になることを効果的に抑制することができる。
【0017】
第一態様において、第二工程の後加硫によって加硫最遅部が得る熱量(以下、「熱量Q
m2」という。)の熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)に対する比(すなわち、熱量Q
m2/熱量Q
m1)が0.70以上であることが好ましい。0.70以上であると、トレッド部の表面が、加硫最遅部にくらべて加硫が過度に進んだ状態になることを、いっそう効果的に抑制することができる。
【0018】
次に、本開示における第二態様に係る空気入りタイヤの製造方法について説明する。第二態様の空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを加硫して、トレッド部を備える本加硫後タイヤを作製する第一工程と、トレッド部における少なくとも加硫最遅部が加温されるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を加温した状態で後加硫をおこなう第二工程とを含む。加えて、熱量Q
s1(第一工程の加硫によってトレッド部の表面が得る熱量)の熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)に対する比(すなわち、熱量Q
s1/熱量Q
m1)が1.60未満である。
【0019】
第二態様の空気入りタイヤの製造方法は、加硫後のタイヤが持つ熱を、後加硫に有効に利用することができる。なぜなら、少なくとも加硫最遅部が加温されるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を加温した状態で後加硫をおこなうためである。
【0020】
よって、第二態様の空気入りタイヤの製造方法は、加温なしの場合にくらべて、加硫機占有時間を短縮することができる。
【0021】
さらに、第二態様の空気入りタイヤの製造方法は、トレッド部の表面が、加硫最遅部にくらべて加硫が過度に進んだ状態になることを抑制することができる。なぜなら、少なくとも加硫最遅部が加温されるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を加温した状態で後加硫をおこなうので、加硫最遅部に、熱量を効果的に与えることができるためである。
【0022】
加えて、熱量Q
s1(第一工程の加硫によってトレッド部の表面が得る熱量)の熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)に対する比(すなわち、熱量Q
s1/熱量Q
m1)が1.60未満であるため、トレッド部の表面が、加硫最遅部にくらべて加硫が過度に進んだ状態になることを効果的に抑制することができる。
【0023】
第二態様においても、熱量Q
m2(第二工程の後加硫によって加硫最遅部が得る熱量)の熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)に対する比(すなわち、熱量Q
m2/熱量Q
m1)が0.70以上であることが好ましい。0.70以上であると、トレッド部の表面が、加硫最遅部にくらべて加硫が過度に進んだ状態になることを、いっそう効果的に抑制することができる。
【0024】
ここからは、図を参照しながら、本開示の複数の実施形態(実施形態1および2)について説明する。各図中には同一箇所に同一符号を付している。実施形態2以降では、実施形態1と共通の事柄についての記述を原則として省略する。よって、実施形態2以降では、実施形態1と異なる点についてのみ、原則として説明する。
【0025】
なお、タイヤ子午面は、タイヤ回転軸を含む面で且つタイヤ赤道面と直交する面である。タイヤ赤道面は、タイヤ回転軸に直交する面で且つタイヤ幅方向の中心に位置する面である。タイヤ幅方向は、タイヤ回転軸と平行な方向である。
【0026】
《実施形態1》
実施形態1は、上述の第一態様(断熱の態様)の一例である。実施形態1の製造方法は、転がり抵抗に優れた空気入りタイヤの製造に有用である。
【0027】
図1に示すように、未加硫タイヤ9は、一対のビード部1と、ビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、サイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、環状のビードコア1aが配されている。トレッド部3は、未加硫タイヤ9が空気入りタイヤとなったときに、踏面を構成する
【0028】
カーカス層4は、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至り、その端部がビードコア1aを介して折り返されている。カーカス層4は、少なくとも一枚のカーカスプライによって構成される。カーカスプライは、タイヤ周方向に対して略90°の角度で延びるカーカスコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。
【0029】
ベルト層5は、トレッド部3でカーカス層4の外側に貼り合わされ、トレッドゴム6により外側から覆われている。ベルト層5は、複数枚(
図1では二枚)のベルトプライによって構成される。各ベルトプライは、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるベルトコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。各ベルトプライのベルトコードは、ベルトプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されている。
【0030】
トレッドゴム6は、1層のみで構成しても良く、タイヤ径方向内側のベーストレッドと、その外周側に位置するキャップトレッドとを有する、いわゆるキャップベース構造で構成しても良い。
【0031】
図2に示すように、未加硫タイヤ9を加硫成形するために金型10を用いることができる。
【0032】
金型10は、未加硫タイヤ9の踏面に接するトレッド型部11と、下方を向いたタイヤ外面に接する下型部12と、上方を向いたタイヤ外面に接する上型部13とを備える。これらは、周囲に設置された開閉機構(不図示)によって、型締め状態と金型開放状態との間で変位自在に構成される。このような開閉機構の構造は周知である。また、金型10には、電気ヒータや蒸気ジャケットなどの熱源を有するプラテン板(不図示)が設けられており、これによって各型部の加熱がおこなわれる。
【0033】
金型10の中心部には、タイヤと同軸状に中心機構14が設けられ、これの周囲にトレッド型部11、下型部12および上型部13が設置されている。中心機構14は、ゴム袋状のブラダー15と、タイヤ軸方向に延びるセンターポスト16とを有し、センターポスト16には、ブラダー15の端部を把持する上部クランプ17と下部クランプ18が設けられている。
【0034】
中心機構14には、ブラダー15内への加熱媒体の供給を行うための媒体供給路21が上下に延設され、その媒体供給路21の上端に噴出し口22が形成されている。媒体供給路21には、加熱媒体供給源23から供給された加熱媒体や、加圧媒体供給源26から供給された加圧媒体が流れる供給配管24が接続されている。加熱媒体は、バルブ25の開閉操作に応じて供給される。加圧媒体は、バルブ28の開閉操作に応じて供給される。
【0035】
また、中心機構14には、ブラダー15内の加熱媒体と加圧媒体とが混合された高温高圧流体を排出するための媒体排出路31が上下に延設され、その媒体排出路31の上端に回収口32が形成されている。媒体排出路31には、高温高圧流体が流れる排出配管34が接続され、その開閉を操作するブローバルブ33を排出配管34に設けている。ポンプ35に関しては、媒体排出路31を通る高温高圧流体が媒体供給路21を経由してブラダー15の内部に再供給されるように、高温高圧流体を強制循環させる手法を用いても構わない。
【0036】
以下、実施形態1における空気入りタイヤの製造方法が含む工程をいくつか説明する。
【0037】
実施形態1における空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤ9を加硫して、トレッド部3を備える本加硫後タイヤを作製する第一工程を含む。なお、実施形態1における空気入りタイヤの製造方法は、第一工程の前に、未加硫タイヤ9を作製する工程を含んでいてもよい。
【0038】
第一工程では、まず、
図2に示すように、金型10内に未加硫タイヤ9をセットし、膨張させたブラダー15によって未加硫タイヤ9を金型10の内面形状近くまでシェーピングする。これにより、未加硫タイヤ9を、トレッド型部11、下型部12および上型部13の各々にあてがう。
【0039】
続いて、未加硫タイヤ9の外面側から加熱する外側加熱をおこなうとともに、未加硫タイヤ9の内面側から加熱する内側加熱とをおこなう。外側加熱は、金型10を加熱することでおこなうことができる。金型10は、熱源(たとえば蒸気ジャケットなど)により予め加熱されていることができる。内側加熱は、媒体供給路21を通じてブラダー15内に加熱媒体を所定時間供給し、次いでブラダー15内に加圧媒体を供給するという手順でおこなうことができる。加熱媒体として、たとえばスチームや高温水を使用することができる。加圧媒体として、たとえば窒素ガスなどの不活性ガスや、スチームを使用することができる。
【0040】
熱量Q
s1(第一工程の加硫によってトレッド部3の表面が得る熱量)の熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)に対する比が1.60未満となるように未加硫タイヤ9の加硫をおこなう。熱量Q
s1の熱量Q
m1に対する比の下限として、1.05、1.10、1.20、1.30などを挙げることができる。トレッド部3の表面とは、具体的には、トレッド部3の外面である。加硫最遅部は、トレッド部3内で、加硫が最も進行し難いと考えられる部位を意味する。加硫最遅部は、具体的には、空気入りタイヤのトレッド部3内で厚みが最も大きい箇所における、厚み方向の中心に位置する。この部位は、熱源(ブラダー15に供給される高温高圧流体や、金型10を加熱する熱源)から遠く、昇温が遅いため、加硫が最も進行し難いと考えられる。トレッド部3の厚みは、空気入りタイヤにおけるトレッド部3の内表面の法線に沿って測定する。加硫最遅部は、トレッド部3のショルダーに位置することが一般的である。ただし、加硫最遅部は、トレッド部3のショルダーに位置しなければならない訳ではない。
【0041】
熱量Q
s1の熱量Q
m1に対する比は、主に熱源、具体的には、トレッド部3を加熱することが可能な熱源によって調整できる。この熱源の温度を低くするほど、この比が下がる傾向がある。
【0042】
第一工程では、トレッド部3の表面が、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは135℃以下、さらに好ましくは130℃以下で未加硫タイヤ9を加硫する。第一工程では、トレッド部3の表面が、好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上で未加硫タイヤ9を加硫する。130℃以上でもよく、140℃以上でもよい。
【0043】
熱量Q
s1(第一工程の加硫によってトレッド部3の表面が得る熱量)は、仮に、トレッド部3の表面が加硫中140℃で一定であったとして、どれほどの時間に相当する熱量であるのか、という考え方によって時間(時の長さを数える単位)で表すことができる。すなわち、仮に、トレッド部3の表面が、140℃一定下で熱量Q
s1を得たとして、そのためにかかる時間(以下、「第一積算等価加硫量」という。)で熱量Q
s1を表すことができる。
【0044】
第一積算等価加硫量(仮に、トレッド部3の表面が、140℃一定下で熱量Q
s1を得たとして、そのためにかかる時間)は、次のような等価加硫量の考え方にしたがって導き出すことができる。
【0045】
等価加硫量は、Van’t Hoffの法則に基づく下記の加硫反応速度式から換算される加硫時間t
0の積算値である。ここで、Tは、実際の加硫温度(℃)、tは、加硫温度Tでの加硫時間(分)、T
0は基準温度(℃)、t
0は、基準温度T
0での加硫時間(分)、αは加硫温度係数(加硫温度が10℃変わるときの加硫の速さが変わる割合)である。基準温度T
0として140℃を採用する。加硫温度係数αとして2、またはこれに近い値を任意に採用しうるものの、簡便法としてα=2を採用する。
t
0=t×α
(T−T0)/10 (A)
【0046】
式(A)において、α
(T−T0)/10は、等価係数であり、実際の加硫温度Tにおける熱量に相当する。したがって、仮に、時間t
1(分)における等価係数をx、時間t
2(分)における等価係数をyとしたとき、t
1〜t
2間に与えられた熱量z(分)は、台形面積法に基づき、以下の計算式によって導き出すことができる。
z=(x+y)×(t
2−t
1)/2 (B)
【0047】
第一積算等価加硫量(仮に、トレッド部3の表面が、140℃一定下で熱量Q
s1を得たとして、そのためにかかる時間)は、35分以下であってもよく、30分以下であってもよい。第一積算等価加硫量は、15分以上であってもよく、18分以上であってもよい。
【0048】
実施形態1における空気入りタイヤの製造方法は、トレッド部3における少なくとも加硫最遅部の温度低下が小さくなるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を断熱した状態で後加硫をおこなう第二工程を含む。
【0049】
図3に示すような断熱容器51に、本加硫後タイヤを入れて断熱する。断熱容器51には、本加硫後タイヤを倒した状態で、本加硫後タイヤを収容することができる。本加硫後タイヤを断熱容器51に入れて断熱することで、加硫最遅部の温度低下が小さくすることが可能であるとともに、それ以外の部分、たとえばトレッド部3の表面の温度低下も小さくすることができる。よって、本加硫後タイヤを断熱容器51に入れて断熱することで、加硫最遅部の後加硫を効果的にすすめることが可能であるとともに、それ以外の部分(たとえばトレッド部3の表面)の後加硫も効果的にすすめることができる。なお、断熱中、断熱容器51内部は加圧しない。「加圧しない」とは、断熱容器51の内部を加圧するための操作(たとえば、断熱容器51の内部全体を大気圧よりも高くするための気体の導入)をおこなわないことを意味するに過ぎない。よって、後加硫にともなって生じ得る圧力上昇があってもよい。
【0050】
断熱を20分以上おこなった場合、断熱開始時における加硫最遅部の温度(以下、「断熱開始温度」という。)と、断熱開始20分後における加硫最遅部の温度との差は、好ましくは−5℃〜15℃、より好ましくは−4℃〜10℃、さらに好ましくは−3℃〜5℃、さらに好ましくは−2℃〜2℃、さらに好ましくは−2℃〜0℃である。この差は、断熱開始温度から、断熱開始20分後の温度を引くことによって求めることができる。なお、断熱は、20分未満でおこなわれてもよい。
【0051】
熱量Q
m2(第二工程の後加硫によって加硫最遅部が得る熱量)の熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)に対する比(すなわち、熱量Q
m2/熱量Q
m1)は、0.70以上であってもよく、0.75以上であってもよく、0.80以上であってもよい。熱量Q
m2の熱量Q
m1に対する比の上限として、たとえば2.5、1.5、1.2、1.0などを挙げることができる。熱量Q
m2は、加硫最遅部が100℃になった時点で温度測定を終了し、算出されるものとする。
【0052】
第二工程の後加硫によってトレッド部3の表面が得る熱量Q
s2および熱量Q
s1(第一工程の加硫によってトレッド部3の表面が得る熱量)の合計を熱量Q
stというとともに、熱量Q
m2(第二工程の後加硫によって加硫最遅部が得る熱量)および熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)の合計を熱量Q
mtというとき、熱量Q
stの熱量Q
mtに対する比(すなわち、熱量Q
st/熱量Q
mt)は1.00未満が好ましい。熱量Q
stの熱量Q
mtに対する比の下限として、たとえば0.70、0.80を挙げることができる。なお、熱量Q
s2は、加硫最遅部が100℃になった時点で温度測定を終了し、算出されるものとする。
【0053】
熱量Q
s2(第二工程の後加硫によってトレッド部3の表面が得る熱量)は、仮に、トレッド部3の表面が後加硫中140℃で一定であったとして、どれほどの時間に相当する熱量であるのかという考え方によって、時間(時の長さを数える単位)で表すことができる。すなわち、仮に、トレッド部3の表面が、140℃一定下で熱量Q
s2を得たとして、そのためにかかる時間(以下、「第二積算等価加硫量」という。)で熱量Q
s2を表すことができる。第二積算等価加硫量は、第一積算等価加硫量と同じように導き出すことができる。第二積算等価加硫量の単位として、実施形態1では、第一積算等価加硫量と同じように「分」を採用する。
【0054】
第一積算等価加硫量(仮に、トレッド部3の表面が、140℃一定下で熱量Q
s1を得たとして、そのためにかかる時間)と、第二積算等価加硫量(仮に、トレッド部3の表面が、140℃一定下で熱量Q
s2を得たとして、そのためにかかる時間)との合計は、30分以上60分以下であってもよい。
【0055】
第二工程を終えたタイヤを、必要に応じて、内圧によって膨張させた状態で冷却してもよい。すなわち、第二工程を終えたタイヤに、ポストキュアインフレーションをおこなってもよい。第二工程を終えたタイヤにポストキュアインフレーションをおこなわずに、次工程(たとえば検査工程)に送ってもよい。なお、第二工程を終えたタイヤで、加硫が進んでもよい。
【0056】
このようにして得られた空気入りタイヤは、たとえば、重荷重用タイヤ(トラック用タイヤ、バス用タイヤなど)、乗用車用タイヤとして、好適に使用することができる。
【0057】
実施形態1における空気入りタイヤの製造方法には、種々の変更を加えることができる。たとえば、以下の変形例から、一つまたは複数を選択して、実施形態1に変更を加えることができる。
【0058】
上述の実施形態1では、本加硫後タイヤを断熱容器51に入れる、という構成を説明した。しかしながら、実施形態1は、この構成に限定されない。たとえば、この構成に代えて、トレッド部3の少なくともショルダーを断熱材で覆うという構成でもよい。たとえば、トレッド部3のショルダーのみを断熱材で覆う構成、トレッド部3の全体を断熱材で覆う構成などを挙げることができる。
【0059】
上述の実施形態1では、断熱中に断熱容器51内部は加圧しない、という構成を説明した。しかしながら、実施形態1は、この構成に限定されない。たとえば、この構成に代えて、断熱中、断熱容器51内部を加圧するという構成でもよい。具体的には、断熱容器51内部を、大気圧を超えた圧力に保持するために、断熱容器51内部を加圧してもよい。
【0060】
上述の実施形態1では、本加硫後タイヤを単に断熱した状態で後加硫をおこなう、という構成を説明した。しかしながら、実施形態1は、この構成に限定されない。たとえば、この構成に代えて、断熱した本加硫後タイヤを、内圧によって膨張させた状態で後加硫するという構成でもよい。たとえば、本加硫後タイヤを断熱容器51内で、内圧によって膨張させた状態に保持して、後加硫をすすめるという構成でもよい。この場合、ポストキュアインフレーションと、断熱により促進された後加硫とを並行しておこなうため、製造効率に優れる。
【0061】
本加硫後タイヤを単に断熱した状態で後加硫をおこなう、という構成に代えて、断熱した本加硫後タイヤを運搬しながら後加硫をおこなうという構成でもよい。たとえば、本加硫後タイヤを断熱容器51ごと、次工程(たとえば検査工程)の作業場まで運搬するという構成でもよい。この場合、次工程の作業場までの運搬と、後加硫とを並行しておこなうため、製造効率に優れる。運搬は、たとえばコンベヤーでおこなうことができる。
【0062】
《実施形態2》
実施形態2では、実施形態1とは異なる製造方法(空気入りタイヤの製造方法)の例を示す。実施形態2は、上述の第二態様(加温の態様)の一例である。実施形態2の製造方法は、転がり抵抗に優れた空気入りタイヤの製造に有用である。
【0063】
実施形態2における空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤ9を加硫して、トレッド部3を備える本加硫後タイヤを作製する第一工程を含む。なお、実施形態2における空気入りタイヤの製造方法は、第一工程の前に、未加硫タイヤ9を作製する工程を含んでいてもよい。
【0064】
実施形態2における空気入りタイヤの製造方法は、トレッド部3における少なくとも加硫最遅部が加温されるように、本加硫後タイヤの少なくとも一部を加温した状態で後加硫をおこなう第二工程を含む。
【0065】
第二工程では、本加硫後タイヤを加温するための熱源を備える断熱容器51に、本加硫後タイヤを入れて加温する(
図3参照)。断熱容器51には、本加硫後タイヤを倒した状態で、本加硫後タイヤを収容することができる。本加硫後タイヤを断熱容器51に入れて加温することで、加硫最遅部を加温することが可能であるとともに、それ以外の部分、たとえばトレッド部3の表面も加温することができる。よって、本加硫後タイヤを断熱容器51に入れて加温することで、加硫最遅部の後加硫を効果的にすすめることが可能であるとともに、それ以外の部分(たとえばトレッド部3の表面)の後加硫も効果的にすすめることができる。なお、加温中、断熱容器51内部は加圧しない。「加圧しない」とは、断熱容器51の内部を加圧するための操作(たとえば、断熱容器51の内部全体を大気圧よりも高くするための気体の導入)をおこなわないことを意味するに過ぎない。よって、後加硫にともなって生じ得る圧力上昇があってもよい。
【0066】
加温を20分以上おこなった場合、加温開始時における加硫最遅部の温度(以下、「加温開始温度」という。)と、加温開始20分後における加硫最遅部の温度との差は、好ましくは−10℃〜0℃、より好ましくは−9℃〜−2℃、さらに好ましくは−8℃〜−3℃である。この差は、加温開始温度から、加温開始20分後の温度を引くことによって求めることができる。なお、加温は、20分未満でおこなわれてもよい。
【0067】
熱量Q
m2(第二工程の後加硫によって加硫最遅部が得る熱量)の熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)に対する比(すなわち、熱量Q
m2/熱量Q
m1)は、0.70以上であってもよく、1.30以上であってもよく、1.50以上であってもよく、2.00以上であってもよい。熱量Q
m2の熱量Q
m1に対する比の上限として、たとえば3.5、3.0、2.8などを挙げることができる。
【0068】
熱量Q
stの熱量Q
mtに対する比(すなわち、熱量Q
st/熱量Q
mt)は1.00未満が好ましい。熱量Q
stの熱量Q
mtに対する比の下限として、たとえば0.70を挙げることができる。熱量Q
stは、すでに説明したとおり、熱量Q
s1(第一工程の加硫によってトレッド部3の表面が得る熱量)と、熱量Q
s2(第二工程の後加硫によってトレッド部3の表面が得る熱量)との合計である。熱量Q
mtは、すでに説明したとおり、熱量Q
m1(第一工程の加硫によって加硫最遅部が得る熱量)と、熱量Q
m2(第二工程の後加硫によって加硫最遅部が得る熱量)との合計である。
【0069】
合計積算等価加硫量(第一積算等価加硫量と第一積算等価加硫量との合計)は、30分以上60分以下であってもよい。
【0070】
第二工程を終えたタイヤを、必要に応じて、内圧によって膨張させた状態で冷却してもよい。すなわち、第二工程を終えたタイヤに、ポストキュアインフレーションをおこなってもよい。第二工程を終えたタイヤにポストキュアインフレーションをおこなわずに、次工程(たとえば検査工程)に送ってもよい。
【0071】
実施形態2における空気入りタイヤの製造方法には、種々の変更を加えることができる。たとえば、以下の変形例から、一つまたは複数を選択して、実施形態2に変更を加えることができる。
【0072】
上述の実施形態2では、本加硫後タイヤを断熱容器51に入れる、という構成を説明した。しかしながら、実施形態2は、この構成に限定されない。たとえば、この構成に代えて、電熱器のような熱源を備えるカバーで、トレッド部3の少なくともショルダーを覆うという構成でもよく、暖房装置(たとえばストーブ)を利用するという構成でもよい。トレッド部3の少なくともショルダーをカバーで覆うという構成として、たとえば、トレッド部3のショルダーのみをカバーで覆う構成、トレッド部3の全体をカバーで覆う構成などを挙げることができる。熱源を備えるカバーとして、タイヤウォーマーを挙げることができる。タイヤウォーマーは、トレッド部3を被覆するためのカバーと、カバー内に設けられた電熱線(たとえばニクロム線)とを有し得る。
【0073】
上述の実施形態2では、加温中に断熱容器51内部は加圧しない、という構成を説明した。しかしながら、実施形態2は、この構成に限定されない。たとえば、この構成に代えて、加温中、断熱容器51内部を加圧するという構成でもよい。具体的には、断熱容器51内部を、大気圧を超えた圧力に保持するために、断熱容器51内部を加圧してもよい。
【0074】
上述の実施形態2では、本加硫後タイヤを単に加温した状態で後加硫をおこなう、という構成を説明した。しかしながら、実施形態2は、この構成に限定されない。たとえば、この構成に代えて、加温中の本加硫後タイヤを、内圧によって膨張させた状態で後加硫するという構成でもよい。たとえば、本加硫後タイヤを断熱容器51内で、内圧によって膨張させた状態に保持して、後加硫をすすめるという構成でもよい。この場合、ポストキュアインフレーションと、加温により促進された後加硫とを並行しておこなうため、製造効率に優れる。
【0075】
本加硫後タイヤを単に加温した状態で後加硫をおこなう、という構成に代えて、本加硫後タイヤを運搬しながら加温し、これによって後加硫をおこなうという構成でもよい。この場合、次工程の作業場までの運搬と、後加硫とを並行しておこなうため、製造効率に優れる。運搬は、たとえばコンベヤーでおこなうことができる。
【実施例】
【0076】
以下に、本開示の実施例を説明する。
【0077】
各例の空気入りタイヤ(タイヤサイズ:275/70R22.5)を作製するために、
図2に示す構造の金型10を用いて、表1に示す条件で未加硫タイヤを加硫した。表1中、加硫温度は、金型10の温度である。
【0078】
金型10から取り出したタイヤを、各比較例では、25℃下に放置した状態で後加硫をおこなった。これに対して、実施例1では、金型10から取り出したタイヤを断熱容器51(熱源は有さない)に入れ、断熱容器51に収容した状態で後加硫をおこなった。実施例2〜3では、金型10から取り出したタイヤを、熱源を有する断熱容器51に入れ、熱源で加温した状態で後加硫をおこなった。
【0079】
温度測定、および積算等価加硫量の算出
トレッド部内で厚みが最も大きい箇所における厚み方向の中心を、加硫最遅部と見立て、その温度(加硫最遅部の温度)を熱電対で測定した。なお、この箇所は、トレッド部のショルダーに位置していた。いっぽう、トレッド部の表面(具体的には外面)の温度は、タイヤ幅方向の中心位置において熱電対で測定した。これらの測定結果に基づいて、金型10を開放した時における各部の積算等価加硫量(140℃換算)と、各部の最終の積算等価加硫量(140℃換算)とを求めた。ここで、最終の積算等価加硫量とは、加硫機占有中(金型10を占有中)に得る積算等価加硫量(140℃換算)と、後加硫中に得る積算等価加硫量(140℃換算)との合計を意味する。後加硫に関する温度測定は、加硫最遅部が100℃になった時点で終了した。なお、最終の積算等価加硫量(140℃換算)の目標値は、各例で30分〜60分であった。
【0080】
なお、実施例1において、加硫最遅部の断熱開始温度(断熱開始時における加硫最遅部の温度)は、表1に示す加硫温度と同じ値であった。実施例2〜3においても、加硫最遅部の加温開始温度(加温開始時における加硫最遅部の温度)は、表1に示す加硫温度と同じ値であった。これに対応する時点での加硫最遅部の温度は、各比較例においても、表1に示す加硫温度と同じ値であった。
【0081】
いっぽう、断熱開始20分後における加硫最遅部の温度は、実施例1で131℃であった。加温開始20分後における加硫最遅部の温度は、実施例2で137℃、実施例3で129℃であった。これに対応する時点での加硫最遅部の温度は、比較例1で130℃、比較例2で121℃、比較例3で105℃、比較例4で105℃、比較例5で108℃であった。
【0082】
転がり抵抗
転がり抵抗は、転がり抵抗測定ドラムを使用し、国際規格ISO28580(JISD4234)に準じて、空気圧900kPa、荷重2678kgf、試験温度23℃、試験速度60km/hで測定した。比較例4の転がり抵抗を100とした指数で、各例の転がり抵抗を表1に示す。指数が小さいほど転がり抵抗が小さく、低燃費性能に優れていることを示す。
【0083】
加硫機占有時間
比較例4の加硫機占有時間を100とした指数で、各例の加硫機占有時間を表1に示す。指数が小さいほど加硫機占有時間が短いことを示す。
【0084】
【表1】
【0085】
加温によって、加硫後のタイヤが持つ熱を、後加硫に有効に利用することができた(比較例4、実施例3参照)。
【0086】
加えて、加温によって、熱量Q
st/熱量Q
mtを下げることができた(比較例4、実施例3参照)。これにより、加温によって、トレッド部の表面が、加硫最遅部にくらべて加硫が過度に進んだ状態になることを抑制できたといえる。
【0087】
いっぽう、断熱によっても、加硫後のタイヤが持つ熱を、後加硫に有効に利用することができた(比較例3、実施例1参照)。加えて、断熱によっても、熱量Q
st/熱量Q
mtを下げることができた(比較例3、実施例1参照)。