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特開2020-90738有撚炭素繊維ステープル集束体、その製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-90738(P2020-90738A)
(43)【公開日】2020年6月11日
(54)【発明の名称】有撚炭素繊維ステープル集束体、その製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   D01G 21/00 20060101AFI20200515BHJP
   D01G 27/00 20060101ALI20200515BHJP
   D01H 1/00 20060101ALI20200515BHJP
   D01H 5/06 20060101ALI20200515BHJP
   D02G 3/02 20060101ALI20200515BHJP
【FI】
   D01G21/00
   D01G27/00 A
   D01H1/00 B
   D01H5/06
   D02G3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-228397(P2018-228397)
(22)【出願日】2018年12月5日
(71)【出願人】
【識別番号】518432470
【氏名又は名称】守富 寛
(71)【出願人】
【識別番号】518433097
【氏名又は名称】澤木 一彦
(71)【出願人】
【識別番号】518433101
【氏名又は名称】澤木 寿枝
(71)【出願人】
【識別番号】511211036
【氏名又は名称】カーボンファイバーリサイクル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【弁理士】
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(74)【代理人】
【識別番号】100207619
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 知晴
(72)【発明者】
【氏名】澤木 直彦
(72)【発明者】
【氏名】守富 寛
【テーマコード(参考)】
3B151
4L036
4L056
【Fターム(参考)】
3B151AB11
3B151CA12
3B151CB06
4L036MA04
4L036MA35
4L036PA21
4L036UA25
4L056AA25
4L056AA38
4L056BA12
4L056BC01
4L056BC12
4L056BE02
4L056CA02
4L056CA16
(57)【要約】
【課題】他の合成繊維や天然繊維を実質的に含まない高炭素繊維含有率を有する炭素繊維ステープル集束体であっても、炭素繊維ステープル間に適切な摩擦力を有し、取り扱い性が良好な有撚炭素繊維ステープル集束体、その製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】炭素繊維ステープルの集束体に撚りが加えられている有撚炭素繊維ステープル集束体。有撚炭素繊維ステープル集束体は、炭素繊維以外の繊維を実質的に含まない。有撚炭素繊維ステープル集束体は、炭素繊維ステープルが束状に並んだ粗糸原料である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維ステープルの集束体に撚りが加えられていることを特徴とする有撚炭素繊維ステープル集束体。
【請求項2】
前記有撚炭素繊維ステープル集束体は、炭素繊維以外の繊維を実質的に含まないことを特徴とする請求項1に記載の有撚炭素繊維ステープル集束体。
【請求項3】
前記有撚炭素繊維ステープル集束体は、前記炭素繊維ステープルが束状に並んだ粗糸原料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有撚炭素繊維ステープル集束体。
【請求項4】
炭素繊維ステープルから有撚炭素繊維ステープル集束体を形成する有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法であって、
前記炭素繊維ステープルを、連続的に供給して炭素繊維ウェブを形成する炭素繊維ウェブ形成工程と、
前記工程で形成された炭素繊維ウェブを、搬送方向に整列させるとともにまとめて炭素繊維ステープルの集束体を形成する炭素繊維ステープル集束体形成工程と、
前記工程で形成された炭素繊維ステープル集束体を、軸線方向に沿って撚りを加え、この加撚状態を保持する炭素繊維ステープル集束体加撚工程とを備えること特徴とする有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法。
【請求項5】
前記炭素繊維ステープル集束体加撚工程は、
前記炭素繊維ステープル集束体を搬送しつつ、
前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を略垂直に変更し、
変更前の搬送方向を中心軸とし、前記搬送方向を変更された前記炭素繊維ステープル集束体を、前記中心軸を中心に回動し、
前記炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りを加え、この加撚状態を保持する工程であることを特徴とする請求項4に記載の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法。
【請求項6】
前記有撚炭素繊維ステープル集束体は、炭素繊維以外の繊維を実質的に含まないことを特徴とする請求項4又は5に記載の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法。
【請求項7】
炭素繊維ステープルから有撚炭素繊維ステープル集束体を形成する有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置であって、
前記炭素繊維ステープルを、連続的に供給して炭素繊維ウェブを形成する炭素繊維ウェブ形成手段と、
前記手段により形成された炭素繊維ウェブを、搬送方向に整列させるとともにまとめて炭素繊維ステープル集束体を形成する炭素繊維ステープル集束体形成手段と、
前記手段により形成された炭素繊維ステープル集束体を、軸線方向に沿って撚りを加え、この加撚状態を保持する炭素繊維ステープル集束体加撚手段とを備え、
前記炭素繊維ステープル集束体形成手段は、
搬送方向後方に配置された一対のバックローラと、
前記一対のバックローラの搬送方向前方に配置された一対のフロントローラと、
前記一対のバックローラと前記一対のフロントローラとの中間部に配置されたギル装置とを備え、
前記一対のフロントローラの搬送速度は、前記一対のバックローラの搬送速度より速く、
前記一対のフロントローラ及び前記一対のバックローラは、前記搬送速度の相違により、前記炭素繊維ウェブ形成手段により形成された前記炭素繊維ウェブを、軸線方向に引き伸ばしつつ搬送し、
前記ギル装置は、前記引き伸ばしつつ搬送される前記炭素繊維ウェブを梳ることにより前記炭素繊維ステープルを整列させ、
前記炭素繊維ステープル集束体加撚手段は、
搬送方向後方に配置された一対のフィードローラと、
前記一対のフィードローラの搬送方向前方に配置されたナオラーと、
前記ナオラーの搬送方向前方に配置されたケーンスとを備え、
前記フィードローラは、搬送方向を水平方向から垂直方向へ変更しながら、前記炭素繊維ステープル集束体を搬送し、
前記ナオラーは、前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を中心軸として回転し、前記中心軸に沿って搬送される前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を回転中心から半径方向に向かって変更し、
前記搬送方向を変更された前記炭素繊維ステープル集束体は、前記半径方向に向かって搬送されるとともに、前記ナオラーの回転により、前記炭素繊維ステープル集束体の前記半径方向に搬送された領域が前記ナオラーの回転軸を中心に回動され、前記炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りが加えられ、
前記ケーンスは、回転し、前記加撚された炭素繊維ステープル集束体を、この加撚状態を保持しつつ収容することを特徴とする有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置。
【請求項8】
炭素繊維ステープル集束体の搬送方向後方に配置された搬送手段と、
前記搬送手段の搬送方向前方に配置されたナオラーとを備え、
前記搬送手段は、前記炭素繊維ステープル集束体を搬送し、
前記ナオラーは、搬送された前記炭素繊維ステープル集束体に対し、軸線方向に沿って撚りを加えることを特徴とする炭素繊維ステープル集束体の加撚装置。
【請求項9】
前記ナオラーは、前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を中心軸として回転し、前記中心軸に沿って搬送される前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を回転中心から半径方向に向かって変更し、
前記搬送方向を変更された前記炭素繊維ステープル集束体は、前記半径方向に向かって搬送されるとともに、前記ナオラーの回転により、前記炭素繊維ステープル集束体の前記半径方向に搬送された領域が前記ナオラーの回転軸を中心に回動され、前記炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りが加えられることを特徴とする請求項8に記載の炭素繊維ステープル集束体の加撚装置。
【請求項10】
前記ナオラーの搬送方向前方に配置されたケーンスをさらに備え、
前記ケーンスは、回転し、前記加撚された炭素繊維ステープル集束体を、この加撚状態を保持しつつ収容することを特徴とする請求項8又は9に記載の炭素繊維ステープル集束体の加撚装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性を有し、スライバの代替物として紡績糸を製造し得る有撚炭素繊維ステープル集束体、それを製造する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、軽量であるとともに、強度及び弾性率に優れた素材であるが、繊維自体に捲縮性がなく、表面が滑りやすいため、繊維同士が絡みにくく、さらには、他の繊維に比べて弾性率が高く、硬いため、曲がりにくく、折れやすいといった特徴を有している。一方、天然繊維や合成繊維のステープルからスライバを製造するには、繊維方向を平行に並べる梳綿(カーディング)工程を行う必要がある。梳綿工程では、一般に、櫛歯の付いた複数のローラを備えたカード機を用い、ステープルを梳って繊維を平行に引き揃え、集束することにより、束状のスライバが製造される。
【0003】
ところが、炭素繊維は上記のような特徴を有するため、従来の紡績の梳綿技術では、炭素繊維ステープルが櫛歯に引っ掛かりにくく、また、ローラ間で折損してしまい、炭素繊維のスライバを形成することができなかった。
【0004】
このような課題に対しては、炭素繊維の折損を防止しつつ、合成繊維が炭素繊維に交絡して混棉された炭素繊維スライバを簡単に製造する炭素繊維スライバの製造方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。この炭素繊維スライバの製造方法は、炭素繊維と合成繊維とを混棉して形成する炭素繊維スライバの製造方法であって、前記炭素繊維は、短繊維状に切断されてランダムな方向に開繊された綿状繊維であり、前記合成繊維は、短繊維状に形成されて略同一方向に配列された捲縮可能な綿状繊維であること、前記合成繊維の捲縮方向と送り方向とを略合致させ、所定の厚さに積層した前記合成繊維の上方に、前記炭素繊維を層状に重ね合わせる第1工程と、前記第1工程で重ね合わせた前記炭素繊維と前記合成繊維とを、送り方向前方に配置されたフロントローラと送り方向後方に配置されたバックローラとによって挟み込み、繊維にドラフトを掛けながら前記フロントローラと前記バックローラとの中間部に配置されたギル装置にて前記送り方向に繊維を梳ってフリース状のウェブを形成する第2工程と、前記フロントローラから送り出される前記フリース状のウェブが、上方の炭素繊維を下方の合成繊維によって両側から包み込まれながら束状に集束して連続した炭素繊維スライバとして形成される第3工程とを備えることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−108679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、炭素繊維スライバとしては、近年、炭素繊維本来の特性が発揮される、他の合成繊維や天然繊維を極力含まない炭素繊維ステープルからなる高炭素繊維含有率を有する炭素繊維スライバが求められている。特許文献1に開示された技術は、炭素繊維と合成繊維とから炭素繊維スライバを製造する技術であり、得られる炭素繊維スライバは合成繊維を混合しても問題のない用途にしか利用できず、合成繊維との混合具合が均一となりにくく品質が一定になりにくいといった問題を有していた。また、炭素繊維ステープルは、炭素繊維間における摩擦力が小さすぎるため、繊維方向を平行に並べて束状にまとめたとしても、スライバとしての集束力が生じず、ステープルがバラバラに分散してしまうといった問題を有していた。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたもので、スライバの代替物として機能し、他の合成繊維や天然繊維を実質的に含まない高炭素繊維含有率を有する炭素繊維ステープル集束体であっても、炭素繊維ステープル間に適切な摩擦力を有し、取り扱い性が良好な有撚炭素繊維ステープル集束体、その製造方法及び製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、高炭素繊維含有率を有する炭素繊維ステープル集束体における炭素繊維ステープルへの摩擦力の付与について鋭意研究を行った結果、高炭素繊維含有率を有する炭素繊維ステープル集束体に対して軸線方向に適切に撚りを加えることにより、炭素繊維ステープルがバラバラに分散することなく、スライバ代替物としての集束力が得られることを見出し、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体、その製造方法及びその製造装置を発明するに至った。
【0009】
したがって、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体は、炭素繊維ステープルの集束体に撚りが加えられていることを特徴としている。また、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体は、炭素繊維以外の繊維を実質的に含まないことが好ましい。さらに、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体は、前記炭素繊維ステープルが束状に並んだ粗糸の原料であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法は、炭素繊維ステープルから有撚炭素繊維ステープル集束体を形成する有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法である。この有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法は、前記炭素繊維ステープルを、連続的に供給して炭素繊維ウェブを形成する炭素繊維ウェブ形成工程と、前記工程で形成された炭素繊維ウェブを、搬送方向に整列させるとともにまとめて炭素繊維ステープルの集束体を形成する炭素繊維ステープル集束体形成工程と、前記工程で形成された炭素繊維ステープル集束体を、軸線方向に沿って撚りを加え、この加撚状態を保持する炭素繊維ステープル集束体加撚工程とを備えることを特徴としている。また、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法においては、前記炭素繊維ステープル集束体加撚工程は、前記炭素繊維ステープル集束体を搬送しつつ、前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を略垂直に変更し、変更前の搬送方向を中心軸とし、前記搬送方向を変更された前記炭素繊維ステープル集束体を、前記中心軸を中心に回動し、前記炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りを加え、この加撚状態を保持する工程であることが好ましい。さらに、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法においては、炭素繊維以外の繊維を実質的に含まないことが好ましい。
【0011】
また、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置は、炭素繊維ステープルから有撚炭素繊維ステープル集束体を形成する有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置である。この有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置は、前記炭素繊維ステープルを、連続的に供給して炭素繊維ウェブを形成する炭素繊維ウェブ形成手段と、前記手段により形成された炭素繊維ウェブを、搬送方向に整列させるとともにまとめて炭素繊維ステープル集束体を形成する炭素繊維ステープル集束体形成手段と、前記手段により形成された炭素繊維ステープル集束体を、軸線方向に沿って撚りを加え、この加撚状態を保持する炭素繊維ステープル集束体加撚手段とを備える。前記炭素繊維ステープル集束体形成手段は、搬送方向後方(図1においては左側)に配置された一対のバックローラと、前記一対のバックローラの搬送方向前方(図1においては右側)に配置された一対のフロントローラと、前記一対のバックローラと前記一対のフロントローラとの中間部に配置されたギル装置とを備える。前記一対のフロントローラの搬送速度は、前記一対のバックローラの搬送速度より速い。前記一対のフロントローラ及び前記一対のバックローラは、前記搬送速度の相違により、前記炭素繊維ウェブ形成手段により形成された前記炭素繊維ウェブを、軸線方向に引き伸ばしつつ搬送する。前記ギル装置は、前記引き伸ばしつつ搬送される前記炭素繊維ウェブを梳ることにより前記炭素繊維ステープルを整列させる。前記炭素繊維ステープル集束体加撚手段は、搬送方向後方(図1においては上側)に配置された一対のフィードローラと、前記一対のフィードローラの搬送方向前方(図1においては下側)に配置されたナオラーと、前記ナオラーの搬送方向前方(図1においては下側)に配置されたケーンスとを備える。前記フィードローラは、搬送方向を水平方向から垂直方向へ変更しながら、前記炭素繊維ステープル集束体を搬送する。前記ナオラーは、前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を中心軸として回転し、前記中心軸に沿って搬送される前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を回転中心から半径方向に向かって変更する。前記搬送方向を変更された前記炭素繊維ステープル集束体は、前記半径方向に向かって搬送されるとともに、前記ナオラーの回転により、前記炭素繊維ステープル集束体の前記半径方向に搬送された領域が前記ナオラーの回転軸を中心に回動され、前記炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りが加えられる。前記ケーンスは、回転し、前記加撚された炭素繊維ステープル集束体を、この加撚状態を保持しつつ収容する。
【0012】
また、本発明の炭素繊維ステープル集束体の加撚装置は、炭素繊維ステープル集束体の搬送方向後方(図1及び2においては上側)に配置された搬送手段と、前記搬送手段の搬送方向前方(図1及び2においては下側)に配置されたナオラーとを備える。前記搬送手段は、前記炭素繊維ステープル集束体を搬送する。前記ナオラーは、搬送された前記炭素繊維ステープル集束体に対し、軸線方向に沿って撚りを加える。また、本発明の炭素繊維ステープル集束体の加撚装置においては、前記ナオラーは、前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を中心軸として回転し、前記中心軸に沿って搬送される前記炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を回転中心から半径方向に向かって変更する。前記搬送方向を変更された前記炭素繊維ステープル集束体は、前記半径方向に向かって搬送されるとともに、前記ナオラーの回転により、前記炭素繊維ステープル集束体の前記半径方向に搬送された領域が前記ナオラーの回転軸を中心に回動され、前記炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りが加えられる。さらに、本発明の炭素繊維ステープル集束体の加撚装置においては、前記ナオラーの搬送方向前方(図1及び2においては下側)に配置されたケーンスをさらに備える。前記ケーンスは、回転し、前記加撚された炭素繊維ステープル集束体を、この加撚状態を保持しつつ収容する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体、その製造方法又はその製造装置によれば、他の合成繊維や天然繊維を含まない高炭素繊維含有率を有する炭素繊維ステープル集束体であっても、炭素繊維ステープル間に適切な摩擦力を有し、取り扱い性が良好な有撚炭素繊維ステープル集束体、その製造方法及び製造装置を提供することができる。このような有撚炭素繊維ステープル集束体を製造することができれば、炭素繊維であっても搦合力を有するため、この有撚炭素繊維ステープル集束体を用いた紡績が可能となり、炭素繊維のスパン糸を製造することができる。また、伸縮性がなく、曲げると折損してしまう炭素繊維フィラメントとは異なり、炭素繊維スパン糸は、短い炭素繊維ステープルを繋いでいるため、伸縮性があり、繊維強化プラスチックの3次元成形に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置の一実施形態を示す概念図である。
図2】本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置におけるナオラー及びケーンスの一実施形態を示す概念図である。
図3】従来のフライヤー装置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る有撚炭素繊維ステープル集束体、その製造方法及び製造装置について図面を用いて説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。また、図面においては、主に本発明に特徴的な構成を示しており、各構成を支持するフレーム構造等は図示していない。
【0016】
<定義>
本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体、その製造方法及び製造装置において使用している用語について、発明を明確にするために、ここで定義する。
炭素繊維ステープルとは、繊維長の短い炭素繊維であり、紡績糸や不織布の原料となるものである。
炭素繊維ウェブとは、炭素繊維ステープルをシート状に形成したものであり、繊維方向が平行に揃っていない状態も含まれる。例えば、炭素繊維ステープルが調合並列されたシートや、炭素繊維ステープルを重ね合わせて並列させたシートである。
炭素繊維ステープル集束体とは、束状にまとめられた炭素繊維ステープルの集合体であり、撚りの無い状態である。
有撚炭素繊維ステープル集束体とは、炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りが加えられた炭素繊維ステープル集束体である。機能的には、紡績におけるスライバに相当するものであり、スライバ代替物として、粗糸の原料に用いることができる。
ナオラーとは、炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を中心軸として回転する機能と、この中心軸に沿って搬送されてきた炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を、上記回転の半径方向に変更する機能を有する部材である。
【0017】
<有撚炭素繊維ステープル集束体>
(1)炭素繊維ステープル
本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体を構成する炭素繊維ステープルとしては、炭素繊維トウや炭素繊維フィラメントを適切な繊維長に切断した炭素繊維ステープルであっても、リサイクルにより回収され、適切な繊維長に切断等された炭素繊維ステープルであってもよい。なお、リサイクル炭素繊維ステープルは、一般的に、繊維長が短く、不揃いな場合が多いが、本発明においては、切断等により適切な繊維長に揃えられるものであれば、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体に使用することができる。
【0018】
本発明における炭素繊維ステープルの繊維長は、炭素繊維ステープル間に摩擦力を生じやすいことから、製造方法・製造装置の許容範囲内において、より長い方が好ましいが、10〜600mm程度の範囲で使用でき、50〜500mmがより好ましく、200〜400mmであることがさらに好ましい。
【0019】
また、本発明における炭素繊維ステープルは、表面性状を改質するために添加材等を表面に塗布した構成であっても、添加材等を含浸させた構成であってもよい。ただし、本発明における炭素繊維ステープルは、上記のような添加材等を含んだとしても、ステープル中の炭素含有率は95重量%以上であることが好ましく、97重量%以上であることがより好ましく、99重量%以上であることがさらに好ましい。
【0020】
(2)炭素繊維ウェブ
本発明における炭素繊維ウェブは、上記の炭素繊維ステープルを連続的にシート状に形成したものであり、搬送方向を長手方向とした炭素繊維のシートである。本発明における炭素繊維ウェブは、通常、繊維方向が平行には揃っていない状態であるが、炭素繊維フィラメントを適切な繊維長で切断した炭素繊維ステープル等を用いれば、この段階で、繊維方向をある程度揃えることができる場合もある。なお、本発明における炭素繊維ウェブは、カードにより積層されたウェブや、不織布のウェブとは異なるものである。
【0021】
(3)有撚炭素繊維ステープル集束体
本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体は、束状の炭素繊維ステープル集束体に撚りが加えられていることが必須である。この有撚炭素繊維ステープル集束体は、他の合成繊維や天然繊維の炭素繊維以外の繊維を実質的に含まない高炭素繊維含有率を有する炭素繊維ステープル集束体である。炭素繊維ステープルから形成された撚りがない炭素繊維ステープル集束体の場合、単に繊維方向に並べて束状にまとめたとしても、炭素繊維ステープル間の摩擦力が小さすぎるため、スライバ代替物としての集束力が生じず、ステープルがバラバラに分散してしまう。そこで、本発明においては、炭素繊維ステープルの繊維方向に整列された炭素繊維ステープル集束体に対して、炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りが加えられていることが最大の特徴である。
【0022】
本発明における有撚炭素繊維ステープル集束体に加えられている撚りは、炭素繊維ステープル間に摩擦力を発生させ、スライバ代替物としての集束力を発揮させることができる最小限の回数であることが好ましい。すなわち、本発明における撚りは、撚回数の少ない甘撚り又は捻じれに相当するものであることが好ましい。撚りの回数が多いほど、炭素繊維ステープル間に発生する摩擦力が大きくなるが、紡績における工程である練条等の工程において、複数の炭素繊維ステープル集束体を引き伸ばして繊維方向を平行に並べる前に撚りを解いたり、撚りが充分でない部分に撚りを加えたりして撚りの程度を調整する必要があるため、撚りの回数は、スライバ代替物としての集束力を発揮させるのに必要な摩擦力を発生させる必要最小限であることが好ましい。また、撚りにより炭素繊維ステープル間に生じる摩擦力は、炭素繊維ステープルの繊維長が長いほど発生しやすく、この場合、撚りの回数はさらに少なくすることができる。
【0023】
一方、一般的な合成繊維又は一般的な天然繊維のスライバは、繊維方向に並べて束状にまとめた状態では、当該合成繊維又は当該天然繊維の間で一定の摩擦力を有するため、撚りが加えられなくてもステープルがバラバラに分散することはなく、また、紡績における工程である練条等の工程においてスライバを引き伸ばしにくくなるため、撚りが加えられることはない。
【0024】
さらに、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体は、炭素繊維以外の繊維を実質的に含まないことが好ましく、総重量に対する炭素繊維の含有率が実質的に100重量%であることが好ましい。ここで、炭素繊維以外の繊維を実質的に含まないとは、有撚炭素繊維ステープル集束体における繊維成分はほぼ炭素繊維であり、炭素繊維以外の合成繊維や天然繊維を含まないことを意味する。また、総重量に対する炭素繊維の含有率が実質的に100重量%であるとは、添加剤等の微量成分を除くとほぼ炭素繊維100重量%であることを意味する。有撚炭素繊維ステープル集束体における炭素繊維の含有率が実質的に100重量%であると、均一性に優れた有撚炭素繊維ステープル集束体を製造することができる。この炭素繊維の含有率が低くなると、炭素繊維と他の繊維とが均一に分散することができない。一方、炭素繊維の含有率が実質的に100重量%の有撚炭素繊維ステープル集束体の場合には、上記の優れた特性が得られる反面、炭素繊維間に生じる摩擦力が小さすぎて、スライバ代替物としての集束力が生じず、ステープルがバラバラに分散してしまう。そのため、本発明においては、炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りを加える必要が生じる。
【0025】
また、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の太さは、例えば1m当たり100g(極太)、1m当たり20g(中)、1m当たり5g(細)、1m当たり2g(極細)等に設定することができる。
【0026】
上記のような本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体は、炭素繊維以外の他の繊維を実質的に含まないスライバ代替物であることから、紡績における工程で粗糸の原料として用いることができる。
【0027】
<有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法>
本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法は、上記のような他の合成繊維や天然繊維を極力含まない高炭素繊維含有率を有する炭素繊維ステープル集束体を形成する有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法であって、炭素繊維ウェブ形成工程と、炭素繊維ステープル集束体形成工程と、炭素繊維ステープル集束体加撚工程とを備えている。
【0028】
(1)炭素繊維ウェブ形成工程
本発明における炭素繊維ウェブ形成工程は、炭素繊維ステープルを、連続的に供給し、炭素繊維ウェブを形成する工程である。供給される炭素繊維ステープルとしては、上記の炭素繊維ステープルが用いられる。炭素繊維ステープルを連続的に供給することにより、搬送方向を長手方向とした帯状の炭素繊維ウェブが形成される。この炭素繊維ウェブ形成工程で形成された炭素繊維ウェブは、炭素繊維ステープルの供給の際に、繊維方向をある程度揃えることができるものの、必ずしも繊維方向が平行には揃っていない。
【0029】
(2)炭素繊維ステープル集束体形成工程
本発明における炭素繊維ステープル集束体形成工程は、上記の炭素繊維ウェブ形成工程で形成された炭素繊維ウェブにおける炭素繊維ステープルを、搬送方向に整列させるとともにまとめて炭素繊維ステープル集束体を形成する工程である。この炭素繊維ステープル集束体形成工程は、一般的な紡績におけるギル装置を用いたドラフト工程とほぼ同様の工程である。このように炭素繊維ウェブにおける炭素繊維ステープルを搬送方向と平行に梳り、炭素繊維ステープルの繊維方向を整列させるとともに、例えばカレンダーローラやデリバリーローラ等を用いて炭素繊維ウェブを束状にまとめることにより、炭素繊維ステープル集束体が形成される。なお、炭素繊維ステープル集束体形成後又は有撚炭素繊維ステープル集束体形成後において、炭素繊維ステープルの整列状態が良好でない場合には、この炭素繊維ステープル集束体形成工程を数回繰り返して行うことができる。
【0030】
(3)炭素繊維ステープル集束体加撚工程
本発明における炭素繊維ステープル集束体加撚工程は、上記の炭素繊維ステープル集束体形成工程で形成された炭素繊維ステープル集束体に対して、軸線方向に沿って撚りを加える工程である。この炭素繊維ステープル集束体加撚工程では、例えば後述のナオラーを用いて、炭素繊維ステープル集束体を搬送しつつ、炭素繊維ステープル集束体の搬送方向を略垂直に変更するとともに、変更前の搬送方向を中心軸とし、搬送方向を変更された炭素繊維ステープル集束体を、上記の中心軸を中心に回動させることにより、炭素繊維ステープル集束体の軸線方向に沿って撚りが加えられる。このようにして、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法によって、軸線方向に沿って撚りが加えられている有撚の炭素繊維ステープル集束体が製造される。
【0031】
<有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置>
図1は、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置の一実施形態を示す概念図である。本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置100は、図1に示されているように、炭素繊維ステープル1の搬送経路の上流から、炭素繊維ウェブ形成手段10と、炭素繊維ステープル集束体形成手段20と、炭素繊維ステープル集束体加撚手段30とを備えている。
【0032】
(1)炭素繊維ウェブ形成手段
炭素繊維ウェブ形成手段10は、例えばベルトコンベア11上に、炭素繊維ステープル1を搬送方向に少しずつずらしながら載置させて供給し、炭素繊維ウェブ2を形成する手段である。供給される炭素繊維ステープル1としては、上記の炭素繊維ステープルが用いられる。炭素繊維ステープル1が連続的に供給されることにより、搬送方向を長手方向とした帯状の炭素繊維ウェブ2が形成される。この炭素繊維ウェブ形成手段10により形成された炭素繊維ウェブ2は、必ずしも繊維方向が平行には揃っていないが、炭素繊維フィラメントを適切な繊維長に切断した炭素繊維ステープル2を供給する場合には、この段階でも、繊維方向をある程度揃えることができる。ベルトコンベア11は、炭素繊維ステープル1を載置し得る十分な幅及び長さを有するベルト式搬送コンベアであり、水平方向に載置物を搬送する機能を有する。なお、本実施形態においては、炭素繊維ステープル1を載置及び搬送する手段として、ベルトコンベア11を用いているが、同様の機能を有するものであればこれに限定する必要はない。
【0033】
(2)炭素繊維ステープル集束体形成手段
炭素繊維ステープル集束体形成手段20は、炭素繊維ウェブ形成手段10で形成された炭素繊維ウェブ2における炭素繊維ステープル1を、搬送方向に対して整列させるとともに束状にまとめて炭素繊維ステープル集束体3を形成する手段である。炭素繊維ステープル集束体形成手段20には、搬送方向後方に配置されたバックローラ21,22と、このバックローラ21,22の搬送方向前方に配置されたフロントローラ23,24と、これらのバックローラ21,22とフロントローラ23,24との中間部に配置されたギル装置25,26とを備えている。なお、本実施形態では、炭素繊維ステープルを搬送方向に対して整列させる手段としてギル装置を用いているが、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造方法はこれを用いた方法に限定されるものではない。
【0034】
バックローラ21,22及びフロントローラ23,24は、それぞれ上下方向に対向して配設された一対の円筒状ローラから構成され、炭素繊維ウェブ2を上下方向から挟圧しながら搬送方向に送り出す機能を有する。炭素繊維ウェブ2の搬送をより確実にするため、各ローラの外周面上には、軸線方向に延在する凹凸溝が設けられていてもよい。
【0035】
バックローラ21,22は、ベルトコンベア11の搬送速度と同期するように搬送速度を設定している。フロントローラ23,24は、バックローラ21,22よりも搬送速度が速く設定されている。この搬送速度の相違は、フロントローラ23,24の外径をバックローラ21,22の外径よりも大きくすることで容易に生じさせている。この搬送速度の相違により、炭素繊維ウェブ形成手段10により形成された炭素繊維ウェブ2を、軸線方向に引き伸ばしつつ搬送することができる。
【0036】
ギル装置25,26は、櫛歯状の針が植設された構造を有し、複数枚ずつ重ねた状態で、上下方向から対向して配置されたギルフォーラ27を備えている。ギルフォーラ27は、搬送されていく炭素繊維ウェブ2を上下方向から挟み込みながら、炭素繊維ウェブ2の搬送方向に移動することにより、炭素繊維ウェブ2を梳る。このような構造を有するギル装置25,26では、バックローラ21,22及びフロントローラ23,24により引き伸ばしつつ搬送される炭素繊維ウェブ2を支持しつつ梳ることにより、炭素繊維ウェブ2における炭素繊維ステープル1を整列させることができる。
【0037】
上記のような構造を有する炭素繊維ステープル集束体形成手段20においては、炭素繊維ウェブ形成手段10で形成された炭素繊維ウェブ2がバックローラ21,22に到達されると、一対のバックローラ21,22間に炭素繊維ウェブ2が挟持され、搬送方向前方へと搬送される。そして、搬送された炭素繊維ウェブ2は、ギル装置25,26の上下のギルフォーラ27間に挿入され、ギルフォーラ27の移動により、さらに搬送方向前方に搬送され、フロントローラ23,24に到達する。フロントローラ23,24の搬送速度はバックローラ21,22の搬送速度よりも速いため、到達された炭素繊維ウェブ2はフロントローラ23,24により引き伸ばされる。その際、バックローラ21,22からフロントローラ23,24へ搬送されていく炭素繊維ウェブ2が上下のギルフォーラ27により挟み込まれているため、このギルフォーラ27により炭素繊維ウェブ2における炭素繊維ステープル1が、搬送方向に対して整列させる。
【0038】
次いで、繊維方向に整列され、フロントローラ23,24から搬送された炭素繊維ウェブ2に対して、カレンダーローラやデリバリーローラ等を用いて加圧した後、所定の太さの束状にまとめることにより、炭素繊維ステープル集束体3が形成される。なお、炭素繊維ステープル集束体3形成後又は有撚炭素繊維ステープル集束体4形成後において、炭素繊維ステープル1の整列状態が良好でない場合には、この炭素繊維ステープル集束体形成手段20を数回繰り返して行うことができる。
【0039】
(3)炭素繊維ステープル集束体加撚手段
炭素繊維ステープル集束体加撚手段30は、炭素繊維ステープル集束体形成手段20により形成された炭素繊維ステープル集束体3に対して、軸線方向に沿って撚りを加える手段である。炭素繊維ステープル集束体加撚手段30は、搬送方向後方に配置された一対のフィードローラ31,32と、この一対のフィードローラ31,32の搬送方向前方に配置されたナオラー33と、ナオラー33の搬送方向前方に配置されたケーンス34とを備えている。図2は本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置におけるナオラー及びケーンスの一実施形態を示す概念図であり、図3は従来のフライヤー装置の一例を示す概念図である。
【0040】
フィードローラ31,32は、例えば搬送方向を水平方向から垂直方向へ変更しながら、炭素繊維ステープル集束体3を搬送する。搬送された炭素繊維ステープル集束体3は、ナオラー33に到達する。このナオラー33は、従来の紡績の精紡工程において用いられているフライヤーの撚糸と同様な機能を有する部材である。フライヤー40は、図3に示されているように、回転するスピンドル41と、このスピンドル41の軸上で回転する、二股構造を有する弓部42と、精紡された糸を巻き付けるボビン43とを備えている。このフライヤー40においては、粗紡工程で作製された粗糸を、一対のフィードローラ44,45等を介して、弓部42の上部に設けられた上部開口46に誘導し、次いで、この上部開口46の下流側の側面に設けられた側面開口47から弓部42の一方の腕の先端に誘導する。そして、この状態で、スピンドル41の回転により弓部42を回転させることにより、粗糸に撚りが加えられる。そして、ボビン台48上で規定の回転をするように配置されたボビン43に撚られた糸を巻き取ることで、精紡工程が完了する。
【0041】
本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置における炭素繊維ステープル集束体加撚手段30は、このフライヤー40における撚糸機構を炭素繊維ステープル集束体に適用したものである。詳述すると、ナオラー33は、フライヤー40の弓部42の機能を担当しており、炭素繊維ステープル集束体3に撚りを加える部材である。ケーンス34は、フライヤー40のボビン43の機能を担当しており、この加撚状態を保持しつつ有撚炭素繊維ステープル集束体4を収納し、さらに、有撚炭素繊維ステープル集束体4を次の工程に移行しやすくする部材である。
【0042】
具体的には、図1及び2に示されているように、ナオラー33は、中心部に筒状の炭素繊維ステープル集束体誘導経路35を備えたディスク状の形状を有し、この炭素繊維ステープル集束体誘導経路35が、ディスク部36の裏面側の方向転換部37で、ディスクの半径方向に向きを変えている。このような構造により、例えば図示していないモーター等の動力を伝達する駆動手段38を用いて、炭素繊維ステープル集束体3の搬送方向を中心軸としてナオラー33を回転させつつ、一対のフィードローラ31,32により搬送されてきた炭素繊維ステープル集束体3を炭素繊維ステープル集束体誘導経路35内に誘導していくと、ディスク部36の裏面側の方向転換部37で、炭素繊維ステープル集束体3の搬送方向がディスク部36の半径方向に変更される。次いで、搬送方向が変更された炭素繊維ステープル集束体3は、半径方向に向かって搬送されるとともに、ナオラー33の回転により、炭素繊維ステープル集束体3の半径方向に搬送された領域がナオラー33の回転軸を中心に回動され、炭素繊維ステープル集束体3の軸線方向に沿って撚りが加えられる。
【0043】
ケーンス34は、このケーンス34を載置した状態で駆動手段38により回転するターンテーブル39を備えている。このケーンス34は、ターンテーブル39によりナオラー33の回転に追従して回転するが、ナオラー33の回転速度よりも遅い回転速度で、回転する。このような機構により、ナオラー33により有撚炭素繊維ステープル集束体4は、この加撚状態を保持したまま、円を描くようにケーンス34内に収容される。本発明におけるケーンス34は、紡績の梳綿工程におけるコイラーに構造が似ているが、従来の梳綿工程用コイラーは、撚りの無いスライバを収納するものである。この従来の梳綿工程用コイラーでは、所定の軌跡を描いてコイラー内に収納されるように、搬送速度と回転速度を設定しており、本発明におけるケーンス34とは収納機構が全く異なっている。
【0044】
また、本発明の有撚炭素繊維ステープル集束体の製造装置における炭素繊維ステープル集束体加撚手段30は、他の態様の炭素繊維ステープル集束体形成手段等と組み合わせることもできる。この場合、無撚の炭素繊維ステープル集束体3をナオラー33まで搬送する手段としては、フィードローラ31,32に限定されるものではなく、いずれの搬送手段を用いてもよい。また、本実施形態においては、無撚の炭素繊維ステープル集束体3が垂直方向に搬送される構成であるが、ナオラー33が本発明に規定する機能を良好に発揮することが可能であれば、水平方向に搬送される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 炭素繊維ステープル
2 炭素繊維ウェブ
3 炭素繊維ステープル集束体
4 有撚炭素繊維ステープル集束体
10 炭素繊維ウェブ形成手段
11 ベルトコンベア
20 炭素繊維ステープル集束体形成手段
21,22 バックローラ
23,24 フロントローラ
25,26 ギル装置
27 ギルフォーラ
30 炭素繊維ステープル集束体加撚手段
31,32 フィードローラ
33 ナオラー
34 ケーンス
35 炭素繊維ステープル集束体誘導経路
36 ディスク部
37 方向転換部
38 駆動手段
39 ターンテーブル
40 粗紡工程用フライヤー
41 スピンドル
42 弓部
43 ボビン
44,45 フィードローラ
46 上部開口部
47 側面開口部
48 ボビン台

図1
図2
図3