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特開2020-902注入用人工インプラント及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-902(P2020-902A)
(43)【公開日】2020年1月9日
(54)【発明の名称】注入用人工インプラント及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/24 20060101AFI20191206BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20191206BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20191206BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20191206BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20191206BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20191206BHJP
【FI】
   A61L27/24
   A61L27/40
   A61L27/16
   A61P23/02
   A61P17/00
   A61L27/50
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-160009(P2019-160009)
(22)【出願日】2019年9月3日
(62)【分割の表示】特願2016-575632(P2016-575632)の分割
【原出願日】2015年3月13日
(31)【優先権主張番号】14/211,994
(32)【優先日】2014年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/227,365
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】516275848
【氏名又は名称】サンエヴァ メディカル,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100180862
【弁理士】
【氏名又は名称】花井 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】マシ,ルイス
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081BB06
4C081CA082
4C081CD131
4C081DA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】注入用人工インプラント及び顔面欠損等の欠損を充填する方法の提供。
【解決手段】ポリメチルメタクリレート粒子等の微粒子、及び懸濁剤としてコラーゲンを含み、この場合、該コラーゲンが含有する低分子量ゼラチンの量は、高分子量コラーゲンと比較して低い。組成物内のコラーゲンの分子量を制御することにより、人工インプラント組成物の注入適性、安定性、及び抗原誘発性を改善できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性懸濁剤に懸濁した、約5〜約400μmの直径を有する微粒子を含む人工インプラント組成物であって、
前記水性懸濁剤が、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、
前記変性アテロコラーゲンが、総重量の10wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDaの成分を有し、
前記変性アテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwが重量平均分子量であり、Mnが数平均分子量である、
人工インプラント組成物。
【請求項2】
前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンが、ウシ又はブタコラーゲンから調製される、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項3】
前記水性懸濁剤のpHが、6.0〜8.0であり、及び前記水性懸濁剤内の変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンの濃度が、0.5〜15wt%である、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項4】
前記微粒子が、約10〜約200μmの直径を有する、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項5】
前記微粒子が、メタクリレートモノマーを含むポリマー又はコポリマーを含む、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項6】
前記ポリマー又はコポリマーが、ポリメチルメタクリレートである、請求項5に記載の人工インプラント組成物。
【請求項7】
20〜30ゲージ針を通じて注入可能である、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項8】
麻酔薬を更に含む、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項9】
20〜25℃の温度で、少なくとも30日間安定である、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項10】
室温で72時間安定である、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項11】
軟組織の欠損近傍に人工インプラント組成物を注入するステップを含む、軟組織の欠損を補強する方法であって、
前記人工インプラント組成物が、総重量の10wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDaの成分を有する変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、
前記変性アテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwが重量平均分子量であり、Mnが数平均分子量である、
方法。
【請求項12】
前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンが、約5〜約400μmの直径を有する微粒子が懸濁された懸濁剤の形態を採る、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記人工インプラント組成物が、軟組織の欠損の下部であって、真皮と皮下脂肪の接合部に注入される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記軟組織の欠損が、老化の結果、皺、瘢痕、外傷と関連する変形、又は形成外科術の結果である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の人工インプラント組成物の注入を、2週間の間隔で1回以上繰り返すステップを更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記人工インプラント組成物の微粒子が、約10〜約200μmの直径を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記人工インプラント組成物の微粒子が、メタクリレートモノマーを含むポリマー又はコポリマーを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリマー又はコポリマーが、ポリメチルメタクリレートである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記人工インプラント組成物が、20〜30ゲージ針を通じて注入可能である、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記人工インプラント組成物が、局所麻酔薬を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記変性アテロコラーゲンが、ウシ又はブタコラーゲンから調製される、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記人工インプラント組成物が、20〜25℃の温度で少なくとも30日間安定である、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
前記人工インプラント組成物が、室温で72時間安定である、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、注入用人工インプラント及び顔面欠損等の欠損を充填する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟組織、例えば皮膚の補強は、傷害からの回復、及び美容目的又は支持目的を含む多くの状況で採用され得る。例えば、正常な老化に伴って、皮膚はたるむようになり得る、又はしわ、例えば、ほうれい線、皺、ピッティング及び欠損等が形成され得る。軟組織の補強は、例えばしわやライン等の欠損を矯正し、また老化の影響を相殺するのに利用可能である。副作用を伴わずに、皮膚の不規則性を恒久的に均一化するのが望ましい。軟組織の補強は、コラーゲン、シリコーン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリ四フッ化エチレン、及びヒドロゲルベースのポリマー組成物等の材料を使用することにより達成される。このような材料は、用途に応じて様々な形態を採り得る。例えば、これらの材料は、濃厚溶液、ゲル、又は懸濁液の形態を採り得、またインプラント又はインプラントを送達するための担体として利用可能である。軟組織の補強用の理想的な材料は、十分に耐久性を有し、また所定の位置に留まるべきであり、インプラント部位から移動してはならない。
【0003】
注入用皮膚充填剤は、皮膚欠損の外観を低減するための非侵襲的介入法として特に望ましい。注入用皮膚充填剤は、周辺の皮膚よりも低い又は深い皮膚欠損内の皮膚を隆起させ、周辺の皮膚と同一レベルまで欠損の充填を引き起こし、欠損の可視性を低減する。
【0004】
米国特許第5,344,452号は、生体適合性を有し、注入部位に恒久的に留まり、実質的に副作用を有さない人工インプラントについて記載する。インプラント組成物は、平滑面を有し、隅角部及び端部を有さない、例えば粉末状の生体適合性固体等の固体粒子、特に微粒子の形態のポリメチルメタクリレート(PMMA)を含む。特定の態様では、インプラント組成物は、生理学的に許容される懸濁剤又は担体、例えば生分解性のゼラチン、水、及び/又はアルコール等を含む。そのような皮膚充填剤は、Artefill(登録商標)として市販されている。
【0005】
米国特許第5,344,452号の組成物は、意図する目的に十分に適するが、例えば注入適性や保存安定性等の物理特性が改善したインプラント組成物を設計するのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,344,452号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、人工インプラント組成物は、水性懸濁剤に懸濁した、約5〜約400μmの直径を有する微粒子を含み、この場合、前記水性懸濁剤は、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンは、総重量の10wt%未満の、重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDの成分を有し、並びに前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwは重量平均分子量であり、Mnは、数平均分子量である。
【0008】
別の態様では、軟組織の欠損を補強する方法は、軟組織の欠損近傍に人工インプラント組成物を注入するステップを含み、この場合、前記人工インプラント組成物は、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンは、総重量の10wt%未満の、重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDの成分を有し、並びに前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。
【0009】
更なる態様では、注入用人工インプラント組成物の注入適性を改善する方法は、水性懸濁剤に懸濁した、約5〜約400μmの直径を有する微粒子を含む注入用人工インプラント組成物を形成するステップを含み、この場合、前記水性懸濁剤は、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンは、総重量の10wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDの成分を有し、並びに前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書では、特に軟組織の欠損の補強に役立つ注入用人工インプラント組成物について記載する。1つの態様では、組成物は、コラーゲンを含む。特別な態様では、組成物は、ポリメチルメタクリレート粒子等の微粒子、及びコラーゲンを含む懸濁剤を含み、前記コラーゲンが含有する低分子量ゼラチンの量は、高分子量コラーゲンと比較して、それよりも低い。特に、微粒子は、水性コラーゲン溶液である水性懸濁剤に懸濁している。一実施形態では、人工インプラント組成物は、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含む水性懸濁剤に懸濁した、約5〜約400μmの直径を有する微粒子を含み、この場合、前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンは、総コラーゲン重量の40wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分を有する。特別な態様では、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンは、総重量の10wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDの成分を有し、並びに前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。1つの態様では、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンは、60wt%以上、とりわけ60〜100wt%の、重量平均分子量100kDa〜258kDaの成分を有する。場合により、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度は、1.0〜1.6であり、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。コラーゲンが、かなりの分量の低分子量ゼラチン(例えば、100kDa未満又はこれよりかなり小さい)、及び/又は高分子量凝集物を含有するとき、得られるインプラント組成物のゲル強度並びに保存安定性は低下し得ることが、思いがけずに判明した。更に、コラーゲンの低分子量ゼラチン成分は、米国特許第5,344,452号の背景技術に記載されているように、組成物注入時の難しさに関係する。コラーゲンの低分子量成分の量を低減すれば、ヒト対象に注入した際に生ずる可能性のある、人工インプラント組成物に対する免疫応答も低減するものと期待される。
【0011】
理論に拘束されるものではないが、本明細書に記載するような、例えば、60wt%以上の重量平均分子量100kDa又はそれ以上の成分を有する変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンは、水ジャンクション形成(water junction formation)の改善、及びこれまでに実現されなかった、人工インプラントで用いるための後述する物理特性の改善を可能にすると考えられている。特性の改善として、保存バイアル及び/又はシリンジ様送達媒体中での保存期間における、広範囲な温度安定性、流動性が一定の流動学的特性、優れた微粒子懸濁特性、及び均質な微粒子分布の維持が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、変性アテロコラーゲンは、総コラーゲン重量の40wt%未満の、重量平均分子量(Mw)80kDa未満、60kDa未満、40kDa未満、又は20kDa未満の成分を有する。別の態様では、変性アテロコラーゲンは、総重量の60%超の、重量平均分子量(Mw)120kDa超、150kDa超、160kDa超、175kDa超、180kDa超、又は200kDa超の成分を有する。いっそう更なる態様では、変性アテロコラーゲンは、総コラーゲン重量の30wt%未満、25wt%未満、20wt%未満、15wt%未満、10wt%未満又は5wt%未満の、重量平均分子量(Mw)100kDa未満の成分を有する。なおも更なる態様では、変性アテロコラーゲンは、60wt%以上、70wt%以上、75wt%以上、80wt%以上、85wt%以上、90wt%以上、又は95wt%以上の、重量平均分子量100kDa〜258kDaの成分を有する。1つの態様では、変性アテロコラーゲンは、ウシ又はブタコラーゲンから調製される。
【0012】
本明細書で用いる場合、微粒子という用語は、実質的に平滑面を有し、隅角部、端部等を有さない小粒子を意味する。換言すれば、粒子は、その表面に、例えば隅角部及び端部において見出されるような鋭利な変化を示さない。更に、粒子は、頂部又はテーパ突起を有さない。1つの態様では、表面は細孔を含まない。平滑表面構造及び平滑化表面構造により、微粒子が軟組織内に注入される際に、細胞及びその他の組織構造は損傷を受けない。更に、組織の反応を引き起こし、その後に感染が生ずる危険性は最低限に抑えられる。
【0013】
1つの態様では、微粒子は、動的にバランスのとれた固体粒子、特に楕円形又は球状の形態を有する粒子である。更に、実質的にすべての粒子が、平滑表面及び平滑化表面を有する場合には、異なる幾何学的形態の固体粒子を使用することも可能である。
【0014】
微粒子は、約5〜約400μm、具体的には約10〜約200μm、及びより具体的には約15〜約60μmの平均直径を有する。本明細書で用いる場合、用語「約」とは、±10%を意味する。微粒子が、球状の形態を有さない場合には、直径とは、最小断面部分の最大直径を意味する。そのような固体粒子は、単球により「貪食される」には大きすぎる。粒子の形態、表面、及びサイズに起因して、粒子は、異物として、内因性のマクロファージにより検出されず、従って防御反応は生じない。更に、微粒子は、注入シリンジのカニューレを通じて、所望の部位に注入するのに十分小さい。上記で規定した直径を有する微粒子は、皮膚の内部又は下部において、触覚によりに単一の異物として識別できない。微粒子は、これが投与された部位から、リンパ路又はその他の組織路を通じて洗い流されないような直径を有するのが有利である。更に、球状の形態又は球状のような形態を有する微粒子は、これが配置された部位において、高密度で充填された配列をなすという長所を有する。
【0015】
微粒子は、ガラス等の不活性な組織適合材料から構成される。別の態様では、固体粒子は、ポリマー、特に毒性のおそれがある、又は癌を引き起こすおそれがあるモノマーが残留しないように、完全に硬化し、十分に重合化したポリマーから構成され、治療される患者の身体に組み込まれる。微粒子を生成するのに、任意の不活性な組織適合ポリマー/コポリマーを使用することが可能である。
【0016】
代表的なポリマーとして、置換型及び非置換型のポリメタクリレート、アクリル酸ナトリウムポリマー、アクリルアミドポリマー、アクリルアミド誘導体ポリマー又はコポリマー、アクリル酸ナトリウムとビニルアルコールのコポリマー、酢酸ビニルとアクリル酸エステルのコポリマー、酢酸ビニルとメチルマレートのコポリマー、イソブチレン-無水マレイン酸架橋型コポリマー、スターチ-アクリロニトリルグラフトコポリマー、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムポリマー、架橋型ポリエチレンオキサイド、アクリレート/メタクリレートコポリマー、及びこれらの混合物が挙げられる。1つの実施形態では、微粒子は、メチルメタクリレートモノマー等のメタクリレートモノマーを含むポリマー又はコポリマーを含む。
【0017】
1つの態様では、ポリメタクリレート、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)は、微粒子用のポリマーとして用いられる。完全に重合化したPMMAは、組織適合性を有し、また人体内で化学的及び物理的に不活性である。PMMAは、例えば顔面内及び頭蓋内の骨の欠損を覆うプラスチックカバー用、又は関節形成材として、インプラントの製造で用いられる。また、PMMAは、義歯の製造用、縫合材料として、及び眼内レンズ及び透析膜の製造用として用いられる。
【0018】
微粒子を、インプラントとして皮膚の内部又は下部に注入するために、微粒子は、水性懸濁剤に懸濁される。1つの態様では、水性懸濁剤は6.0〜8.0のpHを有し、また例えば塩化ナトリウム等の塩、及びリン酸バッファー等のバッファーを含む。懸濁剤は、本明細書に記載するような変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲン、例えば、60wt%以上の、重量平均分子量100kDa又はそれ以上の成分を有する変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含む。1つの態様では、変性コラーゲンは、0.5〜15wt%の懸濁剤、具体的には1〜10wt%の懸濁剤、より具体的には3〜5wt%、及び最も具体的には3.5wt%の懸濁剤を含む。代表的な懸濁剤は、3.5wt%の変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲン、0.3wt%の塩酸リドカイン、2.7wt%のリン酸バッファー、0.9wt%の塩化ナトリウム、及び92.6wt%の注射用水を含む。
【0019】
コラーゲン、アテロコラーゲン、及びゼラチンは、物理的及び構造的に異なり、また経皮充填剤用、及び皺や瘢痕等の組織の欠損の矯正治療用の懸濁剤として利用可能である生存性のバイオマテリアルを評価するとき、このような差異は、重要である様々な物理特性に現れる。コラーゲンは、動物の結合組織を構成する一次構造タンパク質であり、哺乳動物では最も豊富なタンパク質である。タイプIコラーゲンは、コラーゲンのうち、最も豊富な種類に該当し、大型のコラーゲン線維を形成する一方、II型コラーゲンは軟骨を形成する。タイプIコラーゲンは、三重ヘリックスから構成され、2本は同一鎖(α1)であり、また第3の鎖は、その化学組成物がわずかに異なる(α2)。コラーゲンの配列は当技術分野において周知されており、最も豊富な配列は、グリシン-プロリン-X、及びグリシン-X-ヒドロキシプロリンである。タイプIコラーゲンは、様々な動物起源から単離され得るが、例えばウシコラーゲンが挙げられる。コラーゲンとして、組換えコラーゲンも挙げられる。アテロコラーゲンは、コラーゲンストランドの末端にある抗原誘発性のテロペプチドを除去するプロテアーゼでコラーゲンを処理して形成される、コラーゲンの水溶性の形態である。ゼラチンは、動物の皮膚、骨、軟骨、靭帯等から抽出されるコラーゲンの部分的加水分解に由来する。変性アテロコラーゲン等の変性コラーゲンとは、実質的に一本鎖のコラーゲン、特に90%を上回る一本鎖を含有するコラーゲンを意味する。変性コラーゲンは、例えば、アルカリ-酵素技法により製造される。
【0020】
コラーゲン及びゼラチンは、軟組織の補強の分野でこれまでに用いられてきたが、コラーゲン及びゼラチンの分子量が識別されることはほとんどない。一般的に、天然のコラーゲンは、100kDa以下の分画の他に200kDaの分子量分画、更には250,000ダルトンの分子量分画を含む分子量分布を有する。コラーゲンの平均分子量は、約300kDaであるものの、例えばコラーゲン鎖の分解に起因して、個々の調製物は低めの分子量を有する。アテロコラーゲンの平均分子量は、一般的に258kDaである。不可逆ゼラチン(Irreversible gelatine)の平均分子量は、約2,000ダルトンである。別途明記しない限り、本明細書で用いる場合、分子量とは重量平均分子量を意味する。
【0021】
米国特許第5,344,452号の背景技術に記載されているように、皮膚の不規則性を均一にする組成物において有用なゼラチンは生分解性タンパク質であるが、ゼラチンの注入は極めて困難であり得る。Artefill(登録商標)製品では、ウシコラーゲンがゼラチンの替わりに用いられているが、やはりこれも生分解性であり、注入が更により容易なためである。しかし、ウシコラーゲン等のコラーゲンの調製物には、低分子量ゼラチン成分を含む分子量分布が含まれることが発見された。理論に拘束されるものではないが、コラーゲン調製物のゼラチン成分は注入/押出力に伴う課題と関連し、また免疫応答も引き起こすと考えられている。注入適性及び押出力の改善、ゲル強度の改善をもたらす懸濁剤の機能性を改善するため、室温安定性を促進するため、並びに2〜8℃を上回り上昇した温度において、微粒子が凝集するのを防止するために、コラーゲン調製物のゼラチン成分を除去すべきである。更に、変性したコラーゲン調製物に見出され得る高分子量の凝集物も、室温安定性の欠如に関係する。
【0022】
ゼラチン(すなわち、低分子量成分)及び高分子量成分は、透析又は粒径排除クロマトグラフィー等の当技術分野において公知の技法によりコラーゲン調製物から除去可能である。1つの実施形態では、コラーゲンはウシ又はブタコラーゲンである。また、コラーゲンは、軽度に架橋されたコラーゲンを含め、グルタルアルデヒドで架橋される。
【0023】
コラーゲンに加えて、水性懸濁剤は、エチルアルコール等のアルコール、及び/又はツイーン(登録商標)80等の界面活性剤、並びにその混合物を含み得る。ツイーン(登録商標)80は、ポリエトキシソルビタンオレイン酸エステルである。記載するツイーン(登録商標)タイプ(ツイーン80)だけでなく、その他のツイーン(登録商標)タイプも使用可能である。界面活性剤は、固体粒子、特にポリマー粒子がより良好に流動するように、水の表面張力を変化させる。
【0024】
別の実施形態では、懸濁剤は、ヒアルロン酸ナトリウム又は架橋型ヒアルロン酸ナトリウムを更に含む。
【0025】
懸濁剤成分の混合比は、ニーズに基づき、特に注入に用いられるシリンジのサイズに基づき選択され得る。
【0026】
1つの実施形態では、人工インプラント組成物の安定性は改善しており、例えば人工インプラント組成物は、室温で12、24、48、又は72時間安定である。特に有利な実施形態では、人工インプラント組成物は、20〜25℃の温度で少なくとも30日間安定である。本明細書で用いる場合、安定という用語は、本明細書に記載するような懸濁剤を含有する水性分散物に懸濁したときに、微粒子が固まらない、及び/又は凝集しないことを意味する。1つの態様では、本明細書に記載する懸濁剤は、2〜25℃等の幅広い温度範囲において、安定な懸濁物を提供する。
【0027】
本明細書に開示の懸濁剤を用いれば、注入シリンジの助けを借りるなどして、例えば皮内に固体粒子を注入するのがより容易となる。例えば、そのような注入を行うために20〜30ゲージ、特に26又は27ゲージの針を使用することができる。26ゲージ針の外径は0.45mm、及び27ゲージ針の外径は0.4mmである。
【0028】
別の実施形態では、注入用人工インプラント組成物の注入適性を改善する方法は、水性懸濁剤に懸濁した、約5〜約400μmの直径を有する微粒子を含む注入用人工インプラント組成物を形成するステップを含み、この場合、前記水性懸濁剤は、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンは、総重量の10wt%未満の、重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の、重量平均分子量100kDa〜258kDの成分を有し、並びに前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。
【0029】
Artefill(登録商標)製品の1つの欠点として、該製品はウシコラーゲンを含有し、ウシコラーゲン製品に対してアレルギーを有する対象には禁忌であるので、使用する前に皮膚試験を行う必要があることが挙げられる。理論に拘束されるものではないが、本明細書に記載するような人工インプラント組成物で用いられるコラーゲンは、低分子量ゼラチン成分を含まないので、有害なアレルギー反応のリスクは低減していると考えられる。従って、1つの実施形態では、人工インプラント組成物に含まれるコラーゲンに対する感受性を調べる皮膚試験は、使用前において不要である。
【0030】
組成物は、1つ以上の活性薬剤、例えば1つ以上のリドカイン等の局所麻酔薬、抗炎症剤、組織形成剤(tissue formation agent)、脂肪組織形成剤、麻酔薬、酸化防止剤、ヘパリン、上皮増殖因子、形質転換増殖因子、形質転換増殖因子-β、血小板由来増殖因子、線維芽細胞増殖因子、結合組織活性化ペプチド、β-トロンボグロブリン、インシュリン様増殖因子、腫瘍壊死因子、インターロイキン、コロニー刺激因子、エリスロポエチン、神経増殖因子、インターフェロン等、又はこれらの組み合わせを更に含み得る。追加の活性薬剤として、グルコサミノグリカン、フィブロネクチン、レクチン、ポリカチオン(ポリリジン、キトサン等)、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)等の表面受容体結合モチーフ(surface receptor binding motif)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)等の増殖因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、形質転換増殖因子(TGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL)等のサイトカイン、及びエラスチン、ヒアルロン酸等を含む構造的な配列が挙げられる。更に、組換え、合成、又は非天然のポリマー化合物が、キチン質、ポリ-乳酸(PLA)、及びポリ-グリコール酸(PGA)を含め、装飾剤として利用され得る。その他の活性薬剤として、トレーサーや造影剤が挙げられる。組成物は、1つ以上の細胞又は組織、例えば脂肪組織又は皮膚線維芽細胞等を更に含み得る。1つの態様では、細胞は自己細胞である。
【0031】
1つの実施形態では、軟組織の欠損を充填する方法は、人工インプラント組成物を軟組織の欠損近傍に注入するステップを含み、この場合、前記人工インプラント組成物は、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンは、総重量の10wt%未満の、重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の、重量平均分子量100kDa〜258kDの成分を有し、並びに前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。
【0032】
特定の態様では、変性アテロコラーゲンは、総コラーゲン重量の40wt%未満の、重量平均分子量(Mw)80kDa未満、60kDa未満、40kDa未満、又は20kDa未満の成分を有する。別の態様では、変性アテロコラーゲンは、総重量の60wt%超の重量平均分子量(Mw)120kDa超、150kDa超、160kDa超、175kDa超、180kDa超又は200kDaの成分を有する。いっそう更なる態様では、変性アテロコラーゲンは、総コラーゲン重量の30wt%未満、25wt%未満、20wt%未満、15wt%未満、10wt%未満又は5wt%未満の、重量平均分子量(Mw)100kDa未満の成分を有する。なおも更なる態様では、変性アテロコラーゲンは、60wt%以上、70wt%以上、75wt%以上、80wt%以上、85wt%以上、90wt%以上又は95wt%以上の、重量平均分子量100kDa〜258kDaの成分を有する。1つの態様では、変性アテロコラーゲンは、ウシ又はブタコラーゲンから調製される。
【0033】
1つの実施形態では、本明細書に記載する人工インプラント組成物は、軟組織の欠損を補強するために、ヒト対象の軟組織の欠損近傍に注入される。人工インプラント組成物は、軟組織を補強し、また皮膚の欠損の長期低減を実現するために、軟組織の欠損の下部であって、真皮と皮下脂肪の接合部に注入され得る。1つの態様では、注入は、針を瘢痕の下部で前後に移動させるトンネリング技法を用いて実施される。一般的に、注入プロセス全体を通じて圧力が加えられる。
【0034】
1つの態様では、軟組織の欠損は、早期老化を含む、老化の結果である。老化は、皮膚内のコラーゲン及びヒアルロン酸が、老化プロセス期間中に失われた結果、又は例えば日光への過剰暴露、環境汚染物質への過剰暴露、タバコ製品の喫煙、タバコの煙への暴露、栄養不足、及び/又は皮膚の障害により引き起こされた早期老化の結果であり得る。1つの態様では、軟組織の欠損は、「笑線」又は「笑い皺」として知られているほうれい線である。
【0035】
別の実施形態では、軟組織の欠損は、動的な皺、微細な皺、又は静的な皺等の皺である。動的な皺として、前額部のしわ、眉毛の穴(brow burrow)、又は眼のライン(カラスの足跡)が挙げられる。静的な皺として、たるんだ皮膚に起因する皮膚の溝状の皺が挙げられる。
【0036】
別の実施形態では、軟組織の欠損は、にきび瘢痕、「ローリング」瘢痕、「ボックスカー」瘢痕、又は「アイスピック」瘢痕、外科的な瘢痕、外傷瘢痕、大型の細孔、及び軟組織の輪郭欠損等の瘢痕である。
【0037】
別の態様では、軟組織の欠損は、形態修正を必要とする変形を引き起こす医学的状態の原因となり得るが、そのような変形として、例えば小規模な組織の欠損(例えば、動物咬創(複数可)後)、又は外傷と関連する変形であって、美容上みっともない変形等が挙げられる。更なる実施形態では、補強は、対称性又は所望の結果を実現する形成外科術後であり得る。
【0038】
本明細書で用いる場合、軟組織の欠損の「長期」低減は、少なくとも1年、具体的には1年〜約5年、より具体的には約5年〜約10年、及び最も具体的には約10年以上の期間の低減である。
【0039】
1つの実施形態では、人工インプラント組成物の注入は、2週間の間隔で、所望の矯正レベルが実現するまで反復される。
【0040】
本発明は、下記の非限定的な事例により、更に説明される。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
コラーゲンの特性決定
Optilab(商標)屈折率検出装置と組み合わせたレーザー光散乱、及びQELS測定を用いて、可溶性コラーゲンについて研究し、絶対モル質量モーメント(absolute molar mass moment) (Mn、Mp、Mw、及びMz)、多分散度(Mw/Mn及びMz/Mn)、rms半径モーメント(Rn、Rw、及びRz)、流体力学的容積、及びウシ獣皮からなる製造用出発物質、特にタイプ1コラーゲンの製造プロセスで生ずる凝集性高分子副生成物である凝集物の有無を調べた。先行技術のArtifill(登録商標)コラーゲン試料の試験結果は、多分散度、及び大半の分画が含まれる分子量分布が、試験した試料に応じて、約100Kダルトン(Mw)以下において40〜80パーセントとなることを示した。更に、流体力学的半径に関するRz値は、試験したArtifill(登録商標)コラーゲン試料4例のうち3例について低値を示し、3次元空間が高密度で占有されていること、すなわちMwがより高い試験対象試料と更に区別される、低重量平均分子量の影響を認めることができた。試験は、全体的な製品構成の一部をなす一本鎖組成物を更に示唆した。最低Mw成分は、担体ゲル特性の安定性又は強度及び後述する性能に有利な影響を及ぼさない。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
[実施例2]
Artefill(登録商標)の解析
市販のArtefill(登録商標)製品(コラーゲン、微粒子、リドカイン)を、2〜8℃の冷蔵温度で保管して、ゲルの均一性及び安定性を維持する。室温保存した際に、ゲル特性の急速な劣化が認められた。本出願の説明の通り、コラーゲンの分子量を制限することにより、広範囲の温度で安定性が改善した製品が実現する。低分子量成分、及び高分子量凝集物を除去することにより、水ジャンクション形成及び物理特性の改善が実現する。
【0045】
人工インプラント組成物の微粒子用の懸濁剤として用いられるコラーゲン調製物について、その改善した特性を確認するために、Artefill(登録商標)の調製に用いられるコラーゲン、並びにポリメチルメタクリレートビーズ、コラーゲン、及びリドカインを含有するArtefill(登録商標)組成物の室温溶液挙動を経時的に分析した。コラーゲンの濃度は、3.5%であったが、また様々な分画の分子量は、Optilab(商標)屈折率検出装置と組み合わせたレーザー光散乱、及びQELS測定を用いて測定した。絶対モル質量モーメント(Mn、Mp、Mw、及びMz)、及び多分散度(Mw/Mn及びMz/Mn)を測定した。結果を表3及び4に提示する。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表3及び表4では、灰色の影付きの領域は、インプラント組成物の用途として好ましくない特性を有するゲルを表す一方、影付きではない領域は許容されるゲルである。許容されるゲル担体から許容されないゲル担体への変化は、処理工程、充填/仕上げ工程、保存、使用施設(例えば、診療所又は臨床現場等)への輸送期間中、及び/又は意図する臨床活動(例えば、軟組織の補強等)部位に注入する期間中に、シリンジ本体等の密閉容器内において、人工的な、又は生体に由来する一般的に球形の材料の均質な分布を継続、維持する能力と密接に関係する。最終的な目標は、非冷蔵条件(2〜8℃を上回る)で性能を提供するのに利用可能なArtefill(登録商標)の特性を、懸濁状態の均質な分布が維持される必要がある、製品のライフサイクルの各段階まで、経時的に識別することであった。
【0049】
表1及び表2から容易に観察可能なこととして、多分散度の増大、及び100k超〜250k未満の分画の減少により証明されるように、時間と共に、Artefill(登録商標)コラーゲンの分子量は、劇的に変化することが挙げられる。コラーゲンの加水分解速度は室温で増加し、また分解生成物の濃度が増加すると、多分散度の増加、及び100k超〜250k未満の分画の減少により証明されるように、凝集物が形成されると考えられている。コラーゲン中に100k未満の分画及び250k超の分画が存在すると、それは、室温でインキュベーションした際に認められるカスケード効果に寄与すると考えられている。試料の多分散度、並びに低分子量及び高分子量分画の量を制限して理想的な懸濁剤を提供することにより、得られる人工インプラント組成物は、現行のArtefill(登録商標)製品と比較してそれよりも改善した室温安定性を示す。特に、許容されるゲル組成物について概説すると、総重量の10wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の、重量平均分子量100kDa〜258kDの成分を有し、この場合、変性アテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である変性アテロコラーゲンは、人工インプラント組成物の微粒子用懸濁剤として利用する場合、安定性及び物理性のいずれについても適する特性を有することが示唆される。
【0050】
Artefill(登録商標)の分析に加えて、市販のゼラチン対照についても分析した。
【0051】
【表5】
【0052】
表3から理解されるように、市販のゼラチンは、Artefill(登録商標)で現在用いられているコラーゲンよりかなり高い多分散度を有する。しかし、ゼラチンの分子量を改良することにより、本発明の特許請求の範囲に記載の変性アテロコラーゲンが調製可能である。
【0053】
用語「a」及び「an」及び「the」及び類義語の使用(特に、下記の特許請求の範囲の文脈において)は、本明細書で別途明示しない限り、又は文脈から明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方を含むものと解釈される。第1、第2等の用語は、本明細書で用いる場合、任意の特別な順序を示すようには意図されず、単に複数の、例えば層を便宜上意味するに過ぎない。用語「を含む(comprising)」、「を有する(having)」、「を含む(including)」、及び「を含有する(containing)」は、別途明記しない限り、非制限的用語(すなわち、「を含むが、これらに限定されない」を意味する)と解釈される。本明細書で用いる場合、wt%は、重量パーセントを意味する。数値の範囲の列挙は、本明細書で別途明示しない限り、範囲内に収まる個々の数値を引用する簡便な方法として役に立てる意図に過ぎず、また個々の数値は、これが本明細書で個別に列挙されたかのように本明細書に組み込まれる。すべての範囲の末端は範囲内に含まれ、また独立的に組み合わせ可能である。本明細書に記載するすべての方法は、本明細書で別途明示しない限り、さもなければ文脈から明らかに矛盾しない限り、適する順序で実施可能である。あらゆるすべての事例、又は事例的言語(例えば、「〜等(such as)」)の使用は、単に本発明をより適切に説明する意図によるものに過ぎず、別途主張されない限り、本発明の範囲に制限を加えるものではない。本明細書内のいずれの言語についても、本明細書で用いる場合、請求外の何らかの要素が、本発明を実施する上で不可欠であることを示唆するものとして解釈してはならない。
【0054】
本発明は、代表的な実施形態を参照しながら記載してきたが、様々な変更をなし得ること、及びその要素について、本発明の範囲から逸脱せずに均等物の置換もなし得ることを、当業者は理解する。更に、特別な状況又は材料に適合させるために、本発明の教示に対して、その本質的な範囲から逸脱せずに多くの変更を加えることができる。従って、本発明は、開示した特定の実施形態が、本発明を実施するために考えられる最良の態様であるとして、これに限定されることはなく、本発明は、添付の特許請求の範囲に該当するすべての実施形態を含むことが意図されている。可能なあらゆる変形形態に含まれる上記要素について、その任意の組み合わせは、本明細書で別途明示しない限り、さもなければ文脈から明らかに矛盾しない限り、本発明に含まれる。
【手続補正書】
【提出日】2019年9月4日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性懸濁剤に懸濁した、5〜400μmの直径を有する微粒子を含む人工インプラント組成物であって、
前記水性懸濁剤が、変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンを含み、
前記変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンが、変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンの総重量の10wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンの総重量の70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDaの成分を有し、
前記変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwが重量平均分子量であり、Mnが数平均分子量である、
人工インプラント組成物。
【請求項2】
前記変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンが、ウシ又はブタコラーゲンから調製される、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項3】
前記水性懸濁剤のpHが、6.0〜8.0であり、及び前記水性懸濁剤内の変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンの濃度が、0.5〜15wt%である、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項4】
前記微粒子が、10〜200μmの直径を有する、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項5】
前記微粒子が、メタクリレートモノマーを含むポリマー又はコポリマーを含む、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項6】
前記ポリマー又はコポリマーが、ポリメチルメタクリレートである、請求項5に記載の人工インプラント組成物。
【請求項7】
20〜30ゲージ針を通じて注入可能である、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項8】
麻酔薬を更に含む、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項9】
20〜25℃の温度で、少なくとも30日間安定である、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項10】
室温で72時間安定である、請求項1に記載の人工インプラント組成物。
【請求項11】
変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンの総重量の10wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンの総重量の70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDaの成分を有する変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、
前記変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwが重量平均分子量であり、Mnが数平均分子量である、
軟組織の欠損近傍に注入することによって軟組織の欠損を補強するための、人工インプラント組成物
【請求項12】
前記変性タイプIコラーゲン又は変性アテロコラーゲンが、5〜400μmの直径を有する微粒子が懸濁された懸濁剤の形態を採る、請求項11に記載の人工インプラント組成物
【請求項13】
組織の欠損の下部であって、真皮と皮下脂肪の接合部に注入される、請求項11に記載の人工インプラント組成物
【請求項14】
前記軟組織の欠損が、老化の結果、皺、瘢痕、外傷と関連する変形、又は形成外科術の結果である、請求項11に記載の人工インプラント組成物
【請求項15】
前記人工インプラント組成物の注入、2週間の間隔で1回以上繰り返される、請求項11に記載の人工インプラント組成物
【請求項16】
前記人工インプラント組成物の微粒子が、10〜200μmの直径を有する、請求項12に記載の人工インプラント組成物
【請求項17】
前記人工インプラント組成物の微粒子が、メタクリレートモノマーを含むポリマー又はコポリマーを含む、請求項12に記載の人工インプラント組成物
【請求項18】
前記ポリマー又はコポリマーが、ポリメチルメタクリレートである、請求項17に記載の人工インプラント組成物
【請求項19】
前記人工インプラント組成物が、20〜30ゲージ針を通じて注入可能である、請求項11に記載の人工インプラント組成物
【請求項20】
所麻酔薬を更に含む、請求項11に記載の人工インプラント組成物
【請求項21】
前記変性アテロコラーゲンが、ウシ又はブタコラーゲンから調製される、請求項12に記載の人工インプラント組成物
【請求項22】
20〜25℃の温度で少なくとも30日間安定である、請求項11に記載の人工インプラント組成物
【請求項23】
温で72時間安定である、請求項11に記載の人工インプラント組成物
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0054
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0054】
本発明は、代表的な実施形態を参照しながら記載してきたが、様々な変更をなし得ること、及びその要素について、本発明の範囲から逸脱せずに均等物の置換もなし得ることを、当業者は理解する。更に、特別な状況又は材料に適合させるために、本発明の教示に対して、その本質的な範囲から逸脱せずに多くの変更を加えることができる。従って、本発明は、開示した特定の実施形態が、本発明を実施するために考えられる最良の態様であるとして、これに限定されることはなく、本発明は、添付の特許請求の範囲に該当するすべての実施形態を含むことが意図されている。可能なあらゆる変形形態に含まれる上記要素について、その任意の組み合わせは、本明細書で別途明示しない限り、さもなければ文脈から明らかに矛盾しない限り、本発明に含まれる。
本発明は、以下の実施形態を包含する。
(実施形態1)
水性懸濁剤に懸濁した、約5〜約400μmの直径を有する微粒子を含む人工インプラント組成物であって、
前記水性懸濁剤が、変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、
前記変性アテロコラーゲンが、総重量の10wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDaの成分を有し、
前記変性アテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwが重量平均分子量であり、Mnが数平均分子量である、
人工インプラント組成物。
(実施形態2)
前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンが、ウシ又はブタコラーゲンから調製される、実施形態1に記載の人工インプラント組成物。
(実施形態3)
前記水性懸濁剤のpHが、6.0〜8.0であり、及び前記水性懸濁剤内の変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンの濃度が、0.5〜15wt%である、実施形態1に記載の人工インプラント組成物。
(実施形態4)
前記微粒子が、約10〜約200μmの直径を有する、実施形態1に記載の人工インプラント組成物。
(実施形態5)
前記微粒子が、メタクリレートモノマーを含むポリマー又はコポリマーを含む、実施形態1に記載の人工インプラント組成物。
(実施形態6)
前記ポリマー又はコポリマーが、ポリメチルメタクリレートである、実施形態5に記載の人工インプラント組成物。
(実施形態7)
20〜30ゲージ針を通じて注入可能である、実施形態1に記載の人工インプラント組成物。
(実施形態8)
麻酔薬を更に含む、実施形態1に記載の人工インプラント組成物。
(実施形態9)
20〜25℃の温度で、少なくとも30日間安定である、実施形態1に記載の人工インプラント組成物。
(実施形態10)
室温で72時間安定である、実施形態1に記載の人工インプラント組成物。
(実施形態11)
軟組織の欠損近傍に人工インプラント組成物を注入するステップを含む、軟組織の欠損を補強する方法であって、
前記人工インプラント組成物が、総重量の10wt%未満の重量平均分子量(Mw)100,000ダルトン以下の成分、及び70wt%超の重量平均分子量100kDa〜258kDaの成分を有する変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンを含み、
前記変性アテロコラーゲンのMw/Mnとして表される多分散度が、1.0〜1.6であり、Mwが重量平均分子量であり、Mnが数平均分子量である、
方法。
(実施形態12)
前記変性タイプIコラーゲン又はアテロコラーゲンが、約5〜約400μmの直径を有する微粒子が懸濁された懸濁剤の形態を採る、実施形態11に記載の方法。
(実施形態13)
前記人工インプラント組成物が、軟組織の欠損の下部であって、真皮と皮下脂肪の接合部に注入される、実施形態11に記載の方法。
(実施形態14)
前記軟組織の欠損が、老化の結果、皺、瘢痕、外傷と関連する変形、又は形成外科術の結果である、実施形態11に記載の方法。
(実施形態15)
実施形態1に記載の人工インプラント組成物の注入を、2週間の間隔で1回以上繰り返すステップを更に含む、実施形態11に記載の方法。
(実施形態16)
前記人工インプラント組成物の微粒子が、約10〜約200μmの直径を有する、実施形態12に記載の方法。
(実施形態17)
前記人工インプラント組成物の微粒子が、メタクリレートモノマーを含むポリマー又はコポリマーを含む、実施形態12に記載の方法。
(実施形態18)
前記ポリマー又はコポリマーが、ポリメチルメタクリレートである、実施形態17に記載の方法。
(実施形態19)
前記人工インプラント組成物が、20〜30ゲージ針を通じて注入可能である、実施形態11に記載の方法。
(実施形態20)
前記人工インプラント組成物が、局所麻酔薬を更に含む、実施形態11に記載の方法。
(実施形態21)
前記変性アテロコラーゲンが、ウシ又はブタコラーゲンから調製される、実施形態12に記載の方法。
(実施形態22)
前記人工インプラント組成物が、20〜25℃の温度で少なくとも30日間安定である、実施形態11に記載の方法。
(実施形態23)
前記人工インプラント組成物が、室温で72時間安定である、実施形態11に記載の方法。
【外国語明細書】
2020000902000001.pdf